(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022152880
(43)【公開日】2022-10-12
(54)【発明の名称】リチウムイオン電池用被覆負極活物質粒子、リチウムイオン電池用負極及びリチウムイオン電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/485 20100101AFI20221004BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20221004BHJP
H01M 4/48 20100101ALI20221004BHJP
【FI】
H01M4/485
H01M4/36 C
H01M4/48
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021055815
(22)【出願日】2021-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000002288
【氏名又は名称】三洋化成工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】519100310
【氏名又は名称】APB株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】田中 佑弥
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 勇輔
(72)【発明者】
【氏名】堀江 英明
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA08
5H050BA17
5H050CA02
5H050CA05
5H050CA07
5H050CA08
5H050CA09
5H050CA11
5H050CA20
5H050CA21
5H050CA29
5H050CB02
5H050CB03
5H050CB29
5H050DA10
5H050DA11
5H050EA23
5H050FA17
5H050FA18
5H050HA00
5H050HA01
(57)【要約】
【課題】負極活物質としてチタン複合酸化物やチタン酸化物を使用し、被覆層を形成したリチウムイオン電池用被覆負極活物質粒子であって、体積当たりの放電容量が充分に高い被覆負極活物質粒子を提供すること。
【解決手段】負極活物質粒子の表面の少なくとも一部が高分子化合物と導電助剤とを含む被覆層で被覆されているリチウムイオン電池用被覆負極活物質粒子であって、上記負極活物質粒子がチタン複合酸化物及び/又はチタン酸化物からなる粒子を含み、上記被覆負極活物質粒子における上記高分子化合物の重量割合が、上記被覆負極活物質粒子の重量を基準として0.1~2重量%であり、上記被覆負極活物質粒子における上記導電助剤の重量割合が、上記被覆負極活物質粒子の重量を基準として3~15重量%であるリチウムイオン電池用被覆負極活物質粒子。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
負極活物質粒子の表面の少なくとも一部が高分子化合物と導電助剤とを含む被覆層で被覆されているリチウムイオン電池用被覆負極活物質粒子であって、
前記負極活物質粒子がチタン複合酸化物及び/又はチタン酸化物からなる粒子を含み、
前記被覆負極活物質粒子における前記高分子化合物の重量割合が、前記被覆負極活物質粒子の重量を基準として0.1~2重量%であり、
前記被覆負極活物質粒子における前記導電助剤の重量割合が、前記被覆負極活物質粒子の重量を基準として3~15重量%であるリチウムイオン電池用被覆負極活物質粒子。
【請求項2】
前記高分子化合物の酸価が250~800である請求項1に記載のリチウムイオン電池用被覆負極活物質粒子。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のリチウムイオン電池用被覆負極活物質粒子を有するリチウムイオン電池用負極。
【請求項4】
請求項3に記載のリチウムイオン電池用負極を有するリチウムイオン電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン電池用被覆負極活物質粒子、リチウムイオン電池用負極及びリチウムイオン電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン(二次)電池は、高エネルギー密度、高出力密度が達成できる二次電池として、近年様々な用途に多用されている。
リチウムイオン電池は、高エネルギー密度、高出力密度が達成できる二次電池として、近年様々な用途に多用されており、より高性能のリチウムイオン電池を開発するために種々の材料が検討されている。
【0003】
なかでもチタン複合酸化物やチタン酸化物は、入出力特性及びサイクル特性が優れていることから、これまでリチウムイオン電池の負極活物質として使用されてきた炭素系材料に代わり使用が検討されている(特許文献1)。
【0004】
また、電極活物質粒子の表面の少なくとも一部が被覆用樹脂及び導電助剤を含む被覆層で覆われた被覆電極活物質粒子を用いることで、多くの時間とエネルギーを要する脱溶剤工程を経ないでリチウムイオン電池用電極を作製する方法が知られている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2019-160734号公報
【特許文献2】特開2016-189325号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献2では、負極活物質として炭素系材料を念頭に置いており、負極活物質としてチタン複合酸化物やチタン酸化物を使うことは考えられていない。
特許文献2に記載されたような効果を享受するために、特許文献2に記載の方法でチタン複合酸化物やチタン酸化物の粒子表面に被覆層を形成して被覆電極活物質粒子を形成してみると、体積当たりの放電容量が不充分になるという課題があることが見いだされた。
【0007】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであり、負極活物質としてチタン複合酸化物やチタン酸化物を使用し、被覆層を形成したリチウムイオン電池用被覆負極活物質粒子であって、体積当たりの放電容量が充分に高い被覆負極活物質粒子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、負極活物質としてチタン複合酸化物やチタン酸化物を使用した場合には、これらの材料の導電性が炭素系材料よりも低い傾向があるために、体積当たりの放電容量が低くなるのではないかという仮説を立て、当該仮説に基づき鋭意検討した結果、体積当たりの放電容量を高めることができるための構成を見出し本発明に到達した。
