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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022152774
(43)【公開日】2022-10-12
(54)【発明の名称】アルコール含有飲料
(51)【国際特許分類】
   C12G 3/04 20190101AFI20221004BHJP
   C12C 5/02 20060101ALI20221004BHJP
【FI】
C12G3/04
C12C5/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021055677
(22)【出願日】2021-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】303040183
【氏名又は名称】サッポロビール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100176773
【弁理士】
【氏名又は名称】坂西 俊明
(74)【代理人】
【識別番号】100211100
【弁理士】
【氏名又は名称】福島 直樹
(72)【発明者】
【氏名】森田 進
(72)【発明者】
【氏名】江熊 龍雲
【テーマコード(参考)】
4B115
4B128
【Fターム(参考)】
4B115LG02
4B115LH11
4B115LP02
4B128CP16
(57)【要約】
【課題】心地よく、べたつきが抑制された酸味を有し、ドリンカビリティが向上したアルコール含有飲料を提供すること。
【解決手段】マルトース及びマルトトリオースを含有し、マルトースの含有量が9.5g/L以上38g/L未満であり、マルトトリオースの含有量が1.75g/L以上7g/L未満である、アルコール含有飲料。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マルトース及びマルトトリオースを含有し、
マルトースの含有量が9.5g/L以上38g/L未満であり、
マルトトリオースの含有量が1.75g/L以上7g/L未満である、アルコール含有飲料。
【請求項2】
マルトースの含有量が15.5g/L以上26g/L以下である、請求項1に記載のアルコール含有飲料。
【請求項3】
マルトトリオースの含有量が3.15g/L以上4.2g/L以下である、請求項1又は2に記載のアルコール含有飲料。
【請求項4】
マルトースの含有量に対するマルトトリオースの含有量の質量比が、0.5以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載のアルコール含有飲料。
【請求項5】
アルコール度数が0.4v/v%以上1.0v/v%以下である、請求項1~4のいずれか一項に記載のアルコール含有飲料。
【請求項6】
ビールテイスト飲料である、請求項1~5のいずれか一項に記載のアルコール含有飲料。
【請求項7】
マルトースの含有量を9.5g/L以上38g/L未満に調整することと、マルトトリオースの含有量を1.75g/L以上7g/L未満に調整することとを含む、アルコール含有飲料に心地よく、べたつきが抑制された酸味を付与し、ドリンカビリティを向上させる方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルコール含有飲料に関する。
【背景技術】
【0002】
アルコール含有飲料の香味を改善する技術手段についてはこれまでにも種々の報告がなされている。例えば、特許文献1には、麦芽エキス及び糖類を添加してなるビール風味の炭酸飲料であって、グルコース及びマルトース濃度がそれぞれ0.2w/v%以下及び2.0w/v%以下であり、かつマルトトリオース以上の多糖類の合計濃度が2.0~3.0w/v%であることを特徴とする炭酸飲料が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003-250503号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
心地よく、べたつきの少ない酸味は、ドリンカビリティ(飲みやすさ)に影響し得る香味である。しかし、酸味(酸味の心地よさ及びべたつき)を改善して、ドリンカビリティを向上させる方法については、これまで知られていない。
【0005】
