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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022152678
(43)【公開日】2022-10-12
(54)【発明の名称】パールカン産生促進剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 36/54 20060101AFI20221004BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20221004BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20221004BHJP
   A61K 8/9789 20170101ALI20221004BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20221004BHJP
【FI】
A61K36/54
A61P17/00
A61P43/00 105
A61K8/9789
A61Q19/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021055534
(22)【出願日】2021-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】591230619
【氏名又は名称】株式会社ナリス化粧品
(72)【発明者】
【氏名】上田 浩士
【テーマコード(参考)】
4C083
4C088
【Fターム(参考)】
4C083AA111
4C083AA112
4C083AA122
4C083AB032
4C083AC122
4C083AC182
4C083AC242
4C083AC422
4C083AC442
4C083AD022
4C083AD092
4C083AD112
4C083BB51
4C083CC03
4C083DD33
4C083EE13
4C088AB33
4C088BA08
4C088CA08
4C088MA63
4C088NA14
4C088ZA89
4C088ZC01
(57)【要約】
【課題】 本発明は、パールカン産生促進剤、乳頭突起構造改善剤の提供を課題とする。
【解決手段】 本発明者らは上述の課題解決のために鋭意研究した結果、パールカン産生促進、乳頭突起構造改善について烏薬葉抽出物に顕著な効果を見出し、上記課題を解決した。
【発明の効果】
本発明によれば、パールカン産生促進剤、乳頭突起構造改善剤を提供することが可能となる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
烏薬葉抽出物を含有したパールカン(Perlecan)産生促進剤。
【請求項2】
烏薬葉抽出物を含有した乳頭突起構造改善剤。
【請求項3】
パールカン産生を促すための烏薬葉抽出物又は烏薬葉抽出物含有組成物の使用。
【請求項4】
乳頭突起構造改善のための烏薬葉抽出物又は烏薬葉抽出物含有組成物の使用。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、烏薬葉抽出物を含有したパールカン産生促進剤に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚は人体が外気と接する表層から順に表皮、真皮、皮下組織の3層から構成されている。表皮は、ケラチノサイト(角化細胞)という細胞からなり、真皮に近い深部から基底層、有棘層、顆粒層、角質層に分類される。表皮では分裂によりケラチノサイトが基底層から角層に向けて押し上げられ、表層から順にいわゆる垢として剥がれ落ちる。
【0003】
真皮は表皮に近い乳頭層と、それより深部に存在する網状層に分類される。乳頭層は主としてコラーゲンから構成される膠原線維とエラスチンから構成される弾性線維、その他の細胞外マトリックス成分、ファイブロブラスト(線維芽細胞)を含む。網状層は乳頭層よりも厚く、真皮の大部分を占める層である。網状層もコラーゲンから構成される膠原線維とエラスチンから構成される弾性線維を含むが、乳頭層の膠原線維よりも太く、乳頭層の弾性線維よりも成熟している。
【0004】
乳頭層の上層部には表皮に向けて突出した乳頭突起が形成されている。この乳頭突起の間に表皮層が入り込み、表皮と真皮の間で、真皮層の乳頭層と表皮層が相互にかみ合った凹凸構造が形成されている。表皮層と真皮層の間は表皮基底膜と呼ばれる膜構造で隔てられており、乳頭突起は表皮層、真皮層、表皮基底膜から構成される構造物であるといえる。
【0005】
