(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022152538
(43)【公開日】2022-10-12
(54)【発明の名称】冷却水系に設けられた金属の腐食抑制方法
(51)【国際特許分類】
C23F 11/167 20060101AFI20221004BHJP
C23F 11/18 20060101ALI20221004BHJP
【FI】
C23F11/167
C23F11/18 102
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021055348
(22)【出願日】2021-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000234166
【氏名又は名称】伯東株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179578
【弁理士】
【氏名又は名称】野村 和弘
(72)【発明者】
【氏名】関戸 広太
【テーマコード(参考)】
4K062
【Fターム(参考)】
4K062AA03
4K062BA05
4K062BA08
4K062BB04
4K062BB14
4K062BB25
4K062BC09
4K062BC22
4K062FA05
4K062FA12
(57)【要約】
【課題】冷却水系に設けられた金属の腐食を抑制できる技術を提供する。
【解決手段】冷却水系に設けられた金属の腐食抑制方法であって、冷却水系を流れる冷却水であって冷却水処理剤が添加された冷却水の溶存アルミニウム濃度を2mg/L未満に制御することを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷却水系に設けられた金属の腐食抑制方法であって、
前記冷却水系を流れる冷却水であって冷却水処理剤が添加された前記冷却水の溶存アルミニウム濃度を2mg/L未満に制御することを特徴とする、腐食抑制方法。
【請求項2】
請求項1に記載の腐食抑制方法であって、
前記冷却水処理剤は、成分(A)と成分(B)との少なくとも一方を含み、
前記成分(A)は、(i)有機ホスホン酸と、(ii)ホスフィノポリカルボン酸と、(iii)ホスホノカルボン酸と、(iv)リン酸と、(v)アクリル酸とマレイン酸とイタコン酸との少なくとも一つを構成単位として含みホスフィノ基を有さないエチレン性不飽和カルボン酸重合体と、からなる群から選ばれる少なくとも1つ又はその塩を含み、
前記成分(B)は、脂肪酸モノアミドと、多価アルコールと、多価アルコールの誘導体と、多価フェノールと、多価フェノールの誘導体と、からなる群から選ばれる少なくとも一つを含むことを特徴とする、腐食抑制方法。
【請求項3】
請求項2に記載の腐食抑制方法であって、
前記成分(A)は、アクリル酸とマレイン酸とを構成単位として含み、次亜リン酸を連鎖移動剤として用いるホスフィノポリカルボン酸又はその塩であることを特徴とする、腐食抑制方法。
【請求項4】
請求項2又は請求項3に記載の腐食抑制方法であって、
前記成分(B)は、分子量200~800のポリエチレングリコールであることを特徴とする、腐食抑制方法。
【請求項5】
請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載の腐食抑制方法であって、
前記冷却水系は開放型循環冷却水系であることを特徴とする、腐食抑制方法。
【請求項6】
請求項2から請求項5までのいずれか一項に記載の腐食抑制方法であって、
前記冷却水処理剤は、前記成分(A)と前記成分(B)とを含むことを特徴とする、腐食抑制方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷却水系に設けられた金属の腐食抑制方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、冷却水系における熱交換器伝熱管や配管等の部材には、金属が用いられている。そして、部材に用いられている金属は、水と接触することにより腐食が発生する。このため、一般に、冷却水には腐食抑制剤が添加される。
【0003】
例えば、金属として特に銅を用いた部材の腐食促成剤として、特許文献1には、2-メチルチオベンゾチアゾール、葉酸、クエン酸、カゼインナトリウム、酢酸2-(4-メチル-5-チアゾリル)エチル、5-(2-ヒドロキシエチル)-4-メチルチアゾール、2-メチル-メチルチオピラジン、2-メチルチオチアゾール、2-エチル-メチルチオピラジン、チアゾール、ベンゾチアゾール、デヒドロ酢酸ナトリウム及びL-アスコルビン酸よりなる群から選ばれた少なくとも1種を含む腐食抑制剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の腐食抑制剤は、銅の部材に特化した腐食抑制剤であり、冷却水系における熱交換器伝熱管や配管等の部材に用いられる金属一般に対する腐食抑制効果としては十分ではなかった。このため、冷却水系に設けられた金属の腐食を抑制できるその他の技術が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであり、以下の形態として実現することができる。
【0007】
(1)本発明の一形態によれば、冷却水系に設けられた金属の腐食抑制方法が提供される。この腐食抑制方法は、前記冷却水系を流れる冷却水であって冷却水処理剤が添加された前記冷却水の溶存アルミニウム濃度を2mg/L未満に制御することを特徴とする。この形態の腐食抑制方法によれば、冷却水系に設けられた金属の腐食を抑制できる。
【0008】
