(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022152808
(43)【公開日】2022-10-12
(54)【発明の名称】オレフィン系共重合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08F 4/70 20060101AFI20221004BHJP
C08F 4/80 20060101ALI20221004BHJP
C08F 10/00 20060101ALI20221004BHJP
【FI】
C08F4/70
C08F4/80
C08F10/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021055730
(22)【出願日】2021-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】303061270
【氏名又は名称】日本ポリケム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】満重 佑輔
(72)【発明者】
【氏名】平間 直道
(72)【発明者】
【氏名】丹那 晃央
【テーマコード(参考)】
4J015
4J100
4J128
【Fターム(参考)】
4J015DA04
4J015DA05
4J015DA23
4J015DA37
4J100AA00P
4J100AA02P
4J100CA01
4J100DA03
4J100DA24
4J100FA08
4J100FA10
4J100FA19
4J100FA28
4J100FA29
4J100FA30
4J100GA06
4J100GC25
4J128AA01
4J128AB00
4J128AC45
4J128AC46
4J128AF02
4J128BA01A
4J128BA01B
4J128BB01A
4J128BB01B
4J128BC12A
4J128BC13A
4J128BC25A
4J128BC25B
4J128CA30A
4J128EA01
4J128EB01
4J128EB02
4J128EC01
4J128FA02
4J128GA03
4J128GA19
(57)【要約】
【課題】 オレフィン系重合用触媒として利用が可能でありポリエチレンを製造可能とするとともに、製造後の純度等の精確な評価が簡便な触媒、及びそれを用いたオレフィン系重合体の製造方法を提供する。
【解決手段】 低スピン状態の周期表8族又は9族の金属原子を有する錯体を含む触媒を重合触媒成分として用いてオレフィン系化合物を重合させる工程を含む、オレフィン系重合体の製造方法である。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
低スピン状態の周期表8族又は9族の金属原子を有する錯体を含む触媒を重合触媒成分として用いてオレフィンモノマーを重合させる工程を含む、オレフィン系重合体の製造方法。
【請求項2】
前記錯体が、リン原子を配位座に有する三座若しくは四座配位子を有することを特徴とする、請求項1に記載のオレフィン系重合体の製造方法。
【請求項3】
前記錯体が、下記一般式(1)で示されることを特徴とする、請求項1又は2に記載のオレフィン系重合体の製造方法。
【化8】
[一般式(1)中、
Mは、酸化数が+2の鉄、酸化数が+2のルテニウム、酸化数が+1のコバルト又は酸化数が+1のロジウムであり、
nは、0又は1の整数を表し、
R
1a、R
1b、R
1c及びR
1bは、それぞれ独立して、炭素数3~12の炭化水素基を表し、
R
2a及びR
2bは、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1~3の炭化水素を表し、
R
3a、R
3b、R
3c、R
3d、R
3e、R
3f、R
3g及びR
3hは、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~30の炭化水素基、炭素数1~4のアルコキシ基、ハロゲン原子で置換された炭素数1~30の炭化水素基、アルコキシ基で置換された炭素数2~30の炭化水素基、及び炭素数1~30の炭化水素基で置換されたシリル基からなる群より選択される置換基を表し、
R
4a及びR
4bは、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1~4の炭化水素基を表すか、又はR
4a及びR
4bは、互いに連結して環を形成し、
L
1及びL
2は、それぞれ独立して、中性の単座配位子、又はアニオン性の単座配位子から選択される金属の補助配位子を表し、
Xは、存在しないか、又は、-1価若しくは2価のカウンターアニオン種である。]
【請求項4】
前記Mが、酸化数が+2の鉄又は酸化数+2のルテニウムであることを特徴とする、請求項3に記載のオレフィン系重合体の製造方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載のオレフィン系重合体の製造方法であって、得られるオレフィン系重合体の重量平均分子量が100,000以上10,000,000以下であることを特徴とする、オレフィン系重合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の構造を有する錯体を含む新規な触媒組成物に関するものであり、より詳しくは、低スピン状態の遷移金属錯体を必須成分とした触媒組成物と、それによるオレフィン系共重合体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
オレフィン重合体は、樹脂材料の中でも物性や成形性などの諸性質に優れ、経済性や環境問題適合性なども高く、非常に汎用されかつ重要な産業資材である。しかし、オレフィン重合体は極性基を持たないため、他の材料との接着性や印刷適性、又はフィラーなどとの相溶性のような物性が要求される用途への適用は困難であるなど、課題も多くある。
【0003】
近年において、極性基を有するオレフィン重合体の製造法として、重合段階で極性モノマーを採用するものが注目されている。その目的で、いわゆるポストメタロセンと称される、後周期遷移金属錯体触媒の開発、及びこれによるオレフィン重合体の物性制御が行われてきている。オレフィン重合用のポストメタロセン触媒としては、例えば、ジイミノピリジン骨格を有する三座配位鉄錯体、ビスアリールイミノピリジン鉄など、常磁性鉄錯体触媒が用いられ、これら触媒によるエチレン重合結果が知られている(特許文献1~3、非特許文献1)。このほか常磁性の鉄錯体やコバルト錯体によるエチレン重合が公知である(特許文献4、5、非特許文献2、3)。また、配位子による触媒設計として、SHOP系触媒と呼ばれる10族錯体が知られている(特許文献6)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2006-501067号公報
【特許文献2】特許第4108141号公報
【特許文献3】特表2002-513823号公報
【特許文献4】特開2018-172644号公報
【特許文献5】特開2020-056021号公報
【特許文献6】特許第5292059号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Campora et al. Organometallics, 2005, 24, 4878-4881
【非特許文献2】Britovsek et al. Chem. Commun. 1998, 849.
