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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022152278
(43)【公開日】2022-10-12
(54)【発明の名称】高圧ガスタンク及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   F17C 13/02 20060101AFI20221004BHJP
   F17C 13/00 20060101ALI20221004BHJP
   F17C 1/06 20060101ALI20221004BHJP
   F16J 12/00 20060101ALI20221004BHJP
【FI】
F17C13/02 301Z
F17C13/00 301Z
F17C1/06
F16J12/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021054989
(22)【出願日】2021-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100077665
【弁理士】
【氏名又は名称】千葉 剛宏
(74)【代理人】
【識別番号】100116676
【弁理士】
【氏名又は名称】宮寺 利幸
(74)【代理人】
【識別番号】100191134
【弁理士】
【氏名又は名称】千馬 隆之
(74)【代理人】
【識別番号】100136548
【弁理士】
【氏名又は名称】仲宗根 康晴
(74)【代理人】
【識別番号】100136641
【弁理士】
【氏名又は名称】坂井 志郎
(74)【代理人】
【識別番号】100180448
【弁理士】
【氏名又は名称】関口 亨祐
(72)【発明者】
【氏名】辰島 宏亮
【テーマコード(参考)】
3E172
3J046
【Fターム(参考)】
3E172AA02
3E172AA05
3E172AB01
3E172AB04
3E172AB05
3E172BA01
3E172BB03
3E172BB12
3E172BC01
3E172BC04
3E172BD03
3E172CA12
3E172CA14
3E172CA21
3E172DA36
3J046AA14
3J046BA03
3J046BD05
3J046CA04
3J046DA05
(57)【要約】
【課題】フィラメントワインディング時の口金の空転を抑えることができ、且つライナの内側に充填される高圧ガスによるライナの変形を抑えることができる高圧ガスタンク及びその製造方法を提供する。
【解決手段】高圧ガスタンク10の口金18は、ライナ14の内面側に位置する第1部材40と、ライナ14の外面側に位置するとともに第1部材40に接続された第2部材42とを有し、回転規制構造56は、ライナ14の内面17に設けられた第1回転規制部58と、第1回転規制部58に嵌合するように第1部材40に設けられた第2回転規制部60とを含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂製の複数の分割ライナが軸線方向に接合されてなり、且つ内部にガスの充填室が形成されたライナと、
前記ライナの外面に繊維が複数回巻回されることで形成された補強層と、
前記ライナの軸線方向の端部開口に設けられて前記充填室に対してガスを給排するための給排孔が形成された口金と、
前記ライナの軸線を中心とした当該ライナに対する前記口金の回転を規制する回転規制構造と、を備える高圧ガスタンクであって、
前記口金は、
前記ライナの内面側に位置する第1部材と、
前記ライナの外面側に位置するとともに前記第1部材に接続された第2部材と、を有し、
前記回転規制構造は、
前記ライナの内面に設けられた第1回転規制部と、
前記第1回転規制部に嵌合するように前記第1部材に設けられた第2回転規制部と、を含む、高圧ガスタンク。
【請求項2】
請求項1記載の高圧ガスタンクであって、
前記第1部材は、前記ライナの前記端部開口に挿入される筒部を有し、
