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特開2022-152372弾性線維増加剤のスクリーニング方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022152372
(43)【公開日】2022-10-12
(54)【発明の名称】弾性線維増加剤のスクリーニング方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/50 20060101AFI20221004BHJP
   G01N 33/15 20060101ALI20221004BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20221004BHJP
   C12Q 1/6851 20180101ALN20221004BHJP
【FI】
G01N33/50 Z
G01N33/15 Z
C12Q1/02
C12Q1/6851 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021055124
(22)【出願日】2021-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】591230619
【氏名又は名称】株式会社ナリス化粧品
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 奈緒美
【テーマコード(参考)】
2G045
4B063
【Fターム(参考)】
2G045AA24
2G045AA40
2G045BB20
2G045DA13
2G045FB02
4B063QA01
4B063QQ02
4B063QQ43
4B063QQ53
4B063QR62
4B063QS25
(57)【要約】      (修正有)
【課題】真皮構成線維の形成を促進しシワ形成・タルミ形成・ハリ低下を予防及び/又は改善することができる物質を、簡便に効率よくスクリーニングすることができる方法を提供する。
【解決手段】低酸素誘導転写因子-1(Hypoxia Inducible Transcription Factor-1;HIF-1)活性亢進を指標とする弾性線維増加剤のスクリーニング方法。HIF-1活性亢進を指標とする弾性線維形成関連成分の発現増加剤のスクリーニング方法。弾性線維形成関連成分が、エラスチン、フィブリリン、ファイブリン(Fibulin)、リシルオキシダーゼであるスクリーニング方法。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
低酸素誘導転写因子-1(Hypoxia Inducible Transcription Factor-1;HIF-1)活性亢進を指標とする弾性線維増加剤のスクリーニング方法。
【請求項2】
HIF-1活性亢進を指標とする弾性線維形成関連成分の発現増加剤のスクリーニング方法。
【請求項3】
前記弾性線維形成関連成分が、エラスチン、フィブリリン、ファイブリン(Fibulin)、リシルオキシダーゼである請求項2に記載のスクリーニング方法。
【請求項4】
HIF-1活性亢進を指標とするシワ形成・タルミ形成・ハリ低下の予防改善剤のスクリーニング方法。
【請求項5】
前記HIF-1活性亢進の指標がHIF-1α遺伝子発現量の減少である請求項1乃至請求項4いずれかに記載のスクリーニング方法。
【請求項6】
弾性線維増加剤をスクリーニングする方法であって、
A)線維芽細胞に被験物質又は対照物質を添加し任意の期間培養する工程、
B)HIF-1活性を測定する工程、
C)被験物質添加群のHIF-1活性が、被験物質無添加群又は対照物質添加群と比較して増加した被験物質を選択する工程、
を含んでなる方法。
【請求項7】
HIF-1α遺伝子発現量の減少を指標としたHIF-1活性亢進剤のスクリーニング方法。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Hypoxia Inducible Transcription Factor-1(HIF-1)活性亢進を指標とする弾性線維増加剤及びシワ形成・タルミ形成・ハリ低下の予防改善剤のスクリーニング方法に関する。更には、HIF-1活性亢進剤のスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚は、加齢に伴い老化して弾力を喪失し、ハリの低下や、シワ、タルミ等の変化を生じる。皮膚はおもに表皮、真皮、皮下組織の3層に分けられ、特に真皮は皮膚組織の構造の維持に極めて重要な役割をもつ。真皮は、膠原線維、弾性線維(エラスチン線維)等の真皮構成線維が複合的にネットワークを形成した構造を有する組織である。これらの線維は、真皮中に存在する線維芽細胞によって産生される前駆体タンパク質が細胞外で重合することで形成される。特に弾性線維は、皮膚の弾力性や柔軟性に重要な構造であり、その主成分はエラスチンである。エラスチンは前駆体タンパク質であるトロポエラスチンがフィブリリンからなるミクロフィブリル上に集合蓄積し、リシルオキシダーゼ等の酵素により架橋重合することで形成される。またファイブリン(Fibulin)等の弾性線維形成促進因子は、ミクロフィブリル上へのトロポエラスチンの集合を促進することで弾性線維の形成に寄与している。しかしながら、弾性線維は老化に伴い消失し、結果、皮膚の弾力性が低下しシワやタルミの形成、ハリ低下等の様々な老化症状が引き起こされる。
【0003】
