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特開2022-152502動体の探知システム、その方法、プログラム、記録媒体およびレーダ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022152502
(43)【公開日】2022-10-12
(54)【発明の名称】動体の探知システム、その方法、プログラム、記録媒体およびレーダ
(51)【国際特許分類】
   G01S 13/56 20060101AFI20221004BHJP
   G01S 7/02 20060101ALI20221004BHJP
   G01S 13/66 20060101ALI20221004BHJP
   G01H 17/00 20060101ALI20221004BHJP
   G01V 3/12 20060101ALI20221004BHJP
   H01Q 21/06 20060101ALI20221004BHJP
   H01Q 3/42 20060101ALI20221004BHJP
【FI】
G01S13/56
G01S7/02 218
G01S13/66
G01H17/00 Z
G01V3/12 A
H01Q21/06
H01Q3/42
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021055298
(22)【出願日】2021-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】510189374
【氏名又は名称】アルウェットテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083725
【弁理士】
【氏名又は名称】畝本 正一
(74)【代理人】
【識別番号】100140349
【弁理士】
【氏名又は名称】畝本 継立
(74)【代理人】
【識別番号】100153305
【弁理士】
【氏名又は名称】畝本 卓弥
(74)【代理人】
【識別番号】100206933
【弁理士】
【氏名又は名称】沖田 正樹
(72)【発明者】
【氏名】能美 仁
【テーマコード(参考)】
2G064
2G105
5J021
5J070
【Fターム(参考)】
2G064AB01
2G064AB02
2G064BA02
2G064BD02
2G064CC02
2G064CC43
2G064DD02
2G105AA01
2G105BB15
2G105DD02
2G105EE02
2G105GG02
2G105GG04
2G105GG05
2G105HH06
5J021AA05
5J021AA07
5J021AA09
5J021AA11
5J021CA06
5J021DB03
5J021FA17
5J021FA23
5J021FA26
5J021FA28
5J021FA29
5J021FA32
5J021FA33
5J021GA02
5J070AB09
5J070AB17
5J070AB24
5J070AC02
5J070AC11
5J070AC20
5J070AD05
5J070AD09
5J070AE09
5J070AF01
5J070AH31
5J070AK14
5J070BB08
5J070BB14
(57)【要約】
【課題】動体とともに移動する銃器や刃物などの危険物を探知する。
【解決手段】ディジタルビームフォーミング方式の探知システムであって、動体(4)に向けて少なくとも1つの送信アンテナ(16)からミリ波の送信波(Tw)を送出する、送信部(6)と、動体に対して一次元方向または二次元方向に配置した複数の受信アンテナ(20-1、20-2、・・・、20-n)で送信波の反射波(Rw)を受け、受信アンテナごとに受信信号を生成する、受信部(8)と、受信信号間の位相差から受信アンテナのアンテナ面に対する反射波の位相面を求めて反射波の到来方向および信号強度を同定し、動体の静止物との識別、動体の高さ方向の計測、動体の追尾、受信アンテナから動体までの距離の計測、高反射物の特定の何れかの処理を実行する、探知処理部(信号処理部10)と、動体を表す情報を提示する、情報提示部(画像表示部12)とを含んでいる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディジタルビームフォーミング(Digital Beam Forming)方式の信号処理により探知する動体探知システムであって、
動体に向けて少なくとも1つの送信アンテナからミリ波の送信波を送出する、送信部と、
前記動体に対して一次元方向または二次元方向に配置した複数の受信アンテナで前記送信波の反射波を受け、前記受信アンテナごとに受信信号を生成する、受信部と、
前記受信信号間の位相差から前記受信アンテナのアンテナ面に対する前記反射波の位相面を求めて前記反射波の到来方向および信号強度を同定し、
(a) 前記動体の静止物との識別
(b) 前記動体の高さ方向の計測
(c) 前記動体の追尾
(d) 前記受信アンテナから前記動体までの距離の計測
(e) 高反射物の特定
の何れかまたは二以上の処理を実行する、探知処理部と、
少なくとも前記高反射物を含む前記動体を表す情報を提示する、情報提示部と、
を含む、動体探知システム。
【請求項2】
さらに、前記送信部が、複数の送信アンテナを含み、前記送信波を繰返し周期ごとに異なる送信アンテナから時分割で送出し、繰返し周期のタイミングで前記送信アンテナごとに送信波を分離する、請求項1に記載の動体探知システム。
【請求項3】
さらに、前記送信部が、複数の送信アンテナを含み、送信アンテナごとに異なる直交符号列で位相変調を行った送信波を同時に送信し、
さらに、前記受信部が、前記受信信号で位相変調の復調を行い、前記送信アンテナごとに受信信号を分離する、
請求項1または請求項2に記載の動体探知システム。
【請求項4】
さらに、前記動体に対して一次元方向に配置された受信アンテナのアンテナ列に対して直交方向に送信アンテナを配置した、請求項1ないし請求項3の何れかの請求項に記載の動体探知システム。
【請求項5】
ディジタルビームフォーミング方式の信号処理により探知する動体探知方法であって、
送信部が、動体に向けて少なくとも1つの送信アンテナからミリ波の送信波を送出する工程と、
受信部が、前記動体に対して一次元方向または二次元方向に配置した複数の受信アンテナで前記送信波の反射波を受け、前記受信アンテナごとに受信信号を生成する工程と、
探知処理部が、前記受信信号間の位相差から前記受信アンテナのアンテナ面に対する前記反射波の位相面を求めて前記反射波の到来方向および信号強度を同定し、
(a) 前記動体の静止物との識別
(b) 前記動体の高さ方向の計測
(c) 前記動体の追尾
(d) 前記受信アンテナから前記動体までの距離の計測
(e) 高反射物の特定
の何れかまたは二以上の処理を実行する工程と、
情報提示部が、少なくとも前記高反射物を含む前記動体を表す情報を提示する工程と、
を含む、動体探知方法。
【請求項6】
さらに、前記送信部が、複数の送信アンテナを含み、前記送信波を繰返し周期ごとに異なる送信アンテナから時分割で送出し、繰返し周期のタイミングで前記送信アンテナごとに送信波を分離する工程を含む、請求項5に記載の動体探知方法。
【請求項7】
さらに、前記送信部が、複数の送信アンテナを含み、送信アンテナごとに異なる直交符号列で位相変調を行った送信波を同時に送信する工程と、
前記受信部が、前記受信信号で位相変調の復調を行い、前記送信アンテナごとに受信信号を分離する工程と、
を含む、請求項5または請求項6に記載の動体探知方法。
【請求項8】
コンピュータによって実現するプログラムであって、
動体に向けて少なくとも1つの送信アンテナからミリ波の送信波を送信部に送出させる機能と、
前記動体に対して一次元方向または二次元方向に配置した複数の受信アンテナで前記送信波の反射波を受け、前記受信アンテナごとに受信信号を受信部に生成させる機能と、
前記受信信号間の位相差から前記受信アンテナのアンテナ面に対する前記反射波の位相面を求めて前記反射波の到来方向および信号強度を同定する機能と、
(a) 前記動体の静止物との識別
(b) 前記動体の高さ方向の計測
(c) 前記動体の追尾
(d) 前記受信アンテナから前記動体までの距離の計測
(e) 高反射物の特定
