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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022152174
(43)【公開日】2022-10-12
(54)【発明の名称】ステータ及びステータの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H02K 3/34 20060101AFI20221004BHJP
   H02K 15/04 20060101ALI20221004BHJP
   H02K 15/085 20060101ALI20221004BHJP
【FI】
H02K3/34 D
H02K15/04 A
H02K15/04 E
H02K15/04 F
H02K15/085
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021054847
(22)【出願日】2021-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100160794
【弁理士】
【氏名又は名称】星野 寛明
(72)【発明者】
【氏名】宮下 圭太
(72)【発明者】
【氏名】重松 英樹
(72)【発明者】
【氏名】木村 泰之
(72)【発明者】
【氏名】細田 雄一
【テーマコード(参考)】
5H604
5H615
【Fターム(参考)】
5H604AA08
5H604BB08
5H604BB14
5H604CC01
5H604CC05
5H604CC15
5H604PB01
5H604PB02
5H615AA01
5H615BB05
5H615BB14
5H615PP01
5H615PP14
5H615QQ03
5H615QQ06
5H615QQ12
5H615SS04
5H615SS09
(57)【要約】
【課題】立上げ部の折り曲げに伴う絶縁被膜の損傷、及び絶縁被膜の剥離部と隣り合うセグメントコイルとの交差を防止し、絶縁被膜を薄く形成しても絶縁性の良好なステータを提供すること。
【解決手段】ステータは、複数のスロットを有するステータコアと、スロットに挿入されるとともに絶縁被膜を有する複数のセグメントコイルと、を備え、複数のセグメントコイルは、ステータコアの周方向に斜めに折り曲げられた斜行部と、斜行部の先端側がステータコアの軸方向に立ち上がるように折り曲げられた立上げ部とを有し、ステータコアの径方向に隣り合う立上げ部同士が接合される。複数のセグメントコイルは、ステータコアの周方向に面する絶縁被膜が長さ方向に剥離された第1剥離部と、ステータコアの径方向に面する絶縁被膜が長さ方向に剥離された第2剥離部とをそれぞれ有し、第1剥離部の剥離長さは、第2剥離部の剥離長さよりも長い。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のスロットを有するステータコアと、前記スロットに挿入されるとともに絶縁被膜を有する複数のセグメントコイルと、を備え、
前記複数のセグメントコイルは、前記スロットから前記ステータコアの軸方向の外側に突出するとともに、前記ステータコアの周方向に斜めに折り曲げられた斜行部と、前記斜行部の先端側が前記ステータコアの軸方向に立ち上がるように折り曲げられた立上げ部と、をそれぞれ有し、前記ステータコアの径方向に隣り合う前記立上げ部同士が接合されるステータであって、
前記複数のセグメントコイルは、前記ステータコアの周方向に面する前記絶縁被膜が前記立上げ部の先端から前記斜行部に向けて長さ方向に剥離された第1剥離部と、
前記ステータコアの径方向に面する前記絶縁被膜が前記立上げ部の前記先端から前記斜行部に向けて長さ方向に剥離された第2剥離部と、をそれぞれ有し、
前記記第1剥離部の剥離長さは、前記第2剥離部の剥離長さよりも長い、ステータ。
【請求項2】
前記第1剥離部と前記絶縁被膜との間の第1境界部は、前記立上げ部の折り曲げ位置よりも、前記斜行部側に配置される、請求項1に記載のステータ。
【請求項3】
前記ステータコアの径方向に隣り合う前記セグメントコイルの前記斜行部同士は、交差するように配置され、
前記第2剥離部と前記絶縁被膜との間の第2境界部は、前記斜行部同士の交差部よりも前記立上げ部の前記先端側に配置される、請求項1又は2に記載のステータ。
【請求項4】
