(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022152864
(43)【公開日】2022-10-12
(54)【発明の名称】色鉛筆芯と、それを収容した替芯ケースとを具備する、替芯製品
(51)【国際特許分類】
C09D 11/16 20140101AFI20221004BHJP
B43K 19/02 20060101ALI20221004BHJP
【FI】
C09D11/16
B43K19/02 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021055795
(22)【出願日】2021-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】303022891
【氏名又は名称】株式会社パイロットコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100187159
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 英明
(72)【発明者】
【氏名】神林 宏信
【テーマコード(参考)】
4J039
【Fターム(参考)】
4J039AE01
4J039BC09
4J039BC15
4J039BC20
4J039BE01
4J039BE02
4J039CA04
4J039EA42
4J039GA30
(57)【要約】
【課題】色鉛筆芯のケースへの付着を抑制した替芯製品の提供。
【解決手段】本発明による色鉛筆芯は、色鉛筆芯と、それを収容した替芯ケースとを具備するものである。この色鉛筆芯は、
体質材と、
無機結合材と、
着色剤と、
前記着色剤を溶解可能である有機溶媒と
を含んでなる多孔性芯体、および
前記着色剤を溶解不能である難揮発性液体
を含んでなる。そして替芯ケースの内面に、難揮発性液体の溶解度パラメーターと1.5以上異なる溶解度パラメーターを有する樹脂材料が配置されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
色鉛筆芯と、それを収容した替芯ケースとを具備する、替芯製品であって、
前記色鉛筆芯が、
体質材と、
無機結合材と、
着色剤と、
前記着色剤を溶解可能である有機溶媒と
を含んでなる多孔性芯体、および
前記着色剤を溶解不能である難揮発性液体
を含んでなり、
前記替芯ケースの内面の、前記色鉛筆芯が接触し得る部分の一部に、
前記難揮発性液体の溶解度パラメーターと1.5以上異なる溶解度パラメーターを有する樹脂材料を配置したことを特徴とする替芯製品。
【請求項2】
前記樹脂材料が、前記替芯ケースの前記色鉛筆芯と接触し得る部分全体に対して、50%以上の部分に配置された、請求項1に記載の替芯製品。
【請求項3】
前記難揮発性液体が、シリコーンオイル、フッ素系オイル、鉱油、植物油、および流動パラフィンからなる群から選択されるものである、請求項1または2に記載の色鉛筆芯。
【請求項4】
前記難揮発性液体の溶解度パラメーターが、6~8である、請求項1~3のいずれか1項に記載の替芯製品。
【請求項5】
前記樹脂材料の溶解度パラメーターが、8.5~15である、請求項1~4のいずれか1項に記載の替芯製品。
【請求項6】
前記高沸点有機溶媒が、芳香族グリコールエーテル、または脂肪族グリコールエーテルである、請求項1~5のいずれか1項に記載の替芯製品。
【請求項7】
前記高沸点有機溶媒が、ポリアルキレングリコールのカルボン酸エステルまたはアルコールのカルボン酸エステルである、請求項1~5のいずれか1項に記載の替芯製品。
【請求項8】
前記色鉛筆芯の総質量を基準とした、前記高沸点有機溶媒の含有率が0.5~20質量%である、請求項1~7のいずれか1項に記載の替芯製品。
【請求項9】
前記替芯ケースが、
前記色鉛筆芯を収容する収容部と、
前記収容部に設けられた開口部を一時的に封じ、かつ変形させることで前記色鉛筆芯を取り出し可能とする蓋部と
を具備し、
前記収容部の内面の一部が前記色鉛筆芯に接触し得る部分である、請求項1~8のいずれか1項に記載の替芯製品。
【請求項10】
前記色鉛筆芯が、シャープペンシル用色鉛筆芯である、請求項1~9のいずれか1項に記載の替芯製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、替芯製品に関する。更に詳細には、発色性に優れ、書き味が滑らかな色鉛筆芯と、それを内部に収容した替芯ケースとを具備した替芯製品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、シャープペンシルなどに用いられている色鉛筆芯は、窒化ホウ素などの体質材と粘土などの結合材を主成分とし、必要に応じて有機高分子化合物などを含む混練物を押出成型した後、高温で焼成し得られた白色の多孔性基材の気孔中に染料を含むインキを含浸させたものが用いられている。このような色鉛筆芯を用いて紙に筆記を行った際に、気孔中に含浸されていたインキが紙の繊維に浸透していくことで筆跡が形成される。このような色鉛筆芯では、多様な色調を表現するために、さまざまな色材を用いて、より優れた発色性を実現することが望まれ、さらに消去性、経時安定性、または書き味などについても改良が望まれている。
【0003】
一方、色鉛筆芯は消耗品であるため、替芯製品も市販されている。替芯製品は、一般的に色鉛筆芯をケースに収容した形態をとる。ここで、ケースの材料には堅牢性があり、軽量な樹脂が用いられる。ここで、色鉛筆芯の諸性能改良のために、色鉛筆芯には各種の配合物が配合されるが、特定の配合物と、特定の樹脂との親和性が高い場合に、色鉛筆芯がケースに付着することがあり、ケースから色鉛筆芯を取り出すことが困難になることがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、筆跡の発色性に優れ、また経時安定性が高く、書き味が滑らかな色鉛筆芯を収容し、かつ色鉛筆芯が替芯ケースに付着しにくく、容易に色鉛筆芯を取り出せる替芯製品を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明による替芯製品は、色鉛筆芯と、それを収容した替芯ケースとを具備するものであって、
前記色鉛筆芯が、