(2)上記形態の腐食抑制方法において、前記冷却水処理剤は、成分(A)と成分(B)との少なくとも一方を含み、前記成分(A)は、(i)有機ホスホン酸と、(ii)ホスフィノポリカルボン酸と、(iii)ホスホノカルボン酸と、(iv)リン酸と、(v)アクリル酸とマレイン酸とイタコン酸との少なくとも一つを構成単位として含みホスフィノ基を有さないエチレン性不飽和カルボン酸重合体と、からなる群から選ばれる少なくとも1つ又はその塩を含み、前記成分(B)は、脂肪酸モノアミドと、多価アルコールと、多価アルコールの誘導体と、多価フェノールと、多価フェノールの誘導体と、からなる群から選ばれる少なくとも一つを含んでいてもよい。この形態の腐食抑制方法によれば、冷却水系に設けられた金属の腐食をより効果的に抑制できる。
【0009】
(3)上記形態の腐食抑制方法において、前記成分(A)は、アクリル酸とマレイン酸とを構成単位として含み、次亜リン酸を連鎖移動剤として用いるホスフィノポリカルボン酸又はその塩であってもよい。この形態の腐食抑制方法によれば、冷却水系に設けられた金属の腐食をより効果的に抑制できる。
【0010】
(4)上記形態の腐食抑制方法において、前記成分(B)は、分子量200~800のポリエチレングリコールであってもよい。この形態の腐食抑制方法によれば、冷却水系に設けられた金属の腐食をより効果的に抑制できる。
【0011】
(5)上記形態の腐食抑制方法において、前記冷却水系は開放型循環冷却水系であってもよい。この形態の腐食抑制方法によれば、冷却水系に設けられた金属の腐食をより効果的に抑制できる。
【0012】
(6)上記形態の腐食抑制方法において、前記冷却水処理剤は、前記成分(A)と前記成分(B)とを含んでもよい。この形態の腐食抑制方法によれば、冷却水系に設けられた金属の腐食をより効果的に抑制できる。
【0013】
なお、本発明は、種々の形態で実現することが可能であり、例えば、冷却水系や冷却水用腐食抑制剤等の態様で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本実施形態の腐食抑制方法に用いる開放型循環型の冷却水系の模式図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
A.腐食抑制方法
本発明の一実施形態である、冷却水系に設けられた金属の腐食抑制方法は、冷却水系を流れる冷却水であって冷却水処理剤が添加された冷却水の溶存アルミニウム濃度を2mg/L未満に制御することを特徴とする。本実施形態によれば、冷却水系に設けられた金属の腐食を抑制することができる。本発明者らは、冷却水の溶存アルミニウム濃度が2mg/Lを超えることによって腐食が特に進行することを発見し、この発明に至った。
【0016】
本発明のメカニズムは不明であるが、以下のようなメカニズムが推定される。まず、冷却水中にアルミニウムイオンが存在する場合は、一般に、アルミン酸イオン(Al(OH)4
-)の形態で存在するか、もしくは、シリカ成分を抱き込んだフロックの形態で存在すると考えられる。そして、アルミニウムイオンが冷却水と接する金属面に付着することにより、金属の腐食が進行すると考えられる。また、アルミニウムイオンは、腐食抑制成分(特に、アニオンポリマー)を凝集させる機能があると考えられ、この結果として、腐食抑制成分の腐食抑制効果を低減すると考えられる。
【0017】
本実施形態の腐食抑制方法は冷却水系に適用することができる。冷却水系としては、特に限定されないが、例えば、開放循環型の冷却水系や、閉鎖循環型の冷却水系が挙げられる。本実施形態の腐食抑制方法は、開放循環型の冷却水系に適用することにより、より効果的に腐食を抑制できる。
【0018】
図1は、本実施形態の腐食抑制方法に用いる開放型循環型の冷却水系の模式図である。本実施形態の冷却水系100は、冷却塔10と、水槽20と、循環ポンプ30と、電気伝導度測定セル40と、流量調整バルブ50と、流量計60と、熱交換器70と、をこの順に冷却水が流れるように備える。熱交換器70を通過した冷却水は冷却塔10に循環する。冷却水系100の水槽20には、補給水を供給するための供給バルブ12と、冷却水処理剤を添加する処理剤バルブ13と、水槽20内の冷却水を排出するためのブローダウンポンプ14と、水温計19と、が設けられている。本明細書において、開放循環型の冷却水系100とは、冷却塔10により冷却水を冷却する冷却水系を示す。
【0019】
冷却水系に用いる冷却水は、特に限定されないが、例えば、工業用水が挙げられる。工業用水としては、アルミニウムを含む凝集剤が添加された水が挙げられる。アルミニウムを含む凝集剤としては、例えば、ポリ塩化アルミニウムや硫酸アルミニウム等が挙げられる。工業用水は、解放循環型の冷却水系の補給水としても用いることができる。
【0020】
ここで、「冷却水系の腐食」とは、冷却水系において冷却水が接する金属面の腐食を示す。冷却水が接する金属面としては、例えば、熱交換器等の伝熱面や配管が挙げられる。熱交換器としては、特に限定されないが、例えば、シェルアンドチューブ式多管式熱交換器、二重管式熱交換器、スパイラル式熱交換器、プレート式熱交換器、渦巻管式熱交換器、渦巻板式熱交換器、コイル式熱交換器、ジャケット式熱交換器等が挙げられる。
【0021】
冷却水系の冷却水のpHは、特に限定されないが、一般に、弱アルカリ性であることが好ましい。
【0022】
本明細書において、冷却水の溶存アルミニウム濃度は、以下の方法で測定する。具体的には、孔径が1μmのフィルターにより冷却水をろ過した後、このろ液を誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析装置により測定した値を、冷却水の溶存アルミニウム濃度とする。