の何れかまたは二以上の処理を実行する機能と、
少なくとも前記高反射物を含む前記動体を表す情報を情報提示部に提示させる機能と、
を前記コンピュータで実行させるためのプログラム。
【請求項9】
請求項8に記載のプログラムを格納した記録媒体。
【請求項10】
動体に向けて少なくとも1つの送信アンテナからミリ波の送信波を送出する、送信部と、
前記動体に対して一次元または二次元に配置した複数の受信アンテナで前記送信波の反射波を受け、前記受信アンテナごとに受信信号を生成する、受信部と、
前記受信信号間の位相差から前記受信アンテナのアンテナ面に対する前記反射波の位相面を求めて前記反射波の到来方向および信号強度を同定し、
(a) 前記動体の静止物との識別
(b) 前記動体の高さ方向の計測
(c) 前記動体の追尾
(d) 前記受信アンテナから前記動体までの距離の計測
(e) 高反射物の特定
の何れかまたは二以上の処理を実行する、探知処理部と、
少なくとも前記高反射物を含む前記動体を表す情報を提示する、情報提示部と、
を含む、レーダ。
【請求項11】
さらに、前記送信部が、複数の送信アンテナを配し、前記送信波を繰返し周期ごとに異なる送信アンテナから時分割で送出し、繰返し周期のタイミングで前記送信アンテナごとに送信波を分離する、請求項10に記載のレーダ。
【請求項12】
さらに、前記送信部が、複数の送信アンテナを配し、送信アンテナごとに異なる直交符号列で位相変調を行った送信波を同時に送信し、
前記受信部が、前記受信信号で位相変調の復調を行い、前記送信アンテナごとに受信信号を分離する、
請求項10または請求項11に記載のレーダ。
【請求項13】
さらに、前記動体に対して一次元方向に配置された受信アンテナのアンテナ列に対して直交方向に送信アンテナを配置した、請求項10ないし請求項12の何れかの請求項に記載のレーダ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示はたとえば、銃器、刃物などの金属の他、金属類を所持する人などの動体を探知する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
空港などのセキュリティ検査では、一般にゲート型金属探知機や、検査員による有人検査が行われている。ゲート型金属探知機では、金属探知ゲートに旅客を潜らせて金属物を探知する。有人検査では、検査員がマニュアル操作で金属探知機を旅客の身体面に当てて金属物を探知する。
【0003】
斯かる検査では、一人当たりの検査に時間を要するため、検査場の通過人数が少なく、膨大なセキュリティ対象を処理しなければならない空港などでは、検査渋滞を引き起こすなどの原因になる。
【0004】
このため、比較的広い空間を移動する旅客などの歩行者の流れに対し、事前に疑わしい人をピックアップして検査対象を絞り込む事前スクリーニングの実施が望まれている。
【0005】
斯かるセキュリティ検査に利用可能な手段として、特定のエリアへの人の侵入を検知する技術が知られている(たとえば、特許文献1、特許文献2)。また、レーダ技術を用いて対象物の振動を検出し、その対象物の観測結果を可視化する技術が知られている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第6518915号明細書
【特許文献2】欧州特許第365259号明細書
【特許文献3】国際公開第2016/027422号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】特許庁発行平成29年度標準技術集MIMO(Multiple-Input Multiple-Output)関連技術
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、既述の事前スクリーニングを行えば、検査対象を絞り込むことができ、セキュリティ検査の迅速化や信頼性を高めることができる。この事前スクリーニングにはレーダを用いることができる。このレーダでは、検査対象に向けて送信波を送出し、この送信波による反射波を受信し、その受信信号の信号強度から金属物などの有無を判定するが、従前のレーダには以下の課題がある。
【0009】
検査対象が歩行中の人などの動体である場合、動体や、動体に付属する反射体からの反射強度は、距離の変化や、動体の姿勢変化で大きく揺らぐ。手振りや姿勢変化により、その陰に金属などの反射物が隠れる場合もあるし、反射強度の揺らぎが大きくなると、検出できないぐらい反射強度が低下する場合もある。このため、検査精度を低下させるという課題がある。
【0010】
検査対象を画像化する頻度が低い場合には、送信波の送出時、検査対象の姿勢や陰になっている反射体を捉えることはできないという課題がある。
【0011】
また、歩行中の人などの動体を検査対象とする場合には、検査対象の周辺にある建物構造の他、設置物などの環境からの反射波も画像化される。このため、検査対象となる動体を検出しても、動体以外からの反射波により動体の継続的な検知が妨げられるという課題がある。
【0012】
検査対象に対してできるだけ正確に検査するには、探知した同一のターゲットを長時間追尾することが必要であり、反射波から危険物が想定される画像を取得しなければならないという課題がある。
【0013】
銃器や刃物などの危険物は人が所有するものであり、これらは換言すれば、動体の付属物であり、人の全身からの反射波から得られる信号強度の総和は、動体の姿勢によっては、動体に付属する金属などからの反射波の信号強度より強力となる場合があり、従前のレーダでは検査対象を正確に探知できないという課題がある。
【0014】
発明者は、反射波の信号強度の揺らぎ回避、環境反射の影響回避、動体追尾などについて新たな知見を得たのである。
【0015】
そこで、本開示の目的は上記課題および前記知見に基づき、動体とともに移動する銃器や刃物などの危険物を探知することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するため、本開示の動体探知システムの一側面によれば、ディジタルビームフォーミング(Digital Beam Forming)方式の信号処理により探知する動体探知システムであって、動体に向けて少なくとも1つの送信アンテナからミリ波の送信波を送出する、送信部と、前記動体に対して一次元方向または二次元方向に配置した複数の受信アンテナで前記送信波の反射波を受け、前記受信アンテナごとに受信信号を生成する、受信部と、前記受信信号間の位相差から前記受信アンテナのアンテナ面に対する前記反射波の位相面を求めて前記反射波の到来方向および信号強度を同定し、
(a) 前記動体の静止物との識別
(b) 前記動体の高さ方向の計測
(c) 前記動体の追尾
(d) 前記受信アンテナから前記動体までの距離の計測
(e) 高反射物の特定
の何れかまたは二以上の処理を実行する、探知処理部と、少なくとも前記高反射物を含む前記動体を表す情報を提示する、情報提示部とを含む。
【0017】
この動体探知システムにおいて、さらに、前記送信部が、複数の送信アンテナを含み、前記送信波を繰返し周期ごとに異なる送信アンテナから時分割で送出し、繰返し周期のタイミングで前記送信アンテナごとに送信波を分離してもよい。
【0018】
この動体探知システムにおいて、さらに、前記送信部が、複数の送信アンテナを含み、送信アンテナごとに異なる直交符号列で位相変調を行った送信波を同時に送信し、さらに、前記受信部が、前記受信信号で位相変調の復調を行い、前記送信アンテナごとに受信信号を分離してもよい。
【0019】
この動体探知システムにおいて、さらに、前記動体に対して一次元方向に配置された受信アンテナのアンテナ列に対して直交方向に送信アンテナを配置してもよい。
【0020】
上記目的を達成するため、本開示の動体探知方法の一側面によれば、ディジタルビームフォーミング方式の信号処理により探知する動体探知方法であって、送信部が、動体に向けて少なくとも1つの送信アンテナからミリ波の送信波を送出する工程と、受信部が、前記動体に対して一次元方向または二次元方向に配置した複数の受信アンテナで前記送信波の反射波を受け、前記受信アンテナごとに受信信号を生成する工程と、探知処理部が、前記受信信号間の位相差から前記受信アンテナのアンテナ面に対する前記反射波の位相面を求めて前記反射波の到来方向および信号強度を同定し、
