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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022152062
(43)【公開日】2022-10-12
(54)【発明の名称】ガイドワイヤ
(51)【国際特許分類】
   A61M 25/09 20060101AFI20221004BHJP
【FI】
A61M25/09 516
A61M25/09 514
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021054688
(22)【出願日】2021-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000109543
【氏名又は名称】テルモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141829
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 牧人
(74)【代理人】
【識別番号】100123663
【弁理士】
【氏名又は名称】広川 浩司
(72)【発明者】
【氏名】河原 恭平
【テーマコード(参考)】
4C267
【Fターム(参考)】
4C267AA29
4C267BB02
4C267BB06
4C267BB10
4C267BB11
4C267BB12
4C267BB13
4C267BB26
4C267BB32
4C267BB40
4C267CC08
4C267CC22
4C267CC25
4C267CC26
4C267EE01
4C267GG03
4C267GG04
4C267HH08
(57)【要約】
【課題】ガイドワイヤが破断しても、破断したガイドワイヤの先端部の血管内への残留や、破断したガイドワイヤの端部による血管穿孔が生じにくく、安全性の高いガイドワイヤを提供する。
【解決手段】ガイドワイヤ10は、先端部および基端部を有して長軸方向に延在するコア20と、コア20の先端部を覆うコイル40と、コア20およびコイル40の間にコア20を覆うように同軸的に配置され、第1の固定部を介してコア20に固定される先端部と、第1の固定部よりも基端側で第2の固定部を介してコア20に固定される基端部と、を含む管状部材70と、を有し、管状部材70は、第1の固定部と第2の固定部とが離間するように長軸方向へ伸長することで、管状部材70がコア20に接触して係合部を形成する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端部および基端部を有して長軸方向に延在するコアと、
前記コアの先端部を覆うコイルと、
前記コアおよび前記コイルの間に前記コアを覆うように同軸的に配置され、第1の固定部を介して前記コアに固定される先端部と、前記第1の固定部よりも基端側で第2の固定部を介して前記コアに固定される基端部と、を含む管状部材と、を有し、
前記管状部材は、前記第1の固定部と前記第2の固定部とが離間するように長軸方向へ伸長することで、前記管状部材が前記コアに接触して係合部を形成するガイドワイヤ。
【請求項2】
前記管状部材は、複数の編組線を螺旋状かつ交互に編組することにより形成される請求項1に記載のガイドワイヤ。
【請求項3】
前記管状部材は、前記管状部材の内表面と前記コアの外表面との径方向の距離が一定である請求項1または2に記載のガイドワイヤ。
【請求項4】
前記編組線の断面形状は、長方形であり、当該長方形の長辺が、前記管状部材の内表面および外表面を形成する請求項1~3のいずれか1項に記載のガイドワイヤ。
【請求項5】
前記管状部材は、外径および内径が大きい蛇腹大径部と、外径および内径が小さい蛇腹小径部とが長軸方向に交互に配置される蛇腹形状を有し、
前記コアは、前記第1の固定部と前記第2の固定部との間に基端方向へ向かって外径が大きくなる拡径部を有し、
前記蛇腹小径部の少なくとも1つは、前記コアの前記拡径部の外径よりも小さな内径を有する係合小径部であり、
前記第1の固定部と前記第2の固定部とが離間するように前記管状部材が長軸方向へ伸長することで、前記管状部材の前記係合小径部が前記コアの前記拡径部に接触して係合部を形成する請求項1に記載のガイドワイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体内に挿入する長尺な医療器具をガイドするガイドワイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
