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特開2022-152030電力回生型ランキンサイクルシステム及び電力回生型ランキンサイクルシステムの制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022152030
(43)【公開日】2022-10-12
(54)【発明の名称】電力回生型ランキンサイクルシステム及び電力回生型ランキンサイクルシステムの制御方法
(51)【国際特許分類】
   F01D 15/10 20060101AFI20221004BHJP
   F01D 17/06 20060101ALI20221004BHJP
【FI】
F01D15/10 C
F01D17/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021054644
(22)【出願日】2021-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000000170
【氏名又は名称】いすゞ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】吉永 寛史
【テーマコード(参考)】
3G071
【Fターム(参考)】
3G071AA04
3G071AB01
3G071BA02
3G071BA04
3G071CA00
3G071DA00
3G071EA01
3G071FA02
3G071GA00
3G071HA01
3G071JA00
(57)【要約】
【課題】電動発電機のトルク指示で膨張器の回転を制御する場合に発電量を従来よりも増やせる電力回生型ランキンサイクルシステムの提供。
【解決手段】作動流体を送出する回転式のフィードポンプ21と、フィードポンプ21が送出した作動流体を加熱流体との熱交換で蒸発させる蒸発器23と、蒸発した作動流体を膨張させて回転することで機械仕事を得る膨張器25と、膨張後の作動流体を凝縮してフィードポンプ21に送出する凝縮器27と、膨張器25に接続されて膨張器25の回転で回生駆動する電動発電機31と、電動発電機31のトルクを指示する制御部29を備える電力回生型ランキンサイクルシステム3において、制御部29は、膨張器25が機械仕事を電動発電機31に出力して電動発電機31を回生駆動させられる期間は電動発電機31が力行しないように電動発電機31のトルクを制御することを特徴とする電力回生型ランキンサイクルシステム3。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
作動流体を送出する回転式のポンプと、前記ポンプが送出した前記作動流体を加熱流体との熱交換で蒸発させる蒸発器と、蒸発した前記作動流体を膨張させて回転することで機械仕事を得る膨張器と、膨張後の前記作動流体を凝縮して前記ポンプに送出する凝縮器と、前記膨張器の回転軸に接続されて前記膨張器の回転で回生駆動する電動発電機と、前記電動発電機のトルクを指示する制御部を備える電力回生型ランキンサイクルシステムにおいて、
前記制御部は、
前記膨張器が機械仕事を前記電動発電機に出力して前記電動発電機を回生駆動させられる期間は前記電動発電機が力行しないように前記電動発電機のトルクを制御することを特徴とする電力回生型ランキンサイクルシステム。
【請求項2】
前記制御部は、
前記加熱流体の熱量から求めた前記電動発電機の回転数の目標値に対応する前記膨張器の回転数の目標値が前記膨張器の回転数の実測値よりも大きい場合に力行を禁止することで、前記膨張器が機械仕事を前記電動発電機に出力している間は前記電動発電機が力行しないように前記電動発電機のトルクを制御する請求項1に記載の電力回生型ランキンサイクルシステム。
【請求項3】
前記制御部は、
前記膨張器の回転数、及び前記膨張器の入口圧力又は入口と出口の圧力差の一方から求めた、トルクの目標値である推定トルクに対応するトルクを指示トルクとして前記電動発電機のトルクを指示することで前記膨張器の回転数をフィードフォワード制御により制御し、
前記加熱流体の熱量から求めた前記電動発電機の回転数の目標値と前記電動発電機の回転数の実測値との差をもとに前記電動発電機の回転数をPI制御でフィードバック制御し、