体質材と、
無機結合材と、
着色剤と、
前記着色剤を溶解可能である有機溶媒と
を含んでなる多孔性芯体、および
前記着色剤を溶解不能である難揮発性液体
を含んでなり、
前記替芯ケースの内面の、前記色鉛筆芯が接触し得る部分の一部に、
前記難揮発性液体の溶解度パラメーターと1.5以上異なる溶解度パラメーターを有する樹脂材料を配置したことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明による替芯製品は、発色性に優れた筆跡を形成することができる色鉛筆芯を収容しながら、色鉛筆芯がケース内面に付着しにくく、取り出しおよび交換が容易なものである。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図2】本発明に用いることができる替芯ケースの縦断面図。
【
図3】本発明に用いることができる替芯ケースの横断面図。
【
図4】本発明に用いることができる、他の替芯ケースの縦断面図。
【
図5】本発明に用いることができる、他の替芯ケースの横断面図。
【
図6】本発明に用いることができる、さらに他の替芯ケースの縦断面図。
【
図7】本発明に用いることができる、さらに他の替芯ケースの横断面図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<替芯製品>
本発明は替芯製品に関するものである。ここで、替芯製品とは、シャープペンシルや芯ホルダーなどに用いられる。交換用または補充用の鉛筆芯の製品形態である。通常、これらの鉛筆芯は壊れやすいので、硬質なケースに収容された形態で流通される。したがって、一般的には、鉛筆芯はケースに収容された形態の製品とされる。
【0010】
本発明による替芯製品も、色鉛筆芯と、それを収容した替芯ケースとを具備する。これらについて説明すると以下の通りである。
【0011】
<色鉛筆芯>
本発明に用いられる色鉛筆芯の構成について説明すると以下の通りである。
【0012】
本発明の色鉛筆芯に用いる多孔性芯体は、主成分として体質材と無機結合材を含んでなる。体質材としては、酸化チタン、雲母、タルク、窒化ホウ素、アルミナ、炭酸カルシウムなど白色のものや、二硫化モリブデン、二硫化タングステン、黒鉛など有色のものなどが挙げられる。本発明に用いられる色鉛筆芯は、鮮やかな筆跡を形成させることが望ましい。また、着色剤として蛍光着色剤を用いることで蛍光色の筆跡を形成させる場合に、その発色を阻害しないものが好ましい。このため明度の高い筆跡を形成させるために、白色の体質材を用いることが好ましい。特に、窒化ホウ素を用いると、体質材が発色を阻害せず、また、色鉛筆芯の強度が高くなることから好ましい。
【0013】
前記無機結合材としては、カオリナイト類、ハロサイト類、モンモリロナイト類、セリサイト類、ベントナイト類などの粘土類、セラミックス類、ゼオライト、珪藻土、活性白土、シリカ、リン酸アルミニウム、シリコーン樹脂、シリコーンゴムなどが挙げられ、これらを単独、あるいは組み合わせて用いることができる。
【0014】
多孔性芯体の主成分である体質材と無機結合材との配合比は特に限定されないが、質量比で9:1~7:3であることが好ましい。
【0015】
本発明において、多孔性芯体は、典型的には多孔性基材に着色剤と高沸点有機溶媒とを組み合わせたものである。そして着色剤は、体質材や無機結合剤を主成分とする多孔性基材の一部に局在していてもよく、また多孔性基材全体に均一に分散していてもよいが、多孔性芯体中の一部に局在していることが好ましい。具体的には、多孔性基材の気孔内に着色剤が付着または吸着した状態であることが好ましい。このとき、着色剤は微粒子の状態であっても、後述する高沸点有機溶媒に溶解または分散された状態であってもよい。着色剤がこのような状態で最終的な色鉛筆芯中に存在することで、筆記の際に着色剤が紙の内部に浸透することが抑制され、発色性および消去性が改良される。ここで、着色剤は、典型的には気孔内において層または相を形成している。すなわち気孔の内側面に、均一または不均一な層を形成していたり、塊状に付着しているのが一般的である。なお、本発明において、気孔とは、鉛筆芯から有機溶媒等を除去した母体、例えば多孔性基材、における気孔を意味する。例えば多孔性芯体においては、気孔内に有機溶媒などが浸透している場合があるが、この多孔性芯体の気孔とは多孔性芯体から有機溶媒等を除去したあとの気孔を意味する。
【0016】
本発明において、多孔性芯体は体質材と無機結合材と着色剤と高沸点有機溶媒とを含んでなる。一般的に鉛筆芯は、体質材と結合剤との混合物を成形した後に焼成することで製造されるが、本発明においても同様の方法を適用することができる。すなわち、体質材と無機結合剤との混合物を焼成し、形成された多孔性基材に着色剤および高沸点有機溶媒を吸着または付着させることにより製造することができる(詳細後記)。また、体質材と無機結合材と着色剤と高沸点有機溶媒とを混合して焼成してもよいが、このような場合には耐熱性の高い着色剤または焼成温度よりも高い沸点を有する高沸点有機溶媒を用いることが好ましい。一方で、前者の方法であれば、耐熱性の低い着色剤や、焼成温度よりも低い沸点を有する高沸点有機溶媒であっても用いることができる。
【0017】
また、体質材と、無機結合材と、無機物や水溶性樹脂などと、必要に応じて着色材とを含む混合物を、高圧で圧縮し、その後、水や溶剤などに浸漬して、前記無機物や水溶性樹脂などを取り除くことで、多孔性芯体を製造することもできる。
【0018】
また、本発明に用いる多孔性芯体の気孔率は特に限定されないが、1~50%の範囲であることが好ましく、5~50%の範囲であることがより好ましく、10~40%の範囲であることがさらに好ましく、20~40%の範囲であることが特に好ましい。気孔率が1%より小さいと、気孔内に存在する着色剤および難揮発性液体の量が少なくなり、発色が劣ったり、運筆に若干の抵抗が生じる傾向があり、50%より大きいと、得られた多孔性芯体の強度が低下して折れやすくなる傾向がある。気孔率が1~50%の範囲であると、発色性も良好で、書き味が滑らかで、焼成色鉛筆芯の強度が維持できるので好ましい。
【0019】
