(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022152424
(43)【公開日】2022-10-12
(54)【発明の名称】R-T-B系永久磁石、および、その製造方法。
(51)【国際特許分類】
H01F 41/02 20060101AFI20221004BHJP
H01F 1/057 20060101ALI20221004BHJP
C22C 38/00 20060101ALI20221004BHJP
C22C 28/00 20060101ALI20221004BHJP
B22F 3/00 20210101ALI20221004BHJP
C22C 33/02 20060101ALI20221004BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20221004BHJP
B22F 3/24 20060101ALI20221004BHJP
【FI】
H01F41/02 G
H01F1/057 170
C22C38/00 303D
C22C28/00 A
B22F3/00 F
C22C33/02 K
B22F1/00 Y
B22F3/24 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021055196
(22)【出願日】2021-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】藤川 佳則
(72)【発明者】
【氏名】粉川 育也
【テーマコード(参考)】
4K018
5E040
5E062
【Fターム(参考)】
4K018AA27
4K018BA18
4K018BA20
4K018BB04
4K018BD01
4K018CA02
4K018CA04
4K018CA11
4K018DA17
4K018FA06
4K018FA08
4K018KA45
5E040AA04
5E040BD01
5E040CA01
5E062CC03
5E062CD04
5E062CG02
(57)【要約】 (修正有)
【課題】高い残留磁束密度と高い保磁力とを兼ね備えるR-T-B系永久磁石及び当該R-T-B系永久磁石を重希土類元素の使用量を抑制したうえで製造する方法を提供する。
【解決手段】R-T-B系永久磁石の製造方法は、R-T-B系合金を含む磁石基材20を準備する工程と、少なくとも1種のRHを含む第1拡散材11のシート11aを、磁石基材20における第1表面の少なくとも一部に付着させる工程と、少なくとも1種のRLを含む第2拡散材12のシート12aを、磁石基材20における第2表面の少なくとも一部に付着させる工程と、磁石基材20を加熱してRHおよびRLを磁石基材20の内部に拡散させる工程と、を有する。磁石基材20において、第1表面(主面20a)と第2表面(側面20b)とは交差して角部を形成している。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
R-T-B系合金を含む磁石基材を準備する工程と、
少なくとも1種の重希土類元素を含む第1拡散材を、前記磁石基材における第1表面の少なくとも一部に付着させる工程と、
少なくとも1種の軽希土類元素を含む第2拡散材を、前記磁石基材における第2表面の少なくとも一部に付着させる工程と、
前記磁石基材を加熱して、前記重希土類元素および前記軽希土類元素を前記磁石基材の内部に拡散させる工程と、を有し、
前記磁石基材において、前記第1表面と前記第2表面とが交差して角部を形成しているR-T-B系永久磁石の製造方法。
【請求項2】
前記第1拡散材の付着箇所と、前記第2拡散材の付着箇所とが、前記第1表面と前記第2表面とが交差する前記角部において近接している請求項1に記載のR-T-B系永久磁石の製造方法。
【請求項3】
前記第2拡散材は、前記軽希土類元素を含有するRL-M合金を含み、
前記RL-M合金において、
RLが、前記軽希土類元素であり、
Mが、RLとの共晶温度が800℃以下となる元素である請求項1または2に記載のR-T-B系永久磁石の製造方法。
【請求項4】
前記第2拡散材は、前記軽希土類元素として、NdおよびPrからなる群から選択される1種以上の元素を含み
前記第2拡散材には、重希土類元素が実質的に含有されていない請求項1~3のいずれかに記載のR-T-B系永久磁石の製造方法。
【請求項5】
前記第1拡散材は、前記重希土類元素として、TbおよびDyからなる群から選択される1種以上の元素を含む請求項1~4のいずれかに記載のR-T-B系永久磁石の製造方法。
【請求項6】
前記第1面が磁極面である請求項1~5のいずれかに記載のR-T-B系永久磁石の製造方法。
【請求項7】
RがNdを必須とする1種以上の軽希土類元素および1種以上の重希土類元素であり、TがFeを必須とする1種以上の鉄族元素であり、Bがホウ素であるR-T-B系永久磁石であって、
前記R-T-B系永久磁石は、第1表面と第2表面とが交差する角部を有し、
前記重希土類元素の含有率が、前記R-T-B系永久磁石の前記第1表面から内部中央側に向かって連続的に低下しており、
前記軽希土類元素の含有率が、前記R-T-B系永久磁石の前記第2表面から内部中央側に向かって連続的に低下しているR-T-B系永久磁石。
【請求項8】
前記軽希土類元素との共晶温度が800℃以下となるM元素が含まれ、
前記M元素の含有率が、前記第2表面から内部中央側に向かって連続的に低下している請求項7に記載のR-T-B系永久磁石。
【請求項9】
前記第1表面が磁極面である請求項7または8に記載のR-T-B系永久磁石。
【請求項10】
前記第2表面における前記重希土類元素の含有率が、前記第1表面における前記重希土類元素の含有率よりも低い請求項7~9のいずれかに記載のR-T-B系永久磁石。
【請求項11】
請求項7~10のいずれかに記載のR-T-B系永久磁石を有するモータ。
【請求項12】
請求項11に記載のモータを有する自動車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒界拡散工程を経てR-T-B系永久磁石を製造する方法、および、当該方法で製造されたR-T-B系永久磁石に関する。
【背景技術】
【0002】
R-T-B系の組成を有する希土類磁石(R-T-B系永久磁石)は、他の永久磁石よりも優れた磁気特性を有している。R-T-B系永久磁石の磁気特性を表す指標としては、一般的に、残留磁束密度Brおよび保磁力HcJが用いられ、近年、これら磁気特性のさらなる向上を目指して様々な検討がなされている。
【0003】
たとえば、特許文献1では、IPM回転機において、固定子側角部(磁石角部)で高いHcJを有する永久磁石を用いることが有効であることを述べている。そのうえで、特許文献1では、磁石角部を構成する複数の面から重希土類元素を拡散させ、磁石角部に重希土類元素を濃化させることで、磁石角部におけるHcJの向上を図っている。
【0004】
ただし、特許文献1の製法では、磁石角部を構成する複数の面に重希土類元素を塗布しているため、生産過程において重希土類元素の消費量が多くなる。近年では、R-T-B系永久磁石の大量生産、大量使用に伴い、希土類元素の希少性がますます高まっており、特に重希土類元素の使用料の削減が重要視されている。そのため、製造過程で重希土類元素の使用量を抑制したうえで、高い残留磁束密度と高い保磁力とを兼ね備えるR-T-B系永久磁石を提供することが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記の実情を鑑みてなされ、その目的は、高い残留磁束密度と高い保磁力とを兼ね備えるR-T-B系永久磁石、および、当該R-T-B系永久磁石を重希土類元素の使用量を抑制したうえで製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、本発明に係るR-T-B系永久磁石の製造方法は、
R-T-B系合金を含む磁石基材を準備する工程と、
少なくとも1種の重希土類元素を含む第1拡散材を、前記磁石基材における第1表面の少なくとも一部に付着させる工程と、
少なくとも1種の軽希土類元素を含む第2拡散材を、前記磁石基材における第2表面の少なくとも一部に付着させる工程と、
前記磁石基材を加熱して、前記重希土類元素および前記軽希土類元素を前記磁石基材の内部に拡散させる工程(拡散工程)と、を有し、
前記磁石基材において、前記第1表面と前記第2表面とが交差して角部を形成している。
【0008】
本発明者等は、鋭意検討した結果、重希土類元素(RH)を付着させた第1表面と隣接する第2表面に対して、軽希土類元素(RL)を付着させて粒界拡散させることで、重希土類元素の使用量を抑えつつも、高い残留磁束密度Brと高い保磁力HcJとを兼ね備えるR-T-B系永久磁石が得られることを見出した。また、上記の製造方法では、第1表面と第2表面の両方からRHを拡散させる場合に比べて、製造過程におけるRHの使用量を削減できる。
【0009】
好ましくは、前記第1拡散材の付着箇所と、前記第2拡散材の付着箇所とが、前記第1表面と前記第2表面とが交差する前記角部において近接している。
【0010】
好ましくは、前記第2拡散材は、前記軽希土類元素を含有するRL-M合金を含み、前記RL-M合金において、RLが、前記軽希土類元素であり、Mが、RLとの共晶温度が800℃以下となる元素である。
【0011】
また、好ましくは、前記第2拡散材は、前記軽希土類元素として、NdおよびPrからなる群から選択される1種以上の元素を含み、前記第2拡散材には、重希土類元素が実質的に含有されていない。
【0012】
一方、前記第1拡散材については、好ましくは、前記重希土類元素として、TbおよびDyからなる群から選択される1種以上の元素を含む。
【0013】
また、好ましくは、前記第1面が磁極面である。当該要件を満たす場合、反磁界が大きくなりやすい磁極面の端部(磁石角部)において、高いBrを確保しつつHcJをさらに向上させることができる。
【0014】
本発明に係るR-T-B系永久磁石は、たとえば、上述した製造方法でえることができ、
