(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022152288
(43)【公開日】2022-10-12
(54)【発明の名称】成分分離プログラム及び成分分離方法
(51)【国際特許分類】
G01N 25/18 20060101AFI20221004BHJP
G01F 1/68 20060101ALN20221004BHJP
【FI】
G01N25/18 K
G01F1/68 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021055000
(22)【出願日】2021-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】100110227
【弁理士】
【氏名又は名称】畠山 文夫
(72)【発明者】
【氏名】稲葉 忠司
(72)【発明者】
【氏名】吉川 大輔
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 裕胤
(72)【発明者】
【氏名】石田 真之
【テーマコード(参考)】
2F035
2G040
【Fターム(参考)】
2F035EA05
2F035EA09
2G040AA03
2G040BA02
2G040BA23
2G040CA14
(57)【要約】
【課題】混合ガスの流量変化が大きい場合であっても、混合ガスに含まれる各成分の濃度を正確に算出することが可能な成分分離プログラム及び成分分離方法を提供する。
【解決手段】第1熱式流量計に、種類は既知又は想定されているが濃度は未知であるn種類のガス(n≧2)を含む混合ガスBを流した状態で、第1熱式流量計に内蔵されたヒータを用いて混合ガスBを温度T
1に加熱し、その時のT
1及び第1熱式流量計の第1センサ出力Y
B1を取得する。第mセンサ(2≦m≦n)を用いて、混合ガスBに含まれる第iガスX
iの流量x
i(1≦i≦n)と相関のある合計(n-1)個の第mセンサ出力Z
Bmであって、Y
B1とは異なるものを取得する。Y
B1に関する第1関係式と、Z
Bmに関する合計(n-1)個の第2関係式に、それぞれ、Y
B1及びZ
Bmに代入し、これらの連立方程式を解くことで各x
iを算出する。さらに、得られたx
1を用いて各第iガスX
iの濃度C
iを算出する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンピュータに以下の手順を実行させるための成分分離プログラム。
(A)第1熱式流量計に、種類は既知又は想定されているが濃度は未知であるn種類のガス(n≧2)を含む混合ガスBを流した状態で、前記第1熱式流量計に内蔵されたヒータを用いて前記混合ガスBを温度T
1に加熱し、その時の前記T
1及び前記第1熱式流量計の第1センサ出力Y
B1を取得し、これらをメモリに記憶させる手順A。
(B)第mセンサ(2≦m≦n)を用いて、前記混合ガスBに含まれる第iガスX
iの流量x
i(1≦i≦n)と相関のある合計(n-1)個の第mセンサ出力Z
Bmであって、前記Y
B1とは異なるものを取得し、これらを前記メモリに記憶させる手順B。
(C)次の式(1)で表される第1関係式と、前記x
iと前記Z
Bmとの関係を表す合計(n-1)個の第2関係式とを前記メモリに記憶させておき、前記Y
B1及び前記Z
Bmをそれぞれ前記第1関係式及び前記第2関係式に代入し、これらの連立方程式を解くことにより前記各x
iを算出し、算出された前記各x
iを前記メモリに記憶させる手順C。
【数1】
但し、
λ
B(T
1)=Σλ
xi(T
1)・x
i/q、
1/CF
B(T
1)=Σ[1/CF
xi(T
1)]・[x
i/q]、
q=Σx
i、
E
A(T
1)は、基準ガスAの前記温度T
1における出力-流量特性の傾き(既知)、
E
B1(T
1)は、前記混合ガスBの前記温度T
1における出力-流量特性の傾き(=Y
B1/q=Y
B1/Σx
i)、
λ
A(T
1)は、前記基準ガスAの前記温度T
1における熱伝導率(既知)、
λ
B(T
1)は、前記混合ガスBの前記温度T
1における熱伝導率、
CF
A(T
1)は、前記基準ガスAの前記温度T
1におけるコンバージョンファクター(既知)、
CF
B(T
1)は、前記混合ガスBの前記温度T
1におけるコンバージョンファクター、
λ
xi(T
1)は、前記第iガスX
iの前記温度T
1における熱伝導率(既知)、
CF
xi(T
1)は、前記第iガスX
iの温度T
1におけるコンバージョンファクター(既知)。
(D)次の式(3)を前記メモリに記憶させておき、前記各x
iを前記式(3)に代入することにより前記各第iガスX
iの濃度C
iを算出し、前記C
iを前記メモリに記憶させる手順D。
C
i(%)=x
i×100/q=x
i×100/Σx
i …(3)
【請求項2】
前記手順Bは、
(a)前記第mセンサの一つとして圧力センサを用い、
