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特開2022-152501誘引材含有コンクリート及びコンクリート構造体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022152501
(43)【公開日】2022-10-12
(54)【発明の名称】誘引材含有コンクリート及びコンクリート構造体
(51)【国際特許分類】
   C04B 28/02 20060101AFI20221004BHJP
   C04B 24/38 20060101ALI20221004BHJP
   C04B 22/06 20060101ALI20221004BHJP
   C04B 22/14 20060101ALI20221004BHJP
【FI】
C04B28/02
C04B24/38 Z
C04B22/06 Z
C04B22/14 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021055297
(22)【出願日】2021-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【弁理士】
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100129746
【弁理士】
【氏名又は名称】虎山 滋郎
(74)【代理人】
【識別番号】100135758
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 高志
(74)【代理人】
【識別番号】100154391
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康義
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 大雅
(72)【発明者】
【氏名】真下 昌章
(72)【発明者】
【氏名】飯野 藤樹
(72)【発明者】
【氏名】吾妻 行雄
【テーマコード(参考)】
4G112
【Fターム(参考)】
4G112MA01
4G112MB23
4G112PB39
(57)【要約】
【課題】植食動物の除去効率を向上させる誘引材含有コンクリート及びその誘引材含有コンクリートを硬化してなるコンクリート構造体を提供する。
【解決手段】本発明の誘引材含有コンクリートはセメントと、カルシウムアルミネート及び石膏を含有するカルシウムアルミネート混和材と、植食動物を誘引する食材を含有する誘引材とを含む。本発明のコンクリート構造体は本発明の誘引材含有コンクリートを硬化してなるものである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメントと、
カルシウムアルミネート及び石膏を含有するカルシウムアルミネート混和材と、
植食動物を誘引する食材を含有する誘引材とを含む誘引材含有コンクリート。
【請求項2】
前記食材が海藻及び野菜のうちの少なくとも1種の食材である請求項1に記載の誘引材含有コンクリート。
【請求項3】
前記海藻が葉状の海藻であり、前記野菜が葉野菜である請求項2に記載の誘引材含有コンクリート。
【請求項4】
前記誘引材の使用量が、前記誘引材含有コンクリート100質量部に対して、10~60質量部である請求項1~3のいずれか1項に記載の誘引材含有コンクリート。
【請求項5】
骨材をさらに含む請求項1~4のいずれか1項に記載の誘引材含有コンクリート。
【請求項6】
水をさらに含む請求項1~5のいずれか1項に記載の誘引材含有コンクリート。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の誘引材含有コンクリートを硬化してなるコンクリート構造体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘引材含有コンクリート及びその誘引材含有コンクリートを硬化してなるコンクリート構造体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