RがNdを必須とする1種以上の軽希土類元素および1種以上の重希土類元素であり、TがFeを必須とする1種以上の鉄族元素であり、Bがホウ素であるR-T-B系永久磁石であって、
前記R-T-B系永久磁石は、第1表面と第2表面とが交差する角部を有し、
前記重希土類元素の含有率が、前記R-T-B系永久磁石の前記第1表面から内部中央側に向かって連続的に低下しており、
前記軽希土類元素の含有率が、前記R-T-B系永久磁石の前記第2表面から内部中央側に向かって連続的に低下している。
【0015】
R-T-B系永久磁石が上記の特徴を有することで、BrおよびHcJを両立して向上させることができ、特に角部近傍において、高いBrを維持しつつHcJを向上させることができる。
【0016】
また、本発明のR-T-B系永久磁石には、好ましくは、前記軽希土類元素との共晶温度が800℃以下となるM元素が含まれ、
前記第2表面から内部中央側に向かって、前記M元素の含有率が低下する濃度分布を有する。
【0017】
また、前記第1表面が磁極面であり、前記第2表面が磁極面と交差する面である。本発明のR-T-B系永久磁石が当該要件を満たす場合、反磁界が大きくなりやすい磁極面の端部(磁石角部)において、高いBrを確保しつつHcJをさらに向上させることができる。
【0018】
また、好ましくは、前記第2表面における前記重希土類元素の含有率が、前記第1表面における前記重希土類元素の含有率よりも低い。
【0019】
本発明のR-T-B系永久磁石は、モータ、発電機、コンプレッサ、アクチュエータ、磁気センサ、スピーカなどの構成部材として利用することができ、特にモータの構成部材として好適である。また、本発明のR-T-B系永久磁石を含むモータは、様々な電子機器や産業機器等に搭載することができ、特に自動車用モータ(EV,HV,PHVなど)としての利用が好適である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は、磁石基材の一例を示す斜視図である。
【
図2】
図2は、拡散工程の流れを概略的に示す模式図である。
【
図3A】
図3Aは、磁石基材の断面を拡大して示す断面模式図である。
【
図3B】
図3Bは、拡散工程後のR-T-B系永久磁石の断面を拡大して示す断面模式図である。
【
図4A】
図4Aは、R-T-B系永久磁石の一例と、サンプルの採取方法とを示す斜視図である。
【
図4B】
図4Bは、R-T-B系永久磁石の一例と、サンプルの採取方法とを示す斜視図である。
【
図6】
図6は、コアシェル粒子の断面を示す概略図である。
【
図7】
図7は、実施例(試料1)に係るR-T-B系永久磁石のSEM断面写真である。
【
図8】
図8は、比較例2に係るR-T-B系永久磁石のSEM断面写真である。
【
図10】
図10は、本発明のR-T-B系永久磁石を利用したIPMモータの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を、図面に示す実施形態に基づき詳細に説明する。
【0022】
本実施形態では、まず、R-T-B系永久磁石の製造方法について説明し、その後、当該製造方法で得られたR-T-B系永久磁石の特徴について説明する。本実施形態のR-T-B系永久磁石は、磁石基材を準備する工程と、重希土類元素(RH)および軽希土類元素(RL)を所定の方法で磁石基材の内部に拡散させる工程(粒界拡散工程)と、を有する。以下、各工程について、順を追って説明する。
【0023】
(磁石基材の準備工程)
本工程では、
図1に示す磁石基材20を製造する。まず、磁石基材20の特徴について詳述する。磁石基材20は、R-T-B系合金の焼結体であり、後述する拡散工程を実施する前の素材である。
図1において、当該磁石基材20は、Z軸と垂直な2つの主面20aと、X軸またはY軸と垂直な4つの側面20bとを有する直方体である。ただし、磁石基材20の形状は特に限定されず、たとえば、多角形状、円筒状、中空円筒状、もしくは、主面が円弧状に湾曲したアークセグメント形状であってもよい。なお、本実施形態および図面において、X軸、Y軸、およびZ軸は、相互に略垂直であり、「内側」は、磁石基材20または永久磁石2の中心により近い側を意味し、「外側」は、磁石基材20または永久磁石2の中心からより離れた側を意味する。
【0024】
本実施形態では、磁石基材20の2つの主面20aを磁極面にする。磁極面とは、磁束が主として通過する面であって、永久磁石における正極(N極)または負極(S極)である。製造するR-T-B系永久磁石を異方性磁石とする場合、磁極面は、後述する成形工程で印可する磁場の向きにより決定することができる。なお、磁石基材20のいずれの面を磁極面とするかは、特に限定されず、いずれかの側面20bを磁極面としてもよい。
【0025】
磁石基材20を構成するR-T-B系合金において、Rは、Nd(ネオジウム)を必須とする1種以上の希土類元素であり、Tは、Fe(鉄)を必須とする1種以上の鉄族元素であり、Bはホウ素である。ここで、希土類元素とは、長周期型周期表の第3族に属するScとYとランタノイド元素を意味し、希土類元素のうち、Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Luを重希土類元素(RH)と称し、RH以外の希土類元素を軽希土類元素(RL)と称する。また、鉄族元素とは、Fe,Co,およびNiを指す。
【0026】
磁石基材20に含まれるRの合計含有率は、25質量%~35質量%とすることができ、27.5質量%以上、30.8質量%以下とすることが好ましい。Rの合計含有率が上記の組成範囲を満たすことで、軟磁性を示すα-Feなどの析出が抑制され、R2T14B結晶がより生成されやすくなる。ここで、本実施形態において、「磁石基材20に含まれる所定元素の含有率」とは、磁石基材20の単位質量あたりの含有率であって、磁石基材100質量%に対する所定元素の比率を意味する。すなわち、上記のRの合計含有率は、磁石基材100質量%に対する希土類元素の合計質量の比として算出する。なお、後述する永久磁石2における所定元素の含有率も、上記と同様の方法で表記することとする。
【0027】
Rとして複数の希土類元素が含まれる場合、磁石基材20に含まれるNdの含有率は、特に限定されないが、22質量%以上とすることが好ましい。また、この場合、Nd以外の希土類元素として、Pr,Tb,Dyが磁石基材20に含まれることが好ましい。Nd以外のRとして、TbやDyなどの重希土類元素(RH)を添加する場合には、磁石基材20に含まれるRHの合計含有率は、2.5質量%以下であることが好ましい。
【0028】
磁石基材20に含まれるBの含有率は、0.5質量%~1.5質量%とすることができ、0.92質量%~1.03質量%とすることが好ましい。
【0029】
一方、磁石基材20に含まれるTの含有率については、残部として表記され、他の元素の含有率に応じて適宜決定すればよい。Tは、Fe単独であってもよく、Feの一部がCoで置換されていてもよい。この場合、Coの含有率は、特に限定されず、たとえば、4質量%以下とすることができ、1質量%以下とすることが好ましい。
【0030】
また、磁石基材20には、上述したR,T,B以外に、Cu,Ga,Al,Zrからなる群から選択される1種以上のm元素が含まれていることが好ましい。m元素としては、上記のなかでも特にCuが含まれていることがより好ましい。
【0031】
磁石基材20に含まれるCuの含有率は、0.05質量%以上、0.50質量%以下であることが好ましい。また、m元素としてGa,Al,Zrが含まれる場合、これら元素の含有率は、特に限定されず、たとえば、Gaの含有率は0.08質量%以上0.30質量%以下、Alの含有率は0.10質量%以上0.30質量%以下、Zrの含有率は0.10質量%以上0.30質量%以下とすることが好ましい。
【0032】
また、磁石基材20には、炭素(C)、窒素(N)、酸素(O)も含まれ得る。磁石基材20における炭素の含有率は、1100質量ppm以下であることが好ましく、900質量ppm以下であることがより好ましい。磁石基材20における窒素の含有率は、1000質量ppm以下であることが好ましく、600質量ppm以下であることがより好ましい。磁石基材20における酸素の含有率は、1200ppm以下であることが好ましく、800ppm以下であることがより好ましい。
【0033】
さらに、磁石基材20には、上述した元素の他に、Mn,Ca,Cl,S,Fなどの不可避不純物が含まれていてもよく、不可避不純物の合計含有率は、たとえば、0.001質量%~1.0質量%程度である。
【0034】
なお、磁石基材20の組成は、従来から一般的に知られている方法により分析することができる。たとえば、R,T,Bなどの各種元素の含有率については、蛍光X線分析(XRF)または誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP)などにより測定できる。また、たとえば、酸素の含有率は、不活性ガス融解-非分散型赤外線吸収法により測定でき、炭素の含有率は、酸素気流中燃焼-赤外線吸収法により測定でき、窒素の含有率は、不活性ガス融解-熱伝導度法により測定できる。
【0035】
図3Aに示すように、磁石基材20は、R
2T
14B結晶からなる主相粒子4と、当該主相粒子4の間に位置する粒界6と、を含み、その他、磁気特性を害さない程度に副相が存在していてもよい。
【0036】
主相粒子4の平均粒径は、特に限定されず、たとえば、円相当径換算で、1.0μm~10μmとすることができ、2.5μm~6.0μmとすることが好ましい。なお、主相粒子4の平均粒径は、各種電子顕微鏡(SEM,STEM、TEM)で
図3Aに示すような磁石基材20の断面を観察し、当該断面に含まれる少なくとも20個の主相粒子4の円相当径を計測することで測定できる。
【0037】
なお、主相粒子4を構成しているR2T14B結晶では、鉄族元素であるTの一部が、m元素などの遷移金属元素で置換されていてもよい。
【0038】
粒界6としては、隣り合う2つの主相粒子4の間に位置する二粒子粒界6aと、3つ以上の主相粒子4に囲まれた粒界多重点6bと、が存在する。また、粒界6は、主相粒子4以外のその他の相(すなわちR2T14B結晶相以外の相)で構成してあり、粒界6を構成する相の種類や割合は、特に限定されない。粒界6を構成するその他の相としては、たとえば、Rの濃度が主相粒子4よりも高い相(Rリッチ層)、T(鉄族元素)やGaなどの遷移金属元素の濃度が高い相、希土類元素の酸化物層、R-O-C相などが挙げられる。
