(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022152780
(43)【公開日】2022-10-12
(54)【発明の名称】乗物用シート
(51)【国際特許分類】
B60N 2/90 20180101AFI20221004BHJP
B60N 2/42 20060101ALI20221004BHJP
【FI】
B60N2/90
B60N2/42
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021055684
(22)【出願日】2021-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000220066
【氏名又は名称】テイ・エス テック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100093045
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 良男
(72)【発明者】
【氏名】樫野 竜太
(72)【発明者】
【氏名】松本 直也
【テーマコード(参考)】
3B087
【Fターム(参考)】
3B087AA02
3B087CD05
3B087DD10
3B087DE09
3B087DE10
(57)【要約】
【課題】シート本体を浮上させて振動の絶縁を図るとともに、車体側からシート本体への給電を可能にする。
【解決手段】乗物用シート210が、乗員が着座するシート本体と、車体1に固定されてシート本体を支持する支持ベース216と、を備えており、支持ベース216は、シート本体を磁気浮上させるとともにシート本体側に無線給電を行うための無線給電機構250を有し、無線給電機構250は、車体1側に配置され、電源部2からの電力供給を受けるとともに磁界を発生させる磁界式の送電部251と、シート本体側に配置され、送電部251から無線で電力供給を受けるとともに磁界を発生させる磁界式の受電部252と、を備えており、送電部251及び受電部252は、送電部251によって形成される磁極と受電部252によって形成される磁極が互いに反発する向きとなるように磁界を発生させる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗員が着座するシート本体と、
車体に固定されて前記シート本体を支持する支持ベースと、を備えており、
前記支持ベースは、前記シート本体を磁気浮上させるとともに前記シート本体側に無線給電を行うための無線給電機構を有し、
前記無線給電機構は、
前記車体側に配置され、電源部からの電力供給を受けるとともに磁界を発生させる磁界式の送電部と、
前記シート本体側に配置され、前記送電部から無線で電力供給を受けるとともに磁界を発生させる磁界式の受電部と、を備えており、
前記送電部及び前記受電部は、前記送電部によって形成される磁極と前記受電部によって形成される磁極が互いに反発する向きとなるように磁界を発生させることを特徴とする乗物用シート。
【請求項2】
前記支持ベースは、前記シート本体を支持するための脚部を備えており、
前記脚部は、
前記車体側に位置するロッド部と、
前記シート本体側に位置し、前記ロッド部が差し込まれる筒部と、
前記ロッド部及び前記筒部の内部に組み込まれる前記無線給電機構と、を備えてシリンダ状に形成されており、
前記送電部は前記ロッド部側に設けられ、前記受電部は前記筒部側に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の乗物用シート。
【請求項3】
前記送電部と前記受電部は、前記ロッド部の軸方向に間隔を空けて、かつ、前記ロッド部の軸方向においてラップして配置されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の乗物用シート。
【請求項4】
前記送電部は円盤状に形成され、前記受電部は円柱状に形成されており、
前記送電部の径は、前記受電部の径よりも大きく設定されていることを特徴とする請求項3に記載の乗物用シート。
【請求項5】
前記無線給電機構は、前記脚部の内部に設けられて前記送電部と前記受電部との衝突を緩衝する導電性の緩衝部を更に備えることを特徴とする請求項2から4のいずれか一項に記載の乗物用シート。
【請求項6】
前記ロッド部と前記筒部との間には、前記筒部の前記ロッド部からの抜けを防止するための抜け防止機構が設けられていることを特徴とする請求項2から5のいずれか一項に記載の乗物用シート。
【請求項7】
前記無線給電機構は、前記電源部から前記送電部への電力供給に係る制御を行うための制御装置と接続されており、
前記制御装置は、前記車体を備えた乗物の状態に応じて前記電源部から前記送電部への電力供給を開始したり停止したりする制御を行うことを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の乗物用シート。