前記PI制御で算出したトルク指示値が予め定められた上限値を超える場合は前記上限値をトルク指示値とすることで、前記膨張器が機械仕事を前記電動発電機に出力している間は前記電動発電機が力行しないように前記電動発電機のトルクを制御する請求項1又は2に記載の電力回生型ランキンサイクルシステム。
【請求項4】
作動流体を送出する回転式のポンプと、前記ポンプが送出した前記作動流体を加熱流体との熱交換で蒸発させる蒸発器と、蒸発した前記作動流体を膨張させて回転することで機械仕事を得る膨張器と、膨張後の前記作動流体を凝縮して前記ポンプに送出する凝縮器と、前記膨張器の回転軸に接続されて前記膨張器の回転で回生駆動する電動発電機と、前記電動発電機のトルクを指示する制御部を備える電力回生型ランキンサイクルシステムの制御方法であって、
前記膨張器が機械仕事を前記電動発電機に出力して前記電動発電機を回生駆動させられる期間は前記電動発電機が力行しないように前記電動発電機のトルクを制御する力行禁止工程を実施することを特徴とする電力回生型ランキンサイクルシステムの制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電力回生型ランキンサイクルシステム及び電力回生型ランキンサイクルシステムの制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ランキンサイクルシステムは、作動流体の蒸発・膨張で生成する圧力を利用して機械仕事を得る熱サイクルを利用した原動機である。ランキンサイクルシステムは外燃機関だが、内燃機関で駆動する車両に搭載する場合がある。これは、ランキンサイクルシステムの作動流体を蒸発させる熱源として内燃機関の排ガスの熱を用いる場合があるためである。車両に搭載されたランキンサイクルシステムは内燃機関の運転条件に応じて作動流体の流量を制御することで、作動流体を循環させるポンプの作動エネルギーを抑制し、廃熱回収効率を向上させている。
【0003】
ランキンサイクルシステムには、機械仕事を電動発電機に入力して回生駆動させて電力を得る、電力回生型ランキンサイクルシステムもある(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011-85071号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
電力回生型ランキンサイクルシステムは蒸発した作動流体の圧力で回転する膨張器を電動発電機と接続することで機械仕事を電動発電機に入力するが、膨張器の回転数を直接制御することはできないため、電動発電機のトルク指示で膨張器の回転数を制御する。そのため、膨張器の回転数を上昇させたい場合に電動発電機が力行する場合があり、力行によるエネルギー損失で発電量が減る問題があった。
【0006】
本開示は上記課題に鑑みてなされたものであり、電動発電機のトルク指示で膨張器の回転を制御する場合に発電量を従来よりも増やせる電力回生型ランキンサイクルシステムの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するための本開示の一態様は、作動流体を送出する回転式のポンプと、前記ポンプが送出した前記作動流体を加熱流体との熱交換で蒸発させる蒸発器と、蒸発した前記作動流体を膨張させて回転することで機械仕事を得る膨張器と、膨張後の前記作動流体を凝縮して前記ポンプに送出する凝縮器と、前記膨張器の回転軸に接続されて前記膨張器の回転で回生駆動する電動発電機と、前記電動発電機のトルクを指示する制御部を備える電力回生型ランキンサイクルシステムにおいて、前記制御部は、前記膨張器が機械仕事を前記電動発電機に出力して前記電動発電機を回生駆動させられる期間は前記電動発電機が力行しないように前記電動発電機のトルクを制御することを特徴とする。
【0008】
また、本開示の他の態様は、作動流体を送出する回転式のポンプと、前記ポンプが送出した前記作動流体を加熱流体との熱交換で蒸発させる蒸発器と、蒸発した前記作動流体を膨張させて回転することで機械仕事を得る膨張器と、膨張後の前記作動流体を凝縮して前記ポンプに送出する凝縮器と、前記膨張器の回転軸に接続されて前記膨張器の回転で回生駆動する電動発電機と、前記電動発電機のトルクを指示する制御部を備える電力回生型ランキンサイクルシステムの制御方法であって、前記膨張器が機械仕事を前記電動発電機に出力して前記電動発電機を回生駆動させられる期間は前記電動発電機が力行しないように前記電動発電機のトルクを制御する力行禁止工程を実施することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、電動発電機のトルク指示で膨張器の回転を制御する場合に発電量を従来よりも増やせる電力回生型ランキンサイクルシステムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本開示の実施形態に係る電力回生型ランキンサイクルシステムを備える内燃機関の概略構成を示す図である。