ガイドワイヤは、血管内治療を行うためのカテーテルやステント等の医療器具を狭窄部までガイドするために医療器具に先行して血管内に挿入される。ガイドワイヤは、硬い石灰化病変を通過する際、ガイドワイヤの先端部が病変に引っ掛かることがある。このとき、病変からガイドワイヤを抜去するために術者がガイドワイヤの基端側へ強い引張力を加えると、ガイドワイヤのコアが破断してしまうことがある。破断したガイドワイヤの先端部がガイドワイヤから脱落して血管内に残留すると、患者は、外科手術を必要とする場合がある。このため、特許文献1には、ガイドワイヤの最先端のチップとチップよりも基端側の部位とをコアと略平行に接続する安全ワイヤを設けることによって、破断したガイドワイヤの先端部のガイドワイヤからの脱落を防止する構造が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012-005724号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の安全ワイヤは、1本の線材またはリボンであるため、ガイドワイヤを抜去するための引張力によって安全ワイヤの両端の固定部材から抜けやすい。また、ガイドワイヤを引っ張ることによって拡大したコイルの線間隙間から破断によって鋭利となったガイドワイヤの端部が露出して、血管穿孔を生じやすい。このため、特許文献1に記載のガイドワイヤは、コアが破断した場合の安全性に問題が生じる可能性がある。
【0005】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、ガイドワイヤが破断しても、破断したガイドワイヤの先端部の血管内への残留や、破断したガイドワイヤの端部による血管穿孔が生じにくく、安全性の高いガイドワイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成する本発明に係るガイドワイヤは、先端部および基端部を有して長軸方向に延在するコアと、前記コアの先端部を覆うコイルと、前記コアおよび前記コイルの間に前記コアを覆うように同軸的に配置され、第1の固定部を介して前記コアに固定される先端部と、前記第1の固定部よりも基端側で第2の固定部を介して前記コアに固定される基端部と、を含む管状部材と、を有し、前記管状部材は、前記第1の固定部と前記第2の固定部とが離間するように長軸方向へ伸長することで、前記管状部材が前記コアに接触して係合部を形成する。
【発明の効果】
【0007】
上記のように構成したガイドワイヤは、コアが破断した際に、管状部材が破断したコアを把持することにより、破断した先端部がガイドワイヤから脱落して血管内に残留することを抑制できる。また、ガイドワイヤは、管状部材がコアの周囲を覆っているため、破断によって鋭利となったガイドワイヤの端部がコイルの線間隙間から露出して、血管穿孔を生じることを抑制できる。したがって、ガイドワイヤは、安全性が向上する。
【0008】
前記管状部材は、複数の編組線を螺旋状かつ交互に編組することにより形成されてもよい。管状部材は、長軸方向へ伸長することで、いわゆるチャイニーズ・フィンガー・トラップの原理により縮径してコアを把持する。これにより、ガイドワイヤは、破断した先端部がガイドワイヤから脱落して血管内に残留することを抑制できる。
【0009】
前記編組線の断面形状は、長方形であり、当該長方形の長辺が、前記管状部材の内表面および外表面を形成してもよい。これにより、ガイドワイヤは、管状部材がコアを把持する際の管状部材とコアとの接触面積が増加するため、コアを強固に把持できる。また、ガイドワイヤは、管状部材が径方向に湾曲しやすいため、先端部の柔軟性を維持できる。
【0010】
前記管状部材は、外径および内径が大きい蛇腹大径部と、外径および内径が小さい蛇腹小径部とが長軸方向に交互に配置される蛇腹形状を有し、前記コアは、前記第1の固定部と前記第2の固定部との間に基端方向へ向かって外径が大きくなる拡径部を有し、前記蛇腹小径部の少なくとも1つは、前記コアの前記拡径部の外径よりも小さな内径を有する係合小径部であり、前記第1の固定部と前記第2の固定部とが離間するように前記管状部材が長軸方向へ伸長することで、前記管状部材の前記係合小径部が前記コアの前記拡径部に接触して係合部を形成してもよい。これにより、管状部材は、係合部によって破断したコアを把持することにより、破断した先端部がガイドワイヤから脱落して血管内に残留することを抑制できる。また、ガイドワイヤは、管状部材がコアの周囲を覆っているため、破断によって鋭利となったガイドワイヤの端部がコイルの線間隙間から露出して、血管穿孔を生じることを抑制できる。したがって、ガイドワイヤは、安全性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施形態に係るガイドワイヤを示す平面図である。
