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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022152275
(43)【公開日】2022-10-12
(54)【発明の名称】全固体電池用電極および全固体電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/62 20060101AFI20221004BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20221004BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20221004BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20221004BHJP
【FI】
H01M4/62 Z
H01M4/13
H01M10/0562
H01M10/052
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021054985
(22)【出願日】2021-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000005810
【氏名又は名称】マクセル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115901
【弁理士】
【氏名又は名称】三輪 英樹
(74)【代理人】
【識別番号】100078064
【弁理士】
【氏名又は名称】三輪 鐵雄
(72)【発明者】
【氏名】増田 俊平
(72)【発明者】
【氏名】松岡 尚輝
(72)【発明者】
【氏名】関谷 智仁
(72)【発明者】
【氏名】金江 達利
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 優太
(72)【発明者】
【氏名】上剃 春樹
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ02
5H029AK01
5H029AK02
5H029AK03
5H029AK05
5H029AL02
5H029AL03
5H029AL06
5H029AL07
5H029AL11
5H029AL12
5H029AM12
5H029DJ09
5H029EJ07
5H029HJ01
5H050AA02
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA02
5H050CA03
5H050CA05
5H050CA07
5H050CA08
5H050CA09
5H050CA11
5H050CB02
5H050CB03
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB11
5H050CB12
5H050DA02
5H050DA13
5H050EA15
5H050HA01
(57)【要約】
【課題】 負荷特性に優れた全固体電池と、前記全固体電池を構成可能な電極とを提供する。本発明は持続可能な開発目標(SDGs)の目標12、3、7、11に関連する。
【解決手段】 本発明の全固体電池用電極は、活物質、固体電解質および導電助剤を含有する電極合剤の成形体を有し、前記電極合剤の成形体は、前記活物質の少なくとも一部と前記固体電解質の少なくとも一部とを含む造粒体からなる電極材料を含有し、前記電極材料は、前記固体電解質として、粒状のアルジロダイト型硫化物系固体電解質を含有し、前記電極合剤の成形体全量中の、前記固体電解質の全含有量:Ms(質量%)と、前記導電助剤の含有量:Mc(質量%)との比Ms/Mcが、6~17であることを特徴とするものである。また、本発明の全固体電池は、正極および負極のうちの少なくとも一方が、本発明の全固体電池用電極であることを特徴とするものである。
【選択図】 図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
活物質、固体電解質および導電助剤を含有する電極合剤の成形体を有する全固体電池用電極であって、
前記電極合剤の成形体は、前記活物質の少なくとも一部と前記固体電解質の少なくとも一部とを含む造粒体からなる電極材料を含有し、
前記電極材料は、前記固体電解質として、粒状のアルジロダイト型硫化物系固体電解質を含有し、
前記電極合剤の成形体全量中の、前記固体電解質の全含有量:Ms(質量%)と、前記導電助剤の含有量:Mc(質量%)との比Ms/Mcが、6~17であることを特徴とする全固体電池用電極。
【請求項2】
前記電極材料に含まれる前記アルジロダイト型固体電解質の含有量が、前記電極材料に含まれる前記活物質:100質量部に対して2.5~60質量部である請求項1に記載の全固体電池用電極。
【請求項3】
全固体電池の正極に使用される請求項1または2に記載の全固体電池用電極。
【請求項4】
正極、負極、および前記正極と前記負極との間に介在する固体電解質層を有する全固体電池であって、
前記正極および前記負極のうちの少なくとも一方が、請求項1または2に記載の全固体電池用電極であることを特徴とする全固体電池。
【請求項5】
前記正極が、請求項3に記載の全固体電池用電極である請求項4に記載の全固体電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、負荷特性に優れた全固体電池と、前記全固体電池を構成可能な電極に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話、ノート型パーソナルコンピュータなどのポータブル電子機器の発達や、電気自動車の実用化などに伴い、小型・軽量で、かつ高容量・高エネルギー密度の電池が必要とされるようになってきている。
【0003】
現在、この要求に応え得るリチウム電池、特にリチウムイオン電池では、非水電解質として有機溶媒とリチウム塩とを含む有機電解液が用いられている。
【0004】
そして、リチウムイオン電池の適用機器の更なる発達に伴って、リチウムイオン電池の更なる長寿命化・高容量化・高エネルギー密度化が求められていると共に、長寿命化・高容量化・高エネルギー密度化したリチウムイオン電池の信頼性も高く求められている。
【0005】
しかし、リチウムイオン電池に用いられている有機電解液は、可燃性物質である有機溶媒を含んでいるため、電池に短絡などの異常事態が発生した際に、有機電解液が異常発熱する可能性がある。また、近年のリチウムイオン電池の高エネルギー密度化および有機電解液中の有機溶媒量の増加傾向に伴い、より一層リチウムイオン電池の信頼性が求められている。
【0006】
以上のような状況において、有機溶媒を用いない全固体型のリチウム電池(全固体電池)が注目されている。全固体電池は、従来の有機溶媒系電解質に代えて、有機溶媒を用いない固体電解質の成形体を用いるものであり、固体電解質の異常発熱の虞がなく、高い安全性を備えている。
【0007】
また、全固体電池は、高い安全性だけではなく、高い信頼性および高い耐環境性を有し、かつ長寿命であるため、社会の発展に寄与すると同時に安心、安全にも貢献し続けることができるメンテナンスフリーの電池として期待されている。全固体電池の社会への提供により、国際連合が制定する持続可能な開発目標(SDGs)の17の目標のうち、目標12(持続可能な生産消費形態を確保する)、目標3(あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を促進する)、目標7(すべての人々の、安価かつ信頼できる持続可能な近代的エネルギーへのアクセスを確保する)、および目標11〔包摂的で安全かつ強靭(レジリエント)で持続可能な都市および人間居住を実現する〕の達成に貢献することができる。
【0008】
また、全固体電池においては、種々の改良が試みられている。例えば、特許文献1には、硫化物系無機固体電解質と電極活物質とを造粒した混合材からなる材料を用いることで、全固体電池の性能を高め得ることが記載されている。
【0009】
なお、特許文献1では、硫化物系無機固体電解質の粉体と電極活物質の粉体とを混合して混合粉体とし、これを加圧成形して一旦成形体とする工程を経て前記全固体電池用材料を製造している。そして、この製法を経ることで、前記全固体電池用材料においては、複数の電極活物質粒子同士が互いに隣接することで電子伝導パスが形成され、さらに電極活物質の粒子の間に硫化物系無機固体電解質が配置され、かつ加圧成形によって硫化物系無機固体電解質の粒子が変形し相互に結着して、その粒子形状が消失して連続相となることで、イオン伝導パスが形成されるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2014-192061号公報(特許請求の範囲、段落[0015]、[0016])
