(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022152724
(43)【公開日】2022-10-12
(54)【発明の名称】接続異常判定装置および接続異常判定方法
(51)【国際特許分類】
G01R 31/54 20200101AFI20221004BHJP
G01R 31/00 20060101ALI20221004BHJP
【FI】
G01R31/54
G01R31/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021055594
(22)【出願日】2021-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000124591
【氏名又は名称】河村電器産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001416
【氏名又は名称】特許業務法人 信栄特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】林 文移
【テーマコード(参考)】
2G014
2G036
【Fターム(参考)】
2G014AA02
2G014AA14
2G014AA25
2G014AB09
2G014AB10
2G014AB33
2G014AC15
2G014AC18
2G036AA10
2G036AA26
2G036BA04
2G036BA08
2G036BB20
2G036CA06
2G036CA08
2G036CA10
2G036CA11
(57)【要約】
【課題】線路内の接続異常を精度良く判定することが可能な接続異常判定装置および接続異常判定方法を提供する。
【解決手段】線路(第一電圧線L1、中性線N、第二電圧線L2)上の電気信号を取得する取得部2と、電気信号を用いて周波数軸上のデータである周波数スペクトルを算出し、当該周波数スペクトルに基づいて、線路内に接続異常が発生しているか否かを判定するための解析を行う解析部3と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
線路上の電気信号を取得する取得部と、
前記電気信号を用いて周波数軸上のデータである周波数スペクトルを算出し、当該周波数スペクトルに基づいて、線路内に接続異常が発生しているか否かを判定するための解析を行う解析部と、
を備える、
接続異常判定装置。
【請求項2】
前記解析部は、前記周波数スペクトルに出現する周波数軸上の周期的特徴を利用して、線路内に接続異常が発生しているか否かを判定するための解析を行う、
請求項1に記載の接続異常判定装置。
【請求項3】
前記解析部は、10MHz以上の周波数帯域の前記周波数スペクトルに基づいて、線路内に接続異常が発生しているか否かを判定するための解析を行う、
請求項1または請求項2に記載の接続異常判定装置。
【請求項4】
前記解析部は、
線路内に接続異常が発生していないテスト環境下で取得されたテスト信号に基づいて算出される比較用周波数スペクトルが記憶される記憶部と、
前記比較用周波数スペクトルのレベルと、前記取得部が取得した前記周波数スペクトルのレベルとを比較する比較部と、
前記比較部が比較した比較結果に基づいて、線路内に接続異常が発生しているか否かを判定する判定部と、
を有する、
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の接続異常判定装置。
【請求項5】
前記線路は、第一電圧線と、中性線と、第二電圧線とを有し、
前記解析部は、前記第一電圧線と前記中性線との線路間の電気信号から算出された第一周波数スペクトルと、前記第二電圧線と前記中性線との線路間の電気信号から算出された第二周波数スペクトルとを比較して、比較結果である差分値が所定の閾値を超えた場合に、線路内に接続異常が発生したと判定する、
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の接続異常判定装置。
【請求項6】
さらに、
線路上を流れる消費電流を計測する電流計側部を、備え、
前記解析部は、前記消費電流が所定の閾値以下の場合に、線路内に接続異常が発生しているか否かを判定するための解析を行う、
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の接続異常判定装置。
【請求項7】
さらに、