【0009】
すなわち、本発明は、負極活物質粒子の表面の少なくとも一部が高分子化合物と導電助剤とを含む被覆層で被覆されているリチウムイオン電池用被覆負極活物質粒子であって、上記負極活物質粒子がチタン複合酸化物及び/又はチタン酸化物からなる粒子を含み、上記被覆負極活物質粒子における上記高分子化合物の重量割合が、上記被覆負極活物質粒子の重量を基準として0.1~2重量%であり、上記被覆負極活物質粒子における上記導電助剤の重量割合が、上記被覆負極活物質粒子の重量を基準として3~15重量%であるリチウムイオン電池用被覆負極活物質粒子に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、負極活物質としてチタン複合酸化物やチタン酸化物を使用し、被覆層を形成したリチウムイオン電池用被覆負極活物質粒子であって、体積当たりの放電容量が充分に高い被覆負極活物質粒子を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<リチウムイオン電池用被覆負極活物質粒子>
本発明のリチウムイオン電池用被覆負極活物質粒子は、負極活物質粒子の表面の少なくとも一部が高分子化合物と導電助剤とを含む被覆層で被覆されているリチウムイオン電池用被覆負極活物質粒子であって、上記負極活物質粒子がチタン複合酸化物及び/又はチタン酸化物からなる粒子を含み、上記被覆負極活物質粒子における上記高分子化合物の重量割合が、上記被覆負極活物質粒子の重量を基準として0.1~2重量%であり、上記被覆負極活物質粒子における上記導電助剤の重量割合が、上記被覆負極活物質粒子の重量を基準として3~15重量%であることを特徴とする。
【0012】
(負極活物質粒子)
負極活物質粒子は、チタン複合酸化物及び/又はチタン酸化物からなる粒子を含む。
チタン複合酸化物とは、チタン、酸素及びその他の元素を含む化合物であり、チタン酸リチウム、チタンニオブ酸化物等が挙げられる。
チタン酸リチウムとしては、スピネル型、ラムスデライト型等を用いることができる。
スピネル型の結晶構造を有するチタン酸リチウムとしては、例えば、Li4+xTi5O12(-1≦x≦3)の一般式で示される化合物等が挙げられる。
ラムスデライト型の結晶構造を有するチタン酸リチウムとしては、例えば、Li2+xTi3O7(0≦x≦1)の一般式で示される化合物等が挙げられる。
【0013】
チタンニオブ酸化物としては、LiaTiMbNb2+cO7+d(0≦a≦5、0≦b≦0.3、-0.3≦c≦0.3、及び-0.3≦d≦0.3であり、Mは、Fe、V、Mo、及びTaから選択される1種又は2種以上の元素である。)の一般式で示される化合物が挙げられる。
【0014】
チタン酸化物とは、チタンと酸素のみを含む化合物であり、酸化チタン(TiO)、二酸化チタン(TiO2)が挙げられる。二酸化チタンの結晶系は特に限定されるものではなく、ルチル型、アナターゼ型、ブルッカイト型を使用することができる。
【0015】
上記に示したチタン複合酸化物及びチタン酸化物は、これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0016】
負極活物質粒子の体積平均粒子径は、電池の電気特性の観点から、0.01~100μmが好ましく、0.1~20μmであることがより好ましく、2~10μmであることがさらに好ましい。
【0017】
(被覆層)
被覆層は、高分子化合物と導電助剤とを含む。
高分子化合物としては、炭素数1~12の1価の脂肪族アルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル化合物(a11)[以下、エステル化合物(a11)と記載する]及びアニオン性単量体(a12)を含んでなる単量体組成物の重合体であることが好ましい。
なお、(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸及びメタクリル酸を意味する。
【0018】
また、高分子化合物の酸価が250~800であることが好ましい。
本明細書における高分子化合物の酸価は、JIS K 0070-1992の方法で測定され、高分子化合物の酸価は単量体組成物に含まれるビニルモノマーを構成するアニオン性単量体(a12)の含有量を調整することで前記の範囲とすることができる。
また、高分子化合物の酸価が270~780であることがより好ましい。
【0019】
まず、エステル化合物(a11)について説明する。
エステル化合物(a11)は炭素数1~12の1価の脂肪族アルコールと(メタ)アクリル酸とのエステルであり、炭素数1~12の1価の脂肪族アルコールとしては、炭素数1~12の1価の分岐又は直鎖脂肪族アルコールが挙げられ、メタノール、エタノール、プロパノール(n-プロパノール、iso-プロパノール)、ブチルアルコール(n-ブチルアルコール、sec-ブチルアルコール、tert-ブチルアルコール)、ペンチルアルコール(n-ペンチルアルコール、2-ペンチルアルコール及びネオペンチルアルコール等)、ヘキシルアルコール(1-ヘキサノール、2-ヘキサノール及び3-ヘキサノール等)、ヘプチルアルコール(n-ヘプチルアルコール、1-メチルヘキシルアルコール及び2-メチルヘキシルアルコール等)、オクチルアルコール(n-オクチルアルコール、1-メチルヘプタノール、1-エチルヘキサノール、2-メチルヘプタノール及び2-エチルヘキサノール等)、ノニルアルコール(n-ノニルアルコール、1-メチルオクタノール、1-エチルヘプタノール、1-プロピルヘキサノール及び2-エチルヘプチルアルコール等)、デシルアルコール(n-デシルアルコール、1-メチルノニルアルコール、2-メチルノニルアルコール及び2-エチルオクチルアルコール等)、ウンデシルアルコール(n-ウンデシルアルコール、1-メチルデシルアルコール、2-メチルデシルアルコール及び2-エチルノニルアルコール等)、ラウリルアルコール(n-ラウリルアルコール、1-メチルウンデシルアルコール、2-メチルウンデシルアルコール、2-エチルデシルアルコール及び2-ブチルヘキシルアルコール等)等が挙げられる。
【0020】
エステル化合物(a11)として好ましいものとしては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2-メチルヘキシル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ドデシルが挙げられ、なかでもメタクリル酸メチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸2-エチルヘキシルが更に好ましい。