【非特許文献3】Britovsek et al. J. Am. Chem. Soc. 1999, 121, 8728.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
金属錯体触媒を用いたエチレン重合については、上記のように報告がされているが、重合の評価においては触媒活性を適切に評価する必要があり、純度のよい触媒を用いることは、精確な触媒評価のうえで重要である。しかし、8-9族錯体触媒に関しては、特許文献1、2、3、4、5、非特許文献1、2、3では、高スピン状態の遷移金属錯体が用いられており、NMRのようなよく用いられる手法での触媒の同定、純度等の評価ができない。触媒の純度を正しく評価することは、重合触媒としての機能を正しく評価することにつながるのみならず、オレフィン重合の再現性にも関わる問題である。このように、オレフィン系重合用触媒として利用が可能でありポリエチレンを製造可能とするとともに、製造後の純度等の精確な評価が簡便な触媒の開発が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の目的は、オレフィン系重合用触媒として簡便に純度等の評価ができ、有効に機能する触媒組成物を創出することである。本発明者らは、上記の課題の解決を目指して鋭意検討した結果、特定の鉄錯体を含有する組成物が、上記の目的に適う重合用触媒の成分として機能することを見出し、本発明を創出するに至った。
【0008】
本発明の第一の態様では、低スピン状態の周期表8族又は9族の金属原子を有する錯体を含む触媒を重合触媒成分として用いてオレフィンモノマーを重合させる工程を含む、オレフィン系重合体の製造方法が提供される。
【0009】
本発明の第二の態様では、前記錯体が、リン原子を配位座に有する三座若しくは四座配位子を有することを特徴とする、前記第一の態様記載のオレフィン系重合体の製造方法が提供される。
【0010】
本発明の第三の態様では、前記錯体が、下記一般式(1)で示されることを特徴とする、前記第一又は第二の態様記載のオレフィン系重合体の製造方法が提供される。
【化1】
[一般式(1)中、
Mは、酸化数が+2の鉄、酸化数が+2のルテニウム、酸化数が+1のコバルト又は酸化数が+1のロジウムであり、
nは、0又は1の整数を表し、
R
1a、R
1b、R
1c及びR
1dは、それぞれ独立して、炭素数3~12の炭化水素基を表し、
R
2a及びR
2bは、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1~3の炭化水素を表し、
R
3a、R
3b、R
3c、R
3d、R
3e、R
3f、R
3g及びR
3hは、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~30の炭化水素基、炭素数1~4のアルコキシ基、ハロゲン原子で置換された炭素数1~30の炭化水素基、アルコキシ基で置換された炭素数2~30の炭化水素基、及び炭素数1~30の炭化水素基で置換されたシリル基からなる群より選択される置換基を表し、
R
4a及びR
4bは、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1~4の炭化水素基を表すか、あるいはR
4a及びR
4bは、互いに連結して環を形成し、
Lは、各登場においてそれぞれ独立して、中性の単座配位子、又はアニオン性の単座配位子から選択される金属の補助配位子を表し、
Xは、存在しないか、又は、-1価若しくは2価のカウンターアニオン種である。]
【0011】
本発明の第四の態様では、前記式(1)のMが、酸化数が+2の鉄又は酸化数+2のルテニウムであることを特徴とする、前記第三の態様記載のオレフィン系重合体の製造方法が提供される。
【0012】
本発明の第五の態様では、前記第一ないし四の態様に記載のオレフィン系重合体の製造方法であって、得られるオレフィン系重合体の重量平均分子量が100,000以上10,000,000以下であることを特徴とする、オレフィン系重合体の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0013】
本発明の触媒組成物により、新規なオレフィン系重合用触媒が提供される。該触媒は、NMRが測定できることから金属錯体の純度を特定することができ、高純度な金属錯体を含む触媒を重合触媒成分として用いることが可能である。本発明の金属錯体によるポリオレフィン系重合用触媒、及び、それを用いたオレフィンの重合方法は、工業的な観点から、非常に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施例1のFe(II)錯体Aの
31P-NMRチャートである。
【
図2】実施例1のFe(II)錯体Aの
1H-NMRチャートである。
【
図3】実施例2のFe(II)錯体Bの
31P-NMRチャートである。
【
図4】実施例2のFe(II)錯体Bの
1H-NMRチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下においては、本発明の重合触媒成分及びそれを用いたオレフィン系重合体の製造方法について、項目ごとに、詳細に説明する。
【0016】
<遷移金属錯体>
本発明の方法において用いられる重合触媒成分は、低スピン状態の周期表8族又は9族の金属原子を含む遷移金属錯体を重合触媒成分として含むものである。該遷移金属錯体は、8又は9族金属錯体であって、NMR測定による同定が可能なものであれば、その種類に特に制限はない。NMR測定は、感度が高く、ピークがシンプルな結果となる核種を観測するものであることが好ましい。具体的なNMR測定の方法は、1H-NMR、31P-NMRが挙げられ、ピークが明瞭に現れることや、測定環境が揃っていることが多いため、これらの核種を測定するNMRが好ましい。配位子がリン原子を含む場合においては31P-NMRであることが特に好ましい。31P-NMRではリン原子の周囲にある原子、官能基に応じてシグナルの位置が変化するが、NMR測定で観測されるピークをシンプルなものとするために、リン原子のシグナルの種類は1ないし2であってよい。また、金属原子に配位することによって特徴的なピークが観測されるため、リン原子は配位座にあって金属原子に配位結合していることが好ましい。より好ましくは、該遷移金属錯体は、少なくとも1つ以上のリン原子を配位座に有する三座若しくは四座配位子を有する。
【0017】
配位子が三座配位子である場合は、下記一般式(2)のような、時計回りにリン原子・窒素原子・リン原子を有する構造(以降、PNPという)の配位子、又は下記一般式(3)のような時計回りにリン原子、窒素原子、窒素原子を有する構造(以降、PNNという)である配位子が挙げられる。配位子が四座配位子である場合は、前記一般式(1)に示すような時計回りにリン原子・窒素原子・窒素原子・リン原子を有する構造(以降、PNNPという)の四座配位子が代表的なものとして挙げられる。このような配位子は一般的に、正八面体型の錯体構造を形成しやすく、結果として8又は9族金属錯体が常磁性・低スピン状態をとりやすいとされている。なお、一般式(2)及び(3)において、R
1a、R
1b、R
2a、R
3a、R
3b、R
3c、R
3d、R
4a、R
4b及びnは、前記一般式(1)で定義したとおりであり、R
5は前記R
1aの定義と同じである。
【化2】
