(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022152757
(43)【公開日】2022-10-12
(54)【発明の名称】ガラス基板装置
(51)【国際特許分類】
C03B 5/235 20060101AFI20221004BHJP
【FI】
C03B5/235
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021055648
(22)【出願日】2021-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】598055910
【氏名又は名称】AvanStrate株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】508271425
【氏名又は名称】安瀚視特股▲ふん▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】AvanStrate Taiwan Inc.
【住所又は居所原語表記】NO.8,Industry III Road,Annan,Tainan,709 Taiwan,Province of China
(74)【代理人】
【識別番号】110000165
【氏名又は名称】グローバル・アイピー東京特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】菅原 司人
(72)【発明者】
【氏名】市川 学
(72)【発明者】
【氏名】新 彰夫
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 駿介
【テーマコード(参考)】
4G014
【Fターム(参考)】
4G014AF00
(57)【要約】
【課題】軸方向に分割された管部分の間から熔融ガラスが漏れ出て外部に流出することを抑制できるガラス基板製造装置を提供する。
【解決手段】ガラス基板製造装置は、白金族金属を含む材料からなり、熔融ガラスが流れる管部材であって、軸方向に分割された2つの管部分を有し、加熱されることにより、軸方向に離間して配置された前記管部分の間の間隔が狭まるよう構成された管部材と、互いに向き合う前記管部分の軸方向端部を含む前記管部材の軸方向領域を全周にわたり、前記管部分の周状の壁面と接するように覆う覆い部材と、を備える。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
白金族金属を含む材料からなり、熔融ガラスが流れる管部材であって、軸方向に分割された2つの管部分を有し、加熱されることにより、軸方向に離間して配置された前記管部分の間の間隔が狭まるよう構成された管部材と、
互いに向き合う前記管部分の軸方向の端部を含む前記管部材の軸方向領域を全周にわたり、前記管部分の周状の壁面と接するように覆う覆い部材と、を備えることを特徴とするガラス基板製造装置。
【請求項2】
前記管部分のそれぞれは、前記覆い部材に対し軸方向両側に位置する一対のフランジのうちの1つであって、前記壁面から外周側に延びるよう設けられたフランジを有している、請求項1に記載のガラス基板製造装置。
【請求項3】
前記覆い部材は、前記覆い部材の軸方向両側の端部から前記フランジと対向するよう外周側に延びる一対のフランジを有している、請求項2に記載のガラス基板製造装置。
【請求項4】
前記覆い部材の前記フランジ、及び、前記管部分の前記フランジ、の互いに対向する表面は隙間なく接している、請求項3に記載のガラス基板製造装置。
【請求項5】
前記管部分の前記フランジの径方向長さは、前記覆い部材の前記フランジの径方向長さより長い、請求項3または4に記載のガラス基板製造装置。
【請求項6】
前記覆い部材は、周方向に分割された複数の覆いを有し、
前記覆いは、互いに向き合う前記覆いの周方向の端部が隙間をあけずに互いに接続されている、請求項3から5のいずれか1項に記載のガラス基板製造装置。
【請求項7】
前記覆いは、径方向に重ねて配置される内側覆い及び外側覆いを有している、請求項6に記載のガラス基板製造装置。
【請求項8】
前記内側覆い及び前記外側覆いのそれぞれは、一部の軸方向領域において互いに重ならない非重なり領域を有し、
前記内側覆い及び前記外側覆いのそれぞれは、前記非重なり領域に位置する当該覆いの軸方向の端部に、前記覆い部材の前記フランジのうちの1つを有している、請求項7に記載のガラス基板製造装置。
【請求項9】
