(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022152189
(43)【公開日】2022-10-12
(54)【発明の名称】異常判定装置及び異常判定方法
(51)【国際特許分類】
G01N 5/02 20060101AFI20221004BHJP
G01N 27/12 20060101ALI20221004BHJP
G01N 27/22 20060101ALI20221004BHJP
G01N 27/04 20060101ALI20221004BHJP
【FI】
G01N5/02 A
G01N27/12 D
G01N27/22 A
G01N27/04 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021054864
(22)【出願日】2021-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】服部 将志
(72)【発明者】
【氏名】村井 佑多
(72)【発明者】
【氏名】槇 恒
【テーマコード(参考)】
2G046
2G060
【Fターム(参考)】
2G046DB02
2G046DC02
2G046DC03
2G046DC09
2G046DC18
2G060AA01
2G060AB02
2G060AB26
2G060AE19
2G060AF07
2G060AF11
2G060BB08
2G060BB13
2G060HC02
2G060HC04
2G060HC15
(57)【要約】
【課題】異常を高精度に検知することが可能な異常検知方法及び異常検出方法を提供すること。
【解決手段】本発明に係る異常判定装置は、取得部と、判定部とを具備する。取得部は、感応膜を有し検出値を出力するにおいセンサを具備し、においセンサへ測定対象ガスを供給する測定期間と、感応膜へ吸着したにおい成分を脱離させるクリーニング期間を繰り返す検出ユニットから、測定期間における検出値を取得する。判定部は、感応膜の周囲の湿度及び温度に応じて補正された検出値が閾値を超えた測定期間を第1の測定期間とし、第1の測定期間の後の測定期間を第2の測定期間とすると、第2の測定期間における検出値が、第1の測定期間における検出値のピーク値である第1のピーク値を超えるとき、異常と判定する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
感応膜を有し検出値を出力するにおいセンサを具備し、前記においセンサへ測定対象ガスを供給して測定する測定期間と前記感応膜へ吸着したにおい成分を脱離させるクリーニングをするクリーニング期間を繰り返す検出ユニットから、前記測定期間における前記検出値を取得する取得部と、
前記感応膜の周囲の湿度及び温度に応じて補正された前記検出値が閾値を超えた前記測定期間を第1の測定期間とし、前記第1の測定期間の後の測定期間を第2の測定期間とすると、前記第2の測定期間における前記検出値が、前記第1の測定期間における前記検出値のピーク値である第1のピーク値を超えるとき、異常と判定する判定部と
を具備する異常判定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の異常判定装置であって、
前記取得部は、前記第1の測定期間において前記第1の測定期間の開始時刻に較正された前記検出値を取得し、前記第2の測定期間において前記第2の測定期間の開始時刻に較正されていない前記検出値を取得する
異常判定装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の異常判定装置であって、
前記判定部は、前記第1のピーク値が前記閾値を超えたとき、第1の注意喚起信号を出力し、前記異常と判定したとき、前記第1の注意喚起信号とは異なる第2の注意喚起信号を出力する
異常判定装置。
【請求項4】
請求項1から3のうちいずれか1項に記載の異常判定装置であって、
前記検出ユニットは、前記においセンサを収容するチャンバと、前記チャンバ内へ前記測定対象ガスを供給する第1供給部と、前記チャンバ内へ前記測定対象ガスより前記におい成分の濃度が小さいクリーニングガスを供給する第2供給部を備え、
前記異常判定装置は、前記においセンサ、前記第1供給部及び前記第2供給部を制御し、前記測定期間に前記チャンバ内へ前記測定対象ガスを供給させ、前記クリーニング期間に前記チャンバ内へ前記クリーニングガスを供給させる制御部をさらに具備する
異常判定装置。
【請求項5】
請求項4に記載の異常判定装置であって、
前記制御部は、前記第2の測定期間の前の前記クリーニング期間を、前記第1の測定期間の前の前記クリーニング期間より短くする
異常判定装置。
【請求項6】
請求項1から3のうちいずれか1項に記載の異常判定装置であって、
前記第2の測定期間の前の前記クリーニング期間を、前記第1の測定期間の前の前記クリーニング期間より短くする制御部