なお、本発明に用いる多孔性基材の気孔率は、JIS R1634(1998)を参考に、以下の方法により測定することが出来る。まず、多孔性基材の乾燥質量(W1)を測定する。次に、浸透性の良い液体(例えばベンジルアルコール)中に浸漬し、多孔性基材の気孔に液体を飽和するまで吸収させた後、液中質量(W2)を測定する。さらに多孔性基材を液中から取り出し、その表面に付着した液体を除去してから、飽液質量(W3)を測定する。これらの測定値を用いて、下記に示す数式(1)により、気孔率が求められる。
【0020】
気孔率 = (W3-W1)/(W3-W2)×100 (1)
【0021】
なお、色鉛筆芯または多孔性芯体の気孔率も同様の方法で測定できる。ただし、上記の多孔性基材の気孔率についての測定方法を適用する前に、加熱または減圧することで有機溶媒等を除去する必要がある。色鉛筆芯または多孔性芯体の気孔率を測定する場合、溶媒等を除去しても気孔内に有機溶媒等が若干残留する可能性がある。このため、多孔性基材の気孔率と、色鉛筆芯または多孔性芯体の気孔率とはわずかな差が生じることがある。このような差を考慮に入れると、多孔性基材の気孔率は5~50%の範囲であることが好ましく、10~40%の範囲であることがより好ましく、20~40%の範囲であることが特に好ましい。
【0022】
着色剤としては、染料または顔料を用いることができる。また、染料などで樹脂を染着した着色顔料を用いることもできる。一般的に染料は耐熱性が低いこともあるが、溶液としたときに多孔性基材に容易に浸透するので、鉛筆芯の製造が容易となる。
【0023】
本発明に用いることができる染料は特に限定されず、一般染料や蛍光染料が挙げられる。
【0024】
一般染料の例としては、油溶性染料、酸性染料、塩基性染料、含金染料などが挙げられる。またそれら染料の造塩染料等して、酸性染料と塩基性染料との造塩染料、塩基性染料と有機酸との造塩染料、酸性染料と有機アミンとの造塩染料などが挙げられる。より具体的には、バリファーストブラック1802、バリファーストブラック1805、バリファーストブラック1807、バリファーストバイオレット1701、バリファーストバイオレット1704、バリファーストバイオレット1705、バリファーストブルー1601、バリファーストブルー1605、バリファーストブルー1613、バリファーストブルー1621、バリファーストブルー1631、バリファーストレッド1320、バリファーストレッド1355、バリファーストレッド1360、バリファーストイエロー1101、バリファーストイエロー1151、ニグロシンベースEXBP、ニグロシンベースEX、BASE OF BASIC DYES ROB-B、BASE OF BASIC DYES RO6G-B、BASE OF BASIC DYES VPB-B、BASE OF BASIC DYES VB-B、BASE OF BASIC DYES MVB-3(オリエント化学工業株式会社)、アイゼンスピロンブラック GMH-スペシャル、アイゼンスピロンバイオレット CRH、アイゼンスピロンブルー GNH、アイゼンスピロンブルー 2BNH、アイゼンスピロンブルー C-RH、アイゼンスピロンレッド C-GH、アイゼンスピロンレッド C-PH、アイゼンスピロンレッド C-BH、アイゼンスピロンイエロー C-GNH、アイゼンスピロンイエロー C-2GH、S.P.T.ブルー111、S.P.T.ブルーGLSH-スペシャル、S.P.T.レッド533、S.P.T.オレンジ6、S.B.N.バイオレット510、S.B.N.イエロー530、S.R.C-BH(保土谷化学工業株式会社)等が挙げられる。
【0025】
蛍光染料の例としては、ベーシックイエロー1、同40、ベーシックレッド 1、同1:1、同13、ベーシックバイオレット1、同7、同10、同11:1、ベーシックオレンジ22、ベーシックブルー7、ベーシックグリーン1、アシッドイエロー3、同7、アシッドレッド52、同77、同87、同92、アシッドブルー9、ディスパースイエロー121、同82、同83、ディスパースオレンジ11、ディスパースレッド58、ディスパースブルー7、ダイレクトイエロー85、ダイレクトオレンジ8、ダイレクトレッド9、ダイレクトブルー22、ダイレクトグリーン6、ソルベントイエロー44、ソルベントレッド49、ソルベントブルー5、ソルベントグリーン7などが挙げられる。
【0026】
これらの染料は、色鉛筆芯の性能に影響を及ぼさない範囲で、筆跡の色を調整するなどのために、単独でまたは2種以上組み合わせて用いてもよい。さらに、これらの染料に、その他の染料を併用してもよい。
【0027】
また、着色剤としては、任意の顔料を用いることもできる。また、超微細化顔料や加工顔料等を用いることもできる。
【0028】
また、染料などで樹脂を染着した着色顔料を用いることもできる。このような着色顔料は、発色性の向上を実現できるので好ましい。
【0029】
着色顔料を構成する樹脂としては、アクリル樹脂、スチレン-アクリロニトリル樹脂、スチレン樹脂、含窒素樹脂、ポリエチレン樹脂、またはポリプロピレン樹脂、など任意の樹脂を用いることができる。これらの樹脂に組み合わせる染料は、上記したものから選択することができる。
【0030】
高沸点有機溶媒に対する溶解性や、分散性および分散安定性、および、染料などによる染着性などを考慮すれば、これらの樹脂のうち、含窒素樹脂、またはスチレン-アクリロニトリル樹脂を用いることが好ましく、含窒素樹脂がより好ましい。含窒素樹脂のうち、メラミン樹脂、ポリアミド樹脂、ウレタン樹脂、尿素樹脂、またはベンゾクアナミン樹脂などが好ましい。さらに、これらのうち、高沸点有機溶媒への溶解安定性の観点から、メラミン樹脂、またはポリアミド樹脂が好ましく、メラミン樹脂がより好ましい。
【0031】
着色顔料の例としては、NKS-1000シリーズ、MPI-500シリーズ(日本蛍光化学株式会社製)、FNPシリーズ、FMシリーズ(シンロイヒ株式会社製)などが挙げられる。
【0032】
これらの着色顔料は、本発明の効果を損なわない範囲で、例えば筆跡の色を調整する目的のために、2種以上組み合わせて用いてもよい。さらに、これらの着色顔料に、染料を併用してもよい。
【0033】
また、本発明においては、蛍光色の着色剤を用いることも好ましい。このような着色剤を用いることで、蛍光性を有する筆跡を得ることができ、より発色性に富んだ筆跡が得られる。これにより、単に文字を残すだけでなく、描く、印をつけるというような場面においても、利用しやすい。