加熱により前記間隔が狭まった前記管部材において、前記管部分のうち第1の管部分は、第2の管部分と比べ温度が高く、
前記内側覆いの前記フランジは、前記第1の管部分の前記フランジと対向している、請求項8に記載のガラス基板製造装置。
【請求項10】
加熱により前記間隔が狭まった前記管部材において、前記管部分は軸方向に隙間なく接している、請求項1から9のいずれか1項に記載のガラス基板製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸方向に分割された管部材を備えるガラス基板装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ等のディスプレイに用いられるガラス基板は、ガラス原料を熔解してつくった熔融ガラスに、移送、清澄、均質化等の処理を行った後、板状に成形する工程を経て製造される。
【0003】
熔融ガラスを移送するために、白金族金属を含む材料からなる管部材が用いられている。管部材は、操業のために昇温される際に熱膨張するが、管部材と接続された他の管部材や、管部材の周りに配置された耐火レンガ等の構造体によって拘束され、熱膨張が制限されて、管部材に内部応力が発生する。管部材に内部応力が発生し、歪が生じると、管部材は変形し、破損する場合がある。
【0004】
従来、操業のために昇温したときの管部材の熱膨脹が制限されないよう、管部材を軸方向に分割した2つの管を互いに離間して配置することが知られている。特許文献1には、離間して設置される第1管及び第2管と、第1管及び第2管の間に形成された、操業時の熱膨張を許容する熱膨張許容空間とを覆い部材で覆うことが記載されている。覆い部材は、断面が略半円の円弧形状の2つの覆い部からなり、熱膨張許容空間から漏れ出した熔融ガラスを、覆い部の間の周方向の隙間から、径方向に延びて互いに向き合う覆い部のフランジの間を流すことで熔融ガラスの粘度を高めることが特許文献1には記載されている。これにより、熔融ガラスが外部に漏れ出すのを抑制できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の上記技術では、管部材を流れる熔融ガラスの粘度や、覆い部のフランジ間の隙間の大きさによっては、熱膨張許容空間から漏れ出た熔融ガラスの粘度を十分に高められずに外部に流れ出す場合があることがわかった。熔融ガラスが外部に流れ出すと、管部材の周辺領域のみでなく、ガラス基板の生産設備の他の領域に行き渡り、設備が破損することで、ガラス基板の生産を停止せざるを得ない場合がある。
【0007】
そこで、本発明は、軸方向に分割された管部分の間から熔融ガラスが漏れ出て外部に流出することを抑制できるガラス基板製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、ガラス基板製造装置である。
ガラス基板製造装置は、白金族金属を含む材料からなり、熔融ガラスが流れる管部材であって、軸方向に分割された2つの管部分を有し、加熱されることにより、軸方向に離間して配置された前記管部分の間の間隔が狭まるよう構成された管部材と、
互いに向き合う前記管部分の軸方向の端部を含む前記管部材の軸方向領域を全周にわたり、前記管部分の周状の壁面と接するように覆う覆い部材と、を備えることを特徴とする。
【0009】
前記管部分のそれぞれは、前記覆い部材に対し軸方向両側に位置する一対のフランジのうちの1つであって、前記壁面から外周側に延びるよう設けられたフランジを有している、ことが好ましい。
【0010】
前記覆い部材は、前記覆い部材の軸方向両側の端部から前記フランジと対向するよう外周側に延びる一対のフランジを有している、ことが好ましい。
【0011】
前記覆い部材の前記フランジ、及び、前記管部分の前記フランジ、の互いに対向する表面は隙間なく接している、ことが好ましい。
【0012】
前記管部分の前記フランジの径方向長さは、前記覆い部材の前記フランジの径方向長さより長い、ことが好ましい。
【0013】
前記覆い部材は、周方向に分割された複数の覆いを有し、
前記覆いは、互いに向き合う前記覆いの周方向の端部が隙間をあけずに互いに接続されている、ことが好ましい。
【0014】
前記覆いは、径方向に重ねて配置される内側覆い及び外側覆いを有している、ことが好ましい。
【0015】
前記内側覆い及び前記外側覆いのそれぞれは、一部の軸方向領域において互いに重ならない非重なり領域を有し、