前記第1回転規制部は、前記ライナの内面のうち前記端部開口に隣接する部分に設けられ、
前記第2回転規制部は、前記筒部のうち前記ライナの内面側に位置する部分に設けられている、高圧ガスタンク。
【請求項3】
請求項2記載の高圧ガスタンクであって、
前記筒部は、円筒状に形成され、
前記第1回転規制部は、前記端部開口から径方向外方に延在した嵌合凹部を有し、
前記第2回転規制部は、前記嵌合凹部に挿入されるように前記筒部から径方向外方に突出した嵌合凸部を有し、
前記嵌合凹部及び前記嵌合凸部は、前記筒部の周方向に複数設けられている、高圧ガスタンク。
【請求項4】
請求項2記載の高圧ガスタンクであって、
前記第1回転規制部は、前記ライナの内面に形成された嵌合凹部を有し、
前記第2回転規制部は、前記嵌合凹部に嵌合する嵌合凸部を有し、
前記嵌合凹部及び前記嵌合凸部は、前記ライナの軸線方向から見て多角形状の外形を有する、高圧ガスタンク。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の高圧ガスタンクであって、
前記第1部材と前記第2部材とは、ねじ結合によって前記ライナを当該ライナの軸線方向から挟持する、高圧ガスタンク。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の高圧ガスタンクであって、
前記ライナは、
前記ライナの軸線方向外方に向かって縮径するドーム部と、
前記ドーム部の縮径端部から前記ライナの軸線方向内方に向かって窪むとともに中央に前記端部開口が形成された環状凹壁部と、を有し、
前記環状凹壁部は、
前記ドーム部の前記縮径端部から前記ライナの径方向内方に向かって前記ライナの軸線方向内方に傾斜するように延出した環状傾斜部と、
前記環状傾斜部の延出端部から前記ライナの径方向内方に延出した環状接続部と、
前記環状接続部の延出端部から前記ライナの軸線方向外方に向かって突出した筒状凸部と、を含み、
前記第2回転規制部は、前記筒状凸部と前記環状接続部とに跨るように形成されている、高圧ガスタンク。
【請求項7】
樹脂製の複数の分割ライナが軸線方向に接合されてなり、且つ内部にガスの充填室が形成されたライナを備えた高圧ガスタンクの製造方法であって、
複数の分割ライナのうち口金が取り付けられる前記ライナの軸線方向の端部開口を有する端部分割ライナを準備する準備工程と、
前記口金を形成する第1部材を前記端部分割ライナの内面側に配置するとともに前記口金を形成する第2部材を前記端部分割ライナの外面側に配置して前記第1部材と前記第2部材とを互いに接続する口金取付工程と、
前記複数の分割ライナを接合して一体化することにより前記ライナを形成する接合工程と、
前記ライナの軸線を中心とした回転力を前記口金に作用させて前記ライナを回転させながら前記ライナの外面に繊維を複数回巻回することで補強層を形成する補強層形成工程と、を含み、
前記口金取付工程では、前記ライナの軸線を中心とした当該ライナに対する前記口金の回転が規制されるように、前記端部分割ライナの内面に設けられた第1回転規制部に前記第1部材に設けられた第2回転規制部を嵌合する、高圧ガスタンクの製造方法。
【請求項8】
請求項7記載の高圧ガスタンクの製造方法であって、
前記口金取付工程では、前記第2部材を前記第1部材に対してねじ結合することにより、前記ライナを当該ライナの軸線方向から前記第1部材と前記第2部材とによって挟持する、高圧ガスタンクの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高圧ガスタンク及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高圧ガスタンクは、例えば、燃料電池システムに供給するための水素ガスを収容するものとして燃料電池車両に搭載される。この種の高圧ガスタンクは、ガスを充填可能な充填室を有する樹脂製のライナと、該ライナを補強するべくその外面を覆う繊維強化樹脂からなる補強層と、ライナの軸方向の端部に取り付けられた口金とを備える。補強層は、一般的に、フィラメントワインディングによって形成される。フィラメントワインディングでは、口金に固定したシャフトから口金を介してライナに回転力を作用させ、回転するライナの外面に対して樹脂を含浸した強化繊維(FRP)を複数回巻回する。