(b)前記圧力センサを用いて前記混合ガスBの圧力Pを取得し、これを前記ZBmの一つとして前記メモリに記憶させる
手順を含み、
前記手順Cは、前記第2関係式として次の式(2.1)を用いる手順を含む
請求項1に記載の成分分離プログラム。
P=ΣPxi・xi …(2.1)
但し、Pxiは、それぞれ、前記第iガスXiの圧力-流量特性の傾き(既知)。
【請求項3】
前記手順Bは、
(a)前記第mセンサとして前記第1熱式流量計とは異なる1個又は2個以上の第k熱式流量計(2≦k≦n)を用い、
(b)前記第k熱式流量計に前記混合ガスBを流した状態で、前記第k熱式流量計に内蔵されたヒータを用いて前記混合ガスBを温度T
k(但し、T
k≠T
j、j≠k、j≧1)に加熱し、その時の前記T
k及び前記第k熱式流量計の第kセンサ出力Y
Bkを取得し、前記Y
Bkを1又は2以上の前記Z
Bmとして前記メモリに記憶させる
手順を含み、
前記手順Cは、前記第2関係式として次の式(2.2)を用いる手順を含む
請求項1又は2に記載の成分分離プログラム。
【数2】
但し、
λ
B(T
k)=Σλ
xi(T
k)・x
i/q、
1/CF
B(T
k)=Σ[1/CF
xi(T
k)]・[x
i/q]、
q=Σx
i、
E
A(T
k)は、前記基準ガスAの前記温度T
kにおける出力-流量特性の傾き(既知)、
E
Bk(T
k)は、前記混合ガスBの前記温度T
kにおける出力-流量特性の傾き(=Y
Bk/q=Y
Bk/Σx
i)、
λ
A(T
k)は、前記基準ガスAの前記温度Tkにおける熱伝導率(既知)、
λ
B(T
k)は、前記混合ガスBの前記温度T
kにおける熱伝導率、
CF
A(T
k)は、前記基準ガスAの前記温度T
kにおけるコンバージョンファクター(既知)、
CF
B(T
k)は、前記混合ガスBの前記温度T
kにおけるコンバージョンファクター、
λ
xi(T
k)は、前記第iガスX
iの前記温度T
kにおける熱伝導率(既知)、
CF
xi(T
k)は、前記第iガスX
iの温度T
kにおけるコンバージョンファクター(既知)。
【請求項4】
前記手順Bは、
(a)前記第mセンサとして、前記第k熱式流量計に代えて前記第1熱式流量計を用い、
(b)前記第1熱式流量計に前記混合ガスBを流した状態で、前記第1熱式流量計に内蔵されたヒータを用いて前記混合ガスBを1種または2種以上の温度Tk(但し、Tk≠Tj、j≠k、j≧1、k≧2)に加熱し、その時の前記Tk及び前記YBkを取得し、前記YBkを前記ZBmの一つとして前記メモリに記憶させる
手順を含む請求項3に記載の成分分離プログラム。
【請求項5】
前記手順Cの後、前記手順Dの前に、前記xiのいずれか1以上に補正係数を乗じる手順Eをさらに備えている請求項1から4までのいずれか1項に記載の成分分離プログラム。
【請求項6】
請求項1から5までのいずれか1項に成分分離プログラムを用いて前記混合ガスBに含まれる前記第iガスXiの濃度Ci(1≦i≦n、n≧2)を測定する成分分離方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成分分離プログラム及び成分分離方法に関し、さらに詳しくは、成分の種類は既知又は想定されているが各成分の濃度は未知である混合ガスに含まれる各成分の濃度を算出することが可能な成分分離プログラム、及びこれを用いた成分分離方法に関する。
【背景技術】
【0002】
都市ガスやLPG等の可燃性ガスは、給湯、調理、暖房、発電などの燃料として広く利用されている。これらの可燃性ガスは、通常、複数の成分(炭化水素)を含んでおり、しかも、生産地や消費地毎にその組成が異なっている場合が多い。
【0003】
現在、炭化水素を含む可燃性ガスは、固体酸化物形燃料電池(SOFC)の発電用燃料としても用いられている。炭化水素を含む可燃性ガスをSOFCの燃料として用いるためには、炭化水素を改質器により改質し、COガス及びH2ガスを生成させる必要がある。改質反応は吸熱反応であるため、可燃性ガスの組成が変わると吸熱量も変わるが、可燃性ガスの組成が一定であれば吸熱量も一定となる。現在、SOFC用の燃料には組成が安定している可燃性ガスが用いられているため、可燃性ガスの熱管理は行われていない。
【0004】
しかしながら、近年、可燃性ガスの熱量規制が緩和される傾向にある。また、海外では可燃性ガスの組成に地域性があり、組成が不均一であることが多い。そのため、SOFCを高効率で運転するために、可燃性ガスの熱管理が求められるようになってきた。
可燃性ガスの熱管理を行うためには、可燃性ガスに含まれる各成分の種類及び濃度を知る必要がある。可燃性ガスの成分濃度を検出する装置としては、例えば、ガスクロマトグラフィーをはじめとするガス分析機器や、プラント用熱量計などがある。しかし、これらはいずれも大型で高価なため、家庭用の機器に装着することはできない。
【0005】
そこでこの問題を解決するために、従来から種々の提案がなされている。
