(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022152884
(43)【公開日】2022-10-12
(54)【発明の名称】温度測定装置
(51)【国際特許分類】
G01J 5/48 20220101AFI20221004BHJP
【FI】
G01J5/48 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021055821
(22)【出願日】2021-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000006666
【氏名又は名称】アズビル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】本田 光弘
【テーマコード(参考)】
2G066
【Fターム(参考)】
2G066AC13
2G066AC20
2G066BA08
2G066CA01
2G066CA02
(57)【要約】
【課題】室内の非発熱体の表面温度を精度良く測定する。
【解決手段】部屋90内に設置される空調用の温度測定装置10は、筐体20と、センサ装置30と、回路基板40と、ファン60と、を備える。筐体20は、センサ装置30と、回路基板40と、ファン60と、を収容する。センサ装置30は、基準接点と部屋90内の測定対象95nからの赤外線により温められる温接点とを備え基準接点と温接点との間の温度差を起電力に変換する温度差センサ33nと、基準接点の温度を検出する接触型の温度センサ34と、を備える。回路基板40は、温度差センサ33nにより変換された起電力と、温度センサ34により検出された基準接点の温度とに基づいて、測定対象95nの表面温度を導出する。ファン60は、回路基板40が発する熱をセンサ装置30から遠ざける風Fを生じさせる。風Fにより回路基板40の熱が排気口H2から筐体20外部に排出される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
室内の測定対象の表面温度を測定する空調用の温度測定装置であって、
基準接点と前記測定対象からの赤外線により温められる温接点とを備え前記基準接点と前記温接点との間の温度差を起電力に変換する温度差センサと、前記基準接点の温度を検出する接触型の温度センサと、を備えるセンサ装置と、
前記温度差センサにより変換された前記起電力と、前記温度センサにより検出された前記基準接点の前記温度とに基づいて、前記測定対象の表面温度を導出する回路基板と、
前記回路基板が発する熱を前記センサ装置から遠ざける風を生じさせるファンと、
前記センサ装置と前記回路基板と前記ファンとを収容する筐体であり、前記ファンによる前記風が通る排気口が設けられた筐体と、
を備える温度測定装置。
【請求項2】
前記筐体は、前記ファンによる前記風が生じたときに前記筐体外部の空気を取り込む吸気口を備える、
請求項1に記載の温度測定装置。
【請求項3】
前記筐体内の前記センサ装置と前記回路基板との間に設けられ、前記センサ装置を前記回路基板が発する熱から断熱する断熱部材をさらに備える、
請求項1又は2に記載の温度測定装置。
【請求項4】
前記断熱部材は、前記筐体内の空間のうちの前記センサ装置が位置する第1空間と前記回路基板が位置する第2空間とを隔て、
前記筐体は、前記室内と前記第1空間の前記センサ装置の周囲の空間とを連通させる開口を有する、
請求項3に記載の温度測定装置。
【請求項5】
前記回路基板は、前記起電力、又は、導出した前記物体の表面温度が所定基準よりも高いことを検出したときに、前記ファンを制御して前記風の風量を低下させる、
請求項4に記載の温度測定装置。
【請求項6】
前記センサ装置は、複数の前記温度差センサを備え、
前記回路基板は、前記複数の温度差センサそれぞれにより変換された前記起電力それぞれと、前記温度センサにより検出された前記基準接点の前記温度とに基づいて、前記複数の温度差センサそれぞれの前記測定対象ごとの表面温度を導出する、