【0034】
色鉛筆芯の総質量に対する着色剤の含有量は、その種類によって適切な量が変わるが、0.1~30質量%であることが好ましく、0.2~25質量%であることがより好ましく、1~20質量%であることがさらに好ましい。
【0035】
多孔性基材に着色剤を組み合わせて多孔性芯体を形成させる場合、体質材と無機結合材を含む多孔性基材に着色剤を溶媒に溶解させた着色剤溶液を含浸させ、その後、必要に応じて溶媒の一部を除去することで容易に製造できる(詳細後述)。このため、製造に用いられる溶媒は、用いる着色剤を溶解可能であることが好ましい。
【0036】
本発明に用いられる色鉛筆芯は、その色鉛筆芯に含まれる着色剤を溶解可能である有機溶媒を含んでなる。本発明に用いられる色鉛筆芯は、この有機溶媒を含むことによって、発色性や書き味などの性能に優れるものである。ここでこの色鉛筆芯は、後述するように、一般的に有機溶媒を含浸させた後、加熱処理をするため、その加熱に際して有機溶媒が蒸発除去されないように、沸点が高いものであることが好ましい。製造過程の加熱条件に応じて、有機溶媒を選択するので、その沸点は特に限定されないが、有機溶媒の沸点が180℃以上であることが好ましく、200℃以上であることがより好ましく、250℃以上であることが特に好ましい。本発明においては、この溶媒を便宜的に高沸点有機溶媒という。
【0037】
ここで、高沸点有機溶媒が着色剤を溶解可能であるとは、その高沸点有機溶媒に対する着色剤の溶解度が20℃において、10g/100g以上であること、すなわち、20℃の高沸点有機溶媒100gに対して、着色剤が10g以上溶解することを意味する。着色剤の溶解度が高いほど、色鉛筆芯の保存安定性が高くなる傾向にあり、溶解度は、30g/100g以上であることがより好ましく、40g/100g以上であることがさらに好ましい。
【0038】
このような溶媒は用いる着色剤の溶解性やその他の性能等を勘案して任意に選択することができるが、芳香族グリコールエーテル、または脂肪族グリコールエーテルであることが好ましい。グリコールエーテルはエーテル基と水酸基の両方を構造中に含み、一般に染料や樹脂などの溶解性が高く、またその他の有機溶媒などにも親和性が高いという特徴を有している。
【0039】
このような高沸点有機溶媒の具体例としては
ジエチレングリコールモノフェニルエーテル(フェニルジグリコール、298℃)、
ジエチレングリコールモノベンジルエーテル、(302℃)、
ジエチレングリコールモノブチルエーテル(231℃)、
トリエチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルトリグリコール、271℃)、
エチレングリコールモノベンジルエーテル(256℃)
トリエチレングリコールモノメチルエーテル(249℃)、
フェニルセルソルブ(245℃)、
プロピレングリコールモノフェニルエーテル(243℃)
などが挙げられる。なお、括弧内の数値は沸点を示す(以下同様)。
【0040】
また、高沸点有機溶媒として、ポリアルキレングリコールのカルボン酸エステルまたはアルコールのカルボン酸エステルを用いることができる。
【0041】
さらに、高級脂肪酸や高級アルコールも用いることができる。具体的には、炭素数10以上のカルボン酸、例えばデカン酸(259℃)、オレイン酸(360℃)など、および炭素数12以上のアルコール、例えばドデシルアルコール(259℃)、ミリスチルアルコール(292℃)、ベンジルアルコール(205℃)、および3-メトキシ-3メチル-1-ブタノール(174℃)が挙げられる。なお、高級脂肪酸は色鉛筆芯がシャープペンシルに用いられて金属部品と接触する場合に腐食を起こす可能性もあるので注意が必要である。
【0042】
なお、有機溶媒のうちには常温常圧下で液体であっても、常圧条件下で加熱すると昇華したり、化学反応によって変性するなどして正確な沸点が測定できないものがある。そのような有機溶媒でも、高沸点有機溶媒として採用することができる場合がある。そのような場合、例えば、常圧下で180℃で保持したとき、30分後の重量減少率が10質量%以下であれば、その高沸点有機溶媒の沸点180℃以上とすることができる。
【0043】
本発明に用いられる色鉛筆芯に含まれる高沸点有機溶媒の含有率は、目的に応じて適切に調整されるが、色鉛筆芯の総質量を基準とした、高沸点有機溶媒の含有率が0.5~20質量%であることが好ましく、1~15質量%であることがより好ましい。高沸点有機溶媒の含有率は任意の方法で測定することができる。例えば熱重量測定などの方法によって、色鉛筆芯に高沸点有機溶媒が含まれることを確認することができる。
【0044】
なお、本発明に用いられる色鉛筆芯は、高沸点有機溶媒とは別の有機溶媒(以下、低沸点有機溶媒ということがある)を含むことができる。ここでいう有機溶媒は、後述する難揮発性液体とも異なるものである。具体的には、沸点が180℃未満であり、着色剤を溶解可能な有機溶媒である。
【0045】
低沸点有機溶媒のうち、比較的沸点の高いもの、例えば沸点が150℃以上180℃未満のものは、一般的に、高沸点有機溶媒で得られる書き味改良などの効果を補うことが期待できる。また、比較的沸点の低いもの、例えば沸点が150℃未満のものは、一般的に、製造過程において、多孔性基材に着色剤を含浸させるときに着色剤溶液の粘度を下げるのに有効である。ただし、このような比較的沸点の低いものは、大部分またはすべてが製造過程で除去されるので色鉛筆芯にはほとんど含まれないことが多い。
【0046】
このような、低沸点有機溶媒の例としては、
キシレン(139℃)、
トルエン(111℃)、
イソプロピルアルコール(82℃)、
メチルエチルケトン(79℃)、
エチルアルコール(78℃)、
エチルアセテート(77℃)、
アセトン(56℃)
などが挙げられる。
【0047】
本発明に用いられる色鉛筆芯は、上記の多孔性芯体の気孔中に難揮発性液体が充填されている。この難揮発性液体により、筆記時の書き味がさらに改良される。
【0048】