をさらに具備する異常判定装置。
【請求項7】
請求項4から6のうちいずれか1項に記載の異常判定装置であって、
前記制御部は、前記第2の測定期間における前記検出値のピーク値である第2のピーク値が前記第1のピーク値以下である場合、測定を終了する
異常判定装置。
【請求項8】
請求項1から3のうちいずれか1項に記載の異常判定装置であって、
前記第2の測定期間における前記検出値のピーク値である第2のピーク値が前記第1のピーク値以下である場合、測定を終了する制御部
をさらに具備する異常判定装置。
【請求項9】
請求項1から8のうちいずれか1項に記載の異常判定装置であって、
前記判定部は、前記第2の測定期間における前記検出値のピーク値である第2のピーク値が前記第1のピーク値を超え、かつ前記第2のピーク値が前記閾値を超える前記第2の測定期間が所定回数以上連続したとき、異常と判定する
異常判定装置。
【請求項10】
請求項1から8のうちいずれか1項に記載の異常判定装置であって、
前記判定部は、前記第2の測定期間における前記検出値のピーク値である第2のピーク値が前記第1のピーク値を超え、かつ前記第2のピーク値が次第に増加するとき、異常と判定する
異常判定装置。
【請求項11】
請求項1から8のうちいずれか1項に記載の異常判定装置であって、
前記判定部は、前記第1の測定期間の次の第2の測定期間における前記検出値のピーク値である第2のピーク値が前記第1のピーク値を超えるとき、異常と判定する
異常判定装置。
【請求項12】
感応膜を有し検出値を出力するにおいセンサを具備する検出ユニットにおいて、前記においセンサへ測定対象ガスを供給する測定期間と前記感応膜へ吸着したにおい成分を脱離させるクリーニングをするクリーニング期間を繰り返す異常判定方法であって、
前記感応膜の周囲の湿度及び温度に応じて補正された前記検出値が閾値を超えた前記測定期間を第1の測定期間とし、前記第1の測定期間の後の測定期間を第2の測定期間とすると、前記第2の測定期間における前記検出値が、前記第1の測定期間における前記検出値のピーク値である第1のピーク値を超えるとき、異常と判定する
異常判定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、におい成分により異常を判定する異常判定装置及び異常判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
におい成分の検出により環境中のガス種を判定し、火災や漏電、物質漏洩等の異常発生を検知する異常判定装置が利用されている。このような異常判定装置では、ガス種の判定精度を向上させるため、様々な手法が検討されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、半導体ガスセンサによるCO検知において、本検知の前に予備検知を行い、事前にCOの有無を確認する手法が開示されている。また、特許文献2には、ガス検知前に待機時間を設け、周囲環境を安定化させた上でガス検知を行うことにより判定の信頼性を向上させる手法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010-54213号公報
【特許文献2】特開2016-145748号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の手法では、ヒータ加熱条件を変えて間欠動作でのヒータ加熱を行い、所定のヒータ加熱温度に達する前のクリーニング動作の際にCOの有無を事前に検知(予備検知)する。予備検知によりCOが存在しないと判断した場合にはヒータ加熱を停止し、COが存在すると判断いた場合にのみヒータ加熱を継続し、本検知を実施する。したがって、特許文献1に記載の手法はCOの検知精度向上ではなく、省電力に寄与する手法である。
【0006】
また、特許文献2に記載の手法は、ヒータ加熱を最初に行い、周囲環境の酸素濃度を一定にした上でガス検知を開始することで酸素濃度による測定ばらつきを抑制し、判定精度の向上に寄与する手法である。特許文献1及び2のいずれの手法もガス測定方法を通常から変更することを行っているが、異常検知の精度を向上させる手法ではなく、異常がなくても異常と誤判定してしまう可能性がある。
【0007】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、異常を高精度に検知することが可能な異常判定装置及び異常判定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る異常判定装置は、取得部と、判定部とを具備する。
上記取得部は、感応膜を有し検出値を出力するにおいセンサを具備し、上記においセンサへ測定対象ガスを供給して測定する測定期間と上記感応膜へ吸着したにおい成分を脱離させるクリーニングをするクリーニング期間を繰り返す検出ユニットから、上記測定期間における上記検出値を取得する。