真皮と表皮の間では乳頭突起を介してシグナル伝達、老廃物や栄養などの物質輸送が行われ、真皮と表皮がかみ合うことによって外部からの物理的刺激の緩和作用があるとされる。また、皮膚状態(角層水分量、経表皮水分蒸散量、角層細胞面積、皮膚の色味L***値)と乳頭突起の形状に関連があることも報告されている(特許文献1)。乳頭突起にはこのように皮膚にとって重要な機能を有する一方で、乳頭突起は加齢や紫外線によって平坦化することが知られているだけでなく(非特許文献1)、加齢や紫外線のみならず、疾患による真皮乳頭突起の形状変化も存在する。たとえば、乾癬では乳頭突起が過剰に形成され、光線角化症では乳頭突起は縮小あるいは消失すると言われる(非特許文献2)。上述の通り、乳頭突起構造の変化は皮膚状態変化に密接に関わるため、皮膚状態を正常に維持したり、異常を来したりした状態から改善するためには、乳頭突起形状を適切に維持することが重要と考えられる。
【0006】
これまで乳頭突起を改善することで皮膚状態を改善するための種々の組成物が提案されており、例えばビタミンCを配合したクリーム(非特許文献3)、シマホオズキ果実抽出物を含む組成物等が知られている(特許文献2)。特に、特許文献2においては、該組成物の使用がシワや肌のつやの改善作用を発揮することが開示されており、高い作用を有する乳頭突起構造改善剤が期待される状況が生まれていた。しかし、乳頭突起構造改善剤として利用可能な素材は上記の報告以外にはなく産業上利用可能な新たな乳頭突起構造改善剤が求められていた。
【0007】
乳頭突起を構成する構造物の一つである基底膜は薄い膜状の構造体であり、皮膚に限らず、すべての組織に存在し、発生学的に異なる上皮組織と間葉系組織の間に存在し両者を結合させることで物理的に安定な構造を維持する働きを持つ。その中で皮膚の表皮と真皮の間に存在し、表皮と真皮を強く結合させ、表皮細胞の足場となることで表皮細胞の機能の調整や真皮の構造の維持にも働いているのが表皮基底膜である。表皮基底膜は主な成分としてラミニン、コラーゲンIV、VII、XVII、パールカン(Perlecan) (別名プロテオグリカン)、ナイドジェン等が存在することが知られている(非特許文献4)。皮膚においては、表皮基底膜成分はその周辺に存在するケラチノサイト及びファイブロブラストが産生する。
【0008】
表皮基底膜を構成する成分の中で乳頭突起構造つまりは表皮基底膜構造の変化や改善に寄与する可能性が高い分子として、物理的に組織の構造を支える機能を持つラミニン、コラーゲンIV、VII、XVIIが重要な分子である。しかし、これらの分子の産生促進による乳頭突起構造の改善はこれまで報告がなかった。
一方、パールカンは、ラミニン等と同じ基底膜構成成分ではあるが、隣接する基底表皮細胞へb-FGFやTGFβをはじめとする増殖因子を供給することによる細胞増殖や分化を制御しているに過ぎず(非特許文献5)、表皮基底膜の構造を物理的に支える機能を有していないので、表皮基底膜構造の変化や改善に寄与するとは考えられておらず、ましてやパールカンが乳頭突起構造の変化や改善に寄与することは想定もされていなかった。
【0009】
烏薬は天台烏薬とも呼ばれ、根は古くから漢方薬として利用されている他、烏薬の根茎・根皮あるいはその抽出物については、育毛(特許文献3)・抗アレルギー(特許文献4)・メラニン生成抑制(特許文献5)の各種作用が報告されているが、乳頭突起構造に対する作用は全く知られていない。また、葉のアルコール抽出物について抗菌作用(特許文献6)が知られているが、該抽出物の皮膚に対する改善作用は全く知られていない。乾燥し、細断した烏薬の葉の高温下あるいは長期間の抽出により得られる抽出物を多量に配合する皮膚外用剤で肌のはりやシワ改善効果が見られた旨が開示されている(特許文献7)が、パールカンに対する作用、乳頭突起に関する作用については知られていなかった。加えて、乾燥し、細断した葉の高温下あるいは長期間の抽出により得られる抽出物は皮膚外用剤に特異な色とにおいを与えて使用者の嗜好性に影響する要素を付加してしまう、また、皮膚外用剤の安定性を低下させるという側面があり、産業利用に困難があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2016-016277号公報
【特許文献2】特開2014-043400号公報
【特許文献3】特開2000-344632号公報
【特許文献4】特開2000-169383号公報
【特許文献5】特開H11-279069号公報
【特許文献6】特開2001-097871号公報
【特許文献7】特開2002-363028号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Kawasaki K, Yamanishi K, Yamada H, Int J Dermatol. 2015 54(3):295-301.
【非特許文献2】清水 宏、新しい皮膚科学、2011、38-42
【非特許文献3】Kirsten Sauermann, Soren Jaspers, Urte Koop, Horst Wenck. BMC Dermatol 2004 Sep 29;4(1):13. doi: 10.1186 471-5945-4-13
【非特許文献4】Dirk Breitkreutz, Isabell Koxholt, Kathrin Thiemann, Roswitha Nischt Biomed Res Int. 2013;2013:179784. doi: 10.1155/2013/179784. Epub 2013 Mar 21.
