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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022152649
(43)【公開日】2022-10-12
(54)【発明の名称】浄水製造方法および浄水製造装置
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/42 20060101AFI20221004BHJP
   B01J 41/05 20170101ALI20221004BHJP
   B01J 49/07 20170101ALI20221004BHJP
   B01D 21/01 20060101ALI20221004BHJP
   C02F 1/52 20060101ALI20221004BHJP
   B01J 41/12 20170101ALI20221004BHJP
   B01J 47/127 20170101ALI20221004BHJP
【FI】
C02F1/42 B
C02F1/42 A
B01J41/05
B01J49/07
B01D21/01 102
C02F1/52 Z
B01J41/12
B01J47/127
B01D21/01 101A
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021055498
(22)【出願日】2021-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】596136316
【氏名又は名称】三菱ケミカルアクア・ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100152146
【弁理士】
【氏名又は名称】伏見 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】竹田 有之
(72)【発明者】
【氏名】ザマン サエド
【テーマコード(参考)】
4D015
4D025
【Fターム(参考)】
4D015BA19
4D015BA23
4D015BB05
4D015BB08
4D015BB11
4D015CA14
4D015DA04
4D015DA05
4D015DA13
4D015DA16
4D015DB03
4D015DB12
4D015DB14
4D015DB19
4D015DC06
4D015DC07
4D015DC08
4D015EA02
4D015EA36
4D015FA02
4D015FA17
4D015FA23
4D015FA24
4D025AA03
4D025AB11
4D025AB14
4D025AB16
4D025AB34
4D025BA13
4D025BA14
4D025BA22
4D025BA25
4D025BB07
4D025CA03
4D025CA05
4D025CA06
4D025CA10
4D025DA05
4D025DA08
4D025DA10
(57)【要約】
【課題】浄水のpHの低下を防ぎながら被処理水から有機物を充分に除去でき、塩化物イオン濃度の回復時間を短縮でき、浄水を安価で提供でき、省スペース化にも適した浄水製造方法および浄水製造装置の提供。
【解決手段】下記工程(1)、下記工程(2)、下記工程(3)および下記工程(4)を含むことを特徴とする、浄水製造方法。
工程(1):炭酸水素イオンと有機物とを少なくとも含む被処理水W1を、被処理水W1Aと被処理水W1Bとに分流する工程。
工程(2):被処理水W1Aを、凝集剤で凝集処理して処理水W2Aとする工程。
工程(3):被処理水W1Bを、塩化物イオンを有する陰イオン交換体41が充填されたイオン交換塔42でイオン交換処理して処理水W2Bとする工程。
工程(4):処理水W2Aと処理水W2Bとを混合して混合処理水W2を得る工程。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記工程(1)、下記工程(2)、下記工程(3)および下記工程(4)を含むことを特徴とする、浄水製造方法。
工程(1):炭酸水素イオンと有機物とを少なくとも含む被処理水を、被処理水Aと被処理水Bとに分流する工程。
工程(2):前記被処理水Aを凝集剤で凝集処理して処理水Aとする工程。
工程(3):前記被処理水Bを、塩化物イオンを有する陰イオン交換体でイオン交換処理して処理水Bとする工程。
工程(4):前記処理水Aと前記処理水Bとを混合して混合処理水を得る工程。
【請求項2】
下記工程(5)をさらに含む、請求項1に記載の浄水製造方法。
工程(5):前記陰イオン交換体を再生剤で再生する工程。
【請求項3】
前記混合処理水のpHが7未満であるか、または、前記混合処理水の塩化物イオン濃度が30mg/L超であるときに、前記工程(1)、前記工程(2)、前記工程(3)および前記工程(4)を行う、請求項1または2に記載の浄水製造方法。
【請求項4】
下記工程(6)をさらに含む、請求項1または2に記載の浄水製造方法。
工程(6):前記混合処理水のpHが7以上の状態を30分以上維持でき、かつ、前記混合処理水の塩化物イオン濃度が30mg/L以下となったときには、前記工程(1)を行わずに、前記被処理水の全量を前記陰イオン交換体でイオン交換処理して浄水とする工程。
【請求項5】
前記被処理水Aの水量が、前記被処理水の水量に対して55体積%以下である、請求項1~4のいずれか一項に記載の浄水製造方法。
【請求項6】
前記凝集剤が、ポリ塩化アルミニウムである、請求項1~5のいずれか一項に記載の浄水製造方法。
【請求項7】
前記ポリ塩化アルミニウムの塩基度が、50%以上である、請求項6に記載の浄水製造方法。
【請求項8】
炭酸水素イオンと有機物とを少なくとも含む被処理水を、被処理水Aと被処理水Bとに分流する分流部と、
前記被処理水Aを凝集剤で凝集処理して処理水Aとする凝集処理部と、
前記被処理水Bを、塩化物イオンを有する陰イオン交換体でイオン交換処理して処理水Bとするイオン交換処理部と、
前記処理水Aと前記処理水Bとを混合して混合処理水を得る混合部と、
を備えることを特徴とする、浄水製造装置。
【請求項9】
前記イオン交換処理部が、前記陰イオン交換体を再生する再生剤を貯留した再生剤タンクを有する、請求項8に記載の浄水製造装置。
【請求項10】
前記混合処理水のpHおよび前記混合処理水の塩化物イオン濃度を測定する水質計をさらに備える、請求項8または9に記載の浄水製造装置。
【請求項11】
前記凝集剤が、ポリ塩化アルミニウムである、請求項8~10のいずれか一項に記載の浄水製造装置。
【請求項12】