上記判定部は、上記感応膜の周囲の湿度及び温度に応じて補正された上記検出値が閾値を超えた上記測定期間を第1の測定期間とし、上記第1の測定期間の後の測定期間を第2の測定期間とすると、上記第2の測定期間における上記検出値が、上記第1の測定期間における上記検出値のピーク値である第1のピーク値を超えるとき、異常と判定する。
【0009】
上記取得部は、上記第1の測定期間において上記第1の測定期間の開始時刻に較正された上記検出値を取得し、上記第2の測定期間において上記第2の測定期間の開始時刻に較正されていない上記検出値を取得してもよい。
【0010】
上記判定部は、上記第1のピーク値が上記閾値を超えたとき、第1の注意喚起信号を出力し、上記異常と判定したとき、上記第1の注意喚起信号とは異なる第2の注意喚起信号を出力してもよい。
【0011】
上記検出ユニットは、上記においセンサを収容するチャンバと、上記チャンバ内へ上記測定対象ガスを供給する第1供給部と、上記チャンバ内へ上記測定対象ガスより上記におい成分の濃度が小さいクリーニングガスを供給する第2供給部を備え、
上記異常判定装置は、上記においセンサ、上記第1供給部及び上記第2供給部を制御し、上記測定期間に上記チャンバ内へ上記測定対象ガスを供給させ、上記クリーニング期間に上記チャンバ内へ上記クリーニングガスを供給させる制御部をさらに具備してもよい。
【0012】
上記制御部は、上記第2の測定期間の前の上記クリーニング期間を、上記第1の測定期間の前の上記クリーニング期間より短くしてもよい。
【0013】
上記異常判定装置は、上記第2の測定期間の前の上記クリーニング期間を、上記第1の測定期間の前の上記クリーニング期間より短くする制御部をさらに具備してもよい。
【0014】
上記制御部は、上記第2の測定期間における上記検出値のピーク値である第2のピーク値が上記第1のピーク値以下である場合、測定を終了してもよい。
【0015】
上記異常判定装置は、上記第2の測定期間における上記検出値のピーク値である第2のピーク値が上記第1のピーク値以下である場合、測定を終了する制御部をさらに具備してもよい。
【0016】
上記判定部は、上記第2の測定期間における上記検出値のピーク値である第2のピーク値が上記第1のピーク値を超え、かつ上記第2のピーク値が上記閾値を超える上記第2の測定期間が所定回数以上連続したとき、異常と判定してもよい。
【0017】
上記判定部は、上記第2の測定期間における上記検出値のピーク値である第2のピーク値が上記第1のピーク値を超え、かつ上記第2のピーク値が次第に増加するとき、異常と判定してもよい。
【0018】
上記判定部は、上記第1の測定期間の次の第2の測定期間における上記検出値のピーク値である第2のピーク値が上記第1のピーク値を超えるとき、異常と判定してもよい。
【0019】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る異常判定方法は、感応膜を有し検出値を出力するにおいセンサを具備する検出ユニットにおいて、上記においセンサへ測定対象ガスを供給する測定期間と上記感応膜へ吸着したにおい成分を脱離させるクリーニングをするクリーニング期間を繰り返す異常判定方法であって、
上記感応膜の周囲の湿度及び温度に応じて補正された上記検出値が閾値を超えた上記測定期間を第1の測定期間とし、上記第1の測定期間の後の測定期間を第2の測定期間とすると、上記第2の測定期間における上記検出値が、上記第1の測定期間における上記検出値のピーク値である第1のピーク値を超えるとき、異常と判定する。
【発明の効果】
【0020】
以上のように本発明によれば、異常を高精度に検知することが可能な異常検知方法及び異常検出方法を提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の実施形態に係る異常判定装置の模式図である。
【
図2】上記異常判定装置が備える検出ユニットの測定フローを示す模式図である。
【
図3】上記検出ユニットのクリーニングフローを示す模式図である。
【
図4】上記検出ユニットの第1ポンプ及び第2ポンプの動作タイミングを示すタイミングチャートである。
【
図5】上記検出ユニットの通常時の動作を示すタイミングチャートである。
【
図6】上記検出ユニットの動作の変更を示すタイミングチャートである。
【
図7】上記異常判定装置が備える制御ユニットの動作をフローチャートである。
【
図8】上記検出ユニットが備えるにおいセンサの出力と検出ユニットの動作を示す模式図である。
【
図9】上記検出ユニットが備えるにおいセンサの出力と検出ユニットの動作を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の実施形態に係る異常判定装置について説明する。
【0023】
[異常判定装置の構成]