沿岸海域には海藻が繁茂する藻場があり、海洋生物にとって餌場や産卵場等の重要な役割を果たす。しかし近年、藻場が消失する「磯焼け」と呼ばれる現象がみられている。磯焼けの原因は様々だが、ウニや魚類等の植食動物による食害が特に問題視されている(非特許文献1)。
【0003】
これまで植食動物の除去による食害の減少に関する技術が種々提案されている(非特許文献1、特許文献1、2)。
【0004】
しかし、植食動物の除去はダイバーによる手作業が主であり、労力の大きさから継続が難しく、磯焼けを改善するには至っていない。
特許文献3~4は、海藻礁を記載している。しかし、これらの文献は、海藻を形成する場としてのコンクリートブロックを記載するに過ぎず、さらに、混和材としてカルシウムアルミネートを例示していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3311339号公報
【特許文献2】特開2011-167083号公報
【特許文献3】特開2000-197426号公報
【特許文献4】特開平11-137117号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】水産庁、改訂 磯焼け対策ガイドライン、2015年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上述の従来技術の問題点を解決するためになされたもので、植食動物の除去効率を向上させる誘引材含有コンクリートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の目的を達成すべく鋭意研究を進めたところ、植食動物を誘引する食材を含有する誘引材を含むコンクリートが上記課題を解決できることを見出した。
本発明は、上記の知見に基づくものであり、以下を要旨とする。
[1]セメントと、カルシウムアルミネート及び石膏を含有するカルシウムアルミネート混和材と、植食動物を誘引する食材を含有する誘引材とを含む誘引材含有コンクリート。
[2]前記食材が海藻及び野菜のうちの少なくとも1種の食材である上記[1]に記載の誘引材含有コンクリート。
[3]前記海藻が葉状の海藻であり、前記野菜が葉野菜である上記[2]に記載の誘引材含有コンクリート。
[4]前記誘引材の使用量が、前記誘引材含有コンクリート100質量部に対して、10~60質量部である上記[1]~[3]のいずれか1つに記載の誘引材含有コンクリート。
[5]骨材をさらに含む上記[1]~[4]のいずれか1つに記載の誘引材含有コンクリート。
[6]水をさらに含む上記[1]~[5]のいずれか1つに記載の誘引材含有コンクリート。
[7]上記[1]~[6]のいずれか1つに記載の誘引材含有コンクリートを硬化してなるコンクリート構造体。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、植食動物の除去効率を向上させる誘引材含有コンクリート及びその誘引材含有コンクリートを硬化してなるコンクリート構造体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[誘引材含有コンクリート]
本発明の誘引材含有コンクリートは、セメントと、カルシウムアルミネート及び石膏を含有するカルシウムアルミネート混和材と、植食動物を誘引する食材を含有する誘引材とを含む。これにより、植食動物の少なくとも一部を所定の領域に集めることができ、集まった植食動物を捕獲することにより、植食動物の除去効率を向上させることができる。
【0011】
(セメント)
本明細書において、セメントとは、セメントペースト、セメントモルタル、及びコンクリートを総称するものである。本発明の誘引材含有コンクリートに使用されるセメントには、例えば、普通、早強、超早強、低熱、及び中庸熱等の各種ポルトランドセメントや、これらポルトランドセメントに、高炉スラグ、フライアッシュ、又はシリカを混合した各種混合セメント、これらポルトランドセメントに、石灰石粉末や高炉徐冷スラグ微粉末等を混合したフィラーセメント、並びに、都市ゴミ焼却灰や下水汚泥焼却灰を原料として製造した環境調和型セメント(エコセメント)などが挙げられる。これらのセメントは一種を単独で、又は二種以上を組み合わせて使用できる。これらのセメントの中で、誘引材を容易に含有させられるという観点から、普通ポルトランドセメントが好ましい。