前記ポリ塩化アルミニウムの塩基度が、50%以上である、請求項11に記載の浄水製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、浄水製造方法および浄水製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
塩化物イオン(Cl)を有する塩化物イオン形陰イオン交換体が知られている。この塩化物イオン形陰イオン交換体を用いて、地下水、井戸水、湖沼水、河川水、工業排水等の被処理水をイオン交換処理し、被処理水中の硝酸イオン、硫酸イオン等の陰イオンを除去することがある。イオン交換処理後の塩化物イオン形陰イオン交換体は、塩化ナトリウム等の再生剤によって塩化物イオンの存在比を回復させることができる。
【0003】
一方、被処理水には炭酸水素イオン(HCO )、炭酸ガス(CO)が含まれることがある。これら炭酸水素イオン(HCO )等を含む被処理水を、再生後または新品の塩化物イオン形陰イオン交換樹脂で処理すると、被処理水中の炭酸水素イオンが塩化物イオンとイオン交換される。その結果、炭酸水素イオン濃度と炭酸ガス濃度のバランスが変わることで処理水のpHが低下し、省令等で定められる基準値を満たすことが難しくなる。その後、通水を継続して、塩化物イオン形陰イオン交換樹脂の交換容量すべてが炭酸水素イオンと交換されると、イオン交換処理水の炭酸水素濃度、塩化物イオン濃度、pHともに正常値に回復したとしても、その回復時間が長い。
【0004】
陰イオン交換体を用いた被処理水のイオン交換処理において、被処理水中の炭酸水素イオン濃度の減少に起因するpHの低下を防ぐ方法はいくつか提案されている(例えば、特許文献1、2)。
特許文献1では、陰イオン交換樹脂を用いて硝酸イオンを原水から除去する原水中の硝酸イオンの除去方法において、イオン交換樹脂の再生を海水で行う方法が提案されている。再生剤として使用する海水には炭酸水素イオンが含まれるため、再生直後の陰イオン交換樹脂における炭酸水素イオンの存在比が増え、炭酸水素イオンの減少量が低減される。
特許文献2では、塩化物イオン形イオン交換樹脂を用いて飲料水の硝酸イオンを除去する方法において、並列運転される2以上のイオン交換塔を用いることが提案されている。この方法では、炭酸水素イオン濃度の減少した処理水と、既に炭酸水素イオン濃度の回復した他のイオン交換塔からの処理水とを混合することで、炭酸水素イオンの減少量が調節される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平4-322785号公報
【特許文献2】特開昭63-72392号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1の方法では、被処理水中の有機物除去への適用が困難である。有機物を含む被処理水を陰イオン交換樹脂で処理した後、海水を使用して陰イオン交換樹脂を再生すると、陰イオン交換樹脂に吸着された有機物を溶離させることができず、再生後の処理水への有機物の漏洩が増えるおそれがある。
特許文献2の方法では、2塔以上のイオン交換塔の設置を要するため設備コストが高く、浄水を安価で提供できない。また、イオン交換塔自体が大型の設備であるため、より大きな設置スペースが必要である。
加えて、処理水中の高濃度の塩化物イオンは配管等の金属の腐食の原因となる。そのため塩化物イオン形陰イオン交換体を用いたイオン交換処理には、処理水中の塩化物イオン濃度を速やかに低減し、また、その回復時間を短くすることも求められる。
【0007】
本発明は、塩化物イオンを有する陰イオン交換体を用いた浄水の製造において、浄水のpHの低下を防ぎながら被処理水から有機物を充分に除去でき、塩化物イオン濃度の回復時間を短縮でき、浄水を安価で提供でき、省スペース化にも適した浄水製造方法および浄水製造装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、下記の態様を有する。
[1]下記工程(1)、下記工程(2)、下記工程(3)および下記工程(4)を含むことを特徴とする、浄水製造方法。
工程(1):炭酸水素イオンと有機物とを少なくとも含む被処理水を、被処理水Aと被処理水Bとに分流する工程。
工程(2):前記被処理水Aを凝集剤で凝集処理して処理水Aとする工程。
工程(3):前記被処理水Bを、塩化物イオンを有する陰イオン交換体でイオン交換処理して処理水Bとする工程。
工程(4):前記処理水Aと前記処理水Bとを混合して混合処理水を得る工程。
[2] 下記工程(5)をさらに含む、[1]の浄水製造方法。
工程(5):前記陰イオン交換体を再生剤で再生する工程。
[3] 前記混合処理水のpHが7未満であるか、または、前記混合処理水の塩化物イオン濃度が30mg/L超であるときに、前記工程(1)、前記工程(2)、前記工程(3)および前記工程(4)を行う、[1]または[2]の浄水製造方法。
[4] 下記工程(6)をさらに含む、[1]または[2]の浄水製造方法。
工程(6):前記混合処理水のpHが7以上の状態を30分以上維持でき、かつ、前記混合処理水の塩化物イオン濃度が30mg/L以下となったときには、前記工程(1)を行わずに、前記被処理水の全量を前記陰イオン交換体でイオン交換処理して浄水とする工程。
[5] 前記被処理水Aの水量が、前記被処理水の水量に対して55体積%以下である、[1]~[4]のいずれかの浄水製造方法。
[6] 前記凝集剤が、ポリ塩化アルミニウムである、[1]~[5]のいずれかの浄水製造方法。
[7] 前記ポリ塩化アルミニウムの塩基度が、50%以上である、[6]の浄水製造方法。
[8] 炭酸水素イオンと有機物とを少なくとも含む被処理水を、被処理水Aと被処理水Bとに分流する分流部と;前記被処理水Aを凝集剤で凝集処理して処理水Aとする凝集処理部と;前記被処理水Bを、塩化物イオンを有する陰イオン交換体でイオン交換処理して処理水Bとするイオン交換処理部と;前記処理水Aと前記処理水Bとを混合して混合処理水を得る混合部と;を備えることを特徴とする、浄水製造装置。
[9] 前記イオン交換処理部が、前記陰イオン交換体を再生する再生剤を貯留した再生剤タンクを有する、[8]の浄水製造装置。
[10] 前記混合処理水のpHおよび前記混合処理水の塩化物イオン濃度を測定する水質計をさらに備える、[8]または[9]の浄水製造装置。
[11] 前記凝集剤が、ポリ塩化アルミニウムである、[8]~[10]のいずれかの浄水製造装置。
[12] 前記ポリ塩化アルミニウムの塩基度が、50%以上である、[11]の浄水製造装置。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、塩化物イオンを有する陰イオン交換体を用いた浄水の製造において、浄水のpHの低下を防ぎながら被処理水から有機物を充分に除去でき、塩化物イオン濃度の回復時間を短縮でき、浄水を安価で提供でき、省スペース化にも適した浄水製造方法および浄水製造装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】一実施形態に係る浄水製造装置の一例の概略構成図である。