【請求項8】
前記制御装置は、前記車体を備えた乗物の稼働時において前記電源部から前記送電部への電力供給を開始するとともに、前記乗物の非稼働時において前記電源部から前記送電部への電力供給を停止する制御を行うことを特徴とする請求項7に記載の乗物用シート。
【請求項9】
前記無線給電機構は、前記電源部から前記送電部への電力供給に係る制御を行うための制御装置と接続されており、
前記電源部は交流電源とされており、
前記制御装置は、前記電源部から供給される交流電流に起因する前記送電部又は前記受電部における前記磁極の反転を監視するとともに、前記磁極が互いに反発する向きとなるように前記磁極の向きを切り替える制御を行うことを特徴とする請求項1から8のいずれか一項に記載の乗物用シート。
【請求項10】
前記受電部は、前記シート本体に設けられた電装品又は制御機器と接続されて電力を供給していることを特徴とする請求項1から9のいずれか一項に記載の乗物用シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗物用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、磁力を用いて乗物用シートの振動の絶縁を図る技術が知られている。例えば特許文献1には、車体とシート本体との間に、電磁石から構成された第一磁力発生手段(電磁石)と、永久磁石から構成された第二磁力発生手段(永久磁石)と、を介在させてシート本体を浮上させることが可能な乗物用シートが開示されている。
第二磁力発生手段である永久磁石は、第一磁力発生手段である電磁石の互いに対向したN極とS極との間に配置された状態となっている。そのため、電磁石を作動させると、電磁石と永久磁石との相互の吸引力によって、永久磁石が電磁石の磁極間に浮遊した状態になり、この浮遊した永久磁石に連結されたシート本体が浮上する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、近年における乗物用シートには多くの電装品や制御システムが搭載され、車体側からの電力供給が不可欠となっている。
しかしながら、従来の磁気浮上式の乗物用シートは、シート本体と車体との間のスペースにおける大部分を、磁力発生手段を設置するスペースに割いており、電力供給のための設備を設置しにくい。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その課題は、シート本体を浮上させて振動の絶縁を図るとともに、車体側からシート本体への給電を可能にすることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以上の課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、乗物用シートであって、
乗員が着座するシート本体と、
車体に固定されて前記シート本体を支持する支持ベースと、を備えており、
前記支持ベースは、前記シート本体を磁気浮上させるとともに前記シート本体側に無線給電を行うための無線給電機構を有し、
前記無線給電機構は、
前記車体側に配置され、電源部からの電力供給を受けるとともに磁界を発生させる磁界式の送電部と、
前記シート本体側に配置され、前記送電部から無線で電力供給を受けるとともに磁界を発生させる磁界式の受電部と、を備えており、
前記送電部及び前記受電部は、前記送電部によって形成される磁極と前記受電部によって形成される磁極が互いに反発する向きとなるように磁界を発生させることを特徴とする。
【0007】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の乗物用シートにおいて、
前記支持ベースは、前記シート本体を支持するための脚部を備えており、
前記脚部は、
前記車体側に位置するロッド部と、
前記シート本体側に位置し、前記ロッド部が差し込まれる筒部と、
前記ロッド部及び前記筒部の内部に組み込まれる前記無線給電機構と、を備えてシリンダ状に形成されており、
前記送電部は前記ロッド部側に設けられ、前記受電部は前記筒部側に設けられていることを特徴とする。
【0008】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の乗物用シートにおいて、
前記送電部と前記受電部は、前記ロッド部の軸方向に間隔を空けて、かつ、前記ロッド部の軸方向においてラップして配置されていることを特徴とする。
【0009】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の乗物用シートにおいて、
前記送電部は円盤状に形成され、前記受電部は円柱状に形成されており、
前記送電部の径は、前記受電部の径よりも大きく設定されていることを特徴とする。
【0010】