【0003】
例えば、特許文献1には、ライナの外面に設けられた回転規制凸部を口金のフランジ部に設けられた回転規制凹部に嵌合することにより、フィラメントワインディング時のライナに対する口金の空転を抑えた技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017-122464号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したような特許文献1に記載の従来技術では、ライナの充填室内のガスによって、回転規制凸部と回転規制凹部との間の隙間を埋めるようにライナが変形するおそれがある。
【0006】
本発明は、このような課題を考慮してなされたものであり、フィラメントワインディング時のライナに対する口金の空転を抑えることができ、且つライナの充填室内のガスによるライナの変形を抑えることができる高圧ガスタンク及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、樹脂製の複数の分割ライナが軸線方向に接合されてなり、且つ内部にガスの充填室が形成されたライナと、前記ライナの外面に繊維が複数回巻回されることで形成された補強層と、前記ライナの軸線方向の端部開口に設けられて前記充填室に対してガスを給排するための給排孔が形成された口金と、前記ライナの軸線を中心とした当該ライナに対する前記口金の回転を規制する回転規制構造と、を備える高圧ガスタンクであって、前記口金は、前記ライナの内面側に位置する第1部材と、前記ライナの外面側に位置するとともに前記第1部材に接続された第2部材と、を有し、前記回転規制構造は、前記ライナの内面に設けられた第1回転規制部と、前記第1回転規制部に嵌合するように前記第1部材に設けられた第2回転規制部と、を含む、高圧ガスタンクである。
【0008】
本発明の他の態様は、樹脂製の複数の分割ライナが軸線方向に接合されてなり、且つ内部にガスの充填室が形成されたライナを備えた高圧ガスタンクの製造方法であって、複数の分割ライナのうち口金が取り付けられる前記ライナの軸線方向の端部開口を有する端部分割ライナを準備する準備工程と、前記口金を形成する第1部材を前記端部分割ライナの内面側に配置するとともに前記口金を形成する第2部材を前記端部分割ライナの外面側に配置して前記第1部材と前記第2部材とを互いに接続する口金取付工程と、前記複数の分割ライナを接合して一体化することにより前記ライナを形成する接合工程と、前記ライナの軸線を中心とした回転力を前記口金に作用させて前記ライナを回転させながら前記ライナの外面に繊維を複数回巻回することで補強層を形成する補強層形成工程と、を含み、前記口金取付工程では、前記ライナの軸線を中心とした当該ライナに対する前記口金の回転が規制されるように、前記端部分割ライナの内面に設けられた第1回転規制部に前記第1部材に設けられた第2回転規制部を嵌合する、高圧ガスタンクの製造方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、回転規制構造(第1回転規制部及び第2回転規制部)が設けられているため、フィラメントワインディング時のライナに対する口金の空転を抑えることができる。また、第1回転規制部及び第2回転規制部がライナの外面側ではなく内面側に位置している。そのため、ライナの充填室内のガスによってライナが第1回転規制部と第2回転規制部との間の隙間に向かって変形することはない。従って、ライナの充填室内のガスによるライナの変形を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施形態に係る高圧ガスタンクの軸線方向に沿った断面図である。
図2図1の高圧ガスタンクの軸線方向の端部の拡大断面図である。
図3図2のIII-III線に沿った断面図である。
