IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社高速道路総合技術研究所の特許一覧 ▶ 東日本高速道路株式会社の特許一覧 ▶ 中日本高速道路株式会社の特許一覧 ▶ 西日本高速道路株式会社の特許一覧 ▶ オリエンタル白石株式会社の特許一覧 ▶ 神鋼鋼線工業株式会社の特許一覧

特開2022-152874既設PC鋼棒突出防止工法およびそれに用いる既設PC鋼棒突出防止具
<>
  • 特開-既設PC鋼棒突出防止工法およびそれに用いる既設PC鋼棒突出防止具 図1
  • 特開-既設PC鋼棒突出防止工法およびそれに用いる既設PC鋼棒突出防止具 図2
  • 特開-既設PC鋼棒突出防止工法およびそれに用いる既設PC鋼棒突出防止具 図3
  • 特開-既設PC鋼棒突出防止工法およびそれに用いる既設PC鋼棒突出防止具 図4
  • 特開-既設PC鋼棒突出防止工法およびそれに用いる既設PC鋼棒突出防止具 図5
  • 特開-既設PC鋼棒突出防止工法およびそれに用いる既設PC鋼棒突出防止具 図6
  • 特開-既設PC鋼棒突出防止工法およびそれに用いる既設PC鋼棒突出防止具 図7
  • 特開-既設PC鋼棒突出防止工法およびそれに用いる既設PC鋼棒突出防止具 図8
  • 特開-既設PC鋼棒突出防止工法およびそれに用いる既設PC鋼棒突出防止具 図9
  • 特開-既設PC鋼棒突出防止工法およびそれに用いる既設PC鋼棒突出防止具 図10
  • 特開-既設PC鋼棒突出防止工法およびそれに用いる既設PC鋼棒突出防止具 図11
  • 特開-既設PC鋼棒突出防止工法およびそれに用いる既設PC鋼棒突出防止具 図12
  • 特開-既設PC鋼棒突出防止工法およびそれに用いる既設PC鋼棒突出防止具 図13
  • 特開-既設PC鋼棒突出防止工法およびそれに用いる既設PC鋼棒突出防止具 図14
  • 特開-既設PC鋼棒突出防止工法およびそれに用いる既設PC鋼棒突出防止具 図15
  • 特開-既設PC鋼棒突出防止工法およびそれに用いる既設PC鋼棒突出防止具 図16
  • 特開-既設PC鋼棒突出防止工法およびそれに用いる既設PC鋼棒突出防止具 図17
  • 特開-既設PC鋼棒突出防止工法およびそれに用いる既設PC鋼棒突出防止具 図18
  • 特開-既設PC鋼棒突出防止工法およびそれに用いる既設PC鋼棒突出防止具 図19
  • 特開-既設PC鋼棒突出防止工法およびそれに用いる既設PC鋼棒突出防止具 図20
  • 特開-既設PC鋼棒突出防止工法およびそれに用いる既設PC鋼棒突出防止具 図21
  • 特開-既設PC鋼棒突出防止工法およびそれに用いる既設PC鋼棒突出防止具 図22
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022152874
(43)【公開日】2022-10-12
(54)【発明の名称】既設PC鋼棒突出防止工法およびそれに用いる既設PC鋼棒突出防止具
(51)【国際特許分類】
   E04G 21/12 20060101AFI20221004BHJP
   E04C 5/12 20060101ALI20221004BHJP
   E04C 5/08 20060101ALI20221004BHJP
   E01D 1/00 20060101ALI20221004BHJP
   E01D 22/00 20060101ALI20221004BHJP
【FI】
E04G21/12 104C
E04C5/12
E04C5/08
E01D1/00 D
E01D22/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021055809
(22)【出願日】2021-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】507194017
【氏名又は名称】株式会社高速道路総合技術研究所
(71)【出願人】
【識別番号】505398941
【氏名又は名称】東日本高速道路株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】505398952
【氏名又は名称】中日本高速道路株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】505398963
【氏名又は名称】西日本高速道路株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000103769
【氏名又は名称】オリエンタル白石株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000192626
【氏名又は名称】神鋼鋼線工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003041
【氏名又は名称】特許業務法人安田岡本特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】原田 拓也
(72)【発明者】
【氏名】岩生 知樹
(72)【発明者】
【氏名】正司 明夫
(72)【発明者】
【氏名】高橋 謙一
(72)【発明者】
【氏名】渡瀬 博
(72)【発明者】
【氏名】東 洋輔
(72)【発明者】
【氏名】堀井 智紀
(72)【発明者】
【氏名】野田 一成
(72)【発明者】
【氏名】大西 睦彦
(72)【発明者】
【氏名】小林 亮介
(72)【発明者】
【氏名】成子 実花
【テーマコード(参考)】
2D059
2E164
【Fターム(参考)】
2D059AA05
2D059BB39
2D059GG39
2E164AA01
2E164AA31
2E164DA01
2E164DA24
2E164DA32
(57)【要約】
【課題】既設のPC鋼棒が破断した場合に発生する大きな衝撃力によりコンクリート部材の外にPC鋼棒が突出することを防止する。
【解決手段】この突出防止具30は、ともに既設PC鋼棒Bに装着可能に分割されたスリーブSおよびウェッジWにより構成され、上床版14近傍から第一長さL(1)が0.25m~2.0mの第一位置P(1)および下床版16近傍から第一長さL(1)が0.25m~2.0mの第二位置P(2)の2箇所のコンクリート20を斫って、2箇所において既設PC鋼棒Bを露出させて、その露出させた既設PC鋼棒Bに対して、ウェッジWおよびスリーブSのテーパーが狭まる方向が近い方の表面への方向(第一位置P(1)においては上床版14の方向、第二位置P(2)においては下床版16の方向)になるように、露出させた既設PC鋼棒に装着する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
既設PC鋼棒の長手方向に垂直な面から見て2以上のウェッジ片に分割されたウェッジと、前記ウェッジに組み合わせられるテーパーを備えるとともに前記既設PC鋼棒に装着可能な構造を備えたスリーブとを含む突出防止具を用いて、既設のプレストレストコンクリート部材に圧縮力を付与している既設PC鋼棒が破断した場合の衝撃力を受け止めて前記コンクリート部材の外部に前記既設PC鋼棒が突出することを防止する工法であって、
前記既設PC鋼棒が突出することが予測される前記コンクリート部材の表面から前記既設PC鋼棒に沿って0.25m~2.0mの位置のコンクリートを斫って、前記既設PC鋼棒を露出させる露出ステップと、
前記ウェッジのテーパーが狭まる方向が前記表面への方向になるように、分割された2以上のウェッジ片を前記露出した既設PC鋼棒に装着するウェッジ装着ステップと、
前記スリーブのテーパーが狭まる方向が前記表面への方向になるように、前記既設PC鋼棒に装着可能な構造を備えたスリーブを前記露出した既設PC鋼棒に装着するスリーブ装着ステップと、
前記スリーブを前記ウェッジに組み合わせられるスリーブとして機能させるスリーブ機能化ステップと、
前記分割された状態で前記露出した前記既設PC鋼棒に装着された2以上のウェッジ片を、前記ウェッジのテーパーの向きと前記スリーブのテーパーの向きとを一致させて、スリーブとして機能させた前記スリーブに挿入する挿入ステップとを含む、既設PC鋼棒突出防止工法。
【請求項2】
前記既設PC鋼棒に沿った長さであって、前記既設PC鋼棒が突出することが予測される前記コンクリート部材の表面から、前記既設PC鋼棒が突出することが予測される前記コンクリート部材の他の表面までの長さLが2.5m~3.5mを超える場合において、
前記露出ステップは、前記表面から0.25m~2.0mの第一位置のコンクリートおよび前記他の表面から0.25m~2.0mの第二位置のコンクリートを2箇所斫って、前記2箇所において前記既設PC鋼棒を露出させるステップを含み、
前記第一位置および前記第二位置は、前記表面、前記第一位置、前記第二位置、前記他の表面の順であって、
前記ウェッジ装着ステップは、斫り1箇所に対して1個のウェッジを用いて、前記ウェッジのテーパーが狭まる方向が近い方の前記表面への方向になるように、分割された2以上のウェッジ片を前記露出した前記既設PC鋼棒に装着するステップを含み、
前記スリーブ装着ステップは、斫り1箇所に対して1個のスリーブを用いて、前記スリーブのテーパーが狭まる方向が近い方の前記表面への方向になるように、前記既設PC鋼棒に装着可能な構造を備えたスリーブを前記露出した前記既設PC鋼棒に装着するステップを含む、請求項1に記載の既設PC鋼棒突出防止工法。
【請求項3】
前記既設PC鋼棒に沿った長さであって、前記既設PC鋼棒が突出することが予測される前記コンクリート部材の表面から、前記既設PC鋼棒が突出することが予測される前記コンクリート部材の他の表面までの長さLが2.5m~3.5mを超えない場合において、
前記露出ステップは、前記表面および前記他の表面のいずれかから0.25m~2.0mの位置のコンクリートを1箇所斫って、前記1箇所において前記既設PC鋼棒を露出させるステップを含み、
前記ウェッジ装着ステップは、斫り1箇所に対して2個のウェッジを用いて、前記2個のウェッジのテーパーが狭まる方向が互いに対面する方向になるように、分割された2以上のウェッジ片を前記露出した前記既設PC鋼棒に装着するステップを含み、
前記スリーブ装着ステップは、斫り1箇所に対して2個のスリーブを用いて、前記2個
のスリーブのテーパーが狭まる方向が互いに対面する方向になるように、前記既設PC鋼棒に装着可能な構造を備えたスリーブを前記露出した前記既設PC鋼棒に装着するステップを含む、請求項1に記載の既設PC鋼棒突出防止工法。
【請求項4】
前記挿入ステップは、前記ウェッジを前記スリーブに、ジャッキを用いることなく作業者の手作業により挿入するステップを含む、請求項1~請求項3のいずれかに記載の既設PC鋼棒突出防止工法。
【請求項5】
請求項1~請求項4のいずれかに記載の既設PC鋼棒突出防止工法に用いられる突出防止具であって、
前記既設PC鋼棒の長手方向に垂直な面から見て2以上のウェッジ片に分割されたウェッジと、
前記ウェッジに組み合わせられるテーパーを備える内筒側のスリーブ片と前記内筒側のスリーブ片の外側に設けられる外筒側のスリーブ片とに分割されるスリーブと、を含み、
前記内筒側のスリーブ片および前記外筒側のスリーブ片について、前記既設PC鋼棒の長手方向に垂直な面から見て前記既設PC鋼棒が挿入可能な切欠き部を少なくとも内筒側スリーブ片が備え、
前記内筒側のスリーブ片と前記外筒側のスリーブ片とが接合されることによりスリーブとして一体化されて前記ウェッジに組み合わせられるスリーブとして機能することを特徴とする、既設PC鋼棒突出防止具。
【請求項6】
前記内筒側のスリーブ片の外周面に設けられたキー溝と前記外筒側のスリーブ片の内周面に設けられたキー溝とに跨ってキーが設けられて前記内筒側のスリーブ片と前記外筒側のスリーブ片とが接合されることによりスリーブとして一体化されることを特徴とする、請求項5に記載の既設PC鋼棒突出防止具。
【請求項7】
前記内筒側のスリーブ片の外周面に設けられた雄ねじと前記外筒側のスリーブ片の内周面に設けられた雌ねじとが螺合されて前記内筒側のスリーブ片と前記外筒側のスリーブ片とが接合されることによりスリーブとして一体化されることを特徴とする、請求項5に記載の既設PC鋼棒突出防止具。
【請求項8】
請求項1~請求項4のいずれかに記載の既設PC鋼棒突出防止工法に用いられる突出防止具であって、
前記既設PC鋼棒の長手方向に垂直な面から見て2以上のウェッジ片に分割されたウェッジと、
前記ウェッジに組み合わせられるテーパーを備えるとともに、前記既設PC鋼棒の長手方向に垂直な面から見て前記既設PC鋼棒が挿入可能なスリット部を備えるスリーブと、を含み、
前記スリット部において互いに対向する壁面が連結部材を用いて連結されることにより前記垂直な面から見た前記スリット部の間隔が規制されて前記ウェッジに組み合わせられるスリーブとして機能することを特徴とする、既設PC鋼棒突出防止具。
