(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022152186
(43)【公開日】2022-10-12
(54)【発明の名称】複数の燃料電池装置の運転制御システム
(51)【国際特許分類】
H01M 8/04 20160101AFI20221004BHJP
H01M 8/04537 20160101ALI20221004BHJP
H01M 8/04701 20160101ALI20221004BHJP
H01M 8/04746 20160101ALI20221004BHJP
H01M 8/04858 20160101ALI20221004BHJP
H01M 8/10 20160101ALN20221004BHJP
H01M 8/12 20160101ALN20221004BHJP
【FI】
H01M8/04 Z
H01M8/04537
H01M8/04701
H01M8/04746
H01M8/04858
H01M8/10 101
H01M8/12 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021054861
(22)【出願日】2021-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000000284
【氏名又は名称】大阪瓦斯株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092727
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 忠昭
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 雅也
(72)【発明者】
【氏名】宅和 雄也
【テーマコード(参考)】
5H126
5H127
【Fターム(参考)】
5H126BB06
5H127AA03
5H127AA06
5H127AA07
5H127AB02
5H127AC15
5H127BA05
5H127BA12
5H127BA57
5H127BB02
5H127BB12
5H127BB37
5H127DB49
5H127DB67
5H127DC02
5H127DC22
5H127DC42
5H127DC72
(57)【要約】 (修正有)
【課題】複数の燃料電池装置の個体差を考慮しつつこれら燃料電池装置全体を効率良く運転制御することができる複数の燃料電池装置の運転制御システムを提供する。
【解決手段】複数の燃料電池装置2a,2bを含む燃料電池装置群Aと、燃料電池装置群Aを運転制御するための運転制御装置8とを備えた複数の燃料電池装置の運転制御システム。運転制御装置8は、燃料電池装置2a,2bの個別劣化指標に基づいて平均劣化指標を演算する平均指標演算手段46と、この平均劣化指標を基準とした燃料電池装置の個別劣化指標の乖離度を演算する乖離度演算手段48と、この乖離度に基づいて温度補正量を演算する温度補正量演算手段52とを含み、各燃料電池装置2a,2bについて、燃料電池装置2a,2bの作動温度の変動が温度補正量となるように補正量選定運転が行われ、その後、この補正作動温度でもって劣化補正運転が行われる。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の燃料電池装置を含む燃料電池装置群と、前記燃料電池装置群を運転制御するための運転制御装置とを備え、
前記運転制御装置は、前記燃料電池装置群の燃料電池装置の各々の個別劣化指標に基づいて平均劣化指標を演算する平均指標演算手段と、前記平均指標演算手段により演算された前記平均劣化指標を基準とした前記燃料電池装置の前記個別劣化指標の乖離度を演算する乖離度演算手段と、前記燃料電池装置の各々について前記乖離度演算手段により演算された前記乖離度に基づいて温度補正量を演算する温度補正量演算手段と、を含み、
前記燃料電池装置の各々について、各燃料電池装置の作動温度の補正量が前記温度補正量演算手段により演算された前記温度補正量となるように補正量選定運転が行われ、その後、前記燃料電池装置の各々は、前記補正量選定運転において設定された補正作動温度でもって劣化補正運転が行われることを特徴とする複数の燃料電池装置の運転制御システム。
【請求項2】
前記運転制御装置は、前記複数の燃料電池装置の各々についての劣化状態を判定するための劣化判定手段を含み、前記劣化判定手段が「劣化大」と判定したときには、前記温度補正量演算手段は、「劣化大」と判定された前記燃料電池装置について前記乖離度に基づいて前記燃料電池装置の作動温度を下げる温度補正量を演算することを特徴とする請求項1に記載の複数の燃料電池装置の運転制御システム。
【請求項3】
前記運転制御装置は、前記複数の燃料電池装置の各々の劣化状態を判定するための劣化判定手段を含み、前記劣化判定手段が「劣化小」と判定したときには、前記温度補正量演算手段は、「劣化小」と判定された前記燃料電池装置について前記乖離度に基づいて前記燃料電池装置の作動温度を上げる温度補正量を演算することを特徴とする請求項1に記載の複数の燃料電池装置の運転制御システム。
【請求項4】
前記運転制御装置は、前記複数の燃料電池装置の各々についての劣化状態を判定するための劣化判定手段を含み、前記劣化判定手段は、前記燃料電池装置の前記個別劣化指標と前記平均指標演算手段による前記平均劣化指標とを対比して劣化状態を判定し、前記温度補正量演算手段は、「劣化大」と判定された前記燃料電池装置について前記乖離度に基づいて前記燃料電池装置の作動温度を下げる温度補正量を演算し、また「劣化小」と判定された前記燃料電池装置について前記乖離度に基づいて前記燃料電池装置の作動温度を上げる温度補正量を演算することを特徴とする請求項1に記載の複数の燃料電池装置の運転制御システム。
【請求項5】
前記燃料電池装置の作動温度を前記温度補正量下げる補正量選定運転においては、前記燃料電池装置の作動温度が前記温度補正量低下するように、前記燃料電池装置に供給される空気がその上限補正量まで増加補正されることを特徴とする請求項2又は4に記載の複数の燃料電池装置の運転制御システム。
【請求項6】
前記燃料電池装置の作動温度を前記温度補正量下げる補正量選定運転においては、前記燃料電池装置の作動温度が前記温度補正量低下するように、空気の供給量を上限補正量まで増加補正させた後に、前記燃料電池装置に供給される燃料ガスがその下限補正量まで減少補正されることを特徴とする請求項5に記載の複数の燃料電池装置の運転制御システム。
【請求項7】
前記燃料電池装置の作動温度を前記温度補正量下げる補正量選定運転においては、前記燃料電池装置の作動温度が前記温度補正量低下するように、空気の供給量を上限補正量まで増加補正させ、その後燃料ガスの供給量を下限補正量まで減少補正させた後に、前記燃料電池装置の発電出力がその下限補正量まで減少補正されることを特徴とする請求項6に記載の複数の燃料電池装置の運転制御システム。
【請求項8】
前記燃料電池装置の作動温度を前記温度補正量上げる補正量選定運転においては、前記燃料電池装置の作動温度が前記温度補正量上昇するように、前記燃料電池の発電出力がその上限補正値まで増加補正されることを特徴とする請求項3又は4に記載の複数の燃料電池装置の運転制御システム。
【請求項9】
前記燃料電池装置の作動温度を前記温度補正量上げる補正量選定運転においては、前記燃料電池装置の作動温度が前記温度補正量上昇するように、発電出力を上限補正値まで増加補正させた後に、前記燃料電池装置に供給される空気がその下限補正量まで減少補正されることを特徴とする請求項8に記載の複数の燃料電池装置の運転制御システム。
【請求項10】
前記燃料電池装置の作動温度を前記温度補正量上げる補正量選定運転においては、前記燃料電池装置の作動温度が前記温度補正量上昇するように、発電出力を上限補正値まで増加補正させ、その後空気の供給量を下限補正量まで減少補正された後に、前記燃料電池装置に供給される燃料ガスがその上限補正量まで増加補正されることを特徴とする請求項9に記載の複数の燃料電池装置の運転制御システム。
【請求項11】
前記燃料電池装置の各々の個別劣化指標とは、前記燃料電池装置における燃料電池の出力電圧又は前記燃料電池のI-V特性の傾きであることを特徴とする請求項1~10のいずれかに記載の複数の燃料電池装置の運転制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の燃料電池を運転制御する燃料電池装置の運転制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池装置の稼働時間が長くなると、燃料電池自体が経年劣化して発電出力が低下するようになり、この経年劣化がある程度進行すると、その劣化が急激に進んで寿命に至り、使用不能になる。