【化3】
【0018】
NMR測定におけるサンプルは、溶液であることが感度の点で望ましい。したがって本発明の方法において用いられる遷移金属錯体は、有機溶媒に可溶なものであることが好ましい。特に、重ベンゼン、重トルエン、重アセトン、重アセトニトリル、重塩化メチレン、重クロロホルム、のいずれかに溶解することが好ましい。遷移金属錯体の溶解度は31P-NMR測定に必要な水準(1g/L)以上であることが好ましい。
【0019】
本発明の方法において用いられる遷移金属錯体は、低スピン状態の周期表8族又は9族の金属原子を含む。8族又は9族の遷移金属は、5つのd軌道に6又は7の電子を有しており、軌道充填の態様に応じ不対電子の数が異なってくる。「低スピン」とは、不対電子の数がゼロである状態を意味する。採用することができる金属種の例としては、+2価の鉄、ルテニウム又はオスミウム、+1価のコバルト、ロジウム又はイリジウムが挙げられる。
【0020】
本発明の方法において用いられる遷移金属錯体の具体的な例としては、下記一般式(1)で示される遷移金属錯体が挙げられる。
【化4】
[一般式(1)中、
Mは、酸化数が+2の鉄、酸化数が+2のルテニウム、酸化数が+1のコバルト又は酸化数が+1のロジウムであり、
nは、0又は1の整数を表し、
R
1a、R
1b、R
1c及びR
1dは、それぞれ独立して、炭素数3~12の炭化水素基を表し、
R
2a及びR
2bは、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1~3の炭化水素を表し、
R
3a、R
3b、R
3c、R
3d、R
3e、R
3f、R
3g及びR
3hは、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~30の炭化水素基、炭素数1~4のアルコキシ基、ハロゲン原子で置換された炭素数1~30の炭化水素基、アルコキシ基で置換された炭素数2~30の炭化水素基、及び炭素数1~30の炭化水素基で置換されたシリル基からなる群より選択される置換基を表し、
R
4a及びR
4bは、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1~4の炭化水素基を表すか、又はR
4a及びR
4bは、互いに連結して環を形成し、
Lは、各登場においてそれぞれ独立して、中性の単座配位子、又はアニオン性の単座配位子から選択される金属の補助配位子を表し、
Xは、存在しないか、又は、-1価若しくは2価のカウンターアニオン種である。]
【0021】
「炭化水素基」は、特定された数の炭素原子を有する炭素骨格からなる構造を意味し、直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基、シクロアルキニル基、アリール基、ベンジルやビフェニルなどこれらの基が2つ以上結合してなる構造が含まれる。また、本明細書において「炭化水素基」は通常1価の基を指すが、2価以上の価数を有することが特記されている場合は、当該「炭化水素基」は、上記の基又は構造中の水素原子が価数に応じて少なくとも1個、結合手で置き換わった構造であることを示す。
【0022】
炭素数1~30の炭化水素基は、好ましくは、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アリール基である。アルキル基、シクロアルキル基の例は、メチル基、エチル基、1-プロピル基、イソプロピル基、1-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、1-ペンチル基、1-ヘキシル基、1-ヘプチル基、1-オクチル基、1-ノニル基、1-デシル基、トリシクロヘキシルメチル基、1,1-ジメチル-2-フェニルエチル基、1-ジメチルプロピル基、1,1,2-トリメチルプロピル基、1,1-ジエチルプロピル基、1-フェニル-2-プロピル基、1,1-ジメチルブチル基、2-ペンチル基、3-ペンチル基、2-ヘキシル基、3-ヘキシル基、2-エチルヘキシル基、2-ヘプチル基、3-ヘプチル基、4-ヘプチル基、2-プロピルヘプチル基、2-オクチル基、3-ノニル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、メチルシクロペンチル基、シクロヘキシル基、メチルシクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロドデシル基、1-アダマンチル基、2-アダマンチル基、exo-ノルボルニル基、endo-ノルボルニル基、2-ビシクロ[2.2.2]オクチル基、ノピニル基、デカヒドロナフチル基、メンチル基、ネオメンチル基、ネオペンチル基、及び5-デシル基などである。これらの中で、好ましい置換基としては、イソプロピル基、イソブチル基、シクロヘキシル基である。
【0023】
アルケニル基としては、ビニル基、アリル基、ブテニル基、シンナミル基、スチリル基が挙げられる。
【0024】
アリール基としては、フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基、フルオレニル基が挙げられ、これらのアリール基の芳香環に置換基が存在していてもよい。存在させうる置換基の例としては、アルキル基、アリール基、融合アリール基、フェニルシクロヘキシル基、フェニルブテニル基、トリル基、キシリル基、p-エチルフェニル基などである。これらの中で、好ましいアリール基としては、フェニル基、置換フェニル基であり、置換フェニル基の置換基として、好ましい具体例は、メチル基、エチル基、フェニル基であり、更に、特に好ましくは、メチル基である。
【0025】
「ハロゲン」は、周期表第17族に属する元素を意味し、具体的にはフッ素、塩素、臭素、ヨウ素であり、好ましくは塩素、臭素である。ハロゲン原子で置換された炭素数1~30の炭化水素基は、好ましくは、前述の炭素数1~30の炭化水素基状の水素原子を、1つ以上ハロゲン原子で置換した構造が挙げられる。具体的に好ましい例として、トリフルオロメチル基又はペンタフルオロフェニル基が挙げられる。
【0026】
「アルコキシ基」は、末端に酸素原子が結合した炭化水素基のうち、芳香環に当該酸素が結合していないものを意味する。好ましくは、炭素数1~4のアルコキシ基であり、好ましい具体例は、メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基、1-プロポキシ基、1-ブトキシ基、及びt-ブトキシ基などである。これらの中で、更に好ましい置換基としては、メトキシ基、エトキシ基又はイソプロポキシ基であり、特に好ましくは、メトキシ基である。
【0027】
アルコキシ基で置換された炭素数2~30の炭化水素基は、好ましくは、前述の炭素数1~30の炭化水素基を、アルコキシ基で置換した構造が挙げられる。具体的に好ましい例として、メトキシメチル基又はメトキシエチル基等が挙げられる。
【0028】
「シリル基」は、ケイ素を末端に有する置換基を意味し、炭素数1~30の炭化水素基で置換されたシリル基は、好ましくは、炭素数3~18のシリル基であり、好ましい具体例は、トリメチルシリル基、ジメチルフェニルシリル基、ジフェニルメチルフェニルシリル基、トリフェニルシリル基である。これらの中で、更に好ましい置換基としては、トリメチルシリル基又はジメチルフェニルシリル基であり、特に好ましくは、トリメチルシリル基である。
【0029】
