(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022152572
(43)【公開日】2022-10-12
(54)【発明の名称】3-ヒドロキシ酪酸がエステル結合したグリセロール誘導体及びそれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 69/675 20060101AFI20221004BHJP
C12P 7/62 20220101ALI20221004BHJP
C07C 67/02 20060101ALI20221004BHJP
【FI】
C07C69/675 CSP
C12P7/62
C07C67/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021055391
(22)【出願日】2021-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000000284
【氏名又は名称】大阪瓦斯株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】特許業務法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】盤若 明日香
(72)【発明者】
【氏名】坪田 潤
(72)【発明者】
【氏名】小川 順
(72)【発明者】
【氏名】岸野 重信
【テーマコード(参考)】
4B064
4H006
【Fターム(参考)】
4B064AD64
4B064CA21
4B064CD07
4B064DA10
4H006AA01
4H006AA02
4H006AC48
4H006BA91
4H006BB12
4H006BN10
4H006KA02
4H006KC12
(57)【要約】 (修正有)
【課題】3-ヒドロキシ酪酸やその塩の持つ性質を利用する際に用い得る、3-ヒドロキシ酪酸がエステル結合した新規なグリセロール誘導体を提供する。
【解決手段】下記式(1)で表される、3-ヒドロキシ酪酸がエステル結合したグリセロール誘導体。
(式(1)において、R1、R2及びR3のうち、少なくとも1つが下記式(A)で表される基、残りが脂肪酸から誘導されるアシル基あるいは水素原子である)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される、3-ヒドロキシ酪酸がエステル結合したグリセロール誘導体。
【化1】
(式(1)において、R1、R2及びR3のうち、少なくとも1つが下記式(A)で表される基であり、残りが飽和又は不飽和の脂肪酸から誘導される同一または相異なったアシル基あるいは水素原子である)
【化2】
(式(A)において、*は結合位置を表す)
【請求項2】
R1、R2及びR3のうちの1つが式(A)で表される基であり、残りが飽和又は不飽和の脂肪酸から誘導される同一又は相異なったアシル基あるいは水素原子である請求項1に記載の、3-ヒドロキシ酪酸がエステル結合したグリセロール誘導体。
【請求項3】
R1、R2及びR3のうちの1つが式(A)で表される基であり、残りが飽和又は不飽和の脂肪酸から誘導される同一又は相異なったアシル基である請求項2に記載の、3-ヒドロキシ酪酸がエステル結合したグリセロール誘導体。
【請求項4】
前記アシル基は、炭素数6~22の脂肪酸から誘導される基である請求項1~3のいずれか一項に記載の、3-ヒドロキシ酪酸がエステル結合したグリセロール誘導体。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の、3-ヒドロキシ酪酸がエステル結合したグリセロール誘導体を製造する方法であって、
下記式(2)で表されるトリグリセリドと3-ヒドロキシ酪酸又は下記式(3)で表される3-ヒドロキシ酪酸エステルとを原料として、エステル交換反応を行う反応工程を含む、3-ヒドロキシ酪酸がエステル結合したグリセロール誘導体の製造方法。
【化3】
(式(2)において、R4~R6は飽和又は不飽和の脂肪酸から誘導される同一又は異なるアシル基である)
【化4】
(式(3)において、R7は飽和又は不飽和の脂肪族炭化水素基である)
【請求項6】
前記反応工程は、リパーゼを用いたエステル交換反応を行う工程である請求項5に記載の、3-ヒドロキシ酪酸がエステル結合したグリセロール誘導体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3-ヒドロキシ酪酸がエステル結合したグリセロール誘導体及びそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
