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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022152471
(43)【公開日】2022-10-12
(54)【発明の名称】摩擦材
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/14 20060101AFI20221004BHJP
   F16D 13/62 20060101ALI20221004BHJP
   F16D 69/02 20060101ALI20221004BHJP
【FI】
C09K3/14 520M
C09K3/14 520E
F16D13/62 A
F16D69/02 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021055257
(22)【出願日】2021-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000000516
【氏名又は名称】曙ブレーキ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木村 健太
(72)【発明者】
【氏名】宮道 素行
(72)【発明者】
【氏名】山本 博司
(72)【発明者】
【氏名】大輪 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 裕太
【テーマコード(参考)】
3J056
3J058
【Fターム(参考)】
3J056AA31
3J056BA01
3J056CA04
3J056EA02
3J056EA12
3J056EA28
3J056GA12
3J056GA26
3J058AA41
3J058BA80
3J058CA42
3J058GA33
3J058GA73
3J058GA92
3J058GA95
(57)【要約】
【課題】相手材攻撃性が低く、優れた錆落とし特性を有する摩擦材を提供すること。
【解決手段】摩擦調整材、結合材及び繊維基材を含む摩擦材であって、前記繊維基材として、アルミナ繊維を含有し、前記アルミナ繊維の含有量が0.1~1.0質量%である、摩擦材。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
摩擦調整材、結合材及び繊維基材を含む摩擦材であって、
前記繊維基材として、アルミナ繊維を含有し、
前記アルミナ繊維の含有量が0.1~1.0質量%である、摩擦材。
【請求項2】
前記アルミナ繊維がAl及びSiOを含有し、
Al及びSiOの化学組成比が、Al:SiO=70~80:30~20である、請求項1に記載の摩擦材。
【請求項3】
前記アルミナ繊維の平均繊維長が50~150μmである、請求項1又は2に記載の摩擦材。
【請求項4】
銅成分を含有しない、請求項1~3のいずれか1項に記載の摩擦材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車、鉄道車両及び産業機械等に用いられる摩擦材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、摩擦材には様々な性能が求められており、例えば、その一つとして錆落とし特性が挙げられる。錆落とし特性とは、雨天時などの環境要因によって相手材であるディスクロータ表面に発生した錆を掻き落とす性能であり、発生した錆によるブレーキ鳴きや摩擦材の早期摩耗を抑制する観点から重要視されている。
【0003】
錆落とし特性が高い摩擦材としては、例えば、特許文献1では、繊維基材と充填材と結合剤を主成分に有する摩擦材であって、前記繊維基材は、非金属無機材料を原料とし、モース硬度が4~8の中硬度の無機繊維を有しており、かつ長さ5μm以上、直径3μm以下、アスペクト比(長さ/直径)が3を超える無機繊維を有しておらず、前記充填材は、ゴムを有しており、前記中硬度の無機繊維の添加量と前記ゴムの添加量の体積比率が2:1~10:1であることを特徴とする摩擦材が開示されている。
【0004】