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところで、現在、全固体電池においては、その適用分野が急速に拡大しており、例えば大きな電流値での放電が求められる用途への適用も考えられることから、これに応え得るように負荷特性を高めることが求められる。
【0012】
本発明は、前記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、負荷特性に優れた全固体電池と、前記全固体電池を構成可能な電極とを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の全固体電池用電極は、活物質、固体電解質および導電助剤を含有する電極合剤の成形体を有し、前記電極合剤の成形体は、前記活物質の少なくとも一部と前記固体電解質の少なくとも一部とを含む造粒体からなる電極材料を含有し、前記電極材料は、前記固体電解質として、粒状のアルジロダイト型硫化物系固体電解質を含有し、前記電極合剤の成形体全量中の、前記固体電解質の全含有量:Ms(質量%)と、前記導電助剤の含有量:Mc(質量%)との比Ms/Mcが、6~17であることを特徴とするものである。
【0014】
また、本発明の全固体電池は、正極、負極、および前記正極と前記負極との間に介在する固体電解質層を有し、前記正極および前記負極のうちの少なくとも一方が、本発明の全固体電池用電極であることを特徴とするものである。
【0015】
なお、本発明の全固体電池には、一次電池(全固体一次電池)と二次電池(全固体二次電池)とが含まれる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、負荷特性に優れた全固体電池と、前記全固体電池を構成可能な電極とを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の全固体電池用電極が有する電極合剤の成形体の一部の一例を模式的に表す平面図である。
図2図1の点線で囲まれた領域の拡大図である。
図3】本発明の全固体電池用電極が有する電極合剤の成形体の一部の他の例を模式的に表す平面図である。
図4】本発明の全固体電池用電極が有する電極合剤の成形体の一部の他の例を模式的に表す平面図である。
図5】本発明の全固体電池の一例を模式的に表す断面図である。
図6】本発明の全固体電池の他の例を模式的に表す平面図である。
図7図6のI-I線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
<全固体電池用電極>
本発明の全固体電池用電極は、全固体電池の正極または負極に使用されるものであり、活物質、固体電解質および導電助剤を含有する電極合剤の成形体を有している。さらに、電極合剤の成形体が含有する活物質の少なくとも一部と、電極合剤の成形体が含有する固体電解質の少なくとも一部とは、これらを含む造粒体からなる電極材料として、電極合剤の成形体内に存在している。そして、前記電極材料は、固体電解質として、粒状のアルジロダイト型硫化物系固体電解質を含有している。
【0019】
全固体電池用電極材料を構成する電極合剤の成形体を、例えば、活物質と固体電解質とを単に混合して混合粉体とし、これを加圧成形などする工程を経て製造した場合、一般に活物質粒子の表面凹凸が比較的大きく、その凹凸形状に固体電解質粒子が良好に追随できないため、活物質粒子と固体電解質粒子との間に比較的大きな隙間が生じることから、電極合剤の成形体内におけるイオン伝導性(リチウムイオン伝導性)の向上に一定の制限がある。こうした点が、全固体電池の負荷特性向上を阻害する要因となっていた。
【0020】
そこで、本発明の全固体電池用電極では、活物質とアルジロダイト型硫化物系固体電解質とを予め造粒して形成した電極材料を、電極合剤の成形体に含有させることとした。この場合、活物質とアルジロダイト型硫化物系固体電解質とが造粒体と構成していることから、前記電極材料中の活物質粒子とアルジロダイト型硫化物系固体電解質粒子との接触が、単に活物質と固体電解質粒子とを混合した混合物の場合に比べて良好となる。そのため、前記電極材料とは別の固体電解質を前記電極材料と共に使用して電極合剤の成形体を形成した場合にも、前記電極材料中の固体電解質の作用によって、電極合剤の成形体内のイオン伝導性が良好となる。
【0021】
ところで、全固体電池の負荷特性を高めるには、電極を構成する電極合剤の成形体内のイオン伝導性のみならず、電子伝導性が良好であることも求められる。ところが、活物質と固体電解質とを含む造粒体からなる電極材料を使用した場合、活物質粒子の近傍に存在する固体電解質の量が多くなることで、例えば活物質粒子間の電子伝導性を高め難くなる。
【0022】
本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、活物質とアルジロダイト型硫化物系固体電解質とを予め造粒して形成した電極材料を、電極合剤の成形体に含有させた場合であっても、電極合剤の成形体に導電助剤を含有させ、かつ電極合剤の成形体が含有する固体電解質の全量(前記電極材料として含有する固体電解質の量、または前記電極材料として含有する固体電解質の量と前記電極材料以外に含有する固体電解質の量との合計量)と、導電助剤の量とを特定範囲内に調整した場合には、活物質粒子間の電子伝導性を良好にでき、電極合剤の成形体内の電子伝導性の低下を抑え得ることを見出した。
【0023】
本発明の全固体電池用電極においては、前記の各作用によって電極合剤の成形体内でのイオン伝導性および電子伝導性を良好にすることができるため、これを用いて構成した全固体電池(本発明の全固体電池)は、優れた負荷特性を有するものとなる。
【0024】
なお、本発明の全固体電池用電極に含まれる前記電極材料が含有するアルジロダイト型硫化物系固体電解質は、粒状である。
【0025】
特許文献1に記載の全固体電池用材料においては、前記の通り、電極活物質の粒子同士の間に介在する硫化物系無機固体電解質が、粒子形状を消失した連続相となっている。特許文献1では、前記の硫化物系無機固体電解質の連続相によって良好なイオン伝導パスが形成されるとしていることから、この記載に従えば、電極内部でのイオン伝導性を高めて全固体電池の負荷特性を向上させるに際しても、活物質同士の間に存在する固体電解質が、粒状(粒子形状)でなく連続相を形成していることが好ましいと予想される。
【0026】
しかしながら、本発明者らの検討によると、こうした予想に反して、全固体電池用電極が含有する活物質とアルジロダイト型硫化物系固体電解質とを含む造粒体からなる電極材料においては、前記固体電解質が粒状で存在していることが、全固体電池の負荷特性向上を図るに際して有利であることが判明した。その理由は定かではないが、以下の通りではないかと推測している。
【0027】
アルジロダイト型硫化物系固体電解質は、粒状(粒子状)で供されることが通常であるが、このような粒状のアルジロダイト型硫化物系固体電解質は結晶化しており、非晶質状態の場合よりも高いイオン伝導性を有している。全固体電池用電極内において、活物質同士の間に存在する硫化物系固体電解質が、粒子同士が結着して元の形状(粒状)を消失した連続相となった場合、非晶質となっているか、またはその結晶化度が非常に低くなっていると考えられ、前記固体電解質が本来有しているイオン伝導性を十分に発揮できなくなっていると考えられる。
【0028】
これに対して、全固体電池用電極に含まれる電極材料中のアルジロダイト型硫化物系固体電解質が、元の粒状を維持した状態で存在できている場合には、その結晶化度も比較的高い状態で維持されていると考えられ、これにより、造粒体である前記電極材料のイオン伝導性が高くなることから、本発明の全固体電池用電極においては、高いイオン伝導性が確保できると推測される。
【0029】
また、活物質粒子間に存在する固体電解質が連続相を形成することで、この連続相に活物質粒子が包まれるような状態となった場合、電極に含有させた導電助剤と活物質との接触がより悪くなり、電極中の電子伝導性が不十分となる虞がある。しかし、本発明の全固体電池用電極においては、前記の通り、電極合剤の成形体が含有する固体電解質の全量と導電助剤の量との関係を特定範囲内に調整することで、電極合剤の成形体内での電子伝導性を良好にしている。