【非特許文献5】Eduardo M. Vidal 2013 The Basement Membrane Zone:Making the Connection
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、パールカン産生促進剤、乳頭突起構造改善剤の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは上述の課題解決のために鋭意研究した結果、パールカン産生促進、乳頭突起構造改善について烏薬葉抽出物に顕著な効果を見出し、上記課題を解決した。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、パールカン産生促進剤、乳頭突起構造改善剤を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1はケラチノサイト及びファイブロブラストのパールカン遺伝子発現量の加齢と紫外線照射による変化を示したグラフである。
図2図2は烏薬葉抽出物添加によるケラチノサイト及びファイブロブラストのパールカン産生遺伝子(mRNA)の発現の変化を示したグラフである。
図3図3は烏薬葉抽出物添加によるファイブロブラストのパールカンタンパクの発現の変化を示した観察画像である。
図4図4は烏薬葉抽出物を含む組成物による乳頭突起構造改善作用を示す観察画像である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明に用いる烏薬(別名:天台烏薬)はクスノキ(Lauraceae)科クロモジ(Strychnifolia)属Lindera strychnifoliaである。使用される部位は葉であるが、効果を阻害しない限り、葉とともにその他の部位、たとえば根、樹皮、幹、葉、花が混在した状態で使用しても差し支えない。抽出に供する際の形態は、乾燥や輸送等の工程で多少損傷する分には問題ないが、人為的な粉砕や細断を行わないものが好ましい。人為的な粉砕や細断を行った烏薬葉から得られる抽出物は色とにおいが強く、実使用に差し支える場合がある。
【0017】
烏薬の抽出溶媒は特に限定されないが、例えば種々の適当な有機溶媒を用いて、低温下から加温下で抽出される。抽出溶媒としては、例えば、水;メチルアルコール、エチルアルコール等の低級1価アルコール;グリセリン、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール等の液状多価アルコール;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン;酢酸エチルなどのアルキルエステル;ベンゼン、ヘキサン等の炭化水素;ジエチルエーテル等のエーテル類;ジクロルメタン、クロロホルム等のハロゲン化アルカン等の1種又は2種以上を用いることが出来る。中でも、40%~60%エタノール水溶液が好ましく、さらに50%エタノール水溶液が特に好適である。
【0018】
本発明に用いることのできる烏薬葉抽出物の抽出方法は特に限定されないが、例えば乾燥したものを用いる場合、質量比で1~1000倍量、特に10~100倍量の溶媒を用い、0℃以上、特に20℃~40℃で1時間以上、特に1~7日間、より好ましくは1~3日間行うのが好ましい。また、50~70℃で1~3時間、加熱抽出しても良い。70度を超えての高温での抽出及び、長期間7日間を超えての抽出で得られる抽出物は色とにおいが強く、実使用に差し支える場合がある。
【0019】
以上のような条件で得られる烏薬葉抽出物は、抽出された溶液のまま用いても良いが、本発明の効果を損なわない範囲で適宜濾過・濃縮・粉末化・脱色・精製などの処理を施して用いることができる。
【0020】
以上のような本発明のパールカン産生促進剤、乳頭突起構造改善剤を含有した組成物を調製する場合、烏薬葉抽出物の配合量は所望の効果の程度合わせて適宜調整すればよく、特に限定されないが、例えば蒸発乾燥分に換算して0.001~20.0質量%が好ましく、特に0.01~5.0質量%の範囲が最適である。
【0021】