【0039】
上述した特徴を有する磁石基材20は、原料合金の製造工程と、原料合金を粉砕する工程(粉砕工程)と、原料合金粉末を成形する工程(成形工程)と、成形体を焼結する工程(焼結工程)と、を経て製造することができる。
【0040】
まず、上述したR-T-B系合金の組成に対応する原料金属を準備し、真空またはArガスなどの不活性ガス雰囲気中で準備した原料金属を溶解する。その後、溶解した原料金属を鋳造することによって、原料合金を得る。
【0041】
この際、原料金属の種類には特に制限はなく、たとえば、希土類金属あるいは希土類合金、純鉄、純コバルト、フェロボロン、さらにはこれらの合金や化合物等を使用することができる。また、原料金属を鋳造する方法についても、特に制限はなく、たとえば、インゴット鋳造法、ストリップキャスト法、ブックモールド法、もしくは、遠心鋳造法などが挙げられる。また、鋳造後の原料合金は、凝固偏析がある場合は必要に応じて均質化処理(溶体化処理)を行ってもよい。
【0042】
次に、上記工程で得られた原料合金を粉砕する。なお、粉砕工程から焼結工程までの各工程の雰囲気は、高い磁気特性を得る観点から、低酸素濃度の雰囲気とすることが好ましい。低酸素濃度の雰囲気とは、たとえば、酸素の濃度が200ppm以下の雰囲気である。各工程の酸素濃度を制御することで、磁石基材20や最終的に得られる永久磁石2に含まれる酸素量を制御することができる。
【0043】
粉砕工程は、粗粉砕と、微粉砕の2段階で実施する。ただし、微粉砕工程のみの1段階で原料合金を粉砕してもよい。
【0044】
粗粉砕工程では、粒径が数百μm~数mm程度になるまで粗粉砕し、粗粉砕粉末を得る。粗粉砕の方法は、特に限定されず、たとえば、水素吸蔵粉砕を行う方法や粗粉砕機を用いる方法などを採用することができる。水素吸蔵粉砕を行う場合、脱水素処理時の雰囲気中窒素ガス濃度の制御を行うことで、磁石基材20や最終的に得られる永久磁石2に含まれる窒素量を制御することができる。
【0045】
次に、得られた粗粉砕粉末を平均粒子径が数μm程度になるまで微粉砕し、微粉砕粉末(原料合金粉末)を得る。前記微粉砕粉末の平均粒径は、特に限定されないが、たとえば、1μm以上10μm以下とすることができ、2μm以上6μm以下とすることが好ましい。微粉砕工程において、雰囲気中窒素ガス濃度の制御を行うことで、磁石基材20や最終的に得られる永久磁石2に含まれる窒素量を制御することができる。
【0046】
微粉砕の方法は、特に限定されず、各種微粉砕機を用いることができる。また、微粉砕の際には、粉砕助剤を添加することが好ましく、粉砕助剤としては、ラウリン酸アミド、オレイン酸アミド等が挙げられる。粉砕助剤を使用することで、成形時に配向性の高い微粉砕粉末を得ることができる。なお、粉砕助剤の添加量を変化させることにより、磁石基材20や最終的に得られる永久磁石2に含まれる炭素量を制御することができる。
【0047】
なお、上記の工程(原料合金の準備工程~粉砕工程)では、1合金法で原料合金粉末を得たが、第1合金と第2合金との2合金を混合して原料合金粉末を作製する2合金法を採用してもよい。
【0048】
次に、得られた原料合金粉末を、所定の形状に成形する。成形の方法は、特に限定されず、乾式成形であっても湿式成形であってもよい。本実施形態では、原料合金粉末を金型内に充填し、磁場中において加圧する(乾式成形)。
【0049】
成形時の圧力は、たとえば、20MPa~300MPaとすることができ、印加する磁場は、950kA/m~1600kA/mとすることができる。印加する磁場は静磁場に制限されず、パルス状磁場とすることもでき、静磁場とパルス状磁場を併用することもできる。なお、湿式成形を採用する場合は、原料合金粉末を油等の溶媒に分散させスラリーとし、当該スラリーを用いて、上記と同様の方法でプレス成形すればよい。
【0050】
次に、上記の成形体を、真空または不活性ガス中で焼結し、焼結体を得る。焼結の条件は、組成、粉砕方法、原料合金粉末の粒度など、諸条件に応じて適宜決定すればよい。たとえば、成形体を、真空中または不活性ガス中において、1000℃~1200℃の温度で、1時間~10時間保持することで、成形体を焼結できる。
【0051】
また、焼結工程の後には、必要に応じて、焼結体に脱炭素処理を施してもよい。脱炭素処理の方法は、特に限定されず公知の方法を採用すればよい。たとえば、焼結体に所定の金属Sを付着させて熱処理することで焼結体中の炭素含有量を低減できる。上記において、所定の金属Sとは、金属から金属炭化物を生成するための標準生成ギブスエネルギーが、焼結体中の希土類元素(特にNd)よりも低い金属である。当該金属Sを焼結体に付着させて熱処理することで、焼結体中の炭素が金属Sと反応して炭化物となる。なお、付着させた金属Sは、焼結体中にはほとんど侵入せずに焼結体表面に留まる。上記のように脱炭素処理を実施することで、磁石基材20や最終的に得られる永久磁石2に含まれる炭素量を低減することができる。
【0052】
さらに、焼結体には、必要に応じて、切断や研削などの形状加工や、バレル研磨などの面取り加工などを施してもよい。これらの加工は、後述する拡散工程の前に実施する。
【0053】
上記の方法により、
図1および
図3Aに示す磁石基材20が得られる。
【0054】
(粒界拡散工程)
続いて、粒界拡散工程について説明する。本実施形態において粒界拡散工程は、2種類の拡散材を準備する工程と、重希土類元素(RH)を含む第1拡散材を磁石基材の第1表面に付着させる工程と、軽希土類元素(RL)を含む第2拡散材を磁石基材の第2表面に付着させる工程と、磁石基材を加熱してRHとRLとを磁石基材の内部に拡散させる工程と、を有する。
【0055】
拡散材の準備
まず、RHを含む第1拡散材11と、RLを含む第2拡散材12と、を準備する。
【0056】
第1拡散材11には、少なくとも1種の重希土類元素RHが含まれており、添加するRHとしては、TbおよびDyからなる群から選択される1種以上の元素であることが好ましい。また、当該第1拡散材11は、純金属、合金、もしくはTbH2などのRHを含む化合物とすることができる。
【0057】
第1拡散材11を合金とする場合において、第1拡散材に含まれるRHやRH以外の金属元素の含有量の総和(より具体的にRH+RL+M)を100質量%とすると、当該総和100質量%に対するRHの含有率が60質量%以上となるように、RH以外の元素の添加量を調整することが好ましい。この場合、RH以外の元素として、RLが含まれていてもよい。上記の総和100質量%に対するRLの含有率は、22.5質量%以下であることが好ましい。また、第1拡散材11には、所定のM元素が含まれていてもよく、RHとMとを含むRH-M合金や、RH-RL-M合金とすることができる。この場合、上記の総和100質量%に対するM元素の含有率は、たとえば、5質量%~20質量%とすることができる。なお、M元素については、第2拡散材12を説明する際に詳述する。
【0058】
一方、第2拡散材12には、少なくとも1種の軽希土類元素(RL)が含まれており、添加するRLとしては、NdおよびPrからなる群から選択される1種以上の元素であることが好ましい。当該第2拡散材12は、純金属、合金、もしくは、水素化物などのRLを含む化合物とすることができ、特に、RLと所定のM元素とを含むRL-M合金であることが好ましい。
【0059】
ここで、M元素は、MとRLとの共晶温度が800℃以下となる元素であり、具体的に、Al,Mg,Fe,Mn,Co,Ni,Cu,Zn,Ga,Ge,Ru,Rh,Pd,Ag,Sn,Sb,Pt,Au,Hg,Bi,Si,Clからなる群から選択される1種以上の元素とすることができる。好ましくは、M元素は、MとRLとの共晶温度が700℃以下となる元素であり、具体的に、Al,Mg,Fe,Mn,Co,Ni,Cu,Zn,Ga,Ag,Au,Hg,Si,Clからなる群から選択される1種以上の元素である。より好ましくは、M元素は、MとRLとの共晶温度が600℃以下となる元素であり、具体的に、Mg,Co,Ni,Cu,Clである。さらに好ましくは、M元素は、CuまたはCoである。
【0060】
また、第2拡散材に含まれるRLとRL以外の金属元素の総和(より具体的にRH+RL+M)を100質量%とすると、当該総和100質量%に対するM元素の合計含有率は、選択するM元素の種類にもよるが、たとえば、5質量%~20質量%とすることが好ましい。特にM元素としてCuを添加する場合、上記の総和100質量%に対するCuの含有率は、10質量%~15質量%であることが好ましい。第2拡散材12に上記のM元素が含まれることで、第2拡散材12の融点が低下し、磁石基材20にRLが拡散しやすくなる。
【0061】
また、第2拡散材12には、重希土類元素(RH)が含まれていてもよいが、上記の総和100質量%に対するRHの含有率は、10質量%以下であることが好ましく、RHが実質的に含まれないことがより好ましい。「RHが実質的に含まれない」とは、より具体的に、上記の総和100質量%に対するRHの含有率が0.5質量%未満であることを意味する。本実施形態の粒界拡散処理では、第2拡散材12にRHが実質的に含まれないことで、磁石の角部近傍における磁気特性をより向上させることができ、かつ、製造過程でのRHの使用量をより好適に削減することができる。
【0062】
なお、前述したように、RHを主として含む第1拡散材11にも、M元素が含まれていてもよく、第1拡散材11に添加可能なM元素の種類としては、第2拡散材12におけるM元素と同様であり、M元素の添加量も第2拡散材12と同様とすることができる。ただし、第1拡散材11と第2拡散材12とで、選択するM元素の種類は異なっていてもよく、同じであってもよい。
【0063】
第1拡散材11の付着工程
RHを含む第1拡散材11は、磁石基材20における第1表面の少なくとも一部に付着させる。ここで、第1拡散材11を付着させる第1表面とは、磁極面であることが好ましく、一対の磁極面のうちの一方のみであってもよく、両方の磁極面を第1表面としてもよい。本実施形態では、冒頭で述べた通り、Z軸と垂直な一対の主面20aが磁極面であり、