(a) 前記動体の静止物との識別
(b) 前記動体の高さ方向の計測
(c) 前記動体の追尾
(d) 前記受信アンテナから前記動体までの距離の計測
(e) 高反射物の特定
の何れかまたは二以上の処理を実行する工程と、
情報提示部が、少なくとも前記高反射物を含む前記動体を表す情報を提示する工程とを含む。
【0021】
この動体探知方法において、さらに、前記送信部が、複数の送信アンテナを含み、前記送信波を繰返し周期ごとに異なる送信アンテナから時分割で送出し、繰返し周期のタイミングで前記送信アンテナごとに送信波を分離してもよい。
【0022】
この動体探知方法において、さらに、前記送信部が、複数の送信アンテナを含み、送信アンテナごとに異なる直交符号列で位相変調を行った送信波を同時に送信する工程と、前記受信部が、前記受信信号で位相変調の復調を行い、前記送信アンテナごとに受信信号を分離する工程とを含んでよい。
【0023】
上記目的を達成するため、本開示のプログラムの一側面によれば、コンピュータによって実現するプログラムであって、動体に向けて少なくとも1つの送信アンテナからミリ波の送信波を送信部に送出させる機能と、前記動体に対して一次元方向または二次元方向に配置した複数の受信アンテナで前記送信波の反射波を受け、前記受信アンテナごとに受信信号を受信部に生成させる機能と、前記受信信号間の位相差から前記受信アンテナのアンテナ面に対する前記反射波の位相面を求めて前記反射波の到来方向および信号強度を同定する機能と、
(a) 前記動体の静止物との識別
(b) 前記動体の高さ方向の計測
(c) 前記動体の追尾
(d) 前記受信アンテナから前記動体までの距離の計測
(e) 高反射物の特定
の何れかまたは二以上の処理を実行する機能と、少なくとも前記高反射物を含む前記動体を表す情報を情報提示部に提示させる機能とを前記コンピュータで実行させる。
【0024】
上記目的を達成するため、本開示の記録媒体の一側面によれば、前記プログラムを格納する。
【0025】
上記目的を達成するため、本開示のレーダの一側面によれば、動体に向けて少なくとも1つの送信アンテナからミリ波の送信波を送出する、送信部と、前記動体に対して一次元または二次元に配置した複数の受信アンテナで前記送信波の反射波を受け、前記受信アンテナごとに受信信号を生成する、受信部と、前記受信信号間の位相差から前記受信アンテナのアンテナ面に対する前記反射波の位相面を求めて前記反射波の到来方向および信号強度を同定し、
(a) 前記動体の静止物との識別
(b) 前記動体の高さ方向の計測
(c) 前記動体の追尾
(d) 前記受信アンテナから前記動体までの距離の計測
(e) 高反射物の特定
の何れかまたは二以上の処理を実行する、探知処理部と、少なくとも前記高反射物を含む前記動体を表す情報を提示する、情報提示部とを含む。
【0026】
このレーダにおいて、さらに、前記送信部が、複数の送信アンテナを配し、前記送信波を繰返し周期ごとに異なる送信アンテナから時分割で送出し、繰返し周期のタイミングで前記送信アンテナごとに送信波を分離してもよい。
【0027】
このレーダにおいて、さらに、前記送信部が、複数の送信アンテナを配し、送信アンテナごとに異なる直交符号列で位相変調を行った送信波を同時に送信し、前記受信部が、前記受信信号で位相変調の復調を行い、前記送信アンテナごとに受信信号を分離してもよい。
【0028】
このレーダにおいて、さらに、前記動体に対して一次元方向に配置された受信アンテナのアンテナ列に対して直交方向に送信アンテナを配置してもよい。
【発明の効果】
【0029】
本開示によれば、次の何れかの効果が得られる。
(1) 特定の探知エリアにミリ波の送信波を送信し、探知エリアからの反射波を観測することで、機械的または電子的な走査をすることなく、高反射物を含む動体を高頻度で探知することができる。
【0030】
(2) DBF方式によって受信アンテナパターンのスキャンが不要となり、スキャンに起因する動体または高反射物の探知漏れを防止でき、探知精度を高めることができる。
【0031】
(3) 動体に含まれる高反射物からの反射波を複数の受信アンテナで受信できるので、受信部に得られる受信信号の積分効果によって反射波の高感度化を実現できる。
【0032】
(4) DBF方式による高頻度計測の実現で、人などの動体と静止物とを判別する精度を高めることができ、静止物による動体の探知誤差を軽減できる。
【0033】
(5) 移動する動体に含まれる高反射物からの一瞬の反射波を捉え、その高反射物を特定することができる。
【0034】
(6) 反射波により特定された動体の追尾が画像上で可能であり、高反射物の探知精度を高めることができ、銃器、刃物などの危険物を迅速に探知できる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】一実施の形態に係る動体探知システムを示す図である。
図2】動体探知システムの変形例を示す図である。
図3】動体探知の処理手順を示すフローチャートである。
図4】実施例1に係る動体探知レーダを示す図である。
図5】信号処理部のハードウェアを示す図である。
図6】二次元探知の参照関数処理を説明するための図である。
図7】Aは受信部の出力信号と距離の関係を示す図であり、Bは参照関数および受信信号の積和演算処理を示す図である。
図8】スイッチモードの構成例を示す図である。
図9】コード変調モードの構成例を示す図である。
図10】仮想動体点エリアと送信アンテナおよび受信アンテナの関係を示す図である。
図11】三次元探知の参照関数処理を示す図である。
図12】送信信号、受信信号、中間周波信号および処理時間を示す図である。
図13】参照関数処理を示す図である。
図14】動体探知の処理手順を示すフローチャートである。
図15】動体追尾の処理手順の一例を示すフローチャートである。
図16】実施例2に係る動体探知レーダシステムを示す図である。
図17】動体探知レーダシステムを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
〔一実施の形態〕
図1は、一実施の形態に係る動体探知システム2の一例を示している。図示したシステム構成は一例であって、斯かる構成に本開示が限定されるものではない。
【0037】
この動体探知システム2は、ディジタルビームフォーミング(Digital Beam Forming:DBF)方式(以下単に「DBF方式」と称する。)の信号処理により動体4を探知する探知システムである。
【0038】
このDBF方式はたとえば、非特許文献1に記載されている通り、移相器や可変減衰器などではなく、A/D(アナログ/ディジタル)変換された後のI、Q信号を用いて計算機上で同様の処理をする方式である。
【0039】
動体4には、人などの動体物4-1の他、ミリ波の送信波Twに対して高反射率を呈する高反射物4-2を含む。高反射物4-2はたとえば、銃器、刃物などの金属を含む危険物を想定している。
【0040】
この動体探知システム2は図1に示すように、送信部6、受信部8、信号処理部10および画像表示部12を備えている。
【0041】
送信部6は、送信器14および少なくとも1つの送信アンテナ16を備え、送信器14は、送信信号ftによってミリ波の送信波Twを生成させ、この送信波Twを送信アンテナ16から動体4に向けて送出する。
【0042】
受信部8は、複数の受信器18-1、18-2、・・・、18-nおよび受信アンテナ20-1、20-2、・・・、20-nを備える。受信アンテナ20-1、20-2、・・・、20-nは、送信波Twの送出方向に向いており、その直交方向に対して水平または垂直に配置される。
【0043】
受信器18-1は受信アンテナ20-1で受けた反射波Rwから受信信号frを生成し、受信器18-2は受信アンテナ20-2で受けた反射波Rwから受信信号frを生成し、同様に、受信器18-nは受信アンテナ20-nで受けた反射波Rwから受信信号frを生成する。したがって、受信部8は、受信アンテナ20-1、20-2、・・・、20-nごとに受けた反射波Rwにより受信器18-1、18-2、・・・、18-nごとに受信信号frを生成する。
【0044】
