(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022152527
(43)【公開日】2022-10-12
(54)【発明の名称】安全支援システム、安全支援方法及び安全支援プログラム
(51)【国際特許分類】
G06Q 10/06 20120101AFI20221004BHJP
G06Q 10/04 20120101ALI20221004BHJP
G06N 20/00 20190101ALI20221004BHJP
G06N 5/04 20060101ALI20221004BHJP
【FI】
G06Q10/06 326
G06Q10/04
G06N20/00
G06N5/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021055328
(22)【出願日】2021-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(71)【出願人】
【識別番号】509291127
【氏名又は名称】株式会社MetaMoJi
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 理史
(72)【発明者】
【氏名】澤田 昌之
(72)【発明者】
【氏名】堀内 英行
(72)【発明者】
【氏名】高藤 淳
【テーマコード(参考)】
5L049
【Fターム(参考)】
5L049AA04
5L049CC20
(57)【要約】
【課題】効率的かつ的確に安全確保の支援を行なうための安全支援システム、安全支援方法及び安全支援プログラムを提供する。
【解決手段】支援装置20は、報告書に含まれる要素についての解析結果を記録する知識ベース記憶部23と、解析結果に基づいてリスクを予測するためのリスク予測情報を記録する学習結果記憶部24と、ユーザ端末10に接続される制御部21を備える。制御部21は、知識ベース記憶部23に記録された要素に基づいて、作業により生じるリスクと発生の確からしさを予測するためのリスク予測情報を生成して学習結果記憶部24に記録する。また、制御部21は、ユーザ端末10から、新たな作業の内容を取得した場合、リスク予測情報を用いて、リスク候補を特定して、ユーザ端末10に出力する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
報告書に含まれる要素についての解析結果を記録する知識ベース記憶部と、
前記解析結果に基づいてリスクを予測するためのリスク予測情報を記録する学習結果記憶部と、
ユーザ端末に接続される制御部を備えた安全支援システムであって、
前記制御部が、
前記知識ベース記憶部に記録された要素に基づいて、作業により生じるリスクと発生の確からしさを予測するためのリスク予測情報を生成して、前記学習結果記憶部に記録する学習部と、
前記ユーザ端末から、新たな作業の内容を取得した場合、前記リスク予測情報を用いて、リスク候補を特定して、前記ユーザ端末に出力する支援部と、を備えることを特徴とする安全支援システム。
【請求項2】
報告書に含まれる要素についての解析結果を記録する知識ベース記憶部と、
前記解析結果に基づいてリスクを予測するためのリスク予測情報を記録する学習結果記憶部と、
ユーザ端末に接続される制御部を備えた安全支援システムを用いて、安全管理の支援を行なう方法であって、
前記制御部が、
前記知識ベース記憶部に記録された要素に基づいて、作業により生じるリスクと発生の確からしさを予測するためのリスク予測情報を生成して、前記学習結果記憶部に記録する学習時処理と、
前記ユーザ端末から、新たな作業の内容を取得した場合、前記リスク予測情報を用いて、リスク候補を特定して、前記ユーザ端末に出力する支援時処理と、を実行することを特徴とする安全支援方法。
【請求項3】
報告書に含まれる要素についての解析結果を記録する知識ベース記憶部と、
前記解析結果に基づいてリスクを予測するためのリスク予測情報を記録する学習結果記憶部と、
ユーザ端末に接続される制御部を備えた安全支援システムを用いて、安全管理の支援を行なうためのプログラムであって、
前記制御部を、
前記知識ベース記憶部に記録された要素に基づいて、作業により生じるリスクと発生の確からしさを予測するためのリスク予測情報を生成して、前記学習結果記憶部に記録する学習部、
前記ユーザ端末から、新たな作業の内容を取得した場合、前記リスク予測情報を用いて、リスク候補を特定して、前記ユーザ端末に出力する支援部、として機能させることを特徴とする安全支援プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業における安全確保を支援するための安全支援システム、安全支援方法及び安全支援プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
過去に経験した事故の教訓を活かし、事故再発防止策を決定する事故予防管理方法が検討されている(例えば、特許文献1参照。)。この文献に開示された事故予防管理方法は、過去に発生した多数の事故のデータを、発生時の事故状況によって分類し、各事故の影響度と発生頻度に対応するリスクレベルを、コンピュータに記憶させる。更に、各事故の危害要因を、低減・除去するための作業工程上の重要管理点、各事故の作業工程上の重要管理点で講じるべき事故再発防止策を、コンピュータに記憶させる。そして、事故状況と同じ状況下で業務を行なう際、業務の作業工程上の重要管理点に対応する事故再発防止策を抽出して決定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、多数の事故データを事故状況に応じた分類や、リスクレベル、作業工程上の重要管理点等の入力には、手間がかかり、システムの構築や維持にも大きな負担を要する。更に、人手作業による分類や、リスクレベル、重要管理点等の各種情報の付与では、大規模で複雑な関係性を内包する対象業種においては、体系化や統制が困難である。
【0005】
また、リスクに対する画一的な尺度を指標として用いる場合には、多様な現場状況や作業者において注意すべき情報の示唆とならず、労働災害の未然予防に限界がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための安全支援システムは、報告書に含まれる要素についての解析結果を記録する知識ベース記憶部と、前記解析結果に基づいてリスクを予測するためのリスク予測情報を記録する学習結果記憶部と、ユーザ端末に接続される制御部を備える。前記制御部が、前記知識ベース記憶部に記録された要素に基づいて、作業により生じるリスクと発生の確からしさを予測するためのリスク予測情報を生成して前記学習結果記憶部に記録する学習部と、前記ユーザ端末から、新たな作業の内容を取得した場合、前記リスク予測情報を用いて、リスク候補を特定して、前記ユーザ端末に出力する支援部と、を備える。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、効率的かつ的確に安全確保の支援を行なうことができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図8】実施形態の労働災害データ分析処理の説明図。