図2】ガイドワイヤの先端部のコアおよび管状部材を平面で示し、他の部位を断面で示す図である。
図3】コアが破断した際のガイドワイヤの先端部のコアおよび管状部材を平面で示し、他の部位を断面で示す図である。
図4】変形例であるガイドワイヤの先端部を示す図であり、(A)はコアおよび管状部材を平面で示し、他の部位を断面で示す図、(B)は断面図である。
図5】変形例であるガイドワイヤのコアが破断した際の、コアおよび管状部材を平面で示し、他の部位を断面で示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。なお、図面の寸法は、説明の都合上、誇張されて実際の寸法とは異なる場合がある。また、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。本明細書において、ガイドワイヤの血管に挿入する側を「先端側」、操作する側を「基端側」と称することとする。
【0013】
本実施形態に係るガイドワイヤ10は、図1~2に示すように、長尺なコア20と、コア20の先端部を囲むコイル40と、コア20とコイル40の間に配置される管状部材70と、コイル40および管状部材70をコア20に固定する固定部50と、被覆層60とを備えている。
【0014】
コア20は、基端コア21と、基端コア21の先端側に位置する先端コア30とを備えている。基端コア21は、本体コア22と、本体コア22の先端に配置される基端接合部23とを備えている。本体コア22の外径は、略一定である。基端接合部23は、本体コア22よりも大きな外径で形成されている。
【0015】
先端コア30は、基端コア21の先端からガイドワイヤ10の先端側へ延在する長尺な部材である。先端コア30は、先端コア30の基端から先端側へ向かって、先端接合部31と、大径部32と、第1テーパー部33と、中径部34と、第2テーパー部35と、小径部36と、クサビ部37と、平板部38とを備えている。先端接合部31は、基端コア21の基端接合部23と接合される部位である。先端接合部31の外径は、大径部32の外径よりも大きく、基端接合部23の外径と略一致する。大径部32の外径は、略一定であり、本体コア22の外径と略一致する。接合される先端接合部31および基端接合部23の外径は、本体コア22および大径部32の外径よりも大きい。このため、先端コア30と基端コア21の接合強度を高くできる。第1テーパー部33の外径は、大径部32から中径部34へ向かって減少している。中径部34の外径は、一定である。中径部34の外径は、大径部32の外径よりも小さい。第2テーパー部35の外径は、中径部34から小径部36へ向かって減少している。小径部36の外径は、一定であり、中径部34の外径よりも小さい。クサビ部37は、小径部36の先端から平板部38へ向かって小さくなる厚みと、大きくなる幅を有している。平板部38は、一定の厚みおよび一定の幅を有している。
【0016】
ガイドワイヤ10の長軸方向の全長は、300mm~4500mmである。基端コア21の外径(断面が円形でない場合、断面において最も厚い部位の厚み)は、0.15mm~2mmである。また、先端コア30の先端部の外径(断面が円形でない場合、断面において最も厚い部位の厚み)は、0.1mm~1mmである。
【0017】
先端コア30および基端コア21は、Ni-Ti系合金、SUS302、SUS304、SUS303、SUS316、SUS316L、SUS316J1、SUS316J1L、SUS405、SUS430、SUS434、SUS444、SUS429、SUS430F等のステンレス鋼、ピアノ線、コバルト系合金、超弾性合金などの各種金属で形成できる。先端コア30は、基端コア21の材料よりも剛性の低い材料により形成することが好ましい。一例として、先端コア30は、Ni-Ti系合金で形成し基端コア21は、ステンレス鋼で形成する。なお、先端コア30および基端コア21を形成する材料は、上述の例に限定されない。先端コア30および基端コア21は、同一の材料で形成されてもよい。
【0018】
