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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022152035
(43)【公開日】2022-10-12
(54)【発明の名称】記憶セル、記憶方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/8239 20060101AFI20221004BHJP
   H01L 49/00 20060101ALI20221004BHJP
   H01L 45/00 20060101ALI20221004BHJP
【FI】
H01L27/105 448
H01L49/00 Z
H01L45/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021054650
(22)【出願日】2021-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】中澤 弘実
(72)【発明者】
【氏名】石井 博
【テーマコード(参考)】
5F083
【Fターム(参考)】
5F083FZ10
5F083GA05
5F083JA36
5F083JA37
5F083JA39
5F083JA42
5F083JA60
5F083PR22
(57)【要約】
【課題】簡易な構成で低コストに多値記憶を実現可能な記憶セル、およびこれを用いた記憶方法を提供する。
【解決手段】第1電極層および第2電極層と、前記第1電極層と前記第2電極層との間に形成され、記憶させる値に応じた3段階以上の電荷量となるように書込電流を印可することで、3段階以上の読出電圧値を出力可能に保持する固体電解質層と、を有することを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1電極層および第2電極層と、前記第1電極層と前記第2電極層との間に形成され、記憶させる値に応じた3段階以上の電荷量となるように書込電流を印可することで、3段階以上の読出電圧値を出力可能に保持する固体電解質層と、を有することを特徴とする記憶セル。
【請求項2】
前記固体電解質層は、前記第1電極層と前記第2電極層との間に、一定の電流値の書込電流を、記憶させる値に応じた3段階以上の時間だけ印可することで記憶電圧を保持することを特徴とする請求項1に記載の記憶セル。
【請求項3】
前記固体電解質層は、前記第1電極層と前記第2電極層との間に、記憶させる値に応じた3段階以上の電流値の書込電流を、一定時間だけ印可することで記憶電圧を保持することを特徴とする請求項1に記載の記憶セル。
【請求項4】
前記読出電圧値は、正電圧および負電圧を含むことを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の記憶セル。
【請求項5】
前記固体電解質層は、リン酸リチウムに窒素が添加されたLiPONを含むことを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の記憶セル。
【請求項6】
前記固体電解質層は、コバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム、マンガン酸リチウム、チタン酸リチウムのうち、少なくともいずれか1つを含むことを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の記憶セル。
【請求項7】
前記第1電極層および前記第2電極層は、チタンを含むことを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の記憶セル。
【請求項8】
0Vの電圧を挟んで正電圧から負電圧までの範囲で充放電の動作を行うことを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載の記憶セル。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか一項に記載の記憶セルを用いた記憶方法であって、
前記第1電極層と前記第2電極層との間に、記憶させる値に応じた3段階以上の電荷量となるように書込電流を印可するデータ書き込み工程を有することを特徴とする記憶方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記憶セル、およびこれを用いた記憶方法に関する。