従って、皮膚老化症状の予防改善剤として、弾性線維の増加剤の探索が行われてきた(特許文献1、2)。しかしながら、弾性線維を直接検出するためには、特異的な抗体を用いた免疫染色等を行いこれらの線維を可視化する必要があり、操作が煩雑かつ試験が高価であるという課題があった。そのため、弾性線維を直接検出するのではなく、線維芽細胞で産生されるエラスチンのタンパク質量、遺伝子発現量などを測定することによる簡易的な弾性線維の増加剤の探索も行われてきた(特許文献3、4)。しかしながら、エラスチンの産生量が増加しても、必ずしも弾性線維が増加するわけではないという課題があった。従って、より簡便に弾性線維の増加を評価する方法が求められていた。
【0004】
ヒトの生存には酸素の存在が不可欠であり、細胞でのエネルギー産生に重要である。一方でヒト体内では、加齢に伴い動脈血酸素分圧が低下することが知られており、つまり老化により体内の組織が酸素不足の状態に置かれている可能性がある(非特許文献1)。細胞がいったん低酸素状態になると、低酸素誘導転写因子(Hypoxia Inducible Transcription Factor;HIF)の活性化により低酸素応答が惹起される(非特許文献2)。HIF-1はHIF-1αとHIF-1βのサブユニットで構成される転写因子であり、低酸素環境に適応するため、血管新生や解糖系関連酵素など各種タンパク質の転写を促進し低酸素応答を引き起こす。HIF-1αは、通常酸素条件下ではプロリン水酸化酵素(Prolyl Hydroxylase Domain Containing Protein;PHD)によってプロリン残基が水酸化され、E3ユビキチンリガーゼであるvon Hippel-Lindauによりユビキチン化されることにより、プロテアソーム依存的に速やかに分解される。そのため通常酸素条件下では、HIF-1αの細胞内存在量は著しく低く保たれており、その転写活性が抑制されている。一方で、低酸素条件下では酸素依存性のPHD活性が低下するため、HIF-1αは分解されずに細胞内存在量が増加し、核内に移行しHIF-1βと結合して転写活性化され、下流の遺伝子発現を促進する。
【0005】
生体組織のうち、皮膚は血管が少なく慢性的に酸素が少ない組織と考えられている。実際、皮膚深部の皮下組織から皮膚表面の真皮、表皮に向かうにつれ組織中の酸素分圧は減少し、特に真皮上部から表皮基底部にかけての酸素分圧は、酸素濃度に換算して約5%以下の低酸素状態にあることが報告されている(非特許文献3)。そのため、表皮や真皮でHIF-1が活性化していることが報告されているが(非特許文献4)、HIF-1活性化と弾性線維形成の関連についてはこれまで全く知られていなかった。
【0006】
一方、HIF-1活性化の評価には、細胞内のHIF-1αタンパク質を抽出しその存在量を評価することが従来一般に行われてきた。しかしながら、通常酸素条件下ではHIF-1αは速やかに分解されるため、従来のHIF-1活性の測定では抽出操作の迅速さが非常に求められ、手技的にも簡便とは言えない。またHIF-1活性の測定には、HIF-1応答配列を有するベクターを用いたレポーターアッセイ等も行われているが、これは細胞にレポーターベクターを外部より遺伝子導入する必要があり、実施できる施設に制限があるため簡便な方法は言い難い。そのため、より簡便にHIF-1活性化を評価する手段が求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】再表2014/163178
【特許文献2】特表2014-527988
【特許文献3】特開2012-056933
【特許文献4】特開2019-189542
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】日本老年医学会雑誌,1978,15巻 第1号,p.29-35
【非特許文献2】生化学,2013,第85巻 第3号,p.187―195
【非特許文献3】J.Physiol..2002,538(3):985-994
【非特許文献4】Oncotarget,2014,5(22):11413-27
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、真皮構成線維の形成を促進しシワ形成・タルミ形成・ハリ低下を予防及び/又は改善することができる物質を、簡便に効率よくスクリーニングすることができる方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は上記課題の解決のため、鋭意検討を行った結果、線維芽細胞のHIF-1活性化すなわちHIF-1活性を亢進すると、弾性線維が増加することを見出した。このとき、エラスチンのほか、ミクロフィブリルを構成するフィブリリン、線維形成促進因子のファイブリン(Fibulin)、架橋酵素のリシルオキシダーゼ等の遺伝子発現量が増加していることを突き止めた。これらの結果から、HIF-1活性亢進により弾性線維形成に関連する成分の多くの産生が増加することで、弾性線維が増加すると考えた。従って、線維芽細胞のHIF-1活性亢進を指標とすることで、弾性線維の形成促進剤、及びそれに伴うシワ形成、タルミの形成、ハリの低下等の老化症状の予防改善剤を評価、選択することができると確信し、本発明完成に至った。
【0011】
更に発明者は、驚くべきことにHIF-1活性とHIF-1αの遺伝子発現量に逆相関があることを発見した。具体的には、細胞内でHIF-1活性が亢進した際、HIF-1αの遺伝子発現量が減少することを新たに見出した。そこでHIF-1αの遺伝子発現量を指標にHIF-1活性を評価することが可能であると確信し、本発明の完成に至った。
【0012】
本発明は、以下のスクリーニング方法を提供するものである。
(1)低酸素誘導転写因子(Hypoxia Inducible Transcription Factor;HIF)-1活性亢進を指標とする弾性線維増加剤のスクリーニング方法。