請求項5に記載の発明は、請求項2から4のいずれか一項に記載の乗物用シートにおいて、
前記無線給電機構は、前記脚部の内部に設けられて前記送電部と前記受電部との衝突を緩衝する導電性の緩衝部を更に備えることを特徴とする。
【0011】
請求項6に記載の発明は、請求項2から5のいずれか一項に記載の乗物用シートにおいて、
前記ロッド部と前記筒部との間には、前記筒部の前記ロッド部からの抜けを防止するための抜け防止機構が設けられていることを特徴とする。
【0012】
請求項7に記載の発明は、請求項1から6のいずれか一項に記載の乗物用シートにおいて、
前記無線給電機構は、前記電源部から前記送電部への電力供給に係る制御を行うための制御装置と接続されており、
前記制御装置は、前記車体を備えた乗物の状態に応じて前記電源部から前記送電部への電力供給を開始したり停止したりする制御を行うことを特徴とする。
【0013】
請求項8に記載の発明は、請求項7に記載の乗物用シートにおいて、
前記制御装置は、前記車体を備えた乗物の稼働時において前記電源部から前記送電部への電力供給を開始するとともに、前記乗物の非稼働時において前記電源部から前記送電部への電力供給を停止する制御を行うことを特徴とする。
【0014】
請求項9に記載の発明は、請求項1から8のいずれか一項に記載の乗物用シートにおいて、
前記無線給電機構は、前記電源部から前記送電部への電力供給に係る制御を行うための制御装置と接続されており、
前記電源部は交流電源とされており、
前記制御装置は、前記電源部から供給される交流電流に起因する前記送電部又は前記受電部における前記磁極の反転を監視するとともに、前記磁極が互いに反発する向きとなるように前記磁極の向きを切り替える制御を行うことを特徴とする。
【0015】
請求項10に記載の発明は、請求項1から9のいずれか一項に記載の乗物用シートにおいて、
前記受電部は、前記シート本体に設けられた電装品又は制御機器と接続されて電力を供給していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
請求項1に記載の発明によれば、無線給電機構における磁界式の送電部及び磁界式の受電部は、送電部によって形成される磁極と受電部によって形成される磁極が互いに反発する向きとなるように磁界を発生させるので、車体側に配置された送電部と、シート本体側に配置された受電部は互いに反発しながら、送電部から受電部への電力供給が無線で行われることになる。これにより、シート本体を車体から磁気浮上させて振動の絶縁が可能になって着座時における快適性の向上に貢献できるとともに、車体側からシート本体への無線給電が可能となる。
【0017】
請求項2に記載の発明によれば、送電部が脚部におけるロッド部側に設けられ、受電部が脚部における筒部側に設けられているので、送電部と受電部とを互いに反発させることで、筒部をロッド部の軸方向に沿って浮上させることができる。これにより、筒部は、ロッド部の軸方向と直交する方向には移動しにくくなるので、筒部の、ひいてはシート本体の水平位置を規制できる。
【0018】
請求項3に記載の発明によれば、送電部と受電部は、ロッド部の軸方向に間隔を空けて、かつ、ロッド部の軸方向においてラップして配置されているので、受電部は、送電部から無線で電力供給を受けやすい。
【0019】
請求項4に記載の発明によれば、円盤状に形成された送電部の径は、円柱状に形成された受電部の径よりも大きく設定されているので、たとえ受電部が軸方向と直交する方向に多少移動しても、送電部と受電部とがロッド部の軸方向においてラップして配置された状態を維持でき、受電部は、より一層、送電部から無線で電力供給を受けやすくなる。
【0020】
請求項5に記載の発明によれば、無線給電機構は、脚部の内部に設けられて送電部と受電部との衝突を緩衝する導電性の緩衝部を更に備えるので、筒部の下降時において送電部と受電部、ひいてはロッド部と筒部とが強く接することを緩衝でき、乗員に衝撃が伝わりにくくなって着座時における快適性の向上に貢献できる。
【0021】
請求項6に記載の発明によれば、ロッド部と筒部との間に、筒部のロッド部からの抜けを防止するための抜け防止機構が設けられているので、乗物の衝突時においてシート本体が車体から離れてしまうことを抑制でき、安全性の向上に貢献できる。
【0022】
請求項7に記載の発明によれば、無線給電機構と接続された制御装置は、車体を備えた乗物の状態に応じて電源部から送電部への電力供給を開始したり停止したりする制御を行うので、車体を備えた乗物の状態に応じて必要なときにシート本体を磁気浮上させるとともにシート本体側に無線給電を行うことができる。その一方で、不要なときには電源部から送電部への電力供給を停止できるので、シート本体を下降させるとともにシート本体側への無線給電を停止して消費電力を抑えることができる。
【0023】
