(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022152540
(43)【公開日】2022-10-12
(54)【発明の名称】クレーン及びクレーンの制御方法
(51)【国際特許分類】
B66C 13/06 20060101AFI20221004BHJP
B66C 13/22 20060101ALI20221004BHJP
【FI】
B66C13/06 M
B66C13/22 U
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021055350
(22)【出願日】2021-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】502129933
【氏名又は名称】株式会社日立産機システム
(74)【代理人】
【識別番号】110001678
【氏名又は名称】藤央弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】桃井 康行
(72)【発明者】
【氏名】渡部 道治
(72)【発明者】
【氏名】家重 孝二
(72)【発明者】
【氏名】及川 裕吾
(72)【発明者】
【氏名】田上 達也
【テーマコード(参考)】
3F204
【Fターム(参考)】
3F204DB09
3F204EA15
(57)【要約】
【課題】地切り時の吊荷とトロリとの間の水平方向の位置偏差を低減させて、地切り前のトロリの動作時間をより短縮させる。
【解決手段】水平方向へ移動可能な水平移動装置と、水平移動装置に搭載されてロープを巻き上げ可能な巻上げモータを有する巻上装置と、ロープに取り付けられたフックと、プロセッサとメモリを有して前記水平移動装置と前記巻上装置を制御する制御部と、を有し、前記制御部は、ロープに弛みのない緊張状態であるかを判定するロープ緊張状態判定部と、前記巻上装置を駆動してロープを緊張状態まで巻き上げた場合の状態量を測定する状態測定部と、水平移動装置を移動させる走行制御部と、を有し、状態測定部は、前記吊荷が着地している状態で、前記ロープが緊張状態となった水平移動装置の位置と前記状態量の測定結果を用いて前記吊荷位置を同定し、同定された吊荷位置へ水平移動装置を移動させる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータを有して水平方向へ移動可能な水平移動装置と、
前記水平移動装置に搭載されてロープを巻き上げ可能な巻上げモータを有する巻上装置と、
前記ロープに取り付けられて吊荷を吊り下げるフックと、
プロセッサとメモリを有して前記水平移動装置と前記巻上装置を制御する制御部と、を有するクレーンであって、
前記制御部は、
前記ロープに弛みのない緊張状態であるかを判定するロープ緊張状態判定部と、
前記巻上装置を駆動して前記ロープを前記緊張状態まで巻き上げた場合の前記クレーンの状態量を測定する状態測定部と、
前記水平移動装置を移動させる走行制御部と、を有し、
前記状態測定部は、
前記吊荷が着地している状態で、前記ロープが緊張状態となった水平移動装置の位置xと前記状態量の測定結果を用いて吊荷位置xpを同定し、
前記走行制御部は、
前記同定された吊荷位置xpへ前記水平移動装置を移動させて前記ロープを前記吊荷の真上に位置決めすることを特徴とするクレーン。
【請求項2】
請求項1に記載のクレーンであって、
前記状態量は、
前記ロープを緊張状態まで巻き上げた場合の前記水平移動装置から前記吊荷との距離Lであって、
前記状態測定部は、
移動方向の少なくとも2カ所で前記水平移動装置の位置xと前記水平移動装置から前記吊荷までの距離Lを前記水平移動装置に設けた第1のセンサで測定し、
前記測定結果をx2-L2+p1×x+p2=0を用いて前記係数p1、p2を算出し、算出された前記係数p1、p2から前記距離Lが最小となる前記水平移動装置の位置xを前記吊荷位置xpとして算出することを特徴とするクレーン。
【請求項3】
請求項1に記載のクレーンであって、
前記ロープは、
端部に前記フックが取り付けられて、前記フックには前記吊荷を吊り下げる吊り下げ部材が取り付けられ、
前記状態量は、
前記ロープを緊張状態まで巻き上げた場合の前記ロープの長さLrであり、
前記状態測定部は、
移動方向の少なくとも3カ所で前記水平移動装置の位置xと前記ロープの長さLrを前記水平移動装置に設けた第1のセンサで測定し、
前記測定結果をx2-Lr2+p1×x+p2×Lr+p3=0を用いて前記係数p1、p2、p3を算出し、算出された前記係数p1、p2、p3から前記ロープの長さLrが最小となる前記水平移動装置の位置xを前記吊荷位置xpとして算出することを特徴とするクレーン。
【請求項4】
請求項1に記載のクレーンであって、
前記状態量は、
前記ロープを緊張状態まで巻き上げた場合の前記水平移動装置に対する前記ロープの振れ角θであり、
前記状態測定部は、
移動方向の少なくとも2カ所で前記水平移動装置の位置xと前記ロープの振れ角θを前記水平移動装置に設けた第2のセンサで測定し、
前記測定結果をx+p1×tanθ+p2=0を用いて係数p1、p2を算出し、算出された前記係数p1、p2から前記振れ角θが最小となる前記水平移動装置の位置xを前記吊荷位置xpとして算出することを特徴とするクレーン。
【請求項5】
請求項1に記載のクレーンであって、
