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特開2022-152807ゴルフクラブヘッド及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022152807
(43)【公開日】2022-10-12
(54)【発明の名称】ゴルフクラブヘッド及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A63B 53/04 20150101AFI20221004BHJP
   A63B 102/32 20150101ALN20221004BHJP
【FI】
A63B53/04 C
A63B102:32
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021055729
(22)【出願日】2021-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104134
【弁理士】
【氏名又は名称】住友 慎太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100156225
【弁理士】
【氏名又は名称】浦 重剛
(74)【代理人】
【識別番号】100168549
【弁理士】
【氏名又は名称】苗村 潤
(74)【代理人】
【識別番号】100200403
【弁理士】
【氏名又は名称】石原 幸信
(74)【代理人】
【識別番号】100206586
【弁理士】
【氏名又は名称】市田 哲
(72)【発明者】
【氏名】水谷 成宏
(72)【発明者】
【氏名】植田 尚良
【テーマコード(参考)】
2C002
【Fターム(参考)】
2C002AA02
2C002CH01
2C002MM04
2C002PP03
(57)【要約】
【課題】 フェースにおける撓みやすい領域の位置を調整可能なゴルフクラブヘッドを提供する。
【解決手段】 ゴルフクラブヘッド1であって、フェース2を含む。フェース2は、ボールを打撃するための打撃面2aとその反対側の裏面21aとを有する外層部21と、外層部21とは隙間を介してヘッド後方に位置する支持要素22と、外層部21と支持要素21との間の隙間30に着脱自在に固定されたインサート23とを含む。インサート23は、外層部21の裏面21aに接触している。インサート23は、曲げ剛性が互いに異なる第1領域A1及び第2領域A2を含む。
【選択図】 図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴルフクラブヘッドであって、
フェースを含み、
前記フェースは、ボールを打撃するための打撃面とその反対側の裏面とを有する外層部と、前記外層部とは隙間を介してヘッド後方に位置する支持要素と、前記外層部と前記支持要素との間の前記隙間に着脱自在に固定されたインサートとを含み、
前記インサートは、前記外層部の前記裏面に接触しており、
前記インサートは、曲げ剛性が互いに異なる第1領域及び第2領域を含む、
ゴルフクラブヘッド。
【請求項2】
前記第1領域は、前記第2領域よりも小さい曲げ剛性を有する、請求項1に記載のゴルフクラブヘッド。
【請求項3】
前記第1領域は、前記第2領域よりも小さい弾性率を有する、請求項2に記載のゴルフクラブヘッド。
【請求項4】
前記第1領域は、前記第1領域の中央部から周辺部に向かって前記弾性率が漸増する、請求項3に記載のゴルフクラブヘッド。
【請求項5】
前記第1領域は、前記第2領域よりも小さい厚さ有する、請求項2ないし4のいずれか1項に記載のゴルフクラブヘッド。
【請求項6】
前記インサートは板状である、請求項1ないし5のいずれか1項に記載のゴルフクラブヘッド。
【請求項7】
前記インサートは、前記フェースに沿った方向の移動により、前記隙間に着脱自在とされている、請求項1ないし6のいずれか1項に記載のゴルフクラブヘッド。
【請求項8】
前記支持要素は、ヘッド前後方向に貫通する複数の貫通孔を備える、請求項1ないし7のいずれか1項に記載のゴルフクラブヘッド。
【請求項9】
ゴルフクラブヘッドの製造方法であって、
インサート用の隙間を有するフェースを備えたヘッド本体を準備する第1工程と、
曲げ剛性が互いに異なる第1領域及び第2領域を含むインサートを、複数種類準備する第2工程と、
前記フェースの撓みやすい領域の位置を決定する第3工程と、
