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特開2022-152334オイルミスト濃度計測装置および圧縮システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022152334
(43)【公開日】2022-10-12
(54)【発明の名称】オイルミスト濃度計測装置および圧縮システム
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/27 20060101AFI20221004BHJP
   G01N 21/17 20060101ALI20221004BHJP
【FI】
G01N21/27 Z
G01N21/17 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021055061
(22)【出願日】2021-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100067828
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 悦司
(74)【代理人】
【識別番号】100162765
【弁理士】
【氏名又は名称】宇佐美 綾
(72)【発明者】
【氏名】荒木 要
(72)【発明者】
【氏名】高橋 和平
(72)【発明者】
【氏名】中本 雄也
【テーマコード(参考)】
2G059
【Fターム(参考)】
2G059BB01
2G059CC14
2G059DD12
2G059DD15
2G059EE01
2G059KK01
2G059MM01
(57)【要約】
【課題】配管内の気体に含まれるオイルミスト濃度を、簡易な手法によって、長期間にわたり良好な感度を維持して計測できるオイルミスト濃度計測装置を提供すること。
【解決手段】オイルミスト濃度計測装置は、配管内の気体に含まれるオイルミスト濃度を計測する装置であって、光透過性を有する少なくとも1つの光学窓部、前記光学窓部を介して前記配管内の気体へ検出光を照射する投光部、および、前記照射によって前記配管内の気体に含まれるオイルミストで散乱された散乱光を前記光学窓部を介して受光する受光部、を備える光学センサ部と、前記散乱光の強度からオイルミスト濃度を求める濃度処理部と、を備え、前記光学窓部は、接触角が10度以下である親油性コーティング膜が前記配管内の気体に接触するように形成されている透明部材を備える。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配管内の気体に含まれるオイルミスト濃度を計測する装置であって、
光透過性を有する少なくとも1つの光学窓部、前記光学窓部を介して前記配管内の気体へ検出光を照射する投光部、および、前記照射によって前記配管内の気体に含まれるオイルミストで散乱された散乱光を前記光学窓部を介して受光する受光部、を備える光学センサ部と、
前記散乱光の強度からオイルミスト濃度を求める濃度処理部と、を備え、
前記光学窓部は、接触角が10度以下である親油性コーティング膜が前記配管内の気体に接触するように形成されている透明部材を備える、オイルミスト濃度計測装置。
【請求項2】
前記気体は圧縮ガスである、請求項1に記載のオイルミスト濃度計測装置。
【請求項3】
給油式圧縮機と、
請求項2に記載のオイルミスト濃度計測装置と、を備え、
前記圧縮ガスは、前記給油式圧縮機で圧縮された圧縮ガスである、圧縮システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧縮機に適用されるオイルミスト濃度計測装置およびそれを備える圧縮システムに関する。
【背景技術】
【0002】
ガス(気体)を圧縮する圧縮機は、様々な観点から分類できるが、潤滑方式の観点では、無給油式および給油式の2つに分類できる。給油式圧縮機は、圧縮室内部に油を注入し、注入した油によって、圧縮熱の冷却、内部潤滑、および、シールの作用を行う。例えば、給油式圧縮機のうちの1つである油冷式圧縮機は、一般的に、高効率、省スペースおよび長時間の運転性能等の特徴により、産業界で広く使用されるようになってきている。
【0003】