【請求項9】
前記連結部材は、前記互いに対向する壁面の少なくとも一方の壁面に設けられた雌ねじ穴と、他方の壁面に設けられた穴を通された雄ねじとを含み、
前記雌ねじ穴に前記雄ねじが螺合されて前記壁面が連結されることにより前記垂直な面から見た前記スリット部の間隔が規制されることを特徴とする、請求項8に記載の既設PC鋼棒突出防止具。
【請求項10】
前記連結部材は、前記互いに対向する壁面の少なくとも一方の壁面に設けられた雌ねじ穴と、他方の壁面に設けられた穴を通された雄ねじとを含み、
前記雌ねじ穴に前記雄ねじが螺合されて前記壁面が連結されることにより前記垂直な面から見た前記スリット部の間隔が規制され、
前記雄ねじの径を変更することにより、前記垂直な面から見た前記スリット部の間隔を規制した際に前記連結部材の剛性が変更されて前記PC鋼棒が破断した際の緩衝能力を調整できることを特徴とする、請求項8に記載の既設PC鋼棒突出防止具。
【請求項11】
前記スリーブにおけるテーパーが広がる方向の端面であって前記既設PC鋼棒の長手方向に垂直な端面にて前記スリーブに接合される、平板状のプレートをさらに含み、
前記プレートは、前記既設PC鋼棒の長手方向に垂直な面から見て前記既設PC鋼棒が挿入可能、かつ、前記ウェッジにおけるテーパーが広がる方向の端部に設けられたウェッジ突起部が突出可能な切欠き部を備え、
前記プレートが前記スリーブの端面に接合されることにより、前記ウェッジが前記スリーブの所定の位置に位置決めされるとともに、前記ウェッジ突起部が前記プレートの切欠部から突出することを特徴とする、請求項5~請求項10のいずれかに記載の既設PC鋼棒突出防止具。
【請求項12】
3次元形状のワイヤークリップをさらに含み、
前記ワイヤークリップは、
前記スリーブにおける、前記既設PC鋼棒の長手方向の長さに対応する直線部と、
前記直線部よりも前記スリーブにおけるテーパーが広がる側に、前記ウェッジにおけるテーパーが広がる方向の端部の外周上に設けられたウェッジ溝部に嵌入される円弧部と、
前記直線部よりも前記スリーブにおけるテーパーが狭まる側に、前記スリーブにおけるテーパーが狭まる方向の端面であって前記既設PC鋼棒の長手方向に垂直な端面に設けられたスリーブ穴部に嵌入される嵌入片と、を少なくとも備え、
前記ワイヤークリップの円弧部が前記ウェッジ溝部に嵌入されるとともに、前記ワイヤークリップの嵌入片が前記スリーブ穴部に嵌入されることにより、前記ウェッジが前記スリーブの所定の位置に位置決めされるとともに、前記ワイヤークリップの直線部が前記スリーブの外周に沿って配置されることを特徴とする、請求項5~請求項10のいずれかに記載の既設PC鋼棒突出防止具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土木建築分野におけるコンクリート製の梁、桁またはその他の建築部材等において好適に使用されるプレストレストコンクリート部材に圧縮力を付与している既設のPC鋼棒(PC鋼線、PC鋼より線を含まない)が時間の経過やグラウト充填量の不足等による腐食により破断(本発明においては破断の原因は限定されるものではない)した場合に(鋼棒であるがゆえに)瞬時に発生する大きな衝撃力を好適に受け止めることによりコンクリート部材の外にPC鋼棒が突出することを防止することのできる既設PC鋼棒突出防止工法およびそれに用いる既設PC鋼棒突出防止具に関する。
【0002】
なお、本発明において、楔体、楔、くさび、クサビ、ウェッジ(wedge)と記載する場合があるが、これらは同じ構造を備える。また、本発明は既設のPC鋼棒を対象としているために単にPC鋼棒と記載している場合であっても既設PC鋼棒であることを示すものとなる。
【背景技術】
【0003】
2000年(平成12年)以前に建設されたPC構造の箱桁橋には緊張材としてPC鋼棒が多数使用されており、橋梁の老朽化に伴ってPC鋼棒においても腐食が進行している場合がある。特に、グラウトの注入時にシース内に気泡が残った場合や、グラウト材そのものに問題があった場合などに十分な防錆力が得られず、PC鋼棒の腐食が進行して破断にいたることがある。また、アンカーなどに利用した場合には、地盤の動きによりPC鋼棒の緊張が増し、設計以上の張力となってPC鋼棒が破断することもある。
【0004】
その際、PC鋼棒が緊張されている(PC鋼棒が緊張されることによりPC構造物に圧縮力が付与されている)ため、破断したPC鋼棒は構造物表面から飛び出し、コンクリートの破片を周囲に落下させる危険があった。すなわち、PC鋼棒には大きな緊張力が付与されており、その破断は(たとえばPC鋼より線等と異なり)全断面が瞬時に破断するために破断による衝撃力は大きく、特に路面に対して鉛直に配置されたPC鋼棒が破断すると、その衝撃力で路盤が盛り上がるなどにより車両走行に支障を来すおそれ、コンクリートの破片を周囲に落下させたりするおそれがある。
【0005】
PC鋼棒の飛び出しの衝撃力で路盤が盛り上がったりコンクリート片が落下したりすると、人や走行車両などに対して不測の事態を招くおそれがある。そのため、PC鋼棒端部が位置する箇所のPC構造物の表面に鋼板を配置し、その上にアラミド繊維シートなどをエポキシ樹脂のような接着剤で貼り付けることによって、PC鋼棒の破断飛び出しによるコンクリート片の落下を防止する対策がとられていた。
【0006】
このようにPC構造物の表面に鋼板やアラミド繊維シートなどを貼り付ける従来の対策では、路面上に設置する場合には、その取り付け作業が極めて面倒であるうえ、構造物の外面に取り付けた場合には、(外面の仕上げ状態にもよるが)構造物の外観上が好ましくない可能性があった。また、鋼板が薄すぎる場合や腐食した場合、あるいはPC鋼棒の飛び出しエネルギーが大きすぎる場合には、PC鋼棒の飛び出しを抑えきれず、コンクリートの破片が周囲に落下することを防止できなかった。
【0007】
このような従来の事情に鑑み、PC構造物の表面に外観を損なうような鋼板やアラミド繊維シートなどの部材を付加することなく、破断したPC鋼棒の飛び出しを確実に防止して、コンクリートの破片の落下を防ぐことができるPC鋼棒の飛び出し防止機構付き定着構造を、たとえば特開2007-314970号公報(特許文献1)は開示する。
この特許文献1に開示されたPC鋼棒の飛び出し防止機構付き定着構造は、PC鋼棒が挿入される貫通部を有するアンカー部材と、PC鋼棒に螺合しかつアンカー部材に当接する固定ナットとで、PC鋼棒端部を固定する定着構造において、
【0008】
(1)PC鋼棒の固定端側および緊張端側の各アンカー部材の外周部に、それぞれ径方向外側に突出して設けた帯状凸部と、
(2)PC鋼棒の緊張端側において、アンカー部材に固定したアンカーボルトにPC鋼棒端面に対向して固定された飛出防止板と、
(3)PC鋼棒の固定端側において、アンカー部材の固定端側に当接する前記固定ナットとともに、PC鋼棒に螺合しかつアンカー部材の緊張端側に当接する飛出防止ナットとを、備えることを特徴とする。
【0009】
これらの(1)~(3)の構成により、供用後にPC鋼棒が万一判断した場合にも、緊張端側からのPC鋼棒の飛び出しを飛出防止板で防ぐとともに、固定端側からのPC鋼棒の飛び出しは固定ナットと飛出防止ナットのダブルナットによって防止する。その際、破断したPC鋼棒の飛び出しエネルギーは緊張端側および固定端側のアンカー部材に伝達されるが、これらのアンカー部材の外周部には径方向外側に突出した帯状凸部が設けてあるため、飛び出しエネルギーは帯状凸部からコンクリート躯体に逃がされ、PC鋼棒の飛び出しおよびコンクリート片の落下を有効に防止することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2007-314970号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上述した特許文献1に開示されたPC鋼棒の飛び出し防止機構付き定着構造は、プレストレストコンクリート部材を初めて施工する場合に好適に採用されるものに過ぎず、2000年(平成12年)以前に建設されたPC構造の箱桁橋には緊張材としてPC鋼棒が多数使用されており、橋梁の老朽化に伴ってPC鋼棒においても腐食が進行しているという背景の元で、既設のプレストレストコンクリート部材に特許文献1に開示された技術を適用することは施工上大きな問題があり実質的に施工することができない。
【0012】
特に、このような既設のPC構造物の一例である箱桁橋に対して、長年にわたりPC構造物に圧縮力を付与し続けているPC鋼棒が腐食破断した場合でも路面に変状が生じないようにするために、PC鋼棒破断時の衝撃力を受け止めて路面に変状が生じなくコンクリート片が落下することのない工法の開発が望まれており、供用中の箱桁橋に対して交通規制を行わずに実施できる工法の開発が強く望まれている。このような強い要望に対して、特許文献1に開示されたPC鋼棒の飛び出し防止機構付き定着構造が好適に適用できないという問題点がある。また、中間定着具など突出防止を目的に設置し、PC鋼棒破断時の衝撃力を完全に受け止めた場合には、中間定着具とコンクリート表面との間(区間)で残存する圧縮力は変わらない状態か大きい状態であるため、その区間におけるPC鋼棒がさらに破断した場合にはPC鋼棒が突出する可能性がある。
【0013】
本発明は、従来技術の上述の問題点に鑑みて開発されたものであり、その目的とするところは、供用中のプレストレストコンクリート部材に圧縮力を付与している既設のPC鋼棒が破断した場合に発生する大きな衝撃力によりコンクリート部材の外にPC鋼棒が突出することを、供用しながらの作業により防止することのできる既設PC鋼棒突出防止工法およびそれに用いる既設PC鋼棒突出防止具を提供することである。さらには、PC鋼棒が破断した際に発生する大きな衝撃力を受け止めて、かつ、その衝撃力を緩衝することにより、既設PC鋼棒突出防止具とコンクリート表面との間(区間)で残存した圧縮力を小さくすることができ、その区間におけるPC鋼棒がさらに破断した場合のPC鋼棒の突出の可能性を低くすることのできる既設PC鋼棒突出防止工法およびそれに用いる既設PC鋼棒突出防止具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するため、本発明に係る既設PC鋼棒突出防止工法およびそれに用いる既設PC鋼棒突出防止具は、以下の技術的手段を講じている。
すなわち、本発明のある局面に係る既設PC鋼棒突出防止工法は、既設PC鋼棒の長手方向に垂直な面から見て2以上のウェッジ片に分割されたウェッジと、前記ウェッジに組み合わせられるテーパーを備えるとともに前記既設PC鋼棒に装着可能な構造を備えたスリーブとを含む突出防止具を用いて、既設のプレストレストコンクリート部材に圧縮力を付与している既設PC鋼棒が破断した場合の衝撃力を受け止めて前記コンクリート部材の
外部に前記既設PC鋼棒が突出することを防止する工法であって、前記既設PC鋼棒が突出することが予測される前記コンクリート部材の表面から前記既設PC鋼棒に沿って0.25m~2.0mの位置のコンクリートを斫って、前記既設PC鋼棒を露出させる露出ステップと、前記ウェッジのテーパーが狭まる方向が前記表面への方向になるように、分割された2以上のウェッジ片を前記露出した既設PC鋼棒に装着するウェッジ装着ステップと、前記スリーブのテーパーが狭まる方向が前記表面への方向になるように、前記既設PC鋼棒に装着可能な構造を備えたスリーブを前記露出した既設PC鋼棒に装着するスリーブ装着ステップと、前記スリーブを前記ウェッジに組み合わせられるスリーブとして機能させるスリーブ機能化ステップと、前記分割された状態で前記露出した前記既設PC鋼棒に装着された2以上のウェッジ片を、前記ウェッジのテーパーの向きと前記スリーブのテーパーの向きとを一致させて、スリーブとして機能させた前記スリーブに挿入する挿入ステップとを含む。
【0015】
好ましくは、前記既設PC鋼棒に沿った長さであって、前記既設PC鋼棒が突出することが予測される前記コンクリート部材の表面から、前記既設PC鋼棒が突出することが予測される前記コンクリート部材の他の表面までの長さLが2.5m~3.5mを超える場合において、前記露出ステップは、前記表面から0.25m~2.0mの第一位置のコンクリートおよび前記他の表面から0.25m~2.0mの第二位置のコンクリートを2箇所斫って、前記2箇所において前記既設PC鋼棒を露出させるステップを含み、前記第一位置および前記第二位置は、前記表面、前記第一位置、前記第二位置、前記他の表面の順であって、前記ウェッジ装着ステップは、斫り1箇所に対して1個のウェッジを用いて、前記ウェッジのテーパーが狭まる方向が近い方の前記表面への方向になるように、分割された2以上のウェッジ片を前記露出した前記既設PC鋼棒に装着するステップを含み、前記スリーブ装着ステップは、斫り1箇所に対して1個のスリーブを用いて、前記スリーブのテーパーが狭まる方向が近い方の前記表面への方向になるように、前記既設PC鋼棒に装着可能な構造を備えたスリーブを前記露出した前記既設PC鋼棒に装着するステップを含むように構成することができる。