線路上を流れる消費電流を計測する電流計側部を、備え、
前記解析部は、前記消費電流が上昇トレンドである場合、線路内に接続異常が発生したか否かを判定するための解析を行わない、
請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の接続異常判定装置。
【請求項8】
前記解析部は、
10MHz以上の周波数帯域の前記周波数スペクトルのレベルと、10MHz以下の周波数帯域の前記周波数スペクトルのレベルとを比較し、比較結果である差分値が所定の閾値を超えた場合に、線路内に接続異常が発生したと判定する、
請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の接続異常判定装置。
【請求項9】
線路上の電気信号を取得する取得工程と、
前記電気信号を用いて周波数軸上のデータである周波数スペクトルを算出し、当該周波数スペクトルに基づいて、線路内に接続異常が発生したか否かを判定するための解析を行う解析工程と、
を有する、
接続異常判定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接続異常判定装置および接続異常判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ケーブル内の導体や家電機器の回路の線路内で発生する半断線や接触不良等の接続異常を検出する技術として、例えば、特許文献1がある。
【0003】
特許文献1では、特定の波形歪みを検出する検出回路と、整流波形から負荷の突入電流による電圧変化を検出する突入電圧検出回路と、コード短路の発生を判定する判定回路とを備える装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、線路内の電気信号は接続先の機器(負荷)の影響を大きく受けるため、従来技術では、線路内の接続異常を判定する精度に改善の余地があった。
【0006】
そこで、本発明は、線路内の接続異常を精度良く判定することが可能な接続異常判定装置および接続異常判定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の接続異常判定装置は、
線路上の電気信号を取得する取得部と、
前記電気信号を用いて周波数軸上のデータである周波数スペクトルを算出し、当該周波数スペクトルに基づいて、線路内に接続異常が発生しているか否かを判定するための解析を行う解析部と、
を備える。
【0008】
上記構成によれば、線路上の電気信号を周波数スペクトルに算出して、周波数スペクトルに基づいて接続異常が発生しているか否かを判定する。このため、線路内の家電機器等の負荷の影響と区別して、接続異常に起因するノイズ成分の特徴を捉えやすくなり、接続異常を精度良く判定することが可能となる。
【0009】
また、本発明の接続異常判定方法は、
線路上の電気信号を取得する取得工程と、
前記電気信号を用いて周波数軸上のデータである周波数スペクトルを算出し、当該周波数スペクトルに基づいて、線路内に接続異常が発生したか否かを判定するための解析を行う解析工程と、
を有する。
【0010】
上記方法によれば、線路上の電気信号を周波数スペクトルに算出し、算出した周波数スペクトルに基づいて接続異常が発生しているか否かを判定することで、線路内の家電機器等の負荷の影響と区別して、接続異常に起因するノイズ成分の特徴を捉えやすくできるので、接続異常を精度良く判定することが可能になる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、線路内の接続異常を精度良く判定することが可能な接続異常判定装置および接続異常判定方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施形態に係る接続異常判定装置の構成を示すブロック図である。
【
図2】接続異常判定装置の取得部の構成を示すブロック図である。
【
図3】(a)は接続異常が発生していないときの周波数スペクトル、(b)は接続異常が発生しているときの周波数スペクトルの一例を示す図である。
【
図4】(a)は接続異常が発生していないときの周波数スペクトル、(b)は接続異常が発生しているときの周波数スペクトルの別の一例を示す図である。
【
