(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022152508
(43)【公開日】2022-10-12
(54)【発明の名称】車両の車いす搭載スペースのフロア
(51)【国際特許分類】
A61G 3/08 20060101AFI20221004BHJP
B60P 3/00 20060101ALI20221004BHJP
B62D 25/20 20060101ALI20221004BHJP
A61G 3/06 20060101ALN20221004BHJP
【FI】
A61G3/08
B60P3/00 A
B62D25/20 E
A61G3/06 711
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021055304
(22)【出願日】2021-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000157083
【氏名又は名称】トヨタ自動車東日本株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石田 貴紀
(72)【発明者】
【氏名】井出 雄介
(72)【発明者】
【氏名】南 昌宏
【テーマコード(参考)】
3D203
【Fターム(参考)】
3D203AA02
3D203BB06
(57)【要約】
【課題】車両の車いす搭載スペースの傾斜したフロア上で車いすの仮止めを容易にする。
【解決手段】車いす搭載スペースの、車いすの進入方向Aの後方側が低くなるよう傾斜したフロア18に係合溝30を設ける。係合溝30の車いすのキャスタ28を係止する係止部分44を有し、係止部分44の溝側面である係止面46は、進入方向Aに関して、進入方向Aの前方が広く、後方が狭くなるように傾斜している。キャスタ28は、係止面46に当接すると、傾斜方向に対して交差する向きを変える。これにより、傾斜を下ろうとする車いすの動きが抑えられる。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の車いす搭載スペースのフロアであって、
前記フロアは、車いすの進入方向に関して後方が低くなるよう傾斜しており、前記フロアには、後退する車いすの左右のキャスタがそれぞれ当接するように2つの係止面が設けられ、
前記2つの係止面は、車いすの進入方向に関して前方が広く後方が狭くなるようにテーパ状に配置されている、
車いす搭載スペースのフロア。
【請求項2】
請求項1に記載の車いす搭載スペースのフロアであって、前記係止面は前記フロアに形成された段差の段差面である、車いす搭載スペースのフロア。
【請求項3】
請求項1に記載の車いす搭載スペースのフロアであって、前記係止面は前記フロアに形成された溝の側面である、車いす搭載スペースのフロア。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車いすを搭載するためのスペースを有する車両のフロアに関し、特にフロアの構造に関する。
【背景技術】
【0002】
利用者が着座した車いすを搭載可能な車両が知られている。車いすを車両に載せ降ろしするときには、車いす搭載スペースのフロアと路面を架け渡すようにスロープを設置する。スロープが傾斜しているため、車いす搭載スペースのフロアも、車いすの進入方向の前方が高く、後方が低くなるよう傾斜している。
【0003】
下記特許文献1には、後部に車いす(100)を搭載するスペースを設けた車両(1)が開示されている。車いすを搭載する際には、車いす搭載スペースのフロアパネル(ミッドフロアパネル12、リアフロアパネル13)に連続するようにスロープ(50)を展開し、電動ウインチ(40)を用いてスロープ(50)に沿って車いすを引き上げる。車いす搭載スペースのフロアパネル(ミッドフロアパネル12)には、車いすの搭載位置を決めるため、車いすのキャスタ(前輪101)が置かれる凹部(12b1)が形成されている。なお、上記の( )内の部材名および符号は、下記特許文献1で用いられているものであり、本願の実施形態の説明で用いられる部材名および符号とは関連しない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
スロープ上を人が押して車いすを車両に搭載する場合、搭載スペースに入った車いすを固定するまでの間、仮止めしておく必要がある。特に、車いす搭載スペースのフロアがスロープに併せて傾斜している場合、確実に仮止めがされることが望まれている。
