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  • 特開-HIF-1活性化剤 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022152373
(43)【公開日】2022-10-12
(54)【発明の名称】HIF-1活性化剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 36/53 20060101AFI20221004BHJP
   A61P 17/16 20060101ALI20221004BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20221004BHJP
   A61P 13/12 20060101ALI20221004BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20221004BHJP
   A61K 8/9789 20170101ALI20221004BHJP
   A61Q 1/02 20060101ALI20221004BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20221004BHJP
   A61Q 19/08 20060101ALI20221004BHJP
   A23L 33/105 20160101ALI20221004BHJP
【FI】
A61K36/53
A61P17/16
A61P9/00
A61P13/12
A61P43/00 107
A61K8/9789
A61Q1/02
A61Q19/00
A61Q19/08
A23L33/105
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021055125
(22)【出願日】2021-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】591230619
【氏名又は名称】株式会社ナリス化粧品
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 奈緒美
【テーマコード(参考)】
4B018
4C083
4C088
【Fターム(参考)】
4B018LB08
4B018LB10
4B018LE01
4B018LE05
4B018MD20
4B018MD61
4B018MD90
4B018ME14
4C083AA111
4C083AA112
4C083AA122
4C083AB242
4C083AB432
4C083AC012
4C083AC072
4C083AC102
4C083AC122
4C083AC212
4C083AC352
4C083AC422
4C083AC432
4C083AC442
4C083AC472
4C083AC532
4C083AC552
4C083AD332
4C083CC04
4C083CC05
4C083CC12
4C083DD23
4C083DD27
4C083DD31
4C083EE12
4C083FF01
4C088AB38
4C088AC05
4C088BA09
4C088CA05
4C088MA17
4C088MA22
4C088MA28
4C088MA35
4C088MA52
4C088MA63
4C088NA14
4C088ZA36
4C088ZA81
4C088ZA89
4C088ZB22
(57)【要約】      (修正有)
【課題】低酸素誘導転写因子-1(HIF-1)を活性化することができる優れた成分を提供する。
【解決手段】ホーリーバジル抽出物を含有するHIF-1活性化剤、弾性線維形成促進剤、弾性線維形成関連成分の発現増加剤による。
【効果】本発明によれば、細胞のHIF-1を活性化することができ、低酸素環境が関与する虚血性疾患や慢性腎臓病、腎性貧血等の各種疾患を改善することができる。更には、HIF-1活性化によって弾性線維形成を促進させることができ、加齢に伴う弾力・ハリの低下やシワ・タルミ形成等の変化を改善することができる。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホーリーバジル抽出物を含有する低酸素誘導転写因子-1(Hypoxia Inducible Transcription Factor-1;HIF-1)活性化剤。
【請求項2】
ホーリーバジル抽出物を含有する弾性線維形成促進剤。
【請求項3】
ホーリーバジル抽出物を含有する弾性線維形成関連成分の発現増加剤。
【請求項4】