コイル40は、線材43を螺旋状に巻回してなる部材である。コイル40は、先端コイル41と、基端コイル42とを備える。先端コイル41は、基端コイル42の先端側に位置する。先端コイル41および基端コイル42は、コア20の先端コア30の少なくとも一部を囲み、先端コア30に固定される。先端コイル41および基端コイル42は、先端コア30と同軸的に配置される。先端コイル41のコイル外径は、先端から基端まで一定であることが好ましいが、一定でなくてもよい。同様に、基端コイル42のコイル外径は、先端から基端まで一定であることが好ましいが、一定でなくてもよい。先端コイル41および基端コイル42は、ほぼ同じコイル外径を有している。先端コイル41の基端部と、基端コイル42の先端部は、絡み合っている。すなわち、先端コイル41の基端部の線材43と、基端コイル42の先端部の線材43が、長軸方向に交互に並んで配置される。このように先端コイル41と基端コイル42とが絡み合うことにより、先端コイル41と基端コイル42とが離間することが抑制される。先端コイル41および基端コイル42を形成する線材43の材料、線材43の外径、線材43の断面形状は、ガイドワイヤ10の目的に応じて適宜選択できる。
【0019】
線材43の断面形状は、円形であることが好ましい。なお、線材43の断面形状は、楕円形、四角形等であってもよい。
【0020】
先端コイル41の線材43は、隣接する線材43同士の間に隙間を有するように螺旋状に疎に巻かれている。なお、先端コイル41の線材43は、隣接する線材43同士の間に隙間を有するように巻かれてもよい。
【0021】
基端コイル42は、線材43を隣接する線材43同士の間に隙間を有さないように螺旋状に密に巻かれている。なお、基端コイル42の線材43は、隣接する線材43同士の間に隙間を有するように巻かれてもよい。
【0022】
先端コイル41および基端コイル42は、ステンレス鋼、超弾性合金、コバルト系合金、金、白金、タングステン等の金属、またはこれらを含む合金で形成できる。一例として、先端コイル41は、Pt-Ni系合金で形成し、基端コイル42は、ステンレス鋼で形成する。なお、先端コイル41および基端コイル42は、同一の材料で形成されてもよい。また、コイル40は、1つのコイルとして形成されてもよい。コイル40は、3つ以上のコイルで形成されてもよい。
【0023】
先端コイル41および基端コイル42のコイル外径は、0.15mm~2mmである。先端コイル41の長さは、3mm~60mmである。基端コイル42の長さは、10mm~400mmである。先端コイル41の基端部と、基端コイル42の先端部が絡み合う長さは、0.1mm~2mmである。
【0024】
管状部材70は、先端コイル41および基端コイル42の内側であって、先端コア30の外側に配置される。管状部材70は、先端部と、基端部と、先端部と基端部の間の中央部とを、固定部50によって先端コア30に固定される。
【0025】
管状部材70の外径および内径は、管状部材70の先端から基端まで略一定である。なお、管状部材70は、先端部と基端部とで外径や内径が異なっていてもよい。例えば、管状部材70は、管状部材70の内表面とコア20の外表面との径方向の距離が一定となるように形成されてもよい。
【0026】
管状部材70は、複数の編組線71を螺旋状かつ交互に編組することにより形成されている。これにより、管状部材70は、両端を離間させると、いわゆるチャイニーズ・フィンガー・トラップの原理によって、編組線71の交角を変えつつ長軸方向に伸長して縮径できる。伸長かつ縮径した管状部材70は、編組線71と先端コア30とが接触して形成された係合部で、破断した先端コア30を把持する。
【0027】
編組線71の延在方向と直交する断面形状は、長方形であり、その長辺が管状部材70の内表面と外表面を画定するように配置されている。これにより、管状部材70は、先端コア30との接触面積が増加するため、先端コア30を強固に把持できる。また、管状部材70は、径方向に湾曲しやすいため、ガイドワイヤ10の先端部の柔軟性を維持できる。なお、編組線71の延在方向と直交する断面形状は、長方形以外の四角形、円形、楕円形であってもよい。
【0028】
管状部材70は、両端を離間させると、いわゆるチャイニーズ・フィンガー・トラップの原理によって、編組線71の交角を変えつつ長軸方向に伸長して縮径する。この原理を実現するために、編組線71は、引張強度と柔軟性を有する必要がある。編組線71は、ニッケルチタン合金、チタン合金、ステンレス鋼、炭素繊維等で形成できる。管状部材70を形成する複数の編組線71は、それぞれ異なる材料で形成されてもよい。
【0029】