【0012】
本発明の誘引材含有コンクリートに使用されるセメントのブレーン比表面積は、セメントの適切な水和速度の観点から、2500~4800cm/gが好ましく、2800~4000cm/gがより好ましく、3000~3600cm/gがさらに好ましい。なお、ブレーン比表面積は、JIS R 5201-1997「セメントの物理試験方法」に準拠して測定することができる。
【0013】
本発明の誘引材含有コンクリートに使用されるセメントは、セメントクリンカー及び石膏を含むことが好ましい。これにより、セメントの急結を防止するとともに、セメント硬化体の強度及び化学抵抗性を高めることができる。このような観点から、ボーグ式を用いて算出したセメントクリンカーの鉱物組成は、C3S(珪酸三カルシウム)が40~70質量%、C2S(珪酸二カルシウム)が7~40質量%、C3A(アルミン酸三カルシウム)が1~15質量%及びC4AF(鉄アルミン酸四カルシウム)が5~20質量%であることが好ましい。また、セメント中の石膏の含有量は、SO換算として、0.5~4質量%が好ましく、1.5~3質量%がより好ましい。
【0014】
本発明の誘引材含有コンクリートにおけるセメントの含有量は、コンクリートの強度を一定以上に保つ観点から、セメント、カルシウムアルミネート混和材及び誘引材の合計100質量部に対して、10~95質量部であることが好ましい。また植食動物に対する誘引効果を高める観点から、本発明の誘引材含有コンクリートにおけるセメントの含有量は、20~90質量部であることがより好ましい。さらに、海中での形態維持性の観点から、本発明の誘引材含有コンクリートにおけるセメントの含有量は、30~80質量部であることがさらに好ましい。
【0015】
(カルシウムアルミネート混和材)
本発明の誘引材含有コンクリートに使用されるカルシウムアルミネート混和材は、カルシウムアルミネート及び石膏を含有する。カルシウムアルミネート混和材は、収縮低減剤及び又は繊維をさらに含有してもよい。
【0016】
カルシウムアルミネートは、CaOとAlとを主成分とする水和活性を有する物質の総称であり、硬化時間が早く、初期強度発現性が高い材料である。カルシウムアルミネートの代表的なものとしてはアルミナセメントが挙げられ、通常市販されているものが使用できる。市販されているアルミナセメントとして、例えば、アルミナセメント1号、アルミナセメント2号などが使用できる。しかし、アルミナセメントよりも短時間で硬化し、その後の初期強度発現性が高いことから、溶融後に急冷した非晶質カルシウムアルミネートが好ましい。
【0017】
初期強度発現性の観点から、カルシウムアルミネートにおけるCaOとAlとのモル比(CaO/Alモル比)は、1.0~3.0が好ましく、1.7~2.5がより好ましい。また、カルシウムアルミネートにおけるCaOとAlとのモル比(CaO/Alモル比)が1.0~1.7の場合も、セメントや消石灰及び生石灰を配合することで硬化時間をより短縮して初期強度発現性を高めることが可能である。
【0018】
カルシウムアルミネートのブレーン比表面積は、3000cm/g以上が好ましい。カルシウムアルミネートのブレーン比表面積が3000cm/g以上であると、カルシウムアルミネートの急結力が低下することを抑制できる。なお、ブレーン比表面積は、JIS R 5201-1997「セメントの物理試験方法」に準拠して測定することができる。
【0019】
カルシウムアルミネートのガラス化率は、反応活性の観点から、70%以上が好ましく、90%以上がより好ましい。カルシウムアルミネートのガラス化率が70%以上であると初期強度発現性を向上させることができる。カルシウムアルミネートのガラス化率の測定は、加熱前のサンプルについて粉末X線回折法により結晶鉱物のメインピーク面積Sを予め測定し、その後1000℃で2時間加熱後、1~10℃/分の冷却速度で徐冷し、粉末X線回折法による加熱後の結晶鉱物のメインピーク面積Sを求め、S及びSの値を用い、次の式を用いてガラス化率χを算出する。
ガラス化率χ(%)=100×(1-S/S
【0020】
カルシウムアルミネート混和材の石膏として、例えば、半水石膏及び無水石膏が使用でき、強度発現性の観点から、無水石膏が好ましい。無水石膏として、例えば、弗酸副生無水石膏及び天然無水石膏が使用できる。
