(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022152729
(43)【公開日】2022-10-12
(54)【発明の名称】太陽電池の製造方法及び太陽電池
(51)【国際特許分類】
H01L 51/44 20060101AFI20221004BHJP
H01L 51/48 20060101ALI20221004BHJP
【FI】
H01L31/04 112Z
H01L31/04 188
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021055602
(22)【出願日】2021-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】奥村 拓郎
(72)【発明者】
【氏名】会田 哲也
【テーマコード(参考)】
5F151
【Fターム(参考)】
5F151AA11
5F151EA07
5F151EA09
5F151EA10
5F151EA11
5F151EA16
5F151FA06
5F151GA03
(57)【要約】 (修正有)
【課題】光電変換層の切削加工を良好に行うことができ、光電変換層を挟む上下の電極の電気的接続を安定して確保することができる太陽電池の製造方法を提供する。
【解決手段】複数の太陽電池セルは、隣接する太陽電池セル同士が直列に接続しており、基材上1に透明電極2を製膜し、透明電極を切削加工する工程(1)と、切削加工された透明電極上に光電変換層3を製膜する工程(2A)と、リフトオフによって透明電極の基材側とは反対側の界面を剥離しながら光電変換層を除去し、光電変換層に切削溝を形成する工程(2B)と、切削加工された光電変換層上に電極を製膜し、電極の切削加工を行う工程(3)とを有し、光電変換層は、一般式R-M-X
3(但し、Rは有機分子、Mは金属原子、Xはハロゲン原子又はカルコゲン原子である。)で表される有機無機ペロブスカイト化合物を含む太陽電池の製造方法。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に複数の太陽電池セルを有する太陽電池の製造方法であって、
前記複数の太陽電池セルは、それぞれ、電極と、透明電極と、前記電極と前記透明電極との間に配置された光電変換層とを有する積層体からなり、かつ、隣接する太陽電池セル同士が直列に接続しており、
前記基材上に前記透明電極を製膜し、前記透明電極を切削加工する工程(1)と、
前記切削加工された透明電極上に前記光電変換層を製膜する工程(2A)と、
リフトオフによって前記透明電極の前記基材側とは反対側の界面を剥離しながら前記光電変換層を除去し、光電変換層に切削溝を形成する工程(2B)と、
前記切削加工された光電変換層上に前記電極を製膜し、前記電極の切削加工を行う工程(3)とを有し、
前記光電変換層は、一般式R-M-X3(但し、Rは有機分子、Mは金属原子、Xはハロゲン原子又はカルコゲン原子である。)で表される有機無機ペロブスカイト化合物を含む
ことを特徴とする太陽電池の製造方法。
【請求項2】
波長950nm以上1200nm以下のレーザーを前記光電変換層上から照射することで前記リフトオフを行うことを特徴とする請求項1記載の太陽電池の製造方法。
【請求項3】
前記光電変換層の厚みが0.1μm以上2.0μm以下であることを特徴とする請求項1又は2記載の太陽電池の製造方法。
【請求項4】
前記有機無機ペロブスカイト化合物は1064nmの波長の光の吸収率が0%以上10%以下であることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の太陽電池の製造方法。
【請求項5】
基材上に複数の太陽電池セルを有する太陽電池であって、
前記複数の太陽電池セルは、それぞれ、電極と、透明電極と、前記電極と前記透明電極との間に配置された光電変換層とを有する積層体からなり、かつ、隣接する太陽電池セル同士が直列に接続しており、
前記光電変換層を貫通する切削溝の断面をレーザー顕微鏡を用いて測定したときに、前記切削溝の上辺と下辺の長さの比(上辺/下辺)が1.0以上1.1以下であることを特徴とする太陽電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光電変換層を挟む上下の電極の電気的接続を安定して確保することができ、光電変換効率を向上させることができる太陽電池の製造方法に関する。また、本発明は、該太陽電池の製造方法により得られた太陽電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、太陽電池として、対向する電極間にN型半導体層とP型半導体層とを配置した積層体が盛んに開発されており、上記N型、P型半導体として主にシリコン等の無機半導体が用いられている。しかしながら、このような無機太陽電池は、製造にコストがかかるうえ大型化が困難であり、利用範囲が限られてしまうという問題があった。
そこで、近年、中心金属に鉛、スズ等を用いたペロブスカイト構造を有する有機無機ペロブスカイト化合物を光電変換層に用いた、ペロブスカイト太陽電池が注目されている(例えば、特許文献1、非特許文献1)。ペロブスカイト太陽電池は、高い光電変換効率が期待できるうえに、印刷法によって製造できることから製造コストを大幅に削減することができる。
【0003】
一方、近年、ポリイミド、ポリエステル系の耐熱高分子材料や金属箔を基材とするフレキシブルな太陽電池が注目されるようになってきている。フレキシブル太陽電池は、薄型化や軽量化による運搬、施工の容易さや、衝撃に強い等の利点があり、例えば、フレキシブル基材上に、光が照射されると電流を生じる機能を有する光電変換層等の複数の層を薄膜状に積層することにより製造される。更に、必要に応じてフレキシブル太陽電池の上下面を、太陽電池封止シートを積層して封止する。
例えば、特許文献2には、シート状のアルミニウム基材を含む半導体装置用基板、及び、この半導体装置用基板を含む有機薄膜太陽電池が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014-72327号公報
【特許文献2】特開2013-253317号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】M.M.Lee,et al,Science,2012,338,643