前記第1剥離部は、前記第1剥離部と前記絶縁被膜との間の第1境界部の近傍にくびれ部を有する、請求項1~3のいずれか1項に記載のステータ。
【請求項5】
複数のスロットを有するステータコアと、前記スロットに挿入されるとともに絶縁被膜を有する複数のセグメントコイルと、を備え、
前記複数のセグメントコイルは、前記スロットから前記ステータコアの軸方向の外側に突出するとともに、前記ステータコアの周方向に斜めに折り曲げられた斜行部と、前記斜行部の先端側が前記ステータコアの軸方向に立ち上がるように折り曲げられた立上げ部と、をそれぞれ有し、前記ステータコアの径方向に隣り合う前記立上げ部同士が接合されるステータの製造方法であって、
前記スロットに挿入する前の前記複数のセグメントコイルに、前記ステータコアの周方向に面する前記絶縁被膜を前記立上げ部の先端に相当する部位から前記斜行部に相当する部位に向けて長さ方向に剥離する第1剥離部と、前記ステータコアの径方向に面する前記絶縁被膜を前記立上げ部の前記先端に相当する部位から前記斜行部に相当する部位に向けて長さ方向に剥離する第2剥離部と、をそれぞれ形成する剥離工程を有し、
前記剥離工程は、前記第1剥離部の前記絶縁被膜の剥離長さが、前記第2剥離部の前記絶縁被膜の剥離長さよりも長くなるように形成する、ステータの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステータ及びステータの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ステータコアのスロットに絶縁被膜を有する複数のセグメントコイルが挿入され、ステータコアの径方向に隣り合う複数のセグメントコイルの端部同士が接合されることによって結線されるステータが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
スロットに挿入された後のセグメントコイルには、スロットから突出する端部をステータコアの周方向に斜めに折り曲げることによって斜行部が形成されるとともに、斜行部の先端側をステータコアの軸方向に立上がるように折り曲げることによって立上げ部が形成される。立上げ部には、絶縁被膜が剥離された剥離部を有し、立上げ部をステータコアの径方向に隣り合うように配置させ、剥離部同士を接合することによってセグメントコイルが結線される。
【0004】
上記従来技術のステータでは、セグメントコイルの剥離部が、セグメントコイルの端部におけるステータコアの周方向に面する側よりも、セグメントコイルの端部におけるステータコアの径方向に面する側の方が、セグメントコイルの先端からの絶縁被膜の剥離長さが長くなるように形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012-139075号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
スロットに挿入された後のセグメントコイルの立上げ部が折り曲げられる際、折り曲げ方向の外側の絶縁被膜には、強い引っ張り応力が作用し、折り曲げ方向の内側の絶縁被膜には、強い圧縮応力が作用する。そのため、絶縁被膜に割れ等の損傷が起き易く、ステータの品質を低下させるおそれがある。このような絶縁被膜の損傷を防止するために、ステータコアの径方向に面する剥離部の剥離長さを、立上げ部の折り曲げ位置を含むように長く形成する必要がある。
【0007】
しかし、スロットに挿入されたセグメントコイルの斜行部は、ステータコアの径方向に隣り合う別のセグメントコイルの斜行部と交差するため、剥離部の剥離長さを長くすると、図10に示すように、ステータコアの径方向に面する立上げ部100の剥離部101の一部が、隣り合う異相のセグメントコイルの斜行部200との交差部201に近接あるいは存在する可能性がある。この場合、図11に示すように、交差部201には、絶縁被膜400が一部欠落した部位が発生するため、この部位を通じて、矢印で示す部分放電が発生するおそれがある。部分放電の発生を回避するためには、絶縁被膜400をより厚くしてセグメントコイルの導体300,300間の距離を大きく確保する必要があり、ステータの重量増及びコスト増を招く、という課題がある。
【0008】