(2)HIF-1活性亢進を指標とする弾性線維形成関連成分の発現増加剤のスクリーニング方法。
(3)前記弾性線維形成関連成分が、エラスチン、フィブリリン、ファイブリン(Fibulin)、リシルオキシダーゼである(2)に記載のスクリーニング方法。
(4)HIF-1活性亢進を指標とするシワ形成・タルミ形成・ハリ低下の予防改善剤のスクリーニング方法。
(5)前記HIF-1活性亢進の指標がHIF-1α遺伝子発現量の減少である(1)乃至(4)いずれかに記載のスクリーニング方法。
(6)
弾性線維増加剤をスクリーニングする方法であって、線維芽細胞に被験物質又は対照物質を添加し任意の期間培養する工程、
B)HIF-1活性を測定する工程、
C)被験物質添加群のHIF-1活性が、被験物質無添加群又は対照物質添加群と比較して増加した被験物質を選択する工程、
を含んでなる方法。
(7)HIF-1α遺伝子発現量の減少を指標としたHIF-1活性亢進剤のスクリーニング方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、線維芽細胞のHIF-1活性亢進を指標に用いることにより、煩雑かつ高価な線維染色操作を必要とせずに真皮構成線維である弾性線維を増加させることができる物質のスクリーニング方法が提供される。更には、HIF-1α遺伝子の発現量を指標とすることで、不安定なHIF-1αタンパク質の抽出操作を必要とせず、簡便に真皮構成線維を増加させる物質をスクリーニングする方法、ひいてはシワ形成・タルミ形成・ハリ低下の予防改善剤の新たなスクリーニング方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】低酸素条件、塩化コバルト(CoCl)処理時の線維芽細胞のHIF-1活性亢進を示す図である。
図2】低酸素条件、塩化コバルト(CoCl)処理時の線維芽細胞のHIF-1α遺伝子発現量を示す図である。
図3】HIF-1活性亢進時の弾性線維を示す図である。
図4】被験物質添加時の弾性線維を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のスクリーニング方法の第一の実施態様は、HIF-1活性を亢進させ、エラスチン、フィブリリン、ファイブリン(Fibulin)、リシルオキシダーゼ等の弾性線維形成関連成分を増加させることで弾性線維を増加させ、シワ形成、タルミの形成、ハリの低下といった老化症状を予防及び/又は改善することができる物質を評価、選択する方法である。
具体的には、線維芽細胞に被験物質又は対照物質を添加し任意の期間培養する工程、HIF-1活性を測定する工程、被験物質添加群のHIF-1活性が被験物質無添加群又は対照物質添加群と比較して増加した被験物質を選択する工程、を含む、スクリーニング方法である。
【0016】
本発明のスクリーニング方法の第一の実施態様では、線維芽細胞のHIF-1活性亢進を指標とする。
【0017】
本発明のHIF-1活性亢進は、HIF-1活性化した状態すなわちHIF-1により転写される下流遺伝子が転写活性化された状態を指すが、下流遺伝子の転写活性化は細胞内HIF-1αタンパク質発現量の増加により引き起こされるため、例えば、細胞内でプロテアソーム依存的なHIF-1αタンパク質の分解が阻害され細胞内でHIF-1αタンパク質発現量が増加した状態が含まれる。HIF-1により転写活性化する下流遺伝子には血管内皮細胞増殖因子(VEGF)やエリスロポエチン(EPO)その他、嫌気的解糖系関連の遺伝子などが挙げられる。本発明のHIF-1活性亢進剤は、HIF-1下流遺伝子を転写活性化させることができる剤を指す。
【0018】
本発明のHIF-1活性亢進を指標とするとは、任意の方法を用いて測定したHIF-1活性を効果判定の基準にするという趣旨である。例えば、被験物質の存在により、HIF-1活性を無添加群又は対照物質添加群より増加させることができる場合、効果ありと判定することができる。被験物質の無添加群又は対照物質添加群に対して好ましくは10%以上、さらに好ましくは15%以上、線維芽細胞のHIF-1活性を増加させる物質を選択すればよい。
【0019】
本発明におけるHIF-1活性の測定方法は、特に限定されないが公知の方法を用いればよく、HIF-1下流遺伝子の転写活性を測定する、細胞内でのHIF-1αタンパク質量の増加を測定するほか、特に限定されない。HIF-1下流遺伝子の転写活性化は、例えば、HIF-1により転写活性化する下流遺伝子の遺伝子発現量を、当該遺伝子の配列に特異的に結合する配列を有するDNA断片をプライマーとして用い、アガロース電気泳動やリアルタイムPCR法にて定量的な検出を行うことで測定することができる。若しくは、HIF-1応答配列を有するベクターを細胞に導入しレポーターアッセイを行うことで測定することができる。細胞内のHIF-1αタンパク質量の増加は、免疫染色、電気泳動、ウエスタンブロッティング、放射免疫測定(Radioimmunoassay)、Enzyme-Linked ImmunoSorbent Assay(ELISA)、液体クロマトグラフィー(HPLC)、ガスクロマトグラフィー、質量分析等により測定することができるほか、当該タンパク質の代謝産物を測定することで間接的に当該タンパク質量を測定することもできる。その他、HIF-1αタンパク質の遺伝子配列にタグタンパク質や蛍光タンパク質、ルシフェラーゼ等の酵素の遺伝子配列を標識として付加したベクターを細胞に導入し、レポーターアッセイを行うことでHIF-1αタンパク質量を測定することも出来る。被験物質の無添加群又は対照物質添加群に対して好ましくは10%以上、さらに好ましくは15%以上、HIF-1下流遺伝子の転写活性化やHIF-1αタンパク質量を増加させることができる場合、HIF-1活性亢進作用があると判断できる。