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
太陽電池の製造時には、一般的に、基材上に下部電極の製膜を行い、その製膜した下部電極を一部切削加工する。次いで、切削加工された電極上に光電変換層の製膜を行い、その製膜した光電変換層を一部切削加工する。更に、切削加工された光電変換層上に上部電極の製膜を行い、その製膜した上部電極を一部切削加工する。このようにして、基材上にパターニングされた複数の層を積層していくことが一般的である。得られた太陽電池においては、基材上に複数の太陽電池セルが形成され、太陽電池セルの下部電極と、隣接する太陽電池セルの上部電極とが接続することで、隣接する太陽電池セル同士が直列に接続することとなる。
光電変換層の切削加工方法として、例えば、レーザーパターニングが用いられている。しかしながら、従来のレーザーパターニングでは、レーザーパルスを光電変換層の上面から照射する場合、パルスエネルギーの制御が難しいという問題があった。パルスエネルギーが弱すぎると、光電変換層を除去して下部電極を露出させることができず、得られた太陽電池において光電変換層を挟む上下の電極の電気的接続が確保できない。パルスエネルギーが強すぎると、光電変換層のみならず下部電極まで切削してしまい、得られた太陽電池において光電変換層を挟む上下の電極の接触面積が小さくなるため、接触抵抗が大きくなり、光電変換効率の低下につながる。特にペロブスカイト太陽電池では、有機無機ペロブスカイト化合物を含む光電変換層が極めて薄いため、パルスエネルギーを制御して光電変換層を挟む上下の電極の電気的接続を安定して確保することは難しかった。
【0007】
本発明は、光電変換層を挟む上下の電極の電気的接続を安定して確保することができ、光電変換効率を向上させることができる太陽電池の製造方法を提供することを目的とする。また、本発明は、該太陽電池の製造方法により得られた太陽電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、基材上に複数の太陽電池セルを有する太陽電池の製造方法であって、前記複数の太陽電池セルは、それぞれ、電極と、透明電極と、前記電極と前記透明電極との間に配置された光電変換層とを有する積層体からなり、かつ、隣接する太陽電池セル同士が直列に接続しており、前記基材上に前記透明電極を製膜し、前記透明電極を切削加工する工程(1)と、前記切削加工された透明電極上に前記光電変換層を製膜する工程(2A)と、リフトオフによって前記透明電極の前記基材側とは反対側の界面を剥離しながら前記光電変換層を除去し、光電変換層に切削溝を形成する工程(2B)と、前記切削加工された光電変換層上に前記電極を製膜し、前記電極の切削加工を行う工程(3)とを有し、前記光電変換層は、一般式R-M-X3(但し、Rは有機分子、Mは金属原子、Xはハロゲン原子又はカルコゲン原子である。)で表される有機無機ペロブスカイト化合物を含む太陽電池の製造方法である。
以下、本発明を詳述する。
【0009】
本発明の太陽電池の製造方法は、基材上に複数の太陽電池セルを有する太陽電池の製造方法である。
上記複数の太陽電池セルは、それぞれ、電極と、透明電極と、上記電極と上記透明電極との間に配置された光電変換層とを有する積層体からなり、かつ、隣接する太陽電池セル同士が直列に接続している。
【0010】
上記基材は特に限定されず、例えば、ポリイミド、ポリエステル系の耐熱性高分子からなる樹脂フィルム、金属箔、薄板ガラス等を有するものが挙げられる。なかでも、透明性、耐熱性、柔軟性の観点から樹脂フィルムが好ましく、ポリエチレンテレフタレートがより好ましい。
【0011】
上記基材の厚みは特に限定されないが、好ましい下限が5μm、好ましい上限が500μmである。上記基材の厚みが5μm以上であれば、充分な機械的強度を持つ、取扱い性に優れた太陽電池とすることができる。上記基材の厚みが500μm以下であれば、フレキシブル性に優れた太陽電池とすることができる。上記基材の厚みのより好ましい下限は10μm、より好ましい上限は100μmである。
【0012】
上記電極及び上記透明電極は、どちらが陰極になってもよく、陽極になってもよい。上記電極及び上記透明電極の材料として、例えば、FTO(フッ素ドープ酸化スズ)、ナトリウム、ナトリウム-カリウム合金、リチウム、マグネシウム、アルミニウム、マグネシウム-銀混合物、マグネシウム-インジウム混合物、アルミニウム-リチウム合金、Al/Al2O3混合物、Al/LiF混合物、金等の金属、CuI等が挙げられる。また、ITO(インジウムスズ酸化物)、SnO2、AZO(アルミニウム亜鉛酸化物)、IZO(インジウム亜鉛酸化物)、GZO(ガリウム亜鉛酸化物)等の導電性透明材料、導電性透明ポリマー等が挙げられる。これらの材料は単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0013】
また、上記電極は、金属電極であってもよい。上記金属電極を構成する金属として、例えば、上述したようなアルミニウム等に加えて、チタン、モリブデン、銀、ニッケル、タンタル、金、SUS、銅等も挙げられる。これらの金属は単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0014】
上記透明電極は、1064nmの光の吸収率が3%以上であることが好ましい。
上記透明電極の1064nmの光の吸収率が上記範囲であることで、後述する工程(2B)において切削溝の断面形状をより矩形に近づけることができ、上記電極と上記透明電極の電気的接続を安定して確保することができる。上記透明電極の1064nmの光の吸収率は5%以上であることがより好ましい。上記透明電極の1064nmの光の吸収率の上限は特に限定されないが、通常100%以下である。上記1064nmの光の吸収率を満たす材料としては、上記の透明電極の材料が挙げられる。
【0015】
上記電極の厚みは特に限定されないが、好ましい下限は10nm、好ましい上限は1000nmである。上記厚みが10nm以上であれば、上記電極を電極として機能させたうえで抵抗を抑えることができ、かつ、良好に切削加工を行うことができる。上記厚みが1000nm以下であれば、上記電極を切削加工する際に割れ又はクラックのない良好な形状で切削加工を行うことができる。上記電極の厚みのより好ましい下限は20nm、より好ましい上限は300nmである。
【0016】