前記内側覆い及び前記外側覆いのそれぞれは、前記非重なり領域に位置する当該覆いの軸方向の端部に、前記覆い部材の前記フランジのうちの1つを有している、ことが好ましい。
【0016】
加熱により前記間隔が狭まった前記管部材において、前記管部分のうち第1の管部分は、第2の管部分と比べ温度が高く、
前記内側覆いの前記フランジは、前記第1の管部分の前記フランジと対向している、ことが好ましい。
【0017】
加熱により前記間隔が狭まった前記管部材において、前記管部分は軸方向に隙間なく接している、ことが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
上述の態様のガラス基板製造装置によれば、軸方向に分割された管部分の間から熔融ガラスが漏れ出て外部に流出することを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】ガラス基板製造装置により行われるガラス基板の製造方法の概略構成を示す図である。
【
図2】ガラス基板製造装置の概略構成を示す図である。
【
図3】管部材及び覆い部材の一例の分解斜視図である。
【
図4】管部分の熱膨脹を説明する図であり、(a)は操業前の管部材を示し、(b)は操業中の管部材を示す図である。
【
図5】管部材及び覆い部材の別の一例を示す一部分解図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本実施形態のガラス基板製造装置について説明する。
【0021】
図1は、本実施形態に係るガラス基板製造装置により行われるガラス基板の製造方法の一部のフローチャートである。以下、
図1を用いてガラス板の製造方法について説明する。
【0022】
ガラス板は、
図1に示すように、熔解工程ST1、清澄工程ST2、均質化工程ST3、供給工程ST4、及び、成形工程ST5を含む種々の工程を経て製造される。以下、これらの工程について詳細する。
【0023】
熔解工程ST1では、ガラス原料を熔解する。ガラス原料は、SiO2、Al2O3等の組成からなる。炉に投入されたガラス原料は、加熱されて熔解され、熔融ガラスとなり、次の工程である清澄工程ST2が行われる清澄槽へ流れ出る。
【0024】
清澄工程ST2では、熔融ガラスを清澄する。具体的には、熔融ガラス中に含まれるガス成分を気泡として熔融ガラス外に放出する、又は、熔融ガラス中に熔解させる。清澄された熔融ガラスは、次の工程である均質化工程ST3が行われる攪拌槽に向けて移送管へ流れ出る。
【0025】
均質化工程ST3では、熔融ガラスを均質化する。具体的には、熔融ガラスを、攪拌することにより均質化する。なお、この工程では、清澄が済んだ熔融ガラスの温度調整を行う。均質化された熔融ガラスは、次の工程である供給工程ST4が行われるガラス供給管へ流れ出る。
【0026】
供給工程ST4では、熔融ガラスを成形する装置に供給する。この工程では、シート状のシートガラスの成形を開始するのに適した温度になるように熔融ガラスを冷却する。
【0027】
成形工程ST5では、熔融ガラスをシートガラスに成形する。成形されたシートガラス板は、切断装置を用いて切断工程において切断されてガラス板となる。成形方法としては、ダウンドロー法、フロート法、ロールアウト法等を用いることができる。なお、本実施形態では、ダウンドロー法のオーバーダウンドロー法を用いることが好ましい。オーバーダウンドロー法については後述する。なお、切断されたガラス板は、その後、切断、研削・研磨等の加工が行われて、洗浄、検査が行われる。
【0028】
(ガラス基板製造装置の概要構成)
図2は、本実施形態に係るガラス基板製造装置100の一例を示したものである。
【0029】
図2に示すように、ガラス基板製造装置100は、熔解槽101と、清澄槽102と、攪拌槽103と、成形装置104と、移送管105(管部材に相当)と、ガラス供給管106とを有する。
【0030】
熔解槽101は、ガラス原料を熔解するための槽である。熔解槽101は、レンガ等の耐火物により構成されており、下部に、熔融ガラスが配置される液槽を有する。例えば、熔解槽101は、適宜壁面に配置されるバーナーによって加熱される。そして、壁面がバーナーによって加熱されることで輻射熱が発生し、当該輻射熱によってガラス原料が加熱されて熔解される。液槽には、熔融ガラスを通電することにより熔融ガラスにジュール熱を発生させるための通電加熱装置が設けられている。液槽の壁面には、熔融ガラスと接するように通電加熱装置の電極が設けられている。熔解槽101では、熔解工程ST1を行う。なお、上記では、ガラス原料の加熱手段としてバーナーと電極とを有するものを例として挙げて説明したが、これに限られるものではなく、いずれかを有していればよい。また、ガラス原料の熔解方法は特にこれに限定されるものではなく、他の加熱手段を用いてガラス原料を熔解することも可能である。
