(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022152585
(43)【公開日】2022-10-12
(54)【発明の名称】電磁弁の制御装置
(51)【国際特許分類】
F16K 31/06 20060101AFI20221004BHJP
H01F 7/18 20060101ALI20221004BHJP
H01F 7/16 20060101ALI20221004BHJP
【FI】
F16K31/06 310C
F16K31/06 335
F16K31/06 320A
H01F7/18 Q
H01F7/16 R
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021055412
(22)【出願日】2021-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000005522
【氏名又は名称】日立建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090022
【弁理士】
【氏名又は名称】長門 侃二
(72)【発明者】
【氏名】樋口 秀太
(72)【発明者】
【氏名】萩原 信幸
【テーマコード(参考)】
3H106
5E048
【Fターム(参考)】
3H106DA04
3H106DA22
3H106EE04
3H106EE07
3H106EE13
3H106FA04
3H106FB08
3H106KK03
5E048AA08
5E048AB01
(57)【要約】 (修正有)
【課題】電磁弁の制御応答性を向上させた上で、演算負荷の増大及び発熱量の増加を未然に防止できる電磁弁の制御装置を提供する。
【解決手段】目標電流指令値CInと電磁比例弁16のコイルに流れる負荷電流値Ifbの平均値ADnとの偏差CIn-ADnに基づき、デューティ比算出部33でPWM信号PWM_cのデューティ比MVnを算出する。デューティ比及び所定のキャリア周波数fcに基づきPWM生成部35でPWM信号を生成し、このPWM信号を負荷駆動回路26により昇圧して負荷駆動信号PWMとして電磁比例弁に供給して駆動する。キャリア周波数決定部34では、偏差の絶対値|CIn-ADn|をキャリア周波数切換閾値Xfと比較し、|CIn-ADn|<Xfのときにはキャリア周波数として低速処理周波数f_lowを選択し、|CIn-ADn|≧Xfのときにはより短い周期の高速処理周波数f_highを選択する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁弁のコイルに流れる負荷電流値を検出する負荷電流検出回路と、
前記負荷電流検出回路により検出された負荷電流値と前記電磁弁に対し設定された目標電流指令値とに基づき、前記負荷電流値を前記目標電流指令値に一致させるためのPWM信号のデューティ比を算出するデューティ比算出部と、
前記デューティ比算出部により算出されたデューティ比と所定のキャリア周波数とに基づき、前記PWM信号を生成するPWM信号生成部と、
前記PWM信号生成部により生成されたPWM信号を電圧源から供給される負荷駆動電圧により昇圧し、負荷駆動信号として前記電磁弁のコイルに供給する負荷駆動回路と、
を備えた電磁弁の制御装置において、
前記負荷電流値と前記目標電流指令値とに基づき前記PWM信号のキャリア周波数を算出して、前記PWM信号生成部に出力するキャリア周波数決定部をさらに備えた
ことを特徴とする電磁弁の制御装置。
【請求項2】
前記キャリア周波数決定部は、前記負荷電流値と前記目標電流指令値との偏差の絶対値が大であるほど、前記PWM信号のキャリア周波数として大きな値を算出する
ことを特徴とする請求項1に記載の電磁弁の制御装置。
【請求項3】
前記デューティ比算出部は、前記負荷電流値と前記目標電流指令値との偏差の絶対値が大であるほど、前記PWM信号のデューティ比を算出する際に大きな制御ゲインを適用する
ことを特徴とする請求項1または2に記載の電磁弁の制御装置。
【請求項4】
前記キャリア周波数決定部及び前記デューティ比算出部は、前記負荷電流値と前記目標電流指令値との偏差の絶対値を切換閾値と比較し、前記偏差の絶対値が前記切換閾値未満の場合に比較して、前記偏差の絶対値が前記切換閾値以上の場合には前記PWM信号のキャリア周波数として大きな値を算出し、前記制御ゲインとして大きな値を適用する
ことを特徴とする請求項3に記載の電磁弁の制御装置。
【請求項5】
前記電磁弁は、前記負荷駆動信号に応じてコントロール弁の受圧室にパイロット圧を入力し、前記パイロット圧に応じて前記コントロール弁により作動油を切り換えて、建設機械に搭載された油圧アクチュエータを駆動する電磁比例弁である
ことを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の電磁弁の制御装置。
【請求項6】
前記電磁弁が設けられたシステムの異常の有無を判定する異常判定部をさらに備え、
前記キャリア周波数決定部は、前記異常判定部により前記システムに異常有りの判定が下されたときに、異常無しの判定が下されたときに比較して前記PWM信号のキャリア周波数として大きな値を算出する
ことを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項に記載の電磁弁の制御装置。
【請求項7】
前記油圧アクチュエータは、前記建設機械の作業フロントのバケットを傾動させるバケットシリンダであり、
前記バケットシリンダに供給される作動油の圧力に基づき、前記バケットのハンチングの有無を判定する異常判定部をさらに備え、
前記キャリア周波数決定部は、前記異常判定部により前記バケットのハンチング有りの判定が下されたときに、ハンチング無しの判定が下されたときに比較して前記PWM信号のキャリア周波数として大きな値を算出する
ことを特徴とする請求項5に記載の電磁弁の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁弁の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の電磁弁は、自動車、建設機械、産業用機械等の分野において、電気回路と油圧回路とのインタフェースとして広く利用されている。例えば建設機械の油圧ショベルでは、下部走行体の走行、上部旋回体の旋回、作業フロントの動作等を油圧アクチュエータにより行っており、油圧アクチュエータはコントロール弁の切換に応じた作動油の供給により駆動される。従来の油圧システムでは、オペレータの操作を機械的にコントロール弁に伝達したが、より的確な油圧ショベルの操作を目的として、近年では、オペレータの操作情報やセンサ情報に基づき電子制御ユニットによりコントロール弁を電気的に駆動制御する構成が採用されている。そのためには電子制御ユニットからの電気信号を油圧信号に変換してコントロール弁に伝達する必要があり、その役割を電磁弁の一種である電磁比例弁が果たしている。