前記弾性線維形成関連成分が、エラスチン、フィブリリン、ファイブリン(Fibulin)、リシルオキシダーゼから選択される1種以上である請求項3に記載の弾性線維形成関連成分の発現増加剤。
【請求項5】
HIF-1活性化、弾性線維形成促進、弾性線維形成関連成分の発現増加から選択される少なくとも1つを目的とするホーリーバジル抽出物の使用。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホーリーバジル抽出物を含有するHIF-1活性化剤、弾性線維形成促進剤、弾性線維形成関連成分の発現増加剤及びこれらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトの生存には酸素の存在が不可欠であり、細胞でのエネルギー産生に重要である。一方でヒト体内では、加齢に伴い動脈血酸素分圧が低下することが知られており、つまり老化により体内の組織が酸素不足の状態に置かれている可能性が指摘されている(非特許文献1)。
【0003】
細胞が低酸素状態におかれると、低酸素誘導転写因子(Hypoxia Inducible Transcription Factor;HIF)の活性化により低酸素応答が惹起される(非特許文献2)。HIF-1はHIF-1αとHIF-1β(ARNT)のサブユニットで構成される転写因子であり、低酸素環境に適応するために血管新生や解糖系関連酵素など各種タンパク質の転写を促進し、低酸素応答を引き起こす。HIF-1αは、通常酸素条件下ではプロリン水酸化酵素(Prolyl Hydroxylase Domain Containing Protein;PHD)によってプロリン残基が水酸化され、E3ユビキチンリガーゼであるvon Hippel-Lindauによりユビキチン化を受けプロテアソーム依存的に速やかに分解される。そのため、通常酸素条件下ではHIF-1αの細胞内存在量は著しく低く保たれており、その転写活性が抑制されている。一方で、低酸素条件下では酸素依存性のPHD活性が低下するため、HIF-1αは分解されずに細胞内存在量が増加し、核内に移行してHIF-1βと結合して転写活性化され下流の遺伝子発現を促進する。
【0004】
HIF-1の活性化は、血管内皮細胞増殖因子(Vascular Endothelial Growth Factor:VEGF)の発現を誘導し血管形成を促進し、かつエリスロポエチン(EPO)の発現増強により赤血球を増加させることで組織への酸素供給量を改善する。その他、代謝リプログラミングによる嫌気的解糖系の亢進、活性酸素の発生抑制、幹細胞の未分化性維持、ECMリモデリングなど様々な生理機能を有することが知られている。従って、虚血性疾患や慢性腎臓病、腎性貧血等の治療にHIF-1活性化を応用する研究が進んでいる。
【0005】
一方で、皮膚には血管が少なく慢性的に酸素が比較的少ない組織と考えられている。実際、皮膚中の酸素分圧は皮膚深部の皮下組織から皮膚表面の真皮・表皮に向かうにつれ減少することが報告されており、特に真皮上部から表皮基底部にかけての酸素分圧は、酸素濃度に換算して約5%以下の低酸素状態にあることが報告されている(非特許文献3、4)。一方で、高齢ドナー由来の線維芽細胞では、低酸素条件下におけるHIF-1活性化が減少することが報告されているため(非特許文献5)、HIF-1活性は皮膚老化にも関係している可能性がある。
【0006】
また皮膚は加齢に伴い老化して弾力を喪失し、ハリの低下やシワ・タルミ形成等の変化を生じる。なかでも真皮は膠原線維(コラーゲン線維)、弾性線維(エラスチン線維)等の真皮構成線維が複合的にネットワークを形成した構造を有する組織であり、皮膚組織の構造の維持に極めて重要な役割をもつ。膠原線維や弾性線維は、真皮中に存在する線維芽細胞によって産生される前駆体タンパク質が細胞外で重合することで形成される。特に弾性線維は、皮膚の弾力性や柔軟性に重要な構造であり、その主成分はエラスチンである。エラスチンは前駆体タンパク質であるトロポエラスチンがフィブリリンからなるミクロフィブリル上に集合蓄積し、リシルオキシダーゼ等の酵素により架橋重合することで形成される。またファイブリン(Fibulin)等の弾性線維形成促進因子は、ミクロフィブリル上へのトロポエラスチンの集合を促進することで弾性線維の形成に寄与している。しかしながら、老化皮膚においては膠原線維の減少や線維束の脆弱化、弾性線維の消失が生じ、皮膚の弾力性が低下しシワやタルミの形成、ハリ低下等の様々な老化症状が引き起こされる。低酸素条件で線維芽細胞を培養するとHIF-1が活性化し、コラーゲンタンパク質の産生が促進されコラーゲン線維の形成が増加することが報告されているが(非特許文献6)、皮膚状態を改善することができるHIF-1活性化剤はこれまで知られていなかった。また、HIF-1活性化と弾性線維の形成の関係についても、これまで知られていなかった。