信号処理部10は、動体4を探知する探知処理部の一例である。この信号処理部10はコンピュータを備え、送信部6、受信部8および画像表示部12の制御とともに、動体4の探知処理、画像表示制御などの情報処理を行う。
【0045】
画像表示部12は情報提示部の一例であり、信号処理部10に得られる探知出力情報を画像として表示する。
【0046】
斯かる動体探知システム2は、受信アンテナ20-1、20-2、・・・、20-n(以下、受信アンテナ20と略称する)を水平方向または垂直方向の一次元配置とすれば、二次元探知システムを構成する。
【0047】
これに対し、受信アンテナ20を水平方向および垂直方向の配置とし、この二次元配置の受信アンテナ20に対して受信部8を構成すれば、斯かる動体探知システム2は三次元探知システムに構成することができる。
【0048】
<三次元探知システム>
図2は、動体探知システム2の変形例に係る三次元探知システムを示している。図2において、図1と同一部分には同一符号を付しており、X、Y、Zは三次元の座標軸を示している。
【0049】
この三次元探知のための動体探知システム2では図2に示すように、送信部6および受信部8x、8yを備えている。
【0050】
受信部8xは、複数の受信器18x-1、18x-2、・・・、18x-n(以下、受信器18xと略称する)および受信アンテナ20x-1、20x-2、・・・、20x-n(以下、受信アンテナ20xと略称する)を備える。各受信アンテナ20xは送信波Twの送出方向と直交するX軸方向に配置する。
【0051】
受信部8yは、複数の受信器18y-1、18y-2、・・・、18y-n(以下、受信器18yと略称する)および受信アンテナ20y-1、20y-2、・・・、20y-n(以下、受信アンテナ20yと略称する)を備える。各受信アンテナ20yは受信アンテナ20xと同様に、送信波Twの送出方向と直交するY軸方向に配置し、各受信アンテナ20xの配置に対して直交配置である。
【0052】
送信部6は、送信器14および少なくとも1つの送信アンテナ16を備え、送信器14が生成したミリ波の送信波Twを送信アンテナ16からZ軸方向に存在する動体4に向けて送出する。
【0053】
これに対し、受信部8xは、受信アンテナ20xごとに受けたX軸方向の反射波Rwにより受信器18xごとに受信信号frxを生成する。
【0054】
また、受信部8yは、受信アンテナ20yごとに受けたY軸方向の反射波Rwにより受信器18yごとに受信信号fryを生成する。
【0055】
<処理工程>
図3は、信号処理部10による動体4の探知工程を示している。この探知工程は本開示の探知方法またはそのプログラムの一例である。
この探知工程には、送信波Twの送出工程(S101)、反射波Rwの受信工程(S102)、受信信号frの生成工程(S103)、反射波Rwの到来方向および信号強度の同定工程(S104)、動体4(=動体物4-1、高反射物4-2)の探知工程(S105)、情報提示工程(S106)、動体探知の継続判断(S107)などが含まれる。
【0056】
送信波Twの送出工程(S101): 送信部6が、動体4と正対方向に向けて少なくとも1つの送信アンテナ16からミリ波の送信波Twを送出する。
【0057】
反射波Rwの受信工程(S102): 受信部8(または受信部8x、8y)が、動体4に対して一次元方向または二次元方向に配置した複数の受信アンテナ20、20x、20yで動体4などからの反射波Rwを受信する。
【0058】
受信信号frの生成工程(S103): 受信アンテナ20、20x、20yで受けた反射波Rwにより、受信部8(または受信部8x、8y)が受信アンテナ20(または受信アンテナ20x、20y)ごとに受信信号frまたは受信信号frx、fryを生成する。
【0059】
反射波Rwの到来方向および信号強度の同定工程(S104): 信号処理部10が受信信号fr(frx、fry)間の位相差および送信信号の時間差から受信アンテナ20(または受信アンテナ20x、20y)のアンテナ面に対する反射波Rwの位相面を求めて反射波Rwの到来方向、その信号強度および反射点までの距離を同定する。
【0060】
動体4(=動体物4-1、高反射物4-2)の探知工程(S105): 信号処理部10は、受信信号frから情報処理を実行し、動体4として動体物4-1、高反射物4-2を探知する。この探知工程には、次の情報処理が含まれる。
(1) 動体4の高頻度計測
(2) 動体4の静止物との識別
(3) 動体4の高さ方向の計測
(4) 動体4の追尾
(5) 受信アンテナ20から動体4までの距離の計測
(6) 高反射物4-2の特定
(7) 探知出力の生成
これらの探知工程は一例であり、斯かる情報処理に限定されるものではない。
【0061】
情報提示工程(S106): 信号処理部10は、上記処理により探知出力を生成し、画像表示部12に出力する。この画像表示部12では、信号処理部10に探知された動体4、つまり、特定された動体物4-1や高反射物4-2の画像を表示する。
【0062】
動体探知の継続判断(S107): 信号処理部10は、動体探知の終了指示を受けたか否かにより動体探知の継続を判断する。探知継続であれば(S107のYES)、S101に戻り、既述の処理S102~S107を継続し、探知終了であれば(S107のNO)、探知処理を終了する。
【0063】
<受信信号frの分離処理>
複数の送信アンテナ16に一次元の受信アンテナ20を配した場合、送信波Twは繰返し周期ごとに異なる送信アンテナ16から時分割で送信し、繰返し周期のタイミングで送信アンテナ16ごとの送信波Twを分離する方式を実行する。
【0064】
前記方式とは別に、送信アンテナ16ごとに異なる直交符号列で位相変調を行った送信波Twを同時に送信し、受信信号frで位相変調の復調を行い、送信アンテナ16ごとの受信信号frを分離する方式でもよい。
【0065】
<動体4の高頻度計測>
従来のビーム走査方式では、ある特定方向にレーダの送信波を繰返し周期の1周期分送信し、その信号が観測対象で反射され、この反射波がレーダで受信された後に、次の方向に送信波を送信するため、観測範囲全体を操作するのに時間が掛かり、ひいては画像1フレームを得るのに時間が掛かる。このため、画像生成を高頻度で行うことができない。そして、このような画像生成では、人などの動体の動きによる信号強度に揺らぎが生じ、生成画像に揺らぎの影響を回避できない。斯かる信号強度に揺らぎの影響を回避するには、動体4の動きが送信波Twの波長に対して無視できる程度の頻度で計測する必要がある。この計測の高頻度化をDBF方式でビーム走査なしに画像生成を行う。
【0066】
DBF方式を用いた高頻度計測として1回の送信波で1フレームの画像を送ることができるため、たとえば、100μ秒>10,000回/秒の計測を行う。斯かる高頻度計測によれば、送信波Twの波長に対して人などの動体4の動きを静止物とみなせる程度の変化として捉えることができ、動体4からの反射波Rwたとえば、一瞬の強力な反射波Rwも逃さず計測できる。
【0067】
<動体4の静止物との識別>
計測空間から動体4を抽出するには、反射波Rwに含まれる動体4以外の構造物などの静止物を除去する必要がある。静止している動体4は反射波Rwの波長レベルで見れば、大きく動いている物体と言える。この動きから反射波Rwに生じる位相変化を計測すれば、静止物からの反射波Rwを区別できる。
【0068】
したがって、反射波Rwに含まれる動体4以外の静止物からの反射波Rwに対し、送信波Twの波長レベルの変位で生じる位相変化を用いて、静止物と動体4とを識別し、動体4のみを抽出する。
【0069】
<動体4の高さ方向の計測>
複数の受信アンテナ20は一次元方向または二次元方向に配置する。送信アンテナ16が単体の場合、受信アンテナ20を二次元配置とすれば、動体4の垂直方向にも分割計測が行える。つまり、動体4からの反射波Rwを垂直方向にも分離して計測でき、動体4から細分化された反射波Rwにおける反射強度を計測できる。
【0070】
受信アンテナ20が一次元配置の場合、送信アンテナ16を受信アンテナ20のアンテナ列と直交方向に配列すれば、MIMO(Multiple-Input Multiple-Output)方式による三次元化を実現できる。
【0071】
<動体4の追尾>