本発明は、心地よく、べたつきが抑制された酸味を有し、ドリンカビリティが向上したアルコール含有飲料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、マルトース及びマルトトリオースを含有し、マルトースの含有量が9.5g/L以上38g/L未満であり、マルトトリオースの含有量が1.75g/L以上7g/L未満である、アルコール含有飲料に関する。
【0007】
本発明に係るアルコール含有飲料は、マルトースの含有量及びマルトトリオースの含有量が上記範囲内にあるため、心地よく、べたつきが抑制された酸味を有し、ドリンカビリティが向上している。
【0008】
本発明に係るアルコール含有飲料において、マルトースの含有量は、15.5g/L以上26g/L以下であってよい。この場合、酸味がより心地よく、よりべたつかないものとなり、ドリンカビリティがより一層向上する。
【0009】
本発明に係るアルコール含有飲料において、マルトトリオースの含有量は、3.15g/L以上4.2g/L以下であってよい。この場合、酸味がより心地よく、よりべたつかないものとなり、ドリンカビリティがより一層向上する。
【0010】
本発明に係るアルコール含有飲料において、マルトースの含有量に対するマルトトリオースの含有量の質量比は0.5以下であってよい。この場合、酸味がより心地よく、よりべたつかないものとなり、ドリンカビリティがより一層向上する。
【0011】
本発明に係るアルコール含有飲料において、アルコール度数は、0.4v/v%以上1.0v/v%以下であってよい。
【0012】
本発明に係るアルコール含有飲料は、ビールテイスト飲料であってよい。
【0013】
本発明はまた、マルトースの含有量を9.5g/L以上38g/L未満に調整することと、マルトトリオースの含有量を1.75g/L以上7g/L未満に調整することとを含む、アルコール含有飲料に心地よく、べたつきが抑制された酸味を付与し、ドリンカビリティを向上させる方法にも関する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、心地よく、べたつきが抑制された酸味を有し、ドリンカビリティが向上したアルコール含有飲料を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。
【0016】
〔アルコール含有飲料〕
本実施形態に係るアルコール含有飲料は、マルトース及びマルトトリオースを含有し、マルトースの含有量が9.5g/L以上38g/L未満であり、マルトトリオースの含有量が1.75g/L以上7g/L未満である。
【0017】
マルトースは、D-グルコース2分子がα-1,4-グルコシド結合した還元性の二糖類であり、麦芽糖とも称される化合物である。本実施形態に係るアルコール含有飲料中のマルトースの含有量は、9.5g/L以上38g/L未満である。アルコール含有飲料中のマルトースの含有量は、より望ましい酸味(心地よく、べたつきが抑制された酸味)が得られ、ドリンカビリティがより一層向上する観点、及び、味(苦味及び甘味)のバランスがより一層優れたものとなる観点から、11.5g/L以上34g/L以下、13.5g/L以上30g/L以下、15.5g/L以上26g/L以下、又は17.5g/L以上22g/L以下であることが好ましい。更に、マルトースの含有量が、上記範囲内にあると、後に残って感じられるべたつく甘味と、後に残って感じられるべたつく酸味とをより一層低く抑えることが可能となる。
【0018】
マルトースの含有量は、例えば、マルトースの標準液を使用した高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて測定することができる。マルトースの含有量は、例えば、アルコール含有飲料の製造工程の任意の段階で、マルトースそのもの、又はマルトースを含有する組成物を添加することにより、調整することができる。糖含有物を発酵させる工程を含む方法によってアルコール含有飲料を製造する場合、マルトースの含有量は、発酵度を制御することによって、上記範囲内に調整することもできる。発酵度の制御は主に酵素剤の種類の選択によって行うことができ、他に麦芽の種類の選択、温度・時間制御、発酵性の異なる酵母の選択によっても行うことができる。
【0019】
