(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022152323
(43)【公開日】2022-10-12
(54)【発明の名称】癒合促進デバイス
(51)【国際特許分類】
A61B 17/11 20060101AFI20221004BHJP
A61L 17/10 20060101ALI20221004BHJP
【FI】
A61B17/11
A61L17/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021055050
(22)【出願日】2021-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000109543
【氏名又は名称】テルモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】八田国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】白石 美朱帆
(72)【発明者】
【氏名】荒巻 直希
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 美利亜
(72)【発明者】
【氏名】甲斐 美穂
【テーマコード(参考)】
4C081
4C160
【Fターム(参考)】
4C081AC16
4C081BA12
4C081CA05
4C081CA16
4C081CD01
4C081CD02
4C081CD11
4C081DA02
4C081DC02
4C160CC02
4C160CC06
4C160CC32
(57)【要約】
【課題】外科手術等の術後における縫合不全のリスクを低減させることができる癒合促進デバイスおよび癒合促進デバイスを提供する。
【解決手段】癒合促進デバイス100は、接合対象となる生体器官の間に配置されるシート状の本体部110を有し、本体部は、生体組織の癒合を促進する第1領域110Aと、第1領域よりも外方側および内方側の少なくとも一方に形成された第2領域110Bと、を有し、第2領域は、第1領域よりも吸水率が低く構成され、生体組織に対する保持力が抑える易剥離部120を備える。
【選択図】
図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
接合対象となる生体器官の間に配置されるシート状の本体部を有し、
前記本体部は、生体組織の癒合を促進する第1領域と、前記第1領域よりも外方側および内方側の少なくとも一方に形成された第2領域と、を有し、
前記第2領域は、前記第1領域よりも吸水率が低く構成され、前記生体組織に対する保持力が抑える易剥離部を備える、癒合促進デバイス。
【請求項2】
前記易剥離部は、前記本体部の周方向に沿って設けられる、請求項1に記載の癒合促進デバイス。
【請求項3】
前記易剥離部は、前記本体部の放射方向に沿って設けられる、請求項1または2に記載の癒合促進デバイス。
【請求項4】
前前記易剥離部は、断続的に設けられる、請求項2または3に記載の癒合促進デバイス。
【請求項5】
前記第1領域は、前記生体器官の一方の被接合部位に配置される第1係合器具と、前記生体器官の他方の被接合部位に配置され、前記第1係合器具と対向する第2係合器具とを備えた接合装置によって前記生体組織に対して少なくとも部分的に接合され、
前記第2領域は、前記第1係合器具と前記第2係合器具によって前記本体部を前記生体組織に接合する際に、前記第1係合器具と前記第2係合器具とが、前記本体部を間に挟んで対向して重なる領域よりも外方側、および前記接合装置が接合した前記生体器官を打ち抜く領域よりも内方側の少なくとも一方に位置する、請求項1~4のいずれか1項に記載の癒合促進デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、癒合促進デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
医療の分野において、生体器官を外科的手術により接合する手技(例えば、消化管の吻合術)が知られている。上記のような手技が行われた場合、生体器官同士が接合された接合部における癒合の遅延が生じないことが術後の予後決定因子として重要であることも知られている。
【0003】