計測した動体4に対し、その動体4を特定するための識別情報として、ID(Identification)情報を付与する。動体4が動くと、反射波Rwの信号強度は大きく揺らぎ、その信号が検出不能となる程度に弱くなる場合がある。繰り返し計測した場合、一定時間以内に一定の距離範囲内で既存のID番号の近傍で現れた動体4を同一物と判定し、同一のID情報を付与して追跡する。
【0072】
同一のID情報が付与されて動体4が追跡されている間は、計測した反射強度の最大値を保持する。瞬間的に高い反射強度が計測されたとき、危険物を保持している可能性が高いと判定してもよい。
【0073】
<受信アンテナ20から動体4までの距離の計測>
送信波Twと受信アンテナ20に対し、その特定方向からの反射波Rwの伝搬遅延から動体4までの距離を算出する。
【0074】
<高反射物4-2の特定>
動体4からの反射波Rwは小さな金属より高反射となる場合がある。そこで、動体4の縦方向にも分解能を持ち、より小さい面積からの反射波Rwで動体4に含まれる高反射物4-2を判定する。
【0075】
<探知出力の生成>
既述の動体4を追尾し、動体4における動体物4-1と高反射物4-2との電波反射率の違いを利用して高反射物4-2を特定する。つまり、反射波Rwの信号強度から高反射物4-2を特定し、高反射物4-2を不審物ないし危険物と判定する処理を実行すればよい。これにより探知出力を生成する。
【0076】
<一実施の形態の効果>
この一実施の形態によれば、次の何れかの効果が得られる。
(1) 特定の探知エリアに対してミリ波の送信波Twを送信し、探知エリアからの反射波Rwを観測することで、機械的または電子的な走査をすることなく、高反射物4-2を含む動体4を高頻度で探知できる。
【0077】
(2) DBF方式によって受信アンテナパターンのスキャンが不要となり、スキャンに起因する動体4における高反射物4-2の探知漏れを防止でき、動体4の探知精度を高めることができる。
【0078】
(3) 動体4に含まれる高反射物4-2からの反射波Rwを複数の受信アンテナ20で受信できるので、受信部8に得られる受信信号frの積分効果によって反射波Rwの高感度化を実現できる。
【0079】
(4) DBF方式による高頻度計測の実現で、動体4と静止物とを判別する精度を高めることができ、静止物による動体4の探知誤差を軽減できる。
【0080】
(5) 動体4に含まれる高反射物4-2からの一瞬の反射波Rwを捉え、その高反射物4-2を含む動体4を特定できる。
【0081】
(6) 反射波Rwにより特定された動体4の追尾が画像上で可能であり、動体4に含まれる高反射物4-2の探知精度が高められ、銃器、刃物などの危険物を迅速に探知することができる。
【実施例0082】
<動体探知レーダ22>
図4は、実施例1に係る動体探知レーダ22を示している。図4において、図1と同一部分には同一符号を付してある。
【0083】
この動体探知レーダ22は既述の動体探知システム2の一例であり、ミリ波の送信波Twを送出し、危険物を携帯している人などの動体4からの反射波Rwを取得し、危険物と目される高反射物4-2を含む動体4を探知するレーダシステムである。
【0084】
この動体探知レーダ22は送信部6、受信部8、信号処理部10および画像表示部12を備えている。
【0085】
送信部6は単一の送信器14および送信アンテナ16を備え、送信器14で送信信号ftを生成し、送信アンテナ16から送信波Twを観測エリアに向けて送出する。この送信波Twはミリ波である。
【0086】
送信器14はたとえば、FMCW(Frequency Modulated Continuous Wave :周波数変調連続波)信号生成部24、電力増幅部26、方向性結合器28および分配回路30を備える。
【0087】
FMCW信号生成部24は、信号処理部10から基準信号を受けてFMCW信号(以下「チャープ信号」と称する)を生成する。電力増幅部26は、FMCW信号生成部24からチャープ信号を受け、電力増幅を行い、送信信号ftを出力する。方向性結合器28は、電力増幅部26と送信アンテナ16を結合させ、電力増幅部26で所定のレベルに増幅された送信信号ftを送信アンテナ16に出力すると同時に送信信号ftの一部を分配回路30に分岐させる。送信アンテナ16は方向性結合器28から受けた送信信号ftにより動体4の観測エリアに送信波Twを送出する。
【0088】
分配回路30は、方向性結合器28から送信信号ftの一部を受け、この送信信号ftを各受信器18-1、18-2、・・・、18-nに分配する。この送信信号ftは、各受信器18-1、18-2、・・・、18-nのローカル信号に用いられる。
【0089】
受信部8は、複数の受信器18-1、18-2、・・・、18-nおよび受信アンテナ20-1、20-2・・・、20-nを備え、各受信アンテナ20で反射波Rwを受け、受信アンテナ20ごとに受信信号frを生成し、信号処理部10に提供する。
【0090】
受信アンテナ20-1、20-2・・・、20-nは、一次元配列としてもよいし、図2に示すように、二次元配列としてもよい。二次元配列の受信アンテナ20では、水平方向に配列された複数の受信アンテナ20xと、垂直方向に配列された複数の受信アンテナ20yとを備え、各受信アンテナ20x、20yは直交配置とすればよい。
【0091】
各受信器18-1、18-2、・・・、18-nは、LNA(Low Noise Amplifier :低雑音増幅器)32、周波数混合器(MIXER)34、LPF(Low Pass Filter :低域通過フィルタ)36、中間周波増幅部38、アナログ・ディジタル変換器(A/D)40および前処理部42を備える。
【0092】
受信アンテナ20に得られる受信信号frはLNA32で増幅し、MIXER34で送信信号ftとミキシングされる。これにより、ローカル信号で中間周波数への周波数変換が行われる。MIXER34で得られた中間周波信号は、LPF36を通過させて低域成分を抽出し、中間周波増幅部38で増幅した後、A/D40でディジタル信号に変換し、前処理部42を通して信号処理部10に提供される。前処理部42では、A/D変換された信号がFFT(Fast Fourier Transform:高速フーリエ変換)により周波数領域に変換される。感度を向上させるには、周波数領域のディジタル信号を積分して雑音の低減化などにより、高感度化を行えばよい。
【0093】
信号処理部10は、信号生成部44を備えるとともに、動体4の探知処理用のコンピュータなどを備える。信号生成部44は既述の基準信号を一定のタイミングで生成する。そして、信号処理部10の既述の情報処理には、動体4の高頻度計測、動体4の静止物との識別、動体4の高さ方向の計測、動体4の追尾、送信アンテナ16から動体4までの距離の計測、高反射物4-2の特定などの処理が含まれ、高反射物4-2を含む動体4を表す探知出力を生成する。
【0094】
<信号処理部10のハードウェア>
信号処理部10は図5に示すように、コンピュータで構成される。図5に示す構成例では、信号生成部44、プロセッサ46、メモリ部48および入出力部50で構成されている。
【0095】
プロセッサ46は、メモリ部48に格納されているOS(Operating System)や動体探知プログラムを実行する情報処理を含み、動体4の探知に必要な信号処理や各種機能部の制御などを実行する。
【0096】
メモリ部48はコンピュータで読み取り可能な記録媒体の一例であり、たとえばRAM(Random-Access Memory)やROM(Read-Only Memory)を備える。RAMは各種プログラムを実行するためのワークエリアを構成する。ROMはプログラムを記録する記憶手段であり、既述のOSや動体探知プログラムの格納の他、動体探知に必要な各種データを格納する。ROMはたとえば、電気的に内容を書き換えることができるEEPROM(Electrically Erasable Programmable Read-Only Memory )、フラッシュメモリなどの半導体メモリなどを用いればよい。
【0097】
メモリ部48はRAMやROMに限られずたとえば、磁気ディスク、フレキシブルディスク、ハードディスク、光ディスク、光磁気ディスク、SSD(Solid State Drive )などのコンピュータで読取り可能な記録媒体でもよい。
【0098】
