(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022152339
(43)【公開日】2022-10-12
(54)【発明の名称】コネクタおよびコネクタの製造方法
(51)【国際特許分類】
A61M 25/01 20060101AFI20221004BHJP
A61M 25/09 20060101ALI20221004BHJP
【FI】
A61M25/01 510
A61M25/09 540
A61M25/09 500
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021055068
(22)【出願日】2021-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000135036
【氏名又は名称】ニプロ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】衣川 雄規
(72)【発明者】
【氏名】大澤津 正稀
【テーマコード(参考)】
4C267
【Fターム(参考)】
4C267AA02
4C267AA28
4C267AA33
4C267BB04
4C267BB19
4C267BB40
4C267CC20
4C267CC21
4C267CC23
(57)【要約】
【課題】コネクタ接続時の不具合が発生しにくいコネクタ、およびその製造方法を提供する。
【解決手段】コネクタ1は、ワイヤ40と、ワイヤの保持部50とを備える。ワイヤ40は、表面に少なくとも1つの凹凸を有し、保持部50は、ワイヤ40の凹凸に保持部50を形成する樹脂が充填されることによってワイヤ40を保持している。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワイヤと、
前記ワイヤの保持部と、
を備え、
前記ワイヤは、表面に少なくとも1つの凹凸を有し、
前記保持部は、前記ワイヤの前記凹凸に前記保持部を形成する樹脂が充填されることによって前記ワイヤを保持している、コネクタ。
【請求項2】
基端から末端に亘る流路を更に有し、
前記保持部は、前記流路内に設けられている、
請求項1に記載のコネクタ。
【請求項3】
前記保持部は、前記コネクタの前記流路内で、前記コネクタの軸方向において、前記流路の中央付近から前記流路の開口方向へ延びる柱状体であり、
前記ワイヤは中心軸が、前記コネクタの中心軸と一致するように前記保持部に保持されている、
請求項2に記載のコネクタ。
【請求項4】
前記保持部は、前記ワイヤの前記凹凸に、熱溶着によって前記保持部を形成する樹脂が充填される、
請求項1~3の何れか一項に記載のコネクタ。
【請求項5】
請求項1~4の何れか一項に記載のコネクタの製造方法であって、
前記ワイヤを加熱するステップと、
加熱された前記ワイヤで、前記保持部を溶かしながら前記ワイヤの一端を圧入するステップと、
前記保持部の溶かされた樹脂を、前記ワイヤの凹凸に充填した状態で硬化させるステップと、を有するコネクタの製造方法。
【請求項6】
前記ワイヤを加熱するステップは、誘導加熱により行う、
請求項5に記載のコネクタの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、コネクタおよびコネクタの製造方法、特にはワイヤの固定構造に関する。
【背景技術】
【0002】
体内に栄養剤または薬剤を直接送り込む目的にカテーテルが用いられている。カテーテルに挿入して形を安定させ、気管内へのカテーテルの挿入をスムーズにするために、スタイレットコネクタが使用される。スタイレットコネクタは、スタイレットワイヤと、カテーテル基端のコネクタと接続するためのコネクタを備えている。カテーテル基端のコネクタには、オスルアーが接続されている。カテーテル先端が患部到達後、スタイレットコネクタは抜き取られる。
【0003】
特許文献1には、ワイヤが、メスコネクタの先端に向かって開口したワイヤ保持部の内腔に挿入され、且つ内腔に充填された接着剤を介して固定されているコネクタが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