一般式(1)におけるMは、8又は9族の遷移金属であるが、特に、酸化数が+2の鉄、酸化数が+2のルテニウム、酸化数が+1のコバルト又は酸化数が+1のロジウムからなる群より選択される。好ましくは、酸化数が+2の鉄又は酸化数が+1のコバルトである。
【0030】
一般式(1)中の四座配位子に相当する部分において、nは、0又は1の整数を表す。nの値が0のとき、R4aが結合する炭素とR4bが結合する炭素とは、直接結合している。配位子合成の原料として種類が豊富であることから、nの値は0であることが好ましい。
【0031】
R1a、R1b、R1c及びR1dは、それぞれ独立して、炭素数3~12の炭化水素基を表す。R1a、R1b、R1c及びR1dは、各々同じであっても異なっていてもよいが、原料化合物の入手容易性の点、配位子の合成が容易となる点、金属錯体の立体的な環境を制御する点から、各々同じ基であることが好ましい。R1a~R1dの例としては、炭素数3~12のアルキル基、特にイソプロピル基、t-ブチル基;炭素数3~12のシクロアルキル基、特にシクロヘキシル基;炭素数6~12のアリール基、特にフェニル基、トルイル基、ナフチル基などが挙げられる。これらのうち、フェニル基、トルイル基、ナフチル基などのアルキルアリール基であることが好ましく、さらに2,6位に置換基を持たないアルキルアリール基であることがより好ましく、フェニル基であることが特に好ましい。R1a、R1b、R1c及びR1bは、適度な大きさを有していることが、重合体の分子量、重合活性及び合成の容易性の点からが望ましい。
【0032】
R2a及びR2bは、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1~3の炭化水素を表す。基R2a及びR2bによって、窒素原子を介して金属Mの電子的な状態を制御することができ、上記範囲で制限されることなく選択することができる。配位子合成の収率を高める点から、水素原子が選択されることが望ましい。
【0033】
R3a、R3b、R3c、R3d、R3e、R3f、R3g及びR3hは、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~30の炭化水素基、ハロゲン原子で置換された炭素数1~30の炭化水素基、炭素数1~4の炭化水素で置換されたアルコキシ基、アルコキシ基で置換された炭素数2~30の炭化水素基、及び炭素数1~30の炭化水素基で置換されたシリル基からなる群より選択される置換基を表す。配位子全体の立体的な嵩高さを抑える点で、水素原子であることが好ましい。特に、R3d及びR3eが水素原子であることが、R1a~R1dによる立体状態の制御を行いやすくすることができるため、好ましい。また、R3a及びR3eが水素原子であることが、配位子合成を行いやすくすることができるため、好ましい。R3a~R3hのいずれかが置換基として水素原子以外の基を有する場合、R3bおよびR3gに置換基を有するものが、入手の容易性の面などから好ましい。また、R3b、R3c,R3g,R3hは、錯体全体の溶解度を向上する点で、水素原子、炭素数1~4のアルコキシ基、ハロゲン原子であることが望ましい。
【0034】
R4a及びR4bは、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1~4の炭化水素基を表すか、又はR4a及びR4bは、互いに連結して環を形成してもよい。配位子の合成原料により、上記範囲で制限されることなく選択することができる。R4a及びR4bが互いに連結して環を形成する場合、その環構造は、脂環式、ヘテロ環、芳香環のいずれであってもよい。環員数は5~8であることが好ましい。合成コストの面からは、R4a及びR4bが共に水素原子であるか、又は共にメチル基であると、原料調達が有利である。
【0035】
Lは、各登場においてそれぞれ独立して、中性の単座配位子、又はアニオン性の単座配位子から選択される金属の補助配位子を表す。中性の単座配位子は、一つの例としては電気的に中性であり不対電子を中心金属Mに配位させることで配位結合を形成しうる配位子であり、不対電子を有する窒素原子、リン原子、ヒ素原子、酸素原子、硫黄原子、セレン原子などを有する分子である。また別の例として、π電子を供与することによってπ供与結合を形成するエチレンのような分子が挙げられる。Lとして用いることができる中性の単座配位子としては、アセトニトリル、イソニトリル、一酸化炭素、エチレン、テトラヒドロフランなど、金属錯体の中性配位子として公知のものが挙げられる。アニオン性の単座配位子は、一つの例としては、形式的には偶数個の電子を金属原子に供与する形態をとりうる配位子であり、ハロゲン、アルキル基、アリール基、アルコキシド、アミド、シリル基などが例として挙げられる。このうち、配位力の弱い中性の単座配位子は、高い触媒活性につながりやすく、望ましい。特に、アセトニトリル、エチレンが望ましい。
【0036】
Xは、存在しないか、又は、-1価若しくは2価のカウンターアニオン種である。Mが+2価の鉄若しくはルテニウムで、Lがともにアニオン性の単座配位子であるとき、並びに、Mが+1価のコバルト若しくはロジウムで、Lのうち一方がアニオン性の単座配位子であるとき、Xは、存在しない。Xが存在するとき、その価数及びどのようなアニオン種であるかは、金属Mを中心に構成される錯体部分の価数に応じて選択される。-1価のアニオン種としては、ハロゲン化物イオン、NO3
-、SbF6
-、PF6
-、BF4
-、B(C6F5)4
-、等が挙げられる。-2価のアニオン種としては、SO4
2-、SO3
2-、CO3
2-、FeCl4
2-等が挙げられる。中でも、金属への配位性が弱いSbF6
-、PF6
-、BF4
-、B(C6F5)4
-、等が、触媒活性の点から望ましい。
【0037】
一般式(1)で示される、四座配位子を有する遷移金属錯体の好ましい具体例として、以下の化合物が挙げられる。これらは例示であり、これらに限定されないのは自明である。
【0038】
【0039】
<金属錯体の合成>
(1)基本的な合成経路
本発明の方法に用いられる遷移金属錯体の合成は、当業者に公知の方法を用いて行うことができる。すなわち、配位子である化合物を、遷移金属を含有する錯体前駆体と反応させて、得ることができる。反応温度、反応溶媒、雰囲気、時間等の条件は、用いる配位子及び錯体前駆体に応じて、公知の条件を適宜選択することができる。水や酸素に対して不安定なものが多いことから、脱水・脱酸素雰囲気下で行うことが好ましい。配位子の合成方法も、当業者に公知の方法を用いることができる。具体例として、配位子の構造がホスフィンとイミンを含む場合は、ホスフィンを有するアルデヒドを原料としてアミン化合物と縮合する手法などが挙げられる。錯体前駆体と配位子を反応させて得られる金属錯体の合成経路は、目的化合物の構造から任意に定めることができる。
【0040】
(2)錯体前駆体
錯体前駆体は、8~9族の遷移金属化合物である。好ましい具体例は、2価の鉄若しくはルテニウム、1価若しくは3価のコバルト若しくはロジウム化合物又は錯体であり、特に、塩化鉄、塩化コバルト、塩化ルテニウムなどの金属ハロゲン化物;酢酸鉄、酢酸コバルトなどの酢酸塩;カルボニル、トリフェニルホスフィン、アセチルアセトン、η4-シクロオクタジエン、アセトニトリル、ピリジンなどの配位子を有する錯体である。
【0041】
(3)錯体前駆体との反応