前記状態量は、
前記ロープを緊張状態まで巻き上げた場合の前記ロープの張力Tと、前記水平移動装置に対して水平方向に作用する力Fであり、
前記状態測定部は、
移動方向の少なくとも2カ所で前記水平移動装置の位置xと、前記ロープの張力Tを前記水平移動装置に設けた第3のセンサで測定し、前記水平方向に作用する力Fを前記水平移動装置に設けた第4のセンサで測定し、
前記測定結果から前記ロープの振れ角θをθ=arcsin(F/T)から算出し、x+p1×tanθ+p2=0を用いて係数p1、p2を算出し、算出された前記係数p1、p2から振れ角θが最小となる前記水平移動装置の位置xを前記吊荷位置xpとして算出することを特徴とするクレーン。
【請求項6】
請求項1に記載のクレーンであって、
前記状態量は、
前記水平移動装置が移動する前に前記ロープを繰り出した長さLfと前記ロープを緊張状態まで巻き上げるまでの時間Tfであり、
前記状態測定部は、
少なくとも3カ所で前記水平移動装置の位置xと前記ロープを繰り出した長さLfと前記ロープを緊張状態まで巻き上げるまでの時間Tfを測定し、前記ロープの巻き上げ速度Vを前記ロープを繰り出した長さLfの変化量tと前記ロープを緊張状態まで巻き上げるまでの時間Tfから算出し、
前記測定結果をdL=Lf-V×Tfと、x2-dL2+p1×x+p2×dL+p3=0を用いて係数p1、p2、p3を算出し、算出された前記係数p1、p2、p3から前記dLが最小となる前記水平移動装置の位置xを前記吊荷位置xpとして算出することを特徴とするクレーン。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6の何れかひとつに記載のクレーンであって、
前記状態測定部は、
前記状態量と前記水平移動装置の位置xに基づいて、前記吊荷から前記水平移動装置までの高さHを同定することを特徴とするクレーン。
【請求項8】
請求項7に記載のクレーンであって、
前記状態量と前記水平移動装置の位置xに基づいて、前記吊荷から前記水平移動装置までの高さHを同定し、前記ロープの長さLrと前記高さHから吊り下げ部材の長さLwを同定することを特徴とするクレーン。
【請求項9】
請求項3に記載のクレーンであって、
前記状態量と前記水平移動装置の位置xに基づいて、吊り下げ部材の長さLwを同定することを特徴とするクレーン。
【請求項10】
モータを有して水平方向へ移動可能な水平移動装置と、前記水平移動装置に搭載されてロープを巻き上げ可能な巻上げモータを有する巻上装置と、前記ロープに取り付けられて吊荷を吊り下げるフックと、プロセッサとメモリを有して前記水平移動装置と前記巻上装置を制御する制御部と、を有するクレーンの制御方法であって、
前記制御部が、前記ロープに弛みのない緊張状態であるかを判定するロープ緊張状態判定ステップと、
前記制御部が、前記巻上装置を駆動して前記ロープを前記緊張状態まで巻き上げた場合の前記クレーンの状態量を測定する状態測定ステップと、
前記制御部が、前記水平移動装置を移動させる走行制御ステップと、を含み、
前記状態測定ステップは、
前記吊荷が着地している状態で、前記ロープが緊張状態となった水平移動装置の位置xと前記状態量の測定結果を用いて吊荷位置xpを同定し、
前記走行制御ステップは、
前記同定された吊荷位置へ前記水平移動装置を移動させて前記ロープを前記吊荷の真上に位置決めすることを特徴とするクレーンの制御方法。
【請求項11】
請求項10に記載のクレーンの制御方法であって、
前記状態量は、
前記ロープを緊張状態まで巻き上げた場合の前記水平移動装置から前記吊荷との距離Lであって、
前記状態測定ステップは、
移動方向の少なくとも2カ所で前記水平移動装置の位置xと前記水平移動装置から前記吊荷までの距離Lを前記水平移動装置に設けた第1のセンサで測定し、
前記測定結果をx2-L2+p1×x+p2=0を用いて前記係数p1、p2を算出し、算出された前記係数p1、p2から前記距離Lが最小となる前記水平移動装置の位置xを前記吊荷位置xpとして算出することを特徴とするクレーンの制御方法。
【請求項12】
請求項10に記載のクレーンの制御方法であって、
前記ロープは、
端部に前記フックが取り付けられて、前記フックは前記吊荷を吊り下げる吊り下げ部材が取り付けられ、
前記状態量は、
前記ロープを緊張状態まで巻き上げた場合の前記ロープの長さLrであり、
前記状態測定ステップは、
移動方向の少なくとも3カ所で前記水平移動装置の位置xと前記ロープの長さLrを前記水平移動装置に設けた第1のセンサで測定し、
前記測定結果をx2-Lr2+p1×x+p2×Lr+p3=0を用いて前記係数p1、p2、p3を算出し、算出された前記係数p1、p2、p3から前記ロープの長さLrが最小となる前記水平移動装置の位置xを前記吊荷位置xpとして算出することを特徴とするクレーンの制御方法。
【請求項13】
請求項10に記載のクレーンの制御方法であって、
前記状態量は、
前記ロープを緊張状態まで巻き上げた場合の前記水平移動装置に対する前記ロープの振れ角θであり、
前記状態測定ステップは、
移動方向の少なくとも2カ所で前記水平移動装置の位置xと前記ロープの振れ角θを前記水平移動装置に設けた第2のセンサで測定し、
前記測定結果をx+p1×tanθ+p2=0を用いて係数p1、p2を算出し、算出された前記係数p1、p2から前記振れ角θが最小となる前記水平移動装置の位置xを前記吊荷位置xpとして算出することを特徴とするクレーンの制御方法。