【0030】
このように、本発明の全固体電池用電極においては、例えば活物質粒子間の固体電解質が連続相を形成している電極に比べて、イオン伝導性および電子伝導性を高め得るため、これを使用することで、負荷特性に優れた全固体電池を形成できると推測される。
【0031】
なお、本発明の全固体電池用電極によって形成される全固体電池(本発明の全固体電池)は、長期に渡って保管した後にも優れた負荷特性を発揮できるほか、例えば、ある程度の熱履歴(85℃以下程度)を受けた後にも高い負荷特性を維持することができる。
【0032】
本発明の全固体電池用電極において、電極合剤の成形体が、活物質とアルジロダイト型固体電解質とを含む造粒体からなる電極材料を含有していることは、電極合剤の成形体の断面について、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて10000倍で観察した画像において、活物質の一次粒子が10個以上集合しており、かつ活物質の一次粒子同士の間の間隙が5μm以下の箇所があり、さらに、30000倍で観察した画像において、活物質の一次粒子同士の間に粒状の固体電解質(アルジロダイト型硫化物系固体電解質、および電極材料が含有してもよい、その他の固体電解質)が存在していることで確認する。活物質の一次粒子同士の間の間隙は、好ましくは4μm以下、より好ましくは3μm以下であり、また、固体電解質の粒子径にもよるが、通常は0.5μm以上である。
【0033】
なお、前記の観察の際に、活物質の一次粒子同士の間に存在する固体電解質(アルジロダイト型硫化物系固体電解質、および電極材料が含有してもよい、その他の固体電解質)が粒状の輪郭を有していれば、その固体電解質は粒状であるとする。例えば、2個の固体電解質の粒子が密着していて各粒子の界面が曖昧になっていた場合、それらの粒子の形状を平面視で円と仮定したときに、その円周の6割以上を確認できる場合に、「粒状の輪郭を有している」とする。
【0034】
図1および図2に、本発明の全固体電池用電極が有する電極合剤の成形体の一例を模式的に表す図面を示す。図1は電極合剤の成形体の一部を表す平面図であり、図2は、図1中の点線で囲んだ領域を拡大した図面である。
【0035】
図1の楕円で囲んだ箇所が、活物質とアルジロダイト型硫化物系固体電解質との造粒体からなる前記電極材料1であり、電極材料1は、電極材料1を構成するアルジロダイト型固体電解質とは別に添加された固体電解質2と共に、電極合剤の成形体を形成している。そして、電極材料1においては、10個以上の活物質の一次粒子1aが集合している。ただし、図1に示す楕円中には、電極材料1の周囲に存在する、電極材料1を構成しない固体電解質2が一部含まれており、また、電極材料1を構成する活物質の一次粒子1aの一部は、図1に示す楕円から一部がはみ出している(後述する図3および図4においても同様である)。また、図1においては、電極材料1を構成するアルジロダイト型固体電解質は示していない(後述する図3および図4においても同様である)。
【0036】
そして、図2に示すように、電極材料1中の活物質の一次粒子1a同士の間の隙間には、粒状のアルジロダイト型硫化物系固体電解質1bが存在している。
【0037】
図3および図4に、本発明の全固体電池用電極が有する電極合剤の成形体の他の例の一部を模式的に表す図面を示す。図3に示す電極合剤の成形体は、電極材料1と固体電解質2(電極材料1を構成するアルジロダイト型固体電解質とは別のもの)とで形成されている。すなわち、図3に示す電極合剤の成形体が含有する活物質は、その全てが電極材料1を構成している。一方、図4に示す電極合剤の成形体は、電極材料1と、固体電解質2(電極材料1を構成するアルジロダイト型固体電解質とは別に添加されたのもの)と、電極材料1を構成するものとは別の活物質(活物質の一次粒子)3とで形成されている。
【0038】
全固体電池用電極としては、電極合剤を成形してなる成形体(ペレットなど)や、電極合剤の成形体からなる層(合剤層)を集電体上に形成してなる構造のものなどが挙げられる。
【0039】
全固体電池用電極が正極であって、全固体一次電池に使用される場合、電極合剤の成形体に含有させる前記電極材料の活物質には、従来から知られている非水電解質一次電池に用いられている正極活物質と同じものが使用できる。具体的には、例えば、二酸化マンガン、リチウム含有マンガン酸化物〔例えば、LiMnや、二酸化マンガンと同じ結晶構造(β型、γ型、またはβ型とγ型が混在する構造など)を有し、Liの含有量が3.5質量%以下、好ましくは2質量%以下、より好ましくは1.5質量%以下、特に好ましくは1質量%以下である複合酸化物など〕、LiTi5/3(4/3≦a<7/3)などのリチウム含有複合酸化物;バナジウム酸化物;ニオブ酸化物;チタン酸化物;二硫化鉄などの硫化物;フッ化黒鉛;AgSなどの銀硫化物;NiOなどのニッケル酸化物:などが挙げられる。
【0040】
また、全固体電池用電極が正極であって、全固体二次電池に使用される場合、電極合剤の成形体に含有させる前記電極材料の活物質には、従来から知られている非水電解質二次電池に用いられている正極活物質、すなわち、Li(リチウム)イオンを吸蔵・放出可能な活物質と同じものが使用できる。具体的には、Li1-xMn2-r(ただし、Mは、Li、Na、K、B、Mg、Ca、Sr、Ba、Ti、V、Cr、Zr、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Al、Sn、Sb、In、Nb、Ta、Mo、W、Y、RuおよびRhよりなる群から選択される少なくとも1種の元素であり、0≦x≦1、0≦r≦1)で表されるスピネル型リチウムマンガン複合酸化物、LiMn(1-s-t)Ni(2-u)(ただし、Mは、Co、Mg、Al、B、Ti、V、Cr、Fe、Cu、Zn、Zr、Mo、Sn、Ca、SrおよびWよりなる群から選択される少なくとも1種の元素であり、0≦r≦1.2、0<s<0.5、0≦t≦0.5、u+v<1、-0.1≦u≦0.2、0≦v≦0.1)で表される層状化合物、Li1-xCo1-r(ただし、Mは、Al、Mg、Ti、V、Cr、Zr、Fe、Ni、Cu、Zn、Ga、Ge、Nb、Mo、Sn、Sb、Ba、Mn、Bi、Ca、F、P、Sr、W、Si、Ta、K、S、ErおよびNaよりなる群から選択される少なくとも1種の元素であり、0≦x≦1、0≦r≦0.5)で表されるリチウムコバルト複合酸化物、Li1-xNi1-r(ただし、Mは、Al、Mg、Ti、Zr、Fe、Co、Cu、Zn、Ga、Ge、Nb、Mo、Sn、SbおよびBaよりなる群から選択される少なくとも1種の元素であり、0≦x≦1、0≦r≦0.5)で表されるリチウムニッケル複合酸化物、Li1+s-x1-rPO(ただし、Mは、Fe、MnおよびCoよりなる群から選択される少なくとも1種の元素で、Nは、Al、Mg、Ti、Zr、Ni、Cu、Zn、Ga、Ge、Nb、Mo、Sn、Sb、VおよびBaよりなる群から選択される少なくとも1種の元素であり、0≦x≦1、0≦r≦0.5、0≦s≦1)で表されるオリビン型複合酸化物、Li2-x1-r(ただし、Mは、Fe、MnおよびCoよりなる群から選択される少なくとも1種の元素で、Nは、Al、Mg、Ti、Zr、Ni、Cu、Zn、Ga、Ge、Nb、Mo、Sn、Sb、VおよびBaよりなる群から選択される少なくとも1種の元素であり、0≦x≦2、0≦r≦0.5)で表されるピロリン酸化合物などが例示でき、これらのうちの1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0041】
全固体二次電池に使用する全固体電池用電極の場合、前記例示の正極活物質の中でも、下記一般式(1)で表されるリチウムコバルト複合酸化物(A)が、好ましく用いられる。
【0042】
LiCo1-b-c-dAl 2+e (1)
【0043】
前記一般式(1)中、Mは、Mg、NiおよびNaよりなる群から選択される少なくとも1種の元素、Mは、Mn、Fe、Cu、Zr、Ti、Bi、Ca、F、P、Sr、W、Ba、Nb、Si、Zn、Mo、V、Sn、Sb、Ta、Ge、Cr、K、SおよびErよりなる群から選択される少なくとも1種の元素であり、0.9<a<1.1 、0<b<0.1、0<c<0.1、b+c<0.1、0≦d、-0.5<e<0.5である。
【0044】