【0031】
清澄槽102は、熔解槽101で熔解された熔融ガラスから泡を除去するための槽である。熔解槽101より送り込まれた熔融ガラスを、清澄槽102でさらに加熱することで、熔融ガラス中の気泡の脱泡が促進される。清澄槽102では、清澄工程ST2を行う。より詳細には、清澄槽102における熔融ガラスの温度は、清澄剤がガス成分(例えば、酸化スズであれば酸素)を放出する温度以上であって、熔融ガラス中の既存の泡に上記ガス成分が拡散し既存の泡の泡径が拡大する温度に昇温される。また、熔融ガラス中の気泡が十分な浮上速度となる粘度(200~800poise)を実現する温度以上に熔融ガラスの温度は昇温される。これにより、熔融ガラス中の気泡は熔融ガラス内から外部に放出される。その後、熔融ガラスは降温され、熔融ガラス中に残存している気泡が清澄剤に吸収される。これにより、熔融ガラス中の泡を消滅させることができ清澄が行われる。なお、泡の消滅は、清澄槽102、移送管105及び攪拌槽103において行われてもよい。
【0032】
攪拌槽103は、熔融ガラスを収容する容器と、回転軸と、当該回転軸に取り付けられた攪拌翼とを含む攪拌装置を有している。容器、回転軸、及び、攪拌翼としては、例えば、白金等の白金族元素又は白金族元素合金製のものを用いることができるが、これに限られない。モータ等の駆動部(図示せず)の駆動によって回転軸が回転することによって、回転軸に取り付けられた攪拌翼が、熔融ガラスを攪拌する。攪拌槽103では、均質化工程ST3を行う。
【0033】
成形装置104は、上部に溝が形成され縦方向の断面が楔形形状をした成形体を備える。溝は、成形体の長手方向に沿って形成されている。成形体は、耐火物である。このほか、成形装置104は、成形体を溢れ出て成形体の下端で合流した熔融ガラスを下方に延伸するローラ、ガラスを徐々に冷却する冷却装置等を備える。成形装置104では、成形工程ST5を行う。なお、供給工程ST4では、1日あたり6t以上の熔融ガラスが成形装置104に供給される。
【0034】
移送管105、及び、ガラス供給管106は、白金族元素(白金、イリジウム、オスミウム、パラジウム、ロジウム、ルテニウム等)又は白金族元素合金製の配管である。移送管105は、清澄槽102と攪拌槽103とを接続する配管である。ガラス供給管106は、攪拌槽103と成形装置104とを接続する配管である。
なお、白金族元素又は白金族元素合金からなる清澄槽102、移送管105、攪拌槽103、ガラス供給管106は、当該白金族元素又は白金族元素合金に直接電流を流すことで加熱されることが好ましい。白金族元素又は白金族元素合金に直接電流を流して加熱することで、効率よく熔融ガラスの温度を調節することができる。このため、清澄剤として酸化スズを用いた場合であっても、酸化スズが清澄剤として効果的に機能する温度(例えば1620℃以上に)に熔融ガラスを容易に昇温させることができる。
なお、清澄槽102、移送管105、攪拌槽103、ガラス供給管106の加熱方法は上記方法に限定されず、例えば、清澄槽102、移送管105、攪拌槽103、ガラス供給管106の周囲に電気ヒータなどの加熱装置を設置し、当該加熱装置によって加熱することも可能である。
【0035】
図3は、移送管105及び覆い部材113の一例の分解斜視図である。
【0036】
(移送管)
移送管105は、第1の管部分111と、第2の管部分112と、を有する。
第1の管部分111及び第2の管部分112は、移送管105が軸方向に2つに分割されてなる移送管105の部分である。本明細書において、軸方向とは、管部材の中心軸が延びる方向及びこれと平行な方向を意味し、
図3~
図5の左右方向である。
【0037】
第1の管部分111は、清澄槽102と接続されている。
【0038】
第2の管部分112は、攪拌槽103と接続されている。第1の管部分111及び第2の管部分112には、例えば、径が10~1000mm、好ましくは70mm~200mの管が使用される。
【0039】