【背景技術】
【0002】
記憶素子は、記憶情報の保持方式の違いによって、揮発性メモリと不揮発性メモリに分けられる。揮発性メモリは記憶情報を保持するために常に電圧を印可しておく必要があり、消費電力が大きい。一方、不揮発メモリは一度記憶すれば、電圧を印可しなくても記憶情報を保持することができ、消費電力を大きく削減することが可能である。
【0003】
従来、不揮発性メモリとしては、強誘電体メモリ(FeRAM)や磁気抵抗メモリ(MRAM)などが知られている(例えば、特許文献1、2を参照)。これらFeRAMやMRAMは、電圧や電流で残留分極や残留磁化の向きを制御し、それらの向きの違いに対応した2つの状態(2値)を電流または電圧の形で読み出すことにより、記憶セルとして動作させる。
【0004】
一方、近年、より低消費電力化が可能な電解質を利用した記憶セルも開発されている(例えば、特許文献3を参照)。こうした記憶セルは、書込電圧を印可することによってLiイオンを正極と負極との間で移動させ、読出時には、Liイオンの偏在に対応する2つの状態(2値)を電圧差として読み取る。
【0005】
しかしながら、特許文献3に記載された不揮発メモリは、記憶セルとして動作させるために必要な状態は基本的に2つ(2値)しかなく、例えば、より高度な深層学習を行う脳型デバイスなど、多値情報の記憶に適用することは困難である。
そこで、多くの記録状態を利用できる多値記憶が可能なメモリも開発されている。例えば、抵抗変化メモリ素子を利用するもの(例えば、特許文献4を参照)、電解質層と金属イオンの入出が可能な固体材料層からなる素子を利用するもの(例えば、特許文献5を参照)などが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5-159585号公報
【特許文献2】特開2005-116923号公報
【特許文献3】国際公開第2016/186148号
【特許文献4】特開2003-157672号公報
【特許文献5】特開2020-088251号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献4、5に開示された多値情報の記憶が可能なメモリは、構成や制御方法が複雑であり、特殊な構造であるために製造に多くの時間とコストが必要であるという課題があった。また、制御を行う際の消費電力も大きいという課題があった。
【0008】
本発明は、上述した課題に鑑みてなされたものであり、簡易な構成で低コストにて多値記憶を実現可能な記憶セル、およびこれを用いた記憶方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、この発明は以下の手段を提案している。
即ち、本発明の記憶セルは、第1電極層および第2電極層と、前記第1電極層と前記第2電極層との間に形成され、記憶させる値に応じた3段階以上の電荷量となるように書込電流を印可することで、3段階以上の読出電圧値を出力可能に保持する固体電解質層と、を有することを特徴とする。
【0010】
本発明の記憶セルによれば、第1電極層および第2電極層から、記憶させる値に応じた3段階以上の電荷量となるように書込電流を固体電解質層に印可することで、3段階以上の読出電圧値を出力可能に保持することができ、これにより、第1電極層と第2電極層との間に固体電解質層を設けるといった簡易な構成で、低コストにて多値記憶を実現可能な記憶セルを実現することができる。
【0011】
また、本発明では、前記固体電解質層は、前記第1電極層と前記第2電極層との間に、一定の電流値の書込電流を、記憶させる値に応じた3段階以上の時間だけ印可することで記憶電圧を保持する記憶層であってもよい。
【0012】
また、本発明では、前記固体電解質層は、前記第1電極層と前記第2電極層との間に、記憶させる値に応じた3段階以上の電流値の書込電流を、一定時間だけ印可することで記憶電圧を保持する記憶層であってもよい。
【0013】
また、本発明では、前記読出電圧値は、正電圧および負電圧を含んでいてもよい。
【0014】
また、本発明では、前記固体電解質層は、リン酸リチウムに窒素が添加されたLiPONを含んでいてもよい。
【0015】
また、本発明では、前記固体電解質層は、コバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム、マンガン酸リチウム、チタン酸リチウムのうち、少なくともいずれか1つを含んでいてもよい。
【0016】