本発明の方法に用いられる遷移金属錯体の調製における錯体前駆体の使用量は、配位子1molに対して、通常、0.5mol~3mol、好ましくは0.7mol~1.5molの範囲である。配位子と錯体との反応(錯体合成反応)は、α-オレフィンとの共重合に使用する反応器中で行ってもよいし、該反応器とは別の容器中で行ってもよい。錯体合成反応後に、錯体を単離抽出してから触媒に用いてもよいし、単離せずに触媒に用いてもよい。いずれの場合でも錯体の純度は、NMR測定により決定しておくことが望ましい。
【0042】
<第2成分>
さらなる一態様において、本発明のオレフィン系重合用触媒は、成分(A)として前記一般式(1)で示される遷移金属錯体または一般式(2)または(3)で示される配位子を有する遷移金属錯体に加えて、成分(B)として、成分(A)と反応してイオン対を形成する化合物又はイオン交換性層状珪酸塩を含有する組成物であってもよい。
【0043】
(1)成分(A)と反応してイオン対を形成する化合物
成分(B)の一つである、成分(A)と反応してイオン対を形成する化合物として、有機アルミニウムオキシ化合物が挙げられる。上記有機アルミニウムオキシ化合物は、分子中に、Al-O-Al結合を有し、その結合数は通常1個~100個、好ましくは1個~50個の範囲にある。このような有機アルミニウムオキシ化合物は、通常、有機アルミニウム化合物と水とを反応させて得られる生成物である。
有機アルミニウムと水との反応は、通常、不活性炭化水素(溶媒)中で行われる。不活性炭化水素としては、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの脂肪族炭化水素、脂環族炭化水素及び芳香族炭化水素が使用できるが、脂肪族炭化水素又は芳香族炭化水素を使用することが好ましい。
【0044】
有機アルミニウムオキシ化合物の調製に用いる有機アルミニウム化合物は、下記一般式で表される化合物がいずれも使用可能であるが、好ましくはトリアルキルアルミニウムが使用される。
(R1)tAl(X3)(3-t)
(上記式中、R1は、炭素数1~18、好ましくは1~12のアルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基などの炭化水素基を示し、X3は、水素原子又はハロゲン原子を示し、tは、1≦t≦3の整数を示す。)
トリアルキルアルミニウムのアルキル基は、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基などのいずれでも差し支えないが、メチル基、イソブチル基が好ましく、メチル基であることが特に好ましい。上記有機アルミニウム化合物は、2種以上混合して使用することもできる。
【0045】
水と有機アルミニウム化合物との反応比(水/Alモル比)は、0.25/1~1.2/1、特に、0.5/1~1/1であることが好ましく、反応温度は、通常-70℃~100℃、好ましくは-20℃~20℃の範囲にある。反応時間は、通常5分~24時間、好ましくは10分~5時間の範囲で選ばれる。反応に要する水として、単なる水のみならず、硫酸銅水和物、硫酸アルミニウム水和物などに含まれる結晶水や反応系中に水が生成しうる成分も利用することもできる。なお、上記した有機アルミニウムオキシ化合物のうち、アルキルアルミニウムと水とを反応させて得られるものは、通常、アルミノキサンと呼ばれ、特にメチルアルミノキサン(実質的にメチルアルミノキサン(MAO)からなるものを含む)は、有機アルミニウムオキシ化合物として、好適である。MAO溶液を溶媒留去して得られた固体状のドライメチルアルミノキサン(DMAO)もまた好適である。
もちろん、有機アルミニウムオキシ化合物として、上記した各有機アルミニウムオキシ化合物の2種以上を組み合わせて使用することもでき、また、前記有機アルミニウムオキシ化合物を前述の不活性炭化水素溶媒に溶解又は分散させた溶液としたものを用いてもよい。
【0046】
また、成分(B)の他の具体例として、ボラン化合物やボレート化合物が挙げられる。上記ボラン化合物をより具体的に表すと、トリフェニルボラン、トリ(o-トリル)ボラン、トリ(p-トリル)ボラン、トリ(m-トリル)ボラン、トリス(o-フルオロフェニル)ボラン、トリス(p-フルオロフェニル)ボラン、トリス(m-フルオロフェニル)ボラン、トリス(2,5-ジフルオロフェニル)ボラン、トリス(3,5-ジフルオロフェニル)ボラン、トリス(4-トリフルオロメチルフェニル)ボラン、トリス(3,5-ジトリフルオロメチルフェニル)ボラン、トリス(2,6-ジトリフルオロメチルフェニル)ボラン、トリス(ペンタフルオロフェニル)ボラン、トリス(パーフルオロナフチル)ボラン、トリス(パーフルオロビフェニル)ボラン、トリス(パーフルオロアントリル)ボラン、トリス(パーフルオロビナフチル)ボランなどが挙げられる。
【0047】
これらの中でも、トリス(3,5-ジトリフルオロメチルフェニル)ボラン、トリス(2,6-ジトリフルオロメチルフェニル)ボラン、トリス(ペンタフルオロフェニル)ボラン、トリス(パーフルオロナフチル)ボラン、トリス(パーフルオロビフェニル)ボラン、トリス(パーフルオロアントリル)ボラン、トリス(パーフルオロビナフチル)ボランがより好ましく、更に好ましくはトリス(2,6-ジトリフルオロメチルフェニル)ボラン、トリス(ペンタフルオロフェニル)ボラン、トリス(パーフルオロナフチル)ボラン、トリス(パーフルオロビフェニル)ボランが好ましい化合物として例示される。
【0048】
また、ボレート化合物を具体的に表すと、第1の例は、次の一般式で示される化合物である。
[L1-H]+[B(R2)(R3)(X4)(X5)]-
上記式中、L1は中性ルイス塩基であり、[L1-H]は、アンモニウム、アニリニウム、ホスフォニウムなどのブレンステッド酸を示す。
アンモニウムとしては、トリメチルアンモニウム、トリエチルアンモニウム、トリプロピルアンモニウム、トリ(t-ブチル)アンモニウム、トリ(n-ブチル)アンモニウムなどのトリアルキル置換アンモニウム、ジ(n-プロピル)アンモニウム、ジシクロヘキシルアンモニウムなどのジアルキルアンモニウムを例示できる。また、アニリニウムとしては、N,N-ジメチルアニリニウム、N,N-ジエチルアニリニウム、N,N-ジメチル-2,4,6-ペンタメチルアニリニウムなどのN,N-ジアルキルアニリニウムが例示できる。
更に、ホスフォニウムとしては、トリフェニルホスフォニウム、トリブチルホスホニウム、トリ(メチルフェニル)ホスフォニウム、トリ(ジメチルフェニル)ホスフォニウムなどのトリアリールホスフォニウム、トリアルキルホスフォニウムが挙げられる。
【0049】
また、上記一般式中、R2及びR3は、6~20、好ましくは6~16の炭素原子を含む、同じか又は異なる芳香族又は置換芳香族炭化水素基で、架橋基によって互いに連結されていてもよく、置換芳香族炭化水素基の置換基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基などに代表されるアルキル基やフッ素、塩素、臭素、ヨウ素などのハロゲンが好ましい。更に、X4及びX5は、ハイドライド基、ハライド基、1~20の炭素原子を含む炭化水素基、1個以上の水素原子がハロゲン原子によって置換された1~20の炭素原子を含む置換炭化水素基である。
【0050】