図5】(a)は接続異常が発生していないときの周波数スペクトル、(b)は接続異常が発生しているときの周波数スペクトルの別の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る接続異常判定装置及び接続異常判定方法の実施形態について図面を参照して説明する。
図1は、本実施形態の接続異常判定装置1の構成を示すブロック図である。
図1に示すように、接続異常判定装置1は、取得部2と、解析部3と、電流計測部4と、設定部5と、を備える。接続異常判定装置1は、例えば、各家庭に設置されている分電盤Dに組み込まれる。
【0014】
なお、本実施形態では、各家庭へ電気を供給する配電方式として単相3線式について説明する。単相3線式は、3本の芯線として第一電圧線L1と、中性線Nと、第二電圧線L2とを有する。第一電圧線L1、中性線N、及び第二電圧線L2によって形成される線路を介して、負荷P(家電機器等)に対して、例えば、電源周波数50Hz/60Hzの商用電力が供給される。また、本実施形態では、「線路」とは、第一電圧線L1、中性線N、及び第二電圧線L2によって形成される線路に限定されず、負荷として接続される家電機器等の内部の配線(電線や回路パターンを含む)なども含む。
【0015】
取得部2は、分電盤D内の第一電圧線L1、中性線N、及び第二電圧線L2に接続されている。取得部2は、線路(第一電圧線L1、中性線N、第二電圧線L2、及び負荷配線)上の電気信号を取得する。取得部2は、例えば、第一電圧線L1から中性線Nへと続く線路上の電気信号と、第二電圧線L2から中性線Nへと続く線路上の電気信号とを取得し、取得したこれらの電気信号を解析部3へ送信する。「電気信号」には、家電機器等の駆動に起因する負荷ノイズの信号や、線路内の接続異常に起因するノイズ成分の信号等が含まれる。「線路内の接続異常」には、ケーブルの繰り返し屈曲等に起因する半断線、電気回路上の線路の経年劣化等に起因する接続不良、コンセントとプラグの接触不良、分電盤DのブレーカBにおける電線の接触不良等含まれる。取得部2の詳しい構成については、
図2で後述する。
【0016】
解析部3は、少なくとも一つの電子制御ユニット(MCU:Micro Control Unit)により構成されている。電子制御ユニットは、1以上のプロセッサおよびメモリを備えるコンピュータシステム(例えば、SoC(System on a Chip)等)と、トランジスタ等のアクティブ素子および抵抗等のパッシブ素子から構成される電子回路とを含む。解析部3は、記憶部31と、比較部32と、判定部33と、を備える。
【0017】
解析部3は、取得部2から受信した電気信号を高速フーリエ変換(Fast Fourier Transform)により周波数分析して、周波数軸上のデータである周波数スペクトルを算出する。解析部3は、算出した周波数スペクトルに基づいて、線路内(第一電圧線L1~中性線N、第二電圧線L2~中性線N)に接続異常が発生しているか否かを判定するための解析を行う。線路内に接続異常が発生しているか否かの判定は、線路に接続されている負荷P(家電機器等)が駆動している状態で行う。
【0018】
記憶部31には、例えば、線路内(第一電圧線L1~中性線Nまたは第二電圧線L2~中性線N)に接続異常が発生していないテスト環境下で取得された、すなわち接続異常に起因するノイズ成分が含まれていないテスト信号に基づいて算出される比較用周波数スペクトルが記憶されている。
【0019】
比較部32は、例えば、第一電圧線L1から中性線Nへと続く線路上の電気信号から算出される第一周波数スペクトルのレベル及び第二電圧線L2から中性線Nへと続く線路上の電気信号から算出された第二周波数スペクトルのレベルと、所定の閾値とを比較する。また、比較部32は、例えば、第一周波数スペクトルのレベルと、第二周波数スペクトルのレベルとを比較する。また、比較部32は、例えば、記憶部31に記憶されている比較用周波数スペクトルのレベルと、第一周波数スペクトルまたは第二周波数スペクトルのレベルとを比較する。なお、周波数スペクトルの「レベル」とは、電気信号の強度を意味する。
【0020】
判定部33は、比較部32が比較した比較結果に基づいて、線路内に接続異常が発生しているか否かを判定する。また、判定部33は、電流計測部4が計測する電流値に基づいて、接続異常の判定を行うか否かを判定する。
【0021】
電流計測部4は、線路(第一電圧線L1、第二電圧線L2)上を流れる電流を計測するための計測部である。線路上を流れる電流とは、負荷P(家電機器等)によって消費される消費電流を意味する。
【0022】