【0023】
冷却水の溶存アルミニウム濃度を2mg/L未満に制御する方法としては、特に限定されないが、例えば、冷却水系の冷却水に含まれるアルミニウムをフィルターにて処理する方法や、溶存アルミニウム濃度が2mg/L未満の補給水を供給バルブ12から冷却水系に補給する方法が挙げられる。冷却水系の冷却水に含まれるアルミニウムをフィルターにて処理する方法としては、例えば、冷却水系にサイドフィルターを設ける方法が挙げられる。
【0024】
本実施形態の冷却水処理剤としては、特に限定されないが、例えば、以下の成分(A)や成分(B)が挙げられる。金属の腐食を効果的に抑制する観点から、本実施形態の冷却水処理剤としては、成分(A)と成分(B)とを含むことが好ましい。
【0025】
成分(A)としては、(i)有機ホスホン酸と、(ii)ホスフィノポリカルボン酸と、(iii)ホスホノカルボン酸と、(iv)リン酸と、(v)アクリル酸とマレイン酸とイタコン酸との少なくとも一つを構成単位として含みホスフィノ基を有さないエチレン性不飽和カルボン酸重合体等が挙げられる。成分(A)としては、ホスフィノポリカルボン酸が好ましく、アクリル酸とマレイン酸とを構成単位として含み、次亜リン酸を連鎖移動剤として用いるホスフィノポリカルボン酸がより好ましい。成分(A)は、その塩の形態であってもよい。
【0026】
本明細書において、「有機ホスホン酸」とは、分子中に1個以上のホスホノ基と有する有機化合物を意味する。有機ホスホン酸としては、特に限定されないが、例えば、1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸(HEDP)、アミノトリメチレンホスホン酸、エチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸、ジエチレントリアミンペンタメチレンホスホン酸、ヘキサメチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸等が挙げられる。有機ホスホン酸としては、1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸(HEDP)が好ましい。
【0027】
本明細書において、「ホスホノカルボン酸」とは、分子中において、1個以上のホスホノ基と1個以上のカルボキシ基とを備える有機化合物を意味する。ホスホノカルボン酸としては、特に限定されないが、例えば、2-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸(PBTC)、ヒドロキシホスホノ酢酸、ホスホノポリマレイン酸、ホスホンコハク酸等が挙げられる。ホスホノカルボン酸としては、2-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸、ホスホノポリマレイン酸が好ましい。具体的には、ホスホノカルボン酸としては、ローディア社製の「BRICORR(登録商標)288」や、BWA社製の「BELCOR(登録商標)585」が挙げられる。
【0028】
本明細書において、「ホスフィノポリカルボン酸」とは、分子中において、1個以上のホスフィノ基と2個以上のカルボキシ基とを備える有機化合物を意味する。ホスフィノポリカルボン酸としては、特に限定されないが、例えば、アクリル酸と次亜リン酸とを反応させて得られるビス-ポリ(2-カルボキシエチル)ホスフィン酸、マレイン酸と次亜リン酸とを反応させて得られるビス-ポリ(1,2-ジカルボキシエチル)ホスフィン酸、マレイン酸とアクリル酸と次亜リン酸とを反応させて得られるポリ(2-カルボキシエチル)(1,2-ジカルボキシエチル)ホスフィン酸、イタコン酸と次亜リン酸とを反応させて得られるビス-ポリ[2-カルボキシ-(2-カルボキシメチル)エチル]ホスフィン酸、アクリル酸と2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸と次亜リン酸との反応物等が挙げられる。ホスフィノポリカルボン酸としては、アクリル酸とマレイン酸と次亜リン酸との反応物が好ましい。ホスフィノポリカルボン酸は、例えば、バイオ・ラボ社より「BELCLENE500」、「BELSPERSE164」、「BELCLENE400」等の商品名で市販されている。
【0029】
本明細書において、「アクリル酸とマレイン酸と次亜リン酸との反応物」とは、アクリル酸とマレイン酸とを構成単位として含み、次亜リン酸を連鎖移動剤として重合させた化合物を意味し、「アクリル酸-マレイン酸-次亜リン酸共重合体(AA-MA-P)」とも呼ぶ。アクリル酸-マレイン酸-次亜リン酸共重合体は、構成単位として、アクリル酸及びマレイン酸以外を含んでもよい。
【0030】
アクリル酸-マレイン酸-次亜リン酸共重合体において、孔食を抑制する観点及び炭酸カルシウムに対するスケールを抑制する観点から、次亜リン酸1モルに対して、構成単位は1モル以上であることが好ましく、2モル以上であることがより好ましい。また、アクリル酸-マレイン酸-次亜リン酸共重合体において、自身のカルシウム塩の析出を抑制する観点から、次亜リン酸1モルに対して、構成単位は10モル以下であることが好ましく、5モル以下であることがより好ましい。
【0031】
また、アクリル酸-マレイン酸-次亜リン酸共重合体におけるマレイン酸とアクリル酸との構成単位の比率は、自身のカルシウム塩の析出を抑制する観点から、マレイン酸1モルに対して、アクリル酸は、0.5モル以上が好ましく、1モル以上がより好ましい。また、アクリル酸-マレイン酸-次亜リン酸共重合体におけるマレイン酸とアクリル酸との構成単位の比率は、スケール防止効果を向上させる観点から、マレイン酸1モルに対して、アクリル酸は、9モル以下が好ましく、4モル以下がより好ましい。