図2】一実施形態に係る浄水製造装置の他の一例の概略構成図である。
図3】一実施形態に係る浄水製造装置の他の一例の概略構成図である。
図4】実施例において、塩化物イオン形陰イオン交換樹脂に通水を開始した後の混合処理水のpHの変化を経時的に測定した結果を示すグラフである。
図5】実施例において、塩化物イオン形陰イオン交換樹脂に通水を開始した後の混合処理水の塩化物イオン濃度の変化を経時的に測定した結果を示すグラフである。
図6】実施例において、塩化物イオン形陰イオン交換樹脂に通水を開始した後のTOCの変化を経時的に測定した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書における以下の用語の意味は以下の通りである。
「アンモニア性窒素」とは、水中にアンモニウム塩として含まれている窒素をいう。アンモニア態窒素ともいう。
「塩化物イオン形陰イオン交換体」とは、塩化物イオンを有する陰イオン交換体を意味する。
数値範囲を示す「~」は、その前後に記載された数値を下限値および上限値として含むことを意味する。
【0012】
<被処理水>
一実施形態において、被処理水は、炭酸水素イオンと有機物とを少なくとも含むものであれば特に限定されない。例えば、地下水、井戸水、湖沼水、河川水、工業排水等が挙げられる。ただし、被処理水はこれらの例示に限定されない。
被処理水は、炭酸水素イオンおよび有機物以外に、硝酸イオン、硫酸イオン、塩化物イオン等の陰イオン;鉄イオン、マンガンイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン等の陽イオン;アンモニア性窒素;細菌等をさらに含むことがある。
【0013】
被処理水の25℃における炭酸水素イオンの濃度は特に限定されないが、例えば、30~500mg/Lの範囲内である。
被処理水の25℃におけるpHも特に限定されないが、例えば、6.0~9.0の範囲内である。
【0014】
被処理水の全有機物炭素(TOC)は特に限定されないが、例えば、1~10mg/Lの範囲内である。
被処理水の有機物の主成分として、フミン酸、フルボ酸等が挙げられる。ただし、被処理水は、これら例示した成分以外の有機物を含むことがある。
【0015】
被処理水の色度は特に限定されない。被処理水の色度は例えば、50度以下が好ましく、30度以下がより好ましい。
被処理水の濁度は例えば、5度以下が好ましく、3度以下がより好ましい。
被処理水の色度、濁度を事前に低減する前処理を被処理水に施してもよい。
【0016】
<浄水製造装置>
図1は、一実施形態に係る浄水製造装置の一例の概略構成図である。図1に示す浄水製造装置1Aは、被処理水ラインL1と;炭酸水素イオンと有機物とを少なくとも含む被処理水W1を、被処理水W1A(被処理水A)と被処理水W1B(被処理水B)とに分流する分流部2と;被処理水W1Aを凝集剤で凝集処理して処理水W2A(処理水A)とする凝集処理部3と;被処理水W1Bを、塩化物イオンを有する陰イオン交換体でイオン交換処理して処理水W2B(処理水B)とするイオン交換処理部4と;処理水W2Aと処理水W2Bとを混合して混合処理水W2(浄水)を得る混合部5と;混合部5と第1の端部が接続された浄水ラインL2と;浄水ラインL2の第1の端部の近傍に設けられた水質計11と;水質計11と電気的に接続された制御装置(図示略)と;水質計11より下流側の浄水ラインL2から分岐した主排出ラインL7と;主排出ラインL7に設けられたバルブV4と;浄水ラインL2にこの順に設けられた酸化剤添加装置6、砂ろ過する砂ろ過塔7および膜ろ過装置8と;浄水ラインL2の第2の端部と接続された処理水タンク10と;処理水タンク10に設けられた殺菌処理装置9と;を備える。
【0017】
被処理水ラインL1の第1の端部は図示略の被処理水W1の供給源と接続され、第2の端部は、ラインL1AとラインL1Bとに分岐している。
分流部2は、被処理水ラインL1の第2の端部から分岐したラインL1AおよびラインL1Bと;ラインL1Aに設けられたバルブV1と;ラインL1Aに設けられ、被処理水W1Aの流量を調整する流量調整手段A(図示略)と;ラインL1Bに設けられ、被処理水W1Bの流量を調整する流量調整手段B(図示略)と;を有する。
分流部2は、ラインL1AおよびラインL1Bの分岐点において、被処理水W1を被処理水W1Aと被処理水W1Bとに任意の流量比で分流できる。
【0018】
凝集処理部3は、バルブV1の下流側の被処理水ラインL1Aと接続された凝集剤ラインL3と;凝集剤ラインL3と接続された凝集剤タンク31と;を有する。
凝集処理部3は、凝集剤タンク31内の凝集剤を被処理水W1AとラインL1A内で混合する。この凝集処理によって、凝集処理部3は被処理水W1A中の有機物等を凝集させて凝集物とし、被処理水W1Aを処理水W2Aとする。処理水W2Aは凝集処理水である。凝集処理水は凝集物を含むが、この凝集物は後段の砂ろ過塔7で除去される。
【0019】
凝集剤としては、例えば、無機凝集剤、高分子凝集剤が挙げられる。これらは単独で使用してもよく、併用してもよい。
無機凝集剤としては、例えば、塩化第二鉄、ポリ硫酸第二鉄等の鉄系無機凝集剤;硫酸アルミニウム、ポリ塩化アルミニウム(PAC)等のアルミニウム系無機凝集剤;等が挙げられる。
高分子凝集剤としては、例えば、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸ソーダ等を主成分とするアニオン系凝集剤;ポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸エステル、アミジン等を主成分とするカチオン系凝集剤;ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸ソーダ、ポリアクリル酸エステル等を主成分とする両性凝集剤;アクリルアミド等を主成分とするノニオン系凝集剤;等が挙げられる。
ただし、凝集剤はこれらの例示に限定されない。
【0020】
凝集剤としてポリ塩化アルミニウムを使う場合、塩基度は50%以上が好ましく、60~75%がより好ましく、70~75%がさらに好ましい。ポリ塩化アルミニウムの塩基度が前記範囲の下限値以上であると、被処理水W1Aから有機物が凝集しやすく、被処理水W1から有機物をさらに充分に除去できる。また、色度も低減しやすい。また、ポリ塩化アルミニウムの塩基度が前記範囲内であると、砂ろ過塔7の処理水W3へのアルミニウムの漏出が少なくなり、膜ろ過装置8での膜閉塞が少なくなると考えられる。塩基度の現実的な上限値は75%である。