信号生成部44はプロセッサ46により制御され、同期信号となる基準信号などの信号を発生する。基準信号は送信器14および受信器18-1、18-2、・・・、18-nに提供され、タイミング信号として動作タイミングや信号処理に用いられる。
【0099】
入出力部50は、受信器18-1、18-2、・・・、18-nの出力信号の取り込み、動体探知プログラムの実行による探知出力信号の出力に用いられる。
【0100】
<動体4の探知処理>
動体4の探知処理について、信号処理部10では、受信アンテナ20-1、20-2、・・・、20-nごとに受信器18-1、18-2、・・・、18-nで得られた各受信信号frを用いて、受信信号fr間の位相差から各受信アンテナ20のアンテナ面に対する反射波Rwの位相面を求めて反射波Rwの到来方向、信号強度および位相を同定し、動体4の探知信号を生成する。
【0101】
この処理手順では、送信器14で生成した送信信号ftにより送信アンテナ16から送信波Twを探知エリアに向けて送信し、各受信アンテナ20-1、20-2、・・・、20-nで探知エリアからの反射波Rwを受ける。送信タイミングに同期して各受信器18-1、18-2、・・・、18-nから出力信号が信号処理部10に提供される。信号処理部10は、各出力信号である受信信号Yn(f)を用いて動体4の探知のための信号処理を実行する。各受信信号Yn(f)はアンテナで受信された反射信号がローカル信号により周波数変換され、周波数領域に変換されたものである。
【0102】
この信号処理において、受信アンテナ20-1、20-2、・・・、20-nごとに受信器18-1、18-2、・・・、18-nで得られる受信信号Yn(f)を用いて次の処理を実行する。
【0103】
受信信号fr間の位相差から各受信アンテナ20のアンテナ面に対する反射波Rwの位相面を求め、反射波Rwの到来方向の同定とともに、その信号強度を同定する。
【0104】
この動体探知レーダ22では、送信部6と複数チャネルで構成される受信部8の一チャネル分の系統を示しているが、送信部6では信号処理部10内の信号生成部44が出力する信号を用いてチャープ信号を発生させる。この信号は電力増幅され、たとえば、79GHzのレーダ波として送信アンテナ16から出力される。
【0105】
このチャープ信号は、各受信器18-1、18-2、・・・、18-nの中間周波信号を生成するためのローカル信号にも用いられる。距離Rにある動体4からの反射波Rwの送信信号からの時間遅れ(伝搬遅延)τは、式(1)で表される。
τ=2・Rw/c ・・・・・(1)
式(1)において、cは光速である。
【0106】
線形チャープ信号の周波数の傾きをkとすると、動体4からの反射波Rwによる受信信号frと送信信号ftを混合して得られる中間周波信号Snの周波数fnは、式(2)で表される。
fn=k・τ=k・2・Rw/c ・・・・・(2)
【0107】
中間周波信号Snは増幅され、A/D40でAD変換された後、前処理部42で複素信号に変換された後、FFTにより周波数領域に変換される。信号処理部10では、式(2)からRw=fn/2kで周波数は探知された動体4の距離に変換される。
【0108】
そして、一次元配列の受信アンテナ20を用いた動体探知レーダ22では、送信周期ごとにレンジと方位の二次元で表される探知エリアの画像情報が得られ、画像表示部12に提示される。このミリ波の動体探知レーダ22では参照関数処理が行われる。
【0109】
<参照関数処理>
この参照関数処理では、画像化する探知エリアの全ての画像化点を、動体4が存在する仮想動体点とし、この仮想動体点から全受信アンテナ20までの距離を計算する。その距離により生じるミリ波の位相回転を受信チャンネル数分だけ計算する。次に、周波数領域で表された各チャンネルの出力信号である受信信号Yn(f)の、動体4と各チャンネルのアンテナ間の距離に相当する周波数の信号成分に記述の位相回転の補正を行い、全ての受信チャンネルの成分を加算する。これにより仮定した位置にある動体4からの反射波Rwの信号強度と位相を求めることができる。この操作をすべての画像化点に対して行うことにより、1フレームの画像を得ることができる。
【0110】
したがって、1回のチャープ信号を送信する度に1フレームの二次元または三次元の探知画像を生成できる。これにより、従来のアンテナを走査するレーダでは1回の送信で1方向しか観測できず、アジマス方向が300画素ある場合、1フレームの画像を得るのに1回の送信時間の300倍を要する。一方、本方式では1回の送信時間で1フレームを得ることができ、高頻度な計測が可能になる。
【0111】
<二次元の参照関数処理>
図6は、二次元の参照関数処理を示している。図6において、図1と同一部分には同一符号を付してある。
【0112】
参照関数処理では画像化エリア52のすべての点を仮想動体点として、それぞれの仮想点に対する参照関数を求める。ある仮想動体点の参照関数は、その点と全ての受信アンテナ20-0から20-n間の距離R0~Rnを計算する。この距離による伝搬遅延τ0~τnは式(1)で求められる。
【0113】
参照関数G(n)は、次式(3)で求められる。
G(n)=exp(-j2πFCτ(n)) ・・・・・(3)
ここで、FCは送信波Twのミリ波の中心周波数である。
【0114】
図7のAは、受信部8の出力信号と距離の関係を示している。
受信器18-1、18-2、・・・、18-nの出力信号は前処理部42でFFTにより周波数領域に変換され、Yn(f)となっている。
【0115】
図7のBは、参照関数および受信信号frの積和演算処理を示している。
各受信チャンネルの受信器18の受信信号Yn(f)から仮想動体点の反射信号が含まれているはずの成分を抜き出し、当該距離を抜き出した受信信号とする。この受信信号と参照関数の共役関数を積和演算すれば、仮想動体点の反射強度と位相が求められる。
【0116】
<三次元の参照関数処理>
(1)送信アンテナが1台の場合
送信アンテナ16が1台で三次元処理を行うためには、受信アンテナ20を水平と垂直の二次元に配列する。
【0117】
参照関数処理は画像化エリア52を三次元空間として、仮想動体点を三次元の座標内の点とする。その仮想動体点の位置と全ての受信アンテナ20間の距離から、アンテナ配列が一次元の場合と同じように処理を行うことができる。
【0118】
(2)送信アンテナ16が複数台で受信アンテナ20が一次元配列の場合
この方式ではFMCW信号周期ごとに複数の送信アンテナのどれか一つから切り替えて送信する方式(スイッチモード)と、全送信アンテナ16から直交関数で位相変調されたFMCW信号を同時に送信する方式(コード変調モード)がある。何れの場合も受信信号Yn(f)までが異なるが、それ以降は同一の参照関数処理になる。
【0119】
図8は、スイッチモードの構成を示している。図8において、図1と同一部分には同一符号を付している。
【0120】
このスイッチモードではスイッチ(SW)制御部54のSW制御により、FMCW信号の繰返し周期ごとに使用する送信アンテナ16を切替スイッチ部56により切り替える。受信信号もそれぞれの送信アンテナ16に対応した受信信号Yn(f)を切替スイッチ部57により切り替えてデータバッファ60に格納し、三次元データを構成する。
【0121】
図9は、コード変調モードの構成を示している。図9において、図1および図8と同一部分には同一符号を付している。
【0122】
コード変調モードでは送信部6が符号変調器58を通してすべての送信アンテナ16に接続されている。
【0123】
FMCW信号の繰返し周期ごとに各送信アンテナ16の信号に異なる符号列の位相変調が行われる。受信信号には符号変調器58と逆位相の復調信号で一定回数の積和演算を関数積和乗算部61で行うことで、受信信号を各送信アンテナ16からの信号成分に分離する。符号変調器58には変復調符号生成部62から変調符号信号が与えられ、関数積和乗算部61には変復調符号生成部62から復調符号信号が与えられる。そして、関数積和乗算部61の乗算結果である信号成分データはデータバッファ64に格納される。
【0124】
<三次元探知の受信信号と参照関数の生成>
図10は、仮想動体点エリアと送信アンテナおよび受信アンテナの関係を示している。図11は、三次元の参照関数処理を示している。
【0125】
送信アンテナ16が0からmまである場合、受信信号Yn,m(f)は各送信アンテナ数と受信アンテナ数の三次元データとなる。この三次元データから送信アンテナ16、仮想動体点エリア66、受信アンテナ20の伝搬距離に相当する成分を抜き出し、参照関数処理を行う二次元データを抽出する。