【0032】
アクリル酸-マレイン酸-次亜リン酸共重合体の製造方法は、特に限定されないが、例えば、アクリル酸とマレイン酸とを含むモノマー混合液と次亜リン酸とを、ラジカル重合開始剤の存在下で加熱反応させる方法が挙げられる。モノマー混合物には、適宜、アクリル酸及びマレイン酸以外の不飽和モノマーが含まれていてもよい。アクリル酸-マレイン酸-次亜リン酸共重合体の製造方法は、例えば、特公平6-47113号公報、特公平1-41706号公報、特開昭63-114986号公報に記載の方法を参照でき、特公平6-47113号公報に記載の方法を好適に参照できる。
【0033】
上述のラジカル重合開始剤は、特に限定されないが、例えば、過酸化物やアゾ化合物等が挙げられる。過酸化物としては、特に限定されないが、例えば、過酸化水素、過硫酸ソーダ、ブチルヒドロパーオキシド等が挙げられる。アゾ化合物としては、特に限定されないが、例えば、アゾビスイソブチロニトリル、2,2'-アゾビス(2-アミジノプロパン)等が挙げられる。
【0034】
アクリル酸-マレイン酸-次亜リン酸共重合体の反応溶媒としては、特に限定されないが、例えば、水や有機溶媒が挙げられ、水が好ましい。有機溶媒としては、特に限定されないが、例えば、アルコール類、ケトン類、ジオキサン等が挙げられる。反応条件として、大気圧下でも加圧下でもよく、重合時の温度は80℃から120℃が好ましい。重合時の反応時間は、1時間から10時間が好ましい。
【0035】
また、アクリル酸-マレイン酸-次亜リン酸共重合体は、次亜リン酸の断片が重合体の一部に結合していてもよい。つまり、アクリル酸-マレイン酸-次亜リン酸共重合体は、次亜リン酸の断片を、重合体の末端又は中央に含んでいてもよい。アクリル酸-マレイン酸-次亜リン酸共重合体の末端に次亜リン酸の断片を含む場合、過剰の開始剤を用いることにより、末端をホスホン酸基に転換させてもよい。
【0036】
アクリル酸-マレイン酸-次亜リン酸共重合体の重量平均分子量は、特に限定されないが、孔食を抑制する観点及び炭酸カルシウムに対するスケールを抑制する観点から、300以上が好ましく、500以上がより好ましい。アクリル酸-マレイン酸-次亜リン酸共重合体の重量平均分子量は、自身のカルシウム塩の析出を抑制する観点から、2000以下が好ましく、1500以下がより好ましい。次亜リン酸成分が連鎖移動剤として作用するため、構成単位に対する次亜リン酸の割合を大きくするほど、アクリル酸-マレイン酸-次亜リン酸共重合体の分子量は小さくなる。アクリル酸-マレイン酸-次亜リン酸共重合体のカルシウム塩の析出を抑制することにより、伝熱障害の発生を抑制できるとともに、酸素濃度電池の生成に起因する隙間腐食の発生についても抑制できる。
【0037】
成分(A)のリン酸は、市販のものを使用することができる。リン酸として、リン酸の塩を用いてもよく、リン酸塩としては、例えば、リン酸一ナトリウム、リン酸二ナトリウム、リン酸一カリウム、リン酸二カリウム等のアルカリ金属のリン酸塩が挙げられる。
【0038】
アクリル酸と、マレイン酸と、イタコン酸との少なくとも一つを構成単位として含み、ホスフィノ基を有さないエチレン性不飽和カルボン酸重合体(以下、単に「エチレン性不飽和カルボン酸重合体」とも呼ぶ)としては、特に限定されないが、例えば、ホモ重合体、二元共重合体、三元共重合体等が挙げられる。
【0039】
上記のホモ重合体としては、例えば、アクリル酸重合体、マレイン酸重合体、無水マレイン酸重合体の加水分解物、イタコン酸重合体等が挙げられる。マレイン酸重合体としては、例えば、ポリマレイン酸が挙げられる。上記の二元共重合体としては、例えば、アクリル酸とマレイン酸との共重合体、アクリル酸とイタコン酸との共重合体、マレイン酸とイタコン酸との共重合体、マレイン酸とフマル酸との共重合体等が挙げられる。上記の三元共重合体としては、例えば、アクリル酸とイタコン酸とマレイン酸との三元共重合体、アクリル酸とイタコン酸とフマル酸との三元共重合体等が挙げられる。
【0040】
エチレン性不飽和カルボン酸重合体は、さらに、カルボン酸基を含まないモノエチレン性不飽和単量体を構成単位として含んでいてもよい。カルボン酸基を含まないモノエチレン性不飽和単量体としては、特に限定されないが、例えば、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、3-アリロキシ-2-ヒドロキシ-1-プロパンスルホン酸、スチレンスルホン酸、スルホアルキル(メタ)アクリレートエステル、スルホアルキル(メタ)アリルエーテル、スルホフェノ(メタ)アリルエーテル、(メタ)アリルスルホン酸、ビニルスルホン酸等のモノエチレン性不飽和スルホン酸;ブタジエン、イソプレン、シクロオクタンジエン、シクロペンタンジエン等の共役ジエンのスルホン化物;アクリル酸エステルあるいはメタクリル酸エステル;アクリルアミド、N-メチルアクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、N-エチルアクリルアミド、N,N-ジエチルアクリルアミド、N-プロピルアクリルアミド、N-イソプロピルアクリルアミド、N-tert-ブチルアクリルアミド、アクリロイルモルホリン、N-アルコキシメチルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド等のN-アルキル置換あるいは非置換のアクリルアミド又はメタクリルアミド;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸シクロヘキシル、アルコキシポリエチレングリコールアクリレート等のアクリル酸エステル又はメタクリル酸エステル;2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシプロピルアクリレート、ポリエチレングリコールアクリレート、ポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコールアクリレート等のヒドロキシ置換アルキルアクリレート又はメタクリレート;アリルグリコ-ル、3-アリロキシ-1,2-プロパンジオール、ポリエチレングリコールアリルエーテル、ポリプロピレングリコールアリルエーテル等のヒドロキシ置換アリルエーテル;マレイン酸モノメチル、マレイン酸ジメチル、マレイン酸エチル等のマレイン酸モノエステルあるいはジエステル;イタコン酸モノメチル、イタコン酸ジメチル、イタコン酸エチル等のイタコン酸モノエステルあるいはジエステル;エチレン、プロピレン、イソプロピレン、ブチレン、イソブチレン、ヘキセン、2-エチルヘキセン、ペンテン、イソペンテン、オクテン、イソオクテン等の炭素数2~8のオレフィン;ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル等のビニルアルキルエーテル;ビニルアルコール、酢酸ビニル、N-ビニルピロリドン、スチレン等が挙げられる。
【0041】
エチレン性不飽和カルボン酸重合体の分子量は、重量平均分子量として300~100,000が好ましく、より好ましくは500~20,000の範囲である。
【0042】
エチレン性不飽和カルボン酸重合体としては、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸が好ましい。2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸におけるアクリル酸とモノエチレン性不飽和単量体との割合は、アクリル酸とモノエチレン性不飽和単量体との合計100モルあたり、アクリル酸は60モル以上98モル以下が好ましく、70モル以上90モル以下がより好ましい。また、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸の重量平均分子量は、好ましくは1000~25000であり、より好ましくは3000~20000である。
【0043】
成分(A)の添加量は、特に限定されないが、腐食を防止する観点から、冷却水1Lに対して、5~100mg/Lであることが好ましく、10~50mg/Lであることがより好ましい。
【0044】
成分(B)としては、脂肪酸モノアミド、多価アルコール、多価アルコールの誘導体、多価フェノール、多価フェノールの誘導体等が挙げられる。
【0045】
脂肪酸モノアミドとしては、特に限定されないが、例えば、カプリル酸アミド、カプリン酸アミド、ラウリン酸アミド、ミリスチン酸アミド、パルミチン酸アミド、ステアリン酸アミド、アラキジン酸アミド、ベヘン酸アミド、ヒドロキシステアリン酸アミド、パルミトレイン酸アミド、オレイン酸アミド、リノール酸アミド、リノレン酸アミド、エルカ酸アミド、ウンデシレン酸アミド、アラキドン酸アミド、バクセン酸アミド及び植物油脂肪酸や動物油脂肪酸等の、飽和ないし不飽和脂肪酸アミド;N-モノメチルオレイン酸アミド、N-モノエチルリノール酸アミド、N-モノイソプロピルステアリン酸アミド、N-オレイルパルミチン酸アミド、N-ステアリルステアリン酸アミド、N-ステアリルオレイン酸アミド、N-オレイルステアリン酸アミド、N-ステアリルエルカ酸アミド及び植物油脂肪酸や動物油脂肪酸等の、飽和ないし不飽和脂肪酸のN-置換アミド;N,N-ジメチルステアリン酸アミド、N,N-ジメチルオレイン酸アミド、N,N-ジメチルリノール酸アミド、N,N-ジメチルリノレン酸アミド、N,N-ジメチルリシノール酸アミド、N,N-ジメチルアラキドン酸アミド、N,N-ジメチルエイコサペンタエン酸アミド、N,N-ジメチルドコサヘキサエン酸アミド、N,N-ジエチルオレイン酸アミド、N,N-ジプロピルオレイン酸アミド、N,N-ジヒドロキシエチルラウリン酸アミド、N,N-オレイン酸エチルラウリン酸アミド、N-メチル-N-ヒドロキシエチルラウリン酸アミド、N-エチル-N-ヒドロキシエチルミリスチン酸アミド、N-エチル-N-ヒドロキシエチルステアリン酸アミド及び植物油脂肪酸や動物油脂肪酸等の、飽和ないし不飽和脂肪酸のN,N-置換アミド;ドデカノイルモルフォリン、N-ステアラミド-3-メチルピペリジン、N-ステアラミドモルフォリン、N-ステアラミド-3,5-ジメチルピペリジン、1-ヘキサデコイルヘキサヒドロ[1H]アゼピン、ヘキサデコイル-3-メチルピペリジン等の、飽和ないし不飽和脂肪酸の環状アミド等が挙げられる。脂肪酸モノアミドとしては、不飽和脂肪酸のN,N-置換アミドが好ましい。不飽和脂肪酸のN,N-置換アミドとしては、N,N-ジメチルオレイン酸アミド、N,N-ジメチルリノール酸アミド、N,N-ジメチルリノレン酸アミド、N,N-ジメチルリシノール酸アミド、N,N-ジメチルアラキドン酸アミド、N,N-ジメチルエイコサペンタエン酸アミド、N,N-ジメチルドコサヘキサエン酸アミド、N,N-ジメチルエルカ酸アミド、N,N-ジエチルオレイン酸アミド、N,N-ジプロピルオレイン酸アミド及び植物油脂肪酸や動物油脂肪酸等が挙げられる。
【0046】