ポリ塩化アルミニウムの主成分は、[Al(OH)Cl6-nで表され、(n/6)×100が塩基度として定義される。ここで、nは1~5の整数であり、mは1~10の整数である。
【0021】
イオン交換処理部4は、陰イオン交換体41が充填されたイオン交換塔42と;陰イオン交換体41を再生する再生剤を貯留した再生剤タンク43と;イオン交換塔42と再生剤タンク43とを接続する再生剤ラインL4と;イオン交換塔42の下流側のラインL1Bと接続された排出ラインL5と;排出ラインL5との分岐点のさらに下流側のラインL1Bに設けられたバルブV2と;排出ラインL5に設けられたバルブV3と;を有する。
【0022】
イオン交換処理部4はイオン交換塔42内で、陰イオン交換体41と被処理水W1Bとを接触させ、被処理水W1Bをイオン交換処理する。このイオン交換処理の初期には、陰イオン交換体41の対イオンとしての塩化物イオンと、被処理水W1B中の炭酸水素イオン、硫酸イオン等の無機の陰イオンとがイオン交換される。
その結果、イオン交換処理部4では、炭酸水素イオン、硫酸イオン等の無機の陰イオンが被処理水W1Bから除去される。
ただし、イオン交換樹脂の全交換容量分の無機の陰イオンが塩化物イオンと交換されると、飽和状態になり、これ以上無機の陰イオンが交換されない。その結果、被処理水W1Bとイオン交換処理水W2Bの無機イオン濃度は同じになる。また、被処理水中の有機物も陰イオンの形態として存在するものが多く、イオン交換処理部4では、無機の陰イオンに加えて有機物も被処理水W1Bから除去される。更にイオン状の有機物は無機の陰イオンよりもイオン交換樹脂に対する選択性が高い。そのため全交換容量分の無機の陰イオンが交換された後も、引き続き、イオン状の有機物が被処理水W1Bから除去される。
【0023】
このイオン交換処理によって、イオン交換処理部4は、被処理水W1Bから少なくとも有機物を除去し、被処理水W1Bを処理水W2Bとする。処理水W2Bはイオン交換処理水である。
水処理の進行に伴い、被処理水に含まれている陰イオンが陰イオン交換体41に吸着されるため、陰イオン交換体41のイオン交換基は経時変化する。新品または再生後の陰イオン交換体41には対イオンとして塩化物イオンが多く含まれる。その後、被処理水に含まれている陰イオンが塩化物イオンと交換されるにつれて、陰イオン交換体41の対イオンとしての塩化物イオンが徐々に減少する。
【0024】
陰イオン交換体としては、例えば、塩化物イオン形陰イオン交換樹脂、塩化物イオン形陰イオン交換繊維等が挙げられる。これらは単独で使用してもよく、併用してもよい。
【0025】
圧力損失を低くする点では、塩化物イオン形陰イオン交換樹脂の粒子径は大きいほど好ましい。この点から、塩化物イオン形陰イオン交換樹脂の平均粒子径は100μm以上が好ましく、200μm以上がより好ましく、300μm以上がさらに好ましい。
一方、吸着帯長を最小化し、貫流交換容量を最大化する点では、塩化物イオン形陰イオン交換樹脂の粒子径は小さいほど好ましい。この点から、塩化物イオン形陰イオン交換樹脂の平均粒子径は800μm以下が好ましく、700μm以下がより好ましく、600μm以下がさらに好ましく、500μm以下が特に好ましい。
【0026】
塩化物イオン形陰イオン交換樹脂は、粒度分布を有する樹脂でもよく、粒子径が揃っている均一粒子径の樹脂でもよい。また、塩化物イオン形陰イオン交換樹脂は、ゲル型でもよく、ポーラス型でもよい。
塩化物イオン形陰イオン交換樹脂として強塩基性の塩化物イオン形陰イオン交換樹脂を用いる場合、強塩基性の塩化物イオン形陰イオン交換樹脂はI型でもよく、II型でもよい。
【0027】
塩化物イオン形陰イオン交換樹脂としては市販品を用いてもよい。例えばザ・ダウ・ケミカル・カンパニー製のアンバーライト「IRA402」、「IRA901」、「XT5007」、「IRA958」、「IRA458」、ダウエックスマラソン「A」、「A2」、「SBR」、「MSA」、「MSA-1」、「C」、「C-1」、デュオライト「A132」;ピュロライト株式会社製のピュロファイン「PFA850」;ランクセス社製のレバチット「MP500」、「M500」、「MP504」、「A8071」;イオン・エクスチェンジ・インディア社製の「インディオンA930」;杭州争光樹脂有限公司製の「争光ZGD730」;三菱ケミカル株式会社製のダイヤイオン「SA10A」、「SA12A」、「SA20A」、「PA308」や、リライト「JA800」、「JA810」等が挙げられる。
【0028】
陰イオン交換繊維を構成する繊維は、短繊維でもよく、長繊維でもよい。陰イオン交換繊維はグラフト重合タイプであってもよい。
陰イオン交換繊維の平均繊維径は、1μm以上が好ましく、10μm以上がより好ましい。また、陰イオン交換繊維の平均繊維径は、1mm以下が好ましく、500μm以下がより好ましく、100μm以下がさらに好ましく、50μm以下が特に好ましい。
陰イオン交換繊維としては市販品を用いてもよい、例えば株式会社ニチビ製の「IEF-SA」等が挙げられる。
【0029】
イオン交換処理部4は、イオン交換処理を行った後、再生剤タンク43から再生剤をイオン交換塔42内に供給することで、陰イオン交換体41の対イオンを塩化物イオンに戻して再生できる。
【0030】
再生剤は、陰イオン交換体に吸着した有機物を溶離できれば特に限定されない。例えば、2段以上再生の場合、前段の再生剤としては有機物を交換しやすいものであれば特に限定されない。例えば硫酸ナトリウム、硫酸アンモニウム、水酸化ナトリウム、臭化ナトリウム、硫酸、塩酸等の水溶液が挙げられる。
最終段の再生剤としては、陰イオン交換体の対イオンが塩化物イオンとなることから、塩化ナトリウム水溶液、塩化カリウム水溶液が好ましい。
【0031】
混合部5は、ラインL1AとラインL1Bとが合流して浄水ラインL2の第1の端部と接続されることで構成されている。混合部5においては、ラインL1AとラインL1Bとが合流するため、ラインL1A内の処理水W2AとラインL1B内の処理水W2Bとを混合できる。
【0032】
水質計11は、混合処理水W2のpHおよび塩化物イオン濃度を測定する。水質計11は、図示略の制御装置と電気的に接続されているため、測定値を当該制御装置に送信できる。
図示略の制御装置は水質計11の測定データを受信し、混合処理水W2の水質に応じて浄水製造装置1A全体の処理を制御する。
【0033】