請求項8に記載の発明によれば、制御装置は、車体を備えた乗物の稼働時において電源部から送電部への電力供給を開始するとともに、乗物の非稼働時において電源部から送電部への電力供給を停止する制御を行うので、乗物の稼働時においてシート本体を磁気浮上させるとともにシート本体側に無線給電を行うことができ、乗物の非稼働時においてシート本体を下降させるとともにシート本体側への無線給電を停止して消費電力を抑えることができる。
【0024】
請求項9に記載の発明によれば、無線給電機構と接続された制御装置は、電源部から供給される交流電流に起因する送電部又は受電部における磁極の反転を監視するとともに、磁極が互いに反発する向きとなるように磁極の向きを切り替える制御を行うので、たとえ送電部又は受電部のうち一方における磁極が反転しても、すぐに他方の磁極を反転させることができ、シート本体の磁気浮上を維持しやすい。
【0025】
請求項10に記載の発明によれば、受電部は、シート本体に設けられた電装品又は制御機器と接続されて電力を供給しているので、シート本体に対して電装品や制御機器による機能を付与して、着座時における快適性の向上に貢献できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図2】支持ベースの概要を説明する側断面図である。
【
図3】脚部における無線給電の仕組みを説明する概念図である。
【
図4】脚部における無線給電の仕組みを説明するブロック図である。
【
図5】磁気浮上及び無線給電の流れを説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。ただし、以下に述べる実施形態には、本発明を実施するために技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の技術的範囲を以下の実施形態および図示例に限定するものではない。
【0028】
また、以下に説明する乗物用シートは、船舶、飛行機、スノーモービル、水上バイク等の乗物用シートを含むが、主に車両用シートを指すものとし、車両は、跨座式又は非跨座式の自動二輪車や自動車(乗用車)だけでなく、自転車、原動機付自転車、建設車両、軍用車両、産業車両、鉄道車両、その他にも耕運機やトラクター等の農業用の車両等が挙げられる。そして、乗物用シートには乗員が着座する。
本実施形態においては、自動車における乗物用シート210を例に挙げて説明する。
【0029】
乗物用シート210は、シート本体として、人の大腿部及び臀部を支持するシートクッション211と、下端部がシートクッション211に支持され、かつ背凭れとなるシートバック212と、シートクッション211に対してシートバック212を傾動させるリクライニング機構213と、人の頭部を支持するヘッドレスト214と、を少なくとも備える。このようなシート本体は、自動車の車体1に固定される支持ベース216によって支持されている。
また、必要に応じて、人の腕部を支持するアームレストや、人の脚部を支持するオットマン等の補助支持部が設けられる。
なお、支持ベース216は、シート本体を少なくとも前後方向(及び左右方向)にスライド移動させるスライド機構270(スライドレール)と、車体1に設置されて、上端部にスライド機構270が固定された複数の脚部260と、を有する。
【0030】
乗物用シート210は、骨格を構成するシートフレームと、シートフレームに支持されたパッドが、表皮となるシートカバーで被覆されることによって構成されている。
シートフレーム及びパッドには、乗物用シート210に対して様々な機能を付与するために必要な電装品210aや制御機器等が設けられる。シートカバーは、これら電装品210aや制御機器等も被覆している。
【0031】
シートフレームは、支持ベース216におけるスライド機構270に連結されている。これにより、シート本体の全体が、車体1に対してスライド移動可能となっている。スライド機構270は、本実施形態においては、シート本体を前後方向に移動させるものが採用されているが、加えて、左右方向に移動可能な機構を有していてもよい。
【0032】
複数の脚部260は、車体1の上面に設置されたロッド部261と、ロッド部261が差し込まれる円筒状の筒部262と、ロッド部261と筒部262の内部に組み込まれる無線給電機構250と、を備えて略シリンダ状に形成されている。
このような脚部260は、本実施形態においては、前側に2本と後側に2本の計4本設けられている。前側2本の脚部260は、ロッド部261の下端部に高さ調整部263が一体的に取り付けられることで、後側2本の脚部260よりも、上端部の高さ位置が高く設定されている。
【0033】
ロッド部261は、軸方向が、車体1上面に対して垂直になるように配置されており、内部に無線給電機構250が配置されている。すなわち、ロッド部261は、中央部が軸方向にくり抜かれたような円筒状に形成されている。
【0034】
