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特開2022-152049窒化物半導体装置及び窒化物半導体装置の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022152049
(43)【公開日】2022-10-12
(54)【発明の名称】窒化物半導体装置及び窒化物半導体装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/338 20060101AFI20221004BHJP
   H01L 21/336 20060101ALI20221004BHJP
【FI】
H01L29/80 H
H01L29/78 301B
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021054673
(22)【出願日】2021-03-29
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度、防衛装備庁、安全保障技術研究推進制度、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000005223
【氏名又は名称】富士通株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】小谷 淳二
【テーマコード(参考)】
5F102
5F140
【Fターム(参考)】
5F102FA01
5F102GB01
5F102GC01
5F102GD01
5F102GD10
5F102GJ02
5F102GJ03
5F102GJ04
5F102GJ10
5F102GK04
5F102GL04
5F102GL07
5F102GM04
5F102GM08
5F102GM09
5F102GM10
5F102GQ01
5F102GR04
5F102GS01
5F102GT01
5F102GV03
5F102HC01
5F102HC19
5F102HC21
5F140BA06
5F140BB06
5F140BB18
5F140BC12
5F140BE09
5F140BF05
5F140BF11
5F140BF15
5F140BJ05
5F140BK09
5F140BK25
5F140BK29
5F140BK38
5F140CA10
(57)【要約】
【課題】電流コラプスを抑制することができる窒化物半導体装置及び窒化物半導体装置の製造方法を提供する。
【解決手段】窒化物半導体装置は、電子走行層と、前記電子走行層の上に設けられ、第1バンドギャップを備えた電子供給層と、前記電子供給層の上に設けられ、第2バンドギャップを備えた第1バリア層と、前記第1バリア層の上に設けられ、第3バンドギャップを備えた量子井戸層と、前記量子井戸層の上に設けられ、第4バンドギャップを備えた第2バリア層と、前記第2バリア層の上に設けられた絶縁層と、を有し、前記第2バンドギャップは、前記第1バンドギャップよりも大きく、前記第4バンドギャップは、前記第2バンドギャップ以上であり、前記第3バンドギャップは、前記第2バンドギャップ及び前記第4バンドギャップよりも小さく、前記第1バリア層は、前記第2バリア層よりも薄い。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子走行層と、
前記電子走行層の上に設けられ、第1バンドギャップを備えた電子供給層と、
前記電子供給層の上に設けられ、第2バンドギャップを備えた第1バリア層と、
前記第1バリア層の上に設けられ、第3バンドギャップを備えた量子井戸層と、
前記量子井戸層の上に設けられ、第4バンドギャップを備えた第2バリア層と、
前記第2バリア層の上に設けられた絶縁層と、
を有し、
前記第2バンドギャップは、前記第1バンドギャップよりも大きく、
前記第4バンドギャップは、前記第2バンドギャップ以上であり、
前記第3バンドギャップは、前記第2バンドギャップ及び前記第4バンドギャップよりも小さく、
前記第1バリア層は、前記第2バリア層よりも薄いことを特徴とする窒化物半導体装置。
【請求項2】
前記第2バリア層は窒化物半導体から構成されることを特徴とする請求項1に記載の窒化物半導体装置。
【請求項3】
前記第4バンドギャップは、前記第2バンドギャップよりも大きいことを特徴とする請求項1又は2に記載の窒化物半導体装置。
【請求項4】
前記第1バリア層は、前記第2バリア層よりも高濃度でn型不純物を含有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の窒化物半導体装置。
【請求項5】