【0021】
石膏を水に浸漬させたときの水のpHは、8以下であることが好ましい。すなわち、石膏を水に浸漬させたときの水は、弱アルカリから酸性であることが好ましい。石膏を水に浸漬させたときの水のpHが8以下であると、石膏成分の溶解度が高くなることを抑制でき、石膏成分の溶解による初期強度発現性の阻害を抑制できる。ここでいう石膏を水に浸漬させたときの水のpHとは、石膏/イオン交換水=1g/100gの20℃における希釈スラリーのpHを、イオン交換電極等を用いて測定したものである。
【0022】
石膏のブレーン比表面積は3000cm/g以上であることが好ましく、初期強度発現性の観点及び適正な作業時間が得られるという観点から、5000cm/g以上であることがより好ましい。なお、ブレーン比表面積は、JIS R 5201-1997「セメントの物理試験方法」に準拠して測定することができる。
【0023】
カルシウムアルミネート混和材における石膏の使用量は、特に限定されるものではないが、カルシウムアルミネート100質量部に対して、50~250質量部が好ましい。石膏の使用量が50質量部以上であると、作業時間を十分とることができ、強度発現性を向上させることができる。石膏の使用量が250質量部以下であると、十分な作業時間及び十分な初期強度を得ることができる。
【0024】
本発明の誘引材含有コンクリートにおけるカルシウムアルミネート混和材の含有量は、コンクリートの強度を一定以上に保つ観点から、セメント、カルシウムアルミネート混和材及び誘引材の合計100質量部に対して3~50質量部であることが好ましい。また植食動物に対する誘引効果を高めるという観点から、カルシウムアルミネート混和材の含有量は、5~40質量部であることがより好ましい。さらに、海中での形態維持性の観点から、カルシウムアルミネート混和材の含有量は、10~30質量部であることがさらに好ましい。
【0025】
(誘引材)
本発明の誘引材含有コンクリートに使用される誘引材は、植食動物を誘引する食材を含有する。
ここで、食材とは、人間の食料の材料である。また、誘引材に使用される食材は、廃棄物であってもよい。これにより、廃棄されていた食材を有効活用することができ、また、誘引材の入手が容易になる。廃棄されていた食材には、例えば、商品としての規格を満たさないために廃棄されていた食材、過剰な豊作による食材の価格低下を抑制するために廃棄されていた食材、食材を収穫もしくは加工する際に発生する食材のゴミなどが挙げられる。また、植食動物は、主に、海藻を食べる動物である。植食動物には、例えば、ウニ、サザエ、アメフラシ、小型巻貝、捕食性魚類(アイゴ、ブダイ、ノトイスズミ、ニザダイ等)等が挙げられる。本発明の誘引材含有コンクリートは、ウニの除去に特に好適である。
【0026】
入手が容易であるという観点から、誘引材に使用される食材は、海藻及び野菜のうちの少なくとも1種の食材であることが好ましい。
誘引材に使用される海藻は、一般に入手可能な海藻で十分であり、例えばコンブ、ワカメ、アラメ、カジメ等の葉状の海藻の葉部又は茎部が使用可能である。海藻の形状は、コンクリート及びカルシウムアルミネート混和材と混ぜて硬化することが可能であれば特に限定されない。
誘引材に使用される野菜は、一般に入手可能な野菜で十分であり、例えばキャベツ、レタス、ハクサイ等の葉野菜が使用可能である。野菜の形状は、コンクリート及びカルシウムアルミネート混和材と混ぜて硬化することが可能であれば特に限定されない。
【0027】
誘引材は、本発明の効果を阻害しない範囲で、上記食材以外の材料を含んでもよい。食材以外の材料は、例えば、廃棄された食材に混入している土、砂、石等の食材以外の材料である。しかし、本発明の誘引材含有コンクリートにおける植食動物を誘引する効果をさらに高めるという観点から、誘引材における上記食材の含有量は、好ましくは80~100質量%であり、より好ましくは90~100質量%であり、さらに好ましくは95~100質量%であり、特に好ましくは100質量%である。
【0028】