【
図10】実施形態のリスク因子連想グラフの説明図。
【
図11】実施形態のリスク因子連想グラフの説明図。
【
図12】実施形態のリスク因子連想グラフの説明図。
【
図13】実施形態のリスク因子連想グラフの説明図。
【
図16】実施形態のリスク因子連想グラフの説明図。
【
図17】実施形態の予測リスク学習用データの説明図。
【
図18】実施形態のニューラルネットワークの学習の説明図。
【
図20】実施形態のリスク因子連想グラフの説明図。
【
図21】実施形態のリスク因子連想グラフの説明図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、
図1~
図24を用いて、安全支援システム、安全支援方法及び安全支援プログラムの一実施形態を説明する。本実施形態では、建物の建築現場において、過去の多数の労働災害に関する報告書を利用して、安全管理を支援する場合に用いる安全支援システムとして説明する。
本実施形態では、
図1に示すように、ネットワーク等を介して接続されたユーザ端末10、支援装置20を用いる。
【0010】
(ハードウェア構成の説明)
図2を用いて、ユーザ端末10、支援装置20を構成する情報処理装置H10のハードウェア構成を説明する。情報処理装置H10は、通信装置H11、入力装置H12、表示装置H13、記憶装置H14、プロセッサH15を備える。なお、このハードウェア構成は一例であり、他のハードウェアにより実現することも可能である。
【0011】
通信装置H11は、他の装置との間で通信経路を確立して、データの送受信を実行するインタフェースであり、例えばネットワークインタフェースや無線インタフェース等である。
【0012】
入力装置H12は、各種情報の入力を受け付ける装置であり、例えばマウスやキーボード等である。表示装置H13は、各種情報を表示するディスプレイ等である。
記憶装置H14は、ユーザ端末10、支援装置20の各種機能を実行するためのデータや各種プログラムを格納する記憶装置である。記憶装置H14の一例としては、ROM、RAM、ハードディスク等がある。
【0013】
プロセッサH15は、記憶装置H14に記憶されるプログラムやデータを用いて、ユーザ端末10、支援装置20における各処理を制御する。プロセッサH15の一例としては、例えばCPUやMPU等がある。このプロセッサH15は、ROM等に記憶されるプログラムをRAMに展開して、各処理のための各種プロセスを実行する。
【0014】
プロセッサH15は、自身が実行するすべての処理についてソフトウェア処理を行なうものに限られない。例えば、プロセッサH15は、自身が実行する処理の少なくとも一部についてハードウェア処理を行なう専用のハードウェア回路(例えば、特定用途向け集積回路:ASIC)を備えてもよい。すなわち、プロセッサH15は、〔1〕コンピュータプログラムに従って動作する1つ以上のプロセッサ、〔2〕各種処理のうち少なくとも一部の処理を実行する1つ以上の専用のハードウェア回路、或いは〔3〕それらの組み合わせ、を含む回路として構成し得る。プロセッサは、CPU並びに、RAM及びROM等のメモリを含み、メモリは、処理をCPUに実行させるように構成されたプログラムコード又は指令を格納している。メモリすなわちコンピュータ可読媒体は、汎用又は専用のコンピュータでアクセスできるあらゆる利用可能な媒体を含む。
【0015】
(システム構成)
次に、
図1を用いて、安全支援システムの各機能を説明する。
ユーザ端末10は、安全支援システムの管理者や作業者等のユーザが利用するコンピュータ端末である。
【0016】
支援装置20は、作業者の安全管理を支援するコンピュータシステムである。この支援装置20は、制御部21、報告書記憶部22、知識ベース記憶部23、学習結果記憶部24を備える。
【0017】
制御部21は、後述する安全支援処理を行なう。このために、安全支援アプリケーションにより、分析部211、学習部212、支援部213として機能する。
【0018】
分析部211は、報告書を分析して、各知識ベースを構築する処理を実行する。
学習部212は、知識ベースを学習して、発生する可能性があるリスクを予測するためのリスク予測情報を生成する。
支援部213は、安全管理を支援するための情報を生成する。
【0019】
図3に示すように、報告書記憶部22には、過去の多数の報告書(労働災害報告書22a、ヒヤリハット報告書22b、安全巡視記録報告書22c)の各ファイルが記録される。
【0020】
労働災害報告書22aには、被災者、年齢、経験、天候、職種、発生作業種、起因物、発生日時、事故の型、発生状況、発生原因、対策に関するデータが含まれる。
被災者、年齢、経験の各データ領域には、それぞれ、被災者の氏名、年齢、経験年数が記録される。
【0021】
天候データ領域には、被災時の天気(例えば、「晴」)を特定するためのデータが記録される。
職種データ領域には、被災者の職種(例えば、「鳶工」)を特定するためのデータが記録される。
【0022】
発生作業種データ領域には、災害が発生した作業の種類(例えば、「足場解体」)を特定するためのデータが記録される。
起因物データ領域には、災害発生の起因となった資材(例えば、「足場」)に関するデータが記録される。
【0023】
発生日時データ領域には、被災時の年月日及び時刻に関するデータが記録される。
事故の型データ領域には、事故の分類(例えば、「墜落・転落」)を特定するためのデータが記録される。
【0024】
発生状況データ領域には、災害が発生した状況に関するデータが記録される。発生状況は、作業場所、作業内容、作業状況、事故の内容、安全対策状況等が文章(非構造情報)で記載される。
【0025】
発生原因データ領域には、事故の発生原因に関するデータが記録される。例えば、「親綱がたるんでいたため、安全帯を使用していなかった」、「足元の確認が不十分であった」等が文章(非構造情報)で記載される。
【0026】
対策データ領域には、この災害を予防するための対策に関するデータが記録される。例えば、「作業前に親綱など安全設備の状態を確認し、不安全が確認された場合、転落防止措置を取る」、「移動前に、足場板の状態など足元をよく見てから、移動するようにする」等が文章(非構造情報)で記録される。
【0027】
ヒヤリハット報告書22bには、報告日、報告者、職場名、作業内容、ヒヤリハット状況、原因、対策に関するデータが含まれる。ヒヤリハット報告書は、重大な災害や事故には至らなかったが、災害や事故に直結する可能性がある事象を認知した場合に記録される。
【0028】
報告日、報告者、職場名の各データ領域には、それぞれ、ヒヤリハット事象の報告日、ヒヤリハット事象の報告者の氏名、ヒヤリハット事象が生じた現場を特定するためのデータが記録される。
【0029】
作業内容データ領域には、ヒヤリハット事象が生じた作業を特定するためのデータが記録される。
