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特開2022-152368光ひずみ検知センサー、ひずみ計測システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022152368
(43)【公開日】2022-10-12
(54)【発明の名称】光ひずみ検知センサー、ひずみ計測システム
(51)【国際特許分類】
   G01B 11/16 20060101AFI20221004BHJP
   G01D 5/26 20060101ALI20221004BHJP
【FI】
G01B11/16 G
G01D5/26 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021055118
(22)【出願日】2021-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】504133110
【氏名又は名称】国立大学法人電気通信大学
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】古川 怜
【テーマコード(参考)】
2F065
2F103
【Fターム(参考)】
2F065AA65
2F065BB05
2F065DD03
2F065FF48
2F065FF52
2F065GG24
2F065JJ05
2F065JJ18
2F065LL02
2F065LL22
2F065QQ25
2F103BA37
2F103CA03
2F103CA04
2F103CA06
2F103EB05
2F103EB11
2F103EC08
2F103EC10
(57)【要約】
【課題】計測対象に埋設することなく高精度にひずみを計測可能な光ひずみ検知センサーの提供。
【解決手段】本光ひずみ検知センサーは、可撓性を有するフィルム状の基材と、前記基材内に配置されたブラッグ反射型の複数の格子構造と、を有し、各々の前記格子構造は、一定周期で交互に配置された低屈折率領域と高屈折率領域とを含み、複数の前記格子構造は、長手方向が互いに異なる方向を向く2つの前記格子構造を含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
可撓性を有するフィルム状の基材と、
前記基材内に配置されたブラッグ反射型の複数の格子構造と、を有し、
各々の前記格子構造は、一定周期で交互に配置された低屈折率領域と高屈折率領域とを含み、
複数の前記格子構造は、長手方向が互いに異なる方向を向く2つの前記格子構造を含む、光ひずみ検知センサー。
【請求項2】
2つの前記格子構造の長手方向のなす角が略90度である、請求項1に記載の光ひずみ検知センサー。
【請求項3】
前記基材の少なくとも一方の側に、複数の前記格子構造と接するクラッド層を有する、請求項1又は2に記載の光ひずみ検知センサー。
【請求項4】
前記低屈折率領域及び前記高屈折率領域の一方はポリマーを主成分とする、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の光ひずみ検知センサー。
【請求項5】
前記低屈折率領域及び前記高屈折率領域の他方はナノ微粒子を主成分とする、請求項4に記載の光ひずみ検知センサー。
【請求項6】
前記基材は、前記ポリマー及び前記ナノ微粒子を含み、
前記基材の屈折率は、前記低屈折率領域の屈折率よりも大きく、前記高屈折率領域の屈折率よりも小さい、請求項5に記載の光ひずみ検知センサー。
【請求項7】
前記基材に、複数の前記格子構造の光の入出力経路となる光ファイバーの端部が埋め込まれている、請求項1乃至6のいずれか一項に記載の光ひずみ検知センサー。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか一項に記載の光ひずみ検知センサーと、
光源と、
解析装置と、
前記光源からの光を前記複数の前記格子構造に入射させると共に、複数の前記格子構造内でブラッグ反射した反射光を前記解析装置に出射する結合光学系と、を有し、
前記解析装置は、前記反射光に基づいて計測対象のひずみを計測する、ひずみ計測システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ひずみ検知センサー、ひずみ計測システムに関する。
【背景技術】
【0002】
光によるひずみ計測は電磁的擾乱を受けないため、製造業を中心に多岐にわたる需要がある。例えば、ブラッグ反射を使ったファイバーブラッググレーティング(FBG)は代表的な光ひずみ計測技術であり、2000年代を中心に炭素繊維材料の変形計測への実装検討が精力的になされた(例えば、非特許文献1、2参照)。
【0003】
しかし、このような炭素繊維材料の変形計測に特化したFBG技術は、高精度な計測が困難である。また、短時間で完結するひずみは感度良く計測できるが、該材料の疲労の計測への応用は難しい。
【0004】
加えて、FBGの敷設は光ファイバーを計測対象である材料に埋設する必要があるため、既製構造物への敷設ができない。また、時間経過とともに周囲と光ファイバー素線の表面剥離が起きると、センサーとして無効化してしまう上、埋設しているゆえ構造物からの取り出し交換作業が困難を極める。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】S. Yashiro, K. Murai, T. Okabe, N. Takeda, Advanced Composite Materials, 16, 2 (2007), 115-134.