【0016】
さらに好ましくは、前記既設PC鋼棒に沿った長さであって、前記既設PC鋼棒が突出することが予測される前記コンクリート部材の表面から、前記既設PC鋼棒が突出することが予測される前記コンクリート部材の他の表面までの長さLが2.5m~3.5mを超えない場合において、前記露出ステップは、前記表面および前記他の表面のいずれかから0.25m~2.0mの位置のコンクリートを1箇所斫って、前記1箇所において前記既設PC鋼棒を露出させるステップを含み、前記ウェッジ装着ステップは、斫り1箇所に対して2個のウェッジを用いて、前記2個のウェッジのテーパーが狭まる方向が互いに対面する方向になるように、分割された2以上のウェッジ片を前記露出した前記既設PC鋼棒に装着するステップを含み、前記スリーブ装着ステップは、斫り1箇所に対して2個のスリーブを用いて、前記2個のスリーブのテーパーが狭まる方向が互いに対面する方向になるように、前記既設PC鋼棒に装着可能な構造を備えたスリーブを前記露出した前記既設PC鋼棒に装着するステップを含むように構成することができる。
【0017】
さらに好ましくは、前記挿入ステップは、前記ウェッジを前記スリーブに、ジャッキを用いることなく作業者の手作業により挿入するステップを含むように構成することができる。
また、本発明の別の局面に係る既設PC鋼棒突出防止具は、上述したいずれかに記載の既設PC鋼棒突出防止工法に用いられる突出防止具であって、前記既設PC鋼棒の長手方向に垂直な面から見て2以上のウェッジ片に分割されたウェッジと、前記ウェッジに組み合わせられるテーパーを備える内筒側のスリーブ片と前記内筒側のスリーブ片の外側に設けられる外筒側のスリーブ片とに分割されるスリーブと、を含み、前記内筒側のスリーブ片および前記外筒側のスリーブ片について、前記既設PC鋼棒の長手方向に垂直な面から見て前記既設PC鋼棒が挿入可能な切欠き部を少なくとも内筒側スリーブ片が備え、前記内筒側のスリーブ片と前記外筒側のスリーブ片とが接合されることによりスリーブとして一体化されて前記ウェッジに組み合わせられるスリーブとして機能することを特徴とする
。また、前記外筒側のスリーブ片は、たとえばFRP(Fiber Reinforced Plastics:繊維強化プラスチック)製のシートで、前記内筒側のスリーブ片と前記外筒側のスリーブ片とは前記内筒側のスリーブ片の外周にシート状の前記外筒側のスリーブ片を巻き付けることにより前記スリーブとして一体化されるものであっても構わない。この場合には、シート状の前記外筒側のスリーブ片の切欠き部は必須の構成ではない。
【0018】
好ましくは、前記内筒側のスリーブ片の外周面に設けられたキー溝と前記外筒側のスリーブ片の内周面に設けられたキー溝とに跨ってキーが設けられて前記内筒側のスリーブ片と前記外筒側のスリーブ片とが接合されることによりスリーブとして一体化されるように構成することができる。
さらに好ましくは、前記内筒側のスリーブ片の外周面に設けられた雄ねじと前記外筒側のスリーブ片の内周面に設けられた雌ねじとが螺合されて前記内筒側のスリーブ片と前記外筒側のスリーブ片とが接合されることによりスリーブとして一体化されるように構成することができる。
【0019】
また、本発明のさらに別の局面に係る既設PC鋼棒突出防止具は、上述したいずれかに記載の既設PC鋼棒突出防止工法に用いられる突出防止具であって、前記既設PC鋼棒の長手方向に垂直な面から見て2以上のウェッジ片に分割されたウェッジと、前記ウェッジに組み合わせられるテーパーを備えるとともに、前記既設PC鋼棒の長手方向に垂直な面から見て前記既設PC鋼棒が挿入可能なスリット部を備えるスリーブと、を含み、前記スリット部において互いに対向する壁面が連結部材を用いて連結されることにより前記垂直な面から見た前記スリット部の間隔が規制されて前記ウェッジに組み合わせられるスリーブとして機能することを特徴とする。
【0020】
好ましくは、前記連結部材は、前記互いに対向する壁面の少なくとも一方の壁面に設けられた雌ねじ穴と、他方の壁面に設けられた穴を通された雄ねじとを含み、前記雌ねじ穴に前記雄ねじが螺合されて前記壁面が連結されることにより前記垂直な面から見た前記スリット部の間隔が規制されるように構成することができる。
さらに好ましくは、前記連結部材は、前記互いに対向する壁面の少なくとも一方の壁面に設けられた雌ねじ穴と、他方の壁面に設けられた穴を通された雄ねじとを含み、前記雌ねじ穴に前記雄ねじが螺合されて前記壁面が連結されることにより前記垂直な面から見た前記スリット部の間隔が規制され、前記雄ねじの径を変更することにより、前記垂直な面から見た前記スリット部の間隔を規制した際に前記連結部材の剛性が変更されて前記PC鋼棒が破断した際の緩衝能力を調整できるように構成することができる。
【0021】
さらに好ましくは、前記スリーブにおけるテーパーが広がる方向の端面であって前記既設PC鋼棒の長手方向に垂直な端面にて前記スリーブに接合される、平板状のプレートをさらに含み、前記プレートは、前記既設PC鋼棒の長手方向に垂直な面から見て前記既設PC鋼棒が挿入可能、かつ、前記ウェッジにおけるテーパーが広がる方向の端部に設けられたウェッジ突起部が突出可能な切欠き部を備え、前記プレートが前記スリーブの端面に接合されることにより、前記ウェッジが前記スリーブの所定の位置に位置決めされるとともに、前記ウェッジ突起部が前記プレートの切欠部から突出するように構成することができる。
【0022】
さらに好ましくは、3次元形状のワイヤークリップをさらに含み、前記ワイヤークリップは、前記スリーブにおける、前記既設PC鋼棒の長手方向の長さに対応する直線部と、前記直線部よりも前記スリーブにおけるテーパーが広がる側に、前記ウェッジにおけるテーパーが広がる方向の端部の外周上に設けられたウェッジ溝部に嵌入される円弧部と、前記直線部よりも前記スリーブにおけるテーパーが狭まる側に、前記スリーブにおけるテーパーが狭まる方向の端面であって前記既設PC鋼棒の長手方向に垂直な端面に設けられたスリーブ穴部に嵌入される嵌入片と、を少なくとも備え、前記ワイヤークリップの円弧部が前記ウェッジ溝部に嵌入されるとともに、前記ワイヤークリップの嵌入片が前記スリーブ穴部に嵌入されることにより、前記ウェッジが前記スリーブの所定の位置に位置決めされるとともに、前記ワイヤークリップの直線部が前記スリーブの外周に沿って配置されるように構成することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係る既設PC鋼棒突出防止工法およびそれに用いる既設PC鋼棒突出防止具によると、供用中のプレストレストコンクリート部材に圧縮力を付与している既設のPC鋼棒が破断した場合に発生する大きな衝撃力によりコンクリート部材の外にPC鋼棒が突出することを、供用しながらの作業により防止することができる。さらには、本発明に係る既設PC鋼棒突出防止工法およびそれに用いる既設PC鋼棒突出防止具によると、PC鋼棒が破断した際に発生する大きな衝撃力を受け止めて、かつ、その衝撃力を緩衝することにより、既設PC鋼棒突出防止具とコンクリート表面との間(区間)で残存した圧縮力を小さくすることができ、その区間におけるPC鋼棒がさらに破断した場合のPC鋼棒の突出の可能性を低くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の実施の形態に係る突出防止具30の使用が想定されるPC構造物(プレストレストコンクリート部材)の一例であるPC箱桁橋10を説明するための図である。
図2図1における上床版から下床版までの長さL(既設PC鋼棒に沿った長さであって、既設PC鋼棒が突出することが予測されるコンクリート部材の表面から既設PC鋼棒が突出することが予測されるコンクリート部材の他の表面までの長さL)が長い場合の突出防止具30の使用態様を説明するための図である。
図3図2における長さLが短い場合の突出防止具30(2個の突出防止具30を組み合わせた突出防止具32)の使用態様を説明するための図である。
図4】突出防止具30を構成する(A)スリーブ100(スリーブSに相当)および(B)ウェッジ140(ウェッジWに相当)の平面図である。
図5図4のスリーブ100(スリーブSに相当)が、ウェッジ140(ウェッジWに相当)に組み合わせられるスリーブとして機能する状態を示す(A)平面図および(B)せん断キーの機能を説明するための図である。
図6図4のスリーブ100(スリーブSに相当)およびウェッジ140(ウェッジWに相当)を用いた突出防止具30を、PC構造物から露出させた既設PC鋼棒に装着する手順を説明するための図である。
図7】突出防止具30を構成する(A)(スリーブ100とは別の)スリーブ200(スリーブSに相当)および(B)(ウェッジ140とは別の)ウェッジ240(ウェッジWに相当)の平面図である。
図8図7のスリーブ200(スリーブSに相当)およびウェッジ240(ウェッジWに相当)を用いた突出防止具30を、PC構造物から露出させた既設PC鋼棒に装着する手順を説明するための図である。
図9】突出防止具30を構成する(スリーブ100およびスリーブ200とは別の)スリーブS10、スリーブS11またはスリーブS20(スリーブSに相当)が、ウェッジW(ウェッジ140と同じ)に組み合わせられるスリーブとして機能する状態を示す平面図である。
図10】供試体を用いて本発明の実施の形態に係る突出防止具30を評価した試験結果を示す図(その1)である。
図11】本発明の実施の形態の第1の変形例に係る突出防止具を説明するための図である。
図12】本発明の実施の形態の第2の変形例に係る突出防止具を説明するための図である。
図13】供試体を用いて本発明の実施の形態に係る突出防止具30を評価した試験結果を示す図(その2)である。
図14】床版およびウェブを模した供試体を用いた破断・突出実験における試験装置全体の概要図である。
図15】上床版水準の試験体概要図である。
図16】下床版水準の試験体概要図である。
図17】緩衝定着具水準の試験体概要図である。
図18】A区間における舗装あり-1m水準の残留変位を示す図である。
図19】A区間における舗装あり-2m水準の残留変位を示す図である。
図20】B区間における舗装なし水準のコンクリート天端の状況を示す図である。
図21】C区間における舗装あり-8m水準の残留変位を示す図である。
図22】床版およびウェブを模した供試体を用いた破断・突出実験における破断エネルギーを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下において、本発明の実施の形態に係る、既設のプレストレストコンクリート部材に圧縮力を付与している既設PC鋼棒が破断した場合の衝撃力を受け止めてコンクリート部材の外部に既設PC鋼棒が突出することを防止する突出防止具、および、その突出防止具を用いて既設のプレストレストコンクリート部材を供用しながら実施することのできる既設PC鋼棒突出防止工法について詳しく説明する。なお、この突出防止具自体の構造は定着具に類似する部分を含む場合があり、かつ、衝撃力を和らげるという意味では緩衝材であるために、この突出防止具は緩衝定着具とももいえるために、本明細書においては突出防止具と緩衝定着具とを区別しない場合がある。ただし、この突出防止具は、後述する既設PC鋼棒突出防止工法が完了した時点では(既設PC鋼棒が破断するまでは)定着しているものではない点で定着具と異なる。
【0026】
ここで、以下の説明において参照する図については、本発明の容易な理解のために、内部ではなく外形で表現すべき部分を内部を透視するように表現している場合があったり、外形ではなく断面で表現すべき部分を外形で表現している場合があったり、断面ではなく外形で表現すべき部分を断面で表現している場合があったり、断面であってもハッチングを付していない場合があったり、断面でないのにハッチングを付している場合があったり、詳細な構造を省略した場合があったり、詳細な構造を省略したために同じ部材であっても図面間で一致しない場合があったりする。
【0027】
<突出防止具の使用が想定される構造物およびその部位>
まず、図1を参照して、本発明の実施の形態に係る突出防止具(緩衝定着具)30の使用が想定されるPC構造物(プレストレストコンクリート部材)の一例であるPC箱桁橋10について説明する。