【0021】
アニオン性単量体(a12)について説明する。
アニオン性単量体(a12)はラジカル重合性を有する重合性基とアニオン性基を有する単量体であり、ラジカル重合性基として好ましいものとしては、ビニル基、アリル基、スチレニル基及び(メタ)アクリロイル基等が挙げられ、アニオン性基として好ましいものとしては、ホスホン酸基、スルホン酸基及びカルボキシル基等が挙げられる。
【0022】
アニオン性単量体(a12)として好ましいものとしては、炭素数3~9のラジカル重合性不飽和カルボン酸、炭素数2~8のラジカル重合性不飽和スルホン酸及び炭素数2~9のラジカル重合性不飽和ホスホン酸からなる群から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
【0023】
炭素数3~9のラジカル重合性不飽和カルボン酸としては、炭素数3~9のラジカル重合性不飽和脂肪族モノカルボン酸及び炭素数9のラジカル重合性不飽和芳香族モノカルボン酸が挙げられ、炭素数3~9のラジカル重合性不飽和脂肪族モノカルボン酸としては、(メタ)アクリル酸、ブタン酸(2-メチルブタン酸及び3-メチルブタン酸等の置換ブタン酸を含む)、ペンテン酸(2-メチルペンテン酸及び3-メチルペンテン酸等の置換ペンテン酸を含む。)、ヘキセン酸(2-メチルヘキセン酸及び3-メチルヘキセン酸等の置換ヘキセン酸を含む。)、ヘプテン酸(2-メチルヘプテン酸及び3-メチルヘプテン酸等の置換ヘプテン酸を含む。)及びオクテン酸(2-メチルオクテン酸及び3-メチルオクテン酸等の置換オクテン酸を含む。)等が挙げられる。
炭素数9のラジカル重合性不飽和芳香族モノカルボン酸としては、3-フェニルプロペン酸及びビニル安息香酸等が挙げられる。
【0024】
炭素数2~8のラジカル重合性不飽和スルホン酸としては、炭素数2~8のラジカル重合性不飽和脂肪族モノスルホン酸及び炭素数8のラジカル重合性不飽和芳香族モノスルホン酸が挙げられる。
炭素数2~8のラジカル重合性不飽和脂肪族モノスルホン酸としては、ビニルスルホン酸(1-メチルビニルスルホン酸及び2-メチルビニルスルホン酸等の置換ビニルスルホン酸を含む)、アリルスルホン酸 (1-メチルアリルスルホン酸及び2-メチルアリルスルホン酸アニオン等の置換アリルスルホン酸を含む。)、ブテンスルホン酸(1-メチルブテンスルホン酸及び2-メチルブテンスルホン酸等の置換ブテンスルホン酸を含む。)、ペンテンスルホン酸(1-メチルペンテンスルホン酸及び2-メチルペンテンスルホン酸等の置換ペンテンスルホン酸を含む。)ヘキセンスルホン酸(1-メチルヘキセンスルホン酸及び2-メチルヘキセンスルホン酸等の置換ヘキセンスルホン酸を含む。)及びヘプテンスルホン酸(1-メチルヘプテンスルホン酸及び2-メチルヘプテンスルホン酸等の置換ヘプテンスルホン酸を含む。)等が挙げられる。
炭素数8のラジカル重合性不飽和芳香族モノスルホン酸単量体としては、スチレンスルホン酸が挙げられる。
【0025】
炭素数2~9のラジカル重合性不飽和ホスホン酸としては、ビニルホスホン酸、アリルホスホン酸、ビニルベンジルホスホン酸、1-又は2-フェニルエテニルホスホン酸、(メタ)アクリルアミドアルキルホスホン酸、アクリルアミドアルキルジホスホン酸、ホスホノメチル化ビニルアミン及び(メタ)アクリルホスホン酸等が挙げられる。
これらのアニオン性単量体は混合物であってもよい。
なお、アニオン性単量体を含有することで、靭性が向上し、充放電時のリチウムイオンの脱挿入反応に伴う活物質の膨張収縮によるストレスを受けにくくなる。
【0026】
これらのアニオン性単量体は1種を単独で用いてもよく、2種以上併用してもよい。アニオン性単量体(a12)は、炭素数3~9のラジカル重合性不飽和カルボン酸、炭素数2~8のラジカル重合性不飽和スルホン酸及び炭素数2~9のラジカル重合性不飽和ホスホン酸からなる群から選ばれる少なくとも2種を併用することが好ましく、炭素数3~9のラジカル重合性不飽和カルボン酸と炭素数2~8のラジカル重合性不飽和スルホン酸又は炭素数2~9のラジカル重合性不飽和ホスホン酸とを併用することが更に好ましい。
【0027】
高分子化合物に含まれるエステル化合物(a11)の含有量は、活物質との接着性等の観点から、エステル化合物(a11)及びアニオン性単量体(a12)の合計重量に基づいて5~99重量%であることが好ましく、より好ましくは20~80重量%であり、更に好ましくは30~70重量%である。
【0028】
高分子化合物において、単量体組成物に含まれるアニオン性単量体(a12)の含有量は、イオン導電性の観点から、エステル化合物(a11)及びアニオン性単量体(a12)合計重量に基づいて1~99重量%であることが好ましく、より好ましくは20~80重量%であり、更に好ましくは30~70重量%である。
【0029】
高分子化合物においては、前記単量体組成物が更にアニオン性単量体の塩(a13)を含むことが好ましい。
高分子化合物がアニオン性単量体の塩(a13)を含有すると、内部抵抗を低減することが出来る。
【0030】
アニオン性単量体の塩(a13)について説明する。
アニオン性単量体の塩(a13)を構成するアニオン性単量体のアニオンとしては、上記のアニオン性単量体(a12)で例示したものと同じアニオン性単量体のアニオンが挙げられ、ビニルスルホン酸アニオン、アリルスルホン酸アニオン、スチレンスルホン酸アニオン及び(メタ)アクリル酸アニオンからなる群から選ばれる少なくとも1種のアニオンが好ましい。
アニオン性単量体の塩(a13)を構成するカチオンとしては、1価の無機カチオンが挙げられ、アルカリ金属カチオン及びアンモニウムイオンが好ましく、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン及びアンモニウムイオンがより好ましく、リチウムイオンが更に好ましい。
アニオン性単量体の塩(a13)は1種類を用いても複数を併用しても良く、アニオン性単量体の塩(a13)が複数のアニオンを有する場合、カチオンはリチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン及びアンモニウムイオンからなる群から選ばれる少なくとも1種のカチオンであることが好ましい。
【0031】
高分子化合物において、前記単量体組成物がアニオン性単量体の塩(a13)を含む場合、単量体組成物に含まれる前記エステル化合物(a11)の含有量は、活物質との接着性等の観点から、エステル化合物(a11)、アニオン性単量体(a12)及びアニオン性単量体の塩(a13)の合計重量に基づいて5~95重量%であることが好ましく、より好ましくは20~80重量%であり、更に好ましくは30~70重量%である。
【0032】