生体器官を接合する手技では種々の方法や医療器具が用いられるが、例えば、生分解性の縫合糸により生体器官を縫合する方法や、ステープラーによる吻合を行う機械式の接合装置(特許文献1を参照)を利用する方法が提案されている。特に、機械式の接合装置を利用して吻合術を行う場合、縫合糸を用いた方法と比較して接合部における生体器官同士の接合力を高めることができるため、縫合不全のリスクを低減させることが可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、接合部における癒合の進行の程度は、患者の接合対象部位(被接合部位)における生体組織の状態等にも依存する。そのため、例えば、特許文献1に記載されているような接合装置を使用した場合においても、患者の生体組織の状態如何によっては、縫合不全のリスクを十分に低減させることができない可能性もある。
【0006】
そこで本発明は、外科手術等の術後における縫合不全のリスクを低減させることができる癒合促進デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る癒合促進デバイスは、接合対象となる生体器官の間に配置されるシート状の本体部を有し、前記本体部は、生体組織の癒合を促進する第1領域と、前記第1領域よりも外方側および内方側の少なくとも一方に形成された第2領域と、を有し、前記第2領域は、前記第1領域よりも吸水率が低く構成され、前記生体組織に対する保持力を抑える易剥離部を備える。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る癒合促進デバイスによれば、接合対象となる生体器官の間に本体部を挟み込ませることにより、生体器官の生体組織の癒合を促進することができる。また、癒合促進デバイスは、術者が生体器官に配置された本体部を剥がしやすいように構成する易剥離部を備えるため、術者が手技を行っている間に本体部に負荷を与えることなく再貼付することができる。したがって、術者は、生体器官の縫合不全のリスクを効果的に低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1A】本発明の一形態に係る癒合促進デバイスの裏面を示す斜視図である。
【
図1B】本発明の一形態に係る癒合促進デバイスの表面を示す斜視図である。
【
図2】
図1Bの2-2線に沿う断面の一部を拡大して示す断面図である。
【
図3】癒合促進デバイスの各領域を説明する模式図である。
【
図4】癒合促進デバイスの変形例1を示す概略図である。
【
図5】癒合促進デバイスの変形例2を示す概略図である。
【
図6】癒合促進デバイスの変形例3を示す概略図である。
【
図7】癒合促進デバイスの変形例4を示す概略図である。
【
図8】癒合促進デバイスを用いた処置方法の各手順を示すフローチャートである。
【
図9】処置方法の実施形態(大腸吻合術)の手順を示すフローチャートである。
【
図10】大腸吻合術を説明するための模式的な断面図である。
【
図11】大腸吻合術を説明するための模式的な断面図である。
【
図12】大腸吻合術を説明するための模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付した図面を参照して、本発明の実施形態を説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張され、実際の比率とは異なる場合がある。
【0011】
<癒合促進デバイス100>
図1Aおよび
図1Bは、癒合促進デバイス100を示す斜視図である。
図2は、
図1Bの2-2線に沿う断面の一部を拡大して示す断面図であり、癒合促進デバイス100の貫通孔112について示す拡大断面図である。
図3は、癒合促進デバイスの各領域を説明する模式図である。
【0012】
図1Aおよび
図1Bに示すように、癒合促進デバイス100は、接合対象となる生体器官の間に配置される本体部110を有し、本体部110は、生体組織に対する保持力を抑える易剥離部120を備えている。
【0013】
癒合促進デバイス100は、
図10~
図12に示すように、所定の生体器官同士を接合する手技(例えば、消化管の吻合術)に適用することができる。後述するように、本明細書の説明では、癒合促進デバイス100を使用した手技例として大腸吻合術を説明する。
【0014】
<本体部110>
図1および