【請求項14】
請求項10に記載のクレーンの制御方法であって、
前記状態量は、
前記ロープを緊張状態まで巻き上げた場合の前記ロープの張力Tと、前記水平移動装置に対して水平方向に作用する力Fであり、
前記状態測定ステップは、
移動方向の少なくとも2カ所で前記水平移動装置の位置xと前記ロープの張力Tと前記水平方向に作用する力Fを前記水平移動装置に設けた第3のセンサで測定し、
前記測定結果から前記ロープの振れ角θをθ=arcsin(F/T)から算出し、x+p1×tanθ+p2=0を用いて係数p1、p2を算出し、算出された前記係数p1、p2から振れ角θが最小となる前記水平移動装置の位置xを前記吊荷位置xpとして算出することを特徴とするクレーンの制御方法。
【請求項15】
請求項10に記載のクレーンの制御方法であって、
前記状態量は、
前記水平移動装置が移動する前に前記ロープを繰り出した長さLfと前記ロープを緊張状態まで巻き上げるまでの時間Tfであり、
前記状態測定ステップは、
少なくとも3カ所で前記水平移動装置の位置xと前記ロープを繰り出した長さLfと前記ロープを緊張状態まで巻き上げるまでの時間Tfを測定し、前記ロープの巻き上げ速度Vを前記ロープを繰り出した長さLfの変化量tと前記ロープを緊張状態まで巻き上げるまでの時間Tfから算出し、
前記測定結果をdL=Lf-V×Tfと、x2-dL2+p1×x+p2×dL+p3=0を用いて係数p1、p2、p3を算出し、算出された前記係数p1、p2、p3から前記dLが最小となる前記水平移動装置の位置xを前記吊荷位置xpとして算出することを特徴とするクレーンの制御方法。
【請求項16】
請求項10ないし請求項15の何れかひとつに記載のクレーンの制御方法であって、
前記状態測定ステップは、
前記状態量と前記水平移動装置の位置xに基づいて、前記吊荷から前記水平移動装置までの高さHを同定することを特徴とするクレーンの制御方法。
【請求項17】
請求項16記載のクレーンの制御方法であって、
前記状態量と前記水平移動装置の位置xに基づいて、前記吊荷から前記水平移動装置までの高さHを同定し、前記ロープの長さLrと前記高さHから吊り下げ部材の長さLwを同定することを特徴とするクレーンの制御方法。
【請求項18】
請求項12に記載のクレーンの制御方法であって、
前記状態量と前記水平移動装置の位置xに基づいて、吊り下げ部材の長さLwを同定することを特徴とするクレーンの制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吊荷を吊り下げて搬送するクレーン及びレーンの制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、クレーンの熟練作業者の高齢化や、クレーン設置台数の増加による人手不足に伴い、経験の浅い未習熟作業者がクレーンを運転(操作)する場合が増加している。未習熟作業者は、特に吊荷の振れ(荷振れ)を抑制する振れ止め操作が不得手であり、荷振れによる衝突や挟まれなどの事故のリスクが高く、また、荷振れが収まるまで時間がかかり作業時間が長くなる。そこで、より安全で、かつ、作業効率を向上させるために、自動で荷振れを抑制する技術が求められている。
【0003】
ところで、吊荷が地面から離れる地切り時に吊荷とロープを介して吊荷を吊り下げている水平移動装置(トロリ)との間に水平方向の位置偏差があると、吊荷が地面から離れた瞬間に吊荷が振子運動を開始し荷振れ(初期振れ)が発生することがある。
【0004】
この初期振れを抑制する技術として、例えば、特許文献1の技術が開示されている。この特許文献1に記載されている先行技術では、地切り前に、ロープを弛みのない緊張状態まで巻き上げ、その時のロープ長を測定し、ロープ長がより短くなる方向へトロリを微小移動させ、これを繰り返すことでロープ長が最小となる位置偏差がない吊荷直上までトロリを移動させる。そして、ロープ長が最小かどうかの判定条件を、トロリの移動によるロープ長の変化量が所定の値まで小さくなる、もしくは、ロープ長の変化量が減少から増加に変化する、こととしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2019-119583号公報
【特許文献2】国際公開第2018/211739号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
先行技術では、ロープ長の変化量によりロープ長が最小かどうかを判定している。ところが、吊荷とトロリとの位置偏差が小さくなるとロープ長の変化量も小さくなるため、ロープ長が最小となる位置の検出精度に限界があり、位置偏差の低減に限界がある。
【0007】
また、巻き上げによるロープの緊張、ロープ長の測定、トロリの微小移動を繰り返し行うため、位置偏差が大きいとトロリの移動の繰り返し数が多くなり、吊荷の直上までトロリを移動させる時間(動作時間)が長くなる、という問題があった。
【0008】