高分子化合物において、前記単量体組成物がアニオン性単量体の塩(a13)を含む場合、単量体組成物に含まれるアニオン性単量体(a12)の含有量は、イオン導電性の観点から、エステル化合物(a11)、アニオン性単量体(a12)及びアニオン性単量体の塩(a13)の合計重量に基づいて10~90重量%であることが好ましく、より好ましくは20~80重量%であり、更に好ましくは30~70重量%である。
【0033】
高分子化合物において、前記単量体組成物がアニオン性単量体の塩(a13)を含む場合、単量体組成物に含まれるアニオン性単量体の塩(a13)の含有量は、内部抵抗等の観点から、エステル化合物(a11)、アニオン性単量体(a12)及びアニオン性単量体の塩(a13)の合計重量に基づいて0.1~10重量%であることが好ましく、より好ましくは0.5~10重量%であり、更に好ましくは1~10重量%である。
【0034】
高分子化合物は、例えば、公知の重合開始剤{アゾ系開始剤[2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩等]、パーオキサイド系開始剤(ベンゾイルパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、ラウリルパーオキサイド等)等}を使用して公知の重合方法(塊状重合、溶液重合、乳化重合、懸濁重合等)により製造することができる。
重合開始剤の使用量は、重量平均分子量を好ましい範囲に調整する等の観点から、モノマーの全重量に基づいて好ましくは0.01~5重量%、より好ましくは0.05~2重量%、さらに好ましくは0.1~1.5重量%であり、重合温度及び重合時間は重合開始剤の種類等に応じて調整されるが、重合温度は好ましくは-5~150℃、(より好ましくは30~120℃)、反応時間は好ましくは0.1~50時間(より好ましくは2~24時間)で行われる。
【0035】
溶液重合の場合に使用される溶媒としては、例えばエステル(炭素数2~8、例えば酢酸エチル及び酢酸ブチル)、アルコール(炭素数1~8、例えばメタノール、エタノール及びオクタノール)、炭化水素(炭素数4~8、例えばn-ブタン、シクロヘキサン及びトルエン)、アミド(例えばN,N-ジメチルホルムアミド(以下、DMFと略記する))及びケトン(炭素数3~9、例えばメチルエチルケトン)が挙げられ、重量平均分子量を好ましい範囲に調整する等の観点から、その使用量はモノマーの合計重量に基づいて好ましくは5~900重量%、より好ましくは10~400重量%、さらに好ましくは30~300重量%であり、モノマー濃度としては、好ましくは10~95重量%、より好ましくは20~90重量%、さらに好ましくは30~80重量%である。
【0036】
乳化重合及び懸濁重合における分散媒としては、水、アルコール(例えばエタノール)、エステル(例えばプロピオン酸エチル)、軽ナフサ等が挙げられ、乳化剤としては、高級脂肪酸(炭素数10~24)金属塩(例えばオレイン酸ナトリウム及びステアリン酸ナトリウム)、高級アルコール(炭素数10~24)硫酸エステル金属塩(例えばラウリル硫酸ナトリウム)、エトキシ化テトラメチルデシンジオール、メタクリル酸スルホエチルナトリウム、メタクリル酸ジメチルアミノメチル等が挙げられる。さらに安定剤としてポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン等を加えてもよい。
溶液又は分散液のモノマー濃度は好ましくは5~95重量%、より好ましくは10~90重量%、さらに好ましくは15~85重量%であり、重合開始剤の使用量は、モノマーの全重量に基づいて好ましくは0.01~5重量%、より好ましくは0.05~2重量%である。
重合に際しては、公知の連鎖移動剤、例えばメルカプト化合物(ドデシルメルカプタン、n-ブチルメルカプタン等)及び/又はハロゲン化炭化水素(四塩化炭素、四臭化炭素、塩化ベンジル等)を使用することができる。
【0037】
高分子化合物は、該高分子化合物をカルボキシル基と反応する反応性官能基を有する架橋剤(A’){好ましくはポリエポキシ化合物(a’1)[ポリグリシジルエーテル(ビスフェノールAジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル及びグリセリントリグリシジルエーテル等)及びポリグリシジルアミン(N,N-ジグリシジルアニリン及び1,3-ビス(N,N-ジグリシジルアミノメチル))等]及び/又はポリオール化合物(a’2)(エチレングリコール等)}で架橋してなる架橋重合体であってもよい。
【0038】
架橋剤(A’)を用いて高分子化合物を架橋する方法としては、負極活物質粒子を、高分子化合物で被覆した後に架橋する方法が挙げられる。具体的には、負極活物質粒子と高分子化合物を含む樹脂溶液を混合し脱溶剤することにより、被覆負極活物質粒子を製造した後に、架橋剤(A’)を含む溶液を該被覆負極活物質粒子に混合して加熱することにより、脱溶剤と架橋反応を生じさせて、高分子化合物が架橋剤(A’)によって架橋される反応を負極活物質粒子の表面で起こす方法が挙げられる。
加熱温度は、架橋剤の種類に応じて調整されるが、架橋剤としてポリエポキシ化合物(a’1)を用いる場合は好ましくは70℃以上であり、ポリオール化合物(a’2)を用いる場合は好ましくは120℃以上である。
【0039】
高分子化合物の重量平均分子量は、活物質との接着性等の観点から、20,000~96,000であることが好ましく、重合体の重合条件を好ましい範囲とすることで重量平均分子量を好ましい範囲にすることができる。
なお、本明細書における高分子化合物の重量平均分子量は、以下の条件で測定したゲルパーミエーションクロマトグラフィ(以下、GPCと略記する)により測定される。
<GPCの測定条件>
装置:Alliance GPC V2000(Waters社製)
溶媒:オルトジクロロベンゼン
標準物質:ポリスチレン
サンプル濃度:3mg/ml
カラム固定相:PLgel 10μm、MIXED-B 2本直列(ポリマーラボラトリーズ社製)
カラム温度:135℃
【0040】
被覆層は、導電助剤を含む。
導電助剤としては、導電性を有する材料から選択されることが好ましい。
導電助剤として好ましいものとしては、金属[アルミニウム、ステンレス(SUS)、銀、金、銅及びチタン等]、カーボン[グラファイト及びカーボンブラック(アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラック、チャンネルブラック、サーマルランプブラック、カーボンナノファイバー等)等]、及びこれらの混合物等が挙げられる。
これらの導電助剤は1種単独で用いられてもよいし、2種以上併用してもよい。また、これらの合金又は金属酸化物として用いられてもよい。