本発明において、難揮発性液体は、着色剤を溶解不能であり、常温において揮発しにくい液体をいう。ここで、溶解不能とは、着色剤の溶解度がゼロであることを意味するのではなく、実質的に溶解できないことを意味する。ここで着色剤の単揮発性液体に対する溶解度は、上記した高沸点有機溶媒に対する溶解度よりも低いことがこのましく、より具体的には20℃における着色剤の難揮発性液体に対する溶解度が、10g/100g未満であることが好ましく、5g/100g以下であることがより好ましい。
【0049】
そして、本発明において難揮発性液体は、特徴的は溶解度パラメーター(以下、SP値ということがある)を有する。この難揮発性液体のSP値は、後述する替芯ケースに用いられる樹脂材料のSP値と特定の関係を満たすものである。この関係については後述するが、一般的に難揮発性液体のSP値は6~8であることが好ましい。ここで、SP値には、Fedors溶解度パラメーター、Hildebrand溶解度パラメーター、Hansen溶解度パラメーターなどが知られているが、本発明においてはFedors溶解度パラメーターを溶解度パラメーターとする。
【0050】
なお、難揮発性液体の沸点は特に限定されないが、250℃以下では揮発しない液体であることが好ましい。
【0051】
このような難揮発性液体を用いることによって、色鉛筆芯の経時安定性を高いレベルで維持し、筆記時の書き味が改良される。また、交換用の替芯製品において、その芯が有機溶媒を含むと、替芯製品のケース内で替芯とケースとが付着する可能性があるが、色鉛筆芯が難揮発性液体を含むことで、そのような付着を改善することが可能となる。
【0052】
また難揮発性液体は、多孔性芯体の気孔への含浸を容易にするために、粘度が低いことが好ましい。
【0053】
また、難揮発性液体の表面張力は、多孔性芯体の気孔への含浸性に優れ、難揮発性液体が多孔性芯体の全体に均等にムラ無く含浸されて書き味や消去性に優れた色鉛筆芯が得られることから、35mN/m以下であることが好ましく、30mN/m以下であることがより好ましく、25mN/m以下であることがさらに好ましい。ここで表面張力は、温度25℃の条件下で、JIS K2241に規定された方法で測定することができる。
【0054】
好ましい難揮発性液体の具体例として、シリコーンオイル、フッ素系オイル、鉱油、植物油、および流動パラフィンからなる群から選択されるものが挙げられ、このうちシリコーンオイルであることがより好ましい。シリコーンオイルは、温度による粘度変化が小さく、安定性に優れることから、難揮発性液体としてシリコーンオイルを用いることにより、環境の変化や経時の影響を受けにくい色鉛筆芯となり、また、色鉛筆芯をシャープペンシルに使用した場合には、金属材料からなるシャープペンシルの先端開口部やチャック、芯収容筒などの部品を腐食することが少ない。また、シリコーンオイルは、色鉛筆芯のケースへの付着を抑制する効果が大きいため、好ましい。また、シリコーンオイルは、色鉛筆芯に優れた書き味と発色性を付与することができることからも、好ましい。
シリコーンオイルとしては、特にジメチルシリコーン、メチルフェニルシリコーンが好ましく、変性シリコーンも好ましいものとして挙げることができる。また、上記した着色剤を溶解しにくいものであることが好ましい。着色剤を溶解しにくいことにより、形成された筆跡において、着色剤が難揮発性液体とともに紙の内部に浸透することが抑制され、消去性を改良することができる。また、流動パラフィンとしては、炭素数が14以上のものが好ましい。そのほか、難揮発性液体として、αオレフィンを用いることもできる。
【0055】
色鉛筆芯の総質量に対する難揮発性液体の含有量は、5~40質量%であることが好ましく、8~45質量%であることがより好ましく、10~35質量%であることがより好ましい。
【0056】
本発明に用いられる色鉛筆芯は、その性能に影響を及ぼさない範囲で各種添加剤を含んでいてもよい。具体的な添加剤としては、界面活性剤、防腐剤、防黴剤、樹脂等が挙げられる。
【0057】
本発明に用いられる色鉛筆芯の形状は特に限定されないが、一般に断面が円形である線状体とされる。その大きさは、例えばシャープペンシル用色鉛筆芯としては、断面直径が0.2~2.0mmであることが好ましく、0.3~0.7mmであることが好ましい。また、長さは30~100mmであることが好ましく、40~70mmであることがより好ましい。また、断面直径が比較的大きい色鉛筆芯を、芯ホルダーに保持させて筆記に用いることもできる。このような形態の筆記具においては、色鉛筆芯の断面直径が0.5~6.0mmであることが好ましく、0.8~4.0mmであることがより好ましく、0.8~3.0mmであることがさらに好ましい。。このような芯ホルダーに用いられる色鉛筆芯は、長さについては限定されないが、一般に8~200mmである。
【0058】
本発明に用いられる色鉛筆芯は、焼成により製造された多孔性基材を用いると、高い物理的強度を実現できる。これは、着色剤が、気孔の内側面に、均一または不均一な層を形成していたり、塊状に付着しているためと考えられる。本発明に用いられる色鉛筆芯の曲げ強度は、120MPa以上であることが好ましく。180MPa以上であることがより好ましい。ここで曲げ強度は、JIS S 6005:2007に規定された方法で測定することができる。
【0059】
なお、本発明に用いられる色鉛筆芯は酸性成分を含まない構成とすることが可能である。色鉛筆芯はシャープペンシル等に利用されることが多いので、金属材料と接触することが多い。このため酸性成分を含まない構成とすることで、シャープペンシルの金属部分の腐食を抑制することができる。したがって、本発明に用いられる色鉛筆芯は酸性材料を含まないことが好ましい。
【0060】
<色鉛筆芯の製造方法>
本発明に用いられる色鉛筆芯の製造方法は特に限定されない。しかしながら、
(a)体質材と無機結合材を混練して混合物を調製する混練工程、
(b)前記混合物を押出成形して線状成形物を作成する押出工程、
(c)前記線状成形物を焼成して、多孔性基材を作成する焼成工程、
(d)着色剤と高沸点有機溶媒を含む着色剤溶液を前記多孔性基材に接触させて含浸させる含浸工程、
(e)含浸工程後の前記多孔性基材を、例えば高沸点有機溶媒の沸点より低い温度で加熱して、多孔性芯体を形成させる乾燥工程、
(f)前記多孔性芯体に、前記着色剤を溶解不能である難揮発性液体を接触させて、前記多孔性芯体の空隙に前記難揮発性液体を充填する充填工程
を含んでなる方法により製造することが好ましい。以下にこの方法について説明する。