【非特許文献2】S. Yashiro, T. Okabe, Composites Part A, 42 (2011), 1962 - 1969.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたものであり、計測対象に埋設することなく高精度にひずみを計測可能な光ひずみ検知センサーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本光ひずみ検知センサーは、可撓性を有するフィルム状の基材と、前記基材内に配置されたブラッグ反射型の複数の格子構造と、を有し、各々の前記格子構造は、一定周期で交互に配置された低屈折率領域と高屈折率領域とを含み、複数の前記格子構造は、長手方向が互いに異なる方向を向く2つの前記格子構造を含む。
【発明の効果】
【0008】
開示の技術によれば、計測対象に埋設することなく高精度にひずみを計測可能な光ひずみ検知センサーを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】第1実施形態に係る光ひずみ検知センサーを例示す平面図である。
図2】第1実施形態に係る光ひずみ検知センサーを例示する断面図である。
図3】第1実施形態に係る光ひずみ検知センサーを例示する部分断面模式図である。
図4】第1実施形態に係る光ひずみ検知センサーの製造工程を例示する図である。
図5】第1実施形態に係るひずみ計測システムを例示する図(その1)である。
図6】第1実施形態に係るひずみ計測システムを例示する図(その2)である。
図7】3つの光ひずみ検知センサーから得られたひずみを模式的に示した図である。
図8】スペクトルアナライザー上の反射光スペクトル測定データである。
図9】第1実施形態の変形例1に係る光ひずみ検知センサーを例示する断面図である。
図10】第1実施形態の変形例2に係る光ひずみ検知センサーを例示する断面図である。
図11】第1実施形態の変形例3に係る光ひずみ検知センサーを例示す平面図である。
図12】第1実施形態の変形例3に係る光ひずみ検知センサーを例示する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して発明を実施するための形態について説明する。各図面において、同一構成部分には同一符号を付し、重複した説明を省略する場合がある。
【0011】
〈第1実施形態〉
[光ひずみ検知センサー]
図1は、第1実施形態に係る光ひずみ検知センサーを例示す平面図である。図2は、第1実施形態に係る光ひずみ検知センサーを例示する断面図であり、図1のA-A線に沿う断面を示している。
【0012】
図1及び図2を参照すると、光ひずみ検知センサー1は、可撓性を有するフィルム状の基材11と、基材11内に配置されたブラッグ反射型の複数の格子構造とを有している。第1実施形態では、一例として、基材11内にブラッグ反射型の格子構造12A及び12Bが配置されている。なお、本願において、フィルム状とは、厚さが300μm以下の薄膜を指し、平面形状(基材11の上面の法線方向から視た形状)は問わない。ただし、応力の伝達の観点では、基材11は、基材11内の任意の2点が全て直線で結べる形状であることが好ましい。例えば、ドーナツ型やC字型等は、任意の2点が全て直線で結べる形状ではないため、好ましくない。
【0013】
基材11は、格子構造12A及び12Bを形成するためのベースとなる部材であり、ポリマーから形成されている。基材11の平面形状は図1では円形であるが、これには限定されず、楕円形、矩形、帯状等の任意の形状としてかまわない。基材11の平面形状が円形である場合、基材11の直径は、例えば、2mm~5mm程度とすることができる。
【0014】
格子構造12A及び12Bの厚さは、300μm以下であるが、10μm以上150μm以下が好ましい。格子構造12A及び12Bの厚さが10μm以上であると、ビーム径が10μmの光を格子構造12A及び12Bの側面から入射させる際の上下への光漏れを抑制できる。また、格子構造12A及び12Bの厚さが150μm以下であると、後述の干渉露光の際に格子構造12A及び12Bの上下方向にムラが生じにくい。なお、基材11の側面から光を入射させる際に使用するシングルモードの光ファイバーのビーム径は通常10μm程度である。
【0015】
基材11内に配置される複数の格子構造は、平面視において(基材11の上面の法線方向から視て)、長手方向が互いに異なる方向を向くように配置される。第1実施形態では、一例として、格子構造12Aと格子構造12Bの長手方向のなす角が略90度となるように配置されている。つまり、第1実施形態では、格子構造12Aと格子構造12Bは、格子の波数ベクトルが互いに略垂直を成すような二本の独立した格子構造である。
【0016】
なお、本願において、格子構造の長手方向とは、平面視において格子構造の中心線(例えば、図1のA-A線)の方向を指す。また、本願において、略90度、略垂直、及び略直交とは、2つの直線等が90度±5度の範囲にある場合を含むものとする。
【0017】
格子構造12A及び12Bの上面は、例えば、基材11の上面と同一平面にある。また、格子構造12A及び12Bの下面は、例えば、基材11の下面と同一平面にある。格子構造12Aと格子構造12Bとは同一構造である。格子構造12A及び12Bは、一定周期で交互に配置された低屈折率領域121と高屈折率領域122とを含む。すなわち、格子構造12A及び12Bは、屈折率変調されている。
【0018】
低屈折率領域121と高屈折率領域122を構成する成分は限定されないが、例えば、低屈折率領域121と高屈折率領域122の一方はポリマーを主成分とし、他方はナノ微粒子を主成分とすることができる。ここで、主成分とは、低屈折率領域121と高屈折率領域122の屈折率差が10-5から10-3程度となることを基準とした各領域の50体積%以上の構成成分である。