【0003】
例えば、作業フロントのブームを傾動させるブームシリンダの場合、ブームレバーの操作量に対応するデューティ比の負荷駆動信号を電子制御ユニットで生成し、電磁比例弁のソレノイドに入力する。電磁比例弁によりパイロット油圧ポンプからの作動油が切り換えられ、パイロット圧としてコントロール弁の受圧室に入力される。コントロール弁によりメイン油圧ポンプからの作動油が切り換えられてブームシリンダに供給され、これによりブームレバーの操作に対応してブームシリンダが駆動されてブームを傾動させる。
【0004】
従来からの油圧システムでは、ブームレバーとコントロール弁とが機械的に連動するため、その間に動作遅れは発生しない。しかしながら、上記のような電磁比例弁を備えた構成では、電磁比例弁の制御応答性が悪いと、ブームレバーの操作に対してコントロール弁の切換、ひいてはブームの動作に遅れが生じるため、オペレータに操作応答性が悪い印象を与えてしまう。従って、ブーム等の操作対象の操作応答性の観点から、電磁比例弁には良好な制御応答性が要求されている。
【0005】
このような制御応答性に関する対策として、例えば特許文献1には、自動変速機に設けられたクラッチを駆動するためのリニアソレノイドバルブの制御装置が開示されている。電子制御ユニットでは、車両の運転状態を表すセンサ情報に基づき目標電流値Itを算出すると共に、目標電流値It及びリニアソレノイドバルブの実際の励磁電流に基づきPWM信号のデューティ比Rdを算出する。
【0006】
そして、これらの目標電流値It及びデューティ比Rdから生成したPWM信号に基づき、駆動回路を介してリニアソレノイドを駆動制御する。油圧ポンプから吐出された作動油がリニアソレノイドにより切り換えられてクラッチに供給され、これによりクラッチが断接操作される。そして、目標電流値Itに基づくリニアソレノイドバルブの制御応答性を良好に保つために、目標電流値It及びデューティ比RdをPWM信号の1周期毎に設定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1の技術は、PWM信号の1周期相当の短い周期で目標電流値It及びデューティ比Rdを設定しているため、電子制御ユニットの演算負荷が増大するという問題が発生した。また、目標電流値It及びデューティ比RdをPWM周期に同期して設定するか否かに関わらず、元々リニアソレノイドバルブを駆動する駆動回路は周期的なスイッチング動作により発熱する。このため、特に多数のリニアソレノイドバルブを備えた制御装置では、発熱量が増加して制御装置の信頼性等に悪影響を及ぼす可能性がある。
【0009】
本発明はこのような問題点を解決するためになされたもので、その目的とするところは、電磁弁の制御応答性を向上させた上で、演算負荷の増大及び発熱量の増加を未然に防止することができる電磁弁の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するため、本発明の電磁弁の制御装置は、電磁弁のコイルに流れる負荷電流値を検出する負荷電流検出回路と、前記負荷電流検出回路により検出された負荷電流値と前記電磁弁に対し設定された目標電流指令値とに基づき、前記負荷電流値を前記目標電流指令値に一致させるためのPWM信号のデューティ比を算出するデューティ比算出部と、前記デューティ比算出部により算出されたデューティ比と所定のキャリア周波数とに基づき、前記PWM信号を生成するPWM信号生成部と、前記PWM信号生成部により生成されたPWM信号を電圧源から供給される負荷駆動電圧により昇圧し、負荷駆動信号として前記電磁弁のコイルに供給する負荷駆動回路と、を備えた電磁弁の制御装置において、前記負荷電流値と前記目標電流指令値とに基づき前記PWM信号のキャリア周波数を算出して、前記PWM信号生成部に出力するキャリア周波数決定部をさらに備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の電磁弁の制御装置によれば、電磁弁の制御応答性を向上させた上で、演算負荷の増大及び発熱量の増加を未然に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施形態の電磁比例弁の制御装置が搭載された油圧ショベルを示す側面図である。
【
図2】油圧ショベルの油圧システムを示す全体構成図である。
【
図3】電磁比例弁の制御装置を示す制御ブロック図である。
【
図4】制御装置中の特に電子制御ユニットの構成を示す制御ブロック図である。
【
図5】キャリア周波数及び制御ゲインを設定するために演算処理部により実行される周波数・ゲイン設定ルーチンを示すフローチャートである。
【
図6】目標電流指令値CInがCI1からCI2に増加したときの制御状況を示すタイムチャートである。
【
図7】キャリア周波数及び制御ゲインを3段階に切り換える別例1を示す
図5に対応するフローチャートである。
【
図8】別例1を示す
図6に対応するタイムチャートである。
【
図9】油圧システムの異常発生時にキャリア周波数及び制御ゲインを高速側に切り換える別例2を示す
図5に対応するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を油圧ショベルに搭載された電磁比例弁の制御装置に具体化した一実施形態を説明する。
図1は本実施形態の電磁比例弁の制御装置が搭載された油圧ショベルを示す側面図であり、まず同図に基づき、油圧ショベルの全体構成を説明する。
油圧ショベル1の下部走行体2には左右一対のクローラ3が備えられ、クローラ3は走行用油圧モータ3a(
図2に示す)により駆動されて油圧ショベル1を走行させる。下部走行体2上には図示しない旋回装置を介して上部旋回体4が設けられ、旋回装置に備えられた旋回用油圧モータ4a(
図2に示す)に駆動されて上部旋回体4が旋回する。
【0014】
上部旋回体4の前部には多関節型の作業フロント5が設けられ、作業フロント5はブーム6、アーム7、及びバケット8から構成されている。ブーム6はブームシリンダ6aにより傾動し、アーム7はアームシリンダ7aにより傾動し、バケット8はバケットシリンダ8aにより傾動する。
上部旋回体4の前部にはオペレータが搭乗する運転室10が設けられ、運転室10の後側には燃料タンク11や機械室12が設けられている。機械室12内には油圧パワーユニット13(
図2,3に示す)が設けられ、この油圧パワーユニット13により、上記した走行用及び旋回用油圧モータ3a,4aや作業フロント5の各シリンダ6a~8a(以下、油圧アクチュエータと総称する場合もある)が駆動される。
【0015】
図2は油圧ショベル1の油圧システムを示す全体構成図、