【0006】
本発明は、傾斜したフロアを有する車いす搭載スペースにおいて、車いすの仮止めを簡易に、また確実にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る車いす搭載スペースのフロアは、車いすの進入方向に関して後方が低くなるよう傾斜しており、フロアには、後退する車いすの左右のキャスタがそれぞれ当接するように2つの係止面が設けられ、2つの係止面は、車いすの進入方向に関して前方が広く後方が狭くなるようにテーパ状に配置されている。
【0008】
テーパ状に配置された係止面に車いすのキャスタが当接すると、キャスタがフロアの傾斜方向に対して交差する方向に向き、傾斜に沿って転がらなくなる。
【0009】
また、係止面は、フロアに形成された段差の段差面であってよい。また、係止面はフロアに形成された溝の側面であってよい。
【発明の効果】
【0010】
キャスタが係止面に当接して、フロアの傾斜方向に対して交差する方向に向きを変えることで、キャスタが傾斜に沿って転がらなくなり、車いすが仮止めされる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】車いす搭載スペースを有する車両の概略構成を示す図である。
【
図3】車いす搭載スペースのフロアの形状を示す模式図である。
【
図4】キャスタの挙動を示す図であり、係止面に当接する前の状態を示す図である。
【
図5】キャスタの挙動を示す図であり、係止面に当接したときの状態を示す図である。
【
図6】キャスタの挙動を示す図であり、係止面に当接した後、最終的に向きが変わった状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態を図面に従って説明する。以下の説明において、特段の断りがない限り、前後左右上下等の相対位置および向きを表す語句は、車両に関する相対位置および向きを表す。各図において、矢印FRの向きが前方、矢印UPの向きが上方、矢印LHの向きが左方である。
【0013】
図1は、車いすを搭載可能な車両10を模式的に示す側面図である。車両10は、後部に車いす12が搭載される車いす搭載スペース14を有する。
図1では、車いす12に利用者16が座った状態が示されている。車いす搭載スペース14はフロア18を有し、フロア18上に車いすが載置される。車いす12は、搭載されるとベルト(不図示)等によって固定される。車いす搭載スペース14の少なくとも1側面が車いすの乗降のために開放可能である。この車両10においては、後方のバックドア20を開放することにより、車いす12の乗降のための開口が形成される。車いす12の乗降時には、フロア18と地面22の間にスロープ板24が、図中に一点鎖線で示されるように架け渡される。スロープ板24は、不使用時には、畳まれて車いす搭載スペース14の後部に収納される。
【0014】
フロア18は、乗降用の開口に向けて、開口側が低くなるように傾斜している。この車両10においては、後方が低くなるように傾斜している。フロア18は、車体の一部である鋼板製のフロアパネル26にて形成されてよい。フロアパネル26には、車いす12のキャスタ28が係合する係合溝30が形成されている。車いす12は、利用者が駆動力を付与する駆動輪32と、駆動輪32より前方に位置し、駆動輪32より小径のキャスタ28を有する。
図2に示すように、キャスタ28は、車輪34と、車いす12のフレーム36(
図1参照)に取り付けられ、車輪34を回転可能に支持するフォーク38を有する。フォーク38は、車いす12が水平に置かれたとき、鉛直の旋回軸Sの周りに水平面内で旋回可能にフレーム36に取り付けられる軸部40と、軸部40の下端より斜め下方に延び、先端で車輪34を回転可能に支持するアーム部42を含む。キャスタ28は、車輪34の接地点Tからオフセットした旋回軸Sの周りに旋回可能である。
【0015】
