(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022152721
(43)【公開日】2022-10-12
(54)【発明の名称】高炉の操業方法
(51)【国際特許分類】
C21B 5/00 20060101AFI20221004BHJP
【FI】
C21B5/00 310
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021055591
(22)【出願日】2021-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087398
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 勝文
(74)【代理人】
【識別番号】100128783
【弁理士】
【氏名又は名称】井出 真
(74)【代理人】
【識別番号】100128473
【弁理士】
【氏名又は名称】須澤 洋
(72)【発明者】
【氏名】折本 隆
【テーマコード(参考)】
4K012
【Fターム(参考)】
4K012BB00
(57)【要約】
【課題】本発明は、高炉のバンキング後の立ち上げ時における炉熱管理を適切に行うことができる高炉の操業方法を提供することを目的とする。
【解決手段】レースウェイの周囲に形成されるSiOガス発生領域の体積を評価する体積評価値の目標数値条件を予め設定し、前記体積評価値が前記目標数値条件を満足するように、溶銑Si濃度または出銑比のうち少なくとも一方を調整することを特徴とする高炉の操業方法。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レースウェイの周囲に形成されるSiOガス発生領域の体積を評価する体積評価値の目標数値条件を予め設定し、
前記体積評価値が前記目標数値条件を満足するように、溶銑Si濃度または出銑比のうち少なくとも一方を調整することを特徴とする高炉の操業方法。
【請求項2】
前記目標数値条件の設定は、
体積評価値によって異なる出銑比と溶銑Si濃度との関係を体積評価値毎に規定する関係規定ステップと、
前記関係規定ステップで得られた、出銑比と溶銑Si濃度との関係と、過去の高炉の操業実績と、に基づいて、目標数値条件を設定する目標数値条件設定ステップと、
によって行われることを特徴とする請求項1に記載の高炉の操業方法。
【請求項3】
前記の高炉操業として、前記目標数値条件を満足しない場合にこれを改善する操業アクションを実施することを特徴とする請求項1または2に記載の高炉の操業方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高炉のバンキング後の立ち上げ時における高炉の操業方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高炉操業において、炉熱の管理は重要である。高炉のバンキング(炉内の残留物をそのままにして高炉への送風を停止し、再稼働可能な状態で休止すること)後の立ち上げを行う際の炉熱管理は、安定的な高炉操業実現の観点から、特に重要である。
【0003】
従来、炉熱の管理指標として、溶銑温度が広く用いられてきた。特許文献1には、出銑中の溶銑の温度を金属管で被覆された光ファイバーを利用して正確に精度よく測定し、この温度情報に基づいて炉熱レベル及び炉熱推移を推定する炉熱制御方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、一般的に、高炉のバンキング後、立ち上げを行う際には、炉内の残留物を高炉から掻き出す作業が行われる。しかしながら、炉内の残留物を完全に取り除くことは困難であり、通常、炉底に残銑塊が存在したまま立ち上げを行うこととなる。
【0006】
この炉底の残銑塊に、コークスや炉内ガスとの還元反応により生成された高温の溶銑が滴下することにより、残銑塊が溶解することがある。この場合、溶銑の熱が残銑塊の溶解熱として用いられるため、溶銑温度が低下してしまう。一方、炉底の残銑塊が溶銑によってほとんど溶解しないこともあり、この場合には、残銑塊の熱伝導率が高炉の炉壁レンガより低いため、溶銑の抜熱量が少なく、溶銑温度がほとんど低下しない。このように、残銑塊の溶解量の大小に応じて溶銑温度が変動してしまうため、高炉のバンキング後の立ち上げ時においては、溶銑温度を炉熱の管理指標とすることは困難である。