リチウムコバルト複合酸化物(A)は、有機電解液を使用する非水電解質二次電池用の正極活物質に用いた場合、含有するAlやM元素などの添加元素の作用によって、電池の内部抵抗を増大させる材料である。しかし、有機電解液を有する非水電解質二次電池の場合、正極と負極との間でのイオンの受け渡しを行う電解質が液状(電解液)であるため、元々の内部抵抗が小さいことから、リチウムコバルト複合酸化物(A)による前記の内部抵抗増大は電池特性に殆ど影響しない。一方、正極-負極間でのイオンの受け渡しを固体電解質で行う全固体二次電池においては、正極活物質の作用による内部抵抗の増大によって負荷特性などの電池特性の低下が引き起されることも予想される。
【0045】
しかしながら、リチウムコバルト複合酸化物(A)を全固体二次電池の正極活物質として使用した場合には、こうした予想に反して、例えばLiCoOを正極活物質とする場合に比べて内部抵抗を下げることが可能であり、全固体二次電池の負荷特性をより高めることができる。
【0046】
LiCoOを正極活物質として用いた電池を充電すると、価数変化によってCoが膨張する。有機電解液を用いた電池では、これに起因する正極活物質の体積変化が生じても、イオンの受け渡しをする電解質が液状であるために正極活物質との接触が損なわれることはない。一方、全固体二次電池では、正極内でイオンの受け渡しをする電解質が固体(固体電解質)であるため、電池の充放電によって正極活物質が体積変化することで固体電解質との間に隙間が生じてしまい、正極の内部抵抗、延いては電池の内部抵抗が増大してしまう。
【0047】
ところが、前記一般式(1)で表されるリチウムコバルト複合酸化物(A)であれば、充電状態となっても、Alおよび元素Mの作用によってCoの膨張が抑えられるため、正極活物質全体の膨張量(体積変化量)が小さくなる。よって、リチウムコバルト複合酸化物(A)を正極活物質とする全固体電池用正極を使用することで、充放電しても正極内でのリチウムコバルト複合酸化物(A)と固体電解質との接触が良好に維持でき、内部抵抗を低く保ち得ることから、より負荷特性に優れた全固体二次電池とすることができる。
【0048】
リチウムコバルト複合酸化物(A)において、AlはCoサイトに置換される元素、MはLiサイトに置換される元素であり、ともに充電時におけるCoの膨張量〔リチウムコバルト複合酸化物(A)の膨張量〕を小さくする作用を有している。
【0049】
リチウムコバルト複合酸化物(A)は、元素Mとして、Mg、NiおよびNaのうちの少なくとも1種の元素を含有していればよいが、置換するLiとイオン半径が同等であり、さらに充放電時における価数変化を起こさないことからMgが好ましい。
【0050】
リチウムコバルト複合酸化物(A)において、充電時における膨張量を小さく抑える観点から、Alの量bは0より大きく0.1未満であり、元素Mの量cは0より大きく0.1未満であり、また、b+cが0.1未満である。なお、Alの量bは0.005以上であることが好ましく、また、元素Mの量cは0.005以上であることが好ましい。さらに、Alの量bは0.08以下であることが好ましく、また、元素Mの量cは0.08以下であることが好ましい。
【0051】
リチウムコバルト複合酸化物(A)は、元素Mを含有していてもよく、含有していなくてもよい(その量dは0でもよい)が、元素Mの量が多すぎると、例えばCoの量が少なくなって、リチウムコバルト複合酸化物(A)の容量が小さくなる虞がある。よって、元素Mの量dは0.05以下であることが好ましい。
【0052】
全固体電池用電極が負極であって、全固体一次電池に使用される場合、電極合剤の成形体に含有させる前記電極材料の活物質としては、金属リチウム、リチウム合金(リチウム-アルミニウム合金、リチウム-インジウム合金など)などが挙げられる。
【0053】
また、全固体電池用電極が負極であって、全固体二次電池に使用される場合、電極合剤の成形体に含有させる前記電極材料の活物質としては、従来から知られているリチウム二次電池に用いられている、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な活物質であれば特に制限はない。例えば、負極活物質として、黒鉛、熱分解炭素類、コークス類、ガラス状炭素類、有機高分子化合物の焼成体、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、炭素繊維などのリチウムを吸蔵・放出可能な炭素系材料の1種または2種以上の混合物が用いられる。負極活物質としては酸化物を用いてもよく、例えば、LiNbTiM {5y+4/2}+δ(ただし、Mは、V、Cr、Mo、Ta、Zr、Mn、Fe、Mg、B、Al、Cu、および、Siからなる群より選ばれる少なくとも1種であり、0≦x≦49、0.5≦y<24、-5≦δ≦5、0≦a≦0.3)で表される単斜晶系の結晶構造を有する複合酸化物、アナターゼ構造を有する二酸化チタン、LiTiで表されるラムスデライト構造を有するチタン酸リチウム、LiTi12で表されるスピネル型のリチウムチタン複合酸化物、などが挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を使用することができる。Si、Sn、Ge、Bi、Sb、Inなどの元素を含む単体、化合物およびその合金;Co、Ni、Mn、Fe、Cr、Ti、および、Wなどの遷移金属とリチウムとを含有した窒化物またはリチウム含有酸化物などのリチウム金属に近い低電圧で充放電できる化合物;若しくは金属リチウムやリチウム合金(リチウム-アルミニウム合金、リチウム-インジウム合金など)も負極活物質として用いることができる。
【0054】
前記電極材料の活物質は、その表面に、活物質と固体電解質との反応を抑制するための反応抑制層を有することができる。特に、全固体電池用電極が正極の場合には、活物質(正極活物質)の表面には反応抑制層が設けられていることが好ましい。
【0055】
反応抑制層は、イオン伝導性を有し、正極活物質と固体電解質との反応を抑制できる材料で構成されていればよい。反応抑制層を構成し得る材料としては、例えば、Liと、Nb、P、B、Si、Ge、Ti、Zr、TaおよびWよりなる群から選択される少なくとも1種の元素とを含む酸化物、より具体的には、LiNbOなどのNb含有酸化物、LiPO、LiBO、LiSiO、LiGeO、LiTiO、LiZrO、LiWOなどが挙げられる。反応抑制層は、これらの酸化物のうちの1種のみを含有していてもよく、また、2種以上を含有していてもよく、さらに、これらの酸化物のうちの複数種が複合化合物を形成していてもよい。これらの酸化物の中でも、Nb含有酸化物を使用することが好ましく、LiNbOを使用することがより好ましい。
【0056】
反応抑制層は、活物質(反応抑制層を形成する母材粒子):100質量部に対して0.1~1.0質量部で表面に存在することが好ましい。この範囲であれば活物質と固体電解質との反応を良好に抑制することができる。
【0057】
活物質の表面に反応抑制層を形成する方法としては、ゾルゲル法、メカノフュージョン法、CVD法、PVD法、ALD法などが挙げられる。
【0058】
全固体電池用電極の電極合剤の成形体に含有させる前記電極材料の固体電解質には、アルジロダイト型硫化物系固体電解質を使用する。
【0059】
アルジロダイト型硫化物系固体電解質としては、例えば、LiPSClに代表される下記一般式(2)や、下記一般式(3)で表されるものが挙げられる。
【0060】
Li7-x+yPS6-xClx+y (2)
【0061】
前記一般式(2)中、0.05≦y≦0.9、-3.0x+1.8≦y≦-3.0x+5.7である。
【0062】
Li7-pPS6-pClBr (3)
【0063】
前記一般式(3)中、p=q+r、0<p≦1.8、0.1≦q/r≦10.0である。
【0064】
全固体電池用電極における前記電極材料の固体電解質には、アルジロダイト型硫化物系固体電解質と共に他の固体電解質を使用することもできる。このような他の固体電解質としては、例えば、アルジロダイト型硫化物系固体電解質以外の硫化物系固体電解質、水素化物系固体電解質、ハロゲン化物系固体電解質、酸化物系固体電解質などが挙げられる。
【0065】
アルジロダイト型硫化物系固体電解質以外の硫化物系固体電解質としては、LiS-P、LiS-SiS、LiS-P-GeS、LiS-B系ガラスなどの粒子;LGPS系のもの(Li10GeP12など);が挙げられる。
【0066】