【0007】
ホーリーバジルは、カミメボウキとも呼ばれるシソ科メボウキ属の植物であり、インド、ヨーロッパが原産の一年草で香辛料として料理の香付けなどに使用される。ヒアルロニダーゼ阻害作用(特許文献1)や、コラーゲン産生作用(特許文献2)、テストステロン5α-レダクターゼ阻害作用(特許文献3)等の効能が知られているが、HIF-1活性及び弾性線維形成に対する作用については全く知られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平7-138180号公報
【特許文献2】特開2004-182710号公報
【特許文献3】特開2006-257060号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】日本老年医学会雑誌,1978,15巻 第1号,p.29-35
【非特許文献2】生化学,2013,第85巻 第3号,p.187―195
【非特許文献3】J.Physiol.,2002,538(3):985-994
【非特許文献4】Oncotarget,2014,5(22):11413-27
【非特許文献5】The 42nd Annual Meeting of Japanese Society for Investigative Dermatology、2017
【非特許文献6】J.Biol.Chem.,2013,288(15):10819-29
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、HIF-1を活性化することができる優れた成分を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は上記課題の解決のため、鋭意検討を行った結果、ホーリーバジル抽出物にHIF-1活性化作用があることを突き止め、本願発明完成に至った。
【0012】
加えて、本願発明者は線維芽細胞のHIF-1を活性化すると弾性線維の形成が増加することを見出した。このとき、線維芽細胞のエラスチンのほか、ミクロフィブリルを構成するフィブリリン、線維形成促進因子のファイブリン(Fibulin)、架橋酵素のリシルオキシダーゼ等の遺伝子発現量が増加していることを突き止めた。これらの結果から、HIF-1活性化により弾性線維形成に関連する成分の多くの産生が増加することで弾性線維が増加すると確信した。従ってホーリーバジル抽出物はHIF-1活性化作用に加えて弾性線維の形成促進作用を有することを見出し、本発明に至った。
【0013】
本発明は、以下の剤及び/又はその使用を提供するものである。
(1)ホーリーバジル抽出物を含有するHIF-1活性化剤。
(2)ホーリーバジル抽出物を含有する弾性線維形成促進剤。
(3)ホーリーバジル抽出物を含有する弾性線維形成関連成分の発現増加剤。
(4)前記弾性線維形成関連成分が、エラスチン、フィブリリン、ファイブリン(Fibulin)、リシルオキシダーゼから選択される1種以上である(3)に記載の弾性線維形成関連成分の発現増加剤。
(5)HIF-1活性化、弾性線維形成促進、弾性線維形成関連成分の発現増加から選択される少なくとも1つを目的とするホーリーバジル抽出物の使用。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、細胞のHIF-1を活性化することができ、低酸素環境が関与する虚血性疾患や慢性腎臓病、腎性貧血等の各種疾患を改善する効果が期待できる。更には、HIF-1活性化によって弾性線維形成を促進させることができ、加齢に伴う弾力・ハリの低下やシワ・タルミ形成等の変化を改善する効果が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】低酸素条件で培養した線維芽細胞のHIF-1活性を示す図である。
図2】低酸素条件で培養した線維芽細胞の弾性線維を示す図である。
図3】被験物質添加時の弾性線維を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明で使用するホーリーバジル(Ocimum sanctum、L.Ocimum tenuiflorum、Ocimum album)はカミメボウキとも呼ばれるシソ科メボウキ属の植物である。使用する部位は特に限定されず、例えば、全草や種子、茎、葉、花を用いることができる。
【0017】
