(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022152473
(43)【公開日】2022-10-12
(54)【発明の名称】SOC推定システム
(51)【国際特許分類】
B60L 3/00 20190101AFI20221004BHJP
B60L 50/60 20190101ALI20221004BHJP
B60L 58/12 20190101ALI20221004BHJP
H02J 7/00 20060101ALI20221004BHJP
H01M 10/48 20060101ALI20221004BHJP
G01R 31/3842 20190101ALI20221004BHJP
【FI】
B60L3/00 S
B60L50/60
B60L58/12
H02J7/00 P
H02J7/00 X
H01M10/48 P
G01R31/3842
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021055259
(22)【出願日】2021-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100207181
【弁理士】
【氏名又は名称】岡村 朋
(72)【発明者】
【氏名】桑原 唯
(72)【発明者】
【氏名】村山 一郎
【テーマコード(参考)】
2G216
5G503
5H030
5H125
【Fターム(参考)】
2G216BA03
2G216BA43
5G503AA01
5G503AA07
5G503BB02
5G503CA03
5G503CA11
5G503DA08
5G503EA05
5G503FA06
5G503GB06
5H030AA01
5H030AS08
5H030FF42
5H030FF43
5H030FF44
5H125AA11
5H125AC12
5H125BC01
5H125BC08
5H125EE22
5H125EE23
5H125EE27
5H125EE51
(57)【要約】
【課題】本発明では、精度良く二次電池のSOCを推定できるSOC推定システムを提供することを課題とする。
【解決手段】無人搬送車1に設けられた二次電池10のSOC推定システムであって、二次電池10の放電電流を測定する電流測定部22と、二次電池10の端子間電圧を測定する電圧測定部21と、電流測定部22による電流測定値と電圧測定部21による電圧測定値とから二次電池10のSOCを推定するSOC推定部23と、を備え、無人搬送車1が決められた走行時測定区間A1を走行する間であって、二次電池10の放電電流値を上昇させていく過程において、電流測定部22が電流値、電圧測定部21が電圧値をそれぞれ測定し、SOC推定部23が二次電池10のSOCを推定することを特徴とする。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
無人搬送車に設けられた二次電池のSOC推定システムであって、
前記二次電池の放電電流を測定する電流測定部と、
前記二次電池の端子間電圧を測定する電圧測定部と、
前記電流測定部による電流測定値と前記電圧測定部による電圧測定値とから前記二次電池のSOCを推定するSOC推定部と、を備え、
前記無人搬送車が決められた走行時測定区間を走行する間であって、前記二次電池の放電電流値を上昇させていく過程において、前記電流測定部が電流値、前記電圧測定部が電圧値をそれぞれ測定し、前記SOC推定部が前記二次電池のSOCを推定することを特徴とするSOC推定システム。
【請求項2】
前記電流測定部は前記二次電池への充電電流の電流値を測定し、
前記二次電池への充電電流を測定する充電時測定区間を設け、
前記充電時測定区間において、前記電流測定部が電流値、前記電圧測定部が電圧値をそれぞれ測定し、前記SOC推定部が、請求項1記載の走行時測定区間の測定結果と前記充電時測定区間の測定結果とに基づいて、前記二次電池のSOCを推定する請求項1記載のSOC推定システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、SOC推定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、組み立てが完了した車両の運搬などに無人搬送車が用いられる。無人搬送車は電動機と二次電池とを備えており、放電と充電を繰り返しながら定められたルートを巡回し、車両を搬送する。
【0003】
この種の無人搬送車では、二次電池に充電する際の過充電を防止する等のために、二次電池のSOC(State Of Charge)を推定することが重要になる。
【0004】