【0007】
上記点に鑑み、本発明は、高炉のバンキング後の立ち上げ時における炉熱管理を適切に行うことができる高炉の操業方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明に係る高炉の操業方法は、(1)レースウェイの周囲に形成されるSiOガス発生領域の体積を評価する体積評価値の目標数値条件を予め設定し、前記体積評価値が前記目標数値条件を満足するように、溶銑Si濃度または出銑比のうち少なくとも一方を調整することを特徴とする高炉の操業方法。
【0009】
(2)前記目標数値条件の設定は、体積評価値によって異なる出銑比と溶銑Si濃度との関係を体積評価値毎に規定する関係規定ステップと、前記関係規定ステップで得られた、出銑比と溶銑Si濃度との関係と、過去の高炉の操業実績と、に基づいて、目標数値条件を設定する目標数値条件設定ステップと、によって行われることを特徴とする(1)に記載の高炉の操業方法。
【0010】
(3)前記の高炉操業として、前記目標数値条件を満足しない場合にこれを改善する操業アクションを実施することを特徴とする(1)または(2)に記載の高炉の操業方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、高炉のバンキング後の立ち上げ時において炉熱を適切に管理することができるため、バンキング後の急速かつ安定的な立ち上げ操業を実現し得る。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態である高炉の概略図である。
【
図3】本実施形態における、高炉のバンキング後の立ち上げ時の操業方法を示すフローチャートである。
【
図4】出銑比と、溶銑Si濃度と、の関係を示すグラフを作成する作成手順を示すフローチャートである。
【
図5】出銑比と、溶銑Si濃度と、の関係を示すグラフである。
【
図6】ステップ101で得られた、出銑比と溶銑Si濃度との関係を示すグラフに、過去の高炉の操業実績のうちバンキング後の立ち上げが良好であったものを複数プロットした図の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<高炉について>
図1は、本発明の一実施形態である高炉の概略図である。高炉1は、ベルレス式の高炉であり、羽口2と、環状管3と、ブローパイプ4と、微粉炭吹き込み用ランス5と、旋回シュート6と、出銑口7と、を備える。
【0014】
羽口2は、熱風炉(不図示)で生成された熱風を高炉1内に吹き込むための吹き込み口であり、高炉1の炉周方向に沿って炉下部に複数設けられている。
【0015】
環状管3は高炉1の下部を包囲するように配設されている。環状管3には、複数のブローパイプ4が周方向に間欠的に設けられている。環状管3は、熱風炉から送られた熱風をブローパイプ4に供給する。
【0016】
各ブローパイプ4は、環状管3に接続されるとともに、それぞれが異なる羽口2に接続されている。ブローパイプ4は、環状管3から送られた熱風を、羽口2を介して高炉1内に吹き込む。
【0017】
なお、炉内に吹き込まれる熱風の温度は、熱風炉において蓄熱量や熱風供給量を制御することで調整される。また、熱風に含まれる酸素の含有率は、熱風炉において空気と酸素を混合することで調整することができる。熱風の湿分は、熱風炉から高炉1内へ送風される前に、熱風を除湿または加湿することで、調整することができる。
【0018】
微粉炭吹き込み用ランス5は、ブローパイプ4に微粉炭を吹き込む。微粉炭吹き込み用ランス5は、各ブローパイプ4を挿通しており、各ブローパイプ4の内部には、微粉炭吹き込み用ランス5の先端が延出している。微粉炭吹き込み用ランス5から吹き込まれた微粉炭は、ブローパイプ4を通る熱風と共に、高炉1内に吹き込まれる。
【0019】
旋回シュート6は、上下方向に延びる軸周りに回転しながら、高炉原料としての鉱石層形成原料及びコークス層形成原料を、鉱石層とコークス層が炉内に交互に層状に形成されるように装入する。鉱石層形成原料には焼結鉱、ペレット、塊鉱石、非焼成含炭塊成鉱を用いることができる。また、鉱石層形成原料には、鉱石以外のもの(例えば小塊コークス等の還元補助剤)が含まれ得る。コークス層形成原料には、フェローコークスが含まれていてもよい。旋回シュート6の傾斜角や回転速度を制御することにより、高炉原料を所望の位置に装入することができる。