上記一般式で表される化合物の具体例としては、トリブチルアンモニウムテトラ(ペンタフルオロフェニル)ボレート、トリブチルアンモニウムテトラ(2,6-ジトリフルオロメチルフェニル)ボレート、トリブチルアンモニウムテトラ(3,5-ジトリフルオロメチルフェニル)ボレート、トリブチルアンモニウムテトラ(2,6-ジフルオロフェニル)ボレート、トリブチルアンモニウムテトラ(パーフルオロナフチル)ボレート、ジメチルアニリニウムテトラ(ペンタフルオロフェニル)ボレート、ジメチルアニリニウムテトラ(2,6-ジトリフルオロメチルフェニル)ボレート、ジメチルアニリニウムテトラ(3,5-ジトリフルオロメチルフェニル)ボレート、ジメチルアニリニウムテトラ(2,6-ジフルオロフェニル)ボレート、ジメチルアニリニウムテトラ(パーフルオロナフチル)ボレート、トリフェニルホスホニウムテトラ(ペンタフルオロフェニル)ボレート、トリフェニルホスホニウムテトラ(2,6-ジトリフルオロメチルフェニル)ボレート、トリフェニルホスホニウムテトラ(3,5-ジトリフルオロメチルフェニル)ボレート、トリフェニルホスホニウムテトラ(2,6-ジフルオロフェニル)ボレート、トリフェニルホスホニウムテトラ(パーフルオロナフチル)ボレート、トリメチルアンモニウムテトラ(2,6-ジトリフルオロメチルフェニル)ボレート、トリエチルアンモニウムテトラ(ペンタフルオロフェニル)ボレート、トリエチルアンモニウムテトラ(2,6-ジトリフルオロメチルフェニル)ボレート、トリエチルアンモニウムテトラ(パーフルオロナフチル)ボレート、トリプロピルアンモニウムテトラ(ペンタフルオロフェニル)ボレート、トリプロピルアンモニウムテトラ(2,6-ジトリフルオロメチルフェニル)ボレート、トリプロピルアンモニウムテトラ(パーフルオロナフチル)ボレート、トリプロピルアンモニウムテトラ(ペンタフルオロフェニル)ボレート、ジシクロヘキシルアンモニウムテトラフェニルボレートなどを例示することができる。
【0051】
これらの中でも、トリブチルアンモニウムテトラ(ペンタフルオロフェニル)ボレート、トリブチルアンモニウムテトラ(2,6-ジトリフルオロメチルフェニル)ボレート、トリブチルアンモニウムテトラ(3,5-ジトリフルオロメチルフェニル)ボレート、トリブチルアンモニウムテトラ(パーフルオロナフチル)ボレート、ジメチルアニリニウムテトラ(ペンタフルオロフェニル)ボレート、ジメチルアニリニウムテトラ(2,6-ジトリフルオロメチルフェニル)ボレート、ジメチルアニリニウムテトラ(3,5-ジトリフルオロメチルフェニル)ボレート、ジメチルアニリニウムテトラ(パーフルオロナフチル)ボレートが好ましい。
【0052】
また、ボレート化合物の第2の例は、次の一般式で表される。
[L2]+[B(R2)(R3)(X4)(X5)]-
一般式中、L2は、カルボカチオン、メチルカチオン、エチルカチオン、プロピルカチオン、イソプロピルカチオン、ブチルカチオン、イソブチルカチオン、t-ブチルカチオン、ペンチルカチオン、トロピニウムカチオン、ベンジルカチオン、トリチルカチオン、ナトリウムカチオン、プロトンなどが挙げられる。また、R2、R3、X4及びX5は、先に定義したとおりである。
【0053】
上記化合物の具体例としては、トリチルテトラフェニルボレート、トリチルテトラ(o-トリル)ボレート、トリチルテトラ(p-トリル)ボレート、トリチルテトラ(m-トリル)ボレート、トリチルテトラ(o-フルオロフェニル)ボレート、トリチルテトラ(p-フルオロフェニル)ボレート、トリチルテトラ(m-フルオロフェニル)ボレート、トリチルテトラ(3,5-ジフルオロフェニル)ボレート、トリチルテトラ(ペンタフルオロフェニル)ボレート、トリチルテトラ(2,6-ジトリフルオロメチルフェニル)ボレート、トリチルテトラ(3,5-ジトリフルオロメチルフェニル)ボレート、トリチルテトラ(パーフルオロナフチル)ボレート、トロピニウムテトラフェニルボレート、トロピニウムテトラ(o-トリル)ボレート、トロピニウムテトラ(p-トリル)ボレート、トロピニウムテトラ(m-トリル)ボレート、トロピニウムテトラ(o-フルオロフェニル)ボレート、トロピニウムテトラ(p-フルオロフェニル)ボレート、トロピニウムテトラ(m-フルオロフェニル)ボレート、トロピニウムテトラ(3,5-ジフルオロフェニル)ボレート、トロピニウムテトラ(ペンタフルオロフェニル)ボレート、トロピニウムテトラ(2,6-ジトリフルオロメチルフェニル)ボレート、トロピニウムテトラ(3,5-ジトリフルオロメチルフェニル)ボレート、トロピニウムテトラ(パーフルオロナフチル)ボレート、NaBPh4、NaB(o-CH3-Ph)4、NaB(p-CH3-Ph)4、NaB(m-CH3-Ph)4、NaB(o-F-Ph)4、NaB(p-F-Ph)4、NaB(m-F-Ph)4、NaB(3,5-F2-Ph)4、NaB(C6F3)4、NaB(2,6-(CF3)2-Ph)4、NaB(3,5-(CF3)2-Ph)4、NaB(C10F7)4、HBPh4・2ジエチルエーテル、HB(3,5-F2-Ph)4・2ジエチルエーテル、HB(C6F5)4・2ジエチルエーテル、HB(2,6-(CF3)2-Ph)4・2ジエチルエーテル、HB(3,5-(CF3)2-Ph)4・2ジエチルエーテル、HB(C10H7)4・2ジエチルエーテルを例示することができる。
【0054】
これらの中でも、トリチルテトラ(ペンタフルオロフェニル)ボレート、トリチルテトラ(2,6-ジトリフルオロメチルフェニル)ボレート、トリチルテトラ(3,5-ジトリフルオロメチルフェニル)ボレート、トリチルテトラ(パーフルオロナフチル)ボレート、トロピニウムテトラ(ペンタフルオロフェニル)ボレート、トロピニウムテトラ(2,6-ジトリフルオロメチルフェニル)ボレート、トロピニウムテトラ(3,5-ジトリフルオロメチルフェニル)ボレート、トロピニウムテトラ(パーフルオロナフチル)ボレート、NaB(C6F3)4、NaB(2,6-(CF3)2-Ph)4、NaB(3,5-(CF3)2-Ph)4、NaB(C10F7)4、HB(C6F5)4・2ジエチルエーテル、HB(2,6-(CF3)2-Ph)4・2ジエチルエーテル、HB(3,5-(CF3)2-Ph)4・2ジエチルエーテル、HB(C10H7)4・2ジエチルエーテルが好ましい。
【0055】
更に好ましくは、これらの中でもトリチルテトラ(ペンタフルオロフェニル)ボレート、トリチルテトラ(2,6-ジトリフルオロメチルフェニル)ボレート、トロピニウムテトラ(ペンタフルオロフェニル)ボレート、トロピニウムテトラ(2,6-ジトリフルオロメチルフェニル)ボレート、NaB(C6F3)4、NaB(2,6-(CF3)2-Ph)4、HB(C6F5)4・2ジエチルエーテル、HB(2,6-(CF3)2-Ph)4・2ジエチルエーテル、HB(3,5-(CF3)2-Ph)4・2ジエチルエーテル、HB(C10H7)4・2ジエチルエーテルが挙げられる。
【0056】
以上例示した化合物群のなかでも、成分(B)としては、アルミノキサン又はホウ素化合物であることが好ましい。
【0057】
(2)イオン交換性層状珪酸塩
更に、成分(B)の具体例として、イオン交換性層状珪酸塩(以下、単に「珪酸塩」と略記する場合がある。)が挙げられる。イオン交換性層状珪酸塩は、イオン結合などによって構成される面が互いに結合力で平行に積み重なった結晶構造を有し、且つ、含有されるイオンが交換可能である珪酸塩化合物をいう。珪酸塩は、各種公知のものが知られており、具体的には、白水晴雄著「粘土鉱物学」朝倉書店(1995年)に記載されている。