図4図1の高圧ガスタンクの製造方法を説明するフローチャートである。
図5】口金取付工程の断面説明図である。
図6】接合工程の断面説明図である。
図7】補強層形成工程の断面説明図である。
図8】高圧ガスタンクの第1変形例を示す要部断面図である。
図9】高圧ガスタンクの第2変形例を示す要部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係る高圧ガスタンク及びその製造方法について好適な実施形態を挙げ、添付の図面を参照しながら説明する。
【0012】
図1に示す本実施形態に係る高圧ガスタンク10は、例えば、燃料電池車両に搭載される燃料タンク(水素タンク)である。高圧ガスタンク10が燃料電池車両に搭載される場合、高圧ガスタンク10には水素ガスが高圧で充填される。水素ガスは、燃料電池車両に搭載された燃料電池(或いは燃料電池スタック)のアノードに供給される。
【0013】
高圧ガスタンク10は、燃料電池車両以外に適用されるタンクであってもよい。高圧ガスタンク10は、水素ガス以外の燃料ガスを貯留するための燃料ガスタンク、或いはそのガスを燃料ガスタンクに充填する設備に使用するガスタンク、或いはそのガスを輸送するために使用するガスタンクであってもよい。高圧ガスタンク10は、圧縮天然ガス、液化石油ガスを貯留するためのタンクであってもよい。
【0014】
高圧ガスタンク10は、内部に高圧ガスの充填室12が形成されたライナ14と、ライナ14を覆う補強層16と、ライナ14の軸線方向の両方の端部に設けられた2つの口金18とを備える。
【0015】
ライナ14は、例えば、水素バリア性を示す高密度ポリエチレン(HDPE)樹脂からなる。この場合、HDPE樹脂が安価で且つ加工が容易であるので、ライナ14を低コストで且つ容易に作製することができるという利点がある。また、HDPE樹脂が強度及び剛性に優れるため、高圧ガスタンク10のライナ14に好適である。
【0016】
ライナ14には、軸線方向の両方の端部に口金18が取り付けられる端部開口20が形成されている。ライナ14は、樹脂製の複数の分割ライナ15が軸線方向に接合されてなる。本実施形態では、ライナ14は、左右対称形状の2つの分割ライナ15が接合されて形成される。つまり、本実施形態において、各分割ライナ15は、口金18が取り付けられるライナ14の軸線方向の端部を有する端部分割ライナ22である。
【0017】
ライナ14は、3つ以上の分割ライナ15が軸線方向に接合されて形成されてもよい。この場合、ライナ14は、軸線方向の両端に位置する2つの端部分割ライナ22と、中間に位置する円筒形状の1つ又は複数の中間分割ライナとを有することになる。
【0018】
2つの分割ライナ15は、互いに同様の構成を有する。分割ライナ15は、略円筒形状をなす中空の胴部24と、胴部24からライナ14の軸線方向外方に向かって徐々に縮径したドーム部26と、ドーム部26の縮径端部から分割ライナ15の軸線方向内方に窪む環状凹壁部28とを有する。
【0019】
本実施形態では、胴部24の内径及び外径は略一定である。なお、胴部24の内径及び外径は、ドーム部26に向かうに従ってテーパ状に縮径又は拡径させるようにしてもよい。
【0020】
図2に示すように、環状凹壁部28は、環状傾斜部30、環状接続部32及び筒状凸部34を有する。環状傾斜部30は、ドーム部26の縮径端部からライナ14の径方向内方に向かってライナ14の軸線方向内方に向かって傾斜するように延出している。環状接続部32は、環状傾斜部30の延出端部(ライナ14の軸線方向内方の端部)からライナ14の径方向内方に延出している。筒状凸部34は、環状接続部32の延出端部(ライナ14の径方向内方の端部)からライナ14の軸線方向外方に突出している。筒状凸部34の内孔は、ライナ14の端部開口20を形成する。
【0021】
図1において、補強層16は、強化繊維に樹脂基材が含浸された繊維強化樹脂(FRP)から形成される。すなわち、補強層16は、樹脂を含浸した含浸繊維(フィラメント。以下、単に「繊維36」という)がフィラメントワインディングによって複数回巻回された後、例えば、加熱によって樹脂が硬化することで形成された積層体である。FRPの例としては、CFRP、GFRP等が挙げられる。