図2図1の膨張器の回転数制御のブロック線図である。
図3】本開示の実施形態に係る電力回生型ランキンサイクルシステムの制御の手順を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面に基づき本開示の実施形態を詳細に説明する。まず図1及び図2を参照して本開示の実施形態に係る電力回生型ランキンサイクルシステム3を備える内燃機関1の概略構成を説明する。図1では内燃機関1としてディーゼルエンジンを例示する。図1に示すように内燃機関1は吸気路5、燃焼室7、排気路9、後処理装置11、切替バルブ13、及び電力回生型ランキンサイクルシステム3を備える。
【0012】
吸気路5は内燃機関1の燃焼に必要な空気を導入する管路であり、一端が大気開放され、他端が燃焼室7に接続される。燃焼室7は空気を酸化剤として燃料を燃焼させて機械仕事を得る部屋であり、円筒状の気筒7aと、気筒7a内に上下動可能に配置された円柱状のピストン7bと、気筒7aの上端部である図示しないシリンダヘッドに囲まれた空間である。
【0013】
この構造では、吸気路5から燃焼室7に導入された空気を、ピストン7bで燃料の発火点以上に圧縮加熱し、図示しない燃料噴射装置から燃焼室7に燃料を噴射して燃料を自己発火させピストン7bを押し出すことで機械仕事を得る。ピストン7bには図示しないコンロッドやクランクが連結されており、上下動を回転運動に変換する。
【0014】
排気路9は燃焼室7での燃焼で生じた排ガスを排出する管路であり、一端が燃焼室7に接続され、他端が二股に分かれて大気開放される。二股に分かれた管路の一方は排ガスを電力回生型ランキンサイクルシステム3に送出する管路9aであり、他方は電力回生型ランキンサイクルシステム3を介さずに排ガスを大気放出する管路9bである。
【0015】
後処理装置11は排ガス中のNOx、微粒子、未燃燃料、一酸化炭素、可溶有機成分等の大気放出が規制される物質を無害化する装置であり、排気路9の中途で管路9a、9bの上流側に設けられる。具体的な後処理装置11としては、NOxを還元する触媒であるSCR(Selective Catalytic Reduction)、微粒子を捕集するフィルタであるDPF(Diesel Particulate Filter)、未燃燃料や一酸化炭素、可溶有機成分等を酸化する触媒であるDOC(Diesel Oxidation Catalyst)を含む装置を例示できる。
【0016】
切替バルブ13は後処理装置11を通過した排ガスを電力回生型ランキンサイクルシステム3に送出する管路9aか、電力回生型ランキンサイクルシステム3を介さずに大気放出する管路9bかの何れかの管路に切り替える弁体である。切替バルブ13は排気路9の後処理装置11の下流であって、排気路9が二股に分かれる分岐点に設けられる。切替バルブ13は電力回生型ランキンサイクルシステム3を駆動する場合は管路9aを開放して管路9bを閉鎖し、電力回生型ランキンサイクルシステム3を駆動しない場合は管路9aを閉鎖して管路9bを開放する。切替バルブ13の駆動は電力回生型ランキンサイクルシステム3の制御部29が制御してもよいし、内燃機関1の制御部が制御してもよい。
【0017】
電力回生型ランキンサイクルシステム3は作動流体の蒸発・膨張で生成する圧力を利用して機械仕事を得る熱サイクルを利用した原動機である。ここでは作動流体を蒸発させる熱源である加熱流体として内燃機関1の排ガスを用いている。
【0018】
図1に示すように電力回生型ランキンサイクルシステム3はフィードポンプ21、蒸発器23、膨張器25、凝縮器27、電動発電機31、及び制御部29を備える。電力回生型ランキンサイクルシステム3はタンク35、排気流量センサ45、排気温度センサ47、膨張器入口圧力センサ41、及び膨張器回転数検出部43も備える。
【0019】