一方、近年ハイブリッド車や電気自動車特有の回生協調ブレーキが普及したことにより、制動の一部を回生ブレーキが担っている。そのため、従来の油圧ブレーキシステムと比較して摩擦による制動の割合及び制動負荷が低下している。その結果、特許文献1に記載されているような従来の摩擦材では、相手材であるディスクロータ表面に発生した錆を十分に落とすことが困難になっている。
【0005】
そこで、錆落とし特性をさらに向上させた摩擦材として、例えば、特許文献2では、繊維基質、結合材、および充填材を含んでなる摩擦材用組成物であり、該繊維基質中に、繊維長が異なる少なくとも2種類の生体溶解性のセラミック繊維を含む、摩擦材用組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007-186591号公報
【特許文献2】国際公開第2007/080975号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、本発明者らの検討によると、特許文献2に記載の摩擦材においては、多量のセラミック繊維が必要であり、セラミック繊維の研削性により相手材攻撃性が高くなるという問題がある。
【0008】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、相手材攻撃性が低く、優れた錆落とし特性を有する摩擦材を提供することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、摩擦材に、繊維基材として、特定量のアルミナ繊維を含有させることで、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は下記<1>~<4>に関するものである。
<1>摩擦調整材、結合材及び繊維基材を含む摩擦材であって、
前記繊維基材として、アルミナ繊維を含有し、
前記アルミナ繊維の含有量が0.1~1.0質量%である、摩擦材。
<2>前記アルミナ繊維がAl及びSiOを含有し、
Al及びSiOの化学組成比が、Al:SiO=70~80:30~20である、<1>に記載の摩擦材。
<3>前記アルミナ繊維の平均繊維長が50~150μmである、<1>又は<2>に記載の摩擦材。
<4>銅成分を含有しない、<1>~<3>のいずれか1つに記載の摩擦材。
【発明の効果】
【0011】
本発明の摩擦材は、相手材攻撃性が低く、優れた錆落とし特性を有する。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について詳述するが、これらは望ましい実施態様の一例を示すものであり、本発明はこれらの内容に特定されるものではない。
【0013】
本発明の摩擦材は、摩擦調整材、結合材及び繊維基材を含む。
以下、各成分について詳細に説明する。
【0014】
<摩擦調整材>
摩擦調整材は、耐摩耗性、耐熱性、耐フェード性等の所望の摩擦特性を摩擦材に付与するために用いられる。
【0015】
摩擦調整材としては、例えば、無機充填材、有機充填材、研削材、潤滑材、金属粉末等を挙げることができる。
【0016】
無機充填材としては、例えば、チタン酸カリウム、チタン酸リチウム、チタン酸リチウムカリウム、チタン酸ナトリウム、チタン酸カルシウム、チタン酸マグネシウム、チタン酸マグネシウムカリウム等のチタン酸塩、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、バーミキュライト、マイカ等の無機材料が挙げられる。これらは各々単独で、または2種以上組み合わせて用いられる。
【0017】
無機充填材は、摩擦材全体中、好ましくは30~80質量%、より好ましくは40~70質量%用いられる。
【0018】
有機充填材としては、例えば、各種ゴム粉末(生ゴム粉末、タイヤ粉末等)、ゴムダスト、レジンダスト、カシューダスト、タイヤトレッド、メラミンダスト等が挙げられる。これらは各々単独、または2種以上組み合わせて用いられる。
【0019】
有機充填材は、摩擦材全体中、好ましくは1~15質量%、より好ましくは1~10質量%用いられる。
【0020】
研削材としては、例えば、酸化ジルコニウム、アルミナ、シリカ、酸化マグネシウム、ジルコニア、珪酸ジルコニウム、酸化クロム、四三酸化鉄(Fe)、クロマイト等が挙げられる。これらは各々単独で、または2種以上組み合わせて用いられる。
【0021】
研削材は、摩擦材全体中、好ましくは1~20質量%、より好ましくは3~15質量%用いられる。