また、本発明では、前記第1電極層および前記第2電極層は、チタンを含んでいてもよい。
【0017】
また、本発明では、0Vの電圧を挟んで正電圧から負電圧までの範囲で充放電の動作を行ってもよい。
【0018】
本発明の記憶方法は、前記各項に記載の記憶セルを用いた記憶方法であって、前記第1電極層と前記第2電極層との間に、記憶させる値に応じた3段階以上の電荷量となるように書込電流を印可するデータ書き込み工程を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、簡易な構成で低コストにて多値記憶を実現可能な記憶セル、およびこれを用いた記憶方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の一実施形態の記憶セルを示す断面図である。
図2】本発明の一実施形態の記憶セルの記憶特性の一例を示すグラフである。
図3】記憶セルの充放電特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、本発明の実施形態について添付した図面を参照して説明する。なお、以下に示す各実施形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。また、以下の説明で用いる図面は、本発明の特徴をわかりやすくするために、便宜上、要部となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。
【0022】
(記憶セル)
以下、図面を参照して本発明の実施形態について詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施形態の記憶セルを示す断面図である。
本実施形態の記憶セル10は、第1電極層16、固体電解質層18、および第2電極層20とを有する積層体11と、この積層体11が一面側に形成された基板12とを備えている。
【0023】
基板12は、絶縁性を有し、更に耐熱性や可撓性を有する基板を用いることができる。絶縁性、および耐熱性を有する基板の材料は、例えば、ガラス、セラミックス、シリコンウェハなどが挙げられる。絶縁性、および可撓性を有する基板の材料は、例えば、ポリカーボネート(PC)、ポリイミド(PI)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエチレンテレフタレート(PET)などから選択できる。
【0024】
第1電極層16と第2電極層20は、金属や電気抵抗が低い金属酸化物、即ち導電体で形成されている。これらは、互いに同じ材料で形成されていても、異なる材料で形成されていてもよい。第1電極層16や第2電極層20を構成する具体的な材料例としては、金属ではチタン(Ti)、バナジウム(V)、銅(Cu)、アルミニウム(Al)などが挙げられる。また、金属酸化物では、錫ドープ酸化インジウム(ITO)、アルミニウムドープ酸化亜鉛(AZO)、ガリウムドープ酸化亜鉛(GZO)、アンチモンドープ酸化錫(ATO)などが挙げられる。
【0025】
固体電解質層18は、リチウムイオンを含有し、リチウムイオンが移動可能な材料から構成される。固体電解質層18の構成材料の具体例としては、例えば、リン酸リチウム(LiPO)にNをドープしたLiPO4-x(LiPON)からなるアモルファス薄膜を用いることができる。
【0026】
また、固体電解質層18は、LiPON以外にも、例えば、コバルト酸リチウム(LiCoO)、ニッケル酸リチウム(LiNiO)、マンガン酸リチウム(LiMn,LiMn)、チタン酸リチウム(LiTi12)のうち、少なくともいずれか1つを含むものであってもよい。また、上述した酸化物にNをドープしたものであってもよい。
【0027】
こうした固体電解質層18は、第1電極層16および第2電極層20から、記憶させる値に応じた3段階以上の電荷量となるように書込電流を印可することで、3段階以上の読出電圧値を出力可能に保持することができ、これにより、記憶セル10を3値以上の多値の情報を記憶可能な多値メモリとして機能させることができる。
【0028】
固体電解質層18は、第1電極層16および第2電極層20から、記憶させる値に応じた3段階以上の電荷量となるように書込電流を印可するために、例えば、一定の電流値の書込電流を、記憶させる値に応じた3段階以上の時間だけ印可すればよい。
また、固体電解質層18に対して、記憶させる値に応じた3段階以上の電流値の書込電流を、一定時間だけ印可してもよい。
【0029】