給油式圧縮機によって生成された圧縮ガスには、オイルミストが不可避的に含まれているため、通常、システムにおける次の段階には圧縮ガスから混入したオイルミストを除去するオイルミストフィルタが設けられている。しかし、フィルタによって圧縮ガスからオイルミストを完全に除去することはできず、ガス中には微量のオイルミストが残留してしまう。また、オイルミストフィルタの劣化、故障等が生じた場合には、多量のオイルミストが利用装置に混入し、利用装置の故障や性能低下を招くおそれがある。そのため、一般的に、圧縮ガス中のオイルミスト濃度は厳重に管理されている。
【0004】
オイルミスト濃度の管理方法の1つとして、例えば、圧縮システムのインラインにおいて光散乱方式のセンサを設ける方法がある。具体的には、当該方法では、システムのインラインに設置されたセンサによりオイルミストによる照射光の散乱を検出し、散乱光の強度からオイルミスト濃度を算出し、オイルミスト濃度が許容値または異常値か否か等を判定し、必要に応じて圧縮機等の制御を行うことによって、オイルミスト濃度を管理する。
【0005】
例えば、特許文献1には、オイルミストを検出する光学検知部を有して、オイルミスト濃度を表わす信号を出力する複数のオイルミストセンサと、上記複数のオイルミストセンサと通信路によって接続されると共に、上記各オイルミストセンサから出力された複数の信号に基づいて上記各オイルミストセンサからの各オイルミスト濃度を表わす信号を補正するオイルミスト濃度補正部と、上記オイルミスト濃度補正部によって補正された各オイルミスト濃度を表わす信号に基づいてオイルミスト濃度が発生源の機械の異常を示す値かどうかを判定する異常判定部と、上記各オイルミストセンサの故障を判定する故障判定部とを有するコントローラとを備えることを特徴とするオイルミスト濃度検出装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4490071号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述したように、圧縮機により圧縮されたガス中のオイルミスト濃度は、例えば光散乱方式のセンサをインラインで適用することによって管理することができる。
【0008】
通常、光散乱方式のセンサでは、光学窓部を介して配管等の対象空間に検出光が照射され、当該対象空間中のオイルミストによる散乱光も光学窓部を介して受光される。そのため、センサに設けられている光学窓部自体が対象空間中のオイルミストにより汚損してしまうと、オイルミスト濃度を正常に計測することが困難となってしまう。そのため、オイルミスト濃度計測装置は、当該オイルミスト濃度の算出において、光学窓部の汚損等による異常感知および/または濃度補正も同時に行われていることが多い(例えば特許文献1参照)。
【0009】
しかしながら、このような濃度補正制御による手段だけでなく、光学窓部の汚損およびセンサの感度の劣化自体を抑制し、より長期間にわたり感度よく使用できる新規な手段があると好適である。
【0010】
光学窓部のオイルミストによる汚損を防ぐ方法として、エアパージを行う方法、または、配管内のオイルミストの流れを調整することによる方法が考えられる。しかしながら、これらの方法を例えば圧縮機に配設されるような内部が高圧状態となっている配管に適用する場合、その実現は実質的には困難と考えられる。具体的には、例えば高圧ガス(圧縮ガス)を含む配管にエアパージを行う場合、配管内の高圧ガスよりもさらに高圧のガスを準備する必要があり、かつ、準備する高圧ガス自体も非常に清浄なガスを準備する必要があるため、その実現は難しい。従って、より実現性の高い簡易な手法によって光学窓部の汚損等を防ぎ、配管内のオイルミスト濃度を正確に計測できる装置が求められる。
【0011】
そこで、本発明は、配管内の気体に含まれるオイルミスト濃度を、簡易な手法によって、長期間にわたり良好な感度を維持して計測できるオイルミスト濃度計測装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、本発明に到達した。すなわち、本発明は以下の好適な態様を包含する。
【0013】
本発明の第一の局面に係るオイルミスト濃度計測装置は、配管内の気体に含まれるオイルミスト濃度を計測する装置であって、