図3は電磁比例弁の制御装置を示す制御ブロック図である。油圧パワーユニット13は、動力源であるエンジン14、エンジン14により回転駆動されるポンプユニット15、ポンプユニット15からの作動油を切換制御する電磁比例弁16、及び電磁比例弁16から供給されるパイロット圧に基づきポンプユニット15からの作動油を切り換えて各油圧アクチュエータを駆動するコントロール弁17により構成されている。なお、
図2,3では電磁比例弁16及びコントロール弁17を簡略化して示しているが、実際には各油圧アクチュエータに対応してそれぞれ設けられている。
【0016】
以下に詳述すると、油圧パワーユニット13を制御する電子制御ユニット18には、操作装置19及び各種センサ20が接続されている。操作装置19は、油圧ショベル1の走行、上部旋回体4の旋回、作業フロント5のブーム6、アーム、バケット等を操作するための入力装置である。各種センサ20は、例えばコントロール弁17の切換に応じて各油圧アクチュエータに供給される作動油の圧力を検出する圧力センサ、シリンダ6a~8aのストローク位置を検出する位置センサ、ブーム6等の傾動角度を検出する角度センサ等からなる。これらの操作装置19からの操作情報O_in及び各種センサ20からのセンサ情報S_inに基づき、電子制御ユニット18は各油圧アクチュエータの制御目標値として負荷駆動信号PWMを算出する。
【0017】
ポンプユニット15は図示しないパイロット油圧ポンプ及びメイン油圧ポンプからなり、パイロット油圧ポンプから吐出された作動油はポンプ管路21を介して各電磁比例弁16に供給される。電磁比例弁16にはコイルを内蔵したソレノイド16aが備えられ、コイルの励磁に応じて作動するようになっている。各電磁比例弁16のソレノイド16aには電子制御ユニット18から負荷駆動信号PWMが入力され、負荷駆動信号PWMによるコイルの励磁状態に応じて各電磁比例弁16が開度調整される。そして、電磁比例弁16の開度に応じてパイロット油圧ポンプから供給される作動油の圧力が変化し、パイロット圧としてコントロール弁17の受圧室に入力される。即ち、電磁比例弁16は、電気信号である負荷駆動信号PWMを油圧信号であるパイロット圧に変換する機能を奏し、本発明の電磁弁に相当する。
【0018】
一方、メイン油圧ポンプから吐出された作動油はポンプ管路22を介して各コントロール弁17に供給されており、各コントロール弁17は、受圧室に入力されるパイロット圧に応じてメイン油圧ポンプからの作動油を切り換え、対応する油圧アクチュエータに供給する。これにより各油圧アクチュエータが駆動され、その駆動力により操作対象であるクローラ3、上部旋回体4、作業フロント5等が作動する。このような油圧アクチュエータの駆動を可能とするために、メイン油圧ポンプの吐出圧は、油圧信号として利用されるパイロット油圧ポンプの吐出圧よりも高く設定されている。
【0019】
なお、電子制御ユニット18からの負荷駆動信号PWMは、ポンプユニット15に設けられた電磁比例弁16のソレノイド16aにも入力され、メイン及びパイロット油圧ポンプの傾転角、ひいては作動油の吐出量が調整される。
【0020】
図4は制御装置中の特に電子制御ユニット18の構成を示す制御ブロック図であり、単一の電磁比例弁16に対応する箇所を抜粋している。
上記のように電子制御ユニット18には、操作装置19、各種センサ20及び電磁比例弁16が接続されると共に、車載バッテリ等の電圧源24が接続されている。電子制御ユニット18は、演算処理部25、負荷駆動回路26及び負荷電流検出回路27からなる。
【0021】
電子制御ユニット18内の全体的な処理の流れは、以下の通りである。演算処理部25では、操作装置19からの操作情報O_in及び各種センサ20からのセンサ情報S_inに基づき算出した電磁比例弁16の目標電流指令値CInと、負荷電流検出回路27から入力される電磁比例弁16の通電電流と相関する電圧値(後述する負荷電流平均値ADn)との偏差に基づき、PWM信号PWM_cを生成して負荷駆動回路26に出力する。負荷駆動回路26では、電圧源から供給される電圧によりPWM信号PWM_cを昇圧し、これにより生成した負荷駆動信号PWMを電磁比例弁16に供給して開度調整する。
【0022】
以上の電子制御ユニット18内で実行される処理について詳述する。まず、操作情報O_in及びセンサ情報S_inは演算処理部25の目標電流指令値算出部29に入力され、これらの情報に基づき、目標電流指令値算出部29は目標電流指令値CInを算出して電流値比較部30に出力する。例えばブーム6の操作に関しては、操作情報O_inの1つである図示しないブームレバーからの操作量に基づき、ブームシリンダ6aの電磁比例弁16に対する目標電流指令値CInが算出される。
【0023】
一方、電磁比例弁16のソレノイド16aに流れる電流が負荷電流値Ifbとして負荷電流検出回路27により検出され、負荷電流検出回路27は、負荷電流値Ifbを演算処理部25が取得可能な電圧信号Vfbに変換して演算処理部25の負荷電流取得部31に出力する。負荷電流取得部31は、電圧信号Vfbを演算処理部25が処理可能なディジタル信号Vfb_Dに変換して、負荷電流平均値算出部32に出力する。負荷電流平均値算出部32は、ディジタル信号Vfb_DをPWM信号PWM_cのキャリア周波数fcの1周期分で平均化して負荷電流平均値ADn(本発明の負荷電流値に相当)を算出し、フィードバック情報として電流値比較部30及びデューティ比算出部33に出力する。
【0024】
以下に述べるように負荷駆動信号PWMに基づく電磁比例弁16の駆動は、PWM信号PWM_cのキャリア周波数fcの1周期毎に実行される。このため、上記した目標電流指令値算出部29による目標電流指令値CInの算出処理は、キャリア周波数fcの1周期よりも短い周期で実行される。同様に、負荷電流平均値算出部32ではキャリア周波数fcの1周期分でディジタル信号Vfb_Dを平均化するため、負荷電流取得部31によるディジタル信号Vfb_Dへの変換処理についても、キャリア周波数fcの1周期よりも短い周期で実行される。
【0025】
電流値比較部30は、目標電流指令値算出部29から入力された目標電流指令値CInと、負荷電流平均値算出部32から入力された負荷電流平均値ADnとの偏差を表す電流比較信号com_iを算出してキャリア周波数決定部34に出力する。キャリア周波数決定部34は、偏差の絶対値|CIn-ADn|と所定のキャリア周波数切換閾値Xf(本発明の切換閾値に相当)とを比較し、PWM信号PWM_cのキャリア周波数fcを決定する。本実施形態では、目標電流指令値CInに対する所定の割合(目標電流指令値CInに対する誤差を意味し、例えば10%)をキャリア周波数切換閾値Xfとし、予め内部変数としてキャリア周波数決定部34に保持されている。
【0026】