【0003】
このようなことから、燃料電池の寿命を診断し、その診断結果を利用して運転制御することが知られている。燃料電池の寿命を診断する診断方法として、燃料電池の発電出力を利用する方法(例えば、特許文献1参照)、燃料電池のI(電流)-V(電圧)特性を利用する方法(例えば、特許文献2参照)などが知られている。
【0004】
燃料電池の発電出力を利用する方法では、燃料電池に供給される燃料ガスの供給量がほぼ一定となるように設定し、このような燃料ガスの供給状態において、燃料電池から引き出す電流をほぼ一定にしたときの出力電圧を計測し、この出力電圧を利用して燃料電池の劣化状態を診断している。一般的に、燃料電池の劣化が進行すると、その発電出力が低下する傾向にあり、従って、この発電出力の変化の程度に基づいて燃料電池の劣化程度を診断することができる。
【0005】
また、I-V特性を利用する方法では、燃料電池に供給される燃料ガスの供給量がほぼ一定となるように設定し、このような燃料ガスの供給状態での発電状態において、出力電流を変動させたときの出力電圧が変化する関係、即ち電流密度と出力電圧との関係の特性を取得し、取得したI-V特性の傾き(ΔV/ΔI)を利用して燃料電池の劣化状態を診断している。一般的に、燃料電池の劣化が進行すると、I-V特性の傾きの絶対値が大きくなる傾向にあり、従って、このI-V特性の傾きの程度に基づいて燃料電池の劣化程度を診断することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007-87686号公報
【特許文献2】特開平11-195423号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の燃料電池装置では、燃料電池の劣化診断を行いながら劣化の進行を抑えるように運転制御しているが、このような運転制御では、基準となる設定基準値を予め設定し、その設定基準値に達したときに劣化が進行していると判定している。一方、燃料電池の経年劣化の程度には個体差があるが、従来の燃料電池装置においては、設定基準値との対比で劣化判定が行われ、各燃料電池の個体差が全く考慮されていないという問題がある。
【0008】
例えば、複数の燃料電池装置を運転制御しようとする場合、従来の劣化診断を用いた制御では、燃料電池の個体差が考慮されていないために、燃料電池の劣化進行の速いものでは寿命までの期間が短く、その劣化進行の遅いものでは寿命までの期間が長くなり、複数の燃料電池装置全体を考慮したときに、これらの燃料電池装置を効率良く運転しているとは言えない。
【0009】
本発明の目的は、複数の燃料電池装置の個体差を考慮しつつこれら燃料電池装置全体を効率良く運転制御することができる複数の燃料電池装置の運転制御システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の請求項1に記載の複数の燃料電池装置の運転制御システムは、複数の燃料電池装置を含む燃料電池装置群と、前記燃料電池装置群を運転制御するための運転制御装置とを備え、
前記運転制御装置は、前記燃料電池装置群の燃料電池装置の各々の個別劣化指標に基づいて平均劣化指標を演算する平均指標演算手段と、前記平均指標演算手段により演算された前記平均劣化指標を基準とした前記燃料電池装置の前記個別劣化指標の乖離度を演算する乖離度演算手段と、前記燃料電池装置の各々について前記乖離度演算手段により演算された前記乖離度に基づいて温度補正量を演算する温度補正量演算手段と、を含み、
前記燃料電池装置の各々について、各燃料電池装置の作動温度の補正量が前記温度補正量演算手段により演算された前記温度補正量となるように補正量選定運転が行われ、その後、前記燃料電池装置の各々は、前記補正量選定運転において設定された補正作動温度でもって劣化補正運転が行われることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の請求項2に記載の複数の燃料電池装置の運転制御システムでは、前記運転制御装置は、前記複数の燃料電池装置の各々についての劣化状態を判定するための劣化判定手段を含み、前記劣化判定手段は、前記燃料電池装置の前記個別劣化指標と前記平均指標演算手段による前記平均劣化指標とを対比して劣化状態を判定し、「劣化大」と判定したときには、前記温度補正量演算手段は、「劣化大」と判定された前記燃料電池装置について前記乖離度に基づいて前記燃料電池装置の作動温度を下げる温度補正量を演算することを特徴とする。
【0012】
また、本発明の請求項3に記載の複数の燃料電池装置の運転制御システムでは、前記運転制御装置は、前記複数の燃料電池装置の各々の劣化状態を判定するための劣化判定手段を含み、前記劣化判定手段は、前記燃料電池装置の前記個別劣化指標と前記平均指標演算手段による前記平均劣化指標とを対比して劣化状態を判定し、「劣化小」と判定したときには、前記温度補正量演算手段は、「劣化小」と判定された前記燃料電池装置について前記乖離度に基づいて前記燃料電池装置の作動温度を上げる温度補正量を演算することを特徴とする。
【0013】
また、本発明の請求項4に記載の複数の燃料電池装置の運転制御システムでは、前記運転制御装置は、前記複数の燃料電池装置の各々についての劣化状態を判定するための劣化判定手段を含み、前記劣化判定手段は、前記燃料電池装置の前記個別劣化指標と前記平均指標演算手段による前記平均劣化指標とを対比して劣化状態を判定し、前記温度補正量演算手段は、「劣化大」と判定された前記燃料電池装置について前記乖離度に基づいて前記燃料電池装置の作動温度を下げる温度補正量を演算し、また「劣化小」と判定された前記燃料電池装置について前記乖離度に基づいて前記燃料電池装置の作動温度を上げる温度補正量を演算することを特徴とする。
【0014】
また、本発明の請求項5に記載の複数の燃料電池装置の運転制御システムでは、前記燃料電池装置の作動温度を前記温度補正量下げる補正量選定運転においては、前記燃料電池装置の作動温度が前記温度補正量低下するように、前記燃料電池装置に供給される空気がその上限補正量まで増加補正されることを特徴とする。
また、本発明の請求項6に記載の複数の燃料電池装置の運転制御システムでは、前記燃料電池装置の作動温度を前記温度補正量下げる補正量選定運転においては、前記燃料電池装置の作動温度が前記温度補正量低下するように、空気の供給量を上限補正量まで増加補正させた後に、前記燃料電池装置に供給される燃料ガスがその下限補正量まで減少補正されることを特徴とする。
【0015】
また、本発明の請求項7に記載の複数の燃料電池装置の運転制御システムでは、前記燃料電池装置の作動温度を前記温度補正量下げる補正量選定運転においては、前記燃料電池装置の作動温度が前記温度補正量低下するように、空気の供給量を上限補正量まで増加補正させ、その後燃料ガスの供給量を下限補正量まで減少補正させた後に、前記燃料電池装置の発電出力がその下限補正量まで減少補正されることを特徴とする。
【0016】
また、本発明の請求項8に記載の複数の燃料電池装置の運転制御システムでは、前記燃料電池装置の作動温度を前記温度補正量上げる補正量選定運転においては、前記燃料電池装置の作動温度が前記温度補正量上昇するように、前記燃料電池の発電出力がその上限補正値まで増加補正されることを特徴とする。
【0017】
また、本発明の請求項9に記載の複数の燃料電池装置の運転制御システムでは、前記燃料電池装置の作動温度を前記温度補正量上げる補正量選定運転においては、前記燃料電池装置の作動温度が前記温度補正量上昇するように、発電出力を上限補正値まで増加補正させた後に、前記燃料電池装置に供給される空気がその下限補正量まで減少補正されることを特徴とする。
【0018】
また、本発明の請求項10に記載の複数の燃料電池装置の運転制御システムでは、前記燃料電池装置の作動温度を前記温度補正量上げる補正量選定運転においては、前記燃料電池装置の作動温度が前記温度補正量上昇するように、発電出力を上限補正値まで増加補正させ、その後空気の供給量を下限補正量まで減少補正された後に、前記燃料電池装置に供給される燃料ガスがその上限補正量まで増加補正されることを特徴とする。
【0019】
更に、本発明の請求項11に記載の複数の燃料電池装置の運転制御システムでは、前記燃料電池装置の各々の個別劣化指標とは、前記燃料電池装置における燃料電池の出力電圧又は前記燃料電池のI-V特性の傾きであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明の請求項1に記載の複数の燃料電池装置の運転制御システムによれば、複数の燃料電池装置を運転制御する運転制御装置は、平均指標演算手段、乖離度演算手段及び温度補正量演算手段を含み、平均指標演算手段は、複数の燃料電池装置の個別劣化指標に基づいて平均劣化指標を演算し、乖離度演算手段は、平均劣化指標を基準とした各燃料電池装置における個別劣化指標の乖離度を演算し、温度補正量演算手段は、乖離度に基づいて温度補正量を演算する。この平均劣化指標は運転制御する複数の燃料電池装置の個別劣化指標の平均値であり、この平均劣化指標を基準に各燃料電池装置における個別劣化指標の乖離度が演算されるので、演算された乖離度は、複数の燃料電池装置の標準的な劣化状態に対する各燃料電池装置の劣化の程度を示し、この標準的な劣化状態からの解離度についての温度補正量が演算される。