光透過性を有する少なくとも1つの光学窓部、前記光学窓部を介して前記配管内の気体へ検出光を照射する投光部、および、前記照射によって前記配管内の気体に含まれるオイルミストで散乱された散乱光を前記光学窓部を介して受光する受光部、を備える光学センサ部と、
前記散乱光の強度からオイルミスト濃度を求める濃度処理部と、を備え、
前記光学窓部は、接触角が10度以下である親油性コーティング膜が前記配管内の気体に接触するように形成されている透明部材を備える。
【0014】
このようなオイルミスト濃度計測装置によると、配管内の気体に含まれるオイルミスト濃度を、簡易な手法によって、長期間にわたり良好な感度を維持して計測できる。
【0015】
前述のオイルミスト濃度計測装置において、前記気体は圧縮ガスであることが好ましい。
【0016】
このような構成によると、配管内に圧縮ガスが流れており、エアパージやオイルミストの整流が困難である場合であっても、圧縮ガスに含まれるオイルミスト濃度を、長期間にわたり良好な感度を維持して計測できる。
【0017】
本発明の第二の局面に係る圧縮システムは、給油式圧縮機と、
前述の第一の局面に係るオイルミスト濃度計測装置と、を備え、
前記気体は、前記給油式圧縮機で圧縮された圧縮ガスである。
【0018】
このような圧縮システムによると、エアパージやオイルミストの整流が困難である圧縮システムに適用されている配管内の圧縮ガスに含まれるオイルミスト濃度を、長期間にわたり良好な感度を維持して計測できる。そのため、圧縮システムを長期間にわたり安定的に運転することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、配管内の気体に含まれるオイルミスト濃度を、簡易な手法によって、長期間にわたり良好な感度を維持して計測できるオイルミスト濃度計測装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、本発明の実施形態における圧縮システムの構成の一例を示すブロック図である。
図2図2は、本発明の実施形態におけるオイルミスト濃度計測装置の構成を示す図である。
図3図3は、図2に示すオイルミスト濃度計測装置の光学窓部の拡大断面構造を示す図である。
図4図4は、本発明の他の実施形態におけるオイルミスト濃度計測装置の構成を示す図である。
図5図5は、実施例1における無処理ガラス(石英ガラス)、親油性コーティングガラスおよび撥油性コーティングガラスのオイルミスト噴霧による可視光カット率を示すグラフである。
図6図6は、実施例2における無処理ガラス(石英ガラス)および親油性コーティングガラスの150時間にわたるオイルミスト曝露前後の可視光透過率の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明者らは、例えば圧縮機に好適に適用することができる、配管内の気体に含まれるオイルミスト濃度をより実現性の高い簡易な手法によって長期間にわたり良好な感度を維持して計測できる装置について様々な研究を重ねた。そして、光学センサ部の光学窓部が備える透明部材に、接触角が10度以下である親油性コーティング膜を配管内の気体に接触するように形成することに着目し、本発明を完成した。具体的には、このように親油性コーティング膜が形成されていることによって、配管内の気体に含まれるオイルミストに対して、光学窓部へのオイル付着特性を低下させることができる。加えて、光学窓部へオイルが付着した際の光透過率に与える影響も非常に小さくすることができる。
【0022】
以下、本発明の実施形態について、詳細に説明する。なお、本発明の範囲はここで説明する実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を損なわない範囲で種々の変更をすることができる。
【0023】
[圧縮システム]
本発明の実施形態における圧縮システムは、給油式圧縮機と、後に詳細に説明する実施形態におけるオイルミスト濃度計測装置とを備えている。当該圧縮システムでは、オイルミスト濃度計測装置は、配管内の給油式圧縮機で圧縮された圧縮ガスに含まれるオイルミスト濃度を計測する。
【0024】
以下、本発明の実施形態における圧縮システムの一例について、図面を参照しながら説明する。