図1は本実施形態に係る異常判定装置100の構成を示すブロック図である。同図に示すように異常判定装置100は、検出ユニット110と制御ユニット120を備える。
【0024】
検出ユニット110は、チャンバ111、においセンサ112、湿度センサ113、温度センサ114、第1ポンプ115、第2ポンプ116及びフィルタ117を備える。
【0025】
チャンバ111は、においセンサ112、湿度センサ113及び温度センサ114を収容する。チャンバ111には第1吸入口111a、第2吸入口111b及び排出口111cが設けられている。
【0026】
においセンサ112はチャンバ111内に収容され、におい成分が吸着する感応膜を備え、感応膜へのにおい成分の吸着量を示す検出値を出力する。具体的には、においセンサ112は、一定の共振周波数で振動する振動子と、振動子表面に設けられた感応膜を備えるものとすることができる。感応膜ににおい成分が吸着すると、その質量に応じて振動子の共振周波数が下がるため、この共振周波数の変動量を感応膜へのにおい成分の吸着量を示す検出値とすることができる。
【0027】
においセンサ112は、例えば、QCM(Quartz Crystal Microbalance:水晶振動子マイクロバランス)センサとすることができる。QCMセンサは、水晶振動子の電極表面ににおい成分を吸着するための感応膜が設けられた構成を有し、感応膜へのにおい成分の吸着量を共振周波数の変動量によって検出することがきる。また、においセンサ112はQCMセンサ以外にも、セラミック振動子、表面弾性波素子、カンチレバー又はダイヤフラム等の振動子を備え、感応膜へのにおい成分の吸着による重量増加や膨張応力増加といった物理変化を電気信号に変換するものであってもよい。さらに、においセンサ112は、感応膜として半導体材料を用いて、におい成分が吸着する事で抵抗値変化する半導体式センサであってもよい。
【0028】
検出するにおい成分は、典型的には高分子化合物等の空気中において比較的重い分子であるが、特に限定されない。においセンサ112が検出するにおい成分は人間が嗅覚で感知可能な成分に限られず、気体中に存在する化学種であればよい。
【0029】
図1に示すように検出ユニット110は、チャンネル1(ch1)からチャンネル16(ch16)まで16個のにおいセンサ112を備える。各においセンサ112は、それぞれが異なる感応膜を備え、それぞれに異なるにおい成分が吸着するものとすることができる。検出ユニット110が備えるにおいセンサ112の数は特に限定されず、1つ以上であればよい。
【0030】
湿度センサ113はチャンバ111内に収容され、チャンバ111内の湿度を検出する。湿度センサ113は、例えば、容量型や抵抗型を採用できる。前者は、二つの電極の間に感応膜が設けられ、におい成分の着脱により、感応膜の誘電率が変化し、それを例えば、周波数または電圧変化として検出するものである。また、抵抗式は、対向した櫛歯電極の覆うように感応膜が設けられ、におい成分の着脱により変化する感応膜の抵抗値変化をとらえて、検出するものである。温度センサ114はチャンバ111内に収容され、チャンバ111内の温度を検出する。温度センサ114の種類は特に限定されない。
【0031】
第1ポンプ115は、第1吸入口111aに接続され、第1吸入口111aを介してチャンバ111内に気体を送出する。第1ポンプ115は例えばダイアフラムポンプとすることができるが他のポンプであってもよい。第1ポンプ115は、測定対象ガスをチャンバ111内に供給する第1供給部として機能する。なお、第1ポンプ115に替えてファンを用いてもよい。
【0032】
第2ポンプ116は、第2吸入口111bに接続され、第2吸入口111bを介してチャンバ111内に気体を送出する。第2ポンプ116は例えばダイアフラムポンプとすることができるが他のポンプであってもよい。なお、第2ポンプ116に替えてファンを用いてもよい。
【0033】
フィルタ117は、第2吸入口111bに接続され、第2吸入口111bを介してチャンバ111内に流入する気体からにおい成分を除去し、クリーニングガスを生成する機能を有する。フィルタ117は少なくとも各においセンサ112の検出対象であるにおい成分を除去可能な構成を有する。また、フィルタ117は水分子を除去可能なものが好適である。第2ポンプ116及びフィルタ117は、チャンバ111内にクリーニングガスを供給する第2供給部として機能する。なお、検出ユニット110はフィルタ117を有さず、クリーニングガスの供給源からチャンバ111内にクリーニングガスを供給するものであってもよい。
【0034】
制御ユニット120は、検出ユニット110と接続され、検出ユニット110の出力を演算処理する。
図1に示すように制御ユニット120は、取得部121、演算部122、判定部123、記憶部124及び制御部125を備える。
【0035】
取得部121は、