マルトトリオースは、グルコース3分子がα-1,4-グルコシド結合した三糖(α-D-Glc-(1→4)-α-D-Glc-(1→4)-D-Glc)である。本実施形態に係るアルコール含有飲料中のマルトトリオースの含有量は、1.75g/L以上7g/L未満である。マルトトリオースの含有量は、より望ましい酸味(心地よく、べたつきが抑制された酸味)が得られ、ドリンカビリティがより一層向上する観点、及び、味(苦味及び甘味)のバランスがより一層優れたものとなる観点から、2.1g/L以上6.3g/L以下、2.45g/L以上5.6g/L以下、2.8g/L以上4.9g/L以下、3.15g/L以上4.2g/L以下、又は3.3g/L以上3.7g/L以下であることが好ましい。更に、マルトースの含有量が、上記範囲内にあると、後に残って感じられるべたつく甘味と、後に残って感じられるべたつく酸味とをより一層低く抑えることが可能となる。
【0020】
マルトトリオースの含有量は、例えば、マルトトリオースの標準液を使用した高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて測定することができる。マルトトリオースの含有量は、例えば、アルコール含有飲料の製造工程の任意の段階で、マルトトリオースそのもの、又はマルトトリオースを含有する組成物を添加することにより、調整することができる。マルトトリオースの含有量は、アルコール含有飲料の製造工程が、糖含有物を発酵させる工程を含む場合、発酵度を制御することによって、上記範囲内に調整することもできる。発酵度の制御は主に酵素剤の種類の選択によって行うことができ、他に麦芽の種類の選択、温度・時間制御、発酵性の異なる酵母の選択によっても行うことができる。
【0021】
アルコール含有飲料中のマルトースの含有量(g/L)に対するマルトトリオースの含有量(g/L)の質量比(マルトトリオース/マルトース)は、本発明による効果をより一層顕著に奏するという観点から、0.5以下、0.4以下、0.3以下、又は0.2以下であることが好ましい。マルトース及びマルトトリオースの含有量が上記範囲内であるとともに、マルトトリオース/マルトースが0.2以下である場合には、本発明による効果が特に顕著に奏される。マルトトリオース/マルトースは、例えば、0.05以上、0.10以上、又は0.15以上であってよい。
【0022】
本実施形態に係るアルコール含有飲料は、本発明の効果を損なわない範囲で、マルトース及びマルトトリオース以外の成分(他の成分)を更に含んでいてよい。他の成分としては、飲料に通常配合される苦味料、着色料、甘味料、高甘味度甘味料、酸化防止剤、酸味料、香料、塩類等を含んでいてもよい。苦味料としては、例えば、ホップ、イソα酸、カフェイン、ゲンチアナ抽出物、ペプチド類、テオブロミン、ナリンジン、ニガキ抽出物、ニガヨモギ抽出物、キナ抽出物等が挙げられる。着色料としては、例えば、カラメル色素、クチナシ色素、果汁色素、野菜色素、合成色素を挙げることができる。甘味料としては、例えば、果糖ぶどう糖液糖、グルコース、ガラクトース、マンノース、フルクトース、ラクトース、スクロース、グリコーゲン、デンプンを挙げることができる。高甘味度甘味料としては、例えば、ネオテーム、アセスルファムK、スクラロース、サッカリン、サッカリンナトリウム、グリチルリチン酸二ナトリウム、チクロ、ズルチン、ステビア、グリチルリチン、ソーマチン、モネリン、アスパルテーム、アリテームを挙げることができる。酸化防止剤としては、例えば、ビタミンC、ビタミンE、ポリフェノールを挙げることができる。酸味料としては、例えば、リン酸、乳酸、DL-リンゴ酸、クエン酸、アジピン酸、クエン酸三ナトリウム、グルコノデルタラクトン、グルコン酸、グルコン酸カリウム、グルコン酸ナトリウム、コハク酸、コハク酸一ナトリウム、コハク酸二ナトリウム、酢酸ナトリウム、DL-酒石酸、L-酒石酸、DL-酒石酸ナトリウム、L-酒石酸ナトリウム、乳酸ナトリウム、氷酢酸、フマル酸、フマル酸一ナトリウム、DL-リンゴ酸ナトリウムを挙げることができる。塩類としては、例えば、食塩、酸性りん酸カリウム、酸性りん酸カルシウム、りん酸アンモニウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、メタ重亜硫酸カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、硝酸カリウム、硫酸アンモニウムを挙げることができる。
【0023】