本発明におけるパールカン産生促進とは、細胞のパールカン遺伝子名Heparan Sulfate Proteoglycan 2(HPGS2)およびタンパク、さらに糖鎖が共有結合した状態のパールカンを促進することを含む。
【0022】
本発明における乳頭突起構造改善とは、乳頭突起の加齢や紫外線、皮膚疾患等による正常時からの変化からの改善であって、乳頭突起数の変化に加えて、乳頭突起の変形、平坦化からの改善も含む概念である。具体的には、乳頭突起の数の減少、表皮基底膜と垂直に交わる向きを長軸方向、水平に交わる向きを短軸方向とした場合に、水平方向断面について、正常時が真円または楕円に近い形状であるのに対して、水平方向断面が真円または楕円から遠ざかることや乳頭突起ごとの短軸方向の径のばらつきが大きくなる、いわゆる変形すること、また、長軸方向の大きさが短くなる、いわゆる乳頭突起が平坦化するといった形状変化からの改善を指す。乳頭突起は皮膚の内部構造を非侵襲で観察できる共焦点レーザー生体顕微鏡で観察することができ、観察面積あたりに存在する乳頭突起個数のカウントすることで乳頭突起数、長軸方向の大きさを測定することで乳頭突起の平坦化、短軸方向の大きさ・形状を観察することで形状変化からの改善を評価することができる。
【0023】
また、本発明のパールカン産生促進剤、乳頭突起構造改善剤を含有した組成物を調製使用する場合、本発明の効果を損なわない範囲で、その他の成分、たとえば、油脂、ロウ類、炭化水素油、エステル油、高級アルコール、シリコーン油、紫外線吸収剤、紫外線散乱剤、保湿剤、界面活性剤、水溶性高分子、増粘剤、粉体、皮膚保護剤、美白剤、シワ改善剤、老化防止剤、植物抽出物、防腐剤、消炎剤、pH調整剤、金属イオン封鎖剤、酸化防止剤、安定化剤、香料、色素、顔料等などを必要に応じて適宜配合することができる。
【0024】
本発明のパールカン産生促進剤、乳頭突起構造改善剤の剤型は特に限定されない。例えば、噴霧用剤、液状、ジェル状、クリーム状、固形状、シート状、顆粒状、打錠等、又は二剤式など、剤型は特に問わない。
【実施例0025】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。また、特記しない限り配合量は質量%で示す。
【0026】
―烏薬葉抽出物の調製―
烏薬葉の乾燥物1.0gに50倍質量の50%エタノール50gを加え、50℃で3時間抽出・乾燥を行い、烏薬葉抽出物を2.5g得た。烏薬葉の乾燥物1.0gに50倍質量の40%エタノール50gを加え、50℃で3時間抽出・乾燥を行い、烏薬葉抽出物を2.7g得た。烏薬葉の乾燥物1.0gに50倍質量の60%エタノール50gを加え、50℃で3時間抽出・乾燥を行い、烏薬葉抽出物を2.2g得た。
【0027】
―遺伝子発現試験―
<加齢及び紫外線によるパールカン遺伝子発現量変化の確認>
23歳成人ドナー由来ヒト表皮ケラチノサイト及び62歳成人ドナー由来ヒト表皮ケラチノサイト5.0×10 Cells/mLをHumedia KG2 (KURABO)に分散し、24ウェル細胞培養プレートに500μLずつ播種した。37℃、5%(体積%)CO条件下で72時間培養後、Total RNA抽出を行った。Total RNA抽出を行わなかった細胞が播種されたウェルの培地をPBS(-)300μLに置き換え、20mJの紫外線照射を行った。なお紫外線非照射サンプルとして、プレートにアルミホイルを巻いて紫外線が当たらないように同様の処理を行ったものも用意した。さらに37℃、5%(体積%)CO条件下で3時間培養後Total RNA抽出を行った。
【0028】
21歳成人ドナー由来ヒト真皮ファイブロブラスト及び69歳成人ドナー由来ヒト真皮ファイブロブラスト5.0×10 Cells/mLを10% FBS含有DMEM (Gibco)に分散し、24ウェル細胞培養プレートに500μLずつ播種した。37℃、5%(体積%)CO条件下で72時間培養後、Total RNA抽出を行った。Total RNA抽出を行わなかった細胞が播種されたウェルの培地をPBS(-)300μLに置き換え、20mJの紫外線照射を行った。なお紫外線非照射サンプルとして、プレートにアルミホイルを巻いて紫外線が当たらないように同様の処理を行ったものも用意した。さらに37℃、5%(体積%)CO条件下で3時間培養後Total RNA抽出を行った。