【0126】
伝搬遅延τは送信アンテナ16から仮想動体点、受信アンテナ20までの総距離から計算する。これによりそれぞれの仮想動体点に対し、受信アンテナ20と送信アンテナ16の組み合わせによる二次元の参照関数が生成される。この参照関数と受信データの当該距離成分を抜き出した二次元データで積和演算を行い、仮想動体点の信号強度と位相が求められる。
【0127】
画像の1フレームは通常、100μ秒から1m秒である。歩行中の動体4でも移動距離は波長以下とみなすことができ、十分高い頻度での画像化が可能である。
【0128】
画像処理では、受信データから探知エリア内での動体4の探知を行うとともに高反射物4-2の検出により、動体4が携行する高反射物4-2が危険物であるか否かの判定を行う。
【0129】
そして、受信部8の受信アンテナ20x、20y(図2)のように水平方向および垂直方向の二次元配置に配置することにより、垂直方向にもDBF処理を行うことができ、探知エリア内を走査でき、解像度の高い探知ができる。
【0130】
この場合、探知対象である動体4を表す画像化はレンジ、方位、仰角の三次元画像として得ることができる。この場合の処理も二次元と同様に画像化する領域の仮想探知対象と各アンテナ間の距離から参照関数を生成する。
【0131】
<送信信号ftおよび受信信号frの処理>
図12のAは、送信信号ftおよび受信信号frの周波数変化を示し、図12のBはミキサー出力信号の周波数を示している。送信アンテナ16または受信アンテナ20から探知対象までの往復距離だけ、受信信号frが遅れるので、この受信信号frの遅れにより送信信号ftと受信信号fr間に周波数差Td(図12)が生じる。この周波数差がミキサー出力信号の周波数になる。チャープ率をkとすると、FMCW信号方式の送信信号ft(t)は式(4)で表すことができる。
【0132】
【数1】
【0133】
移動している動体4からの反射波Rwを求める。送信アンテナ16から動体4の位置までの距離をRT、同様に受信アンテナ20-1、20-2、・・・、20-nから動体4の距離をRRとする。
【0134】
動体4の速度は繰返し周期PRT内では一変化が無視できる程度に小さいとする。送信周波数をFC、チャープ率kとすると、受信信号fr(t)は式(5)で表される。
【0135】
【数2】
【0136】
この受信信号frをLNA32で増幅した後、送信信号ftを分岐したローカル信号で周波数を変換し、LPF36で低域部分を抜き出すと、中間周波信号fif(t)は式(6)で表される。
【0137】
【数3】
【0138】
この中間周波信号fifを中間周波増幅部38で増幅、A/D40でデジタル信号に変換し、前処理部42では、FMCW信号をFFTにより周波数変換することで、各距離を表す信号成分が抽出される。この正の周波数成分は式(7)、(8)で表すことができる。
【0139】
【数4】
【0140】
各受信アンテナ20-1、20-2、・・・、20-nで得られる受信信号frの各レンジに参照関数処理を行い、動体4の位置、その反射強度および位相を求めている。
【0141】
<方位合成>
この方位合成について、図13を参照する。図13では、単一の送信器14と、受信部8には一例として6台の受信器18-1、18-2、・・・、18-6を想定する。
【0142】
送信アンテナ16から距離Rtだけ離れた動体4に送信波Twを照射する。観測対象である動体4から得られる反射波Rwは受信アンテナ20-1、20-2、・・・、20-6に受信される。各受信器18-1、18-2、・・・、18-6の出力信号は、動体4から送信アンテナ16、受信アンテナ20-1、20-2、・・・、20-6までの総距離Rmにより、式(9)で表すことができる。
【0143】
【数5】
式(9)において、但し、
【0144】
【数6】

である。式(10)において、nは受信アンテナ20-1、20-2、・・・、20-6に付されたアンテナ番号である。この場合、nは1、2、・・・、6である。
【0145】
受信器18-1、18-2、・・・、18-6の出力信号は、信号処理部10で参照関数と相関処理される。これにより、信号処理部10では、方位分解能に応じた信号成分が抽出される。
【0146】
この方位分解能は次の通りである。各受信アンテナ20-1、20-2、・・・、20-6が等距離dで、1列状態であるとすれば、さらに両端にd/2の効果があると考えられる。この場合、受信アンテナ20-1、20-2、・・・、20-6の実効的な全体の開口長Dは、式(11)で表される。
D=5×d+d ・・・・・(11)
【0147】
このような全体の開口長Dを持つ受信アンテナ20-1、20-2、・・・、20-6では、送信信号の波長をλとすると、期待できる方位分解能θRES は式(12)で表される。
θRES =λ/D ・・・・・(12)
【0148】
送信アンテナ16および各受信アンテナ20-1、20-2、・・・、20-6のそれぞれの開口長を等しいものとし、それぞれの開口長をd0とすると、探知範囲θ0 は、式(13)で表される。
θ0 =d0/λ ・・・・・(13)
【0149】
受信アンテナ20-1、20-2、・・・、20-6の中心位置から探知範囲θ0 、距離R0の扇型線上の動体4の仮想点について、方位分解能θRES ごとに参照関数g(n,θ)を生成する。この参照関数g(n,θ)は、式(14)で表される。
【0150】
【数7】
【0151】
ここで、Rx(R,n,θ) は、送信アンテナ16から距離R、方位θにある反射点、さらにn番目の受信アンテナ20-nまでの総距離となる。
【0152】
中間周波信号fif(R,n)と参照関数g(R,n,θ)の共役関数と相関処理することで、方位分解能ごとの信号h(R,θ)が抽出される。この信号h(R,θ)は、式(15)で表される。
【0153】
【数8】
【0154】
探知対象にひとつの観測点として動体4を想定すると、この動体4までの距離が展開したアンテナの全体の開口長Dに比べて遠方であれば、動体4の送信波は無限遠から到来すると考えられる。この場合、参照関数の処理はより簡単なFFTに置き換えることが可能となる。一般的には、遠方界と呼ばれる領域で、展開されたアンテナの全体の開口長をD、波長をλとすれば、距離Rは式(16)で表される。
【0155】
【数9】
【0156】
この場合、各アンテナ間の位相差は、動体4までの距離に無関係で受信アンテナ20-1、20-2、・・・、20-6のアンテナ面に対する角度で決定される。中間周波信号fif(n)をFFT処理すれば、式(17)に示す周波数成分h(f)が方位方向の信号に変換される。FFT出力の周波数をfとすると、方位θは、式(18)で表される。
【0157】
【数10】
【0158】
【数11】
【0159】
<動体4の位置および反射波の信号強度の検出>
図14は、動体探知レーダ22による動体4の位置および反射波Rwの信号強度の探知工程を示している。
【0160】
この探知工程には、高頻度のレーダ計測(S201)、データ収集(S202)、インコヒーレント積分強度の算出(S203)、コヒーレント積分強度の算出(S204)、静止物か動体4かの判断(S205)、動体4の特定(S206)などが含まれる。
【0161】
高頻度のレーダ計測(S201): 高頻度のレーダ計測では、高頻度計測としてたとえば、100μ秒単位で送信波Twを送出し、動体4からの反射波Rwを取得する。
【0162】
データ収集(S202): 信号処理部10は探知エリアの参照関数処理されたレーダ画像を反射強度と位相情報を有する複素データDiとして生成する。この複素データDiは、メモリ部48にレーダ画像のフレーム(繰返し周期PRT)単位で複素画像データを表す複数のフレームとして格納される。
【0163】
インコヒーレント積分強度の算出(S203): 信号処理部10は複数フレーム(たとえば、100枚/10m秒)の複素データDiのインコヒーレント積分強度を算出する。
【0164】
コヒーレント積分強度の算出(S204): 信号処理部10は同様に、インコヒーレントと同数の複数フレームのコヒーレント積分強度を算出する。
【0165】