図2に示すように両方の主面20aに対して第1拡散材11を付着させることとする。
【0064】
また、上記において「第1表面の少なくとも一部」とは、一つの主面20aにおいて、第1拡散材11の付着面積が、主面20aの面積よりも小さくてもよいことを意味し、主面20aの全面に第1拡散材11を付着させてもよい(第1拡散材11の付着面積≒主面20aの面積)。第1拡散材11の付着面積は、特に限定されないが、第1拡散材11の付着箇所が、主面20aと側面20bとの交差角部20cの少なくとも一部において、後述する第2拡散材12の付着箇所と近接していることが好ましい。
【0065】
ここで、主面20aと側面20bとの交差角部20cとは、
図1および
図2に示すように、X軸と略平行な4つの交差角部20cと、Y軸と略平行な4つの交差角部20cとが存在する。これら合計8つの交差角部20cのうち、モータなどの永久磁石の使用様態において反磁界が特に大きくなる交差角部20cを角部20cDとすると、少なくとも角部20cDにおいて、第1拡散材11の付着箇所と第2拡散材12の付着箇所とが近接していることが好ましい。
図2に示すように、全ての交差角部20cにおいて、第1拡散材11の付着箇所と第2拡散材12の付着箇所とが近接していてもよい。
【0066】
なお、第1拡散材11の付着箇所と第2拡散材12の付着箇所とが「近接」するとは、第1拡散材11の付着箇所と第2拡散材12の付着箇所とが直に接していてもよいし、所定距離だけ離れていてもよいことを意味する。より具体的に、第1拡散材11の付着箇所の端部は、交差角部20cから0mm~1mm程度離れていてもよく、第2拡散材12の付着箇所の端部は、交差角部20cから0mm~1mm離れていてもよい。本実施形態では、付着箇所の端部と交差角部20cとの距離が上記の数値範囲を満足する場合、第1拡散材11の付着箇所と第2拡散材12の付着箇所とが「近接」していると判断する。
【0067】
磁石基材20の主面20aに第1拡散材11を付着させる方法は、特に限定されず、たとえば、蒸着法、スパッタリング法、電着法、塗布法、印刷法(スクリーン印刷やスキージ印刷など)、シート工法などを用いることができる。
【0068】
シート工法を採用する場合、粉末状の第1拡散材11とバインダとを混ぜ合わせて、
図2に示すような第1拡散材のシート11aを作製し、当該シート11aを磁石基材20の表面に密着させる。シート11aを磁石基材20に密着させる際には、アルコール、アルデヒド、またはケトンなどの有機溶剤を、シート11aの表面または磁石基材20の表面に塗布してもよい。
【0069】
また、塗布法を採用する場合は、粉末状の第1拡散材11をアルコール、アルデヒド、またはケトンなどの有機溶剤に分散させたスラリーを作製する。そして、当該スラリーをスプレー、刷毛、ジェットディスペンサ、ノズルなどを利用して磁石基材20の主面20aに塗布する。なお、スラリーには、第1拡散材11が磁石基材20の表面に密着し易いように、バインダを添加してもよい。また、第1拡散材11を用いてスラリーよりも高い粘性を有するペーストを作製し、当該ペーストを磁石基材20の主面20aに塗布してもよい。各種印刷法では、上記のペーストを磁石基材20の主面20aに印刷すればよい。
【0070】
上述のとおり、第1拡散材11は、複数の方法で磁石基材20に付着させることができるが、いずれの方法を採用する場合においても、第1拡散材11の付着量が所定の条件を満たすように制御してあることが好ましい。すなわち、付着させるRHの総量が、磁石基材100質量部に対して、0.1質量部~2.0質量部(より好ましくは、0.4質量部~1.0質量部)となるように、第1拡散材11の付着量を制御することが好ましい。
【0071】
第2拡散材12の付着工程
RLを含む第2拡散材12は、磁石基材20における第2表面の少なくとも一部に付着させる。ここで、第2拡散材12を付着させる第2表面とは、第1拡散材11を付着させる第1表面と交差する面であり、磁極面と交差する面であることが好ましい。本実施形態では、
図2に示すように、第1拡散材11を磁極面である主面20aに付着させているため、第2拡散材12は、主面20aと交差する側面20bに付着させる。より具体的に、第2拡散材12は、4つの側面20bのうちから選択される一つの側面20bのみに付着させてもよいし、複数の側面20bに付着させてもよい。本実施形態では、
図2に示すように、4つの側面20bに第2拡散材12を付着させたこととする。
【0072】
また、上記において「第2表面の少なくとも一部」とは、一つの側面20bにおいて、第2拡散材12の付着面積が、主面20aの面積よりも小さくともよいことを意味し、側面20bの全面に第2拡散材12を付着させてもよい(第2拡散材12の付着面積≒側面20bの面積)。第2拡散材12の付着面積は、特に限定されない。前述のとおり、第2拡散材12の付着箇所が、交差角部20cの少なくとも一部において、第1拡散材11の付着箇所と近接していることが好ましく、第1拡散材11の付着箇所と直に接している箇所が存在することがより好ましい。
【0073】
なお、いずれかの主面20a′における第1拡散材11の付着面積をAHとし、当該主面20a′と交差する側面20b′における第2拡散材12の付着面積をALとすると、AL/AHが0.1~0.6であることが好ましい。
【0074】
第2拡散材12を付着させる方法は、特に限定されず、第1拡散材11と同様に、蒸着法、スパッタリング法、電着法、塗布法、印刷法(スクリーン印刷やスキージ印刷など)、シート工法などを用いることができる。
図2では、例示として、第2拡散材12のシート12aを用いる様子を示しており、当該シート12aは、粉末状の第2拡散材12とバインダとを混ぜ合わせてシート化することで得られる。
【0075】
また、第2拡散材12の付着量は、所定の条件を満たすように制御してあることが好ましい。すなわち、付着させるRLの総量が、磁石基材100質量部に対して、0.1質量部~1.5質量部(より好ましくは、0.4質量部~0.8質量部)となるように、第2拡散材12の付着量を制御することが好ましい。
【0076】
なお、各拡散材(11,12)を付着させる順序は、特に限定されない。たとえば、第2拡散材12を4つ側面20bに付着させた後に、第1拡散材11を2つの主面20aに付着させてもよい。また、Z軸上方の主面20aに第1拡散材11を付着させた後、第2拡散材12を4つの側面20bに付着させ、最後にZ軸下方の主面20aに第1拡散材11を付着させてもよい。付着工程の順序は、作業効率を考慮して適宜決定すればよい。
【0077】
磁石基材20を加熱する工程(拡散工程)
次に、各拡散材(11,12)を塗布した後、磁石基材20を所定の条件で加熱し、各拡散材に含まれるRHおよびRLを磁石基材20の内部に拡散させる。
【0078】
当該工程における熱処理の条件は、熱処理雰囲気を真空中または不活性ガス中とし、保持温度を700℃超過1000℃以下とすることが好ましく、温度保持時間を1時間以上24時間以下とすることが好ましい。また、所定の保持時間が経過した後は、磁石基材20を急冷することが好ましく、たとえば、急冷時の冷却速度は、50℃/min以上であることが好ましい。上記の条件で熱処理することで、第1拡散材11に含まれるRHと第2拡散材12に含まれるRLとが(拡散材にM元素が含まれる場合は、RH、RL、およびM元素)、磁石基材20の粒界6に拡散する。
【0079】
この際、主面20aから磁石基材20の内部に向かって拡散するRHは、主相粒子4の外周縁で、R
2T
14B結晶の一部と反応し、濃化する。すなわち、RHが拡散した領域の主相粒子4では、RHの含有率が高いシェル部42が形成され、
図3Bに示すように、当該主相粒子4が、コアシェル粒子4aとなる。
【0080】
一方、側面20bから磁石基材20の内部に向かって拡散するRLは、主相粒子4のR2T14B結晶をほとんど分解することなく、粒界6(特に二粒子粒界6a)を改質する働きを示すと考えられる。粒界6の改質とは、たとえば、粒界拡散したRLが、二粒子粒界6aを拡張させ、主面20aから磁石基材20の内部に侵入するRHの拡散を促すことが考えられる。また、粒界6の改質作用として、粒界6に拡散したRLが、粒界6中のRHの濃度上昇を抑える働きをすると考えられる。その結果、RHがR2T14B結晶と過剰に反応することを抑制でき、シェル部42の厚みが必要以上に厚くなることを抑制できると考えられる。
【0081】
上述したような粒界6の改質は、特に、第1拡散材11の付着箇所と第2拡散材12の付着箇所とが接する交差角部20cの近傍で、活発に発生すると考えられ、当該交差角部20c(永久磁石の角部2c)における磁気特性(BrおよびHcJ)を向上させることができる。
【0082】
なお、磁石基材20にRとしてNdのみが含まれ、かつ、第2拡散材12にPrなどのNd以外のRLが含まれている場合は、主相粒子4を構成しているR2T14B結晶において、R(Nd)の一部が、Nd以外のRLで置換されることがある。
【0083】
上記の拡散工程後には、時効処理を実施してもよい。当該時効処理を実施する場合は、拡散工程の急冷後に、真空中または不活性ガス中で、磁石基材20を450℃~700℃の温度で0.2時間~3時間保持することで実施することが好ましく、保持時間経過後は、急冷することが好ましい。
【0084】
また、拡散工程後、磁石基材20の表面には、酸化被膜などの残渣が存在している場合がある。そのため、拡散工程の後には、当該残渣を除去する加工工程を実施することが好ましい。残渣の除去方法としては、特に限定されず、たとえば、エッチングなどの化学的な除去、物理的な切断、研削などの形状加工、もしくは、バレル研磨などの面取り加工を実施すればよい。
【0085】
以上の製造方法により、高い残留磁束密度Brと高い保磁力HcJとを兼ね備えるR-T-B系永久磁石2(