前記複数種類のインサートから、前記第3工程で決定された領域に適したインサートを選択する第4工程と、
前記第4工程で選択されたインサートを前記隙間に装着する第5工程とを含む、
ゴルフクラブヘッドの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴルフクラブヘッド及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ゴルフクラブヘッドの反発性能を高めるために、様々な技術が提案されている。例えば、下記特許文献1では、フェースパネルと、前記フェースパネルの裏面に当接可能な緩衝部材とを備えたゴルフクラブヘッドが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実用新案登録第3218509号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、一般的なゴルフクラブヘッドでは、フェースセンター付近でボールを打撃したときに、より撓みやすく(より高反発に)設計されることが多い。
【0005】
一方、プロを除く多くのゴルファにとって、常にフェースセンターでボールを打撃することは困難で、むしろ、各々のスイングのくせや体格等により、フェースセンターから外れた位置でボールを打撃することが多い。これらのゴルファにとっては、従来のゴルフクラブヘッドは、打球の飛距離を最大化することに関して、改善の余地があった。
【0006】
本発明は、以上のような実情に鑑み案出なされたもので、フェースにおける撓みやすい領域の位置を調整可能なゴルフクラブヘッドを提供することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、ゴルフクラブヘッドであって、フェースを含み、前記フェースは、ボールを打撃するための打撃面とその反対側の裏面とを有する外層部と、前記外層部とは隙間を介してヘッド後方に位置する支持要素と、前記外層部と前記支持要素との間の前記隙間に着脱自在に固定されたインサートとを含み、前記インサートは、前記外層部の前記裏面に接触しており、前記インサートは、曲げ剛性が互いに異なる第1領域及び第2領域を含む、ゴルフクラブヘッドである。
【0008】
本発明の他の態様では、前記第1領域は、前記第2領域よりも小さい曲げ剛性を有しても良い。
【0009】
本発明の他の態様では、前記第1領域は、前記第2領域よりも小さい弾性率を有しても良い。
【0010】
本発明の他の態様では、前記第1領域は、前記第1領域の中央部から周辺部に向かって前記弾性率が漸増しても良い。
【0011】
本発明の他の態様では、前記第1領域は、前記第2領域よりも小さい厚さ有しても良い。
【0012】
本発明の他の態様では、前記インサートは板状であっても良い。
【0013】
本発明の他の態様では、前記インサートは、前記フェースに沿った方向の移動により、前記隙間に着脱自在とされても良い。
【0014】
本発明の他の態様では、前記支持要素は、ヘッド前後方向に貫通する複数の貫通孔を備えても良い。
【0015】
本発明の他の態様は、ゴルフクラブヘッドの製造方法であって、インサート用の隙間を有するフェースを備えたヘッド本体を準備する第1工程と、曲げ剛性が互いに異なる第1領域及び第2領域を含むインサートを、複数種類準備する第2工程と、前記フェースの撓みやすい領域の位置を決定する第3工程と、前記複数種類のインサートから、前記第3工程で決定された領域に適したインサートを選択する第4工程と、前記第4工程で選択されたインサートを前記隙間に装着する第5工程とを含むことができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明のゴルフクラブヘッドは、上記の構成を採用したことにより、インサートの曲げ剛性の分布等を変えることで、フェースにおける撓みやすい領域の位置を任意に調整することができる。
【0017】
また、本発明のゴルフクラブヘッドの製造方法は、上記の工程を採用したことにより、フェースにおける撓みやすい領域の位置を任意に調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本実施形態のゴルフクラブヘッドの斜視図である。
図2】本実施形態のゴルフクラブヘッドの平面図である。
図3】本実施形態のゴルフクラブヘッドの底面図である。