【0025】
図1は、本発明の実施形態における圧縮システムの構成の一例を示すブロック図である。図1に示すように、圧縮システムSは、給油式圧縮機OCと、フィルタ部FLと、フィルタ部FLと利用装置UAとの間を接続している配管PLと、光学センサ部1および濃度処理部2からなるオイルミスト濃度計測装置3と、制御部4とを備える。
【0026】
給油式圧縮機OCは、制御部4に接続され、その制御により、潤滑および圧縮熱の除去等を目的にガス中に油を供給してガスを圧縮する装置である。給油式圧縮機OCは、例えば、油冷式ガス圧縮機(例えば、油冷式スクリュー圧縮機、レシプロ式圧縮機等)等である。給油式圧縮機OCで圧縮された圧縮ガスは、フィルタ部FLを介して配管PLを流れ、生成された圧縮ガスGを利用する所定の装置(利用装置UA)に供給される。
【0027】
フィルタ部FLは、給油式圧縮機OCと利用装置UAとの間において、圧縮ガスGが流れる配管PLに配設され、圧縮ガスG中のオイルミストを除去する。
【0028】
光学センサ部1は、配管PLのフィルタ部FLと利用装置UAとの間において、配管PLに配設され、濃度処理部2と接続している。また、光学センサ部1は、配管PLを流れる圧縮ガスGを測定対象として、検出光を照射し、当該照射によってオイルミストで散乱された散乱光を受光し、散乱光の強度(光強度信号)を濃度処理部2に送信する。
【0029】
濃度処理部2は、光学センサ部1から送信された散乱光の強度(光強度信号)に基づいて圧縮ガスGに含まれるオイルミスト濃度を求める処理を行う。
【0030】
なお、図1において、後述する実施形態に係るオイルミスト濃度計測装置に相当する構成は、前述したとおり、光学センサ部1と濃度処理部2とからなるオイルミスト濃度計測装置3の部分である。光学センサ部1および濃度処理部2、特に光学センサ部1の具体的構成については、後述するオイルミスト濃度計測装置に係る実施形態において詳細に説明する。
【0031】
制御部4は、圧縮システムSの光学センサ部1および給油式圧縮機OCを、これらの各部の機能に応じてそれぞれ制御する。例えば、制御部4は、濃度処理部2により求められたオイルミスト濃度に基づき、給油式圧縮機OCに対して、回転数の低減、給油式圧縮機OCの停止等がなされるよう、様々な制御を行う。
【0032】
濃度処理部2および/または制御部4は、例えば、CPUおよびその周辺回路を備えて構成され得る。
【0033】
なお、前述の圧縮システムSの構成は、あくまで一例であるため、後述する実施形態に係るオイルミスト濃度計測装置を備えていれば、その他の具体的構成は特に限定されない。
【0034】
例えば、他の実施形態として、図1に示す濃度処理部2および制御部4は、一体化された構成であってもよい。従って、後述する実施形態に係るオイルミスト濃度計測装置が、実質的に、図1に示される光学センサ部1と濃度処理部2と制御部4とから構成されていてもよい。
【0035】
また、別の実施形態として、図1に示す濃度処理部2および/または制御部4は、一般的に圧縮システムが備え得る他の構成部をさらに備えてもよいし、または当該他の構成部からなる装置と別途接続されていてもよい。このような構成部としては、例えば、オイルミスト濃度が異常値か否かの判定を行う判定部、オイルミスト濃度の正常値への補正等を行う補正部、オイルミスト濃度処理や判定等に必要な所定のオイルミスト濃度の閾値および所定のプログラム等が記憶されている記憶部、オイルミスト濃度計測に関する各種コマンドやデータを入力する入力部、オイルミスト濃度の計測結果やオイルミスト濃度異常等が報知される出力部等を挙げることができるが、特に限定されない。
【0036】
[オイルミスト濃度計測装置]
以下、本発明の実施形態におけるオイルミスト濃度計測装置について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0037】
図2は、本発明の実施形態におけるオイルミスト濃度計測装置の構成を示す図である。また、図2は、図1に示すオイルミスト濃度計測装置3の近傍の拡大図でもある。
【0038】