ここでホーリーバジル抽出物を得る方法としては公知の方法が利用できる。ホーリーバジル抽出物の調製は特に限定されないが、例えば種々の適当な有機溶媒を用いて低温下から加温下で抽出される。抽出溶媒としては、例えば、水;メチルアルコール、エチルアルコール等の低級1価アルコール;グリセリン、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール等の液状多価アルコール;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン;酢酸エチルなどのアルキルエステル;ベンゼン、ヘキサン等の炭化水素;ジエチルエーテル等のエーテル類;ジクロルメタン、クロロホルム等のハロゲン化アルカン等の1種又は2種以上を用いることが出来る。就中、水、エチルアルコール、1,3-ブチレングリコールの1種又は2種以上の混合溶媒が特に好適である。更には、水が特に好適である。
【0018】
本発明に用いることのできるホーリーバジル抽出物の抽出方法は特に限定されない。例えばホーリーバジルの任意の部位をそのまま、又は予め裁断して小片状で抽出するほか、乾燥後粉砕して粉末状にしてから抽出することができる。更には例えば乾燥したものであれば重量比で1~1000倍量、特に10~100倍量の溶媒を用い、常温抽出の場合には、0℃以上、特に20℃~40℃で1時間以上、特に3~7日間行うのが好ましい。また、60~100℃で1時間、加熱抽出しても良い。また、10℃以下の抽出溶媒が凍結しない程度の温度で、1時間以上、特に1~7日間抽出を行なっても良い。
【0019】
上記の如く得られたホーリーバジル抽出物は、抽出されたままの状態でも用いてもよいが、更に必要に応じて活性炭、活性白土、スチレン-ジビニルベンゼン系合成吸着剤(HP-20:三菱化成社製)やオクタデシルシラン処理シリカ(Chromatorex ODS:富士シリシア化学製)等により精製することができ、濃縮、粉末化したものを適宜使い分けて用いることが出来る。
【0020】
本発明の剤は、例えば、医薬品、医薬部外品又は健康用飲食品等の用途で内服剤又は飲食品として使用することができ、ヒトや動物に摂取させることができる。また、医薬品、医薬部外品又は化粧料等の用途で皮膚外用剤として使用することができ、ヒトや動物に適用することができる。その形態は制限されず、錠剤やカプセル、顆粒、粉末等の固形状態のほか、水剤、ペースト状、ゲル状等の液体状態に成型にして用いることができる。
【0021】
本発明の各剤を内服剤又は飲食品として使用する場合のホーリーバジル抽出物の配合量は、年齢や性別、病状等の個人差により変化するので明確に定義することはできないが、一般にヒトに投与又は摂取させる場合の1日の分量は体重1kgあたり0.01~100mg、好ましくは0.1~50mgである。内服剤又は飲食品として使用するホーリーバジル抽出物の乾燥重量がこの程度になるよう、1日1~3回に分けて投与又は摂取することができる。
【0022】
本発明の各剤を皮膚外用剤として使用する場合のホーリーバジル抽出物の配合量は目的に応じ、乾燥重量に換算して組成物中0.0001重量%~100重量%を任意に使用することができる。好ましい配合量としては、0.01重量%~10重量%、更に好ましい配合量としては、0.05重量%~5重量%である。
【0023】
本発明の各剤は、本発明の効果を損なわない範囲で、その他成分を併用することができる。
【0024】
HIF-1の活性化は、HIF-1活性が亢進した状態すなわちHIF-1により転写される下流遺伝子が転写活性化された状態を指すが、下流遺伝子の転写活性化は細胞内HIF-1αタンパク質発現量の増加により引き起こされるため、例えば、細胞内でプロテアソーム依存的なHIF-1αタンパク質の分解が阻害されHIF-1αタンパク質発現量が増加した状態が含まれる。HIF-1により転写活性化する遺伝子にはVEGFやEPOなどが知られ、造血・血管新生により組織への酸素供給量を改善する。その他、嫌気的解糖系関連の遺伝子の発現を調節し、代謝リプログラミングによるエネルギー産生を調節する。従って、HIF-1の活性化は虚血性疾患や慢性腎臓病、腎性貧血等の治療に有用であることが知られている。本発明は、細胞のHIF-1活性を亢進することで、上記のような疾患の改善を可能とする。
【0025】
本発明のHIF-1活性化剤は、HIF-1活性を亢進しHIF-1下流遺伝子を転写活性化させることができる剤を指す。HIF-1活性の測定は公知の方法を用いればよく、細胞内でのHIF-1αタンパク質量の増加を測定する、HIF-1下流遺伝子の転写活性化を測定するほか、特に限定されない。例えば、特異的抗体を用いて放射免疫測定(Radioimmunoassy)法やELISA法、ウエスタンブロッティング法、免疫染色法、質量分析法等の常法にてHIF-1αタンパク量を測定するほか、ルシフェラーゼレポーターアッセイやPCR法等の常法にてHIF-1下流遺伝子の転写活性を測定し、評価することができる。