図4図2のIV-IV線の拡大断面図である。
図5】本実施形態のゴルフクラブヘッドの分解斜視図である。
図6】(A)はインサートの一例の正面図、(B)は、そのインサートを装着したゴルフクラブヘッドの正面図である。
図7】(A)はインサートの他の例の正面図、(B)は、そのインサートを装着したゴルフクラブヘッドの正面図である。
図8】(A)はインサートの他の例の正面図、(B)は、そのインサートを装着したゴルフクラブヘッドの正面図である。
図9】(A)~(C)は、外層部を切断したゴルフクラブヘッドの正面図である。
図10】(A)はインサートの他の実施形態の正面図、(B)及び(C)は、(A)のX-X線断面図である。
図11】(A)~(D)は、他の実施形態を示すインサートの正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の一形態が図面に基づき説明される。
図面は、本発明の理解を助けるために、誇張表現や、実際の構造の寸法比とは異なる表現が含まれていることが理解されなければならない。また、複数の実施形態がある場合、明細書を通して、同一又は共通する要素については同一の符号が付されており、重複する説明が省略される。
【0020】
図1~3は、それぞれ、本実施形態のゴルフクラブヘッド(以下、単に「ヘッド」という。)1の斜視図、平面図及び底面図である。また、図4は、図2のIV-IV線の拡大断面図、図5は、本実施形態のヘッド1の分解斜視図を示す。
【0021】
[基準状態等の定義]
図1~3において、ヘッド1は基準状態に置かれている。本明細書において、ヘッド1の「基準状態」とは、ヘッド1が、当該ヘッド1に設定されたライ角及びロフト角β(ともに図示省略)で水平面HPに置かれた状態である。図2に示されるように、基準状態では、ヘッド1のシャフト軸中心線CLが、水平面HPと直角な基準垂直面VP内に配された状態で、ヘッド1がライ角及びロフト角に保持される。また、「シャフト軸中心線CL」は、ヘッド1のホーゼル部5に形成されたシャフト差込孔5aの軸中心線によって画定される。本明細書において、特に言及されていない場合、ヘッド1は、基準状態にあるものとして説明されている。
【0022】
本明細書では、ヘッド1の基準状態において、基準垂直面VPに直交する方向xがヘッド前後方向とされる。ヘッド前後方向に関して、フェース2の側が前側とされ、その反対側が後側とされる。また、基準垂直面VP及び水平面HPにともに平行な方向yは、トウ・ヒール方向とされる。さらに、水平面HPに直交する方向zが、ヘッド上下方向として定義される。
【0023】
[ヘッドの基本構造]
本実施形態のヘッド1は、例えば、ウッド型として構成されている。ウッド型のヘッド1は、例えば、ドライバー、フェアウェイウッド等と称されるヘッドを含む。本実施形態のヘッド1は、例えば、ドライバーとして構成されている。他の形態では、ヘッド1は、ハイブリッド、アイアン型又はパター型に構成されても良い。
【0024】
図1~5に示されるように、ヘッド1は、例えば、フェース2、クラウン3、ソール4及びホーゼル部5などを含む。本実施形態のヘッド1は、例えば、内部に中空部iが形成されている。
【0025】
フェース2は、ボールを打撃するための部分であって、ボールを打撃するための打撃面2aを備える。打撃面2aには、フェースラインと呼ばれるトウ・ヒール方向に延びる複数本の溝が設けられても良い(図示省略)。
【0026】
クラウン3は、ヘッド上面を形成するように、フェース2からヘッド後方に延びている。クラウン3のヒール側には、ホーゼル部5が設けられている。ホーゼル部5には、クラブシャフト(図示省略)を固定するためのシャフト差込孔5aが形成されている。
【0027】
ソール4は、ヘッド底面を形成するように、フェース2からヘッド後方に延びている。ソール4は、例えば、ヘッド底面図で見える部分である。
【0028】
ヘッド1は、例えば、主要部が金属材料で構成されている。金属材料としては、特に限定されないが、例えば、ステンレス鋼、軟鉄、チタン合金等が好適である。ヘッド1の一部(例えば、クラウン3)が、繊維強化樹脂等の非金属材料で作られても良い。本実施形態のヘッド1は、例えば、チタン合金で形成されている。
【0029】
[フェースの構造]
図4に示されるように、フェース2の少なくとも一部は、複数の要素がヘッド前後方向に積層された積層構造部を含む。より具体的には、フェース2は、外層部21と、支持要素22と、これらの間に配されたインサート23とを含む。