図2に示すように、本体部110は、シート状の部材で構成している。
【0015】
本体部110は、第1領域110Aと、第1領域110Aの外縁に沿って形成された第2領域110Bと、を有している。第1領域110Aの外縁とは、
図1Aの仮想線C1である。
【0016】
本体部110の第1領域110Aは、接合対象となる生体器官の間に配置され(
図12を参照)、生体組織の癒合を促進することができる。
【0017】
本体部110の第2領域110Bは、
図1Aに示すように、複数の易剥離部120を備え、生体器官を接合する接合装置700を構成する第1係合器具710と第2係合器具720とが本体部110を間に挟んで対向して重なる領域E1よりも外方側に位置する(
図12を参照)。これにより、術者は、生体器官に配置した本体部110を本体部110の外側から内側に向かって剥がすことによって、本体部110に負荷をかけることなく再貼付することができる。したがって、術者は、生体器官の縫合不全のリスクを効果的により低減させることができる。なお、癒合促進デバイス100と接合装置700を用いた処置方法の詳細については、後述する。
【0018】
本体部110に形成された各貫通孔112は、
図1A~
図2に示すように、本体部110の面方向において規則的かつ周期的に設けられている。ただし、各貫通孔112は、本体部110の面方向の各部においてランダムに設けられていてもよい。
【0019】
各貫通孔112は、
図2に示すように、本体部110の厚み方向(
図2の上下方向)に沿って表面111と裏面113との間で略垂直に延びている。なお、各貫通孔112は、本体部110の厚み方向に沿う断面において、表面111と裏面113との間でジグザグ状に屈曲していたり、湾曲していたりしてもよい。
【0020】
各貫通孔112は、略円形の平面形状(本体部110の表面111または本体部110の裏面113を平面視した際の形状)を有する。ただし、各貫通孔112の平面形状は、特に限定されず、例えば、楕円形や多角形(矩形や三角形等)であってもよい。また、貫通孔112ごとに平面形状や断面形状が異なっていてもよい。
【0021】
本体部110は、略円形の平面形状を有する。ただし、本体部110の平面形状は、特に限定されず、例えば、楕円形や多角形(矩形や三角形等)であってもよい。
【0022】
本体部110の厚み(
図2に示す寸法T)は特に制限されないが、好ましくは0.05~0.3mmであり、より好ましくは0.1~0.2mmである。本体部110の厚みが0.05mm以上である場合(特に0.1mm以上である場合)、癒合促進デバイス100の取り扱い時に本体部110が破損しない程度の強度を備えさせることができる。一方、本体部110の厚みが0.3mm以下である場合(特に0.2mm以下である場合)、本体部110が適用される生体組織に本体部110が密着して生体組織に追随するのに十分な柔軟性を備えさせることができる。
【0023】
本体部110は、貫通孔112のピッチP(
図2に示す距離Pであり、隣接する貫通孔112の間の距離)に対する貫通孔112の孔径D(
図2に示す距離D)の比の値が、0.25以上40未満であることが好ましい。なお、貫通孔112の平面形状が真円である場合、貫通孔112の孔径Dは真円の直径に等しくなる。一方、貫通孔112の平面形状が真円ではない場合には、貫通孔112の開口部(貫通孔112において表面111または裏面113に面した部分)の面積と同じ面積を有する真円の直径(円相当径)を当該貫通孔112の孔径Dとすることができる。
【0024】
本体部110は、複数の貫通孔112を有するため、各貫通孔112に対応する孔径Dの値が複数存在する。そこで、本実施形態では、上述した比の値を算出するにあたっては、複数の貫通孔112にそれぞれ対応する孔径Dの値の2点以上の算術平均値を孔径Dの代表値として用いるものとする。一方、複数の貫通孔112のピッチPは、2つの貫通孔112の開口部同士の最短距離で定義する。ただし、ピッチPの値についても隣接する貫通孔112の組み合わせに対応するピッチPの値が複数存在する。したがって、本実施形態では、上述した比の値を算出するにあたっては、隣接する貫通孔112の組み合わせにそれぞれ対応するピッチPの値の2点以上の算術平均値をピッチPの代表値として用いるものとする。
【0025】
なお、上記の貫通孔112のピッチP、孔径D、ピッチPに対する孔径Dの比等は、一例であり、これに限定されることはない。