例えば、特許文献1には、加熱ヒータの抵抗変化から混合ガスの放熱係数を測定し、予め評価しておいたデータベースを基に、混合ガスの熱伝導率を算出する熱伝導率測定装置(以下、「熱伝導式センサ」ともいう)が開示されている。
また、特許文献1には、
(a)このような熱伝導式センサを用いて、成分の種類は既知であるが組成比率が不明である混合ガスの熱伝導率を異なる温度(例えば、3種類のガスを含む混合ガスの場合は3種類の温度)で計測し、
(b)得られた複数個の熱伝導率から、混合ガスの組成比率を逆算する方法
が開示されている。
同文献には、このような方法により混合ガスの組成比率を求めることができる点が記載されている。
【0006】
特許文献1に記載の方法を用いると、成分の種類は既知であるが組成が未知である混合ガスの組成比率を算出することができる。しかしながら、熱伝導式センサを用いた熱伝導率測定法は流量依存性を持つため、熱伝導率を正確に測定するためには流量管理が必要となる。そのため、特許文献1に記載の方法では、流量変化が大きい用途において正確な成分分離ができないという問題があった。また、特許文献1に記載の方法は、校正ガスが必要で小型化が困難であるために、安価なシステムを構成できないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、混合ガスの流量変化が大きい場合であっても、成分が既知又は想定されている混合ガスに含まれる各成分の濃度を正確に算出することが可能な成分分離プログラムを提供することにある。
また、本発明が解決しようとする他の課題は、このような成分分離プロラムを用いた成分分離方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために本発明に係る成分分離プログラムは、コンピュータに以下の手順を実行させるためのものからなる。
(A)第1熱式流量計に、種類は既知又は想定されているが濃度は未知であるn種類のガス(n≧2)を含む混合ガスBを流した状態で、前記第1熱式流量計に内蔵されたヒータを用いて前記混合ガスBを温度T1に加熱し、その時の前記T1及び前記第1熱式流量計の第1センサ出力YB1を取得し、これらをメモリに記憶させる手順A。
(B)第mセンサ(2≦m≦n)を用いて、前記混合ガスBに含まれる第iガスXiの流量xi(1≦i≦n)と相関のある合計(n-1)個の第mセンサ出力ZBmであって、前記YB1とは異なるものを取得し、これらを前記メモリに記憶させる手順B。
(C)次の式(1)で表される第1関係式と、前記xiと前記ZBmとの関係を表す合計(n-1)個の第2関係式とを前記メモリに記憶させておき、前記YB1及び前記ZBmをそれぞれ前記第1関係式及び前記第2関係式に代入し、これらの連立方程式を解くことにより前記各xiを算出し、算出された前記各xiを前記メモリに記憶させる手順C。
【0010】
【0011】
但し、
λB(T1)=Σλxi(T1)・xi/q、
1/CFB(T1)=Σ[1/CFxi(T1)]・[xi/q]、
q=Σxi、
EA(T1)は、基準ガスAの前記温度T1における出力-流量特性の傾き(既知)、
EB1(T1)は、前記混合ガスBの前記温度T1における出力-流量特性の傾き(=YB1/q=YB1/Σxi)、
λA(T1)は、前記基準ガスAの前記温度T1における熱伝導率(既知)、
λB(T1)は、前記混合ガスBの前記温度T1における熱伝導率、
CFA(T1)は、前記基準ガスAの前記温度T1におけるコンバージョンファクター(既知)、
CFB(T1)は、前記混合ガスBの前記温度T1におけるコンバージョンファクター、
λxi(T1)は、前記第iガスXiの前記温度T1における熱伝導率(既知)、
CFxi(T1)は、前記第iガスXiの温度T1におけるコンバージョンファクター(既知)。
【0012】
(D)次の式(3)を前記メモリに記憶させておき、前記各xiを前記式(3)に代入することにより前記各第iガスXiの濃度Ciを算出し、前記Ciを前記メモリに記憶させる手順D。
Ci(%)=xi×100/q=xi×100/Σxi …(3)
【0013】
本発明に係る成分分離方法は、本発明に係る成分分離プログラムを用いて前記混合ガスBに含まれる前記第iガスXiの濃度Ci(1≦i≦n、n≧2)を測定するものからなる。
【発明の効果】
【0014】
第1熱式流量計の出力YB1は総流量qに依存するが、第1熱式流量計の出力YB1と総流量qとの間には直線関係が成り立つ。そのため、混合ガスBの温度がT1である時の混合ガスBの総流量qに対する第1熱式流量計の出力YB1の比EB1(T1)(=YB1/q)は、総流量qによらず一定となる。一方、EB1(T1)は、式(1)に示されるように、混合ガスBに含まれる第iガスXiの流量xi(1≦i≦n)の関数である。
【0015】
そのため、第iガスXiの流量xi(1≦i≦n)と相関のある合計(n-1)個の第2関係式をさらに取得し、第1関係式と第2関係式とからなる連立方程式を解くと、各xiを算出することができる。さらに、得られたxiから、混合ガスBに含まれる第iガスXiの濃度Ciを算出することができる。