【0019】
低屈折率領域121と高屈折率領域122の一方がモノマーの光重合によるポリマーを主成分とし、他方がナノ微粒子を主成分とする場合、基材11は、例えば、低屈折率領域121と高屈折率領域122のいずれかの主成分である光重合によるポリマー及びナノ微粒子、あるいはそれらの均一な混成体を一様に含むものとすることができる。
【0020】
光重合を用いたポリマー化のための官能性モノマーは、例えば、エチレン性不飽和化合物やビニルエーテル化合物を含有する。これら官能性モノマーは光重合開始剤の作用により付加重合し、場合によって架橋、硬化するような重合性基を分子内に少なくとも1つ有する化合物である。エチレン性不飽和結合を有する官能性モノマーとしては例えば不飽和カルボン酸、脂肪族ポリヒドロキシ化合物と不飽和カルボン酸とのエステル、芳香族ポリヒドロキシ化合物と不飽和カルボン酸とのエステル、不飽和カルボン酸と多価カルボン酸および前述の脂肪族ポリヒドロキシ化合物、芳香族ポリヒドロキシ化合物等の多価ヒドロキシ化合物とのエステル化反応により得られるエステル等が挙げられる。また、前記脂肪族ポリヒドロキシ化合物と不飽和カルボン酸とのエステルの具体例としては、エチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールエタントリアクリレート、ペンタエリスリトールジアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、グリセロールアクリレート等のアクリル酸エステル等がある。芳香族ポリヒドロキシ化合物と不飽和カルボン酸とのエステルとしては、ハイドロキノンジアクリレート、ハイドロキノンジメタクリレート、レゾルシンジアクリレート、レゾルシンジメタクリレート、ピロガロールトリアクリレート等が挙げられる。その他本発明に用いられるエチレン性不飽和化合物の例としてはエチレンビスアクリルアミド等のアクリルアミド類、フタル酸ジアリル等のアリルエステル類、ジビニルフタレート等のビニル基含有化合物などがある。それぞれのエチレン性不飽和化合物は単独で用いるか必要に応じ混合して用いる。
【0021】
ナノ微粒子としては、例えば、酸化チタン、酸化ケイ素、酸化亜鉛等の酸化物半導体、窒化ケイ素、窒化チタン、窒化ジルコニウム等の窒化物、炭化ケイ素、炭化チタン、炭化モリブデン等の炭化物等を用いることができる。また、ナノ微粒子として半導体ナノ微粒子や金属ナノ微粒子等を用いてもよい。また、ナノ微粒子は、無機ナノ微粒子には限定されず、例えば、有機ナノ微粒子等を用いてもよい。
【0022】
図3は、第1実施形態に係る光ひずみ検知センサーを例示する部分断面模式図であり、図2に相当する断面の一部を模式的に示している。図3の例では、低屈折率領域121はナノ微粒子を主成分とし、高屈折率領域122はポリマーを主成分とする。また、基材11には、ポリマー及びナノ微粒子がランダムに混在しており、基材11の屈折率は一様となる。基材11の屈折率は、格子構造12A及び12Bの平均屈折率よりも小さい。なお、選択する材料によっては、ポリマーを主成分とする領域が低屈折率領域となり、ナノ微粒子を主成分とする領域が高屈折率領域となる場合もある。
【0023】
低屈折率領域121と高屈折率領域122との屈折率差は、0.001以上であることが好ましいが、屈折率差が大きい程、すなわち屈折率変調が高い程、高い反射率が得られ、格子構造12A及び12Bの導波長を短くできる点でより好ましい。例えば、屈折率変調が0.001程度であれば、導波長1mmで波長1.5μmのブラッグ回折光に対して反射率90%以上を達成できる。つまり、格子構造12A及び12Bの各々の長手方向の長さは、波長1.5μmに対して1mm程度あれば十分である。なお、垂直入射時のブラッグ反射回折効率はtanh(πΔnL/λ)で与えられる。ここで、Lは格子長、λは真空中の読み出し波長である。
【0024】
格子構造12Aに光源から光が入射すると、入射光のうちブラッグ波長λの光はブラッグ反射されて入射光とは反対方向に進み、ブラッグ波長以外の光は格子構造12Aを透過する。同様に、格子構造12Bに光源から光が入射すると、入射光のうちブラッグ波長λの光はブラッグ反射されて入射光とは反対方向に進み、ブラッグ波長以外の光は格子構造12Bを透過する。
【0025】
すなわち、光源からブラッグ波長λを含む光を格子構造12Aに入射すると、ブラッグ波長λの光が入射側に反射する。この反射光成分を独立に分析することで、ブラッグ波長λの光を検出できる。同様に、光源からブラッグ波長λを含む光を格子構造12Bに入射すると、ブラッグ波長λの光が入射側に反射する。この反射光成分を独立に分析することで、ブラッグ波長λの光を検出できる。
【0026】
格子構造12A及び12Bにおいて、ブラッグ反射の条件は、λ=2n・Λで示される。ここで、λはブラッグ波長(反射光の波長)、nは格子構造の平均屈折率、Λは屈折率変調の周期(図2参照)である。本実施形態では、格子構造12A及び12BにおいてΛは等しい。すなわち、格子構造12A及び12Bのブラッグ波長λは等しい。例えば、Λ=0.5μm、n=1.5、とすると、λ=1.5μmとなる。Λをより短くすることで、λ=700nm程度までは同系統の作製方法で実現可能な範囲である。
【0027】
光ひずみ検知センサー1に外部応力が加わると、変形後の周期Λafterと変形前の周期Λbeforeを用いて(Λafter-Λbefore)/Λbeforeで定義されるひずみεにより、ブラッグ波長λがシフトする。有効屈折率neffの微小変化分を無視すると、ブラッグ波長λのシフトΔλBは2neff・Λbefore・εで与えられるため、格子構造12A及び12Bの各々の長手方向のひずみに比例する。そこで、格子構造12A及び12Bの各々のブラッグ波長λのシフトを検出することで、光ひずみ検知センサー1に加わったひずみを、格子構造12Aの長手方向と格子構造12Bの長手方向の2方向で知ることができる。なお、光ひずみ検知センサー1では、ε=10-3の垂直ひずみで、ブラッグ波長λが1.5nm程度シフトする。