設定部5は、線路内の電気信号から算出される周波数スペクトルのレベルと比較する閾値を、段階的に選択して設定することができるように構成されている。また、設定部5は、電流計測部4で計測される消費電流と比較する閾値を、段階的に選択して設定することができるように構成されている。設定部5は、例えば、閾値を切り替え可能な切替スイッチで構成されている。
【0023】
解析部3の具体的な解析内容は、以下である。例えば、解析部3は、算出した周波数スペクトルにおいて、所定の周波数帯域の範囲内の周波数スペクトルに基づいて、線路内に接続異常が発生しているか否かを判定するための解析を行う。「所定の周波数帯域」は、例えば、10MHz以上の範囲の周波数帯域である。
【0024】
解析部3は、所定の周波数帯域(10MHz以上)の範囲内において、周波数スペクトルのレベルが、所定の閾値T1を超えた場合、線路内に接続異常が発生したと判定する。「所定の閾値T1」は、例えば、50dBμVである。
【0025】
また、例えば、解析部3は、接続異常が発生したことにより周波数スペクトルに出現する、接続異常に起因したノイズ成分による、周波数軸上の周期的特徴を利用して、線路内に接続異常が発生しているか否かを判定するための解析を行う。
【0026】
解析部3は、所定の周波数帯域(10MHz以上)の範囲内において、周波数スペクトルのレベルが、周波数軸上の一定間隔で所定の閾値T1を複数回超えた場合、線路内に接続異常が発生したと判定する。「一定間隔で所定の閾値を超える」という特徴は、上記周期的特徴の一つである。「一定間隔」は、例えば、2MHz~3MHzの範囲内の値である。「閾値T1」は、上記と同様に50dBμVである。
【0027】
解析部3は、第一電圧線L1から中性線Nへと続く線路上の電気信号から算出された第一周波数スペクトルと、第二電圧線L2から中性線Nへと続く線路上の電気信号から算出された第二周波数スペクトルとを比較し、比較結果である第一周波数スペクトルと第二周波数スペクトルとの差分値が所定の閾値T3を超えた場合に、接続異常が発生したと判定する。「所定の閾値T3」は、例えば、20(50-30)dBμVである。
【0028】
解析部3は、線路内に接続異常が発生していないテスト環境下で取得されたテスト信号に基づいて算出される比較用周波数スペクトルと、第一電圧線L1から中性線Nへと続く線路上の電気信号から算出された第一周波数スペクトルまたは第二電圧線L2から中性線Nへと続く線路上の電気信号から算出された第二周波数スペクトルとを比較し、比較結果である両周波数スペクトルの差分値が所定の閾値T4を超えた場合に、接続異常が発生したと判定する。「所定の閾値T4」は、例えば、20(50-30)dBμVである。
【0029】
なお、解析部3は、比較結果である両周波数スペクトルの差分値が所定の閾値T4を超えていない場合、その差分値が所定の閾値T5(T5<T4)を超えたか否か判定する。閾値T5を超えている場合には、閾値T5を超える周波数スペクトルが発生する頻度を測定する。解析部3は、その発生する頻度が所定の頻度を上回る場合に、接続異常が発生したと判定してもよい。
【0030】
解析部3は、線路内の電気信号から算出した周波数スペクトルにおいて、10MHz以上の周波数帯域の周波数スペクトルの最大レベルと、10MHz以下の周波数帯域の周波数スペクトルの最大レベルとを比較し、比較結果である両周波数スペクトルの差分値が所定の閾値T6を超えた場合に、線路内に接続異常が発生したと判定する。「所定の閾値T6」は、例えば、10dBμVである。
【0031】
また、例えば、解析部3は、電流計測部4によって計測された負荷Pの消費電流を電流計測部4から受信し、その消費電流の電流値に応じて、線路内の接続異常の解析を行うか否か決定する。解析部3は、電流計測部4によって計測された負荷Pの消費電流が所定の閾値以下の場合に、線路内に接続異常が発生しているか否かを判定するための解析を行う。また、解析部3は、電流計測部4によって計測された負荷Pの消費電流が上昇トレンドである場合には、線路内に接続異常が発生したか否かを判定するための解析を行わない。
【0032】
また、解析部3は、解析の結果、線路内に接続異常が発生していると判定した場合、分電盤Dのブレーカ(遮断器)Bを遮断するための遮断信号を分電盤Dへ送信するとともに、接続異常が発生している旨を報知する報知信号を外部へ出力する。
【0033】
次に、
図2を参照して、取得部2の構成及び機能について説明する。