そこで、本発明は、セグメントコイルの立上げ部の折り曲げに伴う絶縁被膜の損傷を防止するとともに、立上げ部において絶縁被膜を剥離した剥離部が、ステータコアの径方向に隣り合うセグメントコイルと交差することを防止し、絶縁被膜を薄く形成しても絶縁性の良好なステータ及びステータの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1) 本発明に係るステータは、複数のスロット(例えば、後述のスロット22)を有するステータコア(例えば、後述のステータコア2)と、前記スロットに挿入されるとともに絶縁被膜(例えば、後述の絶縁被膜46)を有する複数のセグメントコイル(例えば、後述のセグメントコイル4)と、を備え、前記複数のセグメントコイルは、前記スロットから前記ステータコアの軸方向(例えば、後述のZ方向)の外側に突出するとともに、前記ステータコアの周方向(例えば、後述のX方向)に斜めに折り曲げられた斜行部(例えば、後述の斜行部44)と、前記斜行部の先端側が前記ステータコアの軸方向に立ち上がるように折り曲げられた立上げ部(例えば、後述の立上げ部45)と、をそれぞれ有し、前記ステータコアの径方向(例えば、Y方向)に隣り合う前記立上げ部同士が接合されるステータ(例えば、後述のステータ1)であって、前記複数のセグメントコイルは、前記ステータコアの周方向に面する前記絶縁被膜が前記立上げ部の先端(例えば、後述の先端45a)から前記斜行部に向けて長さ方向に剥離された第1剥離部(例えば、後述の第1剥離部47a)と、前記ステータコアの径方向に面する前記絶縁被膜が前記立上げ部の前記先端から前記斜行部に向けて長さ方向に剥離された第2剥離部(例えば、後述の第2剥離部47b)と、をそれぞれ有し、前記記第1剥離部の剥離長さ(例えば、後述の剥離長さL1)は、前記第2剥離部の剥離長さ(例えば、後述の剥離長さL2)よりも長い。
【0010】
(2) 上記(1)に記載のステータにおいて、前記第1剥離部と前記絶縁被膜との間の第1境界部(例えば、後述の第1境界部48a)は、前記立上げ部の折り曲げ位置(例えば、後述の折り曲げ位置P1,P2)よりも、前記斜行部側に配置されてもよい。
【0011】
(3) 上記(1)又は(2)に記載のステータにおいて、前記ステータコアの径方向に隣り合う前記セグメントコイルの前記斜行部同士は、交差するように配置され、前記第2剥離部と前記絶縁被膜との間の第2境界部(例えば、後述の第2境界部48b)は、前記斜行部同士の交差部(例えば、後述の交差部440)よりも前記立上げ部の前記先端側に配置されてもよい。
【0012】
(4) 上記(1)~(3)のいずれかに記載のステータにおいて、前記第1剥離部は、前記第1剥離部と前記絶縁被膜との間の第1境界部(例えば、後述の第1境界部48a)の近傍にくびれ部(例えば、後述のくびれ部49a,49b)を有してもよい。
【0013】
(5) 本発明に係るステータの製造方法は、複数のスロット(例えば、後述のスロット22)を有するステータコア(例えば、後述のステータコア2)と、前記スロットに挿入されるとともに絶縁被膜(例えば、後述の絶縁被膜46)を有する複数のセグメントコイル(例えば、後述のセグメントコイル4)と、を備え、前記複数のセグメントコイルは、前記スロットから前記ステータコアの軸方向(例えば、後述のZ方向)の外側に突出するとともに、前記ステータコアの周方向(例えば、後述のX方向)に斜めに折り曲げられた斜行部(例えば、後述の斜行部44)と、前記斜行部の先端側が前記ステータコアの軸方向に立ち上がるように折り曲げられた立上げ部(例えば、後述の立上げ部45)と、をそれぞれ有し、前記ステータコアの径方向(例えば、後述のY方向)に隣り合う前記複数のセグメントコイルの前記立上げ部同士が接合されるステータ(例えば、後述のステータ1)の製造方法であって、前記スロットに挿入する前の前記複数のセグメントコイルに、前記ステータコアの周方向に面する前記絶縁被膜を前記立上げ部の先端(例えば、後述の先端45a)に相当する部位から前記斜行部に相当する部位に向けて長さ方向に剥離する第1剥離部(例えば、後述の第1剥離部47a)と、前記ステータコアの径方向に面する前記絶縁被膜を前記立上げ部の前記先端に相当する部位から前記斜行部に相当する部位に向けて長さ方向に剥離する第2剥離部(例えば、後述の第2剥離部47b)と、をそれぞれ形成する剥離工程を有し、前記剥離工程は、前記第1剥離部の前記絶縁被膜の剥離長さ(例えば、後述の剥離長さL1)が、前記第2剥離部の前記絶縁被膜の剥離長さ(例えば、後述の剥離長さL2)よりも長くなるように形成する。