接着剤を使用したワイヤの固定方法は、接着剤がコネクタ内にこぼれて付着するおそれがある。コネクタ内に接着剤が付着すると、コネクタ同士のテーパー面の密着が不完全になり、液をうまく吸引できない等の不具合が生じる。コネクタ接続時の不具合が発生しない構造、および工法によるコネクタが求められる。
【0006】
本開示の目的は、コネクタ接続時の不具合が発生しにくいコネクタ、およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示に係るコネクタは、ワイヤと、ワイヤの保持部とを備えている。ワイヤは、表面に少なくとも1つの凹凸を有し、保持部は、ワイヤの凹凸に保持部を形成する樹脂が充填されることによってワイヤを保持している。
【0008】
上記構成によれば、コネクタは、ワイヤ表面の凹凸に、保持部を構成する樹脂が充填された固定構造をしているので、ワイヤの固定に接着剤を使用する必要がない。従って、コネクタ内に接着剤が付着して、コネクタ接続時の不具合が発生することがない。
【0009】
本開示の一態様であるコネクタは、基端から末端に亘る流路を更に有し、保持部は、流路内に設けられていることが好ましい。
【0010】
上記構成によれば、ワイヤの保持部が流路内に形成されることで、注入もしくは吸引するような使われ方が可能となる。また、注入もしくは吸引時において、コネクタ同士のテーパー面の密着が不完全になったり、接着剤が流路を狭めてしまったりして、液体や気体をうまく吸引できない等の不具合が生じる可能性を低減できる。
【0011】
本開示の一態様であるコネクタは、保持部は、コネクタの流路内で、コネクタの軸方向において、流路の中央付近から流路の開口方向へ延びる柱状体であり、ワイヤは中心軸が、コネクタの中心軸と一致するように保持部に保持されていることが好ましい。
【0012】
上記構成によれば、保持部を、ワイヤの中心軸が、コネクタの中心軸と一致しているので、カテーテルに接続したときに、ワイヤがカテーテルのコネクタ内面と接触して、コネクタを摩耗させたり、傷つけたりすることが少ない。
【0013】
本開示の一態様におけるコネクタは、保持部は、ワイヤの複数の凹凸に、熱溶着によって保持部を形成する樹脂が充填されることが好ましい。
【0014】
この場合、樹脂で形成された保持部を溶かして、ワイヤを圧入することができ、樹脂が冷えて硬化すれば、自然にワイヤを固定することができるので、接着剤を用いないで、ワイヤの固定構造を形成できる。
【0015】
本開示の一態様であるコネクタの製造方法は、ワイヤを加熱するステップと、加熱されたワイヤで、保持部を溶かしながらワイヤの一端を圧入するステップと、保持部の溶かされた樹脂を、ワイヤの凹凸に充填した状態で硬化させるステップとを有している。
【0016】
上記製造方法によれば、接着剤を使用せず、容易にワイヤを保持部に圧入し、ワイヤの凹凸に保持部の溶かされた樹脂が充填されて、硬化させた固定構造を有するスタイレットコネクタを製造することができる。
【0017】
本開示の一態様のコネクタの製造方法は、ワイヤを加熱するステップは、誘導加熱により行うことが好ましい。
【0018】
この場合、誘導加熱により加熱を行うため、製造過程における熱による部材への影響を少なくできる。
【発明の効果】
【0019】
本開示に係るコネクタによれば、ワイヤを保持する構造として、接着剤を使用しないので、製造過程において、コネクタ内に接着剤が漏れることが無く、コネクタ同士のテーパー面の密着が不完全になるという不具合を生じることがない。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本開示の実施形態のスタイレットコネクタをカテーテルに接続した状態の外観図である。
【
図2】本開示の実施形態のスタイレットコネクタのスタイレットワイヤをカテーテルに装着するようすを示す図である。
【
図3】本開示の実施形態のスタイレットコネクタの斜視図である。
【
図6】
図2におけるスタイレットコネクタの軸方向断面図である。
【
図7】
図6における保持部を拡大した断面図である。
【