【0022】
口金18は、ライナ14に対して高圧ガスを給排するための給排孔38が形成された筒状部材であり、例えば、金属からなる。2つの口金18は、互いに同様に構成されている。なお、口金18は、ライナ14の軸線方向の片方の端部にのみ設けられてもよい。
【0023】
図2に示すように、口金18は、ライナ14の内面側に位置する第1部材40と、ライナ14の外面側に位置するように第1部材40に接続された第2部材42とを有する。第1部材40は、端部開口20に挿通された円筒状の筒部44を含む。
【0024】
筒部44は、筒状凸部34よりも長く形成されている。筒部44の一端部は、ライナ14の外側に位置している。筒部44の他端部は、ライナ14の内面側(充填室12内)に位置している。筒部44の外周面は、筒状凸部34の内周面に当接している。筒部44の外周面のうち筒状凸部34よりもライナ14の軸線方向外方の部分には、雄ねじ46が設けられている。
【0025】
第2部材42は、円筒状のボス部48と、ボス部48に設けられたフランジ部50とを有する。ボス部48の内面には、径方向内方に突出した環状の凸状壁部52が設けられている。ボス部48の内面のうち凸状壁部52よりも充填室12側には、第1部材40の雄ねじ46に螺合する雌ねじ54が設けられている。つまり、第1部材40と第2部材42とは、雄ねじ46と雌ねじ54の螺合(ねじ結合)により互いに接続される。ボス部48は、環状接続部32の外面と筒状凸部34の外面とに当接している。
【0026】
フランジ部50は、ボス部48から径方向外方に突出するとともにリング状に延在している。フランジ部50は、環状傾斜部30の外面に当接している。また、フランジ部50のうちライナ14の軸線方向外方を指向する外面は、ドーム部26の外面に対して面一に連なっている。
【0027】
図1に示すように、このような高圧ガスタンク10において、ライナ14の軸線方向の両方の端部には、ライナ14の軸線を中心としたライナ14に対する口金18の回転を規制する回転規制構造56が設けられている。回転規制構造56は、ライナ14(各端部分割ライナ22)の内面17(ライナ14の軸線方向の端部の内面)に設けられた第1回転規制部58と、第1回転規制部58に嵌合するように口金18の第1部材40に設けられた第2回転規制部60とを含む。高圧ガスタンク10の一端側に位置する第1回転規制部58及び第2回転規制部60は、高圧ガスタンク10の他端側に位置する第1回転規制部58及び第2回転規制部60と同様に構成されている。
【0028】
図2及び図3に示すように、第1回転規制部58は、ライナ14の内面17のうち端部開口20に隣接する部分に設けられている。第1回転規制部58は、ライナ14の端部開口20から径方向外方に延在した複数(例えば、6個)の嵌合凹部62を有する。図3において、複数の嵌合凹部62は、ライナ14の軸線方向から見て(ライナ14の軸線と直交する断面において)、ライナ14の周方向に等間隔に設けられている。各嵌合凹部62は、ライナ14の軸線方向から見て矩形状に形成されている。嵌合凹部62は、筒状凸部34と環状接続部32とに跨るように設けられている(図2参照)。
【0029】
図2及び図3において、第2回転規制部60は、筒部44のうちライナ14の内面側(充填室12)に位置する部分に設けられている。第2回転規制部60は、嵌合凹部62に挿入(嵌合)されるように筒部44の他端部から径方向外方に突出した複数(例えば、6個)の嵌合凸部64を有する。つまり、第1部材40は、筒部44と複数の嵌合凸部64とを有する一体成形品である。そのため、第1部材40と第2部材42とは、ねじ結合によってライナ14の端部開口20の内周壁部である筒状凸部34をライナ14の軸線方向から挟持する。
【0030】