ヒヤリハット状況、原因、対策の各データ領域には、それぞれ、ヒヤリハット事象の状況、原因、対策に関するデータが文章(非構造情報)で記録される。
【0030】
安全巡視記録報告書22cには、報告日、報告者、職場名、確認者、巡視結果、是正計画、是正結果、改善指示事項、改善状況に関するデータが含まれる。
報告日、報告者、職場名の各データ領域には、それぞれ、安全巡視時の指摘事項の報告日、指摘事項の報告者の氏名、指摘事項が生じた現場に関するデータが記録される。
【0031】
確認者データ領域には、指摘事項の確認者の氏名に関するデータが記録される。
巡視結果データ領域には、安全巡視の結果に関するデータが記録される。指摘事項としては、「作業通路に資材がはみ出している」「杭開口部付近の立ち馬が開口部と近い位置に置かれている」、「コーナー敷板に車両が乗り入れることが可能」、「持込み許可が無い溶接機が置いてある」等が文章(非構造情報)で記録される。
【0032】
是正計画、是正結果の各データ領域には、改善指示事項、改善状況に関するデータが記録される。改善指示事項としては、「作業通路を整理整頓すること」、「立馬を開口端部より2m以上離すこと」、「車両乗入れ禁止表示を掲示すること」、「持込み許可を取ること」等が文章(非構造情報)で記載される。
なお、本実施形態では、支援装置20内に報告書記憶部22を設けたが、他のサーバに設けてもよい。
【0033】
図4に示すように、知識ベース記憶部23には、確率分布知識ベース23a、連関ルール知識ベース23b、起因物知識ベース23c、汎化起因物知識ベース23d、行為・機能知識ベース23e、汎化行為・機能知識ベース23fが記録される。
【0034】
確率分布知識ベース23aには、クロス分析によって算出された確率分布が記録される。例えば、被災者の年齢についての区切り(例えば、10年単位での年代区分)の「年代」と「事故の型」とのクロス分析を行ない、「年代」及び「事故の型」の要素の組み合わせ毎に計算した確率分布を含むクロス分析結果が記録される。また、「経験年数」及び「事故の型」、「職種」及び「事故の型」要素の組み合わせ等の確率分布について、クロス分析結果が記録される。
【0035】
連関ルール知識ベース23bには、連関分析の結果が記録される。この連関分析結果は、前件(IFコンポーネント)、後件(THENコンポーネント)、リフト値を含む。前件としては、各報告書に含まれる構造情報(職種、起因物、年代、作業種、起因物、時間帯等)の属性項目(前件)の組み合わせからなる。また、後件は事故の型からなる。リフト値は、前件と後件との同時発生に対するルールの強度である。例えば、連関分析により、〔「30代」の「鉄骨工」が「S躯体」関連の工事をしている時に「墜落・転落」事故を起こし易い〕等、複数の属性項目の組み合わせによる事故の起こり易さに関する規則性を導き出すことができる。なお、本実施形態では、コンピュータで利用可能な形式に整形されたルール及び正規化リフト値が記録される。
【0036】
起因物知識ベース23cには、各報告書から抽出した起因物に関する語彙が記録される。ここで、起因物とは、事故の要因となる対象物である。この起因物は、解析結果では主格や対格における名詞句として現れる。本実施形態では、汎化語彙には、先頭に「#」を付して説明する。例えば、汎化語彙「#落下する」に対して共起する起因物として、「立ち馬」、「天台」、「作業台」が記録される。また、汎化語彙「#落とす」に対して共起する起因物として、「単管パイプ」、「ボルト」、「ナット」が記録される。
【0037】
汎化起因物知識ベース23dには、同種の起因物を唯一の表現に集約した汎化語彙がコンピュータで処理可能な形式で記録される。例えば、「立ち馬」、「天台」、「作業台」という表現に集約される汎化語彙として「#移動式足場」が記録される。「単管パイプ」、「ボルト」、「ナット」という表現に集約される汎化語彙として「#建設資材」が記録される。
【0038】
行為・機能知識ベース23eには、格構造解析の結果に基づいて、災害につながる行為や機能を表す述語が、コンピュータで処理可能な形式で記録される。例えば、「墜落・転落」事故の場合、「落下する」、「転落する」、「墜落する」など災害につながる行為や機能を表す述語が記録される。
【0039】
汎化行為・機能知識ベース23fには、災害につながる行為や機能を表す述語を、同一の意味を持つ語彙群毎に集約するための汎化語彙が記録される。例えば、「落下する」、「転落する」、「墜落する」に対する汎化語彙として「#落下する」が記録される。また、「落とす」、「落下させる」に対する汎化語彙として「#落とす」が記録される。
【0040】
図5に示すように、学習結果記憶部24には、リスクを予測するためのリスク予測情報として、リスク因子連想グラフ24a、リスク予測学習モデル24bが記録される。
リスク因子連想グラフ24aは、「職種」と「作業種」を基点として、「事故の型」につながるリスク因子(起因物、行為・機能・状態等)を連想し、その結果として生じ得るリスクを末端とする有向グラフ(関連付け情報)である。例えば、職種「内装工」、作業種「塗装工事」において、起因物「#移動式足場」で、「#落下する」、「#不適切に移動する」場合には、事故の型「墜落・転落」、リスク「危険予知不十分」を結びつけるグラフである。
【0041】
リスク予測学習モデル24bは、導出又は拡張されたすべての学習データ組を学習データセットとして用いた機械学習により生成される学習結果である。このリスク予測学習モデル24bは、「職種」と「起因物」から導出されるリスク因子集合から、予測されるリスク(事故の型、原因)を出力するニューラルネットワークである。
【0042】
(学習時処理の概要)
図6を用いて、学習時処理の概要を説明する。なお、各処理の詳細は後述する。
まず、支援装置20の制御部21は、労働災害知識抽出処理S10を実行する。具体的には、制御部21の分析部211は、報告書記憶部22に記録された報告書を用いて、各種のリスク要素を体系的に知識化する。ここでは、労働災害データ分析処理S11、労働災害データ更新処理S12を実行する。
【0043】
次に、支援装置20の制御部21は、終了かどうかについての判定処理S15を実行する。具体的には、制御部21の分析部211は、報告書記憶部22に記録されたすべての報告書について、労働災害知識抽出処理S10を行なった場合には、終了と判定する。
【0044】
終了でないと判定した場合(「NO」の場合)、支援装置20の制御部21は、労働災害知識抽出処理S10を繰り返す。
一方、終了と判定した場合(「YES」の場合)、支援装置20の制御部21は、労働災害知識記憶処理S20を実行する。具体的には、制御部21の学習部212は、知識ベース記憶部23において、体系化された知識を、リスク予測時にコンピュータが利用可能な形式に変換して記憶する。ここでは、リスク予測データ拡張処理S21、リスク予測学習モデル生成処理S22を実行する。
【0045】
(支援時処理の概要)
次に、
図7を用いて、支援時処理の概要を説明する。なお、各処理の詳細は後述する。