また、本実施形態ではキャリア周波数fcとして、低速処理周波数f_lowと、この低速処理周波数f_lowよりも短い周期の高速処理周波数f_highとが予め設定されている。キャリア周波数決定部34は、偏差の絶対値|CIn-ADn|がキャリア周波数切換閾値Xf未満のときには低速処理周波数f_lowを選択し、偏差の絶対値|CIn-ADn|がキャリア周波数切換閾値Xf以上のときには高速処理周波数f_highを選択し、決定したキャリア周波数fcを負荷電流取得部31、負荷電流平均値算出部32、デューティ比算出部33及びPWM信号生成部35にそれぞれ出力する。負荷電流取得部31及び負荷電流平均値算出部32は入力されたキャリア周波数fcに基づき各々の処理を実行し、例えば負荷電流平均値算出部32ではディジタル信号の平均化処理にキャリア周波数fcを適用する。
【0027】
詳細については後述するが、PWM信号PWM_cのキャリア周波数fcは電磁比例弁16の制御応答性に影響を及ぼし、低速処理周波数f_lowよりも高速処理周波数f_highの方が良好な制御応答性が得られる。そこで、キャリア周波数切換閾値Xfを設定する際の指標の一つとして、それほど応答性が良好でない電磁比例弁16を使用する場合には、予めキャリア周波数切換閾値Xfを低めの値に設定する。これにより高速処理周波数f_highが選択され易くなるため、元々の電磁比例弁16の応答性を補うことができる。
【0028】
一方、デューティ比算出部33には、目標電流指令値算出部29からの目標電流指令値CIn、負荷電流平均値算出部32からの負荷電流平均値ADn、及びキャリア周波数決定部34からのキャリア周波数fcが入力され、これらの値CIn,ADn, fcに基づきPID制御等を用いて、負荷電流平均値ADnを目標電流指令値CInに一致させるためのPWM信号PWM_cのデューティ比MVnを算出する。基本的に目標電流指令値CInよりも負荷電流平均値ADnが小のときにデューティ比MVnを前回制御時よりも増加させ、逆に目標電流指令値CInよりも負荷電流平均値ADnが大のときにデューティ比MVnを前回制御時よりも減少させる。このときの増加量や減少量は、目標電流指令値CInと負荷電流平均値ADnとの偏差の絶対値|CIn-ADn|が大であるほど大きな値が適用され、デューティ比算出部33には、偏差の絶対値|CIn-ADn|と増加量及び減少量との関係を規定する制御ゲインGが内部変数として保持されている。
【0029】
本実施形態では制御ゲインGとして、低速処理ゲインG_lowと、この低速処理ゲインG_lowよりも大きな値の高速処理ゲインG_high、詳しくは、同一偏差であっても低速処理ゲインG_lowよりも大きな増加量や減少量を設定する高速処理ゲインG_highとが予め設定されている。制御ゲインGの切換は、キャリア周波数fcの切換に同期して実行されるため、デューティ比算出部33は、キャリア周波数fcとして低速処理周波数f_lowが入力されたときには低速処理ゲインG_lowを選択し、高速処理周波数f_highが入力されたときには高速処理ゲインG_highを選択し、選択した制御ゲインGをデューティ比MVnの算出処理に適用する。
【0030】
図5はキャリア周波数fc及び制御ゲインGを設定するためにキャリア周波数決定部34及びデューティ比算出部33により実行される周波数・ゲイン設定ルーチンを示すフローチャートであり、当該ルーチンは、PWM信号PWM_cの1周期を制御インターバルとして実行される。
【0031】
ルーチンが開始されると、まずステップS1で目標電流指令値CInと負荷電流平均値ADnとの偏差の絶対値|CIn-ADn|がキャリア周波数切換閾値Xf未満であるか否かを判定し、Yes(肯定)のときにはステップS2に移行する。ステップS2ではキャリア周波数fcとして低速処理周波数f_lowを選択し、続くステップS3で制御ゲインGとして低速処理ゲインG_lowを選択した後にルーチンを終了する。また、ステップS1でNo(否定)の判定を下したときには、ステップS4に移行する。ステップS4ではキャリア周波数fcとして高速処理周波数f_highを選択し、続くステップS5で制御ゲインGとして高速処理ゲインG_highを選択した後にルーチンを終了する。
【0032】
一例を述べると、キャリア周波数切換閾値Xfが目標電流指令値CInの10%に定められている場合、目標電流指令値CIn=500mAのときにはキャリア周波数切換閾値Xf=50mAとなる。このとき負荷電流平均値ADn=100mAであった場合、目標電流指令値CInと負荷電流平均値ADnとの偏差の絶対値|CIn-ADn|=400mAとなり、偏差の絶対値|CIn-ADn|がキャリア周波数切換閾値Xf以上であることから、キャリア周波数fcとして高速処理周波数f_highが選択され、制御ゲインGとして高速処理ゲインG_highが選択される。
【0033】
上記条件に基づくフィードバック制御の結果、負荷電流平均値ADnが増加してADn=490mAに達した時点では、目標電流指令値CInと負荷電流平均値ADnとの偏差の絶対値|CIn-ADn|=10mAとなり、偏差の絶対値|CIn-ADn|がキャリア周波数切換閾値Xf未満になることから、キャリア周波数fcとして低速処理周波数f_lowが選択され、制御ゲインGとして低速処理ゲインG_lowが選択される。
【0034】
図4に戻って説明を続けると、以上のようにしてデューティ比算出部33で算出されたデューティ比MVnがPWM信号生成部35に出力され、PWM信号生成部35は、デューティ比MVn及びキャリア周波数fcに対応するPWM信号PWM_cを生成して負荷駆動回路26に出力する。PWM信号PWM_cは演算処理部25の電源電圧に依存する演算処理用の低電圧のため、電磁比例弁16を駆動可能な電圧となるように負荷駆動回路26により昇圧される。そのために、負荷駆動回路26には電圧源24からPWM信号PWM_cよりも高電圧の負荷駆動電圧Vpwmが供給されており、負荷駆動回路26は、スイッチング動作によりPWM信号PWM_cを負荷駆動電圧Vpwmに昇圧し、負荷駆動信号PWMとして電磁比例弁16のソレノイド16aに供給する。
【0035】
負荷駆動信号PWMのデューティ比MVnに応じて電磁比例弁16の開度が調整され、上記したようにコントロール弁17の受圧室に入力されるパイロット圧が変化し、コントロール弁17により切り換えられた作動油が油圧アクチュエータに供給され、油圧アクチュエータが駆動制御される。そして、このとき電磁比例弁16のソレノイド16aに流れる負荷電流値Ifbが、負荷電流検出回路27による電圧信号Vfbへの変換処理、負荷電流取得部31によるディジタル信号Vfb_Dへの変換処理、負荷電流平均値算出部32による平均化処理を経て、負荷電流平均値ADnとして電流値比較部30にフィードバックされ、再び上記した順序に従って処理が繰り返される。
【0036】