図1に示すPC箱桁橋10とは、その言葉の通りに、橋の形が箱の形(箱形40)をした橋梁であって、車は橋の上(舗装路面12)を通り、箱の中の空洞SPは橋の点検時などに作業者が入れるようになっている。また、箱の上面を?える柱20の部分(ウェブ20またはコンクリート20と記載する場合がある)には、コンクリート製のものや鋼製のものがあり、ここではプレストレストコンクリート製である。
【0028】
さらに詳しくは、PC箱桁橋10は、上床版14および下床版16ならびに2本以上のウェブ20から構成されているために、曲げモーメントによる大きな圧縮力に抵抗できる特性やPC鋼材(ここではPC鋼棒)を有効に配置できること、また、ねじり剛性が大きいなどの断面特性を利用して、連続桁橋、ラーメン橋などの長大橋や曲線橋に数多く採用されている。
【0029】
本実施の形態に係る突出防止具30は、このPC箱桁橋10の上床版14と下床版16との間に鉛直方向に配設されたPC鋼棒が破断した場合の衝撃力を受け止めてコンクリート部材の外部に既設PC鋼棒が突出することを防止する。
まず、このようなPC箱桁橋10に対して供用しながら施工可能な既設PC鋼棒突出防止工法について、上床版14から下床版16までの長さL(既設PC鋼棒Bに沿った長さであって、既設PC鋼棒Bが突出することが予測されるコンクリート部材の表面から既設PC鋼棒が突出することが予測されるコンクリート部材の他の表面までの長さLと略等しい)が長い場合と、その長さLが短い場合の突出防止具30の使用態様について説明する。
【0030】
図2は長さLが2.5m~3.5mを超える場合の突出防止具30の使用態様を、図3
は長さLが2.5m~3.5mを超えない場合の突出防止具32の使用態様を、それぞれ示す模式的な図である。なお、詳しくは後述するが、突出防止具30は、既設PC鋼棒Bを内面に挟み込むとともに外面にテーパーを備えたウェッジWと、そのウェッジWのテーパー面に沿った内面を備えたスリーブSとが組み合わせられて使用される。さらに、突出防止具32は、2個の突出防止具30が組み合わせられて使用される。また、これらのスリーブSおよびウェッジWに用いる材料としては金属、樹脂、化学繊維等であって特に限定されるものではないが、以下においてはPC鋼材の定着具として通常用いられる種類の金属であるとして説明する。
【0031】
図2を参照して、長さLが2.5m~3.5mを超える場合の突出防止具30の使用態様について説明する。この図2に模式的に示すように、この突出防止具30は、表面(ここでは上床版14近傍)から第一長さL(1)が0.25m~2.0mの第一位置P(1)のコンクリート20、および、他の表面(ここでは下床版16近傍)から第一長さL(1)が0.25m~2.0mの第二位置P(2)のコンクリート20の2箇所のコンクリート20を斫って、2箇所において既設PC鋼棒を露出させて、その露出させた既設PC鋼棒Bに対して施工される。なお、図2に示すように、長さL、第一長さL(1)は上述した範囲であって、かつ、第一位置P(1)および第二位置P(2)の位置関係は、表面(ここでは上床版14近傍)、第一位置P(1)、第二位置P(2)、他の表面(ここでは下床版16近傍)の順である。
【0032】
そして、斫り1箇所に対して、1個のウェッジWおよび1個のスリーブSを、ウェッジWおよびスリーブSのテーパーが狭まる方向が近い方の表面への方向(第一位置P(1)においては上床版14の方向、第二位置P(2)においては下床版16の方向)になるように、露出したPC鋼棒に装着する。より詳しくは、第一位置P(1)に対して1個のウェッジWおよび1個のスリーブS、ならびに、第二位置P(2)に対して1個のウェッジWおよび1個のスリーブSが使用される。
【0033】
図3を参照して、長さLが2.5m~3.5mを超えない場合の突出防止具32の使用態様について説明する。図3に模式的に示すように、この突出防止具32は、表面(ここでは上床版14近傍)から第二長さL(2)または他の表面(ここでは下床版16近傍)から第三長さL(3)が0.25m~2.0mの第三位置P(3)のコンクリートのコンクリート20を斫って、1箇所において既設PC鋼棒を露出させて、その露出させた既設PC鋼棒Bに対して施工される。なお、図1に示すように、長さL、第二長さL(2)および第三長さL(3)は上述した範囲であって、かつ、第三位置P(3)の位置関係は、表面(ここでは上床版14近傍)、第三位置P(3)、他の表面(ここでは下床版16近傍)の順である。
【0034】
そして、斫り1箇所に対して、2個のウェッジWおよび2個のスリーブSを、2個のウェッジWのテーパーが狭まる方向が互いに対面する方向になるように、かつ、2個のスリーブSのテーパーが狭まる方向が互いに対面する方向になるように、露出したPC鋼棒に装着する。より詳しくは、第三位置P(3)に対して2個のウェッジWおよび2個のスリーブSが、それぞれテーパーが狭まる方向が互いに対面する方向になるように使用される。
【0035】
図3に示す施工方法によると、図2に示す施工方法に対して、作業手間(斫り作業を含む)と施工費用の削減とを図ることができる点で好ましい。
なお、図2において、第一位置P(1)のみだけでもPC鋼棒の飛び出しの衝撃力で路盤(舗装路面12)が盛り上がることを防止できるために、本発明においては図2における第一位置P(1)のみ、または、図2における第二位置P(2)のみ、であっても構わない。
【0036】
ここで、これらの図2および図3における、第一長さL(1)、第二長さL(2)および第三長さL(3)が0.25m~2.0mであることについて説明する。図2に示すように、既設PC鋼棒Bの破断する位置はコンクリート20に埋設されたPC鋼棒のどの位置で発生するのかはわからない。図2に示すように、表面(ここでは上床版14近傍)から0.25m~2.0mよりも下床版16側であって、かつ、他の表面(ここでは下床版
16近傍)から0.25m~2.0mよりも上床版14側の範囲を、破断想定位置として想定している。当然であるが、このように想定した破断想定位置以外である、さらに上床版14寄りであってもさらに下床版16寄りであっても、PC鋼棒が破断する可能性があるものの、たとえば、上床版14と第一位置P(1)に設けられた突出防止具30との間でPC鋼棒が破断した場合であっても上床版方向へのPC鋼棒の破断エネルギーは小さく、かぶりコンクリートにより破断エネルギーを吸収することができるために、このような0.25m~2.0mが設定されている(下床版16と第二位置P(2)に設けられた突出防止具30との間でPC鋼棒が破断した場合も同じ)。ここで、かぶりコンクリート部分におけるコンクリートのかぶり不足など懸念がある場合、この部分のグラウトの充填不良が見つかった場合等には、この区間のみグラウトを再注入することでPC鋼棒の破断に対する抵抗力を増すことができる点で好ましい。
【0037】
これらの図2に示す施工方法において用いられる突出防止具30、および、図3に示す施工方法において用いられる突出防止具32のいずれをも構成する既設PC鋼棒Bを内面に挟み込むとともに外面にテーパーを備えたウェッジWと、そのウェッジWのテーパー面に沿った内面を備えたスリーブSとについて詳しく説明する。ここで、突出防止具32のスリーブSについては、既設PC鋼棒Bの長手方向に後述するスリーブ100またはスリーブ200を2個並べて使用するのではなく、軸方向に一体化され、1つの部材に2つのテーパーを備えた1個の複合スリーブを使用しても構わない。以下においては、突出防止具32のスリーブSについては、既設PC鋼棒Bの長手方向に後述するスリーブ100またはスリーブ200を2個並べて使用するものとして説明する。このため、後述する施工手順(既設PC鋼棒突出防止工法)については、図2の第一位置P(1)についてのみ説明する。
【0038】
なお、本実施の形態に係る突出防止具においては、スリーブSは大きく分別すると2種類あり(図4図8に示す内筒外筒タイプと図9に示すスリット壁面連結タイプ)、ウェッジWは2種類あるために(ウェッジWは分割数のみ異なり、スリーブSは構造が大きく異なる)、
図4図6を用いてスリーブSとしてスリーブ100(内筒外筒タイプのせん断キー接合型)を説明するとともにウェッジWとしてウェッジ140(3分割)を説明して、
図7および図8を用いてスリーブSとしてスリーブ200(内筒外筒タイプのねじ螺合型)を説明するとともにウェッジWとしてウェッジ240(2分割)を説明して、
図9を用いてスリーブSとしてスリーブS10およびS20(スリット壁面連結タイプ)を説明する(図9におけるウェッジWはウェッジ240(3分割)と同じ)。
【0039】
さらに、これらに共通して用いることのできる2つの変形例を図11および図12を用いて説明する。
なお、本発明に係る突出防止具として採用可能な中間定着具が公知である。公知技術であるために詳しくは説明しないが、すでに緊張力が導入され、両端部が構造物に定着されている緊張材(PC鋼棒を含むPC鋼材)の中間部に取り付けられて、緊張材に緊張力が導入された状態を維持したまま周囲にある構造物に緊張材を定着させるものである。たとえば、特開2018-017029号公報に記載された、互いに分離可能で対となる半割ブロックを結合して定着ブロックが形成され、対となる半割ブロック間に形成された中空孔に緊張状態の緊張材が挿通され、その後に対となる半割ブロックを緊張材の軸線方向に配列された複数列のボルトにより互いに結合させるものである。この中空孔でスリーブを形成してこのスリーブに対応するウェッジを組み合わせて中間定着具(特開2018-017029号公報に記載の中間定着具においてスリーブにウェッジを組み合わせた構成は、半割スリーブと半割ウェッジを用いて半割スリーブをボルト締結する構成となりこの構成は本願の一出願人により出願された実開昭57-084220号公報に記載の中間定着具と略等しい)としたものを、以下の説明において、先行技術または比較例として記載する場合がある。
【0040】
<1:内筒外筒タイプ:せん断キー接合型>
まず、スリーブ100およびウェッジ140について説明する。
突出防止具30(または突出防止具32において2個使用される突出防止具30であるが以下においては単に突出防止具30と記載する)を構成する、スリーブ100の平面図を図4(A)に、ウェッジ140の平面図を図4(B)に、図4に示すスリーブ100(スリーブSに相当)が、ウェッジ140(ウェッジWに相当)に組み合わせられるスリーブとして機能する状態を示す平面図を図5(A)に、スリーブとして機能する状態におけるせん断キーの機能を説明するための図を図5(B)に、それらのスリーブ100およびウェッジ140を用いてスリーブ100(スリーブSに相当)が、ウェッジ140(ウェッジWに相当)に組み合わせられるスリーブとして機能するようにして、突出防止具30を、PC構造物から露出させた既設PC鋼棒Bに装着する手順を説明するための図を図6に、それぞれ示す。
【0041】
この突出防止具30は、図4(A)に示すスリーブ100とそのスリーブ100に組み合わせられる図4(B)に示すウェッジ140とにより構成される。なお、図4(A)において左側に描かれた側面図(一部断面図)は右側に描かれた正面図に示す矢示X方向から見た図であって、図4(B)において左側に描かれた側面図および右側に描かれた正面図は3分割されたウェッジ片を組み合わせてウェッジ140とした図である。ここで、正面図とは既設PC鋼棒Bの長手方向に垂直な面から見た図であって、側面図とは、既設PC鋼棒Bの長手方向に平行な面から見た図である(以下において同じ)。
【0042】
図4(B)に示すように、ウェッジ140は、既設PC鋼棒Bの長手方向に垂直な面から見て2以上のウェッジ片(ここでは3分割されているために3つのウェッジ片142、ウェッジ片144およびウェッジ片146)に分割されている。このように分割されているので、既設の既設PC鋼棒Bに装着することができる。また、ウェッジ140は3つのウェッジ片を組み合わせることによりテーパー140Tを備えることになる。
【0043】
図4(A)に示すように、スリーブ100は、ウェッジ140のテーパー140Tに組み合わせられるテーパー100Tを備えた中空円筒形状の内筒側のスリーブ片110と内筒側のスリーブ片110とせん断キーKにより接合される中空円筒形状の外筒側のスリーブ片120とに分割されている。内筒側のスリーブ片110の外表面116にはせん断キーKを内包するキー溝118が、外筒側のスリーブ片120の内表面126にはせん断キーKを内包するキー溝128が、それぞれ設けられている。また、キー溝からせん断キーKがPC鋼棒Bの長手方向に移動することを抑制するために、たとえば、内筒側のスリーブ片110のキー溝118の溝底面に穴を設けてせん断キーに設けられた突起部を係合させる(さらに、溝底面に雌ねじ穴を切るとともにせん断キーKを貫通する雌ねじ穴を切って全ねじボルト(所謂いもねじと呼ばれることもある全長に亘って雄ねじが切られて端面に六角穴が設けられたボルト)によりせん断キーKの雌ねじ穴と溝底面の雌ねじ穴とを螺合させる)ことも好ましい(せん断キーKに点線で図示)。内筒側のスリーブ片110および外筒側のスリーブ片120は既設PC鋼棒Bの長手方向に垂直な面から見て既設PC鋼棒Bが挿入可能な切欠き部(内筒側のスリーブ片110における本体112の一部を切り欠いた切欠き部114および外筒側のスリーブ片120における本体122の一部を切り欠いた切欠き部124)を備える。