前記電子走行層は、GaNから構成され、
前記量子井戸層は、GaN又はGaNよりも格子定数が大きい窒化物半導体から構成されることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の窒化物半導体装置。
【請求項6】
電子走行層の上に第1バンドギャップを備えた電子供給層を形成する工程と、
前記電子供給層の上に第2バンドギャップを備えた第1バリア層を形成する工程と、
前記第1バリア層の上に第3バンドギャップを備えた量子井戸層を形成する工程と、
前記量子井戸層の上に第4バンドギャップを備えた第2バリア層を形成する工程と、
前記第2バリア層の上に絶縁層を形成する工程と、
を有し、
前記第2バンドギャップは、前記第1バンドギャップよりも大きく、
前記第4バンドギャップは、前記第2バンドギャップ以上であり、
前記第3バンドギャップは、前記第2バンドギャップ及び前記第4バンドギャップよりも小さく、
前記第1バリア層は、前記第2バリア層よりも薄いことを特徴とする窒化物半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、窒化物半導体装置及び窒化物半導体装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化物半導体は、高い飽和電子速度及びワイドバンドギャップ等の特徴を有している。このため、これらの特性を利用して窒化物半導体を高耐圧及び高出力の半導体デバイスに適用することについて種々の検討が行われている。例えば、窒化物半導体の一種であるGaNのバンドギャップは3.4eVであり、Siのバンドギャップ(1.1eV)及びGaAsのバンドギャップ(1.4eV)よりも大きい。このため、GaNは、高い破壊電界強度を有しており、高電圧動作及び高出力を得る電源用の半導体デバイスの材料として極めて有望である。
【0003】
窒化物半導体を用いた半導体デバイスとしては、電界効果トランジスタ、特に高電子移動度トランジスタ(high electron mobility transistor:HEMT)についての報告が数多くなされている。例えば、GaN系HEMTでは、GaNをチャネル層、AlGaNをバリア層として用いたAlGaN/GaN-HEMTが注目されている。
【0004】
GaN系HEMTにおいて、電流コラプスを抑制することを目的とした技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012-248570号公報
【特許文献2】特開2017-85057号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、近年では動作周波数及び動作電圧が高くなってきており、従来の技術によっても十分に電流コラプスを抑制することは困難である。
【0007】
本開示の目的は、電流コラプスを抑制することができる窒化物半導体装置及び窒化物半導体装置の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一形態によれば、電子走行層と、前記電子走行層の上に設けられ、第1バンドギャップを備えた電子供給層と、前記電子供給層の上に設けられ、第2バンドギャップを備えた第1バリア層と、前記第1バリア層の上に設けられ、第3バンドギャップを備えた量子井戸層と、前記量子井戸層の上に設けられ、第4バンドギャップを備えた第2バリア層と、前記第2バリア層の上に設けられた絶縁層と、を有し、前記第2バンドギャップは、前記第1バンドギャップよりも大きく、前記第4バンドギャップは、前記第2バンドギャップ以上であり、前記第3バンドギャップは、前記第2バンドギャップ及び前記第4バンドギャップよりも小さく、前記第1バリア層は、前記第2バリア層よりも薄い窒化物半導体装置が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、電流コラプスを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】第1実施形態に係る窒化物半導体装置の構造を示す断面図である。
図2】第1実施形態に係る窒化物半導体装置のバンド構造を示す図である。
図3】第1実施形態に係る窒化物半導体装置の作用効果を示す断面図である。
図4】第1実施形態に係る窒化物半導体装置の製造方法を示す断面図(その1)である。
図5】第1実施形態に係る窒化物半導体装置の製造方法を示す断面図(その2)である。
図6】第1実施形態に係る窒化物半導体装置の製造方法を示す断面図(その3)である。
図7】第1例についてのシミュレーションの結果を示す図である。
図8】第2例についてのシミュレーションの結果を示す図である。