固定部50は、コイル40および管状部材70をコア20に固定する部材である。固定部50は、先端固定部51と、中間固定部52と、基端固定部53とを備えている。先端固定部51は、先端コイル41の先端部と管状部材70の先端部を、先端コア30の平板部38に固定する。先端固定部51は、ガイドワイヤ10の最先端に位置し、外表面が略半球状に滑らかに形成される。中間固定部52は、先端コイル41の基端部、基端コイル42の先端部および管状部材70の中央部を、先端コア30の第2テーパー部35に固定する。中間固定部52は、管状部材70とコイル20との間に、径方向の隙間を埋めるための他の筒状部材を固定することもある。基端固定部53は、基端コイル42の基端部と管状部材70の基端部を、先端コア30の中径部34に固定する。固定部50は、アルミニウム合金ロウ、銀ロウ、金ロウ、亜鉛、Sn-Pb合金、Pb-Ag合金、Sn-Ag合金ロウ材、ハンダ、熱可塑性樹脂等で形成できる。固定部50は、接着剤で形成してもよい。
【0030】
被覆層60は、第1の被覆層61と、第2の被覆層62とを備えている。第1の被覆層61は、コイル40、固定部50およびコア20の一部を覆っている。第2の被覆層62は、先端コア30の基端部と基端コア21を覆っている。なお、第2の被覆層62は、コア20のコイル40よりも基端側に位置する部位の全体を覆ってもよい。あるいは、第2の被覆層62は、コア20のコイル40よりも基端側に位置する部位のうち、一部分を覆わなくともよい。
【0031】
被覆層60は、低摩擦材料で形成できる。第1の被覆層61は、セルロース系高分子、ポリエチレンオキサイド系高分子、無水マレイン酸系高分子(例えば、メチルビニルエーテル-無水マレイン酸共重合体のような無水マレイン酸共重合体)、アクリルアミド系高分子(例えば、ポリアクリルアミド、グリシジルメタクリレート-ジメチルアクリルアミドのブロック共重合体)、水溶性ナイロン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、およびそれらの誘導体等の親水性高分子で形成できる。第2の被覆層62は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素系樹脂、シリコーン系樹脂で形成できる。なお、第1の被覆層61、第2の被覆層62を形成する材料は、上記に限定されない。
【0032】
次に、本実施形態に係るガイドワイヤ10の作用を説明する。
【0033】
ガイドワイヤ10は、石灰化病変の通過時に、ガイドワイヤ10の先端部が病変に引っ掛かることがある。このとき、病変からガイドワイヤ10を抜去するために術者がガイドワイヤ10の基端側へ強い引張力を加えると、ガイドワイヤ10の先端コア30は、先端固定部51(第1の固定部)と中間固定部52(第2の固定部)の間で破断することが想定される。先端コア30は、先端コア30が破断した状態でガイドワイヤ10にさらに基端側への引張力が加えられると、図3に示すように、先端コイル41が長軸方向へ引き伸ばされて線間隙間が拡大し、先端コア30の破断部よりも先端側の部位が、破断部よりも基端側の部位から離れようとする。ガイドワイヤ10は、先端コア30の破断に加えて、先端コイル41も破断することもある。このとき、管状部材70の先端部は、破断部よりも先端側の先端コア30に先端固定部51によって固定されており、管状部材70の先端部よりも基端側の部位は、破断部よりも基端側の先端コア30に中間固定部52によって固定されている。したがって、先端固定部51と中間固定部52との間の管状部材70を形成している各々の編組線71の長さは変化しない。このため、先端コア30の破断部よりも先端側の部位が、破断部よりも基端側の部位から離れると、管状部材70の先端固定部51と中間固定部52との間の部位は、チャイニーズ・フィンガー・トラップの原理によって、編組線71の交角を変えつつ長軸方向に伸長して縮径する。すなわち、管状部材70の先端固定部51と中間固定部52との間の距離が長くなると、管状部材70は長軸方向に伸長する一方で各々の編組線71の螺旋の巻数は変化しないため、管状部材70は、縮径する。これにより、管状部材70は、編組線71と先端コア30とが接触して係合部を形成して、破断した先端コア30を把持する。その結果、ガイドワイヤ10は、破断した先端部がガイドワイヤ10から脱落して血管内に残留することを抑制できる。また、管状部材70は、先端コア30の周囲を覆って先端コア30と同軸的な位置関係を維持した状態で伸長かつ縮径するため、破断によって鋭利となったガイドワイヤ10の端部が先端コイル41の線間隙間から露出して、血管穿孔を生じることを抑制できる。さらに、管状部材70は、先端コア30を把持すると、それ以上の縮径および長軸方向の伸長が制限される。