水素化物系固体電解質としては、例えば、LiBH、LiBHと下記のアルカリ金属化合物との固溶体(例えば、LiBHとアルカリ金属化合物とのモル比が1:1~20:1のもの)などが挙げられる。前記固溶体におけるアルカリ金属化合物としては、ハロゲン化リチウム(LiI、LiBr、LiF、LiClなど)、ハロゲン化ルビジウム(RbI、RbBr、RbF、RbClなど)、ハロゲン化セシウム(CsI、CsBr、CsF、CsClなど)、リチウムアミド、ルビジウムアミドおよびセシウムアミドよりなる群から選択される少なくとも1種が挙げられる。
【0067】
ハロゲン化物系固体電解質としては、例えば、単斜晶型のLiAlCl、欠陥スピネル型または層状構造のLiInBr、単斜晶型のLi6-3m(ただし、0<m<2かつX=ClまたはBr)などが挙げられ、その他にも例えば国際公開第2020/070958号や国際公開第2020/070955号に記載の公知のものを使用することができる。
【0068】
酸化物系固体電解質としては、例えば、LiO-Al-SiO-P-TiO系ガラスセラミックス、LiO-Al-SiO-P-GeO系ガラスセラミックス、ガーネット型のLiLaZr12、NASICON型のLi1+OAl1+OTi2-O(PO、Li1+pAl1+pGe2-p(PO、ペロブスカイト型のLi3qLa2/3-qTiOなどが挙げられる。
【0069】
なお、アルジロダイト型硫化物系固体電解質と共に他の固体電解質を電極材料に使用する場合は、前記電極材料における固体電解質の全量中の、アルジロダイト型硫化物系固体電解質の割合を、70質量%以上とすることが好ましい。また、電極材料に使用する固体電解質の全てがアルジロダイト型硫化物系固体電解質であることが好ましいため、前記電極材料における固体電解質の全量中の、アルジロダイト型硫化物系固体電解質の割合の好適上限値は、100質量%である。
【0070】
電極合剤の成形体が含有する前記電極材料に含まれるアルジロダイト型硫化物系固体電解質は、粒状であれば、その形状については特に制限はなく、例えば下記方法によって測定される一次粒子径Rsが下記の値を満たすものであれば、球状、楕円体状、板状などのいずれの形状を有していてもよい。
【0071】
前記電極材料に含まれる活物質の一次粒子の平均粒子径をRaとし、前記電極材料に含まれる固体電解質(電極材料がアルジロダイト型固体電解質以外の他の固体電解質も含有する場合には、前記他の固体電解質も含む)の一次粒子の平均粒子径をRsとしたとき、これらの比Ra/Rsは、2以上であることが好ましく、4以上であることがより好ましく、6以上であることが最も好ましく、また、50以下であることが好ましく、35以下であることがより好ましく、18以下であることが最も好ましい。Ra/Rsが前記の値を満たす場合には、前記電極材料中での活物質と固体電解質との接触がより良好となって、全固体電池の負荷特性を高める効果がより良好となる。
【0072】
なお、前記電極材料における活物質の一次粒子の平均粒子径Raは、1μm以上であることが好ましく、3μm以上であることがより好ましく、4μm以上が最も好ましく、25μm以下であることが好ましく、15μm以下であることがより好ましく、10μm以下であることが最も好ましい。
【0073】
また、前記電極材料における固体電解質の一次粒子の平均粒子径Rsは、0.2μm以上であることが好ましく、0.4μm以上であることがより好ましく、3μm以下であることが好ましく、1.8μm以下であることがより好ましい。
【0074】
前記電極材料が含有する活物質の一次粒子の平均粒子径は、以下のようにして求められる値である。全固体電池用電極における電極合剤の成形体の断面について、SEMを用いて2000倍で観察した画像において、輪郭が確認できる活物質の粒子を10個選択し、選択した粒子について二点間法で最長径を測定する。そして、測定した全粒子の最長径の平均値(数平均)を、活物質の一次粒子の平均粒子径とする。
【0075】
また、前記電極材料が含有する固体電解質の一次粒子の平均粒子径は、SEMで観察する倍率を30000倍に変更する以外は、電極材料が含有する活物質の一次粒子径の平均粒子径と同じ方法で求められる値である。
【0076】
前記電極材料における活物質およびアルジロダイト型固体電解質の組成としては、活物質の含有量を100質量部としたときのアルジロダイト型固体電解質の含有量が、2.5質量部以上であることが好ましく、8質量部以上であることがより好ましく、60質量部以下であることが好ましく、40質量部以下であることがより好ましい。このような成分組成の前記電極材料であれば、容量とイオン伝導性とのバランスが良好な全固体電池用電極を形成できる。
【0077】
前記電極材料は、活物質の粒子とアルジロダイト型硫化物系固体電解質の粒子などとを造粒することで製造される。造粒方法については特に制限はなく公知の方法を適用できるが、造粒後のアルジロダイト型硫化物系固体電解質が粒状を維持できるように、造粒時に作用する応力を調整する必要がある。例えば、材料同士の衝突・剪断作用によるファンデルワールス力および静電気力を発現させるように、公知の混合機を調整することが、造粒時に作用する応力を調整する上で望ましい方法として挙げられる。
【0078】
前記電極材料の形成に使用するアルジロダイト型硫化物系固体電解質の粒子は、粒度分布測定装置(マイクロトラックベル株式会社製粒度分布測定装置「MT-3300EXII」など)を用いて測定される平均粒子径〔粒度の小さい粒子から積分体積を求める場合の体積基準の積算分率における50%径の値(D50)〕が、通常、0.2~3μm程度である。よって、このようなサイズのアルジロダイト型硫化物系固体電解質が、造粒を経て前記電極材料とされ、さらにこの前記電極材料を用いて形成される電極合剤の成形体内において、前記の一次粒子径Rsを満たし得るような条件を選択して、活物質の粒子とアルジロダイト型硫化物系固体電解質の粒子などとの造粒を行えばよい。
【0079】
全固体電池用電極が有する電極合剤の成形体には、導電助剤を含有させる。このような導電助剤としては、黒鉛(天然黒鉛、人造黒鉛)、グラフェン(単層グラフェン、多層グラフェン)、カーボンナノチューブなどの高結晶性の炭素材料;カーボンブラックなどの低結晶性の炭素材料;などが挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を使用することができる。
【0080】
全固体電池用電極が有する電極合剤の成形体には、前記電極材料が含有する固体電解質とは別に固体電解質を含有させることもできる。このような固体電解質としては、例えば、前記電極材料に使用可能なものとして先に例示した各種の硫化物系固体電解質(アルジロダイト型硫化物系固体電解質およびその他の硫化物系固体電解質)、水素化物系固体電解質、ハロゲン化物系固体電解質および酸化物系固体電解質と同じものが挙げられる。電極材料とは別に使用する固体電解質は、電極材料が含有するものと同じ種類のものを使用してもよく、他の種類のものを使用してもよいが、前記例示の固体電解質の中でも、リチウムイオン伝導性が高いことから、硫化物系固体電解質がより好ましく、リチウムイオン伝導性が特に高いことに加えて化学的に安定性が高いことから、アルジロダイト型硫化物系固体電解質がさらに好ましい。
【0081】
そして、電極合剤の成形体における固体電解質の全含有量(前記電極材料が含有する固体電解質、および必要に応じて前記電極材料とは別に使用される固体電解質):Ms(質量%)と、電極合剤の成形体における導電助剤の含有量:Mc(質量%)の比Ms/Mcは、電極合剤の成形体内での電子伝導性を高めて、負荷特性に優れた全固体電池を形成可能とする観点から、6以上であり、7以上であることが好ましい。ただし、Ms/Mcの値が大きすぎると、電池を長期に渡って保管した後の負荷特性や、85℃以下程度の熱履歴を受けた後の電池の負荷特性が低下する虞がある。よって、電極合剤の成形体におけるMs/Mcは、17以下であり、14以下であることが好ましい。
【0082】
なお、電極合剤の成形体における導電助剤の含有量:Mcは、1.3~8.3質量%であることが好ましい。また、電極合剤の成形体における固体電解質(前記電極材料が含有する固体電解質、および必要に応じて前記電極材料とは別に使用される固体電解質)の全含有量:Msは、8~50質量%であることが好ましい。
【0083】
全固体電池用電極が有する電極合剤の成形体には、前記電極材料とは別に活物質を含有させることもできる。このような活物質としては、前記電極材料を構成するためのものとして先に例示した各種の活物質と同じものが使用できる。ただし、電極材料とは別に活物質を含有させる場合、電極材料中の活物質と電極材料を構成していない活物質との合計100質量%中の、電極材料中の活物質の割合は、60質量%以上とすることが好ましい。なお、電極合剤の成形体には、前記電極材料とは別に活物質を使用しなくてもよく、電極材料中の活物質と電極材料を構成していない活物質との合計100質量%中の、電極材料中の活物質の割合の好適上限値は、100質量%である。