【0021】
一般的に、燃料電池装置においては、燃料電池の作動温度が高いほど発電出力性能が高くなるが、その劣化の進行が速くなる。一方、燃料電池作の動温度が低いほど発電出力性能が低くなるが、その劣化進行は遅くなる。このようなことから、標準的な劣化状態を基準に各燃料電池装置の個別劣化状態に応じた温度補正量を演算し、燃料電池の作動温度にこの温度補正量の補正を加えた補正作動温度で劣化補正運転をするようにし、このように運転制御することにより、複数の燃料電池装置の寿命をほぼ同じにすることができるとともに、劣化進行の遅い燃料電池装置にあっては、発電出力特性を高めてより大きな発電量を引き出し、寿命に至るまでの累積発電量を増やすことが可能となる。
【0022】
また、本発明の請求項2に記載の複数の燃料電池装置の運転制御システムによれば、運転制御装置の劣化判定手段が「劣化大」と判定したときには、温度補正量演算手段はその乖離度に基づいて燃料電池装置の作動温度を下げる温度補正量を演算するので、「劣化大」の燃料電池装置の劣化補正運転においては、その作動温度が下がった状態での運転となり、燃料電池装置の劣化の進行を抑えることができる。
【0023】
また、本発明の請求項3に記載の複数の燃料電池装置の運転制御システムによれば、運転制御装置の劣化判定手段が「劣化小」と判定したときには、温度補正量演算手段は乖離度に基づいて燃料電池装置の作動温度を上げる温度補正量を演算するので、「劣化小」の燃料電池装置の劣化補正運転においては、その作動温度が上がった状態での運転となり、燃料電池装置の発電出力特性を高めてより大きな発電量を引き出すことが可能となる。尚、このときには、作動温度が上昇して劣化進行が速くなるが、その劣化進行の程度は速くなり過ぎず、複数の燃料電池装置全体の平均的な劣化進行に近づくようになる。
【0024】
また、本発明の請求項4に記載の複数の燃料電池装置の運転制御システムによれば、運転制御装置の劣化判定手段が「劣化大」と判定した燃料電池装置については、その作動温度が下がった状態でもって劣化補正運転が行われる一方、劣化判定手段が「劣化小」と判定した燃料電池装置については、その作動温度が上昇した状態でもって劣化補正運転が行われて発電出力特性も高められ、これによって、複数の燃料電池装置全体の寿命をほぼ同じにすることができるとともに、「劣化小」の燃料電池装置ではより大きな発電量を引き出すことが可能となる。
【0025】
また、本発明の請求項5に記載の複数の燃料電池装置の運転制御システムによれば、燃料電池装置の作動温度を下げる補正量選定運転においては、燃料電池装置に供給される空気がその上限補正量まで増加補正されるので、空気の冷却効果でもって燃料電池装置の作動温度を下げることができ、これによって、燃料電池装置の劣化進行を抑えることができる。
【0026】
また、本発明の請求項6に記載の複数の燃料電池装置の運転制御システムによれば、空気の供給量を上限補正量まで増加補正した後に燃料電池装置に供給される燃料ガスがその下限補正量まで減少補正されるので、燃料電池装置の作動温度低下の制御をより広い範囲で対応することができる。
【0027】
また、本発明の請求項7に記載の複数の燃料電池装置の運転制御システムによれば、空気の供給量を上限補正量まで増加補正し、その後燃料ガスの供給量を下限補正量まで減少補正した後に、燃料電池装置の発電出力がその下限補正値まで減少補正されるので、燃料電池装置の作動温度低下の制御を更に広い範囲で対応することができる。
【0028】
また、本発明の請求項8に記載の複数の燃料電池装置の運転制御システムによれば、燃料電池装置の作動温度を上げる補正量選定運転においては、燃料電池装置の発電出力が上限補正量まで上昇されるので、燃料電池装置の作動温度が上昇し、これによって、燃料電池装置の発電出力性能を高めることができる。
【0029】
また、本発明の請求項9に記載の複数の燃料電池装置の運転制御システムによれば、燃料電池装置の作動温度を上げる補正量選定運転においては、発電出力の上限補正量までの上昇の後に、燃料電池装置に供給される空気がその下限補正量まで減少補正されるので、燃料電池の作動温度上昇の制御を広い範囲で対応することができる。
【0030】
また、本発明の請求項10に記載の複数の燃料電池装置の運転制御システムによれば、燃料電池装置の作動温度を上げる補正量選定運転においては、発電出力の上限補正量までの上昇の後に、空気の供給量の下限補正量までの減少補正をし、更に燃料電池装置に供給される燃料ガスがその上限補正量まで増加補正されるので、燃料電池の作動温度上昇の制御を更に広い範囲で対応することができる。
【0031】
更に、本発明の請求項11に記載の複数の燃料電池装置の運転制御システムによれば、燃料電池装置の各々の個別劣化指標として燃料電池装置における燃料電池の出力電圧又は燃料電池のI-V特性の傾きを好都合に用いることができる。例えば、燃料電池の発電出力はその劣化状態と関連しており、その劣化状態が進行すると発電出力は低下する。また、燃料電池のI-V特性の傾きはその劣化状態と関連しており、その劣化状態が進行すると、傾きの絶対値が大きくなる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】本発明に従う複数の燃料電池装置の運転制御システムの第1の実施形態を簡略的に示す簡略図。
【
図2】
図1の運転制御システムにおける燃料電池装置を簡略的に示す簡略図。
【
図3】
図1の運転制御システムを簡略的に示すブロック図。
【
図4】
図1の運転制御システムの運転制御の流れを示すフローチャート。
【
図5】
図4の運転制御システムにおける「劣化大」の補正運転の流れを示すフローチャート。
【
図6】空気供給量及び燃料の供給量を変動させたときにおける燃料電池の発電出力の変化を示す図。
【
図7】空気供給量及び燃料供給量を変動させた後に更に燃料電池の発電出力を変動させたときにおける燃料電池の発電出力の変化を示す図。
【
図8】
図4の運転制御システムにおける「劣化小」の補正運転の流れを示すフローチャート。
【
図9】本発明に従う複数の燃料電池装置の運転制御システムの第2の実施形態を簡略的に示すブロック図。
【
図11】
図9の運転制御システムの運転制御の流れを示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、添付図面を参照して、本発明に従う複数の燃料電池装置の運転制御システムの実施形態について説明する。まず、
図1~
図8を参照して、第1の実施形態の複数の燃料電池装置の運転制御システムについて説明する。
【0034】
図1~
図3において、図示の複数の燃料電池装置の運転制御システムは、複数の燃料電池装置2a,2b(4a,4b,6a,6b)を含む燃料電池装置群2A(4A,6A)と、これら燃料電池装置群2A(4A,6A)を運転するための運転制御装置8とを備えている。燃料電池装置群2A(4A,6A)の燃料電池装置2a,2b(4a,4b,6a,6b)は、一戸建て家屋10などに設置され、これら燃料電池装置2a,2b(4a,4b,6a,6b)と運転制御装置8との間で後述するように各種信号の送受信が行われる。
【0035】
尚、この実施形態では、理解を容易にするために、各燃料電池装置群2A(4A,6A)を2台の燃料電池装置2a,2b(4a,4b,6a,6b)から構成しているが、実際のシステムでは例えば100以上の多数の燃料電池装置から構成される。また、燃料電池装置群2A,4A,6Aについても、この実施形態では3つ示しているが、3つに限定されず、一つ又は二つでもよく、或いは4つ以上の適宜の数、例えば10以上の数があってもよい。
【0036】
また、運転制御装置8は、3つの燃料電池装置群2A,4A,6Aを後述する如く運転制御するためのものであり、これら燃料電池装置群2A,4A,6Aの運転を管理する管理側、例えば管理事業者12側に設置される。
【0037】
次に、主として
図2及び
図3を参照して燃料電池装置群2A,4A,6Aについて説明する。燃料電池装置群2A,4A,6Aは実質上同一の構成であり、またこれらの燃料電池装置2a,2b,4a,4b,6a,6bも実質上同一の構成であり、以下、これらの一つの燃料電池装置群2A(4A,6A)の燃料電池装置2a,2b(4a,4b,6a,6b)について説明する。