図4A)が得られ、上記の製造方法で得られたR-T-B系永久磁石2では、特に交差角部20cに対応する永久磁石2の角部2cにおいて高いBrと高いHcJとが得られる。また、上記の製造方法では、磁極面以外の面にRHを付着させずとも、磁気特性(特にHcJ)の向上を図ることができ、製造過程で使用するRHの量を削減することができる。以下、本実施形態の製造方法で得られたR-T-B系永久磁石2の特徴について詳述する。
【0086】
(R-T-B系永久磁石2)
図4Aに示す本実施形態のR-T-B系永久磁石2(以下、永久磁石2と称する)では、一対の主面2aが磁極面となっており、この一対の主面2aが、第1拡散材11を付着させた面であり、主面2aと交差する4つの側面2bが第2拡散材12を付着させた面である。なお、
図4Aでは、
図1の磁石基材20の形状に合わせて、永久磁石2が直方体状の形状を有している。ただし、永久磁石2の形状および寸法は、特に限定されず、たとえば、多角形状、円筒状、中空円筒状、もしくは、主面が円弧状に湾曲したアークセグメント形状であってもよい。
【0087】
永久磁石2は、製造過程でRL、RH等を粒界拡散させたことにより、製造時に使用した磁石基材20の組成とは若干異なる組成を有する。
【0088】
具体的に、永久磁石2では、Rとして、Ndを必須とする1種以上の軽希土類元素(RL)と、1種以上の重希土類元素(RH)とが含まれる。Nd以外のRLとしては、Prが含まれることが好ましく、RHとしては、Tbまたは/およびDyが含まれることが好ましい。
【0089】
そして、永久磁石100質量%に対するRの合計含有率は、25質量%~35質量%とすることができ、28.4質量%以上32.0質量%以下であることが好ましい。また、永久磁石100質量%に対して、RLの合計含有率は、26.0質量%以上、31.5質量%以下であることが好ましく、RHの合計含有率は、0.3質量%以上3.0質量%以下であることが好ましい。加えて、永久磁石100質量%に対するNdの含有率は、22.4質量%以上31.5質量%以下とすることが好ましい。
【0090】
上記のとおり永久磁石2では、拡散材(11,12)によるRLおよびRHの拡散量に応じて、Rの含有率が、磁石基材20におけるRの含有率よりも増加する。一方で、永久磁石2におけるBの含有率は、磁石基材20におけるBの含有率と同程度とすることができる。すなわち、永久磁石100質量%に対するBの含有率は、0.5質量%~1.5質量%とすることができ、0.92質量%~1.03質量%とすることが好ましい。Bの含有率が上記の組成範囲を満たすことで、永久磁石2の磁気特性(Br,HcJ,角型比Hk/HcJなど)がより向上する傾向となる。
【0091】
また、永久磁石2には、第1拡散材11または/および第2拡散材12に添加したM元素が含まれていることが好ましい。拡散材(11,12)に起因するM元素の含有率CMは、永久磁石100質量%に対して、0.5質量%以下であることが好ましく、0.05質量%以上0.2質量%以下であることがより好ましい。たとえば、拡散材に添加するM元素として、磁石基材20に実質的に含有されていない元素MNO(Ag,Auなど)を選択した場合、上記の含有率CMが、永久磁石2における元素MNOの含有率となる。一方で、拡散材に添加するM元素として、元々磁石基材20に含まれていた元素MINを選択した場合、永久磁石2における元素MINの含有率は、磁石基材20における含有量に、上記の含有率CMが加算された範囲となる。
【0092】
たとえば、第1拡散材11または/および第2拡散材12に、M元素としてFe、Co、またはNiを添加した場合、永久磁石2におけるTの含有率が、製造過程における磁石基材20よりも若干増加する(上記の含有率CMが加算される)。なお、永久磁石2におけるTの含有率は、残部として表記される。永久磁石2のTは、Fe単独であってもよく、Feの一部がCoで置換されていてもよい。この場合、Coの含有率は、特に限定されず、たとえば、4質量%以下とすることができ、1質量%以下とすることが好ましい。Coが含まれることで、永久磁石2の耐食性が向上する。
【0093】
また、永久磁石2には、Cu,Ga,Al,Zrからなる群から選択される1種以上のm元素が含まれていることが好ましく、特にm元素としてCuが含まれていることがより好ましい。このm元素は、磁石基材20または/および拡散材(11,12)を起因として永久磁石2に添加される。永久磁石100質量%に対するm元素の合計含有率は、0.05質量%以上1.5質量%以下とすることが好ましく、0.5質量%以上1.0質量%以下とすることがより好ましい。
【0094】
より具体的に、永久磁石100質量%に対するCuの含有率は、0.05質量%以上0.70質量%以下とすることができ、0.20質量%以上0.70質量であることが好ましい。Cuが上記の比率で含有してあることで、永久磁石2の磁気特性や耐食性がより向上する。また、m元素としてGa,Al,Zrが含まれる場合、これら元素の含有率は、特に限定されない。たとえば、Gaの含有率は、0.08質量%以上0.50質量%以下とすることができ、0.08質量%以上0.3質量%以下とすることが好ましい。Alの含有率およびZrの含有率は、いずれも、0.10質量%以上0.50質量%以下とすることができ、0.10質量%以上0.30質量%以下とすることが好ましい。Ga,Al,Zrなどが上記の所定量含まれることで、磁気特性(Br,HcJ,Hk/HcJなど)の更なる向上や、特性のばらつき低減や、製造安定性の向上などが図れる。
【0095】
また、永久磁石2には、炭素(C)、窒素(N)、酸素(O)も含まれ得る。永久磁石2における炭素の含有率は、1100質量ppm以下であることが好ましく、900質量ppm以下であることがより好ましい。永久磁石2における窒素の含有率は、1000質量ppm以下であることが好ましく、600質量ppm以下であることがより好ましい。炭素の含有率や窒素の含有率が少ないほど、保磁力HcJが向上する傾向となる。永久磁石2における酸素の含有率は、1200ppm以下であることが好ましく、800ppm以下であることがより好ましい。酸素の含有率が少ないほど、耐食性が向上する傾向となる。
【0096】
さらに、永久磁石2には、上述した元素の他に、Mn,Ca,Cl,S,Fなどの不可避不純物が含まれていてもよく、不可避不純物の合計含有率は、たとえば、0.001質量%~1.0質量%程度である。
【0097】
なお、永久磁石2の組成は、磁石基材20の組成分析と同様に、XRF、ICP、不活性ガス融解-非分散型赤外線吸収法、酸素気流中燃焼-赤外線吸収法、不活性ガス融解-熱伝導度法などにより測定できる。なお、当該組成分析では、たとえば、永久磁石2をスタンプミルなどにより平均粒径1mm程度の大きさに粉砕し、当該粉砕粒子から無作為に抽出した複数の粒子をサンプルとして使用すればよい。
【0098】
本実施形態における永久磁石2の内部では、所定元素の濃度分布が生じている。具体的に、永久磁石2は、主面2a(磁極面)から内部中央側に向かって、RHの含有率が連続的に低下(漸減)する濃度分布を有する。このようなRHの濃度分布は、第1拡散材11のRHが、主面20aから磁石基材20の内部に粒界拡散することにより生じる。ここで「内部中央側」とは、永久磁石2の表面よりも磁石中心に近い側を意味する。
【0099】
また、永久磁石2は、側面2bから内部中央側に向かって、RLの含有率が連続的に低下(漸減)する濃度分布を有する。このようなRLの濃度分布は、第2拡散材12のRLが、側面20bから磁石基材20の内部に粒界拡散することにより生じる。
【0100】
さらに、永久磁石2は、側面2bから内部中央側に向かって、M元素(好ましくはCu,Al,Fe,Coから選択される1種以上)の含有率が、連続的に低下(漸減)する濃度分布を有することが好ましい。このようなM元素の濃度分布は、第2拡散材12に含まれるM元素が、側面20bから磁石基材20の内部に粒界拡散することにより生じ得る。なお、第2拡散材12において、M元素として、鉄族元素(Fe,Co,またはNi)を添加した場合、上述したM元素の濃度分布は、すなわちTの濃度分布となる。したがって、第2拡散材12のM元素として鉄族元素を選択した場合は、Tの含有率が、側面2bから内部中央側に向かって連続的に低下(漸減)していることが好ましい。
【0101】
なお、上述した各元素(RL,RH,M元素)の濃度分布は、たとえば、
図4Aに示す複数のサンプルαや、
図5Aに示す複数のサンプルβを用いて確認することができる。
【0102】
具体的に、
図4Aに示すように、側面2bのX軸方向の略中央において、X軸方向の幅1mm程度×Y軸方向の幅1mm×Z軸方向の幅T0の角柱状のサンプルα1を切り出す。サンプルα1のZ軸方向の幅T0は、永久磁石2のZ軸方向の幅と同程度であり、本実施形態では磁極面間の距離に該当する。上記のような角柱状サンプルの切り出しを、Y軸方向に沿って、永久磁石2の中心が含まれるまで連続的に実施し、複数のサンプルα(α1,α2…αn,α
center)を得る。サンプルαの寸法は、必ずしも上記の寸法に限定されないが、Y軸方向の幅が1mm以下であることが好ましく、もしくは、永久磁石2のY軸方向の幅に対して1/20倍以下であることが好ましい。
【0103】
そして、採取した複数のサンプルαを、それぞれ、ICPを用いて成分分析する。本実施形態の永久磁石2では、上記の分析の結果、サンプルαの採取箇所が、側面2bから永久磁石2の中心に向かうにつれて、RLの含有率が連続的に低下していく傾向が確認できる。また、第2拡散材12にM元素を添加した場合は、M元素の含有率が連続的に低下していく傾向が確認できる。
【0104】
特に、側面2bを含むサンプルα1と、磁石中心を含むサンプルαcenterとで、所定元素の含有率の差(α1-αcenter)を測定した場合、RLの含有率の差は、0.1質量%~0.5質量%程度であることが好ましく、M元素の含有率の差は、0.1質量%~0.3質量%程度であることが好ましい。なお、第2拡散材12に複数種のRを添加した場合、上述したRLの含有率は、RLの合計含有率とする。M元素の含有率についても同様である。
【0105】
一方、RHの濃度分布は、
図5Aに示すような複数のサンプルβを用いて確認すればよい。具体的に