移送管105は、加熱されることにより、軸方向に離間して配置された第1の管部分111と第2の管部分112との間の間隔が狭まるよう構成されている。具体的に、第1の管部分111と、第2の管部分112との間には、少なくともガラス基板製造装置100の運転(操業)前において、離間部S1が存在する。すなわち、少なくとも操業前において、第1の管部分111と第2の管部分112とは離間して設置されている。離間部S1は、第1の管部分111及び第2の管部分112の加熱に伴う軸方向の膨張を許容する空間であり、予め計算された第1の管部分111及び第2の管部分112の熱膨張量に従い、軸方向の長さが定められている。
【0040】
図4は、移送管105の熱膨脹を説明する図であり、(a)は操業前の移送管105を示し、(b)は操業中の移送管105を示す図である。上述したように、操業前において、第1の管部分111と第2の管部分112とは、
図4(a)に示すように、離間部S1を介して離間している。第1の管部分111及び第2の管部分112は、清澄槽102及び攪拌槽103と接続されているので、操業のために加熱され昇温される際に互いに接近するように軸方向に膨張し、離間部S1を軸方向に狭める。このように、第1の管部分111及び第2の管部分112の熱膨脹が制限されないことにより、移送管105に内部応力が発生し、歪が生じることを抑えられる。一実施形態によれば、加熱により間隔が狭まった操業中の管部分111,112の互いに向き合う端部は、
図4(b)に示すように、軸方向に隙間なく接していることが好ましい。これにより、管部分111,112の間から熔融ガラスが漏れ出ることを阻止できる。
【0041】
(覆い部材)
覆い部材113は、
図4に示すように、互いに向き合う第1の管部分111及び第2の管部分112の軸方向の端部を含む移送管105の軸方向領域ARを全周にわたり、第1の管部分111及び第2の管部分112の外周面(周状の壁面)と接するように覆う。すなわち、覆い部材113は、離間した状態にある第1の管部分111及び第2の管部分112を隙間なく連結する連結部として機能する。これにより、第1の管部分111の内部を流れる熔融ガラスが第2の管部分112の内部に流れるようにすることができ、その際に、熔融ガラスが、第1の管部分111と第2の管部分112の間から、管部分111,112の外周側に漏れ出ることを阻止できる。これにより、熔融ガラスが移送管105の外部に流出することを抑制でき、熔融ガラスが移送管105の周辺領域のみでなく、ガラス基板製造装置100の他の領域に行き渡り、ガラス基板製造装置100の上述した構成要素(生産設備)が破損することを防止でき、操業を継続できる。覆い部材113は、第1の管部分111及び第2の管部分112の外周面と隙間なく接している一方で、第1の管部分111及び第2の管部分112が覆い部材113に対して軸方向に移動自在であることが好ましい。
【0042】
一実施形態によれば、覆い部材113は、
図3及び
図4に示すように、周方向に分割された複数の覆いを有していることが好ましい。
図3及び
図4に示す覆い部材113は、上部覆い114と、下部覆い115とを有する。上部覆い114及び下部覆い115は、移送管105の中心軸を境として、上下に対称な形状を有している。
【0043】
上部覆い114は、白金族元素又は白金族元素合金製であり、移送管105の軸方向領域ARの上部を覆う。
【0044】
図3及び
図4に示す例の上部覆い114は、覆い部213aと、フランジ部213b,213cとを有する。覆い部213aは、第1の管部分111、第2の管部分112、及び、離間部S1を覆う部分である。覆い部213aは、第1の管部分111及び第2の管部分112を覆うことができるように、軸方向と直交する断面が略半円の円弧形状を有している。フランジ部213b,213cは、覆い部213aの周方向の両端部からそれぞれ径方向外側に水平方向に延びる。
【0045】
下部覆い115は、白金族元素又は白金族元素合金製であり、移送管105の軸方向領域ARの下部を覆う。
【0046】
下部覆い115は、覆い部214aと、フランジ部214b,214cとを有する。
【0047】
このように、覆い部材113が周方向に分割されていることにより、覆い部材113を移送管105に被せるように取り付けられる。覆い部材113は、
図3及び
図4に示す例において、周方向に2つに分割されているが、これに限定されず、3つあるいは4つ以上に分割されていてもよい。また、覆い部材113は、周上の一か所で途切れた、軸方向と直交する断面が略C字形状の形態を有していてもよい。
【0048】