まず、支援装置20の制御部21は、リスク候補導出処理S30を実行する。具体的には、制御部21の支援部213は、学習結果記憶部24を用いて、与えられた条件で起こり得るリスク候補を導出する。
【0046】
次に、支援装置20の制御部21は、動的リスク水準測定処理S40を実行する。具体的には、制御部21の支援部213は、導出されたリスク候補に対して、作業者や状況に応じて動的にリスクの程度を定量化する。
【0047】
次に、支援装置20の制御部21は、動的リスク情報提示処理S50を実行する。具体的には、支援装置20の制御部21は、リスク水準(定量化したリスク程度)とともにリスク候補に基づいて、作業に応じた選択的情報の提供を行なう。ここでは、リスク喚起情報拡張処理S51、リスク喚起情報生成処理S52を実行する。
【0048】
(労働災害データ分析処理)
次に、
図8を用いて、労働災害知識抽出処理S10で行なわれる労働災害データ分析処理S11を説明する。
【0049】
労働災害データ分析処理S11において、分析部211は、定量分析処理a1、定性分析処理b1を実行する。
定量分析処理a1は、労働災害報告書22aに含まれる構造情報(「年齢」~「事故の型」等)を分析する処理である。本実施形態では、定量分析処理a1には、クロス分析処理a111、連関分析処理a121が含まれる。なお、分析方法は、クロス分析、連関分析に限定されるものではなく、データサイエンスが包括する任意の手法を適用可能である。
【0050】
まず、分析部211は、クロス分析処理a111を実行する。ここでは、事故と任意の項目間の傾向を把握する。例えば、被災者の年齢を10年単位で区切り「年代」区分にして、「年代」と「事故の型」とのクロス分析を行なう。ここでは、「年代」毎に集計して、「事故の型」の確率分布を計算する。同様に、「経験年数」と「事故の型」、「職種」と「事故の型」等のクロス分析を行なうことで、各々の確率分布を算出する。
【0051】
次に、分析部211は、確率分布知識導出処理a112を実行する。ここでは、クロス分析の結果を、コンピュータで利用可能な形式に整形し、確率分布知識ベース23aに格納する。
【0052】
また、分析部211は、連関分析処理a121を実行する。ここでは、事故に対する複数の項目の組み合わせ的傾向を把握する。例えば、連関分析により、属性の組み合わせによる前件、事故の型による後件、前件及び後件の相関を示す指標であるリフト値を算出する。例えば、特に、〔「30代」の「鉄骨工」が「S躯体」関連の工事をしている時に「墜落・転落」事故を起こし易い〕等、複数の属性項目の組み合わせによる事故の起こり易さに関する規則性を導出する。ここでは、前件:「職種=鉄骨工、起因物=S躯体、年代=30s」、「墜落・転落」、後件:「墜落・転落」、リフト値「8.65」を算出する。
【0053】
次に、分析部211は、連関ルール知識導出処理a122を実行する。ここでは、連関分析の結果を、コンピュータで利用可能な形式に整形し、連関ルール知識ベース23bに格納する。
【0054】
一方、定性分析処理b1は、労働災害報告書22aに含まれる非構造情報(「発生状況」、「発生原因」等)のテキスト情報を分析する処理である。本実施形態では、定性分析処理b1には、「発生状況」を分析する状況分析処理b111、「発生原因」を分析する原因分析処理b121が含まれる。
【0055】
まず、分析部211は、状況分析処理b111を実行する。ここでは、発生状況記述を文単位で処理する。この場合、公知の形態素解析処理、係り受け解析処理を行なう。形態素解析処理では、単語を品詞で分割する。係り受け解析処理では、単語間の係り受け関係を特定する。更に、本実施形態では、主語(主格)、目的語(対格)、述語を特定する格構造解析を行なう。例えば、発生状況の記述「被災者は、壁面の塗装を行なっていた際、足を踏み外し、立ち馬から落下した」は、格構造解析により、主格「被災者」、対格「立ち馬」、述語「落下する」が特定される。また、発生状況の記述「上階の作業者が、手を滑らせて単管パイプを落とし、被災者に当たった」に対して、主格「作業者」、対格「単管パイプ」、述語「落とす」が特定される。
【0056】
次に、分析部211は、言語知識編纂処理b112を実行する。ここでは、同一の意味を持つ語彙群毎にまとめて、汎化語彙という表現に集約するための語彙知識を編纂する。例えば、格構造解析の結果によって、「墜落・転落」事故の場合、「落下する」、「転落する」、「墜落する」など災害につながる行為や機能を表す述語が用いられる傾向がある。そこで、実際に使われている述語語彙をコンピュータで処理可能な形式で、行為・機能知識ベース23eに格納する。更に、述語に関する汎化語彙を、コンピュータで処理可能な形式で、汎化行為・機能知識ベース23fに格納する。
【0057】
また、事故の要因となる対象物を起因物と呼ぶ。解析結果では、主格や対格における名詞句として現れる。例えば、述語の汎化語彙「#落下する」に対して共起する起因物として、「立ち馬」、「天台」、「作業台」が、「落とす」に対して共起する起因物として「単管パイプ」、「ボルト」、「ナット」がある。この結果に基づいて、さらに、同種の起因物を唯一の表現に集約する。例えば、「立ち馬」、「天台」、「作業台」は、「#移動式足場」という表現に集約される。また、「単管パイプ」、「ボルト」、「ナット」は「#建設資材」に集約される。
【0058】
そして、テキスト中で実際に使われている起因物に関する語彙を、コンピュータで処理可能な形式で、起因物知識ベース23cに格納する。更に、起因物に関する汎化語彙を、コンピュータで処理可能な形式で、汎化起因物知識ベース23dに格納する。
【0059】
また、分析部211は、原因分析処理b121を実行する。ここでは、原因記述文に対するテキスト分析により、ある事故が起きた場合に、なぜその事故が起きたかという観点から、予測すべきリスクを明示化するために行なう。
【0060】
次に、分析部211は、類似原因集約処理b122を実行する。ここでは、同一の内容に対して、各報告者によって、異なる表現で記述される記述文同士を集約する。このため、類似原因集約処理b122では、異なる表現であっても、同一の内容を持つ記述文同士を集約するために、クラスター分析を行なう。例えば、特異値分解の手法を用いて、文の特徴量をベクトルとして表現して、ベクトル同士の類似度を測定することで、同一の内容を持つ文同士を集約する。この場合、分析部211は、クラスター分析の手法で、記述文のクラスターを形成する。そして、管理者は、ユーザ端末10を用いて、クラスター毎に予測リスクラベルを付与する。この予測リスクラベルに、予測リスクIDという識別子を付与する。この予測リスクラベルは、リスク因子連想グラフの末端ノードに用いられる。
【0061】
(労働災害知識記憶処理)
次に、労働災害知識記憶処理S20を説明する。この労働災害知識記憶処理S20では、学習部212は、起因物知識ベース23c、汎化起因物知識ベース23d、行為・機能知識ベース23e、汎化行為・機能知識ベース23fを用いて、労働災害報告書の状況記述を解析する。そして、学習部212は、リスク予測に用いる知識ベースとしてリスク因子連想グラフ24aとリスク予測学習モデル24bとを生成する。