請求項1から5のいずれか1項に記載の温度測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、室内の測定対象の表面温度を測定する空調用の温度測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
空調用の温度測定装置として、特許文献1には、部屋に設置されて、部屋内つまり室内の壁、床、机、パーソナルコンピュータ、及び、人などの物体を測定対象としてその表面温度を当該測定対象からの赤外線により測定する温度測定装置が開示されている。測定された表面温度は、空調システムに送られ、空調システムによる室内の制御に使用される。
【0003】
従来の空調用の温度測定装置は、センサ装置と、回路基板と、これらを収容する筐体と、を含んで構成されている。センサ装置は、基準接点と測定対象からの赤外線により温められる温接点とを備え、これらの間の温度差を起電力Vに変換する温度差センサが設けられる。センサ装置には、さらに、基準接点の温度である基準温度Tcを検出する接触型の温度センサが設けられる。回路基板は、温度差センサにより変換された起電力Vと、温度センサにより検出された基準温度Tcとに基づいて、測定対象の表面温度である測定対象温度Ttを導出する。
【0004】
ここで、上記の測定対象温度Tt、基準温度Tc、起電力Vは、下記式(1)の関係を有する。ここで、αは、係数であり、実験等により予め求められる。
V=α(Tt4-Tc4)・・・(1)
【0005】
上記温度測定装置の回路基板は、基準温度Tc及び起電力Vに基づいて、上記式(1)を変形した下記の式(2)により、測定対象温度Ttを導出する。
Tt=4√(V/α+Tc4)・・・(2)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本願発明者は、上記温度測定装置について種々の検討をした結果、下記の課題を見出し、本願発明を発明するに至った。以下、この点を詳述する。
【0008】
まず、上記式(1)及び(2)を参照すると、起電力V=0のとき、つまり、基準温度Tcと測定対象温度Ttとが等しいとき、測定対象温度Ttの導出に係数αの影響がなくなる。逆に、起電力Vの絶対値が大きくなるほど、導出される測定対象温度Ttに対するαの影響が大きくなる。ここで、基準温度Tcは、接触型の温度センサで検出されるため比較的高精度で検出される。他方、係数αは、実験結果等に基づいて求められるが、種々の要因の影響を受けるので、正しい表現が難しい。つまり、係数αについては、どうしても誤差が生じる。これらのため、基準温度Tcを測定対象温度Ttに近づけて起電力Vを小さくすれば、測定対象温度Ttに対する係数αの影響が小さくなり、その結果、測定対象温度Ttの測定精度が向上する。
【0009】
ここで、空調用の温度測定装置の測定対象は、上述のように室内の物体であり、床、机、又は壁などの非発熱体を含む。非発熱体の表面温度と室内の室温とが平衡状態にある場合、両者はほぼ同じ温度となるため、基準温度Tcが室温に近いと、この基準温度Tcは、非発熱体を測定対象とした表面温度である測定対象温度Ttに近いことになる。従って、この場合、測定対象温度Ttの測定精度は良い。ここで、室内の物体の大部分は、床、壁、机、本棚といった非発熱体である。さらに、室温が急激に変化するときよりも、前記の平衡状態のときの方がその室内の人が室温の変化に敏感であるので、室温を室内の物体の表面温度に基づいて制御する空調システムでは、温度測定装置により前記の平衡状態のときの室内の非発熱体の表面温度を精度良く特定したい。従って、上記のような平衡状態のときの非発熱体の表面温度つまり測定対象温度Ttを精度良く測定することは、空調用の温度測定装置にとって重要である。
【0010】