【0020】
出銑口7は、高炉1の炉底部に設けられ、鉱石層形成原料の還元によって生成された溶銑を出銑する。出銑口7は炉周方向に沿って複数設けられており、溶銑を連続的または間欠的に出銑することができる。
【0021】
図2は、
図1における羽口2近傍の拡大図である。
図2を参照して、羽口2から炉内に吹き込まれる熱風の風圧によって、炉内に燃焼空間(レースウェイ10)が形成される。レースウェイ10の内部では、コークスの粒子群が旋回しながら燃焼し、鉱石が還元される。また、レースウェイ10を取り囲むようにコークス充填層としてのSiOガス発生領域100が形成される。SiOガス発生領域100では、コークス層形成原料に含まれるC及びSiO
2が反応することによってSiOガスと一酸化炭素が発生する高温反応が起こる(反応式は後述の式(1)参照)。
【0022】
本発明者は、SiOガス発生領域100の体積に基づいて、高炉バンキング後の立ち上げ時における炉熱の管理を行うことにより、急速かつ安定的な立ち上げ操業が可能となることを知見した。ここで、高炉バンキング後の立ち上げ時は、高炉1内に形成されている融着帯(
図1参照)の位置が高い。そのため、SiOガス発生領域100で発生したSiO ガスが、滴下する溶銑にほとんど吸収される。このことから、溶銑Si濃度(%)は、SiOガスの発生速度によって規定される過程、すなわち、SiOガス発生律速になると考えられる(日本製鉄技法 第413号 123~129頁参照)。この発生律速から理論的に導かれる出銑比と溶銑のSi濃度(%)(以下、溶銑Si濃度とも称す)との関係を管理することにより、SiOガス発生領域100の体積を適切に制御することができる。
【0023】
これらの点に鑑み、本発明者は、SiOガス発生領域100の体積を評価する評価値(以下、体積評価値と称す)の目標数値条件を予め設定したうえで、出銑比と溶銑Si濃度との関係を操業管理指標とし、高炉バンキング後の立ち上げ時に、体積評価値が該目標数値条件を満足するように、出銑比または溶銑Si濃度のうち少なくとも一方を調整する操業を行うことで、急速かつ安定的な立ち上げが可能となることを知見した。なお、「体積評価値が目標数値条件を満足するように溶銑Si濃度を調整する」とは、出銑比と、体積評価値の目標数値条件と、に基づいて、溶銑Si濃度の適正条件を決定し、該適正条件を満足するように、溶銑Si濃度を調整することを指すものとする。また、「体積評価値が目標数値条件を満足するように出銑比を調整する」とは、溶銑Si濃度と、体積評価値の目標数値条件と、に基づいて、出銑比の適正条件を決定し、該適正条件を満足するように、出銑比を調整することを指すものとする。
【0024】
以下、上記知見を踏まえた高炉のバンキング後の立ち上げ時における高炉の操業方法について、
図3のフローチャートを参照しながら、説明する。
図3は、本実施形態における、高炉のバンキング後の立ち上げ時の操業方法を示すフローチャートである。ステップ101、102は、高炉のバンキング後の立ち上げを行う前に予め行うものである。なお、「立ち上げ時」とは、高炉を再稼働(熱風の吹込みを再開)してから、高炉の通常操業時における出銑比となるまでの期間を指すものとする。
【0025】
<ステップ101>
まず、出銑比と、溶銑Si濃度と、の関係を規定するグラフを発生律速の理論に基づき作成する(ステップ101)。このグラフの作成手順を、
図4に示すフローチャートを用いて、さらに詳細に説明する。
【0026】
上述の通り、高炉バンキング後の立ち上げ時は、高炉1内に形成されている融着帯(
図1参照)の位置が高いため、溶銑Si濃度(%)は、SiOガス発生律速に従うものとみなすことができる。SiOガス発生領域100における反応は、以下の式(1)によって定義することができる。なお、式(1)における「SiO(g)」はSiOガスのことである。
SiO
2+C=SiO(g)+CO ・・・(1)
式(1)における正反応速度(SiOガスを生成する反応速度)は、以下の反応速度式によって算出される。
R
1=k
1・C
SiO2 ・・・(2)
ここで、R
1は正反応速度(mol/(cm
3・s))、k
1は反応速度定数(s
-1)、C
SiO2はSiOガス発生領域100の体積に対するSiO
2の濃度(mol/cm
3)であり、炉頂バンカーに装入されるコークスの性状から算出することができる。k