【0038】
図示の燃料電池装置群2Aの燃料電池装置2a(2b)は、燃料電池反応により発電を行う燃料電池14と、この燃料電池14を制御するための電池制御手段16と備え、この電池制御手段16に関連して、運転制御装置8との間で各種信号の送受信を行う通信装置18が設けられている。
【0039】
図示の燃料電池装置2a(2b)は、
図2に示すように、燃料電池14に加えて、更に改質水を気化するための気化器20、燃料ガスを水蒸気改質するための改質器22、燃料ガス(例えば、都市ガス)を供給するための燃料ガスポンプ24、改質水を供給するための水ポンプ26及び酸化剤としての空気を供給するための空気ブロア28を備え、例えば気化器20、改質器22及び燃料電池14が高温状態に保たれる高温ハウジング31に収容される。燃料ガスは燃料ガスポンプ24によって供給され、例えば、その駆動電流のデューティ比を大きくする(又は小さくする)ことによりその回転数が大きく(又は小さく)なり、これによって、燃料ガスの供給量を増やす(又は少なくする)ことができる。水ポンプ26についても同様に、例えば、その駆動電流のデューティ比を大きくする(又は小さくする)ことによりその回転数が大きく(又は小さく)なり、これによって、改質水の供給量を増やす(又は少なくする)ことができる。また、空気ブロア28についても同様に、例えば、その駆動電流のデューティ比を大きくする(又は小さくする)ことによりその回転数が大きく(又は小さく)なり、これによって、空気の供給量を増やす(又は少なくする)ことができる。
【0040】
改質水は、水ポンプ26の作用により気化器20に供給され、気化器20にて気化される。また、燃料ガスは、燃料ガスポンプ24の作用によりこの気化器120に供給され、この気化器20にて水蒸気と混合され、混合ガス(燃料ガスと水蒸気とが混合したガス)が改質器22に送給される。改質器22には改質触媒が充填されており、気化器20からの混合ガスがこの改質器22にて水蒸気改質される。
【0041】
改質器22にて水蒸気改質された改質燃料ガスは、燃料電池14の燃料極側に供給される。また、酸化剤としての空気は、空気ブロア28の作用によって燃料電池14の空気極側に供給され、この燃料電池14での燃料電池反応により発電さる。燃料電池14からの反応燃料ガス(アノードオフガス)及び反応空気(カソードオフが得)は、燃焼器3に送給されて燃焼された後に排出される。また、燃料電池14にて発電された発電出力(発電電力)は、発電出力ライン30を通して取り出される。発電出力ライン30にはインバータ32が配設され、このインバータ32にて直流の発電出力が交流電力(例えば、電圧100V、周波数60Hz)に変換され、この交流電力が家庭用電気機器などの電力負荷(図示せず)にて消費される。
【0042】
電池制御手段16は、例えばマイクロプロセッサなどから構成され、燃料ガスポンプ24、水ポンプ26及び空気ブロア28などを後述する如く作動制御し、例えば、燃料電池14を定格発電出力で運転するときには、電池制御手段16からの定格発電信号が燃料ガスポンプ24、水ポンプ26及び空気ブロア28に送給され、かかる定格発電信号に基づいて燃料ガスポンプ24,水ポンプ26及び空気ブロア28の回転数が制御され、燃料ガスポンプ24は、定格発電に必要な燃料ガスを気化器20に供給し、水ポンプ26は、定格発電に必要な改質水を気化器20の供給し、また空気ブロア28は、定格発電に必要な空気を燃料電池14の空気極側に供給する。
【0043】
この実施形態では、燃料電池装置2a(2b)の劣化状態を診断して後述する如く制御するために、更に、次のように構成されている。燃料電池14に関連して、この燃料電池14の作動温度を検知するための作動温度検知手段32(例えば、温度センサから構成される)が配設される。また、発電出力ライン30には、出力電圧を検知するための電圧検知手段34(例えば、電圧検知器から構成される)及び出力電流を検知するための電流検知手段36(例えば、電流検知器から構成される)が配設される。
【0044】
燃料電池装置2a(2b)には、運転制御装置8との間で各種信号の送受信を行うための電池側の通信装置18が設けられ、燃料電池装置2a(2b)側において、作動温度検知手段32により検知された作動温度信号、電圧検知手段34により検知された出力電圧信号及び電流検知手段36により検知された出力電流信号などが、この通信装置18から運転制御装置8に送信される。
【0045】
上述の燃料電池装置2a(2b)の具体的な構成は代表的な一例であり、また燃料電池装置2a(2b)についても、固体酸化物燃料電池装置、固体高分子形燃料電池装置、リン酸形燃料電池装置などの形態のものを用いることができる。
【0046】
次に、運転制御装置8について説明する。図示の運転制御装置8は、システムを制御するためのシステム制御手段42を備え、このシステム制御手段42は、例えばマイクロプロセッサなどから構成される。この運転制御装置8では、燃料電池装置群Aの燃料電池装、置2a,2bの各々の出力電圧に基づきその劣化状態を診断し、その劣化状況に応じて後述する如く制御するように構成されている。
【0047】
燃料電池装置2a,2b(4a,4b,6a,6b)の劣化状態は、その稼働時間と関連し、稼働時間が長くなるに従い燃料電池装置2a,2b(その燃料電池14)の劣化が進行する。このようなことから、この実施形態では、燃料電池装置2a,2bの劣化指標として発電出力電圧に着目して劣化状態を診断するようにし、また燃料電池装置の設置時期を基準にしてグループ分けが行われ、例えば、最初の6か月の間に設置された燃料電池装置2a,2bについては第1番目のグループ、例えば燃料電池群Aに分類され、次の6か月の間に設置された燃料電池装置4a,4bについては第2番目のグループ、例えば燃料電池装置Bに分類され、また更に次の6か月の間に設置された燃料電池装置6a,6bについては第3番目のグループ、例えば燃料電池装置群2Cに分類される。尚、燃料電池装置2a,2b(4a,4b,6a,6b)のこのような分類は、劣化進行の相違が少ない時間間隔で行うことができ、例えば1~12か月程度の適宜の期間、例えば1か月又は3か月程度でもよい。
【0048】
そして、このように分類された燃料電池装置群A,B,Cのグループ毎に同様に運転制御され、以下、燃料電池装置群A(B,C)の燃料電池装置2a,2b(4a,4b,6a,6b)の運転制御について説明する。
【0049】
主として
図3を参照して、図示のシステム制御手段42は、出力電圧演算手段44、平均指標演算手段46、解離度演算手段48、解離度判定手段50及び温度補正量演算手段52を備えている。出力電圧演算手段44は、燃料電池装置群A(B,C)の燃料電池装置2a,2b(4a,4b,6a,6b)の出力電圧(圧電出力電圧)を演算し、平均指標演算手段46は、燃料電池装置2a,2bの出力電圧を平均化した平均値を演算する。
【0050】
また、乖離度演算手段48は、各燃料電池装置2a,2bの出力電圧の出力電圧平均値からの乖離度α1を演算し、例えば燃料電池装置2a(2b)についての乖離度α1は、乖離度α1=(劣化指標-平均劣化指標)/平均劣化指標=(個別出力電圧-平均出力電圧)/平均出力電圧でもって演算することができる。
【0051】
更に、乖離度判定手段50は、乖離度演算手段48により演算された乖離度α1に基づいて乖離の程度を判定する。この実施形態では、燃料電池装置2a(2b)の乖離度α1が負の値である(換言すると、出力電圧が燃料電池装置群Aの平均出力電圧よりも小さい)ときには、この燃料電池装置2a(2b)の劣化状態が平均的なものよりも進行していてその出力電圧が低下しているということであり、この場合、乖離度判定手段50は「劣化大」と判定する。一方、燃料電池装置2a(2b)の乖離度α1が正の値である(換言すると、出力電圧が燃料電池装置群Aの平均出力電圧よりも大きい)ときには、この燃料電池装置2a(2b)の劣化状態が平均的なものよりも遅くてその出力電圧が高く維持されているということであり、この場合、乖離度判定手段50は「劣化小」と判定する。
【0052】
また、温度補正量演算手段52は、乖離度判定手段50の判定結果に基づき燃料電池装置2a(2b)の作動温度の温度補正量を演算する。例えば、乖離度判定手段50の判定結果が「劣化大」である場合、劣化進行を抑える必要があるために、この温度補正量演算手段52は、燃料電池装置2a(2b)の作動温度を下げる温度補正量を演算し、例えば乖離度α1の例えば5%毎に燃料電池14の作動温度を1℃下げるように温度補正量を演算する。一方、乖離度判定手段50の判定結果が「劣化小」である場合、燃料電池14の作動温度を上昇させて発電出力特性を高めてもその劣化状態は平均的なものよりも遅くて問題がなく、この温度補正量演算手段52は、燃料電池装置2a(2b)の作動温度を上げる温度補正量を演算し、例えば乖離度α1の例えば5%毎に燃料電池14の作動温度を1℃上げるように温度補正量を演算する。