本発明はこのような問題に鑑みてなされたものであり、地切り時の吊荷とトロリとの間の水平方向の位置偏差をより低減させて、地切り前のトロリの動作時間をより短縮し、地切りまでの時間を短縮することが可能なクレーン及びクレーンの制御方法を提供すること目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、モータを有して水平方向へ移動可能な水平移動装置と、前記水平移動装置に搭載されてロープを巻き上げ可能な巻上げモータを有する巻き上げ装置と、前記ロープに取り付けられて吊荷を吊り下げるフックと、プロセッサとメモリを有して前記水平移動装置と前記巻上装置を制御する制御部と、を有するクレーンであって、前記制御部は、前記ロープに弛みのない緊張状態であるかを判定するロープ緊張状態判定部と、前記巻上装置を駆動して前記ロープを前記緊張状態まで巻き上げた場合の前記クレーンの状態量を測定する状態測定部と、前記水平移動装置を移動させる走行制御部と、を有し、前記状態測定部は、前記吊荷が着地している状態で、前記ロープが緊張状態となった水平移動装置の位置と前記状態量の測定結果を用いて前記吊荷位置を同定し、前記走行制御部は、前記同定された吊荷位置へ前記水平移動装置を移動させて前記ロープを前記吊荷の真上に位置決めする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、地切り時の吊荷とトロリとの間の水平方向の位置偏差をより低減させて、地切り前のトロリの動作時間をより短縮し、地切りまでの時間を短縮することが可能となる。
【0011】
本明細書において開示される主題の、少なくとも一つの実施の詳細は、添付されている図面と以下の記述の中で述べられる。開示される主題のその他の特徴、態様、効果は、以下の開示、図面、請求項により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施例1を示し、マルチコアプロセッサを用いて並列処理を行う計算機の一例を示すブロック図である。
【
図2】本発明の実施例1を示し、クレーンの制御装置の構成を示すブロック図である。
【
図3A】本発明の実施例1を示し、地切り時のクレーンの動きを説明する図である。
【
図3B】本発明の実施例1を示し、地切り時のクレーンの動きを説明する図である。
【
図4】従来例の処理の一例を示すフローチャートである。
【
図5】従来例の処理の一例を示すクレーンの動きを示す図である。
【
図6】本発明の実施例1を示し、トロリと吊荷の位置とロープ長の関係を説明する図である。
【
図7】本発明の実施例1を示し、位置偏差とロープ長との関係を示すグラフである。
【
図8】本発明の実施例1を示し、本発明の原理を説明するトロリ位置とロープ長の関係を示すグラフである。
【
図9】本発明の実施例1を示し、クレーンの動きを示す図である。
【
図10】本発明の実施例1を示し、処理の一例を示すフローチャートである。
【
図11】本発明の実施例1を示し、ロープ長が最小となる位置を同定する処理の詳細なフローチャートである。
【
図12】本発明の実施例3を示し、ロープ振れ角を用いて吊荷位置を同定する制御の一例を説明する図である。
【
図13】本発明の実施例3を示し、ロープの繰り出し量と緊張状態までの巻上時間を用いて吊荷位置を同定する制御の一例を示す図である。
【
図14】本発明の実施例3、4、5のクレーンの制御装置の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されることなく、本発明の技術的な概念の中で種々の変形例や応用例をもその範囲に含むものである。
【実施例0014】
<クレーンの構成、動作の説明>
本発明の実施例1のクレーン1の構成と、その動作について説明する。なお、各図面において、同一機器(装置、部品)には同一の符号を付し、後の説明では既出の機器の説明は省略する場合がある。
【0015】
図1は天井クレーンの概略の構成を示している。クレーン1は、工場等の建屋(図示せず)の両側の壁に沿って設けられたランウェイ2と、このランウェイ2の上面を移動するガーダ3と、ガーダ3の下面に沿って移動するトロリ4から構成される。
【0016】
ガーダ3とトロリ4には電動モータ(図示省略)で駆動される車輪(図示省略)が設けられており、この車輪によってガーダ3とトロリ4は移動可能である。ガーダ3は、ランウェイ2に沿って走行し、トロリ4は、ガーダ3の下面でランウェイ2、2の間を横行(水平方向:図中左右方向)する。
【0017】
また、トロリ4には巻上装置(ホイスト)5が設けられている。巻上装置5には電動モータで駆動されるドラム(図示省略)が設けられ、このドラムを回転させてロープ6を巻き上げ、又は、巻き下げることにより、ロープ6の先端のフック7を昇降させる。
【0018】
このフック7に直接又はワイヤー8を介して吊荷9を吊り下げており、フック7の昇降に伴い、吊荷9が昇降する。クレーン1は、ガーダ3の水平方向の移動(走行)とトロリ4の水平方向の移動(横行)により吊荷9を水平方向に移動させ、巻上装置5により吊荷9を垂直方向(上下方向)に昇降させることができる。
【0019】
なお、フック7に吊荷9を吊り下げる部材はワイヤー8に限定されるものではなく、チェーンやロープなどの吊り下げ部材を用いることができる。
【0020】
図1ではトロリ4とガーダ3が「水平移動装置」に該当するが、トロリ4、或いは、ガーダ3の少なくとも一方を「水平移動装置」とすることもできる。或いは、ガーダ3に沿って移動するトロリ4を第1の水平移動装置とし、ランウェイ2に沿って移動するガーダ3を第2の水平移動装置としてもよい。
【0021】
また、巻上装置5にはドラムの回転角を検出するためのエンコーダ5a(
