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特開2022-152936光学フィルム及びその製造方法、並びにそれを具備した偏光板及び表示装置
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  • 特開-光学フィルム及びその製造方法、並びにそれを具備した偏光板及び表示装置 図1
  • 特開-光学フィルム及びその製造方法、並びにそれを具備した偏光板及び表示装置 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022152936
(43)【公開日】2022-10-12
(54)【発明の名称】光学フィルム及びその製造方法、並びにそれを具備した偏光板及び表示装置
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/30 20060101AFI20221004BHJP
   G02F 1/1335 20060101ALI20221004BHJP
   B32B 27/32 20060101ALI20221004BHJP
【FI】
G02B5/30
G02F1/1335 510
B32B27/32 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021055901
(22)【出願日】2021-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】特許業務法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小長 啓人
【テーマコード(参考)】
2H149
2H291
4F100
【Fターム(参考)】
2H149AA02
2H149AA18
2H149AB14
2H149AB16
2H149BA02
2H149CA02
2H149CB01
2H149EA12
2H149EA22
2H149EA27
2H149FA02Z
2H149FA03W
2H149FA05Z
2H149FA08Z
2H149FA14X
2H149FA51X
2H149FA52X
2H149FA54Z
2H149FA58X
2H149FA63
2H149FA64
2H149FA67
2H149FD22
2H149FD25
2H291FA22X
2H291FA22Z
2H291FA94X
2H291FA94Z
2H291FA95X
2H291FA95Z
2H291FB04
2H291FB05
2H291FC09
2H291LA03
4F100AA20A
4F100AH06B
4F100AH06C
4F100AJ06A
4F100AK02A
4F100AK03B
4F100AK25A
4F100AK25C
4F100AL06B
4F100AL06C
4F100AL07B
4F100AR00C
4F100AT00A
4F100BA03
4F100BA07
4F100BA10A
4F100BA10C
4F100CA07A
4F100CB00B
4F100DE01A
4F100EH46
4F100EJ86
4F100GB41
4F100JA07C
4F100JB05B
4F100JK12C
4F100JN10
4F100YY00B
4F100YY00C
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、層間の密着性及び耐光性が改善された光学フィルム、及び、その製造方法、並びにそれを具備した偏光板及び表示装置を提供することである。
【解決手段】本発明の光学フィルムは、基材フィルム、易接着層及びハードコート層をこの順に備えた光学フィルムであって、前記易接着層が、水系ポリオレフィン樹脂を含有し、前記易接着層及び前記ハードコート層が、それぞれ、表面調整剤を含有し、前記易接着層が含有する前記表面調整剤が、ポリエーテル変性シリコーンであり、前記ポリエーテル変性シリコーンのHLB値が、5~15の範囲内であり、前記ハードコート層が含有する前記表面調整剤の重量平均分子量が、4000以下であることを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材フィルム、易接着層及びハードコート層をこの順に備えた光学フィルムであって、
前記易接着層が、水系ポリオレフィン樹脂を含有し、
前記易接着層及び前記ハードコート層が、それぞれ、表面調整剤を含有し、
前記易接着層が含有する前記表面調整剤が、ポリエーテル変性シリコーンであり、
前記ポリエーテル変性シリコーンのHLB値が、5~15の範囲内であり、
前記ハードコート層が含有する前記表面調整剤の重量平均分子量が、4000以下であ
ることを特徴とする光学フィルム。
【請求項2】
前記基材フィルムが、シクロオレフィン樹脂を含有する
ことを特徴とする請求項1に記載の光学フィルム。
【請求項3】
前記易接着層及び前記ハードコート層のそれぞれが含有する前記表面調整剤が、同一化合物である
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の光学フィルム。
【請求項4】
前記易接着層及び前記ハードコート層が含有する前記表面調整剤の質量を、それぞれMp及びMhとしたとき、含有質量比(Mh/Mp)の値が、0.02~40の範囲内である
ことを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載の光学フィルム。
【請求項5】
請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載の光学フィルムを製造する光学フィルムの製造方法であって、
前記基材フィルム上に前記易接着層を形成する工程と、
前記易接着層上に前記ハードコート層を形成する工程を含む
ことを特徴とする光学フィルムの製造方法。
【請求項6】
請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載の光学フィルムを具備する
ことを特徴とする偏光板。
【請求項7】
請求項6に記載の偏光板を具備する
ことを特徴とする表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学フィルム及びその製造方法、並びにそれを具備した偏光板及び表示装置に関する。より詳しくは、層間の密着性及び耐光性が改善された光学フィルム等に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置や有機EL表示装置の技術開発が進み、近年では、薄型で柔軟に曲がるフレキシブルディスプレイのような意匠性の高い表示装置が開発されている。具体的には、公共施設内の柱に巻き付けるような形での設置や、車内に搭載されるタコメーター等の計測機器の代替表示装置としての設置が検討されている。
【0003】
このような表示装置に具備される偏光板内に含まれる光学フィルムについては、柔軟性の高い薄膜であり、さらに、表示装置の使用環境を考慮して、耐熱性及び耐湿性に優れたフィルムの利用が期待されている。
【0004】
一方で、近年の表示装置については、指やペンでディスプレイに直接触れるタッチパネルとしての機能を有しているものも多く、高い耐擦傷性が求められる。また、車内に搭載される表示装置については、人体への安全性の観点から、高い耐衝撃性が求められる。
【0005】
これらの機能は、光学フィルム上にハードコート層を形成することにより付与できるが、例えば、シクロオレフィンフィルムは、化学的な反応部位が少ないため、ハードコート層との結合が弱い。そのため、光学フィルムとハードコート層との間に、十分な厚さの易接着層を設ける技術が知られているが、生産上の観点から、易接着層をより薄くすることが求められていた。
【0006】
特許文献1では、比較的薄い易接着層でありながら、十分な密着性を有する光学フィルムの技術が開示されている。当該易接着層は、ポリオレフィン系樹脂と繊維素系樹脂との混合物を含有することを特徴としているが、樹脂を均一に混合させるのは難しく、保管が難しかった。また、光学フィルムの、光に暴露する環境下における密着性、すなわち耐光性は十分なものとはいえなかった。
【0007】