図9】第2実施形態に係るディスクリートパッケージを示す図である。
図10】第3実施形態に係るPFC回路を示す結線図である。
図11】第4実施形態に係る電源装置を示す結線図である。
図12】第5実施形態に係る増幅器を示す結線図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の実施形態について添付の図面を参照しながら具体的に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複した説明を省くことがある。
【0012】
(第1実施形態)
まず、第1実施形態について説明する。第1実施形態は、GaN系HEMTを含む窒化物半導体装置に関する。図1は、第1実施形態に係る窒化物半導体装置の構造を示す断面図である。図2は、第1実施形態に係る窒化物半導体装置のバンド構造を示す図である。
【0013】
第1実施形態に係る窒化物半導体装置100は、図1に示すように、基板110と、基板110上に設けられた窒化物半導体の半導体積層構造体120とを有する。半導体積層構造体120は、例えば、初期層121と、バッファ層122と、電子走行層123と、電子供給層124と、キャップ層125とを有する。
【0014】
基板110は、例えば上面が(111)面であるSi基板である。初期層121は基板110の上に設けられている。初期層121は、例えば厚さが100nm~200nmのAlN層である。バッファ層122は初期層121の上に設けられている。バッファ層122は、例えば厚さが400nm~600nmのAlx4Ga1-x4N層である。バッファ層122のAl組成x4は、例えばバッファ層122の下面で0.2、上面で0.8であり、下面から上面にかけて段階的に高くなっている。電子走行層123はバッファ層122の上に設けられている。電子走行層123は、例えば厚さが100nm~1000nmで不純物の意図的なドーピングが行われていないGaN層(i-GaN層)である。電子供給層124は電子走行層123の上に設けられている。電子供給層124は、例えば厚さが20nm~100nmのn型のAlx5Ga1-x5N層(n-AlGaN層)である。電子供給層124のAl組成x5は、例えば0.2~0.3である。電子供給層124には、例えばSiが5×1018cm-3程度の濃度でドーピングされている。電子供給層124は第1バンドギャップを備える。
【0015】
キャップ層125は電子供給層124の上に設けられている。キャップ層125は、第1バリア層126と、量子井戸層127と、第2バリア層128とを有する。
【0016】
第1バリア層126は、電子供給層124の上に設けられている。第1バリア層126は、例えばIny1Alx1Ga1-x1-y1N(0.20≦x1≦1.00、0.00≦y1≦0.15)から構成される。第1バリア層126は第2バンドギャップを備え、第1バリア層126の第2バンドギャップは電子供給層124の第1バンドギャップよりも大きい。第1バリア層126の厚さは、例えば1nm~5nm程度である。第1バリア層126にSi等のn型不純物がドーピングされていてもよい。
【0017】
量子井戸層127は、第1バリア層126の上に設けられている。量子井戸層127は、例えばIny3Alx3Ga1-x3-y3N(0.00≦x3≦0.30、0.00≦y3≦0.80)から構成される。量子井戸層127は第3バンドギャップを備え、量子井戸層127の第3バンドギャップは第1バリア層126の第2バンドギャップよりも小さい。量子井戸層127の厚さは、例えば1nm~10nm程度である。量子井戸層127にSi等のn型不純物がドーピングされていてもよい。
【0018】
第2バリア層128は、量子井戸層127の上に設けられている。第2バリア層128は、例えばIny2Alx2Ga1-x2-y2N(0.40≦x2≦1.00、0.00≦y2≦0.15、x1≦x2)から構成される。第2バリア層128は第4バンドギャップを備え、第2バリア層128の第4バンドギャップは第1バリア層126の第2バンドギャップ以上である。好ましくは、第4バンドギャップは第2バンドギャップよりも大きい。第1バリア層126は第2バリア層128よりも薄い。第2バリア層128の厚さは、例えば1nm~10nm程度である。第2バリア層128にSi等のn型不純物がドーピングされていてもよい。
【0019】