なかでも、電気的安定性の観点から、より好ましくはアルミニウム、ステンレス、カーボン、銀、金、銅、チタン及びこれらの混合物であり、さらに好ましくは銀、金、アルミニウム、ステンレス及びカーボンであり、特に好ましくはカーボンである。
またこれらの導電助剤としては、粒子系セラミック材料や樹脂材料の周りに導電性材料[好ましくは、上記した導電助剤のうち金属のもの]をめっき等でコーティングしたものでもよい。
【0041】
導電助剤の形状(形態)は、粒子形態に限られず、粒子形態以外の形態であってもよく、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブ等、いわゆるフィラー系導電助剤として実用化されている形態であってもよい。
【0042】
導電助剤の平均粒子径は、特に限定されるものではないが、電池の電気特性の観点から、0.01~10μm程度であることが好ましい。
本明細書中において、「導電助剤の粒子径」とは、導電助剤の輪郭線上の任意の2点間の距離のうち、最大の距離Lを意味する。「平均粒子径」の値としては、走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)等の観察手段を用い、数~数十視野中に観察される粒子の粒子径の平均値として算出される値を採用するものとする。
【0043】
(リチウムイオン電池用被覆負極活物質粒子)
リチウムイオン電池用被覆負極活物質粒子(以下、単に被覆負極活物質粒子ともいう)は、負極活物質粒子の表面の少なくとも一部が高分子化合物と導電助剤とを含む被覆層で被覆されてなる粒子である。
被覆負極活物質粒子における高分子化合物の重量割合は、被覆負極活物質粒子の重量を基準として0.1~2重量%である。また、上記重量割合は0.3~1.0重量%であることが好ましい。
被覆負極活物質粒子における導電助剤の重量割合は、被覆負極活物質粒子の重量を基準として3~15重量%である。また、上記重量割合は6~12重量%であることが好ましい。
負極活物質粒子がチタン複合酸化物及び/又はチタン酸化物からなる粒子を含む場合に、被覆負極活物質粒子における高分子化合物と導電助剤の重量割合が共に上記範囲内であると、電極体積当たりの放電容量を高めることができる。また、サイクル特性に優れる。
被覆負極活物質粒子における高分子化合物の重量割合及び導電助剤の重量割合は、熱重量測定で測定することができる。
【0044】
被覆負極活物質粒子における高分子化合物の重量割合が0.1重量%未満であると、電極体積当たりの放電容量が低くなる。また、サイクル特性は負極活物質粒子がチタン複合酸化物及び/又はチタン酸化物であってもそれほど高くならない。
被覆負極活物質粒子における高分子化合物の重量割合が2重量%を超えると、電極体積当たりの放電容量が低くなる。
被覆負極活物質粒子における導電助剤の重量割合が3重量%未満であると、電極体積当たりの放電容量が低くなる。また、サイクル特性は負極活物質粒子がチタン複合酸化物及び/又はチタン酸化物であってもそれほど高くならない。
被覆負極活物質粒子における導電助剤の重量割合が15重量%を超えると、電極体積当たりの放電容量が低くなる。
【0045】
<リチウムイオン電池用被覆負極活物質粒子の製造方法>
本発明に係るリチウムイオン電池用被覆負極活物質粒子の製造方法は、特に限定されるものではないが、負極活物質粒子、高分子化合物及び導電助剤を混合した後に脱溶剤することにより製造することができる。
負極活物質粒子、高分子化合物及び導電助剤を混合する順番は特に限定されず、例えば、事前に混合した被覆層を構成する高分子化合物と導電助剤からなる組成物を負極活物質粒子とさらに混合してもよいし、負極活物質粒子、高分子化合物及び導電助剤を同時に混合してもよいし、負極活物質粒子に高分子化合物を混合し、さらに導電助剤を混合してもよい。
【0046】
本発明の被覆負極活物質粒子は、負極活物質粒子を、高分子化合物で被覆することで得ることができ、例えば、負極活物質粒子を万能混合機に入れて30~500rpmで撹拌した状態で、高分子化合物を含む樹脂溶液を1~90分かけて滴下混合し、さらに必要に応じて導電助剤を混合し、撹拌したまま50~200℃に昇温し、0.007~0.04MPaまで減圧した後に10~150分保持することにより得ることができる。
【0047】
<リチウムイオン電池用負極>
本発明のリチウムイオン電池用負極は、上述した本発明の被覆負極活物質粒子を有することを特徴とする。
本発明のリチウムイオン電池用負極は、被覆負極活物質粒子と電解質及び溶媒を含有する電解液とを含む負極活物質層と、負極集電体とを備えることが好ましい。
【0048】
(負極活物質層)
負極活物質層は、被覆負極活物質粒子と電解液とを含む。電解液は電解質と溶媒を含む。
【0049】
電解質としては、公知の電解液に用いられている電解質が使用でき、例えば、LiPF6、LiBF4、LiSbF6、LiAsF6、LiClO4及びLiN(FSO2)2等の無機アニオンのリチウム塩、LiN(CF3SO2)2、LiN(C2F5SO2)2及びLiC(CF3SO2)3等の有機アニオンのリチウム塩が挙げられる。これらの内、電池出力及び充放電サイクル特性の観点から好ましいのはLiN(FSO2)2である。
【0050】
溶媒としては、公知の電解液に用いられている非水溶媒が使用でき、例えば、ラクトン化合物、環状又は鎖状炭酸エステル、鎖状カルボン酸エステル、環状又は鎖状エーテル、リン酸エステル、ニトリル化合物、アミド化合物、スルホン、スルホラン及びこれらの混合物を用いることができる。
【0051】
ラクトン化合物としては、5員環(γ-ブチロラクトン及びγ-バレロラクトン等)及び6員環(δ-バレロラクトン等)のラクトン化合物等が挙げられる。
【0052】
環状炭酸エステルとしては、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート(EC)及びブチレンカーボネート(BC)等が挙げられる。
鎖状炭酸エステルとしては、ジメチルカーボネート(DMC)、メチルエチルカーボネート(MEC)、ジエチルカーボネート(DEC)、メチル-n-プロピルカーボネート、エチル-n-プロピルカーボネート及びジ-n-プロピルカーボネート等が挙げられる。
【0053】
鎖状カルボン酸エステルとしては、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル及びプロピオン酸メチル等が挙げられる。
【0054】
環状エーテルとしては、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、1,3-ジオキソラン及び1,4-ジオキサン等が挙げられる。鎖状エーテルとしては、ジメトキシメタン及び1,2-ジメトキシエタン等が挙げられる。
【0055】