【0026】
また本発明の剤を適用することによって、線維芽細胞のエラスチン、フィブリリン、ファイブリン(Fibulin)、リシルオキシダーゼの発現を増加させることができる。これらは弾性線維の形成に重要であり、本発明は上記の発現量を増加させることで弾性線維の形成を促進することができる。上記の発現量の増加の測定は、特に限定されないが公知の方法を用いればよく、タンパク質量の増加や遺伝子発現量の増加を指標に測定することができる。例えば、特異的抗体を用いて放射免疫測定(Radioimmunoassy)法やELISA法、ウエスタンブロッティング法、免疫染色法、質量分析法、PCR法等の常法にてタンパク質量や遺伝子発現量を測定し、評価することができる。
【実施例0027】
以下、本発明を実施例について具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。また、特記しない限り%表記は体積%(v/v)を示す。また、特記しない限りエタノールは試薬特級(99.5%)を用いた。
【0028】
<実験1>
以下の手順で、低酸素条件下におけるHIF-1活性を測定した。
<HIF-1活性の測定>
ヒト真皮線維芽細胞を、牛胎児血清(Wako社)10%を加えたダルベッコMEM(D-MEM)培地(Gibco社)に懸濁し、5×10cells/mLになるように細胞懸濁液を調製し96well-plate(TrueLine社)に100μLずつ播種した。37℃、5%CO/95%空気の加湿条件で4日間培養後、低酸素条件下培養サンプルはアネロパックケンキ5%(三菱化学社)及び酸素濃度計(スギヤマゲン社)とともにガスバリアパウチ袋に封入し、0.1%酸素濃度になるよう調整して37℃、5%CO/95%空気の加湿条件で1日間培養した。通常酸素条件下培養サンプルは、ガスバリアパウチ袋には入れずに37℃、5%CO/95%空気の加湿条件で1日間培養した。各wellの培地を除去し、Phosphate buffered saline(PBS)に溶解した4%(w/v)パラフォルムアルデヒド(Wako社)を添加し室温で20分間静置して固定処理を行った。PBSで洗浄後、PBSに溶解した0.1%(w/w)TritonX-100(登録商標、MP Biomedicals社)を各wellに添加し、室温で10分間静置した。洗浄後、PBSに溶解した1%過酸化水素を各wellに添加し、室温で10分間静置した。洗浄後、1.25%(w/v)スキムミルク(Wako社)でブロッキングし、1%(w/v)スキムミルク溶液で250倍希釈した抗HIF-1α抗体(GeneTex社)を各wellに添加後、4℃で一晩反応させた。洗浄後、1%(w/v)スキムミルク溶液で800倍希釈したHorseradish peroxidase(HRP)標識抗ウサギ抗体(GE Healthcare社)を各wellに添加し、室温で1時間反応させた。洗浄後、各wellにTMB基質(Thermofisher Scientfic社)を100μLずつ添加し37℃で10分間インキュベート後、等量の2N硫酸を添加して蛍光プレートリーダー(TECAN社)にて450nmの吸光度(A)を測定した。溶液を除去し、各wellをPBSで溶解した0.1%(w/w)Tween-20(登録商標、ICI社)で3回洗浄、PBSで1回洗浄した後、プレートを風乾した。PBSに溶解した0.1%(w/v)クリスタルバイオレット(Wako社)溶液を各wellに50μLずつ添加し、室温で30分間染色した。各wellを流水洗浄、PBSで洗浄した後、PBSに溶解した1%(w/v)ドデシル硫酸ナトリウム(Wako社)を100μL添加し、室温で1時間振とうしてクリスタルバイオレットを溶解後、蛍光プレートリーダーにて595nmの吸光度(B)を測定した。数式1に従ってHIF-1活性を算出した。
【0029】
【数1】
【0030】
図1に示すように、線維芽細胞を低酸素条件下(0.1%酸素)で培養すると、通常酸素条件下(21%酸素)で培養した場合よりもHIF-1α量が増加しており、HIF-1活性化が生じていることが確認された。
【0031】
<実験2>
以下の手順で、低酸素条件下における弾性線維形成を評価した。
<弾性線維の検出>