このようにして得られたC1は、総流量qに依存しないEB1(T1)を用いて算出されるので、混合ガスBの流量変化が大きい場合であっても、混合ガスに含まれる各成分の濃度を正確に算出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明に係る成分分離プログラムのフローチャートである。
【
図2】本発明に係る成分分離法を実証するための評価装置の模式図である。
【
図5】単成分CH
4の各種パラメータ(流量-出力特性の傾きE、熱伝導率λ、コンバージョンファクターCF、λ×CF、又は、1/(λ×CF))に対する、単成分C
3H
8の各種パラメータの比の比較を示す図である。
【
図6】設定流量と演算総流量との関係を示す図である。
【
図7】設定メタン比率と演算メタン比率との関係を示す図である。
【
図8】設定プロパン比率と演算プロパン比率との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の一実施の形態について詳細に説明する。
[1. 成分分離プログラム]
本発明に係る成分分離プログラムは、成分の種類は既知又は想定されているが各成分の濃度は未知である混合ガスBに含まれる各成分の濃度を算出するためのプログラムである。成分分離プログラムは、具体的には、コンピュータに以下の手順を実行させるためのものからなる。
【0018】
[1.1. 手順A]
まず、第1熱式流量計に、種類は既知又は想定されているが濃度は未知であるn種類のガス(n≧2)を含む混合ガスBを流した状態で、前記第1熱式流量計に内蔵されたヒータを用いて前記混合ガスBを温度T1に加熱する。その時の前記T1及び前記第1熱式流量計の第1センサ出力YB1を取得し、これらをメモリに記憶させる(手順A)。
【0019】
[1.1.1. 第1熱式流量計]
「熱式流量計」とは、流体が流れる方向に沿って2個の温度センサが配置され、かつ、2個の温度センサの中間にヒータが配置されている流量計をいう。熱式流量計内に流体が流れている状態でヒータを用いて流体を加熱し、上流側と下流側の2点で流体の温度を測定すると、2点間の温度差(センサ出力)から流体の流量を求めることができる。
本発明において、第1熱式流量計の構造は、このような機能を奏するものである限りにおいて、特に限定されない。
但し、本発明においては、第1熱式流量計のセンサ出力を、流体の流量ではなく、混合ガス中の各成分の濃度を算出するために用いている。この点が、従来とは異なる。
【0020】
[1.1.2. 混合ガスB]
「混合ガスB」とは、成分分離の対象となるガスであって、成分の種類は既知又は想定されているが、各成分の濃度は未知であるガスをいう。
本発明において、混合ガスBは、既知又は想定される第1ガスX1~第nガスXn(n≧2)の混合ガスからなる。混合ガスBに含まれる第iガスXi(1≦i≦n)の種類は、特に限定されない。第iガスXiとしては、例えば、メタン、エタン、プロパン、ブタン、水素、窒素などがある。
【0021】
[1.1.3. 第1センサ出力YB1の取得]
第1熱式流量計に混合ガスBを流し、第1熱式流量計に内蔵されたヒータを用いて混合ガスBを温度T1に加熱する。この時のT1及び第1熱式流量計の第1センサ出力YB1を取得し、これらをメモリに記憶させる。
ここで、「第1センサ出力YB1」とは、
(a)温度がT1、流量がqである時の第1熱式流量計の出力(V)、又は、
(b)温度がT1、流量がqである時の第1熱式流量計の出力(V1)と、温度がT1、流量がゼロであるときの第1式流量計の出力(V0)との差(=V1-V0)、
をいう。
YB1には、後者を用いるのが好ましい。これは、原点ずれのない出力を用いた方が傾きを正確に算出できるためである。
【0022】
第1センサ出力YB1を取得する際の温度T1は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な温度を選択することができる。T1は、通常、30℃~500℃の範囲内で設定される。
第1熱式流量計に単成分ガスを供給した場合、YB1は総流量qに比例する。第1熱式流量計に混合ガスBを流した場合も同様であり、YB1はqに比例する。しかしながら、混合ガスBの組成が変わると、それに応じて出力-流量特性の傾き(=YB1/q)が変わる。
【0023】
合計n種類のガス(第1ガスX1~第nガスXn)を含む混合ガスBの組成を確定するためには、各第iガスXiの流量xi(1≦i≦n)を知る必要がある。また、各xiを求めるには、合計n個の連立方程式を解く必要がある。後述するように、YB1/qに関する式は、x1~xnの関数である。そのため、YB1/qに関する式は、各xiを算出するためのn個の方程式の内の1つを構成する。
【0024】
[1.2. 手順B]