図3は、フロア18を形成するフロアパネル26を模式的に示す図であり、(a)が平面図、(b)がB-B線による断面図である。フロア18は、鋼板を所定の形状に屈曲して形成されたフロアパネル26により形成されてよい。フロアパネル26は、上面に係合溝30が形成されるよう屈曲されている。係合溝30の断面形状は略長方形であり、溝の側面はフロア18の規定する平面に対して垂直な面、または鉛直面である。係合溝30は、前後方向に対して斜めに延びる左右2つの係止部分44を有する。左右の係止部分44は、それぞれ車いす12の左右のキャスタ28に対応する。係合溝30の後側の側面、特に係止部分44の側面46にキャスタ28、特にその車輪34が当接すると、車輪34の回転が止まり車いす12の後方への移動が止められる。以降、この係止部分44の側面46を「係止面46」と記す。
【0016】
係合溝30の係止部分44、特に係止面46は、車いす12が車いす搭載スペース14に進入する進入方向A(この車両10においては前後方向)に対して斜めに延びており、特に左右の係止面46の間隔は、進入方向Aに対して前方が広く、後方が狭くなるテーパ状に配置されている。車いす12の進入方向Aに対する係止面46の角度は、15~25°の範囲であってよく、この実施形態では20°である。また、車いす12の進入方向Aにおける前端の左右の係止面46の間隔b1は、一般的な車いすの左右のキャスタの間隔以上とし、後端の間隔b1は、左右のキャスタの間隔以下とする。また、係合溝30の幅は、キャスタ28が係合溝30に係合したとき、溝の底面に車輪34が接するのに十分な幅とする。係合溝30の深さ、すなわち係止面46の高さは、一般的な車いすのキャスタの車輪の直径である150mmの15~25%とし、例えば20~30mmとすることができる。係止面46の高さはこの実施形態では25mmである。
【0017】
図4~6は、係止面46にキャスタ28が当接するときの、キャスタ28に挙動を説明する図である。
図4~6は、特に左側のキャスタ28を示し、右側のキャスタ28はこれとは対称となる。車いす12を車両10に搭載する際には、スロープ板24を地面22との間に架け渡し、車いす12を押してスロープ板24を登らせる。車いす12を、車いす搭載スペース14の奥に、キャスタ28が係止面46を越えるよう進入させる。このときのキャスタ28と係止面46の関係が
図4に示されている。キャスタ28のフォークの軸部40は、車いす12の進入方向Aの前方に位置する。この状態から、車いす12を後退させると、キャスタ28の車輪34が係止面46に当接する(
図5参照)。このとき、車輪34の接地点Tよりも進入方向Aの後方において、車輪34が係止面46に当接し、車輪34が係止面46から受ける力Fは、車輪34を図中反時計回りに旋回させるモーメントMを生じさせる。このモーメントMにより車輪34が旋回して
図6のように、車いす12の進入方向Aに対して交差する向きとなる。これにより、キャスタ28が進入方向Aに対する車いす12の動きを阻止するストッパとなる。また、車いす12の進入方向Aはフロア18の傾斜方向と同じであり、キャスタ28が係止面46に当接することにより、キャスタ28はフロア18の傾斜方向に対して交差する向きとなる。傾斜方向に対して交差する向きとなった左右のキャスタ28の様子が
図3に示されている。左右のキャスタ28は、軸部40が互いに遠い側となるようにハの字に位置している。キャスタ28がフロア18の傾斜方向に対して交差する向きとなることにより、フロア18の傾斜を下ろうとする車いす12の動きに対して、キャスタ28がストッパとして機能する。したがって、車いす12を押す介助者が、車いす12をベルト等で固定するために車いす12から手を離しても、車いす12は後退せず、仮止め状態となる。
【0018】
係止面46は、車いす12の進入方向Aに対して後方が高い段差の段差面として形成されてよい。例えば、前述のフロアパネル26において、係合溝30より前方の部分を係合溝30の底と同一平面に形成すれば、係止面46が段差面となる。また、係止面46は、平板状に立設された壁の壁面として形成されてよい。
【0019】
上述のフロアパネル26は、車体の一部であるが、係止面46が形成されていないフロアパネル上に、別の部材を載置して係止面46を形成してもよい。例えば、フロアパネル26と同様の上面形状を有する板材を載置して係止面46を形成することができる。また、フロアパネル26の係合溝30より後方の部分と同形状の板材を載置して係止面46を形成することができる。
【符号の説明】
【0020】
10 車両、12 車いす、14 車いす搭載スペース、18 フロア、24 スロープ板、26 フロアパネル、28 キャスタ、30 係合溝、32 駆動輪、34 車輪、36 フレーム、38 フォーク、40 軸部、42 アーム部、44 係止部分、46 係止面。