以上のようなことを前提として、従来の温度測定装置を検討すると、従来の温度測定装置では、回路基板が発熱していないとき、センサ装置ないし基準接点の温度つまり基準温度Tcは室温に近く、非発熱体の表面温度である測定対象温度Ttの測定精度に問題は生じない。他方、回路基板が発熱したときには、回路基板が発する熱が筐体内にこもり、センサ装置が温まってしまい、その結果、基準温度Tcが上昇して室温から離れてしまう。このため、回路基板が発熱したときには、上記平衡状態時の非発熱体の表面温度の測定精度が低下し、導出された測定対象温度Ttが実際の測定対象温度Ttと異なってしまう。
【0011】
本発明は、上記点に鑑みてなされたものであり、室内の非発熱体の表面温度を精度良く測定することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、本発明に係る温度測定装置は、室内の測定対象の表面温度を測定する空調用の温度測定装置であって、基準接点と前記測定対象からの赤外線により温められる温接点とを備え前記基準接点と前記温接点との間の温度差を起電力に変換する温度差センサと、前記基準接点の温度を検出する接触型の温度センサと、を備えるセンサ装置と、前記温度差センサにより変換された前記起電力と、前記温度センサにより検出された前記基準接点の前記温度とに基づいて、前記測定対象の表面温度を導出する回路基板と、前記回路基板が発する熱を前記センサ装置から遠ざける風を生じさせるファンと、前記センサ装置と前記回路基板と前記ファンとを収容する筐体であり、前記ファンによる前記風が通る排気口が設けられた筐体と、を備える。
【0013】
前記筐体は、前記ファンによる前記風が生じたときに前記筐体外部の空気を取り込む吸気口を備える、ようにしてもよい。
【0014】
前記筐体内の前記センサ装置と前記回路基板との間に設けられ、前記センサ装置を前記回路基板が発する熱から断熱する断熱部材をさらに備える、ようにしてもよい。
【0015】
前記断熱部材は、前記筐体内の空間のうちの前記センサ装置が位置する第1空間と前記回路基板が位置する第2空間とを隔て、前記筐体は、前記室内と前記第1空間の前記センサ装置の周囲の空間とを連通させる開口を有する、ようにしてもよい。
【0016】
前記回路基板は、前記起電力、又は、導出した前記物体の表面温度が所定基準よりも高いことを検出したときに、前記ファンを制御して前記風の風量を低下させる、ようにしてもよい。
【0017】
前記センサ装置は、複数の前記温度差センサを備え、前記回路基板は、前記複数の温度差センサそれぞれにより変換された前記起電力それぞれと、前記温度センサにより検出された前記基準接点の前記温度とに基づいて、前記複数の温度差センサそれぞれの前記測定対象ごとの表面温度を導出する、ようにしてもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、室内の非発熱体の表面温度が精度良く測定される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、本発明の第1実施形態に係る温度測定装置の構造を概略的に示す図である。
【
図3】
図3は、本発明の第2実施形態に係る温度測定装置の構造を概略的に示す図である。
【
図4】
図4は、本発明の変形例に係る温度測定装置の構造を概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
[第1実施形態]
本発明の第1実施形態に係る温度測定装置10について、
図1及び
図2を参照して説明する。
図1に示すように、温度測定装置10は、部屋90の天井91に設置されている。温度測定装置10は、部屋90の室温を制御する空調用として構成されており、当該室温を制御する空調システムSと通信可能に構成されている。
図1の温度測定装置10は、誇張して大きく描かれており、実際にはもっと小さい。
【0021】
温度測定装置10は、部屋90の室内つまり部屋90内の複数の物体のうち、自己の測定範囲W内に存在する複数の物体、