【0062】
まず、学習部212は、リスク因子連想グラフ24aを作成する。
図9に示すように、事故事例E01の文書D1は、内装工が塗装工事の作業時に、立ち馬から落下した事故に関するものである。
【0063】
図10に示すように、学習部212は、
図9の事故事例からリスク因子連想グラフG01を生成する。なお、リスク因子連想グラフG01において、学習部212は、汎化起因物知識ベース23dを用いて、具体的な起因物を、汎化起因物として抽象化してノードに写像する。また、学習部212は、汎化行為・機能知識ベース23fを用いて、具体的な行為を、汎化行為として抽象化してノードに写像する。グラフの終端ノードは予測されるリスクを表わす。この終端ノードは、属性としてサイズ情報を有する。このサイズ情報には、原因のクラスター分析で得られたクラスターサイズ(ここでは、事例数「30」)を用いる。
【0064】
更に、支援装置20の制御部21は、労働災害知識記憶処理S20に付随する処理として、リスク予測データ拡張処理S21を実行する。ここでは、量的及び質的の観点からデータの拡張を図る。本実施形態では、以下の2種類の方法を用いる。
【0065】
(a)労働災害報告書以外のヒヤリハット報告書や安全巡視報告書などの記載事項からリスクに該当する要件を抽出して、元の事例を拡張する方法
(b)全体を既定の確率分布に基づいて拡張する方法
方法(a)では、労働災害報告書から得られる包括的な情報と比較して、通常、リスクに該当する要件は部分的な情報として現れる。例えば、ヒヤリハット報告書22bでは、労働災害報告書22aに含まれる年齢、経験、起因物などの詳細な情報は含まれない。また、実際の事故ではないため、事故の型欄もなく、限定的な情報となる。また、安全巡視記録報告書22cでは、作業以前の状況であるため、その分、情報は限定される。
【0066】
そこで、学習部212は、ヒヤリハット報告書22bや安全巡視記録報告書22cから、部分的又は限定的情報の範囲で得られる部分リスク因子連想グラフを生成する。
図11に示すように、ヒヤリハット報告書22bから生成される部分的なリスク因子連想グラフG10は、全体的なリスク因子連想グラフG11に包摂される。学習部212は、ある全体グラフがある部分グラフを内包するかどうかを、部分的なノードの照合によって行なう。リスク因子連想グラフG11がリスク因子連想グラフG10を内包すると判断した場合、学習部212は、元の事例数「28」に対して、「1」を加算して、「29」とすることにより、データ数の拡張を行なう。
【0067】
また、
図12に示すように、安全巡視記録報告書22cから得られる部分的なリスク因子連想グラフG20は、全体的なリスク因子連想グラフG21,G22に包摂される。
リスク因子連想グラフG21は、「鳶工」が「鉄筋組立」を行なっている際に「#通路」上に散在する「#資材」に躓いて、「墜落・転落」事故につながった例である。リスク因子連想グラフG22は、「土工」が「運搬作業」を行なっている際に、「転倒」事故を起こした例である。このような場合には、リスク因子連想グラフG20の指摘状況が、両方の事故につながる可能性がある。そこで、学習部212は、双方の事例数に、各々「1」を加算することにより、データ数の拡張を行なう。
【0068】
方法(b)では、ハインリッヒの法則を利用する。このハインリッヒの法則は、実際の事故事例1件に対して、その背後には事故に至らなかった軽微な事象が29件あり、その背景には300件の異常(ヒヤリ・ハット)があるという法則である。この軽微な事象数を用いて基本的な拡張事例数を生成する。この場合、元の事例が少ない場合(例えば、5件)、拡張後も少数事例(例えば、50件)にとどまる。このため、学習データとしての有意性を担保する閾値を設けることで、さらにデータ拡張を図る。具体的には、少数事例用に拡張閾値(例えば、500件)を設定して、拡張閾値未満の事例は、拡張閾値まで事例数を拡張する。
【0069】
また、この拡張には、実際には発生しなかったケースであるが、発生の可能性があるケースを疑似的に生成して拡張することも可能である。例えば、作業種「鉄骨組立」には、「鉄筋工」、「鳶工」、「土工」の三職種が従事する場合を想定する。
【0070】
図13には、「鉄筋工」は作業種「鉄骨組立」におけるリスク因子連想グラフG30を示す。ここで、「鉄筋工」と「鳶工」とは、同類の事故に遭遇した報告を有し、一方、「土工」は二職種が遭遇した事故には遭遇しなかったとする。可能性という意味では、同種の作業に従事する以上、同類の事故に遭遇する可能性はあると想定する。このような可能性を含むリスク予測を可能とするために、類似例に基づいてデータ拡張を図る。
【0071】
ここでは、
図14の頻度・確率分布表T10に示すように、報告書記憶部22に記録された労働災害報告書22aを用いて、「土工」が実際に遭遇した「激突・激突され」事故の原因別の発生頻度と確率分布を用いる。この中には、「鉄筋工」と「鳶工」が遭遇した「危険予知不十分」を事由とするものは含まれない。そこで、含まれる可能性を定量的に反映するために、式(1)で示されるバイアス関数を用いたデータ拡張を行なう。
freq(y)=a・min〔freq(xi)〕…(1)
ここで、「a」はバイアス係数、「xi」は原因の要素i、「freq(x)」は頻度値である。
【0072】
式(1)は、元の確率分布で最小の値を元に未発生の事故が起こったと仮定した仮の事故数を算定する式である。例えば、バイアス係数を「0.8」とすると、最小の頻度値(「足元不注意」の「10」)にバイアス係数を乗算して、未発生の「危険予知不十分」を「8(=10*0.8)」と仮定する。
【0073】
図15に示すように、仮定値に基づいて、仮の発生頻度と仮の発生確率を含めた頻度・確率分布表T11を生成する。
この場合、
図16に示すように、「土工」の仮想的なリスク因子連想グラフG31が生成される。
【0074】
更に、ハインリッヒの法則に基づいて、頻度・確率分布表T11のNo1~No5の全体数が閾値の500件になるまで、仮の確率分布を追加して、未発生の事例を仮想的に含むデータ拡張を行なう。これにより、注意喚起の網羅性を高めることができる。
【0075】
次に、支援装置20の制御部21は、リスク予測学習モデル生成処理S22を実行する。具体的には、制御部21の学習部212は、予測リスク学習用データを作成する。
図17に示すように、予測リスク学習用データV01の構成は、予測パターンベクトルと正解ラベルとから構成される。例えば、全結合型のニューラルネットワークにおける予測パターンベクトルは、起因物領域(L次元)、行為・機能・状態領域(M次元)、事故の型(N次元)で構成される。更に、正解を示す正解ラベルを割り当てることにより、学習データ組を生成する。正解ラベルも、原因に種類に応じた次元を有する。
【0076】
予測パターンベクトルの各々の領域において、該当する要素は「1」となり、該当しない要素は「0」となるベクトルを生成する。