【0053】
尚、乖離度α1に応じた温度補正量については適宜の値に設定することができ、例えば乖離度α1の例えば3%毎に作動温度を1℃変化させるようにしてもよい(例えば、「劣化大」の場合、作動温度を下げるようになるが、「劣化小」の場合、作動温度を上げるようになる)。
【0054】
この実施形態では、システム制御手段42は、更に、初期運転設定手段54、劣化指標取得運転設定手段56、補正量選定運転設定手段58及び劣化補正運転設定手段60を含んでいる。初期運転設定手段54は、燃料電池装置群A(B,C)の燃料電池装置2a,2b(4a,4b,6a,6b)を初期運転させる初期運転信号(この実施形態では、例えば定格運転信号)を生成し、劣化指標取得運転設定手段56は、これら燃料電池装置2a,2bの劣化状態を診断するために、劣化指標(この実施形態では、燃料電池14の発電出力電圧)を取得する劣化指標取得運転信号(この実施形態では、例えば定格運転信号)を生成する。
【0055】
また、補正量選定運転設定手段58は、燃料電池装置2a,2bの作動温度が温度補正量演算手段52により演算された温度補正量だけ変動するように後述する如く運転する補正量選定運転信号を生成し、更に劣化補正運転設定手段60は、燃料電池装置2a,2bの作動温度が温度補正量だけ補正されたときの運転条件を維持して運転する劣化補正運転信号を生成する。
【0056】
このシステム制御手段42は、更に、計時手段62、第1メモリ手段64及び第2メモリ手段66を含んでいる。計時手段62は、時間を計時し、例えば初期運転を行う初期運転時間及び劣化指標取得運転を開始する劣化指標取得運転開始時間などを計時する。第1メモリ手段64には各種情報が予め登録されており、例えば初期運転時間(例えば1万時間)、劣化指標取得運転開始時間(例えば、5000時間毎)、空気流量の補正の上下限値(例えば、定格時の設定値の-20%~+20%)、燃料ガスの補正の上下限値(例えば、定格時の設定値のー3%~+3%)、発電出力の補正の上下限値(例えば、定格時の設定値の-15%~+15%)などが登録される。また、第2メモリ手段66には、燃料電池装置群A(B,C)の燃料電池装置2a,2b(4a,4b,6a,6b)の出力電圧、平均指標演算手段46による出力電圧の平均値(平均出力電圧)、乖離度演算手段48による乖離度α1、温度補正量演算手段52による温度補正量などが登録される。
【0057】
この運転制御装置8は、記憶装置76及びシステム側の通信装置78を含んでいる。記憶装置76は、HDD装置などから構成され、システム制御手段42にて処理された各種情報を記憶する。また、通信装置78は、この運転制御装置8と燃料電池装置群A(B,C)の燃料電池装置2a,2b(4a,4b,6a,6b)との間の送受信を行い、例えば初期運転信号、劣化指標取得運転信号、補正量選定運転信号及び劣化補正運転信号などを燃料電池装置2a,2bに送信する。
【0058】
次に、主として
図3及び
図4を参照して、複数の燃料電池装置の運転制御システムの運転制御の流れを説明する。例えば、燃料電池装置群A(B,C)の運転制御では、燃料電池装置2a,2b(4a,4b,6a,6b)の初期運転が行われる(ステップS1)。システム制御手段42の初期運転設定手段54は初期運転信号(この実施形態では、定格運転信号)を生成し、この初期運転信号がシステム側の通信装置78及び電池側の通信装置18を介して燃料電池装置2a,2bの電池制御手段16に送給され、電池制御手段16は、この初期運転信号に基づいて燃料電池14を初期運転(定格運転)する。
【0059】
このようにして初期運転が初期運転時間(例えば、5千時間)行われると、ステップS2を経てステップS3に進み、劣化指標取得運転が行われる。システム制御手段42の劣化指標取得運転設定手段56が劣化指標取得信号(この実施形態では、定格運転信号)を生成し、この劣化指標取得運転がシステム側の通信装置78及び電池側の通信装置18を介して燃料電池装置2a,2bの電池制御手段16に送給され、これによって、燃料電池装置2a,2bの劣化指標取得運転が行われる。
【0060】
この劣化指標取得運転においては、各燃料電池装置2a,2bの電圧検知手段34がその発電出力電圧を計測し(ステップS4)、これら電圧検知手段34からの出力電圧信号が電池制御手段16、電池側の通信装置18及びシステム側の通信装置78を通してシステム制御手段42に送給される。電圧検知手段34による出力電圧(発電出力電圧)の計測は所定測定時間(例えば、10~30分程度)行われ、その間の出力電圧信号がシステム制御手段42に送給されてその出力電圧情報が第2メモリ手段66に登録される。
【0061】
このようにして各燃料電池装置2a,2bの発電出力電圧の計測が終了すると、ステップS5からステップS6に進み、システム制御手段42の出力電圧演算手段44は、各燃料電池装置2a,2bの発電出力電圧を演算し、演算した出力電圧情報(即ち、劣化指標情報)が第2メモリ手段66に登録される(ステップS7)。具体的には、出力電圧演算手段44は、所定測定時間の発電出力電圧の平均値を演算し、その平均化した出力電圧が劣化指標としての出力電圧(発電出力電圧)として登録される。
【0062】
この実施形態では、各燃料電池装置2a,2bの劣化状態を診断するのに、複数の燃料電池装置2a,2bの平均的劣化状態を基準にして個別の燃料電池装置2a,2bの劣化進行状態を判別している。具体的には、複数の燃料電池装置2a,2bの平均劣化指標を演算するために、平均指標演算手段46は、各燃料電池装置2a,2bの出力電圧(第2メモリ手段66に登録された平均化された出力電圧)の平均値(即ち、平均出力電圧)を演算し、この出力電圧の平均値(平均出力電圧)を平均劣化指標として第2メモリ手段66に登録される(ステップS8)。
【0063】
その後、ステップS9に進み、乖離度演算手段48は、複数の燃料電池装置2a,2bの平均的劣化状態、即ち劣化指標の平均値(平均劣化指標)に対する各燃料電池装置2a,2bの劣化状態の乖離度α1を演算し、演算された乖離度α1は、第2メモリ手段66に登録される。この実施形態においては、この乖離度α1は、乖離度α1=(個別燃料電池の劣化指標-平均劣化指標)/平均劣化指標=(燃料電池装置の出力電圧-出力電圧の平均値)/出力電圧の平均値でもって演算される。そして、乖離度判定手段50は、演算されたこの乖離度α1に基づいて個別の燃料電池装置2a,2bの劣化進行状態を判定する。
【0064】
例えば、乖離度α1が負の値である(α1<0)場合、燃料電池装置2a,2bの発電出力電圧(個別劣化指標)が発電出力電圧の平均値(平均劣化指標)よりも低くなって燃料電池装置の劣化状態が進行していることを示しており、この場合には、ステップS10からステップS11に進み、乖離度判定手段50は、「劣化大」の判定を行い、この判定結果に基づいて、後述する「劣化大」の劣化補正運転が行われる。
【0065】
また、乖離度α1が正の値である(α1>0)場合、燃料電池装置2a,2bの発電出力電圧(個別劣化指標)が発電出力電圧の平均値(平均劣化指標)よりも高く保たれていて燃料電池装置の劣化状態が進んでいないことを示しており、この場合には、ステップS10からステップS12を経てステップS13に進み、乖離度判定手段50は、「劣化小」の判定を行い、この判定結果に基づいて、後述する「劣化小」の劣化補正運転が行われる。
【0066】
尚、乖離度α1が零(ゼロ)である(α1=0)場合、燃料電池装置2a,2bの発電出力電圧(個別劣化指標)が発電出力電圧の平均値(平均劣化指標)と等しくて燃料電池装置の劣化状態が平均的であること示しており、この場合には、ステップS10からステップS12を経てステップS14に進み、乖離度判定手段50は、「劣化中」の判定を行い、この判定結果に基づいて、後述する「劣化中」の劣化補正運転が行われる。
【0067】
初期運転後の劣化状態に基づく燃料電池装置2a,2bの運転は、所定運転時間(例えば、5000時間)行われ、この所定運転時間を経過すると、ステップS15からステップS3に戻り、所定運転時間経過後の燃料電池装置2a,2bの劣化状態の診断が行われ、ステップS3からステップS15が繰返し遂行される。このように初期運転後は、所定運転時間経過毎に燃料電池装置2a,2bの劣化状態の診断が行われる。そして、劣化診断の際には、燃料電池装置2a,2bの劣化指標取得運転が行われ、取得された劣化指標に基づいて各燃料電池装置2a,2bについて劣化診断が行われた後に、劣化診断結果に対応する劣化補正運転が行われる。
【0068】
次に、
図3及び
図5~
図7を参照して、ステップS11の「劣化大」の補正運転について説明する。尚、以下の説明では、例えば燃料電池装置2aが「劣化大」の判定であったとして説明する。主として