そして、この説明から明らかなように負荷駆動信号PWMの算出処理は、PWM信号PWM_cのキャリア周波数fcの1周期分を制御インターバルとして実行され、キャリア周波数fcは低速処理周波数f_lowと高速処理周波数f_highとの間で切り換えられる。このため低速処理周波数f_lowが選択されている制御状態に比較して、高速処理周波数f_highが選択されている制御状態では演算処理部25の演算周期が短くなり、それに伴って演算処理部25の演算負荷が増大すると共に、スイッチング動作による負荷駆動回路26の発熱量が増加する傾向となる。
次いで、以上のように構成された電磁比例弁16の制御装置の制御状況を
図6のタイムチャートに基づき説明する。同図は、目標電流指令値CInがCI1からCI2に増加したときの制御状態を示しており、例えば、ブームレバーが所定の操作量に保持されてブーム6の傾動角度が上げ方向または下げ方向にほぼ一定速度で変化している状況(CIn=CI1)から、ブーム6の傾動速度を速めるべくブームレバーの操作量が増加し(CIn=CI2)、その後に増加後の操作量に保たれた場合に発生する制御状況である。
【0037】
まず期間t1では、目標電流指令値CInとしてほぼ一定値のCI1が設定され、この目標電流指令値CI1の近傍に負荷電流平均値ADnが保たれている。このときの制御状態は、上記ブーム操作の例では、ブームレバーの操作量に対応する速度でブーム6の傾動角度が変化している状況に相当する。このときの偏差の絶対値|CIn-ADn|はほぼ0、即ち、キャリア周波数切換閾値Xf未満であることから、
図5のステップS1でYesの判定が下され、キャリア周波数fcとして低速処理周波数f_lowが選択され、制御ゲインGとして低速処理ゲインG_lowが選択されている。
【0038】
低速処理周波数f_lowに基づく長い周期の負荷駆動信号PWMが、低速処理ゲインG_lowの適用により目標電流指令値CInと負荷電流平均値ADnとの偏差から求められたデューティ比MVnに基づき生成される。従って、図示はしないが仮に偏差が変動したときには、後述する高速処理ゲインG_highの場合に比較して負荷駆動信号PWMのデューティ比MVnはより緩やかに変化する。
【0039】
このときの電磁比例弁16のソレノイド16aに流れる負荷電流値Ifbは、ソレノイド16aに備えられているコイルの影響により、負荷駆動信号PWMのON・OFFに対して遅れをもって追従する。即ち、負荷電流値Ifbは、
図6中に示すように負荷駆動信号PWMがONすると所定の変化率で増加し、OFFすると所定の変化率で低下し、その1周期分の平均値として負荷電流平均値ADnが算出される。
【0040】
目標電流指令値CInがCI1からCI2へとステップ的に増加すると、期間t1から期間t2に移行し、このときの制御状態は、上記ブーム操作の例ではブームレバーの操作量を増加させた状況に相当する。そして、目標電流指令値CInの増加に伴って、偏差の絶対値|CIn-ADn|もステップ的に増加してキャリア周波数切換閾値Xfを超えることから、
図5のステップS1でNoの判定が下され、キャリア周波数fcとして高速処理周波数f_highが選択され、制御ゲインGとして高速処理ゲインG_highが選択される。高速処理周波数f_highに基づく短い周期の負荷駆動信号PWMが、高速処理ゲインG_highの適用により目標電流指令値CInと負荷電流平均値ADnとの偏差から求められたデューティ比MVnに基づき生成される。
【0041】
図6中の負荷駆動信号PWMの上側には、単一の制御ゲインGを適用した一般的なPID制御による負荷駆動信号PWMを細線で部分的に示している。このときのデューティ比MVnは、何れの場合も偏差の絶対値|CIn-ADn|を減少させるべく、期間T1の場合に比較して増加方向に設定されるが、本実施形態では一般的なPID制御よりも大きなデューティ比MVnが設定される。偏差の絶対値|CIn-ADn|に基づくデューティ比MVnの増加に加えて、本実施形態では、制御ゲインGの増加もデューティ比MVnの増加に影響しているためである。
【0042】
そして、このように負荷駆動信号PWMの周期が短くなり且つデューティ比MVnが増加することから、負荷電流値Ifbは、負荷駆動信号PWMの周期に同期して微小に変動しながら次第に増加する。また、これに同期して負荷電流平均値ADnが負荷駆動信号PWMの周期毎に次第に増加し、偏差の絶対値|CIn-ADn|が負荷駆動信号PWMの周期毎に次第に低下する。偏差の絶対値|CIn-ADn|がキャリア周波数切換閾値Xf未満になると、次の負荷駆動信号PWMの周期では
図5のステップS1でYesの判定が下される。このため、キャリア周波数fcとして低速処理周波数f_lowが選択され、制御ゲインGとして低速処理ゲインG_lowが選択され、期間t2から期間t3に移行する。このときの制御状態は、上記ブーム操作の例では、現在のブームレバーの操作量に対応する速度までブーム6の傾動速度が増加した状況に相当する。
【0043】
期間t3の開始当初の負荷駆動信号PWMの1周期分は、期間t2で適用されていた大きなデューティ比MVnが低速処理周波数f_lowに基づく長い周期に亘って継続するため、負荷電流値Ifb及び負荷電流平均値ADnに若干のオーバシュートが生じる。しかし、次の周期ではデューティ比MVnの低下によりオーバシュートが抑制され、負荷電流平均値ADnは目標電流指令値CInの近傍に保たれる。それ以降は、ほぼ一定値の目標電流指令値CI2に対応する負荷駆動信号PWMのデューティ比MVnに保持されると共に、デューティ比MVnのON・OFFに応じて負荷電流値Ifbが増減しながら追従する。このときの制御状態は、上記ブーム操作の例では、増加後のブームレバーの操作量に保った状況に相当する。
【0044】
以上の説明は、目標電流指令値CInの増加に応じて負荷駆動信号PWMを増加させる場合であったが、目標電流指令値CInの低下に応じて負荷駆動信号PWMを低下させる場合についても、上記と同様の処理手順が採られる。この点は、後述する別例1,2についても同様である。
【0045】
このように期間t2においては、例えば操作中のブームレバーの操作量が増加した場合に相当するため、ブーム6の傾動を迅速に速めることが要求される。そして、このときの制御状況は、ステップ的に増加した目標電流指令値CInに追従して負荷電流平均値ADnが急増する過渡状態にあるため、目標電流指令値CInと負荷電流平均値ADnとの偏差をより迅速に負荷駆動信号PWMに反映させることが、電磁比例弁16の良好な制御応答性、ひいてはブーム6の良好な操作応答性につながる。このような状況において、本実施形態では、偏差の絶対値|CIn-ADn|の増加に応じて負荷駆動信号PWMのキャリア周波数fcが高速処理周波数f_highに切り換えられるため、演算処理部25による一連の演算処理が短い周期で繰り返され、結果として電磁比例弁16の制御応答性を向上できる。よって、例えば上記ブーム操作の例では、ブームレバーの操作に対応してブーム6の傾動を迅速に速めることができ、その操作応答性を向上することができる。