静止物か動体4かの判断(S205): 静止物からの反射波Rwの位相は一定である。このため、インコヒーレント積分強度およびコヒーレント積分強度は何れも同じ強度を示す。これに対し、動体4からの反射波Rwの位相は動体4の動きに応じて大きく変化する。このため、動体4では、コヒーレント積分強度はインコヒーレント積分強度に比べて小さくなる。そこで、インコヒーレント積分強度からコヒーレント積分強度を減ずると、静止物からの反射波Rwの強度情報は相殺されるのに対し、動体4からの反射波Rwの強度情報は残存する。この相違から動体4を判定できる。
【0166】
動体4の特定(S206): 動体4を特定した強度情報に対して閾値を設定し、この閾値以上の強度領域を特定すれば、積分時間内に動体4が存在している領域を抽出することができる。
【0167】
そして、各フレーム内で抽出した領域内の最大反射強度を持つ点を動体4の存在位置として抽出すれば、探知フレームレートごとにレーダ画像から動体4の位置と反射波Rwの信号強度を検知でき、動体4を特定できる。
【0168】
<探知した動体4の追尾>
図15は、動体探知レーダ22による動体4の追尾工程を示している。
【0169】
この追尾工程では、動体4の探知(S301)、IDの付与(S302)、IDごとに反射波Rwの最大強度の保存(S303)、IDの追尾(S304)、IDごとの閾値判定(S305)、動体4の特定(S306)などが含まれる。
【0170】
動体4の探知(S301): 信号処理部10は、動体4を探知する。この動体4には動体物4-1と高反射物4-2が含まれる。
【0171】
IDの付与(S302): 信号処理部10は、探知した動体4に対して識別情報としてID番号を付与する。この場合、繰り返し計測した場合には、特定の動体4に対し既存のID番号を付加する。
【0172】
IDごとに反射波Rwの最大強度の保存(S303): 信号処理部10は、ID番号ごとに反射波Rwの最大強度を保存する。
【0173】
IDの追尾(S304): 信号処理部10は、複数のフレーム画像を総合し、ID番号で特定される動体4を表す動体情報を追尾する。同一のID番号を付与した動体4を追跡している間は、計測された反射強度の最大値を保持することにより、瞬間的に高い受信強度を検出したとき、追跡機能により同一ID番号を与え続けることができる。
【0174】
IDごとの閾値判定(S305): 信号処理部10は、ID番号ごとに閾値を設定し、閾値を超える反射波Rwを表す画像を特定する。
【0175】
動体4の特定(S306): 信号処理部10は、反射強度から動体4や動体4における高反射物4-2を判定する。予め計測された動体4についての反射強度のデータベースと比較し、レーダ計測結果の信号強度から高反射物4-2の存在を判定する。たとえば、信号強度が強い動体4について、高反射物4-2を危険物として判定すればよい。
【0176】
<実施例1の効果>
この実施例1によれば、次の何れかの効果が得られる。
(1) 従来のビーム操作方式に比較し、DBF方式でビーム走査なしに画像生成を実現するので、高頻度な画像生成を行うことができる。
【0177】
(2) 歩行中の人などの動体4を探知でき、動体4に含まれる高反射物4-2による反射波Rwの反射強度や距離変化が動体4の姿勢などの揺らぎによる影響を回避でき、高反射物4-2を探知でき、一瞬の反射を逃さず探知できるので、危険物探知などの高頻度の観測を行うことができる。
【0178】
(3) 波長レベルの変位で生じる位相変化を用いて、静止物と動体4とを識別でき、動体4の探知精度を高めることができる。
【0179】
(4) 動体4を追尾し、動体4とともに移動する金属などの電波反射率の高い高反射物4-2を探知できる。
【0180】
(5) 動体4の縦方向にも分解能を設定しているので、より小さい面積からの反射信号で、動体4と高反射物4-2を判定することができる。
【実施例0181】
<動体探知レーダシステム70>
図16および図17は、実施例2に係る動体探知レーダシステム70を示している。
【0182】
動体探知レーダシステム70は、図16に示すように、空港のコンコースなどに探知エリア72を設定して第1のレーダ部22-1および第2のレーダ部22-2を設置し、各レーダ部22-1、22-2からミリ波の送信波Twを送出し、動体4からの反射波Rwを各レーダ部22-1、22-2で取得する。
【0183】
各レーダ部22-1、22-2にはサーバー装置74が接続され、レーダ部22-1、22-2の出力信号を合成して動体4の探知を行い、危険物と見做される高反射物4-2を探知する。
【0184】
この動体探知レーダシステム70は図17に示すように、レーダ部22-1、22-2およびサーバー装置74で構成される。レーダ部22-1、22-2は、既述の動体探知レーダ22の送信部6、受信部8および信号処理部10で構成される。
【0185】
サーバー装置74は、レーダ部22-1、22-2を同期させる処理部76を内蔵し、かつ既述の画像表示部78を備えている。
【0186】
<実施例2の効果>
この実施例2によれば、次の何れかの効果が得られる。
(1) レーダ部22-1は、動体4と正対方向に向けて送信波Twを放射し、レーダ部22-2は、レーダ部22-1と異なり、動体4と反対方向に向けて送信波Twを放射し、それぞれの反射波Rwを受信することができる。
【0187】
(2) サーバー装置74は、各レーダ部22-1、22-2の受信信号から動体4を探知でき、動体4のたとえば、背面側に隠されている高反射物4-2を容易にしかも迅速に探知することができ、危険物探知を容易化、高精度化できる。
【0188】
(3) 静止物などと動体4との識別精度を高めることができる。
【0189】
〔他の実施の形態〕
本開示には以下の実施の形態が含まれる。
(1) 動体4に含まれる動体物4-1や高反射物4-2が危険物であるか否かの判定について、たとえば、危険物であるかを判定するための基準情報を取得し、この基準情報と動体4から取得した動体情報とを比較し、この動体情報が危険物であるか否かを判定し、この判定結果を提示してもよい。
【0190】
(2) 上記実施の形態において、送信アンテナは1台、受信アンテナは一次元または二次元配列としてもよい。
【0191】
(3) 上記実施の形態において、送信アンテナは複数台として時分割送信とし、受信アンテナは一次元配列としてもよい。
【0192】
(4) 上記実施の形態において、送信アンテナは複数台として直交変調同時送信とし、受信アンテナは一次元配列としてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0193】
以上説明したように本開示によれば、空港などの従来の制限区域への入場時だけでなく、大規模イベントや公共交通機関などに対してもセキュリティ検査強化の需要に応ずることができる。膨大な人数の全数に対してこれらのセキュリティ検査を実施でき、セキュリティ検査場を通過できる人数が少なくなることによる深刻な検査渋滞を回避できる。
【0194】
しかも、検査速度および検査精度を向上させ、比較的広い空間での歩行者の流れの中で、詳細なセキュリティのための検査対象者などの動体を絞り込む一次スクリーニングに活用でき、最小限対象者のみの詳細検査の実施に貢献できるなど、人々の往来の流れを止めることなく、高度なセキュリティを実現できる。
【符号の説明】
【0195】
2 動体探知システム
4 動体
4-1 動体物
4-2 高反射物
6 送信部
8 受信部
10 信号処理部
12 画像表示部
14 送信器
16 送信アンテナ
18-1、18-2、・・・、18-n 受信器
20-1、20-2、・・・、20-n 受信アンテナ
22 動体探知レーダ
22-1、22-2 レーダ部
24 信号生成部
26 電力増幅部
28 方向性結合器
30 分配回路
32 LNA
34 MIXER
36 LPF
38 中間周波増幅部
40 A/D
42 前処理部
44 信号生成部
46 プロセッサ
48 メモリ部
50 入出力部
52 画像化エリア
54 スイッチ制御部
56、57 切替スイッチ部
58 符号変調器
60、64 データバッファ
61 関数積和乗算部
62 変復調符号生成部
70 動体探知レーダシステム
72 探知エリア
74 サーバー装置
76 処理部

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17