【0028】
[光ひずみ検知センサーの製造方法]
図4は、第1実施形態に係る光ひずみ検知センサーの製造工程を例示する図である。まず、ステップS101では、基材11及び低屈折率領域121となる成分と、基材11及び高屈折率領域122となる成分を一様に分散した溶液を調製する。ここでは、一例として、溶剤中に一様分散させたナノ微粒子ゾルを光重合性モノマーへ高濃度に一様分散した溶液を調製するものとする。溶液には、必要に応じて、光重合開始剤、増感剤、連鎖移動剤、可塑剤、添加剤等を加えてもよい。
【0029】
なお、光散乱の発生を抑制するため、ナノ微粒子の粒径は400nm以下が好ましく、200nm以下がより好ましい。ナノ微粒子の粒径は小さいほど好ましいが、小さいほど製造が困難であるため、実際上、5nm以上に限られる。
【0030】
次に、ステップS102では、支持体上にステップS101で調製した溶液を塗布し、溶剤を除去するために塗布した溶液を乾燥処理して、ナノ微粒子と光重合性モノマーとがランダムに混合した薄膜を形成する。支持体には、例えば、ガラス基板等を使用できる。ひずみの計測対象を支持体としてもよい。つまり、ひずみの計測対象に、ステップS101で調製した溶液を直接塗布して乾燥処理してもよい。溶液の塗布は、例えば、常温常圧で行うことができる。
【0031】
次に、ステップS103では、ステップS102で形成した薄膜の所定領域に選択的に干渉露光を行い、光ひずみ検知センサー1を作製する。具体的には、まず、薄膜のうち、格子構造12A及び12Bを形成したい領域のみに、選択的に干渉露光を行い、光重合性モノマーを重合させる。例えば、互いに略垂直な2つの領域において、干渉露光を行う。
【0032】
ここで、干渉露光とは、コヒーレントな光を二つに分割して再び重ね合わせたときに生じる光強度干渉縞パターンを対象物に照射して露光する方法である。干渉露光により、明部では光重合性モノマーが光重合を開始し、明部の光重合性モノマーの濃度が低下してその化学ポテンシャルが減少する。それに従い、暗部と明部に光重合性モノマーの濃度勾配および化学ポテンシャル差が生じ、暗部から明部に光重合性モノマーが移動し、更に光重合が進む。一方、ナノ微粒子は、光重合に関与しないためその化学ポテンシャルが明部で増加して明部から暗部に移動するため、明部と暗部でナノ微粒子の分布に空間的な不均一性が発生する。
【0033】
すなわち、干渉露光により、光重合性モノマーは光強度干渉縞パターンの明るい領域に移動してポリマーとなり、ナノ微粒子は光強度干渉縞パターンの暗い領域に移動する。ナノ微粒子の屈折率はポリマーの屈折率と異なるため、光強度干渉縞パターンに応じて、明るい領域と暗い領域に対応した低屈折率領域121及び高屈折率領域122が形成され、格子構造12A及び12Bとなる。
【0034】
なお、干渉露光には、例えば、緑色波長帯のレーザや青色波長帯のレーザを使用できる。緑色波長帯のレーザを使用すると、例えば、Λ=0.5μmを実現できる。
【0035】
次に、ステップS104では、ステップS102で形成した薄膜において、ステップS103で干渉露光を行っていない領域を一様な光で露光する。あるいは、あらかじめ溶液に熱重合開始剤も加えておくことにより熱重合により基材全体をポリマー化させる。熱重合を用いる場合は、熱ラジカル重合開始剤として、例えば、2,2'-アゾビスブチロニトリル(AIBN)のようなアゾ化合物や過酸化ベンゾイル(BPO)などの過酸化物を使用できる。また、熱カチオン重合開始剤として、例えば、ベンゼンスルホン酸エステルやアルキルスルホニウム塩などを使用できる。あるいは、熱重合ではなく、PMMAなどのバインダにナノ微粒子分散フォトポリマーを混ぜて基材全体をポリマー化させてもよい。
【0036】
上記のいずれの方法を採用しても、格子構造12A及び12B以外の領域において、光重合性モノマーが重合してポリマーとなる。その結果、ポリマー及びナノ微粒子がランダムに混在し、屈折率が一様な基材11が形成される。ステップS104での露光には、光源として、例えば、加えている重合開始剤に光感度がある波長のLEDや白色熱光源が使用できる。以上により、光ひずみ検知センサー1が完成する。
【0037】
高い屈折率変調を実現するため、重合状態におけるナノ微粒子と樹脂成分の合計体積に占めるナノ微粒子の割合は、3体積%以上が好ましく、5体積%以上がより好ましい。樹脂成分の体積に対するナノ微粒子の体積比が大きいほど達成可能な屈折率差が大きくなる。ただし、分散できるナノ微粒子の量には限界があり、あまり多いと分散しにくくなるため、重合状態におけるナノ微粒子と樹脂成分の合計体積に占めるナノ微粒子の割合は、50体積%以下が好ましく、40体積%以下がより好ましい。ここで、樹脂成分とは主に光重合性モノマーを指すが、溶液にバインダ樹脂等を加える場合は、バインダ樹脂等も樹脂成分に含まれる。
【0038】
光重合性モノマーを含む混合物を用いた干渉露光に関しては、例えば、特許第3965618号、特許第4809789号、及び特許第5485548号に記載されている。これらの記載は、本明細書に参考として援用できる。
【0039】
なお、以上の説明では、ナノ微粒子と光重合性モノマーを用いて低屈折率領域と高屈折率領域を作製する例を示したが、低屈折率領域と高屈折率領域を、成分の異なるポリマーから構成することも可能である。
【0040】