上記光電変換層は、一般式R-M-X3(但し、Rは有機分子、Mは金属原子、Xはハロゲン原子又はカルコゲン原子である。)で表される有機無機ペロブスカイト化合物を含む。
上記光電変換層に上記有機無機ペロブスカイト化合物を用いることにより、太陽電池の光電変換効率を向上させることができる。
なお、本明細書中、「層」とは、明確な境界を有する層だけではなく、含有元素が徐々に変化する濃度勾配のある層をも意味する。なお、層の元素分析は、例えば、太陽電池の断面のFE-TEM/EDS線分析測定を行い、特定元素の元素分布を確認する等によって行うことができる。また、本明細書中、層とは、平坦な薄膜状の層だけではなく、他の層と一緒になって複雑に入り組んだ構造を形成しうる層をも意味する。
【0017】
上記Rは有機分子であり、ClNmHn(l、m、nはいずれも正の整数)で示されることが好ましい。
上記Rは、具体的には例えば、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ペンチルアミン、ヘキシルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、ジペンチルアミン、ジヘキシルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリペンチルアミン、トリヘキシルアミン、エチルメチルアミン、メチルプロピルアミン、ブチルメチルアミン、メチルペンチルアミン、ヘキシルメチルアミン、エチルプロピルアミン、エチルブチルアミン、イミダゾール、アゾール、ピロール、アジリジン、アジリン、アゼチジン、アゼト、イミダゾリン、カルバゾール、メチルカルボキシアミン、エチルカルボキシアミン、プロピルカルボキシアミン、ブチルカルボキシアミン、ペンチルカルボキシアミン、ヘキシルカルボキシアミン、ホルムアミジニウム、グアニジン、アニリン、ピリジン及びこれらのイオン(例えば、メチルアンモニウム(CH3NH3)等)やフェネチルアンモニウム等が挙げられる。なかでも、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、プロピルカルボキシアミン、ブチルカルボキシアミン、ペンチルカルボキシアミン、ホルムアミジニウム、グアニジン及びこれらのイオンが好ましく、メチルアミン、エチルアミン、ペンチルカルボキシアミン、ホルムアミジニウム、グアニジン及びこれらのイオンがより好ましい。なかでも、高い光電変換効率が得られることから、メチルアミン、ホルムアミジニウム及びこれらのイオンが更に好ましい。
【0018】
上記Mは金属原子であり、例えば、鉛、スズ、亜鉛、チタン、アンチモン、ビスマス、ニッケル、鉄、コバルト、銀、銅、ガリウム、ゲルマニウム、マグネシウム、カルシウム、インジウム、アルミニウム、マンガン、クロム、モリブデン、ユーロピウム等が挙げられる。なかでも、電子軌道の重なりの観点から、鉛又はスズが好ましい。これらの金属原子は単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0019】
上記Xはハロゲン原子又はカルコゲン原子であり、例えば、塩素、臭素、ヨウ素、硫黄、セレン等が挙げられる。これらのハロゲン原子又はカルコゲン原子は単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。なかでも、構造中にハロゲンを含有することで、上記有機無機ペロブスカイト化合物が有機溶媒に可溶になり、安価な印刷法等への適用が可能になることから、ハロゲン原子が好ましい。更に、上記有機無機ペロブスカイト化合物のエネルギーバンドギャップが狭くなることから、ヨウ素がより好ましい。
【0020】
上記有機無機ペロブスカイト化合物は、体心に金属原子M、各頂点に有機分子R、面心にハロゲン原子又はカルコゲン原子Xが配置された立方晶系の構造を有することが好ましい。
図5は、体心に金属原子M、各頂点に有機分子R、面心にハロゲン原子又はカルコゲン原子Xが配置された立方晶系の構造である、有機無機ペロブスカイト化合物の結晶構造の一例を示す模式図である。詳細は明らかではないが、上記構造を有することにより、結晶格子内の八面体の向きが容易に変わることができるため、上記有機無機ペロブスカイト化合物中の電子の移動度が高くなり太陽電池の光電変換効率が向上すると推定される。
【0021】
上記有機無機ペロブスカイト化合物は、結晶性半導体であることが好ましい。結晶性半導体とは、X線散乱強度分布を測定し、散乱ピークが検出できる半導体を意味している。
上記有機無機ペロブスカイト化合物が結晶性半導体であれば、上記有機無機ペロブスカイト化合物中の電子の移動度が高くなり、太陽電池の光電変換効率が向上する。また、上記有機無機ペロブスカイト化合物が結晶性半導体であれば、太陽電池に光を照射し続けることによる光電変換効率の低下(光劣化)、特に短絡電流の低下に起因する光劣化が抑制されやすくなる。
【0022】
また、結晶化の指標として結晶化度を評価することもできる。結晶化度は、X線散乱強度分布測定により検出された結晶質由来の散乱ピークと非晶質部由来のハローとをフィッティングにより分離し、それぞれの強度積分を求めて、全体のうちの結晶部分の比を算出することにより求めることができる。
上記有機無機ペロブスカイト化合物の結晶化度の好ましい下限は30%である。上記結晶化度が30%以上であれば、上記有機無機ペロブスカイト化合物中の電子の移動度が高くなり、太陽電池の光電変換効率が向上する。また、上記結晶化度が30%以上であれば、太陽電池に光を照射し続けることによる光電変換効率の低下(光劣化)、特に短絡電流の低下に起因する光劣化が抑制されやすくなる。上記結晶化度のより好ましい下限は50%、更に好ましい下限は70%である。
また、上記有機無機ペロブスカイト化合物の結晶化度を上げる方法として、例えば、熱アニール(加熱処理)、レーザー等の強度の強い光の照射、プラズマ照射等が挙げられる。
【0023】
また、他の結晶化の指標として結晶子径を評価することもできる。結晶子径は、X線散乱強度分布測定により検出された結晶質由来の散乱ピークの半値幅からhalder-wagner法で算出することができる。
上記有機無機ペロブスカイト化合物の結晶子径の好ましい下限は5nmである。上記結晶子径が5nm以上であれば、太陽電池に光を照射し続けることによる光電変換効率の低下(光劣化)、特に短絡電流の低下に起因する光劣化が抑制される。また、上記有機無機ペロブスカイト化合物中の電子の移動度が高くなり、太陽電池の光電変換効率が向上する。上記結晶子径のより好ましい下限は10nm、更に好ましい下限は20nmである。