【0030】
外層部21は、フェース2の最も前側部分を構成しており、前述の打撃面2aと、その反対側の面である裏面21aとを有する。外層部21は、例えば、金属材料からなり、本実施形態では、一定厚さの薄板状に形成されている。他の形態では、外層部21は、厚さが変化する薄板状であっても良い。
【0031】
支持要素22は、外層部21のヘッド後方に位置している。支持要素22は、例えば、金属材料からなり、本実施形態では、薄板状に形成されている。支持要素22の上部は、クラウン3に固定され、支持要素22の下部は、ソール4に固定されている。
【0032】
支持要素22と外層部21との間には、ヘッド前後方向の隙間30が形成される。この隙間30は、ヘッド上下方向及びトウ・ヒール方向に亘って延在している。また、本実施形態の隙間30は、ヘッド外部に開口している。より具体的には、図3及び図4に示されるように、隙間30は、ソール4にスリット状の開口部32を形成するように開口している。
【0033】
インサート23は、外層部21と支持要素22との間の隙間30に着脱自在に固定される。本実施形態のインサート23は、例えば、一定の厚さを有する薄板状に形成されている。なお、インサート23や隙間30のヘッド上下方向及びトウ・ヒール方向の大きさは、必要に応じて適宜決定することができる。
【0034】
インサート23は、ソール4に設けられた開口部32から隙間30に挿入可能である。また、インサート23は、開口部32からヘッド外方に引き出されることで、隙間30から取り外すことができる。このように、本実施形態のインサート23は、ヘッド上下方向に移動させることで、隙間30に着脱自在とされている。
【0035】
図5に示されるように、本実施形態のインサート23の両側部には、ヘッド後方に突出する突起23aが設けられている。一方、支持要素22の前面には、突起23aに対応する位置に、ヘッド上下方向に延びる一対のガイド溝10が形成されている。インサート23の突起23aは、ガイド溝10に嵌まり合うように形成されている。このような形態は、インサート23の隙間30への出し入れ作業を安定させる他、隙間30に対するインサート23の位置ずれを防止できる点で望ましい。
【0036】
他の態様では、ヘッド外面に現れる隙間30の開口部32は、クラウン3に設けられても良い。この場合も、インサート23は、ヘッド上下方向の移動により、隙間30に着脱自在とされる。さらに他の形態では、開口部32がフェース2のトウ又はヒールに設けられても良い。この場合、インサート23は、ヘッド1のトウ・ヒール方向の移動によって、隙間30に着脱自在とされる。このように、インサート23は、フェース2に沿った方向の移動により、隙間30に着脱自在とされるのが望ましい。
【0037】
図4に示されるように、隙間30に配置されたインサート23は、外層部21の裏面21aに接触している。同様に、隙間30に配置されたインサート23の後面は、支持要素22に接触している。したがって、本実施形態のインサート23は、隙間30内での移動が実質的に拘束され得る。
【0038】
好ましい態様では、インサート23を隙間30に強固に固定するために、固定具8が設けられても良い。固定具8として、例えば、ヘッド1に着脱自在なネジが用いられても良い。ネジは、例えば、外層部21及びインサート23をそれぞれ貫通し、支持要素22に設けられたネジ孔9(図4及び図5に示す)に固定され得る。
【0039】
固定具8は、ネジに限定されるものではなく、インサート23を隙間30の中に固定しうるあらゆる装置を含む。したがって、固定具8は、例えば、隙間30の開口部32を塞ぐことで、インサート23を固定するようなカバー部材(図示省略)として構成されても良い。このような固定具8も、インサート23を隙間30の中に固定するのに役立つ。なお、図3及び図4に示されるように、インサート23をヘッド外方に引き出すために、例えば、開口部32の周囲に凹部34を形成し、その凹んだ空間を利用してインサート23を隙間30からヘッド外方に引き出すように構成することができる。
【0040】
図6(A)は、インサート23の一例の正面図を示す。図6(B)は、図6(A)に示されたインサート23を装着したヘッド1の正面図である。図6(A)に示されるように、インサート23は、曲げ剛性が互いに異なる第1領域A1及び第2領域A2を含む。
【0041】