【0022】
潤滑材としては、例えば、黒鉛(グラファイト)、コークス、三硫化アンチモン、二硫化モリブデン、硫化スズ、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等が挙げられる。これらは各々単独で、または2種以上組み合わせて用いられる。
【0023】
潤滑材は、摩擦材全体中、好ましくは1~20質量%、より好ましくは3~15質量%用いられる。
【0024】
金属粉末としては、例えば、アルミニウム、スズ、亜鉛等の粉末が挙げられる。これらは各々単独、または2種以上組み合わせて用いられる。
【0025】
金属粉末は、摩擦材全体中、好ましくは1~10質量%、より好ましくは1~5質量%用いられる。
【0026】
摩擦調整材は、上記所望の摩擦特性を摩擦材に十分付与する観点から、摩擦材全体中、好ましくは60~90質量%、より好ましくは70~90質量%用いられる。
【0027】
<結合材>
結合材としては、通常用いられる種々の結合材を用いることができる。具体的には、フェノール樹脂、エラストマー等による各種変性フェノール樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂等の熱硬化性樹脂が挙げられる。
【0028】
エラストマー変性フェノール樹脂としては、例えば、アクリルゴム変性フェノール樹脂、シリコーンゴム変性フェノール樹脂、ニトリルゴム(NBR)変性フェノール樹脂等が挙げられる。これらは各々単独で、または2種以上組み合わせて用いられる。
【0029】
結合材は、摩擦材の成形性の観点から、摩擦材全体中、好ましくは1~20質量%、より好ましくは3~15質量%用いられる。
【0030】
<繊維基材>
本発明の摩擦材は、繊維基材として、アルミナ繊維を含有する。本発明の摩擦材中のアルミナ繊維の含有量は0.1~1.0質量%である。本発明の摩擦材に0.1~1.0質量%のアルミナ繊維を含有させることで、相手材であるディスクロータ表面に発生した錆を良好に落とすことが可能である。
【0031】
また、アルミナ繊維製造過程での焼成温度制御によって本発明の摩擦材の研削性を抑制することができ、アルミナ繊維の適切な配合量を選択することにより本発明の摩擦材の相手材への攻撃性を低下させることが可能である。よって、本発明の摩擦材を、相手材攻撃性が低く、優れた錆落とし特性を有するものにすることができる。
【0032】
アルミナ繊維の摩擦材全体中の含有量は、0.1~0.8質量%が好ましく、より好ましくは0.2~0.5質量%である。
【0033】
なお、アルミナ繊維とは、アルミナ(Al)及びシリカ(SiO)を主成分として含有する人造鉱物繊維のことである。アルミナ繊維におけるAl及びSiOの化学組成比は、Al:SiO=70~80:30~20が好ましく、より好ましくはAl:SiO=70:30である。
【0034】
また、アルミナ繊維の平均繊維長は50~150μm、平均繊維径は1~10μmが好ましい。なお、本発明においてアルミナ繊維の平均繊維長及び平均繊維径は、マイクロスコープ等により観察することによって測定できる。
【0035】
アルミナ繊維は従来公知の方法によって製造できる。例えば、アルミニウム塩類の溶液等に有機重合体を加えて増粘し、これを機械的に繊維化して焼成する、いわゆる前駆体繊維法が用いられる。
【0036】
繊維基材としては、上記のものの他に、例えば、有機繊維、無機繊維等が挙げられる。繊維基材は各々単独で、または2種以上組み合わせて用いられる。
【0037】
有機繊維としては、例えば、芳香族ポリアミド(アラミド)繊維、耐炎性アクリル繊維等が挙げられる。
【0038】
無機繊維としては、例えば、生体溶解性無機繊維、セラミック繊維、ガラス繊維、カーボン繊維、ロックウール等が挙げられる。生体溶解性無機繊維としては、例えば、SiO-CaO-MgO系繊維、SiO-CaO-MgO-Al系繊維、SiO-MgO-SrO系繊維等の生体溶解性セラミック繊維や生体溶解性ロックウール等が挙げられる。
【0039】
繊維基材は、摩擦材の強度確保の観点から、摩擦材全体中、好ましくは3~30質量%、より好ましくは5~20質量%用いられる。
【0040】
なお、環境負荷低減の観点から、本発明の摩擦材は、銅成分を含有しないことが好ましい。