【0084】
また、電極合剤における活物質(前記電極材料中に含まれる活物質、および必要に応じて前記電極材料とは別に使用される活物質)の含有量は、55質量%以上であることが好ましく、また、90質量%以下であることが好ましく、80質量%以下であることがより好ましく、77質量%以下であることがさらに好ましく、75質量%以下であることが特に好ましい。なお、ここでいう活物質の含有量には、活物質が反応抑制層を有している場合には、その反応抑制層の量も含める。
【0085】
全固体電池用電極が有する電極合剤の成形体には、樹脂製のバインダは含有させなくてもよく、含有させてもよい。樹脂製のバインダとしては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)などのフッ素樹脂などが挙げられる。ただし、樹脂製のバインダは電極合剤の成形体中においても抵抗成分として作用するため、その量はできるだけ少ないことが望ましい。よって、電極合剤の成形体においては、樹脂製のバインダを含有させないか、含有させる場合には、電極合剤中の含有量を0.5質量%以下とすることが好ましい。電極合剤における樹脂製のバインダの含有量は0.3質量%以下であることがより好ましく、0質量%である(すなわち、樹脂製のバインダを含有させない)ことがさらに好ましい。
【0086】
全固体電池用電極に集電体を用いる場合、その集電体としては、金属製の箔、パンチングメタル、網、エキスパンドメタル、発泡メタル;カーボンシート;などを用いることができる。金属製の集電体を使用する場合、全固体電池用電極が正極のときには、アルミニウム製やステンレス鋼製のものが好ましく、全固体電池用電極が負極の場合には、銅製やニッケル製のものが好ましい。
【0087】
電極合剤の成形体は、例えば、前記電極材料および固体電解質に、必要に応じて添加される導電助剤やバインダなどを混合して調製した電極合剤を、加圧成形などによって圧縮することで形成することができる。電極合剤の成形体のみからなる全固体電池用電極は、このような方法によって製造することができる。
【0088】
集電体を有する全固体電池用電極の場合には、前記のような方法で形成した電極合剤の成形体を集電体と圧着するなどして貼り合わせることで製造することができる。
【0089】
また、前記の電極合剤と溶媒とを混合して電極合剤含有組成物を調製し、これを集電体や電極と対向させる固体電解質層といった基材上に塗布し、乾燥した後にプレス処理を行うことで、電極合剤の成形体を形成してもよい。
【0090】
電極合剤含有組成物の溶媒には、水やN-メチル-2-ピロリドン(NMP)などの有機溶媒を使用することができる。なお、電極合剤含有組成物に固体電解質も含有させる場合の溶媒は、固体電解質を劣化させ難いものを選択することが好ましい。特に、硫化物系固体電解質や水素化物系固体電解質は、微少量の水分によって化学反応を起こすため、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、デカリン、トルエン、キシレン、メスチレン、テトラリンなどの炭化水素溶媒に代表される非極性非プロトン性溶媒を使用することが好ましい。特に、含有水分量を0.001質量%(10ppm)以下とした超脱水溶媒を使用することがより好ましい。また、三井・デュポンフロロケミカル社製の「バートレル(登録商標)」、日本ゼオン社製の「ゼオローラ(登録商標)」、住友3M社製の「ノベック(登録商標)」などのフッ素系溶媒、並びに、ジクロロメタン、ジエチルエーテル、アニソールなどの非水系有機溶媒を使用することもできる。
【0091】
電極合剤の成形体の厚み(集電体を有する電極の場合は、集電体の片面あたりの電極合剤の成形体の厚み。以下、同じ。)は、通常は50μm以上であるが、電池の高容量化の観点から、200μm以上であることが好ましい。また、電極合剤の成形体の厚みは、通常、3000μm以下である。
【0092】
なお、溶媒を含有する電極合剤含有組成物を用いて集電体上に電極合剤の成形体からなる電極合剤層を形成することで製造される全固体電池用電極の場合には、電極合剤層の厚み(集電体の片面あたりの厚み)は、50~1000μmであることが好ましい。
【0093】
<全固体電池>
本発明の全固体電池は、正極、負極、および正極と負極との間に介在する固体電解質層とを有し、正極および負極のうちの少なくとも一方が本発明の全固体電池用電極である。
【0094】
本発明の全固体電池の一例を模式的に表す断面図を図5に示す。図5に示す全固体電池10は、外装缶50と、封口缶60と、これらの間に介在する樹脂製のガスケット70で形成された外装体内に、正極20、負極30、および正極20と負極30との間に介在する固体電解質層40が封入されている。
【0095】
封口缶60は、外装缶50の開口部にガスケット70を介して嵌合しており、外装缶50の開口端部が内方に締め付けられ、これによりガスケット70が封口缶60に当接することで、外装缶50の開口部が封口されて素子内部が密閉構造となっている。
【0096】
外装缶および封口缶にはステンレス鋼製のものなどが使用できる。また、ガスケットの素材には、ポリプロピレン、ナイロンなどを使用できるほか、電池の用途との関係で耐熱性が要求される場合には、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルコキシエチレン共重合体(PFA)などのフッ素樹脂、ポリフェニレンエーテル(PEE)、ポリスルフォン(PSF)、ポリアリレート(PAR)、ポリエーテルスルフォン(PES)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)などの融点が240℃を超える耐熱樹脂を使用することもできる。また、電池が耐熱性を要求される用途に適用される場合、その封口には、ガラスハーメチックシールを利用することもできる。
【0097】
また、図6および図7に、本発明の全固体電池の他の例を模式的に表す図面を示す。図6は全固体電池の平面図であり、図7図6のI-I線断面図である。
【0098】
図6および図7に示す全固体電池100は、2枚の金属ラミネートフィルムで構成したラミネートフィルム外装体500内に、正極、固体電解質層および負極からなる電極体200を収容しており、ラミネートフィルム外装体500は、その外周部において、上下の金属ラミネートフィルムを熱融着することにより封止されている。なお、図7では、図面が煩雑になることを避けるために、ラミネートフィルム外装体500を構成している各層や、電極体を構成している正極、負極およびセパレータを区別して示していない。
【0099】
電極体200の有する正極は、電池100内で正極外部端子300と接続しており、また、図示していないが、電極体200の有する負極も、電池100内で負極外部端子400と接続している。そして、正極外部端子300および負極外部端子400は、外部の機器などと接続可能なように、片端側をラミネートフィルム外装体500の外側に引き出されている。
【0100】
本発明の全固体電池用電極を正極とする全固体電池の場合、負極は本発明の全固体電池用電極でもよく、また、本発明の全固体電池用電極以外の負極でもよい。本発明の全固体電池用電極以外の負極としては、前記電極材料に使用し得る負極活物質を、前記電極材料に代えて使用した以外は本発明の全固体電池用電極と同じ構成の電極(負極);負極活物質として機能する各種合金(リチウム-アルミニウム合金、リチウム-インジウム合金などのリチウム合金など)や金属リチウムの箔のみからなる負極、若しくは前記箔を集電体上に活物質層として積層した負極;などが挙げられる。
【0101】
また、本発明の全固体電池用電極を負極とする全固体電池の場合、正極は本発明の全固体電池用電極でもよく、また、本発明の全固体電池用電極以外の正極でもよい。本発明の全固体電池用電極以外の正極としては、前記電極材料に使用し得る正極活物質を前記電極材料に代えて使用した以外は、本発明の全固体電池用電極と同じ構成の電極(正極)などが挙げられる。
【0102】
全固体電池の固体電解質層を構成する固体電解質には、全固体電池用電極に使用し得るものとして先に例示した各種の硫化物系固体電解質(アルジロダイト型硫化物系固体電解質およびその他の硫化物系固体電解質)、水素化物系固体電解質、ハロゲン化物系固体電解質および酸化物系固体電解質のうちの1種または2種以上を使用することができる。ただし、電池特性をより優れたものとするためには、硫化物系固体電解質を含有させることが好ましく、アルジロダイト型の硫化物系固体電解質を含有させることがより好ましい。