本実施形態において、第1領域A1は、第2領域A2よりも小さい曲げ剛性を有する。理解しやすいように、第1領域A1は着色されており、色が濃い部分ほど小さい曲げ剛性を有することを示している。本実施形態の第1領域A1は、略円形状に形成されているが、その輪郭形状や大きさは目的に応じて適宜決定される。また、本実施形態では、インサート23の第1領域A1は、トウ・ヒール方向において、トウ側寄りに配置されている。
【0042】
インサート23は、例えば、単一の材料(同一の化学成分を有する材料)で形成されている。この例では、インサート23は、金属材料で形成されている。インサート23は、例えば、領域ごとに異なる熱処理が施されることにより、各領域が異なる弾性率を有する。曲げ剛性は、弾性率及び断面二次モーメントの積で表されるので、第1領域A1及び第2領域A2の弾性率を異ならせることにより、第1領域A1及び第2領域A2は、互いに異なる曲げ剛性を備える。
【0043】
インサート23への熱処理としては、例えば、焼きなまし、溶体化時効処理、焼入れ等が挙げられる。例えば、インサート23に、レーザービームなどを用いて局所的な焼きなましを行うことにより、被熱処理領域の弾性率を局所的に低下させ、ひいては、曲げ剛性を相対的に低下させることができる。
【0044】
上述の方法で第1領域A1を形成する場合、例えば、第1領域A1の輪郭の中央部にレーザービーム等が照射され、その熱影響は周辺部に向かって小さくなる。このため、第1領域A1の弾性率は、その輪郭の中央部から周辺部に向かって漸増する。このような態様は、第1領域A1及び第2領域A2の境界付近での弾性率の大きな変化を抑制し、ひいては、インサート23の耐久性を向上させる点で望ましい。
【0045】
他の形態では、第2領域A2を焼入れ又は溶体化時効処理等を施すことにより、弾性率を局所的に上昇させ、ひいては、曲げ剛性を相対的に高めることもできる。
【0046】
以上のように構成されたフェース2の積層構造部(外層部21、インサート23及び支持要素22)の曲げ剛性は、本質的に、外層部21、インサート23及び支持要素22の曲げ剛性の総和になる。したがって、インサート23の曲げ剛性の分布を調整することで、フェース2の任意の位置に撓みやすい領域を提供することが可能である。
【0047】
例えば、図6(B)の例では、ヘッド1の正面図において、インサート23の第1領域A1とオーバーラップするフェース2の領域F1は、第2領域A2とオーバーラップするフェース2の領域F2よりも小さい曲げ剛性を備える。したがって、このようなヘッド1は、フェース2のトウ側に撓みやすい領域F1が形成されていることから、フェース2のトウ側でボールを打撃したときに、当該打点を撓みやすくでき、ひいては、打球の飛距離を向上させることができる。
【0048】
また、予め、第1領域A1の位置及び/又は大きさが異なる複数種類のインサート23を準備しておき、ユーザー又はゴルフクラブメーカーが、その中から個々のゴルファの要求に適したインサート23を隙間30に装着することで、フェース2における撓みやすい領域の位置を任意に調整することができる。
【0049】
図7(A)は、インサート23の他の例の正面図を示す。図7(B)は、図7(A)に示されたインサート23を装着したヘッド1の正面図である。この例では、インサート23の第1領域A1は、第2領域A2よりも小さい曲げ剛性を有する。また、第1領域A1は、インサート23が隙間30に装着されたときに、フェースセンターFCを含むようなフェース中央付近に形成されている。
【0050】
したがって、図7(B)の例では、ヘッド1の正面図において、インサート23の第1領域A1とオーバーラップするフェース2の領域F1は、第2領域A2とオーバーラップするフェース2の領域F2よりも小さい曲げ剛性を備える。したがって、このようなヘッド1は、フェース2の中央付近に撓みやすい領域F1が形成されていることから、フェース2の中央付近でボールを打撃したときに、当該打点を撓みやすくでき、ひいては、打球の飛距離を向上させることができる。
【0051】
図8(A)は、インサート23の他の例の正面図を示す。図8(B)は、図8(A)に示されたインサート23を装着したヘッド1の正面図である。この例では、インサート23の第1領域A1は、第2領域A2よりも小さい曲げ剛性を有する。また、第1領域A1は、インサート23が隙間30に装着されたときに、フェースセンターFCよりもヒール側に位置するように形成されている。