本実施形態に係るアルコール含有飲料のアルコール度数は、0.005v/v%以上、0.1v/v%以上、0.2v/v%以上、0.3v/v%以上、0.4v/v%以上、0.5v/v%以上、又は0.6v/v%以上であってよく、10.0v/v%以下、5.0v/v%以下、3.0v/v%以下、1.0v/v%以下、1.0v/v%未満、0.9v/v%以下、又は0.8v/v%以下であってよい。本明細書においてアルコールとは、特に言及しない限りエタノールを意味する。
【0024】
アルコール含有飲料のアルコール度数は、例えば、改訂BCOJビール分析法(公益財団法人日本醸造協会発行、ビール酒造組合国際技術委員会〔分析委員会〕編集、2013年増補改訂)の「8.3.6 ビール、アルコール(アルコライザー法)」や「8.3.7 ヘッドスペースGC-FID法」に記載の方法によって測定することができる。
【0025】
本実施形態に係るアルコール含有飲料のアルコール度数は、例えば、アルコールの添加により上記範囲内に調整してもよく、醸造により得られた発酵液からアルコールを除去して上記範囲内に調整してもよく、醸造に際してアルコール生成を抑える条件で発酵して発酵液を得ることで上記範囲内に調整してもよく、またこれらを併用して上記範囲内に調整してもよい。添加するアルコールに特に制限はなく、例えば、蒸留アルコール(例えば、原料用アルコール、スピリッツ、ウォッカ)であってもよく、醸造により得られた発酵液であってもよい。醸造により得られた発酵液からアルコールを除去する方法に特に制限はなく、例えば、蒸留、透析等の常法に従って実施することができる。
【0026】
本実施形態に係るアルコール含有飲料は、非発泡性であってもよく、発泡性であってもよい。ここで、非発泡性とは、20℃におけるガス圧が0.049MPa(0.5kg/cm)未満であることをいい、発泡性とは、20℃におけるガス圧が0.049MPa(0.5kg/cm)以上であることをいう。発泡性とする場合、ガス圧の上限は0.294MPa(3.0kg/cm)程度としてもよい。
【0027】
本実施形態に係るアルコール含有飲料は、ビールテイスト飲料、チューハイテイスト飲料、カクテル等のRTD(Ready To Drink)飲料、ワインテイスト飲料等であってよい。本明細書において、「ビールテイスト飲料」とは、ビール様の香味を有する飲料を意味する。ビールテイスト飲料としては、これに限られるものではないが、例えば、酒税法(令和二年法律第八号)上の発泡酒、その他の醸造酒、リキュールに分類されるものが挙げられる。本実施形態に係るビールテイスト飲料は、上記例示したものに限られない。本実施形態に係るビールテイスト飲料は、アルコール度数が0v/v%超3.0v/v%未満であるローアルコールビールテイスト飲料であってよい。
【0028】
本明細書において「チューハイテイスト飲料」とは、チューハイ、又は、チューハイのような味及び香りを呈するものであって、飲用の際にチューハイを飲用したような感覚を飲用者に与える飲料をいう。チューハイテイスト飲料は、例えば、果汁、ウーロン茶等を含有していてよく、香味の観点から、果汁を含有することが好ましい。本明細書において、ワインテイスト飲料とは、ワインのような味、香り及び色彩を呈するものであって、飲用の際にワインを飲用したような感覚を飲用者に与える飲料をいう。RTD飲料は、RTDの形態の飲料であり、蓋を開けてそのまま飲用されるものである。
【0029】
本実施形態に係るアルコール含有飲料は、容器に入れて提供することができる。容器は密閉できるものであればよく、金属製(アルミニウム製又はスチール製など)のいわゆる缶容器・樽容器を適用することができる。また、容器は、ガラス容器、ペットボトル容器、紙容器、パウチ容器等を適用することもできる。容器の容量は特に限定されるものではなく、現在流通しているどのようなものも適用することができる。なお、気体、水分及び光線を完全に遮断し、長期間常温で安定した品質を保つことが可能な点から、金属製の容器を適用することが好ましい。
【0030】
〔アルコール含有飲料の製造方法〕
本実施形態に係るアルコール含有飲料は、例えば、アルコール含有飲料中のマルトースの含有量を9.5g/L以上38g/L未満に調整することと、マルトトリオースの含有量を1.75g/L以上7g/L未満に調整することとを含む製造方法により製造することができる。当該製造方法は、例えば、原料を混合してアルコール含有飲料を製造するものであってもよく(調合による方法)、酵母等による発酵を経てアルコール含有飲料を製造するものであってもよい(発酵法)。