図3及び
図5を参照して、この「劣化大」の補正運転においては、温度補正量ΔT1の演算が行われた後に、補正量選定運転が行われ、その後劣化補正運転が行われる。
【0069】
システム制御手段42の温度補正量演算手段52は、乖離度演算手段48により演算された乖離度α1に基づいて温度補正量ΔT1を演算する(ステップS11-1)。乖離度α1が負(α<0)で劣化が進行している場合、劣化進行を抑えるために燃料電池装置2aの作動温度を下げるように制御することになり、この実施形態では、温度補正量演算手段52は、乖離度α1の大きさに応じて燃料電池2aの作動温度が下がるように演算し、例えば(α1/0.05)℃下がるように温度補正量ΔT1を演算し、この乖離度α1が例えば-0.1であるときには温度補正量ΔT1=-2.0℃と演算し、この温度補正量ΔT1が第2メモリ手段66に登録される。
【0070】
その後、燃料電池装置2aの作動温度が温度補正量ΔT1だけ下がるように補正量選定運転が行われる(ステップS11-2)。即ち、システム制御手段42の補正量選定運転設定手段58が補正量選定信号を生成し、この補正量選定信号がシステム制御手段42から燃料電池装置2aの電池制御手段16に送給され、この補正量選定信号に基づいて燃料電池14(具体的には、燃料ガスポンプ24、水ポンプ26及び空気ブロア28)が補正量選定運転される。
【0071】
この補正量選定運転においては、まず、空気供給量の調整が行われ、この場合、供給量の増大制御が行われる(ステップS11-3)。この空気供給量の増大は、空気ポンプ28(
図2参照)の回転数を上昇させることにより行われ、このように空気ポンプ28を制御することによって、燃料電池14に供給される空気流量が増え、空気による冷却効果が高められ、燃料電池14の作動温度が下がる方向に作用する。
【0072】
この空気の供給量の増大は、定格時の設定値の例えば+20%まで行われ、この供給量の増大制御は、例えば+5%ずつ段階的に上昇させて燃料電池14の作動温度が温度補正量ΔT1(-2℃)低下したかを確認ながら行われる。尚、この空気供給量の段階的増加は、適宜に設定することができ、例えば+2%ずつ行うようにしてもよい。
【0073】
このような空気供給量の増大によって燃料電池装置2aの燃料電池14の作動温度が温度補正量ΔT1(-2℃)低下すると、ステップS11-4からステップS11-5に進み、補正量選定運転が終了した後に、劣化補正運転に移行し、増大した空気供給量での運転が行われる。
【0074】
空気供給の補正量が上限値(上限補正値)(+20%)まで達しても燃料電池14の作動温度が温度補正量ΔT1低下しないときには、ステップS11-4からステップS11-6を経てステップS11-7に進み、次いで、燃料ガス供給量の減少制御が行われる。この燃料ガス供給量の減少は、燃料ガスポンプ24(
図2参照)の回転数を低下させることにより行われ、このように燃料ガスポンプ24を制御することによって、燃料電池14での発電に寄与しない余剰燃料ガスの量が減少し、これにより、燃焼器31での燃焼により発生する燃焼熱が少なくなり、燃料電池14の作動温度が下げる方向に作用する。
【0075】
この燃料ガスの供給量の減少は、定格時の設定値の例えば-3%まで行われ、この供給量の減少制御は、例えば-1%ずつ段階的に減少させて温度補正量ΔT1(-2℃)まで低下したかを確認ながら行われる。尚、この燃料ガス供給量の段階的減少は、適宜に設定することができ、例えば-0.5%ずつ行うようにしてもよい。
【0076】
このような燃料ガス供給量の減少によって燃料電池装置2aの燃料電池14の作動温度が温度補正量ΔT1低下すると、ステップS11-8からステップS11-9に進み、上述したと同様に、補正量選定運転が終了した後に劣化補正運転に移行し、増大した空気供給流量及び減少した燃料ガス供給流量での運転が行われる。
【0077】
空気供給の補正量が上限値(+20%)まで達し且つ燃料ガス供給の補正量が下限値(下限補正値)(-3%)まで達しても燃料電池14の作動温度が温度補正量ΔT1低下しないときには、ステップS11-8からステップS11-10を経てステップS11-11に進み、次に、燃料電池14の発電出力(発電電流)の低下制御が行われる。この燃料電池14の発電出力の低下は、燃料電池14の発電電流を下げることにより行われ、このように発電電流を下げることにより、燃料電池14の発電出力が低下し、燃料電池14の作動温度が下がる方向に作用する。
【0078】
燃料電池14の発電出力の低下は、定格時の設定値の例えば-15%まで行われ、この発電出力の低下制御は、例えば-3%ずつ段階的に減少させて温度補正量ΔT1(-2℃)まで低下したかを確認ながら行われる。尚、この発電出力の段階的低下は、適宜に設定することができ、例えば-5%ずつ行うようにしてもよい。
【0079】
このような燃料電池14の発電出力の低下によってその作動温度が温度補正量ΔT1低下すると、ステップS11-12からステップS11-13に進み、上述したと同様に、補正量選定運転が終了した後に、劣化補正運転に移行し、増大した空気供給流量及び減少した燃料ガス供給量及び低下した発電出力での運転が行われる。
【0080】
尚、燃料電池14の発電出力の補正量の下限値(下限補正量)(例えば、-15%)まで低下すると、ステップS11-14からステップS11-15に進み、燃料電池14の更なる劣化抑制の制御は行われず、この発電出力の補正量の下限値でもって劣化補正運転が行われる。
【0081】
劣化補正運転においては、システム制御手段42の劣化補正運転設定手段60が劣化補正信号を生成し、この劣化補正信号がシステム制御手段42から燃料電池装置2aの電池制御手段16に送給され、かかる劣化補正信号に基づいて燃料電池14(具体的には、燃料ガスポンプ24、水ポンプ26及び空気ブロア28)が劣化補正運転される。
【0082】
図6及び
図7を参照して、燃料電池群Aの燃料電池2a,2bを稼働運転した場合、稼働時間とともに燃料電池14に劣化が生じ、これら燃料電池2a,2bの平均的な出力電圧(平均出力電圧)は、破線Aで示すように変化する。また、劣化の大きい燃料電池2aは、実線Bで示すように変化し、平均出力電圧Aよりも低い出力電圧で変化し、例えば初期運転終了した時点T1においては、
図6及び
図7に示す状態となる。そして、この時点で劣化指数取得運転を行い、乖離度α1が負(α<0)と判定されて補正量選定運転を行い、空気供給量を増大させた第1段階の制御又は空気供給量の増大に加えて燃料ガス供給量を減少させた第2段階の制御による劣化補正運転を行うと、次の所定運転時間の間(時点T1~T2の間)は、燃料電池14の発電出力電圧は破線B11で示すように変化し、燃料電池14の劣化進行が抑えられる。
【0083】
また、この時点T1において空気供給量の増大及び燃料ガス供給量の減少に加えて燃料電池14の発電出力を低下させると、燃料電池14の発電出力電圧は、
図7に示すように変化し、燃料電池14の発電出力(出力電流)の低下により、燃料電池14の発電出力電圧は上昇するようになる。そして、空気供給量の増大及び燃料ガス供給量の減少に加えて燃料電池14の発電出力を低下させた第3段階の制御による劣化補正運転を行うと、次の所定運転時間の間(時点T1~T2の間)は、
図7に破線B12で示すように変化し、燃料電池14の劣化進行が抑えられて平均的な劣化状態に近づくようになる。
【0084】
次に、
図3及び
図6~
図8を参照して、ステップS13の「劣化小」の補正運転について説明する。尚、以下の説明では、例えば燃料電池装置2bが「劣化小」の判定であったとして説明する。主として
図3及び
図8を参照して、この「劣化小」の補正運転においては、温度補正量ΔT1の演算が行われた後に、補正量選定運転が行われ、その後劣化補正運転が行われる。
【0085】
システム制御手段42の温度補正量演算手段52は、上述したと同様にして乖離度演算手段48により演算された乖離度α1に基づいて温度補正量ΔT1を演算する(ステップS13-1)。乖離度α1が正(α>0)で劣化が進行していない場合、燃料電池2bの発電出力を上げて発電量を増やすために燃料電池装置2aの作動温度を上げるように制御することになり、この実施形態では、温度補正量演算手段52は、乖離度α1の大きさに応じて燃料電池2aの作動温度が上がるように演算し、例えば(α1/0.05)℃上昇するように温度補正量ΔT1を演算し、この乖離度α1が例えば0.1であるときには温度補正量ΔT1=2.0℃と演算し、この温度補正量ΔT1が第2メモリ手段66に登録される。
【0086】