1は、以下の式によって算出される。
k
1=2.0×10
4・exp(-69000/RT) ・・・(3)
ここで、Tは溶銑の絶対温度(K)、Rは気体定数(cal/(mol・K))である。
【0027】
予め、(A)溶銑温度(上述のTに相当)の値と、(B)高炉容積Vf(m3)に対する、SiOガス発生領域100の体積を示すSiOガス発生領域指数VSiO(m3)の体積割合D(%)の値と、を設定する。すなわち、本実施形態では、体積評価値として体積割合D(%)を用いる。ここで、立ち上げを行う高炉の容積は既知であることから、設定した体積割合Dに高炉容積Vfを乗じることにより、SiOガス発生領域指数VSiOが算出される(ステップ101a)。
【0028】
予め設定した溶銑温度Tを上述の式(3)に代入することにより、反応速度定数k1(s-1)を算出する(ステップ101b)。
【0029】
ステップ101bで算出されたk1と、事前に算出されたCSiO2と、を上述の式(2)に代入することにより、正反応速度R1(mol/(cm3・s))が算出される(ステップ101c)。
【0030】
R1(mol/(cm3・s)に、ステップ101aで算出されたSiOガス発生領域指数VSiOと、1日を秒換算した値(86400(s))と、を乗じることにより、1日当たりに発生するSiOガスのmol数nSiO(mol/d)が算出される(ステップ101d)。
【0031】
ここで、単位時間・単位体積当たりに発生するSiOガスが溶銑におけるSiにすべて移行したと仮定して、ステップ101dで算出されたnSiOにおけるSiのモル数にSiの原子量を乗じて単位変換することにより、溶銑に含まれる1日当たりのSiの質量mSi(t/d)が算出される(ステップ101e)。
【0032】
ステップ101eで算出されたmSi(t/d)を、1日当たりの出銑量(t/d)で除することによって、溶銑Si濃度(%)が算出される(ステップ101f)。また、1日当たりの出銑量(t/d)を高炉容積Vf(m3)で除することによって、出銑比(t/d/m3)が算出される(ステップ101g)。
【0033】
ステップ101fで算出された溶銑Si濃度(%)と、ステップ101gで算出された出銑比(t/d/m3)と、に基づき、出銑比と、溶銑Si濃度と、の関係を規定するグラフを作成する(ステップ101h)。後述するステップ102において、複数の体積割合Dの中から最適な体積割合Dを選ぶ処理が必要であるため、ステップ101では予め定めた複数の体積割合Dのそれぞれについて、グラフを作成する必要がある。これらの複数の体積割合Dは、操業実績に基づき、例えば1%~10%の範囲にて1%間隔で設定することができる。
【0034】
上述のステップ101a~101hで作成された、出銑比と、溶銑Si濃度と、の関係を規定するグラフを、
図5に示す。
図5のグラフは、溶銑温度Tを1510℃に設定し、高炉容積V
f(m
3)に対するSiOガス発生領域指数V
SiO(m
3)の体積割合D(%)をそれぞれ2%、6%とした場合と、溶銑温度Tを1530℃に設定し、高炉容積V
f(m
3)に対するSiOガス発生領域指数V
SiO(m
3)の体積割合D(%)をそれぞれ2%、6%とした場合と、を示している。なお、
図5では、体積割合Dが2%、6%のグラフだけを作成しているが、上述の通り、他の基準(例えば、1%~10%の範囲にて1%間隔)でグラフを作成してもよい。なお、体積割合Dが増加すると、必然的に同一の出銑比に対する溶銑Si濃度は高くなる。
【0035】
図5より、溶銑温度T及び体積割合Dが一定の場合、出銑比と溶銑Si濃度とは反比例の関係となり、出銑比が低下するにしたがって勾配が増加することがわかる。そのため、高炉のバンキング後の再稼働直後のような低出銑比時においては、溶銑Si濃度は出銑比の影響を強く受ける。一方、
図5より、溶銑Si濃度は溶銑温度の影響を受けにくいことがわかる。本発明者は、これらの点に鑑み、出銑比と溶銑Si濃度を操業管理指標とし、これに基づいてSiOガス発生領域100の体積を制御することにより適切な炉熱管理が実現されることを知見した。
【0036】
<ステップ102>
次に、再び
図3を参照して、ステップ101で得られた、出銑比と溶銑Si濃度との関係を規定するグラフと、過去の高炉の操業実績と、に基づいて、バンキング後の立ち上げが良好になるように目標数値条件を設定する(ステップ102)。