図2に示すように、取得部2は、コイルHと、コンデンサCと、抵抗Rと、ローパスフィルタ回路21と、発振器22と、周波数結合部23と、バンドパスフィルタ回路24と、増幅器25と、A/D変換回路26と、を備える。
【0034】
取得部2は、第一電圧線L1と中性線Nとの線路間に接続される回路と、第二電圧線L2と中性線Nとの線路間に接続される回路とを有する。取得部2は、コイルHの一端部が第一電圧線L1または第二電圧線L2に接続される。また、抵抗Rの一端部が中性線Nに接続される。線路(第一電圧線L1、中性線N、及び第二電圧線L2)のノイズ成分を測定するにあたって、線路のインピーダンスが低ければノイズ量は少なく測定され、反対にインピーダンスが高ければノイズ量は多く測定される。
【0035】
そこで、電圧線L1から中性線Nへと続く線路上の電気信号及び電圧線L2から中性線Nへと続く線路上の電気信号をローパスフィルタ回路21に通過させた後に、当該電気信号と、発振器22の発振周波数信号と、を周波数結合部23で周波数結合して、ノイズ周波数を分析しやすい中間周波数(「電気信号」-「発振周波数信号」の周波数)に落とす。そして、中間周波数に落とした電気信号をバンドパスフィルタ回路24に入力することで、所定の周波数帯域(例えば、1Hz~10MHz,10MHz~20MHz)の電気信号を取得する。
【0036】
このとき、バンドパスフィルタ回路24が抵抗(50Ω)で終端される定インピーダンス回路として構成されているので、線路側から見た接続異常判定装置1のインピーダンスが固定されて、電気信号に含まれるノイズ成分の揺れ幅を小さくできる。バンドパスフィルタ回路24を通過した電気信号は、増幅器25で所定の振幅に増幅され、A/D変換回路26でデジタル信号に変換された後に、解析部3に入力される。
【0037】
次に、
図3から
図6を参照して、接続異常判定装置1による具体的な解析動作例について説明する。
【0038】
図3は、負荷Pとして、オーブントースターが駆動されているときの電気信号を用いて算出された周波数スペクトルである。そして、
図3(a)が線路内に接続異常が発生していないときの比較用周波数スペクトルであり、
図3(b)が線路内に接続異常が発生しているときの周波数スペクトルである。
図4は、負荷Pとして、掃除機が駆動されているときの電気信号を用いて算出された周波数スペクトルであり、(a)が線路内に接続異常が発生していないときの比較用周波数スペクトル、(b)が線路内に接続異常が発生しているときの周波数スペクトルである。
図5は、負荷Pとして、かき氷機が駆動されているときの電気信号を用いて算出された周波数スペクトルであり、(a)が線路内に接続異常が発生していないときの比較用周波数スペクトル、(b)が線路内に接続異常が発生しているときの周波数スペクトルである。
【0039】
(第一動作例)
接続異常判定装置1の取得部2は、分電盤D内の第一電圧線L1から中性線Nへと続く線路上の電気信号と、第二電圧線L2から中性線Nへと続く線路上の電気信号とを取得する。なお、負荷Pとして接続されている家電機器は電源スイッチがオンされた状態であるとする。
【0040】
接続異常判定装置1の解析部3は、取得部2で取得された電気信号を高速フーリエ変換により周波数分析して周波数スペクトルを算出する。
【0041】
図3(a)、
図4(a)、及び
図5(a)に示すように、接続異常が発生していないときの比較用周波数スペクトルは、10MHz~20MHzの周波数帯域において、ノイズレベル(負荷としての家電機器の駆動に起因する負荷ノイズ)が50dBμV以下である。負荷の種類によってノイズレベルが相違するが、いずれの負荷においても50dBμV以下になる。これに対して、
図3(b)、
図4(b)、及び
図5(b)に示すように、接続異常が発生しているときの周波数スペクトルは、10MHz~20MHzの周波数帯域において、ノイズレベルが大きく変動している。なお、「ノイズレベル」とは、電気信号の強度を意味し、図における縦軸の値を示す。
【0042】
そこで、解析部3は、10MHz~20MHzの周波数帯域において、周波数スペクトルのノイズレベルが閾値T1である50dBμVを超えているか否か判定する。解析部3は、10MHz~20MHzの周波数帯域において、周波数スペクトルのノイズレベルが50dBμVを超えている場合に、その線路内に接続異常が発生していると判定する。解析部3は、接続異常が発生していると判定した場合、遮断信号と報知信号を出力する。遮断信号に基づいてブレーカBが遮断されるとともに、報知信号に基づいて例えばアラーム音が出力される。