その後、燃料電池装置2bの作動温度が温度補正量ΔT1だけ上昇するように補正量選定運転が行われる(ステップS13-2)。即ち、システム制御手段42の補正量選定運転設定手段58が補正量選定信号を生成し、この補正量選定信号がシステム制御手段42から燃料電池装置2aの電池制御手段16に送給され、この補正量選定信号に基づいて燃料電池14(具体的には、燃料ガスポンプ24、水ポンプ26及び空気ブロア28)が補正量選定運転される。
この補正量選定運転においては、まず、燃料電池14の発電出力(発電電流)の調整が行われ、この場合、発電出力(発電電流)の上昇制御が行われる(ステップS13-3)。この発電出力の上昇は、燃料電池の発電電流を上げることにより行われ、このように発電電流を上げることにより、燃料電池14の発電出力が上昇し、燃料電池の作動温度が上昇する。
この燃料電池14の発電出力の上昇は、定格時の設定値の例えば+15%まで行われ、この発電出力の増大制御は、例えば+3%ずつ段階的に上昇させて温度補正量ΔT(+2℃)まで上昇したかを確認ながら行われる。尚、この発電出力の段階的上昇は、適宜に設定することができ、例えば+1%ずつ行うようにしてもよい。
【0087】
このような燃料電池14の発電出力の上昇によってその作動温度が温度補正量ΔT1上昇すると、ステップS13-12からステップS13-13に進み、上述したと同様に、補正量選定運転が終了した後に、劣化補正運転に移行し、上昇した発電出力(発電電流)での運転が行われる。このように「劣化小」の判定の場合、まず燃料電池14の発電出力の上昇を優先的に行うように制御するので、燃料電池14の発電出力特性を高めた運転となり、これによって、より大きな発電量を引き出した運転にすることができる。
【0088】
燃料電池14の発電出力の補正量が上限値(上限補正量)(例えば、+15%)まで上昇しても燃料電池14の作動温度が温度補正量ΔT1(+2℃)上昇しないときには、次に、空気の供給量の調整が行われ、この場合、供給量の減少制御が行われる(ステップS13-7)。この空気供給量の減少は、空気ポンプ28(
図2参照)の回転数を低下させることにより行われ、このように空気ポンプ28を制御することによって、燃料電池14に供給される空気流量が減少し、空気による冷却効果が弱められ、燃料電池14の作動温度が上がる方向に作用する。
【0089】
この空気の供給量の減少は、定格時の設定値の例えば-20%まで行われ、この供給量の減少制御は、例えば-5%ずつ段階的に減少させて温度補正量ΔT1(+2℃)まで上昇したかを確認ながら行われる。尚、この空気供給量の段階的減少は、適宜に設定することができ、例えば-2%ずつ行うようにしてもよい。
【0090】
このような空気供給量の減少によって燃料電池装置2bの燃料電池14の作動温度が温度補正量ΔT1(+2℃)上昇すると、ステップS13-8からステップS13-9に進み、補正量選定運転が終了した後に、劣化補正運転に移行し、増大した空気供給量での運転が行われる。
【0091】
発電出力(発電電流)の補正量が上限(上限補正値)(+15%)に達し且つ空気供給の補正量が下限値(下限補正量)(-20%)まで達しても燃料電池14の作動温度が温度補正量ΔT1上昇しないときには、ステップS13-8からステップS13-10を経てステップS13-11に進み、次いで、燃料ガス供給量の増加制御が行われる。この燃料ガス供給量の増加は、燃料ガスポンプ24(
図2参照)の回転数を上昇させることにより行われ、このように燃料ガスポンプ24を制御することによって、燃料電池14に供給される燃料ガス供給量が増大し、これにより、燃焼器31での燃焼により発生する燃焼熱が大きくなり、燃料電池14の作動温度が上がる方向に作用する。
【0092】
この燃料ガスの供給量の増大は、定格時の設定値の例えば+3%まで行われ、この供給量の増大制御は、例えば+1%ずつ段階的に増加させて温度補正量ΔT1(+2℃)まで上昇したかを確認ながら行われる。尚、この燃料ガス供給量の段階的増大は、適宜に設定することができ、例えば+0.5%ずつ行うようにしてもよい。
【0093】
このような燃料ガス供給量の増大によって燃料電池装置2bの燃料電池14の作動温度が温度補正量ΔT1上昇すると、ステップS13-12からステップS13-13に進み、上述したと同様に、補正量選定運転が終了した後に劣化補正運転に移行し、上昇した発電出力(発電電流)、減少した空気供給量及び増大した燃料ガス供給量での運転が行われる。
【0094】
尚、燃料ガスの補正量の上限値(上限補正量)(例えば、+3%)まで上昇すると、ステップS13-14からステップS13-15に進み、燃料電池14の更なる劣化抑制の制御は行われず、この燃料ガスの補正量の上限値でもって(即ち、発電出力の上限値、空気供給量の下限値及び燃料ガス供給量の上限値でもって)劣化補正運転が行われる。
【0095】
この劣化補正運転においては、上述したと同様に、システム制御手段42の劣化補正運転設定手段60が劣化補正信号を生成し、この劣化補正信号がシステム制御手段42から燃料電池装置2bの電池制御手段16に送給され、かかる劣化補正信号に基づいて燃料電池14(具体的には、燃料ガスポンプ24、水ポンプ26及び空気ブロア28)が劣化補正運転される。
【0096】
再び
図6及び
図7を参照して、劣化の小さい燃料電池2bは、実線Cで示すように変化し、平均出力電圧Aよりも高い出力電圧で変化し、例えば初期運転終了した時点T1においては、
図6及び
図7に示す状態となる。そして、この時点で劣化指数取得運転を行い、乖離度α1が正(α>0)と判定されて補正量選定運転を行い、時点T1において燃料電池14の発電出力(発電電流)を上昇させると、燃料電池14の発電出力電圧は、
図6で示すように変化し、燃料電池14の発電出力(出力電流)の上昇により、燃料電池14の発電出力電圧は上昇するようになり、この第1段階においては、
図6に破線C11で示すように変化し、燃料電池14の劣化が進行する(平均的は劣化状態よりも劣化が少ない範囲において進行する)が、その発電性能がアップし、劣化進行が問題とならない範囲において大きな発電出力を得ることができる。
そして、発電出力の上昇に加えて空気供給量を減少させた第2段階、またこれらに加えて更に燃料ガス供給量を増大させた第3段階の制御による劣化補正運転を行うと、次の所定運転時間の間(時点T1~T2の間)は、
図7に破線C12で示すように変化し、燃料電池14の劣化進行が進んで平均的な劣化状態に近づくようになる。
【0097】
次に、
図9~
図11を参照して、本発明に従う複数の燃料電池装置の運転制御システムの第2の実施形態について説明する。この第2の実施形態では、劣化指標として燃料電池の発電出力電圧に代えて、燃料電池のI(電流)-V(電圧)特性の傾きを用いている。尚、第2の実施形態において、第1の実施形態と実質上同一のものには同一の参照番号を付し、その説明を省略する。
【0098】
図9において、この複数の燃料電池装置の運転制御システムでは、運転制御装置8Aのシステム制御手段42Aは、I-V特性生成手段92、I-V特性傾き演算手段94、平均指標演算手段46A、乖離度演算手段48A、乖離度判定手段50A及び温度補正量演算手段52Aを備えている。I-V特性生成手段92は、例えば燃料電池(図示せず)の定格運転において電流を速やかに変化させたときの電流-電圧の関係を示す特性(「I-V特性曲線」と称する)を生成し、I-V特性傾き演算手段94は、このI-V特性曲線の傾きを演算し、第2の実施形態では、このI-V特性の傾き(ΔV/ΔI)を劣化指標として用いている。
【0099】
一般的に、I-V特性の傾きYとは、電流を速やかに変化させたときのI-V特性曲線の傾きであって、燃料電池の電流密度(A/cm
2)と電圧(V)との関係で示され、I-V特性傾きYは、Y=-0.2X+0.90として近似することができ、この関係は、例えば
図10に示す通りとなる。
図10において、このI-V特性傾きは、電流密度と電圧との関係で示され、電流密度が大きくなると電圧は小さくなる負の比例の関係があり、燃料電池の劣化が進行すると、このI-V特性の負の傾き、換言するとこの傾きの絶対値は大きくなり、このことから、劣化指標としてI-V特性の傾きは、この傾きの絶対値を用いている。
【0100】
また、平均指標演算手段46Aは、燃料電池装置のI-V特性傾き(即ち、傾きの絶対値)を平均化した平均値を演算する。乖離度演算手段48Aは、各燃料電池装置のI-V特性傾きの傾き平均値からの乖離度α2を演算し、例えば燃料電池装置についての乖離度α2は、乖離度α2=(劣化指標-平均劣化指標)/平均劣化指標=(I-V特性傾き-傾き平均値)/傾き平均値でもって演算することができる。
【0101】