図6に示す4本のグラフは、ステップ101の手順にしたがって、出銑比と溶銑Si濃度との関係を理論的に導出し、その関係をグラフ化したものである。予め設定した体積割合D(%)はそれぞれ2%、2.5%、4%及び6%であり、予め設置した溶銑温度は全て1530℃としている。
【0037】
このグラフに過去の高炉の操業実績のうち、バンキング後の立ち上げが良好であった良好操業データをプロットし、これらの良好操業データが集中する領域を挟む位置に描画された二本のグラフの体積割合D(%)に基づき体積割合D(%)の目標数値条件を設定することができる(この設定方法を、以下、設定方法Aと称す)。図示例では、出銑比が0.5以上1.2未満の場合、良好操業データはD:4%のグラフとD:6%のグラフとに挟まれた領域に集中している。したがって、出銑比が0.5以上1.2未満の場合、体積割合D(%)の目標数値条件は4%以上6%以下に設定することが望ましい。出銑比が1.2以上1.5未満の場合、良好操業データはD:2%のグラフとD:4%のグラフとに挟まれた領域に集中している。したがって、出銑比が1.2以上1.5未満の場合、体積割合D(%)の目標数値条件は2%以上4%以下に設定することが望ましい。出銑比が1.5以上2.0未満の場合、良好操業データはD:2%のグラフとD:2.5%のグラフとに挟まれた領域に集中している。したがって、出銑比が1.5以上2.0未満の場合、体積割合D(%)の目標数値条件は2%以上2.5%以下に設定することが望ましい。
図6に示すように、目標数値条件が決まると、これに対応する溶銑Si濃度と出銑比との関係も把握することができる。
【0038】
なお、本実施形態では、上述の設定方法Aによって体積割合D(%)の目標数値条件を設定しているが、設定方法はこれに限られない。例えば、過去の高炉の操業実績のうち、バンキング後の立ち上げが良好であった良好操業データのプロットに基づき、立ち上げ時の出銑比(0.5以上1.5未満)全体にわたる体積割合D(%)の目標数値条件が連続的に変化するように、目標数値条件を設定してもよい(この設定方法を、以下、設定方法Bと称す)。設定方法Bによって設定された目標数値条件を満たす領域Sを、
図6にハッチングにより示す。ここで、「目標数値条件が連続的に変化する」とは、任意の出銑比の左極限としての目標数値条件と、該任意の出銑比の右極限としての目標数値条件と、が互いに一致することを指すものとする。「任意の出銑比の左極限としての目標数値条件」とは、
図6に示す矢印Xの方向(出銑比を増やす方向)に沿って、出銑比を該任意の出銑比に到達させた時の、目標数値条件を指す。「任意の出銑比の右極限としての目標数値条件」とは、
図6に示す矢印Yの方向(出銑比を減らす方向)に沿って、出銑比を該任意の出銑比に到達させた時の、目標数値条件を指す。
【0039】
設定方法Aを採用する場合、出銑比が1.2の前後で、目標数値条件が不連続に変化する。これに対し、設定方法Bでは、立ち上げ時の出銑比(0.5以上1.5未満)全体にわたって連続的に目標数値条件が変化する。そのため、設定方法Bによれば、立ち上げが進捗して出銑比が変化しても、大幅な改善アクション(後述のステップ105参照)が必要なく、さらに安定した高炉操業を行うことができる。
【0040】
また、例えば、出銑比が1.5以上2.0未満の場合、良好操業データがD:2%のグラフ近傍に集中しているとも看取できるため、体積割合D(%)の目標数値条件を約2%に設定してもよい。
【0041】
図6は、本発明における一例にすぎず、本発明において設定される目標数値条件は、上述の目標数値条件に限定されるものではない。すなわち、使用されるコークスの性状等に応じて、
図6のグラフは変わるため、目標数値条件は上述の範囲に限定されるものではない。また、目標数値条件を範囲ではなく目標値(1つの値)とすることもできる。
【0042】
<ステップ103>
次に、新規に高炉のバンキング後の立ち上げを行い、その出銑比(t/d/m3)と溶銑Si濃度(%)とを、操業管理指標として算出する(ステップ103)。出銑比は、環状管3→ブローパイプ4→羽口2を介して高炉1内に吹き込まれる熱風の風量に概ね比例するため、熱風の風量を測定することによって、出銑比を推算することができる。溶銑Si濃度は、高炉1の出銑口7から出銑された溶銑のSi濃度を成分分析することによって算出することができる。なお、出銑比(t/d/m3)と溶銑Si濃度(%)とを算出する方法は、上記の方法に限られず、種々の公知の方法を採用することができる。