図3に示すように、嵌合凸部64は、嵌合凹部62に対応した形状に形成されている。すなわち、嵌合凸部64は、ライナ14の軸線方向から見て、筒部44の周方向に等間隔に設けられている。各嵌合凸部64は、ライナ14の軸線方向から見て矩形状に形成されている。嵌合凹部62及び嵌合凸部64の数、形状、位置、大きさ等は、適宜設定可能である。
【0031】
次に、高圧ガスタンク10の製造方法を例示する。
【0032】
図4に示すように、高圧ガスタンク10の製造方法は、準備工程、口金取付工程、接合工程及び補強層形成工程を含む。
【0033】
準備工程(ステップS1)では、複数の分割ライナ15のうち口金18が取り付けられるライナ14の軸線方向の端部開口20を有する2つの端部分割ライナ22を準備する。口金取付工程は、各端部分割ライナ22に対して行われる。
【0034】
口金取付工程(図4のステップS2)では、図5に示すように、口金18を形成する第1部材40を、端部分割ライナ22の端部開口20に端部分割ライナ22の内面側から口金18を形成する第1部材40を挿入する。これにより、第1部材40の一部が端部分割ライナ22の内面側に位置する。この際、端部分割ライナ22の内面17に設けられた複数の嵌合凹部62に複数の嵌合凸部64を嵌合する。これにより、第1部材40と分割ライナ15との相対回転が規制される。
【0035】
続いて、口金18を形成する第2部材42を、端部分割ライナ22の外面側に位置するように第1部材40に対して接続する。すなわち、第2部材42の雌ねじ54を第1部材40の雄ねじ46に対してねじ結合する。これにより、筒状凸部34(端部開口20の内周壁部)が第1部材40と第2部材42とで挟持される。
【0036】
接合工程(図4のステップS3)では、図6に示すように、一方の端部分割ライナ22の胴部24と他方の端部分割ライナ22の胴部24とを互いに突き合せた状態で突合せ部分を一周接合する。これにより、端部分割ライナ22が一体化されたライナ14が形成される。接合工程では、TIG溶接等のアーク溶接、レーザ溶接、溶着等の各種方法を採用し得る。なお、ライナ14が3分割以上である場合には、2つの端部分割ライナ22の間に中間ライナを配置して接合する。
【0037】
補強層形成工程(図4のステップS4)では、図7に示すように、ライナ14の軸線を中心とした回転力を口金18に作用させてライナ14を回転させながらライナ14の外面に繊維36を複数回巻回することにより補強層16を形成する。具体的に、補強層形成工程(フィラメントワインディング工程)では、例えば、両方の口金18(第1部材40)に対してフィラメントワインディング装置100のシャフト102を固定した状態でシャフト102を回転させる。そうすると、回転規制構造56により第1部材40とライナ14との相対回転が規制されているため、シャフト102から第1部材40に伝達された回転力(トルク)は、効率的にライナ14に伝達される。すなわち、口金18のライナ14に対する空転が抑えられる。これにより、高圧ガスタンク10が製造される。
【0038】
本実施形態は、以下の効果を奏する。
【0039】
本実施形態によれば、回転規制構造56(第1回転規制部58及び第2回転規制部60)が設けられているため、フィラメントワインディング時のライナ14に対する口金18の空転を抑えることができる。また、第1回転規制部58及び第2回転規制部60がライナ14の外面側ではなく内面側に位置している。そのため、ライナ14の充填室12内のガス(高圧ガス)によってライナ14が第1回転規制部58と第2回転規制部60との間の隙間に向かって変形することはない。従って、ライナ14の充填室12内のガスによるライナ14の変形を抑えることができる。
【0040】
第1部材40は、ライナ14の端部開口20に挿入される筒部44を有する。第1回転規制部58は、ライナ14の内面17のうち端部開口20に隣接する部分に設けられている。第2回転規制部60は、筒部44のうちライナ14の内面側に位置する部分に設けられている。
【0041】
このような構成によれば、口金18が大型化することを抑えることができる。
【0042】