図示略の制御装置は、水質計11に加えて、流量調整手段A(図示略)、流量調整手段B(図示略)、バルブV1、バルブV2、バルブV3およびバルブV4とそれぞれ電気的に接続されている。そのため、制御装置は受信した水質計11の測定データを基にバルブV1、バルブV2、バルブV3、バルブV4に開閉信号を送信し、分流部2、凝集処理部3、イオン交換処理部4、混合部5における各処理を制御できる。また、制御装置は流量調整手段Aおよび流量調整手段Bに流量値を指示して、被処理水Bの流量に対する被処理水Aの流量の比(流量比AB)を調整できる。
【0034】
例えば、分流部2、凝集処理部3の各処理を行う場合、制御装置は、バルブV1、バルブV2を開状態とし、バルブV3を閉状態とするよう指示できる。
凝集処理部3の処理を一時停止し、イオン交換処理部4の処理を選択的に行う場合、制御装置は、バルブV2を開状態とし、バルブV1、バルブV3を閉状態とするよう指示できる。また、再生剤で陰イオン交換体41を塩化物イオン形に再生する処理を行う場合、制御装置は、バルブV3を開状態とし、バルブV2を閉状態とするよう指示できる。
【0035】
図示略の制御装置は、混合処理水W2のpHが7未満であるか、または、混合処理水W2の塩化物イオン濃度が30mg/L超であるときに、バルブV4を開状態とし、主排出ラインL7から混合処理水W2が排出されるよう制御できる。
また、図示略の制御装置は、混合処理水W2のpHが7以上となり、かつ、混合処理水W2の塩化物イオン濃度が30mg/L以下となったときには、バルブV4を閉状態とし、混合処理水W2を処理水タンク10に向けて送水するよう制御できる。
【0036】
浄水製造装置1Aにおいては、酸化剤添加装置6、砂ろ過塔7、膜ろ過装置8が浄水ラインL2にこの順に設けられている。
酸化剤添加装置6は、浄水ラインL2と接続された酸化剤ラインL6と;酸化剤ラインL6の一端と接続された酸化剤タンク61と;を有する。
【0037】
鉄イオン、マンガンイオン等の金属イオンが被処理水W1に含まれる場合、酸化剤タンク61の酸化剤を浄水ラインL2内で混合することで、鉄イオン、マンガンイオン等の金属イオンを酸化して析出させることができる。
また、アンモニア性窒素が被処理水W1に含まれる場合、酸化剤タンク61の酸化剤によってアンモニア性窒素を酸化することもできる。
酸化剤は特に限定されないが、例えば、次亜塩素酸ナトリウム、二酸化塩素、オゾンが挙げられる。空気を供給して空気中の酸素を酸化剤として用いてもよい。
【0038】
砂ろ過塔7は、凝集処理部3で発生した凝集物や酸化剤添加装置6で発生した析出物を混合処理水W2からろ過する。砂ろ過塔7は混合処理水W2からこれら凝集物等を除去してろ過水W3(浄水)とする。
【0039】
膜ろ過装置8は分離膜を有する。膜ろ過装置8はこの分離膜によって、ろ過水W3の塩化物イオン、有機物、アンモニア性窒素、微細粒子、細菌等をさらに除去する。膜ろ過装置8はろ過水W3を透過水W4(浄水)とする。
分離膜は特に限定されない。例えば、逆浸透膜、ナノ膜、限外ろ過膜、精密ろ過膜が挙げられる。
【0040】
処理水タンク10は処理水を貯留するためのタンクである。処理水タンク10には殺菌処理装置9が設けられている。殺菌処理装置9は、処理水タンク10と接続された殺菌剤ラインL8と;殺菌剤ラインL8の一端と接続された殺菌剤タンク91と;を有する。
殺菌剤は特に限定されない。例えば、次亜塩素酸ナトリウムが挙げられる。殺菌剤の使用により、処理水の細菌繁殖を抑制できる。
処理水タンク10の貯留水の用途は特に限定されない。例えば、生活用水、飲用水等としての用途が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0041】
(作用機序)
以上説明した浄水製造装置1Aは、被処理水W1を被処理水W1A(被処理水A)と被処理水W1B(被処理水B)とに分流する分流部2と;被処理水W1Aを凝集剤で凝集処理して処理水W2A(処理水A)とする凝集処理部3と;を有する。そのため、イオン交換処理水や混合処理水W2のpHが低いときや塩化物イオン濃度が高いときに、混合処理水W2の炭酸水素イオンが回復するまでの間、凝集処理部3で被処理水W1の一部を処理できる。その結果、大型な設備であるイオン交換塔の数を2以上とする必要がなくなるため、投資コストを低減でき、浄水を安価で提供できる。
また、再生直後または新品の塩化物イオン形陰イオン交換樹脂を用いるときは、分流部2で被処理水W1の一部を凝集処理部3で処理することで、イオン交換処理部4の処理に起因する浄水のpHの低下を防ぎ、かつ、浄水の塩化物イオン濃度の上昇も抑制できる。
したがって、浄水製造装置1Aによれば、浄水のpHの低下を防ぎながら被処理水から有機物を充分に除去でき、塩化物イオン濃度の回復時間を短縮でき、処理水中の高濃度の塩化物イオンにより配管等の金属腐食を抑制することが可能である。また、特許文献2のように複数のイオン交換塔は必要ではないため、浄水を安価で提供でき、省スペース化にも適している。
【0042】
<浄水製造方法>
一実施形態に係る浄水製造方法は、下記工程(1)、下記工程(2)、下記工程(3)および下記工程(4)を含むことを特徴とする。
工程(1):炭酸水素イオンと有機物とを少なくとも含む被処理水を、被処理水Aと被処理水Bとに分流する工程。
工程(2):被処理水Aを凝集剤で凝集処理して処理水Aとする工程。
工程(3):被処理水Bを、塩化物イオンを有する陰イオン交換体でイオン交換処理して処理水Bとする工程。
工程(4):処理水Aと処理水Bとを混合して混合処理水を得る工程。
【0043】
(工程(1))
工程(1)は、炭酸水素イオンと有機物とを少なくとも含む被処理水を、被処理水Aと被処理水Bとに分流する工程である。被処理水A、被処理水Bは同一の被処理水から得られるため、被処理水A、被処理水Bの水質は互いに同一である。工程(1)は、被処理水を被処理水Aと被処理水Bとに分流する分流工程であるとも言える。
例えば、図1に示す浄水製造装置1Aにおいては、ラインL1AとラインL1Bとの分岐点で被処理水W1Aと被処理水W1Bとに分流される。
【0044】
分流に際して、被処理水Bの流量に対する被処理水Aの流量の比(流量比AB)は、炭酸水素イオン濃度、TOC、色度によって決定してもよく、工程(2)による有機物、色度の除去能に応じて決定してもよく、省令で定められた基準値に応じて決定してもよい。
【0045】
例えば、被処理水の炭酸水素イオン濃度が比較的低い場合、流量比ABは小さくても浄水のpHの上昇を抑制できる。一方、被処理水の炭酸水素イオン濃度が比較的高い場合、pHの上昇を抑制する点から流量比ABは大きくすることが好ましい。
また、被処理水のTOC、色度が比較的高い場合、有機物を被処理水から除去する点で流量比ABはなるべく小さくすることが好ましい。一方、被処理水のTOC、色度が比較的低い場合、流量比ABが大きくても、有機物を効果的に被処理水から除去できる。