特許文献2では、ヒドロキシ基含有ポリシロキサン、エポキシ基含有シランカップリング剤及びアミノ基含有珪素化合物を含有することを特徴とするシリコーン樹脂組成物の技術が開示されており、ポリエーテル変性シリコーンオイル等のシリコーンオイルを希釈剤として用いることができると記載されている。しかし、当該希釈剤とは、樹脂組成物の粘度及び柔軟性の調整を目的として添加されるものであり、ポリエーテル変性シリコーンオイルを添加することによる、耐光性の向上については、検討されていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許6453689号公報
【特許文献2】特許5175818号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記問題・状況に鑑みてなされたものであり、その解決課題は、層間の密着性及び耐光性が改善された光学フィルム、及び、その製造方法、並びにそれを具備した偏光板及び表示装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
発明者は、上記課題を解決すべく、上記問題の原因等について検討する過程において、易接着層に用いる樹脂や、易接着層及びハードコート層に用いる表面調整剤の選択によって、層間の密着性及び耐光性が改善された光学フィルム、及び、その製造方法、並びにそれを具備した偏光板及び表示装置を提供できることを見出し本発明に至った。
すなわち、本発明に係る上記課題は、以下の手段により解決される。
【0011】
1.基材フィルム、易接着層及びハードコート層をこの順に備えた光学フィルムであって、前記易接着層が、水系ポリオレフィン樹脂を含有し、前記易接着層及び前記ハードコート層が、それぞれ、表面調整剤を含有し、前記易接着層が含有する前記表面調整剤が、ポリエーテル変性シリコーンであり、前記ポリエーテル変性シリコーンのHLB値が、5~15の範囲内であり、前記ハードコート層が含有する前記表面調整剤の重量平均分子量が、4000以下であることを特徴とする光学フィルム。
【0012】
2.前記基材フィルムが、シクロオレフィン樹脂を含有することを特徴とする第1項に記載の光学フィルム。
【0013】
3.前記易接着層及び前記ハードコート層のそれぞれが含有する前記表面調整剤が、同一化合物であることを特徴とする第1項又は第2項に記載の光学フィルム。
【0014】
4.前記易接着層及び前記ハードコート層が含有する前記表面調整剤の質量を、それぞれMp及びMhとしたとき、含有質量比(Mh/Mp)の値が、0.02~40の範囲内であることを特徴とする第1項から第3項までのいずれか一項に記載の光学フィルム。
【0015】
5.第1項から第4項までのいずれか一項に記載の光学フィルムを製造する光学フィルムの製造方法であって、前記基材フィルム上に前記易接着層を形成する工程と、前記易接着層上に前記ハードコート層を形成する工程を含むことを特徴とする光学フィルムの製造方法。
【0016】
6.第1項から第4項までのいずれか一項に記載の光学フィルムを具備することを特徴とする偏光板。
【0017】
7.第6項に記載の偏光板を具備することを特徴とする表示装置。
【発明の効果】
【0018】
本発明の上記手段により、層間の密着性及び耐光性が改善された光学フィルム、及び、その製造方法、並びにそれを具備した偏光板及び表示装置を提供することができる。
【0019】
本発明の効果の発現機構又は作用機構については、明確にはなっていないが、以下のように推察している。
【0020】
基材フィルムに、耐擦傷性及び耐衝撃性を付与するために、ハードコート層を形成する方法が知られているが、基材フィルム上に直接ハードコート層を形成する方法は層間の密着性に問題があった。そこで、基材フィルム上に易接着層を形成した後に、ハードコート層を形成することにより、基材フィルムとハードコート層間の密着性は向上した。
しかし、このようにして得られるフィルムを表示装置内で使用することを考慮すると、光に暴露する環境下における層間の密着性、すなわち耐光性が必要であるが、易接着層とハードコート層間の密着性は、十分なものとはいえなかった。
【0021】
易接着層とハードコート層間の接着のメカニズムとしては、化学反応で生じる結合による化学的相互作用(「化学的吸着」ともいう。)、及び、分子間力による物理的相互作用(「物理的吸着」ともいう。)が考えられる。具体的には、易接着層に含まれる樹脂とハードコート層に含まれる樹脂とにおいて、官能基同士が結合し、かつ、分子間力によっても引き付けあっている。光に暴露される環境下では、この化学結合が切断されたり、樹脂等の化合物が酸化劣化したりすることにより、化学的相互作用が弱まり、接着力が低下すると考えられる。
【0022】
そこで、発明者は、化学的相互作用が低下しても、物理的相互作用が十分に機能すれば、高い密着性を保つことができるのではないかと考えた。詳しくは、易接着層とハードコート層間の分子間力を強めるためには、易接着層とハードコート層との距離を十分に近づける、つまり、ハードコート層の形成に用いられる樹脂と相溶性の高い表面調整剤を易接着層に添加し、さらに、低分子量の表面調整剤をハードコート層に添加することにより、層間の密着性及び耐光性が改善された光学フィルムが得られることを見出した。
【0023】
この機能発現のメカニズムの詳細は、未だ明らかではないが、次のような可能性を推測している。
【0024】
易接着層は、基材フィルム上に直接塗布により形成されることが、成形加工性の観点から好ましいが、易接着層に用いるポリオレフィン樹脂を有機溶媒に溶解させ塗布すると、基材フィルムにクラックが発生してしまう。そのため、水性分散体である水系ポリオレフィン樹脂を用いることにより、易接着層を基材フィルム上に塗布により形成できる。しかし、水の表面張力は比較的大きく、基材フィルムに直接塗布するとハジキや濡れ不良が発生してしまい、均一な厚さの層を形成することが難しい。
【0025】
本発明に係る易接着層に添加される表面調整剤は、ポリエーテル変性シリコーンであり、側鎖の構造を変化させることにより、分子中の親水基と疎水基のバランスを変化させることができ、化合物の極性を制御することができる。HLB値は、分子中の親水基と疎水基のバランスを表す数値であり、HLB値が5~15の範囲内であると、水中において分子が凝集しすぎたり分散しすぎたりすることがなく水の表面(液体と気体の界面)に吸着しやすい。また、HLB値を上記範囲内とすることにより、ハードコート層の形成に用いられる樹脂との相溶性を高めることができる。
【0026】
したがって、水系ポリオレフィン樹脂を含有する本発明に係る易接着層においても、当該ポリエーテル変性シリコーンは当該易接着層表面に吸着配向しやすく、乾燥過程で樹脂濃度が高くなっても、吸着配向し続けることができる。比較的表面張力が低い当該ポリエーテル変性シリコーンが、当該易接着層表面に均一に吸着することにより、均一な厚さの層を形成でき、表面をより平滑化させることができる。さらに、当該ポリエーテル変性シリコーンは、ハードコート層に用いられる樹脂、特にアクリレート樹脂との相溶性が高く、混じり合うため、易接着層とハードコート層との距離を十分に近づけることができる。
【0027】
ハードコート層についても、表面調整剤を添加することにより、均一な厚さの層を形成でき、表面をより平滑化させることができる。また、成形加工性の観点から、易接着層上に直接塗布により形成されることが好ましい。
【0028】
しかし、易接着層上にハードコート層形成用組成物を塗布し乾燥させる過程において、当該ポリエーテル変性シリコーンが、液体と気体の界面であるハードコート層表面に吸着配向しようとし、易接着層表面から移動してしまう。そこで、ハードコート層が含有する表面調整剤の重量平均分子量を、4000以下とすることにより、すなわち、比較的吸着速度の速い表面調整剤とすることにより、当該ポリエーテル変性シリコーンを、易接着層表面にとどまらせることができ、易接着層とハードコート層間の高い密着力を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】本発明の光学フィルムの基本的な層構成
図2】本発明の偏光板の基本的な層構成
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明の光学フィルムは、基材フィルム、易接着層及びハードコート層をこの順に備えた光学フィルムであって、前記易接着層が、水系ポリオレフィン樹脂を含有し、前記易接着層及び前記ハードコート層が、それぞれ、表面調整剤を含有し、前記易接着層が含有する前記表面調整剤が、ポリエーテル変性シリコーンであり、前記ポリエーテル変性シリコーンのHLB値が、5~15の範囲内であり、前記ハードコート層が含有する前記表面調整剤の重量平均分子量が、4000以下であることを特徴とする。