図10のリスク因子連想グラフG01では、「#移動式足場」、「#落下する」、「#不適切に移動する」、「墜落・転落」に相当する要素の位置のみ「1」となる。また、この予測パターンベクトルは、予測リスクの数値分、ここでは30個分が生成される。正解ラベルは、原因「危険予知不十分」に相当する要素の位置のみ「1」となる。
【0077】
そして、
図18に示すように、学習部212は、生成された学習データ組を、学習データセットとして、ニューラルネットワークの学習を行なうことにより、リスク予測学習モデル24bを生成し、学習結果記憶部24に記録する。
【0078】
(労働災害データ更新処理)
次に、
図6に示す労働災害データ更新処理S12を説明する。労働災害知識抽出処理S10では、ある時点における過去の労働災害報告書類を分析して定量的、定性的なリスク予測に寄与する各種の知識ベースを構築する。ある時点以後も新たな労働災害が継続的に発生した場合、必然的に労働災害報告書22aが増える。
【0079】
そこで、労働災害データ分析処理S11と同様に、支援装置20の制御部21の分析部211は、新たな労働災害報告書22aの登録を検知した場合、労働災害データ分析処理S11を行なう。そして、学習部212は、新しい状況記述文と原因記述文を解析して、前述と同様にリスク因子連想グラフを生成する。
【0080】
この場合、学習部212は、新たに生成したリスク因子連想グラフに対応するグラフを、学習結果記憶部24において検索する。そして、学習結果記憶部24において、新たに生成したリスク因子連想グラフと等価な既存のリスク因子連想グラフ24aを抽出した場合、学習部212は、このリスク因子連想グラフ24aの末端の事例数に「1」を加算する。一方、等価なリスク因子連想グラフ24aを抽出しなかった場合、学習部212は、新たなリスク因子連想グラフ24aとして学習結果記憶部24に新規登録する。
【0081】
また、管理者が、ユーザ端末10を用いて、新たなリスク因子連想グラフ24aに、人手で更新してもよい。
例えば、新たな機材(未知の機材)として、「ドローン」を利用する場合を想定する。
図19の事故事例E02がなく、「ドローン」の汎化対象が不明であるため、リスク因子連想グラフを生成できない。
【0082】
そこで、
図20に示すように、「ドローン」を既知の汎化語彙である「#測量機材」に写像する。この「#測量機材」は、「水準器」の汎化語彙でもある。
その結果、
図21に示すように、既知の事故、例えば、
図19の事故事例E03に対応するリスク因子連想グラフG41と等価なグラフが得られる。この場合、リスク因子連想グラフG41の事例数Nに「1」を加算することで更新が完結する。すなわち、学習結果記憶部24のリスク因子連想グラフ24aを更新しない段階でも、未知の機材に対する適切なリスク予測を行なうことができる。
【0083】
なお、リスク因子連想グラフ24aの更新は、使用中のリスク予測学習モデル24bの更新とは別に行なわれる。そして、所定の学習タイミングで、リスク因子連想グラフ24aはリスク予測学習モデル24bに反映される。この学習タイミングとしては、人が定めた任意の時点、リスク因子連想グラフの変更量が定めた閾値に達した時点等を用いることができる。
【0084】
(リスク候補導出処理)
次に、
図7に示す支援時処理におけるリスク候補導出処理S30を説明する。ここでは、支援部213が、学習結果記憶部24に記録されたリスク因子連想グラフ24a及びリスク予測学習モデル24bを用いて、与えられた条件からリスク候補を導出する。例えば、与えられた条件が、職種「鳶工」、作業種「足場解体組立」の場合を想定する。この要素を基点としてリスク因子連想グラフ24aを用いて、該当するすべてのリスク因子を取得する。
【0085】
次に、支援部213は、該当するすべてのリスク因子に対して、リスク予測用ベクトルを生成する。このリスク予測用ベクトルは、労働災害知識記憶処理S20のリスク予測パターンベクトルと同様に、起因物領域(L次元)、行為・機能・状態領域(M次元)、事故の型(N次元)で構成される。
【0086】
そして、支援部213は、生成したリスク予測用ベクトルを、リスク予測学習モデル24bを用いたニューラルネットワーク推論器に入力することで、予想されるリスクの確からしさを算出する。そして、予測されるリスクとして、確からしさの最も高い要素を選択する。
【0087】
(動的リスク水準測定処理)
次に、支援時処理における動的リスク水準測定処理S40を説明する。ここでは、リスク候補導出処理S30において得られた予想されるリスクについて、現場の様々な状況に応じて、動的にリスク水準を定量化し、留意すべきリスクを顕在化させる。
【0088】
この場合、制御部21の支援部213は、動的にリスク水準を定量化するために、式(2)で示すペナルティ関数を用いる。
P=a1・P1+a2・P2+a3・P3+a4・P4+az・Pz…(2)
このペナルティ関数は、複数のペナルティ項により構成される。an(n=1,2,3,4,z)は、0以上の係数である。
【0089】
基準ペナルティ項P1は、リスク因子連想グラフ24aの末端で保持する予測リスクの頻度に対する確率値であり、このリスクの基本的な生起のし易さを意味する。
ペナルティ項P2は、確率分布知識導出処理a112により算出された確率分布に基づく項である。このペナルティ項P2は、確率分布知識ベース23aを参照して得られる確率値であり、各属性と「事故の型」との関係の程度を表す。
【0090】
ペナルティ項P3は、連関ルール知識導出処理a122により算出された連関ルールに基づく項である。このペナルティ項P3は、連関ルール知識ベース23bを参照して得られる確率値であり、複数の属性項目の組み合わせと「事故の型」との関係の程度を表す。
【0091】
ペナルティ項P4は、環境条件に基づく項である。このペナルティ項P4は、ペナルティ項P2に含まれない気象状況のような横断的項目に関して、確率分布知識ベース23aを参照して得られる確率値である。
【0092】
更に、ペナルティ項Pzは、外部から与えられる任意項である。このペナルティ項Pzは、例えば、特定の「予測されたリスク」を敢えて排除する等の場合に用いる。例えば、「単独作業による飛来・落下の危険」が予測された場合に、所与の条件が元々、「単独作業であること」が前提の場合に、予測リスクから排除するため、確率値を下げる関数を与える。
【0093】
図22に示すように、基本ペナルティ値による序列P10に対して、20歳代の序列P11では、「吊り荷下部への侵入」による「飛来・落下」、「作業手順の不徹底」による「飛来・落下」、「設備・工具の整備不足」による「飛来・落下」が上位になる。すなわち、20歳代では危険に関する知識の不足によるリスクに特に注意すべき状況が顕在化している。また、50歳代の序列P12では、「安全帯不使用」による「墜落・転落」、「作業手順確認不足」による「墜落・転落」、「近道行動」による「墜落・転落」が上位になる。すなわち、50歳代では慣れによるリスクに特に注意すべき状況が顕在化している。
【0094】
この例示は、個別の属性項目に関するリスク水準の測定例であるが、複数の属性項目の組み合わせに関して注意喚起すべき対象を特定する場合は、連関ルール知識ベース23bを用いる。