リン酸エステルとしては、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、リン酸エチルジメチル、リン酸ジエチルメチル、リン酸トリプロピル、リン酸トリブチル、リン酸トリ(トリフルオロメチル)、リン酸トリ(トリクロロメチル)、リン酸トリ(トリフルオロエチル)、リン酸トリ(トリパーフルオロエチル)、2-エトキシ-1,3,2-ジオキサホスホラン-2-オン、2-トリフルオロエトキシ-1,3,2-ジオキサホスホラン-2-オン及び2-メトキシエトキシ-1,3,2-ジオキサホスホラン-2-オン等が挙げられる。
【0056】
ニトリル化合物としては、アセトニトリル等が挙げられる。アミド化合物としては、DMF等が挙げられる。スルホンとしては、ジメチルスルホン及びジエチルスルホン等が挙げられる。
【0057】
これらの溶媒は1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0058】
電解液中の電解質の濃度は、1.2~5.0mol/Lであることが好ましく、1.5~4.5mol/Lであることがより好ましく、1.8~4.0mol/Lであることがさらに好ましく、2.0~3.5mol/Lであることが特に好ましい。
【0059】
負極活物質層は、上述した被覆負極活物質粒子の被覆層中に含まれる導電助剤とは別に、導電助剤をさらに含んでもよい。被覆層中に含まれる導電助剤が被覆負極活物質粒子と一体であるのに対し、負極活物質層が含む導電助剤は被覆負極活物質粒子と別々に含まれている点で区別できる。
負極活物質層が含んでいてもよい導電助剤としては、<リチウムイオン電池用被覆負極活物質粒子>で説明したものを用いることができる。
【0060】
負極活物質層は、結着剤を含まないことが好ましい。
なお、本明細書において、結着剤とは、被覆負極活物質粒子同士及び被覆負極活物質粒子と集電体とを可逆的に固定することができない薬剤を意味し、デンプン、ポリフッ化ビニリデン、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、テトラフルオロエチレン、スチレンブタジエンゴム、ポリエチレン及びポリプロピレン等の公知の溶剤乾燥型のリチウムイオン電池用結着剤等が挙げられる。
これらの結着剤は、溶剤に溶解又は分散して用いられ、溶剤を揮発、留去することで固体化して、被覆負極活物質粒子同士及び被覆負極活物質粒子と集電体とを不可逆的に固定するものである。
【0061】
負極活物質層には、粘着性樹脂が含まれていてもよい。
粘着性樹脂は、溶媒成分を揮発させて乾燥させても固体化せずに粘着性を有する樹脂を意味し、結着剤とは異なる材料であり、区別される。
また、被覆負極活物質粒子を構成する被覆層が負極活物質粒子の表面に固定されているのに対して、粘着性樹脂は負極活物質粒子の表面同士を可逆的に固定するものである。負極活物質粒子の表面から粘着性樹脂は容易に分離できるが、被覆層は容易に分離できない。従って、上記被覆層と上記粘着性樹脂は異なる材料である。
【0062】
粘着性樹脂としては、酢酸ビニル、2-エチルヘキシルアクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレート、ブチルアクリレート及びブチルメタクリレートからなる群から選択された少なくとも1種の低Tgモノマーを必須構成単量体として含み上記低Tgモノマーの合計重量割合が構成単量体の合計重量に基づいて45重量%以上である重合体が挙げられる。
粘着性樹脂を用いる場合、負極活物質粒子の合計重量に対して0.01~10重量%の粘着性樹脂を用いることが好ましい。
【0063】
負極活物質層の厚みは、電池性能の観点から、150~600μmであることが好ましく、200~450μmであることがより好ましい。
【0064】
負極活物質層には、本発明の被覆負極活物質粒子以外に、他の種類の負極活物質粒子を含んでもよい。他の種類の負極活物質粒子としては、炭素系負極活物質粒子、珪素系負極活物質粒子等が挙げられる。これらの他の種類の負極活物質粒子は、電池のサイクル特性に影響のない範囲で配合させることができる。
また、上記他の種類の負極活物質粒子は、被覆負極活物質粒子であってもよい。
【0065】
(負極集電体)
リチウムイオン電池用負極は、負極集電体を備え、負極集電体の表面に負極活物質層が設けられていることが好ましい。
【0066】
負極集電体を構成する材料としては、銅、アルミニウム、チタン、ステンレス鋼、ニッケル及びこれらの合金等の金属材料、並びに、焼成炭素、導電性高分子材料、導電性ガラス等が挙げられる。
負極集電体の形状は特に限定されず、上記の材料からなるシート状の集電体、及び、上記の材料で構成された微粒子からなる堆積層であってもよい。
【0067】
本発明のリチウムイオン電池用負極は、導電性高分子材料からなる樹脂集電体を備え、上記樹脂集電体の表面に負極活物質層が設けられていることが好ましい。
【0068】
樹脂集電体を構成する導電性高分子材料としては例えば、樹脂に導電材を添加したものを用いることができる。
導電性高分子材料を構成する導電材としては、被覆層の任意成分である導電助剤と同様のものを好適に用いることができる。
導電性高分子材料を構成する樹脂としては、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリメチルペンテン(PMP)、ポリシクロオレフィン(PCO)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエーテルニトリル(PEN)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリメチルアクリレート(PMA)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂又はこれらの混合物等が挙げられる。
電気的安定性の観点から、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリメチルペンテン(PMP)及びポリシクロオレフィン(PCO)が好ましく、さらに好ましくはポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)及びポリメチルペンテン(PMP)である。
樹脂集電体は、特開2012-150905号公報及び国際公開第2015/005116号等に記載された公知の方法で得ることができる。
【0069】
負極集電体の厚さは、特に限定されないが、5~150μmであることが好ましい。
【0070】
本発明のリチウムイオン電池用負極は、例えば、本発明の被覆負極活物質粒子及び必要に応じて導電助剤等を混合した粉体(負極前駆体)を負極集電体に塗布しプレス機でプレスして負極活物質層を形成した後に電解液を注液することによって作製することができる。