【0041】
<摩擦材の製造方法>
本発明の摩擦材は、公知の製造工程により製造でき、例えば、上記各成分を配合し、その配合物を通常の製法に従って予備成形、熱成形、加熱、研摩等の工程を経て摩擦材を製造することができる。
【0042】
摩擦材を備えたブレーキパッドの製造方法は、一般的に以下の工程を有する。
(a)板金プレスによりプレッシャプレートを所定の形状に成形する工程
(b)上記プレッシャプレートに脱脂処理、化成処理及びプライマー処理を施し、接着剤を塗布する工程
(c)摩擦調整材、結合材及び繊維基材等の原料を配合し、混合により十分に均質化して、常温にて所定の圧力で成形して予備成形体を作製する工程
(d)上記予備成形体と接着剤が塗布されたプレッシャプレートとを、所定の温度及び圧力を加えて両部材を一体に固着する熱成形工程(成形温度130~180℃、成形圧力30~80MPa、成形時間2~10分間)
(e)アフターキュア(150~300℃、1~5時間)を行って、最終的に研摩、スコーチ、及び塗装等の仕上げ処理を施す工程
【実施例0043】
以下に実施例を挙げ、本発明を具体的に説明するが、本発明は何らこれらに限定されるものではない。
【0044】
(実施例1~8、比較例1~4)
表2に示す配合材料を、混合撹拌機に一括して投入し、常温で4分間混合し、混合物を得た。
【0045】
なお、アルミナ繊維としては、以下のものを用いた。
アルミナ繊維A Al:SiO=70:30(化学組成比)、平均繊維長50μm
アルミナ繊維B Al:SiO=70:30(化学組成比)、平均繊維長100μm
アルミナ繊維C Al:SiO=70:30(化学組成比)、平均繊維長150μm
アルミナ繊維D Al:SiO=80:20(化学組成比)、平均繊維長100μm
得られた混合物を以下の(i)予備成形、(ii)熱成形、(iii)熱処理及びスコーチの工程を経て、摩擦材を作製した。
【0046】
(i)予備成形
混合物を予備成形プレスの金型に投入し、常温にて20MPaで10秒間成形を行い、予備成形体を作製した。
(ii)熱成形
この予備成形体を熱成形型に投入し、予め接着剤を塗布した金属板(プレッシャプレート)を重ね、150℃、40MPaで5分間加熱加圧成形を行った。
(iii)熱処理、スコーチ
この加熱加圧成形体に、250℃、3時間の熱処理を実施した後、表面を研摩した。
次いで、この加熱加圧成形体の表面にスコーチ処理を施し、仕上げに塗装を行い、摩擦材を得た。
【0047】
実施例1~8、比較例1~4で得られた摩擦材に対して以下の方法により、錆落とし特性、相手材攻撃性の評価を行った。結果を表2に示す。
【0048】
<錆落とし特性>
上記で得られた摩擦材、新品ロータ及び錆ディスクロータを使用し、表1に記載の試験条件による錆落とし試験を1/7スケールテスタにて実施した。
また、錆落とし試験中、下記の制動回数でディスクロータ摩耗量を測定した。
試験前(0回)、10回、30回、50回、100回、150回、200回
【0049】
なお、錆ディスクロータは下記に示す手順によって得た。
(a)5質量%の塩水溶液をディスクロータに噴霧した。
(b)上記(a)のディスクロータをJIS D4419に準拠して温度50℃±1℃、湿度95±1%に保たれた恒温恒湿槽にて3時間15分放置し、その後70±1℃、湿度15±1%の条件で2時間30分乾燥した。
(c)上記(b)の操作を錆厚み70μmになるまで繰り返した。
【0050】
【表1】
【0051】
下記式に基づき、100回制動後の錆落とし率を算出した。
【0052】
【数1】
【0053】
算出した錆落とし率を下記基準に基づき評価した。
◎:100%以上
○:90%以上100%未満
△:80%以上90%未満
×:80%未満
【0054】
<相手材攻撃性>
上記で得られた摩擦材をテストピースに加工し、面圧0.08MPaでディスクロータに押し付け、速度60km/hで試験を実施した。40時間後のディスクロータ摩耗量を測定した。
【0055】
測定したディスクロータ摩耗量を下記基準に基づき評価した。
◎:10μm未満
○:10μm以上15μm未満
△:15μm以上20μm未満
×:20μm以上
【0056】
【表2】
【0057】
表2の結果から、実施例1~8に係る摩擦材は、相手材攻撃性が低く、優れた錆落とし特性を有することが分かった。