フィードポンプ21は電力回生型ランキンサイクルシステム3の作動流体を送出する回転式のポンプである。フィードポンプ21は所望の流量の作動流体を送出でき、回転数を自動制御できる構造であれば公知の遠心ポンプやギアポンプを用いればよい。作動流体は沸点が内燃機関1の排ガスの温度以下で、電力回生型ランキンサイクルシステム3を構成する装置を腐食させない材料であれば適宜選択できる。一般にはエタノールが用いられるが、水やフロン系の流体でもよい。
【0020】
蒸発器23はフィードポンプ21が送出した作動流体を加熱流体との熱交換で蒸発させる装置であり、フィードポンプ21の出力部と管路で接続される。本実施形態では加熱流体が内燃機関1の排ガスであるため、蒸発器23は内燃機関1の排気路9の管路9aに接して設けられ、排ガスの熱を作動流体に伝達して蒸発させられるボイラである。
【0021】
膨張器25は蒸発器23で蒸発した作動流体を膨張させて膨張力で回転することで機械仕事を得る装置であり、蒸発器23の出力部と管路で接続される。膨張器25は蒸発した作動流体から機械仕事を得られる構造であれば公知の構造を用いることができるが、作動流体の膨張力で回転するスクリュロータを有するスクリュー膨張器を例示できる。
【0022】
凝縮器27は膨張後の作動流体を冷却することで凝縮して液体に戻してフィードポンプ21に送出する装置であり、膨張器25の出力部及びフィードポンプ21の入力部と管路で接続される。凝縮器27は作動流体を所望の温度まで冷却できる構造であれば空冷でも水冷でもよい。空冷の場合は、外気を取り込む冷却ファンが配置され、外気との熱交換で作動流体が冷却される。水冷の場合には、内燃機関1のラジエータやサブラジエータから送出された内燃機関1用の冷却水やインタークーラ用の冷却水が導入され、これらの冷却水と作動流体との熱交換で作動流体を冷却する構造を例示できる。
【0023】
電動発電機31は、膨張器25の回転で得られる機械仕事で回転軸31aを回転させることで回生電力を生成する装置である。電動発電機31が生成した電力は図示しない蓄電池に充電される。電動発電機31は膨張器25の回転数を制御する装置でもあり、具体的には電動発電機31のトルクを調整することで膨張器25の回転数を制御する。トルク値によっては、電動発電機31は図示しない蓄電池から電力の供給を受けて力行することもでき、この場合、電動発電機31は電動機として機能する。図1に示す電動発電機31はその回転軸31aが膨張器25の出力軸25aに同軸に連結され、膨張器25の機械仕事による動力が伝達される。ただし、ギヤ等を介して接続されて動力を伝達する構造でもよい。
【0024】
電動発電機31は電力回生型ランキンサイクルシステム3の運転時の膨張器25の回転数とトルクで電力を生成でき、かつ膨張器25の回転数を制御できる範囲のトルクを出力できるのであれば、公知の電動発電機を用いればよい。
【0025】
制御部29は電動発電機31のトルクを制御することで膨張器25の回転数を制御するコンピュータであり、電動発電機31と電気的に接続されてトルクを指示する信号を出力可能に構成されている。制御部29はトルク指示値を求めるために用いる加熱流体の排気温度、加熱流体の排気流量、膨張器25の回転数、膨張器25に入力される作動流体の圧力又は膨張器25の出入口の圧力差を示す信号が入力されるようにも構成されている。
【0026】
制御部29による膨張器25の回転数制御の概要は図2に示す通りである。まず制御部29は膨張器25が機械仕事を電動発電機31に出力して電動発電機31を回生駆動させられる期間は電動発電機31が力行しないように電動発電機31のトルクを制御する。つまり、膨張器25が電動発電機31を回生駆動して電力を生成できる状態では力行を行わない。一方で電力回生型ランキンサイクルシステム3は始動時に作動流体のみで膨張器25を回転させられず、電動発電機31を回生駆動して電力を生成できない時期がある。そのため、この時期を短縮するために、始動時に電動発電機31を力行させて膨張器25に始動トルクを与える場合がある。このように作動流体のみで膨張器25を回転させられない場合は電動発電機31を力行させても良い。
【0027】