図1の例では、床95A、机95B、及び、人95Cの集まりを測定対象95としてその表面温度を分割範囲Wnごとに測定する。換言すると、温度測定装置10は、測定対象95を分割範囲Wnで区分けした各部分を測定対象95nとして、測定対象95nそれぞれの表面温度を測定する。表面温度の測定は、測定対象95nから放射される赤外線に基づいて行われる。測定対象95及び95nは、部屋90のレイアウト又は状態によって、壁、又はパソコン等を含んでもよい。部屋90内の物体は、部屋90を構成する床、壁、天井、柱などの構造物を含む。
図1の例において、分割範囲Wnの数は、4つであるが、実際の分割範囲Wnの数は、それよりも多い。分割範囲Wn及び測定対象95nは、上下方向から見たときに、マトリクス状に配置され、例えば、16×16等で配置される。
【0022】
温度測定装置10は、筐体20と、センサ装置30と、回路基板40と、信号伝達部50と、ファン60と、を備える。なお、
図1においてハッチングが付されている部分は、断面を示す(
図3等の他の図でも同様)。
【0023】
筐体20は、その内部空間Rにセンサ装置30等の各部材30~60を収容し、その一部が天井91に開けられた貫通孔91Aに挿入された状態で天井91に取り付けられる。筐体20の天井91への取り付けは、任意である。例えば、筐体20は、筐体20に取り付けられた一対の板バネにより天井91に引っ掛けられることで固定される。筐体20は、ボルト等により天井91に取り付けられてもよい。筐体20は、円形等の形状を有する底板21と、下端が底板21に取り付けられた、上端閉口の多角筒状又は円筒状で、上記各部材30~60を覆うカップ状部材22と、を備える。底板21は、天井91の貫通孔91Aを塞ぐ。カップ状部材22は、天井裏95に入り込む。底板21の中央には、センサ装置30の下部を部屋90側に露出させる貫通孔21Aが形成されている。底板21には、部屋90内の空気を筐体20内に導入する吸気口H1が設けられている。カップ状部材22の上部には、筐体20内の空気を天井裏95に排気する排気口H2が設けられている。
【0024】
センサ装置30は、測定対象95nの表面温度を測定するための赤外線のセンシング等を行う。センサ装置30は、筐体31と、光学系32と、センサチップ33と、温度センサ34と、を備える。
図1において、センサ装置30の各要素31~34は、模式的に描かれている。
【0025】
筐体31は、光学系32、センサチップ33、及び、温度センサ34を収容する。筐体31は、その下部つまり筐体20からの露出部分に、測定対象95から放射される赤外線が通過する貫通孔31Aを備えている。光学系32は、筐体31の貫通孔31Aを通過する赤外線を受光してセンサチップ33に集光するレンズ等を含む。
【0026】
センサチップ33は、複数の測定対象95nにそれぞれ対応してマトリクス状に配置された複数の温度差センサ33nを備える。1つの温度差センサ33nは、
図2に示すように、基準接点D1と、光学系32により集光された測定対象95nからの赤外線により温められる温接点D2とを備え、かつ、基準接点D1と温接点D2との温度差を起電力Vに変換する。
【0027】
温度差センサ33nは、交互に接続された2種の金属線M1及びM2(熱電対)からなるセンシング素子Mを備える。金属線M1と金属線M2とは異なる材料により形成されている。基準接点D1は、2種の金属線M1及びM2の複数の接続点Cのうち1つとびの接続点Cの集合を含む。温接点D2は、複数の接続点Cのうちの残りの接続点の集合を含む。さらに、温接点D2は、光学系32により集光された赤外線を吸収して発熱する発熱層Lを備える。発熱層Lが発熱することで、温接点D2の接続点Cが温められる。発熱層Lは、赤外線を含む広範囲の波長の光を吸収して発熱する層であってもよく、この場合、光学系32に、赤外線を透過し、その他の光を吸収するフィルタを設け、筐体31の貫通孔を通過した光のうち赤外線のみが発熱層Lに到達するようにセンサ装置30を構成してもよい。
【0028】