【0044】
さらに、内筒側のスリーブ片110と外筒側のスリーブ片120とは、それぞれのキー溝118(内筒側のスリーブ片110)およびキー溝128(外筒側のスリーブ片120)にせん断キーKが内包されて、スリーブ片110とスリーブ片120とが接合されることによりスリーブ100として一体化されてウェッジ140に組み合わせられるスリーブとして機能することになる。
【0045】
さらに詳しくは、スリーブ片110は、中心に既設PC鋼棒Bが挿通される(挿通される既設PC鋼棒Bに対応した)テーパー100Tを備えた本体112を備え、その本体112の一部が切欠き部114とされているためにテーパー100Tが全周にわたって存在するものではなく、切欠き部114の部分だけテーパー100Tが存在しないがこの突出防止具30としての機能には問題がない。
【0046】
ここで、せん断キーKの機能について図5を参照して説明する。図5(A)は、スリーブ片110とスリーブ片120とが接合されることによりスリーブ100として一体化さ
れてウェッジ140に組み合わせられるスリーブとして機能する状態のスリーブ100とウェッジ140と(より詳しくはせん断キーKと)から構成される突出防止具30の側面図(左側)および正面図(右側)を示している。図5(A)に示すスリーブ100(より詳しくは内筒側のスリーブ片110と外筒側のスリーブ片120)とウェッジ140と(より詳しくはせん断キーKと)から構成される突出防止具30において、既設PC鋼棒Bをウェッジ140が挟持して既設PC鋼棒Bに緊張力が作用すると(より具体的には既設PC鋼棒Bが破断した時に)、ウェッジ140がくさび効果により内筒側のスリーブ片110に喰い込んで(図5(B)の黒塗り矢示)切欠き部114が拡張しよう(切欠き部114の切欠き幅が広がろう)とする(図5(B)の曲線矢示)。このとき、内筒側のスリーブ片110と外筒側のスリーブ片120とは(互いのキー溝118およびキー溝128に内包された)せん断キーKを介して接合されているために、せん断キーKによる引っ掛かりにより内筒側のスリーブ片110の変形(切欠き部114の拡張)がせん断キーKを介して外筒側のスリーブ片120に伝達されるために、内筒側のスリーブ片110の変形(切欠き部114の拡張)を外筒側のスリーブ片120が負担することになる。このため、内筒側のスリーブ片110の変形が抑制されて、所望のくさび効果が発現して、所望の緊張力を(破断した)既設PC鋼棒Bに付与することができる。
【0047】
このような構造を備えた突出防止具30は、図2に示す第一位置P(1)、第二位置P(2)または第三位置P(3)において、以下のように既設PC鋼棒Bに装着される。ここでは、(テーパーの向きが異なるだけであるために)図2の第一位置P(1)における突出防止具30の既設PC鋼棒Bへの装着手順について説明する。なお、突出防止具30を装着する既設PC鋼棒Bがコンクリートに埋設されている場合にはコンクリートを斫って、緊張状態の既設PC鋼棒Bを露出させる露出ステップが、以下に説明するウェッジ装着ステップの前に必要となるが、露出箇所等についての詳細は上述したため、ここでは繰り返して説明しない(以下において同じ)。
【0048】
図6(A)に示すように、ウェッジ140のテーパー140Tが狭まる方向が表面への方向(ここでは上床版14)になるように、分割された2以上のウェッジ片(ここでは3分割されているために3つのウェッジ片142、ウェッジ片144およびウェッジ片146)を露出した既設PC鋼棒Bに、ウェッジ装着ステップとして装着する(ウェッジ側の黒塗り矢示参照)。
【0049】
スリーブ100のテーパー100Tが狭まる方向が表面への方向(ここでは上床版14)になるように、分割されたスリーブ片(ここでは2分割されているために2つの内筒側のスリーブ片110および外筒側のスリーブ片120)を露出した既設PC鋼棒Bに、スリーブ装着ステップとして装着する(スリーブ側の黒塗り矢示参照)。より詳しくは、図6(A)における左右方向から2つの内筒側のスリーブ片110および外筒側のスリーブ片120を既設PC鋼棒Bへ接近させて装着する。
【0050】
次に、図6(B)に示すように、分割されたスリーブ片(ここでは2分割されているために2つの内筒側のスリーブ片110および外筒側のスリーブ片120)をスリーブ100として一体化してウェッジ140に組み合わせられるスリーブとして機能させるために(スリーブ機能化ステップのために)、内筒側のスリーブ片110の外周面116に設けられたキー溝118に内包されたせん断キーKが、外筒側のスリーブ片120の内周面126に設けられたキー溝128に内包されるように(逆に、外筒側のスリーブ片120の内周面126に設けられたキー溝128に内包されたせん断キーKが、内筒側のスリーブ片110の外周面116に設けられたキー溝118に内包されるようにでも構わない)、既設PC鋼棒Bの長手方向において内筒側のスリーブ片110と外筒側のスリーブ片120とを接近せしめて(いずれか一方または双方を既設PC鋼棒Bの長手方向にスライドさせて)、内筒側のスリープ片110と外筒側のスリープ片120とを接合させる。これにより分割されていたスリーブ片(ここでは2分割されているために2つの内筒側のスリーブ片110および外筒側のスリーブ片120)がスリーブとして一体化されてウェッジ140に組み合わせられるスリーブ100として機能させることができるようになる。
【0051】
最後に、露出された既設PC鋼棒Bに装着された分割された2以上のウェッジ片(ここ
では3分割されているために3つのウェッジ片142、ウェッジ片144およびウェッジ片146)を、ウェッジ140のテーパー140Tの向きとスリーブ100のテーパー100Tの向きとを一致させて、一体化されてウェッジ140に組み合わせられるスリーブとして機能させることができるようになったスリーブ100に、挿入ステップとして挿入する。
このようにして、図2の第一位置P(1)に突出防止具30が既設PC鋼棒Bへ装着される。このような突出防止具30の既設PC鋼棒Bへの装着作業は、プレストレストコンクリート部材(一例としてPC箱桁橋10)を供用しながら(橋梁を封鎖することなく)作業することが可能である。
【0052】
<2:内筒外筒タイプ:ねじ螺合型>
次に、スリーブ200およびウェッジ240について説明する。
突出防止具30を構成するスリーブ200の平面図を図7(A)に、ウェッジ240の平面図を図7(B)に、それらのスリーブ200およびウェッジ240を用いてスリーブ200(スリーブSに相当)が、ウェッジ240(ウェッジWに相当)に組み合わせられるスリーブとして機能するようにして、突出防止具30を、PC構造物から露出させた既設PC鋼棒Bに装着する手順を説明するための図を図8に、それぞれ示す。
【0053】
この突出防止具30は、図7(A)に示すスリーブ200とそのスリーブ200に組み合わせられる図7(B)に示すウェッジ240とにより構成される。なお、図7(A)において左側に描かれた側面図(一部断面図)は右側に描かれた正面図に示す矢示X方向から見た図であって、図7(B)において左側に描かれた側面図および右側に描かれた正面図は2分割されたウェッジ片を組み合わせてウェッジ240とした図である。
【0054】
図7(B)に示すように、ウェッジ240は、既設PC鋼棒Bの長手方向に垂直な面から見て2以上のウェッジ片(ここでは2分割されているために2つのウェッジ片242およびウェッジ片244)に分割されている。このように分割されているので、既設の既設PC鋼棒Bに装着することができる。また、ウェッジ240は2つのウェッジ片を組み合わせることによりテーパー240Tを備えることになる。
【0055】
図7(A)に示すように、スリーブ200は、ウェッジ240のテーパー240Tに組み合わせられるテーパー200Tを備え外ねじ(雄ねじ)216を備えた内筒側のスリーブ片210と、内筒側のスリーブ片210の外ねじ(雄ねじ)216に螺合される内ねじ(雌ねじ)226を備えた外筒側のスリーブ片220とに分割されている。内筒側のスリーブ片210および外筒側のスリーブ片220は既設PC鋼棒Bの長手方向に垂直な面から見て既設PC鋼棒Bが挿入可能な切欠き部(内筒側のスリーブ片210における本体部212の一部を切り欠いた切欠き部214および外筒側のスリーブ片220における本体部222の一部を切り欠いた切欠き部224)を備える。なお、既設PC鋼棒Bが挿入可能な切欠き部は、内筒側のスリーブ片210が少なくとも備えればよく、外筒側のスリーブ片220と内筒側のスリーブ片110とが接合できる構造であれば既設PC鋼棒Bが挿入可能な切欠き部224を必ずしも備える必要はない。たとえば、外筒側のスリーブ片220は、たとえばFRP製のシートで、内筒側のスリーブ片210と外筒側のスリーブ片220とは、内筒側のスリーブ片210の外周にシート状の外筒側のスリーブ片220を巻き付けることによりスリーブとして一体化されてウェッジ240に組み合わせられるスリーブとして機能するものであれば構わない。この場合には、シート状の外筒側のスリーブ片220の切欠き部224は必須の構成ではないものとなる。さらに、内筒側のスリーブ片210と外筒側のスリーブ片220とは外ねじ(雄ねじ)216と内ねじ(雌ねじ)226とが螺合することによりスリーブ200として一体化されてウェッジ240に組み合わせられるスリーブとして機能することになる。
【0056】
さらに詳しくは、スリーブ片210は、中心に既設PC鋼棒Bが挿通される(挿通される既設PC鋼棒Bに対応した)テーパー200Tを備えた本体212を備え、その本体212の一部が切欠き部214とされているためにテーパー200Tが全周にわたって存在するものではなく、切欠き部214の部分だけテーパー200Tが存在しないがこの突出防止具30としての機能には問題がない。
【0057】
このような構造を備えた突出防止具30は、図2に示す第一位置P(1)、第二位置P(2)または第三位置P(3)において、以下のように既設PC鋼棒Bに装着される。ここでは、(テーパーの向きが異なるだけであるために)図2の第一位置P(1)における突出防止具30の既設PC鋼棒Bへの装着手順について説明する。
図8(A)に示すように、ウェッジ240のテーパー240Tが狭まる方向が表面への方向(ここでは上床版14)になるように、分割された2以上のウェッジ片(ここでは2分割されているために2つのウェッジ片242およびウェッジ片244)を露出した既設PC鋼棒Bに、ウェッジ装着ステップとして装着する(ウェッジ側の黒塗り矢示参照)。
【0058】
スリーブ200のテーパー200Tが狭まる方向が表面への方向(ここでは上床版14)になるように、分割されたスリーブ片(ここでは2分割されているために2つの内筒側のスリーブ片210および外筒側のスリーブ片220)を露出した既設PC鋼棒Bに、スリーブ装着ステップとして装着する(スリーブ側の黒塗り矢示参照)。より詳しくは、図8(A)における左右方向から2つの内筒側のスリーブ片210および外筒側のスリーブ片220を既設PC鋼棒Bへ接近させて装着する。
【0059】
次に、図8(B)に示すように、分割されたスリーブ片(ここでは2分割されているために2つの内筒側のスリーブ片210および外筒側のスリーブ片220)をスリーブ200として一体化してウェッジ240に組み合わせられるスリーブとして機能させるために(スリーブ機能化ステップのために)、内筒側のスリーブ片210の外ねじ(雄ねじ)216と外筒側のスリーブ片220の内ねじ(雌ねじ)226とを螺合させる。これにより分割されていたスリーブ片(ここでは2分割されているために2つの内筒側のスリーブ片210および外筒側のスリーブ片220)がスリーブとして一体化されてウェッジ240に組み合わせられるスリーブ200として機能させることができるようになる。
【0060】
最後に、露出された既設PC鋼棒Bに装着された分割された2以上のウェッジ片(ここでは2分割されているために2つのウェッジ片242およびウェッジ片244)を、ウェッジ240のテーパー240Tの向きとスリーブ200のテーパー200Tの向きとを一致させて、一体化されてウェッジ240に組み合わせられるスリーブとして機能させることができるようになったスリーブ200に、挿入ステップとして挿入する。