脂肪酸モノアミドは、例えば、以下のものが市販されている。日本乳化剤社の製品として、ラウリン酸アミドは「ダイヤミッドY」という商品名、パルミチン酸アミドは「ダイヤミッドKP」という商品名、ステアリン酸アミドは「ダイヤミッドAP-1」という商品名、ベヘン酸アミドは「ダイヤミッドBH」という商品名、ヒドロキシステアリン酸アミドは「ダイヤミッドKH」という商品名、オレイン酸アミドは「ダイヤミッドO-200」という商品名、エルカ酸アミドは「ダイヤミッドL-200」という商品名でそれぞれ市販されている。N,N-ジメチルオレイン酸アミドは、日本乳化剤社より「テクスノールODM」という商品名、あるいは日本化成社より「ニッカアマイドMBO」等の商品名でそれぞれ市販されている。トール油脂肪酸のジメチルアミドを含む製品は、バックマンラボラトリーズ社より「DMAD」、「SPI-2400」、「DMXS」、「SADA」等の商品名でそれぞれ市販されている。
【0047】
多価アルコール及び/又は多価フェノールは、特に限定されないが、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール(=ネオペンチルグリコール)、2-エチル-1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,8-オクタンジオール、1,10-デカンジオール、シクロヘキサン-1,4-ジメタノール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、p-キシレングリコール、ペンタエリスリトール、ソルビトール、ソルビタン、ジペンタエリスリトール、グリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリン、ショ糖、1,2,6-ヘキサントリオール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン(=ビスフェノールF)、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(=ビスフェノールA)、2,2-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン(=ビスフェノールC)、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン(=ビスフェノールB)、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン(=ビスフェノールZ)、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルエタン(=ビスフェノールAP)、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン(=ビスフェノールS)、2,2-ビス(4-ヒドロキシシクロヘキシル)プロパン、ハイドロキノン、レゾルシン、カテコール、ビス(4-ヒドロキシフェニル)エーテル、1,1,2,2-テトラキシ(4-ヒドロキシフェニル)エタン、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、グリセロールポリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、ハイドロキノンジグリシジルエーテル、ビスフェノールAジグリシジルエーテル等が挙げられる。
【0048】
多価アルコール及び/又は多価フェノールの誘導体としては、特に限定されないが、例えば、(i)多価アルコール及び/又は多価フェノールのポリグリシジルエーテルであってアミノ基を有さない化合物、(ii)多価アルコール及び/又は多価フェノールのポリグリシジルエーテルの加水分解物であってアミノ基を有さない化合物、(iii)多価アルコール及び/又は多価フェノールと、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、及びポリエチレングリコールジグリシジルエーテルから選択される1種以上と、の付加反応物であってアミノ基を有さない化合物等が挙げられる。
【0049】
多価アルコール及び/又は多価フェノールのポリグリシジルエーテルであってアミノ基を有さない化合物としては、特に限定されないが、例えば、多価アルコール及び/又は多価フェノールとエピハロヒドリンの反応により得られる化合物等が挙げられる。この化合物の製造方法としては、例えば、特開昭61-178974号公報等を参照できる。多価アルコール及び/又は多価フェノールのポリグリシジルエーテルであってアミノ基を有さない化合物に用いられる多価アルコール及び/又は多価フェノールは上記の化合物が挙げられる。上記の化合物は、単独で用いてもよく、2つ以上を併用してもよい。また、上記の化合物は、エチレンオキシドの付加物であってもよく、プロピレンオキサイドの付加物であってもよい。また、上記のエピハロヒドリンとしては、例えば、エピブロモヒドリン、エピクロロヒドリン、エピヨードヒドリン、β-メチルエピブロモヒドリン、β-メチルエピクロロヒドリン等が挙げられる。
【0050】
多価アルコール及び/又は多価フェノールのポリグリシジルエーテルであってアミノ基を有さない化合物としては、特に限定されないが、例えば、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル等が挙げられる。多価アルコール及び/又は多価フェノールのポリグリシジルエーテルであってアミノ基を有さない化合物は、一般に市販されているものを使用することができる。例えば、エチレングリコールジグリシジルエーテルは、ナガセケミテックス社より「デナコールEX-810」(エポキシ当量113)という商品名あるいは「EX-811」(エポキシ当量132)という商品名で販売されている。ジエチレングリコールジグリシジルエーテルは、ナガセケミテックス社より「デナコールEX-850」(エポキシ当量122)という商品名あるいは「EX-851」(エポキシ当量150)という商品名で販売されている。ポリエチレングリコールジグリシジルエーテルは、ナガセケミテックス社より「デナコールEX-821」(エポキシ当量185)という商品名、「デナコールEX-830」(エポキシ当量268)、「デナコールEX-832」(エポキシ当量284)、「デナコールEX-841」(エポキシ当量372)、「デナコールEX-861(エポキシ当量551)」という商品名でそれぞれ市販されている。