図8】本開示の実施形態のスタイレットコネクタのスタイレットワイヤを固定する方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本開示の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。以下の説明において、具体的な形状、材料、方向、数値等は、本開示の理解を容易にするための例示であって、用途、目的、仕様等に合わせて適宜変更することができる。また、以下で説明する実施形態および変形例の構成要素を選択的に組み合わせることは当初から想定されている。
【0022】
本開示のコネクタは、スタイレットワイヤへの適用について説明するが、ガイドワイヤにも適用可能である。初めにスタイレットワイヤとガイドワイヤについて、違いを説明する。ガイドワイヤは、カテーテルに挿入したまま、造影剤等の薬剤を投入するために使用される。スタイレットワイヤは、カテーテルの形を安定させるために挿入され、カテーテル先端が患部到達後は抜き取られる。このように、スタイレットワイヤとガイドワイヤは用途が異なるため、スタイレットワイヤはガイドワイヤに比して外径が大きく、スタイレットワイヤの外面はカテーテル内面と近接する。従って、スタイレットワイヤをカテーテルから抜き取るとき、摩擦力がガイドワイヤより大きく、ワイヤとコネクタには安定した固定力が求められる。接着剤を用いて固定する場合、接着面積を大きくすることで安定した固定力が実現できるが、一方で接着剤が係合面や流路に悪影響を及ぼす可能性が高くなる。本開示のコネクタは、多量の接着剤を必要とせず、強固な固定力を実現可能であるため、スタイレットワイヤに適用されることが好適である。
【0023】
図1に本実施形態のスタイレットコネクタ1を示す。
図1は、スタイレットコネクタ1をカテーテル60に接続した状態を示している。スタイレットコネクタ1は、円筒形状のオスコネクタ部10と円筒形状のメスコネクタ部20を有し、オスコネクタ部10とメスコネクタ部20が一体形成されている。スタイレットコネクタ1は、カテーテル60と共に使用され、主として、カテーテル60の先端に接続されるチューブ62の形状を安定させ、チューブ62を患部に案内するために用いられる。
【0024】
カテーテル60は、コネクタ部61とコネクタ部61の左端から延びるチューブ62を有している。コネクタ部61が、スタイレットコネクタ1のメスコネクタ部20と係合されて、接続されている。
図1においては、チューブ62内には、後述するスタイレットコネクタ1のスタイレットワイヤ40が挿入されている。チューブ62は、樹脂製の細長い管で構成されている。チューブ62は、口径が小さく、柔らかいために、スタイレットコネクタ1に固定されたスタイレットワイヤ40をチューブ62に挿入することで患部へ案内される。チューブ62の先端には、先端部63が形成されている。コネクタ部61には、キャップ64が取り付けられ、必要に応じてコネクタ部61の先端を塞ぐことができる。
【0025】
図2は、スタイレットコネクタ1をカテーテル60に接続するようすを示す図である。コネクタ部61からチューブ62に向けて、図中矢印の方向へスタイレットワイヤ40を挿入する。スタイレットワイヤ40を挿入し、メスコネクタ部20をカテーテル60のコネクタ部61に係合させて、スタイレットコネクタ1をカテーテル60に接続する。
【0026】
スタイレットコネクタ1とカテーテル60の接続は、オスルアーと、オスルアーと対になるメスルアーの接続によって行われる。オスルアーの形状とメスルアーの形状は、ISO規格で定められた形状である。スタイレットコネクタ1のオスコネクタ部10とカテーテル60のコネクタ部61は、共にオスルアーを有している。スタイレットコネクタ1のメスコネクタ部20は、メスルアーを有している。これより、カテーテル60のコネクタ部61にスタイレットコネクタ1のメスコネクタ部20を接続可能であり、更にスタイレットコネクタ1のオスコネクタ部10に、メスルアーを有する他のコネクタを接続することが可能となっている。例えば、留置位置確認のために、カテーテル60に接続されたスタイレットコネクタ1のオスコネクタ部10に、メスルアーを有するシリンジを接続して、液体や気体をシリンジからスタイレットコネクタ1を介し、カテーテル60のチューブ62から注入もしくは吸引するような使われ方も可能である。具体的には、留置位置確認のため、シリンジを接続後、体液(胃液)を吸引する、もしくはエアーを流す操作を行うことも可能である。