図5Aに示すように、主面2aのX軸方向の略中央において、X軸方向の幅5mm程度×Y軸方向の幅1mm程度×Z軸方向の幅Tβの角柱状のサンプルβ1を切り出す。上記のような角柱状サンプルの切り出しを、Z軸方向に沿って、永久磁石2の中心が含まれるまで連続的に実施し、複数のサンプルβ(β1,β2…βn,β
center)を得る。サンプルβの寸法は、必ずしも上記の寸法に限定されないが、Z軸方向の幅Tβは、1mm以下であることが好ましく、もしくは、永久磁石2のZ軸方向の幅T0に対して1/10倍以下であることが好ましい。
【0106】
そして、採取した複数のサンプルβを、それぞれ、ICPを用いて成分分析する。本実施形態の永久磁石2では、上記の分析の結果、サンプルβの採取箇所が、主面2bから永久磁石2の中心に向かうにつれて、RHの含有率が連続的に低下していく傾向が確認できる。特に、主面2aを含むサンプルβ1と、磁石中心を含むサンプルβcenterとで、所定元素の含有率の差(β1-βcenter)を測定した場合、RHの含有率の差は、0.1質量%~0.5質量%程度であることが好ましい。
【0107】
なお、各元素(RL,RH,M元素)の濃度分布は、上記の測定方法の他に、永久磁石2の断面観察時に、EDXやEPMAによるライン分析やマッピング分析、またはレーザーアブレーション-ICP質量分析(LA-ICP-MS)を実施することによっても確認することができる。
【0108】
また、本実施形態の永久磁石2では、主面2aと側面2bとで、RHの含有率を比較すると、側面2bにおけるRHの含有率が、主面2aにおけるRHの含有率よりも低いことが好ましい。主面2aまたは側面2bにおけるRHの含有率は、たとえば、
図4Bに示すサンプルγ1,サンプルγ2を用いて測定すればよい。
【0109】
具体的に、主面2aの中心において、主面2aを含むサンプルγ1(寸法:X軸方向の幅5mm程度×Y軸方向の幅1mm程度×Z軸方向の幅1mm)を採取し、当該サンプルγ1を用いてICPによる成分分析を実施することで、主面2aにおけるRHの含有率を測定できる。また、側面2bの中心において、側面2bを含むサンプルγ2(寸法:X軸方向の幅5mm程度×Y軸方向の幅1mm×Z軸方向の幅1mm程度)を採取し、当該サンプルγ2を用いてICPによる成分分析を実施することで、側面2bにおけるRHの含有率を測定できる。
【0110】
なお、上記の測定において、サンプルγ1,γ2の寸法は、必ずしも上記の寸法に限定されないが、サンプルγ1のZ軸方向の幅は、1mm以下であることが好ましく、サンプルγ2のY軸方向の幅は、1mm以下であることが好ましい。また、主面2aもしくは側面2bにおけるRHの含有率は、上記の測定方法の他に、たとえば、LA-ICP-MSや3DAPを用いて分析することも可能である。
【0111】
図3Bは、永久磁石2における角部近傍の断面を拡大した模式図である。なお、本実施形態において「角部近傍」とは、角部2c(磁石角部)を中心として半径1mm以内の範囲を意味する。前述したように、永久磁石2では、RHが拡散した領域において主相粒子4がコアシェル粒子4aとなっている。このコアシェル粒子4aは、R
2T
14B結晶からなるコア部41と、コア部41を被覆しておりコア部41よりもRHの含有比が高いシェル部42とを有する。コアシェル粒子4aの平均粒径は、特に限定されず、たとえば、円相当径換算で、1.0μm~10μmとすることができ、2.5μm~6.0μmとすることが好ましい。
【0112】
なお、シェル部42は、コア部41の全周を覆っている必要はなく、コア部41の少なくとも一部を覆っていればよい。シェル部42によるコア部41の被覆率は、特に限定されないが、たとえば、コア部41の外周縁のうち50%以上をシェル部42が覆っていることが好ましい。また、
図3Bに示すような断面において、全ての主相粒子4がコアシェル粒子4aである必要はなく、コアシェル構造を有していない主相粒子4が存在していてもよい。
【0113】
上記のように、主相粒子4の外周にRHが濃化したシェル部42が形成されることにより、粒界近傍に磁化反転の核が生じることが抑制され、保磁力HcJを向上させることができる。
【0114】
本実施形態の永久磁石2では、上述したように、RHの濃度分布の方向とRLの濃度分布の方向とが交差している。より具体的に、RHの濃度分布の方向とは、RH濃度が連続的に減少していく方向であり、本実施形態ではZ軸に沿う方向である。RLの濃度分布の方向とは、RL濃度が連続的に減少していく方向である。本実施形態では、第2拡散材12を4つの側面20bから粒界拡散させたため、X軸に沿う方向と、Y軸に沿う方向との両方がRLの濃度分布の方向となる。永久磁石2は、RHの濃度分布の方向とRLの濃度分布の方向とが交差していることで、高いBrと高いHcJとを両立して実現することができ、特に角部近傍において、高いBrを維持しつつ磁石の内部中央よりもさらにHcJを向上させることができる。たとえば、
図4Aに示すサンプルα1で磁気特性を測定した場合、1450mT以上のBrと、1800kA/m以上のHcJを得ることができる。
【0115】
このように、角部近傍で特にHcJが向上する理由は、シェル部42の厚みが関係していると考えられる。本実施形態の永久磁石2では、主面2aと側面2bの両方からRHを拡散させた従来の永久磁石と比べて、角部近傍において、コアシェル粒子4aのシェル厚みを薄くすることができる。実際に、
図7は、本実施形態の永久磁石2の断面写真であり、
図8は、主面20aと側面20bの両方からRHを拡散させた従来の永久磁石の断面写真である。なお、
図7および
図8は、いずれも、主面2aと垂直な角部近傍の断面であり、かつ、主面2aから所定の深さまでの範囲を観察した断面である。また、
図7および
図8において、最もコントラストが明るい箇所は、粒界相であり、コントラストが暗い箇所がコア部41(主相粒子4)であり、コア部41を囲っている灰色のコントラストがシェル部42である。
【0116】
図8に示す従来の永久磁石では、コア部の周囲に灰色のシェル部が存在していることがはっきりと認識でき、角部近傍においてサブミクロンオーダーからミクロンオーダーの厚いシェル部が形成されていることが確認できる。一方、
図7に示す本実施形態の永久磁石2の断面では、角部近傍におけるシェル部42の厚みが、
図8の従来の永久磁石と比べて、明らかに薄くなっていることがわかる。
【0117】
より具体的に、本実施形態の永久磁石2では、角部近傍の所定箇所におけるシェル部42の最大厚みt1が、平均で、0.5μm以下であることが好ましく、0.2μm以下であることが好ましく、0.1μm以下であることがより好ましい。このように角部近傍におけるシェル部42の厚みを薄くすることで、厚みが薄くなった分、シェル部42におけるRH濃度が従来の永久磁石(
図8)よりも高くなると考えられる。その結果、本実施形態の永久磁石2では、Brを低下させることなく、より効率的にHcJの向上が図れていると考えられる。
【0118】
上記において、角部近傍の所定箇所とは、
図5Bに示すような角部近傍において、主面2aから深さ100μmの断面A(たとえば、
図5Bにおいて一点鎖線で示すX-Y面)を意味し、以下の手法で、当該断面A中に含まれるコアシェル粒子4を解析することでシェル部42の最大厚みt1を算出する。
【0119】
まず、角部近傍において、主面2aから深さ100μmの位置において、断面Aを露出させ、当該断面からSTEM用の観察試料を採取する。試料採取の方法は、FIB加工によるマイクロサンプリング法などを採用すればよい。そして、採取した観察試料(観察断面)中に含まれる主相粒子4を、STEM-EDSにより分析する。本実施形態では、コア部41とシェル部42とを、重希土類元素の濃度差Dc、および、重希土類元素の濃化度Eに基づいて判別する。
【0120】
具体的に、断面解析に際して、測定対象である主相粒子4を内包しつつ主相粒子4に対して面積が最小となる仮想の長方形VR(
図6参照)を拵え、当該長方形VRの対角線の交点を粒子中心41cとする。そして、EDSにより、主相粒子4におけるRHの濃度分布およびRLの濃度分布を得たうえで、所定箇所のRH濃度(Ch
n)と粒子中心41cのRH濃度(Ch
center)との差(Ch
n-Ch
center)を、RHの濃度差Dc(単位:wt%)とする。また、所定箇所におけるRLに対するRHのモル比をM
H/L
nとし、粒子中心41cにおけるRLに対するRHのモル比をM
H/L
centerとし、M
H/L
centerに対するM
H/L
nの比を、RHの濃化度E(単位:なし)とする。
【0121】
本実施形態では、シェル部42は、上記の濃度差Dcが0.7wt%以上であって、かつ、上記の濃化度Eが1.25以上である。すなわち、断面解析において、当該2つの要件を満足する領域をシェル部42と認定し、主相粒子4のシェル部42以外の領域をコア部41と認定する。ただし、粒子中心41cで検出されるRH濃度が0.2wt%未満である場合があり得る。この場合は、測定ノイズを鑑みて粒子中心41cでは実質的にRHが検出されていないこととみなし(すなわちChcenter≒0)、RH濃度が0.7wt%以上(すなわち濃度差Dcが0.7wt%以上)である領域をシェル部42と識別すればよい。なお、断面試料をHAADF像などで観察した場合は、コントラストの違いにより、簡易的にコア部41とシェル部42とを識別することも可能である。
【0122】
コア部41とシェル部42との境界を規定した後、
図6に示すように、単位粒子内でシェル部42が最も厚い箇所の厚みを測定する。当該測定を少なくとも20個のコアシェル粒子4aに対して実施し、その平均値を上述した最大厚みt1とする。なお、シェル厚みは、三次元アトムプローブ(3DAP)を用いて解析することも可能である。
【0123】
以上のとおり、本実施形態の永久磁石2では、RHの濃度分布の方向とRLの濃度分布の方向とを交差させることで、角部2cの近傍においてシェル部42の厚みが増大することを抑制できる。その結果、角部2cの近傍において、高いBrを維持しつつ、HcJの更なる向上を図ることができる。
【0124】
(R-T-B系永久磁石2の利用分野)
本実施形態のR-T-B系永久磁石2は、モータ、発電機、コンプレッサ、アクチュエータ、磁気センサ、スピーカなどの構成部材として利用することができ、特にモータの構成部材として好適である。