【0043】
(第二動作例)
上記第一動作例と同様に、取得部2は、線路内の電気信号を取得する。また、解析部3は、取得された電気信号を高速フーリエ変換して周波数スペクトルを算出する。
【0044】
図3(b)、
図4(b)及び
図5(b)に示すように、接続異常が発生しているときの周波数スペクトルは、10MHz~20MHzの周波数帯域において、ノイズレベルが周波数軸上の一定の間隔(2MHz~3MHzの範囲内の一定の間隔)で大きく変動している。
【0045】
具体的には、
図3(b)において、周波数スペクトルのノイズレベルは、破線で示す14MHz付近と17MHz付近と20MHz付近で大きく変動している。その変動最大値は、50dBμV以上に達している。そして、これら14MHzと17MHzと20MHzは、周波数軸上において、約3MHz間隔で周期的である。
【0046】
そこで、解析部3は、10Hz~20MHzの周波数帯域において、周波数スペクトルのノイズレベルが2MHz~3MHzの範囲内の一定の間隔で、複数回において閾値T1である50dBμVを超えているか否か判定し、当該一定の間隔で複数回超えている場合に、その線路内に接続異常が発生していると判定する。解析部3は、接続異常が発生していると判定した場合、遮断信号と報知信号を出力する。
【0047】
(第三動作例)
上記第一動作例と同様に、取得部2は、線路内の電気信号を取得する。また、解析部3は、取得された電気信号を高速フーリエ変換して周波数スペクトルを算出する。
【0048】
図3(b)、
図4(b)及び
図5(b)に示すように、接続異常が発生している場合には、1Hz~10MHzの周波数帯域における周波数スペクトルのレベルと、10MHz~20MHzの周波数帯域における周波数スペクトルのレベルとを比較すると、10MHz~20MHzの周波数帯域における周波数スペクトルのレベルの方が大きい。
【0049】
そこで、解析部3は、算出した周波数スペクトルにおいて、10MHz~20MHzの周波数帯域の周波数スペクトルのレベルの方が10MHz以下の周波数帯域の周波数スペクトルのレベルよりも大きく、両周波数スペクトルの最大値の差分値が閾値T6である10dBμVを超えた場合に、線路内に接続異常が発生したと判定する。解析部3は、接続異常が発生していると判定した場合、遮断信号と報知信号を出力する。
【0050】
(第四動作例)
負荷Pとして接続される家電機器が運転されている際には、家電機器特有の周波数のノイズが発生される。したがって、線路から取得される電気信号中には、家電機器から発生する負荷ノイズが含まれ得る。そこで、線路内に接続異常が発生しているか否かを判定するにあたり、負荷P(家電機器)から発生するノイズの影響を抑制するために、接続異常判定装置1の解析部3は、以下のような解析を行う。
【0051】
図6は、ある4人世帯の一日の電力消費量の一例を示す図である。
図6に示されるように、人が活動を開始する朝食時付近と、人が外出先から帰宅して食事する夕食時付近で電力消費量が多く、外出する人が多い時間帯である昼間と、人が就寝する深夜の時間帯で電力消費量が少ない傾向にある。
【0052】
そこで、解析部3は、電流計測部4で計測された負荷Pの消費電流を電流計測部4から受信し、その消費電流から算出される電力消費量が閾値T2である0.4KWh以下である場合に、線路内に接続異常が発生しているか否かを判定するための解析を行う。
【0053】
なお、接続異常が発生しているか否かの判定の仕方については、上記第一動作例から第三動作例と同様である。
【0054】
(第五動作例)
負荷Pとして接続される家電機器の種類によっては、例えば、誘電負荷やインバータ負荷などが接続される場合には、これらの家電機器から高いノイズが発生し得る。したがって、これらの家電機器の駆動時には、家電機器から発生するノイズによって、線路内に接続異常が発生しているか否かの判定に影響を及ぼす可能性が高くなる。そこで、これらの家電機器から発生するノイズによって接続異常の発生の誤判定を防ぐために、接続異常判定装置1の解析部3は、以下のような解析を行う。
【0055】