【0103】
固体電解質層は、樹脂製の不織布などの多孔質体を支持体として有していてもよい。
【0104】
固体電解質層は、固体電解質を加圧成形などによって圧縮する方法;固体電解質を溶媒に分散させて調製した固体電解質層形成用組成物を基材や正極、負極の上に塗布して乾燥し、必要に応じてプレス処理などの加圧成形を行う方法:などで形成することができる。
【0105】
固体電解質層形成用組成物に使用する溶媒は、固体電解質を劣化させ難いものを選択することが望ましく、固体電解質を含有する電極合剤含有組成物用の溶媒として先に例示した各種の溶媒と同じものを使用することが好ましい。
【0106】
固体電解質層の厚みは、100~300μmであることが好ましい。
【0107】
正極と負極とは、固体電解質層を介して積層した積層電極体や、さらにこの積層電極体を巻回した巻回電極体の形態で、電池に用いることができる。
【0108】
なお、電極体を形成するに際しては、正極と負極と固体電解質層とを積層した状態で加圧成形することが、電極体の機械的強度を高める観点から好ましい。
【0109】
本発明の全固体電池は、従来から知られている全固体電池(全固体一次電池または全固体二次電池)と同じ用途に適用することができる。また、本発明の全固体電池用電極は、本発明の全固体電池を構成できる。
【実施例0110】
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に述べる。ただし、下記実施例は、本発明を制限するものではない。
【0111】
実施例1
<正極用電極材料の作製>
平均粒子径が5μmで表面にLiNbOからなる層を有するLiCo0.98Al0.01Mg0.01の一次粒子(正極活物質)と、平均粒子径が0.6μmのアルジロダイト型硫化物系固体電解質(LiPSCl)とを造粒して、正極用電極材料を作製した。前記正極用電極材料における成分組成は、正極活物質:100質量部に対して、アルジロダイト型硫化物系固体電解質が15.8質量部であった。また、LiCo0.98Al0.01Mg0.01の表面のLiNbOからなる層の量は、LiCo0.98Al0.01Mg0.01:100質量部に対して1質量部であった。さらに、正極活物質とアルジロダイト型硫化物系固体電解質との造粒に際しては、材料同士の衝突・剪断作用によるファンデルワールス力および静電気力を発現させるように混合機での混合条件を調整した。
【0112】
<正極の作製>
前記正極用電極材料と、前記正極用電極材料に使用したものと同じアルジロダイト型硫化物系固体電解質と、アセチレンブラック(導電助剤)とを、75.3:20.7:4.0の質量比で混合し、よく混練して正極合剤を調製した。次に、前記正極合剤:75mgを直径:7.5mmの粉末成形金型に入れ、プレス機を用いて加圧成形を行い、円柱形状の正極合剤成形体よりなる正極を作製した。この正極合剤成形体における成分組成は、質量比で、正極活物質:アルジロダイト型硫化物系固体電解質(正極用電極材料が含有するものと、正極用電極材料とは別に添加したものの合計量。正極合剤成形体における成分組成について、以下同じ。):導電助剤=65.0:31.0:4.0であり、Ms/Mcは7.8である。
【0113】
<固体電解質層の形成>
次に、前記粉末成形金型内の前記正極合剤成形体の上に、正極の作製に用いたものと同じ硫化物系固体電解質:9.6mgを投入し、プレス機を用いて加圧成形を行い、前記正極合剤成形体の上に固体電解質層を形成して、正極と固体電解質層との積層体を得た。
【0114】
<積層電極体の作製>
チタン酸リチウム(LiTi12、負極活物質、平均粒子径:1.3μm)と、正極の前記電極材料に使用したものと同じアルジロダイト型硫化物系固体電解質と、グラフェン(導電助剤)とを、質量比で6:5:1の割合で混合し、よく混練して負極合剤を調製した。次に、前記負極合剤:100mgを前記粉末成形金型内の前記固体電解質層の上に投入し、プレス機を用いて加圧成形を行い、前記固体電解質層の上に負極合剤成形体よりなる負極を形成することにより、正極、固体電解質層および負極が積層された積層電極体を作製した。積層電極体における正極(正極合剤成形体)、固体電解質層および負極(負極合剤成形体)の厚みは、それぞれ、600μm、100μm、900μmであった。
【0115】
なお、積層電極体は複数個作製し、その一部について、正極合剤成形体の断面をSEM観察して、前記の方法によって、正極合剤成形体中に造粒体からなる電極材料が存在していること、および電極材料中のアルジロダイト型硫化物系固体電解質が粒状であることを確認した。
【0116】
<全固体電池の組み立て>
ポリプロピレン製の環状ガスケットをはめ込んだステンレス鋼製の封口缶の内面に、正極と固体電解質層と負極との積層体を重ねてからステンレス鋼製の外装缶をかぶせた後、外装缶の開口端部を内方にカシメて封止することにより、直径約9mmの全固体電池を作製した。
【0117】
実施例2
アルジロダイト型硫化物系固体電解質の組成を、正極活物質:100質量部に対して、16.9質量部に変更した以外は、実施例1と同様にして正極用電極材料を作製した。そして、この正極用電極材料を使用し、成分組成を、質量比で、正極用電極材料:アルジロダイト型硫化物系固体電解質:アセチレンブラック=76.0:22.0:2.0に変更した以外は、実施例1と同様にして正極合剤成形体からなる正極を作製した。この正極合剤成形体における成分組成は、質量比で、正極活物質:アルジロダイト型硫化物系固体電解質:導電助剤=65.0:33.0:2.0であり、Ms/Mcは16.5である。
【0118】
そして、この正極を用いた以外は実施例1と同様にして積層電極体を作製し、この積層電極体を用いた以外は実施例1と同様にして全固体電池を作製した。
【0119】
なお、積層電極体は複数個作製し、その一部について、正極合剤成形体の断面をSEM観察して、前記の方法によって、正極合剤成形体中に造粒体からなる電極材料が存在していること、および電極材料中のアルジロダイト型硫化物系固体電解質が粒状であることを確認した。
【0120】
実施例3
アルジロダイト型硫化物系固体電解質の組成を、正極活物質:100質量部に対して、15.3質量部に変更した以外は、実施例1と同様にして正極用電極材料を作製した。そして、この正極用電極材料を使用し、成分組成を、質量比で、正極用電極材料:アルジロダイト型硫化物系固体電解質:アセチレンブラック=75.0:20.0:5.0に変更した以外は、実施例1と同様にして正極合剤成形体からなる正極を作製した。この正極合剤成形体における成分組成は、質量比で、正極活物質:アルジロダイト型硫化物系固体電解質:導電助剤=65.0:30.0:5.0であり、Ms/Mcは6.0である。
【0121】
そして、この正極を用いた以外は実施例1と同様にして積層電極体を作製し、この積層電極体を用いた以外は実施例1と同様にして全固体電池を作製した。
【0122】
なお、積層電極体は複数個作製し、その一部について、正極合剤成形体の断面をSEM観察して、前記の方法によって、正極合剤成形体中に造粒体からなる電極材料が存在していること、および電極材料中のアルジロダイト型硫化物系固体電解質が粒状であることを確認した。
【0123】
実施例4
アルジロダイト型硫化物系固体電解質の組成を、正極活物質:100質量部に対して、9.9質量部に変更した以外は、実施例1と同様にして正極用電極材料を作製した。そして、この正極用電極材料を使用し、成分組成を、質量比で、正極用電極材料:アルジロダイト型硫化物系固体電解質:アセチレンブラック=82.4:14.8:2.8に変更した以外は、実施例1と同様にして正極合剤成形体からなる正極を作製した。この正極合剤成形体における成分組成は、質量比で、正極活物質:アルジロダイト型硫化物系固体電解質:導電助剤=75.0:22.2:2.8であり、Ms/Mcは7.9である。
【0124】
そして、この正極を用いた以外は実施例1と同様にして積層電極体を作製し、この積層電極体を用いた以外は実施例1と同様にして全固体電池を作製した。
【0125】
なお、積層電極体は複数個作製し、その一部について、正極合剤成形体の断面をSEM観察して、前記の方法によって、正極合剤成形体中に造粒体からなる電極材料が存在していること、および電極材料中のアルジロダイト型硫化物系固体電解質が粒状であることを確認した。
【0126】
実施例5