【0026】
本体部110は、生分解性の材料で構成することができる。本体部110の構成材料について特に制限はなく、例えば、生分解性樹脂が挙げられる。生分解性樹脂としては、例えば、特表2011-528275号公報、特表2008-514719号公報、国際公報第2008-1952号、特表2004-509205号公報等に記載されるものなどの公知の生分解性(共)重合体が使用できる。具体的には、(1)脂肪族ポリエステル、ポリエステル、ポリ酸無水物、ポリオルソエステル、ポリカーボネート、ポリホスファゼン、ポリリン酸エステル、ポリビニルアルコール、ポリペプチド、多糖、タンパク質、セルロースからなる群から選択される重合体;(2)上記(1)を構成する一以上の単量体から構成される共重合体などが挙げられる。すなわち、生分解性シートは、脂肪族ポリエステル、ポリエステル、ポリ酸無水物、ポリオルソエステル、ポリカーボネート、ポリホスファゼン、ポリリン酸エステル、ポリビニルアルコール、ポリペプチド、多糖、タンパク質、セルロースからなる群から選択される重合体、ならびに前記重合体を構成する一以上の単量体から構成される共重合体からなる群より選択される少なくとも1種の生分解性樹脂を含むことが好ましい。
【0027】
本体部110の製造方法は特に限定されないが、例えば、上述した生分解性樹脂からなる繊維を作製し、当該繊維を用いてメッシュ形状のシートを製造する方法が挙げられる。生分解性樹脂からなる繊維を作製する方法としては、特に限定されないが、例えば、エレクトロスピニング法(電界紡糸法・静電紡糸法)や、メルトブロー法等が挙げられる。本体部110は、上記の方法のうち1種のみを選択して用いてもよいし、2種以上を選択し適宜組み合わせてもよい。なお、本体部110の製造方法のさらに別の例として、上述した生分解性樹脂からなる繊維を常法に従って紡糸し、得られた繊維をメッシュ状に編むことによって本発明に係る生分解性シートを製造する方法、該繊維を圧縮することによって該生分解性シートを製造する方法、該繊維を織らずに絡み合わせることによって該生分解性シートを製造する方法を挙げることができる。
【0028】
本体部110は、本体部110を構成する生分解性樹脂等の構成材料によって生体反応を惹起させる。本体部110は、この作用により、フィブリン等の生体成分の発現を誘導する。このようにして誘導された生体成分は、本体部110の貫通孔112を貫通するようにして集積することで、癒合を促進することができる。したがって、接合対象となる生体器官同士の間に癒合促進デバイス100の本体部110を配置することにより、上記のメカニズムによる癒合の促進が生じる。
【0029】
なお、本体部110の材質は、癒合を促進させることが可能であれば、生分解性でなくてもよい。また、本体部110は、癒合を促進させることが可能であれば、材質に関わらず、貫通孔112が形成されていなくてもよい。
【0030】
本体部110は、
図1Aおよび
図1Bに示すように、貫通孔112よりも孔径が大きく形成された孔部114を有している。孔部114は、本体部110の中心位置O1(平面図上の中心位置)が含まれる範囲に形成している。なお、中心位置O1は、本体部110が回転対称な形状を有する場合、本体部110の回転中心である。
【0031】
孔部114は、円形の平面形状を有する。孔部114の孔径は、例えば、5mm~25mmに形成することができる。なお、孔部114の平面形状は、特に限定されず、例えば、楕円形や多角形(矩形や三角形等)であってもよい。また、孔部114の大きさも特に限定されない。
【0032】
なお、孔部114は、予め本体部110に作成されていてもよいし、手技が行われている間に術者が作成してもよい。術者は、手技の進行等に応じて、本体部110の種々の変形を選択することができる。
【0033】
<易剥離部120>
各易剥離部120は、
図1Aおよび
図1Bに示すように、本体部110の第2領域110Bの表面111から裏面113にかけて設けられ、本体部110の周方向(
図1A中の矢印R1-R2で示す方向)に沿って断続的にかつ周期的に設けられている。
【0034】
各易剥離部120は、略円形の平面形状(本体部110の裏面113を平面視した際の形状)を有する。ただし、各易剥離部120の平面形状は、特に限定されず、例えば、楕円形や多角形(矩形や三角形等)、点、線であってもよい。また、易剥離部120ごとに平面形状が異なっていてもよい。