ヒト真皮線維芽細胞を、牛胎児血清(Wako社)10%を加えたD-MEM培地(Gibco社)に懸濁し、5×10cells/mLになるように細胞懸濁液を調製し96well-plate(TrueLine社)に100μLずつ播種した。37℃、5%CO/95%空気の加湿条件で2日間培養後、低酸素条件下培養サンプルはアネロパックケンキ5%(三菱化学社)及び酸素濃度計(スギヤマゲン社)とともにガスバリアパウチ袋に封入し、0.1%酸素濃度になるよう調整した。3-4日に一度培地を交換しながら、37℃、5%CO/95%空気の加湿条件で20日間培養した。なお通常酸素条件下培養サンプルは、ガスバリアパウチ袋には入れずに37℃、5%CO/95%空気の加湿条件で20日間培養した。各wellの培地を除去しPBSで洗浄後、-20℃に冷却したアセトン/メタノール溶液(ともにWako社)を添加し透過処理を行った。PBSで洗浄後、PBSに溶解した3%(w/v)ウシ血清アルブミン(Wako社)を添加し室温で30分間ブロッキングを行った。洗浄後、1%(w/v)ウシ血清アルブミン溶液で50倍希釈した抗エラスチン抗体(SantaCruz社)を50μL添加し、室温で30分間反応させた。洗浄後、1%(w/v)ウシ血清アルブミン溶液で100倍希釈したAlexaFluor(登録商標)488標識抗マウス抗体(Abcam社)を50μL添加し、室温で30分間反応させた。洗浄後、PBSで1000倍希釈したDAPI Solution(Dojindo社)を添加し、蛍光顕微鏡(キーエンス社)にて蛍光像を観察した(10倍)。
【0032】
図2に示すように、線維芽細胞を低酸素条件下(0.1%酸素)で培養してHIF-1を活性化すると、通常酸素条件下(21%酸素)で培養した場合よりもエラスチン(緑)の蛍光量が増加した。さらに、低酸素条件下(0.1%酸素)で培養した場合、緑色の蛍光は線維状に連なっていたことから、HIF-1活性化は特に線維状エラスチンの形成すなわち弾性線維の形成を促進することが明らかとなった。
【0033】
<実験3>
以下の手順で、低酸素条件下における弾性線維形成関連成分の発現量を評価した。
<弾性線維形成関連成分の検出>
ヒト真皮線維芽細胞を、牛胎児血清(Wako社)10%を加えたD-MEM培地(Gibco社)に懸濁し、5×10cells/mLになるように細胞懸濁液を調製し24well-plate(TrueLine社)に500μLずつ播種した。低酸素条件下培養サンプルはアネロパックケンキ5%(三菱化学社)及び酸素濃度計(スギヤマゲン社)とともにガスバリアパウチ袋に封入し、0.1%酸素濃度になるよう調整して37℃、5%CO/95%空気の加湿条件で1日間培養した。通常酸素条件下培養サンプルは、ガスバリアパウチ袋には入れずに37℃、5%CO/95%空気の加湿条件で1日間培養した。各wellの培地を除去し、Total RNA Purification Kit(Jena Bioscience社)を用いて、Total RNAを抽出した。その後、PrimeScript RT Reagent Kit(TaKaRa社)を用いて逆転写を行い、cDNAを合成した。得られたcDNAを鋳型として、トロポエラスチン、フィブリリン-1、ファイブリン-4、リシルオキシダーゼ及びβアクチン(ハウスキーピング遺伝子として使用)の発現量を遺伝子特異的プライマー及びPower SYBR Green Master Mix(アプライドバイオシステムズ社)を用いて、リアルタイムPCR(7500 Real-Time PCR System、アプライドバイオシステムズ社)にて測定し、遺伝子発現の解析は比較Ct法にて行った。つまり、低酸素条件下培養時の遺伝子発現量の変化は、通常酸素条件培養群の各遺伝子のCt値をβアクチンのCt値で補正した値を1とし、それに対する相対量として求めた。
【0034】
表1に示すように、線維芽細胞を低酸素条件下(0.1%酸素)で培養してHIF-1を活性化すると、通常酸素条件下(21%酸素)で培養した場合よりも、弾性線維形成関連成分のトロポエラスチン(Tropoelastin)、フィブリリン-1(Fibrillin-1)、ファイブリン-4(Fibulin-4)、リシルオキシダーゼ(Lysyl oxidase)の遺伝子発現量が1.24~2.27倍に増加した。
【0035】
【表1】
【0036】
<実施例1>HIF-1活性化作用
以下の手順で、被験物質添加によるHIF-1活性を測定した。
<被験物質の調製>
乾燥植物原体に10倍の重量の蒸留水を加えて60℃、8時間加熱抽出した。抽出物の乾燥残分に対して、蒸留水を重量比で1:99となるように加えて希釈したものを被験物質とした。なお用いた植物原体は、シソ(シソ科シソ属)、セージ(シソ科アキギリ属)、ハッカ(シソ科ハッカ属)、タイム(シソ科イブキジャコウ属)、バジル(シソ科メボウキ属)、ホーリーバジル(シソ科メボウキ属)であり、用いた部位は各植物とも茎葉である。対照物質には、植物原体の溶解溶媒のみを用いた。