ただし、工程(2)によるTOC、色度の除去能が比較的高ければ、流量比ABが大きくても有機物を被処理水から充分に除去できる。
以上の技術的事項を考慮すると、例えば、被処理水が地下水であり、浄水を飲用水として利用する場合、被処理水Aの水量は、被処理水の水量に対して55体積%以下が好ましく、15~55体積%がより好ましく、25~45体積%がさらに好ましい。
【0046】
(工程(2))
工程(2)は、被処理水Aを凝集剤で凝集処理して処理水Aとする工程である。工程(2)は、被処理水Aを凝集処理する凝集工程であるとも言える。
例えば、図1に示す浄水製造装置1Aにおいては、ラインL1A内で被処理水W1Aが凝集剤タンク31からの凝集剤と混合される。凝集剤の混合後、被処理水W1Aから有機物等が凝集して析出し、処理水W2AとしてラインL1Aを流れる。
凝集剤の詳細および好ましい態様は<浄水製造装置>の項で説明した内容と同様である。
また、凝集剤の使用量は特に限定されない。例えば、ポリ塩化アルミニウムの場合は30~100mg/Lの範囲とすることができる。
【0047】
工程(2)において、被処理水Aの通水速度は、水質によって変更可能であるが、例えば線速度(LV)で0.5~2.0m/sが好ましく、1.0~1.5m/sがより好ましい。被処理水Aの通水速度が前記範囲の下限値以上であると、処理効率が充分に確保されやすい。被処理水Aの通水速度が前記範囲の上限値以下であると、工程(2)による有機物、色度の除去能を充分に確保しやすい。
【0048】
工程(2)においては、処理水AのpHを調整してもよい。例えば、pH調整剤を処理水Aと混合してもよい。この場合、pH調整剤の使用量は、pHが6~7の範囲内となればよく、特に限定されない。
【0049】
(工程(3))
工程(3)は、被処理水Bを陰イオン交換体でイオン交換処理して処理水Bとする工程である。工程(3)は、イオン交換処理工程であるとも言える。
例えば、図1に示す浄水製造装置1Aにおいては、被処理水W1Bがイオン交換塔42を通過する際、陰イオン交換体41と接触し、被処理水W1Bがイオン交換処理される。被処理水W1Bが陰イオン交換体41と接触することで、炭酸水素イオン等の陰イオンおよび有機物が被処理水W1Bから除去される。
【0050】
工程(3)において、被処理水Bの通水速度は、水質によって変更可能であるが、例えば空間速度(SV)で5~100hr-1が好ましく、8~50hr-1がより好ましく、10~20hr-1がさらに好ましい。通水速度が前記範囲の下限値以上であると、処理効率が充分に確保されやすい。通水速度が前記範囲の上限値以下であると、塩化物イオン形陰イオンを含む交換体の充填量を少なくし、更なる小型化を実現しやすいと考えられる。
【0051】
イオン交換塔42に通水される被処理水Bの温度は4~50℃が好ましく、10~40℃がより好ましく、10~35℃がさらに好ましい。通水時の被処理水Bの温度が前記範囲の下限値以上であると、処理量を確保しやすい。通水時の被処理水Bの温度が前記範囲の上限値以下であると、形陰イオン交換体の分解およびその溶出量を抑制しやすい。
【0052】
(工程(4))
工程(4)は、処理水Aと処理水Bとを混合して混合処理水を得る工程である。
例えば、図1に示す浄水製造装置1Aにおいては、ラインL1AとラインL1Bとの合流点で処理水W2Aと処理水W2Bとが混合され、混合処理水W2が得られる。混合処理水W2は浄水ラインL2を流れ、酸化剤添加装置6、砂ろ過塔7の処理を順次受け、ろ過水W3となる。その後、ろ過水W3は膜ろ過装置8の処理を受け、透過水W4となり、処理水タンク10に送水される。処理水タンク10では、殺菌処理が必要に応じて行われる。
【0053】
(工程(5))
一実施形態に係る浄水製造方法は、下記工程(5)をさらに含んでもよい。
工程(5):陰イオン交換体を再生剤で再生する工程。
【0054】
工程(5)は、再生工程であるとも言える。例えば、図1に示す浄水製造装置1Aにおいては、バルブV2を閉状態とし、バルブV3を開状態とし、再生剤タンク43からの再生剤をイオン交換塔42に供給できる。
イオン交換塔42へ供給された再生剤は、陰イオン交換体41と接触し、イオン交換塔42を通過する。このとき陰イオン交換体41が再生され、その対イオンが塩化物イオンに戻される。その後、再生剤は排出ラインL5を通って系外へ排出される。
【0055】
再生剤は、陰イオン交換体に吸着した有機物を溶離できれば特に限定されない。例えば、2段以上再生の場合、前段の再生剤としては有機物を交換しやすいものであれば特に限定されず、例えば、硫酸ナトリウム、硫酸アンモニウム、水酸化ナトリウム、臭化ナトリウム、硫酸、塩酸等の水溶液が挙げられる。最終段の再生剤としては、陰イオン交換体の対イオンが塩化物イオンとなることから、塩化ナトリウム水溶液、塩化カリウム水溶液が好ましい。
【0056】
一実施形態に係る浄水製造方法においては、混合処理水のpHが7未満であるか、または混合処理水の塩化物イオン濃度が30mg/L超であるときに、工程(1)、工程(2)、工程(3)および工程(4)を行うことが好ましい。
混合処理水のpHが7未満となり、混合処理水の塩化物イオン濃度が30mg/L超となる場合の一例として、工程(5)を行った後の塩化物イオン形陰イオン交換体や新品の塩化物イオン形陰イオン交換体でイオン交換工程を行った場合が想定される。
【0057】
工程(1)、工程(2)、工程(3)および工程(4)を行うことで、混合処理水のpHが7以上に維持され、塩化物イオン濃度が30mg/L以下となれば、陰イオン交換体における炭酸水素イオンの存在比がある程度上昇していると考えられる。そのため、分流工程や凝集処理工程を行う必要性も少ない。
よって混合処理水のpHが7未満であるか、または混合処理水の塩化物イオン濃度が30mg/L超であるときに、混合処理水のpHが7以上となり、塩化物イオン濃度が30mg/L以下となるまで、工程(1)、工程(2)、工程(3)および工程(4)を行うことで、必要以上に凝集剤を使用せずに済み、浄水の製造単価をより低く抑えることができる。
【0058】
混合処理水のpHが7未満であるか、または混合処理水の塩化物イオン濃度が30mg/L超であると、混合処理水が省令で定められた基準値を満たしにくい。また、配管等の金属の腐食の原因となる。そのため、このような混合処理水は飲用水等として利用しにくく、原則として主排水ラインL7から廃棄せざるを得ない。一方で、混合処理水のpHが7以上となり、塩化物イオン濃度が30mg/L以下となれば、混合処理水を飲用水等として利用しやすい。
したがって、混合処理水のpHが7未満であるか、または混合処理水の塩化物イオン濃度が30mg/L超であるときに、工程(1)、工程(2)、工程(3)および工程(4)を行うことで、被処理水から飲用水等の処理水を得る収率も高くなる。