【0043】
<ステップ104、105>
ステップ103で算出された出銑比(t/d/m3)と、ステップ102で設定された目標数値条件と、に基づいて、溶銑Si濃度(%)の適正条件を決定し、ステップ103で算出された溶銑Si濃度(%)が該適正条件を満足するか否かを判定する(ステップ104)。ステップ103で算出された溶銑Si濃度(%)が適正条件を満足する場合には(ステップ104 Yes)、「バンキング後の立ち上げが良好である」と判定され、炉熱管理を終了する。一方、ステップ103で算出された溶銑Si濃度(%)が適正条件を満足しない場合には(ステップ104 No)、「バンキング後の立ち上げが不良である」と判定され、溶銑Si濃度を調整する改善アクションを行う(ステップ105)。
【0044】
以下、
図6を参照して、ステップ104の判定及びステップ105の改善アクションについて説明する。例示として、ステップ103の算出結果を、
図6に丸点A及び丸点Bとしてプロットする。
【0045】
ステップ103の算出結果が、
図6の点Aである場合、点Aの出銑比(1.1)と、体積割合Dの目標数値条件(4~6%)と、に基づいて、溶銑Si濃度の適正条件(1.8%~2.8%)を決定する。点Aの溶銑Si濃度(4.0%)は、該適正条件の上限値(2.8%)よりも高いため、出銑比を維持したまま溶銑Si濃度を下げて溶銑Si濃度の適正条件(1.8%~2.8%)を満足するような改善アクションを行う。改善アクションとしては、高炉1内の熱を減少させるアクション(送風湿分を増加させる、RARを低下させる、PCRを低下させる等)を行う。
【0046】
ステップ103の算出結果が、
図6の点Bである場合、点Bの出銑比(0.6)と、体積割合Dの目標数値条件(4~6%)と、に基づいて、溶銑Si濃度の適正条件(3.4%~5.0%)を決定する。点Bの溶銑Si濃度(3.0%)は、該適正条件の下限値(3.4%)よりも低いため、出銑比を維持したまま溶銑Si濃度を上げて溶銑Si濃度の適正条件(3.4%~5.0%)を満足するような改善アクションを行う。改善アクションとしては、高炉1内の熱を増加させるアクション(送風湿分を減少させる、RARを増加させる、PCRを増加させる等)を行う。
【0047】
上述のような改善アクション(ステップ105)の実施後、出銑比(t/d/m3)と溶銑Si濃度(%)とを再度算出し(ステップ103)、その算出された溶銑Si濃度(%)が適正条件を満足するか否かを再度判定する(ステップ104)。
【0048】
(実施例)
A製鉄所の高炉1を、バンキングから立ち上げた。上述の設定方法Bを採用し、
図6に示す領域Sを目標数値条件とし、出銑比と溶銑Si濃度との関係を操業管理指標として炉熱管理を行った。
【0049】
高炉1の立ち上げ過程で、出銑比が0.77(t/d/m
3)のときの溶銑Si濃度が4.2(%)であった(
図6の点C参照)。一方、
図6に示す領域Sにおいて、出銑比が0.77(t/d/m
3)のとき、溶銑Si濃度(%)の適正条件は2.5%~4.0%と決定された。したがって、出銑比を維持したまま溶銑Si濃度を下げ、溶銑Si濃度の適正条件(2.5%~4.0%)を満足するような改善アクションを行った。改善アクションとしては、送風湿分を30(g/Nm
3)から34(g/Nm
3)まで増加させるアクションを実行した。その結果、溶銑Si濃度(%)が3.0%まで低下し、適正条件を満足させることができた。
【0050】
高炉1の別の立ち上げ過程で、出銑比が1.06(t/d/m
3)のときの溶銑Si濃度が2.95(%)であった(
図6の点D参照)。一方、
図6に示す領域Sにおいて、出銑比が1.06(t/d/m
3)のとき、溶銑Si濃度(%)の適正条件は1.4%~2.6%と決定された。したがって、出銑比を維持したまま溶銑Si濃度を下げ、溶銑Si濃度の適正条件(1.4%~2.6%)を満足するような改善アクションを行った。改善アクションとしては、PCRを80(kg/t)から77(kg/t)まで低下させるアクションを実行した。その結果、溶銑Si濃度(%)が2.5%まで低下し、適正条件を満足させることができた。
【0051】
上述の実施例のように、本発明に係る高炉の操業方法で、高炉のバンキング後の立ち上げを進めた結果、立ち上げ過程において、炉熱過多による棚吊りや、炉熱低下によるスラグ排出障害等のトラブルが生じず、急速かつ安定的に立ち上げを完了させることができた。