図1に示すように各においセンサ112、湿度センサ113及び温度センサ114と接続され、各センサの出力を取得する。取得部121と各センサの接続は有線でも無線でもよい。取得部121は、取得した各センサの出力を演算部122に供給する。
【0036】
演算部122は、取得部121から供給された各センサの出力を用いて、後述するように補正演算処理を実行し、算出結果を判定部123に供給する。
【0037】
判定部123は、演算部122から供給された算出結果を用いて異常の判定を行う。また、判定部123は、異常の判定に加え、におい成分の有無、におい成分の濃度、においの種類及びにおいの強度のうち少なくともいずれか一つを判定してもよい。判定部123は判定結果と検出ユニット110による測定結果を記憶部124に供給する。記憶部124は、判定部123による判定結果と検出ユニット110による測定結果を記憶する。
【0038】
制御部125は、判定部123による判定結果に基づいて検出ユニット110を制御する。具体的には制御部125は第1ポンプ115、第2ポンプ116、においセンサ112、湿度センサ113及び温度センサ114に接続され、これらの動作開始や動作停止を制御することができる。また、制御部125は、これらの一部のみ、例えば第1ポンプ115と第2ポンプ116のみを制御するものであってもよい。
【0039】
上述した制御ユニット120の各構成は、CPU(Central Processing Unit)等のハードウェアとプログラム等のソフトウェアの協働により実現される機能的構成であり、その実現態様は特に限定されない。即ち制御ユニット120は、検出ユニット110と一体的に構成された情報処理ユニットによって実現されてもよく、検出ユニット110とは独立した情報処理ユニットによって実現されてもよい。また、制御ユニット120の各機能的構成はネットワークを介して接続された複数の情報処理ユニットによって実現されてもよい。
【0040】
異常判定装置100は以上のような構成を有する。なお、検出ユニット110は制御部125に替えてユーザが制御してもよい。この場合、制御ユニット120は制御部125を備えないものであってもよい。
【0041】
[検出ユニットの動作]
検出ユニット110の動作について説明する。
図2及び
図3は検出ユニット110の動作を示す模式図である。検出ユニット110は、におい検出用の第1の状態とクリーニング用の第2の状態をとる。
図2は第1の状態を示し、
図3は第2の状態を示す。
【0042】
第1の状態では、第1ポンプ115を駆動し、第2ポンプ116を停止させる。
図2に矢印F1で示すように、第1ポンプ115により検出ユニット110の近傍の外気が第1吸入口111aからチャンバ111内に流入し、チャンバ111から排出口111cを通過して排出される。以下、この第1の状態での気体の流れを「測定フロー」とし、測定フローにおいてチャンバ11内に流入する気体を「測定対象ガス」とする。
【0043】
第2の状態では、第1ポンプ115を停止させ、第2ポンプ116を駆動する。
図3に矢印F2で示すように、第2ポンプ116により検出ユニット110の近傍の外気が第2吸入口111bからチャンバ111の室内に流入し、チャンバ111から排出口111cを通過して排出される。第2吸入口111bにはフィルタ117が設けられているため、チャンバ111にはにおい成分が除去された外気が流入する。以下、この第2の状態での気体の流れを「クリーニングフロー」とし、クリーニングフローにおいてチャンバ111内に流入する気体を「クリーニングガス」とする。換言すれば、クリーニングガスは測定対象ガスよりにおい成分の濃度が小さいガスである。
【0044】
図4は、検出ユニット110における第1ポンプ115及び第2ポンプ116の動作状態を示すタイミングチャートである。同図に示すように、検出ユニット110では、「測定」及び「クリーニング」が実行される。
【0045】
「測定」では、検出ユニット110を第1の状態とし、即ち第1ポンプ115を駆動し、第2ポンプ116を停止させる。これにより、上記測定フロー(
図2参照)が発生し、チャンバ111に測定対象ガスが流入する。測定対象ガスに含まれるにおい成分はにおいセンサ112の感応膜に吸着し、においセンサ112により検出される。同時に湿度センサ113によりチャンバ111内の湿度が測定され、温度センサ114によりチャンバ111内の温度が測定される。
図4に示すように測定が実行されている時間を測定期間Tmとする。
【0046】
また、「クリーニング」では、検出ユニット110を第2の状態とし、即ち第1ポンプ115を停止させ、第2ポンプ116を駆動させる。これにより、上記クリーニングフロー(
図3参照)が発生し、チャンバ111にクリーニングガスが流入する。これにより、各においセンサ112の感応膜に吸着していたにおい成分が脱離する。
図4に示すようにクリーニングが実行されている時間をクリーニング期間Tcとする。