【0052】
したがって、図8(B)の例では、ヘッド1の正面図において、インサート23の第1領域A1とオーバーラップするフェース2の領域F1は、第2領域A2とオーバーラップするフェース2の領域F2よりも小さい曲げ剛性を備える。したがって、このようなヘッド1は、フェース2のヒール側に撓みやすい領域F1が形成されていることから、フェース2のヒール側でボールを打撃したときに、当該打点を撓みやすくし、ひいては、打球の飛距離を向上させることができる。
【0053】
以上のように、本実施形態のヘッド1は、インサート23の曲げ剛性の分布等を変えることで、フェース2における撓みやすい領域の位置を任意に調整することができる。
【0054】
なお、ヘッド1反発性能を十分に高めるために、第2領域A2の弾性率Em2と第1領域A1の弾性率Em1と、の比(Em2/Em1)は、例えば、1.2以上、好ましくは1.25以上、より好ましくは1.3以上とされる。比(Em2/Em1)の前記下限値は、例えば、第1領域A1及び第2領域A2がともに金属材料で構成されている態様が想定され得る。他方、前記比(Em2/Em1)が大きすぎると、外層部に応力集中などが生じやすくなる。このような観点より、前記比、(Em2/Em1)は、例えば、7000以下、好ましくは6500以下、より好ましくは6000以下とされる。比(Em2/Em1)の前記上記値は、例えば、第1領域A1が樹脂材料で構成され、かつ、第2領域A2が金属材料で構成されている態様が想定され得る。
【0055】
好ましい態様では、外層部21は、予め、小さい曲げ剛性を持つように形成され、インサート23が隙間30に装着されることにより、フェース2の全体の曲げ剛性が適切に調整されることが望ましい。
【0056】
例えば、インサート23が隙間30に装着されていないヘッド1において、外層部21は、ゴルフクラブヘッドの反発性に関する規則(規制値)を超えるような高い反発性能を示すことができる。このような指標として、クラブヘッドのフェースの特性時間(CT: characteristic time、単位はμs。)が挙げられる。CTは、USGAのゴルフクラブの柔軟性を測定するための手順1.0.0(PROCEDURE FOR MEASURING THE FLEXIBILITY OF A GOLF CLUBHEAD, Rev. 1.0.0)(2008年5月1日)で測定される。
【0057】
より具体的な態様として、インサートなしでの外層部21は、CTに関して、257μsよりも大きく構成される。このような外層部21は、例えば、厚さが小さく形成されることで実現される。特に限定されるものではないが、外層部21の厚さは、例えば、2.0mm以下、より好ましくは1.7mm以下、さらに好ましくは1.5mm以下とされる。また、外層部21の厚さは、耐久性を維持する観点より、例えば、0.5mm以上とされるのが望ましい。
【0058】
一方、ヘッド1は、インサート23が装着されることで、前記規則を満たすように、反発性能を低下させることができる。例えば、ヘッド1は、インサート23が隙間30に装着されることにより、CTは257μs以下となるのが望ましい。特に限定されるものではないが、インサート23の厚さは、例えば、1.0mm以上、より好ましくは1.2mm以上、さらに好ましくは1.5mm以上とされる。一方、インサート23の厚さが過度に大きくなると、反発性が低下するおそれがある。このような観点より、インサート23の厚さは、例えば、3.2mm以下、より好ましくは3.0mm以下、さらに好ましくは2.8mm以下とされる。
【0059】
支持要素22は、例えば、ボール打撃時に、インサート23が外層部21から離れないように接触させることができれば、極力薄く構成されるのが望ましい。これにより、ヘッド1の反発性がさらに向上する。
【0060】
図9(A)~(C)は、外層部21を取り除いたヘッド1の正面図である。図9(A)~(C)に示されるように、支持要素22は、ヘッド前後方向に貫通する1ないし複数の貫通孔22oを備えることが望ましい。このような支持要素22は、フェース2をより一層撓み易くする他、ヘッド1の重量増加を抑制するのに役立つ。
【0061】
[インサートの変形例1]