このようにして、図2の第一位置P(1)に突出防止具30が既設PC鋼棒Bへ装着される。このような突出防止具30の既設PC鋼棒Bへの装着作業は、プレストレストコンクリート部材(一例としてPC箱桁橋10)を供用しながら(橋梁を封鎖することなく)作業することが可能である。
【0061】
<3:スリット壁面連結タイプ>
上述したスリーブ100とウェッジ140とから構成される突出防止具30もスリーブ200とウェッジ240とから構成される突出防止具30も、いずれも内筒外筒タイプであったが、次に、スリット壁面連結タイプのスリーブS10、スリーブS11およびスリーブS20を含む突出防止具30について、図9を参照して以下に詳しく説明する。なお、スリーブS10、スリーブS11およびスリーブS20に組み合わせられる図9に示すウェッジWは、上述した3分割されたウェッジ片から構成されるウェッジ140と同じであるために、ここでは繰り返して説明しない。
【0062】
突出防止具30を構成する、連結部材として頭付き六角穴付きボルト(以下においてキャップボルトと記載)T10を用いたスリーブS10の平面図を図9(A)に、連結部材として頭なし六角穴付きボルト(全ねじボルト、所謂いもねじ、以下において全ねじボルトと記載)T20を用いたスリーブS11の平面図を図9(B)に、スリーブS10およびスリーブS11とは異なるスリーブS20の平面図を図9(C)に、それぞれ示す。なお、図9(C)に示すスリーブS20は連結部材としてキャップボルトT10を用いているが、連結部材として全ねじボルトT20を用いても構わない。
【0063】
これらの図9に示すスリット壁面連結タイプは、上述した内筒外筒タイプ(分割型)と異なり、ウェッジWに組み合わせられるテーパーを備えるとともに、既設PC鋼棒Bの長手方向に垂直な面から見て既設PC鋼棒Bが挿入可能なスリット部を備え、このスリット部において互いに対向する壁面が連結部材を用いて連結されることにより垂直な面から見
たスリット部の間隔が規制されてウェッジWに組み合わせられるスリーブとして機能するものである。
【0064】
図9(A)に示すスリーブS10および図9(B)に示すスリーブS11は、連結部材が異なるものの(図9(A)がキャップボルトT10で図9(B)が全ねじボルトT20)、スリーブの構造は、部位B10に設けられる穴が穴H10(スリーブS10)と雌ねじ穴H11(スリーブS11)とで異なる以外は同じである。このスリーブS10およびスリーブS11は偏心した中空部(この中空部にウェッジ140および既設PC鋼棒Bが内包される)を備えた中空円筒形状を備える。そして、偏心により、肉厚が厚い側(部位B10および部位B12がある側)に既設PC鋼棒Bが挿入可能なスリット部を備え、このスリット部において互いに対向する壁面が連結部材を用いて連結される。
【0065】
図9(A)に示すスリーブS10のように、連結部材がキャップボルトT10である場合には、スリット部において互いに対向する壁面の少なくとも一方(ここでは一方の壁面である)の壁面(ここでは部位B12側の壁面とする)に設けられた雌ねじ穴H12と、他方の壁面(ここでは部位B10側の壁面とする)に設けられた穴H10とを備え、穴H10(ねじ穴ではなく貫通穴)を通されたキャップボルトT10の雄ねじが雌ねじ穴H12に螺合されて、互いに対向する壁面が連結されることにより、垂直な面から見たスリット部の間隔が規制されてウェッジWに組み合わせられるスリーブとして機能するものである。
【0066】
これに対して、図9(B)に示すスリーブS11のように、連結部材が全ねじボルトT20である場合には、スリット部において互いに対向する壁面の少なくとも一方(ここでは両方の壁面である)の壁面(ここでは部位B12側の壁面とする)に設けられた雌ねじ穴H12と、他方の壁面(ここでは部位B10側の壁面とする)に設けられた雌ねじ穴H11とを備え、雌ねじ穴H11に螺合して通された全ねじボルトT20の雄ねじが雌ねじ穴H12に螺合されて、互いに対向する壁面が連結されることにより、垂直な面から見たスリット部の間隔が規制されてウェッジWに組み合わせられるスリーブとして機能するものである
図9(B)に示すスリーブS11においては、部位B12側に雌ねじ穴H12を設けるのみならず部位B10側も雌ねじ穴H11を設けた上で連結部材として全ねじボルトT20を用いているために、部位B10側には雌ねじ穴ではなく穴H10を設けた上で連結部材としてキャップボルトT10を用いている図9(A)に示すスリーブS10と比較して、連結部材による過度の締め付けを防止することができる点が異なる。
【0067】
次に、図9(C)に示すスリーブS20は、図9(A)に示すスリーブS10および図9(B)に示すスリーブS11と比較して、偏心した中空部(この中空部にウェッジ140および既設PC鋼棒Bが内包される)を備えた中空角柱形状を備える。すなわち、図9(A)に示すスリーブS10および図9(B)に示すスリーブS11が中空円筒形状であるのに対して、図9(C)に示すスリーブS20は中空角柱形状である点が異なる。そして、偏心により、肉厚が厚い側(部位B10および部位B12がある側)に既設PC鋼棒Bが挿入可能なスリット部を備え、このスリット部において互いに対向する壁面が連結部材を用いて連結されることにより、垂直な面から見たスリット部の間隔が規制されてウェッジWに組み合わせられるスリーブとして機能する点は、スリーブS20もスリーブS10およびスリーブS11と同じである。
【0068】
より詳しくは、図9(A)に示したスリーブS10と同じく、スリーブS20においても、穴H10(ねじ穴ではなく貫通穴)を通されたキャップボルトT10の雄ねじが雌ねじ穴H12に螺合されて、互いに対向する壁面が連結されることにより、垂直な面から見たスリット部の間隔が規制されてウェッジWに組み合わせられるスリーブとして機能するものである。なお、上述したように、図9(C)に示すスリーブS20は連結部材としてキャップボルトT10を用いているが、連結部材として全ねじボルトT20を用いても構わない。このときには、図9(B)に示したスリーブS11と同じく、スリーブS20においても、雌ねじ穴H11を螺合して通された全ねじボルトT20の雄ねじが雌ねじ穴H12に螺合されて、互いに対向する壁面が連結されることにより、垂直な面から見たスリ
ット部の間隔が規制されてウェッジWに組み合わせられるスリーブとして機能するものである。
【0069】
図9に示すように、連結部材は、互いに対向する壁面の少なくとも一方の壁面に設けられた雌ねじ穴と、他方の壁面に設けられた穴を通された雄ねじとを含み、雌ねじ穴に雄ねじが螺合されて壁面が連結されることにより既設PC鋼棒Bの長手方向に垂直な面から見たスリット部の間隔が規制されることにより、スリーブとして機能する。そして、この場合において、雌ねじ穴に螺合する雄ねじの径を変更することにより、既設PC鋼棒Bの長手方向に垂直な面から見たスリット部の間隔を規制した際に連結部材の剛性が変更されるためにPC鋼棒Bが破断した際の緩衝能力を調整できる特徴を備える。
【0070】
このような構造を備えた突出防止具30は、図2に示す第一位置P(1)、第二位置P(2)または第三位置P(3)において、以下のように既設PC鋼棒Bに装着される。ここでは、(テーパーの向きが異なるだけであるために)図2の第一位置P(1)における突出防止具30の既設PC鋼棒Bへの装着手順について説明する。以下においては、図9(A)に示す突出防止具30を使用する場合について説明する。
【0071】
図示しないが、ウェッジ140のテーパー140Tが狭まる方向が表面への方向(ここでは上床版14)になるように、分割された2以上のウェッジ片(ここでは3分割されているために3つのウェッジ片142、ウェッジ片144およびウェッジ片146)を露出した既設PC鋼棒Bに、ウェッジ装着ステップとして装着する。
スリーブ100のテーパー100Tが狭まる方向が表面への方向(ここでは上床版14)になるように、スリット部を備えたスリーブS10を露出した既設PC鋼棒Bに、スリーブ装着ステップとして装着する。より詳しくは、スリーブS10のスリット部から既設PC鋼棒Bを挿入させて装着する。
【0072】
次に、スリーブS10のスリット部における互いに対向する壁面の1つを構成する部位に設けられた穴H10(ねじ穴ではなく貫通穴)を通されたキャップボルトT10の雄ねじを雌ねじ穴H12に螺合させて、互いに対向する壁面が連結されることにより、垂直な面から見たスリット部の間隔が規制されてウェッジWに組み合わせられるスリーブとして機能させる(スリーブ機能化ステップ)。これによりスリット部を備えたスリーブS10において、スリット部における互いに対向する壁面が連結されることにより、垂直な面から見たスリット部の間隔が規制されてウェッジWに組み合わせられるスリーブ(ここではスリーブ100とする)として機能させることができるようになる。
【0073】
最後に、露出された既設PC鋼棒Bに装着された分割された2以上のウェッジ片(ここでは3分割されているために3つのウェッジ片142、ウェッジ片144およびウェッジ片146)を、ウェッジ140のテーパー140Tの向きとスリーブ100のテーパー100Tの向きとを一致させて、一体化されてウェッジ140に組み合わせられるスリーブとして機能させることができるようになったスリーブ100に、挿入ステップとして挿入する。
このようにして、図2の第一位置P(1)に突出防止具30が既設PC鋼棒Bへ装着される。このような突出防止具30の既設PC鋼棒Bへの装着作業は、プレストレストコンクリート部材(一例としてPC箱桁橋10)を供用しながら(橋梁を封鎖することなく)作業することが可能である。
【0074】
<第1の評価>
このような突出防止具30(既設PC鋼棒突出防止具)およびこの突出防止具30を用いた施工方法(既設PC鋼棒突出防止工法)の評価(コンクリート部材の外にPC鋼棒が突出することを防止することができるか否か等)について、供試体(全長13.7mで破断位置は最大12m)を用いて試験した結果について、図10を参照して説明する。
図10に示すように、ウェブ20を模した供試体(緊張されたPC鋼棒により圧縮力が付与されているプレストレストコンクリート)において、供試体の表面(上述した上床版14近傍に対応する図10における右端)からの長さL(1)の位置の既設PC鋼棒Bに突出防止具30を上述した手順で取り付けた。
【0075】
ここで、図10における箱抜きPC打設とは、突出防止具30を既設PC鋼棒Bに取り
付けた後にコンクリートで埋め戻した場合を意味しており、ジャッキを用いず手で押し込んだとは、上述したウェッジ装着ステップにおいてジャッキを用いることなく作業者の手作業によりウェッジWをスリーブSに挿入した場合を意味しており、ジャッキを用いず手で押し込んだ以外は、上述したウェッジ装着ステップにおいてジャッキを用いてウェッジWを(グラフ横軸の圧入力で)スリーブSに挿入した。
【0076】
また、既設PC鋼棒Bの破断については故意的に切断することにより模擬しており、突出防止具30から2m、4m、8mおよび12mの位置で既設PC鋼棒を切断した。なお、パラメータは挿入ステップにおける(ジャッキまたは手作業)のウェッジをスリーブに挿入する圧入力(図10のグラフの横軸)であって、既設PC鋼棒Bを切断した後の突出防止具30と上床版との間(長さL(1)の範囲)における緊張力(図10のグラフの縦軸)である。
【0077】
(評価その1)
いずれの場合にも、ウェブ20を模した供試体(コンクリート部材)の外に既設PC鋼棒Bが突出することはなく、既設PC鋼棒が破断したときに突出することが適切に防止できることを確認することができた。
(評価その2)
突出防止具30と上床版との間(長さL(1)の範囲)において、図10に示すように、一部を除いて緊張力が残存しており緊張力が0ではないためにこの部分の既設PC鋼棒がずれたり動いたりすることが防止できることが判明した。すなわち、大きな緊張力は残存していなかった。ただし、この再破断が発生する場所は、そもそも上床版14と第一位置P(1)に設けられた突出防止具30との間でPC鋼棒が最初に破断した場合であっても上床版方向へのPC鋼棒の破断エネルギーは小さく、かぶりコンクリートにより破断エネルギーを吸収することができるとして第一長さL(1)、第二長さL(2)および第三長さL(3)を0.25m~2.0mと設定しているために、大きな問題ではない。
【0078】
(評価その3)
評価その2における一部には、緊張力がほぼ残存していない場合(たとえば作業者の手作業によりウェッジWをスリーブSに挿入した場合)を含むものの、そのように作業者の手作業によりウェッジWをスリーブSに挿入した場合であっても評価その1のように、既設PC鋼棒が破断したときに突出することが適切に防止できることを確認することができた。
このように、上述したウェッジ装着ステップにおいては、ウェッジWをスリーブSに、ジャッキを用いて挿入するようにしても構わないし、ジャッキを用いることなく作業者の手作業により挿入するようにしても構わないことが明らかとなった。