これにより、先端コイル41は、線間隙間の拡大が制限されるので、先端コイル41の破断による先端コア30の破断部よりも先端側の部位の脱落を効果的に抑制できる。このように、ガイドワイヤ10は、管状部材70を有することにより、血管穿孔や破断した先端部の脱落が抑制され、安全性が向上する。管状部材70が先端コア30と係合部を形成して先端コア30を把持するために長軸方向へ伸長する長さは、先端コイル41および基端コイル42が塑性変形を起こす長さ未満であることが好ましい。また、管状部材70の内表面と先端コア30の外表面との径方向の距離が一定となるように形成されていると、管状部材70が先端コア30を把持するために伸長する長さが短くて済むため、管状部材70は、先端コア30を効率的に把持できる。
【0034】
また、管状部材70は、複数の編組線71で形成され、各々の編組線71の両端部が固定部50に固定されている。これにより、ガイドワイヤ10を抜去する際に固定部50にかかる引張力は、複数の編組線71に分散する。その結果、管状部材70は、固定部50から抜けにくくなるので、ガイドワイヤ10の先端部の脱落を抑制できる。さらに、管状部材70は、先端コア30と同軸的な位置関係を維持した状態で先端コア30に接触して把持するため、先端コア30の破断後も、先端コア30と管状部材70との軸心が略一致している。これにより、カテーテルをガイドワイヤ10に沿って容易に挿通できる。また、管状部材70は、先端コア30の破断後も、先端コア30と管状部材70との軸心が略一致していることに加えて複数の編組線71を有することにより、先端コア30の外表面に管状部材70と先端コア30との係合部が複数かつ均等に形成される。そのため、ガイドワイヤ10を抜去する引張力を先端コア30に均等に伝達できる。これにより、ガイドワイヤ10は、先端コア30の破断後においても、管状部材70が先端コア30の代わりとして機能し、基端に加えられた引張力や回転力を先端まで伝達できるので、血管から容易に抜去できる。このとき、管状部材70が先端コア30と係合部を形成して先端コア30を把持するために長軸方向へ伸長する長さが先端コイル41および基端コイル42が塑性変形を起こす長さ未満であると、ガイドワイヤ10は、基端に加えられた引張力や回転力を先端まで良好に伝達できる。
【0035】
また、ガイドワイヤ10の先端コア30は、中間固定部52(第1の固定部)と基端固定部53(第2の固定部)との間で破断する場合も想定される。先端コア30は、先端コア30が破断した状態でガイドワイヤ10にさらに引張力が加えられると、図3に示すように、基端コイル42が長軸方向へ引き伸ばされて線間隙間が拡大し、先端コア30の破断部よりも先端側の部位が、破断部よりも基端側の部位から離れようとする。このとき、管状部材70は、破断部よりも先端側の先端コア30に中間固定部52によって固定されており、破断部よりも基端側の先端コア30に基端固定部53によって固定されている。したがって、中間固定部52と基端固定部53との間の管状部材70を形成している各々の編組線71の長さは変化しない。このため、先端コア30の破断部よりも先端側の部位が、破断部よりも基端側の部位から離れると、管状部材70の中間固定部52と基端固定部53との間の部位は、チャイニーズ・フィンガー・トラップの原理によって、編組線71の交角を変えつつ長軸方向に伸長して縮径する。これにより、管状部材70は、編組線71と先端コア30とが接触して係合部を形成することにより、先端コア30を把持する。なお、先端コア30が中間固定部52と基端固定部53の間で破断する場合の管状部材70の作用および効果は、先端コア30の破断にともなって引き伸ばされるコイル40が先端コイル41ではなく基端コイル42となる以外は、先端コア30が先端固定部51と中間固定部52の間で破断する場合の管状部材70の作用および効果と略同様である。
【0036】
以上のように、本実施形態に係るガイドワイヤ10は、先端部および基端部を有して長軸方向に延在するコア20と、コア20の先端部を覆うコイル40と、コア20とコイル40との間にコア20を覆うように同軸的に配置され、第1の固定部を介してコア20に固定される先端部と、第1の固定部よりも基端側で第2の固定部を介してコア20に固定される基端部と、を含む管状部材70と、を有し、管状部材70は、第1の固定部と第2の固定部とが離間するように長軸方向へ伸長することで、管状部材がコア20に接触して係合部を形成する。
【0037】