本発明において、成分(B)のイオン交換性層状珪酸塩として好ましく用いられるものは、スメクタイト族に属するもので、具体的にはモンモリロナイト、ザウコナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライト、スチーブンサイトなどを挙げることができる。中でも、共重合体部分の重合活性、分子量を高める観点からモンモリロナイトが好ましい。
【0058】
大部分の珪酸塩は、天然には主に粘土鉱物の主成分として産出されるため、イオン交換性層状珪酸塩以外の夾雑物(石英やクリストバライトなど)が含まれることが多く、本発明で用いられるスメクタイト族の珪酸塩に夾雑物が含まれていてもよい。
珪酸塩は酸処理及び/又は塩類処理を行ってもよい。該処理においては、対応する酸と塩基を混合して反応系内で塩を生成させて処理を行ってもよい。
【0059】
成分(B)として、前記の有機アルミニウムオキシ化合物と、ボラン化合物やボレート化合物、イオン交換性層状珪酸塩との混合物を用いることもできる。更に、それぞれを単独で用いてもよいし、二種以上を用いてもよい。
【0060】
<第3成分>
本発明の更なる別の一態様は、前記成分(A)及び(B)に加えて、成分(C)として、アルキルアルミニウム化合物を含有する。成分(C)として使用されるアルキルアルミニウム化合物の一例は、次の一般式で表される。
Al(R4)aX(3-a)
一般式中、R4は、炭素数1~20の炭化水素基、Xは、水素、ハロゲン、アルコキシ基又はシロキシ基を示し、aは0より大きく3以下の数を示す。
一般式で表される有機アルミニウム化合物の具体例としては、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリプロピルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウムなどのトリアルキルアルミニウム、ジエチルアルミニウムモノクロライド、ジエチルアルミニウムモノメトキシドなどのハロゲン又はアルコキシ含有アルキルアルミニウムが挙げられる。
【0061】
これらの中では、トリイソブチルアルミニウムが好ましい。また、上記の有機アルミニウム化合物を2種以上併用してもよい。また、上記のアルミニウム化合物をアルコール、フェノールなどで変性して用いてもよい。これらの変性剤としては、メタノール、エタノール、1-プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、フェノール、2,6-ジメチルフェノール、2,6-ジ-t-ブチルフェノールなどが例示され、好ましい具体例は、2,6-ジメチルフェノール、2,6-ジ-t-ブチルフェノールである。
【0062】
<触媒組成物の調製方法>
本発明の一態様でのオレフィン系重合用触媒の調製法においては、例えば、成分(A)、必要に応じて(B)、(C)を接触させる方法がとられる。接触順序など具体的な方法は特に限定されないが、次の様な方法を例示することができる。
(i)成分(A)と成分(B)とを接触させた後に、成分(C)を添加する方法
(ii)成分(A)と成分(C)とを接触させた後に、成分(B)を添加する方法
(iii)成分(B)と成分(C)とを接触させた後に、成分(A)を添加する方法
(iv)各成分(A)、(B)、(C)を同時に接触させる方法。
更に、各成分中で別種の成分を混合物として用いてもよいし、別々に順番を変えて接触させてもよい。なお、この接触は、触媒調製時だけでなく、オレフィンによる予備重合時又はオレフィンの重合時に行ってもよい。また、成分(B)と成分(C)とを接触させた後、成分(A)と成分(C)の混合物を加えるというように、成分を分割して各成分に接触させてもよい。
【0063】
上記の各成分(A)(B)(C)の接触は、窒素などの不活性ガス中において、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、トルエン、キシレンなどの不活性炭化水素溶媒中で行うことが好ましい。接触は、-20℃から溶媒の沸点の間の温度で行うことができ、特に室温から溶媒の沸点の間での温度で行うのが好ましい。
【0064】
<重合方法>
(1)モノマー
上記した8族又は9族錯体を含むオレフィン系重合用触媒は、α-オレフィンの単独重合又は二種類以上のα-オレフィンの共重合に使用可能である。α-オレフィン類には、炭素数2~30、好ましくは2~8のものが包含され、具体的には、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ヘキセン、1-オクテン、4-メチル-1-ペンテンなどが例示される。更に好ましくは、エチレン、プロピレンが挙げられる。α-オレフィン類は、2種類以上のα-オレフィンを共重合させることも可能である。共重合は、交互共重合、ランダム共重合、ブロック共重合のいずれであっても差し支えない。もちろん、α-オレフィン以外のコモノマーを少量使用することも可能であり、この場合、スチレン、4-メチルスチレン、4-ジメチルアミノスチレンなどのスチレン類、1,4-ブタジエン、1,5-ヘキサジエン、1,4-ヘキサジエン、1,7-オクタジエンなどのジエン類、ノルボルネン、シクロペンテンなどの環状化合物、ヘキセノール、ヘキセン酸、オクテン酸メチル、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、メトキシスチレン、酢酸ビニル、などの含酸素化合物類の重合性二重結合を有する化合物を挙げることができる。
【0065】
(2)重合方法
重合反応は、上記オレフィン系重合用触媒の存在下、好ましくはスラリー重合、バルク重合又は気相重合にて、行うことができる。スラリー重合の場合、実質的に酸素、水などを断った状態で、イソブタン、ヘキサン、ヘプタンなどの脂肪族炭化水素、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサンなどの脂環族炭化水素から選ばれる不活性炭化水素溶媒の存在下で、エチレンなどを重合させる。また、液状エチレンや液状プロピレンなどの液体モノマーも溶媒として使用するバルク重合も好ましい様態の一つである。
【0066】
重合条件は、温度が0℃~250℃、好ましくは20℃~110℃、更に好ましくは60℃~100℃であり、圧力が常圧~10MPa、好ましくは常圧~4MPa、更に好ましくは0.5MPa~2MPaの範囲にあり、重合時間としては5分~10時間、好ましくは5分~5時間が採用されるのが普通である。
【0067】
重合系中に、水分除去を目的とした成分、いわゆるスカベンジャーを加えても何ら支障なく実施することができる。なお、かかるスカベンジャーとしては、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、トリ-n-オクチルアルミニウムなどの有機アルミニウム化合物、前記有機アルミニウムオキシ化合物、分岐アルキルを含有する変性有機アルミニウム化合物、ジエチル亜鉛、ジブチル亜鉛などの有機亜鉛化合物、ジエチルマグネシウム、ジブチルマグネシウム、エチルブチルマグネシウムなどの有機マグネシウム化合物、エチルマグネシウムクロリド、ブチルマグネシウムクロリドなどのグリニヤ化合物が使用される。