【0079】
(評価その4)
箱抜き部を断面修復(埋め戻し)してもしなくても、既設PC鋼棒が破断したときに突出することが適切に防止できることを確認することができた。このため、この突出防止具30を既設PC鋼棒に装着した後に(ウェッジ装着ステップの後に)、斫ったコンクリートを埋め戻す必要がないことが明らかになった。
以上のようにして、供用中のプレストレストコンクリート部材に圧縮力を付与している既設のPC鋼棒が破断した場合に発生する大きな衝撃力によりコンクリート部材の外にPC鋼棒が突出することを、供用しながらの作業により防止することのできる既設PC鋼棒突出防止工法およびそれに用いる既設PC鋼棒突出防止具を提供することができる。
【0080】
<変形例>
以下において、本発明の実施の形態の変形例に係る(既設のプレストレストコンクリート部材に圧縮力を付与している既設PC鋼棒が破断した場合の衝撃力を受け止めてコンクリート部材の外部に既設PC鋼棒が突出することを防止する)突出防止具について説明する。以下において説明する第1の変形例に係る突出防止具および第2の変形例に係る突出防止具は、狭小かつ暗い空間でウェッジ(くさび、楔)をセットするため施工状況を容易に確認・判断できることを目的としており、さらに詳しくは、ウェッジ自体の存在確認およびウェッジのセット位置の保持(脱落防止)の確認を容易にするための構造を備える。
なお、ウェッジ自体の存在確認以外およびウェッジのセット位置の保持(脱落防止)の確認以外の既設PC鋼棒突出防止工法については上述した説明と同じであるためにここでは繰り返さない。また、以下において、上述した構造と同じ構造を備えた部材(たとえばウェッジ等)については同じ符号を付しており、その構造も作用効果も同じであるためにここでは繰り返して説明しない。
【0081】
さらに、以下に示す2つの変形例に係る突出防止具は、図7に示した突出防止具を基本的な構造としているが、図7に示すようにスリーブは外ねじを備えた内筒側のスリーブ片と内筒側のスリーブ片の外ねじに螺合される内ねじを備えた外筒側のスリーブ片とに分割され、内筒側のスリーブ片と外筒側のスリーブ片とは内ねじと外ねじとが螺合することによりスリーブとして一体化されるものには限定されない。たとえば、内筒側のスリーブ片と外筒側のスリーブ片とは、止めねじ取付け穴を通された止めねじが止めねじ用タップに螺合することによりスリーブとして一体化されるものであっても構わない。なお、図11および図12においては、これらの変形例についての容易な理解のために、ハッチングを付していない断面があったり、既設PC鋼棒Bを一部の図にしか記載していない場合があったりする。また、図11(G)は図11(F)のA-A断面を示し、図12(G)は図12(F)のA-A断面を示す。
【0082】
<<第1の変形例>>
図11に示すように、本変形例に係る突出防止具は、押えプレートタイプであって、ウェッジ自体の存在確認についてはウェッジ後端にスリーブ後端から突出する突起を設けて視認可能にすることにより実現しており、ウェッジのセット位置の保持(脱落防止)についてはスリーブとボルト接続可能な押えプレートを設けて、この押えプレートを所定の位置までボルトにより押え付けることにより実現している。
【0083】
さらに詳しくは、図11(E)および図11(E)のA-A断面を示す図11(A)に示すように、押えプレート300は、既設PC鋼棒Bの長手方向に垂直な面から見て既設PC鋼棒Bが挿入可能な切欠き部324を備えたたとえば金属製の平板であって、この押えプレート300を後述するスリーブ2100とボルト310により接続(より詳しくは外筒側のスリーブ片2220に設けられた雌ねじ穴2222とボルト310とを螺合させて接続)するためのボルト穴302を備える。
【0084】
図11(B)に示すように、ウェッジ340は上述した3分割タイプのウェッジ140に、ウェッジ340の後端にスリーブ2100の後端から突出する突起342を備えたものである。
図11(C)に示すように、外筒側のスリーブ片2220は上述した外筒側のスリーブ片220にボルト310と螺合するための雌ねじが設けられた雌ねじ穴2222を備えたものである。なお、図11(D)に示すように、内筒側のスリーブ片210は上述した内筒側のスリーブ片210と同じであるために同じ符号を付している。これらの図11(C)に示す外筒側のスリーブ片2220と図11(D)に示す内筒側のスリーブ片210とにより、本変形例に係る突出防止具におけるスリーブ2100が構成される。
【0085】
このような構造を備えた本変形例に係る突出防止具において、ウェッジ自体の存在確認およびウェッジのセット位置の保持(脱落防止)の確認方法について、図11(E)~図11(G)を参照して以下に説明する。
図11(A)に示した押えプレート300以外およびボルト310以外が既設PC鋼棒Bに図11(F)に示すように組付けられると、図11(E)に示す黒塗り矢示の方向へ、押えプレート300以外およびボルト310以外が既設PC鋼棒Bに組付けられた突出防止具へ、ボルト穴302と雌ねじ穴2222との位置が合致するように、押えプレート300がセットされる。
【0086】
押えプレート300のボルト穴302にボルト310を通して、雌ねじ穴2222にボルト310を(ここでは上下2箇所において十分に)螺合させる。このような作業過程において、ウェッジ340自体の存在確認についてはウェッジ340の後端にスリーブ2100の後端から突出する突起342を視覚により容易に確認することができる。また、スリーブ2100とボルト310により押えプレート300が螺合により確実に接続可能であるために、この押えプレート300が所定の位置(ボルト310が雌ねじ穴2222に十分に螺合する位置)までボルト310により押え付けられることにより、セット位置の担保と脱落防止とを容易に実現することができる。
【0087】
<<第2の変形例>>
図12に示すように、本変形例に係る突出防止具は、ワイヤークリップタイプであって、ウェッジ自体の存在確認についてはウェッジが存在しないとワイヤークリップの位置が定まらないために所定の位置にワイヤークリップが存在していることを視認することにより実現しており、ウェッジのセット位置の保持(脱落防止)についてはワイヤークリップでウェッジの端部を拘束するとともにワイヤークリップ端部をスリーブに固定してウェッジとスリーブとの位置関係を決定することにより実現している。
【0088】
さらに詳しくは、図12(A)に示すように、ワイヤークリップ400は、図12(A)の紙面の上下方向に対称な所定の形状を備えた金属ワイヤーである。このワイヤークリップ400は、後述するスリーブ2200(より詳しくは内筒側のスリーブ片2210の)スリーブのテーパーが狭まる方向の端面に設けられた嵌合穴2212に嵌入される嵌入片402と、嵌入片402から(図12(A)に示す平面視で)略直角に曲げられてスリーブ2200のテーパーが狭まる方向の端面に位置することになる端面片404と、端面片404から(図12(A)に示す平面視で)略直角に曲げられてスリーブ2200の外周面(より詳しくは外筒側のスリーブ片220の外周面)に位置することになる外周面片406と、外周面片406から(図12(A)に示す平面視で)略直角に曲げられてスリーブ2200のテーパーが広がる方向の端面に位置することになる拘束端面片408と、拘束端面片408から連続してウェッジ140のテーパーが広がる方向の端面に設けられた拘束溝148に嵌入される(図12(F)に示す方向から見た)円弧状の拘束円弧片410とから構成される。
【0089】
このワイヤークリップ400における特徴的な構造は、スリーブ2200のテーパーが狭まる方向の端面に設けられた嵌合穴2212に嵌入される嵌入片402とウェッジ140の拘束溝148に嵌入される円弧状の拘束円弧片410とを備えることである。なお、図12(A)の寸法Lはスリーブ2200における既設PC鋼棒Bの長手方向の長さに対応している。
図12(B)に示すように、ウェッジ140は、上述した3分割タイプのウェッジ140と同じであるために同じ符号を付している。なお、図4(B)においては、ウェッジ140に拘束溝148の符号を付していない。
【0090】
図12(C)に示すように、内筒側のスリーブ片2210は上述した内筒側のスリーブ片210にワイヤークリップ400の嵌入片402が嵌入される嵌合穴2212を備えたものである。なお、図12(C)に示すように、外筒側のスリーブ片220は上述した外筒側のスリーブ片220と同じであるために同じ符号を付している。これらの図12(C)に示す外筒側のスリーブ片220と図12(D)に示す内筒側のスリーブ片2210とにより、本変形例に係る突出防止具におけるスリーブ2200が構成される。
このような構造を備えた本変形例に係る突出防止具において、ウェッジ自体の存在確認およびウェッジのセット位置の保持(脱落防止)の確認方法について、図12(F)~図12(G)を参照して以下に説明する。
【0091】
図12(A)に示したワイヤークリップ400以外が既設PC鋼棒Bに組付けられると、図12(E)および図12(G)に示すように、ワイヤークリップ400の嵌入片402がスリーブ2200のテーパーが狭まる方向の端面に設けられた嵌合穴2212に嵌入されるとともに、ワイヤークリップ400の拘束円弧片410がウェッジ140の拘束溝148に嵌入されるようにして、ワイヤークリップ400がセットされる。このような作業過程において、ウェッジ140自体の存在確認については所定の位置にワイヤークリップ400が存在していることを視認することでウェッジの存在を容易に確認することができる。また、ワイヤークリップ400でウェッジ140端部における拘束溝148を拘束するとともにワイヤークリップ400の端部(嵌入片402)をスリーブ(嵌合穴2212)に固定することによりウェッジとスリーブとの位置関係を決定することによりセット位置の担保と脱落防止とを容易に実現することができる。
【0092】
<第2の評価>
このような突出防止具30(既設PC鋼棒突出防止具)およびこの突出防止具30を用いた施工方法(既設PC鋼棒突出防止工法)の評価について、参考重量(ウェッジを含む)とともに、供試体を用いて試験した結果について、図13を参照して説明する。
なお、先行技術は特開2018-017029号公報に記載の中間定着具においてスリーブにウェッジを組み合わせた構成でボルト4本締めの中間定着具を突出防止具30として採用したものであって、実施例2が図9(A)に示す突出防止具30であって、実施例3が図9(B)に示す突出防止具30であって、実施例4が図9(C)に示す突出防止具30であって、実施例5が図4図6に示す突出防止具30である。
【0093】
図13(A)に示すように、先行技術(スリーブ2分割、締結ボルト4本、参考重量8.8kg)に対して、実施例2(スリーブ分割なし、締結ボルト2本、参考重量6.2kg)、実施例3(スリーブ分割なし、締結ボルト2本、参考重量6.1kg)、実施例4(スリーブ分割なし、締結ボルト2本、参考重量6.8kg)、実施例5(スリーブ2分割、締結ボルト2本、参考重量8.0kg)、と、部品点数の低減、重量の低減、締結作業工数の削減が認められ、施工性が向上した。
【0094】
次に、性能確認試験結果(静的引張試験)の結果を図13(B)に示す。
試験概要としては、横型引張試験機に(PC鋼材の一例として)PC鋼棒32mm(B種2号)を配置し、一端をPC鋼棒で一般的に使用される定着ナット、他端を本発明に係る突出防止具で定着した状態で引張試験を実施する。試験時の最大荷重を記録して、PC鋼棒の規格最大引張荷重(949kN)に対する最大荷重の割合を示す定着効率を算出する。
【0095】
このような試験の結果を図13(B)に示す。実施例2~実施例4においては、定着効率が100%以上となり、破断位置も本発明に係る突出防止具の位置ではなく定着ナットであったことより突出防止具(既設PC鋼棒破断時の定着具)として十分な性能を確認することができた。なお、実施例3については、実施例2と同形状・同ボルト径とすることで同様の性能が見込める。また、実施例5については、他の実施例に比べて定着効率(既設PC鋼棒破断時の突出防止効率に繋がる)は小さいものの、せん断キーKの破壊により最大荷重が決定しているためにおり、せん断キーKの断面形状等を見直すことで定着効率の上昇が見込める。
【0096】
次に、性能確認試験結果(衝撃試験)について、図13(C)に示す供試体を用いて試験した結果を図13(D)に示す。
試験概要としては、図13(C)に示すように、横型引張試験機にPC鋼棒26mm(B種1号)とPC鋼棒32mm(B種2号)とを接続した状態で設置して、PC鋼棒32mmに専用架台を介して既設PC鋼棒突出防止具(突出防止具30)を配置する。その状態で引張試験を開始し、荷重500kNの時にミニジャッキを用いて60kNの力でくさびを押込んだ後、引張試験を再開してPC鋼棒26mm(規格最大引張荷重574kN以上)を破断させる。