【発明の効果】
【0014】
上記(1)によれば、ステータコアの周方向に面する第1剥離部の剥離長さが、ステータコアの径方向に面する第2剥離部の剥離長さよりも長いため、セグメントコイルの立上げ部をステータコアの周方向に折り曲げて立ち上げる際に、折り曲げ方向の外側及び内側に配置される絶縁被膜の損傷を防止すると同時に、剥離部が、ステータコアの径方向に隣り合うセグメントコイルと交差することを防止し、絶縁被膜を薄く形成しても絶縁性の良好なステータを提供することができる。
【0015】
上記(2)によれば、第1剥離部と絶縁被膜との間の第1境界部が、立上げ部の折り曲げ位置よりも斜行部側に配置されるため、立上げ部の折り曲げ部位に絶縁被膜が存在することを確実に回避できる。したがって、絶縁被膜の損傷をより確実に防止することができる。
【0016】
上記(3)によれば、第2剥離部と絶縁被膜との間の第2境界部が、斜行部同士の交差部よりも立上げ部の先端側に配置されるため、第2剥離部が、ステータコアの径方向に隣り合うセグメントコイルの斜行部と交差することをより確実に防止することができる。
【0017】
上記(4)によれば、第1剥離部と絶縁被膜との間の第1境界部の近傍のくびれ部を利用して立上げ部を折り曲げることができるため、立上げ部を容易に折り曲げ成形することができるとともに、折り曲げ方向の内側に圧縮応力が働きにくく、圧縮応力に起因するセグメントコイルの径方向の膨らみの発生を抑制することができる。
【0018】
上記(5)によれば、ステータコアの周方向に面する第1剥離部の剥離長さが、ステータコアの径方向に面する第2剥離部の剥離長さよりも長く形成されるため、セグメントコイルの立上げ部をステータコアの周方向に折り曲げて立ち上げる際に、折り曲げ方向の外側及び内側に配置される絶縁被膜の損傷を防止すると同時に、剥離部が、ステータコアの径方向に隣り合うセグメントコイルと交差することを防止し、絶縁被膜を薄く形成しても良好な絶縁性を有するステータを容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】ステータを示す斜視図である。
図2】ステータコアとセグメントコイルを示す分解斜視図である。
図3】セグメントコイルがステータコアのスロットに挿入される様子を示す斜視図である。
図4】ステータのセグメントコイルの結線部位を拡大して示す斜視図である。
図5】第1実施形態に係るセグメントコイルの一端部を拡大して示す斜視図である。
図6】第1実施形態に係るセグメントコイルの斜行部同士の交差部を示す正面図である。
図7】第1実施形態に係るセグメントコイルの斜行部同士の交差部の断面の模式図である。
図8】第1実施形態に係るセグメントコイルの絶縁被膜の剥離方法を示す図である。
図9】第2実施形態に係るセグメントコイルの一端部を拡大して示す正面図である。
図10】第2実施形態に係るセグメントコイルの一端部を折り曲げた状態を示す正面図である。
図11】従来のセグメントコイルの斜行部同士の交差部を示す正面図である。
図12】従来のセグメントコイルの斜行部同士の交差部の断面の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本実施形態のステータ及びステータの製造方法について図面を参照して説明する。図1及び図2に示すように、ステータ1は、例えば、回転電機のステータであり、ステータコア2と、ステータコア2に装着されるコイル3と、を有する。
【0021】
ステータコア2は、例えば、薄肉のコアプレートが複数積層された積層体からなる円環部21を有する。円環部21は、中心に、軸方向に貫通する貫通孔20を有するとともに、ステータコア2の軸方向に貫通する複数のスロット22を有する。スロット22は、円環部21の周方向に沿って一定の間隔で放射状に配列され、貫通孔20に向けて開口する開口部22aを有する。なお、ステータ1及びステータコア2において、図1図4中の矢印で示すように、スロット22が配列されるX方向が周方向であり、貫通孔20の中心から放射方向に沿うY方向が径方向であり、Y方向に直交するZ方向が軸方向である。
【0022】