また、負極前駆体を離型フィルム上に塗布、プレスして負極活物質層を形成し、負極活物質層を負極集電体に転写した後、電解液を注液してもよい。
【0071】
<リチウムイオン電池>
本発明のリチウムイオン電池は、本発明のリチウムイオン電池用負極を有する。
本発明のリチウムイオン電池は、本発明のリチウムイオン電池用負極と、セパレータと、正極とを備えることが好ましい。
【0072】
(セパレータ)
セパレータとしては、ポリエチレン又はポリプロピレン製の多孔性フィルム、多孔性ポリエチレンフィルムと多孔性ポリプロピレンとの積層フィルム、合成繊維(ポリエステル繊維及びアラミド繊維等)又はガラス繊維等からなる不織布、及びそれらの表面にシリカ、アルミナ、チタニア等のセラミック微粒子を付着させたもの等の公知のリチウムイオン電池用のセパレータが挙げられる。
【0073】
(正極)
正極は、正極活物質層と、正極集電体とを備えることが好ましい。
【0074】
正極活物質層は、正極活物質粒子を含む。
正極活物質粒子としては、リチウムと遷移金属との複合酸化物{遷移金属が1種である複合酸化物(LiCoO2、LiNiO2、LiAlMnO4、LiMnO2及びLiMn2O4等)、遷移金属元素が2種である複合酸化物(例えばLiFeMnO4、LiNi1-xCoxO2、LiMn1-yCoyO2、LiNi1/3Co1/3Al1/3O2及びLiNi0.8Co0.15Al0.05O2)及び金属元素が3種類以上である複合酸化物[例えばLiMaM’bM’’cO2(M、M’及びM’’はそれぞれ異なる遷移金属元素であり、a+b+c=1を満たす。例えばLiNi1/3Mn1/3Co1/3O2)等]等}、リチウム含有遷移金属リン酸塩(例えばLiFePO4、LiCoPO4、LiMnPO4及びLiNiPO4)、遷移金属酸化物(例えばMnO2及びV2O5)、遷移金属硫化物(例えばMoS2及びTiS2)及び導電性高分子(例えばポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセチレン及びポリ-p-フェニレン及びポリビニルカルバゾール)等が挙げられ、2種以上を併用してもよい。
なお、リチウム含有遷移金属リン酸塩は、遷移金属サイトの一部を他の遷移金属で置換したものであってもよい。
【0075】
正極活物質粒子の体積平均粒子径は、電池の電気特性の観点から、0.01~100μmであることが好ましく、0.1~35μmであることがより好ましく、2~30μmであることがさらに好ましい。
【0076】
正極活物質粒子は、その表面の少なくとも一部が高分子化合物を含む被覆層により被覆された被覆正極活物質粒子であってもよい。
正極活物質粒子の周囲が被覆層で被覆されていると、正極の体積変化が緩和され、正極の膨張を抑制することができる。
【0077】
被覆層としては、上述した本発明のリチウムイオン電池用被覆負極活物質粒子で記載した被覆層と同様のものを好適に用いることができる。
【0078】
正極活物質層は、結着剤を含まないことが好ましい。
結着剤とは、上記負極で記載したものを意味する。
【0079】
正極活物質層には、粘着性樹脂が含まれていてもよい。
粘着性樹脂としては、負極活物質層の任意成分である粘着性樹脂と同様のものを好適に用いることができる。
【0080】
正極活物質層は、導電助剤が含まれていてもよい。
導電助剤としては、負極活物質層に含まれる導電性フィラーと同様の導電性材料を好適に用いることができる。
正極活物質層における導電助剤の重量割合は、2~10重量%であることが好ましい。
【0081】
正極活物質層は電解液を含んでもよい。
電解液としては、負極活物質層で記載したものを適宜選択して用いることができる。
【0082】
正極活物質層の厚みは、特に限定されるものではないが、電池性能の観点から、150~600μmであることが好ましく、200~450μmであることがより好ましい。
【0083】
正極集電体としては、公知の金属集電体及び導電材と樹脂とを含む導電性樹脂組成物から構成されてなる樹脂集電体(特開2012-150905号公報及び国際公開第2015-005116号等に記載の樹脂集電体等)を用いることができる。
正極集電体は、電池特性等の観点から、樹脂集電体であることが好ましい。
正極集電体の厚さは特に限定されないが、5~150μmであることが好ましい。
【0084】
正極は、例えば、正極活物質粒子及び電解液を含む混合物を正極集電体又は基材の表面に塗布し、余分な電解液を除去する方法によって作製することができる。
基材の表面に正極活物質層を形成した場合、転写等の方法によって正極活物質層を正極集電体と組み合わせればよい。
上記混合物には、必要に応じて、導電助剤や粘着性樹脂等が含まれていてもよい。
【0085】
(リチウムイオン電池の製造方法)
本発明のリチウムイオン電池は、例えば、正極、セパレータ及び本発明のリチウムイオン電池用負極をこの順に重ね合わせた後、必要に応じて電解液を注入することにより製造することができる。
【実施例0086】
次に本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明の主旨を逸脱しない限り本発明は実施例に限定されるものではない。なお、特記しない限り部は重量部、%は重量%を意味する。
【0087】
<高分子化合物Aの作製>
撹拌機、温度計、還流冷却管、滴下ロート及び窒素ガス導入管を付した4つ口フラスコにDMF66.46部を仕込み75℃に昇温した。次いで、アクリル酸10.0部、メタクリル酸-2-エチルヘキシル90.0部、及びDMF116.5部を配合したモノマー配合液と、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)1.7部をDMF29.15部に溶解した開始剤溶液とを4つ口フラスコ内に窒素を吹き込みながら、撹拌下、滴下ロートで2時間かけて連続的に滴下してラジカル重合を行った。滴下終了後、75℃で反応を3時間継続した。次いで80℃に昇温し、再び2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)1.7部をDMF29.15部に溶解した開始剤溶液を撹拌下、滴下ロートで2時間かけて連続的に滴下した。滴下後反応を3時間継続し樹脂濃度30%の高分子化合物Aの溶液を得た。
【0088】
<高分子化合物Bの作製>
撹拌機、温度計、還流冷却管、滴下ロート及び窒素ガス導入管を付した4つ口フラスコにDMF70.0部を仕込み75℃に昇温した。次いで、アクリル酸100.0部及びDMF20部を配合した単量体組成物と、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)0.3部及び2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)0.8部をDMF10.0部に溶解した開始剤溶液とを4つ口フラスコ内に窒素を吹き込みながら、撹拌下、滴下ロートで2時間かけて連続的に滴下してラジカル重合を行った。滴下終了後、75℃で反応を3時間継続した。次いで80℃に昇温し反応を3時間継続し樹脂濃度50%の高分子化合物Bの溶液を得た。