SOCの推定方法としては、走行パターンに応じた電力消費量を予測する方法がある。例えば特許文献1では、無人搬送車の加速区間あるいは減速区間のSOC変動量を加味して走行時の電力消費量を推定する。そして、この推定に基づいて蓄電装置の充放電を行うことでSOCの変動量を小さく抑えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
無人搬送車の走行中にSOCの推定を行う場合、路面の状態や積載の有無などにより無人搬送車を搬送させるための負荷が変動するため、精度良くSOCを推定することは困難である。
【0007】
本発明では、精度良く二次電池のSOCを推定できるSOC推定システムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するため、本発明は、無人搬送車に設けられた二次電池のSOC推定システムであって、前記二次電池の放電電流を測定する電流測定部と、前記二次電池の端子間電圧を測定する電圧測定部と、前記電流測定部による電流測定値と前記電圧測定部による電圧測定値とから前記二次電池のSOCを推定するSOC推定部と、を備え、前記無人搬送車が決められた走行時測定区間を走行する間であって、前記二次電池の放電電流値を上昇させていく過程において、前記電流測定部が電流値、前記電圧測定部が電圧値をそれぞれ測定し、前記SOC推定部が前記二次電池のSOCを推定することを特徴とする。
【0009】
本発明によれば、測定のための専用区間を設けることで、均一な条件での測定が可能になる。つまり、路面の凹凸や傾斜、直線路か曲線路か等の走行路の条件の違いによる測定のバラつきを排することができる。またこの測定区間で、放電電流値が上昇していく過程の電流値と電圧値を測定することで、各電流値に対する電圧値を測定できる。以上により、バラつきの少ない電流電圧値直線をプロットできる。そして、この結果から二次電池のSOCを推定することにより、SOCの推定精度を向上させることができる。
【0010】
上記SOC推定システムは、前記電流測定部は前記二次電池への充電電流の電流値を測定し、前記二次電池への充電電流を測定する充電時測定区間を設け、前記充電時測定区間において、前記電流測定部が電流値、前記電圧測定部が電圧値をそれぞれ測定し、前記SOC推定部が、上記の走行時測定区間の測定結果と前記充電時測定区間の測定結果とに基づいて、前記二次電池のSOCを推定することができる。放電側と充電側の両方の電流電圧値のプロットからSOCを推定することができるため、より精度よくSOCを推定することが可能になる。
【発明の効果】
【0011】
本発明のSOC推定システムによれば、二次電池のSOCを精度良く推定できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】工場からコンテナヤードまで車両を自動で搬送する自動搬送システムを示す平面図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る無人搬送車の概略構成図である。
【
図3】無人搬送車の走行時の負荷の推移を示す図である。
【
図4】無人搬送車の走行時に測定される二次電池の電流値と電圧値の関係を示す図で、(a)図が全ルート、(b)図が測定区間を走行時の結果を示す図である。
【
図5】無人搬送車の無積載状態と積載状態との測定結果の違いを示す図である。
【
図6】充電時における二次電池の状態の推移を示す図で、(a)図が二次電池に充電される電流値、(b)図が二次電池の電圧値を示す図である。
【
図7】無人搬送車の二次電池の電流値と電圧値の関係を示す図で、放電側と充電側の両方を測定した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0014】
本発明の一実施形態に係る無人搬送車1は、
図1に示すように、工場Fで完成した車両Cを、車両待機場であるコンテナヤードYに搬送するものである。無人搬送車1は、システム制御部Sからの無線指令(点線矢印)に従って、工場FとコンテナヤードYとの間を往復する。
【0015】
無人搬送車1の走行路上であって、例えば工場F内の車両Cを積載する位置よりも手前には、充電ステーション2が配置される。充電ステーション2で、無人搬送車1に設けられた二次電池への充電が行われる。
【0016】
充電ステーション2よりも無人搬送車1の手前には、走行時測定区間A1が設けられる。走行時測定区間A1は、二次電池のSOCを推定するための測定を行う専用の区間である。走行時測定区間A1は、無人搬送車1が直進する経路であり、その路面が平坦な区間が選ばれている。また、走行時測定区間A1は無人搬送車1が車両Cを積載する位置よりも走行経路の上流側に設けられている。つまり、走行時測定区間A1において無人搬送車1は車両Cを積載していない。ただし、走行時測定区間A1は本実施形態の配置に限らない。