具体的に力行を禁止する方法としては以下の例を挙げられる。まず電動発電機31を何らかの手段で求めた目標値に基づき制御している場合、電動発電機31の回転数の目標値に対応する膨張器25の回転数の目標値が、膨張器25の回転数の実測値よりも大きい場合に力行を禁止する方法がある。ここでいう電動発電機31の回転数の目標値に対応する膨張器25の回転数の目標値とは、電動発電機31と膨張器25が同軸接続されている場合は電動発電機31の回転数の目標値である。電動発電機31と膨張器25がギヤを介して接続されている場合は電動発電機31の回転数の目標値にギヤ比を掛けた値である。図2では電動発電機31と膨張器25が同軸接続されている場合の制御を例示している。このように、電動発電機31の回転数の目標値と膨張器25の回転数の実測値を基に力行を禁止するか否かを判断することで、電動発電機31が力行しているか否かを直接検出しなくても力行を行う前に力行を禁止できる。
【0028】
図1では電動発電機31の回転数の目標値を加熱流体の熱量である排気流量と排気温度の入力値を目標回転数マップに当てはめて電動発電機31の最適回転数を算出する構成を例示している。
【0029】
目標回転数マップとは、加熱流体の熱量と、安定して効率良く電動発電機31が電力を得られる電動発電機31の回転数の関係を示すマップである。「安定して効率良く電動発電機31が電力を得られる」という意味は、電動発電機31、膨張器25の効率を加味して、最も電動発電機31が出力としての電力を得られるという意味である。目標回転数マップは予め実験で求めたものを用いてもよいし、CAE(Computer-Aided Engineering)で求めても良い。なお、図1では電動発電機31が膨張器25と同軸接続されているため、安定して効率良く電動発電機31が電力を得られる電動発電機31の回転数は、安定して効率良く電動発電機31が電力を得られる膨張器25の回転数になる。また電動発電機31と膨張器25が図示しないギヤ等を介して接続されている場合でも、電動発電機31の回転数と膨張器25の回転数はギヤ比に応じた所定の関係にある。そのため、安定して効率良く電動発電機31が電力を得られる電動発電機31の回転数は、安定して効率良く電動発電機31が電力を得られる膨張器25の回転数に対応する。
【0030】
なお、目標回転数マップに基づき電動発電機31の回転数を制御する場合、図2に示すように、制御部29は電動発電機31が目標回転数で回転するように電動発電機31のトルクを制御する。具体的には制御部29は制御値を電動発電機31のトルク、目標値を電動発電機31の目標回転数とし、目標回転数と実回転数数差を0にするような制御を行う。制御としては図2に示すようにPI制御を用いたフィードバック制御を例示できる。このように目標回転数と実回転数からPI制御で指示値を求める構成では、利得を設定するだけで指示値を得られる点で有利である。
【0031】
この制御において、具体的に力行を禁止する制御としては、図2に示すように、PI制御で算出したトルク指示値にトルク制限を設ければよい。トルク制限とは、トルク指示値が予め定められた上限値を超える場合は上限値をトルク指示値とすることで、膨張器25が機械仕事を電動発電機31に出力している間は電動発電機31が力行しないように電動発電機31のトルクを制御することを意味する。上限値とは、電動発電機31が力行しないトルクの上限である。この構成ではトルクに上限を設けるだけで電動発電機31の力行を禁止できる点で有利である。また、この構成は図2に示すように電動発電機31のトルク指示をフィードフォワード制御でも行う場合に特に有利である。
【0032】
図2では制御部29が膨張器25の回転数、及び膨張器25の入口圧力又は入口と出口の圧力差の一方から求めた現在発生していると推定される推定トルクに対応するトルクを指示トルクとして電動発電機31のトルクを指示している。これにより膨張器25の回転数をフィードフォワード制御により制御している。ここでいう対応したトルクとは、膨張器25と電動発電機31が同軸の場合は推定したトルクそのものであり、ギヤ等を介して連結されている場合は推定したトルクにギヤ比を掛けたトルクである。
【0033】
具体的には、制御部29は図2に示すように膨張器25の回転数と、膨張器25に入力される作動流体の圧力又は入口と出口の圧力差の一方と、現在発生していると推定される膨張器25のトルクの関係を示す推定トルクマップを有している。以下の説明では推定トルクマップへの入力値として、膨張器25に入力される作動流体の圧力を用いる場合を例に説明する。なお推定トルクマップは実験で求めてもよいし、CAE(Computer-Aided Engineering)で求めても良い。
【0034】