筒部262は、下端部が開口し、当該開口からロッド部261が差し込まれている。上端部(上端面)は、スライド機構270の角度に応じて傾斜し、スライド機構270に固定されている。筒部262の上端部と、スライド機構270との間に角度調整部材(図示省略)を挟んで、スライド機構270ひいてはシート本体の角度を調整してもよい。
なお、前側2本の脚部260における上端面の延長線上に、後側2本の脚部260における上端面が位置している。これにより、スライド機構270を、前側2本の脚部260における上端面と、後側2本の脚部260における上端面との間に、まっすぐに架け渡すことができる。
【0035】
筒部262は、車体1の上面に設置されたロッド部261に沿って上下に移動可能となっている。これにより、シート本体が、車体1に対して上下に移動可能となっている。換言すれば、筒部262は、ロッド部261が差し込まれた状態においては、ロッド部261の長さ方向(軸方向:車体1の上面に対して垂直上方)にのみ移動可能であり、ロッド部261と共に、筒部262に固定されたスライド機構270ひいてはシート本体の水平位置を規制している。
【0036】
ロッド部261に対する筒部262の上下移動を可能としつつ、筒部262の上方への抜けを防止するため、ロッド部261と筒部262との間には、抜け防止機構が設けられている。
抜け防止機構は、ロッド部261の外側面に形成されたガイド溝261aと、筒部262の内側面に形成された爪部262aと、を有する。
ガイド溝261aは、ロッド部261の外側面に対し、上下方向に長尺となるように形成されている。ガイド溝261aの上端部の高さ位置は、ロッド部261の中央部付近に設定されている。
【0037】
爪部262aは、筒部262の内側面から更に内側に突出して形成されており、ガイド溝261a内に挿入されている。また、本実施形態においては、筒部262の下端部に形成されている。
筒部262がロッド部261に沿って上下方向に移動すると、爪部262aもガイド溝261aに沿って上下方向に移動する。そして、爪部262aは、上方に移動しても、ガイド溝261aの上端部に当接するので、筒部262がロッド部261から抜けることを防止できるようになっている。
【0038】
続いて、無線給電機構250は、ロッド部261と筒部262の内部に組み込まれて、シート本体を浮上させるとともに、車体1側からシート本体への給電(電力供給)を可能としており、送電部251と、受電部252と、緩衝部253と、を備える。
【0039】
ここで、無線給電機構250が、無線(すなわち、非接触)で電力を供給する方式(無線給電方式)としては、例えば電磁誘導方式、磁界共鳴方式、電界結合方式、電波受信方式などが挙げられ、その中から好適なものが採用されている。
電磁誘導方式は、送信側コイルと受信側コイルを接近させた状態で送信側コイルに電流を流すことで送信側コイルと受信側コイルとの間に誘導磁束を発生させ、この誘導磁束を媒介にして受信側コイルに誘導起電力を生じさせる方式である。
磁界共鳴方式とは、送電側と受電側にコイルとコンデンサを埋め込み、それぞれの共振器を磁界共鳴させて、電力を供給する方式である。
電界結合方式とは、送電側と受電側にそれぞれ電極を設置し、それぞれの電極が近接したときに発生する電界を利用して電力を供給する方式である。
電波受信方式とは、送電側で電流を電磁波に変換して受電側に送ることによって電力を供給する方式である。この電波受信方式では、受電側は、アンテナから電磁波を受信し、整流回路を通じて直流電流に変換し、電力として利用する。
【0040】
送電部251は、送信側コイルによって構成されており、ロッド部261における底部261bの内部に収納されている。すなわち、ロッド部261の底部261bには、送電部251を収納できるスペースが形成されている。そして、この送電部251は、車体1側に設けられた電源部2から電力供給を受けるとともに、磁極(N極、S極)を形成している。すなわち、送電部251は、磁界を発生させる方式の磁界式送電部251とされている。
【0041】
受電部252は、筐体の内部に受信側コイルが設けられて構成されており、筒部262の上端部における下面に固定されて下方に突出し、下方に突出する部分が、ロッド部261の筒内部に挿入されている。そして、送電部251から無線で電力供給を受ける。より詳細には、車体1側から送電部251に供給された電力によって発生した誘導磁束を媒介にして、受電部252に起電力を生じさせているとともに、磁極を形成している。すなわち、受電部252は、磁界を発生させる方式の磁界式受電部252とされている。
【0042】
図3に示すように、本実施形態においては、直流の電流を流しても一瞬だけしか磁界が発生しないため、送信側コイルに交流の電流を流して磁界を発生させている。そして、磁界が受信側コイルに流れることで過電流が発生する。そして、受信側コイルで過電流が、送信側コイルと逆の磁力を発生させることで反発力が発生し、受電部252ひいては筒部262(シート本体)を浮上させている。