半導体積層構造体120に、素子領域を画定する素子分離領域が形成されており、素子領域内において、キャップ層125及び電子供給層124にソース用のリセス160s及びドレイン用のリセス160dが形成されている。リセス160s及び160dは、キャップ層125の上面から電子供給層124の厚さ方向の途中にかけて形成されている。リセス160s内にソース電極1sが形成され、リセス160d内にドレイン電極1dが形成されている。キャップ層125上に、ソース電極1s及びドレイン電極1dを覆う絶縁層170が形成されている。ソース電極1sとドレイン電極1dとの間において、絶縁層170の上にゲート電極1gが形成されている。
【0020】
ソース電極1s及びドレイン電極1dは、例えば厚さが50nm~150nmのTi膜及びその上の厚さが100nm~500nmのAl膜を含む。ゲート電極1gは、例えば厚さが10nm~50nmのNi膜及びその上の厚さが300nm~500nmのAu膜を含む。絶縁層170は、例えばSi、Al、Hf、Zr、Ti、Ta又はWの酸化物、窒化物又は酸窒化物の膜であり、好ましくはSi窒化物(SiN)の膜である。絶縁層170の厚さは、例えば2nm~500nmであり、好ましくは100nm程度である。
【0021】
ここで、窒化物半導体装置100の作用効果について説明する。図3は、第1実施形態に係る窒化物半導体装置の作用効果を示す断面図である。
【0022】
窒化物半導体装置100においては、電子走行層123の電子供給層124との界面近傍に二次元電子ガス(2DEG)131が生成される。オン状態では、2DEG131を介してソース電極1sからドレイン電極1dに向けて電子132が移動する。そして、ソース電極1sとドレイン電極1dとの間の電位差が大きくなると、ゲート電極1gとドレイン電極1dとの間で、絶縁層170側に移動できる程度に大きなエネルギーを有する電子132が2DEG131内に発生する。
【0023】
電子132が絶縁層170側に移動し、キャップ層125と絶縁層170との界面に存在する界面準位133に捕獲されると、電子132が捕獲された状態が維持され、電流コラプスが生じる。
【0024】
これに対し、本実施形態では、電子132が絶縁層170側に移動したとしても、電子132はキャップ層125と絶縁層170との界面に到達する前に量子井戸層127に入る。量子井戸層127は量子チャネルとして機能するため、量子井戸層127に入った電子132は自由電子として移動することが可能である。従って、量子井戸層127に入った電子132は、ソース電極1sとドレイン電極1dとの間の電位差により量子井戸層127内でドレイン電極1dに向けて移動する。
【0025】
また、量子井戸層127に入った電子132が量子井戸層127から出ることもある。本実施形態では、第2バリア層128の第4バンドギャップが第1バリア層126の第2バンドギャップ以上であり、第1バリア層126は第2バリア層128よりも薄い。このため、量子井戸層127に入った電子132が量子井戸層127から出るとしても、電子132は高確率で、界面準位133側に移動するのではなく、2DEG131側に戻る。2DEG131側に戻った電子132は、ソース電極1sとドレイン電極1dとの間の電位差によりドレイン電極1dに向けて移動する。
【0026】
このように、本実施形態によれば、界面準位133が存在していても、界面準位133による電子132の捕獲を抑制し、電流コラプスを抑制することができる。
【0027】
電流コラプスの抑制のために界面準位133を低減しようとする場合、絶縁層170の材料の選択の自由度が狭められるが、本実施形態では、界面準位133が存在していても電流コラプスを抑制することができる。このため、絶縁層170の材料の選択の自由度を広めることができる。従って、優れた耐圧が得られる材料を絶縁層170に用いつつ、電流コラプスを抑制することができる。つまり、耐圧の向上と電流コラプスの抑制とを両立させることも可能である。
【0028】
次に、第1実施形態に係る窒化物半導体装置100の製造方法について説明する。図4図6は、第1実施形態に係る窒化物半導体装置100の製造方法を示す断面図である。
【0029】
まず、図4に示すように、Siの基板110上に、初期層121、バッファ層122、電子走行層123、電子供給層124、第1バリア層126、量子井戸層127及び第2バリア層128を含む半導体積層構造体120を形成する。第1バリア層126、量子井戸層127及び第2バリア層128はキャップ層125に含まれる。半導体積層構造体120は、例えば有機金属気相成長(metal organic chemical vapor deposition:MOCVD)法及び分子線エピタキシー(molecular beam epitaxy:MBE)法等の結晶成長法により形成することができる。
【0030】