次に、第mセンサ(2≦m≦n)を用いて、前記混合ガスBに含まれる第iガスXiの流量xi(1≦i≦n)と相関のある合計(n-1)個の第mセンサ出力ZBmであって、前記YB1とは異なるものを取得し、これらを前記メモリに記憶させる(手順B)。
【0025】
[1.2.1. 第mセンサ]
「第mセンサ」とは、混合ガスBに含まれる第iガスXiの流量xi(1≦i≦n)と相関のある合計(n-1)個の第mセンサ出力ZBm(2≦m≦n)であって、YB1とは異なるものを出力するためのセンサをいう。
n個の変数(流量xi)を算出するためには、合計n個の方程式を連立させる必要がある。その内の一つが、上述したYB1/qに関する式である。残りの(n-1)個の方程式には、第mセンサの出力ZBmに関する式が用いられる。
【0026】
第mセンサの実個数は、合計(n-1)個の第mセンサ出力ZBmを取得すること可能である限りにおいて、特に限定されない。例えば、第mセンサが1個のセンサ出力のみを出力可能なものである場合、又は、第mセンサを1個のセンサ出力のみを出力させるために使用する場合、合計(n-1)個の第mセンサが必要となる。
一方、第mセンサが2個以上のセンサ出力を出力可能なものである場合、第mセンサの実個数は、変数の数よりも少ない数で足りる。例えば、後述するように、第1熱式流量計は、第mセンサの一つとして使用すること(すなわち、YB1を取得するためだけでなく、YBkを取得するためにも使用すること)ができる。
【0027】
[1.2.2. 第mセンサの具体例]
第mセンサの種類は、ZBmを取得することが可能なものである限りにおいて、特に限定されない。第mセンサとしては、例えば、以下のようなものがある。以下の第mセンサは、いずれか1種を用いても良く、あるいは、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0028】
[A. 具体例1:圧力センサ]
第mセンサの一つとして圧力センサを用いても良い。
この場合、手順Bは、前記圧力センサを用いて前記混合ガスBの圧力Pを取得し、これを前記ZBmの一つとして前記メモリに記憶させる手順を含む。
後述するように、圧力Pは、第iガスXiの流量xiの関数で表される。そのため、圧力Pに関する式は、各xiを算出するためのn個の方程式の内の一つとして用いることができる。
【0029】
[B. 具体例2:第k熱式流量計]
前記第mセンサとして前記第1熱式流量計とは異なる1個又は2個以上の第k熱式流量計(2≦k≦n)を用いても良い。
この場合、手順Bは、前記第k熱式流量計に前記混合ガスBを流した状態で、前記第k熱式流量計に内蔵されたヒータを用いて前記混合ガスBを温度Tk(但し、Tk≠Tj、j≠k、j≧1)に加熱し、その時の前記Tk及び前記第k熱式流量計の第kセンサ出力YBkを取得し、前記YBkを1又は2以上の前記ZBmとして前記メモリに記憶させる手順を含む。
【0030】
第k熱式流量計の出力-流量特性の傾き(=YBk/q)は、混合ガスBの組成だけでなく温度Tkにも依存する。すなわち、混合ガスBの組成及び総流量qが同一であっても、温度Tkが変わるとYBk/qの値も変わる。さらに、YBkに関する式もまたx1~xnの関数である。そのため、YBkに関する式は、各xiを算出するためのn個の方程式の内の一つとして用いることができる。さらに、YBkに関する式はqに依存しないので、これを用いると、qの変化が大きい場合であっても各xiを正確に算出することができる。
【0031】
第mセンサとして第k熱式流量計を用いる場合、第k熱式流量計の個数は、特に限定されない。例えば、1個の第k熱式流量計(すなわち、第2熱式流量計、k=2)を用いても良く、あるいは、2個以上の第k熱式流量計(すなわち、第2熱式流量計、第3熱式流量計…、k>2)を用いても良い。
第k熱式流量計でYBkを取得する際の温度Tkは、少なくともT1と非同一であれば良い。また、温度Tkを変えて複数個のYBkを取得する場合、複数個のTkは、それぞれT1と非同一であることに加えて、互いに非同一(Tk≠Tj、k≠j)であれば良い。
【0032】
第mセンサとして1個又は2個以上の第k熱式流量計を用いる場合、第1熱式流量計及び第k熱式流量計を混合ガスBの流れの方向に沿って一列に配置しても良い。この場合、第k熱式流量計は、第1熱式流量計に対して上流側に配置されていても良く、あるいは、下流側に配置されていても良い。
あるいは、第1熱式流量計及び第k熱式流量計を混合ガスBの流れの方向に沿って、並列に配置しても良い。
【0033】
[C. 具体例3:第1熱式流量計]
第mセンサとして、上述した第k熱式流量計に代えて第1熱式流量計を用いても良い。
この場合、手順Bは、前記第1熱式流量計に前記混合ガスBを流した状態で、前記第1熱式流量計に内蔵されたヒータを用いて前記混合ガスBを1種または2種以上の温度Tk(但し、Tk≠Tj、j≠k、j≧1、k≧2)に加熱し、その時の前記Tk及び前記YBkを取得し、前記YBkを前記ZBmの一つとして前記メモリに記憶させる手順を含む。
【0034】