図2参照)が設けられており、ドラムから繰り出されたロープ6の長さ(ロープ長)を測定できる。
【0022】
<制御装置の説明>
図2は本実施形態におけるクレーン1の制御装置の構成を示している。なお、
図2では説明を簡単にするために、トロリ4による横行と巻上装置5による昇降の制御を示しており、ガーダ3による走行は省略している。
【0023】
また、電動モータ等の駆動部は省略している。クレーン1の制御装置100は、演算制御部と、トロリ4の電動モータ(横行モータ)を制御する横行モータ制御装置300と、巻上装置5の電動モータ(巻上モータ)を制御する巻上モータ制御装置310と、操作入力装置200及び、表示装置210を有する。なお、図示はしないが、制御装置100は、ガーダ3をランウェイ2に沿って駆動する電動モータ(走行モータ)を制御する走行モータ制御装置を含む。
【0024】
制御装置100は、操作入力装置200からの入力される操作入力や、エンコーダ5a(第1のセンサ)などのセンサからの取得情報に基づき、トロリ4や巻上装置5などへの速度指令値の演算及び出力、表示装置210への情報の出力を行う。
【0025】
制御装置100の演算制御部は、汎用の計算機を使用したものが主流であり、内蔵しているプログラムやデータ等を用いて制御や演算処理を実行するマイクロプロセッシングユニット(MPU: Micro-Processing Unit)101、プログラムやデータ等を記憶するメモリ102と、外部からのデータや、信号の入力や、MPU101が演算処理した信号等を外部に出力するための入出力制御部103から構成される。MPU101、メモリ102、入出力制御部103は、信号やデータの授受を行うためのバスライン104で接続されている。
【0026】
操作入力装置200は、クレーン1の操作者等が操作する操作端末装置201が接続されており、操作端末装置201には吊荷の移動方向である前方、後方、右方、左方、上方、下方の各方向に対応した操作ボタン202が設けられている。
【0027】
表示装置210はクレーン1の状態などの情報を表示する。操作端末装置201は制御装置100とは有線で接続されても、無線で接続されていてもよい。また、表示装置210は操作端末装置201と同一の筐体に搭載してもよい。
【0028】
横行モータ制御装置300と巻上モータ制御装置310は、制御装置100から出力される速度指令値に基づきトロリ4と巻上装置5の電動モータを制御する。横行モータ制御装置300と巻上モータ制御装置310の具体的な構成は図示していないが、制御装置100と同様に汎用の計算機、及びインバータ回路等により構成できる。また、横行モータ制御装置300と巻上モータ制御装置310は、制御装置100と同一の筐体に搭載してもよい。
【0029】
なお、
図2では省略しているが、制御装置100は、トロリ4、巻上装置5だけでなく、ガーダ3の速度指令値も出力する。ガーダ3側は、この速度指令値に基づき図示していない電動モータ(走行モータ)制御装置により電動モータを制御する。
【0030】
メモリ102には、ロープ緊張状態判定部21と、状態測定部22と、巻き上げ制御部23と、走行制御部24がプログラムとしてロードされてMPU101によって実行される。
【0031】
MPU101は、各機能部のプログラムに従って処理を実行することによって、所定の機能を提供する機能部として稼働する。例えば、MPU101は、ロープ緊張状態判定プログラムに従って処理を実行することでロープ緊張状態判定部21として機能する。他のプログラムについても同様である。さらに、MPU101は、各プログラムが実行する複数の処理のそれぞれの機能を提供する機能部としても稼働する。計算機及び計算機システムは、これらの機能部を含む装置及びシステムである。
【0032】
ロープ緊張状態判定部21は、巻上装置5の電動モータの電流値などにもと付いて、ロープ6が弛みのない緊張状態か否かを判定する。状態測定部22は、後述するように、吊荷が着地している状態で、ロープ6を緊張状態まで巻き上げてロープ長とトロリ4及びガーダ3の位置等の状態量を測定し、状態量から吊荷位置を推定し、トロリ4及びガーダ3を吊荷位置へ移動させてロープ6を吊荷9の直上へ移動させて位置決めを行う。
【0033】
走行制御部24は操作端末装置201からの指令値や、状態測定部22からの吊荷位置を受け付けて、横行モータ制御装置300でトロリ4を駆動し、図示しない走行モータ制御装置でガーダ3を駆動して水平方向の移動を行う。
【0034】
巻き上げ制御部23は、操作端末装置201からの指令値や、状態測定部22からの指令値に応じて巻上モータ制御装置310に指令値を出力する。
【0035】
<地切り動作>
ところで、吊荷9が地面(又は床面)から離れる地切り時に荷振れ(初期振れ)が発生することがある。
図3A、
図3Bは地切り時のクレーン1の動きを示している。
図3Aのように地面に置かれた吊荷9とトロリ4との間に水平方向の位置偏差Dがあると、
図3Bのようにロープ6を巻き上げて吊荷9が地面から離れた後に、吊荷9は振幅D、角周波数(g/L)
1/2(L:トロリ4から吊荷9までの距離、g;重力加速度)の振子運動を始める。これが初期振れである。
【0036】
<先行技術の説明と課題>
この初期振れを抑制するためには、地切り時の吊荷9のトロリ4との水平方向の位置偏差を低減すればよく、地切り前に吊荷9の直上へトロリ4を移動させればよい。これを実現する技術として前記特許文献1に開示されている先行技術が知られている。