温接点D2が温められることにより、基準接点D1と温接点D2との間には温度差が生じる。この温度差により、直列に接続された金属線M1及びM2からなるセンシング素子Mの両端に起電力(電位差)Vが生じる(ゼーベック効果)。このように、温度差センサ33nは、基準接点D1と温接点D2との間の温度差を起電力Vに変換するように構成されている。温度差センサ33nは、変換して得られた起電力Vを電気信号の形で回路基板40に出力する。温度差センサ33nは、1の熱電対から構成されてもよい。
【0029】
温度センサ34は、サーミスタ等の接触型の温度測定素子である。温度センサ34は、センサチップ33の所定部位に接触し、当該所定部位の温度を検出する。この所定部位は、基準接点D1の温度と同じ温度を有する部位である。温度センサ34は、前記所定部位の温度を検出することで、基準接点D1の温度である基準温度Tcを検出する。温度センサ34は、基準接点D1の基準温度Tcを抵抗値等に変換し、変換した抵抗値等を示す電気信号を出力することにより、基準温度Tcを検出して出力する。
【0030】
センサ装置30は、測定対象95nからの赤外線を受光するので、部屋90の近傍の位置に設けられている。この実施の形態では、特に、センサ装置30が筐体20から部屋90側に露出しており、部屋90内の空間に接している。これらにより、センサ装置30(特に、基準接点D1)は、室温の影響を受け、具体的にはセンサ装置30の温度が室温と異なるときに当該室温により加熱又は冷却され、部屋90内の室温と同程度の温度を有する。
【0031】
回路基板40は、基板と、当該基板に実装された配線及び各種の電子素子とを含み、各測定対象95nの温度を測定するための処理を実行する。回路基板40の電子素子としては、CPU(Central Processing Unit)等のプロセッサ、メモリ、抵抗、及び、コンデンサ等がある。このような回路基板40は、その動作中に発熱することがある。回路基板40は、センサ装置30の上方、つまり、センサ装置30よりも部屋30から離れた位置に配置されている。
【0032】
回路基板40は、センサ装置30と回路基板40との間でやりとりされる信号を伝達する複数の信号線を備える信号伝達部50を介して、センサチップ33の各温度差センサ33nが温度差を変換した起電力Vを電気信号の形で取得する。回路基板40は、センサチップ33に設けられた、温度差センサ33nを選択するためのFET(Field Effect Transistor)を制御して、各温度差センサ33nを順次選択し、順次選択した温度差センサ33nそれぞれから順次起電力Vを取得してもよい。回路基板40は、信号伝達部50を介して各温度差センサ33nと個別に接続され、各温度差センサ33nから個別に起電力Vを取得してもよい。回路基板40は、信号伝達部50を介して、温度センサ34が検出した基準温度Tcも電気信号の形で取得する。
【0033】
回路基板40は、上記で取得した起電力V及び基準温度Tcをアナログデジタル変換し、変換した起電力V及び基準温度Tcと、上記式(2)(Tt=4√(V/α+Tc4))の関係とに基づいて、測定対象95nの表面温度である測定対象温度Ttを導出する。回路基板40は、例えばメモリに予め用意された式(2)に、変換後の起電力V及び基準温度Tcを代入して、又は、変換後の起電力V及び基準温度Tcに基づいて、メモリに予め用意された、式(2)の関係を表すテーブルを参照して、測定対象温度Ttを導出する。回路基板40は、温度差センサ33nそれぞれについて、測定対象温度Ttを導出する。式(2)の係数αは、起電力Vがどの程度の値であるか等により異なる値を取ることがある。従って、回路基板40は、係数αの実際の値を、メモリに予め用意された関数等を用いて取得する、又は、メモリに予め用意されたテーブル等を参照して取得する。
【0034】
回路基板40は、温度差センサ33nそれぞれについて導出した測定対象温度Ttに基づいて測定対象95nごとの温度分布を示す熱画像を生成し、生成した熱画像を無線又は有線により空調システムSに出力する。空調システムSは、当該熱画像つまり温度測定装置10で測定された測定対象の表面温度に基づいて部屋90の室温を制御する。
【0035】