【0027】
次に、
図3は本実施形態のスタイレットコネクタ1をメスコネクタ部20の開口部24側から見た斜視図である。
図3は、スタイレットコネクタ1に、スタイレットワイヤ40を固定する前の状態を表している。オスコネクタ部10は、内部にオスルアーを有している。
図3で示されるように、オスルアーの外周には、ロックナット16が形成されている。ロックナット16の外周面には、滑り止め用の凸条部19が形成されている。凸条部19は、オスコネクタ部10の軸方向に沿った帯状に形成され、オスコネクタ部10の周方向に等間隔で配置されている。メスコネクタ部20の外周で先端部21側には、ネジ山25部が設けられている。
【0028】
図4、
図5を参照して、本実施形態のスタイレットコネクタ1の内部の構造について説明する。
図4は、
図3におけるA-A線断面図である。
図5は、
図3におけるB-B線断面図である。尚、説明の便宜上、本開示において軸方向でメスコネクタ部20側からオスコネクタ部10側へ向く方向を軸方向一方側、反対側を軸方向他方側と呼ぶ。
【0029】
スタイレットコネクタ1は、中空の円筒形状で、軸方向一方側にオスコネクタ部10を有し、軸方向他方側にメスコネクタ部20を有している。スタイレットコネクタ1の内部には、オスコネクタ部10の内部とメスコネクタ部20の内部を連通する流路30が形成されている。
【0030】
オスコネクタ部10は、内部に栄養剤を流す流路30が形成された円筒状の部材である。径方向の中央の周りに、軸方向に延びる円筒状のオスルアー11を有している。オスルアー11は、軸方向一方側の先端部12に開口部15を有している。軸方向他方側の基端部13は、後述するメスコネクタ部20の基端部22と接続している。オスコネクタ部10のオスルアー11の内部は、先端部12から基端部13に向かってオスコネクタ側流路31を構成している。オスルアー11は、基端部13から先端部12へ向かって外径が小さくなるテーパー面18を有している。オスルアー11は、メスルアーを有するシリンジ等に挿入可能に形成されている。
【0031】
オスコネクタ部10は、オスルアー11の径方向の外側に、ロックナット16を有するロックコネクタ構成をしている。ロックナット16の内周面には、らせん状にネジ17が形成されている。ロックナット16の内周面とオスルアー11の外周面の間の隙間は、他のメスコネクタが差し込み可能な大きさに形成されている。ネジ17は、メスコネクタ外周側に設けたネジ山と係合するように形成されている。ネジ17をメスコネクタのネジ山と係合させて締めることで、コネクタ同士の接続信頼性を向上させることができる。尚、ロックコネクタ構成は必ずしも設けなくてもよい。オスコネクタの外周面とメスコネクタの内周面との摩擦により係合する構成(スリップコネクタ構成)としてもよい。
【0032】
スタイレットコネクタ1は、スタイレットワイヤ40を除いて、射出成形等で一体として形成されている。あるいは分離可能に別々の部材で構成されていてもよい。
【0033】
メスコネクタ部20は、内部に栄養剤を流す流路30が形成された円筒状の部材である。オスルアー11と対となる中空円筒形状で、別のコネクタが有するオスルアーに接続可能に形成されている。メスコネクタ部20の軸方向一方側の基端部22は、オスコネクタ部10の基端部13と接続され、一体としてスタイレットコネクタ1を構成している。メスコネクタ部20の軸方向他方側の先端部21には、開口部24を有している。
【0034】
メスコネクタ部20の内周面は、基端部22側から先端部21側に向かって広がるテーパー面26を有している。テーパー面26の傾斜は、カテーテル60のコネクタ部61内にある図示しないオスルアーの外周面のテーパー面と係合する形状に形成されている。
【0035】
図5に示されるように、メスコネクタ部20の外周面で先端部21側には、ネジ山部25が設けられている。ネジ山部25は、他のコネクタのロックナットと係合して、メスコネクタ部20と他のコネクタの接続がロックされる。本開示においては、カテーテル60のコネクタ部61には、ロックナット65の内部に図示しないメネジ部が形成されている。スタイレットコネクタ1をカテーテル60に接続した際に、メスコネクタ部20のネジ山部25とコネクタ部61のメネジ部とを係合させて締めることで固定することができる。