【0125】
永久磁石2を利用したモータとしては、たとえば、
図8に示すようなIPMモータ50が挙げられる。IPMモータ50は、回転子51と、ステータコア52とを有しており、本実施形態の永久磁石2は、回転子51に埋め込んである。そして、回転子51中の永久磁石2は、ギャップ53を介してステータに存在するコイル54と向き合っている。
【0126】
図8に示すようなIPMモータ50では、一般的に、コイル54と近接する永久磁石2の角部2cDにおいて、反磁界の影響が大きくなる。その結果、当該角部2cDで発熱が大きくなったり、損失が大きくなったりする。本実施形態の永久磁石2では、製造時に主面20aからRHを拡散させると共に、側面20bからRLを拡散させることで、高いBrを維持しつつも
図8に示す角部2cにおけるHcJを向上させることができる。そのため、永久磁石2をIPMモータ50に搭載する際に、磁気特性を向上させた角部2cの近傍を、特に反磁界の影響を受けやすい角部2cDに配置することで、IPMモータ50の小型化、高性能化、および高効率化を図ることができる。
【0127】
なお、本実施形態の永久磁石2は、
図8のIPMモータに限定されず、SPMモータなどのその他の各種モータにも適用できる。
【0128】
また、本実施形態の永久磁石2を含むモータは、様々な電子機器や産業機器等に搭載することができ、特に
図9に示すような自動車用モータ50(EV,HV,PHVなど)としての利用が好適である。
図9では、一般的なEV車101とHV102とを簡単な模式図で示しているが、永久磁石2を含むモータの用途は、
図9に示す様態に何ら限定されない。なお、
図9において、符号60がインバータ、符号70がバッテリ、符号80がエンジン、符号90が発電機である。
【0129】
(実施形態のまとめ)
本実施形態におけるR-T-B系永久磁石2の製造方法では、重希土類元素(RH)を含む第1拡散材11を主面20a(第1表面)から拡散させると共に、軽希土類元素(RL)を含む第2拡散材12を側面20bから拡散させている。このような方法で製造された本実施形態の永久磁石2では、主面2aから内部中央側に向かってRHの含有率が低下する濃度分布を有すると共に、側面20bから内部中央側に向かってRLの含有率が低下する濃度分布を有する。その結果、本実施形態の永久磁石2では、BrとHcJとを両立して向上させることができる。すなわち、本実施形態の永久磁石2の製造方法では、磁極面以外の面にRHを付着させずとも、磁気特性(特にHcJ)の向上を図ることができ、製造過程で使用するRHの量を削減することができる。
【0130】
また、本実施形態の製造方法、および、当該方法で得られた永久磁石2では、特に、角部近傍において、シェル部42の厚みが増大することを抑制できる。その結果、永久磁石2の角部近傍において、高いBrを維持しつつHcJを磁石内部よりもさらに向上させることができる。当該効果が得られる理由は、必ずしも明らかではないが、たとえば、以下に示す事由が考えられる。
【0131】
まず、RHによるR2T14B結晶(主相)の分解抑制が関係していると考えられる。粒界拡散処理において、RHが粒界に沿って浸透し、加熱状態でR2T14B結晶と接すると、R2T14B結晶(特にNd2Fe14B結晶)の外周縁がRHと反応し、主相とは異なる結晶相や液相(たとえば、RFe2相やRFe4B4相など)に分解されると考えられる。そして、この分解によって生じた異なる結晶相や液相が再結晶化することで、RHが濃化したシェル部が形成されると考えられる。
【0132】
従来のように、磁極面と当該磁極面と交差する側面などの複数の面に、RHを粒界拡散させた場合には、磁石の表面近傍や角部近傍で、高濃度のRHが、R2T14B結晶と接することとなり、上述したR2T14B結晶の分解反応が活発に起こると考えられる。その結果、従来の粒界拡散処理では、磁石の表面近傍や角部近傍に厚みのあるシェルが形成される。RHが濃化したシェル部は、HcJを向上させる効果があるものの、HcJの向上に必要なシェルの厚みは数ナノメートル程度あればよく、過剰な厚みのシェルは、反ってBrの低下を招くと考えられる。また、従来の各段工程では、磁石の表面近傍や角部近傍で、付着させたRHが多く消費され、磁石の内部までRHが十分に拡散し難くなり、HcJの向上効果が弱まると考えられる。
【0133】
一方、本実施形態における粒界拡散処理では、RHを主面20a(磁極面)から拡散させると共に、主面20aと交差する側面20bからRLを拡散させている。RLとR2T14B結晶との間(具体的に、Nd2Fe14B結晶とNdやPrとの間)では、R2T14B以外の金属化合物相が生じないため、RLが磁石内部の粒界6に拡散しても、RHとR2T14B結晶との間で生じるような主相の分解反応が発生しないと考えられる。そのため、粒界6においてRLが濃化され、粒界6における全希土類元素に対するRHの比率を相対的に低減できると考えられる。このようなRLによる粒界6の改質が、特に、磁石の角部近傍で起こりやすいと考えられる。
【0134】
つまり、本実施形態における粒界拡散処理では、従来の粒界拡散処理に比べて、角部近傍において、低濃度の状態でRHがR2T14B結晶に接することとなり、主相の分解反応が抑制されると考えられる。これにより、本実施形態では、角部近傍においてシェル部42の厚みを薄くでき、厚みが薄くなった分シェル部42におけるRH濃度を高めることができると考えられ、高いBrを維持しつつHcJを向上させることができる。また、本実施形態では、主相の分解反応が抑制されたことで、磁石の角部近傍におけるRHの消費が抑制され、RHが磁石の内部まで拡散されやすくなると考えられる。その結果、RHの拡散によるHcJの向上効果が高まり、高いHcJと高いBrとを両立できると考えられる。
【0135】
また、RHが内部まで拡散し易くなる理由としては、RLの拡散により、二粒子粒界6aが拡張したことが考えられる。RLによる粒界6の拡張により、主面2aから侵入するRHが磁石内部まで拡散し易くなり、従来工法よりも高いHcJが得られると考えられる。
【0136】
なお、製造時に使用する磁石基材20が所定の組成を有する場合、上述したBrやHcJの向上効果がより顕著となる。すなわち、磁石基材20(R-T-B系合金)において、Rの合計含有率が、27.5質量%以上、30.8質量%以下であり、Cuの含有率が、0.05質量%以上、0.5質量%以下であり、Bの含有率が、0.92質量%以上、1.03質量%以下である。当該組成では、一般的なR-T-B系合金の組成範囲に比べて、Rの合計含有率が低くなっている。このように、Rの含有率が低い磁石基材20を使用することで、2段階の粒界拡散処理によるBrやHcJの向上効果がより高くなる。
【0137】
(変形例)
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内で種々に改変することができる。
【0138】
たとえば、第1拡散材11および第2拡散材12は、必ずしも複数の面に付着させる必要はなく、少なくとも1つの交差角部20cに対応する面に付着させればよい(この場合、第1拡散材11を1つの第1表面に付着させ、その第1表面と交差する1つの第2表面に第2拡散材12を付着させればよい)。また、磁石基材20において、HcJを向上させたい特定の角部20cが決まっている場合には、当該角部20cを含む側面20bに第2拡散材12を付着させればよい。たとえば、
図9Aでは、X軸と略平行な角部20c1における磁気特性の向上を狙って、第2拡散材12をY軸と略垂直な側面20b1にのみ付着させている。
【0139】
また、
図9Bでは、拡散材(11,12)を所定の面の一部にのみ付着させた例を提示している。具体的に、
図9Bでは、X軸と略平行な角部20c1における磁気特性の向上を狙って、角部20c1に近接する主面20aの一部にのみ第1拡散材11を付着させている。また、第2拡散材12についても、角部20c1に近接する側面20bの一部にのみ付着させている。このように、拡散材(11,12)の付着箇所を、HcJの向上を狙う特定箇所に限定することで、RHなどの希土類元素の使用量をより効果的に削減することができる。
【実施例0140】
以下、実施例および比較例を用いて、本発明をさらに詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0141】
実験1
実験1では、以下に示す手順で試料1に係るR-T-B系永久磁石を製造し、当該試料の磁気特性を評価した。
【0142】
(試料)
まず、原料として、Nd,電解鉄,低炭素フェロボロン合金を準備した。また、Al,Cu,Co,Zrを、純金属またはFeとの合金の形で準備した。そして、磁石基材20の組成が表1に示す組成となるように、上記の原料を秤量し、ストリップキャスト法により、原料合金を作製した。ここで得られた原料合金の厚みは、0.2mm~0.6mmであった。
【0143】
次いで、前記原料合金に対して室温で1時間、水素ガスをフローさせて水素を吸蔵させた。その後、雰囲気を水素ガスからArガスに切り替え、450℃で1時間、脱水素処理を行い、原料合金を水素粉砕した。粉砕後の原料合金については、冷却後にふるいを用いて分級し、400μm以下の粒度の粉末(粗粉砕材)とした。なお、この水素吸蔵粉砕から後述する焼結工程までは、常に酸素濃度が200ppm以下の低酸素雰囲気とした。
【0144】
次いで、前記粗粉砕材に対して、粉砕助剤としてオレイン酸アミドを添加して混合した。そして、この粗粉砕材を衝突板式のジェットミル装置を用いて窒素気流中で微粉砕し、平均粒径が3.9μm~4.2μm程度の微粉(原料合金粉末)を得た。当該微粉砕工程において、オレイン酸アミドの添加量は、磁石基材20中の炭素含有量が所望の範囲内となるように調整した。なお、上記の平均粒径は、レーザ回折式の粒度分布計で測定した平均粒径D50である。
【0145】
次いで、前記原料合金粉末を磁界中で成形して成形体を作製した。この際、印加磁場は1200kA/mの静磁界とし、成形時の加圧力は120MPaとして、磁界印加方向と加圧方向とを直交させるようにした。なお、この成形工程で得られた成形体の密度を測定したところ、成形体の密度が4.10Mg/m3以上4.25Mg/m3以下の範囲内であった。