【0059】
例えば、図1に示す浄水製造装置1Aにおいては、混合処理水W2のpHが7未満であるか、または、混合処理水W2の塩化物イオン濃度が30mg/L超であるときは、バルブV4を開状態とし、主排出ラインL7から混合処理水W2を排出してもよい。このとき、バルブV1、V2を開状態とし、バルブV3を閉状態とすることで、工程(1)、工程(2)、工程(3)および工程(4)を行うことができる。
【0060】
(工程(6))
一実施形態に係る浄水製造方法は、下記工程(6)をさらに含んでもよい。
工程(6):混合処理水のpHが7以上の状態を30分以上維持でき、かつ、混合処理水の塩化物イオン濃度が30mg/L以下となったときには、工程(1)を行わずに、被処理水の全量を陰イオン交換体でイオン交換処理して浄水とする工程。
工程(6)のように、混合処理水のpHが7以上の状態を30分以上維持でき、かつ、混合処理水の塩化物イオン濃度が30mg/L以下であるときに、被処理水は分流工程を行わずに、直接陰イオン交換体に通水することが好ましい。
【0061】
例えば、工程(5)を行った後や新品の塩化物イオン形陰イオン交換体を使用した場合、混合処理水のpHは工程(1)~工程(4)を行うことで7以上の状態を30分以上維持されやすい。一方で、塩化物イオン濃度は30mg/Lを一時的に超えるが、工程(1)~工程(4)を行うことで徐々に低くなり、やがて30mg/L以下となる。
そして、塩化物イオン濃度が30mg/L以下となったときには、陰イオン交換体における炭酸水素イオンの存在比がある程度上昇しており、凝集処理工程を行う必要性も少ないと考えられる。
また、混合処理水のpHが経時変化しており、pHが7以上になる状態を一定時間以上維持することが必要である。
よって、混合処理水のpHが7以上の状態を30分以上維持でき、かつ、混合処理水の塩化物イオン濃度が30mg/L以下となったときには、工程(1)を行わずに、被処理水の全量を陰イオン交換体でイオン交換処理して浄水とすることが好ましい。この構成によれば、イオン交換処理と凝集処理を並列して行うときよりも効果的に有機物を被処理水から除去でき、しかも、無駄な凝集剤を使用しなくて済むため、さらに安価で浄水を提供できる。
【0062】
例えば、図1に示す浄水製造装置1Aにおいて、混合処理水のpHが7以上となり、かつ、混合処理水の塩化物イオン濃度が30mg/L以下となったときには、バルブV1、バルブV3、バルブV4を閉状態とし、バルブV2を開状態とする。このとき、工程(1)を行わずに、被処理水W1の全量をイオン交換塔42に通水してイオン交換処理できる。
【0063】
(作用機序)
以上説明した一実施形態に係る浄水製造方法は、被処理水を被処理水Aと被処理水Bとに分流する工程(1)と;被処理水Aを凝集剤で凝集処理して処理水Aとする工程(2)を含む。この構成によれば、イオン交換処理水のpHが低いときや塩化物イオン濃度が高いときにおいて、イオン交換処理水の炭酸水素イオン濃度がある程度の水準に回復するまでの間、被処理水の一部を凝集処理できる。そのため、大型な設備であるイオン交換塔の数を2以上とする必要がなくなり、投資コストを低減でき、浄水を安価で提供できる。
また、再生直後または新品の塩化物イオン形陰イオン交換樹脂を用いるときは、分流した被処理水の一部、すなわち被処理水Aを凝集処理することで、イオン交換処理に起因する浄水のpHの低下を防ぎ、かつ、浄水の塩化物イオン濃度を素早く低減できる。
したがって、浄水のpHの低下を防ぎながら被処理水から有機物を充分に除去でき、塩化物イオン濃度の回復時間を短縮でき、処理水中の高濃度の塩化物イオンにより配管等の金属腐食を抑制することが可能である。また、特許文献2のように複数のイオン交換塔は必要ではないため、浄水を安価で提供でき、省スペース化にも適している。
【0064】
特に、再生後または新品の塩化物イオン形陰イオン交換樹脂で処理を開始した直後には、処理水Bの塩化物イオン濃度が30mg/L超となりやすい。このとき、工程(1)、工程(2)、工程(3)および工程(4)を行うと、pHが従来法より確実に7以上に維持されやすく、また、塩化物イオン濃度も速やかに30mg/L以下に低下しやすい。
例えば、工程(5)を行った後、塩化物イオン濃度が30mg/L以下まで低減するのに要する時間は、20時間以内が好ましく、15時間以内がより好ましく、10時間以内がさらに好ましい。
【0065】
以上一実施形態例を示して一実施形態について説明したが、本発明は本明細書に開示の実施形態例に限定されず、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施できる。本明細書に開示の実施形態は、その他の様々な形態で実施可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置換、変更が可能である。
【0066】
例えば、図2に示す浄水製造装置1Bにおいては、混合処理水タンク20が砂ろ過塔7の上流側の浄水ラインL2に設けられている。浄水製造装置1Bによれば、混合処理水のpHが7未満であるか、または混合処理水の塩化物イオン濃度が30mg/L超であるため混合処理水W2を排出せざるを得ないときでも、混合処理水タンク20の混合処理水W2を用いてろ過水W3、透過水W4を製造できる。
【0067】
他にも、図3に示す浄水製造装置1Cのように、酸化剤添加装置6は凝集剤ラインL3との接続点より下流側のラインL1Aに設けられていてもよい。また、処理水W2Bを貯留するイオン交換処理水タンク30が、バルブV2より下流側のラインL1Bに設けられてもよい。イオン交換処理水タンク30にも細菌繁殖を抑制するために殺菌処理装置9が設けられている。
図3に示す浄水製造装置1Cにおいては、処理水W2Aに酸化剤を添加できる。また、イオン交換処理水をイオン交換処理水タンク30に貯留でき、混合処理水W2のpHの調整や塩化物イオン濃度の調整を行うこともできる。この場合、イオン交換処理水タンク30のイオン交換処理水の細菌繁殖を抑制するために殺菌処理を殺菌処理装置9によって行うことが好ましい。
【0068】
他にも、必要に応じて、ラインL1Aの途中に、凝集剤と有機物の反応時間をより多くして反応時間を確保するため、凝集反応槽を設けてもよい。これにより、処理水の水質がさらに向上する。
また、上述の実施形態例においては「ライン」の語句を用いて流体の流れる場所を説明したが、各ラインは配管のような密閉されたラインでもよく、大気開放された流路でもよい。
【実施例0069】
以下に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の記載に限定されない。