ファン60は、回路基板40の上方に配置され、回路基板40の制御のもとで動作して上方に風Fを送る。筐体20の排気口H2は、ファン60の上方かつ筐体20のファン60に対向する位置に配置されており、風Fは排気口H2を通る。風Fが生じたとき、筐体20の吸気口H1により、筐体20の外部である部屋90内(内部空間R)の空気が筐体20内に取り込まれる。風Fは、部屋90から吸気口H1を介して筐体20の内部空間Rに入り込み、筐体20の内部空間Rを通って排気口H2から筐体20外部に流出する。回路基板40が発する熱は、この風Fに乗って排気口H2を介して天井裏95に排出される。従って、回路基板40が発する熱は、センサ装置30に伝わらない又は伝わり難い。
【0036】
ファン60は、回路基板40の制御のもとで任意のタイミングで動作する。例えば、回路基板40は、自身が実行する処理数が多くなって自身が発熱している可能性が高いときにファン60を動作させてもよい。回路基板40に温度センサを設け、回路基板40は、当該温度センサにより自身の温度が所定の閾値よりも高くなったときに、ファン60を動作させてもよい。さらに、回路基板40は、前記の自身の温度が高くなるほど、ファン60の回転数を増加させてもよい(自身の温度がどの範囲に属するかに応じてファン60の回転数を段階的に大きくする態様を含む)。従って、これらにより、ファン60の消費電力を少なくすることができる。なお、ファン60は、回路基板40の処理負担を軽減して発熱を少なくするため、常時一定速度で動作するように制御されてもよい。
【0037】
ここで本実施形態上の効果について説明する。上述したように、基準接点D1の温度である基準温度Tcを測定対象温度Tcに近づけて起電力Vを小さくすれば、測定対象温度Ttに対する係数αの影響が小さくなる。その結果、測定対象95nが、室温と平衡状態にある表面温度を有する非発熱体であるときの測定対象温度Ttの測定精度が向上する。しかし、従来は、回路基板40が発する熱が、部屋90内の室温の影響を受けて室温と同等の温度となっているセンサ装置30の基準接点D1を温めてしまい、前記測定精度を低下させる。本実施形態では、回路基板40が発する熱をセンサ装置30から遠ざける風Fを生じさせるファン60が設けられ、風Fにより回路基板40の熱が排気口H2から筐体20外部に排出されるので、回路基板40が発熱したときの熱がセンサ装置30に伝わることが防止される又は伝わり難くなっている。従って、センサ装置30の基準接点D1が温まり難くなっており、基準温度Tcが室温に近い状態が維持され、非発熱体の測定対象温度Ttつまり非発熱体の表面温度が精度良く測定される。
【0038】
さらに、本実施形態における温度測定装置10は、複数の温度差センサ33nにより、部屋90内の床95A、机95B、及び、人95Cなどの様々な種類の物体の表面温度を同時に測定することが可能である。ここで、一般に、床95A及び机95Bといった非発熱体は部屋90の大部分を占め、人95Cといった発熱体は部屋90の小領域にすぎない。このため、本実施の形態では、部屋90内の大部分の表面温度が精度良く測定される。なお、部屋90の空調では、全ての測定対象95nそれぞれの測定対象温度Ttの平均温度に応じて空気システムの空気調和機の制御が行われることがある。全ての測定対象95n全体に占める非発熱体の割合は大きいので、本実施形態によれば、精度の良い平均温度も得られる。
【0039】
なお、センサ装置30は、自己の温度である基準温度Tcを基準に測定対象95nの表面温度を計測するため、従来、センサ装置30が加熱されても表面温度(計測対象温度Tt)の計測精度に問題は生じないと考えられていた。換言すると、ファン60を設ける必要性はなかった。本実施形態は、上述したように、回路基板40によるセンサ装置30に対する加熱が、空調用の温度測定で測定対象となることが多い非発熱体の表面温度の計測精度を低下させることに着目したものであり、あえてファン60が採用されている。
【0040】