ステップS101において、例えば、以下のような2種の異なるポリマー種を用いて調製してもよい。まず、モノマー溶液は、あらかじめ高次構造をとる平均分子量15000のポリメチルメタクリル酸メチル粉体を塩化メチレンなどの溶剤に物理攪拌などで均一分散したものを用いる。ここで、均一分散がなされていれば濃度は任意である。次に、この溶液を[2-methyl-acrylic acid 2-4-[2-(2-methyl-acryloyloxy)-ethylsulfanylmethyl]-benzylsulfanyl-ethyl ester]などのポリメチルメタクリル酸メチルとの屈折率差の大きい光重合性モノマー、及び光重合開始剤とともに均一に混合しする。以上の工程で、最終重量比が2種のモノマーで1:1が目安となる仕込み組成が望ましい。以降、ステップS102~S104を実行することで、低屈折率領域と高屈折率領域を成分の異なるポリマーから構成できる。
【0041】
[ひずみ計測システム2]
図5は、第1実施形態に係るひずみ計測システムを例示する図(その1)である。図5を参照すると、ひずみ計測システム2は、光ひずみ検知センサー1と、光源21A及び21Bと、光サーキュレータ22A及び22Bと、解析装置23とを有している。光ひずみ検知センサー1と、光源21A及び21Bと、光サーキュレータ22A及び22Bと、解析装置23とは、例えば、光ファイバーにより光の入出力が可能に構成されている。
【0042】
なお、光サーキュレータ22A及び22Bと光ファイバーは、光源21A及び21Bからの光を格子構造12A及び12Bに入射させると共に、格子構造12A及び12B内でブラッグ反射した反射光を解析装置23に出射する結合光学系の一例である。
【0043】
光源21Aは、格子構造12Aのブラッグ波長を含む光を出射可能な任意の光源を選択できるが、例えば、白色光源である。また、光源21Bは、格子構造12Bのブラッグ波長を含む光を出射可能な任意の光源を選択できるが、例えば、白色光源である。
【0044】
光サーキュレータ22A及び22Bは、光源から格子構造に入射する光と格子構造でブラッグ反射された光とを分離する光学部品である。
【0045】
解析装置23は、光サーキュレータ22A及び22Bでブラッグ反射された反射光を解析し、反射光に基づいて計測対象のひずみを計測する装置であり、例えば、光スペクトラムアナライザーである。解析装置23は、光スペクトラムアナライザーで得られたデータを入力して演算処理するコンピュータを含んでもよい。
【0046】
例えば、コンピュータは、CPUやメモリを有しており、光ひずみ検知センサー1にひずみが生じていないときの反射光の波長を初期波長としてメモリに記憶してもよい。そして、光ひずみ検知センサー1にひずみが生じているときの反射光の波長を初期波長と比較して両者の差分を算出し、差分をひずみに換算してもよい。
【0047】
或いは、解析装置23として、専用の装置を用いてもよい。例えば、検出可能なピーク波長の異なる複数のフォトディテクタと、演算処理部とを有する構成が挙げられる。複数のフォトディテクタでの検出結果を演算処理部で処理することで、スペクトルの概算が可能である。
【0048】
また、光サーキュレータ22A及び22Bでブラッグ反射された光が入射する部分に配置される波長カットフィルタと、波長カットフィルタを通過した光を検出するフォトディテクタとを有する構成が挙げられる。例えば、ブラッグ波長λ=1.5μmであれば、波長カットフィルタのカットオフ波長を1.52μmに設定する。この場合には、ひずみによりブラッグ波長λが1.52μmよりも長くなった場合にフォトディテクタで光が検出されなくなるため、ブラッグ波長λ=1.52μmに相当するひずみよりも大きなひずみが生じたことを検知できる。
【0049】
光源21A及び21Bにはひずみの発生していない状態での格子構造12A及び12Bのブラッグ波長に一致する単波長光源を用い、解析装置23には格子構造12A及び12Bからの反射光強度を検出するフォトディテクタを用いることで、格子構造12A及び12Bの周期構造長手方向それぞれにおいてのひずみの有無として検知することもできる。
【0050】
図5の説明に戻り、光源21Aから出射された光は、光サーキュレータ22Aを経由して格子構造12Aに入射する。格子構造12Aに入射した光のうち、ブラッグ波長の光は格子構造12Aで反射され、光サーキュレータ22Aに入射して光源21Aから出射された光と分離され、解析装置23に入射する。
【0051】
格子構造12A及び12Bの周期構造延長方向に対し光サーキュレータ22A及び22Bからの入射ビーム進行方向は平行であることが望ましく、少なくとも入射角は格子構造12A及び12Bで統一されることが好ましい。若干の入射角度誤差に対応させる場合は、格子構造12A及び12Bから入射と異なる方向へブラッグ反射するため、これを受けるためにコア径の大きいマルチモード光ファイバーなどを用いることが好ましい。格子構造12A及び12Bに入射する偏波条件を揃える場合は、例えば、潜在的及び外因的に光学異方性を生じない共重合体をコアとするマルチモード光ファイバーなどを用いることが好ましい。
【0052】
同様に、光源21Bから出射された光は、光サーキュレータ22Bを経由して格子構造12Bに入射する。格子構造12Bに入射した光のうち、ブラッグ波長の光は格子構造12Bで反射され、光サーキュレータ22Bに入射して光源21Bから出射された光と分離され、解析装置23に入射する。
【0053】
なお、本実施形態では、2つの格子構造に対して2つの光源と2つの光サーキュレータを用いる例を示したが、これには限定されない。例えば、1つの光源からの光を1つの光サーキュレータを介して複数の格子構造に入射させ、複数の格子構造からの反射光を1つの光サーキュレータを介して解析装置23に入射するようにしてもよい。
【0054】