更に、乖離度判定手段50Aは、乖離度演算手段48Aにより演算された乖離度α2に基づいて乖離度の程度を判定する。この第2実施形態では、燃料電池装置の乖離度α2が負の値である(換言すると、燃料電池のI-V特性傾きが燃料電池装置群AのI-V特性傾きの平均値よりも大きい)ときには、この燃料電池装置の劣化状態が平均的なものよりも進行しているということであり、この場合、乖離度判定手段50Aは「劣化大」と判定する。一方、燃料電池装置の乖離度α1が正の値である(換言すると、I-V特性傾きが燃料電池装置群のI-V特性傾きの平均値よりも小さい)ときには、この燃料電池装置の劣化状態が平均的なものよりも遅いということであり、この場合、乖離度判定手段50Aは「劣化小」と判定する。
【0102】
また、温度補正量演算手段52Aは、乖離度判定手段50Aの判定結果に基づき燃料電池装置の作動温度の温度補正量を演算する。例えば、乖離度判定手段50Aの判定結果が「劣化大」である場合、劣化進行を抑える必要があるために、この温度補正量演算手段52Aは、燃料電池装置の作動温度を下げる温度補正量を演算し、上述したと同様に、例えば乖離度α2の5%毎に燃料電池の作動温度を1℃下げるように温度補正量を演算する。一方、乖離度判定手段50Aの判定結果が「劣化小」である場合、燃料電池の作動温度を上昇させて発電出力特性を高めてもその劣化状態は平均的なものよりも遅くて問題がなく、この温度補正量演算手段52Aは、燃料電池装置の作動温度を上げる温度補正量を演算し、例えば乖離度α2の5%毎に燃料電池の作動温度を1℃上げるように温度補正量を演算する。
【0103】
この第2実施形態においても、システム制御手段42Aは、更に、初期運転設定手段54、劣化指標取得運転設定手段56、補正量選定運転設定手段58及び劣化補正運転設定手段60を含み、初期運転設定手段54は、燃料電池装置群の燃料電池装置を初期運転させる初期運転信号(例えば、定格運転信号)を生成し、劣化指標取得運転設定手段56は、燃料電池装置の劣化状態を診断するために、劣化指標(この実施形態では、I-V特性の傾き)を取得する劣化指標取得運転信号(例えば、定格運転信号)を生成し、補正量選定運転設定手段58は、燃料電池装置の作動温度が温度補正量演算手段52により演算された温度補正量だけ変動するように運転する補正量選定運転信号を生成し、また劣化補正運転設定手段60は、燃料電池装置の作動温度が温度補正量だけ補正されたときの運転条件を維持して運転する劣化補正運転信号を生成する。この第2の実施形態のその他の構成は、上述した第1の実施形態と同一である。
【0104】
次に、主として
図9及び
図11を参照して、この複数の燃料電池装置の運転制御システムの運転制御の流れを説明する。例えば、燃料電池装置群の運転制御では、システム制御手段42aの初期運転設定手段54にて生成される初期運転信号(例えば、定格運転信号)に基づいて、燃料電池群の複数の燃料電池の初期運転が行われる(ステップS21)。そして、この初期運転が初期運転時間(例えば、1万時間)行われると、ステップS22を経てステップS23に進み、劣化指標取得運転設定手段56aにて生成される劣化指標取得信号(例えば、定格運転信号)に基づいて、燃料電池装置の劣化指標取得運転が行われる。
【0105】
この劣化指標取得運転においては、燃料電池装置の定格運転状態において、出力電流を速やかに変化させたときの出力電圧及び出力電流を電圧検知手段(図示せず)及び電流検知手段により計測し(ステップS24)、この計測が終了すると、ステップS25からステップS26に進み、I-V特性生成手段92は、I-V特性曲線を生成し、I-V特性傾き演算手段94は、I-V特性曲線の傾き、所謂I-V特性傾きを演算し(ステップS27)、このようにして劣化指標としてのI-V特性傾きが演算され、演算されたI-V特性傾きが第2メモリ手段66に登録される(ステップS28)。
【0106】
この第2実施形態においても、上述したと同様に、燃料電池装置の劣化状態を診断するのに、複数の燃料電池装置の平均的劣化状態を基準にして個別の燃料電池装置の劣化進行状態を判別している。具体的には、複数の燃料電池装置の平均劣化指標を演算するために、平均指標演算手段46Aは、各燃料電池装置のI-V特性傾き(第2メモリ手段66に登録されたI-V特性傾き)の平均値を演算し、この傾きの平均値を平均劣化指標として第2メモリ手段66に登録される(ステップS29)。
【0107】
その後、ステップS10に進み、乖離度演算手段48Aは、複数の燃料電池装置の平均的劣化状態(即ち、劣化指標の平均値)に対する各燃料電池装置の劣化状態の乖離度α2を演算し、演算された乖離度α2は、第2メモリ手段66に登録される。この第2実施形態においても、この乖離度α2は、乖離度α2=(個別燃料電池の劣化指標-平均劣化指標)/平均劣化指標=[(燃料電池のI-V特性傾き)-(I-V特性傾きの平均値)]/(I-V特性傾きの平均値)でもって演算される。そして、乖離度判定手段50Aは、演算されたこの乖離度α2に基づいて個別の燃料電池装置の劣化進行状態を判定する。
【0108】
例えば、乖離度α2が正の値である(α2>0)場合、燃料電池装置のI-V特性傾き(個別劣化指標)がI-V特性傾きの平均値(平均劣化指標)よりも大きくなって燃料電池装置の劣化状態が進行していることを示しており、この場合には、ステップS11からステップS12に進み、乖離度判定手段50Aは、「劣化大」の判定を行い、この判定結果に基づいて、「劣化大」の劣化補正運転が行われる。
【0109】
また、乖離度α2が負の値である(α2<0)場合、燃料電池装置のI-V特性傾き(個別劣化指標)がI-V特性傾きの平均値(平均劣化指標)よりも小さくて劣化状態が進んでいないことを示しており、この場合には、ステップS11からステップS13を経てステップS14に進み、乖離度判定手段50Aは、「劣化小」の判定を行い、この判定結果に基づいて、「劣化小」の劣化補正運転が行われる。
【0110】
尚、乖離度α2が零(ゼロ)である(α1=0)場合、燃料電池装置のI-V特性傾き(個別劣化指標)がI-V特性傾きの平均値(平均劣化指標)と等しくて燃料電池装置の劣化状態が平均的であること示しており、この場合には、ステップS11からステップS13を経てステップS15に進み、乖離度判定手段50Aは、「劣化中」の判定を行い、この判定結果に基づいて、「劣化中」の劣化補正運転が行われる。
【0111】
初期運転後の劣化状態に基づく燃料電池装置の運転は、所定運転時間(例えば、5000時間)行われ、この所定運転時間を経過すると、ステップS16からステップS23に戻り、所定運転時間経過後の燃料電池装置の劣化状態の診断が行われ、ステップS23からステップS36が繰返し遂行される。このように初期運転後は、所定運転時間経過毎に燃料電池装置の劣化状態の診断が行われる。そして、劣化診断の際には、燃料電池装置の劣化指標取得運転が行われ、取得された劣化指標に基づいて各燃料電池装置について劣化診断が行われた後に、劣化診断結果に基づく劣化補正運転が行われる。
【0112】
尚、ステップS32における「劣化大」の補正運転、ステップS34における「劣化小」の補正運転及びステップS35における「劣化中」の補正運転については、第1の実施形態における「劣化大」の補正運転(ステップS11)、「劣化小」の補正運転(ステップS13)及び「劣化中」の補正運転(ステップS14)と同様に行われる。
【0113】
以上、本発明に従う複数の燃料電池装置の運転制御システムの実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲を逸脱することなく種々の変更乃至修正が可能である。
【0114】
例えば、上述した実施形態では、「劣化大」の補正量選定運転においては、第1段階で空気供給量を変え、第2段階で燃料ガス供給量を変え、更に第3段階で燃料電池の発電出力を変えているが、このように3段階で行う必要はなく、例えば第1段階の空気供給量及び第2段階の燃料ガス供給量を変えるようにしてもよく、或いは第1段階の空気供給量のみを変えるようにしてもよい。
【0115】
また、「劣化小」の補正量選定運転においては、第1段階で燃料電池の発電出力を変え、第2段階で空気供給量を変え、更に第3段階で燃料ガス供給量を変えているが、このように3段階で行う必要はなく、例えば第1段階の燃料電池の発電出力及び第2段階の空気供給量を変えるようにしてもよく、或いは第1段階の燃料電池の発電出力のみを変えるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0116】
2A,4A,6A 燃料電池装置群
2a,2b,4a,4b,6a,6b 燃料電池装置
8,8A 運転制御装置
14 燃料電池
16 電池制御手段
24 燃料ガスポンプ
26 水ポンプ
28 空気ブロア
42,42A システム制御手段
44 発電出力演算手段
46,46A 平均指標演算手段
48,48A 乖離度演算手段
50,50A 乖離度判定手段
52,52A 温度補正量演算手段
56 劣化指標取得運転設定手段
58 補正量選定運転設定手段
60 劣化補正運転設定手段
94 I-V特性傾き演算手段