さらに、センサ装置30には、測定対象95nから放射された赤外線に加えて、測定対象95nで反射された赤外線も入射される。この反射された赤外線は、室温(天井91、壁など)の放射エネルギーによるものである。センサ装置30の基準温度Tcを部屋90の室温に近づけることにより、測定対象温度Ttの測定に際して、反射された赤外線分をキャンセルすることができ、温度測定の精度が向上する。
【0041】
[第2実施形態]
次に、第2実施形態に係る温度測定装置110について
図3を参照して説明する。なお、以下では、第1実施形態と異なる部分を中心に説明し、第1実施形態と同じ又は同様の部材等については同じ符号を付して説明を適宜省略する。
【0042】
図3に示すように、温度測定装置110は、断熱部材170をさらに備える。
断熱部材170は、センサ装置30と回路基板40との間に設けられ、センサ装置30を回路基板40が発する熱から断熱する。断熱部材170は、例えば、内部に空気層又は真空層等の断熱層171を有する。断熱部材170は、グラスウール、ウレタンフォーム等の適宜の断熱材料により形成されてもよい。断熱部材170には、センサ装置30と回路基板40とに接続されている信号伝達部50の各信号線が貫通している。断熱部材170は、センサ装置30を上方から覆う上端閉口の円筒状又は多角筒状、つまり、カップ形状に形成されている。カップ形状の断熱部材170は、筐体20の内部空間Rに設けられ、センサ装置30が位置する空間R1と、回路基板40が位置する空間R2と、を隔てている。これにより、内部空間Rの空間R1と空間R2とが断熱部材170により分離され、回路基板40が発する熱がセンサ装置30により伝わらない又は伝わり難い。なお、断熱部材170は、センサ装置30に接触する形状でセンサ装置30を覆ってもよい。この場合、上記空間R1は、センサ装置30の周囲の空間を含まない。
【0043】
図3に示すように、温度測定装置110の筐体20の内部空間Rのうち空間R1を区画しかつ部屋90内に隣接した部分(ここでは、底板21のカップ状部材22よりも内側の部分)21Cに、部屋90内と、空間R1とを連通させる開口21Dが設けられてもよい。開口21Dにより、部屋90内の空気を、センサ装置30が位置する空間R1に導入でき、これにより、センサ装置30ないし基準接点D1の温度を部屋90の室温により近づけることができる。なお、開口21Dの数は任意であるが、部屋90内と空間R1とで空気が出入りし易いよう、複数の開口21Dが設けられるとよい。
【0044】
図4に示すように、断熱部材170を、内部空間Rを、センサ装置30が位置する空間R1と、回路基板40が位置する空間R2と、に上下に分割する板状に形成して、空間R1と空間R2とを隔てるようにしてもよい。このような場合、吸気口H1は、筐体20のカップ状部材22の空間R2を区画する部分に形成される。吸気口H1は、排気口H2との間に回路基板40が位置する位置に配置されるとよい。これにより、風Fが回路基板40の熱を効果的に筐体20外部の排熱することができる。
【0045】
断熱部材170は、風Fがセンサ装置30に当たってセンサ装置30の温度が下がってしまうことを防止することもできる。断熱部材を設けない場合、吸気口H1は、風Fがセンサ装置30に当たらない位置にあることが望ましい。
【0046】
[変形例]
上記各実施形態について変形を施してもよい。例えば、温度測定装置10、及び110(以下、これらを温度測定装置10等ともいう)の各部材の形状及び数は任意である。
【0047】
[変形例1]
回路基板40は、ファン60の回転速度(風Fの風圧)を測定対象95nの表面温度に応じて制御してもよい。測定対象95nが、例えば床暖房機能付きの床95Aであるとすると、床暖房の運転時、床95Aは部屋90の室温よりも高くなる。この場合、基準温度Tcが室温に近いとすると、起電力Vが大きくなり、測定対象温度Ttの測定誤差が大きくなる。そこで、回路基板40は、起電力V、又は、導出した測定対象95nの測定対象温度Ttが、所定基準よりも高いことを検出したときにファン60の回転速度を低下させ風Fの風量を低下させてもよい。回転速度を低下させるとは、回転速度を0にすること、つまり、ファン60の動作を停止させることを含む。ファン60の回転速度を低下させることで、回路基板40が発する熱がセンサ装置30に伝わり、基準温度Tcの温度が上昇して、床暖房により発熱する床95Aの表面温度(測定対象温度Tt)に近づく。従って、上記起電力Vが小さくなる。