【0024】
上記有機無機ペロブスカイト化合物は1064nmの波長の光の吸収率が0%以上10%以下であることが好ましい。
このような有機無機ペロブスカイト化合物を用いることで、後述する工程(2B)においてリフトオフによる切削溝の形成を容易にすることができる。上記有機無機ペロブスカイト化合物の1064nmの波長の光の吸収率は、5%以下であることがより好ましく、3%以下であることが更に好ましい。
【0025】
上記光電変換層は、本発明の効果を損なわない範囲内であれば、上記有機無機ペロブスカイト化合物に加えて、更に、有機半導体又は無機半導体を含んでいてもよい。
上記有機半導体として、例えば、ポリ(3-アルキルチオフェン)等のチオフェン骨格を有する化合物等が挙げられる。また、例えば、ポリパラフェニレンビニレン骨格、ポリビニルカルバゾール骨格、ポリアニリン骨格、ポリアセチレン骨格等を有する導電性高分子等も挙げられる。更に、例えば、フタロシアニン骨格、ナフタロシアニン骨格、ペンタセン骨格、ベンゾポルフィリン骨格等のポルフィリン骨格、スピロビフルオレン骨格等を有する化合物や、表面修飾されていてもよいカーボンナノチューブ、グラフェン、フラーレン等のカーボン含有材料も挙げられる。
【0026】
上記無機半導体として、例えば、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化スズ、酸化ガリウム、硫化スズ、硫化インジウム、硫化亜鉛、CuSCN、Cu2O、CuI、MoO3、V2O5、WO3、MoS2、MoSe2、Cu2S等が挙げられる。
【0027】
上記光電変換層は、上記有機無機ペロブスカイト化合物と上記有機半導体又は上記無機半導体とを含む場合、薄膜状の有機半導体又は無機半導体部位と薄膜状の有機無機ペロブスカイト化合物部位とを積層した積層体であってもよいし、有機半導体又は無機半導体部位と有機無機ペロブスカイト化合物部位とを複合化した複合膜であってもよい。製法が簡便である点では積層体が好ましく、上記有機半導体又は上記無機半導体中の電荷分離効率を向上させることができる点では複合膜が好ましい。
【0028】
上記薄膜状の有機無機ペロブスカイト化合物部位の厚みは、好ましい下限が0.1μm、好ましい上限が2.0μmである。上記厚みが0.1μm以上であれば、充分に光を吸収することができるようになり、光電変換効率が高くなる。上記厚みが2.0μm以下であれば、電荷分離できない領域が発生することを抑制できるため、光電変換効率の向上につながる。上記厚みのより好ましい下限は0.3μm、より好ましい上限は1.5μmであり、更に好ましい下限は0.5μm、更に好ましい上限は1.0μmである。
【0029】
上記光電変換層が、有機半導体又は無機半導体部位と有機無機ペロブスカイト化合物部位とを複合化した複合膜である場合、上記複合膜の厚みの好ましい下限は30nm、好ましい上限は3000nmである。上記厚みが30nm以上であれば、充分に光を吸収することができるようになり、光電変換効率が高くなる。上記厚みが3000nm以下であれば、電荷が電極に到達しやすくなるため、光電変換効率が高くなる。上記厚みのより好ましい下限は40nm、より好ましい上限は2000nmであり、更に好ましい下限は50nm、更に好ましい上限は1000nmである。
【0030】
上記光電変換層は、光電変換層形成後に熱アニール(加熱処理)が施されていることが好ましい。熱アニール(加熱処理)を施すことにより、光電変換層中の有機無機ペロブスカイト化合物の結晶化度を充分に上げることができ、光を照射し続けることによる光電変換効率の低下(光劣化)をより抑制することができる。
なお、耐熱性高分子からなる樹脂フィルムを用いた太陽電池にこのような熱アニール(加熱処理)を行うと、樹脂フィルムと光電変換層等との熱膨張係数の差により、アニール時に歪みが生じ、その結果、高い光電変換効率を達成することが難しくなることがある。上記金属箔を用いた場合には、熱アニール(加熱処理)を行っても、歪みの発生を最小限に抑えて、高い光電変換効率を得ることができる。
【0031】
上記熱アニール(加熱処理)を行う場合、上記光電変換層を加熱する温度は特に限定されないが、100℃以上、250℃未満であることが好ましい。上記加熱温度が100℃以上であれば、上記有機無機ペロブスカイト化合物の結晶化度を充分に上げることができる。上記加熱温度が250℃未満であれば、上記有機無機ペロブスカイト化合物を熱劣化させることなく加熱処理を行うことができる。より好ましい加熱温度は、120℃以上、200℃以下である。また、加熱時間も特に限定されないが、3分以上、2時間以内であることが好ましい。上記加熱時間が3分以上であれば、上記有機無機ペロブスカイト化合物の結晶化度を充分に上げることができる。上記加熱時間が2時間以内であれば、上記有機無機ペロブスカイト化合物を熱劣化させることなく加熱処理を行うことができる。
これらの加熱操作は真空又は不活性ガス下で行われることが好ましく、露点温度は10℃以下が好ましく、7.5℃以下がより好ましく、5℃以下が更に好ましい。
【0032】
上記複数の太陽電池セルにおける、電極と、透明電極と、上記電極と上記透明電極との間に配置された光電変換層とを有する積層体は、上記電極及び上記透明電極のうちの陰極となる側と、上記光電変換層との間に、電子輸送層を有してもよい。
上記電子輸送層の材料は特に限定されず、例えば、N型導電性高分子、N型低分子有機半導体、N型金属酸化物、N型金属硫化物、ハロゲン化アルカリ金属、アルカリ金属、界面活性剤等が挙げられる。具体的には例えば、シアノ基含有ポリフェニレンビニレン、ホウ素含有ポリマー、バソキュプロイン、バソフェナントレン、ヒドロキシキノリナトアルミニウム、オキサジアゾール化合物、ベンゾイミダゾール化合物等が挙げられる。また、ナフタレンテトラカルボン酸化合物、ペリレン誘導体、ホスフィンオキサイド化合物、ホスフィンスルフィド化合物、フルオロ基含有フタロシアニン、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化スズ、酸化ガリウム、硫化スズ、硫化インジウム、硫化亜鉛等が挙げられる。
【0033】