解析装置23に入射した光は、解析装置23で解析され、格子構造12Aと格子構造12Bの各々のブラッグ波長λのシフトが検出される。前述のように、ブラッグ波長λのシフトは格子構造12A及び12Bの長手方向のひずみに比例するため、解析装置23の解析結果に基づいて、光ひずみ検知センサー1に加わったひずみを知ることができる。図1のように格子構造12Aと格子構造12Bの長手方向のなす角が略90度となるように配置されていれば、直交する2方向のひずみ(すなわち、計測対象の変位)を知ることができる。
【0055】
[ひずみ計測システム2A]
ひずみ計測システム2Aは、1つの光源からの光を1つの光カプラを介して複数の格子構造に入射させ、複数の格子構造からの反射光を1つの光カプラを介して解析装置に入射する例である。
【0056】
図6は、第1実施形態に係るひずみ計測システムを例示する図(その2)である。図6に示すひずみ計測システム2Aのように、マイケルソン干渉型の構成を採用してもよい。ひずみ計測システム2Aでは、例えば、光源31として単独の単波長直線偏光光源を用い、また解析装置33としてフォトディテクタを用いる。光源31に光通信用に豊富に存在する1.3μm帯や1.55μm帯の光源を選定し、格子構造12A及び12Bは選定した光源の出射波長に一致したブラッグ波長を持つ周期で統一する。
【0057】
光源31の出射光は光カプラ32で2本の光ファイバー34A及び34Bに分岐され、光ファイバー34A及び34Bを通じてそれぞれ格子構造12A及び12Bに侵入する。この際、基材11並びに格子構造12A及び12Bに対する入射偏波の振動面の角度構成、及び基材11から低屈折率領域121あるいは高屈折率領域122へビームが侵入する際のスポット径や座標などの条件を含めた光の入射条件も、格子構造12Aと格子構造12Bで統一する必要がある。格子構造12A及び12Bの周期構造延長方向に対して、入射ビームの進行方向は、同一つまり平行である必要がある。この入射角度調整の検証は、出射光の波長成分と強度を確認することで可能である。
【0058】
格子構造12A及び12Bから光ファイバー34A及び34Bへブラッグ反射された光は、それぞれ光カプラ32を介し解析装置33で光強度情報として処理される。解析装置33は、光強度を2方位のひずみの差に演算処理したり、経時変化などを演算処理したりする目的でコンピュータに接続されてもよい。
【0059】
なお、光カプラ32と光ファイバー34A及び34Bは、光源31からの光を格子構造12A及び12Bに入射させると共に、格子構造12A及び12B内でブラッグ反射した反射光を解析装置33に出射する結合光学系の一例である。
【0060】
得られたひずみに関する情報を解析することで、2次元のひずみを推定できる。例えば、計測対象の異なる3つの位置に、光ひずみ検知センサー1を一直線上に乗らないように形成し、ひずみを検知する場合を考える。
【0061】
図7は、3つの光ひずみ検知センサーから得られたひずみを模式的に示した図である。なお、格子構造12Aと格子構造12Bは、数10μm角程度の狭い範囲に形成できるため、1つの光ひずみ検知センサー1は1つの節点とみなせる。すなわち、光ひずみ検知センサー1により、微小領域内での異方向へのひずみを同時に計測できる。微小領域での直交座標系2次元ひずみが得られれば、図7に示すような三角形要素の節点変位情報の記述が可能となる。図7では、格子構造12Aの長手方向をX方向、格子構造12Bの長手方向をY方向としている。
【0062】
図7において、U1は1つの光ひずみ検知センサー1の格子構造12Aから得られたひずみの方向と大きさを、V1は格子構造12Bから得られたひずみの方向と大きさを示している。また、U2は他の1つの光ひずみ検知センサー1の格子構造12Aから得られたひずみの方向と大きさを、V2は格子構造12Bから得られたひずみの方向と大きさを示している。また、U3はさらに他の1つの光ひずみ検知センサー1の格子構造12Aから得られたひずみの方向と大きさを、V3は格子構造12Bから得られたひずみの方向と大きさを示している。
【0063】
図7に示す三角形をなす3つの節点のデータを例えば2次元有限要素解析することで、光ひずみ検知センサー1から得られる情報を、計測対象の巨視的な2次元ひずみ情報に高精度に拡張できるようになる。すなわち、微小領域の多軸ひずみの実測を実現することで、有限要素解析に帰着させ、構造監視の必要な巨視領域の変形を高精度に把握することができる。構造監視の必要な巨視領域としては、例えば、航空機の翼、タンク、ボンベ、炭素繊維構造物、防爆である必要のある監視対象、電磁的擾乱に懸念のある監視対象等が挙げられる。解析は、ハードウェアにより実現されてもよく、コンピュータが所定のプログラムを実行することにより実現されてもよい。なお、有限要素法を用いる場合、三角形要素には限定されず、四角形要素等を用いてもよい。
【0064】
上記のような微小領域のひずみを多軸で計測する方法は、電気的センサーであるひずみゲージを直交させて取り付ける方式などが往々にして検討されるが、ひずみゲージの構造上、計測対象でない成分の影響が無視できない。また、複数の1次元ひずみセンサーを離れた場所に設置する方法では、センサー設置位置間にクラックや材料の不均一箇所などが存在する場合があり、計測データをフックの法則のみで扱ってしまうには、不確かさが多い。
【0065】
一方、光ひずみ検知センサー1を用いた場合は、同一の基材内に複数の格子構造が集積化しているため、上記のような不確かさが解消される。また、光ひずみ検知センサー1では、格子構造の周期のみが反射光の波長に影響を与え、屈折率変調のない方向への伸縮は信号に影響を与えない。そのため、光ひずみ検知センサー1を用いることで、微小領域のひずみを高精度に計測できる。
【0066】