【0029】
<パールカン遺伝子発現量を促進させる物質の探索>
新生児ドナー由来ヒト表皮ケラチノサイト5.0×10 Cells/mLをHumedia KG2 に分散し、24ウェル細胞培養プレートに500μLずつ播種した。37℃、5%(体積%)CO条件下で24時間培養後、烏薬葉40%、50%、60%エタノール抽出物の固形蒸発残分が100ppm, 10ppmとなるようにHumedia KG2で希釈した培地を添加し48時間培養後、Total RNA抽出を行った。
【0030】
新生児ドナー由来ヒト真皮ファイブロブラスト5.0×10 Cells/mLを10% FBS含有DMEMに分散し、24ウェル細胞培養プレートに500μLずつ播種した。37℃、5%(体積%)CO条件下で24時間培養後、烏薬葉40%、50%、60%エタノール抽出物の固形蒸発残分が100ppm, 10ppmとなるようにDMEMで希釈した培地を添加し48時間培養後、Total RNA抽出を行った。
【0031】
上記の方法で抽出したTotal RNAに対してPrime Script RT P
CR KIT (TaKaRa) を用いて逆転写を行い、cDNAを合成した。得られたcDNAを鋳型として、パールカン(HPSG2)、GAPDHの発現量を以下のプライマー及び酵素を用いて、リアルタイムPCR(7500 Real Time PCR System 、Applied Biosystems)にて測定した。
【0032】
プライマーはHPSG2用センスプライマー(5´―ATTTCCACGATGATGGCT―3´)、アンチセンスプライマー(5´―ACCTCCAGCTCGATGGTC―3´)、GAPDH(グリセルアルデヒド3-リン酸 デヒドロゲナーゼ:ハウスキーピング遺伝子として使用)用センスプライマー(5´―ATTTCCACGATGATGGCT―3´)、アンチセンスプライマー(5´―ACCTCCAGCTCGATGGTC―3´)を用いた。PCRの反応にはSYBR Select Master Mix(Applied Biosystems)を使用し、遺伝子発現の解析は比較CT法にて行った。結果は図1に示す。
【0033】
図1からファイブロブラスト、ケラチノサイトともに、パールカン(HPSC2)遺伝子発現量は、老齢細胞では、若齢細胞よりも少ないことがわかった。また、紫外線を照射することによってもパールカン遺伝子発現量は減少することが示された。
【0034】
図2はパールカン遺伝子発現量を促進させる効果を調査した結果である。ファイブロブラスト、ケラチノサイトともに烏薬葉50%エタノール抽出物添加群は、コントロール群の約1.5-2.4倍の発現量となっていることがわかった。烏薬葉40%エタノール抽出物添加群、烏薬葉60%エタノール抽出物添加群にも同程度の発現量の増加が認められた。皮膚中のパールカンはファイブロブラスト及びケラチノサイトが産生することが知られているため、烏薬葉抽出物には皮膚中のパールカン産生促進効果があることが確認された。
【実施例0035】
<烏薬葉抽出物のパールカンタンパク産生促進効果の確認>
新生児ドナー由来ヒト真皮ファイブロブラスト5.0×10 Cells/mLを10% FBS含有DMEMに分散し、24ウェル細胞培養プレートに500μLずつ播種した。37℃、5%(体積%)CO条件下で24時間培養後、烏薬葉50%エタノール抽出物の固形蒸発残分が50ppmとなるようにDMEMで希釈した培地を添加し37℃、5%(体積%)CO条件下で2週間培養後、以下の手順でパールカンタンパクの免疫染色を行った。細胞を4%PFAで固定後、パールカン1次抗体(Anti-Heparan Sulfate Proteoglycan (Perlecan) Antibody,clone5D7-2E4, Host Species Mouse (Merck))を添加し、4℃で16時間反応させた。蛍光標識2次抗体Goat Anti-Mouse IgG H&L (Alexa Fluor(R) 488) (ab150113)を添加し室温で45分反応させた。蛍光顕微鏡観察 (蛍光顕微鏡BZ-X700, キーエンス, 対物レンズ×20倍、励起波長470 nm, 蛍光波長 525 nm、露光時間1/2秒)で観察を行った。