【0031】
一実施形態に係る製造方法(調合による方法)は、例えば、水と、マルトース源と、マルトトリオース源と、アルコール(例えば、原料用アルコール、スピリッツ及びウォッカ等の蒸留アルコール、醸造により得られた発酵液)と、必要に応じて、各種添加物(例えば、苦味料、着色料、甘味料、高甘味度甘味料、酸化防止剤、酸味料、香料、塩類、水溶性食物繊維等)と、その他麦汁等の原料とを原料タンクに配合する配合工程を含む。配合工程は、マルトースの含有量及びマルトトリオースの含有量を上記範囲内に調整することの他は、常法に従って実施することができる。マルトース源は、マルトースそのものであってよく、マルトースを含む原料であってもよい。マルトトリオース源は、マルトトリオースそのものであってよく、マルトトリオースを含む原料であってもよい。
【0032】
本実施形態に係る製造方法は、配合工程において各成分を混合して得た混合液をろ過するろ過工程と、ろ過工程でろ過したろ過液を殺菌する第一の殺菌工程と、第一の殺菌工程で殺菌した殺菌済みのろ過液をビン、缶、ペットボトル等の容器に充填する充填工程と、充填工程で容器に充填されたろ過液を容器ごと殺菌する第二の殺菌工程を更に含んでいてもよい。
【0033】
配合工程は、各成分がよく混ざるよう、撹拌機等により撹拌しながら混合してもよい。また、ろ過工程は、例えば、一般的なフィルター又はストレーナーによって行うことができる。第一の殺菌工程は、処理速度等の観点から、プレート殺菌によって行ってもよく、同様の処理を行うことができるのであれば、これに限定されることなく適用可能である。充填工程は、飲料の製造において通常行われる程度にクリーン度を保ったクリーンルームにて充填してもよい。第二の殺菌工程は、所定の温度及び所定の時間でろ過液を容器ごと加熱することにより行うことができる。第一又は第二の殺菌工程は、非加熱の殺菌工程としてもよい。非加熱の殺菌工程としては、紫外線(UV)殺菌等が挙げられる。殺菌工程を行わない無殺菌充填を行うことも可能である。
【0034】
他の実施形態における製造方法(発酵法)は、例えば、仕込工程及び発酵工程を備える。
【0035】
仕込工程は、発酵に用いられる発酵前液を調製する工程である。仕込工程は、例えば、原料及び仕込水(仕込工程で使用される水)を用いて、発酵前液を得る工程であってよい。仕込工程はまた、例えば、糖含有液を煮沸する煮沸工程、原料液中の固形分を除去する除去工程、原料液を冷却する冷却工程をこの順に含むものであってよい。
【0036】
煮沸工程では、糖含有液を煮沸して煮沸後液(煮沸後の糖含有液)を得る。糖含有液とは、酵母によるアルコール発酵が可能な成分を含有するものである。糖含有液としては、例えば、麦汁、シロップが挙げられる。麦汁とは、麦原料等の糖化を経て得られる液であり、未発酵のものである。麦汁は、例えば、麦原料等の原料と水とを混合する工程、原料と水とを含む液を常法により糖化して糖化液を得る工程、及び糖化液をろ過する工程を経て得ることができる。本明細書において麦原料とは、麦又は麦加工物をいう。麦としては、例えば、大麦、小麦、ライ麦、カラス麦、オート麦、ハト麦、エン麦が挙げられる。麦加工物としては、例えば、麦エキス、麦芽、モルトエキスが挙げられる。麦エキスは、麦から糖分及び窒素分を含む麦エキス分を抽出することにより得られる。麦芽は麦を発芽させることにより得られる。モルトエキスは、麦芽から糖分及び窒素分を含むエキス分を抽出することにより得られる。
【0037】
煮沸工程では、原料液にホップを添加してよい。添加するホップとしては、例えば、乾燥ホップ、ホップペレット、ホップエキスを用いることができる。ホップは、ローホップ、ヘキサホップ、テトラホップ、イソ化ホップエキス等のホップ加工品であってもよい。
【0038】
除去工程では、煮沸後液中の固形分を除去して精製液を得る。除去工程は、例えば、煮沸後液に含まれる不溶性の固形分を沈殿させることにより行うことができる。固形分としては、煮沸工程により生じた熱凝固物、煮沸工程でホップを添加した場合には、ホップのかす等が挙げられる。除去工程は、ワールプール中で実施してよい。冷却工程では、酵母による発酵が可能な温度まで精製液を冷却して発酵前液を得る。
【0039】
発酵工程は、発酵前液を酵母で発酵させる工程である。発酵工程により、発酵前液を酵母により発酵させた発酵後液が得られる。発酵工程では、酵母によりアルコール発酵が行われる。より具体的には、発酵前液に酵母を接種して発酵させ、酵母により生成するアルコールを含む発酵後液を得る。