コイル3は、例えば、断面矩形状の平角線からなる導体41(図5参照)を略U字形状に成形した複数のセグメントコイル4の集合体である。複数本のセグメントコイル4が束ねられて、図2に示すように、ステータコア2の軸方向に沿ってスロット22に挿入される。スロット22に挿入されたセグメントコイル4は、挿入側と反対側からステータコア2の軸方向の外側に向けて突出する端部を折り曲げ、折り曲げた端部同士をレーザ溶接等することによって接合される。
【0023】
詳しくは、ステータコア2のスロット22に挿入される前のセグメントコイル4は、一対の平行な直線部42(42a),42(42b)と、その直線部42(42a),42(42b)の一方端部同士を連結するU字部43と、を有する。セグメントコイル4は、図3に示すように、一方の直線部42(42a)と他方の直線部42(42b)とを異なるスロット22,22にそれぞれ挿入することによって、ステータコア2に装着される。1つのスロット22には、複数本のセグメントコイル4の直線部42(42a)と、異相の複数本のセグメントコイル4の直線部42(42b)とがステータコア2の径方向に重ねられて挿入される。なお、ステータコア2のスロット22内には、それぞれ絶縁紙が挿入されるが、図1図4に示すステータコア2では、絶縁紙は図示省略されている。
【0024】
スロット22に挿入された後のセグメントコイル4には、図4に示すように、スロット22から突出する直線部42の端部を周方向に沿って斜めに折り曲げることによって斜行部44が形成されるとともに、斜行部44の先端側をステータコア2の軸方向に立ち上げるように折り曲げることによって立上げ部45が形成される。
【0025】
セグメントコイル4の一対の立上げ部45,45は、一対の斜行部44,44がスロット22から互いに近接する方向に折り曲げられることによって、ステータコア2の径方向に重なって配置される。これによって、セグメントコイル4はそれぞれ環状に形成される。複数のセグメントコイル4は、ステータコア2の径方向に重なって配置される同相のセグメントコイル4の立上げ部45,45同士がレーザ溶接等によって接合されることによって結線される。
【0026】
セグメントコイル4は、図5に示すように、それぞれ絶縁被膜46を有する。図5は、斜行部44及び立上げ部45を形成する前の第1実施形態に係るセグメントコイル4の1つの直線部42の端部を示すが、図中において、立上げ部45に相当する領域について符号を付記して示している。図5に示すように、セグメントコイル4の立上げ部45には、絶縁被膜46が剥離された剥離部47が設けられる。
【0027】
詳しくは、セグメントコイル4の導体は、図5に示すように、断面矩形状の平角線からなるため、線幅の広いフラットワイズ面FWと、線幅の狭いエッジワイズ面EWと、を有する。セグメントコイル4がステータコア2のスロット22に挿入された際に、フラットワイズ面FWは、ステータコア2の径方向に対面する面であり、エッジワイズ面EWは、ステータコア2の周方向に対面する面である。立上げ部45において、絶縁被膜46が剥離された剥離部47は、エッジワイズ面EWの絶縁被膜46が立上げ部45の先端45aから斜行部44に向けて長さ方向(図5における上下方向)に剥離された第1剥離部47aと、フラットワイズ面FWの絶縁被膜46が立上げ部45の先端45aから斜行部44に向けて長さ方向に剥離された第2剥離部47bと、を有する。
【0028】
第1剥離部47aの剥離長さL1は、第2剥離部47bの剥離長さL2よりも長い。第1剥離部47aは、立上げ部45が折り曲げられる際に、折り曲げ方向の外側及び内側に配置されるため、絶縁被膜46による絶縁性能を確保するために第2剥離部47bの剥離長さを短く(フラットワイズ面FWの絶縁被膜46の被覆長さを長く)形成しても、第1剥離部47aの剥離長さを長くすることによって、折り曲げ方向の外側及び内側の絶縁被膜46の損傷を防止することができる。第2剥離部47bの剥離長さは短いため、第2剥離部47bが、ステータコア2の径方向に隣り合うセグメントコイル4の斜行部44と交差することを防止することができる。したがって、絶縁被膜46を薄く形成しても絶縁性の良好なステータ1を構成することが可能である。
【0029】
図6に示すように、第1剥離部47aと絶縁被膜46との間の第1境界部48aは、立上げ部45の外側の折り曲げ位置P1及び内側の折り曲げ位置P2のいずれの位置よりも、斜行部44側に配置される。そのため、エッジワイズ面EWにおける立上げ部45の折り曲げ部位に絶縁被膜46が存在することを確実に回避できる。したがって、立上げ部45を形成する際の絶縁被膜46の損傷をより確実に防止することができる。