【0095】
(動的リスク情報提示処理)
次に、支援時処理における動的リスク情報提示処理S50を説明する。具体的には、リスク候補導出処理S30及び動的リスク水準測定処理S40によって得られた「予測されるリスク」を利用者の状況に応じた注意喚起情報として提示する。
【0096】
ここでは、
図23に示すように、制御部21の支援部213は、ユーザ端末10に、ユーザインタフェースとして支援画面500を出力する。まず、ユーザが、職種候補欄501と作業種候補欄502を、いずれも選択可能なリストから各々の項目値を選択する。支援部213は、選択された「職種」と「作業種」を起点として、学習結果記憶部24に記録されたリスク因子連想グラフ24aを用いて起因物候補を導出する。そして、支援部213は、導出した起因物候補を、支援画面500の起因物候補欄503に表示する。
【0097】
次に、ユーザは、起因物候補欄503から、リスク予測の対象となる起因物を選択して、起因物欄504に表示させる。起因物の選択が完了した後、「予測」ボタンが押下された場合、支援部213は、予測結果欄505に予測されるリスクを表示する。
【0098】
この予測結果欄505は、予測されるリスク、リスク度、注意情報の各カラムにより構成される。リスク度カラムには、各リスクに対応したペナルティ値が表示される。注意情報カラムには、個別に注意すべきマークが表示される。
【0099】
図24に示すように、支援画面500の職種候補欄501において「鳶工」、作業種候補欄502において「足場解体組立」を選択した場合を想定する。この状態において、「取得」ボタンを押下すると、起因物候補欄503に「建設資材」、「固定式足場」等の起因物候補が表示される。ユーザが、起因物候補欄503から対象とする起因物を選択して、「選択」ボタンを押下した場合、選択された起因物欄504に、ユーザが選択した起因物が表示される。更に、「予測」ボタンが押された場合、予測結果欄505に予測されるリスクと付属情報(リスク度及び注意情報)が表示される。
【0100】
予測結果欄505の注意情報においては、ペナルティ関数を用いて算出したペナルティ値(リスク度)が高く、特に注意すべき内容がアイコンで表示される。例えば、〔「足元確認不足」による転倒〕は、雨が降っている際に特に起こり易いことに特に注意すべきであるため、「雨」が提示される。また、〔「上下作業」による飛来・落下〕は、「若」手作業者が特に注意すべきであるため、「若」が提示される。また、〔「安全帯不使用」による墜落・転落〕は、熟練作業者に再認識を促すべきであるため、「熟」が提示される。
【0101】
更に、
図7に示すように、支援装置20の制御部21は、リスク喚起情報拡張処理S51とリスク喚起情報生成処理S52を行なう。リスク喚起情報拡張処理S51は、予測されるリスクに対して、関連する典型災害事例を提示する処理である。また、リスク喚起情報生成処理S52は、関連する典型災害事例のイメージ(参考画像)を生成して提示する処理である。
【0102】
リスク喚起情報拡張処理S51においては、典型災害事例や、参考画像をユーザ端末10の表示装置H13に出力する。
例えば、
図24に示すように、予測結果欄505の任意の予測されるリスク、例えば、〔「安全帯不使用」による墜落・転落〕を「選択」された場合、典型災害事例欄506に、リスクに関する一つの典型災害事例を表示する。例えば、「筋交いが外されている場所で、安全帯を使用していなかったため墜落」等が表示される。この場合、参考画像欄507に典型災害事例のイメージを表示してもよい。リスクに関する典型災害事例が複数、存在する場合は、前進後退ボタンを用いて、順次、典型災害事例を表示するようにしてもよい。
【0103】
次に、支援装置20の制御部21は、リスク喚起情報生成処理S52を実行する。具体的には、制御部21の支援部213は、該当「起因物」により、生じ得るリスクの画像を生成して表示する。支援部213は、深層学習のGAN(敵対的生成ネットワーク)などにより、起因物によって起こし得る各種の事故画像を生成して、参考画像欄507に表示する。例えば、「基礎工事」において、起因物「ドラグショベル」を特定した場合、支援部213は、作業者がドラグショベルに挟まれたり、巻き込まれたり災害や、機械に激突される災害、機械から転落する災害等の画像を生成して出力する。
【0104】
本実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)本実施形態では、支援装置20の制御部21は、労働災害知識抽出処理S10を実行する。ここでは、労働災害データ分析処理S11を実行する。これにより、報告書記憶部22に記録された報告書を用いて、過去に蓄積された労働災害報告書類等の既存データを有効に活用できる。そして、手入力等を抑制して、システムの初期構築の負担軽減、システム維持の効率化を図ることができる。従って、各種のリスク要素を体系的に知識化することができる。そして、対象物の多様性や属性項目の多さ、輻輳性などがある場合にも、過去の事故状況に依拠して再発防止するために同様と見なせる状況を、効率的に同定できる。例えば、建設業や自動車産業など対象となる建築物、製造物の多様性や規模の大きさ、関与する職種、作業種の多さ、事故の要因となる起因物の膨大さという状況下で、個々の事故事例に関するデータを分類することができる。また、入力者毎の恣意性を排除することができる。
【0105】
(2)本実施形態では、支援装置20の制御部21は、労働災害知識記憶処理S20を実行する。これにより、対象物の多様性や属性項目の多さ、輻輳性などがある場合にも、過去の事故状況に依拠して再発防止するための情報を生成できる。リスクに対する画一的な尺度を唯一の指標として用いる場合と異なり、現場において置かれた状況や特性の異なる個々の作業者にとって注意すべき情報を示唆でき、労働災害の未然予防を図るための情報を生成できる。人が恣意的にキーワード付与する場合と異なり、大規模で複雑な関係性を内包する対象業種においては、体系化や統制を実現できる。そして、適切な検索結果の質を確保することができる。
【0106】
(3)本実施形態では、支援装置20の制御部21は、リスク予測データ拡張処理S21を実行する。通常、ニューラルネットワークの学習では、相当規模の学習データ量を必要とするが、データの質も、重要な要件となる労働災害の分野においては量的な面で、予想されるリスクに対して事故件数の多寡にバラツキが存在し、十分な学習量が確保できないことがある。また、質的な面でも、報告事例を忠実にデータ化するだけでは予測されるリスクの範囲が狭くなってしまう可能性がある。この場合にも、ニューラルネットワークの学習に必要なデータを量的及び質的の観点から確保できる。
【0107】
(4)本実施形態では、支援装置20の制御部21は、リスク候補導出処理S30を実行する。これにより、職種、作業種に応じて、リスク因子連想グラフ24aを用いて、災害が発生する可能性があるリスク因子を特定することができる。更に、リスク予測学習モデル24bを用いて、リスク因子に応じたリスク発生の高さ(リスク度)を算出できる。
