(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022152452
(43)【公開日】2022-10-12
(54)【発明の名称】軟磁性粉末および磁性体コア
(51)【国際特許分類】
B22F 1/00 20220101AFI20221004BHJP
C22C 38/00 20060101ALI20221004BHJP
C22C 19/07 20060101ALI20221004BHJP
C22C 45/02 20060101ALI20221004BHJP
H01F 1/153 20060101ALI20221004BHJP
H01F 27/255 20060101ALI20221004BHJP
B22F 9/00 20060101ALN20221004BHJP
【FI】
B22F1/00 Y
C22C38/00 303S
C22C19/07 C
C22C45/02 A
H01F1/153 108
H01F1/153 116
H01F1/153 158
H01F27/255
B22F9/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021055232
(22)【出願日】2021-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】奥田 修弘
(72)【発明者】
【氏名】松元 裕之
(72)【発明者】
【氏名】吉留 和宏
【テーマコード(参考)】
4K017
4K018
5E041
【Fターム(参考)】
4K017AA02
4K017BA03
4K017BA06
4K017BB01
4K017BB02
4K017BB03
4K017BB04
4K017BB05
4K017BB06
4K017BB07
4K017BB08
4K017BB09
4K017BB12
4K017BB14
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4K017BB16
4K017BB18
4K017DA02
4K017EK08
4K017FA03
4K018BA04
4K018BA13
4K018BB04
4K018BB06
4K018BB07
4K018BC12
4K018BC29
4K018BD01
4K018CA09
4K018CA11
4K018GA04
4K018HA04
4K018KA44
4K018KA63
5E041AA11
5E041AA14
5E041BD03
5E041CA03
5E041NN06
(57)【要約】
【課題】比透磁率が高く直流重畳特性が高い磁性体コアの作製に用いられる軟磁性粉末を提供する。
【解決手段】 FeおよびCoを含む軟磁性粉末である。軟磁性粉末全体に対するFeおよびCoの合計含有量が90質量%以上である。FeおよびCoの合計含有量に対するFeの含有量が30質量%以上95質量%以下である。軟磁性粉末の平均粒子径が0.10μm以上5.0μm以下である。軟磁性粉末の表面における酸素量が0.010g/m
2以下である。軟磁性粉末の理論密度に対する軟磁性粉末の真密度が90%以上99%以下である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
FeおよびCoを含む軟磁性粉末であって、
前記軟磁性粉末全体に対するFeおよびCoの合計含有量が90質量%以上であり、
前記FeおよびCoの合計含有量に対するFeの含有量が30質量%以上95質量%以下であり、
前記軟磁性粉末の平均粒子径が0.10μm以上5.0μm以下であり、
前記軟磁性粉末の表面における酸素量が0.010g/m2以下であり、
前記軟磁性粉末の理論密度に対する前記軟磁性粉末の真密度が90%以上99%以下である軟磁性粉末。
【請求項2】