固体電解質層18に記憶(保持)された情報を読み出す際の読出電圧値は、正電圧および負電圧を含んでいてもよい。例えば、本実施形態では、0Vを挟んで正電圧から負電圧までを10段間の電圧値が設定される。
【0030】
本実施形態の記憶セル10は、スパッタリング法、蒸着法、塗布法などにより作製することができる。本実施形態の場合、組成のずれが少なく、また、比較的大きな面積に均一に膜を形成できるスパッタリング法が好ましい。
【0031】
積層体11を構成する各層の厚さは数10nm~数μmであるのが好ましい。第1電極層16および第2電極層20の厚さは、導電性が充分に得られ、応力による剥離などが生じない程度であればよく、例えば、50nm~1000nmがより好ましい。
【0032】
固体電解質層18の厚さは、例えば、10nm~1000nmであることが好ましく、抵抗を下げて伝導度を上げるために、ピンホール等の欠陥によるショートが生じない範囲で、できる限り薄くすることがより好ましい。
固体電解質層18の面積は数十nm~数十cmであることが好ましく、成膜時にコンタクトマスクを用いることや、成膜後にフォトリソグラフィー法によって加工することができる。
【0033】
(記憶方法)
本実施形態の記憶セル10を用いて多値の情報を記憶させる記憶方法は、データ書き込み回路から、第1電極層16と第2電極層20との間に、記憶させる値に対応した電荷量の書込電流を印可する(データ書き込み工程)。
【0034】
例えば、記憶セル10の1電極層16側をプラス電位、第2電極層20側をマイナス電位となるように、所定の電荷量の書込電流を印可すると、固体電解質層18におけるリチウムが第1電極層16側から第2電極層20側へ移動する。これにより、固体電解質層18においては第1電極層16側ではリチウムイオンが減少し、第2電極層20側ではリチウムイオンが増加する。このリチウムイオンの偏在状態は書込電流を切った後も保持され、第1電極層16と第2電極層20の間には残留電圧(記憶電圧)が発生する。この時の残留電圧は、書き込み電流と印可時間の積である電荷量に比例するため、電荷量を、例えば、10段階になるように設定すれば、10値の残留電圧(記憶電圧)に対応した記憶状態を持つことができる多値の記憶セル10を実現できる。
【0035】
こうした10段階の記憶電圧値を記憶させるためには、例えば、一定の値の書込電流を、記憶電圧に対応した書込み電荷量(電流×時間)となるよう所定の時間だけ印可する。これにより、固体電解質層18には、書込み電荷量に比例した電圧が記録(保持)される。また、例えば、書込電流を、記憶電圧に対応した書き込み電荷量となるよう一定時間だけ印可することで、書込み電荷量に比例した電圧を記録(保持)することもできる。
【0036】
このように記憶セル10に記録された記憶値は、第1電極層16と第2電極層20との間の電圧値を読み出すことで得ることができる(データ読み出し工程)。
【0037】
例えば、第1電極層16および第2電極層20を図示しないデータ読み出し回路に接続すると、正極側となった第1電極層16(正電位)と負極側となった第2電極層20(負電位)との間に電位差が生じる。この電位差を測定することで、記憶セル10に記録された記憶値(電圧値)を得ることができる。
【0038】
なお、本実施形態の変形例として、1つの積層体を第1電極層、固体電解質層、第2電極層から構成し、この積層体を2つ以上重ねるように配して記憶セルを構成してもよい。これにより、複数の記憶セルを直列に接続する構成となり、記憶値をより多くすることができる。
【0039】
また、積層体11を構成する第1電極層16、固体電解質層18、および第2電極層20の任意の層間に、別な機能層を設けた記憶セルにすることもできる。
【0040】
(記憶セルの製造方法)
本発明の記憶セルの製造方法の一例を説明する。
本実施形態の記憶セル10の製造方法として、スパッタリング法によって積層体11を形成する際には、基板12の一面に、積層体11の各層の構成材料をスパッタリングターゲットとしてスパッタリングを行い、所定の厚みまで順に各層を成膜することで行われる。
【0041】
こうしたスパッタリング法による成膜のうち、固体電解質層18を成膜する際には、スパッタリングターゲットとして、LiPOを用い、このスパッタリングターゲットに対して、Nガスをスパッタリングガスとして、スパッタリングを行う。これにより、スパッタリングガスのNがドープされたリン酸リチウム(LiPON)からなるアモルファス薄膜が成膜できる。
【0042】