3-ヒドロキシ酪酸やその塩(以下、「3HB」ともいう)は、もともと人の体内に存在する物質であるため生体親和性が高く、糖質に代わる画期的なエネルギー源として期待されている。また、3HBは、単なるエネルギー源という役割だけでなく、様々な遺伝子の発現やタンパク質の活性に影響するシグナル伝達物質としての作用があることがわかってきた。3HBは、例えば、遺伝子発現調節作用によって、ヒストン脱アセチル化酵素を阻害することによって認知機能や、長期持続記憶を改善することが知られ、アルツハイマーの予防に有効性が確認されている。また、ココナッツオイルに多く含まれる中鎖脂肪酸の摂取及び体内での代謝により生産される3HBが、脳や体内において糖質をうまく利用できないアルツハイマー病や糖尿病の患者の症状を改善させる効果を持つことが知られている。更に、3HBは、体内において糖質より速やかにエネルギーに変換されること、細胞への脂肪や糖の吸収を抑制する効果を有することから、アスリート向けのエネルギー物質や、ダイエット・健康食品分野などへの応用も盛んに行われている。
【0003】
例えば、特許文献1には、血中ケトン値を迅速に上昇させて維持し、中鎖脂肪酸やそのエステルと、3-ヒドロキシ酪酸塩や3-ヒドロキシ酪酸前駆物質などの3-ヒドロキシ酪酸化合物とを含む組成物を摂取し、生体内におけるケトーシスを誘発して維持する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、3HBは、酸性であるという性質や脂溶性が低いという性質を有している。3HBは、様々な分野への応用が期待される有用な化合物であるが、応用する際に上記のような性質が障害となる場合がある。
【0006】
例えば、3HBは、酸性であるため人が経口摂取するには抵抗が大きく、そのまま大量に摂取することは困難である。また、酸性度を低減すべく、金属塩として摂取することも考えられるが、この場合、金属成分の過剰摂取が懸念される。特に、ナトリウム塩として摂取した場合には、ナトリウムの取りすぎとなり、高血圧症や肝臓疾患等が引き起こされる虞がある。
【0007】
このように、3HBは、単体や金属塩の形態で用いることが難しい場合も多い。そのため、3HBの持つ性質を利用する際に用い得る3-ヒドロキシ酪酸含有化合物の開発が求められている。
【0008】
本発明は以上の実情に鑑みなされたものであり、3HBの持つ性質を利用する際に用い得る新規な3-ヒドロキシ酪酸がエステル結合したグリセロール誘導体及びそれらの製造方法の提供を、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、トリグリセリドと3-ヒドロキシ酪酸エステルを原料とするエステル交換反応によって、3-ヒドロキシ酪酸がエステル結合した新規なグリセロール誘導体が得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
即ち、本発明の3-ヒドロキシ酪酸がエステル結合したグリセロール誘導体の特徴構成は、
下記式(1)で表される点にある。
【化1】
(式(1)において、R1、R2及びR3のうち、少なくとも1つが下記式(A)で表される基であり、残りが飽和又は不飽和の脂肪酸から誘導される同一又は相異なったアシル基あるいは水素原子である)
【化2】
(式(A)において、*は結合位置を表す)
【0011】
尚、本発明に係る3-ヒドロキシ酪酸がエステル結合したグリセロール誘導体は、R1、R2及びR3のうちの1つが式(A)で表される基であり、残りが飽和又は不飽和の脂肪酸から誘導される同一又は相異なったアシル基あるいは水素原子であることが好ましい。
更には、R1、R2及びR3のうちの1つが式(A)で表される基であり、残りが飽和又は不飽和の脂肪酸から誘導される同一又は相異なったアシル基である、3-ヒドロキシ酪酸がエステル結合したグリセロール誘導体であることがより好ましい。
【0012】
更に、本発明に係る3-ヒドロキシ酪酸がエステル結合したグリセロール誘導体は、アシル基が、炭素数6~22の脂肪酸から誘導される基であることが好ましい。
【0013】
本発明に係る3-ヒドロキシ酪酸がエステル結合したグリセロール誘導体は、3HBの持つ性質を利用する際に用いることができる。この3-ヒドロキシ酪酸がエステル結合したグリセロール誘導体は、3HB単体と比較して、脂溶性が高く、酸性度が低いという性質を有している。したがって、高脂溶性が要求される場面や低酸性度が要求される場面において3HBの持つ性質を利用する際に、特に有用である。