【0108】
(5)本実施形態では、支援装置20の制御部21は、動的リスク水準測定処理S40を実行する。これにより、リスク候補に対して、作業者や状況に応じて動的にリスクの程度を定量化することができる。
【0109】
(6)本実施形態では、支援装置20の制御部21は、動的リスク情報提示処理S50を実行する。例えば、若い作業者が遭遇しやすい事故と熟練作業者が遭遇しやすい事故は異なる。従って、各々の発生頻度に応じた評価指標で、被災の当事者となり得る作業者にとって避けるべきリスクを注意喚起することができる。
【0110】
(7)本実施形態では、支援装置20の制御部21は、リスク喚起情報拡張処理S51を実行する。これにより、リスクがより身近に感じられるように作業者に注意喚起を促すことができる。
【0111】
(8)本実施形態では、支援装置20の制御部21は、リスク喚起情報生成処理S52を実行する。これにより、任意の対象者、状況におけるリスクの可能性について柔軟に注意喚起を行うことができる。
【0112】
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
・上記実施形態では、建物の建築現場において、過去の多数の労働災害に関する報告書を利用して、安全確保を支援する場合に用いる。本発明の適用対象は、建築現場における労働災害に限定されるものではない。
【0113】
・上記実施形態では、労働災害報告書22a、ヒヤリハット報告書22b、安全巡視記録報告書22cの各ファイルを用いる。被災者の属性、障害の発生状況、発生原因等が記録されている報告書であれば、これらに限定されるものではない。
【0114】
・上記実施形態では、報告書記憶部22に記録されている情報を用いて、知識ベースを生成する。知識ベースの生成に用いる情報はこれらに限定されるものではない。報告書において不足する情報を、支援装置20の制御部21が取得するようにしてもよい。例えば、天候情報が不足している場合には、制御部21が、作業場所の住所を特定し、インターネット等で公開された天候情報サイトから天候情報を取得する。
【0115】
・上記実施形態では、支援装置20の制御部21は、リスク候補導出処理S30を実行する。この場合、ユーザ端末10に入力された職種、作業種別を受け付ける。これに加えて、ユーザ端末10を利用するユーザに基づいて、リスクを特定してもよい。この場合には、ユーザ端末10の利用時のログイン認証において、ユーザを特定する。そして、ユーザ管理サーバから、ユーザ属性(例えば、年齢やスキル等)を取得し、ユーザ属性に応じたリスク度を算出する。
【0116】
また、ユーザ端末10への各種情報の入力方法は、テキストを用いる場合に限定されるものではない。例えば、作業種別を保持する2次元コード画像等を、ユーザ端末10のカメラで撮影するようにしてもよい。また、作業現場において、クレーンやトラック、鉄筋や土砂等、実際に存在する対象物を撮影することにより、画像認識により関連機材・資材を起因物として特定するようにしてもよい。
また、動的リスク情報提示処理における情報の提示方法は、事例の画面表示に限定されるものではない。例えば、リスクに対する対応策を含めたチェックリストを生成して、表示するようにしてもよい。また、音声による注意喚起リストの読み上げを行なってもよい。
【0117】
・上記実施形態では、支援装置20の制御部21は、動的リスク情報提示処理S50を実行する。ここでは、発生頻度による評価を行なう。更に、影響度に応じて、評価を行なうようにしてもよい。この場合には、ペナルティ関数に、影響度に応じたペナルティ項を追加する。この場合、労働災害報告書において、影響度を追加して、クロス分析、連関分析を行なう。例えば、同様の事故状況が、ある作業者にとっては休業0日の軽微な怪我で済み、別の作業者にとっては休業30日の重度の怪我になることがある。従って、影響度と発生頻度に応じた評価指標で、被災の当事者となり得る作業者にとって避けるべきリスクを注意喚起することができる。
【0118】
次に、上記実施形態及び別例から把握できる技術的思想について、それらの効果とともに以下に追記する。
(a)過去に報告された労働災害報告書をデータサイエンスに基づくデータ分析手段によって、人とコンピュータが協調的に解析した解析結果を抽出する労働災害知識抽出処理と、
前記解析結果を労働災害知識としてコンピュータに記憶する労働災害知識記憶処理と、
前記労働災害知識を元に任意の条件で発生が予見されるリスク候補を導出するリスク候補導出処理と、
前記リスク候補に対して個別の状況に応じた危険度を算出する動的リスク水準導出処理と、
予防安全活動時に個別の状況に応じてリスク情報を提示する動的リスク情報提示処理と、を実行することを特徴とする安全支援システム。
【0119】
(b)前記コンピュータが、前記労働災害知識抽出処理において、新たに発生した労働災害報告書を自動的に分析する労働災害データ自動分析処理と、新規の分析結果を既存の労働災害知識に反映する労働災害知識自動更新処理と、を実行することを特徴とする(a)記載の安全支援システム。
これにより、漸次的に労働災害知識を拡充することができる。
【0120】
(c)前記コンピュータが、前記労働災害知識記憶処理において、リスク候補導出処理で用いるリスク予測学習モデルを生成するための学習データを拡張するリスク予測データ拡張処理と、拡張されたリスク予測データからリスク予測学習モデルを生成するリスク予測学習モデル生成処理と、を実行することを特徴とする(a)又は(b)に記載の安全支援システム。
これにより、リスク予測の精度及び網羅性を向上する学習機能を実現できる。
【0121】
(d)前記コンピュータが、前記動的リスク情報提示処理において、予測されたリスクに対して具体的な気付きを与える任意の情報を選択的に提供するリスク喚起情報拡張処理と、予測されたリスクに対してイメージを生成するリスク喚起情報生成処理と、を実行することを特徴とする(a)~(c)の何れか1つに記載の安全支援システム。
これにより、リスクに対する感度を向上させる支援機能を実現できる。
【0122】
(e)前記制御部が、前記報告書に含まれる文言を汎化した要素を用いて、作業で用いられる起因物、事故の型を特定し、前記作業、前記起因物及び事故の型を結びつける関連付け情報を含むリスク予測情報を生成することを特徴とする請求項1に記載の安全支援システム。
【0123】
(f)前記制御部が、前記関連付け情報を用いて、前記作業から前記起因物及び事故の型の確からしさを予測するリスク予測学習モデルを含むリスク予測情報を生成することを特徴とする(e)に記載の安全支援システム。
【0124】
(g)前記制御部が、新たな報告書を取得した場合、前記新たな報告書を解析した解析結果に基づいて、リスク予測情報を生成し、前記知識ベース記憶部に記録することを特徴とする請求項1、(e)、(f)に記載の安全支援システム。
【符号の説明】
【0125】
10…ユーザ端末、20…支援装置、21…制御部、211…分析部、212…学習部、213…支援部、22…報告書記憶部、23…知識ベース記憶部、24…学習結果記憶部