【0097】
この試験結果を図13(D)に示す。
この図13(D)に示すように、先行技術に対して、本発明の実施の形態に係る突出防止具30である実施例2~実施例5はいずれも残存張力が低く抑えられており、既設PC鋼棒の破断時にその突出を効果的に防止することができることがわかる。より詳しくは、PC鋼棒の突出エネルギーが1.57kN・m以下の時に、残存張力/破断荷重:実施例2=20.9%、実施例3=24.3%、実施例4=24.2%、実施例5=2.02%であって、残存張力/破断荷重が100%未満であることはもちろんのこと、好ましくは半分(50%)以下、さらに好ましくは25%以下に低く抑えられており、既設PC鋼棒の破断時にその突出を効果的に、かつ、確実に、防止することができる。
【0098】
<床版およびウェブを模した供試体を用いた破断・突出実験>
以下において、本発明の実施の形態に係る突出防止具30によって、PC鋼棒突出の防止の実証や、突出防止具30を入れられない区間である上床版側、または、下床版側の突
出防止の実証するために、床版とウェブを模した供試体で破断・突出実験を行った結果を説明する。なお、以下において、突出防止具を緩衝定着具と記載する場合がある。
【0099】
<<破断・突出実験:概要>>
過去の検討では、PC鋼棒に設置した緩衝定着具によって、緩衝定着具から下床版区間で切断した場合に、上床版~緩衝定着具間に緊張力が残存すれば合格として扱って評価してきた。しかしながら、緩衝定着具~上床版区間内でPC鋼棒が切断した場合や緩衝定着具~下床版区間内でPC鋼棒が切断した場合を想定した試験ではないため、その場合に上床版や下床版がPC鋼棒の突出に対してどのように抵抗するか検討を行うこととした。具体的には、図2に示すA区間、B区間が破断した際の上床版あるいは下床版の性状を把握する。さらに、過去に行ったPC鋼棒の破断想定の時に合格判定としていた状況が、上床版を有する場合にどのような挙動を示すかの確認を行うため、図2に示すC区間が破断した際の上床版の破壊状況を評価した。
【0100】
図14に試験装置全体の概要図を示す。供試体は上床版あるいは下床版とウェブで構成されるものとした。ウェブ内にはPC鋼棒を配置し、所定の緊張力を導入し、想定する箇所でPC鋼棒を切断できるように切断孔を有する形状とした。また、グラウトについては充填不足の状況を想定したため、グラウトの充填は行わないこととした。上床版あるいは下床版とウェブは分割して製作しており、PC鋼棒によって接続する構造を採用した。
【0101】
以下に、詳細な試験体の概要を示す。はじめに上床版水準の試験体概要を図15に示す。上床版は舗装が敷設されているため、舗装を有する上床版を作製した。上床版は厚さ500mmとし、その上に基層としてFB13を35mm厚さ、表層として高機能I型を40mm厚さとして舗装を施工した。上床版内には、PC鋼棒の定着具を設置しており、後打ちコンクリートを後埋めする形で再現した。後打ちコンクリートは切断時において強度が約46N/mm2となる普通コンクリートを使用した。なお、PC鋼棒のかぶりについては、安全側の評価となるよう上床版天端までPC鋼棒が位置するようにし、かぶり0mmとした。PC鋼棒へ導入した緊張力は、環境条件によって異なる。そのため、本試験ではPC鋼棒破断時期を建設後10年、外気温度を6℃(北海道)、ウェブ厚さ500mm、鋼棒配置間隔を1000mmと仮定し、プレストレスの減少量を道路橋示方書より算出し、PC鋼棒に導入する緊張力は583kN(上床版側)とした。定着具はせん断補強鋼棒の定着システムとして一般的にディビダーク工法が用いられ、その定着具はアンカーグロッケが一般的に採用されているため、それを採用した。PC鋼棒の切断位置について、上床版を想定した実験では支圧板から切断位置までの距離が1000mmあるいは2000mmとなる位置で切断を行った。切断方法は、ディスクサンダーによる切断とした。破断エネルギーは1000mmで1.05kN・m、2000mmで2.10kN・mである。
【0102】
次に、下床版水準の試験体概要を図16に示す。下床版の場合、PC鋼棒の定着部はデットアンカー形式となるため、本試験においても定着体が埋め込みとなるようにした。下床版は厚さ500mmとした。下床版のコンクリート強度は46N/mm2とし、PC鋼棒のかぶりは、実施工を参考にかぶり50mmとした。PC鋼棒へ導入した緊張力は、上床版水準と同様に583kNとした。また、定着具についても上床版水準と同様とした。PC鋼棒の切断位置について、下床版を想定した実験では支圧板から切断位置までの距離が1000mmとなる位置で切断を行った。また、下床版の設置方向について、本来は下床版であるため、切断位置と比較して下方向となるべきであるが、今回は実験の都合上切断位置に対して上方向となるように設置・切断を行った。破断エネルギーは1.05kN・mである。
【0103】
次に、C区間で破断した場合に緩衝定着具を介して上床版の破壊形態がどのようになるのかを確認するために行った試験体の概要を図17に示す(緩衝定着具水準)。上床版の厚さ、舗装条件、PC鋼棒の設置条件、緊張力、後打ちコンクリートの条件等は上床版水準と同様とした。本水準では、上床版側に設置した緩衝定着具よりも下床版側においてPC鋼棒の切断を実施した。具体的に緩衝定着具は定着具から1000mm位置に設置し、箱抜き部の後埋め処理は行わなかった。切断位置は、定着具から8000mm位置とした
。今回試行した緩衝定着具は、過去の検討で試作した定着具を用いた。また、箱抜き内に緩衝定着具を設置して発生する隙間については、鋼板を詰めて設置することで、スリーブやウェッジが脱落することを防いだ。破断エネルギーは8.38kN・mである。
【0104】
<<突出確認実験:結果>>
・舗装有り-1m水準の結果(A区間)
舗装有り-1mについて、本水準の試験後の状況を説明する。メッシュは200mm間隔で示しているが、1m位置でPC鋼棒を切断した場合であっても、舗装を有する本供試体はPC鋼棒部で突出する様子は確認できなかった。また、舗装の残留変位は、最大変位が3mmで、その範囲は10cm程度であった(図18)。試験後に舗装部をはつり出し、後打ち部の様子を確認したところ、後打ち部が若干抜け出している状況であった。
・舗装有り-2m水準の結果(A区間)
舗装有り-2mについて、本水準の試験後の状況を説明する。メッシュは200mm間隔で示しているが、2m位置でPC鋼棒を切断した場合であっても、舗装を有する本供試体はPC鋼棒部で突出する様子は確認できなかった。また、舗装の残留変位は、最大変位が6mmで、その範囲は15cm程度であった(図19)。試験後に舗装部をはつり出し、後打ち部の様子を確認したところ、後打ち部が若干抜け出している状況であった。
【0105】
・舗装なし水準の結果(B区間)
舗装なし水準について、本水準の試験後の状況を図20に示す。メッシュは100mm間隔で示しているが、下床版から1m位置でPC鋼棒を切断した場合であっても、50mmのかぶりを有する本供試体はPC鋼棒部で突出することはなかった。変状を確認すると、コンクリート床版の天端において、ひび割れの発生を確認し、PC鋼材位置を中心に放射状に発生していた。ひび割れの幅は0.05mm以下であり、微細なひび割れであった。また、コンクリート床版の残留変位やコンクリートの浮き・剥離等は確認できなかった。
・緩衝定着具-8m水準の結果(C区間)
緩衝定着具-8mについて、本水準の試験後の状況を説明する。メッシュは200mm間隔で示しているが、上床版から8m位置でPC鋼棒を切断した場合であっても、緩衝定着具や舗装を有する本供試体はPC鋼棒が突出しなかった。また、舗装の残留変位は、最大変位が7mmで、その範囲は15cm程度であった(図21)。試験後に舗装部をはつり出し、後打ち部の様子を確認したところ、後打ち部が若干抜け出している状況であった。
【0106】
・箱抜き箇所の観察
PC鋼棒を切断時の緩衝定着具の挙動を把握するため、箱抜き箇所を観察した。PC鋼棒破断前の時点では、緩衝定着具のスリーブとウェッジとは接している。次に、切断後の時点では、ウェッジと隙間を埋めるために設置していた支圧板に隙間が生じていた。これについて、動画により確認したところ、PC鋼棒の破断に伴って、ウェッジがスリーブに押し込まれ、その後PC鋼棒の反動で伸びる際にウェッジが同じく移動し、再度スリーブへ押し込まれる状況が何回か繰り返し行われ、最終的にウェッジがスリーブへ押し込まれた状態になった。過去の検討では、箱抜き内を後打ちした際には、残留する緊張力が大きくなることから、上記のような現象が起こりにくい可能性が示唆されるが、緩衝定着具によってPC鋼棒の破断時のエネルギーをウェッジとスリーブにより吸収しているものと推察される。
【0107】
・切断試験のまとめ
A区間(緩衝定着具~上床版間)でPC鋼棒が切断した場合を想定した供試体の破断実験から、上床版からの距離が1mあるいは2mの両方とも、PC鋼棒が突出することはなかった。また、上床版の上に敷設した舗装の変状は残留変位が6mm程度であり、損傷程度も軽微と判断できるものであった。したがって、緩衝定着具の設置は、上床版天端から2m以内に設置すれば、その区間でPC鋼棒が破断したとしても、舗装条件が同程度であればPC鋼棒が突出することがないと判断ができる。
【0108】
B区間(緩衝定着具~下床版間)でPC鋼棒が切断した場合を想定した供試体の破断実
験から、下床版からの距離が1m以下の場合、PC鋼棒が突出することはなかった。また、下床版はひび割れが放射状に発生した程度で、コンクリートの浮きやはく落などは確認できなかったことから、損傷程度は軽微と判断できるものであった。したがって、緩衝定着具の設置は、下床版下端から1m以内に設置すれば、その区間でPC鋼棒が破断したとしても、かぶり条件や配筋条件が同程度であればPC鋼棒が突出することがないと判断できる。
【0109】
C区間でPC鋼棒が切断した場合を想定した供試体の破断実験から、上床版からの切断位置までの距離が8mでその間に緩衝定着具を有する場合、PC鋼棒が突出することはなかった。また、上床版の上に敷設した舗装の変状は残留変位が7mm程度であり、損傷程度も軽微と判断できるものであった。さらに、今回の実験では、緩衝定着具設置箇所の箱抜き部を後打ちしていなかった。そのため、後打ちを実施すれば、緩衝機能がより緩衝できるものと推察される。なお、緩衝定着具を上床版側と下床版側に2箇所設置した場合、緩衝定着具間の距離は7m以内であればPC鋼棒が突出することがないと判断できる。
【0110】
以下に参考として、各試験時の破断エネルギーを図22に示す。
なお、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0111】
たとえば、以下のような変更がその一例として挙げられる。
・既設PC鋼棒突出防止具(突出防止具30)は、既設PC鋼棒Bを把持するウェッジとそのウェッジを格納するスリーブとで構成され、ウェッジとスリーブとは金属製または樹脂製であることが好ましい。
・ウェッジとスリーブとは、既設PC鋼棒に取り付け可能な構造であればよく、上述した構造は一例に過ぎない。
・ウェッジは2分割以上であればよく、スリーブは半割部品をボルトで締結できるものであってもPC鋼棒が通るスリット(切欠き部)を有するものであっても、その形状が円柱形状、中空円筒形状、中実円筒形状、角柱形状、多角柱形状であっても構わない。
【0112】
・スリーブはPC鋼棒の長手方向(材軸)に対してテーパーは1方向(突出防止具30)、または、相対する向きに2方向(突出防止具32)有していても構わない。
・スリーブおよびウェッジのテーパー角度は任意であるが、5度~15度程度が好ましい。
・スリーブおよびウェッジのPC鋼棒の長手方向の長さは任意であるが、20mm~200mm程度が好ましい。
・スリーブおよびウェッジに用いられる材料は金属であっても樹脂であっても化学繊維であっても構わない。
【産業上の利用可能性】
【0113】
本発明は、プレストレストコンクリート部材に圧縮力を付与している既設のPC鋼棒が破断した場合のPC鋼棒突出防止対策に好ましく、既設のPC鋼棒が破断した場合に発生する大きな衝撃力によりコンクリート部材の外にPC鋼棒が突出することを防止することができる点で特に好ましい。
【符号の説明】
【0114】
10 PC箱桁橋
100 スリーブ
110、120 スリーブ片
140 ウェッジ
142、144、146 ウェッジ片
200 スリーブ
210、220 スリーブ片
240 ウェッジ
242、244 ウェッジ片
S スリーブ
W ウェッジ
B 既設PC鋼棒
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22