【0014】
また、本発明に係る3-ヒドロキシ酪酸がエステル結合したグリセロール誘導体の製造方法の特徴構成は、
上記3-ヒドロキシ酪酸がエステル結合したグリセロール誘導体を製造する方法であって、
下記式(2)で表されるトリグリセリドと3-ヒドロキシ酪酸又は下記式(3)で表される3-ヒドロキシ酪酸エステルとを原料として、エステル交換反応を行う反応工程を含む点にある。
【化3】
(式(2)において、R4~R6は飽和又は不飽和の脂肪酸から誘導される同一又は異なるアシル基である)
【化4】
(式(3)において、R7は飽和又は不飽和の脂肪族炭化水素基である)
【0015】
また、本発明に係る3-ヒドロキシ酪酸がエステル結合したグリセロール誘導体の製造方法においては、反応工程が、リパーゼを用いたエステル交換反応を行う工程であってもよい。
【0016】
本発明に係る3-ヒドロキシ酪酸がエステル結合したグリセロール誘導体の製造方法によれば、3-ヒドロキシ酪酸がエステル結合した新規なグリセロール誘導体を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】実施例におけるGC分析の結果を示す図である。
【
図2】
1H NMRスペクトル解析の結果を示す図である。
【
図3】トリカプリリンの
1H NMRスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る、3-ヒドロキシ酪酸がエステル結合したグリセロール誘導体及びそれらの製造方法について説明する。尚、以下に好適な実施例を記すが、これら実施例はそれぞれ、本発明をより具体的に例示するために記載されたものであって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々変更が可能であり、本発明は、以下の記載に限定されるものではない。
【0019】
〔3-ヒドロキシ酪酸がエステル結合したグリセロール誘導体〕
上記式(1)で表される3-ヒドロキシ酪酸がエステル結合したグリセロール誘導体は、R1、R2及びR3のうち、少なくとも1つが式(A)で表される基であり、残りが飽和又は不飽和の脂肪酸から誘導される同一又は相異なったアシル基あるいは水素原子である化合物であり、より好ましくは、R1、R2及びR3のうち、少なくとも1つが式(A)で表される基であり、残りが飽和又は不飽和の脂肪酸から誘導される同一又は相異なったアシル基である化合物である。つまり、3-ヒドロキシ酪酸がエステル結合したグリセロール誘導体は、グリセリン1分子に3-ヒドロキシ酪酸がエステル結合した化合物であり、より好ましくはグリセリン1分子に3-ヒドロキシ酪酸と脂肪酸とがエステル結合した化合物である。
【0020】
式(1)において、R1~R3のうち、1つが式(A)で表される基である場合、残り2つが脂肪酸から誘導されるアシル基あるいは水素原子であることが好ましく、残り2つが脂肪酸から誘導されるアシル基であることがより好ましい。これら2つのアシル基は同一であっても異なっていてもよい。
【0021】
尚、式(1)において、脂肪酸から誘導されるアシル基は、直鎖状又は分岐鎖状のいずれでもあってもよく、更に、飽和脂肪酸から誘導されるアシル基であってもよいし、不飽和脂肪酸から誘導されるアシル基であってもよいが、炭素数6~22の脂肪酸から誘導される基であることが好ましく、炭素数8~10の飽和脂肪酸から誘導される基であることがより好ましく、特に炭素数8の飽和脂肪酸から誘導されるアシル基が好ましい。具体的に、脂肪酸から誘導されるアシル基としては、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸などから誘導されるものが挙げられる。これらの中でも、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ラウリン酸から誘導されるものが好ましく、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸から誘導されるものがより好ましく、特にカプリル酸から誘導されるものがよい。
【0022】
本発明の3-ヒドロキシ酪酸がエステル結合したグリセロール誘導体においては、3HBのカルボキシ基がエステル化されているため、3HB単体と比較して酸性度が低減されている。更に、この3-ヒドロキシ酪酸がエステル結合したグリセロール誘導体は、脂肪酸から誘導されるアシル基を有しているため、3HB単体と比較して脂溶性が向上している。