解析部3は、電流計測部4で計測された負荷Pの消費電流を電流計測部4から受信し、受信した消費電流の状態を測定する。また、解析部3は、取得部2で取得された電気信号に基づいて周波数スペクトルを算出する。解析部3は、周波数スペクトルのノイズレベルが閾値T1(50dBμV)を超えたと判定された場合、上記負荷Pの消費電流が上昇トレンドであるか判定する。解析部3は、負荷Pの消費電流が上昇トレンドであると判定された場合、周波数スペクトルのノイズレベルが閾値T1(50dBμV)を超えたタイミングと、負荷Pの消費電流の上昇トレンドのタイミングとを比較する。解析部3は、両者のタイミングが合致している場合には、ノイズレベルが大きくなったのはその負荷Pの影響によるものであると判定して、線路内に接続異常が発生したか否かを判定するための解析を行わない。
【0056】
(第六動作例)
解析部3は、接続異常の発生の誤判定を抑制するために、以下のような解析を行ってもよい。
【0057】
解析部3は、線路内に接続異常が発生していると判定した場合、その判定時に、電流計測部4で計測された負荷Pの消費電流が上昇していたか否か測定する。解析部3は、判定時に負荷Pの消費電流が上昇している状況であった場合、消費電流の上昇に伴う「仮判定」としてその判定を一旦記憶する。その後、同様に負荷Pの消費電流の上昇に伴って、線路内に接続異常が発生していると判定した場合には、その判定頻度が所定の閾値(例えば、10分間に5回)を超えるか否か判定する。そして、解析部3は、判定頻度が所定の閾値を超える場合には、これらの判定が負荷Pの消費電流の上昇に伴う誤判定であったと判断する。そこで、解析部3は、線路内に接続異常が発生したと判定する周波数スペクトルのレベルの閾値Tを、現在設定されている閾値Tから変更するように報知信号を出力する。この場合、報知信号に基づいて、例えば、スピーカから「この負荷(家電機器)をこの後も長期間使用する場合には、設定部を操作して判定閾値を上げてください」とアナウンスしてもよい。
【0058】
以上説明したように、接続異常判定装置1によれば、第一電圧線L1から中性線Nへと続く線路内の電気信号と、第二電圧線L2から中性線Nへと続く線路内の電気信号とを取得して、これらの電気信号を周波数スペクトルに算出し、周波数スペクトルに基づいて接続異常が発生しているか否かを判定する。このため、線路内に発生する接続異常とは直接的な関係性が低い環境要因(例えば、負荷(家電機器)による負荷ノイズ)を電気信号から区別しやすくなり、接続異常に起因するノイズ成分の特徴を捉えやすくなる。これにより、接続異常を精度良く判定することが可能となる。
【0059】
また、接続異常判定装置1によれば、線路内から取得した電気信号を高速フーリエ変換で周波数分析して周波数スペクトルを算出し、算出した周波数スペクトルに基づいて接続異常の発生を判定する。このため、接続異常初期段階のノイズ特性を捉えることができ、より早期段階で接続異常の検出が可能である。
【0060】
また、接続異常判定装置1によれば、周波数スペクトルに出現する周波数軸上の周期的な特徴部を利用して、線路内に接続異常が発生しているか否かを判定する。このように、周波数スペクトルに出現する周波数軸上の周期的特徴を、接続異常に起因するノイズ成分の特徴として捉えることにより、接続異常の発生を精度良く判定することが可能となる。
【0061】
ところで、線路内において判断線が生じた場合、負荷として接続されている家電機器の種類等によって多少の相違はあるが、発生する火花ノイズは、ノイズ幅及び立ち上がり時間が極端に短い急峻なパルス波のものが多い。そして、このような急峻な火花ノイズは、周波数スペクトルの高調波帯域で出現しやすい傾向にある。このため、判断線で発生したノイズは高調波領域でノイズレベルが高くなると推測される。
【0062】
そこで、本接続異常判定装置1では、10MHz~20MHzの範囲内の周波数スペクトルにおいて、周波数スペクトルのレベルが閾値T1(50dBμV)を超えた場合に、線路内に接続異常が発生したと判定することとした。これにより、家電機器等に代表される負荷Pの負荷ノイズによる影響を線路上の電気信号から区別することができ、接続異常に起因するノイズ成分の特徴を捉えやすくなる。
【0063】
さらに、接続異常判定装置1によれば、10MHz~20MHzの範囲内の周波数スペクトルにおいて、周波数スペクトルのレベルが、周波数軸上の例えば2MHz~3MHzの一定の間隔で閾値T1(50dBμV)を超えた場合に、線路内に接続異常が発生したと判定する。これにより、家電機器等に代表される負荷Pのノイズによる影響を線路上の電気信号から区別することができ、接続異常に起因するノイズ成分の特徴をさらに捉えやすくなる。
【0064】