上記電子輸送層は、薄膜状の電子輸送層(バッファ層)のみからなっていてもよいが、多孔質状の電子輸送層を含むことが好ましい。特に、上記光電変換層が、有機半導体又は無機半導体部位と有機無機ペロブスカイト化合物部位とを複合化した複合膜である場合、より複雑な複合膜(より複雑に入り組んだ構造)が得られ、光電変換効率が高くなることから、多孔質状の電子輸送層上に複合膜が製膜されていることが好ましい。
【0034】
上記電子輸送層の厚みは、好ましい下限が1nm、好ましい上限が2000nmである。上記厚みが1nm以上であれば、充分にホールをブロックできるようになる。上記厚みが2000nm以下であれば、電子輸送の際の抵抗になり難く、光電変換効率が高くなる。上記電子輸送層の厚みのより好ましい下限は3nm、より好ましい上限は1000nmであり、更に好ましい下限は5nm、更に好ましい上限は500nmである。
【0035】
上記複数の太陽電池セルにおける、電極と、透明電極と、上記電極と上記透明電極との間に配置された光電変換層とを有する積層体は、上記光電変換層と、上記電極及び上記透明電極のうちの陽極となる側との間に、ホール輸送層を有してもよい。
上記ホール輸送層の材料は特に限定されず、例えば、P型導電性高分子、P型低分子有機半導体、P型金属酸化物、P型金属硫化物、界面活性剤等が挙げられる。具体的には例えば、ポリ(3-アルキルチオフェン)等のチオフェン骨格を有する化合物等が挙げられる。また、例えば、トリフェニルアミン骨格、ポリパラフェニレンビニレン骨格、ポリビニルカルバゾール骨格、ポリアニリン骨格、ポリアセチレン骨格等を有する導電性高分子等も挙げられる。更に、例えば、フタロシアニン骨格、ナフタロシアニン骨格、ペンタセン骨格、ベンゾポルフィリン骨格等のポルフィリン骨格、スピロビフルオレン骨格等を有する化合物等が挙げられる。更に、酸化モリブデン、酸化バナジウム、酸化タングステン、酸化ニッケル、酸化銅、酸化スズ、硫化モリブデン、硫化タングステン、硫化銅、硫化スズ等、フルオロ基含有ホスホン酸、カルボニル基含有ホスホン酸、CuSCN、CuI等の銅化合物、カーボンナノチューブ、グラフェン等のカーボン含有材料等が挙げられる。
【0036】
上記ホール輸送層は、その一部が上記光電変換層に浸漬していてもよい(上記光電変換層と入り組んだ構造を形成していてもよい)し、上記光電変換層上に薄膜状に配置されてもよい。上記ホール輸送層が薄膜状に存在する時の厚みは、好ましい下限は1nm、好ましい上限は2000nmである。上記厚みが1nm以上であれば、充分に電子をブロックできるようになる。上記厚みが2000nm以下であれば、ホール輸送の際の抵抗になり難く、光電変換効率が高くなる。上記厚みのより好ましい下限は3nm、より好ましい上限は1000nmであり、更に好ましい下限は5nm、更に好ましい上限は500nmである。
【0037】
上記複数の太陽電池セルは、上記透明電極と上記光電変換層との間に緻密層を有していてもよい。
透明電極と光電変換層との間に緻密層を設けることでより光電変換効率を向上させることができる。上記緻密層を構成する材料としては例えば、TiO2、TiOx、SnO2、ZnO2等が挙げられる。なかでもより光電変換効率を向上させることができることから、TiO2又はSnO2が好ましい。
【0038】
上記複数の太陽電池セルは、上記電極上を覆うバリア層で封止されていてもよい。
上記バリア層の材料としてはバリア性を有していれば特に限定されないが、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂又は無機材料等が挙げられる。上記バリア層の材料は、上記熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂と、上記無機材料との組み合わせでもよい。
【0039】
上記熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂としては、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、ブチルゴム、ポリエステル、ポリウレタン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ABS樹脂、ポリブタジエン、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリイソブチレン等が挙げられる。
【0040】
上記バリア層の材料が熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂である場合、バリア層(樹脂層)の厚みは、好ましい下限が100nm、好ましい上限が100000nmである。上記厚みのより好ましい下限は500nm、より好ましい上限は50000nmであり、更に好ましい下限は1000nm、更に好ましい上限は20000nmである。
【0041】
上記無機材料としては、Si、Al、Zn、Sn、In、Ti、Mg、Zr、Ni、Ta、W、Cu若しくはこれらを2種以上含む合金の酸化物、窒化物又は酸窒化物が挙げられる。なかでも、上記バリア層に水蒸気バリア性及び柔軟性を付与するために、Zn、Snの両金属元素を含む金属元素の酸化物、窒化物又は酸窒化物が好ましい。
【0042】
上記バリア層の材料が無機材料である場合、バリア層(無機層)の厚みは、好ましい下限が30nm、好ましい上限が3000nmである。上記厚みが30nm以上であれば、上記無機層が充分な水蒸気バリア性を有することができ、太陽電池の耐久性が向上する。上記厚みが3000nm以下であれば、上記無機層の厚みが増した場合であっても、発生する応力が小さいため、上記無機層と上記積層体との剥離を抑制することができる。上記厚みのより好ましい下限は50nm、より好ましい上限は1000nmであり、更に好ましい下限は100nm、更に好ましい上限は500nmである。
なお、上記無機層の厚みは、光学干渉式膜厚測定装置(例えば、大塚電子社製のFE-3000等)を用いて測定することができる。
【0043】
上記複数の太陽電池セルは、更に、上記バリア層が、例えば樹脂フィルム、無機材料を被覆した樹脂フィルム等のその他の材料で覆われていてもよい。即ち、上記積層体と上記その他の材料との間を、上記バリア層によって封止、充填又は接着している構成であってもよい。これにより、仮に上記バリア層にピンホールがあった場合にも充分に水蒸気をブロックすることができ、太陽電池の耐久性をより向上させることができる。
【0044】