【0037】
この先行技術では、地切り前に、ロープを弛みのない緊張状態まで巻き上げ、その時のロープ長を測定し、ロープ長がより短くなる方向へトロリを微小移動させ、これを繰り返すことでロープ長が最小となる位置偏差がない吊荷の直上までトロリを移動させる。
【0038】
そして、ロープ長が最小かどうかの判定条件を、トロリの移動によるロープ長の変化量が所定の値まで小さくなる、もしくは、ロープ長の変化量が減少から増加に変化する、こととしている。
【0039】
図4は先行技術の制御の一例を示すフローチャートを示す。この詳細は以下の通りである。なお、以下では、制御装置がトロリと巻上装置で吊荷を移動する制御の一例を示す。
【0040】
まず、制御装置は、巻き上げ操作を不許可にする(S101)。次に、制御装置は巻上装置に指令してロープを弛みのない緊張状態まで巻き上げる(S102)。制御装置は、巻上装置に設置したエンコーダ等から状態量Ψとしてロープ長を検出する(S103)。
【0041】
ステップS104では、制御装置が状態量Ψに基づいて終了判定を行う。終了条件は、ロープ長の変化量が所定の値より小さくなる、もしくは、ロープ長が減少から増加へ変化する、とする。終了条件を満たさない場合はステップS105へ進み、満たした場合はステップS107へ進む。
【0042】
ステップS105では制御装置は、トロリの移動方向を判定して、ロープ長がより短くなる方向をトロリの搬送(横行)方向とする。ステップS106では、上記ステップS105で制御装置が決定した方向へ所定の移動距離だけトロリを搬送する。搬送が完了した後はステップS102へ戻って上記処理を繰り返す。
【0043】
一方、ステップS107では、制御装置が終了条件を満足して吊荷の真上にトロリを移動できたかを判定して、作業者に巻き上げ操作を許可する。
【0044】
また、
図5は先行技術でのクレーン1の動作を示している。先行技術では、巻き上げによるロープ6の緊張、ロープ長の測定、トロリ4の微小移動を繰り返し、トロリ4を吊荷9の直上へ漸近的に移動させる。
【0045】
この先行技術では以下の2つの課題がある。1つは、ロープ長の検出精度による位置偏差低減の限界である。
図6はトロリ4と吊荷9との位置とロープ長との関係を示している。トロリ4と吊荷9との水平方向の位置偏差をD、吊荷9からトロリ4までの高さをHとすると、トロリ4から吊荷9までの距離、すなわち、ワイヤー8を含めたロープ6の長さLは次の(1)式のようになる。
【0046】
【0047】
図7は、式(1)から得られる位置偏差Dとロープ長Lとの関係を示すグラフである。この
図7より、位置偏差Dが小さくなるとロープ長Lの変化量は小さくなり、ロープ長Lの変化を検出するのに必要となるトロリ4の移動距離は長くなることが分かる。ロープ長Lはエンコーダ5aにより検出できるが、エンコーダ5aによるロープ長Lの検出分解能をΔLとすると、位置偏差Dの最小値Dminは次の(2)式のようになる。
【0048】
【0049】
以上のように、位置偏差Dの最小値Dminはエンコーダ5aの検出分解能により決定され、位置偏差Dの低減には限界がある。
【0050】
また、もう1つの課題は、位置偏差Dが大きくなると、トロリ4が吊荷9の直上までに移動するまでの動作時間が長くなることである。
図4に示されるように、先行技術では、巻き上げによるロープの緊張、ロープ長の測定、トロリ4の微小移動を繰り返す。このため、位置偏差Dが大きいと、その繰り返しの回数が多くなり、動作時間が長くなる、という問題があった。
【0051】
<本発明の概要及び原理>
本発明では、上記の課題を次のように解決する。
図8は本発明の原理を示すロープ長Lとトロリ位置xの関係を示すグラフである。また、
図9は本発明におけるクレーン1の動作を示す図である。トロリ4の横行方向のトロリ位置x(i)と、トロリ位置xでの緊張状態のトロリ4と吊荷9との距離(ワイヤー8を含めたロープ長)L(i)は次の(3)式のような関係になる。ただし、iはロープ長Lの測定回数を示す自然数である。
【0052】
【0053】
図8において、吊荷位置xpは横行(ガーダ3)方向にトロリ4を移動させた場合にロープ長Lが最小となるトロリ位置であり、吊荷9の横行方向の位置(吊荷位置)xpである。この(3)式の両辺を二乗すると、次の(4)式を得る。
【0054】
【0055】
ここで、吊荷9からトロリ4(又は巻上装置5)までの高さHと、吊荷位置xpを含む係数をp1、p2とすると、上記(4)式は次の(5)式のようになる。
【0056】
【0057】
このようにロープ長L(i)の二乗値はトロリ位置x(i)の2次関数で表せることができる。そこで、横行方向にトロリ4を移動させ、少なくとも2カ所のトロリ位置x(i)と緊張状態のロープ長L(i)を状態量として測定し、得られたトロリ位置x(i)とロープ長L(i)を最小二乗法などの周知又は公知の手法により上記(5)式にフィッティングして係数p1、p2を算出する。なお、本実施例のフィッティングは、曲線あてはめ又はカーブフィッティングを用い、測定されたデータに最もよく当てはまるような曲線(上記(5)式)を求める。
【0058】
そして、算出された係数p1、p2より、制御装置100は吊荷9の横行方向のトロリ4の吊荷位置xpは次の(6)式により算出することができる。