【0089】
<高分子化合物Cの作製>
撹拌機、温度計、還流冷却管、滴下ロート及び窒素ガス導入管を付した4つ口フラスコにDMF70.0部を仕込み75℃に昇温した。次いで、メタクリル酸2-エチルヘキシル15.0部、メタクリル酸メチル40.0部、メタクリル酸ドデシル10.0部、メタクリル酸28.0部、ビニルスルホン酸2.0部、スチレンスルホン酸リチウム1.0部、メタクリル酸リチウム4.0部及びDMF20部を配合した単量体組成物と、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)0.6部及び2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)1.4部をDMF10.0部に溶解した開始剤溶液とを4つ口フラスコ内に窒素を吹き込みながら、撹拌下、滴下ロートで2時間かけて連続的に滴下してラジカル重合を行った。滴下終了後、80℃に昇温し反応を5時間継続し樹脂濃度50%の高分子化合物Cの溶液を得た。
【0090】
<電解液の作製>
エチレンカーボネートとプロピレンカーボネートの混合溶媒(体積比率1:1)にLiPF6を1mol/Lの割合で溶解させ、リチウムイオン電池用電解液を作製した。
【0091】
<集電体の作製>
2軸押出機にて、商品名「サンアロマーPB522M」[サンアロマー(株)製]10部、商品名「サンアロマーPM854X」[サンアロマー(株)製]25部、商品名「サンテックB680」[旭化成ケミカルズ(株)製]10部、黒鉛粒子「SNG-WXA1」40部、アセチレンブラック1「エンサコ250G」10部及び商品名「ユーメックス1001(酸変性ポリプロピレン)」[三洋化成工業(株)製]5部を180℃、100rpm、滞留時間5分の条件で溶融混練して樹脂集電体用材料を得た。
得られた樹脂集電体用材料をTダイから押し出し、50℃に温調した冷却ロールで圧延することで、樹脂集電体を得た。
【0092】
<被覆負極活物質粒子の作製>
被覆負極活物質粒子の作製に用いた材料は以下の通りである。
(負極活物質粒子)
LTO:チタン酸リチウム
TNO:チタンニオブ酸化物
HC:ハードカーボン
(導電助剤)
AB:アセチレンブラック
KB:ケッチェンブラック
CNF:カーボンナノファイバー
【0093】
(実施例1~11、比較例1~9)
負極活物質粒子を万能混合機ハイスピードミキサーFS25[(株)アーステクニカ製]に入れ、室温、720rpmで撹拌した状態で、高分子化合物の溶液を2分かけて滴下し、さらに5分撹拌した。
次いで、撹拌した状態で導電助剤を分割しながら26分間で投入し、30分撹拌を継続した。その後、撹拌を維持したまま0.01MPaまで減圧し、次いで撹拌と減圧度を維持したまま温度を140℃まで昇温し、撹拌、減圧度及び温度を8時間維持して揮発分を留去した。得られた粉体を目開き212μmの篩いで分級し、被覆負極活物質粒子を得た。
なお、被覆負極活物質粒子の作製に用いた各材料の配合比率(重量%)を表1に示す。
なお、比較例1~3では高分子化合物を使用していないので、被覆層は形成されていない。そのため、被覆負極活物質粒子とはみなせない粒子である。
【0094】
<評価用負極の作製>
被覆負極活物質粒子5gと導電助剤である炭素繊維[大阪ガスケミカル(株)製 ドナカーボ・ミルド S-242]0.0505gとを薄片状黒鉛[日本黒鉛(株)製 UP-5-α]0.2632gを遊星撹拌型混合混練装置{あわとり練太郎[(株)シンキー製]}を用いて1500rpmで3分間混合した。
さらに、電解液0.14gを加えて1500rpmで1分間混合する工程を2回繰り返し、合計0.28gの電解液を加えて、負極組成物を得た。
上記負極組成物0.055gを秤量し、内径15mmの円筒形状の有底容器内に入れて加圧装置により圧縮することで円柱形状に成形された負極活物質層を得た。
【0095】
<サイクル特性評価>
厚み1mmのPP製シート(アズワン社製)を2cm角に切り出したものを準備し、中心部にφ18mmの穴を設けた。作製した負極活物質層とφ15mmに切り出したLi箔とを、PP製セパレータ(セルガード社製)φ18mmを挟んで両極に配置した状態で、PP製シートの中心部に設けられたφ18mmの穴の中に納め、電解液を負極活物質層及びセパレータの空隙の体積に対して110体積%となるように注液し、負極活物質層及びLi箔のそれぞれの外側に樹脂集電体及び銅箔を2cm角に切り出したものを配置した。これを減圧ヒートシールして、評価用セルを作製した。
評価用セルを充放電装置に接続し、以下の条件でサイクル特性の評価を行った。
0.01Cで1.5VまでCC-CV(カットオフ電流0.01C)充電を行い、1時間休止したのち、0.1Cで0VまでCC-CV(カットオフ電流0.01C)で放電を行った。
このときの放電容量を初回容量X0とした。これを100回繰り返し、100サイクル目の容量X1を得た。このX1/X0を、100サイクル放電容量維持率とした。
表1には、初回容量X0を用いて求めた電極体積あたりの放電容量と、100サイクル放電容量維持率を示した。
【0096】
【0097】
表1の結果より、本発明のリチウムイオン電池用被覆負極活物質粒子を用いて製造されたリチウムイオン電池は、電極体積当たりの放電容量が充分に高く、かつ、放電容量維持率が高いことがわかる。
負極活物質としてチタンニオブ酸化物を用いた実施例10、11では電極体積当たりの放電容量が特に高くなっていた。
比較例1、2は高分子化合物を用いておらず、放電容量及び放電容量維持率が低くなっていた。
比較例3は高分子化合物及び導電助剤をともに用いておらず、負極として機能しなかった。
比較例4は導電助剤の含有量が少なすぎて、電極体積当たりの放電容量が低くなっていた。
比較例5、6は導電助剤の含有量が多すぎて、電極体積当たりの放電容量が低くなっていた。
比較例7は高分子化合物の使用量が少なすぎて、電極体積当たりの放電容量が低くなっていた。
比較例87は高分子化合物の使用量が多すぎ、また、導電助剤の使用量が多すぎて、電極体積当たりの放電容量が低くなっていた。
比較例9は負極活物質として炭素系負極活物質を使用しているため、放電容量維持率が低くなっていた。
本発明のリチウムイオン電池用被覆負極活物質粒子は、特に、定置用電源、携帯電話、パーソナルコンピューター及びハイブリッド自動車、電気自動車用に用いられるリチウムイオン電池に使用することができる。