【0030】
また、図6に示すように、ステータコア2の径方向(図6の紙面に対する垂直方向)に隣り合う異相のセグメントコイル4,4の斜行部44,44同士は、交差するように配置され、略ひし形の交差部440を形成する。このとき、第2剥離部47bと絶縁被膜46との間の第2境界部48bは、交差部440よりも立上げ部45の先端45a側に配置される。そのため、第2剥離部47bが、交差部440内に配置されることによって斜行部44と交差することを確実に防止することができる。交差部440には、図7に示すように、隣り合うセグメントコイル4,4の導体41,41間に、各セグメントコイル4,4の絶縁被膜46,46が存在するため、部分放電が発生するおそれはなく、絶縁被膜46をより薄く形成することが可能である。
【0031】
図8は、ステータ1の製造方法において、セグメントコイル4に剥離部47を設ける剥離工程の一態様を示している。まず、導体41の表面に絶縁被膜46が形成されたコイル素線40に対して、一対の剥離型51をフラットワイズ面FWに沿って、コイル素線40の延び方向と直交する方向に移動させ、フラットワイズ面FWの絶縁被膜46とともに導体41の一部を、剥離長さL20に亘って切り欠く。次いで、一対の剥離型52を、剥離型51によって切り欠かれた部位のエッジワイズ面EWに沿って、コイル素線40の延び方向と直交する方向に移動させ、エッジワイズ面EWの絶縁被膜46とともに導体41の一部を、剥離長さL10に亘って切り欠く。但し、L10>L1、L20>L2である。
【0032】
次に、絶縁被膜46が切り欠かれた部位が所望の長さになるように、その絶縁被膜46が切り欠かれた部位でコイル素線40を切断した後、切断されたコイル素線40を略U字状に成形することによって、直線部42,42及びU字部43を有するセグメントコイル4を成形する。絶縁被膜46が切り欠かれた部位でコイル素線40が切断されることによって、直線部42,42の端部には、図5に示すように、絶縁被膜46を含む導体41の一部が切り欠かれた剥離部47が形成される。剥離型51,52による剥離長さL20,L10、及び絶縁被膜46が切り欠かれた部位を切断する位置等を適宜設定することによって、直線部42,42の端部の立上げ部45に、図5に示す第1剥離部47a及び第2剥離部47bがそれぞれ形成される。
【0033】
なお、絶縁被膜46を切り欠く順番は上記の順番に限定されない。したがって、最初に剥離型52によってエッジワイズ面EWの絶縁被膜46を切り欠いた後に、剥離型51によってフラットワイズ面FWの絶縁被膜46を切り欠いてもよい。
【0034】
図9及び図10は、第2実施形態に係るセグメントコイル4の立上げ部45をフラットワイズ面FW側から見た図を示している。第1実施形態に係るセグメントコイル4と同一符号の部位は同一構成の部位であるため、それらの詳細な説明は上記説明を援用し、以下の説明では省略する。
【0035】
このセグメントコイル4において、第1剥離部47aは、第1剥離部47aと絶縁被膜46との間の第1境界部48aの近傍にくびれ部49a,49bをそれぞれ有する。詳しくは、くびれ部49a,49bは、フラットワイズ面FWの線幅が、第1境界部48aよりも立上げ部45の先端45a側に隣接する部位において、部分的に狭く形成された部位である。これによって、くびれ部49a,49bをノッチとして利用することによって、立上げ部45を容易に折り曲げることができる。しかも、図10に示すように、折り曲げ方向の内側のくびれ部49aには圧縮応力が働きにくくなるため、折り曲げ方向の内側に、圧縮応力に起因するセグメントコイル4の径方向の膨らみの発生を抑制することができる。
【0036】
このようなくびれ部49a,49bは、第1剥離部47aを形成する剥離型52を、くびれ部49a,49bに対応する形状に形成することによって、上述した剥離工程において、第1剥離部47aと同時に形成することができる。
【0037】