<HIF-1活性の測定>
ヒト真皮線維芽細胞を、牛胎児血清(Wako社)10%を加えたD-MEM培地(Gibco社)に懸濁し、5×10cells/mLになるように細胞懸濁液を調製し96well-plate(TrueLine社)に100μLずつ播種した。37℃、5%CO/95%空気の加湿条件で4日間培養後、各種被験物質若しくは対照物質を終濃度50ppm、又は陽性対照物質の塩化コバルト(Wako社)を終濃度100μMになるよう培地に添加し、37℃、5%CO/95%空気の加湿条件で1日間培養した。各wellの培地を除去し、PBSに溶解した4%(w/v)パラフォルムアルデヒド(Wako社)を添加し室温で20分間静置して固定処理を行った。PBSで洗浄後、PBSに溶解した0.1%(w/w)TritonX-100(登録商標、MP Biomedicals社)を各wellに添加し、室温で10分間静置した。洗浄後、PBSに溶解した1%過酸化水素を各wellに添加し、室温で10分間静置した。洗浄後、1.25%(w/v)スキムミルク(Wako社)でブロッキングし、1%(w/v)スキムミルク溶液で250倍希釈した抗HIF-1α抗体(GeneTex社)を各wellに添加後、4℃で一晩反応させた。洗浄後、1%(w/v)スキムミルク溶液で800倍希釈したHRP標識抗ウサギ抗体(GE Healthcare社)を各wellに添加し、室温で1時間反応させた。洗浄後、各wellにTMB基質(Thermofisher Scientfic社)を100μLずつ添加し37℃で10分間インキュベート後、等量の2N硫酸を添加して蛍光プレートリーダー(TECAN社)にて450nmの吸光度(A)を測定した。溶液を除去し、各wellをPBSで溶解した0.1%Tween-20(登録商標、ICI社)で3回洗浄、PBSで1回洗浄した後、プレートを風乾した。PBSに溶解した0.1%(w/v)クリスタルバイオレット(Wako社)溶液を各wellに50μLずつ添加し、室温で30分間染色した。各wellを流水洗浄、PBSで洗浄した後、PBSに溶解した1%(w/v)ドデシル硫酸ナトリウム(Wako社)を100μL添加し、室温で1時間振とうしてクリスタルバイオレットを溶解後、蛍光プレートリーダーにて595nmの吸光度(B)を測定した。数式2に従ってHIF-1活性を算出した。
【0037】
【数2】
【0038】
表2に示すように、線維芽細胞に陽性対照物質である塩化コバルト(CoCl)添加したところ、対照物質を添加したコントロールに対してHIF-1α量を1.42倍に程度増加させた。線維芽細胞にシソ科植物由来の各種被験物質を添加し培養したところ、ハッカ抽出物、バジル抽出物は対照物質を添加したコントロールに対してほとんどHIF-1α量を変化させなかったのに対し、シソ抽出物、セージ抽出物、タイム抽出物の添加は対照物質を添加したコントロールに対してHIF-1α量を1.10~1.15に増加させた。一方、ホーリーバジル抽出物はHIF-1α量を1.27倍にまで増加させており、ホールーバジル抽出物には特に高いHIF-1活性化作用があることが確認された。
【0039】
【表2】
【0040】
<実施例2>弾性線維の形成促進作用
以下の手順で、被験物質添加による弾性線維形成促進作用を評価した。
<被験物質の調製>
実施例1と同様に行った。
<弾性線維の検出>
ヒト真皮線維芽細胞を、牛胎児血清(Wako社)10%を加えたD-MEM培地(Gibco社)に懸濁し、5×10cells/mLになるように細胞懸濁液を調製し96well-plate(TrueLine社)に100μLずつ播種した。37℃、5%CO/95%空気の加湿条件で2日間培養後、各種被験物質又は対照物質を終濃度50ppmになるよう培地に添加した。3-4日に一度培地を交換しながら、37℃、5%CO/95%空気の加湿条件で20日間培養した。各wellの培地を除去しPBSで洗浄後、-20℃に冷却したアセトン/メタノール溶液(ともにWako社)を添加し2分間透過処理を行った。PBSで洗浄後、PBSに溶解した3%(w/v)ウシ血清アルブミン(Wako社)を添加し室温で30分間ブロッキングを行った。洗浄後、1%(w/v)ウシ血清アルブミン溶液で50倍希釈した抗エラスチン抗体(SantaCruz社)を50μL添加し、室温で30分間反応させた。洗浄後、1%(w/v)ウシ血清アルブミン溶液で100倍希釈したAlexaFluor(登録商標)488標識抗マウス抗体(Abcam社)を50μL添加し、室温で30分間反応させた。洗浄後、PBSで1000倍希釈したDAPI Solution(Dojindo社)を添加し、蛍光顕微鏡(キーエンス社)にて蛍光像を観察した(10倍)。