【0043】
なお、浮上距離は、ロッド部261の軸方向に沿う方向のみであり、本実施形態においては、最大で20mm程度の浮上距離に設定されている。必要以上に浮上させようとすると、その分だけ電力を使用するため、20mm程度の浮上距離に設定されていれば消費電力を軽減できる。
また、筒部262上中における送電部251と受電部252との間は、良好な送電効率を確保するため、一定間隔を保つことが推奨される。
さらに、送電部251と受電部252は、良好な送電効率を確保するために、側面視においてなるべく平行となるように配置されている。
加えて、受電部252は、送電部251とラップするように配置されている。つまり、ロッド部261の軸方向上側から下方に向かって投影視した場合に、筒部262に取り付けられた受電部252が、ロッド部261の底部261bに収納された送電部251と重なるように配置されている。
なお、本実施形態においては、送電部251は筐体が円盤状に形成され、受電部252は筐体が円柱状に形成されている。そして、円柱状の受電部252の径よりも、円盤状の送電部251の径の方が大きく設定されている。
【0044】
ここで、送信側コイルに交流の電流を流して磁界を発生させているため、その磁界を生成している電気的導体中での電流の向きの周期的変化にしたがって極性が変化する(例えば、50Hz交流の場合、毎秒100回の極性変化)。つまり、形成された磁極が周期的に反転することになる。送信側コイルの磁界と、向かい合う受信側コイルの磁界が常に同極(N極とN極、又はS極とS極)同士であれば筒部262の磁気浮上は可能であるが、異極になると当然、筒部262は浮上しない。
そこで、本実施形態においては、無線給電機構250は、
図3,
図4に示すように、電源部2から送電部251への電力供給に係る制御を行うための制御装置255と接続されており、この制御装置255によって磁極の切り替えを制御している。
制御装置255は、送電部251に接続されて、送信側コイルにおける磁極の反転を監視しており、受電部252の受信側コイルにおける向かい合う磁極と常に同極となるように制御している。なお、この制御装置255によって、受信側コイルにおける磁極の反転を同時に監視してもよい。
【0045】
制御装置255は、例えばマイコンを主体として構成された専用の制御装置であってもよいし、車体1側に搭載されたECU(Electronic Control Unit)によって構成されたものであってもよい。制御装置255は、電源部2から送電部251への電力供給に係る制御に必要なデータやプログラムを記憶しており、当該プログラムを実行することによって電源部2から送電部251への電力供給に係る制御を行っている。
このような制御装置255は、電源部2から送電部251への電力供給を開始(通電ON)したり停止(通電OFF)したりする給電制御手段(給電制御プログラム)と、送信側コイル又は受信側コイルにおける磁極の反転を監視する磁極監視手段(磁極監視プログラム)と、送信側コイル又は受信側コイルのうち一方の磁極の反転を検知した場合に他方の磁極の反転を行う磁極切替手段(磁極切替プログラム)と、を備える。
【0046】
また、上記の各手段は、各々が専用の制御装置に備えられるものとしてもよい。すなわち、例えば、上記のECUは自動車の運転と連動するものであり、上記の給電制御手段は当該ECUが備えるものであってもよい。また、磁極監視手段及び磁極切替手段は、双方とも磁極の反転に関わるため、同一の制御装置(例えば制御装置255)によって制御されることが好ましい。
【0047】
また、受電部252には、上記のように起電力が生じるため、シート本体に設けられた電装品210aが受電部252と接続されて、受電部252から電力供給を受けることによって正常に稼働するようになっている。すなわち、シート本体に設けられた電装品210aは、車体1側に設けられた電源部2から、無線給電機構250を介して無線で電力供給を受けることができる。
【0048】
緩衝部253は、筒部262下降時において送電部251と受電部252(ひいてはロッド部261と筒部262)とが強く接すること(衝突)を緩衝するためのものであり、脚部260の内部に設けられている。本実施形態における緩衝部253は、例えば導電性ゴムを材料とした円形状のゴムダンパによって構成されているが、これに限られるものではない。
図2に示す例においては、ロッド部261における筒内部に緩衝部253が設けられている。これにより、筒部262下降時において受電部252の下端部が緩衝部253に当たり、ロッド部261と筒部262とが強く接することを和らげることができる。
【0049】
なお、本実施形態においては、緩衝部253は、ロッド部261における筒内部に設けられるものとしたが、これに限られるものではなく、例えばロッド部261の上端面に設けられてもよい。これにより、筒部262下降時においては、筒部262の上端部における下面が緩衝部253に当たることになるので、受電部252の下端部はどこにも当たらなくなる。この場合、緩衝部253は、受電部252を避けて円環状に形成される。