筒部44は、円筒状に形成されている。第1回転規制部58は、端部開口20から径方向外方に延在した嵌合凹部62を有している。第2回転規制部60は、嵌合凹部62に挿入されるように筒部44から径方向外方に突出した嵌合凸部64を有している。嵌合凹部62及び嵌合凸部64は、筒部44の周方向に複数設けられている。
【0043】
このような構成によれば、嵌合凹部62に嵌合凸部64を嵌合することにより、フィラメントワインディング時に口金18のライナ14に対する空転を効果的に抑えることができる。また、フィラメントワインディング時に口金18に作用した回転力をライナ14に効率的に伝達することができる。
【0044】
第1部材40と第2部材42とは、ねじ結合によってライナ14をライナ14の軸線方向から挟持している。
【0045】
このような構成によれば、ライナ14の軸線方向及び周方向においてライナ14に対して口金18を固定することができる。
【0046】
ライナ14は、ライナ14の軸線方向外方に向かって縮径するドーム部26と、ドーム部26の縮径端部からライナ14の軸線方向内方に向かって窪むとともに中央に端部開口20が形成された環状凹壁部28と、を有する。環状凹壁部28は、ドーム部26の縮径端部からライナ14の径方向内方に向かってライナ14の軸線方向内方に傾斜するように延出した環状傾斜部30と、環状傾斜部30の延出端部からライナ14の径方向内方に延出した環状接続部32と、環状接続部32の延出端部からライナ14の軸線方向外方に向かって突出した筒状凸部34と、を含む。第2回転規制部60は、筒状凸部34と環状接続部32とに跨るように形成されている。
【0047】
このような構成によれば、高圧ガスタンク10の軸線方向の長さの短縮化を図ることができる。
【0048】
図8に示す態様(第1変形例)では、第1回転規制部58は、ライナ14の内面17に形成された嵌合凹部70を有し、第2回転規制部60は、嵌合凹部70に嵌合する嵌合凸部72を備える。嵌合凹部70及び嵌合凸部72は、ライナ14の軸線方向から見て多角形状の外形を有する。図8の例では、嵌合凹部70及び嵌合凸部72は、ライナ14の軸線方向から見て四角形状(矩形状)に形成されている。嵌合凹部70及び嵌合凸部72のライナ14の軸線方向から見た外形形状は、四角形状に限定されないが、角の数が4以上8以下の多角形状であるのが好ましい。
【0049】
この場合、嵌合凹部70及び嵌合凸部72は、ライナ14の軸線方向から見て多角形状の外形を有するため、フィラメントワインディング時の口金18のライナ14に対する空転を抑えることができる。
【0050】
図9に示す態様(第2変形例)では、ライナ14には環状凹壁部28が設けられておらず、ドーム部26の縮径端部に口金74が設けられている。また、口金74の第2部材76は、上述したフランジ部50を備えていない。
【0051】
この場合、口金74と補強層16との接触面積を小さくすることができるため、高圧ガスタンク10の繰り返しの利用で口金74と補強層16とが擦れて双方が摩耗し、破壊の起点になることを効果的に抑えることができる。
【0052】
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改変が可能である。
【0053】
以上の実施形態をまとめると、以下のようになる。
【0054】
上記実施形態は、樹脂製の複数の分割ライナ(15)が軸線方向に接合されてなり、且つ内部にガスの充填室(12)が形成されたライナ(14)と、前記ライナの外面に繊維(36)が複数回巻回されることで形成された補強層(16)と、前記ライナの軸線方向の端部開口(20)に設けられて前記充填室に対してガスを給排するための給排孔(38)が形成された口金(18、74)と、前記ライナの軸線を中心とした当該ライナに対する前記口金の回転を規制する回転規制構造(56)と、を備える高圧ガスタンク(10)であって、前記口金は、前記ライナの内面側に位置する第1部材(40)と、前記ライナの外面側に位置するとともに前記第1部材に接続された第2部材(42、76)と、を有し、前記回転規制構造は、前記ライナの内面(17)に設けられた第1回転規制部(58)と、前記第1回転規制部に嵌合するように前記第1部材に設けられた第2回転規制部(60)と、を含む、高圧ガスタンクを開示している。