【0059】
【0060】
同様に、ガーダ3の走行方向に少なくとも2カ所のガーダ位置y(i)とロープ長L(i)を測定することで、ガーダ3の走行方向でトロリ4からのロープ長Lが最小となる吊荷9の走行方向の吊荷位置ypを上記吊荷位置xpと同様にして算出することができる。
【0061】
このように得られた吊荷位置(xp、yp)へトロリ4を横行方向と走行方向に移動させることで、吊荷9とトロリ4との水平方向の位置偏差Dを低減することができ、初期振れを抑制することができる。
【0062】
以上のように、本発明では上記(5)式に示す2次曲線にロープ長L(i)とトロリ位置x(i)をフィッティングさせることで、先行技術のようにエンコーダの検出分解能により決定される精度に比べ、より高精度に吊荷9の真上の位置を決定することができ、位置偏差Dをより低減することが可能である。
【0063】
また、本発明では、巻き上げによるロープ6の緊張、ロープ長Lの測定、トロリ4の移動を、横行及び走行方向について少なくとも2回行えばよく、先行技術に比べ繰り返し数を少なくすることができ、動作時間を短くすることが可能となる。
【0064】
<本発明の制御>
図10は本発明の制御装置100で行われる処理の一例を示すフローチャートである。この処理は操作者の指令に基づいて開始される。この詳細は以下の通りである。
【0065】
ステップS201で、制御装置100は、本発明の地切り前のトロリ移動を行う初期位置調整モードへ動作モードを切り替える。動作モードの切り替えは、例えば、操作入力装置200に動作モード切り替えスイッチを設け、操作者がそれを操作するようにすればよい。
【0066】
また、動作モードが周囲に分かるように、例えば、表示装置210に動作モードを表示させる、又は、クレーン1に動作モードを示すランプを設けるようにしてもよい。
【0067】
ステップS202では、制御装置100はトロリ4を移動して、横行方向の吊荷位置xpを同定する。この制御の詳細は後に示す。そして、ステップS203では、制御装置100がガーダ3をランウェイ2方向に移動して、ガーダ3の走行方向での吊荷位置ypを同定する。
【0068】
そして、ステップS204では、上記同定された吊荷位置(xp、yp)へトロリ及びガーダ3を移動させる。これにより、トロリ4から垂下されたロープ6は吊荷9の真上に位置決めされる。
【0069】
ステップS205では、制御装置100が操作端末装置201に設けられた操作ボタン202が押された方向へ吊荷9を移動させる通常操作モードへ切り替える。この切り替えは、例えば操作端末装置201に動作モードの切り替えスイッチを操作するなど明示的な操作で切り替えるだけではなく、吊荷位置(xp、yp)へトロリ4が到達したら自動で切り替えるようにしてもよい。
【0070】
なお、安全性を確保するため、上記ステップS202、S203、S204において、操作端末装置201に設けられた操作ボタン202が押されている間だけトロリが移動するようにしてもよい。
【0071】
図11は
図10のステップS202で行われる吊荷位置xpの同定処理の詳細を示すフローチャートである。この詳細は以下の通りである。なお、上記ステップS203の詳細は以下の説明の横行方向を走行方向に置き換えたものになる。
【0072】
ステップS301では、制御装置100は、トロリ4の初期のトロリ位置x(1)でロープ6が緊張するまでロープ6を巻き上げ、ロープ6が緊張状態となった時のロープ長L(1)をエンコーダ5aの検出値から測定する。
【0073】
ロープ6が緊張したかどうかは、例えば、巻き上げモータの電流値が閾値を超えたかどうか、又は、ロープ6に張力センサを取り付け、その張力が閾値を超えたかどうか、など周知又は公知の技術で判定するようにすればよい。
【0074】
ステップS302では、制御装置100が、トロリ4をトロリ位置x(1)から所定の距離dxだけ離れたトロリ位置x(2)へ移動させ、その位置でロープ6が緊張するまでロープ6を巻き上げて、ロープ長L(2)をエンコーダ5aから測定する。トロリ4の水平位置は、例えばトロリ4の移動時間から算出したり、トロリ4にレーザー距離センサを取り付けて測定すればよい。
【0075】
なお、制御装置100は、上記ステップS301、S302の処理をガーダ3の走行方向でも同様に実施して、ガーダ3をガーダ位置y(1)から所定の距離dyだけ離れたガーダ位置y(2)へ移動させ、その位置でロープ6が緊張するまでロープ6を巻き上げて、ロープ長L(2)をエンコーダ5aから測定する。
【0076】
ステップS303では、制御装置100が上記ステップS301、S302で測定されたトロリ位置(x(1)、L(1))、トロリ位置(x(2)、L(2))を最小二乗法などの周知又は公知の手法により上記(5)式にフィッティングし、トロリ4の横行方向における係数p1、p2を同定する。
【0077】
また、制御装置100は、上記と同様の手法でガーダ3の走行方向におけるガーダ位置(y(1)、L(1))、ガーダ位置(y(2)、L(2))を最小二乗法などの周知又は公知の手法により上記(5)式にフィッティングし、ガーダ3の走行方向における係数p1、p2を同定する。
【0078】