上述したように、YBk/qは、Tkにも依存する。そのため、第1熱式流量計を用いてセンサ出力YB1を取得した後、又は、取得する前に、第1熱式流量計に混合ガスBを流した状態で、ヒータを用いて混合ガスBを温度Tk(≠T1)に加熱すると、温度Tkにおけるセンサ出力YBkを取得することができる。また、同様にしてTkを2種以上に変化させると、1個の第1熱式流量計を用いて、2種以上のYBkを取得することができる。
【0035】
[1.3. 手順C]
次に、次の式(1)で表される第1関係式と、前記xiと前記ZBmとの関係を表す合計(n-1)個の第2関係式とを前記メモリに記憶させておき、前記YB1及び前記ZBmをそれぞれ前記第1関係式及び前記第2関係式に代入する。次いで、これらの連立方程式を解くことにより前記各xiを算出し、算出された前記各xiを前記メモリに記憶させる(手順C)。
【0036】
【0037】
但し、
λB(T1)=Σλxi(T1)・xi/q、
1/CFB(T1)=Σ[1/CFxi(T1)]・[xi/q]、
q=Σxi、
EA(T1)は、基準ガスAの前記温度T1における出力-流量特性の傾き(既知)、
EB1(T1)は、前記混合ガスBの前記温度T1における出力-流量特性の傾き(=YB1/q=YB1/Σxi)、
λA(T1)は、前記基準ガスAの前記温度T1における熱伝導率(既知)、
λB(T1)は、前記混合ガスBの前記温度T1における熱伝導率、
CFA(T1)は、前記基準ガスAの前記温度T1におけるコンバージョンファクター(既知)、
CFB(T1)は、前記混合ガスBの前記温度T1におけるコンバージョンファクター、
λxi(T1)は、前記第iガスXiの前記温度T1における熱伝導率(既知)、
CFxi(T1)は、前記第iガスXiの温度T1におけるコンバージョンファクター(既知)。
【0038】
[1.3.1. 第1関係式]
第1関係式は、混合ガスBの温度T1における出力-流量特性の傾きEB1(T1)(=YB1/q=YB1/Σxi)に関する関係式であって、式(1)で表される。
式(1)において、「基準ガスA」とは、混合ガスBの出力-流量特性の傾きと比較するための、既知の出力-流量特性の傾きを得るためのガスをいう。
基準ガスAの種類は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適なガスを選択することができる。基準ガスAは、混合ガスBに含まれるいずれか1種のガスと同種のガスであっても良く、あるいは、混合ガスBに含まれていないガスでも良い。
【0039】
基準ガスAは既知のガスであるため、基準ガスAに関する変数はいずれも既知である。また、本発明において、混合ガスに含まれる第iガスXiの種類は既知又は想定されていることが前提となっている。そのため、式(1)に含まれる変数の内、未知の変数はq、λB(T1)、及びCFB(T1)のみである。一方、q、λB(T1)、及びCFB(T1)は、いずれも、x1~xnの関数である。そのため、式(1)は、x1~xnの関数となる。
【0040】
[1.3.2. 第2関係式]
「第2関係式」とは、第iガスXiの流量xiと第mセンサ出力ZBmとの関係を表す関係式をいう。第mセンサ出力ZBkに関する第2関係式は、x1~xnの関数である。そのため、式(1)で表される第1関係式と、合計(n-1)個の第2関係式からなる連立方程式を解くと、各xiを算出することができる。
本発明において、第2関係式の種類は、ZBkに関する関係式である限りにおいて、特に限定されない。第2関係式としては、具体的には、以下のようなものがある。
【0041】
[A. 具体例1:圧力センサのセンサ出力]
第mセンサの一つとして圧力センサを用いた場合、前記手順Cは、前記第2関係式として次の式(2.1)を用いる手順を含む。
P=ΣPxi・xi …(2.1)
但し、Pxiは、それぞれ、前記第iガスXiの圧力-流量特性の傾き(既知)。
【0042】
Pxiは既知であるため、圧力センサで取得された圧力Pを式(2.1)に代入すると、xiに関する方程式が得られる。これと、式(1)とを含む連立方程式を解くと、各xiを算出することができる。
【0043】
[B. 具体例2:第k熱式流量計の温度Tkでのセンサ出力]
第mセンサとして第1熱式流量計とは異なる1個又は2個以上の第k熱式流量計を用いた場合、前記手順Cは、前記第2関係式として次の式(2.2)を用いる手順を含む。
【0044】
【0045】
但し、
λB(Tk)=Σλxi(Tk)・xi/q、
1/CFB(Tk)=Σ[1/CFxi(Tk)]・[xi/q]、
q=Σxi、
EA(Tk)は、前記基準ガスAの前記温度Tkにおける出力-流量特性の傾き(既知)、
EBk(Tk)は、前記混合ガスBの前記温度Tkにおける出力-流量特性の傾き(=YBk/q=YBk/Σxi)、
λA(Tk)は、前記基準ガスAの前記温度Tkにおける熱伝導率(既知)、
λB(Tk)は、前記混合ガスBの前記温度Tkにおける熱伝導率、
CFA(Tk)は、前記基準ガスAの前記温度Tkにおけるコンバージョンファクター(既知)、