【0055】
上記の高圧ガスタンクにおいて、前記第1部材は、前記ライナの前記端部開口に挿入される筒部(44)を有し、前記第1回転規制部は、前記ライナの内面のうち前記端部開口に隣接する部分に設けられ、前記第2回転規制部は、前記筒部のうち前記ライナの内面側に位置する部分に設けられてもよい。
【0056】
上記の高圧ガスタンクにおいて、前記筒部は、円筒状に形成され、前記第1回転規制部は、前記端部開口から径方向外方に延在した嵌合凹部(62)を有し、前記第2回転規制部は、前記嵌合凹部に挿入されるように前記筒部から径方向外方に突出した嵌合凸部(64)を有し、前記嵌合凹部及び前記嵌合凸部は、前記筒部の周方向に複数設けられてもよい。
【0057】
上記の高圧ガスタンクにおいて、前記第1回転規制部は、前記ライナの内面に形成された嵌合凹部(70)を有し、前記第2回転規制部は、前記嵌合凹部に嵌合する嵌合凸部(72)を有し、前記嵌合凹部及び前記嵌合凸部は、前記ライナの軸線方向から見て多角形状の外形を有してもよい。
【0058】
上記の高圧ガスタンクにおいて、前記第1部材と前記第2部材とは、ねじ結合によって前記ライナを当該ライナの軸線方向から挟持してもよい。
【0059】
上記の高圧ガスタンクにおいて、前記ライナは、前記ライナの軸線方向外方に向かって縮径するドーム部(26)と、前記ドーム部の縮径端部から前記ライナの軸線方向内方に向かって窪むとともに中央に前記端部開口が形成された環状凹壁部(28)と、を有し、前記環状凹壁部は、前記ドーム部の前記縮径端部から前記ライナの径方向内方に向かって前記ライナの軸線方向内方に傾斜するように延出した環状傾斜部(30)と、前記環状傾斜部の延出端部から前記ライナの径方向内方に延出した環状接続部(32)と、前記環状接続部の延出端部から前記ライナの軸線方向外方に向かって突出した筒状凸部(34)と、を含み、前記第2回転規制部は、前記筒状凸部と前記環状接続部とに跨るように形成されてもよい。
【0060】
上記実施形態は、樹脂製の複数の分割ライナが軸線方向に接合されてなり、且つ内部にガスの充填室が形成されたライナを備えた高圧ガスタンクの製造方法であって、複数の分割ライナのうち口金が取り付けられる前記ライナの軸線方向の端部開口を有する端部分割ライナ(22)を準備する準備工程と、前記口金を形成する第1部材を前記端部分割ライナの内面側に配置するとともに前記口金を形成する第2部材を前記端部分割ライナの外面側に配置して前記第1部材と前記第2部材とを互いに接続する口金取付工程と、前記複数の分割ライナを接合して一体化することにより前記ライナを形成する接合工程と、前記ライナの軸線を中心とした回転力を前記口金に作用させて前記ライナを回転させながら前記ライナの外面に繊維を複数回巻回することで補強層を形成する補強層形成工程と、を含み、前記口金取付工程では、前記ライナの軸線を中心とした当該ライナに対する前記口金の回転が規制されるように、前記端部分割ライナの内面に設けられた第1回転規制部に前記第1部材に設けられた第2回転規制部を嵌合する、高圧ガスタンクの製造方法を開示している。
【0061】
上記の高圧ガスタンクの製造方法において、前記口金取付工程では、前記第2部材を前記第1部材に対してねじ結合することにより、前記ライナを当該ライナの軸線方向から前記第1部材と前記第2部材とによって挟持してもよい。
【符号の説明】
【0062】
10…高圧ガスタンク 12…充填室
14…ライナ 15…分割ライナ
16…補強層 17…内面
18、74…口金 20…端部開口
22…端部分割ライナ 26…ドーム部
28…環状凹壁部 30…環状傾斜部
32…環状接続部 34…環状凸部
36…繊維 38…給排孔
40…第1部材 42、76…第2部材
44…筒部 56…回転規制構造
58…第1回転規制部 60…第2回転規制部
62、70…嵌合凹部 64、72…嵌合凸部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9