MOCVD法により半導体積層構造体120を形成する場合、例えば、In源であるトリメチルインジウム(TMI)ガス、Al源であるトリメチルアルミニウム(TMA)ガス、Ga源であるトリメチルガリウム(TMG)ガス、及びN源であるアンモニア(NH)ガスの混合ガスを用いる。このとき、成長させる窒化物半導体層の組成に応じて、TMIガス、TMAガス及びTMGガスの供給の有無及び流量を適宜設定する。各窒化物半導体層に共通の原料であるNHガスの流量は、例えば100ccm~10LM程度とする。
【0031】
初期層121としてAlN層を形成する場合、例えば、原料ガスにおけるV/III比(NHガスの流量に対するTMAガスの流量の比率)を1000~2000程度とし、成長温度を1000℃程度とし、圧力を50Torr程度とする。
【0032】
バッファ層122としてAl組成x4が変化するAlx4Ga1-x4N層を形成する場合、例えば、原料ガスにおけるV/III比(NHガスの流量に対するTMAガス及びTMGガスの総流量の比率)を500~1000程度とし、成長温度を1000℃程度とし、圧力を50Torr程度とする。また、AlGaN層を成長させながらTMAガスとTMGガスとの流量比を調節することでAl組成x4を徐々に減らしていく。TMAガスのTMGガスに対する流量比を小さくするほど、Al組成x4は低下する。
【0033】
電子走行層123としてGaN層を形成する場合、例えば、原料ガスにおけるV/III比(NHガスの流量に対するTMGガスの流量の比率)を500~3000程度とし、成長温度を1000℃程度とし、圧力を200Torr程度とする。
【0034】
電子供給層124としてAlGaN層を形成する場合、例えば、原料ガスにおけるV/III比(NHガスに対するTMAガス及びTMGガスの総流量の比率)を1000~3000程度とし、成長温度を730℃程度とし、圧力を50Torr程度とする。
【0035】
第1バリア層126としてAlGaN層を形成する場合、例えば、原料ガスにおけるV/III比(NHガスに対するTMAガス及びTMGガスの総流量の比率)を500~5000程度とし、成長温度を1000℃程度とし、圧力を100Torr程度とする。
【0036】
量子井戸層127としてGaN層を形成する場合、例えば、原料ガスにおけるV/III比(NHガスに対するTMGガスの比率)を500~5000程度とし、成長温度を1000℃程度とし、圧力を100Torr程度とする。
【0037】
第2バリア層128としてAlGaN層を形成する場合、例えば、原料ガスにおけるV/III比(NHガスに対するTMAガス及びTMGガスの総流量の比率)を500~5000程度とし、成長温度を1000℃程度とし、圧力を100Torr程度とする。
【0038】
次いで、図5に示すように、ソース電極1sの下方になる領域及びドレイン電極1dの下方になる領域のそれぞれにおいて、キャップ層125と、電子供給層124の表層部とを除去する。この除去は、例えば、レジストマスクを用いたドライエッチングにより行うことができる。この結果、半導体積層構造体120に電子供給層124を露出するソース用のリセス160s及びドレイン用のリセス160dが形成される。
【0039】
その後、リセス160s内にソース電極1sを形成し、リセス160d内にドレイン電極1dを形成する。ソース電極1s及びドレイン電極1dは、例えばリフトオフ法により形成することができる。すなわち、ソース電極1sを形成する予定の領域及びドレイン電極1dを形成する予定の領域を露出し、他の領域を覆うフォトレジストのパターンを形成し、このパターンを成長マスクとして蒸着法により金属膜を形成し、このパターンをその上の金属膜と共に除去する。金属膜の形成では、例えば、厚さが50nm~150nmのTi膜を形成し、その上に厚さが100nm~500nmのAl膜を形成する。次いで、例えば、Nの雰囲気中にて400℃~1000℃(例えば600℃)で熱処理(例えば急速加熱処理(rapid thermal annealing:RTA))を行い、オーミック接触を得る。
【0040】
続いて、図6に示すように、キャップ層125上にソース電極1s及びドレイン電極1dを覆う絶縁層170を形成する。絶縁層170は、例えばプラズマCVD法により形成することができる。絶縁層170は、原子層堆積(atomic layer deposition:ALD)法又はスパッタ法により形成してもよい。次いで、ソース電極1s及びドレイン電極1dの間において、絶縁層170の上にゲート電極1gを形成する。ゲート電極1gは、例えばリフトオフ法により形成することができる。すなわち、ゲート電極1gを形成する予定の領域を露出するフォトレジストのパターンを形成し、このパターンを成長マスクとして蒸着法により金属膜を形成し、このパターンをその上の金属膜と共に除去する。金属膜の形成では、例えば、厚さが10nm~50nmのNi膜を形成し、その上に厚さが300nm~500nmのAu膜を形成する。