図4に示すようにクリーニング期間Tcの間ではアイドリングが実行される。アイドリングでは、第1ポンプ115及び第2ポンプ116は共に停止される。
【0047】
検出ユニット110は、においセンサ112の検出値に基づいてその動作を変更する。
図5は、検出ユニット110の通常時の動作を示すタイミングチャートである。同図に示すように、通常時では、検出ユニット110は「クリーニング」、「測定」、「クリーニング」を順に実行する。このときの測定が実行されている時間を第1測定期間Tm1とし、クリーニングが実行されている時間を第1クリーニング期間Tc1とする。検出ユニット110は一定時間のアイドリングの後、再び「クリーニング」、「測定」、「クリーニング」を順に実行し、以下このサイクルを繰り返す。
【0048】
図6は、検出ユニット110の動作の変更を示すタイミングチャートである。同図に示すように検出ユニット110が第1クリーニング期間Tc1の「クリーニング」及び第1測定期間Tm1の「測定」を実行している。この測定においてにおいセンサ112の検出値が閾値S以上であると、検出ユニット110は短時間のクリーニングを実行する。
【0049】
図6に示すように、このクリーニングが実行されている時間を第2クリーニング期間Tc2とする。第2クリーニング期間Tc2は第1クリーニング期間Tc1より短い時間であり、例えば、第1クリーニング期間Tc1の1/10の時間である。また、においセンサ112の検出値が一定値以上となった第1測定期間Tm1以降の測定期間を第2測定期間Tm2とする。第2測定期間Tm2は第1測定期間Tm1と同等の時間とすることができる。検出ユニット110はにおいセンサ112の検出値が一定値以上となると、
図6に示すように第2クリーニング期間Tc2のクリーニングと第2測定期間Tm2の測定を交互に繰り返し実行する。
【0050】
[制御ユニットの動作]
制御ユニット120の動作について説明する。
図7は制御ユニット120の動作を示すフローチャートである。
図8及び
図9は、検出ユニット110における各においセンサ112の検出値(CH1~CH16)を示すグラフと、検出ユニット110の動作のタイミングチャートを示す図である。各においセンサ112の検出値は、上記のように感応膜へのにおい成分の吸着量を示す値であり、ここでは共振周波数の周波数変動(単位はHz)である。
【0051】
検出ユニット110が通常時の動作(
図5参照)を開始すると、
図7に示すように検出ユニット110において、第1クリーニング期間Tc1のクリーニングが開始(St101)される。第1クリーニング期間Tc1の終了後、検出ユニット110において第1測定期間Tm1の測定が開始(St102)され、測定対象ガスに含まれるにおい成分はにおいセンサ112の感応膜に吸着する。また、検出ユニット110は第1測定期間Tm1の開始時に回路的なゼロ較正(St103)を実行し、
図8に示すように、各においセンサ112の検出値は第1測定期間Tm1の開始時刻(図中R)にゼロになるように較正される。
【0052】
続いて、取得部121は、各においセンサ112の検出値を取得する(St104)。また、取得部121は、湿度センサ113からチャンバ111内の湿度を取得し、温度センサ114からチャンバ111内の温度を取得する(St105)。取得部121は、取得した各においセンサ112の検出値、湿度及び温度を演算部122に供給する。
【0053】
第1測定期間Tm1が終了すると、演算部122は、各においセンサ112の検出値を湿度及び温度を用いて補正する(St106)。においセンサ112は、チャンバ111内の湿度及び温度により検出値に影響が生じるが、演算部122は湿度センサ113及び温度センサ114の出力を用いて湿度及び温度の影響をキャンセルすることができる。演算部122は、補正した各においセンサ112の検出値を判定部123に供給する。
【0054】
判定部123は、補正された各においセンサ112の検出値の、第1測定期間Tm1におけるピーク値(以下、第1ピーク値)を特定し、第1ピーク値と閾値を比較する(St107)。
図8において閾値Sを示す。閾値Sは予め定められ、記憶部124に記憶されているものとすることができる。また、閾値Sは後述するように、判定部123が各においセンサ112の検出値に基づいて決定したものであってもよい。
【0055】
以下、
図8に示すようににおいセンサ112のうち「CH7」のにおいセンサ112の検出値を例にとって説明する。同図に示すように、第1ピーク値P1が閾値Sを超えた場合(St107;Yes)、検出ユニット110は
図6に示す動作を実行する。即ち検出ユニット110は、第2クリーニング期間Tc2のクリーニングを実行した後、第2測定期間Tm2の測定を実行する(St108)。このとき検出ユニット110は、各においセンサ112の検出値のゼロ較正を実行しない。また、判定部123は、第1ピーク値P1が閾値Sを超えたという判定履歴を記憶部124に供給し、記憶させることができる。
【0056】