一方で、周方向に分割された、あるいは、周上の一か所で途切れた形態の覆い部材113は、互いに向き合う覆いの周方向の端部が周方向に隙間をあけずに互いに接続されていることが好ましい。具体的に、覆いの周方向の端部同士は、溶接されるか、フランジ部を有している場合は、
図4に示すように、互いに向き合うフランジ部同士が密着あるいは溶接されていることが好ましい。これにより、覆い部材113の移送管105に対する取り付けやすさを確保しつつ、第1の管部分111及び第2の管部分112の間から熔融ガラスが漏れ出て、管部分111,112の外周側に流出することを阻止できる。
【0049】
図5は、移送管105及び覆い部材113の別の一例を示す一部分解図である。
図5に示す例の移送管105は、覆い部材113の軸方向両側に位置する一対のフランジ111a,112aを有している。フランジ111a,112aは、管部分111,112の外周面から外周側に延びるよう設けられた部分である。
図5に示す例のフランジ111a,112aは、移送管105の径方向外側に延びる円板状の部分である。一実施形態によれば、
図5に示すように、第1の管部分111はフランジ111aを有し、第2の管部分112はフランジ112aを有していることが好ましい。
【0050】
上述したように、覆い部材113は、移送管105の軸方向領域ARを、第1の管部分111及び第2の管部分112の外周面と接するように覆っているが、その加工精度や、操業中の変形によって、覆い部材と管部分の外周面との間にわずかな隙間があいて、熔融ガラスが入り込み、覆い部材と管部分の外周面との間から漏れ出す場合がある。子の実施形態のように、移送管105にフランジ111a,112aが設けられていると、覆い部材113と管部分111,112の外周面との間から熔融ガラスが万一漏れ出しても、これを堰き止め、フランジ111a,112aの外側に回り込むように流出することを防止できる。これにより、ガラス基板製造装置100の運転停止に至るような生産設備の破損を確実に防ぐことができる。
【0051】
覆い部材113の軸方向長さは、フランジ111a,112aの間隔より短く、操業前において、例えば、フランジ111a,112aの間隔の90~98%の長さであることが好ましい。これにより、覆い部材113と、管部分111,112の外周面との間から万一熔融ガラスが漏れ出しても、これを確実に堰き止めつつ、第1の管部分111及び第2の管部分112の熱膨脹によってフランジ111a,112a間の距離が縮まっても、第1の管部分111及び第2の管部分112の熱膨脹は阻害されない。
【0052】
この実施形態では、さらに、覆い部材113は、覆い部材113の軸方向両側の端部から、上記フランジ111a,112aと対向するよう外周側に延びる一対のフランジを有していることが好ましい。
図5に示す例において、覆い部材113は、管部分111,112のフランジ111a,112aと対向するフランジとして、
図5に示すように、フランジ116a,117a,118a,119aを有している。このうち、フランジ116a及びフランジ117aが移送管105の上部において対をなし、フランジ118a及びフランジ119aが移送管105の下部において対をなしている。覆い部材113がこのようなフランジ116a~119aを有していることにより、覆い部材113と、管部分111,112の外周面との間から熔融ガラスが万一漏れ出しても、管部分111,112のフランジ111a,112aと、覆い部材113のフランジ116a~119aとの間に閉じ込めるように堰き止めることができ、フランジ111a,112aの外側に回り込むように流出することを有効に防止できる。
【0053】
この点で、一実施形態によれば、管部分111,112のフランジ111a,112a、及び、覆い部材113のフランジ116a~119a、の互いに対向する表面は隙間なく接していることが好ましい。これにより、操業中に、隙間なく接するフランジ同士が拡散接合することができ、覆い部材113と管部分111,112の外周面との間から漏れ出した熔融ガラスの外部に向かって流れ出す経路を断つことができ、熔融ガラスの流出を効果的に阻止できる。
【0054】
一実施形態によれば、上述した上部覆い114及び下部覆い115のそれぞれは、
図5に示すように、径方向に重ねて配置される内側覆い117,119及び外側覆い116,118を有していることが好ましい。上部覆い114は、内側覆い117及び外側覆い116を有している。下部覆い115は、内側覆い119及び外側覆い118を有している。内側覆い117と内側覆い119は、移送管105の中心軸を境として、上下に対称な形状を有している。外側覆い116と外側覆い118は、移送管105の中心軸を境として、上下に対称な形状を有している。なお、