【0017】
図2に示すように、無人搬送車1は、二次電池10、駆動輪11、電動機としての走行用モータ12および回生用モータ13、受信器14、制御部20等を備える。
【0018】
二次電池10は、例えばリチウムイオン電池である。二次電池10は走行用モータ12に電力を供給する。電力を供給された走行用モータ12は駆動輪11を駆動させる。また、無人搬送車1の減速時には、駆動輪11の駆動力を回生用モータ13が電気エネルギーに変換し、二次電池10に充電する。また、二次電池10と走行用モータ12との間、あるいは、回生用モータ13との間には図示しないインバータが設けられる。
【0019】
制御部20は、電圧測定部21、電流測定部22、SOC推定部23等を備える。制御部20は、無人搬送車1において、二次電池10のSOCを推定するSOC推定システムを構成する。電圧測定部21により、二次電池10の端子間電圧が測定される。電流測定部22により、二次電池10が放電する電流値、あるいは、二次電池10に充電される電流値が測定される。SOC推定部23は、電圧測定部21および電流測定部22の測定値に基づいて、二次電池10のSOC(以下、単にSOCとも呼ぶ)を推定する。
【0020】
受信器14は、システム制御部S(
図1参照)からの無線指令を受信して制御部20に送信する。制御部20は、システム制御部Sからの無線指令に従って、駆動輪11を動かし、無人搬送車1を所定ルート内で走行させる。
【0021】
次に、走行時測定区間A1(
図1参照)における二次電池10の電流値および電圧値の測定、そして、SOCの推定方法について、
図3および
図4を用いて説明する。
図3は無人搬送車1の走行時の二次電池10の負荷(二次電池10が放電する電流の値)を示す図で、横軸に走行時間〔s〕、縦軸に二次電池10が放電する電流値〔A〕を示している。また、
図4は無人搬送車1を5〔km/h〕で走行させた場合に測定される電流値と電圧値の関係を示しており、(a)図が全ルートを走行させた場合、(b)図が測定区間A1を走行させた場合の値である。各図の横軸は電流測定部22に測定される電流値、縦軸は電圧測定部21に測定される電圧値をそれぞれ示している。
【0022】
図3に示すように、走行時測定区間A1では、短時間だけ二次電池10に対する負荷、言い換えると、二次電池10が放電する電流値を上昇させる(
図3の範囲B参照)。範囲Bの長さは約1sであり、最大の電流値が100~150A程度に設定される。本実施形態では特に、
図3の範囲Bにおける測定値のみをSOCの推定に利用している。つまり、電流値を1s以下の小さい短期間で急激に電流値を上昇させる過程の電流値、および、上昇後の最大の電流値のみを測定してSOCの推定に利用している。なお範囲Bでは、最大電流に到達後、すぐに電流値を下げている。一方、通常の走行区間(
図3で走行時測定区間A1の右側)では、凹凸の大きさや、上り坂か下り坂か、あるいは、直線路か曲がり道か等の走行路の条件によって無人搬送車1を走行させるための負荷が変動し、二次電池10が放電する電流値も変動する。
【0023】
そして、無人搬送車1の走行時に、所定の間隔で電圧値と電流値を測定してプロットしたものが
図4である。
図4(a)に示すように、二次電池10が放電する電流値が大きくなるほど、測定される電圧値が減少する。
【0024】
そして、
図4の電流値0Aの時の電圧値である開回路電圧値により、SOC推定部23が二次電池10のSOCを推定することができる。
【0025】
しかし、
図4(a)のように全ルートでの測定結果では、無人搬送車1が走行する路面の条件の違い(路面の凹凸や上り坂、下り道、直線路か曲り道か等)や、無人搬送車1の積載物の有無などによりその測定結果にバラつきが生じる。つまり、
図4(a)のプロットされた直線が示す0A時の電圧値にも幅があり、SOCを精度良く推定することができない。
【0026】
これに対して、
図4(b)に示すように、専用の走行時測定区間A1での測定を行うことにより、毎回同じ条件での測定が可能になるため、測定される値のバラつきが小さくなる。つまり、
図4(b)のようにプロットされる点の集合がバラつきの少ない一本の直線を示す。このバラつきの少ない測定値により、0A時の電圧値のバラつきも
図4(a)の場合と比較して小さくなる。従って、SOC推定部23が走行時測定区間A1における開回路電圧値を用いてSOCを推定することで、推定精度を向上させることができる。
【0027】