一方、第1ピーク値が閾値S以下の場合(St107;No)、検出ユニット110は、
図5に示すように第1クリーニング期間Tc1のクリーニングを実行した後、アイドリングを実行する(St109)。以降、検出ユニット110は、
図5に示すサイクルを繰り返す。このサイクルにおいて第1ピーク値が閾値Sを超えた場合、
図6に示す異常動作を実行し、即ち第2クリーニング期間Tc2のクリーニングを実行した後、第2測定期間Tm2の測定を実行する(St108)。
【0057】
第2測定期間Tm2の測定が終了すると制御ユニット120は、上記St104~St106を再度実行する(St108)。即ち、取得部121が各においセンサ112の検出値を取得し(St104)、さらに湿度及び温度を取得する(St105)。演算部122は、各においセンサ112の検出値を湿度及び温度を用いて補正する(St106)。演算部122は、補正した各においセンサ112の検出値を判定部123に供給する。
【0058】
続いて、判定部123は、補正された各においセンサ112の検出値の、第2測定期間Tm2におけるピーク値(以下、第2ピーク値)を特定し、第2ピーク値と第1ピーク値を比較する(St110)。
図8に示すように、第2ピーク値P2が第1ピーク値P1を超える場合(St110;Yes)、検出ユニット110及び制御ユニット120は、上記St108を繰り返し実行する(St111)。即ち、検出ユニット110は、
図6に示すように第2クリーニング期間Tc2のクリーニングと第2測定期間Tm2の測定を繰り返し実行する。
【0059】
制御ユニット120は第2測定期間Tm2毎に上記St104~St106を再度実行し、演算部122が温度及び湿度を用いて補正した各においセンサの検出値を判定部123に供給する。なお、
図8及び
図9では最初の第2測定期間Tm2における第2ピーク値P2のみを示すが、判定部123は各第2測定期間Tm2における第2ピーク値を特定する。
【0060】
続いて、判定部123は、第2ピーク値を用いて異常か否かを判定する(St112)。判定部123は、第2ピーク値が閾値Sを超える第2測定期間Tm2が所定回数以上連続した場合、異常と判定することができる。
図8では、全ての第2測定期間Tm2での第2ピーク値が閾値Sを超えている例を示すがこれに限られず、判定部123は一部の第2ピーク値が閾値Sを超えている場合に異常と判定してもよい。
【0061】
一方、
図9に示すように、第2ピーク値P2が第1ピーク値P1以下の場合(St110;No)、検出ユニット110は、
図5に示すように第1クリーニング期間Tc1クリーニングを実行した後、アイドリングを実行する(St109)。以降、検出ユニット110は、
図5に示すサイクルを繰り返す。このサイクルにおいて第1ピーク値が閾値Sを超えた場合、
図6に示す異常検出用の動作を実行し、St108以降のステップを再度実行する。
【0062】
異常判定装置100は以上のようにして動作する。なお、検出ユニット110の制御(第1ポンプ115及び第2ポンプ116の駆動、停止等)はユーザが行ってもよく、制御ユニット120の制御部125が行ってもよい。また、制御ユニット120の動作についても一部又は全部をユーザが行ってもよい。また、上記説明では、においセンサ112のうち一つ(CH7)について説明したが、他のにおいセンサ112についても同様の手法で異常を判定することができる。
【0063】
また、異常判定装置100は、上記St107において、第1ピーク値P1に替えて第1測定期間Tm1における検出値を用いてもよい。また、上記St110において第2ピーク値P2に替えて第2測定期間Tm2における検出値を用いてもよい。
【0064】
[異常判定装置による効果]
異常判定装置100による効果について説明する。上記のように異常判定装置100では、第1測定期間Tm1においてにおいセンサ112の検出値のピーク値(第1ピーク値)が閾値を超え(St107;Yes)ても、それだけでは異常と判定せず、続く第2測定期間Tm2においてにおいセンサ112の検出値のピーク値(第2ピーク値)が第1ピーク値を超えた場合(St110;Yes)に異常と判定する。
【0065】
このため、異常判定装置100は、環境中に一過性のにおい成分が発生した場合には異常と判定せず、環境中に一定時間にわたってにおい成分が存在している場合にのみ異常と判断することができ、異常を確実に判定することが可能である。また、異常判定装置100は、第1ピーク値が閾値以下(St107;No)又は第2ピーク値が第1ピーク値以下(St110;No)の場合は、通常時の測定サイクル(
図5参照)を実行する。通常時の測定サイクルはアイドリング時間を有し、省電力で実行可能である。したがって、異常判定装置100は、省電力性と異常検知の精度向上を共に実現可能である。
【0066】
さらに、異常判定装置100は、第2クリーニング期間Tc2を第1クリーニング期間Tc1より短くすることができる。(