以上のように、本実施形態のステータ1は、複数のスロット22を有するステータコア2と、スロット22に挿入されるとともに絶縁被膜46を有する複数のセグメントコイル4と、を備える。複数のセグメントコイル4は、スロット22からステータコア2の軸方向の外側に突出するとともに、ステータコア2の周方向に斜めに折り曲げられた斜行部44と、斜行部44の先端側がステータコア2の軸方向に立ち上がるように折り曲げられた立上げ部45と、をそれぞれ有し、ステータコア2の径方向に隣り合う立上げ部45,45同士が接合されるステータである。複数のセグメントコイル4は、ステータコア2の周方向に面する絶縁被膜46が立上げ部45の先端45aから斜行部44に向けて長さ方向に剥離された第1剥離部47aと、ステータコア2の径方向に面する絶縁被膜46が立上げ部45の先端45aから斜行部44に向けて長さ方向に剥離された第2剥離部47bと、をそれぞれ有し、第1剥離部47aの剥離長さL1は、第2剥離部47bの剥離長さL2よりも長い。これによれば、セグメントコイル4の立上げ部45をステータコア2の周方向に折り曲げて立ち上げる際に、折り曲げ方向の外側及び内側に配置される絶縁被膜46の損傷を防止すると同時に、剥離部47が、ステータコア2の径方向に隣り合うセグメントコイル4と交差することを防止し、絶縁被膜46を薄く形成しても絶縁性の良好なステータ1を構成することができる。
【0038】
本実施形態の第1剥離部47aと絶縁被膜46との間の第1境界部48aは、立上げ部45の折り曲げ位置P1,P2よりも、斜行部44側に配置される。これによれば、立上げ部45の折り曲げ部位に絶縁被膜46が存在することを確実に回避できる。したがって、絶縁被膜46の損傷をより確実に防止することができる。
【0039】
本実施形態のステータコア2の径方向に隣り合うセグメントコイル4,4の斜行部44,44同士は、交差するように配置され、第2剥離部47bと絶縁被膜46との間の第2境界部48bは、斜行部44,44同士の交差部440よりも立上げ部45の先端45a側に配置される。これによれば、第2剥離部47bが、ステータコア2の径方向に隣り合うセグメントコイル4の斜行部44と交差することをより確実に防止することができる。
【0040】
本実施形態の第1剥離部47aは、第1剥離部47aと絶縁被膜46との間の第1境界部48aの近傍にくびれ部49a,49bを有する。これによれば、くびれ部49a,49bを利用して立上げ部45を折り曲げることができるため、立上げ部45を容易に折り曲げ成形することができるとともに、折り曲げ方向の内側に圧縮応力が働きにくく、圧縮応力に起因するセグメントコイル4の径方向の膨らみの発生を抑制することができる。
【0041】
本実施形態のステータ1の製造方法は、複数のスロット22を有するステータコア2と、スロット22に挿入されるとともに絶縁被膜46を有する複数のセグメントコイル4と、を備え、複数のセグメントコイル4は、スロット22からステータコア2の軸方向の外側に突出するとともに、ステータコア2の周方向に斜めに折り曲げられた斜行部44と、斜行部44の先端側がステータコア2の軸方向に立ち上がるように折り曲げられた立上げ部45と、をそれぞれ有し、ステータコア2の径方向に隣り合う立上げ部45,45同士が接合されるステータ1の製造方法である。スロット22に挿入する前の複数のセグメントコイル4に、ステータコア2の周方向に面する絶縁被膜46を立上げ部45の先端45aに相当する部位から斜行部44に相当する部位に向けて長さ方向に剥離する第1剥離部47aと、ステータコア2の径方向に面する絶縁被膜46を立上げ部45の先端45aに相当する部位から斜行部44に相当する部位に向けて長さ方向に剥離する第2剥離部47bと、をそれぞれ形成する剥離工程を有する。剥離工程は、第1剥離部47aの絶縁被膜46の剥離長さL1が、第2剥離部47bの絶縁被膜46の剥離長さL2よりも長くなるように形成する。これによれば、セグメントコイル4の立上げ部45をステータコア2の周方向に折り曲げて立ち上げる際に、折り曲げ方向の外側及び内側に配置される絶縁被膜46の損傷を防止すると同時に、剥離部47が、ステータコア2の径方向に隣り合うセグメントコイル4と交差することを防止し、絶縁被膜46を薄く形成しても良好な絶縁性を有するステータ1を容易に製造することができる。
【符号の説明】
【0042】
1 ステータ
2 ステータコア
22 スロット
4 セグメントコイル
44 斜行部
440 交差部
45 立上げ部
45a 先端
46 絶縁被膜
47a 第1剥離部
47b 第2剥離部
48a 第1境界部
48b 第2境界部
49a,49b くびれ部
L1,L2 剥離長さ
P1,P2 折り曲げ位置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12