さらに副成分を含み、前記軟磁性粉末全体に対する前記副成分の含有量が5質量%以下である請求項1に記載の軟磁性粉末。
【請求項3】
前記副成分がB、Si、P、Cu、V、Ti、Zr、Hf、Nb、Ta、Mo、W、Cr、Ni、Al、Mn、Ag、Zn、S、Sn、As、Sb、Bi、N、Oおよび希土類元素から選択される1種以上である請求項2に記載の軟磁性粉末。
【請求項4】
前記軟磁性粉末の平均粒子径が0.1μm以上1.0μm以下である請求項1~3のいずれかに記載の軟磁性粉末。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載の軟磁性粉末を含む磁性体コア。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軟磁性合金および磁性体コアに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、平均粒子径が0.25~0.80μmであるFe-Co合金粉等に関する発明が記載されている。当該Fe-Co合金粉は、高周波帯域において高いμ´を達成でき、かつ耐熱性が良好である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、比透磁率が高く直流重畳特性が高い磁性体コアの作製に用いられる軟磁性粉末を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の目的を達成するために、本発明の軟磁性合金は、
FeおよびCoを含む軟磁性粉末であって、
前記軟磁性粉末全体に対するFeおよびCoの合計含有量が90質量%以上であり、
前記FeおよびCoの合計含有量に対するFeの含有量が30質量%以上95質量%以下であり、
前記軟磁性粉末の平均粒子径が0.10μm以上5.0μm以下であり、
前記軟磁性粉末の表面における酸素量が0.010g/m2以下であり、
前記軟磁性粉末の理論密度に対する前記軟磁性粉末の真密度が90%以上99%以下である。
【0006】
さらに副成分を含んでもよく、前記軟磁性粉末全体に対する前記副成分の含有量が5質量%以下であってもよい。
【0007】
前記副成分がB、Si、P、Cu、V、Ti、Zr、Hf、Nb、Ta、Mo、W、Cr、Ni、Al、Mn、Ag、Zn、S、Sn、As、Sb、Bi、N、Oおよび希土類元素から選択される1種以上であってもよい。
【0008】
前記軟磁性粉末の平均粒子径が0.1μm以上1.0μm以下であってもよい。
【0009】
本発明の磁性体コアは上記の軟磁性粉末を含む。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】X線結晶構造解析により得られるチャートの一例である。
【
図2】
図1のチャートをプロファイルフィッティングすることにより得られるパターンの一例である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を、実施形態に基づき説明する。
【0012】
(磁性体コア)
本実施形態に係る磁性体コアは後述する本実施形態に係る軟磁性粉末を含む。さらに言えば、本実施形態に係る磁性体コアは、平均粒子径が5.0μmを上回る軟磁性粉末を大径粉、後述する本実施形態に係る平均粒子径が5.0μm以下である軟磁性粉末を小径粉として、大径粉と小径粉とを混合した粉末を用いて作製される。また、大径粉および/または小径粉に含まれる軟磁性粒子が絶縁コーティングされていてもよい。
【0013】
大径粉と小径粉とを混合した粉末を用いて磁性体コアを作製する場合には、大径粉のみ、または、小径粉のみを用いて磁性体コアを作製する場合と比較して、磁性体コアの充填率が向上しやすくなり、比透磁率が向上しやすくなる。大径粉由来の軟磁性粒子同士の間にある空隙を小径粉由来の軟磁性粒子で埋めることができるためである。
【0014】