【0020】
そのほか本発明のHIF-1活性の測定方法として、HIF-1α遺伝子発現量の測定を用いることもできる。
【0021】
HIF-1α遺伝子発現量は、当該遺伝子の配列に特異的に結合する配列を有するDNA断片をプライマーとして用い、アガロース電気泳動やリアルタイムPCR法にて定量的な検出を行うことで測定することができる。なお、HIF-1α遺伝子配列はそれぞれ公開されており、当業者は適宜プライマーを設計してPCRに供することができる。そのほか、遺伝子チップ、アレイ等の固相化試料を用いた核酸ハイブリダイゼーション法、サブトラクション法、ディファレンシャル・ディスプレイ法、ディファレンシャル・ハイブリダイゼーション法、クロスハイブリダイゼーション法等の公知の方法を用いて測定することもできる。被験物質の無添加群又は対照物質添加群に対して好ましくは10%以上、さらに好ましくは15%以上、HIF-1α遺伝子発現量を減少させることができる場合、HIF-1活性亢進作用があると判断できる。HIF-1活性の測定方法は、上記に限定されない。
【0022】
本発明のスクリーニング方法の第二の実施態様は、線維芽細胞のHIF-1α遺伝子発現量の減少を指標とすることで、簡便にHIF-1活性を測定し、HIF-1活性を亢進することができる物質を評価、選択する方法である。
【0023】
本発明のHIF-1α遺伝子発現量の減少を指標とするとは、任意の方法を用いて測定したHIF-1α遺伝子発現量を効果判定の基準にするという趣旨である。例えば、被験物質の存在により、HIF-1α遺伝子発現量を無添加群又は対照物質添加群より減少させることができる場合、効果ありと判定することができる。被験物質の無添加群又は対照物質添加群に対して好ましくは10%以上、さらに好ましくは15%以上、線維芽細胞のHIF-1α遺伝子発現量を減少させる物質を選択すればよい。
【0024】
本発明で用いる線維芽細胞は、ヒト又は動物由来であれば特に制限されず、例えばヒトやサル、マウス等の哺乳類由来の線維芽細胞を好適に用いることができる。線維芽細胞はヒト若しくは動物組織から単離しても良く、又はすでに単離された市販品を用いても良い。用いる線維芽細胞の状態は特に制限されず、細胞をそのまま用いても良いし、紫外線照射や老化処理等を行ったものを用いることも出来る。細胞培養培地には、用いる線維芽細胞に適切な培地を選択するのが良く、例えば10%牛胎児血清(FBS)を加えたダルベッコMEM(D-MEM)が挙げられる。
【0025】
本発明で用いる被験物質は、特に制限はない。動植物由来エキス、菌類の培養物、若しくはこれらの酵素等処理物、又は化合物若しくはその誘導体等であっても被検物質として用いることができ、液状の他、気体状、粉末状、ジェル状等であっても差し支えない。被験物質は線維芽細胞に任意の濃度及び分量を添加することができる。
【0026】
本発明で用いる線維芽細胞の培養条件は、一般的に線維芽細胞を培養する場合と同様で良く、例えば37℃、5%CO、通常酸素濃度(酸素濃度21%程度)の加湿条件下で数時間から数日間、長い場合には30日間程度である。予め線維芽細胞のHIF-1活性を底上げできる培養条件でも良く、窒素ガスや脱酸素剤を用いて酸素濃度を21%以下とした条件下で数時間から数日間、長い場合には30日程度培養することも出来る。その他、線維芽細胞の培養条件は特に制限されず、紫外線照射や老化処理等を行い培養しても良い。
【0027】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【実施例0028】
<実験1>
以下の手順で、低酸素条件下又は塩化コバルト添加条件下で培養した際におけるHIF-1活性を測定した。
<HIF-1活性の測定>
ヒト真皮線維芽細胞を、牛胎児血清(Wako社)10%を加えたダルベッコMEM(D-MEM)培地(Gibco社)に懸濁し、5×10cells/mLになるように細胞懸濁液を調製し30mm dish(Corning社)に2mLずつ播種した。37℃、5%CO/95%空気の加湿条件で4日間培養した。低酸素条件下培養サンプルはアネロパックケンキ5%(三菱化学社)及び酸素濃度計(スギヤマゲン社)とともにガスバリアパウチ袋に封入し、0.1%酸素濃度になるよう調整し、37℃、5%CO/95%空気の加湿条件で1日間培養した。通常酸素条件下培養サンプルは、ガスバリアパウチ袋には入れずに37℃、5%CO/95%空気の加湿条件で1日間培養した。塩化コバルト添加サンプルでは、塩化コバルト(Wako社)水溶液を終濃度が50μM、100μMになるよう添加し、37℃、5%CO/95%空気の加湿条件で1日間培養した。培養後、各dishの培地を除去し、Sample Buffer(50mM Tris-HCl(pH6.8)、2%SDS、5% 2-メルカプトエタノール、10%グリセロール、0.005%ブロモフェノールブルー、すべてWako社)を添加して細胞を溶解し、5分間煮沸したものをウエスタンブロッティング用サンプルとした。7.5%アクリルアミドゲルを用いてSDS-PAGEを行った後、PVDF膜(GE Healthcare社)にタンパク質を転写し、500倍希釈した抗HIF-1α抗体(BD Bioscience社)、次に3000倍希釈したHorseradish peroxidase(HRP)標識抗マウス抗体(GE Healthcare社)と反応させた。PVDF膜をTMB基質(Thermofisher Scientific 社)と反応させ、iBright imaging system(Invitrogen社)を用いて化学発光を検出した。
【0029】