上記のように構成したガイドワイヤ10は、コア20が破断した際に、管状部材70が破断したコア20を把持することにより、破断した先端部がガイドワイヤ10から脱落して血管内に残留することを抑制できる。また、ガイドワイヤ10は、管状部材70がコア20の周囲を覆っているため、破断によって鋭利となったガイドワイヤ10の端部がコイル40の線間隙間から露出して、血管穿孔を生じることを抑制できる。したがって、ガイドワイヤ10は、安全性が向上する。なお、本実施形態に係るガイドワイヤ10は、先端固定部51を第1の固定部、中間固定部52を第2の固定部とする構成と、中間固定部52を第1の固定部、基端固定部53を第2の固定部とする構成の2つを有しているが、いずれか一方の構成のみを有してもよい。
【0038】
また、管状部材70は、複数の編組線71を螺旋状かつ交互に編組することにより形成される。管状部材70は、長軸方向へ伸長することで、いわゆるチャイニーズ・フィンガー・トラップの原理により縮径してコア20を把持する。これにより、ガイドワイヤ10は、破断した先端部がガイドワイヤ10から脱落して血管内に残留することを抑制できる。
【0039】
また、管状部材70は、管状部材70の内表面とコア20の外表面との径方向の距離が一定であってもよい。これにより、管状部材70が先端コア30を把持するために伸長する長さが短くて済むため、管状部材70は、コア20を効率的に把持できる。
【0040】
また、編組線71の断面形状は、長方形であり、当該長方形の長辺が、管状部材70の内表面および外表面を形成する。これにより、ガイドワイヤ10は、管状部材70がコア20を把持する際の管状部材70とコア20との接触面積が増加するため、コア20を強固に把持できる。また、ガイドワイヤ10は、管状部材70が径方向に湾曲しやすいため、先端部の柔軟性を維持できる。
【0041】
なお、本発明は、上述した実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の技術的思想内において当業者により種々変更が可能である。ガイドワイヤ10は、脈管、尿管、胆管、卵管、肝管に挿入してもよい。
【0042】
また、管状部材70は、複数の編組線71により形成されるのではなく、円管からレーザー加工によって不要な部位を除去する等の方法により一体的に形成されてもよい。
【0043】
また、図4に示す変形例のように、管状部材80は、外径および内径が大きい蛇腹大径部81と、外径および内径が小さい蛇腹小径部82とが長軸方向に交互に配置される蛇腹形状を有してもよい。先端コア30(コア20)は、先端固定部51(第1の固定部)と中間固定部52(第2の固定部)との間に、基端方向へ向かって外径が大きくなる拡径部39(第2テーパー部35)を有している。管状部材80の蛇腹小径部82の少なくとも1つは、先端コア30の拡径部39の外径よりも小さな内径を有する係合小径部83である。管状部材80の係合小径部83は、先端コア30の拡径部39よりも先端側に配置される。
【0044】
蛇腹形状の管状部材80は、長軸方向へ伸長しやすい。そのため、先端コア30(コア20)が先端固定部51と中間固定部52との間の拡径部39よりも基端側の位置で破断した状態でガイドワイヤ10に基端側への引張力が加えられると、管状部材80は、先端固定部51と中間固定部52とが離間するように長軸方向へ伸長する。これにより、先端コア30の拡径部39の外径よりも小さい内径を有する管状部材80の係合小径部83は、先端コア30の拡径部39と接触して係合部を形成する。管状部材80は、係合部によって破断した先端コア30を把持することにより、破断した先端部がガイドワイヤ10から脱落して血管内に残留することを抑制できる。また、ガイドワイヤ10は、管状部材80が先端コア30の周囲を覆っているため、破断によって鋭利となったガイドワイヤ10の端部がコイル40の線間隙間から露出して、血管穿孔を生じることを抑制できる。したがって、ガイドワイヤ10は、安全性が向上する。
【0045】
また、管状部材70、80の内表面は、コア20に対して高い把持力を得られるように、表面処理が施されてもよい。表面処理は、表面を粗く加工する処理や、管状部材70、80を形成する材料と比較して摩擦係数が大きいゴム等の材料を被覆する処理である。
【符号の説明】
【0046】
10 ガイドワイヤ
20 コア
30 先端コア(コア)
39 拡径部
40 コイル
41 先端コイル(コイル)
42 基端コイル(コイル)
43 線材
50 固定部
51 先端固定部(第1の固定部)
52 中間固定部(第1の固定部、第2の固定部)
53 基端固定部(第2の固定部)
70、80 管状部材
71 編組線
81 蛇腹大径部
82 蛇腹小径部
83 係合小径部
図1
図2
図3
図4
図5