この特徴は、下記実施態様に共通する又は対応する技術的特徴である。
【0031】
本発明の実施形態としては、耐湿熱性の観点から、前記基材フィルムが、シクロオレフィン樹脂を含有することが、より好ましい。
【0032】
密着性の観点から、前記易接着層及び前記ハードコート層のそれぞれが含有する前記表面調整剤が、同一化合物であることが、より好ましい。
【0033】
外観の観点から、前記易接着層及び前記ハードコート層が含有する前記表面調整剤の質量を、それぞれMp及びMhとしたとき、含有質量比(Mh/Mp)の値が、0.02~40の範囲内であることが、より好ましい。
【0034】
本発明の光学フィルムの製造方法は、直接塗布により層形成できる観点から、前記基材フィルム上に前記易接着層を形成する工程と、前記易接着層上に前記ハードコート層を形成する工程を含むことが、より好ましい。
【0035】
本発明の光学フィルムは、偏光板及びその偏光板を具備する表示装置に好適に使用できる。
【0036】
以下、本発明とその構成要素、及び本発明を実施するための形態・態様について詳細な説明をする。なお、本願において、「~」は、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用する。
【0037】
≪1 本発明の光学フィルムの概要≫
本発明の光学フィルムは、基材フィルム、易接着層及びハードコート層をこの順に備えた光学フィルムであって、前記易接着層が、水系ポリオレフィン樹脂を含有し、前記易接着層及び前記ハードコート層が、それぞれ、表面調整剤を含有し、前記易接着層が含有する前記表面調整剤が、ポリエーテル変性シリコーンであり、前記ポリエーテル変性シリコーンのHLB値が、5~15の範囲内であり、前記ハードコート層が含有する前記表面調整剤の重量平均分子量が、4000以下であることを特徴とする。
【0038】
図1に、本発明の光学フィルム10の層構成の基本的な構成について、その一例を示す。本発明の光学フィルム10は、ハードコート層1と基材フィルム3との間に、易接着層2を有する。
【0039】
以下、本発明の光学フィルムの構成について詳細に説明する。
【0040】
<1.1 易接着層>
本発明に係る易接着層は、水系ポリオレフィン樹脂を含有し、更に表面調整剤を含有し、前記表面調整剤が、ポリエーテル変性シリコーンであり、前記ポリエーテル変性シリコーンのHLB値が、5~15の範囲内であることを特徴とする。
【0041】
本発明において、「易接着層」とは、層全体として接着に寄与しているのではなく、適宜任意の添加剤及び処理を行うことにより、接着力を付与できる層を指す。また、本明細書内において、易接着層とハードコート層間の「接着」については、層間の距離が十分近く、分子間力によるものが大きいとの推察から、「密着」ともいう。
【0042】
本発明に係る易接着層の厚さは、初期密着の安定性の観点から、0.3~1μmの範囲内であることが好ましい。
【0043】
<1.1.1 水系ポリオレフィン樹脂>
本発明に係る易接着層に用いられる樹脂は、水系ポリオレフィン樹脂であることを特徴とする。
「水系ポリオレフィン樹脂」とは、水性媒体に分散可能にするアニオン性又はカチオン性の極性基を有する変性ポリオレフィン樹脂をいう。
通常、ポリオレフィン樹脂は極性がなく疎水性であるため、ぬれ性(親水性)が低く、塗布や接着が困難であるが、ポリオレフィン樹脂に極性基を導入し、水に分散させることで液状とし、成形加工しやすくする。
【0044】
ポリオレフィン樹脂の成形加工性を向上させる方法としては、有機溶媒にポリオレフィン樹脂を溶解させる方法があるが、後述の製造方法で示す通り、易接着層は基材フィルム上に直接形成されるのが好ましく、この方法では、基材フィルムにクラックが発生しやすい。
しかし、本発明に係る易接着層は、水系ポリオレフィン樹脂を用いることにより、成形加工しやすく、クラックを発生させずに、基材上に直接形成できる。
【0045】
また、水系ポリオレフィン樹脂は、比較的極性基が少なく疎水性が強いため、易接着層形成時の乾燥過程において、樹脂濃度が高くなっても後述のポリエーテル変性シリコーンが樹脂に吸着しづらく、易接着層表面に吸着配向し続けることができると考えられる。
【0046】
水系ポリオレフィン樹脂としては、極性基を有するエチレン・プロピレン共重合体、エチレン酢酸ビニル共重合体、ポリエチレン系アイオノマー、エチレン・ビニルアルコール共重合体、エチレン・アクリル酸共重合体、エチレン・塩化ビニル共重合体等を採用でき、水溶液、水性分散液、水性エマルジョンの形態で存在できるものである。
中でも、エチレン-不飽和カルボン酸共重合体、それにナトリウムや亜鉛などの金属のイオンで分子間結合したエチレン系アイオノマー樹脂、エチレン・アクリル酸共重合体、エチレン酢酸ビニル共重合体が好ましい。
【0047】
特に、本発明に係る水系ポリオレフィン樹脂としては、オレフィン成分と不飽和カルボン酸成分とを共重合成分として含んでおり、オレフィン成分は、プロピレンとプロピレン以外のオレフィンとを含んでいることが好ましい。プロピレン以外のオレフィンは、ブテンを含み、エチレンを含まないものとするとより好ましい。プロピレン/プロピレン以外のオレフィン、の質量比は60/40~80/20であると、接着性などの点でから好ましいことが知られている。
【0048】
水系ポリオレフィン樹脂の各成分の共重合形態は特に限定されず、ランダム共重合、ブロック共重合、グラフト共重合等の公知の重合法のいずれでも採用できるが、重合のし易さの点からはランダム共重合若しくはグラフト共重合が好ましい。
【0049】
不飽和カルボン酸成分としては、特に限定するものではないが、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、アコニット酸、無水アコニット酸、フマル酸、クロトン酸、シトラコン酸、メサコン酸、アリルコハク酸等が例示できる。なかでも無水マレイン酸がより好ましい。
【0050】
ポリオレフィン樹脂を分散させる水性媒体としては、水を単独で使用するほかに、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、n-プロピルアルコール、メチルエチルケトン、ジメチルホルムアミド等の公知の有機溶剤と水との組み合わせにて使用することも可能である。
【0051】
また、ポリオレフィン樹脂を分散させやすくするために、塩基性化合物を添加してもよく、塩基性化合物としては、特に限定するものではないが、アンモニア、又は有機アミン化合物が好ましい。有機アミン化合物の具体例としては、エチルアミン、プロピルアミン、イソプロピルアミン、3-メトキシプロピルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミンなどが例示できるが、これらに限定されない。塩基性化合物の配合量は、ポリオレフィン樹脂中のカルボキシ基に対して0.5~10倍当量であることが好ましい。
【0052】
用いられる水系ポリオレフィン樹脂の具体例としては、ユニチカ社製、商品名「アローベース(登録商標)シリーズ」SE-1010、SE‐1013N、SE‐1030N、SD-1010、TC-4010、TD-4010、東邦化学社製、商品名「ハイテックシリーズ」S3148、S3121、S8512、P-5060N、P-9018、三井化学社製、商品名「ユニストール(登録商標)シリーズ」S-120、S-75N、V100、H-200、H-300、EV210H、三井化学社製、商品名「ケミパール(登録商標)シリーズ」XHP-400、住友精化社製、商品名「ザイクセン(登録商標)シリーズ」ザイクセンA、ザイクセンL、東洋紡社製、商品名「ハードレン(登録商標)シリーズ」NZ-1004、NZ-1005、NZ-1022などが挙げられる。
【0053】
<1.1.2 易接着層用表面調整剤>
本発明に係る易接着層が含有する表面調整剤(「易接着層用表面調整剤」ともいう。)は、ポリエーテル変性シリコーンであり、当該ポリエーテル変性シリコーンのHLB値が、5~15の範囲内であることを特徴とする。
【0054】
易接着層とハードコート層間の密着力を向上させる、つまり、易接着層とハードコート層間の分子間力を強めるためには、易接着層とハードコート層との距離を十分に近づける必要がある。すなわち、ハードコート層の形成に用いられる樹脂と相溶性の高い表面調整剤を、易接着層に含有させることにより、密着力を向上させることができる。