【0040】
本実施形態に係る製造方法では、発酵工程後の発酵後工程として、発酵後液を熟成、冷却する工程、発酵後液を貯酒する貯酒工程、及び発酵後液をろ過するろ過工程を備えていてもよい。ろ過工程を実施することにより、発酵後液から不溶性の固形分、酵母等を除去することができる。
【0041】
本実施形態に係る製造方法では、他の発酵後工程として、発酵後液(又はろ過工程後の発酵後液)に対して加熱(殺菌)、各種添加物(例えば、苦味料、着色料、甘味料、高甘味度甘味料、酸化防止剤、酸味料、香料、塩類、水溶性食物繊維)の添加等を行ってもよい。
【0042】
本実施形態に係る製造方法(発酵法)は、マルトースの含有量及びマルトトリオースの含有量を上記範囲内に調整することの他は、常法に従って実施することができる。マルトースの含有量は、マルトースの添加量を制御すること、及び/又は、原料の種類及び使用量並びに発酵度等を制御することにより、調整することができる。マルトトリオースの含有量は、マルトトリオースの添加量を制御すること、及び/又は、原料の種類及び使用量並びに発酵度等を制御することにより、調整することができる。
【0043】
〔アルコール含有飲料に心地よく、べたつきが抑制された酸味を付与し、ドリンカビリティを向上させる方法〕
上述した本発明は、マルトースの含有量を9.5g/L以上38g/L未満に調整することと、マルトトリオースの含有量を1.75g/L以上7g/L未満に調整することとを含む、アルコール含有飲料に心地よく、べたつきが抑制された酸味を付与し、ドリンカビリティを向上させる方法と捉えることもできる。当該方法における具体的な態様等として、上述した態様を制限なく適用することができる。
【実施例0044】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明は、以下の実施例により限定されるものではない。
【0045】
〔試験例1:アルコール含有飲料の製造及び評価〕
(アルコール含有飲料の製造)
炭酸水、アルコール(蒸留アルコール)、マルトース及びマルトトリオースを表1に示す組成となるように混合して、試験例1-1~試験例1-7のアルコール含有飲料を製造した。表1に示すマルトースの含有量及びマルトトリオースの含有量は、アルコール含有飲料全量を基準とする含有量である。試験例1-1~1-7のアルコール含有飲料のアルコール度数は、0.7v/v%であった。
【0046】
対照として、マルトース及びマルトトリオースを混合しなかったこと以外は、試験例1-1~1-7と同様にして、対照のアルコール含有飲料を製造した。
【0047】
(官能評価)
試験例1-1~1-7のアルコール含有飲料に対して、「心地よい酸味、べたつかない酸味」、「ドリンカビリティ」、「べたつく甘味(後に残る感じ)」及び「べたつく酸味(後に残る感じ)」の評価項目について官能評価を実施した。官能評価は、選抜された識別能力のあるパネル5名により実施した。いずれの評価項目も評点1~5の5段階で評価し、その平均値を評価スコアとした。
【0048】
「心地よい酸味、べたつかない酸味」は、アルコール含有飲料を飲んだ際の酸味のまろやかさ、後味の残らなさとして評価された。すなわち、「心地よい酸味、べたつかない酸味」は、評点が高いほど、酸味が心地よく、べたつくような酸味が抑制されていることを示す。「ドリンカビリティ」は、グラス一杯のアルコール含有飲料を飲んだ後に、もう一杯飲みたくなるかどうかといった飲みやすさとして評価された。すなわち、評点が高いほど、一杯飲んだ後に、さらにもう一杯飲みたくなるような飲料であることを示す。「心地よい酸味、べたつかない酸味」及び「ドリンカビリティ」の評価項目は、評点が高いほど好ましいことを意味する。
【0049】
「べたつく甘味(後に残る感じ)」は、評点が高いほど、甘みがべたついており、甘みが後に残って感じることを示す。「べたつく酸味(後に残る感じ)」は、評点が高いほど、酸味がべたついており、酸味が後に残って感じることを示す。「べたつく甘味(後に残る感じ)」及び「べたつく酸味(後に残る感じ)」の評価項目は、評点が低いほど、好ましいことを示す。
【0050】
「心地よい酸味、べたつかない酸味」、「ドリンカビリティ」、「べたつく甘味(後に残る感じ)」及び「べたつく酸味(後に残る感じ)」の評価項目は、対照のアルコール含有飲料の評点をそれぞれ1点、1点、1点及び5点として固定し、これを基準として他のアルコール含有飲料を評価した。結果を表2に示す。