【0046】
また本実施形態ではキャリア周波数fcの切換に同期して、負荷駆動信号PWMのデューティ比MVnを設定する際の制御ゲインGを高速処理ゲインG_highに切り換えている。このため、目標電流指令値CInと負荷電流平均値ADnとの偏差が同一であっても、低速処理ゲインG_lowに比較してデューティ比MVnが前回制御時よりも大きく増減する。例えば上記ブーム操作の例では、デューティ比MVnの増加により負荷電流平均値ADnがより迅速に目標電流指令値CInに接近するため、この要因も電磁比例弁16の制御応答性を向上させることに貢献する。
【0047】
加えて制御ゲインGを増加させた場合、目標電流指令値CInの増減方向が逆転したときに負荷電流値Ifbや負荷電流平均値ADnがオーバシュートし易くなる。しかし、このときキャリア周波数fcも増加しているため、高速処理周波数f_highに基づく短い周期で負荷駆動信号PWMが設定し直されてオーバシュートを迅速に抑制できるという別の利点も得られる。
【0048】
一方、期間t1及び期間t3においては、例えばブームレバーが所定の操作量に保持された場合に相当し、このときの制御状況は、ほぼ一定値CI1,CI2の目標電流指令値CInが設定され、その目標電流指令値CInの近傍に負荷電流平均値ADnが保たれた平衡状態にある。従って、ブーム6に良好な操作応答性は要求されず、それに伴って電磁比例弁16にも良好な制御応答性が要求されない状況と見なせる。
【0049】
本実施形態では、偏差の絶対値|CIn-ADn|の減少に応じて負荷駆動信号PWMのキャリア周波数fcが低速処理周波数f_lowに切り換えられ、制御ゲインGが低速処理ゲインG_lowに切り換えられる。電磁比例弁16の制御応答性は低下するものの、元々良好な制御応答性が要求されない状況にあるため弊害は発生しない。例えば上記ブーム操作の例では、オペレータはブームレバーをほぼ一定の操作量に保持しているため、操作応答性が悪化している印象を受けることはない。
【0050】
そして、キャリア周波数fcが低速処理周波数f_lowに切り換えられ、この低速処理周波数f_lowに基づき、演算処理部25による一連の演算処理が長い周期で実行される。結果として、演算処理部25の演算負荷を低減することができる。
【0051】
また、PWM信号PWM_cを昇圧して負荷駆動信号PWMを生成するために、負荷駆動回路26はPWM信号PWM_cに同期したスイッチング動作を行っている。キャリア周波数fcが低速処理周波数f_lowに切り換えられると、それに対応して負荷駆動回路26によるスイッチング動作の周期が長くなり、必然的にスイッチング動作に起因する発熱量を低減することができる。特に油圧ショベル1の油圧パワーユニット13には、車体の各部に備えられた油圧アクチュエータに対応して多数の電磁比例弁16が搭載され、各電磁比例弁16に対応して多数の負荷駆動回路26が集合状態で搭載されている。個々の負荷駆動回路26の発熱量が僅かであっても、全体としては負荷駆動回路26の機能に悪影響を及ぼしかねない発熱量に達するため、発熱量の低減により制御装置の信頼性を向上することができる。
【0052】
以上のように本実施形態の電磁比例弁16の制御装置によれば、電磁比例弁16の制御応答性が要求される状況では、PWM信号PWM_cのキャリア周波数fcを高速処理周波数f_highに切り換えると共に、制御ゲインGを高速処理ゲインG_highに切り換え、一方、電磁比例弁16の制御応答性が要求されない状況では、キャリア周波数fcを低速処理周波数f_lowに切り換えると共に、制御ゲインGを低速処理ゲインG_lowに切り換えている。このため電磁比例弁16の制御応答性の向上と、演算処理部25の演算負荷の低減及び負荷駆動回路26の発熱量の低減という相反する2つの要求を共に達成することができる。
【0053】
ところで上記実施形態では、キャリア周波数fcを低速処理周波数f_lowと高速処理周波数f_highとの2段階に切り換え、制御ゲインGを低速処理ゲインG_lowと高速処理ゲインG_highとの2段階に切り換えたが、これに限るものではない。キャリア周波数fc及び制御ゲインGを多段階に切り換えてもよく、以下に3段階で切り換える実施形態を別例1として説明する。なお、この別例1及び後述する別例2では、実施形態と重複する説明を省略して相違点を重点的に述べるものとする。
【0054】
[別例1]
図4においてキャリア周波数決定部34は、第1キャリア周波数切換閾値Xf1及び第2キャリア周波数切換閾値Xf2を内部変数として保持している。実施形態で述べたキャリア周波数切換閾値Xfが第2キャリア周波数切換閾値Xf2に相当し、第1キャリア周波数切換閾値Xf1はより大きな値に設定されている。キャリア周波数決定部34は、目標電流指令値CInと負荷電流平均値ADnとの偏差の絶対値|CIn-ADn|を各キャリア周波数切換閾値Xf1,Xf2と比較することにより、PWM信号PWM_cのキャリア周波数fcとして、予め設定された低速処理周波数f_low、中速処理周波数f_middle、高速処理周波数f_highの何れかを選択する。中速処理周波数f_middleは、低速処理周波数f_lowと高速処理周波数f_highとの中間値に設定されている。
【0055】
また、デューティ比算出部33は、低速処理ゲインG_low及び高速制御ゲインG_highに加えて、それらの中間値に相当する中速処理ゲインG_middleを内部変数として保持している。キャリア周波数決定部34から中速処理周波数f_middleが入力されと、デューティ比算出部33は、中速処理ゲインG_middleを選択してデューティ比MVnの算出処理に適用する。
【0056】
以上のキャリア周波数fc及び制御ゲインGの設定処理は、
図7に示すキャリア周波数・制御ゲイン設定ルーチンに基づき実行される。
まずステップS11で目標電流指令値CInと負荷電流平均値ADnとの偏差の絶対値|CIn-ADn|が第1キャリア周波数切換閾値Xf1未満であるか否かを判定し、YesのときにはステップS12に移行し、偏差の絶対値|CIn-ADn|が第2キャリア周波数切換閾値Xf2未満であるか否かを判定する。Yesの判定を下したときには、ステップS13でキャリア周波数fcとして低速処理周波数f_lowを選択し、続くステップS14で制御ゲインGとして低速処理ゲインG_lowを選択した後にルーチンを終了する。
【0057】
また、ステップS12でNoの判定を下したときにはステップS15でキャリア周波数fcとして中速処理周波数f_middleを選択し、続くステップS16で制御ゲインGとして中速処理ゲインG_middleを選択する。また、ステップS11でNoの判定を下したときにはステップS17でキャリア周波数fcとして高速処理周波数f_highを選択し、続くステップS18で制御ゲインGとして高速処理ゲインG_highを選択する。