アルジロダイト型硫化物系固体電解質の組成を、正極活物質:100質量部に対して、47.7質量部に変更した以外は、実施例1と同様にして正極用電極材料を作製した。そして、この正極用電極材料を使用し、成分組成を、質量比で、正極用電極材料:アセチレンブラック=96.0:4.0に変更した以外は、実施例1と同様にして正極合剤成形体からなる正極を作製した。この正極合剤成形体における成分組成は、質量比で、正極活物質:アルジロダイト型硫化物系固体電解質:導電助剤=65.0:31.0:4.0であり、Ms/Mcは7.8である。
【0127】
そして、この正極を用いた以外は実施例1と同様にして積層電極体を作製し、この積層電極体を用いた以外は実施例1と同様にして全固体電池を作製した。
【0128】
なお、積層電極体は複数個作製し、その一部について、正極合剤成形体の断面をSEM観察して、前記の方法によって、正極合剤成形体中に造粒体からなる電極材料が存在していること、および電極材料中のアルジロダイト型硫化物系固体電解質が粒状であることを確認した。
【0129】
実施例6
アルジロダイト型硫化物系固体電解質の組成を、正極活物質:100質量部に対して、8質量部に変更した以外は、実施例1と同様にして正極用電極材料を作製した。そして、この正極用電極材料を使用し、成分組成を、質量比で、正極用電極材料:アルジロダイト型硫化物系固体電解質:アセチレンブラック=70.2:25.8:4.0に変更した以外は、実施例1と同様にして正極合剤成形体からなる正極を作製した。この正極合剤成形体における成分組成は、質量比で、正極活物質:アルジロダイト型硫化物系固体電解質:導電助剤=65.0:31.0:4.0であり、Ms/Mcは7.8である。
【0130】
そして、この正極を用いた以外は実施例1と同様にして積層電極体を作製し、この積層電極体を用いた以外は実施例1と同様にして全固体電池を作製した。
【0131】
なお、積層電極体は複数個作製し、その一部について、正極合剤成形体の断面をSEM観察して、前記の方法によって、正極合剤成形体中に造粒体からなる電極材料が存在していること、および電極材料中のアルジロダイト型硫化物系固体電解質が粒状であることを確認した。
【0132】
比較例1
実施例1で使用したものと同じ、表面にLiNbOからなる層を有するLiCo0.98Al0.01Mg0.01の一次粒子と、実施例1で使用したものと同じアルジロダイト型硫化物系固体電解質と、アセチレンブラック(導電助剤)とを、65.0:31.0:4.0の質量比で混合した正極合剤を調製した。そして、この正極合剤を用いた以外は、実施例1と同様にして全固体電池を作製した。
【0133】
比較例2
アルジロダイト型硫化物系固体電解質の組成を、正極活物質:100質量部に対して、17.1質量部に変更した以外は、実施例1と同様にして正極用電極材料を作製した。そして、この正極用電極材料を使用し、成分組成を、質量比で、正極用電極材料:アルジロダイト型硫化物系固体電解質:アセチレンブラック=76.1:22.2:1.7に変更した以外は、実施例1と同様にして正極合剤成形体からなる正極を作製した。この正極合剤成形体における成分組成は、質量比で、正極活物質:アルジロダイト型硫化物系固体電解質:導電助剤=65.0:33.3:1.7であり、Ms/Mcは19.5である。
【0134】
そして、この正極を用いた以外は実施例1と同様にして積層電極体を作製し、この積層電極体を用いた以外は実施例1と同様にして全固体電池を作製した。
【0135】
なお、積層電極体は複数個作製し、その一部について、正極合剤成形体の断面をSEM観察して、前記の方法によって、正極合剤成形体中に造粒体からなる電極材料が存在していること、および電極材料中のアルジロダイト型硫化物系固体電解質が粒状であることを確認した。
【0136】
比較例3
アルジロダイト型硫化物系固体電解質の組成を、正極活物質:100質量部に対して、14.9質量部に変更した以外は、実施例1と同様にして正極用電極材料を作製した。そして、この正極用電極材料を使用し、成分組成を、質量比で、正極用電極材料:アルジロダイト型硫化物系固体電解質:アセチレンブラック=74.7:29.0:6.0に変更した以外は、実施例1と同様にして正極合剤成形体からなる正極を作製した。この正極合剤成形体における成分組成は、質量比で、正極活物質:アルジロダイト型硫化物系固体電解質:導電助剤=65.0:29.0:6.0であり、Ms/Mcは4.8である。
【0137】
そして、この正極を用いた以外は実施例1と同様にして積層電極体を作製し、この積層電極体を用いた以外は実施例1と同様にして全固体電池を作製した。
【0138】
なお、積層電極体は複数個作製し、その一部について、正極合剤成形体の断面をSEM観察して、前記の方法によって、正極合剤成形体中に造粒体からなる電極材料が存在していること、および電極材料中のアルジロダイト型硫化物系固体電解質が粒状であることを確認した。
【0139】
比較例4
正極活物質とアルジロダイト型硫化物系固体電解質との混合を、メカノケミカル反応が生じる程度に応力をかける条件で行った以外は、実施例2と同様にして正極用電極材料を作製し、この正極用電極材料を用いた以外は、実施例1と同様にして積層電極体を作製し、この積層電極体を用いた以外は実施例1と同様にして全固体電池を作製した。
【0140】
なお、積層電極体は複数個作製し、その一部について、正極合剤成形体の断面をSEM観察して、電極材料中のアルジロダイト型硫化物系固体電解質が粒状を維持できず固体電解質の連続相となっていることを確認した。
【0141】
実施例および比較例の全固体電池について、下記の方法によって負荷特性を評価した。
【0142】
実施例および比較例の各全固体電池について、0.05Cの電流値で電圧が2.6Vになるまで定電流充電し、続いて電流値が0.01Cになるまで定電圧充電を行った後に0.05Cの電流値で電圧が1.5Vになるまで放電させて、初期容量を測定した。
【0143】
初期特性評価後の各電池について、放電時の電流値を1Cに変更した以外は、初期容量測定時と同じ条件で充電し放電させて1C放電容量を測定した。そして、各電池の1C放電容量を初期容量で除した値を百分率で表して容量維持率を求め、各電池の負荷特性(初度負荷特性)を評価した。
【0144】
また、初期容量測定後の各電池について、85℃の恒温槽内で2日貯蔵し、取り出した後室温に戻してから、初度負荷特性の評価時と同じ条件で1C放電容量を測定した。そして、各電池の貯蔵後の1C放電容量を初期容量で除した値を百分率で表して容量維持率を求め、各電池の貯蔵後負荷特性を評価した。
【0145】
前記の貯蔵後負荷特性は、全固体電池を長期間保管した後における負荷特性の良否の目安となる加速試験に該当すると共に、85℃程度の熱履歴を受けた後の全固体電池の負荷特性の目安となる。
【0146】
前記の評価結果を、全固体電池に係る正極(正極合剤成形体)におけるMs/Mcの値と併せて表1に示す。なお、表2では、負荷特性評価時の容量維持率については、実施例1の電池における初度負荷特性の値を100としたときの相対値で示す。
【0147】
【表1】
【0148】
表1に示す通り、活物質とアルジロダイト型硫化物系固体電解質との造粒体からなり、かつ前記アルジロダイト型硫化物系固体電解質が粒状である電極材料を含有し、Ms/Mcの値が適正な正極合剤成形体を有する正極を用いた実施例1~6の全固体電池は、初度負荷特性および貯蔵後負荷特性のいずれもが良好であり、長期に渡って保管したり、85℃程度の熱履歴を受けたりした後にも、優れた負荷特性を発揮できるものであった。
【0149】
これに対し、正極活物質とアルジロダイト型硫化物系固体電解質との造粒体からなる電極材料を使用しなかった比較例1の電池、Ms/Mcの値が小さすぎる正極合剤成形体を有する正極を用いた比較例3の電池、およびアルジロダイト型硫化物系固体電解質が粒状を消失して連続相となっている電極材料を含有する正極合剤成形体を有する正極を用いた比較例4の電池は、貯蔵後のみならず初度の負荷特性が劣っていた。また、Ms/Mcの値が大きすぎる正極合剤成形体を有する正極を用いた比較例2の電池は、貯蔵後負荷特性が劣っていた。
【符号の説明】
【0150】
1 電極材料
1a、3 活物質の一次粒子
1b、2 アルジロダイト型固体電解質
10、100 全固体電池
20 正極
30 負極
40 固体電解質層
50 外装缶
60 封口缶
70 ガスケット
200 電極体
300 正極外部端子
400 負極外部端子
500 ラミネートフィルム外装体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7