図6参照)。これによりクリーニングと測定のサイクル(
図6参照)を短時間で多く繰り返すことが可能となり、異常判定を迅速に行うことができる。また、ポンプ駆動時間が短縮できるので、省電力化も可能である。なお、異常判定装置100は第2クリーニング期間Tc2を第1クリーニング期間Tc1と同等とすることも可能である。また、異常判定装置100は第2測定期間Tm2の前にはゼロ較正を実施しない。これにより、軽微なにおいでも精度よく異常と判定することが可能となる。
【0067】
[閾値について]
判定部123が異常判定に用いる閾値S(
図8参照)は、予め定められているものであってもよく、各においセンサ112が検出するにおい成分の種類毎に異なるものであってもよい。例えば、異常検知の重要性が高いにおい成分は閾値を低くすることも可能である。また、判定部123は時間帯や設備の稼働状況等に応じて閾値Sを変更してもよく、例えば夜間の無人の時間帯は閾値を低くして、異常を早めに判定することも可能である。
【0068】
また、判定部123は、検出ユニット110による事前の測定により閾値Sを決定してもよい。判定部123は例えば、異常判定装置100の環境に異常が生じていない一定期間にわたって各においセンサ112の検出値をモニタリングし、その間の検出値の変動幅を算出することができる。一定期間は例えば1週間とすることができる。判定部123は、その変動幅に基づいて閾値Sを決定することができ、例えば変動幅の3倍を閾値Sとすることができる。
【0069】
[他の異常判定方法について]
上記説明において判定部123は、第2ピーク値が閾値Sを超える第2測定期間Tm2が所定回数以上連続した場合、異常と判定する(St112)としたが判定部123は他の方法によって異常と判定することも可能である。
【0070】
例えば判定部123は、第1測定期間Tm1の次の1つの第2測定期間Tm2において第2ピーク値が閾値Sを超えた場合、異常と判定してもよい。また、判定部123は、第2ピーク値が第1ピーク値を超えると共に、第2測定期間Tm2毎に次第に増加するとき、異常と判定することも可能である。
【0071】
[注意喚起信号について]
判定部123は、上記のように第2ピーク値が第1ピーク値を超えた場合(St110;Yes)に異常と判定する。この際、判定部123は、注意喚起信号を出力することができる。注意喚起信号は、警告音声や警告表示、電子メール送付等のユーザに異常発生を通知する信号である。判定部123は、第1ピーク値が閾値を超えた場合(St107;Yes)には、注意喚起信号を出力せず、第1ピーク値が閾値を超えたという判定履歴を記憶部124に記憶させることができる。これによりユーザは、異常発生を注意喚起信号により把握することができ、記憶部124に記憶された判定履歴を参照することもできる。
【0072】
また、判定部123は、第1ピーク値が閾値を超えた場合(St107;Yes)に第1の注意喚起信号を出力し、第2ピーク値が第1ピーク値を超えた場合(St110;Yes)に第2の注意喚起信号を出力することも可能である。この場合、第2の注意以喚起信号は第1の注意喚起信号とは異なる注意喚起信号とすることができ、例えば第1の注意喚起信号よりも音量が大きい、あるいは点滅速度が大きい等、注意喚起の程度が大きいものとすることができる。これにより、ユーザは第1の注意喚起信号により異常の兆候を把握し、第2の注意喚起信号により異常の発生を把握することができる。
【0073】
[測定終了について]
検出ユニット110は、第2ピーク値が第1ピーク値以下の場合(St110;No)、通常の動作状態(
図5参照)に戻る(St109)としたが、通常の動作状態(
図5参照)に戻らずに測定を終了してもよい。これにより、異常の恐れがない場合に測定を終了できるので、さらなる省電力化を図ることができる。また、検出ユニット110は、第1ピーク値が閾値以下の場合(St107;No)も、通常の動作状態(
図5参照)に戻らずに測定を終了してもよい。この場合もさらなる省電力化を図ることができる。
【0074】
[異常判定装置の適用例]
異常判定装置100は上記のように、異常を確実に判定することでき、かつ省電力で動作可能である。これにより、異常判定装置100は、環境モニタリングなどの無人環境で定期的に異常の有無をセンシングしているような用途において好適に利用可能である。異常判定装置100の判定対象となるにおい成分は特に限定されないが、過電流や火災により発生するにおい成分や、洩漏により絶縁不良の原因となる絶縁油のにおい成分等が挙げられる。
【符号の説明】
【0075】
100…異常判定装置
110…検出ユニット
111…チャンバ
112…においセンサ
113…湿度センサ
114…温度センサ
115…第1ポンプ
116…第2ポンプ
117…フィルタ
120…制御ユニット
121…取得部
122…演算部
123…判定部
124…記憶部
125…制御部