ステップS304では、制御装置100が、トロリ4の横行方向における係数を図中p1xとして、上記(6)式によりロープ長L(状態量)が最小となる横行方向の吊荷位置xpを決定する。また、制御装置100は、ガーダ3の走行方向における係数を図中p1yとして、上記(6)式によりロープ長Lが最小となる走行方向の吊荷位置ypを決定する。
【0079】
なお、上記ステップS302において、ロープ6が緊張した状態でトロリ4を移動させると吊荷9が引きずられる恐れがある。そこで、トロリ4を移動させる前にロープ6を繰り出してからトロリ4の移動を開始させる。なお、ガーダ3の走行方向でも同様である。
【0080】
この例では、横行方向にトロリを移動させ、2カ所のトロリ位置とロープ長を測定しているが、吊荷位置xpの検出精度を高めるために測定する位置を増やしてもよい。
【0081】
以上のように、トロリ位置x(1)、x(2)と緊張状態のロープ長L(1)、L(2)を
図8に示した2次曲線にフィッティングさせることで、より高精度に吊荷9の位置を決定することができ、位置偏差をより低減することが可能である。
【0082】
また、本実施例では、トロリ4の巻き上げによるロープ6の緊張、ロープ長Lの測定、トロリ4(又はガーダ3)の移動を、横行及び走行方向に少なくとも2回行えばよく繰り返し数を少なくすることができることから、地切り前のトロリ4の動作時間をより短縮し、地切りまでの時間を短くすることが可能となる。
【0083】
<変形例1>
ところで、上記(4)式と(5)式の定数項を見ると、高さHは次の(7)式により算出される。
【0084】
【0085】
この高さHからトロリ4が吊荷9の直上での緊張状態でのトロリ4からフック7までのロープ長Lr(x=xp)を減じると、フック7から吊荷9までのワイヤー8の長さLwが次の(8)式のように算出される。
【0086】
【0087】
以上のようにすれば、ワイヤー8の長さ(以下、ワイヤー長さ)Lwを自動で取得することが可能となり、エンコーダ5aにより検知されるトロリ4からフック7までのロープ6の長さLrにワイヤー長さLwを加えれば、トロリ4から吊荷9までの距離Lを自動で取得できるようになる。なお、この距離Lは、上述のトロリ4から吊荷9までのロープ長Lと同一である。
【0088】
この距離Lは吊荷9の搬送時に発生する荷振れの抑制制御に必要なパラメータである。搬送時の荷振れはトロリ4の加減速により吊荷9に慣性力が作用し、角周波数ωrは、
【0089】
【0090】
の振れが励起することで発生する。この荷振れを抑制するには、例えば、国際公開第2018/211739号(以下、公知例)に示されているようなトロリ4の速度指令値から角周波数ωrの周波数成分を除去する荷振れ抑制制御を行えばよい。
【0091】
しかし、上記公知例はワイヤー長さLwを予め設定、もしくは、記録された値を読み出すものであり、使用するワイヤー8に応じてワイヤー長さLwを自動で取得する方法は開示されていない。以上のようにすれば、ワイヤー長さLwを自動で取得できるようになり、搬送時の荷振れの抑制性能を向上させることが可能となる。
【0092】
<変形例1の効果>
また、以上のようにすれば、吊荷9からトロリ4までの高さHも自動で取得することが可能となる。これにより、巻下げ時の下限リミットを自動で設定することが可能となり、巻下げ過ぎによる不用意な吊荷と地面との衝突やワイヤーが弛みフックから外れることを防止することができ、クレーン1の安全性を向上できる。
次に、本発明の実施例2のクレーン1を説明する。なお、上述の実施例との共通点についての重複説明は省略する。なお、クレーン1及び制御装置100の構成は前記実施例1と同様である。
巻上装置5に搭載されたエンコーダによりトロリ4からフック7までの距離、すなわち、ロープ6の長さを検出できるが、フック7から吊荷9までの距離、すなわち、ワイヤー8の長さを直接検出する装置は通常搭載されていない。そこで、本実施例ではワイヤー8の長さも未知数として、吊荷位置xp(yp)を同定する。
ロープ長をLr(i)、ワイヤー長をLw、トロリ4の位置をx(i)、吊荷の位置をxp、吊荷9からトロリ4までの高さをHとすると、これらは次の(9)式のような関係になる。
そこで、横行方向にトロリ4を移動させ、少なくとも3カ所のトロリ位置x(i)と緊張状態のロープ長Lr(i)を測定し、得られたトロリ位置x(i)とロープ長Lr(i)を最小二乗法などにより上記(11)式にフィッティングして係数p1、p2、p3を算出する。そして、算出された係数より吊荷9の横行方向の吊荷位置xpは次の(12)式により算出することができる。
同様に、走行方向にも少なくとも3カ所のガーダ位置y(i)とロープ長Lr(i)を測定することで、走行方向にガーダ3を移動させた時にロープ長Lrが最小となる吊荷9の走行方向の吊荷位置ypを算出することができる。
このように得られた吊荷位置(xp、yp)へトロリ4及びガーダ3を移動させることで、吊荷9とトロリ4及びガーダ3との水平方向の位置偏差をなくすことができ、初期振れを抑制することができる。
算出された高さHとトロリ4が吊荷9の直上での緊張状態でのトロリ4からフック7までのロープ長Lr(x=xp)とから上記(8)式によりワイヤー長さLwを算出することもできる。
以上のようにすれば、ワイヤー長さLwを自動で取得することが可能となり、搬送時の荷振れ抑制制御の性能を向上させることが可能となる。また、高さHも自動で取得することが可能となり、巻下げ時の下限リミットを自動で設定することでクレーン1の安全性を向上できる。