また、接続異常判定装置1によれば、第一電圧線L1から中性線Nへと続く線路内の電気信号から算出された第一周波数スペクトルと、第二電圧線L2から中性線Nへと続く線路内の電気信号から算出された第二周波数スペクトルとを比較し、両周波数スペクトルの差分値が閾値T3である20(50-30)dBμVを超えた場合に、接続異常が発生したと判定する。単相3線式の場合、第一電圧線L1から中性線Nへと続く線路内および第二電圧線L2から中性N線へと続く線路内の両方において、同時に接続異常が発生する場合は比較的に少ない。このため、上記のように両周波数スペクトルの差分値に基づいて判定することで、線路内に発生する接続異常とは直接的な関係性が低い環境要因(例えば、負荷(家電機器)による負荷ノイズ)を電気信号から排除して、接続異常の有無を判定することができる。
【0065】
また、接続異常判定装置1によれば、線路内に接続異常が発生していないテスト環境下で取得されたテスト信号に基づいて算出される比較用周波数スペクトルと、第一電圧線L1から中性線Nへと続く線路内の電気信号から算出された周波数スペクトルまたは第二電圧線L2から中性線Nへと続く線路内の電気信号から算出された周波数スペクトルとを比較し、両周波数スペクトルの差分値が閾値T4である20(50-30)dBμVを超えた場合に、接続異常が発生したと判定する。このように、線路内に接続異常が発生していないテスト環境下の比較用周波数スペクトルのレベルと、本稼働時に取得される周波数スペクトルのレベルとを比較することで、線路内に発生する接続異常とは直接的な関係性が低い環境要因(例えば、負荷(家電機器)による負荷ノイズ)を電気信号から排除して、接続異常の有無を判定することができる。
【0066】
また、接続異常判定装置1によれば、10MHz~20MHzの周波数帯域の周波数スペクトルのレベルの方が10MHz以下の周波数帯域の周波数スペクトルのレベルよりも大きく、両周波数スペクトルの差分値が閾値T6である10dBμVを超える場合に、線路内に接続異常が発生したと判定する。これにより、家電機器等に代表される負荷Pの負荷ノイズを線路上の電気信号から区別することができ、接続異常に起因するノイズ成分の特徴を捉えやすくなる。
【0067】
また、接続異常判定装置1によれば、電流計測部4で計測された負荷Pの消費電流から算出される電力消費量が閾値T2である0.4KWh以下である場合に、線路内に接続異常が発生しているか否かを判定する。これにより、家電機器等に代表される負荷の負荷ノイズの影響に起因した、接続異常の発生の誤判定を低減させることができる。
【0068】
また、接続異常判定装置1によれば、電流計測部4で計測された負荷Pの消費電流が上昇トレンドである場合には、線路内に接続異常が発生したか否かを判定しない。これにより、家電機器等に代表される負荷の負荷ノイズの影響に起因した、接続異常の発生の誤判定を低減させることができる。
【0069】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されず、適宜、変形、改良等が自在である。その他、上述した実施形態における各構成要素の材質、形状、寸法、数値、形態、数、配置場所等は、本発明を達成できるものであれば任意であり、限定されない。
【0070】
例えば、上記実施形態では、配電方式が単相3線式の場合について説明したが、この方式に限られない。例えば、単相2線式であってもよいし、あるいは三相3線式であってもよい。
【0071】
また、上記実施形態では、接続異常判定装置が分電盤内に組み込まれる場合について説明したが、この形態に限られない。例えば、接続異常判定装置は、分電盤の外部に設置される形態の装置であってもよいし、あるいは分電盤とは分離して携帯可能な検査用の装置であってもよい。
【0072】
また、上記実施形態では、接続異常判定装置が一般家庭に設置されている分電盤に組み込まれる場合について説明したが、この形態に限られない。例えば、接続異常判定装置は、事務所、会社、工場、商業施設等に設置されている分電盤に組み込まれる場合であってもよい。
【符号の説明】
【0073】
1:接続異常判定装置、2:取得部、3:解析部、4:電流計測部、5:設定部、21:ローパスフィルタ回路、22:発振器、23:周波数結合部、24:バンドパスフィルタ回路、25:増幅器、26:A/D変換回路、31:記憶部、32:比較部、33:判定部、B:ブレーカ(遮断器)、D:分電盤、L1:第一電圧線、L2:第二電圧線、N:性線、P:負荷(家電機器等)