【0050】
筒部262(すなわち、シート本体)が車体1側に下降するタイミングは、自動車のエンジンが起動していない時はもちろんのこと、電源部2(バッテリ)の容量が十分ではない場合にも下降する。換言すれば、自動車のエンジンが起動している時や電源部2(バッテリ)の容量が十分にある場合には、筒部262を磁気浮上させることができる。
【0051】
また、本実施形態においては、自動車のエンジンが起動している時であっても、運転時には筒部262を磁気浮上させるが、非運転時(駐停車時、信号待ち等におけるブレーキ時)には大きな振動が発生しないため筒部262を車体1側に下降させている。
【0052】
さらに、シート本体に対して乗員が着座していない時は、自動車のエンジンが起動している時であっても、電源部2から送電部251への電力供給を停止し、筒部262(すなわち、シート本体)を車体1側に下降させるようにしてもよい。この場合、例えば脚部260やシートクッション211等に着座センサを取り付けておき、当該着座センサと制御装置255とを通信可能に接続して乗員の着座を検知できるようにする。
特に、運転席以外の座席におけるシート本体が乗員も着座していないのに常に磁気浮上している状態であると消費電力が多くなるため、このようにシート本体に対して乗員が着座していない時に、電源部2から送電部251への電力供給を停止できれば、消費電力を抑えることができて好ましい。
【0053】
なお、筒部262が車体1側に下降して磁気浮上していないときも、乗員の正常な着座姿勢が確保でき、振動(例えば稼働しているエンジンの振動や道路の振動)もある程度は吸収できることが望ましい。そのため、緩衝部253として、上記のゴムダンパが採用されている。
【0054】
図5は、本実施形態の乗物用シート210における磁気浮上及び無線給電の流れを説明するフローチャートである。すなわち、制御装置255による無線給電機構250の制御フローを説明している。
【0055】
まず、制御装置255は、乗物用シート210が搭載された自動車が運転時であるか非運転時であるかの判断を行う(ステップS1)。
【0056】
非運転時である場合は、ステップS2に示すように、電源部2から送電部251への電力供給をストップ(通電OFF)し、シート本体を車体1側に下降させるとともに送電部251から受電部252への無線給電もストップ(下降・給電OFF)させる。
【0057】
運転時である場合は、ステップS3に示すように、電源部2から送電部251に対して電力供給を行い(通電ON)、シート本体を磁気浮上させるとともに送電部251から受電部252への無線給電も行う(浮上・給電ON)。
【0058】
また、電源部2から送電部251に対して電力供給を行い、送電部251から受電部252への無線給電を行う場合は、上記のように磁極が周期的に反転する。そのため、運転時においてシート本体を浮上させている場合は、ステップS4に示すように、受電部252の磁極反転を監視する。
受電部252の磁極が反転したと判断された場合には、ステップS5に示すように、送電部251の磁極も反転させ、向かい合う磁極が同一となるように制御する。
一方、受電部252の磁極が反転していないと判断された場合には、ステップS6に示すように、送電部251の磁極を反転させずに維持する制御を行う。
【0059】
ステップS5及びステップS6の制御が行われた後は、送電部251と受電部252における向かい合う磁極が同一となっているので、ステップS7に示すように、電源部2から送電部251に対して電力供給が継続され(通電ON)、シート本体の磁気浮上及び送電部251から受電部252への無線給電も継続される(浮上・給電ON)。
制御装置255による無線給電機構250の制御は、以上のような流れで行われる。
【0060】
以上のような乗物用シート210は、電源部2から送電部251への電力供給が行われることで、シート本体が、複数の脚部260に沿って上方に磁気浮上する構成となっている。シート本体の磁気浮上は、乗員が着座した状態でも行われる。このとき、送電部251から受電部252への無線給電も行われるため、受電部252に接続された電装品210aや制御機器にも電力が供給され、乗物用シート210は様々な機能を発揮することができる。
【0061】
なお、本実施形態においては、自動車の車体1上にシート本体を支持する支持ベース216が、複数の脚部260を備えるものとしたが、これに限られるものではなく、
図6に示すように、一本の脚部260Aを備えるものとしてもよい。
一本の脚部260Aは、上記の複数の脚部260と同様に、ロッド部261Aと、筒部262Aと、無線給電機構(図示省略)を有し、シート本体の磁気浮上と、送電部から受電部への無線給電を可能としている。