【0061】
(a)混練工程
まず、体質材と無機結合材を混練して混合物を調製する。この混合物は多孔性機材の主成分となるものである。混合に際しては、必要に応じて有機溶媒、可塑剤などを添加することができる。ここで用いられる有機溶媒は、原料混合物に流動性を持たせ、混合物を均一にするためのものであり、焼成工程においてほぼ完全に除去されるものであり、上記した高沸点有機溶媒、低沸点有機溶媒、および難揮発性液体とは独立したものである。
【0062】
(b)押出工程
引き続き、形成された混合物を押出成形して線状成形物を作成する。本発明に用いられる色鉛筆芯は、一般に断面形状が円形である線状体に成形することが好ましいので、押し出し成形によって線状成形物とされる。
【0063】
(c)焼成工程
得られた線状成形物を必要に応じて乾燥した後、焼成して、多孔性基材を作成する。焼成によって、上記の混合物に含まれる有機溶媒が除去され、体質材と無機結合材とが焼結して多孔性基材が形成される。焼成条件は、材料が焼結して多孔性基材が形成される条件であれば特に限定されないが、例えば最高温度は650~1000℃とすることができる。また、急激な温度変化を避けるために、焼成時の温度を連続的または段階的に上昇させることもできる。このような場合の昇温速度は例えば10~100℃/hrとすることができる。また、設定された温度まで上昇させた後に、一定温度で一定時間、例えば0.5~2時間程度、焼成することも好ましい。さらに、目的に応じてこれらの各条件を任意に組み合わせることができる。例えば酸素雰囲気中で、常温から650℃までを10℃/hrで昇温し、その後650℃を1時間保って焼成する条件や、常温から1000℃までを100℃/hrで昇温し、その後1000℃を1時間保って焼成する条件などが採用できる。
【0064】
(d)含浸工程
形成された多孔性基材を必要に応じて冷却した後、着色剤と高沸点有機溶媒とを含む溶液に多孔性基材を接触させる。この工程において、多孔性基材中に存在する気孔に着色剤溶液が浸透する。含浸する方法としては、常圧含浸または減圧、加圧含浸法を用いることができる。
【0065】
上記着色剤溶液の着色剤含有率は特に限定されないが、溶液の総質量を基準として、着色剤の濃度が5~50質量%であることが好ましく、5~45質量%であることがより好ましく、10~40質量%であることが特に好ましい。この範囲より少ないと、着色剤の含有量が少なくなり、発色性が劣る傾向があり、この範囲より多いと、着色剤の添加量に応じた発色性の向上が見られない傾向にあり、また着色剤が経時的に析出するなど、溶液の経時安定性が低くなる恐れがある。なお、着色剤の溶解性や安定性を改善するために、溶液中に界面活性剤を添加することもできる。
【0066】
また、着色剤溶液の溶媒として、高沸点有機溶媒に低沸点有機溶媒を組み合わせた混合溶媒を用いると、着色剤溶液の粘度が低くなって含浸が容易になり、また引き続き行われる乾燥工程において、気孔内の空隙が形成させやすくなる。この場合、難揮発性有機溶媒を芯の気孔内にも含浸させやすくなり、難揮発性有機溶媒を含浸させることで得られる効果を十分に得ることが可能となる。このような低沸点有機溶媒としては、100℃以下で蒸発する溶媒が好ましく、より好ましくは90℃以下であり、さらに好ましくは、80℃以下で蒸発する溶媒が好ましい。より好ましくは炭素数1~4の脂肪族アルコールが好ましい。高沸点有機溶媒と低沸点有機溶媒との配合比は、その沸点の差や着色剤の溶解度によって調製することができるが、例えば高沸点有機溶媒の質量と、低沸点有機溶媒の質量との比が、1:1~1:15であることが好ましく、1:1~1:12であることがより好ましく、1:1.5~1:10であることがさらに好ましく、1:1.5~1:7であることが特に好ましい。
【0067】
(e)乾燥工程
引き続き、含浸工程後の多孔性基材を加熱して、気孔内に含浸している溶液に含まれる溶媒の一部を除去する。この結果、気孔内に着色剤と高沸点有機溶媒が残留し、吸着または付着する。そして、加熱によって溶媒の一部が除去されたり、多孔性基材への溶媒の含浸が進行して気孔内に空隙が形成され、多孔性芯体が形成される。乾燥は、高沸点有機溶媒の沸点よりも低い温度で行われるが、着色剤溶液に比較的沸点が低い溶媒が含まれる場合にはより低い温度、例えば200℃以下で行うことができ、100℃以下で行うことが好ましい。低い温度で乾燥処理ができればエネルギーコストを低減することができるので好ましい。
【0068】
(f)充填工程
必要に応じて形成された多孔性芯体を冷却した後、難揮発性液体を接触させる。この工程によって、多孔性芯体に形成された空隙に難揮発性液体が充填される。このときの条件は特に限定されないが、例えば60℃の温度で6時間~12時間の条件が採用できる。難揮発性液体の充填には常圧含浸または減圧、加圧含浸法を用いることができる。
【0069】
必要に応じて、さらに洗浄などを行い、色鉛筆芯を得ることができる。
【0070】
<替芯ケースおよび替芯製品>
本発明による替芯製品は、前記した色鉛筆芯を、替芯ケースに収容したものである。そして、その替芯ケースの内面の、鉛筆芯が接触し得る部分の一部に前記難揮発性液体の溶解度パラメーターと1.5以上異なる溶解度パラメーターを有する樹脂材料を配置されていることを特徴としている。替芯ケースは、色鉛筆芯を保護するために、比較的硬度の高い材料で構成されるが、製造容易性やコストの観点から樹脂で形成されることが一般的である。しかし、この樹脂として適切なものを選択しないと、色鉛筆芯と樹脂材料とが付着してしまうことがある。
【0071】
本発明者らの検討によれば、色鉛筆芯に含まれる難揮発性液体のSP値と、替芯ケースを構成する樹脂のSP値との差が十分に大きい場合に、このような付着が抑制されることがわかった。このような付着は、当然ながら替芯ケースの色鉛筆芯と接触する部分で起こるため、替芯ケースの当該部分に配置されている樹脂のSP値が、難揮発性液体のSP値と十分に異なっていればよい。具体的には、難揮発性液体のSP値と、色鉛筆芯が接触する部分に配置されている樹脂材料のSP値との差が1.5以上であることが必要であり、2.0以上異なることが好ましく、3.0以上異なることがより好ましく、5.0以上異なることがさらに好ましい。
【0072】