CFB(Tk)は、前記混合ガスBの前記温度Tkにおけるコンバージョンファクター、
λxi(Tk)は、前記第iガスXiの前記温度Tkにおける熱伝導率(既知)、
CFxi(Tk)は、前記第iガスXiの温度Tkにおけるコンバージョンファクター(既知)。
【0046】
2個以上の第k熱式流量計を用いて2種以上の温度Tkにおいてセンサ出力YBkを取得した場合、各Tk及びYBkをそれぞれ式(2.2)に代入し、2個以上の第2関係式を得る。式(2.2)はT1をTkに置き換えた以外は式(1)と同様であるので、式(2.2)に関するその他の点については説明を省略する。
式(2.2)は、式(1)と同様に、x1~xnの関数となる。そのため、これと、式(1)とを含む連立方程式を解くと、各xiを算出することができる。
【0047】
[C. 具体例3:第1熱式流量計の温度Tkでのセンサ出力]
具体例2において、第mセンサとして、第k熱式流量計に代えて第1熱式流量計を用いても良い。この場合、第1熱式流量計を用いてセンサ出力YB1を取得する前又は取得した後、温度T1とは異なる温度Tkにおいて出力YBkを取得すれば良い。以下、具体例2と同様にして連立方程式を解くと、各xiを算出することができる。
【0048】
[1.4. 手順D]
次に、次の式(3)を前記メモリに記憶させておき、前記各xiを前記式(3)に代入することにより前記各第iガスXiの濃度Ciを算出する。さらに、算出された前記Ciを前記メモリに記憶させる(手順D)。
Ci(%)=xi×100/q=xi×100/Σxi …(3)
【0049】
[1.5. 手順E]
本発明に係る成分分離プログラムは、前記手順Cの後、前記手順Dの前に、前記xiのいずれか1以上に補正係数を乗じる手順Eをさらに備えていてもよい。
【0050】
成分の種類及び組成が既知である混合ガスB’(校正用ガス)を用いて上記の方法を用いて流量xiを算出した場合、算出された流量xiと真の流量x0iとの間に誤差が生じている場合がある。誤差の原因は様々であるが、誤差の原因の中には、算出された流量xiに規則的なズレを生じさせるもの(例えば、xiとx0iとの間に一定の差を生じさせるもの)がある。このようなズレは、特定のxiにおいて生じる場合と、すべてのxiにおいて生じる場合とがある。
【0051】
混合ガスB’を用いた事前の検査においてこのような規則的なズレが観測されている場合には、算出された流量xiを真の流量x0iに近づけるための補正係数を予め算出しておき、これをメモリに記憶させておくのが好ましい。
また、組成が未知である混合ガスBの成分分離を行う場合には、算出されたxiのいずれか1以上に補正係数を乗じるのが好ましい。
【0052】
[2. 成分分離方法]
本発明に係る成分分離方法は、本発明に係る成分分離プログラムを用いて混合ガスBに含まれる第iガスXiの濃度Ci(1≦i≦n、n≧2)を測定するものからなる。
【0053】
図1に、本発明に係る成分分離プログラムのフローチャートを示す。
まず、ステップ1(以下、単に「S1」ともいう)において、第1熱式流量計に、種類は既知又は想定されているが濃度は未知であるn種類のガス(n≧2)を含む混合ガスBを流した状態で、第1熱式流量計に内蔵されたヒータを用いて混合ガスBを温度T
1に加熱する。その時のT
1及び第1熱式流量計の第1センサ出力Y
B1を取得し、これらをメモリに記憶させる(手順A)。
【0054】
次に、S2において、第mセンサ(2≦m≦n)を用いて、混合ガスBに含まれる第iガスXiの流量xi(1≦i≦n)と相関のある合計(n-1)個の第mセンサ出力ZBmであって、YB1とは異なるものを取得し、これらをメモリに記憶させる(手順B)。
【0055】
次に、S3において、上述した式(1)で表される第1関係式と、xiとZBmとの関係を表す合計(n-1)個の第2関係式とをメモリに記憶させておき、YB1及びZBmをそれぞれ第1関係式及び第2関係式に代入する。さらに、これらの連立方程式を解くことにより各xiを算出し、算出された各xiをメモリに記憶させる(手順C)。
【0056】
次に、S4において、xiのいずれか1以上に補正係数を乗じる(手順E)。なお、上述したように、S4は、必ずしも必要ではなく、省略することができる。
次に、S5において、上述した式(3)をメモリに記憶させておき、各xiを式(3)に代入することにより各第iガスXiの濃度Ciを算出する。さらに、算出されたCiをメモリに記憶させる(手順D)。
【0057】
次に、S6に進む。S6では、成分分離を継続するか否かが判断される。成分分離を継続する場合(S6:YES)には、S1に戻り、上述したS1~S6の各ステップを繰り返す。一方、成分分離を継続しない場合(S6:NO)には、処理を終了させる。
【0058】
[3. 作用]