【0055】
「表面調整剤」とは、塗布中及び塗布後に塗膜表面に発生する欠陥を防止する目的で添加されるものである。本発明に係る「易接着層用表面調整剤」とは、塗膜の良好な濡れ性や均一性、塗膜表面の平滑性や滑り性を付与する目的で添加されるものを指す。このような効果を得るためには、塗布液の表面張力を被塗物の表面張力よりも小さくする必要がある。
【0056】
したがって、本発明に係る易接着層用表面調整剤としては、分子中に親水基及び疎水基を両方有する化合物が好ましい。このような化合物は、塗膜表面に存在し、その表面エネルギーを大きく変化させ、塗膜表面の物性に大きな変化をもたらす。
【0057】
[ポリエーテル変性シリコーン]
本発明に係る易接着層用表面調整剤は、ポリエーテル変性シリコーンであることを特徴とする。
ここで、「ポリエーテル変性シリコーン」とは、ポリシロキサン化合物のシロキサン結合の一部にポリオキシアルキレン基が導入された化合物をいう。
【0058】
シリコーン化合物とは、シロキサン結合(Si-O-Si)を主骨格に有する化合物であり、柔軟性が高く、分子全体はらせん構造をとっており、側鎖はらせん構造の表面に配向しやすい。側鎖にメチル基等のアルキル基を有することにより、分子間力を小さくし、表面張力を小さくすることができる。また、主鎖(主骨格)は非極性であり、側鎖に極性を有する置換基を付加することにより、同一分子内に極性部及び非極性部を有する界面活性構造を形成することができる。特に、側鎖にポリオキシアルキレン基を有することにより、シリコーン化合物が界面活性を示し、易接着層表面に吸着配向する。
【0059】
また、シリコーン化合物は、分子全体が極性を示すのではなく、分子内の一部分が極性を示すため、易接着層形成時の乾燥過程において、極性基が少なく疎水性の強い易接着層用樹脂の濃度が高くなっても、シリコーン化合物が樹脂に吸着することなく、易接着層表面に吸着配向し続けることができると考えられる。
【0060】
本発明に係る易接着層用表面調整剤は、ポリエーテル変性シリコーンであることにより、側鎖に適度な極性を持たせることができ、樹脂との高い相溶性が得られる。ポリエーテル変性シリコーンは、ポリシロキサン化合物のシロキサン結合の一部にポリオキシアルキレン基が導入された化合物であり、ポリオキシアルキレン基がシロキサン骨格の側鎖や末端などの任意の位置に導入された化合物を使用することができるが、ポリオキシアルキレン基が側鎖に導入されたものを用いることが好ましい。好ましい一般式の一例を下記に示す。
【0061】
【化1】
【0062】
(式中、Rは、水素原子又はアルキル基を表す。R及びRは、アルキル基を表す。m、n、x及びyは1以上の整数を表す。)
【0063】
本発明に用いられるポリエーテル変性シリコーンとしては、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン(Rがメチル基)、又は、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンのジメチル基の一つを部分的又は全体的に長鎖アルキル基で置換されたポリエーテル変性ポリメチルアルキルシロキサン(Rが長鎖アルキル基)が好ましく用いられる。
【0064】
具体例としては、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリブチレンオキシド又はそれらの混合物で変性されたポリジメチルシロキサンが挙げられる。これらのポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンは、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド又はポリブチレンオキシドの量や混合比率等を適宜、変化させることにより、表面張力及び極性を調整することができる。
【0065】
また、ポリオキシアルキレンをポリジメチルシロキサンの側鎖に有するポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンにおいては、ポリジメチルシロキサンの構造部分と、ポリオキシアルキレン鎖を有する構造とが交互に繰り返し結合した直鎖状のブロックコポリマーであることが好ましい。
【0066】
上記一般式(1)における重合度について、mは1~4の整数であることが好ましく、nは1~100の整数であることが好ましく、x及びyは、1~1000の整数であることが好ましい。
【0067】
ポリエーテル変性シリコーンは、市販品を用いてもよく、例えば、ビックケミー・ジャパン株式会社製のBYK(登録商標)-300、BYK-302、BYK-306、BYK-307、BYK-320、BYK-325、BYK-330、BYK-331、BYK-333、BYK-337、BYK-344、BYK-375、BYK-377、BYK-378、BYK-3450、BYK-UV3500、BYK-UV3510、信越化学工業株式会社製のKF-945、KF-352A、KF-640、KF-351A、KF-354L、KF-6011、KF-6015、KF-6020、ダウ・東レ株式会社製のXIAMETER(登録商標)OFX-0193Fluidなどを挙げることができる。
【0068】
また、ポリエーテル変性シリコーンの25℃における動粘度は、上記と同様の観点から、好ましくは40mm/s以上、より好ましくは50mm/s以上、更に好ましくは60mm/s以上であり、そして、好ましくは1000mm/s以下、より好ましくは900mm/s以下、更に好ましくは800mm/s以下である。なお、動粘度はウベローデ型粘度計で求めることができる。
【0069】
[HLB値]
「HLB値」とは、分子中の親水基と疎水基のバランスを表す数値のことをいう。詳しくは、親水基を持たないものを0とし、疎水基を持たず親水基だけを持つものを20とし、1つの分子中に親水基と疎水基を併せ持つものはその間の数値をとる。
なお、「HLB」とは、Hydrophile Lipophile Balanceの略である。
【0070】
1種類の化合物のHLB値は、例えば、下記式(1)で示すグリフィン法によって求めることができる。ただし、親水部とは、分子中の親水基の集合体をいう。
式(1) HLB値=20×親水部の式量の総和/分子量
【0071】
本発明に係るポリエーテル変性シリコーンのHLB値は、5~15の範囲内であることを特徴とする。HLB値が5未満であると、親水部が少なく、疎水性が高いため、易接着層中でポリエーテル変性シリコーンが、疎水性の高いポリオレフィン樹脂に凝集しやすく、易接着層表面に配向吸着しづらい。また、凝集により外観不良が生じる。HLB値が15超であると、親水性が高いため、ハードコート層を形成する際に使用される有機溶媒に溶解しやすく、易接着層表面に配向吸着しづらい。また、HLB値を上記範囲内とすることにより、ハードコート層の形成に用いられる樹脂との相溶性を高めることができる。
【0072】
本発明に係るポリエーテル変性シリコーンのHLB値は、ポリオキシアルキレン基の構造を適宜変化させることによって調整することができる。
【0073】
また、HLB値は、5~15の範囲内であることがより好ましく、8~12の範囲内であることが更に好ましい。
【0074】
[含有量]
ポリエーテル変性シリコーンの単位厚さ当たりの含有量(固形分比率)は、易接着層用材料の単位厚さ当たりの総質量に対して、好ましくは1~6質量%であり、より好ましくは2~5質量%である。ポリエーテル変性シリコーンの含有量が、易接着層用材料の単位厚さ当たりの総質量に対して1質量%以上であれば、易接着層表面に密に配向できるため、密着性に優れる。また、6質量%以下であれば、表面調整剤の凝集を抑制できるため、塗布により易接着層を形成した際の光学フィルム全体の外観に優れる。
【0075】
また、易接着層における表面調整剤であるポリエーテル変性シリコーンの含有質量(固形分比率)Mpは、下記式(I)で表される。
式(I):
Mp=(易接着層の厚さ×易接着層が含有する表面調整剤の単位厚さ当たりの固形分比率)
【0076】
Mpは、0.3~6の範囲内であることが好ましい。Mpが0.3以上であると、易接着層形成用組成物を基材フィルムに塗布する際の、基材フィルムと塗膜との界面において、表面張力差が小さくハジキが発生しづらい。また、Mpが6以下であると、表面調整剤が凝集しづらい。よって、Mpが上記範囲内であると、透明性の高い光学フィルムが得られる。