【0058】
一例を述べると、第1キャリア周波数切換閾値Xf1が目標電流指令値CInの20%に定められ、第2キャリア周波数切換閾値Xf2が目標電流指令値CInの10%に定められている場合、目標電流指令値CIn=500mAのときには、第1キャリア周波数切換閾値Xf1=100mA、第2キャリア周波数切換閾値Xf2=50mAとなる。このとき負荷電流平均値ADn=100mAであった場合、目標電流指令値CInと負荷電流平均値ADnとの偏差の絶対値|CIn-ADn|=400mAとなり、偏差の絶対値|CIn-ADn|が第1キャリア周波数切換閾値Xf1以上であることから、キャリア周波数fcとして高速処理周波数f_highが選択され、制御ゲインGとして高速処理ゲインG_highが選択される。
【0059】
上記条件に基づくフィードバック制御の結果、負荷電流平均値ADnが増加してADn=420mAに達した時点では、目標電流指令値CInと負荷電流平均値ADnとの偏差の絶対値|CIn-ADn|=80mAとなり、偏差の絶対値|CIn-ADn|が第1キャリア周波数切換閾値Xf1未満で、且つ第2キャリア周波数切換閾値Xf2以上になることから、キャリア周波数fcとして中速処理周波数f_middleが選択され、制御ゲインGとして中速処理ゲインG_middleが選択される。
【0060】
さらに、上記条件に基づくフィードバック制御の結果、負荷電流平均値ADnが増加してADn=490mAに達した時点では、目標電流指令値CInと負荷電流平均値ADnとの偏差の絶対値|CIn-ADn|=10mAとなり、偏差の絶対値|CIn-ADn|が第2キャリア周波数切換閾値Xf2未満になることから、キャリア周波数fcとして低速処理周波数f_lowが選択され、制御ゲインGとして低速処理ゲインG_lowが選択される。
【0061】
このような第1及び第2キャリア周波数切換閾値Xf2に基づくキャリア周波数fc及び制御ゲインGの設定により、
図8のタイムチャートで示すように電磁比例弁16の制御が実行される。なお、目標電流指令値CInがCI1からCI2に増加した制御状態を示していることは、
図6の実施形態と同様である。
【0062】
期間t1での制御状況は、上記実施形態と同じく、ほぼ一定の目標電流指令値CInの近傍に負荷電流平均値ADnが保たれた平衡状態にある。そして、目標電流指令値CInがCI1からCI2へとステップ的に増加して期間t2に移行すると、偏差の絶対値|CIn-ADn|が第1キャリア周波数切換閾値Xf1を超えるため、キャリア周波数fcとして高速処理周波数f_highが選択され、制御ゲインGとして高速処理ゲインG_highが選択される。高速処理周波数f_highに基づく短い周期の負荷駆動信号PWMが、高速処理ゲインG_highの適用により目標電流指令値CInと負荷電流平均値ADnとの偏差から求められたデューティ比MVnに基づき生成される。
【0063】
負荷電流平均値ADnは次第に増加し、それに伴って目標電流指令値CInと負荷電流平均値ADnとの偏差の絶対値|CIn-ADn|が低下する。偏差の絶対値|CIn-ADn|が第1キャリア周波数切換閾値Xf1未満になると、キャリア周波数fcとして中速処理周波数f_middleが選択され、制御ゲインGとして中速処理ゲインG_middleが選択される。これにより期間t3に移行し、それまでの期間t2に比較して、負荷駆動信号PWMの周期が長くなり、制御ゲインGが小さくなる。結果として、まず期間t2で速やかに負荷駆動信号PWMが増加し、その後の期間t3で負荷駆動信号PWMの増加が緩やかになる。
【0064】
そして、偏差の絶対値|CIn-ADn|が第2キャリア周波数切換閾値Xf1未満になると、キャリア周波数fcとして低速処理周波数f_lowが選択され、制御ゲインGとして低速処理ゲインG_lowが選択されて、期間t4に移行する。期間t4の制御状況は、上記実施形態の期間t3に相当する内容であり、ほぼ一定の目標電流指令値CInの近傍に負荷電流平均値ADnが保たれた平衡状態にある。
【0065】
以上のように、偏差の絶対値|CIn-ADn|の増減に対応するために負荷駆動信号PWMを増減させる際には、まず期間t2で高速処理周波数f_high及び高速処理ゲインG_highを適用して迅速に負荷駆動信号PWMを増減させ、これにより電磁比例弁16の制御応答性を高める。そして、目標電流指令値CInと負荷電流平均値ADnとの偏差の絶対値|CIn-ADn|がある程度減少した期間t3に移行すると、中速処理周波数f_middle及び中速処理ゲインG_middleに切り換え、より緩やかに負荷駆動信号PWMを増減させている。
【0066】
オペレータがブームレバーの操作量を増加し始めた直後の期間t2では、電磁比例弁16の良好な制御応答性により迅速に油圧ショベル1の動作が変化するため、操作応答性が良好である印象を与えることができる。そして、その後の操作応答性への影響が少ない期間t3では、キャリア周波数fcの低下に伴って演算処理部25の演算負荷を低減できると共に、負荷駆動回路26の発熱量を低減できる。よって、上記実施形態に比較して、相反する2つの要求をより高次元で達成することができる。
【0067】
ところで上記実施形態及び別例1では、キャリア周波数fc及び制御ゲインGを切り換えることで種々の作用効果を達成したが、キャリア周波数fcを切り換える機能は、油圧システムに異常が発生した場合(以下、単にシステム異常と称する場合もある)にも応用できる。以下、この発想を上記実施形態の油圧ショベル1に適用した場合を別例2として説明する。
【0068】
[別例2]
この別例2は、以下の知見に基づくものである。油圧システムに何らかの異常が発生した場合、操作装置19への操作量に対応する正確な操作対象の動作が望めなくなる。しかし、このような双方の乖離は、高速処理周波数f_highへの切換により演算処理部25の演算周期を短くすれば縮小方向に変化する。演算処理部25の演算周期に同期して電磁比例弁16からコントロール弁17の受圧部にパイロット圧が入力されるため、高速処理周波数f_highへの切換により演算処理部25の演算周期が短くなると、受圧部へのパイロット圧の入力周期も短くなる。結果としてコントロール弁17がよりきめ細かく切り換えられ、その作動状態(コントロール弁17自体、或いはコントロール弁17から作動油を供給される油圧アクチュエータ、或いは油圧アクチュエータに駆動される操作対象の何れかの作動状態)がセンサ情報S_inとしてフィードバックされることにより油圧アクチュエータの制御応答性も向上するためである。
【0069】
このような知見に基づき、別例2では
図9のルーチンが実行される。
図5に示す実施形態のルーチンに比較してステップS0の処理が追加されており、このステップS0の処理は、