図1に示すように、線維芽細胞を低酸素条件下(0.1%酸素)で培養すると、通常酸素条件下(21%酸素)で培養した場合よりもHIF-1αタンパク質のバンド濃度が増加しており、HIF-1活性が亢進していることが確認された。また、線維芽細胞に塩化コバルト(CoCl)を添加し通常酸素条件下で培養すると、無添加群よりもHIF-1αタンパク質のバンド濃度が増加しており、HIF-1活性が亢進していることが確認された。
【0030】
<実験2>
以下の手順で、低酸素条件下又は塩化コバルト添加条件下で培養した際におけるHIF-1α遺伝子発現量を測定した。
<HIF-1α遺伝子発現量の測定>
ヒト真皮線維芽細胞を、牛胎児血清(Wako社)10%を加えたD-MEM培地(Gibco社)に懸濁し、5×10cells/mLになるように細胞懸濁液を調製し24well-plate(TrueLine社)に500μLずつ播種した。37℃、5%CO/95%空気の加湿条件で4日間培養した。低酸素条件下培養サンプルはアネロパックケンキ5%(三菱化学社)及び酸素濃度計(スギヤマゲン社)とともにガスバリアパウチ袋に封入し、0.1%酸素濃度になるよう調整し、37℃、5%CO/95%空気の加湿条件で1日間培養した。通常酸素条件下培養サンプルは、ガスバリアパウチ袋には入れずに37℃、5%CO/95%空気の加湿条件で1日間培養した。塩化コバルト添加サンプルでは、塩化コバルト(Wako社)水溶液を終濃度が100μMになるよう添加し、37℃、5%CO/95%空気の加湿条件で1日間培養した。培養後、Total RNA Purification Kit(Jena Bioscience社)を用いて、Total RNAを抽出した。その後、PrimeScript RT Reagent Kit(TaKaRa社)を用いて逆転写を行い、cDNAを合成した。得られたcDNAを鋳型として、HIF-1α及びβアクチン(ハウスキーピング遺伝子として使用)の発現量を遺伝子特異的プライマー及びPower SYBR Green Master Mix(アプライドバイオシステムズ社)を用いて、リアルタイムPCR(7500 Real-Time PCR System、アプライドバイオシステムズ社)にて測定し、遺伝子発現の解析は比較Ct法にて行った。つまり、低酸素条件下培養時の遺伝子発現量の変化は、通常酸素条件培養群又は塩化コバルト無添加群のHIF-1αのCt値をβアクチンのCt値で補正した値を1とし、それに対する相対量として求めた。
【0031】
図2に示すように、線維芽細胞を低酸素条件下(0.1%酸素)で培養すると、通常酸素条件下(21%酸素)で培養した場合に対してHIF-1α遺伝子発現量が0.4倍程度に減少していることが確認された。また、通常酸素条件下で線維芽細胞に塩化コバルト(CoCl)を添加し培養すると、無添加群に対してHIF-1α遺伝子発現量が0.7倍程度に減少していることが確認された。
【0032】
<実験3>
以下の手順で、低酸素条件下で培養した際におけるHIF-1α遺伝子発現量とHIF-1活性を測定した。
<低酸素条件下での線維芽細胞の培養>
ヒト真皮線維芽細胞を、牛胎児血清(Wako社)10%を加えたD-MEM培地(Gibco社)に懸濁し、5×10cells/mLになるように細胞懸濁液を調製し30mm dish(Corning社)に2mLずつ播種した。37℃、5%CO/95%空気の加湿条件で4日間培養した。予めD-MEM培地をアネロパックケンキ5%(三菱化学社)及び酸素濃度計(スギヤマゲン社)とともにガスバリアパウチ袋に封入し、培地中の酸素濃度が0.1%になるよう2時間平衡処理し、酸素除去D-MEM培地を準備した。30mm dishの培地を除去し酸素除去D-MEM培地に置換後、アネロパックケンキ5%及び酸素濃度計とともにガスバリアパウチ袋に封入し、0.1%酸素濃度になるよう調整した後、37℃、5%CO/95%空気の加湿条件で0、3、6、24時間培養した。
<HIF-1α遺伝子発現量の測定>
培養後、Total RNA Purification Kit(Jena Bioscience社)を用いて、Total RNAを抽出した。その後、PrimeScript RT Reagent Kit(TaKaRa社)を用いて逆転写を行い、cDNAを合成した。得られたcDNAを鋳型として、HIF-1α及びβアクチン(ハウスキーピング遺伝子として使用)の発現量を遺伝子特異的プライマー及びPower SYBR Green Master Mix(アプライドバイオシステムズ社)を用いて、リアルタイムPCR(7500 Real-Time PCR System、アプライドバイオシステムズ社)にて測定し、遺伝子発現の解析は比較Ct法にて行った。つまり、低酸素条件下培養時のHIF-1α遺伝子発現量の変化は、低酸素条件暴露0時間群のHIF-1αのCt値をβアクチンのCt値で補正した値を1とし、それに対する相対量として求めた。
<HIF-1活性の測定>
培養後、各dishの培地を除去し、Sample Buffer(50mM Tris-HCl(pH6.8)、2%SDS、5% 2-メルカプトエタノール、10%グリセロール、0.005%ブロモフェノールブルー、すべてWako社)を添加して細胞を溶解し、5分間煮沸したものをウエスタンブロッティング用サンプルとした。7.5%アクリルアミドゲルを用いてSDS-PAGEを行った後、PVDF膜(GE Healthcare社)にタンパク質を転写し、500倍希釈した抗HIF-1α抗体(BD Bioscience社)、次に3000倍希釈したHorseradish peroxidase(HRP)標識抗マウス抗体(GE Healthcare社)と反応させた。PVDF膜をTMB基質(Thermofisher Scientific 社)と反応させ、iBright imaging system(Invitrogen社)を用いて化学発光を検出した。ImageJ(NIH製)を用いてHIF-1αのバンド強度を定量したものをHIF-1αタンパク質量とした。