【0146】
次に、前記成形体を焼結し、R-T-B系合金からなる焼結体を得た。焼結条件は、処理雰囲気を真空中とし、成形体を1070℃の温度で4時間保持した。この焼結工程で得られた焼結密度は、7.45Mg/m3~7.55Mg/m3以下の範囲であった。その後、前記焼結体をバーチカルにより15mm×15mm×5mm(磁化容易軸方向の厚み5mm)に加工して、磁石基材20を得た。
【0147】
ここで、磁石基材20の平均組成を測定した。試料1では、複数製造した焼結体から分析用の焼結体を抽出し、当該分析用焼結体をスタンプミルにより平均粒子径1mm程度の大きさに粉砕し、当該粉砕物を無作為に抽出することで組成分析用のサンプルを得た。各種金属元素の含有率については、XRFおよびICPを用いて測定した。また、酸素の含有率は、不活性ガス融解-非分散型赤外線吸収法により測定し、炭素の含有率は、酸素気流中燃焼-赤外線吸収法により測定し、窒素の含有率は、不活性ガス融解-熱伝導度法により測定した。平均組成の測定結果を表1に示す。なお、Feの含有率を残部としているのは、表1には記載していない元素の含有量をFeの含有量に含めて、R,T,Bおよびmの合計を100質量%としているという意味である。
【0148】
続いて、前記磁石基材20に対して、以下に示す流れで粒界拡散処理を施した。まず、表2に示す組成で、Tb(RH)を含む拡散材1-Aと、Nd(RL)を含む拡散材2-Aを作製した。拡散材1-AはTbの金属粉末とし、拡散材は表2に示す組成の合金粉末とした。
【0149】
次に、粒界拡散を行う前処理として、磁石基材20にエッチング処理を施した。具体的に、エタノール100質量%に対し硝酸3質量%とした混合溶液を準備し、磁石基材20を当該混合溶液に3分間浸漬させてエッチングした後、エタノールに1分間浸漬させて洗浄した。なお、上記のエッチングは、2回実施した。
【0150】
次に、Tbを含む拡散材1-A:75質量部と、アルコール:23質量部と、アクリル樹脂:2質量部と、を混練し、第1ペーストを得た。この際使用したアルコールは溶媒であり、アクリル樹脂はバインダである。そして、当該第1ペーストを、磁石基材20の一対の磁極面の両方に均一に塗布した。この際、第1ペーストの塗布量は、拡散材1-Aに含まれるTbの総量が、磁石基材100質量部に対して、0.5質量部となるように調整した。また、Nbを含む拡散材2-A:75質量部と、アルコール:23質量部と、アクリル樹脂:2質量部と、を混練し、第2ペーストを得た。そして、当該第2ペーストを、磁極面と交差する4つの側面にそれぞれ均一に塗布した。この際、拡散材2-Aを含む第2ペーストの塗布量は、拡散材2-Aに含まれるNdの総量が、磁石基材100質量部に対して、0.5質量部となるように調整した。
【0151】
上記の要領で拡散材1-Aと拡散材2-Aとを塗布した後、磁石基材20を大気圧のAr雰囲気において、900℃で、10時間保持し、その後、急冷した。なお、当該熱処理の後には、1200番の研磨紙を用いて、磁石基材20の表面に存在する残渣が除去されるまで研磨した。
【0152】
以上の工程により試料1に係るR-T-B系永久磁石2を得た。当該R-T-B系永久磁石2の平均組成は、上述した磁石基材20の平均組成と同様の方法で測定した。
【0153】
また、試料1で製造した複数のR-T-B系永久磁石2から無作為に分析用の磁石サンプルを抽出し、当該分析用磁石サンプルから
図4A,
図4B,
図5Aに示すサンプルα,サンプルβ,サンプルγ1およびγ2を切り出した。そして、ここで得られた各サンプルを、それぞれICPにより成分分析した。その結果、試料1のR-T-B系永久磁石2では、磁極面(主面2a)から内部中央側に向かってTbの含有量が連続的に低下していく傾向が確認でき、さらに、側面2bから内部中央側に向かって、Ndの含有率およびCuの含有率が、いずれも連続的に低下していく傾向が確認できた。また、
図4Bに示すようなサンプルγ1とサンプルγ2とで組成を比較したところ、側面2bを含むサンプルγ2におけるTbの含有率が、主面2aを含むサンプルγ1におけるTbの含有率よりも低いことが確認できた。
【0154】
さらに、
図4Aに示すサンプルα1を切り出した後、当該サンプルα1に対して、4000kA/mのパルス磁場を印加して着磁した。そして、BHトレーサを用いて各試料(サンプルα1)の残留磁束密度Br(mT)と、保磁力HcJ(kA/m)とを測定した。当該サンプルα1の磁気特性は、永久磁石2の角部近傍における磁気特性であり、測定結果を表3に示す。なお、本実施例において、Brは、1450mT以上を特に良好と判断し、HcJは、1800以上を特に良好と判断した。
【0155】
(比較例1)
比較例1では、磁石基材における一対の磁極面に、それぞれ、拡散材1-Aを塗布した。その後、磁極面と交差するすべての側面には拡散材を塗布することなく、拡散材1-Aのみを塗布した磁石基材を、試料1と同じ条件で加熱処理した。比較例1における上記以外の実験条件は、試料1と同様として、試料1と同様の評価を実施した。比較例1の評価結果を表3に示す。なお、比較例1においても、試料1と同じ方法で、TbやNdの濃度分布を測定したところ、比較例1では、RH(Tb)の含有率に関する濃度分布が観測されたものの、RL(Nd)やその他の元素の濃度分布は観測できなかった。
【0156】
(比較例2)
比較例2では、磁石基材における一対の磁極面と、磁極面と交差する4つの側面とに、それぞれ、拡散材1-Aを塗布した。具体的に、一対の磁極面から拡散するTbの質量が磁石基材100質量部に対して0.5質量部となるように、各磁極面における拡散材ペーストの塗布量を制御した。同様に、4つの側面から拡散するTbの質量が磁石基材100質量部に対して0.5質量部となるように各側面における拡散材ペーストの塗布量を制御した。つまり、比較例2では、全ての面から拡散するTbの総量を、磁石基材100質量部に対して1.0質量部とした。その後、拡散材1-Aのみを塗布した磁石基材を、試料1と同じ条件で加熱処理した。比較例2における上記以外の実験条件は、試料1と同様として、試料1と同様の評価を実施した。比較例2の評価結果を表3に示す。なお、比較例2においても、試料1と同じ方法で、TbやNdの濃度分布を測定したところ、比較例1では、RH(Tb)の含有率に関する濃度分布が観測されたものの、RL(Nd)やその他の元素の濃度分布は観測できなかった。
【0157】
【0158】
【0159】
【0160】
表3に示すように、比較例1および比較例2では、BrとHcJの目標値を両立して満足することはできなかった。具体的に、磁極面のみに粒界拡散処理を施した比較例1では、反磁界の影響を受けやすい角部近傍において、十分な磁気特性の向上が図れなかった。また、磁極面および側面からRHを拡散させた比較例2では、RH(Tb)を試料1や比較例1よりも多く拡散させたことにより、HcJは増加する傾向となるが、HcJの向上と引き換えに、Brが低下してしまっている。
【0161】
一方、RHとRLとを異なる面から拡散させた試料1では、比較例2よりも製造過程におけるRHの使用量を削減したうえで、1450mT以上の高いBrと、1800kA/m以上の高いHcJとが得られた。この結果から、RHとRLとを互いに異なる所定の面から拡散させることで、角部近傍で高いBrと高いHcJとを兼ね備える永久磁石2が得られることがわかった。
【0162】
また、前述したように、試料1の永久磁石2では、RHの濃度分布の方向とRLの濃度分布の方向とが交差していることが確認でき、このような特徴を有する試料1では、角部近傍におけるシェル部42の厚みが比較例1よりも薄くなっていることがわかった。実際に
図7が、試料1で得られた永久磁石2のSEM写真であり、
図8が比較例1で得られた永久磁石のSEM写真である。
【0163】
図8の比較例1のSEM写真では、
図7のSEM写真よりも厚いシェルが形成されていることが確認でき、特に表面側でシェルが厚くなっていることがわかる。これに対して、
図7に示す試料1のSEM写真では、比較例1よりも明らかにシェル部42の厚みが薄くなっていることが確認でき、特に、角部近傍の磁極面(主面2a)から深さ100μmの位置におけるシェル部42の最大厚みt1が0.5μm未満であった。この結果から、RHの濃度分布の方向とRLの濃度分布の方向とが交差している場合、角部近傍のシェル部42の厚みが薄くなり、高いBrと高いHcJとを両立して実現できることがわかった。
【0164】
(実験2)
実験2では、表4に示す複数種の拡散材を作製し、表5に示す拡散材の組み合わせで粒界拡散処理を実施した。実験2の全ての試料1~11では、磁石基材20の組成が実験1における試料1の組成と共通としており、拡散材の組成を変更した以外は、実験1と同様の条件でR-T-B系の永久磁石2を作製した。実験2における各試料1~11の評価結果を表5に示す。
【0165】
【0166】
【0167】
表5に示すように実験2の試料1~11(試料10を除く)では、いずれも、1450mT≦Brで、かつ、1800kA/m≦HcJであった。なお、試料10と他の試料1~9,11を対比すると、拡散させるRHとしては、DyよりもTbがより効果的であることがわかった。RHとして、Tbに代えてDyを拡散した試料10では、Tbを拡散させた他の試料(1~9,11)に比べてHcJが低いが、比較例1や2に示すような方法でDyを拡散させた場合に比べると、HcJが向上していることが確認できた。
【0168】
以上の結果から、拡散材(11,12)が表4に示す組成の範囲にある場合、BrとHcJとを両立して向上できることがわかった。なお、表4,5には記していないが、実験2の全ての試料1~11において、磁極面(主面2a)から内部中央側に向かってRHの含有量が連続的に低下していく傾向が確認でき、かつ、側面2bから内部中央側に向かって、RLの含有率が連続的に低下していく傾向が確認できた。さらに、第2拡散材12にM元素が含まれる試料1~7,11では、側面2bから内部中央側に向かってM元素の含有率が、連続的に低下していく傾向が確認できた。