大径粉の組成および微細構造については特に制限はない。磁性体コアの用途等に応じて適切に選択すればよい。大径粉の微細構造はXRDにより確認することができる。また、TEMを用いて確認することも可能である。
【0015】
大径粉が非晶質からなる構造を有する場合、および、大径粉がナノ結晶からなる構造を有する場合には、磁性体コアの比透磁率が向上しやすくなり、コアロスが低減しやすくなる。
【0016】
非晶質からなる構造は、非晶質のみを有する構造またはヘテロアモルファスからなる構造である。ヘテロアモルファスからなる構造は、初期微結晶が非晶質中に存在する構造のことである。なお、初期微結晶の平均結晶粒径には特に制限はないが、平均結晶粒径が0.3nm以上10nm以下であってもよい。また、非晶質からなる構造は、XRDにより確認することができる非晶質化率が85%以上である。なお、非晶質のみを有する構造であるか、ヘテロアモルファスからなる構造であるかについてはTEMで確認が可能である。ナノ結晶からなる構造は、ナノ結晶を主に含む構造のことである。結晶(ナノ結晶)からなる構造では、XRDにより確認することができる非晶質化率が85%未満である。また、ナノ結晶からなる構造におけるナノ結晶の平均結晶粒径は5nm以上100nm以下である。
【0017】
本実施形態において、下記式(1)に示す非晶質化率Xが85%以上である軟磁性金属粉末は非晶質のみを有する構造またはヘテロアモルファスからなる構造を有し、非晶質化率Xが85%未満である軟磁性金属粉末は結晶からなる構造を有するとする。
X=100-(Ic/(Ic+Ia)×100)…(1)
Ic:結晶性散乱積分強度
Ia:非晶性散乱積分強度
【0018】
非晶質化率Xは、軟磁性金属粉末に対してXRDによりX線結晶構造解析を実施し、相の同定を行い、結晶化したFe又は化合物のピーク(Ic:結晶性散乱積分強度、Ia:非晶性散乱積分強度)を読み取り、そのピーク強度から結晶化率を割り出し、上記式(1)により算出する。以下、算出方法をさらに具体的に説明する。
【0019】
本実施形態に係る軟磁性金属粉末についてXRDによりX線結晶構造解析を行い、
図1に示すようなチャートを得る。これを、下記式(2)のローレンツ関数を用いて、プロファイルフィッティングを行い、
図2に示すような結晶性散乱積分強度を示す結晶成分パターンα
c、非晶性散乱積分強度を示す非晶成分パターンα
a、およびそれらを合わせたパターンα
c+aを得る。得られたパターンの結晶性散乱積分強度および非晶性散乱積分強度から、上記式(1)により非晶質化率Xを求める。なお、測定範囲は、非晶質由来のハローが確認できる回析角2θ=30°~60°の範囲とする。この範囲で、XRDによる実測の積分強度とローレンツ関数を用いて算出した積分強度との誤差が1%以内になるようにした。
【0020】
【0021】
なお、本実施形態の軟磁性合金粉末がナノ結晶を含む場合には、個々の粒子ごとに多数のナノ結晶を含む。すなわち、後述する軟磁性合金粉末の粒子径とナノ結晶の結晶粒径とは異なる。
【0022】
磁性体コアの断面をSEM-EDS等を用いて観察することにより、大径粉由来の軟磁性粒子と小径粉由来の軟磁性粒子とを区別することができる。具体的には、大径粉由来の軟磁性粒子と小径粉由来の軟磁性粒子とはSEM画像における粒子径の違いにより区別することができる。また、大径粉由来の軟磁性粒子と小径粉由来の軟磁性粒子とがSEM画像では区別できない場合がある。大径粉の粒子径の範囲と小径粉の粒子径の範囲とが重複する場合があるためである。その場合には、SEM画像では区別できない軟磁性粒子に対してEDS等を用いて組成分析を行うことで区別することができる。
【0023】
当該断面において、大径粉由来の軟磁性粒子の平均円相当径が5μmを上回り50μm以下であることが好ましい。さらに、小径粉由来の軟磁性粒子の平均円相当径が0.1μm以上5μm以下であることが好ましい。さらに、大径粉由来の軟磁性粒子の平均円相当径が小径粉由来の軟磁性粒子の平均円相当径の2.0倍以上100倍以下であることが好ましい。