図5において、下部覆いのうち、内側覆い1119及び外側覆い118が径方向に分解して示されている。
【0055】
図6に、覆い115~119のうち、代表して内側覆い117の一例の外観を示す。内側覆い117は、覆い部213aと、フランジ部213b,213cと、を有している。内側覆い119、外側覆い116,118も同様に、覆い部とフランジ部とを有している。
【0056】
内側覆い117及び外側覆い116のそれぞれは、
図5に示すように、一部の軸方向領域において互いに重ならない非重なり領域NR1,NR2を有している。同様に、内側覆い119及び外側覆い118のそれぞれは、
図5に示すように、一部の軸方向領域において互いに重ならない非重なり領域NR3,NR4を有している。
【0057】
一実施形態によれば、
図5に示すように、非重なり領域NR1に位置する外側覆い116の軸方向の端部に、一対のフランジ117a,116aのうちのフランジ116aが設けられていることが好ましい。また、非重なり領域NR3に位置する内側覆い117の軸方向の端部に、一対のフランジ117a,116aのうちのフランジ117aが設けられていることが好ましい。
同様に、
図5に示すように、非重なり領域NR3に位置する外側覆い118の軸方向の端部に、一対のフランジ119a,118aのうちのフランジ118aが設けられていることが好ましい。また、非重なり領域NR4に位置する内側覆い119の軸方向の端部に、一対のフランジ119a,118aのうちのフランジ119aが設けられていることが好ましい。
【0058】
このような内側覆い117,119及び外側覆い116,118の形態によれば、管部分111,112の熱膨張を許容しつつ、熱膨張に伴って軸方向に移動するフランジ111a,112aに追随してフランジ117a~119aが軸方向に移動することができ、フランジ111aとフランジ117a,119aとが対向した状態(好ましくは密着した状態)が維持される。同様に、フランジ112aとフランジ118a,116aとが対向した状態(好ましくは密着した状態)が維持される。また、このような内側覆い117,119及び外側覆い116,118の形態によれば、覆い117~119の移送管105に対する取り付けやすさが確保される。
【0059】
外側覆い116,118は、非重なり領域NR1,NR3において第1の管部分111の外周面と接していることが好ましい。
【0060】
管部分111,112のフランジ111a,112aの径方向長さは、
図5に示すように、覆い部材113のフランジ116a~119aの径方向長さより長いことが好ましい。ここでいう径方向長さは、移送管105の中心軸からの長さを意味する。これにより、覆い部材113と、管部分111,112の外周面との間から漏れ出した熔融ガラスを確実に堰き止め、フランジ111a,112aの外側に回り込むように流出することを防止する効果を高められる。
【0061】
加熱により間隔が狭まった管部分111,112において、管部分111,112のうち第1の管部分111は、第2の管部分112と比べ温度が高くなる場合がある。この場合において、一実施形態によれば、内側覆いのフランジは、第1の管部分111のフランジ111aと対向していることが好ましい。これにより、より高温の熔融ガラスが漏れ出る可能性の高い第1の管部分111の側において、第1の管部分111と内側覆いとの密着した領域を確保し、熔融ガラスが漏れ出ることを防止する効果を向上させることができる。
【0062】
以上、本発明のガラス基板製造装置について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更をしてもよいのはもちろんである。
【符号の説明】
【0063】
100 ガラス基板製造装置
101 熔解槽
102 清澄槽
103 攪拌槽
104 成形装置
105 移送管(管部材)
111 第1の管部分
111a フランジ
112 第2の管部分
112a フランジ
113 覆い部材
114 上部覆い
114a 非重なり領域
115 下部覆い
115a 非重なり領域
117,119 内側覆い
116,118 内側覆い
116a,117a,118a,119a フランジ
213a,214a 覆い部
213b,213c,214b,214c フランジ部
S1 離間部
AR 軸方向領域
NR1,NR2,NR3,NR4 非重なり領域