本発明の太陽電池の製造方法は、上述したような基材上に複数の太陽電池セルを有し、該複数の太陽電池セルは、それぞれ、電極と、透明電極と、これらの間に配置された光電変換層とを有する積層体からなり、かつ、隣接する太陽電池セル同士が直列に接続している太陽電池を製造するものである。
【0045】
本発明の太陽電池の製造方法では、まず、上記基材上に上記電極を製膜し、上記電極を切削加工する工程(1)を行う。
図1に、本発明の太陽電池の製造方法における工程(1)の一例を模式的に表した断面図を示す。
図1に示すように、工程(1)では、基材1上に透明電極2を製膜し、透明電極2を切削加工する。
【0046】
上記透明電極を製膜する方法は特に限定されず、例えば、蒸着、スパッタリング、イオンプレーティング等が挙げられる。
【0047】
上記透明電極を切削加工する方法は特に限定されず、例えば、メカニカルパターニング、レーザーパターニング等が挙げられるが、比較的安価であることから、メカニカルパターニングが好ましい。メカニカルパターニングでは、メカニカルスクライブ機(例えば、三星ダイヤモンド工業社製、KMPD100等)を用いることができる。
【0048】
本発明の太陽電池の製造方法では、次いで、上記切削加工された透明電極上に上記光電変換層を製膜する工程(2A)を行う。
図2に、本発明の太陽電池の製造方法における工程(2A)の一例を模式的に表した断面図を示す。
図2に示すように、工程(2A)では、透明電極2上に光電変換層3を製膜する。
【0049】
上記光電変換層を製膜する方法は特に限定されず、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、気相反応法(CVD)、電気化学沈積法、印刷法等が挙げられる。なかでも、印刷法を採用することで、高い光電変換効率を発揮できる太陽電池を大面積で簡易に形成することができる。印刷法として、例えば、スピンコート法、キャスト法等が挙げられ、印刷法を用いた方法としてロール-to-ロール法等が挙げられる。
【0050】
本発明の太陽電池の製造方法では、次いで、リフトオフによって上記透明電極の上記基材側とは反対側の界面を剥離しながら上記光電変換層を除去し、光電変換層に切削溝を形成する工程(2B)を行う。
本発明の太陽電池の製造方法では、上記明電極の上記基材側とは反対側の界面、つまり、透明電極の直上に光電変換層が積層されている場合は、上記電極と上記光電変換層の界面を剥離させて隙間を生じさせる。その後、上記透明電極から浮き上がった光電変換層より上の層が除去されることで、切削溝が形成される。このような層の界面が浮き上がって剥離する現象をリフトオフといい、リフトオフの後に光電変換層が除去されることで、光電変換層を挟む上下の電極の電気的接続を安定して確保することができ、光電変換効率を向上させることができる。上記リフトオフが起こっているかどうかは、形成される切削溝が矩形に近い形状となっているかどうかで確認することができる。
【0051】
ここで、
図3に従来のレーザーパターニングによって光電変換層に切削溝を形成したときの状態を模式的に表した断面図を、
図4に本発明の太陽電池の製造方法における工程(2B)の様子を模式的に表した断面図を示す。
従来のレーザーパターニングでは、光電変換層を構成する有機無機ペロブスカイト化合物が吸収する波長である第二高調波(532nm)、第三高調波(355nm)のレーザーを用い、光電変換層3を焼き切ることで切削溝を形成している。また、一般的にレーザーのビーム形状はガウシアンが用いられているが、ガウシアンのレーザーは中心部のエネルギーが最も高く、中心から離れるほどエネルギーが小さくなることから、レーザーパターニングによる切削溝の断面は
図3に示すように両側面が傾斜した楔型の形状となっている。そのため、光電変換層3の上部は大きく削られるにもかかわらず、露出する透明電極2の面積はそれほど大きくならないことから、その後積層される電極と透明電極2との接続面積も小さくなってしまい、抵抗が増大して光電変換効率が低下する原因となっていた。また、従来のレーザーパターニングでは切削溝のエッジ部分にバリができやすく、このバリがその後積層される電極を断線させることもあることから、光電変換効率を低下させる原因にもなっていた。更に、従来のレーザーパターニングでは、ある程度高い出力のレーザーを用いなければ透明電極2を露出させることができない一方で、レーザーの出力が高すぎると透明電極2を貫通してしまうことから、レーザーの出力の調節を厳密に行わなければならないという問題もあった。特に、有機無機ペロブスカイト化合物を光電変換層に用いた太陽電池では各層の厚みが薄いため、光電変換層3のみを焼き切るためにはより厳密なレーザーの出力の管理が必要となり、再現性が低下していた。
【0052】
一方、
図4(a)に示すように、本発明は光電変換層を除去する前に透明電極2と上記透明電極の上記基材側とは反対側の界面(
図4(a)では光電変換層との界面)に剥離を生じさせ、光電変換層3を浮き上がらせるリフトオフを行いながら光電変換層を除去することによって、
図4(b)に示すように断面が矩形の切削溝が形成される。断面形状が矩形であることで、断面形状が楔形のものと比べて露出する透明電極の面積が大きくなるため、光電変換層を挟む上下の電極の電気的接続を安定して確保することができ、光電変換効率を向上させることができる。なお、ここで矩形とは、後述する切削溝の上辺と下辺の長さの比(上辺/下辺)を満たすような形状のことを指す。
【0053】
上記工程(2B)において、上記リフトオフを行う方法は特に限定されないが、波長950nm以上1200nm以下のレーザーを上記光電変換層上から照射することで上記リフトオフを行うことが好ましい。
950nm以上1200nm以下の波長の光は、光電変換層を構成する有機無機ペロブスカイト化合物を透過し、透明電極で吸収される。その結果、光電変換層側からレーザーを照射すると、透明電極の基材側とは反対側の界面に熱が発生し、透明電極より上の層を浮き上がらせながら除去することができる。また、上記範囲の波長のレーザーは、従来のレーザーパターニングに用いられるレーザーよりも波長が長く、エネルギーが小さいことから、レーザーが透明電極を分解、貫通しにくく、より露出する透明電極の面積を増大させることができる。一方で、エネルギーの小さなレーザーを用いた場合であっても上記リフトオフによって透明電極と光電変換層側の層との界面は分離しているため、従来のレーザーパターニングよりも格段に透明電極を露出させやすい。そのため、レーザーの出力を従来のレーザーパターニングほど厳密に管理する必要がなく、再現性が高いという利点がある。更に、上記範囲の波長のレーザーを用いると切削溝のエッジ部分にバリができにくいため、より光電変換効率を向上させることができる。なお、透明電極は上記波長のレーザーを吸収するものの、その吸収率は大きくない(例えば、透明電極がITOの場合、1064nmの光の吸収率は5~10%程度)。そのため、上記波長のレーザーを透明電極に照射した場合、光電変換層を除去できる程度の熱は発生する一方で透明電極自身は切削されない。