【0024】
上記の各平均円相当径が上記の範囲内であることにより、大径粉由来の軟磁性粒子同士の間にある空隙を小径粉由来の軟磁性粒子で効果的に埋めることができる。そのため、磁性体コアの充填率がさらに向上しやすくなり、比透磁率がさらに向上しやすくなる。
【0025】
本実施形態に係るコイル部品は本実施形態に係る磁性体コアを有する。コイル部品の形状等には特に制限はない。本実施形態に係るコイル部品は本実施形態に係る磁性体コアを有することで、高いインダクタンスと良好な直流重畳特性との両方を満足することができる。
【0026】
(軟磁性粉末)
本実施形態に係る軟磁性粉末(上記の小径粉)は、
FeおよびCoを含む軟磁性粉末であって、
軟磁性粉末全体に対するFeおよびCoの合計含有量が90質量%以上であり、
FeおよびCoの合計含有量に対するFeの含有量が30質量%以上95質量%以下であり、
軟磁性粉末の平均粒子径が0.10μm以上5.0μm以下であり、
軟磁性粉末の表面における酸素量が0.010g/m2以下であり、
軟磁性粉末の理論密度に対する軟磁性粉末の真密度が90%以上99%以下である。
【0027】
本実施形態に係る軟磁性粉末は、比透磁率が高く直流重畳特性が高い磁性体コアの作製に用いることができる。具体的には、平均粒子径が5.0μmを上回る軟磁性粉末を大径粉、本実施形態に係る平均粒子径が5.0μm以下である軟磁性粉末を小径粉として、大径粉と小径粉とを混合した粉末を用いて作製される磁性体コアの特性を向上させることができる。
【0028】
本実施形態に係る軟磁性粉末は、上記の通り、軟磁性粉末全体に対するFeおよびCoの合計含有量が90質量%以上であり、FeおよびCoの合計含有量に対するFeの含有量が30質量%以上95質量%以下である。すなわち、本実施形態に係る軟磁性粉末は、主にFeおよびCoを含む。本実施形態に係る軟磁性粉末は、主にFeおよびCoを含むことで、飽和磁化が高くなる。そして、大径粉と小径粉(本実施形態に係る軟磁性粉末)とを混合した粉末を用いて作製される磁性体コアの直流重畳特性を向上させることができる。
【0029】
Feの含有量が少なすぎる場合も多すぎる場合も、飽和磁化が低くなりやすくなる。そして、大径粉と小径粉(Feの含有量が上記の範囲外である軟磁性粉末)とを混合した粉末を用いて作製される磁性体コアの直流重畳特性が低下する。
【0030】
本実施形態に係る軟磁性粉末は、FeおよびCo以外に、さらに副成分を含んでもよい。副成分はB、Si、P、Cu、V、Ti、Zr、Hf、Nb、Ta、Mo、W、Cr、Ni、Al、Mn、Ag、Zn、S、Sn、As、Sb、Bi、N、Oおよび希土類元素から選択される1種以上であってもよく、V、Cr、NiおよびSmから選択される1種以上であってもよい。なお、希土類元素とは、Sc、Yおよびランタノイドを指す。上記の副成分を含むことで本実施形態に係る軟磁性粉末の加工性や耐食性、飽和磁化を制御することができる。なお、加工性を考慮する場合は、上記の副成分の含有量を合計で2質量%以上とすることが好ましい。さらに、軟磁性粉末の磁気特性および耐食性を考慮する場合は、副成分の含有量は軟磁性粉末全体に対して合計で10質量%以下とすることが好ましい。さらに、軟磁性粉末の飽和磁化を考慮する場合は、副成分の含有量は軟磁性粉末全体に対して合計で5質量%以下とすることが好ましい。
【0031】
本実施形態に係る軟磁性粉末は、上記の元素(Fe、Co、B、Si、P、Cu、V、Ti、Zr、Hf、Nb、Ta、Mo、W、Cr、Ni、Al、Mn、Ag、Zn、S、Sn、As、Sb、Bi、N、Oおよび希土類元素)以外の元素を不可避的不純物として含んでもよい。不可避的不純物の含有量は軟磁性粉末全体を100質量%として1質量%以下であってもよい。また、副成分と不可避的不純物との合計含有量が10質量%以下であってもよい。