【0051】
多価アルコール及び/又は多価フェノールのポリグリシジルエーテルの加水分解物であってアミノ基を有さない化合物としては、特に限定されないが、例えば、多価アルコール及び/又は多価フェノールのポリグリシジルエーテルに水とアルカリを加えて加熱することにより得ることができる。ここで用いられる多価アルコール及び/又は多価フェノールのポリグリシジルエーテルとしては、上記の多価アルコール及び/又は多価フェノールのポリグリシジルエーテルであってアミノ基を有さない化合物として挙げた化合物を用いることができる。
【0052】
多価アルコール及び/又は多価フェノールのポリグリシジルエーテルの加水分解物であってアミノ基を有さない化合物としては、例えば、エチレングリコールジグリシジルエーテルの加水分解物、ジエチレングリコールジグリシジルエーテルの加水分解物、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテルの加水分解物等が挙げられる。
【0053】
多価アルコール及び/又は多価フェノールと、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、及びポリエチレングリコールジグリシジルエーテルから選択される1種以上と、の付加反応物であってアミノ基を有さない化合物に用いられる多価アルコール及び/又は多価フェノールとしては、例えば、多価アルコール及び/又は多価フェノールのポリグリシジルエーテルであってアミノ基を有さない化合物として上記した化合物や、それらの化合物のエチレンオキシドやプロピレンオキシドの付加物を用いることができる。
【0054】
多価アルコール及び/又は多価フェノールと、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、及びポリエチレングリコールジグリシジルエーテルから選択される1種以上と、の付加反応物であってアミノ基を有さない化合物は、例えば、多価アルコール及び/又は多価フェノールと、エチレングリコールジグリシジルエーテルと、混合した後に、酸触媒の存在下で30~200℃に加熱することにより得ることができる。酸触媒としては、例えば、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル、ホウフッ化亜鉛、ホウフッ化カリウム、ホウフッ化スズ、塩化アルミニウム、塩化スズ等のルイス酸触媒等が挙げられる。
【0055】
多価アルコール及び/又は多価フェノールと、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、及びポリエチレングリコールジグリシジルエーテルから選択される1種以上と、の付加反応物であってアミノ基を有さない化合物を調製するための、多価アルコール及び/又は多価フェノールと、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、及びポリエチレングリコールジグリシジルエーテルから選択される1種以上と、の好ましい反応比率は、1モルの多価アルコール及び/又は多価フェノールに対して、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、及びポリエチレングリコールジグリシジルエーテルから選択される1種以上が、0.5~2エポキシ当量の範囲であることが好ましい。この反応比率とすることにより、十分なスケール抑止性能を得られるとともに、反応生成物がゲル化することを抑制できる。
【0056】
多価アルコール及び/又は多価フェノールと、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、及びポリエチレングリコールジグリシジルエーテルから選択される1種以上と、の付加反応物であってアミノ基を有さない化合物の好ましい例は、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ソルビトール、ペンタエリスリトール、グリセリン、トリメチロールエタン、及びトリメチロールプロパンから選択される1種以上と、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、及びポリエチレングリコールジグリシジルエーテルから選択される1種以上と、の付加反応物が挙げられる。
【0057】
成分(B)としては、成分(B)としては、ポリエチレングリコール、ポリエチレングリコールモノメチルエーテルであることが好ましく、ポリエチレングリコールであることがより好ましい。ポリエチレングリコールの分子量は、200~800であることが好ましく、より好ましくは300~500である。なお、ポリエチレングリコールとして、上記以外の分子量のポリエチレングリコールを含んでいてもよい。ここで、ポリエチレングリコールの分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定することができる。ポリエチレングリコールは、一般に市販されているものを使用することができる。
【0058】