本発明の誘引材含有コンクリートにおける誘引材の含有量は、誘引材含有コンクリートの硬化体の強度を一定以上に保つという観点から、セメント、カルシウムアルミネート混和材及び誘引材の合計100質量部に対して、10~60質量部であることが好ましい。また、植食動物に対する誘引効果を高める観点から、誘引材の含有量は、20~60質量部であることがより好ましい。さらに、誘引材含有コンクリートの硬化体の海中での形態維持性の観点から、誘引材の含有量は、20~45質量部であることがさらに好ましい。
【0029】
(水)
本発明の誘引材含有コンクリートは、水をさらに含むことが好ましい。本発明の誘引材含有コンクリートにおける水の使用量は、誘引材含有コンクリートのワーカビリティの観点から、セメント、カルシウムアルミネート混和材及び誘引材の合計100質量部に対して、10~200質量部であることが好ましく、40~150質量部であることがより好ましく、60~130質量部であることがさらに好ましく、80~110質量部であることがよりさらに好ましい。
【0030】
(骨材)
本発明の誘引材含有コンクリートは、誘引効果の観点、及び誘引材含有コンクリートの硬化体の強度向上の観点から、骨材をさらに含むことが好ましい。骨材には、例えば、細骨材、粗骨材、川砂、山砂、砕石等が挙げられる。これらの骨材は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0031】
誘引効果の観点、及び誘引材含有コンクリートの硬化体の強度向上の観点から、骨材の粒径は、好ましくは0.1~20mmであり、より好ましくは5~13mmである。
【0032】
本発明の誘引材含有コンクリートにおける骨材の使用量は、セメント、カルシウムアルミネート混和材及び誘引材の合計100質量部に対して、100~1000質量部であることが好ましい。骨材の使用量が100質量部以上であると、誘引効果を長期間持続することができ、骨材の使用量が1000質量部以下であると、誘引材含有コンクリートの硬化体の強度が大きくなる。このような観点から、骨材の使用量は、300~750質量部であることがより好ましく、400~550質量部であることがさらに好ましい。
【0033】
[コンクリート構造体]
本発明のコンクリート構造体は、本発明の誘引材含有コンクリートを硬化してなるものである。本発明のコンクリート構造体は、硬化し、さらに成形してなるものであってもよい。これにより、本発明のコンクリート構造体は植食動物を誘引するものとなる。
【0034】
本発明のコンクリート構造体の構造は特に限定されないが、誘引効果を持続させるためには、ポーラス構造であることが好ましい。また、本発明のコンクリート構造体の形状は特に限定されない。コンクリート構造体の形状には、例えば、円柱体、角柱体、直方体、円錐体、球体、テトラポット体等の形状が挙げられる。コンクリート構造体の大きさ及び形状は、設置する海域等の条件に応じて決めることが望ましい。例えば、潮流の速い海域では、テトラポット体形状のコンクリート構造体を複数個組み合わせることにより、コンクリート構造体が流されることを防ぎ、目的の箇所に留めることができる。
【0035】
〈作用効果〉
以下、本発明の誘引材含有コンクリートの作用効果の一例について説明する。
【0036】
本発明の誘引材含有コンクリートは、植食動物を誘引する食材を含有する誘引材を、セメント及びカルシウムアルミネート混和材を使用して硬化させることで、誘引材の誘引効果を長期間持続させることができる。
【0037】
本発明の誘引材含有コンクリートは、主に海藻を食べる植食動物、特にウニに対する誘引効果を持つ。これにより、植食動物の少なくとも一部を十分に集めることができ、植食動物の除去効率を向上させることができる。
【実施例0038】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0039】
[圧縮強度の評価試験]
JIS R 5201-1997「セメントの物理試験方法」に準拠し、コンクリート構造体の圧縮強度を、セメントペーストと骨材を混合してから28日後に測定した。28日後に形状を維持できていないものについて測定不可とした。
[ブレーン比表面積の評価試験]
JIS R 5201-1997「セメントの物理試験方法」に準拠し、セメント、カルシウムアルミネート及び石膏のブレーン比表面積を測定した。
[骨材の粒径の評価試験]