図2に示すように、オイルミスト濃度計測装置3は、光学センサ部1と濃度処理部2とを備える。具体的には、光学センサ部1は、光透過性を有する光学窓部11と、光学窓部11を介して配管PL内の圧縮ガスGへ検出光を照射する投光部12と、照射によって配管PL内の圧縮ガスGに含まれるオイルミストで散乱された散乱光を、光学窓部11を介して受光する受光部13と、を備える。
【0039】
具体的には、限定されることはないが、例えば、投光部12は、発光ダイオード等の光源を備える部材から構成することができる。また、限定されることはないが、例えば、受光部13は、フォトダイオード等の受光素子を備える部材から構成することができる。
【0040】
投光部12および受光部13は、例えば、図2に示すように、所定の距離だけ離間させて並置される。このように並置される場合、投光部12は、例えば45度等の所定の照射角度で光学窓部11を介して圧縮ガスGへ検出光を照射する。また、受光部13は、例えば45度等の所定の受光角度で散乱光を光学窓部11を介して受光して、必要に応じて光電変換し、散乱光の強度(光強度信号)を濃度処理部2に送信する。
【0041】
濃度処理部2は、前述の圧縮システムにおける実施形態で説明した通り、光学センサ部1から送信された散乱光の強度(光強度信号)に基づいて、圧縮ガスGに含まれるオイルミスト濃度を求める処理を行う。具体的には、オイルミスト濃度は、例えば、散乱光の強度と照射光の有効照射範囲の体積に基づき、単位時間当たりの圧縮ガス重量流量に対する単位時間当たりのオイルミスト重量流量として、以下の式から求めることができる。
(オイルミスト濃度[ppmwt])=(単位時間当たりのオイルミスト重量流量)/(単位時間当たりの圧縮ガス重量流量)×1000000 (1ppm=0.0001%)
【0042】
次いで、図3に、図2に示すオイルミスト濃度計測装置の光学窓部の拡大断面構造を示す。図3に示すように、光学窓部11は、透明部材111を備えており、当該透明部材111には親油性コーティング膜111’が形成されている。さらに、親油性コーティング膜111’は、配管PL内の圧縮ガスGに接触するように透明部材111において形成されている。
【0043】
透明部材111は、一般的に光学窓部として用いられ、光透過率が良好である部材から構成されていれば、特に限定されない。例えば、透明部材111は、光透過性の観点から、光透過率が良好であるガラス(例えば石英ガラス)等から構成されている。
【0044】
親油性コーティング膜111’は、接触角が10度以下である。本明細書において、「コーティング膜の接触角」とは、水平に保ったコーティング膜(コーティング膜が形成された透明部材)にオレイン酸2μLの液滴を垂らし、25℃、相対湿度50%の条件において接触角計(例えば、「Drop Master」(協和界面科学社製))を用いて測定されるオレイン酸接触角である。
【0045】
ガラス等の基板に対してオイル付着(オイルミスト付着)を抑制および/または防止するコーティング膜は、コーティング膜の表面特性におけるオレイン酸接触角の差異から、親油性コーティング膜と撥油性コーティング膜とに分類することができる。当該コーティング膜のうち、一般的に、親油性コーティング膜は、前述した方法で測定される接触角が10度以下となるコーティング膜として分類される。オレイン酸接触角が大きく、すなわちオイルミスト粒が付着した際の接触角が大きい撥油性コーティング膜は、本実施形態における親油性コーティング膜とは異なり、その表面に付着したオイルが高さのある粒形状となるため、粒形状オイル自体からの光散乱が生じ易くなり、光学センサ部のノイズの要因となってしまう。本実施形態では、光学窓部の透明部材のコーティング膜として親油性コーティング膜が用いられているため、オイルミストの付着を抑制しつつ、かつオイルが付着した場合であってもオレイン酸接触角が小さいために良好な感度でオイルミスト濃度を計測することができる。
【0046】
図2および図3に示すように、本実施形態では、光学窓部11の透明部材111に親油性コーティング膜111’が配管PL内の圧縮ガスGに接触するように形成されていることによって、光学窓部11への圧縮ガスGに含まれるオイルミストの付着による汚損を抑制することができ、光学センサ部1の感度の劣化を防ぐことができる。加えて、本実施形態における親油性コーティング膜111’によると、光学窓部11へオイルミストが付着した際の光透過率に与える影響も非常に小さくすることができる。その結果、オイルミスト濃度計測装置3は、エアパージやオイルミストの流れの調整を行わなくとも、配管PL内の圧縮ガスGに含まれるオイルミスト濃度を、長期間にわたり良好な感度を維持しながら計測することができる。