成分(B)の添加量は、特に限定されないが、冷却水1Lに対して、0.2mg/L以上が好ましく、0.5mg/L以上がより好ましい。また、成分(B)の添加量は、CODが高くなることを抑制する観点から、冷却水1Lに対して、500mg/L以下が好ましく、50mg/L以下がより好ましい。
【0059】
成分(A)と成分(B)とは併用することが好ましい。成分(A)と成分(B)とを併用する場合、成分(A)と成分(B)との添加量の割合は、成分(A)1質量部に対して、成分(B)は、0.05質量部以上が好ましく、0.1質量部以上がより好ましい。また、成分(A)と成分(B)との添加量の割合は、成分(A)1質量部に対して、成分(B)は、5質量部以下が好ましく、2.5質量部以下がより好ましい。
【0060】
冷却水処理剤としては、成分(A),成分(B)以外の成分を含んでいてもよい。成分(A),成分(B)以外の成分としては、例えば、モリブデン酸塩や酸化亜鉛、1,2,3-ベンゾトリアゾール等のアゾール類、特開昭61-107998記載のアクリルアミド系重合体、特開昭57-110398号公報記載の4級アンモニウム塩、特許第2974378号公報記載のポリエチレンイミン系化合物等が使用できる。また、成分(A),成分(B)以外の成分として、分散剤を使用してもよい。分散剤としては、例えば、「ACUMER5000」(DAW CHEMICAL社製)を使用してもよい。成分(A),成分(B)以外の成分は、1種類のみでもよく、複数併用してもよい。
【実施例0061】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、例中、「%」との記載は、特に限定のない限り質量%を意味する。
【0062】
以下に示す冷却水処理剤を用いて、腐食試験を行った。
(成分(A))
・HEDP(1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸、商品名:BELCLENE 660LA、BWA社製)
・PBTC(2-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸、商品名:BELCLENE 650、BWA社製)
・AA-MA-P:アクリル酸とマレイン酸と次亜リン酸の共重合体(平均分子量450)
・AA-AMPS:アクリル酸と2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸(共重合比(質量)60:40、重量平均分子量10,000)
・ポリマレイン酸:50%ポリマレイン酸溶液(平均分子量500)
・オルトリン酸
【0063】
(成分(B))
・PEG#400(日本油脂株式会社製)
・N,N-ジメチルオレイン酸アミド(商品名:テクスノールODM、日本乳化剤株式会社製)
【0064】
<腐食試験>
腐食試験は、以下の方法で行った。まず、JIS K0100-1990 工業用水腐食試験方法(回転法)に準拠して、寸法が50mm×30mm×1mmであり、表面積が0.316dm2である低炭素鋼(JIS G 3141SPCC-SB)試験片をアセトンで脱脂後に乾燥させ、質量を測定した。
【0065】
次に、Al源としてポリ塩化アルミニウムを所定のAl濃度となるように試験液を調製した。試験液は、pHを8.5に調整し、Mアルカリ度を100ppmに調整し、カルシウム硬度を100ppmに調整した。本試験において、冷却水処理剤として、成分(A)を2種類、もしくは、成分(A)と成分(B)とを1種類ずつ用いた。より具体的には、実施例1から実施例8では、冷却水処理剤として成分(A)と成分(B)とを1種類ずつ用い、実施例9では、冷却水処理剤として成分(A)を2種類用いた。本試験では、冷却水処理剤として、各材料を固形分換算でそれぞれ15mg/Lずつ添加した。調製した試験液は、1μmのフィルターでろ過した後、ろ液中のAl濃度を誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析装置により測定し、調整後の試験液におけるAl濃度が所定の濃度となっていることを確認した。
【0066】
そして、JIS K0100-1990工業用水腐食試験方法(回転法)に準拠して、還流冷却管に連結された攪拌器付きフラスコに試験液500mLを入れた後、40℃の恒温槽にて保温した。そして、試験片を常に試験液に浸漬した状態において、腐食試験装置のモーター回転軸の保持器に試験片を取り付けて、線速度0.3m/secで3日間、試験片を回転させた。
【0067】
3日後に試験片を取り出した後、表面に付着した腐食性生成物やスケール付着物を流水下においてブラシで除去した。その後、試験片を乾燥させた後に質量を測定した。
【0068】
そして、腐食速度[mdd]を以下の式により算出した。腐食速度が小さいほど、腐食が抑制されていることを示す。
腐食速度[mdd]=(試験片の減少量[mg])/{(試験片表面積[dm2])×(試験日数[日])}
【0069】
腐食試験の結果を、以下の表1に示す。
【0070】
【0071】
表1の結果から、冷却水処理剤を用いた場合において、実施例と比較例とを比較することにより、試験液中の溶存Al濃度が2.0mg/Lであると腐食速度が大きいのに対して、試験液中のAl濃度が2.0mg/L未満であると腐食速度が小さいことが分かった。また、実施例1から実施例8と実施例9とを比較することにより、冷却水処理剤として、成分(A)を2種類用いる場合よりも成分(A)と成分(B)とを併用するほうが腐食を抑制できることが分かった。
【0072】
本発明は、上述の実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態、実施例中の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。