Mpは、0.5~4の範囲内であることがより好ましく、1~3の範囲内であることがさらに好ましい。
【0077】
<1.1.3 その他の添加剤>
本発明に係る易接着層には、前述の表面調整剤の他にも、必要に応じて任意の添加剤を用いることができる。
添加剤の具体例としては、光重合開始剤、熱重合開始剤、重合促進剤、粘度調整剤、スリップ剤、分散剤、可塑剤、熱安定剤、光安定剤、滑材、抗酸化剤、紫外線吸収剤、難燃剤、着色剤、帯電防止剤、相溶化剤、架橋剤等が挙げられる。使用される添加剤の種類および量は、目的に応じて適宜設定され得る。例えば、添加剤の使用量は、易接着層中の全固形分100質量部に対して、好ましくは30質量部以下であり、さらに好ましくは20質量部以下である。
【0078】
また、アンチブロッキング性を付与するために任意の適切な微粒子を用いることができる。微粒子の具体例としては、日本触媒社製、「シーホスターシリーズ(登録商標)」KE-P20、KE-P30、開発品KE-W20、「エポスターシリーズ(登録商標)」MX100W等が挙げられる。微粒子の粒径は、50~500nmの範囲内であることが好ましく、さらに好ましくは100~300nmの範囲内である。上記範囲内であれば、易接着層の透明性とアンチブロッキング性を両立することができる。
【0079】
<1.1.4 易接着層の形成方法>
本発明に係る易接着層は、易接着層形成用組成物を用いて形成することができる。易接着層形成用組成物は、例えば、市販の溶液若しくは分散液を用いてもよいし、市販の溶液若しくは分散液に溶媒を添加して用いてもよいし、固形分を溶媒に溶解又は分散させて用いてもよい。
【0080】
本発明においては、易接着層形成用組成物は、上記水系ポリオレフィン樹脂と、上記易接着層用表面調整剤と、必要に応じて上記添加剤と、溶媒とを従来公知の方法により混合し調製することが好ましい。溶媒としては、例えば、水を単独で用いてもよく、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、n-プロピルアルコール、メチルエチルケトン、ジメチルホルムアミド等の公知の有機溶媒と水とを組み合わせて用いてもよい。
【0081】
次いで、得られた易接着層形成用組成物を、後述の基材フィルムに付与、具体的には塗布する。塗布方法としては、公知の方法、例えばスピンコート法、ナイフコート法、ロールコート法、バーコート法、ブレードコート法、ダイコート法、グラビアコート法などにより、所定の厚さになるように塗布・乾燥する方法を用いることができる。
【0082】
易接着層の形成条件は、例えば以下のとおりである。
当該易接着層形成用組成物を基材フィルム上に塗布し、通常50~150℃、好ましくは60~100℃で、通常1~10分間、好ましくは2~7分間乾燥して、塗膜を形成する。
【0083】
基材フィルム上に塗布する際に、ぬれ性を向上させるための予備処理として、基材フィルム表面の溶剤改質、コロナ処理、プラズマ処理等を施してもよい。
【0084】
易接着層形成用組成物の全固形分濃度は、易接着層形成材料の種類、溶解性、塗工粘度、ぬれ性、乾燥後の厚さなどによって変化し得る。表面均一性の高い易接着層を得るためには、全固形分濃度は溶媒100質量部に対して、好ましくは固形分が1~100質量部であり、更に好ましくは1~50質量部である。
【0085】
易接着層形成用組成物の粘度としては、塗布可能な範囲において任意の適切な粘度が採用され得る。当該粘度としては、23℃におけるせん断速度1000(1/s)で測定した値が、好ましくは1~50mPa・secであり、さらに好ましくは2~10mPa・secである。上記の範囲であれば、表面均一性に優れた易接着層を形成することができる。
【0086】
易接着層が積層された基材フィルムは、必要に応じて任意の倍率で延伸することもできる。延伸方向は搬送方向に対して水平方向、垂直方向、斜め方向の一軸方向いずれかであってもよいし、2軸方向であってもよい。なお、基材フィルムの延伸は、易接着層の形成前、易接着層形成後など必要に応じて行ってよく、易接着層形成前と易接着層形成後に各1回以上の延伸をしてもよい。延伸条件は、上記のとおりである。
【0087】
<1.2 ハードコート層>
本発明に係るハードコート層は、表面調整剤を含有し、前記表面調整剤の重量平均分子量が、4000以下であることを特徴とする。ハードコート層を有することにより、耐擦傷性及び耐衝撃性の高い光学フィルムを提供することができる。
【0088】
本発明に係るハードコート層は、JISK5600-2014に規定される鉛筆硬度試験で「HB」以上の硬度を示すことが好ましく、ハードコート層の厚さは、耐擦傷性、鉛筆硬度などの機械的膜強度の観点から、0.5~4μmの範囲内であることが好ましく、1~3μmの範囲内であることがより好ましい。
【0089】
<1.2.1 ハードコート層用樹脂>
ハードコート層用樹脂としては、室温で、かつ短時間で形成できる観点から、活性エネルギー線の照射によって硬化する活性エネルギー線硬化性樹脂を用いることが好ましい。このような樹脂としては、エチレン性不飽和二重結合を有するモノマーを含む樹脂であることが好ましい。また、活性エネルギー線としては、例えば、紫外線や電子線を用いることができ、機械的膜強度(耐擦傷性、耐衝撃性及び鉛筆硬度)の観点から、紫外線がより好ましい。
【0090】
活性エネルギー線硬化性樹脂としては、アクリル系材料が好ましく用いられる。アクリル系材料としては、多価アルコールの(メタ)アクリル酸エステルのような単官能又は多官能の(メタ)アクリレート化合物、ジイソシアネートと多価アルコール及び(メタ)アクリル酸のヒドロキシエステル等から合成されるような多官能のウレタン(メタ)アクリレート化合物を使用することができる。また、これらの他にも、アクリレート系の官能基を有するポリエーテル樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、アルキッド樹脂、スピロアセタール樹脂、ポリブタジエン樹脂、ポリチオールポリエン樹脂等を使用することができる。
【0091】
これらの樹脂のうち、紫外線により硬化するものがより好ましく、特に、紫外線硬化型アクリレート系樹脂、紫外線硬化型ウレタンアクリレート系樹脂、紫外線硬化型ポリエステルアクリレート系樹脂、紫外線硬化型エポキシアクリレート系樹脂、紫外線硬化型ポリオールアクリレート系樹脂、又は紫外線硬化型エポキシ樹脂等が好ましく用いられ、中でも紫外線硬化型アクリレート系樹脂が好ましい。
【0092】
ハードコート層は、例えば、活性エネルギー線硬化性樹脂、重合開始剤及び溶媒を含有するハードコート層形成用組成物を用いて形成される。ハードコート層形成用組成物に含まれる溶媒としては、易接着層を溶解又は膨潤させる溶媒が好ましい。これにより、ハードコート層形成用組成物が、易接着層の表面から内部に浸透し易くなり、易接着層とハードコート層との密着性を向上させることができる。
【0093】
<1.2.2 ハードコート層用表面調整剤>
本発明に係るハードコート層が含有する表面調整剤(ハードコート層用表面調整剤ともいう。)は、重量平均分子量が、4000以下であることを特徴とする。表面調整剤とは、前述の易接着層用表面調整剤と同じく、塗膜の良好な濡れ性や均一性、塗膜表面の平滑性や滑り性を付与する目的で添加されるものを指す。用いられる化合物としては、分子中に親水基及び疎水基を両方有する化合物が好ましい。
【0094】
本発明に係るハードコート層は、易接着層上に直接形成するのが好ましい。詳しくは、易接着層上に、ハードコート層形成用組成物を塗布し、活性エネルギー線の照射によって硬化させるのが好ましい。そのため、易接着層とハードコート層間の密着力を向上させる観点から、ハードコート層においても、易接着層上に均一の厚さで平滑に形成されることが好ましい。
【0095】
また、易接着層上にハードコート層形成用組成物を直接塗布すると、易接着層表面は気液界面ではなくなるため、易接着層表面に吸着配向していたポリエーテル変性シリコーンが、新たな気液界面であるハードコート層表面に吸着しようと移動してしまい、易接着層の表面状態が変化してしまう。
【0096】
本発明に係るハードコート層は、重量平均分子量が、4000以下である表面調整剤を添加することにより、均一の厚さで平滑に形成することができ、さらに、易接着層用表面調整剤と比較して優先的にハードコート層表面に吸着配向するため、易接着層の表面状態を変化させずにハードコート層を形成することができる。