【0036】
流路30は、スタイレットコネクタ1内部の中央を貫通する孔で、栄養剤等の液体が流入する通路である。流路30は、オスコネクタ部10の内部のオスコネクタ側流路31とメスコネクタ部20の内部のメスコネクタ側流路32から構成されている。流路30の内部には、後述する保持部50が設けられている。
【0037】
保持部50は、流路30内、詳細には、メスコネクタ部20のメスコネクタ側流路32内に設けられる。保持部50は、
図4の例では、メスコネクタ部20の軸方向に、オスコネクタ部10とメスコネクタ部20の接続部14付近から、メスコネクタ部20の軸方向の中央付近まで延びている。保持部50の形状は柱状体であるが、特にこれに限定されない。
【0038】
保持部50は、流路30内のメスコネクタ部20の内壁につながる接続部51を有している。
図5に示す実施形態においては、メスコネクタ部20の内周面で、径方向の両端に接続部51を有している。接続部51は、メスコネクタ部20の内周面で、径方向の一方のみに設けてもよい。保持部50の形状は、柱状体に限定されるものではない。ワイヤを内部に保持できる形状であれば良い。接続部51は、保持部50の形状に合わせて適宜設けることができる。
【0039】
保持部50は、メスコネクタ側流路32内に設けることが好ましい。後述するように、メスコネクタ部20の開口部24側からスタイレットワイヤ40を圧入するので、圧入位置が開口部24に近い方が、圧入作業が容易なためである。保持部50の流路30内での位置は、できるだけ、奥側(軸方向一方側)が好ましい。メスコネクタ部20のテーパー面26の奥行を確保するためである。その上で、スタイレットワイヤ40の固定構造として長さが必要なため、保持部50は、メスコネクタ部20の軸方向中央付近まで延びていることが好ましい。
【0040】
図4、5に示すように保持部50は、スタイレットワイヤ40を固定する前の状態においては、メスコネクタ部20の開口部24側にガイド穴52と軸方向一方側へ延びるワイヤ挿通穴53を有している。後述するように、スタイレットワイヤ40は、保持部50のガイド穴52とワイヤ挿通穴53を溶かしつつ、ワイヤ挿通穴53へ圧入されるので、スタイレットワイヤ40を固定した後は、ガイド穴52とワイヤ挿通穴53の内面の樹脂は、スタイレットワイヤ40の表面の凹凸44に充填される。尚、ガイド穴52は必須ではない。ガイド穴52があれば、後述するワイヤの圧入の際に、ワイヤの案内が容易になる。
【0041】
保持部50の軸方向他方側から、軸方向一方側へ向けて、ガイド穴52とワイヤ挿通穴53の中心軸は、メスコネクタ部20の中心軸と一致するように形成されている。これにより、保持部50へスタイレットワイヤ40を圧入後に、スタイレットワイヤ40の中心軸が、メスコネクタ部20の中心軸と一致するように構成できる。
【0042】
スタイレットワイヤ40の中心軸は、メスコネクタ部20の中心軸と一致するように保持されていることが好ましい。この場合、カテーテル60にスタイレットコネクタ1が接続された際、スタイレットワイヤ40の中心軸とカテーテル60のコネクタの中心軸も一致する。従って、スタイレットワイヤ40がカテーテル60のコネクタ部61の内面と接触して、コネクタ部61を摩耗させたり、傷つけたりすることが少ない。
【0043】
図4、5に示すように、ガイド穴52は、軸方向他方側に開口し、軸方向一方側に向かって口径がやや小さくなるように形成された円錐台形状の穴である。ガイド穴52の開口における口径φ3は、スタイレットワイヤ40の最大外径φ1よりも大きく形成されている。これは、後述するスタイレットワイヤ40の圧入時の案内を容易にするためである。ワイヤ挿通穴53の内径φ4はスタイレットワイヤ40の最大外径φ1よりもやや小さく形成されている。これは、スタイレットワイヤ40を圧入する際、ワイヤ挿通穴53の内面を溶かして、スタイレットワイヤ40表面の凹凸44に樹脂が充填されるようにするためである。なお、ワイヤ挿通穴53の内径φ4は、ワイヤの外径より少し大きく形成されていてもよい。ワイヤを圧入した際に、樹脂の戻りがあるので、ワイヤの凹凸部に樹脂が充填される。ワイヤ挿通穴53の内径φ4は、後述するワイヤ40の圧入する長さL1との関係で、適宜設定することが可能である。