【0032】
本実施形態に係る軟磁性粉末は、表面における酸素量が0.010g/m2以下である。表面における単位面積あたりの酸素量は軟磁性粉末の表面がどれだけ酸化しているかにより変化する。表面における酸素量が多すぎる場合には、大径粉と小径粉(本実施形態に係る軟磁性粉末)とを混合した粉末を用いて作製される磁性体コアの直流重畳特性が低下しやすくなる。
【0033】
本実施形態に係る軟磁性粉末の平均粒子径が0.10μm以上1.0μm以下であってもよい。本実施形態に係る軟磁性粉末の平均粒子径が0.10μm以上1.0μm以下である場合には、大径粉と小径粉(本実施形態に係る軟磁性粉末)とを混合した粉末を用いて作製される磁性体コアの充填率を向上させやすくなり、比透磁率を向上させやすくなる。
【0034】
(軟磁性粉末の製造方法)
本実施形態に係る軟磁性粉末は、周知の方法で軟磁性粉末を作製し、さらに、メカノケミカル還元法により軟磁性粉末を還元することで作製できる。
【0035】
メカノケミカル還元法により還元する前の軟磁性粉末の作製方法には特に制限はない。例えば、水アトマイズ法やガスアトマイズ法などのアトマイズ法により軟磁性粉末を作製してもよい。また、金属塩の蒸発、還元、熱分解の少なくとも一種以上を用いたCVD法などの合成法により軟磁性粉末を作製してもよい。また、電解法やカーボニル法を用いて軟磁性粉末を作製してもよい。
【0036】
上記の軟磁性粉末の作製方法において軟磁性粉末の作製条件を変更することで、軟磁性粉末に含まれる粉末粒子の一部が中空粒子となる。中空粒子とは、粒子内が空洞になっている粒子のことである。軟磁性粉末に含まれる粉末粒子の一部が中空粒子となるため、軟磁性粉末の理論密度に対する真密度が99%以下となる。中空粒子は粉末製造後に破壊されることがある。中空粒子が破壊された軟磁性粉末は理論密度に対する真密度が100%に近づく。しかし、中空粒子が破壊された軟磁性粉末を用いて作製された磁性体コアは均一性が低下する。そして、中空粒子が破壊された軟磁性粉末を用いて作製された磁性体コアは均一性の低下により直流重畳特性が悪化してしまう。また、中空粒子を含む磁性体コアは直流重畳特性が良好になりやすい。
【0037】
上記の軟磁性粉末の作製方法のうち、例えば、アトマイズ法により軟磁性粉末を作製する場合、中空粒子の数はアトマイズ条件、特にアトマイズ時の水圧力やガス圧力により変化する。アトマイズ時の水圧力やガス圧力が高いほど中空粒子の数が増加する。そして、軟磁性粉末の理論密度に対する真密度が低下する。アトマイズ時の水圧力やガス圧力が高すぎるなどの好適ではないアトマイズ条件でのアトマイズ法により軟磁性粉末を作製することで、軟磁性粉末の理論密度に対する真密度が90%未満になってしまう。軟磁性粉末の理論密度に対する真密度が90%未満になると、透磁率が低下してしまう。軟磁性粉末の理論密度に対する真密度が90%未満になると、磁性体コアにおける磁束の流れが妨げられるためである。
【0038】
また、この時点で軟磁性粉末の平均粒径を目的とする値に制御するために軟磁性粉末を分級してもよい。分級方法には特に制限はないが、平均粒径を概ね0.3μm以上とする場合には旋回気流式分級が好適に用いられる。平均粒径を概ね0.3μm未満とする場合には微分型静電分級が好適に用いられる。
【0039】
得られた軟磁性粉末に対してメカノケミカル還元法により還元することで本実施形態に係る軟磁性粉末を作製できる。
【0040】
以下、メカノケミカル還元法について説明する。
【0041】
軟磁性粉末の還元法としては、水素還元熱処理による還元法が知られている。
【0042】