【0035】
易剥離部120は、その他の領域(易剥離部120以外の領域)よりも吸水率が低く設定されている。本体部110を構成する材料は、所定の吸水率に設定され、本体部110が生体器官に配置されたときに生体組織に含まれる水分を吸収することによって生体組織に貼り付きやすくなる。一方で、易剥離部120は、吸水率が低く設定されているため、生体組織に含まれる水分を吸収しにくく、生体組織に付着しにくくなる。したがって、術者は、易剥離部120の周辺を持ち上げることによって本体部110を生体組織から容易に剥がすことができる。
【0036】
易剥離部120を形成する方法としては、熱や超音波によって本体部110を構成する材料を溶かす方法を用いることができる。この方法によれば、本体部110を構成する材料の密度を高くすることによって吸水率を低くすることができる。ただし、易剥離部120を形成する方法は、特に限定されず、例えば、本体部110に撥水性コーテイングを施す方法、本体部110を構成する材料にマルチフィラメントやモノフィラメントを積層する方法を用いることができる。
【0037】
なお、易剥離部120の構成は、生体組織に対する保持力を抑える構成である限り特に限定されず、種々変更することができる。
【0038】
例えば、易剥離部120は、本体部110の表面111から裏面113にかけて設けられていると説明したが、表面111のみに設けられていてもよく、裏面113のみに設けられていてもよく、表面111と裏面113との間に設けられていてもよい。また、本体部110の厚み方向(
図2の上下方向)に対する易剥離部120の位置は、易剥離部120ごとに異なっていてもよい。
【0039】
また、易剥離部120は、本体部110の中心位置O1に対して対称な位置に配置されていてもよく、非対称な位置に配置されていてもよい。
【0040】
また、易剥離部120は、
図1Aに示すように、本体部110の周方向に沿って設けられていると説明したが、易剥離部120が延在する方向は、特に限定されない。
【0041】
また、易剥離部120は、本体部110の所定の方向(周方向や径方向)に対して連続的に設けられていてもよい。
【0042】
また、易剥離部120が本体部110の所定の方向に沿って列を為して形成されている場合、その列の数は、単数であってもよく、複数であってもよい。また、易剥離部120の列は、本体部110の複数の方向(異なる方向)に沿って形成されていてもよい。
【0043】
また、易剥離部120は、本体部110の面方向の各部においてランダムに設けられていてもよい。
【0044】
また、易剥離部120の位置は特に限定されない。易剥離部120は、上述したように、第1領域110Aの外方側(本体部110を間に挟んで対向して重なる領域E1よりも外方側、
図3および
図12を参照)に形成されていることが好ましいが、第1領域110Aの内方側(孔部114の周辺であり、接合装置700が接合した生体器官を打ち抜く領域E2よりも内方側、
図3および
図12を参照)に形成されていてもよい。さらに言えば、易剥離部120は、接合装置700のステープルにより接合される領域E3(
図3を参照)よりも外方側に形成されていること好ましいが、接合装置700のステープルにより接合される領域E3よりも内方側に形成されていてもよい。
【0045】
以上説明したように、本実施形態に係る癒合促進デバイス100は、接合対象となる生体器官の間に配置されるシート状の本体部110を有し、本体部110は、生体組織の癒合を促進する第1領域110Aと、第1領域110Aよりも外方側および内方側の少なくとも一方に形成された第2領域110Bと、を有し、第2領域110Bは、第1領域110Aよりも吸水率が低く構成され、生体組織に対する保持力が抑える易剥離部120を備える。
【0046】
上記のような癒合促進デバイス100によれば、接合対象となる生体器官の間に本体部110を挟み込ませることにより、生体器官の生体組織の癒合を促進することができる。また、癒合促進デバイス100は、術者が生体器官に配置された本体部110を剥がしやすいように構成する易剥離部120を備えるため、術者が手技を行っている間に本体部110に負荷を与えることなく再貼付することができる。したがって、術者は、生体器官の縫合不全のリスクを効果的に低減させることができる。