【0041】
このようにして、第1実施形態に係る窒化物半導体装置100を製造することができる。
【0042】
第1バリア層126は第2バリア層128よりも高濃度でn型不純物を含有することが好ましい。第1バリア層126が第2バリア層128よりも高濃度でn型不純物を含有する場合、第1バリア層126の厚さ方向での伝導帯の変化が急峻となり、量子井戸層127に入った電子132が2DEG131に戻りやすくなる。
【0043】
また、電子走行層123がGaNから構成される場合、量子井戸層127がGaN又はGaNよりも格子定数が大きい窒化物半導体から構成されることが好ましい。Alを含む第1バリア層126及び第2バリア層128の格子定数はGaNから構成される電子走行層123の格子定数よりも小さい。このため、量子井戸層127がGaN又はGaNよりも格子定数が大きい窒化物半導体から構成されれば、キャップ層125と電子走行層123との間の格子定数の相違を緩和しやすい。
【0044】
ここで、本願発明者が行ったシミュレーションについて説明する。このシミュレーションでは、下記の2つの例のトランジスタについてドレイン電圧とドレイン電流との関係を計算した。
【0045】
第1例は実施形態に倣った例である。第1条件では、電子供給層124は厚さが15nmのAl0.3Ga0.7N層であり、第1バリア層126は厚さが3nmのAl0.4Ga0.6N層であり、量子井戸層127は厚さが5nmのGaN層であり、第2バリア層128は厚さが5nmのAl0.6Ga0.4N層であるとした。第2例は、電子供給層124は厚さが15nmのAl0.3Ga0.7N層であるとし、キャップ層125に代えて、厚さが3nmのGaN層があるとした。
【0046】
そして、第1例及び第2例について、パルス測定を模した第1条件と、直流(DC)測定を模した第2条件とで、ゲート電圧Vgが0V、-2Vの時のドレイン電圧とドレイン電流との関係を計算した。第1条件では、パルス状のストレス電圧を印加してドレイン電圧とドレイン電流との関係を計算した。具体的には、第1条件では、50Vのドレイン電圧及び-5Vのゲート電圧をストレス状態の電圧としてトランジスタに印加し、そのストレス状態からドレイン電圧を変化させたときのドレイン電流を計算した。第2条件では、DC電圧を印加し、ストレス電圧をトランジスタに印加することなくドレイン電圧を変化させたときのドレイン電流を計算した。この結果を図7及び図8に示す。図7は、第1例についてのシミュレーションの結果を示し、図8は、第2例についてのシミュレーションの結果を示す。
【0047】
パルス測定においては、ストレス状態から回復する前のドレイン電流が記録される。このため、同一のドレイン電圧が印加された時の、第2条件(DC測定)でのドレイン電流と第1条件(パルス測定)でのドレイン電流との差が電流コラプスによる電流の減少分に相当する。図7及び図8に示すように、第2例では、第1条件でのドレイン電流が第2条件でのドレイン電流よりも著しく小さいのに対し、第1例でのドレイン電流の差は僅かである。このことは、第1例によれば、トランジスタを高周波動作させたときの実効的なドレイン電流の量が増加し、高いRF出力が得られることを示している。
【0048】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態について説明する。第2実施形態は、HEMTのディスクリートパッケージに関する。図9は、第2実施形態に係るディスクリートパッケージを示す図である。
【0049】
第2実施形態では、図9に示すように、第1実施形態と同様の構造を備えた半導体装置1210の裏面がはんだ等のダイアタッチ剤1234を用いてランド(ダイパッド)1233に固定されている。また、ドレイン電極1dが接続されたドレインパッド1226dに、Alワイヤ等のワイヤ1235dが接続され、ワイヤ1235dの他端が、ランド1233と一体化しているドレインリード1232dに接続されている。ソース電極1sに接続されたソースパッド1226sにAlワイヤ等のワイヤ1235sが接続され、ワイヤ1235sの他端がランド1233から独立したソースリード1232sに接続されている。ゲート電極1gに接続されたゲートパッド1226gにAlワイヤ等のワイヤ1235gが接続され、ワイヤ1235gの他端がランド1233から独立したゲートリード1232gに接続されている。そして、ゲートリード1232gの一部、ドレインリード1232dの一部及びソースリード1232sの一部が突出するようにして、ランド1233及び半導体装置1210等がモールド樹脂1231によりパッケージングされている。