【0044】
図6は、スタイレットコネクタ1の軸方向断面図である。スタイレットワイヤ40を保持部50に固定した後を示している。スタイレットワイヤ40は、金属製のワイヤで構成されている。スタイレットワイヤ40の軸の径方向の最大外径φ1は、チューブ62の内径φ2よりも小さく、チューブ62に挿入可能に形成されている(
図2参照)。スタイレットワイヤ40は、自在に曲げることが可能で、カテーテル60のチューブ62に挿入して、カテーテル60を患部へ案内する際のガイドとしての役割を果たす。スタイレットワイヤ40の先端部は、溶接によって先端を丸める処理が施されている。
【0045】
スタイレットワイヤ40は、表面全体には少なくとも1つの凹凸44が形成されている。スタイレットワイヤ40を保持部50に固定する際に、保持部50のガイド穴52とワイヤ挿通穴53の内面の樹脂が溶けて、凹凸44に充填されることで固定される。スタイレットワイヤ40は、複数の細長いワイヤ43を撚って構成することで、表面全体に複数の凹凸44を形成することができる。あるいは、1本のワイヤを表面処理するによって凹凸44を形成してもよい。
【0046】
図7は、スタイレットワイヤ40と保持部50の固定部を拡大した図である。保持部50の内部でスタイレットワイヤ40が保持されるようすを表している。保持部50へのスタイレットワイヤ40の固定構造は、後に説明する熱溶着によって形成可能である。詳しくは後述するが、スタイレットワイヤ40を熱して、スタイレットワイヤ40の軸方向一方側の一端42を、保持部50に設けたガイド穴52より圧入し、熱で保持部50を溶かしながら、スタイレットワイヤ40を圧入することで、固定構造は形成される。スタイレットワイヤ40は、複数のワイヤ43を撚って一本のワイヤとして形成されているので、スタイレットワイヤ40の表面には、複数のワイヤ43による凹凸44が形成されている。保持部50には、凹凸44に対する部分に保持部50を構成する溶けた樹脂が充填されて、充填部54が形成されている。充填部54の形状は、凹凸44の形状と一致して、隙間が無いように形成されている。
【0047】
保持部50において、スタイレットワイヤ40を圧入する長さL1は、スタイレットワイヤ40を圧入する前のガイド穴52の軸方向の長さL2とワイヤ挿通穴53の軸方向の長さL3を足した長さよりも長く形成されている。従って、スタイレットワイヤ40は、ワイヤ挿通穴53の最奥部を超えて、保持部50の内部へ圧入されて固定構造は形成されことになる。ワイヤ挿通穴53の奥行より十分に奥にスタイレットワイヤ40を圧入することで、圧入が浅くなって、固定力が不十分となることが避けられる。
【0048】
熱溶着によれば、樹脂で形成された保持部50を溶かして、スタイレットワイヤ40を圧入することができ、樹脂が冷えて硬化すれば、自然にスタイレットワイヤ40を固定することができる。従って、接着剤を用いないで、保持部50におけるスタイレットワイヤ40の固定構造を形成することができる。尚、保持部50へのスタイレットワイヤ40の固定構造は、この方法以外にも、インサート成形によっても形成可能である。
【0049】
次に、スタイレットワイヤ40を保持部50に固定する固定構造の形成方法について説明する。
図8は、
図4と同様に、
図3におけるA-A線断面図を示している。
図8は、誘導加熱を利用した固定構造の形成方法を示す図である。メスコネクタ部20の開口部24の近傍に、金属線から成るコイル70を配置している。コイル70は、円形の外縁71と中空部72を形成している。コイル70の中空部72にスタイレットワイヤ40を配置している。
【0050】
コイル70は、図示しない電源装置に接続されている。コイル70に電源装置から高周波電流を流すことで、中空部72の軸方向に高周波磁界が発生する。この高周波磁界による電磁誘導によりスタイレットワイヤ40内に電流が流れて、電気抵抗によってスタイレットワイヤ40は発熱する。