上記リフトオフを行うためのレーザーの波長は上記範囲であれば特に限定されないが、工業的に入手が容易であることから、1064nmのレーザーであることがより好ましい。
【0054】
上記波長950nm以上1200nm以下のレーザーの出力は特に限定されず、上記光電変換層を切削加工できる範囲で調整することができる。上記レーザーの出力は、例えば、0.1μJ/パルス以上であることが好ましく、1μJ/パルス以上であることがより好ましく、100μJ/パルス以下であることが好ましく、10μJ/パルス以下であることがより好ましい。なお、上記レーザー出力は、透明電極を加工する際の出力と比べて非常に小さいため、上記工程(2B)において切削溝が透明電極を貫通することはない。
【0055】
上記レーザーパルスの直径は特に限定されず、上記第1のレーザーパターニングと上記第2のレーザーパターニングとで同じであってもよいし、異なっていてもよく、例えば、直径10~100μm程度を用いることができる。
【0056】
上記光電変換層に形成された切削溝は、断面をレーザー顕微鏡を用いて測定したときに、上記切削溝の上辺と下辺の長さの比(上辺/下辺)が1.0以上1.4以下であることが好ましい。
光電変換層に形成された切削溝の上辺と下辺の長さの比が小さい、つまり切削溝の断面形状が矩形に近いことで、切削した光電変換層の幅と比べて露出する透明電極の面積が大きくなるため、光電変換層を挟む上下の電極の電気的接続を安定して確保することができ、光電変換効率を向上させることができる。上記光電変換層に形成された切削溝の上辺と下辺の長さの比は1.0以上であることがより好ましく、1.2以下であることがより好ましい。なお、上記切削溝の断面の測定は、レーザー顕微鏡(OLYMPUS製、OLS5100又は同等品)を用いて、倍率1000倍の条件で測定する。
【0057】
上記光電変換層に形成された切削溝の幅は特に限定されないが、透明電極の露出面積を高めつつもセルの密度を高める観点から、10μm以上が好ましく、20μm以上がより好ましく、50μm以下であることが好ましく、40μm以下であることがより好ましい。
【0058】
上記工程(2B)では、レーザースクライブ機(例えば、三星ダイヤモンド工業社製、MPV-LD等)を用いることができる。
【0059】
上記工程(2B)において、上記電子輸送層及び/又は上記ホール輸送層を設ける場合には、上記電子輸送層及び/又は上記ホール輸送層と上記光電変換層とを合わせた層に対してまとめて切削加工を行ってもよい。
【0060】
本発明の太陽電池の製造方法では、次いで、上記切削加工された光電変換層上に上記電極を製膜し、上記電極の切削加工を行う工程(3)を行う。
上記電極を製膜する方法は特に限定されず、例えば、蒸着、スパッタリング、イオンプレーティング等が挙げられる。
【0061】
上記電極を切削加工する方法は特に限定されず、例えば、メカニカルパターニング、レーザーパターニング等が挙げられるが、比較的安価であることから、メカニカルパターニングが好ましい。メカニカルパターニングでは、メカニカルスクライブ機(例えば、三星ダイヤモンド工業社製、KMPD100等)を用いることができる。
【0062】
本発明の太陽電池の製造方法は、生産性の観点から、ロール-to-ロール方式であることが好ましい。上記ロール-to-ロール方式は、サンプルを連続的に搬送する方式であってもよいし、サンプルを断続的に搬送するステップ送り方式であってもよい。なお、上記ロール-to-ロール方式以外にも、例えば、枚葉方式等を用いることができる。
【0063】
上述の様に本発明の製造方法は、光電変換層に形成される切削溝の断面を矩形に近い形状とすることができる、つまり、光電変換層上部の切削面の面積が露出する透明電極の面積とほぼ等しくなる。その結果、光電変換層を挟む上下の電極の接続面積が大きくなり、抵抗が低下することから光電変換効率の高い太陽電池を得ることができる。
このような、基材上に複数の太陽電池セルを有する太陽電池であって、前記複数の太陽電池セルは、それぞれ、電極と、透明電極と、前記電極と前記透明電極との間に配置された光電変換層とを有する積層体からなり、かつ、隣接する太陽電池セル同士が直列に接続しており、前記光電変換層を貫通する切削溝の断面をレーザー顕微鏡を用いて測定したときに、前記切削溝の上辺と下辺の長さの比が1.0以上1.2以下である太陽電池もまた、本発明の1つである。
本発明の太陽電池を構成する各層の材料や物性、構造については本発明の太陽電池の製造方法と同様のものを用いることができる。
【0064】
本発明の太陽電池は、透明電極と電極の接触抵抗が0.01Ω以上0.09Ω以下であることが好ましい。
透明電極と電極の接触抵抗が上記範囲であることで、光電変換効率を向上させることができる。上記透明電極と電極の接触抵抗は0.01以上であることがより好ましく、0.02以下であることがより好ましい。
【発明の効果】
【0065】
本発明によれば、光電変換層を挟む上下の電極の電気的接続を安定して確保することができ、光電変換効率を向上させることができる太陽電池の製造方法を提供することができる。また、本発明によれば、該太陽電池の製造方法により得られた太陽電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【
図1】本発明の太陽電池の製造方法における工程(1)の一例を模式的に表した断面図である。
【
図2】本発明の太陽電池の製造方法における工程(2A)の一例を模式的に表した断面図である。
【
図3】従来のレーザーパターニングによって光電変換層に切削溝を形成したときの状態を模式的に表した断面図である。
【
図4】本発明の太陽電池の製造方法における工程(2B)の様子を模式的に表した断面図(
図4(a))及び工程(2B)後の様子を模式的に表した断面図(
図4(b))である。
【
図5】有機無機ペロブスカイト化合物の結晶構造の一例を示す模式図である。