【0047】
また、易剥離部120は、本体部110の周方向に沿って設けられる。このように構成することによって、術者は、癒合促進デバイス100を剥がしやすくなる。
【0048】
また、易剥離部120は、断続的に設けられる。このように構成することによって、このように構成することによって、術者は、癒合促進デバイス100を剥がしやすくなる。
【0049】
また、第1領域110Aは、生体器官の一方の被接合部位に配置される第1係合器具710と、生体器官の他方の被接合部位に配置され、第1係合器具710と対向する第2係合器具720とを備えた接合装置700によって生体組織に対して少なくとも部分的に接合され、第2領域110Bは、第1係合器具710と第2係合器具720によって本体部110を生体組織に接合する際に、第1係合器具710と第2係合器具720とが、本体部110を間に挟んで対向して重なる領域E1よりも外方側、および接合装置700が接合した生体器官を打ち抜く領域E2よりも内方側の少なくとも一方に位置する。このように構成することによって、癒合促進デバイス100は、生体器官が接合される領域における生体組織に対する保持力を確保しつつ、術者が生体器官に配置された本体部110を剥がしやすいように構成することができる。そのため、術者は、手技を行っている間に本体部110に負荷を与えることなく再貼付することができる。したがって、術者は、生体器官の縫合不全のリスクを効果的により低減させることができる。
【0050】
<変形例>
次に、癒合促進デバイスの変形例を説明する。
図4~
図7は、変形例1~4に係る癒合促進デバイスを説明するための概略図である。なお、
図4~
図7は、説明の便宜上、癒合促進デバイスの表面を示し、本体部の貫通孔を省略している。
【0051】
例えば、
図4に示す変形例1に係る癒合促進デバイス200のように、易剥離部220は、本体部210の第1領域210Aの外方側および内方側に設けられていてもよい。
【0052】
また、
図5に示す変形例2に係る癒合促進デバイス300のように、易剥離部320は、本体部310の第1領域310Aの外方側および内方側に設けられ、かつ格子状に設けられていてもよい。
【0053】
また、
図6に示す変形例3に係る癒合促進デバイス400のように、易剥離部420は、本体部410の第1領域410Aの外方側および内方側に設けられ、かつ本体部410の径方向(本体部410の中心位置O2からの放射方向)に沿って設けられていてもよい。
【0054】
また、
図7に示す変形例4に係る癒合促進デバイス500のように、易剥離部520は、本体部510の第1領域510Aの内縁に連続して設けられていてもよい。
【0055】
以上説明したように、変形例に係る癒合促進デバイスによれば、易剥離部420は、本体部410の放射方向に沿って設けられる。このように構成することによって、術者は、癒合促進デバイス400を剥がしやすくなる。
【0056】
<処置方法の実施形態(生体器官吻合術)>
次に、癒合促進デバイスを用いた処置方法を説明する。
【0057】
図8は、癒合促進デバイスを用いた処置方法の各手順を示すフローチャートである。
【0058】
処置方法は、生体器官の接合対象となる一方の被接合部位に生体組織の癒合を促進するシート状の本体部を備える癒合促進デバイスを配置すること(S11)、一方の被接合部位と他方の被接合部位との間に癒合促進デバイスの本体部の少なくとも一部を配置した状態で一方の被接合部位と他方の被接合部位とを接合すること(S12)、を含む。
【0059】
処置方法により接合される生体器官および生体器官における被接合部位は特に限定されず、任意に選択することができる。ただし、以下の説明では、大腸吻合術を例に挙げて説明する。また、以下に説明する各手技において使用される癒合促進デバイスとしては、例えば、前述した癒合促進デバイスの中から任意のものを選択することが可能であるし、その他の癒合促進デバイスを選択することもできる。ただし、以下の説明では、各手技に好適に用いることができる代表的な例として、特定の癒合促進デバイスの使用例を説明する。また、以下に説明する各手技において、公知の手技手順や公知の医療装置・医療器具等については詳細な説明を適宜省略する。
【0060】