また、光ひずみ検知センサー1では、ナノ微粒子を光重合性モノマーへ高濃度に一様分散した光機能材料等を用いて、干渉露光による極めて簡便な方法で、サブμmの空間解像度で高い屈折率変調の格子構造を形成でき、計測対象に埋設することも不要である。例えば、ファイバーブラッググレーティング(Fiber Bragg Grating:FBG)では10-5オーダーの屈折率変調が限界であるが、光ひずみ検知センサー1では、FBGよりも遥かに高い10-3オーダー以上の屈折率変調を実現可能である。光ひずみ検知センサー1では、高い屈折率変調により高い反射率(例えば、導波長1mm以内で反射率100%)が得られるため、薄膜である同一基材内に格子構造を高密度に集積化することができ、高精度にひずみを計測可能である。導波長1mmを確保できればよいので、例えば、基材11は直径2mm程度あれば十分である。また、光ひずみ検知センサー1は、格子にビームが侵入してからほぼ大半の光エネルギーが反射するまでに必要な導波長が短く、例えば1mmの導波長で100%の光が反射するため、格子構造内部を導波する光の材料による吸収あるいは散乱による損失を、反射光情報をひずみ情報への換算時の補正要因として考慮する必要が極めて低い点でも好適である。
【0067】
また、FBGは光ファイバーへの紫外線照射によりブラッグ格子を形成している。この方法は、一般的な光ファイバー原料であるゲルマニウムが添加されているなどの石英系材料の一部を変性させる方法であり、石英以外の材料に適用できないため、母材の伸縮特性を向上する余地が残されていない。光ひずみ検知センサー1では、基材11がポリマーであるため、石英系材料に比べ高い弾性的性質を持つ。従って、FBGに比べて、センサー感度及びダイナミックレンジに優れている。
【0068】
また、光ひずみ検知センサー1では、材料系の自由度が高く、基材となるポリマー、ナノ微粒子、露光条件、格子構造のサイズなどを最適化することで、ニーズに沿った所望のセンサーを幅広く用意できる。
【0069】
[実施例]
以下、実施例について説明するが、本発明は、実施例には何ら限定されない。
【0070】
まず、光重合性モノマーとして下記化合物(I)に示すビスフェノール A エトキシラートジメタクリラート(Bisphenol A ethoxylate dimethacrylate、メルク製)5g、シリカ(酸化ケイ素:SiO)微粒子4.8g、光重合開始剤(下記チタノセン化合物(II))0.075g、溶剤(メチルイソブチルケトン(MIBK))11.375gの混合物を室温中で撹拌し、さらに超音波をかけて十分に分散した。
【0071】
【化1】
【0072】
【化2】
シリカ微粒子のD線での屈折率は1.46、光重合性モノマー(I)の重合状態におけるD線での屈折率は1.495であり、両者の屈折率差は0.035であった。分散液中のシリカ微粒子の粒径は、ドップラー散乱法によるマイクロトラックUPA粒度分布計(LEED&NORTHRUP社製)で測定したところ、中位値で13nmであった。
【0073】
シリカ微粒子の密度は2.1g/cmであるから、その体積は4.8/2.1≒2.2857cmである。光重合性モノマー(I)の密度は1.12g/cmであるから、その体積は5.0/1.12≒4.464cmである。従ってシリカ微粒子と光重合性モノマー(I)の重合状態の体積に占めるシリカ微粒子の割合は、2.2857/(2.2857+4.464)=0.338、すなわち33.8体積%であった。
【0074】
次いで、スペーサを装荷したスライドガラス中央(スペーサに挟まれた領域)に上記混合物を滴下し、減圧オーブン中で80℃、10分間減圧乾燥し、スライドガラスをかぶせて薄膜を形成した。
【0075】
次に、薄膜の所定領域(2箇所)に選択的に干渉露光を行い、Λ=0.5μm、膜厚45μmで屈折率変調0.0018の屈折率格子構造を形成した。干渉露光では、波長532nmのNd:YVOレーザを用いて、互いに等しい露光強度100mW/cmの2つの平面波ビームを用いた。
【0076】
次に、干渉露光を行っていない領域は干渉露光後に一様な光で硬化した。ブラッグ反射光の測定において、光源には、波長530nmのLEDを用いた。これにより、屈折率格子構造以外の領域の光重合性モノマーが重合してポリマーとなり、ポリマー及びナノ微粒子がランダムに混在し、その平均屈折率は、1.483であった。以上により、光ひずみ検知センサー1が完成した。
【0077】
次に、1.55μm帯通信でシングルモード仕様の市販光ファイバーを経由して、2つの格子構造の長手方向に平行な構成で各々ブラッグ波長を含む光を入射し、反射光を同じ光ファイバーで受け、それを経由して光スペクトラムアナライザーで解析したところ、いずれの格子構造においてもブラッグ波長1.5μmでのブラッグ反射光が確認され、所望の格子構造が形成されていることが確認された。
【0078】
図8は、スペクトルアナライザー上の反射光スペクトル測定データである。図8において、矢印部がブラッグ波長1.5μmでのブラッグ反射光である。この測定において、使用した光ファイバーのモードフィールド直径はおおよそ10μmであり、同程度のスポットサイズで格子構造に入射している。それゆえ、十分に厚膜であることと、光の侵入長が短くビームの広がりも微小であることから、上下の非格子構造領域への光電場の浸みだしは軽微であると言える。
【0079】
〈第1実施形態の変形例〉
図9は、第1実施形態の変形例1に係る光ひずみ検知センサーを例示する断面図であり、図1のA-A線に相当する断面を示している。図9を参照すると、光ひずみ検知センサー1Aは、基材11の下面側にクラッド層13が形成された点が、光ひずみ検知センサー1と相違する。
【0080】