【0050】
このようなディスクリートパッケージは、例えば、次のようにして製造することができる。まず、半導体装置1210をはんだ等のダイアタッチ剤1234を用いてリードフレームのランド1233に固定する。次いで、ワイヤ1235g、1235d及び1235sを用いたボンディングにより、ゲートパッド1226gをリードフレームのゲートリード1232gに接続し、ドレインパッド1226dをリードフレームのドレインリード1232dに接続し、ソースパッド1226sをリードフレームのソースリード1232sに接続する。その後、トランスファーモールド法にてモールド樹脂1231を用いた封止を行う。続いて、リードフレームを切り離す。
【0051】
(第3実施形態)
次に、第3実施形態について説明する。第3実施形態は、HEMTを備えたPFC(Power Factor Correction)回路に関する。図10は、第3実施形態に係るPFC回路を示す結線図である。
【0052】
PFC回路1250には、スイッチ素子(トランジスタ)1251、ダイオード1252、チョークコイル1253、コンデンサ1254及び1255、ダイオードブリッジ1256、並びに交流電源(AC)1257が設けられている。そして、スイッチ素子1251のドレイン電極と、ダイオード1252のアノード端子及びチョークコイル1253の一端子とが接続されている。スイッチ素子1251のソース電極と、コンデンサ1254の一端子及びコンデンサ1255の一端子とが接続されている。コンデンサ1254の他端子とチョークコイル1253の他端子とが接続されている。コンデンサ1255の他端子とダイオード1252のカソード端子とが接続されている。また、スイッチ素子1251のゲート電極にはゲートドライバが接続されている。コンデンサ1254の両端子間には、ダイオードブリッジ1256を介してAC1257が接続される。コンデンサ1255の両端子間には、直流電源(DC)が接続される。そして、本実施形態では、スイッチ素子1251に、第1実施形態と同様の構造を備えた半導体装置が用いられている。
【0053】
PFC回路1250の製造に際しては、例えば、はんだ等を用いて、スイッチ素子1251をダイオード1252及びチョークコイル1253等に接続する。
【0054】
(第4実施形態)
次に、第4実施形態について説明する。第4実施形態は、サーバ電源に好適な、HEMTを備えた電源装置に関する。図11は、第4実施形態に係る電源装置を示す結線図である。
【0055】
電源装置には、高圧の一次側回路1261及び低圧の二次側回路1262、並びに一次側回路1261と二次側回路1262との間に配設されるトランス1263が設けられている。
【0056】
一次側回路1261には、第3実施形態に係るPFC回路1250、及びPFC回路1250のコンデンサ1255の両端子間に接続されたインバータ回路、例えばフルブリッジインバータ回路1260が設けられている。フルブリッジインバータ回路1260には、複数(ここでは4つ)のスイッチ素子1264a、1264b、1264c及び1264dが設けられている。
【0057】
二次側回路1262には、複数(ここでは3つ)のスイッチ素子1265a、1265b及び1265cが設けられている。
【0058】
本実施形態では、一次側回路1261を構成するPFC回路1250のスイッチ素子1251、並びにフルブリッジインバータ回路1260のスイッチ素子1264a、1264b、1264c及び1264dに、第1実施形態と同様の構造を備えた半導体装置が用いられている。一方、二次側回路1262のスイッチ素子1265a、1265b及び1265cには、シリコンを用いた通常のMIS型FET(電界効果トランジスタ)が用いられている。
【0059】
(第5実施形態)
次に、第5実施形態について説明する。第5実施形態は、HEMTを備えた増幅器に関する。図12は、第5実施形態に係る増幅器を示す結線図である。
【0060】
増幅器には、ディジタル・プレディストーション回路1271、ミキサー1272a及び1272b、並びにパワーアンプ1273が設けられている。
【0061】
ディジタル・プレディストーション回路1271は、入力信号の非線形歪みを補償する。ミキサー1272aは、非線形歪みが補償された入力信号と交流信号とをミキシングする。パワーアンプ1273は、第1実施形態と同様の構造を備えた半導体装置を備えており、交流信号とミキシングされた入力信号を増幅する。なお、本実施形態では、例えば、スイッチの切り替えにより、出力側の信号をミキサー1272bで交流信号とミキシングしてディジタル・プレディストーション回路1271に送出できる。この増幅器は、高周波増幅器、高出力増幅器として使用することができる。高周波増幅器は、例えば、携帯電話基地局用送受信装置、レーダー装置及びマイクロ波発生装置に用いることができる。