上記実施形態では、インサート23は、実質的に一定の厚さで形成されているが、他の態様では、インサート23は、厚さが変化しても良い。すなわち、相対的なものとして、第1領域A1を薄く、かつ、第2領域A2を厚く形成することにより、これらの曲げ剛性(断面二次モーメント)を異ならせることができる。この場合、第1領域A1と第2領域A2とにおいて、さらに弾性率が異なっても良い。
【0062】
[インサートの変形例2]
インサート23は、金属材料に代えて、樹脂又はエラストマーで構成されても良い。これらの材料についても、例えば、単一材料から、様々な方法で、曲げ剛性が互いに異なる第1領域A1及び第2領域A2を形成することができる。一例では、材料中において、局所的に架橋密度を変えることが挙げられる。架橋密度を相対的に高い部分と低い部分とを形成することで、曲げ剛性(弾性率)の高い部分と低い部分とを形成することができる。
【0063】
例えば、インサート23が、熱硬化性樹脂の場合、加熱条件を局所的に異ならせることで、曲げ剛性が互いに異なる2つの領域を形成することが可能である。同様に、インサート23が、光硬化性樹脂の場合、光エネルギーの照射条件を局所的に異ならせることで、曲げ剛性が互いに異なる2つの領域を形成することが可能である。
【0064】
[インサートの変形例3]
図10(A)は、インサート23の他の実施形態の正面図である。図10に示されるように、インサート23は、例えば、第1材料で形成された第1領域A1と、前記第1材料とは異なる第2材料で形成された第2領域A2とで構成された複合材料で形成されても良い。この実施形態では、第1材料の弾性率は、第2材料の弾性率よりも小さい。このような複合体からなるインサート23は、例えば、第2材料でインサート基体を形成した後、貫通孔23oを形成し、この貫通孔23oに第1材料で形成されたピースを固着することにより製造することができる。
【0065】
また、図10(B)及び図10(C)は、図10(A)のX-X線断面図を示す。図10(B)に示されるように、第1領域A1と第2領域A2の境界は、インサート23の表裏で一致しても良い。他の態様では、図10(C)に示されるように、第1領域A1と第2領域A2の境界が、インサート23の表裏で異なるように形成されても良い。図10(C)では、第1領域A1は、その輪郭が、インサート23の一方の面から他方の面に向かって漸増するように形成されている。このような態様は、第1領域A1及び第2領域A2の境界部の剛性が徐々に変化することから、ボール打撃時、前記境界部での応力集中などを抑制しうる点で望ましい。
【0066】
[インサートの変形例4]
図11(A)~(D)は、他の実施形態を示すインサートの正面図である。図11(A)ないし(D)に示されるように、インサート23は、その平面方向において、異なる重量分布を備えるものでも良い。例えば、インサート23は、上部、下部、トウ側及びヒール側のいずれかが局所的に高重量部23wで形成されても良い。このようなインサートは、さらにヘッド重心の位置も調整することができる点で望ましい。
【0067】
[ヘッドの製造方法]
以上のようなヘッド1は、例えば、インサート用の隙間30を有するフェース2を備えたヘッド本体(すなわち、ヘッド1からインサート23を取り外した要素)を準備する第1工程と、曲げ剛性が互いに異なる第1領域A1及び第2領域A2を含むインサート23を、複数種類準備する第2工程と、フェース2の撓みやすい領域の位置を決定する第3工程と、複数種類のインサート23から、第3工程で決定された領域に適したインサート23を選択する第4工程と、第4工程で選択されたインサート23を隙間30に装着する第5工程とを含んで製造することができる。
【0068】
第3工程では、例えば、ゴルファによる実打テストやスイング解析等により、当該ゴルファの主たる打撃位置を参考にし、その主たる打撃位置に基づいて決定することが望ましい。
【0069】
以上、本発明の実施形態が詳細に説明されたが、本発明は、上記の具体的な開示に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範囲内において、種々変更して実施することができる。
【符号の説明】
【0070】
1 ヘッド
2 フェース
2a 打撃面
3 クラウン
4 ソール
21 外層部
21a 裏面
22 支持要素
23 インサート
30 隙間
A1 第1領域
A2 第2領域
図1
図2
図3
図4
図5
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図9
図10
図11