【0097】
すなわち、ハードコート層用表面調整剤の重量平均分子量を、4000以下と、比較的小さくすることにより、ハードコート層形成用組成物中においてハードコート層用表面調整剤が自由に動き回ることができるため、ハードコート層表面に吸着配向しやすい。
【0098】
したがって、ハードコート層用表面調整剤は、重量平均分子量が、4000以下であることにより、易接着層用表面調整剤と比較して、優先的にハードコート層表面に吸着配向することができる。特に好ましくは、重量平均分子量が、800~3000の範囲内であり、更に好ましくは、800~1500の範囲内である。
【0099】
本発明に係る重量平均分子量とは、溶媒として、テトラヒドロフランを用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定し、ポリスチレンで換算した重量平均分子量を指す。テトラヒドロフランで測定できない場合については、ジメチルホルムアミドを用い、更に測定できない場合は、ヘキサフルオロイソプロパノールを用い、ヘキサフルオロイソプロパノールでも測定できない場合は、2-クロロナフタレンを用いて測定を行う。
【0100】
本発明に係るハードコート層用表面調整剤として用いられる化合物の種類は、特に限定されず、例えば、シリコーン系、アクリル系、フッ素系、アセチレン系等の化合物が挙げられ、重量平均分子量が、4000以下である市販品を用いることもできる。
【0101】
また、密着性の観点から、本発明に係るハードコート層用表面調整剤として用いられる化合物は、易接着層用表面調整剤として用いられるポリエーテル変性シリコーンと同一化合物であることが好ましい。
【0102】
易接着層上にハードコート層形成用組成物を直接塗布する場合において、易接着層表面に吸着配向していた易接着層用表面調整剤が、新たな気液界面であるハードコート層表面に吸着配向しようと、易接着層表面から移動してしまい、かわりにハードコート層用表面調整剤が易接着層表面(易接着層とハードコート層との界面)に吸着配向することがある。
このような現象は、ハードコート層用表面調整剤の重量平均分子量を、4000以下と、比較的小さくすることにより、一部抑制することができるが、完全には難しい。
しかし、ハードコート層用表面調整剤が、易接着層用表面調整剤と同一化合物であれば、表面調整剤の移動が生じても、易接着層とハードコート層との界面に、同一化合物が配向するため、密着性に優れる。なお、「同一化合物である」とは、同一の構造及び分子量の化合物であることを意味する。
【0103】
[含有量]
ハードコート層用表面調整剤の単位厚さ当たりの含有量(固形分比率)は、ハードコート層用材料の単位厚さ当たりの総質量に対して、好ましくは0.3~3質量%であり、より好ましくは0.4~2質量%である。ハードコート層用表面調整剤が、ハードコート層用材料の単位厚さ当たりの総質量に対して0.3質量%以上であれば、気液界面であるハードコート層表面をハードコート層用表面調整剤で埋めることが出来るため、密着性に優れる。また、3質量%以下であれば、表面調整剤の凝集を抑制できるため、塗布によりハードコート層を形成した際の光学フィルム全体の外観に優れる。
【0104】
また、ハードコート層における表面調整剤であるポリエーテル変性シリコーンの含有質量(固形分比率)Mhは、下記式(II)で表される。
式(II):
Mh=(ハードコート層の厚さ×ハードコート層が含有する表面調整剤の単位厚さ当たりの固形分比率)
【0105】
Mhは、0.15~12の範囲内であることが好ましい。Mhが0.15以上であると、ハードコート層形成用組成物を易接着層に塗布する際の、易接着層と塗膜との界面において、表面張力差が小さくハジキが発生しづらい。また、Mhが12以下であると、表面調整剤が凝集しづらい。よって、Mhが上記範囲内であると、透明性の高い光学フィルムが得られる。
Mhは、0.5~8の範囲内であることがより好ましく、1~3の範囲内であることがさらに好ましい。
【0106】
さらに、Mh/Mpが、0.02~40の範囲内であることにより、透明性の高い光学フィルムが得られる。
【0107】
<1.2.3 その他の添加剤>
また、ハードコート層形成用組成物には、ハードコート層の硬度を高くする、硬化収縮を抑える、ブロッキングを防止する、屈折率を制御する、防眩性を付与する、ハードコート層表面の性質を制御する等の目的に応じて、従来公知の微粒子、分散剤、帯電防止剤、シランカップリング剤、増粘剤、着色防止剤、着色剤(顔料、染料)、消泡剤、難燃剤、接着付与剤、重合禁止剤、酸化防止剤、表面改質剤等を添加していてもよい。また、上記ハードコート層形成用組成物は、光増感剤を含んでもよく、その具体例としては、n-ブチルアミン、トリエチルアミン、ポリ-n-ブチルホソフィン等が挙げられる。
【0108】
さらに、耐光性を付与する目的で、紫外線吸収剤又は色素化合物を添加することが好ましい。紫外線吸収剤としては、例えば、トリアジン系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、オキシベンゾフェノン系紫外線吸収剤、サリチル酸エステル系紫外線吸収剤、シアノアクリレート系紫外線吸収剤等を挙げることができ、これらを1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
また、色素化合物としては、例えば、アゾメチン系化合物、インドール系化合物、ケイ皮酸系化合物、ピリミジン系化合物、ポルフィリン系化合物、ジシアノメチン系化合物等を挙げることができる。
【0109】
特に、ハードコート層は微粒子を含有することが好ましい。微粒子の含有量は、微粒子:活性エネルギー線硬化性樹脂=100:100~400:100であることが好ましい。このような含有量で微粒子を含むことにより、ハードコート層の寸法変動を低くすることができる。ここでの微粒子は、特に制限されないが、金属酸化物によって構成された微粒子(以下、「金属酸化物粒子」とも記す)であることが好ましい。ここでの金属酸化物としては、シリカ、アルミナ、ジルコニア、酸化チタン、五酸化アンチモン等が挙げられる。これらの中で、金属酸化物粒子は、シリカで構成されていることが好ましい。シリカ微粒子は、内部に空洞が形成された中空粒子であってもよい。
【0110】
上記微粒子は、ポリマーシランカップリング剤によって被覆されていることが好ましい。微粒子の表面をポリマーシランカップリング剤で被覆することにより、ハードコート層形成用組成物中で微粒子を均一に分散させることができる。ポリマーシランカップリング剤で被覆した微粒子の平均粒子径は、5~500nmであることが好ましく、より好ましくは10~200nmである。このような平均粒子径の微粒子を用いることにより、ハードコート層の光学特性を高めることができる。
【0111】
上記ポリマーシランカップリング剤は、重合性モノマーとシランカップリング剤(反応性シラン化合物)とを反応することによって調整される。重合性モノマーとしては、エチレン性不飽和二重結合を有するモノマーが挙げられ、(メタ)アクリル酸及びその誘導体から選ばれるモノマーが好ましい。反応性シラン化合物としては、ケイ素原子に3個のアルコキシ基と1個の官能基が結合した加水分解性シラン化合物が好ましい。ケイ素原子に結合する官能基としては、(メタ)アクリロキシ基、エポキシ基(グリシド基)、ウレタン基、アミノ基、フルオロ基、メルカプト基から選ばれる1種又は2種以上の基を有する基が挙げられる。
【0112】
ポリマーシランカップリング剤は、例えば、特開平11-116240号公報に開示された重合性モノマーと反応性シラン化合物との反応物の製法に準じて作製することができる。ポリマーシランカップリング剤の数平均分子量は、ポリスチレン換算で2,500~150,000であることが好ましく、より好ましくは2,000~100,000である。
【0113】
微粒子の表面をポリマーシランカップリング剤で被覆する方法について、シリカ微粒子を例に説明する。まず、シリカ微粒子とポリマーシランカップリング剤とを有機溶媒に分散させた分散液を作製する。この分散液に対してアルカリを添加してシリカ微粒子の表面にOH基を生成させ、該OH基にポリマーシランカップリング剤を吸着させる。又は、該OH基とポリマーシランカップリング剤のOH基とを脱水反応によって結合させる。最後に、ポリマーシランカップリング剤が吸着又は結合したシリカ微粒子を分散液から分離して、乾燥することによってポリマーシランカップリング剤で被覆したシリカ微粒子が得られる。