【0033】
表1に示すように、低酸素条件下で0、3、6、24時間培養した線維芽細胞では、HIF-1活性を反映するHIF-1αタンパク質量が経時的に増加した。一方、低酸素条件下で0、3、6、24時間培養した線維芽細胞のHIF-1α遺伝子発現量は経時的に減少した。さらに、ピアソンの相関係数の検定を行ったところ、これらHIF-1αタンパク質量とHIF-1α遺伝子発現量は有意な負の相関関係にあることが確認された(相関係数-0.99、p値0.01)。すなわち、HIF-1αタンパク質量が増加つまりHIF-1活性が亢進すると、HIF-1α遺伝子発現量が減少するという関係にあることが分かった。
【0034】
【表1】
【0035】
<実験4>
以下の手順で、低酸素条件下で培養した際における弾性線維形成を評価した。
<弾性線維の検出>
ヒト真皮線維芽細胞を、牛胎児血清(Wako社)10%を加えたD-MEM培地(Gibco社)に懸濁し、5×10cells/mLになるように細胞懸濁液を調製し96well-plate(TrueLine社)に100μLずつ播種した。37℃、5%CO/95%空気の加湿条件で2日間培養後、低酸素条件下培養サンプルはアネロパックケンキ5%(三菱化学社)及び酸素濃度計(スギヤマゲン社)とともにガスバリアパウチ袋に封入し、0.1%酸素濃度になるよう調整した。3-4日に一度培地を交換しながら、37℃、5%CO/95%空気の加湿条件で20日間培養した。なお通常酸素条件下培養サンプルは、ガスバリアパウチ袋には入れずに37℃、5%CO/95%空気の加湿条件で20日間培養した。各wellの培地を除去しPBSで洗浄後、-20℃に冷却したアセトン/メタノール溶液(ともにWako社)を添加し2分間透過処理を行った。PBSで洗浄後、PBSに溶解した3%ウシ血清アルブミン(Wako社)を添加し室温で30分間ブロッキングを行った。洗浄後、1%ウシ血清アルブミン溶液で50倍希釈した抗エラスチン抗体(SantaCruz社)を50μL添加し、室温で30分間反応させた。洗浄後、1%ウシ血清アルブミン溶液で100倍希釈したAlexaFluor(登録商標)488標識抗マウス抗体(Abcam社)を50μL添加し、室温で30分間反応させた。洗浄後、PBSで1000倍希釈したDAPI Solution(Dojindo社)を添加し、蛍光顕微鏡(キーエンス社)にて蛍光像を観察した。
【0036】
図3に示すように、線維芽細胞を低酸素条件下(0.1%酸素)で培養してHIF-1活性を亢進すると、通常酸素条件下(21%酸素)で培養した場合よりもエラスチン(緑色)の蛍光量が増加していることが確認され、エラスチンが増加していることが明らかになった。さらに、低酸素条件下(0.1%酸素)で培養した場合、緑色の蛍光は線維状に連なっていることから、HIF-1活性亢進は特に線維状エラスチンの形成すなわち弾性線維の形成を促進することが明らかとなった。
【0037】
<実験5>
以下の手順で、低酸素条件下で培養した際における弾性線維形成関連成分の発現量を評価した。
<弾性線維形成関連成分の検出>
ヒト真皮線維芽細胞を、牛胎児血清(Wako社)10%を加えたD-MEM培地(Gibco社)に懸濁し、5×10cells/mLになるように細胞懸濁液を調製し24well-plate(TrueLine社)に500μLずつ播種した。低酸素条件下培養サンプルはアネロパックケンキ5%(三菱化学社)及び酸素濃度計(スギヤマゲン社)とともにガスバリアパウチ袋に封入し、0.1%酸素濃度になるよう調整し、37℃、5%CO/95%空気の加湿条件で1日間培養した。通常酸素条件下培養サンプルは、ガスバリアパウチ袋には入れずに37℃、5%CO/95%空気の加湿条件で1日間培養した。各wellの培地を除去し、Total RNA Purification Kit(Jena Bioscience社)を用いて、Total RNAを抽出した。その後、PrimeScript RT Reagent Kit(TaKaRa社)を用いて逆転写を行い、cDNAを合成した。得られたcDNAを鋳型として、トロポエラスチン、フィブリリン-1、ファイブリン-4、リシルオキシダーゼ及びβアクチン(ハウスキーピング遺伝子として使用)の発現量を遺伝子特異的プライマー及びPower SYBR Green Master Mix(アプライドバイオシステムズ社)を用いて、リアルタイムPCR(7500 Real-Time PCR System、アプライドバイオシステムズ社)にて測定し、遺伝子発現の解析は比較Ct法にて行った。つまり、低酸素条件下培養時の各遺伝子発現量の変化は、通常酸素条件培養群の各遺伝子のCt値をβアクチンのCt値で補正した値を1とし、それに対する相対量として求めた。
【0038】
表2に示すように、線維芽細胞を低酸素条件下(0.1%酸素)で培養してHIF-1活性を亢進すると、通常酸素条件下(21%酸素)で培養した場合よりも、弾性線維形成関連成分のトロポエラスチン(Tropoelastin)、フィブリリン-1(Fibrillin-1)、ファイブリン-4(Fibulin-4)、リシルオキシダーゼ(Lysyl oxidase)の遺伝子発現量が1.24~2.27倍に増加した。
【0039】
【表2】
【0040】
<実施例1>HIF-1遺伝子発現量減少を指標とした弾性線維増加剤及び/又はHIF-1活性亢進剤のスクリーニング
以下の手順で、被験物質の添加によるHIF-1α遺伝子発現量の減少を評価した。
<被験物質の調製>
乾燥植物原体に10倍の重量の蒸留水を加えて60℃、8時間加熱抽出した。抽出物の乾燥残分に対して、蒸留水を重量比で1:99となるように加えて希釈したものを被験物質とした。なお用いた植物原体は、ジャノヒゲ、ピスタチオローストホール、アネコマメ、ホーリーバジル、ハッカ、バジルである。対照物質には、植物原体の溶解溶媒のみを用いた。