【0062】
本開示において、基板として、炭化シリコン(SiC)基板、サファイヤ基板、シリコン基板、AlN基板、GaN基板又はダイヤモンド基板を用いてもよい。基板が、導電性、半絶縁性又は絶縁性のいずれであってもよい。電子走行層を基板上に形成できる場合、
基板が下地として用いられてもよい。
【0063】
ゲート電極、ソース電極及びドレイン電極の構造は上述の実施形態のものに限定されない。例えば、これらが単層から構成されていてもよい。また、これらの形成方法はリフトオフ法に限定されない。更に、オーミック特性が得られるのであれば、ソース電極及びドレイン電極の形成後の熱処理を省略してもよい。ゲート電極の形成後に熱処理を行ってもよい。
【0064】
ゲート電極の構造として、上記の実施形態ではMIS(metal-insulator-semiconductor)型ゲート構造が用いられているが、ショットキー型ゲート構造が用いられてもよい。
【0065】
以上、好ましい実施の形態等について詳説したが、上述した実施の形態等に制限されることはなく、特許請求の範囲に記載された範囲を逸脱することなく、上述した実施の形態等に種々の変形及び置換を加えることができる。
【0066】
以下、本開示の諸態様を付記としてまとめて記載する。
【0067】
(付記1)
電子走行層と、
前記電子走行層の上に設けられ、第1バンドギャップを備えた電子供給層と、
前記電子供給層の上に設けられ、第2バンドギャップを備えた第1バリア層と、
前記第1バリア層の上に設けられ、第3バンドギャップを備えた量子井戸層と、
前記量子井戸層の上に設けられ、第4バンドギャップを備えた第2バリア層と、
前記第2バリア層の上に設けられた絶縁層と、
を有し、
前記第2バンドギャップは、前記第1バンドギャップよりも大きく、
前記第4バンドギャップは、前記第2バンドギャップ以上であり、
前記第3バンドギャップは、前記第2バンドギャップ及び前記第4バンドギャップよりも小さく、
前記第1バリア層は、前記第2バリア層よりも薄いことを特徴とする窒化物半導体装置。
(付記2)
前記第2バリア層は窒化物半導体から構成されることを特徴とする付記1に記載の窒化物半導体装置。
(付記3)
前記第4バンドギャップは、前記第2バンドギャップよりも大きいことを特徴とする付記1又は2に記載の窒化物半導体装置。
(付記4)
前記第1バリア層は、前記第2バリア層よりも高濃度でn型不純物を含有することを特徴とする付記1乃至3のいずれか1項に記載の窒化物半導体装置。
(付記5)
前記電子走行層は、GaNから構成され、
前記量子井戸層は、GaN又はGaNよりも格子定数が大きい窒化物半導体から構成されることを特徴とする付記1乃至4のいずれか1項に記載の窒化物半導体装置。
(付記6)
前記第1バリア層は、Iny1Alx1Ga1-x1-y1N(0.20≦x1≦1.00、0.00≦y1≦0.15)から構成され、
前記第2バリア層は、Iny2Alx2Ga1-x2-y2N(0.40≦x2≦1.00、0.00≦y2≦0.15、x1≦x2)から構成されることを特徴とする付記1乃至5のいずれか1項に記載の窒化物半導体装置。
(付記7)
電子走行層の上に第1バンドギャップを備えた電子供給層を形成する工程と、
前記電子供給層の上に第2バンドギャップを備えた第1バリア層を形成する工程と、
前記第1バリア層の上に第3バンドギャップを備えた量子井戸層を形成する工程と、
前記量子井戸層の上に第4バンドギャップを備えた第2バリア層を形成する工程と、
前記第2バリア層の上に絶縁層を形成する工程と、
を有し、
前記第2バンドギャップは、前記第1バンドギャップよりも大きく、
前記第4バンドギャップは、前記第2バンドギャップ以上であり、
前記第3バンドギャップは、前記第2バンドギャップ及び前記第4バンドギャップよりも小さく、
前記第1バリア層は、前記第2バリア層よりも薄いことを特徴とする窒化物半導体装置の製造方法。
(付記8)
付記1乃至6のいずれか1項に記載の半導体装置を有することを特徴とする増幅器。
(付記9)
付記1乃至6のいずれか1項に記載の半導体装置を有することを特徴とする電源装置。
【符号の説明】
【0068】
100:窒化物半導体装置
110:基板
123:電子走行層
124:電子供給層
125:キャップ層
126:第1バリア層
127:量子井戸層
128:第2バリア層
131:2DEG
132:電子
133:界面準位
170:絶縁層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12