【0070】
<被処理水>
本実施例および比較例においては、被処理水として地下水を使用した。この地下水のTOCは2.4mg/Lであり、炭酸水素イオン濃度は100mg/Lであり、pHは8.1であった。
【0071】
<凝集剤>
凝集剤(1):ポリ塩化アルミニウム(塩基度50%)
凝集剤(2):超高塩基度ポリ塩化アルミニウム(塩基度70%、多木化学株式会社製「PAC700A」)
【0072】
<陰イオン交換体>
陰イオン交換体として、塩化物イオン形の陰イオン交換樹脂(レバチット社製「A8071」)を使用した。
【0073】
<測定方法>
(TOC)
JIS K-0101に準拠して測定した。
【0074】
(pH)
水質計(D73S「堀場製作所製」)を用いて測定した。pHについては、測定値が変動することが想定されることから経時的にpH変化を観察し、1分間以上変動が認められなくなった時の値を測定値とした。
【0075】
(塩化物イオン濃度)
吸光光度計(DR1900「HACH製」)を用いて測定した。また、処理開始後、塩化物イオン濃度の値が30mg/L以下となるのに要した時間[h]を「Clの低減時間」として記録した。
【0076】
<評価方法>
(TOC評価)
以下の基準にしたがって、評価した。
◎:処理開始後1時間経過したときのTOCが0.8mg/L以下である。
〇:処理開始後1時間経過したときのTOCが0.8mg/L超0.9mg/L以下である。
△:処理開始後1時間経過したときのTOCが0.9mg/L超1.0mg/L以下である。
×:処理開始後1時間経過したときのTOCが1.0mg/L超である。
【0077】
(pH評価)
以下の基準にしたがって、評価した。
〇:処理開始後、30分以上pHが7以上の状態を維持できる。
×:処理開始後、30分以上pHが7以上の状態を維持できない。
【0078】
(塩化物イオン評価)
以下の基準にしたがって、評価した。
◎:Clの低減時間が13時間未満である。
〇:Clの低減時間が13時間以上16時間未満である。
△:Clの低減時間が16時間以上18時間未満である。
×:Clの低減時間が18時間以上である。
【0079】
(総合評価)
以下の基準にしたがって、総合的に処理後の水質を評価した。
◎:TOC評価が「◎」であり、pH評価が「〇」であり、塩化物イオン評価の結果が「◎」または「〇」である。
〇:TOC評価が「〇」であり、pH評価が「〇」であり、塩化物イオン評価の結果が「◎」、「〇」または「△」である。
△:TOC評価が「△」である。
×:TOC評価、pH評価、塩化物イオン評価のいずれか少なくとも1つが「×」である。
【0080】
<実施例1>
被処理水を被処理水A、Bに分流した。その後、被処理水Aを凝集剤(1)で凝集処理して処理水Aとした。被処理水に対する被処理水Aの流量比を30体積%とし、凝集剤(1)の使用量は50mg/Lとした。
一方、被処理水Bを塩化物イオン形陰イオン交換樹脂でイオン交換処理して処理水Bとした。その後、処理水Aと処理水Bとを混合して混合処理水を得た。この混合処理水に対しては、酸化剤を添加せず、砂ろ過装置、膜ろ過装置、殺菌剤はいずれも使用しなかった。混合処理水について、pH、塩化物イオン濃度、TOCを測定した。
【0081】
<実施例2>
凝集剤(1)を凝集剤(2)に替えた以外は、実施例1と同様にして混合処理水を得た。混合処理水について、pH、塩化物イオン濃度、TOCを測定した。
【0082】
<比較例1>
被処理水の全量のうち、70体積%を塩化物イオン形陰イオン交換樹脂でイオン交換処理し、イオン交換処理水を得た。その後、イオン交換処理水に被処理水の残部(未処理の地下水)をバイパス量として30体積%添加し、混合処理水とした。混合処理水について、pH、塩化物イオン濃度、TOCを測定した。
【0083】
<比較例2>
被処理水を分流せず、被処理水の全量を塩化物イオン形陰イオン交換樹脂でイオン交換処理し、イオン交換処理水を得た。このイオン交換処理後の処理水について、pH、塩化物イオン濃度、TOCを測定した。
【0084】
【表1】
【0085】
表1に、実施例1、2および比較例1、2の測定結果を示す。表1の混合処理水のpHは地下水の処理開始後1時間経過したときの値である。また、Clの低減時間[h]は、地下水の処理開始後、塩化物イオン濃度の値が30mg/L以下となるのに要した時間である。
【0086】
表1に示すように、実施例1、2および比較例1では処理開始後1時間経過したときのpHが8.0に回復していたのに対し、比較例2では当該pHが6.5であった。
図4は、塩化物イオン形陰イオン交換樹脂に通水を開始した後のpHの混合処理水のpHの変化を経時的に測定した結果を示す。図4に示すように、比較例2ではpHが7未満に低下したのに対し、実施例1、2および比較例1では、pHを7以上に維持できた。
【0087】
表1に示すように、実施例1、2および比較例1ではClの低減時間が15時間程度であったのに対し、比較例2では、当該低減時間が20時間であった。
図5は、塩化物イオン形陰イオン交換樹脂に通水を開始した後のpHの混合処理水のpHの変化を経時的に測定した結果を示す。図5に示すように、実施例1、2および比較例1では、比較例2よりも速やかに塩化物イオン濃度が減少し、30mg/L以下の水準を実現できた。
【0088】
ここで比較例1でもpHを7以上に維持でき、Clの低減時間が実施例と同水準であったのは、未処理の地下水をバイパスして混合したためである。つまり、比較例1では分流および凝集処理を行っていない。そのため、比較例1ではTOCが高くなり、有機物を充分に除去できなかった。実際、図6に示すように、比較例1では、通水開始時後のTOC濃度が常に高水準で推移していた。
【0089】
<実施例3~8>
表1に示すように、被処理水Aと被処理水Bの流量比を変更した以外は、実施例2と同様にして混合処理水を得た。各混合処理水について、pH、塩化物イオン濃度、TOCを測定した。
【0090】
【表2】
【0091】
表2に示すように、実施例3~8においても、TOCが1.0mg/L未満の水準であり、有機物を地下水から充分に除去できた。また、処理開始後1時間経過したときのpHを7.0以上とすることができ、pHの上昇を抑制できた。そして、Clの低減時間も17時間以下に抑えることができた。
特に、被処理水Aの流量比を55%以下とした実施例4~7では、いずれもTOCが0.9mg/L未満であり、Clの低減時間も15時間以下に抑えられ、飲用水用途に好適な処理条件であった。
【符号の説明】
【0092】
1 浄水製造装置
2 分流部
3 凝集処理部
4 イオン交換処理部
5 混合部
6 酸化剤添加装置
7 砂ろ過塔
8 膜ろ過装置
9 殺菌処理装置
10 処理水タンク
図1
図2
図3
図4
図5
図6