【0051】
【表1】
【0052】
【表2】
【0053】
対照及び試験例1-7のアルコール含有飲料と、試験例1-1~1-6のアルコール含有飲料との比較から、マルトースの含有量及びマルトトリオースの含有量を特定の範囲に調整することによって、酸味が心地よく、かつ、酸味のべたつきが抑制され、ドリンカビリティが優れたものとなることが分かる。試験例1-3~1-5のアルコール含有飲料は、心地よい酸味、べたつかない酸味及びドリンカビリティに特に優れ、さらに後に残る甘味及び酸味のべたつきも充分に抑制されていた。
【0054】
試験例1-4のアルコール含有飲料について、バランス良い及び味のバランスが良いといったコメントが得られた。対照のアルコール含有飲料について、苦味が強いというコメントが得られた。試験例1-7のアルコール含有飲料について、甘味強い、重い、甘味が強く残る、甘味、切れず及び甘ったるいというコメントが得られた。
【0055】
官能評価を実施したパネルのコメントによれば、試験例1-1~1-3のアルコール含有飲料と比べて、他の試験例のアルコール含有飲料は、苦味が抑えられていた。試験例1-1のアルコール含有飲料と比べて、他の試験例のアルコール含有飲料は、より濃く感じられた。試験例1-5~1-6のアルコール含有飲料と比べて、他の試験例のアルコール含有飲料は、甘みがより適したものであった。試験例1-6のアルコール含有飲料と比べて、他の試験例のアルコール含有飲料は、より重くなく感じられた。試験例1-6のアルコール含有飲料は、味のバランスがよく、うまみのようなものが感じられた。
【0056】
試験例1-1~1-6のアルコール含有飲料は、対照及び試験例1-7のアルコール含有飲料と比べて、後に残って感じられるべたつく甘味と、後に残って感じられるべたつく酸味とが低く抑えられていた。試験例1-4のアルコール含有飲料では、後に残って感じられるべたつく甘味と、後に残って感じられるべたつく酸味とが特に低く抑えられていた。
【0057】
〔試験例2:ローアルコールビールテイスト飲料の製造及び評価〕
(ローアルコールビールテイスト飲料(アルコール度数0.7v/v%)の製造)
通常のビールと同様に麦汁を調製して、調製した麦汁にノンアルコールビール酵母を添加して発酵させ、その後、貯酒を実施した。貯酒液に酸味料を添加して、ろ過した。ろ過後の貯酒液を缶に充填してローアルコールビールテイスト飲料を得た。得られたローアルコールビールテイスト飲料にマルトース、マルトトリオースを加えて、試験例2-1~2-5のサンプルを調製した。対照は、試験例1における対照と同様のサンプルである。
【0058】
ローアルコールビールテイスト飲料中のマルトース及びマルトトリオースの含有量は、マルトース又はマルトトリオースの標準液を使用した高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により測定し、下表に示す含有量となるように必要によりマルトース又はマルトトリオースを添加して、サンプルを調製した。
【0059】
(官能評価)
官能評価は、「心地よい酸味、べたつかない酸味」、「ドリンカビリティ」、「べたつく甘味(後に残る感じ)」及び「べたつく酸味(後に残る感じ)」の評価項目について、試験例1と同様にして、選抜された識別能力のあるパネル5名により実施した。
【0060】
「心地よい酸味、べたつかない酸味」、「ドリンカビリティ」、「べたつく甘味(後に残る感じ)」及び「べたつく酸味(後に残る感じ)」の評価項目は、対照のアルコール含有飲料の評点をそれぞれ1点、1点、1点及び5点として固定し、これを基準として他のアルコール含有飲料を評価した。
【表3】

【表4】
【0061】
麦汁を発酵させることを含む方法によって得られたローアルコールビールテイスト飲料においても、マルトース及びマルトトリオースが所定範囲内である場合には、酸味が心地よく、かつ、酸味のべたつきが抑制され、ドリンカビリティが優れたものであった。試験例2-1~2-3のローアルコールビールテイスト飲料は、心地よい酸味、べたつかない酸味及びドリンカビリティに優れ、さらに後に残る甘味及び酸味のべたつきも充分に抑制されていた。
【0062】
試験例2-4のローアルコールビールテイスト飲料については、甘み強いというコメントが得られた。試験例2-5のローアルコールビールテイスト飲料については、甘み強い、重いというコメントが得られた。