【0114】
<1.2.4 ハードコート層の形成方法>
上記ハードコート層形成用組成物の調製方法としては、ハードコート層が含有する固形成分を溶媒に均一に混合できれば、特に限定されず、例えば、上記各固形成分と溶媒を、ペイントシェーカー、ビーズミル、ニーダー、ミキサー等の公知の装置を用いて混合あるいは溶解して、調製することができる。
【0115】
ハードコート層形成用組成物は、易接着層の表面に塗布され、塗膜中の活性エネルギー線硬化性樹脂を硬化することでハードコート層が形成される。ハードコート層形成用組成物の塗布方法としては、従来公知の方法が特に制限なく適用できる。例えば、均一な薄膜層を形成する場合には、マイクログラビアコーティング法が好ましく、また、厚膜層を形成する必要がある場合にはダイコーティング法が好ましい。必要に応じて塗膜から溶媒を除去後、活性エネルギー線照射により活性エネルギー線硬化性樹脂を硬化することでハードコート層が得られる。
【0116】
<1.3 基材フィルム>
本発明に係る基材フィルムは、特に限定されず、任意のフィルムを用いることができ、厚さは、特に限定されないが、強度や取扱性等の作業性、薄膜性等の観点から、1~500μmの範囲内であることが好ましい。本発明の光学フィルムは偏光板に具備され、保護フィルムとして機能する観点から、透明性、機械的強度、熱安定性、水分遮断性、等方性等に優れる熱可塑性樹脂材料から形成されることが好ましい。本実施形態の効果を損なわない範囲で、成膜成分として熱可塑性エラストマー、ゴム質重合体、有機微粒子、無機微粒子等を含有してもよい。なお、有機微粒子には、後述のアクリル樹脂において説明するゴム粒子が含まれる。
【0117】
したがって、基材フィルム用樹脂についても特に限定されないが、熱可塑性樹脂であることが好ましく、例えば、セルロースエステル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアリレート樹脂、アクリル樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリロニトリル・スチレン共重合体(AS樹脂)、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリオレフィン樹脂、シクロオレフィン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、エポキシ樹脂、ノルボルネン樹脂、フッ素樹脂等が挙げられる。
【0118】
熱可塑性樹脂は一種を単独で使用してもよく、二種以上を組み合わせ使用してもよい。また、上記熱可塑性樹脂以外に、本実施形態の効果を損なわない範囲で、成膜成分として熱可塑性エラストマー、ゴム質重合体、有機微粒子、無機微粒子等を含有してもよい。なお、有機微粒子には、後述のアクリル樹脂において説明するゴム粒子が含まれる。さらに、本実施形態の効果を損なわない範囲で、酸化防止剤、可塑剤、帯電防止剤、剥離剤、増粘剤、紫外線吸収剤等のその他の添加剤を含んでもよい。
【0119】
基材フィルムは、単層若しくは二層以上の積層フィルムであってもよい。二層以上の積層フィルムの場合、各層の形成に用いる熱可塑性樹脂は、同じであっても異なってもよい。積層フィルムの製造方法としては、従来公知の方法が特に制限なく適用できる。
【0120】
基材フィルムの形成に用いる熱可塑性樹脂としては、透明性や機械的強度などの観点から、シクロオレフィン樹脂、セルロースエステル樹脂、及びアクリル樹脂が好ましい。この中で特に好ましい熱可塑性樹脂は、極性が低いため水分の影響を受けにくく、屈折率が波長により変化しにくいシクロオレフィン樹脂である。
【0121】
<1.3.1 基材フィルム用樹脂>
(シクロオレフィン樹脂)
本発明で用いるシクロオレフィン樹脂としては、好ましくは、下記一般式(2)で表される構造を有する(共)重合体が挙げられる。
【0122】
【化2】
【0123】
一般式(2)中、R~Rは、それぞれ独立に、水素原子、炭化水素基、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、エステル基、アルコキシ基、シアノ基、アミド基、イミド基、シリル基又は極性基(すなわち、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、エステル基、アルコキシ基、シアノ基、アミド基、イミド基、又はシリル基)で置換された炭化水素基である。ただし、R~Rは、二つ以上が互いに結合して、不飽和結合、単環又は多環を形成していてもよく、この単環又は多環は、二重結合を有していても、芳香環を形成してもよい。RとRとで、又はRとRとで、アルキリデン基を形成していてもよい。p及びmは0以上の整数である。
【0124】
上記一般式(2)中、R及びRは、水素原子又は炭素数1~10、さらに好ましくは1~4、特に好ましくは1又は2の炭化水素基である。R及びRは、水素原子又は1価の有機基であって、R及びRの少なくとも一つは水素原子及び炭化水素基以外の極性を有する極性基である。mは0~3の整数であり、pは0~3の整数であり、より好ましくはm+p=0~4、さらに好ましくは0~2、特に好ましくはm=1かつp=0である。m=1、p=0である特定単量体は、得られるシクロオレフィン樹脂のガラス転移温度が高くかつ機械的強度も優れたものとなる点で好ましい。
【0125】
上記特定単量体の極性基としては、カルボキシ基、ヒドロキシ基、アルコキシカルボニル基、アリロキシカルボニル基、アミノ基、アミド基、シアノ基などが挙げられ、これら極性基はメチレン基などの連結基を介して結合していてもよい。また、カルボニル基、エーテル基、シリルエーテル基、チオエーテル基、イミノ基など極性を有する2価の有機基が連結基となって結合している炭化水素基なども極性基として挙げられる。これらの中では、カルボキシ基、ヒドロキシ基、アルコキシカルボニル基又はアリロキシカルボニル基が好ましく、特にアルコキシカルボニル基又はアリロキシカルボニル基が好ましい。
【0126】
さらに、R及びRの少なくとも一つが式-(CHCOORで表される極性基である単量体は、得られるシクロオレフィン樹脂が高いガラス転移温度と低い吸湿性、各種材料との優れた密着性を有するものとなる点で好ましい。上記の特定の極性基にかかる式において、Rは炭素原子数1~12、さらに好ましくは1~4、特に好ましくは1~2の炭化水素基、好ましくはアルキル基である。
【0127】
共重合性単量体の具体例としては、シクロブテン、シクロペンテン、シクロヘプテン、シクロオクテン、ジシクロペンタジエンなどのシクロオレフィンを挙げることができる。シクロオレフィンの炭素数としては、4~20の範囲内が好ましく、さらに好ましいのは5~12である。
【0128】
本実施形態において、シクロオレフィン樹脂は1種単独で、又は2種以上を併用することができる。
【0129】
本実施形態のシクロオレフィン樹脂の好ましい分子量は、固有粘度〔η〕inhで0.2~5dL/g、さらに好ましくは0.3~3dL/g、特に好ましくは0.4~1.5dL/gであり、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定したポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)は8000~100000、さらに好ましくは10000~80000、特に好ましくは12000~50000であり、重量平均分子量(Mw)は20000~300000、さらに好ましくは30000~250000、特に好ましくは40000~200000の範囲のものが好適である。
【0130】
固有粘度〔η〕inh、数平均分子量及び重量平均分子量が上記範囲にあることによって、シクロオレフィン樹脂の耐熱性、耐水性、耐薬品性、機械的特性と、本実施形態のシクロオレフィンフィルムとしての成形加工性が良好となる。
【0131】
また、数平均分子量は、高速液体クロマトグラフィーにより下記条件で測定した値を採用するものとする。
溶媒:メチレンクロライド
カラム:Shodex K806、K805、K803G(昭和電工(株)製を3本接続して使用した)
試料濃度:0.1質量%
検出器:RI Model 504(GLサイエンス社製)
ポンプ:L6000(日立製作所(株)製)
流量:1.0mL/分