しかし、水素還元熱処理による還元法で軟磁性粉末を還元する場合には、軟磁性粉末が凝集しやすいという欠点がある。軟磁性粉末が凝集しすぎることで軟磁性粉末の理論密度に対する真密度が低くなりすぎる。その結果、水素還元熱処理による還元法で還元した軟磁性粉末を用いて磁性体コアを作製しても充填率が十分に高くならず、比透磁率が十分に高くならない。
【0043】
メカノケミカル還元法とは、メカノフュージョン装置を軟磁性粉末の還元に応用する還元法である。メカノフュージョン装置は、従来、各種粉末のコーティング処理に用いられてきた装置である。本発明者らは、メカノフュージョン装置を軟磁性粉末の還元に用いることで、軟磁性粉末の凝集を防ぎながら還元を好適に進行させることができることを見出した。
【0044】
メカノケミカル還元法では、まず、メカノフュージョン装置内を水素雰囲気にする。次に、回転ロータ内に還元前の軟磁性粉末を導入する。そして、回転ロータの内壁面とプレスヘッドとの間隔(ギャップ)および回転ロータの回転数を制御しながらロータを回転させる。
【0045】
回転ロータの回転により、軟磁性粉末と回転ロータの内壁面との摩擦により軟磁性粉末が局所的に高温になる。そして、軟磁性粉末が局所的に高温になりながら還元される。その結果、メカノケミカル還元法による還元では、凝集した軟磁性粉末の解砕と軟磁性粉末の還元とが同時に行われる。したがって、軟磁性粉末の凝集を防ぎながら還元を好適に進行させることができる。
【0046】
回転ロータの回転数が低いほど軟磁性粉末の還元が好適に進行しにくくなる。その結果、軟磁性粉末の表面の酸素量が大きくなる。また、回転ロータの回転数が高すぎると軟磁性粉末に含まれる中空粒子が破壊されやすくなる。
【0047】
回転ロータの内壁面とプレスヘッドとのギャップが小さいほど軟磁性粉末が凝集しにくくなり軟磁性粉末の表面の酸素量が低下する。しかし、回転ロータの内壁面とプレスヘッドとのギャップが小さいほど軟磁性粉末の粉末粒子、特に上記の中空粒子が破壊されやすくなる。その結果、軟磁性粉末の理論密度に対する真密度が高くなりすぎてしまう。さらに、中空粒子が破壊されることで細長い形状の粉末粒子の割合が大きくなってしまう。その結果、大径粉と小径粉(理論密度に対する真密度が高すぎる軟磁性粉末)とを混合した粉末を用いて作製される磁性体コアの直流重畳特性が低下しやすくなる。
【0048】
回転ロータの内壁面とプレスヘッドとのギャップが大きいほど軟磁性粉末が凝集しやすくなる。凝集した軟磁性粉末の解砕が進行しにくくなるためである。その結果、凝集した軟磁性粉末の解砕が不十分となる。そのため、粉末粒子間の空隙が残存し、軟磁性粉末の理論密度に対する真密度が低くなりすぎてしまう。さらに、大径粉と小径粉(理論密度に対する真密度が低すぎる軟磁性粉末)とを混合した粉末を用いて作製される磁性体コアの直流重畳特性が低下しやすくなる。
【0049】
(磁性体コアの製造方法)
本実施形態に係る磁性体コアの製造方法には特に制限はない。大径粉と小径粉(本実施形態に係る軟磁性粉末)とを混合する工程を含んでいればよい。大径粉と小径粉とを混合したのちに周知の方法で実施形態に係る磁性体コアを作製してもよい。例えば、大径粉と小径粉とを混合したのちに熱硬化性樹脂と混錬させて樹脂コンパウンドを作製し、樹脂コンパウンドを金型に充填し、加圧成形し、樹脂を熱硬化させて本実施形態に係る磁性体コア(圧粉コア)を作製してもよい。
【0050】
本実施形態に係る磁性体コアの用途には特に制限はない。例えば、インダクタ、チョークコイル、トランス等のコイル部品が挙げられる。特に、本実施形態に係る磁性体コアをコイル部品に用いる場合には高いインダクタンスおよび良好な直流重畳特性の両方を満足するコイル部品が得られる。
【実施例0051】
以下、本発明をさらに詳細な実施例に基づき説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
【0052】