すなわち、脚部260の本数は、一本でもよいし、複数本でもよく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0062】
本実施形態によれば、以下のような優れた効果を奏する。
すなわち、無線給電機構250における磁界式の送電部251及び磁界式の受電部252は、送電部251によって形成される磁極と受電部252によって形成される磁極が互いに反発する向きとなるように磁界を発生させるので、車体1側に配置された送電部251と、シート本体側に配置された受電部252は互いに反発しながら、送電部251から受電部252への電力供給が無線で行われることになる。これにより、シート本体を車体1から磁気浮上させて振動の絶縁が可能になって着座時における快適性の向上に貢献できるとともに、車体1側からシート本体への無線給電が可能となる。
【0063】
また、送電部251が脚部260(260A)におけるロッド部261側に設けられ、受電部252が脚部260における筒部262側に設けられているので、送電部251と受電部252とを互いに反発させることで、筒部262をロッド部261の軸方向に沿って浮上させることができる。これにより、筒部262は、ロッド部261の軸方向と直交する方向には移動しにくくなるので、筒部262の、ひいてはシート本体の水平位置を規制できる。
【0064】
また、送電部251と受電部252は、ロッド部261の軸方向に間隔を空けて、かつ、ロッド部261の軸方向においてラップして配置されているので、受電部252は、送電部251から無線で電力供給を受けやすい。
【0065】
また、円盤状に形成された送電部251の径は、円柱状に形成された受電部252の径よりも大きく設定されているので、たとえ受電部252が軸方向と直交する方向に多少移動しても、送電部251と受電部252とがロッド部261の軸方向においてラップして配置された状態を維持でき、受電部252は、より一層、送電部251から無線で電力供給を受けやすくなる。
【0066】
また、無線給電機構250は、脚部260の内部に設けられて送電部251と受電部252との衝突を緩衝する導電性の緩衝部253を更に備えるので、筒部262の下降時において送電部251と受電部252、ひいてはロッド部261と筒部262とが強く接することを緩衝でき、乗員に衝撃が伝わりにくくなって着座時における快適性の向上に貢献できる。
【0067】
また、ロッド部261と筒部262との間に、筒部262のロッド部261からの抜けを防止するための抜け防止機構(ガイド溝261a、爪部262a)が設けられているので、乗物の衝突時においてシート本体が車体1から離れてしまうことを抑制でき、安全性の向上に貢献できる。
【0068】
また、無線給電機構250と接続された制御装置255は、車体1を備えた乗物の状態に応じて電源部2から送電部251への電力供給を開始したり停止したりする制御を行うので、車体1を備えた乗物の状態に応じて必要なときにシート本体を磁気浮上させるとともにシート本体側に無線給電を行うことができる。その一方で、不要なときには電源部2から送電部251への電力供給を停止できるので、シート本体を下降させるとともにシート本体側への無線給電を停止して消費電力を抑えることができる。
【0069】
また、制御装置255は、車体1を備えた乗物の稼働時において電源部2から送電部251への電力供給を開始するとともに、乗物の非稼働時において電源部2から送電部251への電力供給を停止する制御を行うので、乗物の稼働時においてシート本体を磁気浮上させるとともにシート本体側に無線給電を行うことができ、乗物の非稼働時においてシート本体を下降させるとともにシート本体側への無線給電を停止して消費電力を抑えることができる。
【0070】
また、無線給電機構250と接続された制御装置255は、電源部2から供給される交流電流に起因する送電部251又は受電部252における磁極の反転を監視するとともに、磁極が互いに反発する向きとなるように磁極の向きを切り替える制御を行うので、たとえ送電部251又は受電部252のうち一方における磁極が反転しても、すぐに他方の磁極を反転させることができ、シート本体の磁気浮上を維持しやすい。
【0071】
また、受電部252は、シート本体に設けられた電装品210a又は制御機器と接続されて電力を供給しているので、シート本体に対して電装品210aや制御機器による機能を付与して、着座時における快適性の向上に貢献できる。
【符号の説明】
【0072】
1 車体
2 電源部
210 乗物用シート
210a 電装品
211 シートクッション
212 シートバック
216 支持ベース
250 無線給電機構
251 送電部
252 受電部
253 緩衝部
255 制御装置
260 脚部
261 ロッド部
261a ガイド溝
261b 底部
262 筒部
262a 爪部
263 高さ調整部
260A 脚部
261A ロッド部
262A 筒部
270 スライド機構