【0051】
電磁誘導によって発熱したスタイレットワイヤ40の一端42を保持部50のガイド穴52の開口側から圧入する。スタイレットワイヤ40の一端42近傍の熱により、保持部50を形成する樹脂を溶かしながら、スタイレットワイヤ40をガイド穴52からワイヤ挿通穴53の方向へと圧入することができる。前述の通りワイヤ挿通穴53の内径φ4はスタイレットワイヤ40の最大外径φ1よりもやや小さいので、スタイレットワイヤ40が圧入されるとともに、ワイヤ挿通穴53の内周面は溶かされ、溶かされた樹脂がスタイレットワイヤ40の表面上の凹凸44に隙間なく充填されて、充填部54を形成する。
【0052】
スタイレットワイヤ40を所定の長さだけ圧入した後、保持部50を構成する樹脂が、スタイレットワイヤ40の凹凸44に充填された状態で硬化させる。これによって、スタイレットワイヤ40は、保持部50に固定される。
【0053】
誘導加熱によれば、製造過程における熱による部材への影響を少なくすることができる。即ち、誘導加熱では、コイル70の中空部72に配置されたスタイレットワイヤ40の部分のみを局所的に加熱することができる。従って、スタイレットワイヤ40の一端42近傍だけを加熱することができる。加熱されたスタイレットワイヤ40の一端42近傍で、保持部50のガイド穴52とワイヤ挿通穴53を溶かしてスタイレットワイヤ40を圧入することができる。保持部50に圧入されていないスタイレットワイヤ40の一端42から離れた部分は、発熱していない。従って、スタイレットワイヤ40を圧入する際に、一端42近傍以外のスタイレットワイヤ40の熱で、メスコネクタ部20が変形するということがない。また、スタイレットワイヤ40の一端42以外の他の部分が接触しても、熱によって変形させるということがない。
【0054】
以上の方法によって製造されるスタイレットコネクタは、接着剤を使用していないので、製造の過程において、接着剤がコネクタ内に漏れるおそれがない。よって、従来の課題であった、接着剤の付着によるコネクタ同士のテーパー面の密着が不完全になるということがない。また、従来の製造方法においては、コネクタを形成する材質によっては、接着剤が剥離しやすい場合がある。本実施形態のスタイレットコネクタは、保持部を形成する樹脂でスタイレットワイヤを固定しているので、接着剤で固めた構造に比べて強固になる。
【0055】
スタイレットワイヤ40を保持部50に固定する固定構造の形成方法は、上記に限定されるものではない。例えば、インサート成形によって、スタイレットワイヤ40をスタイレットコネクタ1と一体で成形するようにしてもよい。インサート成形においても、注入した樹脂がスタイレットワイヤ40の凹凸44に充填され、充填部54を形成し、硬化することで固定することができる。インサート成形による固定構造においても、誘導加熱で形成した場合と同様の効果が得られる。
【0056】
なお、本発明は上述した実施形態およびその変形例に限定されるものではなく、本願の特許請求の範囲に記載された事項の範囲内において種々の変更や改良が可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0057】
1 スタイレットコネクタ、10 オスコネクタ部、11 オスルアー、12 先端部、13 基端部、14 接続部、15 開口部、16 ロックナット、17 ネジ、18 テーパー面、19 凸条部、20 メスコネクタ部、21 先端部、22 基端部、23 接続部、24 開口部、25 ネジ山部、26 テーパー面、30 流路、31 オスコネクタ側流路、32 メスコネクタ側流路、 、40 スタイレットワイヤ、42 一端、43 複数のワイヤ、44 凹凸、45 スタイレットワイヤ表面、 、50 保持部、51 接続部、52 ガイド穴、53 ワイヤ挿通穴、60 カテーテル、61 コネクタ部、62 チューブ、63 先端部、64 キャップ、65 ロックナット、70 コイル、71 外縁、72 中空部、L1 スタイレットワイヤの圧入長さ、L2 ガイド穴の軸方向長さ、L3 ワイヤ挿通穴の軸方向長さ、φ1 スタイレットワイヤの最大外径、φ2 チューブの内径、φ3 ガイド穴の最大口径、φ4 ワイヤ挿通穴の内径