まず、表1~表5に記載された組成の母合金が得られるように、Fe、Coおよび副成分の純金属材料をそれぞれ秤量した。そして、チャンバー内で真空引きした後、高周波加熱にて溶解し母合金を作製した。
【0053】
その後、作製した母合金を1500℃で加熱して溶融させた。そして、高圧水アトマイズ法にて、表1~表5に示す組成の軟磁性粉末を作製した。次に、表1~表5に示す平均粒径の粉末が得られるように分級した。平均粒径が0.30μm以上である粉末を得る場合は旋回気流式分級機(日清エンジニアリング社製エアロファインクラシファイア)を用いて分級した。平均粒径が0.30μm未満である粉末を得る場合は微分型静電分級器(TSI社製Model3082)を用いて分級した。
【0054】
次に、分級後の軟磁性粉末に対してメカノケミカル還元を実施した。メカノフュージョン装置(ホソカワミクロン製AMS-Lab)を準備した。次に、メカノフュージョン装置の内部を水素雰囲気とした。次に、分級後の軟磁性粉末をメカノフュージョン装置の回転ロータに導入して回転ロータを回転させた。この際に、回転ロータの回転数および回転ロータの内壁面とプレスヘッドとのギャップを表1~表5に示す値とした。
【0055】
得られた軟磁性粉末の平均粒径(D50)が表1~表5に示す値となっていることはレーザ回折式の粒度分布測定装置(HELOS&RODOS、Sympatec社)を用いて確認した。
【0056】
得られた軟磁性粉末の表面における単位面積当たりの酸素量はLECO製TC6600を用いて測定した。
【0057】
得られた軟磁性粉末の飽和磁化は振動試料磁力計(東英工業株式会社製 VSM-3S-15)を用いて、外部磁場795.8kA/m(10kOe)で測定した。飽和磁化は1.80T以上が良好であり、2.20T以上が特に良好である。
【0058】
飽和磁化について2.20T以上を特に良好とするのは、従来、小径粉として用いられてきた純鉄粉の飽和磁化およびパーマロイ粉の飽和磁化はいずれも2.15T程度が上限であったためである。
【0059】
得られた軟磁性粉末の真密度はワードン型ピクノメーターを用いたアルキメデス法で測定した。得られた軟磁性粉末の理論密度は軟磁性粉末の組成から算出した。そして、理論密度に対する真密度の割合を算出した。
【0060】
次に、得られた軟磁性粉末(小径粉)を他の軟磁性粉末(大径粉)と混合して磁性体コアを作製した。
【0061】
上記の他の軟磁性粉末(大径粉)として、Fe-Si-Cr-B-C系の軟磁性粉末(エプソンアトミックス社製KUAMET 6B2)を準備した。当該軟磁性粉末は平均粒径(D50)が23μmであり、非晶質からなる構造を有する。
【0062】
次に、大径粉と小径粉とを質量比で80:20となる割合で混合した。そして、混合して得られた軟磁性粉末をエポキシ樹脂と混錬して樹脂コンパウンドを作製した。樹脂コンパウンドに占める軟磁性粉末の質量比率が2.5質量%となるようにした。エポキシ樹脂としては日鉄ケミカル&マテリアル社製YSLV-80XYを用いた。
【0063】
得られた樹脂コンパウンドを所定のトロイダル形状の金型に充填させた。そして、最終的に得られるトロイダルコアの充填率が約80%となるように成形圧を制御して成形体を得た。具体的には、成形圧は1~10ton/cm2の範囲内で制御した。その後に得られた成形体に含まれる樹脂を180℃で60分、熱硬化させてトロイダルコア(外径11mm、内径6.5mm、厚み2.5mm)を作製した。
【0064】
トロイダルコアにおける軟磁性粉末の充填率ηは、トロイダルコアの寸法と質量から算出したトロイダルコアの密度を、各種材料の比重から算出されるトロイダルコアの理論密度で割って算出した。
【0065】