【0023】
〔3-ヒドロキシ酪酸がエステル結合したグリセロール誘導体の製造方法〕
本発明の3-ヒドロキシ酪酸がエステル結合したグリセロール誘導体は、上記式(2)で表されるトリグリセリドと、3-ヒドロキシ酪酸又は上記式(3)で表される3-ヒドロキシ酪酸エステルを原料とし、エステル交換反応を利用することで製造できる。
【0024】
式(2)で表されるトリグリセリドにおいて、R4~R6は、脂肪酸から誘導されるアシル基であり、これら3つのアシル基は、同一であっても異なっていてもよい。また、アシル基は、直鎖状又は分岐鎖状のいずれであってもよく、飽和脂肪酸から誘導されるものであってもよいし、不飽和脂肪酸から誘導されるものであってもよい。このようなアシル基としては、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ラウリン酸などの脂肪酸、および、食用油脂中のトリグリセリドのアシル基を構成する脂肪酸から誘導されるアシル基が挙げられる。これらのうち、合成される3-ヒドロキシ酪酸がエステル結合したグリセロール誘導体の脂溶性という観点から、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、および、食用油脂中のトリグリセリドのアシル基を構成する脂肪酸のいずれかから誘導されるアシル基であることが好ましく、特に、カプリル酸から誘導されるアシル基とよい。
【0025】
したがって、式(2)で表されるトリグリセリドとしては、カプリル酸とグリセリンのトリエステル(トリカプリリン)、ペラルゴン酸とグリセリンのトリエステル(トリペラルゴニン)、カプリン酸とグリセリンのトリエステル(トリカプリン)のいずれかであることが好ましく、特に、トリカプリリンであるとよい。
【0026】
式(3)で表される3-ヒドロキシ酪酸エステルにおいて、R7は、飽和又は不飽和の脂肪族炭化水素基であり、この脂肪族炭化水素基は、直鎖状又は分岐鎖状のいずれであってもよい。このような脂肪族炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基などが挙げられる。
【0027】
エステル交換反応は、エステルにアルコールやカルボン酸、その他のエステルを作用させ、別のエステルを生じさせる反応を指す。本発明においては、トリグリセリドのエステルに対して、3-ヒドロキシ酪酸又は3-ヒドロキシ酪酸エステルを作用させることで、トリグリセリドに3-ヒドロキシ酪酸が導入された3-ヒドロキシ酪酸がエステル結合したグリセロール誘導体が製造される。
【0028】
尚、本発明の3-ヒドロキシ酪酸がエステル結合したグリセロール誘導体の製造方法においては、リパーゼを用いてエステル交換反応を行ってもよい。この場合、反応工程では、トリグリセリドと3-ヒドロキシ酪酸又は3-ヒドロキシ酪酸エステルとを溶媒中でリパーゼと接触させることでエステル交換反応が進む。尚、溶媒としては、クロロホルムやアセトンなどが挙げられる。
【0029】
使用するリパーゼの種類は、特に限定されるものではない。また、リパーゼの性状についても、特に限定されるものではなく、遊離型であってもよいし、担体に固定化されたものであってもよいが、反応後の処理の容易さという観点から、固定化されたものを用いることが好ましい。具体的には、Lipozyme(登録商標)TLIM(ノボザイムズ社製)やNovozym(登録商標)40086(ノボザイムズ社製)、Lipozyme(登録商標)435(ノボザイムズ社製)が挙げられる。
【0030】
リパーゼを用いたエステル交換反応での反応液の温度は、使用するリパーゼの種類によって適宜決定すればよいが、例えば、30~100℃である。また、反応時間についても、使用するリパーゼの種類によって適宜決定すればよいが、例えば、2~72時間である。
【0031】
尚、反応終了後、3-ヒドロキシ酪酸がエステル結合したグリセロール誘導体は、例えば、ろ過、濃縮、抽出、カラムクロマトグラフィーなどの分離手段や、これらを適宜組み合わせた分離手段によって分離精製できる。
【実施例0032】
以下、本発明を実施例に基づいてより詳細に説明する。尚、本発明が実施例に限定されないことは言うまでもない。
【0033】
1.3-ヒドロキシ酪酸がエステル結合したグリセロール誘導体の合成