JIS A 1102「骨材のふるい分け試験」に準拠し、篩分けを行い、各篩にとどまる質量分率が最も高い篩の篩目を骨材の粒径とした。
[誘引効果の評価方法]
誘引材含有コンクリートを硬化してなるコンクリート構造体を実海域に設置し、誘引効果の評価試験を実施した。志津川湾野島沿岸の水深6.4m、水温18.0℃の平坦な礁底にロープで1m正方形区画を設け、区画中心部に直方体のコンクリート構造体(10cm×10cm×9cm)を1個設置した。区画内のウニの個体数の経時変化を調べ、コンクリート構造体未設置の対照区に対し、○:効果あり(個体数20%以上増)、△:効果ややあり(個体数10%以上20%未満増)、×:効果なし(個体数0以上10%未満増)で誘引効果を評価した。
【0040】
[実施例1]
セメント80質量部とカルシウムアルミネート混和材10質量部と誘引材A10質量部と水道水100質量部とをコンクリートミキサー(オムニミキサー、株式会社チヨダマシナリー製)に投入して練り混ぜ、セメントペーストを調製し、10cm×10cm×9cmの型枠に流し込んだ。1週間室温で静置して養生した後、脱型した成型体を用いて、上述の誘引効果の評価を実施した。
【0041】
[実施例2]
セメント80質量部とカルシウムアルミネート混和材10質量部と誘引材B10質量部と水道水100質量部とをコンクリートミキサーに投入したこと以外は実施例1と同様に実施した。
【0042】
[実施例3]
セメント60質量部とカルシウムアルミネート混和材30質量部と誘引材A10質量部と水道水100質量部とをコンクリートミキサーに投入したこと以外は実施例1と同様に実施した。
【0043】
[実施例4]
セメント60質量部とカルシウムアルミネート混和材30質量部と誘引材B10質量部と水道水100質量部をコンクリートミキサーに投入したこと以外は実施例1と同様に実施した。
【0044】
[実施例5]
セメント30質量部とカルシウムアルミネート混和材30質量部と誘引材A40質量部と水道水100質量部とをコンクリートミキサーに投入したこと以外は実施例1と同様に実施した。
【0045】
[実施例6]
セメント30質量部とカルシウムアルミネート混和材30質量部と誘引材B40質量部と水道水100質量部とをコンクリートミキサーに投入したこと以外は実施例1と同様に実施した。
【0046】
[実施例7]
セメント30質量部とカルシウムアルミネート混和材10質量部と誘引材A60質量部と水道水100質量部とをコンクリートミキサーに投入したこと以外は実施例1と同様に実施した。
【0047】
[実施例8]
セメント30質量部とカルシウムアルミネート混和材10質量部と誘引材B60質量部と水道水100質量部をコンクリートミキサーに投入したこと以外は実施例1と同様に実施した。
【0048】
[実施例9]
セメント70質量部とカルシウムアルミネート混和材10質量部と誘引材A20質量部と水道水100質量部をコンクリートミキサーに投入して練り混ぜ、セメントペーストを調製した。セメントペーストに骨材を、セメント、カルシウムアルミネート混和材及び誘引材の合計100質量部に対して470質量部を投入してさらに練り混ぜ、10cm×10cm×9cmの型枠に流し込み、テーブル・バイブレータ(CF-1033、株式会社丸東製作所製)を用いて振動数2800rpmで約20秒間締固めを行ったこと以外は実施例1と同様に実施した。
【0049】
[実施例10]
セメント70質量部とカルシウムアルミネート混和材10質量部と誘引材B20質量部と水道水100質量部をコンクリートミキサーに投入して練り混ぜ、セメントペーストを調製した。セメントペーストに骨材を、セメント、カルシウムアルミネート混和材及び誘引材の合計100質量部に対して470質量部を投入してさらに練り混ぜ、10cm×10cm×9cmの型枠に流し込み、テーブル・バイブレータ(CF-1033、株式会社丸東製作所製)を用いて振動数2800rpmで約20秒間締固めを行ったこと以外は実施例1と同様に実施した。
【0050】
[比較例1]
セメント100質量部と水道水17質量部とをコンクリートミキサー(オムニミキサー、株式会社チヨダマシナリー製)に投入して練り混ぜ、セメントペーストを調製し、10cm×10cm×9cmの型枠に流し込んだ。1週間室温で静置して養生した後、脱型した成型体を用いて、上述の誘引効果の評価を実施した。