トロイダルコアにおける比透磁率は、LCRメータ(アジレント・テクノロジー社製4284A)と直流バイアス電源(アジレント・テクノロジー社製42841A)を用いて、周波数100kHzにおける圧粉磁心のインダクタンスを測定し、インダクタンスから算出した。直流重畳磁界が0A/mの場合の比透磁率をμ0、直流重畳磁界が8000A/mの場合の比透磁率をμ8kとした。μ0は40以上である場合を良好とした。μ8kは30以上である場合を良好とした。そして、μ8k/μ0を算出した。μ8k/μ0が高いほど直流重畳特性が良好である。
【0066】
【0067】
【0068】
【0069】
【0070】
【0071】
表1はFeの含有量を変化させた点以外は同条件で実施した実施例および比較例を示す。FeおよびCoの合計含有量に対するFeの含有量が30質量%以上95質量%以下である実施例の軟磁性粉末(小径粉)は飽和磁化および理論密度に対する真密度が高くなった。そして、小径粉を大径粉と混合してコアを作製した場合においてμ8kが高く直流重畳特性が高いコアが得られた。これに対し、Feの含有量が少なすぎる比較例の軟磁性粉末(小径粉)は他の実施例と比較して飽和磁化が低くなった。そして、小径粉を大径粉と混合してコアを作製した場合においてμ8kが低く直流重畳特性が低いコアが得られた。また、Feの含有量が多すぎる比較例の軟磁性粉末(小径粉)は他の実施例と比較して飽和磁化が低くなった。そして、小径粉を大径粉と混合してコアを作製した場合においてμ8kが低く直流重畳特性が低いコアが得られた。
【0072】
表2は表1の試料No.4について、回転ロータの内壁面とプレスヘッドとのギャップを変化させた点以外は同条件で実施した実施例および比較例を示す。回転ロータの内壁面とプレスヘッドとのギャップが小さいほど軟磁性粉末の理論密度に対する真密度が上昇し、表面における酸素量が減少した。そして、理論密度に対する真密度が所定の範囲内である軟磁性粉末(小径粉)を大径粉と混合してコアを作製した場合において、良好な比透磁率および直流重畳特性を有するコアが得られた。これに対し、理論密度に対する真密度が高すぎる比較例では、コアのμ8kが低下し直流重畳特性が低下した。また、理論密度に対する真密度が低すぎる比較例では、コアのμ0が低下した。
【0073】
表3は表1の試料No.4について、軟磁性粉末の平均粒子径を変化させた点、および、平均粒子径が変化しても軟磁性粉末の表面における酸素量が変化しないように回転ロータの内壁面とプレスヘッドとのギャップを変化させた点以外は同条件で実施した実施例および比較例を示す。平均粒径が所定の範囲内である軟磁性粉末(小径粉)を大径粉と混合してコアを作製した場合において、充填率が高くなり良好な比透磁率および直流重畳特性を有するコアが得られた。これに対し、平均粒径が小さい場合でも大きい場合でも、軟磁性粉末の理論密度に対する真密度が低下した。そして、コアの充填率および比透磁率が低下した。
【0074】
表4は表1の試料No.4について、回転ロータの回転数を変化させた点以外は同条件で実施した実施例および比較例を示す。回転ロータの回転数が低いほど軟磁性粉末の表面における酸素量が増加し、飽和磁化が低下した。そして、表面における酸素量が所定の範囲内である軟磁性粉末(小径粉)を大径粉と混合してコアを作製した場合において、良好な比透磁率および直流重畳特性を有するコアが得られた。これに対し、表面における酸素量が多すぎる比較例ではコアのμ8kが低下し直流重畳特性が低下した。
【0075】
表5は表1の試料番号2a、3または4について、副成分を添加した点以外は同条件で実施した実施例を示す。組成、平均粒子径、表面における酸素量および理論密度に対する真密度が所定の範囲内である軟磁性粉末(小径粉)を大径粉と混合してコアを作製した場合において、良好な比透磁率および直流重畳特性を有するコアが得られた。なお、副成分の含有量が5質量%以下である軟磁性粉末(小径粉)は副成分の含有量が5質量%を上回る点以外は実質的に同条件で作製した軟磁性粉末(小径粉)と比較して飽和磁化が高くなった。