以下、本明細書の説明において「生体器官の間に癒合促進デバイスを配置する」とは、生体器官に癒合促進デバイスが直接的にまたは間接的に接触した状態で配置されること、生体器官との間に空間的な隙間が形成された状態で癒合促進デバイスが配置されること、またはその両方の状態で癒合促進デバイスが配置されること(例えば、一方の生体器官に癒合促進デバイスが接触し、他方の生体器官には癒合促進デバイスが接触していない状態で配置されること)の少なくとも一つを意味する。また、本明細書の説明において「周辺」とは、厳密な範囲(領域)を規定するものではなく、処置の目的(生体器官同士の接合)を達成し得る限りにおいて、所定の範囲(領域)を意味する。また、各処置方法において説明する手技手順は、処置の目的を達成し得る限りにおいて、順番を適宜入れ替えることが可能である。また、本明細書の説明において「相対的に接近させる」とは、接近させる対象となる2つ以上のものを、互いに接近させること、一方のみを他方のみに接近させることの両方を意味する。
【0061】
<処置方法の実施形態(大腸吻合術)>
図9は、処置方法の実施形態(大腸吻合術)の手順を示すフローチャートである。
図10~
図12は、大腸吻合術の説明に供する図である。
【0062】
本実施形態に係る処置方法において、接合対象となる生体器官は、癌腫瘍の切除に伴い切断された大腸である。具体的には、接合対象となる生体器官は、切断した大腸の口側A1と、切断した大腸の肛門側A2である。以下の説明では、切断した大腸の口側A1の口部周辺(一方の被接合部位)と、切断した大腸の肛門側A2の腸壁の一部(他方の被接合部位)を接合する手順を説明する。
【0063】
図9に示すように、本実施形態に係る処置方法は、大腸の口部周辺に癒合促進デバイスを配置すること(S101)、大腸の口部周辺と大腸の腸壁を相対的に接近させること(S102)、大腸の口部周辺と大腸の腸壁との間で癒合促進デバイスの本体部を挟み込むこと(S103)、大腸の口部周辺と大腸の腸壁との間に癒合促進デバイスの本体部を挟み込んだ状態で接合すること(S104)を含む。
【0064】
次に、
図10~
図12を参照して、本実施形態に係る処置方法を具体的に説明する。
【0065】
まず、術者は、患者の臍のあたりの周囲にポートという穴のような部位を形成し、患者のお腹を膨らませる。
【0066】
次に、術者は、臍のあたりに切開部(図示省略)を形成し、そこから口側A1の患部を体外に取り出して、大腸の口側A1に接合装置700の第1係合器具710を挿入する。術者は、第1係合器具710の被係合部711を大腸の口側A1に挿入し、被係合部711を突出した状態で巾着縫合し、縫合部A11を形成する。縫合部A11の外表面は、縫合に伴い凹凸形状となる。
【0067】
接合装置700としては、例えば、大腸吻合術に使用される公知の装置を用いることができる。接合装置700は、第1係合器具710と第2係合器具720の係合に伴い、第1係合器具710と第2係合器具720との間に配置された生体組織の切除とともに、切除した生体組織の周囲をステープルにより円周状に縫合する。第1係合器具710は、例えば、筒状の被係合部711を備える器具であり、第2係合器具720は、例えば、第1係合器具710の被係合部711に挿入および係合される係合ピン721を備える器具である。
【0068】
次に、術者は、
図10に示すように、大腸の口側A1の生体組織に癒合促進デバイス100を配置する(S101)。術者は、癒合促進デバイス100を配置する際に、第1係合器具710が備える被係合部711を癒合促進デバイス100の本体部110に形成された孔部114(
図1A等を参照)に通し、癒合促進デバイス100の裏面113側が縫合部A11の外表面に接触するように配置する。このとき、癒合促進デバイス100は、易剥離部120によって容易に剥がすことができ、術者が本体部110の面方向を整えやすいように配置されている。そのため、癒合促進デバイス100は、ヨレた状態で縫合部A11の外表面に接触するリスクを低減させることができる。
【0069】
次に、術者は、癒合促進デバイス100が配置された大腸の口側A1の生体組織を切開部から体内に収容する。
【0070】
次に、術者は、大腸の肛門側A2に、接合装置700の第2係合器具720を配置する。第2係合器具720を大腸の肛門側A2に配置(挿入)するのに伴って、大腸の肛門側A2に貫通孔A21が形成される。なお、貫通孔A21を形成するタイミングは、第2係合器具720を配置する前であれば、特に限定されない。そして、術者は、大腸の口側A1に対して本体部110を保持した状態を維持しつつ、第1係合器具710の被係合部711と第2係合器具720の係合ピン721とを離間した位置で係合させることによって、