【
図6】(a)実施例1の工程(2B)で形成された切削溝の写真である。(b)実施例1の工程(2B)で形成された切削溝の形状をレーザー顕微鏡を用いて測定した断面図である。
【
図7】(a)比較例1の工程(2B)で形成された切削溝の写真である。(b)比較例1の工程(2B)で形成された切削溝の形状をレーザー顕微鏡を用いて測定した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0067】
以下に実施例を挙げて本発明の態様を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されない。
【0068】
(実施例1)
ポリエチレンテレフタレートフィルム(東レフィルム社製、厚み50~250μm)上にスパッタリング法により厚み50~300nmのITO膜を形成した。次いで、メカニカルスクライブ機(三星ダイヤモンド工業社製、KMPD100)を用いてメカニカルパターニングにより陰極のパターニングを行った(工程(1))更に、ITO膜上にTiOx/TiO2膜(緻密層)をスパッタリング法によって形成した。
【0069】
次いで、ハロゲン化金属化合物としてヨウ化鉛をN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)に溶解させて1Mの溶液を調製し、緻密層上にスピンコート法によって製膜した。更に、アミン化合物としてヨウ化メチルアンモニウムを2-プロパノールに溶解させて1Mの溶液を調製した。この溶液内に上記のヨウ化鉛を製膜したサンプルを浸漬させることによって有機無機ペロブスカイト化合物であるCH3NH3PbI3を含む層を形成した。その後、得られたサンプルに対して120℃にて30分間アニール処理を行った(工程(2A))。
【0070】
クロロベンゼン25μLにSpiro-OMeTAD(スピロビフルオレン骨格を有する)を68mM、t-ブチルピリジンを55mM、ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド・銀塩を9mM溶解させた溶液を調製した。この溶液を光電変換層上にスピンコート法によって塗布し、厚み150nmのホール輸送層を形成した。
【0071】
続いて、緻密層、光電変換層及びホール輸送層を合わせた層について、レーザースクライブ機(三星ダイヤモンド工業社製、MPV-LD)を用いてパターニングを行い、幅40μmの切削溝を形成した(工程(2B))。その際、レーザー波長1064nm、レーザー出力1(1.0μJ)、ビームの直径を40μmに設定した。形成された切削溝についてマイクロスコープ(キーエンス社製VN-8010)による三次元画像解析により撮影した写真を
図6(a)に示す。
図6(a)を見ればわかるように、緻密層、光電変換層及びホール輸送層(色の濃い部分)のみ切削して透明電極(色の薄い部分)が露出していることが確認された。また、レーザー顕微鏡(OLYMPUS製、OLS5100)を用いて倍率1000倍の条件で切削溝の断面形状を観察したところ、
図6(b)のようになり、断面形状が矩形であることが確認された。このことから、リフトオフによって透明電極と、緻密層/光電変換層/ホール輸送層からなる積層体との界面を剥離しながら上記積層体が除去されたことがわかる。更に、得られた断面形状から切削溝の上辺と下辺の長さの比(上辺/下辺)を算出したところ、1.09であった。
【0072】
その後、得られたホール輸送層上に、陽極(透明電極)としてスパッタリング法により厚み100nmのMo膜を形成した。レーザーパターニングによりMo膜のパターニングを行った(工程(3))。
【0073】
得られた陽極上に、スパッタリング法により100nmのZnSnOからなるバリア層を形成し、太陽電池を得た。
【0074】
(実施例2~18、比較例1~36)
工程(2B)におけるレーザー出力と切削溝の幅を表1、2に示すように変更したこと以外は実施例1と同様にして、太陽電池を得た。また、工程(2B)で形成された切削溝の上辺と下辺の長さの比(上辺/下辺)を測定した。更に、比較例1については
図7(a)に切削溝の写真を、
図7(b)に切削溝の断面形状を示した。
図7(a)に示すように、従来のレーザーパーニングで用いられる波長のレーザーを用いた比較例1では、切削溝の中央部がその周辺(透明電極)よりも深く研削されており、中央部では透明電極の下の層(PETフィルム)が露出している。また、
図7(b)からわかるように、従来のレーザーパーニングで用いられる波長のレーザーを用いた比較例1では、切削溝の断面形状が楔型となっており、切削溝の上部にはバリも発生している。なお各レーザー出力の詳細は以下の通りである。
レーザー出力2:2.0μJ
レーザー出力3:3.0μJ
レーザー出力4:4.0μJ
レーザー出力5:5.0μJ
レーザー出力6:6.0μJ
【0075】
(実施例19)
SnO2のコロイド溶液をスピンコーティングすることによって、SnO2の緻密層を形成した以外は実施例1と同様にして太陽電池を得た。また、工程(2B)で形成された切削溝の上辺と下辺の長さの比(上辺/下辺)を測定した。
【0076】
(実施例20~25)
工程(2B)におけるレーザー出力と切削溝の幅を表1に示すように変更したこと以外は実施例19と同様にして、太陽電池を得た。また、工程(2B)で形成された切削溝の上辺と下辺の長さの比(上辺/下辺)を測定した。
【0077】
<評価>
実施例及び比較例で得られた太陽電池について、下記の評価を行った。結果を表1、2に示した。
【0078】
(光電変換効率の測定)
太陽電池の電極間に電源(KEITHLEY社製、236モデル)を接続し、強度100mW/cm2のソーラーシミュレーション(山下電装社製)を用い、露光面積1cm2で光電変換効率を測定した。
実施例1で得られた太陽電池の光電変換効率を1.0として、実施例及び比較例で得られた太陽電池の光電変換効率を規格化した。
【0079】
【0080】
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明によれば、光電変換層を挟む上下の電極の電気的接続を安定して確保することができ、光電変換効率を向上させることができる太陽電池の製造方法を提供することができる。また、本発明によれば、該太陽電池の製造方法により得られた太陽電池を提供することができる。
【符号の説明】
【0082】
1 基材
2 透明電極
3 光電変換層