難揮発性液体のSP値と、樹脂材料のSP値とは、差が1.5以上あることが必要であるが、どちらが大きくてもよい。また、これらの相対的な差が満たされるのであれば、難揮発性液体のSP値と、樹脂材料のSP値とは特に限定されない。例えば、難揮発性液体としてSP値が7.2のシリコーンオイルを用いた場合、樹脂材料のSP値は、5.7以下、または8.7以上であることが必要である。このような条件を満たす樹脂材料の例としては、ポリスチレン(8.6~9.7)、酢酸ビニル樹脂(9.4)、塩化ビニル(9.5~9.7)、ポリカーボネート(9.7)、ポリアセタール(11.1)、アクリロニトリルスチレン樹脂(12.8)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合合成樹脂(12.1~15.0)などが挙げられる。一般的に、樹脂材料のSP値は難揮発性液体のSP値よりも高い傾向にある。樹脂材料のSP値は8.5~15であることが好ましい。
【0073】
また、本発明による替芯製品は、収容された鉛筆芯の残量が外部から視認できることが好ましい。このため、ケースは透明性を有した樹脂材料を用いることが好ましい。よって、堅牢性が高く、成形性に優れ、かつ透明性を有する樹脂を用いることが好ましく、特には、ポリカーボネート(9.7)やアクリロニトリルスチレン樹脂(12.8)を用いることが好ましい。
【0074】
本発明において、替芯ケースの形状は特に限定されず、従来知られている任意の形状を採用することができる。例えば、色鉛筆芯を収容する収容部と、収容部に設けられた開口部を一時的に封じ、かつ変形させることで前記色鉛筆芯を取り出し可能とする蓋部と、を具備する替芯ケースを採用できる。ここで、蓋部は、一般的に蓋部と呼ばれる任意の物を採用することができる。具体的には、搬送時や保存時においては収容部に設けられた開口部を一時的に封じて色鉛筆芯を替芯ケース内に保持し、必要な場合に、離脱、移動、または回転などの変形をして、収容部の開口部から色鉛筆芯を取りだし可能とすることができるものである。
【0075】
最も単純な形状として、
図1に示すような。一端が封じられた円筒状の収容部101と、その収容部の一端に形成されている開口部に嵌合される蓋部102とから構成される替芯ケースが例示できる。この替芯ケースに収容された色鉛筆芯103は、蓋部102を収容部101取り外すことで、収容部から取り出すことが可能となる。
ここで、本発明による替芯製品において、替芯ケースの色鉛筆芯と接触し得る部分の一部に特定の樹脂材料が配置されている。
図1に示された替芯ケースにおいては、収容部の内側面と、嵌合された後の蓋部の底面102aによって画成される空間の内側面すべてが、替芯ケースの色鉛筆芯と接触し得る部分となる。そして、本発明においては、替芯ケースの色鉛筆芯と接触し得る部分の一部に特定の樹脂材料が配置される。
【0076】
ここで、特定の部分に樹脂材料が配置されるとは、例えばその部分を樹脂材料で形成したり、樹脂材料で形成された部品を配置したり、その部分を樹脂材料で被覆することを意味する。そして、例えば
図1のような形状を有する替芯ケースの場合には、収容部全部を特定の樹脂材料で形成することで実現ができる。もちろん、蓋部を樹脂材料で形成したり、収容部の内面を樹脂材料で被覆してもよい。
【0077】
そして、本発明においては、替芯ケースの色鉛筆芯と接触し得る部分の一部に特定の樹脂材料が配置されていれば、色鉛筆芯が替芯ケースに付着することを抑制できる。しかしながら、色鉛筆芯と替芯ケースが接触し得る部分の総面積に対して、特定の樹脂材料が配置されている面積の比率が高いことが好ましい。具体的には、替芯ケースの色鉛筆芯と接触し得る部分の総面積に対して、特定の樹脂材料が配置されている部分の面積が50%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましく、90%以上であることが特に好ましい。理想的には、替芯ケースの色鉛筆芯と接触し得る部分のすべてに特定の樹脂材料が配置されていることが好ましい。したがって、
図1の替芯ケースにおいては、寸法にもよるが、収容部を特定のSP値を有する樹脂材料で成形することで、色鉛筆芯の付着を抑制することができる。
【0078】
また、
図2および3に示すような替芯ケースを採用することもできる。替芯を収納できる収容部201に蓋部202が着脱可能に取り付けられた替芯ケースである。この替芯ケースにおいて、蓋部202に下端より突出する係合片202aを形成され、収容部にその係合片202aと合致する凹陥部201aが形成されている。このように形成することで、蓋部の係合片202aを収容部の凹陥部201aに合致するように組み合わせると、突出部と凹陥部を互いに係合させて、蓋部を収容部に安定に取り付けることができる。突出部と凹陥部は入れ替えて形成させることもできる。このような替芯ケースにおいても収容部201全体を特定の樹脂材料を用いて形成することで、色鉛筆芯の付着を抑制できる。また、収容部201の内側面が特定の樹脂材料で被覆されていてもよい。
【0079】
また、
図4および5に示すような替芯ケースを採用することもできる。このケースも色鉛筆芯を収納する収容部401に蓋部402を着脱可能に取り付ける替芯ケースである。蓋部402に下端より突出する係合片402aが形成され、かつ収容部401に係合片402aと合致する凹陥部401aが形成されているこのように形成することで、蓋部の係合片402aを収容部の凹陥部401aに合致するように組み合わせると、突出部と凹陥部を互いに係合させて、蓋部を収容部に安定に取り付けることができる。突出部と凹陥部は入れ替えて形成させることもできる。このような替芯ケースにおいても収容部401全体を特定の樹脂材料を用いて形成することで、色鉛筆芯の付着を抑制できる。
【0080】
さらには、