図3に示す異常判定部41により実行される。異常判定部41は、ステップS0で油圧システムの異常の有無を判定する。
【0070】
システム異常としては、作業フロント5のバケット8の爪先に生じるハンチングを挙げることができる。バケットシリンダ8aに供給される作動油の圧力は種々の要因により変動しており、ハンチングとは、このときの圧力変動がバケット8の固有振動数と一致してバケット8の爪先を微小振動させる現象である。
【0071】
以下、バケット8のハンチングを例示して説明を続けると、バケットシリンダ8aに供給される作動油の圧力は、例えば、バケットシリンダ8aを駆動するコントロール弁17に付設された圧力センサ20(各種センサの1つのため、以下、部材番号20を付す)により検出できる。そこで、ステップS0では、圧力センサ20により検出された圧力の変動状態に基づき判定処理を行う。詳しくは、以下の2つの要件が共に成立したときにハンチング有りの判定を下す。
1)検出した圧力の変動波形が正弦波に近似すること。
2)検出した圧力の変動周期が予めバケット8の固有振動数を中心として設定された判定領域内にあること。
【0072】
これらの要件が成立せず、ハンチング無しとして
図9のステップS0でNoの判定を下したときには、ステップS1に移行する。以降の処理では実施形態と同じく、偏差の絶対値|CIn-ADn|とキャリア周波数切換閾値Xfとの比較に基づき、キャリア周波数fc及び制御ゲインGが高速側と低速側との間で切り換えられる。
【0073】
また、2つの要件が共に成立して、ハンチング有りとしてステップS0でYesの判定を下したときには、ステップS4で高速処理周波数f_highを選択し、ステップS5で高速処理ゲインG_highを選択する。そして、何らかの要因でハンチングが解消されない限り、ステップS0でYesの判定を下してステップS4,5の処理を継続する。従って、たとえ偏差の絶対値|CIn-ADn|がキャリア周波数切換閾値Xf未満になったとしても、ステップS0の判定結果に基づきキャリア周波数fc及び制御ゲインGが高速側に保持される。
【0074】
以上の処理によりバケット8のハンチング発生時には、演算処理部25の演算周期が短くなってコントロール弁17の受圧部へのパイロット圧の入力周期も短くなる。このため、コントロール弁17がよりきめ細かく切り換えられ、その作動状態がセンサ情報S_inとしてフィードバックされて油圧アクチュエータの制御応答性が向上し、システム異常による悪影響を軽減できる。例えば上記バケット8に生じたハンチングの場合には、バケットシリンダ8aに作動油を供給するコントロール弁17がよりきめ細かく切り換えられ、このときの作動油の圧力がセンサ情報S_inとしてフィードバックされる。これによりバケットシリンダ8aの制御応答性が向上するため、ハンチングを軽減してより正常なバケット8の動作に近づけることができる。
【0075】
なお、この別例2においてはシステム異常の発生時に、ステップS0の判定に基づきキャリア周波数fcとして高速処理周波数f_highを選択したが、これに代えてステップ1のキャリア周波数切換判定値Xfを低下させてもよい。この場合でも高速処理周波数f_highが選択されるため、同様の作用効果を達成できる。また、
図9の説明では、システム異常の発生時にキャリア周波数fcと共に制御ゲインGも高速側に保持したが、これに限るものではない。例えば、制御ゲインGについては、偏差の絶対値|CIn-ADn|とキャリア周波数切換閾値Xfとの比較に基づく切換を継続してもよい。
【0076】
また、この別例2の実施によりハンチング等の現象が軽減されるため、オペレータは異常発生を察知し難くなる。そこで、ステップS0で異常発生と判定した場合には、その旨を警告灯や音声案内等でオペレータに報知するようにしてもよい。報知に基づきオペレータはシステム異常の発生を認識し、例えば重大な異常の場合には油圧ショベル1の稼働を中止する等のしかるべき対処を行うことができる。
また、この別例2ではシステム異常の一例として、バケットシリンダ8aに供給される作動油の圧力に基づきバケット8のハンチングを説明したが、これに限るものではなく、システム異常は種々のセンサ情報から判定できる。例えば油圧ショベル1に関しては、各種センサ20により検出される圧力、位置、角度或いは慣性等の検出情報、さらには、それらを組み合わせた情報に基づき、油圧ショベルに発生する種々のシステム異常を判定できる。そして、異常有りと判定したときには、この別例と同様にキャリア周波数fcを高速側に切り換えることによりシステム異常を軽減することができる。
【0077】
以上で実施形態の説明を終えるが、本発明の態様はこの実施形態に限定されるものではない。例えば上記実施形態及び別例1,2では、油圧ショベル1に搭載された電磁比例弁16の制御装置に具体化したが、本発明の電磁弁はこれに限るものではない。負荷駆動信号PWMの供給によりソレノイドのコイルを励磁して、その開度を連続的に変化させる電磁弁であれば任意に変更可能である。また、対象となる分野についても建設機械に限るものではなく、自動車や産業機械等の種々の分野で使用される電磁弁に任意に適用することができる。
【0078】
また上記実施形態及び各別例では、目標電流指令値CInと負荷電流平均値ADnとの偏差の絶対値|CIn-ADn|とキャリア周波数切換閾値Xf,Xf1,Xf2との比較に基づき、キャリア周波数fc及び制御ゲインGを切り換えたが、これに限るものではない。目標電流指令値CInと負荷電流平均値ADnとの乖離状態を反映した指標であれば任意に変更可能であり、例えば、その指標とキャリア周波数fc及び制御ゲインGとの関係を予め設定しておき、指標からキャリア周波数fc及び制御ゲインGを求めてもよい。
【0079】
また上記実施形態及び各別例では、キャリア周波数fcと制御ゲインGを同期して切り換えたが、これに限るものではない。制御対象となる電磁弁の種類や用途によっては、双方を異なる閾値に基づき個別に切り換えてもよい。或いは、予め状況に対応して周波数テーブルや制御ゲインGの重みを設定しておき、それぞれ可変設定するようにしてもよい。また、制御ゲインGについては必ずしも切り換える必要はなく、予め設定した固定値としてもよい。
【符号の説明】
【0080】
1 油圧ショベル(建設機械)
3a 走行用油圧モータ(油圧アクチュエータ)
4a 旋回用油圧モータ(油圧アクチュエータ)
6a ブームシリンダ(油圧アクチュエータ)
7a アームシリンダ(油圧アクチュエータ)
8 バケット
8a バケットシリンダ(油圧アクチュエータ)
16 電磁比例弁(電磁弁)
16a ソレノイド
17 コントロール弁
24 電圧源
26 負荷駆動回路
27 負荷電流検出回路
33 デューティ比算出部
34 キャリア周波数決定部
35 PWM信号生成部
41 異常判定部