【0041】
図3に示すように、対照物質を添加したコントロール(Control)に対して、各種被験物質を添加すると緑色の蛍光量が増加しエラスチンが増加していることが明らかになった。しかしながら、シソ抽出物、セージ抽出物、ハッカ抽出物、タイム抽出物、バジル抽出物の添加では緑色の蛍光は点在しており、線維状の形状をほぼ成していなかった。対して、ホーリーバジル抽出物を添加した場合は、線維状に連なった緑色の蛍光が大幅に増加していることが分かり、ホーリーバジル抽出物は特に線維状エラスチンの形成すなわち弾性線維の形成を促進する作用があることが明らかとなった。
【0042】
<実施例3>弾性線維形成関連成分増加作用
以下の手順で、ホーリーバジル抽出物添加による弾性線維形成関連成分増加作用を評価した。
<被験物質の調製>
実施例1と同様に行った。
<弾性線維形成関連成分の検出>
ヒト真皮線維芽細胞を、牛胎児血清(Wako社)10%を加えたD-MEM培地(Gibco社)に懸濁し、5×10cells/mLになるように細胞懸濁液を調製し24well-plate(TrueLine社)に500μLずつ播種した。37℃、5%CO/95%空気の加湿条件で6日間培養し、ハッカ抽出物、バジル抽出物、ホーリーバジル抽出物又は対照物質を終濃度50ppmになるよう培地に添加した。37℃、5%CO/95%空気の加湿条件で1日間培養後、Total RNA Purification Kit(Jena Bioscience社)を用いて、Total RNAを抽出した。その後、PrimeScript RT Reagent Kit(TaKaRa社)を用いて逆転写を行い、cDNAを合成した。得られたcDNAを鋳型として、トロポエラスチン、フィブリリン-1、ファイブリン-4、リシルオキシダーゼ及びβアクチン(ハウスキーピング遺伝子として使用)の発現量を遺伝子特異的プライマー及びPower SYBR Green Master Mix(アプライドバイオシステムズ社)を用いて、リアルタイムPCR(7500 Real-Time PCR System、アプライドバイオシステムズ社)にて測定し、遺伝子発現の解析は比較Ct法にて行った。つまり、被験物質添加による各遺伝子発現量の変化は、対照物質添加群の各遺伝子のCt値をβアクチンのCt値で補正した値を1とし、それに対する相対量として求めた。
【0043】
表3に示すように、対照物質を添加したコントロール(Control)に対して、ハッカ抽出物を添加した線維芽細胞ではトロポエラスチン(Tropoelastin)、フィブリリン-1(Fibrillin-1)、ファイブリン-4(Fibulin-4)、リシルオキシダーゼ(Lysyl oxidase)の遺伝子発現量はほとんど変化していなかった。バジル抽出物を添加した線維芽細胞では、トロポエラスチンの遺伝子発現量のみが1.69倍に増加したのに対し、その他のフィブリリン-1、ファイブリン-4、リシルオキシダーゼの遺伝子発現量はほぼ変化しなかった。その一方で、ホーリーバジル抽出物を添加した線維芽細胞では、トロポエラスチンの遺伝子発現量が2.34倍、フィブリリン-1、ファイブリン-4、リシルオキシダーゼの遺伝子発現量が1.26~1.45倍に増加した。
【0044】
【表3】
【0045】
すなわち、図3及び表3の結果から、バジル抽出物のようにトロポエラスチンの遺伝子発現量を増加させるだけでは弾性線維が形成されず、ホーリーバジル抽出物のようにトロポエラスチン遺伝子発現量及びその他の弾性線維形成関連成分(フィブリリン、ファイブリン、リシルオキシダーゼ)の遺伝子発現量を増加させなければ、弾性線維は形成されないことが示唆された。そのため、ホーリーバジル抽出物はHIF-1を活性化させることでこれら弾性線維形成関連成分の発現量を増加させ、弾性線維の形成を促進する作用があることが明らかとなった。
【0046】
以下、本発明における各剤の処方例を示す。なお、含有量は重量%である。製法は、常法による。なお、処方は代表例であり、これに限定されない。また、処方例中のホーリーバジル抽出物の濃度は乾燥残分としての濃度である。
【0047】
【0048】
【0049】
【0050】
【0051】
【0052】
本発明によれば、ホーリーバジル抽出物を用いることで、HIF-1を活性化することができ、低酸素環境が関与する虚血性疾患や慢性腎臓病、腎性貧血等の各種疾患を改善することができる。更には、HIF-1活性化によって弾性線維形成を促進させることができ、加齢に伴う弾力・ハリの低下やシワ・タルミ形成等の変化を改善することができる。


















図1
図2
図3