15mLのねじ口試験管に1.0g(2.21mmol)のトリカプリリン(C8TG、花王株式会社製(商品名:ココナードRK))と0.63g(4.77mmol)の3-ヒドロキシ酪酸エチル(EHB、大阪瓦斯株式会社にて合成)とを投入し、ピペッティングした後、ボルテックスで撹拌することで、各基質を完全に溶解した。次に、0.1gの固定化リパーゼ製剤(Lipozyme TLIM(ノボザイムズ社製)又はNovozym 40086(ノボザイムズ社製))、1.0mlのクロロホルム(キシダ化学株式会社製)、0.3gのモレキュラーシーブを投入し、窒素パージを行った上で蓋をして密閉した。ついで、ねじ口試験管を振とう機にセットし、40℃、300strokes/minの条件下で、48時間反応させた。その後、ねじ口試験管を遠心分離機にセットし、3000rpmで5分間遠心分離を行い、上清を回収した。回収した反応液を濃縮乾固した。次に、固定化リパーゼ製剤としてNovozym 40086を用いた場合に得られたサンプルについて、それぞれ以下に述べる方法で、ガスクロマトグラフィー(GC)分析、カラムクロマトグラフィーによる精製を行った。尚、カラムクロマトグラフィーによる精製においては、目的物が含まれているフラクションを1H NMRスペクトル解析及びGC-MS分析により特定した。
【0034】
2.ガスクロマトグラフィー(GC)分析
上記回収した反応液を凝固乾固したものを5mg秤量し、これに対してクロロホルムを1.0ml添加して測定用サンプルを調製し、これをGC分析に供した。尚、GC分析は、Shimadzu Gc-1700 gas chromatograph(株式会社島津製作所製)を用い、下記の条件にて行った。
【0035】
カラム:アジレント・テクノロジー株式会社製のDB-1 HT(5m×0.25mm)
カラム温度:120℃で1分間保持後、15℃/分で280℃まで昇温、その後、10℃/分で370℃まで昇温し、370℃で10分間保持
移動相:ヘリウム
メイクアップガス:窒素
注入口圧力:15kPa
注入口温度:370℃
スプリット比:1/50
検出器:FID
検出器温度:370℃
サンプル注入量:1μL
【0036】
図1は、GC分析の結果を示す図である。同図に示すように、反応液中には原料以外にも複数種類の化合物(生成物)が存在していることが明らかとなった。後述するカラムクロマトグラフィーによる精製、NMR解析及びGC-MS分析を行うことにより、
図1中の破線で囲ったピークがトリカプリリン中の1つのカプリル酸に代えて3-ヒドロキシ酪酸が導入された化合物(3HB-diC8-TG)であることが明らかとなった。
【0037】
尚、3HB-diC8-TGとして考えられる化合物としては、いずれか一方のα位に3-ヒドロキシ酪酸が導入された下記式(4-1)で表される化合物と、β位に3-ヒドロキシ酪酸が導入された下記式(4-2)で表される化合物であるが、詳細な解析の結果、
図1中の破線で囲ったピークは、下記式(4-1)で表される化合物であることが明らかとなった。
【化5】
【化6】
【0038】
3.カラムクロマトグラフィーによる精製
上記回収した反応液を凝固乾固したものをカラムクロマトグラフィーによる精製に供した。尚、カラムクロマトグラフィーによる精製は、Isolera(バイオタージ社製)を用い、下記の条件にて行った。
【0039】
カートリッジ:SNAP Ultra 50g
流速:100ml/min
溶媒:n-ヘキサン/ジエチルエーテル混合溶媒
検出モード:UV1(210nm)
【0040】
カラムクロマトグラフィーにより分離された複数のフラクションについて、1H NMRスペクトル解析及びGC-MS分析を行い、目的物である3HB-diC8-TGが分離されたフラクションを特定し、上記反応液を凝固乾固したものから3HB-diC8-TGを単離した。
【0041】
図2は、3HB-diC8-TGが分離されたフラクションの
1H NMRスペクトルデータであり、
図3は、トリカプリリンの
1H NMRスペクトルデータである。また、
図4は、3HB-diC8-TGが分離されたフラクションのGC-MS分析の結果である。
【0042】
図2及び
図3から分かるように、トリカプリリン中のカプリル酸に代えて3-ヒドロキシ酪酸が1つ導入された3HB-diC8-TGが分離されていることが確認できた。また、
図4からも、3HB-diC8-TGのフラグメンテーションにより得られるm/z=69(3-ヒドロキシ酪酸由来)及びm/z=127(オクチル基由来)が確認され、3HB-diC8-TGが分離されていることが確認できた。