第1熱式流量計の出力YB1は総流量qに依存するが、第1熱式流量計の出力YB1と総流量qとの間には直線関係が成り立つ。そのため、混合ガスBの温度がT1である時の混合ガスBの総流量qに対する第1熱式流量計の出力YB1の比EB1(T1)(=YB1/q)は、総流量qによらず一定となる。一方、EB1(T1)は、式(1)に示されるように、混合ガスBに含まれる第iガスXiの流量xi(1≦i≦n)の関数である。
【0059】
そのため、第iガスXiの流量xi(1≦i≦n)と相関のある合計(n-1)個の第2関係式をさらに取得し、第1関係式と第2関係式とからなる連立方程式を解くと、各xiを算出することができる。さらに、得られたxiから、混合ガスBに含まれる第iガスXiの濃度Ciを算出することができる。
このようにして得られたC1は、総流量qに依存しないEB1(T1)を用いて算出されるので、混合ガスBの流量変化が大きい場合であっても、混合ガスに含まれる各成分の濃度を正確に算出することができる。
【実施例0060】
[1. 評価装置]
図2に、本発明に係る成分分離法を実証するための評価装置の模式図を示す。
図2において、評価装置10は、2成分系の混合ガスBの成分分離を行うための装置であって、第1熱式流量計12と、圧力センサ(第mセンサ)14と、計測系16とを備えている。計測系16は、第1熱式流量計12の信号を測定するためのもの(電圧計)である。第1熱式流量計12には、D6F(オムロン(株)製)を用いた。
【0061】
第1熱式流量計12の入口には、第1配管18aが接続されている。第1配管18aは、第1マスフローコントローラ20a、第1バルブ22a、減圧弁24a、及び第2バルブ26aを介して、CH4源(図示せず)に接続されている。CH4源は、混合ガスBの成分の一つであるCH4ガスを供給するためのものである。
【0062】
第1配管18aの途中には、第2配管18bが接続されている。第2配管18bは、第2マスフローコントローラ20b、第1バルブ22b、減圧弁24b、及び第2バルブ26bを介して、C3H8源(図示せず)に接続されている。C3H8源は、混合ガスBの他の成分であるC3H8ガスを供給するためのものである。
第1熱式流量計の出口には、第4配管18dが接続されている。圧力センサ14は、第4配管18dの途中に接続されている。
【0063】
[2. 試験方法及び結果]
[2.1. 単成分ガスの特性の評価]
第1熱式流量計12に、単成分ガス(CH4ガス又はC3H8ガス)をそれぞれ所定量流し、各ガスに対する流量-出力特性を測定した。流量-出力特性の傾きEB(=YB/q)を算出するための第1熱式流量計の出力には、流量がqである時の出力(V1)と、流量0[L/min]の時の出力(V0)との差ΔV(=V1-V0)を用いた。
また、圧力は、ガスを流した時の排圧と、流量0[L/min]の時の排圧との差とした。
【0064】
図3に、単成分のセンサ出力特性を示す。
図3より、ガスの種類が異なると、流量-出力特性も異なることが分かった。
図4に、単成分の圧力依存性を示す。
図4より、ガスの種類が異なると、流量-圧力特性も変わることが分かった。
【0065】
[2.2. 流量-出力特性の傾き比の決定因子の検討]
流量-出力特性の傾き比(E
A/E
B)が、どのようなパラメータの比(=α
A/α
B。但し、α
Aは基準ガスAのパラメータ、α
Bは混合ガスBのパラメータ)と相関があるかを検討するために、各種パラメータの比較を行った。ここでは、基準ガスAとして、単成分のC
3H
8を用いた。また、混合ガスBとして、単成分のCH
4を用いた。
図5に、単成分CH
4の各種パラメータ(流量-出力特性の傾きE、熱伝導率λ、コンバージョンファクターCF、λ×CF、又は、1/(λ×CF))に対する、単成分C
3H
8の各種パラメータの比の比較を示す。
図5中、縦軸は、各パラメータの単成分CH
4の数値に対する単成分C
3H
8の数値の比率を表す。
図5より、流量-出力特性の傾き比(E
A/E
B)は、1/(熱伝導率×CF)の比と非常に良く一致することが分かった。このことから、傾き比(E
A/E
B)は、1/(熱伝導率×CF)の比で表されることが分かった。
【0066】
[2.3. 混合ガスの成分分離]
総流量、CH4ガスの流量、及び/又は、C3H8ガスの流量の異なる混合ガスBを評価装置10に流し、そのときのセンサ出力(第1熱式流量計12の出力)及び圧力を測定した。表1に結果を示す。なお、表1には、混合ガスの総流量、CH4ガスの流量、及びC3H8ガスの流量も併せて示した。
【0067】
【0068】
基準ガスAとしてCH
4を用い、上述した式(1)、式(2.1)、及び式(3)を用いて成分分離を行った。
図6に、設定流量と演算総流量との関係を示す。
図7に、設定メタン比率と演算メタン比率との関係を示す。さらに、
図8に、設定プロパン比率と演算プロパン比率との関係を示す。
図6~
図8より、本発明に係る成分分離法を用いると、流量が変わっても高精度に成分分離ができることが分かる。
【0069】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改変が可能である。