図11に示すように、大腸の口側A1と大腸の肛門側A2との間に癒合促進デバイス100を配置する。
【0071】
次に、術者は、大腸の口側A1の縫合部A11に対して癒合促進デバイス100を保持した状態を維持しつつ、第1係合器具710と第2係合器具720を相対的に接近させて係合させる(S102)。癒合促進デバイス100は、第1係合器具710と第2係合器具720が完全に係合する前(第1係合器具710と第2係合器具720との間に隙間がある状態)であれば、易剥離部120によって容易に剥がすことができ、術者が本体部110の面方向を整えやすいように配置されている。そのため、癒合促進デバイス100は、ヨレた状態で縫合部A11の外表面に接触するリスクを低減させることができる。
【0072】
次に、術者は、第1係合器具710と第2係合器具720との間で、大腸の口側A1の口部周辺、癒合促進デバイス100の本体部110、大腸の肛門側A2の腸壁に形成した貫通孔A21周辺を挟み込む(S103)。そして、術者は、第1係合器具710と第2係合器具720との間に挟み込まれた大腸の口側A1の一部と、癒合促進デバイス100の本体部110の一部と大腸の肛門側A2の一部を接合装置700によって切断する。また、同時に、術者は、接合装置700を操作することにより、切除した部位の周囲をステープル(図示省略)により接合する(S104)。
【0073】
次に、術者は、
図12に示すように、接合装置700を、例えば、大腸の肛門側A2から肛門を介して生体外へ取り出す。このとき、術者は、接合装置700が接合した生体器官を打ち抜く領域E2よりも内方側に位置する大腸の口側A1の一部と、癒合促進デバイス100の本体部110の一部と、大腸の肛門側A2の一部を接合装置700とともに生体外へ取り出すことができる。一方で、接合装置700が接合した生体器官を打ち抜く領域E2より外方側に配置された本体部110の第1領域110Aは、大腸の口側A1の口部周辺と大腸の肛門側A2の腸壁との間に挟み込まれた状態で生体内に留置される。そのため、本体部110の第1領域110Aは、接合対象となる大腸の口側A1の口部周辺と大腸の肛門側A2の腸壁に対して癒合の促進機能を確実に発揮することができる。
【0074】
このような処置方法によれば、癒合促進デバイスが備えるシート状の本体部を一方の被接合部位と他方の被接合部位との間に挟み込ませるという簡便な方法により、接合手技(例えば、消化管の吻合術)後の縫合不全のリスクを低減させることができる。
【0075】
また、使用される癒合促進デバイス100は、術者が生体器官に配置された本体部110を剥がしやすいように構成する易剥離部120を備えるため、術者が手技を行っている間に本体部110がヨレることを防止することができ、本体部110に負荷を与えることなく再貼付することができる。したがって、術者は、生体器官の縫合不全のリスクを効果的に低減させることができる。
【0076】
以上、実施形態を通じて本発明に係る癒合促進デバイスを説明したが、本発明は実施形態で説明した内容のみに限定されるものでなく、特許請求の範囲の記載に基づいて適宜変更することが可能である。
【0077】
例えば、接合対象となる生体器官、被接合部位、具体的な手技手順等は、実施形態において説明したものに限定されない。また、医療器具の材質、大きさ、形状、具体的な構造等は、癒合促進デバイスが備える本体部により被接合部位の生体組織の癒合を促進する機能を持つ限り、特に限定されない。
【符号の説明】
【0078】
100 癒合促進デバイス、
110 本体部、
110A 第1領域、
110B 第2領域、
120 易剥離部、
700 接合装置、
710 第1係合器具、
711 被係合部、
720 第2係合器具、
721 係合ピン、
A1 口側、
A11 縫合部、
A2 肛門側、
A21 貫通孔、
D 孔径、
E1 第1係合器具と第2係合器具とが本体部を間に挟んで対向して重なる領域、
E2 接合装置が接合した生体器官を打ち抜く領域、
E3 接合装置のステープルにより接合される領域、
O1 本体部の中心位置、
P 貫通孔のピッチ、
T 本体部の厚み。