この構成では制御部29は推定トルクに対応するトルクを電動発電機31の指示トルクとして指示するフィードフォワード制御も行うのが好ましい。このように、膨張器25の回転数と作動流体の圧力に基づいて算出した推定トルクで電動発電機31をフィードフォワード制御することで、適切なトルクをより早く指示できる。一方で、フィードフォワード制御は推定値に基づきトルク制御を行うため、推定値と実測値の間にずれが生じる可能性がある。このずれはフィードバック制御で補償する。しかしながら単に目標回転数と実測回転数を基にしたフィードバック制御でフィードフォワード制御を補償した場合、トルク指示値によっては電動発電機31が力行する可能性がある。
【0035】
そこで、図2ではフィードフォワード制御で指示したトルク指示値で膨張器25を回転させた場合の実測値と、目標値との差をフィードバック制御で補償する際に指示トルクに上限を設けて力行を禁止している。よって、フィードフォワード制御を行う場合に補償しきれない分のトルクをフィードバック制御で補償する際にも力行を禁止できる。
【0036】
なお、図2に示す制御部29の処理は、各処理をソフトウェアで実現してもよいし、ハードウェアで実現してもよい。以上が制御部29の構成である。
【0037】
図1に示すタンク35は作動流体を貯留する容器であり、凝縮器27とフィードポンプ21の間の流路に設けられる。タンク35は凝縮器27で液体に戻った作動流体を貯留してフィードポンプ21の駆動によって作動流体をフィードポンプ21に送出する。
【0038】
排気流量センサ45は加熱流体の流量を検出するセンサであり、ここでは内燃機関1の排気路9に設けられて排気流量を検出するセンサである。排気流量センサ45は制御部29と電気的に接続されており、検出した吸気流量を示す信号を制御部29に送信する。これは、図2に示すように制御部29は排気流量に基づき電動発電機31の回転数を算出するためである。排気流量センサ45は公知の流量センサを用いればよい。
【0039】
なお通常の内燃機関1では吸気流量と排気流量が極端に異なることはないので、吸気流量を検出して排気流量の代わりに用いても良い。この場合は吸気路5に設けた吸気流量センサが排気流量センサ45として機能する。
【0040】
排気温度センサ47は排気温度を検出するセンサであり、図1では蒸発器23への排ガスの入口となる排気路9の管路9aに設けられる。排気温度センサ47は制御部29と電気的に接続されており、検出した温度を示す信号を制御部29に送信する。これは、図2に示すように制御部29は加熱流体の温度に基づき電動発電機31の回転数を算出するためである。排気温度センサ47は排ガス中の物質で腐食せず、所望の精度で排気温度を検出できるのであれば公知の温度センサを用いることができる。
【0041】
膨張器入口圧力センサ41は蒸発器23で蒸発して膨張器25に導入される作動流体の圧力を検出するセンサであり、蒸発器23と膨張器25を接続する管路に設けられる。膨張器入口圧力センサ41は制御部29と電気的に接続されており、検出した圧力を示す信号を制御部29に送信する。これは、制御部29は膨張器25に導入される作動流体の圧力に基づきトルクの目標値である推定トルクを算出するためである。膨張器入口圧力センサ41は蒸発した作動流体で腐食せず、所望の精度で圧力を検出できるのであれば公知の圧力センサを用いることができる。なお、推定トルクマップに基づく推定トルクの算出に膨張器25の出入口の圧力差を用いる場合、膨張器入口圧力センサ41に加えて膨張器25の出口の流路にも圧力センサを設けて、2つの圧力センサの検出値の差を出入口の圧力差とすればよい。
【0042】
膨張器回転数検出部43は膨張器25の回転数を検出する検出部である。膨張器回転数検出部43は制御部29と電気的に接続されており、検出した回転数を示す信号を制御部29に送信する。これは、制御部29は膨張器25の回転数に基づきトルクの目標値である推定トルクを算出するためである。図1では回転計を例示しているが、電動発電機31の回転数と膨張器25の回転数は、同軸の場合は同じであり、ギヤを介している場合はギヤ比に対応した回転数になる。そのため、電動発電機31の回転数から膨張器25の回転数を検出してもよい。以上が電力回生型ランキンサイクルシステム3を備える内燃機関1の概略構成の説明である。
【0043】