【0048】
回路基板40は、例えば、上記熱画像における、同じ温度を有する又は同じ温度範囲内の測定対象温度Ttが集まった領域のうち、最も面積の大きい領域の測定対象温度Tt(前記温度範囲の場合は、その平均値など)が、所定の閾値を超えたかを判別してもよい。回路基板40は、所定の閾値を超えたと判別したときに、上記のように導出した測定対象温度Ttが所定基準よりも高いことを検出したとして、ファン60の回転速度を低下させてもよい(例えば、ファン60を停止させる)。また、回路基板40は、床暖房等のスイッチがオンとなったことを検知したとき、例えば、外部から当該オンを示す信号を受信したときに、測定対象温度Ttが所定基準よりも高いこと(将来的に高くなることを含む)を検出したとして、ファン60の回転速度を低下させてもよい。回路基板40は、導出した測定対象温度Ttが高くなるほど、ファン60の回転速度を大きくしてもよい(測定対象温度Ttがどの範囲に属するかに応じて回転速度を段階的に大きくする態様を含む)。回路基板40は、前記測定対象温度Ttの代わりに起電力Vに基づいてファン60を制御してもよい(この場合、前記の説明の測定対象温度Ttを起電力Vに読み替える)。
【0049】
この実施形態のように、測定対象95nが発熱体等であることにより、測定対象温度Ttが室温と異なる場合に、回路基板40が発する熱をセンサ装置30に伝わるようにして基準温度Tcと測定対象温度Ttとを近づけることで、測定対象(発熱体)の表面温度を精度良く測定できる。
【0050】
[変形例2]
回路基板40が、起電力V及び基準温度Tcに基づいて測定対象温度Ttを導出するときに使用する関係は、上記式(1)及び式(2)に限られない。例えば、前記関係は、実質的に上記式(1)及び式(2)となる関係であればよく、上記式(1)及び式(2)の4乗及び4乗根を、3.9乗及び3.9乗根としてもよい。また、その他の式であってもよい。測定対象温度Ttが、起電力Vと基準温度Tcとに基づいて導出される限り、上記で説明した場合と同様に、測定対象温度Ttの導出精度が、その基となる基準温度Tcの測定精度を上回ることはない。そして、起電力Vから測定対象温度Ttを導出するときは、起電力Vが大きくなるほど、測定対象温度Ttの測定誤差も大きくなる。従って、上記式(1)及び式(2)以外の式の関係で測定対象温度Ttを導出する場合であっても、ファン60等による上記効果が得られる。
【0051】
[変形例3]
温度測定装置10等は、部屋90内(室内)の任意の箇所に設置されればよい。任意の箇所は、部屋90を構成する天井91の他、壁、床、柱などの構造物を含む。温度測定装置10等は、例えば、上記実施の形態のように、任意の構造物に埋め込まれて設置される。温度測定装置10の設置の向きも任意である。上記実施形態の上下は、測定対象側が下、その反対側が上であればよい。また、温度測定装置10等のセンサ装置30は、複数ではなく1つの温度差センサ33nを有するものであってもよい。
【0052】
[本発明の範囲]
以上、実施の形態及び変形例を参照して本発明を説明したが、本発明は、上記の実施の形態及び変形例に限定されるものではない。例えば、本発明には、本発明の技術思想の範囲内で当業者が理解し得る、上記の実施の形態及び変形例に対する様々な変更が含まれる。上記実施の形態及び変形例に挙げた各構成は、矛盾の無い範囲で適宜組み合わせることができる。
【符号の説明】
【0053】
10,110,210…温度測定装置、20…筐体、H1…吸気口、H2…排気口、2D…開口、30…センサ装置、33…センサチップ、33n…温度差センサ、34…温度センサ、40…回路基板、170…断熱部材、95,95n…測定対象、95A…床、95B…机、95C…人、R…内部空間、R1,R2…空間。