クラッド層13は、格子構造12A及び12Bを構成する低屈折率領域121よりもさらに屈折率の小さい層であり、格子構造12A及び12Bの下面と接するように配置されている。クラッド層13は、例えば、低屈折率領域121よりも屈折率の小さいポリマーから形成されている。クラッド層13は、例えば、ガラス基板や金属基板あるいはひずみの計測対象に、光重合性モノマーを含む溶液を塗布し、一様な光で露光することで形成できる。クラッド層13の厚さに制限はないが、ひずみの伝達性を妨げない範囲で決定することが好ましい。なお、基材11及び格子構造12A及び12Bは、クラッド層13上に前述の方法により形成される。
【0081】
このように、基材11の下面にクラッド層13を形成することで、格子構造12A及び12Bの膜厚が入射ビームスポット径に比べて十分に大きくない場合に、光導波(光閉じ込め)条件を満たさずに格子構造12A及び12Bでほぼ全ての入射光成分がブラッグ反射光とならずに格子領域から失われることを抑制できる。
【0082】
図10は、第1実施形態の変形例2に係る光ひずみ検知センサーを例示する断面図であり、図1のA-A線に相当する断面を示している。図10を参照すると、光ひずみ検知センサー1Bは、基材11の上面側にクラッド層14が形成された点が、光ひずみ検知センサー1と相違する。
【0083】
クラッド層14は、格子構造12A及び12Bを構成する低屈折率領域121よりもさらに屈折率の小さい層であり、格子構造12A及び12Bの上面と接するように配置されている。クラッド層14は、例えば、低屈折率領域121よりも屈折率の小さいポリマーから形成されている。クラッド層14は、例えば、基材11及び格子構造12A及び12Bの上面に、光重合性モノマーを含む溶液を塗布し、一様な光で露光することで形成できる。クラッド層14の厚さに制限はない。
【0084】
このように、基材11の上面にクラッド層14を形成することで、格子構造12A及び12Bを機械的な損傷や湿気等から保護できる。なお、基材11にクラッド層13とクラッド層14の両方を形成してもよい。
【0085】
図11は、第1実施形態の変形例3に係る光ひずみ検知センサーを例示す平面図である。図12は、第1実施形態の変形例3に係る光ひずみ検知センサーを例示する断面図であり、図11のB-B線に沿う断面を示している。図11及び図12を参照すると、光ひずみ検知センサー1Cは、基材11に光ファイバー15A及び15Bの端部が埋め込まれている点が、光ひずみ検知センサー1と相違する。
【0086】
光ファイバー15Aは、例えば、コアとクラッドとを有する光ファイバーであり、図5に示す光サーキュレータ22Aと格子構造12Aとの間の光の入出力経路となる。したがって、光ファイバー15Aは、光サーキュレータ22Aに接続可能な任意の長さとすることができる。
【0087】
同様に、光ファイバー15Bは、例えば、コアとクラッドとを有する光ファイバーであり、図5に示す光サーキュレータ22Bと格子構造12Bとの間の光の入出力経路となる。したがって、光ファイバー15Bは、光サーキュレータ22Bに接続可能な任意の長さとすることができる。
【0088】
格子構造12A及び12Bの厚さは、光ファイバー15A及び15Bを埋め込み可能な任意の厚さとすることができる。例えば、光ファイバー15A及び15Bの径が125μmであれば、格子構造12A及び12Bを150μm程度とすることができる。
【0089】
基材11に光ファイバー15A及び15Bの端部を埋め込むには、例えば、図4のステップS104よりも前に基材11に光ファイバー15A及び15Bの端部を埋め込んで位置決めする。位置決めは、光ファイバー15Aのコアからの光が格子構造12Aの長手方向に平行に入り、光ファイバー15Bのコアからの光が格子構造12Bの長手方向に平行に入るように行う。
【0090】
その後、ステップS104で一様な光で露光する。これにより、格子構造12A及び12B以外の領域において、光重合性モノマーが重合してポリマーとなり、光ファイバー15A及び15Bの端部が基材11内に固定される。
【0091】
このように、基材11に光ファイバー15A及び15Bの端部を埋め込むことで、光ファイバー15A及び15Bのコアからの光を格子構造12A及び12Bの長手方向に平行に入射させることが容易となる。その結果、ブラッグ反射光の実際のブラッグ波長が設計値に対してずれることを抑制可能となり、精度の良いひずみ検出が可能となる。なお、図11の形態は、図9図10の形態と組み合わせることも可能である。
【0092】
以上、好ましい実施形態等について詳説したが、上述した実施形態等に制限されることはなく、特許請求の範囲に記載された範囲を逸脱することなく、上述した実施形態等に種々の変形及び置換を加えることができる。
【0093】
例えば、光ひずみ検知センサーは、基材内に3つ以上の格子構造を有してもよい。例えば、図1に示す格子構造12A及び12Bに加え、平面視で格子構造12A及び12Bの各々とのなす角度が45度となるように3つ目の格子構造を配置してもよい。これにより、格子構造12A及び12Bとは異なる方向のひずみを検出できる。或いは、図1に示す格子構造12A及び12Bに加え、格子構造12A及び12Bの各々の長手方向に平行な必要数の格子構造を配置してもよい。これにより、格子構造12A及び12Bと同じ方向のひずみの検出精度を向上できる。
【符号の説明】
【0094】
1、1A、1B、1C 光ひずみ検知センサー
2、2A ひずみ計測システム
11 基材
12A、12B 格子構造
13、14 クラッド層
15A、15B、34A、34B 光ファイバー
21A、21B、31 光源
22A、22B 光サーキュレータ
23、33 解析装置
32 光カプラ
121 低屈折率領域
122 高屈折率領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12