【0052】
(変形例)
上述の実施形態では、ステップ101において、出銑比と溶銑Si濃度との関係を規定するグラフを作成したが、出銑比と溶銑Si濃度との関係を規定する方法はこれに限られず、例えば表等のデータテーブルを作成してもよい。
【0053】
(変形例)
上述の実施形態では、ステップ104において、ステップ103で算出された出銑比(t/d/m
3)と、ステップ102で設定された目標数値条件と、に基づいて、溶銑Si濃度(%)の適正条件を決定し、ステップ103で算出された溶銑Si濃度(%)が該適正条件を満足するか否かを判定した。しかしながら、これに限られず、ステップ103で算出された溶銑Si濃度(%)と、ステップ102で設定された目標数値条件と、に基づいて、出銑比(t/d/m
3)の適正条件を決定し、ステップ103で算出された出銑比(t/d/m
3)が該適正条件を満足するか否かを判定する方法であってもよい。この場合、ステップ105では、該適正条件を満足するように、出銑比を調整する改善アクションを行うこととなる。出銑比を調整する改善アクションを行う場合について、再度
図3及び
図6を参照して、以下に説明する。なお、体積割合D(%)の目標数値条件の設定には、設定方法Aを採用する。
【0054】
ステップ103の算出結果が、
図6の点Aである場合、点Aの溶銑Si濃度(4.0%)と、体積割合Dの目標数値条件(4~6%)と、に基づいて、出銑比の適正条件(0.5~0.8)を決定する。点Aの出銑比(1.1)は、該適正範囲の上限値(0.8)よりも高いため、溶銑Si濃度を維持したまま出銑比を下げて出銑比の適正条件(0.5~0.8)を満足するような改善アクションを行う。改善アクションとしては、例えば、送風量を低下させるアクションを行う。点Aの溶銑Si濃度を維持したまま出銑比を下げて出銑比の適正条件(0.5~0.8)を満足させる場合、例えば、送風量を3000(Nm
3/min)から2950(Nm
3/min)まで低下させる。
【0055】
ステップ103の算出結果が、
図6の点Bである場合、点Bの溶銑Si濃度(3.0%)と、体積割合Dの目標数値条件(4~6%)と、に基づいて、出銑比の適正条件(0.7~1.0)を決定する。点Bの出銑比(0.6)は、該適正範囲の下限値(0.7)よりも低いため、溶銑Si濃度を維持したまま出銑比を上げて出銑比の適正条件(0.7~1.0)を満足するような改善アクションを行う。改善アクションとしては、例えば、送風量を増加させるアクションを行う。点Bの溶銑Si濃度を維持したまま出銑比を上げて出銑比の適正条件(0.7~1.0)を満足させる場合、例えば、送風量を1600(Nm
3/min)から1650(Nm
3/min)まで増加させる。
【0056】
さらに、ステップ104の他の方法として、ステップ103で算出された出銑比(t/d/m3)及び溶銑Si濃度(%)と、ステップ102で設定された目標数値条件と、に基づいて、出銑比(t/d/m3)及び溶銑Si濃度(%)の適正条件をそれぞれ決定し、ステップ103で算出された出銑比(t/d/m3)及び溶銑Si濃度(%)がそれぞれの適正条件を満足するか否かを判定する方法であってもよい。この場合、ステップ105では、出銑比(t/d/m3)の適正条件を満足させるように出銑比を調整する改善アクションを行うとともに、溶銑Si濃度(%)の適正条件を満足させるように溶銑Si濃度を調整する改善アクションを行ってもよく、また、出銑比及び溶銑Si濃度の双方を調整可能な改善アクションを行ってもよい。
【0057】
(変形例)
上述の実施形態では、SiOガス発生領域100の体積を評価する体積評価値として、高炉容積Vf(m3)に対するSiOガス発生領域100の体積を示すSiOガス発生領域指数VSiO(m3) の体積割合D(%)を用いたが、本発明はこれに限るものではない。例えば、SiOガス発生領域100の体積(m3)自体を体積評価値としてもよい。SiOガス発生領域100の体積(m3)は、例えば、外部から高炉1に挿入したゾンデによって高炉1の炉内温度を測定し、その測定結果に基づいてSiOガス発生領域100の体積(m3)を推定する方法を採用することができる。
【符号の説明】
【0058】
1 高炉 2 羽口 3 環状管 4 ブローパイプ
5 微粉炭吹き込み用ランス 6 旋回シュート 7 出銑口