特に本実施形態では、走行時測定区間A1での走行条件(特に範囲Bの走行条件)をより測定結果にバラつきの少ない条件とすることで、SOCの推定精度をより高めている。具体的には、走行時測定区間A1は、走行する路面が平坦で凹凸は少なく、無人搬送車1は無積載の状態で、無人搬送車1が直進する区間である。これらにより、走行状態のバラつきを低減できる。ただし、上記の全ての条件を満たす必要はなく、いずれかの条件を満たすことでSOCの推定精度を向上させることができる。また、無人搬送車1が積載する積載物の重量や形状が一定であればSOCの推定精度を向上させることができるが、無積載であることがより好ましい。
【0028】
測定のバラつきを示す一例として、
図5を用いて積載状態の有無による測定結果のバラつきの大小を示す。
図5の横軸は電流測定部22に測定される電流値、縦軸は電圧測定部21に測定される電圧値をそれぞれ示している。
図5の灰色のプロットは無積載状態で無人搬送車1を10〔km/h〕で走行させた場合、黒色のプロットは重量物を積載させて無人搬送車1を10〔km/h〕で走行させた場合をそれぞれ示している。
【0029】
図5に示すように、無積載状態での測定ではバラつきの少ない電流電圧直線がプロットされるのに対して、重量物を積載した無人搬送車1の測定ではプロットが上下にバラつきが生じている(直線に上下の厚みが生じている)。このように、測定区間における無人搬送車1の走行状態により測定結果のバラつきの大小は変化するため、本実施形態のような測定区間A1を設けることが精度良くSOCを推定するために好ましい。
【0030】
次に、充電ステーション2(
図1参照)で二次電池10に充電する際に、専用の測定区間を設けてSOCを推定する場合について、
図6を用いて説明する。
図6は充電時における二次電池への充電電流値あるいは二次電池の電圧値を示す図で、(a)図および(b)図の横軸が時間〔s〕、(a)図の縦軸が電流測定部22に測定される電流値、(b)図の縦軸が電圧測定部21に測定される電圧値をそれぞれ示している。また、各図の左端が、無人搬送車1が充電ステーション2に接続されて充電が開始される時を示している。
【0031】
図6(a)および
図6(b)に示すように、本実施形態では、通常の充電を開始する前に、短時間だけ二次電池10へ充電を行う充電時測定区間A2を設ける。
【0032】
そして、充電時測定区間A2において電圧測定部21が電圧値を、電流測定部22が電流値をそれぞれ測定する。これにより、
図4(b)で示した0Aよりも大きい値のプロットに加えて、0Aよりも小さい値をプロットできる。例えば
図7の一点鎖線に示すように、0Aよりも左側の点をプロットすることができる。これと、走行時測定区間A1でプロットした結果(つまり、
図7の0Aよりも右側の点)とを合わせて、0Aにおける電圧値(開回路電圧値)を算出することで、より精度良くSOCの推定が可能になる。なお本実施形態では、充電時測定区間A2における電流値の絶対値の最大値を走行時測定区間A1における電流値の絶対値の最大値と同じにする。これにより、開回路電圧値を算出する場合に、充電側と放電側との寄与率を等しくできるため、開回路電圧値の推定の精度を向上させ、SOCの推定の精度を向上させることができる。なお、放電時と充電時の二次電池10の電流値は逆符号であり、
図7の横軸の電流値は、二次電池10が放電する電流値を正の値、二次電池10に充電される電流値を負の値として記載している。また、充電側のプロットの概略を表すものとして、一点鎖線により直線を記載しているが、実際には放電側と同じように点のプロットの集合により放電側の電流電圧値が示される。
【0033】
そして、このようにして推定したSOCに基づいて、あらかじめ設定した充電容量を超えないように二次電池10を充電させる。従って、SOCを精度良く推定することにより、充電ステーション2による二次電池10への過充電により無人搬送車1が走行不能になったり、二次電池10の寿命を縮めるといった不具合を防止できる。
【0034】
また、二次電池10への充電時には、過充電を防止するために、CCCV充電(Constant Current, Constant Voltage:定電流定電圧充電)が行われる。具体的には、
図6の範囲Dのように、一定の電圧を保ちながら電流値を絞っていく制御を行う。しかし、上記のようにSOCを精度良く推定することにより、CCCV充電を行わずに十分な範囲まで充電し、かつ、過充電を防止することが可能になる。従って、充電時間を短縮することができる。
【0035】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0036】
1 無人搬送車
2 充電ステーション
10 二次電池
12 走行用モータ
13 回生用モータ
20 制御部(SOC推定システム)
21 電圧測定部
22 電流測定部
23 SOC測定部
A1 走行時測定区間
A2 充電時測定区間