【0047】
親油性コーティング膜111’の接触角は、好ましくは9度以下、より好ましくは8度以下、さらに好ましくは7度以下、特に好ましくは6度以下である。当該接触角の下限は特に限定されず、物理的に0度超である。親油性コーティング膜111’の接触角がより小さい程、オイルミストが付着した際の光学窓部11の光透過率に与える影響もより小さくすることができることが想定されるため好ましい。
【0048】
親油性コーティング膜111’は、特に限定されることがないが、例えば、従来的にガラス等の基板に対して防汚目的で使用されている任意の親油性のコーティング剤で透明部材111を処理することにより形成することができる。親油性のコーティング剤は、特に限定されることはないが、例えば、親油性基(例えば加水分解性シリル基等)を有するシラン化合物、オルガノシロキサン化合物等を含むコーティング剤を挙げることができる。このような親油性のコーティング剤としては、具体的には、例えば、スマートフォン、タッチパネル等のディスプレイ等の表面に指紋が付き難くするため、かつ、付着した指紋が目立ちにくくするための耐指紋性コーティング剤等を利用することができる(例えば、特開2020-203838号公報、国際公開第2019/159476号等参照)。市販品としては、例えば、「X‐71‐1601」(信越化学工業(株)社製)等のコーティング剤を挙げることができる。
【0049】
親油性コーティング膜111’を形成するための処理は、特に限定されないが、例えば、真空蒸着法、スプレー塗工、スパッタリング法、ゾルゲル法、CVD法、ディッピング法等の従来的に使用されている任意の処理方法を適用することができる。親油性コーティング膜111’の厚さは特に限定されず、光学窓部11の光透過率、厚さ、大きさ等に合わせて適宜調整すればよい。
【0050】
上記図2および図3に示す実施形態では、オイルミスト濃度計測装置3が1つの光学センサ部1および1つの濃度処理部を備える形態について述べたが、オイルミスト濃度計測装置は、これらの構成部の1つ以上において複数個備えていてもかまわない。
【0051】
また、上記図2および図3に示す実施形態では、オイルミスト濃度計測装置3が1つの光学窓部11を備える形態について述べたが、オイルミスト濃度計測装置は、複数の光学窓部を備えてもかまわない。
【0052】
図4において、本発明の他の実施形態におけるオイルミスト濃度計測装置の構成を示す。図4に示す実施形態では、投光部12および受光部13が、各々、光学窓部11Aおよび光学窓部11Bを備える。このような実施形態では、光学窓部11Aおよび光学窓部11Bは、各々の透明部材111Aおよび透明部材111Bにおいて、親油性コーティング膜111A’または親油性コーティング膜111B’が形成されている。
【0053】
上記図2および図3に示す実施形態では、投光部12および受光部13が並置される形態について述べたが、投光部からの検出光によるオイルミストでの散乱光が受光部により受光されるように配置されていれば、これらは任意の配置とすることができる。例えば、他の実施形態では、投光部と受光部とを対向させて配置してもよい。このような対向型で配置される場合、オイルミストでの散乱によって減衰した光の強度を散乱光の強度として受光することができる。
【0054】
上記図2および図3に示す実施形態では、配管PL内の圧縮ガスGを測定対象とする形態について述べたが、他の実施形態では、配管内に充填されており、オイルミストを含む気体であればどのような気体を測定対象としてもかまわない。
【0055】
上記図2および図3に示す実施形態では、透明部材111の一方の全面において親油性コーティング膜111’が形成されている形態について述べたが、親油性コーティング膜は、透明部材において部分的に形成されていてもかまわない。例えば、親油性コーティング膜は、透明部材において、親油性コーティング膜は、少なくとも検出光が出射する部分とオイルミストによる散乱光が入射する部分とを被覆するように形成されていればよい。
【0056】