以上、本発明の実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、また変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【実施例0043】
以下、本発明の有効性を確認するために行った検証実験と作用について説明する。
(サンプル作製)
5cm×5cm(厚さ1mm)のガラス基板の一面側に、スパッタリング法によって、下部電極層(第1電極層)としてチタンを厚さ100nm、固体電解質層としてLiPO+N(LiPON)厚さ200nm、上部電極層(第2電極層)としてチタンを厚さ100nm、をそれぞれ順に形成して、本実施例のサンプルである記憶セルを作製した。
なお、上述した各層の作製の際、下部電極層と上部電極層が接触せず、固体電解質層が正方形になるように、適切な孔部を有するステンレス製のコンタクトマスク用いて成膜を行った。固体電解質層の有効動作面積は約10cm(3.3cm×3.3cm)とした。
【0044】
主な成膜条件は、以下のとおりである。
・スパッタリング装置: マグネトロンスパッタ装置(CS-200、アルバック株式会社製)。
・スパッタリングターゲット: 上部電極層,下部電極層:チタン金属、固体電解質層:LiPO焼結体。
・スパッタリングガス: 上部電極層,下部電極層(チタン)の成膜:Ar(100%)、固体電解質層(LiPON)の成膜:N(100%) 。
・スパッタリングガス圧: 上部電極層,下部電極層,固体電解質層ともに0.5Pa。
・スパッタリングパワー: 上部電極層,下部電極層:DC100W、固体電解質層:RF100W。
・基板: 無アルカリガラス板(サイズ50mm×50mm×1mmt)。
・成膜時の基板加熱: なし。
【0045】
作製した記憶セルについて、充放電測定装置(アスカ電子株式会社製)を用いて、電流印可による電圧変化を測定した。測定条件は、印可電流:10μA、電流継続時間:2s、電流印可終了後の電圧変化測定時間:300s(5分間)、繰り返し回数:10回、測定温度25℃で実施した。この結果を図2に示す。
【0046】
図2に示す結果によれば、1回の電流印可でほぼ一定の値(約0.04V)だけ電圧が上昇し、その電圧が5分間安定に維持されることが確認できた。また、この電流印可を繰り返すことで、記憶セルの電圧がマイナス側からプラス側へ0Vを横切って段階的にほぼ一定の値ずつ増加していくことが確認できた。また、印可電流の電流値と継続時間を変えて記憶セルの電圧変化を測定すると、それらの積にほぼ比例して一定の値の電圧変化が起こり、300s間その電圧が維持されることが確認できた。また、電極の正負を入れ替えて同じ測定を行っても、ほぼ同じ特性を示すことが確認できた。
【0047】
こうした実施例のような特性が発現する理由は以下のように考えられる。
図3は、この記憶セルの充放電特性を示すグラフである。測定は、充放電測定装置(アスカ電子株式会社製)を用いて、充放電電流:2μA(一定)、電圧範囲:-2.0~+2.0V、温度:25℃、の条件で行っている。充放電特性は、開始からの経過時間に対する電圧の変化として示されており、電圧が上昇する領域が充電、減少する領域が放電を表す。
【0048】
図3に示すように、実施例の記憶セルは、0Vの電圧を横切って安定して充放電を繰り返す無極性の電池であることが分かる。その放電カーブの0Vを横切る付近を見ると、ほぼ直線となっている。このことが電流印可によって電流×時間(入力電荷量)に比例して、ほぼ一定の電圧増加が見られる要因と考えられる。また、一定時間(5分間)ほぼ一定の電圧が維持される要因は、電流印可で生じたリチウムイオンの移動に伴うリチウムイオンの偏在状態が比較的安定であることによると考えられる。
【0049】
以上のように、本実施例によれば、本発明の記憶セルは、低コストにて製造が可能な単純な3層構成であっても、微小な電流を短時間適切に制御して印可することで、正極および負極の両方の極性にまたがって様々な電圧状態を発生させて、その電圧状態を維持することができる。こうした特性は、多くの記憶状態を持つ多値記憶メモリとして利用することができる。また、構成と記憶の制御方法が単純なので、従来の多値記憶メモリよりも低コストで作製することが可能である。さらに、制御に必要な電力が小さいので、低消費電力化も可能である。
【符号の説明】
【0050】
10…記憶セル
11…積層体
12…基板
16…第1電極層
18…固体電解質層
20…第2電極層
図1
図2
図3