図6および7に示すような替芯ケースを採用することもできる。このケースは、収容部601内部に色鉛筆芯を収容している。蓋部602を回転軸602Dを中心に回転させすることによって、色鉛筆芯を収容部に保持したり、色鉛筆芯を芯出口603から取り出したりすることができるものである。具体的には、蓋部602を回転により立てることによって色鉛筆芯の出口603を開くことができ、また、蓋部602を横に倒すことにより出口603を閉じることができる。この替芯ケースでは、蓋部固定部材604に非円形の取付穴604Eが形成され、さらに蓋部固定部材604に前記取付穴を横切る切溝604Fが形成されていて、取付穴が拡開可能に構成されている。また、蓋部固定部材に出口と反対側に位置して円弧からなる切溝が形成されており、かつ、蓋部に断面非円形の回転軸602Dが形成されている。その回転軸側の端が半円形に形成されており、その半円形の端の縁に表壁より裏方向に適宜の幅の隆起部が形成されており、蓋部の回転軸が前記蓋部固定部材の取付穴に回転可能に取り付けられている。ここで蓋部を横に倒して出口を閉じた時、蓋部の回転軸が蓋部固定部材の取付穴に係合され、かつ、隆起部により蓋部固定部材の取付穴を横切る切溝を覆うようになっている。そして、蓋体を立てて出口を開いた時、蓋体の隆起部が蓋部固定部材の円弧からなる切溝のストッパー部に当接されて蓋部の回転が停止されるようになっている。このような替芯ケースにおいても収容部601全体を特定の樹脂材料を用いて形成することで、色鉛筆芯の付着を抑制できる。
【実施例0081】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明はこれによって限定されるものではない。
【0082】
[製造例1]
[混練工程、押出工程、および焼成工程]
窒化ホウ素 45質量部
シリカ 45質量部
ポリビニルアルコール 10質量部
水 100質量部
上記配合物をニーダー、三本ロールにて水分を蒸発しながら加熱混練し、得られた混練物を所定の径にて押出成形を行い、線状成形物を得た。この線状成形物をアルゴンガス中において 、昇温速度10℃/時間で600℃まで昇温し5時間保持し、その後、酸素雰囲気として 、100℃/hrで昇温し、900℃で1時間焼成して、気孔率が25%、断面直径が0.55mmの多孔性基材を得た。
【0083】
[含浸工程]
着色剤(青色染料) 30質量部
高沸点有機溶媒(フェニルジグリコール) 10質量部
低沸点有機溶媒(エチルアルコール) 50質量部
樹脂(ケトン樹脂) 10質量部
上記配合物を30℃で、均一に混合するまで攪拌をし、着色剤溶液を得た。
【0084】
焼成工程で得られた多孔性基材を、上記着色剤溶液中に、30℃に加温した状態で浸漬し、6時間保持をした。
【0085】
[乾燥工程]
含浸工程を経た多孔性基材を、80℃で6時間保持をして、多孔性基材の気孔中の低沸点有機溶媒を蒸発させて除去して、多孔性芯体を得た。
【0086】
[充填工程]
乾燥工程で得られた多孔性芯体を、シリコーンオイル(SP値7.3)中に80℃に加温した状態で浸漬し、6時間保持をし、色鉛筆芯を得た。次に色鉛筆芯の表面に付着した過剰のシリオーンオイルを、遠心分離機にて振り切って除去し、12.5質量%のシリコーンオイルが含浸された色鉛筆芯を得た。また、この色鉛筆芯について、熱重量測定を行ったところ、フェニルジグリコールが含有されていることが確認できた。その含有率は、1質量%以上であった。
【0087】
[製造例2~10、製造比較例1~3]
製造例1に対して、各成分を表1に記載されたものに変更したほかは同様にして色鉛筆芯を得た。製造例2~10および製造比較例2の色鉛筆芯には熱重量測定および製造条件から、高沸点有機溶媒が含まれることが確認された。なお、製造比較例2および3は、難揮発性液体の充填を行わなかった。
【0088】
[実施例1~10、比較例1~3]
得られた色鉛筆芯を、それぞれ
図2に示された替芯ケースに収容して替芯製品とした。この替芯ケースの収容部に用いた樹脂材料は表1に示すとおりであり、この替芯ケースの色鉛筆芯に接触し得る部分の面積のうち、90%以上がその樹脂材料で構成されている。
【0089】
[色鉛筆芯付着性の評価方法]
各替芯製品について、50℃で14日間、替芯ケースの収容部の内面に、色鉛筆芯が接触した状態で保持して、芯の付着性を以下の基準により評価した。
【0090】
(付着性の評価基準)
A: 色鉛筆芯が収容部に全く付着しない
B: 色鉛筆芯が収容部にわずかに付着するが、容易に剥離する
C: 色鉛筆芯が収容部に付着した
【0091】
[書き味および筆跡発色性の評価方法]
色鉛筆芯を用いて、上質紙(旧JIS P3201に規定される筆記用紙Aに相当するもの。化学パルプ100%を原料に抄造され、秤量範囲40~157g/m2、白色度75.0%以上)に筆記し、その時の書き味を官能試験により評価した(書き味1)。また、得られる筆跡の発色性(筆跡発色性1)。
さらに、製造後、25℃環境下で4週間放置した焼成色鉛筆芯を用いて、前記上質紙に筆記し、その時の書き味(書き味2)および得られる筆跡の発色性(筆跡発色性2)を官能試験により評価した。
(書き味1および2の評価基準)
A :非常に滑らかに筆記可能。
B :滑らかに筆記可能。
C :筆感がややざらつき重い。
D :筆感がざらつき重い。
(筆跡発色性1および2の評価基準)
S:非常に発色が良い。
A:発色が良い。
B:発色がやや劣るが、良好。
C:発色に劣る。
D:筆記はできるが、発色が非常に劣る。
E:筆記できず、筆跡を視認できない。
【0092】
【0093】
【表1-2】
表中:
青色染料B: オイルブルー613(オリエント化学工業株式会社製)
ピンク色蛍光顔料P1: NKS1007(日本蛍光化学株式会社製、ポリアミド樹脂とC.I. Basic Violet 11:1の混合物)
ピンク色蛍光顔料P2: MPI-507C(日本蛍光化学株式会社製、メラミン・パラトルエンスルホンアミド・ホルマリン重縮合とC.I. Basic Violet 11:1の混合物)
エステルA: アデカサイザーRS-1000(ポリアルキレングリコールのカルボン酸エステル、株式会社ADEKA製、沸点250℃以上)
エステルB: アデカサイザーRS-700(ポリアルキレングリコールのカルボン酸エステル、株式会社ADEKA製、沸点250℃以上)
エステルC: アデカサイザーRS-107(アジピン酸ジブトキシエステル、株式会社ADEKA製、沸点200℃以上)
SO: ジメチルシリコーンオイル(信越化学工業(株)製、商品名:KF-96-50cs、SP値:7.3、表面張力:20.8N/m)
OO: α-オレフィン(SP値:8.0)
LP: 流動パラフィン (SP値:7.5~8.0)
AS:スチレンアクリルニトリル樹脂 (SP値12.8)
PC: ポリカーボネート (SP値:9.7)