上記図2および図3に示す実施形態では、透明部材111がコーティング面(正面)およびその背面を有する板状の形状である形態について述べたが、一般的に、透明部材は、光学センサ部の光学窓部において備えられる形状であれば任意の形状でよい。換言すれば、透明部材(および光学窓部)の形状にかかわらず、接触角が10度以下である親油性コーティング膜が、配管内の気体に接触するように形成されていればよい。
【0057】
[オイルミスト濃度計測方法]
本発明の実施形態におけるオイルミスト濃度計測方法は、配管内の気体に含まれるオイルミスト濃度を計測する方法であって、光学窓部を介して前記配管内の気体へ検出光を照射する工程と、前記照射によって前記配管内の気体に含まれるオイルミストで散乱された散乱光を前記光学窓部を介して受光する工程と、前記散乱光の強度からオイルミスト濃度を求める工程と、を含む。
【0058】
本実施形態における方法では、光学窓部は、前述のオイルミスト濃度計測装置に係る実施形態と同様に、光透過性を有し、かつ、接触角が10度以下である親油性コーティング膜が前記配管内の気体に接触するように形成されている透明部材を備える。
【0059】
このようなオイルミスト濃度計測方法によると、前述のオイルミスト濃度計測装置に係る実施形態と同様に、配管内の気体に含まれるオイルミスト濃度を、簡易な手法によって、長期間にわたり良好な感度を維持して計測できる。
【実施例0060】
以下に、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は実施例により何ら限定されるものではない。
【0061】
以下に述べる実施例1および実施例2では、光学窓部の透明部材として、無処理ガラスと、親油性コーティングガラスと、撥油性コーティングガラスとを使用した。無処理ガラスは、石英ガラスを用いた。親油性コーティングガラスは、無処理ガラスの一方の面に、信越化学工業(株)社製の「X‐71‐1601」の0.1%希釈液を適量スプレーすることによって、親油性コーティング膜を形成し、作製した。撥油性コーティングガラスは、無処理ガラスの一方の面に、信越化学工業(株)社製の「KY‐151」の0.1%希釈液を適量スプレーすることによって、前述の親油性コーティング膜と同程度の厚さの撥油性コーティング膜を形成し、作製した。
【0062】
親油性コーティングガラスに形成された親油性コーティング膜は、接触角が7度である。撥油性コーティングガラスに形成された撥油性コーティング膜は、接触角が76度である。なお、これらの接触角は、水平に保ったコーティング膜(コーティングガラス)にオレイン酸2μLの液滴を垂らし、25℃、相対湿度50%の条件において接触角計(例えば、接触角計「Drop Master」(協和界面科学社製))を用いて測定されるオレイン酸接触角である。
【0063】
(実施例1)
実施例1では、各ガラスにオイルミストを噴霧した際における、無処理ガラス、親油性コーティングガラスおよび撥油性コーティングガラスの可視光透過率に与える影響について評価した。
【0064】
具体的には、まず、無処理ガラス(比較例)、親油性コーティングガラス(本発明例)および撥油性コーティングガラス(比較例)の試験片を各々準備した。次いで、各々のガラスの可視光透過率を、予め、光学透過率測定器(東亜システムクリエイト社製、「DST-2501」)を用いて測定しておいた。親油性コーティングガラスおよび撥油性コーティングガラスは、コーティング膜とは逆の面から入射してコーティング膜から出射する光の透過率を測定した。
【0065】
その後、各種試験片に食用オリーブオイルからなるオイルミストを、試験片の面上を均等に被覆するように霧吹きで複数回にわたり各々略同量を噴霧した。親油性コーティングガラスおよび撥油性コーティングガラスの試験片に対しては、各々、親油性コーティング膜および撥油性コーティング膜が形成されている方の面にオイルミストを噴霧した。
【0066】
オイルミスト付着後のコーティング膜が透過率に与える影響を評価するために、噴霧後の各種試験片における可視光透過率(オイルミストを噴霧した面とは逆の面から入射して噴霧した面から出射する光の透過率)を前述と同様に測定し、オイルミストの噴霧前後における可視光カット率を以下の(式1)から算出した。