【0051】
[比較例2]
カルシウムアルミネート混和材100質量部と水道水17質量部とをコンクリートミキサー(オムニミキサー、株式会社チヨダマシナリー製)に投入して練り混ぜ、セメントペーストを調製し、10cm×10cm×9cmの型枠に流し込んだ。1週間室温で静置して養生した後、比較例1と同様に誘引効果の評価を実施した。
【0052】
[比較例3]
誘引材A1kgを洗濯用ネットに入れ、比較例1と同様に誘引効果の評価を実施した。
【0053】
[比較例4]
誘引材B1kgを洗濯用ネットに入れ、比較例1と同様に誘引効果の評価を実施した。
【0054】
[比較例5]
セメント50質量部とカルシウムアルミネート混和材50質量部と水道水100質量部とをコンクリートミキサーに投入したこと以外は比較例1と同様に実施した。
【0055】
[比較例6]
セメント30質量部と誘引材A70質量部と水道水100質量部とをコンクリートミキサーに投入したこと以外は比較例1と同様に実施した。
【0056】
[比較例7]
セメント30質量部と誘引材B70質量部と水道水100質量部とをコンクリートミキサーに投入したこと以外は比較例1と同様に実施した。
【0057】
[比較例8]
カルシウムアルミネート混和材30質量部と誘引材A70質量部と水道水100質量部とをコンクリートミキサーに投入したこと以外は比較例1と同様に実施した。
【0058】
[比較例9]
カルシウムアルミネート混和材30質量部と誘引材B70質量部と水道水100質量部とをコンクリートミキサーに投入したこと以外は比較例1と同様に実施した。
【0059】
(使用原料)
上記実施例及び比較例では、以下の原料を使用した。
セメント:普通ポルトランドセメント、市販品、ブレーン比表面積3300cm/g、セメントクリンカー中のセメント鉱物組成は、C3Sが56質量%、C2Sが26質量%、C3Aが9質量%、C4AFが9質量%であった。セメント中の石膏の含有量はSO換算として2.1質量%であった。
カルシウムアルミネート混和材:カルシウムアルミネート(CaO/Alモル比2.2、ガラス化率97%、ブレーン比表面積5000cm/g)100質量部と石膏(天然無水石膏、ブレーン値6000cm/g、pH7.2)100質量部との混合物。
誘引材A:ワカメ養殖場で廃棄されたワカメ茎
誘引材B:キャベツ
骨材:6号砕石(新潟県糸魚川産、粒径5~13mm)
水:水道水
【0060】
【表1】
【0061】
【表2】
【0062】
実施例1~10では、15分後~24時間後までウニの誘引効果がみられた。このため、ウニを集めるための時間を十分に確保でき、ウニの除去効率を十分に向上させることができることがわかった。
比較例1、2及び5では、コンクリートが誘引材を含有していないため、ウニの誘引効果はみられなかった。
比較例3、4、8及び9では、30分後までは誘引効果がみられた。しかし、セメントを用いて誘引材を硬化させていなかったため、90分後、及び24時間後には誘引効果がみられなかった。このため、ウニを集めるための時間が不十分になり、ウニの除去効率を向上させることは難しいことがわかった。
比較例6及び7では、90分後までは誘引効果がみられた。しかし、カルシウムアルミネート混和材を用いなかったため、セメントによる誘引材の硬化が不十分であったため、24時間後には誘引効果がみられなかった。このため、ウニを集めるための時間が不十分になり、ウニの除去効率を向上させることは難しいことがわかった。
【0063】
以上から、セメント、カルシウムアルミネート混和材及び誘引材を含む誘引材含有コンクリートは長期間にわたり、誘引効果を有することがわかった。さらに、誘引効果を得るためには、誘引材の含有量をセメント、カルシウムアルミネート混和材及び誘引材の合計100質量部に対して10~60質量部の範囲とすることが好ましいことがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明の誘引材含有コンクリートは、植食動物が好む食材を沿岸海域に供給し、植食動物を特定箇所に集めることができる。このような誘引効果により、植食動物の除去効率を向上させ、植食動物の除去作業の労力の軽減化が可能となる。