次に本実施形態に係る電力回生型ランキンサイクルシステム3の制御方法の一例について図3を参照して説明する。まず、前提として電力回生型ランキンサイクルシステム3が運転中であり、膨張器25が電動発電機31に機械仕事を出力して回生駆動できる状態にあるとする。また膨張器25と電動発電機31は同軸接続されているとする。
【0044】
この状態で制御部29は膨張器入口圧力センサ41を用いて膨張器25に導入される作動流体の圧力を検出し、膨張器回転数検出部43を用いて膨張器25の回転数を検出する(図3のS1)。次に制御部29はS1で求めた作動流体の圧力と膨張器25の回転数を推定トルクマップに当てはめて推定トルクを算出する(図3のS2)。推定トルクが算出されると制御部29は算出した推定トルクを指示値として電動発電機31に指示する(図3のS3)。ここまでのステップが、膨張器25のトルクを推定して、推定したトルクに対応したトルクを電動発電機31に指示するフィードフォワード制御である。
【0045】
次に制御部29は排気流量センサ45を用いて加熱流体である排ガスの排気流量を検出し、排気温度センサ47を用いて加熱流体である排ガスの排気温度を検出する。次に制御部29は排気流量と排気温度を目標回転数マップに入力して目標回転数を得る(図3のS4)。次に制御部29はS4で得られた回転数を電動発電機31の目標回転数として、電動発電機31が目標回転数で回転するようにPI制御を用いたフィードバック制御で電動発電機31のトルクを算出する(図3のS5)。
【0046】
次に制御部29はS5で求めたトルクが、電動発電機31が力行するトルクか否かを判断し、力行するトルクと判断した場合はS7に進み、力行しないトルクと判断した場合はS8に進む(図3のS6)。具体的にはS5で求めたトルクが上限値を超えるか否かを判断し、上限値を超える場合に力行するトルクと判断し、上限値以下の場合に力行しないトルクと判断する。
【0047】
S6でトルクが力行するトルクと判断した場合、制御部29はトルク指示値を力行しない範囲に修正する(図3のS7、力行禁止工程)。具体的にはS5で求めたトルクが上限値を超える場合、トルク指示値を上限値に設定してS9に進む。S6でトルクが力行しないトルクと判断した場合、制御部29はトルク指示値を修正せずにS9に進む(図3のS8)。最後に、制御部29は電動発電機31にトルク指示を行う(図3のS9)。以上が本実施形態に係る電力回生型ランキンサイクルシステム3の制御方法の一例の説明である。
【0048】
このように本実施形態に係る電力回生型ランキンサイクルシステム3は、膨張器25が機械仕事を生成している間は制御部29が電動発電機31を力行させない。この構成では、膨張器25の機械仕事を力行で消費せずに電力に変換できるため、電動発電機31のトルク指示で膨張器25の回転を制御する場合に発電量を従来よりも増やせる。特に、内燃機関1が車両を駆動する場合、登坂走行等の排熱量が増加するタイミングでは膨張器25の入口圧力も増加しているため、膨張器25のトルクで電動発電機31の回転数を上昇させることができる。よって膨張器25が機械仕事を生成している間は制御部29が電動発電機31を力行させない本発明の効果が特に高い。
【0049】
以上、実施形態に基づき本開示を説明したが本開示は実施形態に限定されない。当業者であれば本開示の技術思想の範囲内において各種変形例及び改良例に想到するのは当然のことであり、これらも当然に本開示に含まれる。
【0050】
例えば上記した実施形態では電動発電機31の目標回転数を加熱流体の熱量から求めているが、発電効率を確保できるのであれば、目標回転数の算出方法は適宜選択できる。また上記した実施形態では膨張器25の回転数と、膨張器25に入力される作動流体の圧力又は入口と出口の圧力差の一方を基にトルクを推定してフィードフォワード制御を行ってているが、トルクを精度良く推定できるのであれば、推定方法は他の方法でもよい。
【符号の説明】
【0051】
1 :内燃機関
3 :電力回生型ランキンサイクルシステム
5 :吸気路
7 :燃焼室
7a :気筒
7b :ピストン
9 :排気路
9a :管路
9b :管路
11 :後処理装置
13 :切替バルブ
21 :フィードポンプ
23 :蒸発器
25 :膨張器
25a :出力軸
27 :凝縮器
29 :制御部
31 :電動発電機
31a :回転軸
35 :タンク
41 :膨張器入口圧力センサ
43 :膨張器回転数検出部
45 :排気流量センサ
47 :排気温度センサ
図1
図2
図3