【0036】
図3はパールカンタンパク発現量を促進させる効果を調査した観察結果である。パールカンタンパクの産生量が多い箇所が染色されており、ファイブロブラストに烏薬葉50%エタノール抽出物添加群は、コントロールに比べ、多くのパールカンを産生していることがわかった。烏薬葉抽出物はパールカン遺伝子発現だけでなく、パールカンタンパク産生促進効果があることも確認された。
【実施例0037】
[烏薬葉抽出物を含む組成物のヒト実使用試験]
〔表1〕の烏薬葉50%エタノール抽出物含有組成物および比較例の組成物を調製し、乳頭突起構造改善効果及び皮膚状態の改善効果を確認した。8名のパネラー(30歳~50歳の男性)に、当該組成物の適量を半顔ずつ朝晩各1回、2か月間、顔に塗布してもらった。乳頭突起の観察は共焦点レーザー生体顕微鏡(Vivascope1500、Caliber I.D.)を用いて目尻・頬部を観察した。シワの測定はシリコンゴムレプリカ剤 SILFLO(アミックグループ)を用いて目尻部のシワレプリカを作成し、三次元画像解析装置 (PRIMOS、Canfield Scientific)を用いて解析を行った。角層水分量の測定はSKICON 200-EX(I.B.S.)を用いて頬部の測定を行った。皮膚色(L値:明度)の測定は分光測色計CM-700d/600d (KONICA MINOLTA)を用いて頬部の測定を行った。
【0038】
【表1】
【0039】
乳頭突起観察画像の解析は皮膚表面から深部方向に向かって観察を行ったときに乳頭突起が観察され始めてからおおよそ25μmの位置の水平画像を1.0mm×1.0mm の画像を得て、乳頭突起形状(乳頭突起個数、変形率)を解析した。乳頭突起変形率は画像のほぼ真円又は楕円と判定しえる断面形状を有する乳頭突起個数(非変形の乳頭突起数)と真円又は楕円でなく非円形と判定しえる断面形状を有する乳頭突起の個数(変形した乳頭突起数)をそれぞれカウントし、次の数式1から乳頭突起断面形状の変形率(乳頭突起変形率)を求めた。
【0040】
【数1】
【0041】
乳頭突起画像の解析結果を表2-3示した。烏薬葉抽出物を含む組成物を使用することで乳頭突起個数の増加、変形率の減少が認められた。著効例の観察画像図4に示した。頬、目尻どちらの画像でも烏薬葉抽出物を含む組成物を使用することで一定面積あたりの乳頭突起の個数が増加している様子が観察されており、また、白い点線で囲んだ部分で示したような変形した乳頭突起も個数が減少しており、真円に近い乳頭突起の個数が増加していることから、乳頭突起変形率も減少していることがわかった。また、皮膚状態の改善効果として、目尻のシワの改善、角層水分量の増加、皮膚色であるL値(明度)の増加効果が認められ、乳頭突起構造に起因すると考えられる肌状態の改善が認められた。烏薬葉抽出物のパールカン産生促進、及び乳頭突起構造改善効果によって優れた肌状態改善が認められることが確認された。また、試験に用いた組成物は烏薬葉抽出物に由来する特異な色やにおいを持たないため、使用中の2種の組成物のどちらに烏薬葉抽出物が配合されているか、試験期間を通して、パネラーは組成物から判断できず、使用者の嗜好性に影響する要素が付加されないことを確認した。さらに、烏薬葉抽出物は組成物の継時安定性にも全く影響しなかった。
【0042】
<判定基準>
―乳頭突起個数―
**(著効):塗布開始前の乳頭突起個数に対して塗布後の乳頭突起個数が120%以上
*(有効):塗布開始前の乳頭突起個数に対して塗布後の乳頭突起個数が110%以上
― (無効):塗布開始前の乳頭突起個数に対して塗布後の乳頭突起個数が110%未満

乳頭突起個数測定の判定結果を表2に示す。
【0043】
【表2】
【0044】
<判定基準>
―乳頭突変形率―
**(著効):塗布開始前の乳頭突起変形率に対して塗布後の乳頭突起変形率が50%未満
*(有効):塗布開始前の乳頭突起変形率に対して塗布後の乳頭突起変形率が70%未満