<HIF-1α遺伝子発現量の測定>
ヒト真皮線維芽細胞を、牛胎児血清(Wako社)10%を加えたD-MEM培地(Gibco社)に懸濁し、5×10cells/mLになるように細胞懸濁液を調製し24well-plate(TrueLine社)に500μLずつ播種した。37℃、5%CO/95%空気の加湿条件で4日間培養した。4日間培養後、各種被験物質若しくは対照物質を終濃度20ppm、又は陽性対照物質の塩化コバルト(Wako社)を終濃度100μMになるよう培地に添加し、37℃、5%CO/95%空気の加湿条件で1日間培養した。培養後、Total RNA Purification Kit(Jena Bioscience社)を用いて、Total RNAを抽出した。その後、PrimeScript RT Reagent Kit(TaKaRa社)を用いて逆転写を行い、cDNAを合成した。得られたcDNAを鋳型として、HIF-1α及びβアクチン(ハウスキーピング遺伝子として使用)の発現量を遺伝子特異的プライマー及びPower SYBR Green Master Mix(アプライドバイオシステムズ社)を用いて、リアルタイムPCR(7500 Real-Time PCR System、アプライドバイオシステムズ社)にて測定し、遺伝子発現の解析は比較Ct法にて行った。つまり、被験物質添加による遺伝子発現量の変化は、対照物質添加群のHIF-1αのCt値をβアクチンのCt値で補正した値を1とし、それに対する相対量として求めた。
【0041】
表3に示すように、陽性対照物質である塩化コバルト(CoCl)を添加した線維芽細胞では、対照物質を添加したコントロール(Control)に対してHIF-1α遺伝子発現量を28%減少させた。ジャノヒゲ抽出物、ピスタチオ抽出物、ハッカ抽出物、バジル抽出物を添加した線維芽細胞では、対照物質添加のコントロールに対してHIF-1α遺伝子発現量がほぼ変化していないのに対し、アネコマメ抽出物、ホーリーバジル抽出物を添加した線維芽細胞では、対照物質添加のコントロールに対してHIF-1α遺伝子発現量が11%~13%程度減少した。すなわち、アネコマメ抽出物、ホーリーバジル抽出物には線維芽細胞のHIF-1活性亢進作用が十分あると判断でき、この方法を用いて線維芽細胞のHIF-1活性亢進剤及び/又は弾性線維増加剤を選択することができる。本スクリーニング方法を用いることで、HIF-1活性を亢進させ、弾性線維を増加させることによるシワ形成、タルミの形成、ハリ低下を予防改善する物質を選択することが可能である。
【0042】
【表3】
【0043】
<実施例2>HIF-1活性亢進を指標とした弾性線維増加剤のスクリーニング
以下の手順で、被験物質添加によるHIF-1活性を測定した。
<被験物質の調製>
実施例1と同様に行った。
<HIF-1活性の測定>
ヒト真皮線維芽細胞を、牛胎児血清(Wako社)10%を加えたD-MEM培地(Gibco社)に懸濁し、5×10cells/mLになるように細胞懸濁液を調製し96well-plate(TrueLine社)に100μLずつ播種した。37℃、5%CO/95%空気の加湿条件で4日間培養後、各種被験物質若しくは対照物質を終濃度50ppm、又は陽性対照物質の塩化コバルト(CoCl)を終濃度100μMになるよう培地に添加し、37℃、5%CO/95%空気の加湿条件で1日間培養した。各wellの培地を除去し、Phosphate buffered saline(PBS)に溶解した4%パラフォルムアルデヒド(Wako社)を添加し室温で20分間静置して固定処理を行った。PBSで洗浄後、PBSに溶解した0.1%TritonX-100(登録商標、MP Biomedicals社)を各wellに添加し、室温で10分間静置した。洗浄後、PBSに溶解した1%過酸化水素を各wellに添加し、室温で10分間静置した。洗浄後、1.25%スキムミルク(Wako社)でブロッキングし、1%スキムミルク溶液で250倍希釈した抗HIF-1α抗体(GeneTex社)を各wellに添加後、4℃で一晩反応させた。洗浄後、1%スキムミルク溶液で800倍希釈したHorseradish peroxidase(HRP)標識抗ウサギ抗体(GE Healthcare社)を各wellに添加し、室温で1時間反応させた。洗浄後、各wellにTMB基質(Thermofisher Scientfic社)を100μLずつ添加し37℃で10分間インキュベート後、等量の2N硫酸を添加した。蛍光プレートリーダー(TECAN社)にて450nmの吸光度(A)を測定した。溶液を除去し、各wellをPBSで溶解した0.1%Tween-20(登録商標、ICI社)で3回洗浄、PBSで1回洗浄した後、プレートを風乾した。PBSに溶解した0.1%クリスタルバイオレット(Wako社)溶液を各wellに50μLずつ添加し、室温で30分間染色した。各wellを流水洗浄、PBSで洗浄した後、PBSに溶解した1%ドデシル硫酸ナトリウム(Wako社)を100μL添加し、室温で1時間振とうしてクリスタルバイオレットを溶解後、蛍光プレートリーダーにて595nmの吸光度(B)を測定した。数式1に従ってHIF-1活性を算出した。
【0044】
【数1】
【0045】
表4に示すように、陽性対照物質である塩化コバルト(CoCl)を添加した線維芽細胞では、対照物質を添加したコントロール(Control)に対してHIF-1α量を42%増加させた。ハッカ抽出物、バジル抽出物を添加した線維芽細胞では、対照物質を添加したコントロールに対してHIF-1α量がほぼ変化しなかったのに対し、アネコマメ抽出物及びホーリーバジル抽出物を添加した線維芽細胞ではHIF-1α量がそれぞれ16%又は27%増加した。すなわち、アネコマメ抽出物、ホーリーバジル抽出物には線維芽細胞のHIF-1活性亢進作用が十分あると判断でき、この方法を用いて弾性線維増加剤を選択することができる。本スクリーニング方法を用いることで、HIF-1活性を亢進させ、弾性線維を増加させることによるシワ形成、タルミの形成、ハリ低下を予防改善する物質を選択することが可能である。