可視光カット率(%)=100×(噴霧前の可視光透過率-噴霧後の可視光透過率)/(噴霧前の可視光透過率)・・・(式1)
【0067】
なお、より確実な評価ができるように、上記と各種同じ試験片を用いた同条件における試験を4回行った(試験No.1~試験No.4)。図5に、無処理ガラス(石英ガラス)、親油性コーティングガラスおよび撥油性コーティングガラスのオイルミスト噴霧による可視光カット率のグラフを示す。図5に示すように、撥油性コーティングガラスにオイルミストを噴霧した際の可視光カット率は、親油性コーティングガラスおよび無処理ガラスと対比すると試験No.1~試験No.4の全ての試験片において高くなっていた。特に試験No.2~試験No.4については顕著に高くなっていた。一方、親油性コーティングガラスの当該可視光カット率は、全ての試験片において、無処理ガラスと比べて同程度の値であった。
【0068】
このように、親油性コーティングガラスによると、オイルミストが付着した際における可視光カット率が低く、光学窓部として適用した際のオイル付着によるオイルミスト濃度計測装置の感度の低下を防止できることが分かった。
【0069】
(実施例2)
実施例2では、実際に配管内のオイルミスト環境下に曝露させた際における、光学窓部としての親油性コーティングガラスおよび無処理ガラスのオイル付着特性について評価した。
【0070】
受光部および投光部は、前述の図4に示す実施形態のように離れた状態で配置し、光学窓部の透明部材としての親油性コーティングガラスも受光部および投光部の各々に設置した。親油性コーティングガラスは、親油性コーティング膜が形成されている面が配管内の圧縮ガスに接触するように設置した。配管内の圧縮ガスのオイルミスト濃度は、単位時間当たりの圧縮ガス重量流量に対するオイルミスト重量流量が、1ppmwtとなるよう調整した。このような環境下において、親油性コーティングガラスを150時間にわたりオイルミストに曝露した。
【0071】
オイル付着特性を評価するために、オイルミスト曝露前後における受光部および投光部の各々に設置された親油性コーティングガラスの可視光透過率を、光学透過率測定器(東亜システムクリエイト社製、「DST-2501」)を用いて測定した。なお、当該透過率の測定にあたり、受光部および投光部のいずれにおいてもコーティング膜とは逆の面から入射してコーティング膜から出射する光の透過率を測定したが、いずれの方向から測定しても透過率に影響は与えないと考えられる。
【0072】
比較例として、光学窓部の透明部材として無処理ガラスを用い、同じ方法かつ同じ条件でオイルミストに曝露し、オイルミスト曝露前後における受光部および投光部の各々に設置された無処理ガラスの可視光透過率を測定した。
【0073】
図6に、無処理ガラス(石英ガラス)および親油性コーティングガラスの150時間にわたるオイルミスト曝露前後の可視光透過率の変化のグラフを示す。図6に示すように、受光部および投光部における無処理ガラスでは、150時間にわたるオイルミスト曝露によって、可視光透過率が6%~10%程度と顕著に低下していた。これに対し、受光部および投光部における親油性コーティングガラスでは、曝露前後において可視光透過率の低下は0.1%程度となっており、ほとんど変動していなかった。
【0074】
実施例2の結果から、親油性コーティングガラスは、無処理ガラスと対比すると、長時間にわたりオイル付着性が改善されていることが分かった。すなわち、オイルミスト濃度計測装置の光学窓部の透明部材に親油性コーティングガラスを適用することによって、配管内の気体に含まれるオイルミストを、長期間にわたり安定的に感度よく計測できることが分かった。
【0075】
今回開示された実施形態および実施例は、全ての点で例示であって制限的なものではないと解されるべきである。本発明の範囲は、前述した説明ではなくて特許請求の範囲により示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0076】
1 光学センサ部
2 濃度処理部
3 オイルミスト濃度計測装置
4 制御部
11、11A、11B 光学窓部
12 投光部
13 受光部
111、111A、111B 透明部材
111’、111A’ 111B’ 親油性コーティング膜
図1
図2
図3
図4
図5
図6