― (無効):塗布開始前の乳頭突起変形率に対して塗布後の乳頭突起変形率が70%以上

乳頭突起変形率測定の判定結果を表3に示す。
【0045】
【表3】
【0046】
<判定基準>
―シワ面積率―
*(有効):塗布開始前のシワ面積率に対して塗布後のシワ面積率が80%未満
― (無効):塗布開始前のシワ面積率に対して塗布後のシワ面積率が80%以上

シワ面積率測定の判定結果を表4に示す。
【0047】
【表4】
【0048】
<判定基準>
―角層水分量―
*(有効):塗布開始前の角層水分量に対して塗布後の角層水分量が120%以上
― (無効):塗布開始前の角層水分量に対して塗布後の角層水分量が120%未満

角層水分量測定の判定結果を表5に示す。
【0049】
【表5】
【0050】
<判定基準>
―肌の明度―
*(有効):塗布開始前のL値に対して塗布後のL値が110%以上
― (無効):塗布開始前のL値に対して塗布後のL値が110%未満

明度測定の結果を表6に示す。
【0051】
【表6】
【0052】
次に、本願発明の烏薬葉抽出物を含有する本願の各剤の処方の例を示すが、本願発明はこれに限定されるものでない。成分名の後ろに記載する数値は配合量を示し、各処方例は、合計100質量%として表示する。以下の各処方例で示す烏薬葉抽出物は実施例1で調製したものであり、その配合量は蒸発残分に換算した質量%で示した。なお、各処方例においても、本願の効果が確認された。
(処方例1)乳化状組成物として用いる場合(質量%)
a)ミツロウ・・・2.0
b)ステアリルアルコール・・・5.0
c)ステアリン酸・・・8.0
d)スクワラン・・・10.0
e)自己乳化型グリセリルモノステアレート・・・3.0
f)ポリオキシエチレンセチルエーテル(20E.O.)・・・1.0
g)烏薬葉50%エタノール抽出物・・・0.01
h)1,3-ブチレングリコール・・・5.0
i)水酸化カリウム・・・0.3
j)防腐剤・酸化防止剤・・・適量
k)精製水・・・残部
合計・・・100
製法
a)~f)までを加熱溶解し、80℃に保つ。h)~k)までを加熱溶解し、80℃に保ち、a)~f)に加えて乳化し、40℃まで撹拌しながら冷却する。その後、g)を加え、攪拌し均一に溶解する。
【0053】
(処方例2)液状組成物として用いる場合(質量%)
a)烏薬葉60%エタノール抽出物・・・0.01
b)グリセリン・・・5.0
c)ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート(20E.O.)・・・1.0
d)エタノール・・・6.0
e)香料・・・適量
f)防腐剤・酸化防止剤・・・適量
g)精製水・・・残部
合計・・・100
製法
a)~g)までを混合し、均一に溶解する。
【0054】
(処方例3)ジェル状組成物として用いる場合(質量%)
a)烏薬葉40%エタノール抽出物・・・0.01
b)カルボキシビニルポリマー・・・0.5
c)水酸化ナトリウム・・・0.05
d)パラオキシ安息香酸メチル・・・0.1
e)シクロヘキサン-1,4-ジカルボン酸ビスエトキシジグリコール・・・0.5
f)(エイコサン二酸/テトラデカン二酸)ポリグリセリル-10・・・0.5
g)PEG/PPG/ポリブチレングリコール-8/5/3グリセリン・・・0.5
h)ポリオキシエチレン(60E.O.)硬化ヒマシ油・・・0.1
i)香料・・・適量
j)防腐剤・酸化防止剤・・・適量
k)精製水・・・残部
合計・・・100
製法
b)をk)の一部で分散した後、c)を加える。その後a)~k)までを混合し、均一に溶解する。
【0055】
(処方例4)粉末状組成物として用いる場合(質量%)
a)烏薬葉50%エタノール抽出物・・・20.0
b)シクロヘキサン-1,4-ジカルボン酸ビスエトキシジグリコール・・・0.2
c)(エイコサン二酸/テトラデカン二酸)ポリグリセリル-10・・・0.2
d)PEG/PPG/ポリブチレングリコール-8/5/3グリセリン・・・0.2
e)炭酸水素ナトリウム・・・50.0
f)硫酸ナトリウム・・・残部
g)香料・・・適量
h)防腐剤・酸化防止剤・・・適量
合計・・・100
製法
a)~h)を均一に混合する。
図1
図2
図3
図4