【0046】
【表4】
【0047】
<実施例3>被験物質添加による真皮構成線維形成増加作用の確認
以下の手順で、被験物質添加による弾性線維形成を評価した。
<被験物質の調製>
実施例1と同様に行った。
<弾性線維の検出>
ヒト真皮線維芽細胞を、牛胎児血清(Wako社)10%を加えたD-MEM培地(Gibco社)に懸濁し、5×10cells/mLになるように細胞懸濁液を調製し96well-plate(TrueLine社)に100μLずつ播種した。37℃、5%CO/95%空気の加湿条件で2日間培養後、各種被験物質又は対照物質を終濃度50ppmになるよう培地に添加した。3-4日に一度培地を交換しながら、37℃、5%CO/95%空気の加湿条件で20日間培養した。なお通常酸素条件下培養サンプルは、ガスバリアパウチ袋には入れずに37℃、5%CO/95%空気の加湿条件で20日間培養した。各wellの培地を除去しPBSで洗浄後、-20℃に冷却したアセトン/メタノール溶液(ともにWako社)を添加し2分間透過処理を行った。PBSで洗浄後、PBSに溶解した3%ウシ血清アルブミン(Wako社)を添加し室温で30分間ブロッキングを行った。洗浄後、1%ウシ血清アルブミン溶液で50倍希釈した抗エラスチン抗体(SantaCruz社)を50μL添加し、室温で30分間反応させた。洗浄後、1%ウシ血清アルブミン溶液で100倍希釈したAlexaFluor(登録商標)488標識抗マウス抗体(Abcam社)を50μL添加し、室温で30分間反応させた。洗浄後、PBSで1000倍希釈したDAPI Solution(Dojindo社)を添加し、蛍光顕微鏡(キーエンス社)にて蛍光像を観察した。
【0048】
図4に示すように、線維芽細胞にホーリーバジル抽出物を添加し培養したところ、対照物質添加のコントロール(Control)又はバジル抽出物添加に対してエラスチン(緑色)の蛍光量が増加していることが確認され、エラスチンが増加していることが明らかになった。さらに、ホーリーバジル抽出物を添加し培養した場合、緑色の蛍光は線維状に連なっていることから、ホーリーバジル抽出物によるHIF-1活性亢進は特に線維状エラスチンの形成すなわち弾性線維の形成を促進することが明らかとなった。すなわち、表3、表4よりHIF-1活性亢進作用が確認されているホーリーバジル抽出物には、弾性線維形成亢進作用が十分あると判断でき、この方法を用いて弾性線維増加剤を選択することができる。本スクリーニング方法を用いることで、HIF-1活性を亢進させ、弾性線維を増加させることによるシワ形成、タルミの形成、ハリ低下を予防改善する物質を選択することが可能である。
【0049】
<実施例4>被験物質添加による弾性線維形成関連成分増加作用の確認
以下の手順で、被験物質添加による弾性線維形成関連成分増加作用を評価した。
<被験物質の調製>
実施例1と同様に行った。
<弾性線維形成関連成分の検出>
ヒト真皮線維芽細胞を、牛胎児血清(Wako社)10%を加えたD-MEM培地(Gibco社)に懸濁し、5×10cells/mLになるように細胞懸濁液を調製し24well-plate(TrueLine社)に500μLずつ播種した。37℃、5%CO/95%空気の加湿条件で6日間培養し、各種被験物質又は対照物質を終濃度50ppmになるよう培地に添加した。37℃、5%CO/95%空気の加湿条件で1日間培養後、Total RNA Purification Kit(Jena Bioscience社)を用いて、Total RNAを抽出した。その後、PrimeScript RT Reagent Kit(TaKaRa社)を用いて逆転写を行い、cDNAを合成した。得られたcDNAを鋳型として、トロポエラスチン、フィブリリン-1、ファイブリン-4、リシルオキシダーゼ及びβアクチン(ハウスキーピング遺伝子として使用)の発現量を遺伝子特異的プライマー及びPower SYBR Green Master Mix(アプライドバイオシステムズ社)を用いて、リアルタイムPCR(7500 Real-Time PCR System、アプライドバイオシステムズ社)にて測定し、遺伝子発現の解析は比較Ct法にて行った。つまり、被験物質添加による遺伝子発現量の変化は、対照物質添加のCt値をβアクチンのCt値で補正した値を1とし、それに対する相対量として求めた。
【0050】
表5に示すように、対照物質を添加したコントロール(Control)と比較して、ハッカ抽出物を添加した線維芽細胞では、トロポエラスチン(Tropoelastin)、フィブリリン-1(Fibrillin-1)、ファイブリン-4(Fibulin-4)、リシルオキシダーゼ(Lysyl oxidase)の遺伝子発現量はほとんど変化していなかったのに対し、ホーリーバジル抽出物を添加した線維芽細胞では、トロポエラスチンの遺伝子発現量が2.34倍、フィブリリン-1、ファイブリン-4、リシルオキシダーゼの遺伝子発現量が1.26~1.45倍に増加した。すなわち、HIF-1活性亢進作用が確認されているホーリーバジル抽出物には、弾性線維形成関連成分亢進作用が十分あると判断でき、この方法を用いて弾性線維増加剤を選択することができる。本スクリーニング方法を用いることで、HIF-1活性を亢進させ、弾性線維を増加させることによるシワ形成、タルミの形成、ハリ低下を予防改善する物質を選択することが可能である。
【0051】
【表5】


図1
図2
図3
図4