これらのなかでは、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、エチルブチルマグネシウム、トリ-n-オクチルアルミニウムが好ましく、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウムが特に好ましい。
【0068】
本発明のオレフィン系重合用触媒は、重合条件が互いに異なる2段階以上の多段階重合方式にも、支障なく適用することができる。
【実施例0069】
以下において、本発明を実施例によって具体的に説明し、本発明の構成の合理性と有意性及び従来技術に対する卓越性を実証する。
【0070】
<評価方法>
【0071】
(1)金属錯体のNMR測定
[試料調製]
窒素置換されたグローブボックス中で、錯体試料20mg、重アセトニトリル0.7ml、任意の内部標準物質としてトリス(オルトトルイル)ホスフィン5.0mg、を内径5mmφのNMR試料管に入れ、封をしたのちに室温で10分間浸透撹拌して均一に溶解したものを、31P-NMR及び1H-NMRの測定に用いた。
[31P-NMR測定]
NMR測定は5mmφのノーマルプローブを装着したブルカージャパン(株)のAV400型NMR装置を用いた。31P-NMRの測定条件は試料の温度30℃、パルス角を45°、パルス間隔を2.76秒、積算回数を256回、で測定をした。ケミカルシフトは装置の持つ外部標準を基準に求めた。錯体の純度は、内部標準物質とのピーク面積比によって錯体のモル濃度を求め、これを試料20mg中の錯体濃度に換算して求める。ただしピークが目的錯体由来の1本のみであった場合、純度は100%であると判定した。
[1H-NMR測定]
NMR測定は5mmφのノーマルプローブを装着したブルカージャパン(株)のAV400型NMR装置を用いた。1H-NMRの測定条件は試料の温度30℃、パルス角を45°、パルス間隔を2.76秒、積算回数を16回、で測定をした。ケミカルシフトは、重アセトニトリル中のアセトニトリルピークを基準に求めた。
(2)分子量及び分子量分布(Mw、Mn、Q値)
(測定条件)使用機種:ウォーターズ社製150C 検出器:FOXBORO社製MIRAN1A・IR検出器(測定波長:3.42μm)、測定温度:140℃、溶媒:オルトジクロロベンゼン(ODCB)、カラム:昭和電工社製AD806M/S(3本)、流速:1.0mL/分、注入量:0.2mL
(試料の調製)試料はODCB(0.5mg/mLのBHT(2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール)を含む)を用いて1mg/mLの溶液を調製し、140℃で約1時間を要して溶解させた。
(分子量の算出)標準ポリスチレン法により行い、保持容量から分子量への換算は、予め作成しておいた標準ポリスチレンによる検量線を用いて行った。使用する標準ポリスチレンは何れも東ソー社製の銘柄であり、F380、F288、F128、F80、F40、F20、F10、F4、F1、A5000、A2500、A1000、である。各々が0.5mg/mLとなるようにODCB(0.5mg/mLのBHTを含む)に溶解した溶液を0.2mL注入して較正曲線を作成した。較正曲線は最小二乗法で近似して得られる三次式を用いた。分子量への換算に使用する粘度式[η]=K×Mαは以下の数値を用いた。
PS:K=1.38×10-4、α=0.7
PE:K=3.92×10-4、α=0.733
PP:K=1.03×10-4、α=0.78
【0072】
本発明における遷移金属錯体の合成経路を以下に示す。合成においては、非特許文献:Sui-Seng et al. Angew. Chem. Int. Ed. 2008, 47, 930を参照した。なお、以下の合成例で特に断りのない限り、操作は不活性ガス雰囲気下で行い、溶媒は脱水・脱酸素したものを用いた。
【0073】
(実施例1)
(1)合成例1:錯体A
【化6】
シュレンク管に(S,S)-N,N-ビス[2-(ジフェニルホスフィノ)ベンジリデン]シクロヘキサン-1,2-ジアミンを300mg(0.455mmol)量り取り、アセトニトリルを10mL加えた。ここに、アセトニトリル2mLに溶解させた塩化鉄(2)115mg(0.91mmol)を室温で加え、1時間撹拌した。その後溶媒を2mL程度残して留去し、残留物をエーテル20mLで洗浄した。洗浄後、溶媒を完全に留去してからクロロホルムを15mL加え、不溶物をガラスフィルターで除去した。回収した溶液を完全に乾固し、クロロホルム5mLとヘキサン20mLで再結晶することで211mgの固体を得た。
この錯体Aの
31P-NMR(
31P-NMR(162MHz、CD
3CN))のチャートを
図1に、
1H-NMRのチャートを
図2に示した。52.4ppmに鋭利なシングレットピークが観測できた。純度は100%であった。
【0074】
(2)重合例 エチレンの単独重合
錯体A(18mg)をトルエン10mLに溶解させ、そこにMMAO-3A/ヘキサン溶液(Al=5.9wt%)20mLを加えて、25℃で5分間撹拌し錯体溶液を調整した。内容積3Lの撹拌式オートクレーブ内にトルエン1000mLを導入し、続いてMMAO-3A/ヘキサン溶液 20mLを加えた。リアクター内をエチレンで置換して、60℃まで昇温した。エチレンで2.5MPaまで昇圧した。そこに先に調製した錯体溶液を、N2で圧入した。60分間エチレン圧2.5MPaを維持して、エタノールを圧入して重合を停止した。得られたスラリーを塩酸/エタノール中に投入し、ろ過、エタノール洗浄、乾燥を行い、0.2gのポリマーを得た。得られたポリマーの融点は135.1℃、重量平均分子量は2,477,000であった。
【0075】
(実施例2)
(1)合成例2:錯体B
【化7】
シュレンク管にN,N-ビス[o-(ジフェニルホスフィノ)ベンジリデン]エチレンジアミンを300mg(0.50mmol)量り取り、アセトニトリルを11mL加えた。ここに、アセトニトリル3mLに溶解させた塩化鉄(2)127mg(1.0mmol)を室温で加え、3時間撹拌した。その後溶媒を1mL程度残して留去し、残留物にエーテル30mLを加えて沈殿物を析出させ、ガラスフィルターを用いて沈殿物を回収した。沈殿物をクロロホルム15mLで洗浄した後、クロロホルム1.2mLとヘキサン6mLで再結晶することで114mgの固体(錯体B)を得た。
この錯体Bの
31P-NMR(
31P-NMR(162MHz、CD
3CN))のチャートを
図3に、
1H-NMRのチャートを
図4に示した。
31P-NMRからは53.5ppmに鋭利なシングレットピークが観測された。錯体以外のピークが観測されないことから、今回準備された錯体が高純度であることが確認できた。純度は100%であった。
【0076】
(2)重合例 エチレンの単独重合
使用する錯体を錯体Bに変更した点以外は、実施例1(2)重合例と同様にエチレン重合を行った。得られたポリエチレンは0.84gであった。得られたポリマーの重量平均分子量は539,000であった。
【0077】
(比較例1)
非特許文献2に記載のピリジルジイミン配位子を持つFe(II)錯体を非特許文献2に従って合成した。得られた錯体について1H-NMR測定を試みたが、磁性のため測定できず,NMR測定により錯体純度を求めることができなかった。
(比較例2)
特許文献4の中の実施例1に記載のビスオキサゾリジルフェニルアミン配位子を有するFe(III)錯体を特許文献4に従って合成した。得られた錯体について1H-NMR測定を試みたが、磁性のため測定できず,NMR測定により錯体純度を求めることができなかった。