温度:23℃
校正曲線:標準ポリスチレンSTK standard ポリスチレン(東ソー(株)製)Mw=500~2800000の範囲内の13サンプルによる校正曲線を使用した。13サンプルは、ほぼ等間隔に用いることが好ましい。
【0132】
本実施形態のシクロオレフィン樹脂のガラス転移温度(Tg)としては、通常、110℃以上、好ましくは110~350℃、さらに好ましくは120~250℃、特に好ましくは120~220℃の範囲内である。Tgが110℃以上の場合が、高温条件下での使用、又はコーティング、印刷などの二次加工により変形が起こりにくいため好ましい。一方、Tgが350℃以下とすることで、成形加工が困難になる場合を回避し、成形加工時の熱によって樹脂が劣化する可能性を抑制することができる。
【0133】
シクロオレフィン樹脂には、本実施形態の効果を損なわない範囲で、例えば特開平9-221577号公報、特開平10-287732号公報に記載されている、特定の炭化水素系樹脂、又は公知の熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマー、ゴム質重合体、有機微粒子、無機微粒子などを配合してもよく、特定の波長分散剤、糖エステル化合物、酸化防止剤、剥離促進剤、ゴム粒子、可塑剤、紫外線吸収剤などの添加剤を含んでもよい。
【0134】
また、シクロオレフィン樹脂を用いた基材フィルムとして、市販品を好ましく用いることができる。市販品は、例えば、JSR(株)からアートン(Arton:登録商標)G(G7810等)、アートンF、アートンR、及びアートンRXという商品名で発売されており、また日本ゼオン(株)からゼオノア(Zeonor:登録商標)ZF14、ZF16、ゼオネックス(Zeonex:登録商標)250又はゼオネックス280という商品名で市販されており、これらを使用することができる。
【0135】
(セルロースエステル樹脂)
本発明で用いるセルロースエステル樹脂としては、好ましくは、例えば、トリアセチルセルロース、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースジアセテート、セルロースアセテートブチレート等が挙げられる。また、セルロースエステル樹脂と共に、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂、ノルボルネン樹脂、フッ素樹脂、シクロオレフィン樹脂等を併用してもよい。
【0136】
本発明に係る基材フィルムに用いるセルロースエステルは、炭素数2~22程度のカルボン酸エステルであることが好ましく、芳香族カルボン酸のエステルであってもよいし、セルロースの低級脂肪酸エステルであることが好ましい。ここで、セルロースの低級脂肪酸エステルにおける「低級脂肪酸」とは、炭素原子数が6以下の脂肪酸を意味する。
【0137】
また、セルロースエステルを構成するグルコース単位のヒドロキシ基に結合するアシル基は、直鎖炭化水素基であってもよいし、分岐炭化水素基であってもよいし、環状構造の炭化水素基であってもよいし、アシル基に対して別の置換基が置換していてもよい。セルロースエステルのヒドロキシ基に結合する置換基の置換度が同じ場合、低級脂肪酸の炭素数が7を超えると、複屈折性が低下するため、セルロースエステルを構成するグルコース単位のヒドロキシ基に結合するアシル基の炭素数は2~6が好ましく、この炭素数は2~4がより好ましく、さらに好ましくは炭素数が2~3である。
【0138】
本発明において、セルロースエステルは、混合酸由来のアシル基を用いることもでき、好ましくは炭素数が2と3のアシル基、又は炭素数が2と4のアシル基を用いることである。このようなセルロースエステルの具体例として、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、又は、セルロースアセテートプロピオネートブチレート等のアセチル基の他にプロピオネート基又はブチレート基が結合したセルロースの混合脂肪酸エステルを用いることができる。なお、ブチレートを形成するブチリル基は、直鎖状であってもよいし、分岐状であってもよい。セルロースエステルは、セルロースアセテート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートプロピオネート、又はセルロースアセテートフタレートであることが好ましい。
【0139】
上記基材フィルムのリターデーション値は、セルロースエステルに含まれるアシル基の種類とセルロース樹脂骨格のピラノース環へのアシル基の置換度等によって適宜制御することができる。
【0140】
基材フィルムに用いられるセルロースエステルを構成するグルコース単位のヒドロキシ基に結合する置換基は、下記式(2)及び式(3)を同時に満足するものが好ましい。
【0141】
式(2):2.0≦X+Y≦3.0
式(3):0≦Y≦2.0
上記式(2)中、Xはアセチル基の置換度であり、式(2)及び式(3)中、Yはプロピオニル基又はブチリル基の置換度である。上記2式を満足することにより、優れた光学特性を示す基材フィルムを製造することができる。上記セルロースエステルの中で、トリアセチルセルロース、セルロースアセテートプロピオネートが好ましく用いられる。セルロースアセテートプロピオネートは、アセチル基の置換度Xが1.0≦X≦2.5であり、かつ0.1≦Y≦1.5、2.0≦X+Y≦3.0であることが好ましい。
【0142】
アシル基の置換度の測定方法は、ASTM-D817-96に準じて測定することができる。アシル基の置換度が低過ぎると、セルロース樹脂の骨格を構成するピラノース環のヒドロキシ基に対して未反応部分が多くなり、該ヒドロキシ基が多く残存する。このため、基材フィルムのリターデーション値が湿度によって変化してしまうため好ましくなく、偏光板保護フィルムとして偏光子を保護する能力が低下するため好ましくない。
【0143】
上記セルロースエステルの数平均分子量は60000~300000が好ましく、より好ましくは70000~200000である。このような数平均分子量のセルロースエステルを用いることにより基材フィルムの機械的強度を高めることができる。このセルロースエステルの数平均分子量は、高速液体クロマトグラフィーにより下記条件で測定した値を採用するものとする。
【0144】
溶媒:アセトン
カラム:MPW×1(東ソー株式会社製)
試料濃度:0.2(質量/容量)%
流量:1.0mL/分
試料注入量:300μL
標準試料:標準ポリスチレン
温度:23℃
セルロースエステルの原料となるセルロースは、特に限定されないが、綿花リンター、木材パルプ、ケナフなどを挙げることができる。またこれらの材料から得られたセルロースエステルはそれぞれ任意の割合で混合して使用してもよい。
【0145】
上記セルロース原料のアシル化剤として、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸等の酸無水物を用いる場合、酢酸等の有機酸又はジクロロメタン等の有機溶媒と、硫酸等のプロトン性触媒とによって反応が行われる。アシル化剤として酸クロライド(CHCOCl、CCOCl、CCOCl)を用いる場合、触媒としてアミン等の塩基性化合物が用いられる。セルロース原料のアシル化は、特開平10-45804号公報に記載の方法により合成することができる。
【0146】
上記セルロースエステルにおいて、グルコース単位の6位のアシル基の平均置換度は0.5~0.9であることが好ましい。セルロースエステルを構成するグルコース単位の6位のヒドロキシ基は、2位および3位のヒドロキシ基よりも反応性が高い一級ヒドロキシ基が存在する。この一級ヒドロキシ基は、硫酸を触媒とするセルロースエステルの製造過程で硫酸エステルを優先的に形成する。このため、セルロースのエステル化反応において、触媒である硫酸の添加量を増加させることにより、通常のセルロースエステルに比べて、グルコース単位の2位及び3位のヒドロキシ基の平均置換度が高いセルロースエステルを得ることができる。
【0147】
また、2位及び3位のヒドロキシ基の平均置換度を高めるために、必要に応じて、セルロースエステルをトリチル化してもよい。セルロースエステルを構成するグルコース単位の6位のヒドロキシ基をトリチル化により選択的に保護することで、グルコース単位の2位及び3位のヒドロキシ基を集中的にエステル化することができる。そして、グルコース単位の2位及び3位のヒドロキシ基をエステル化した後に、グルコース単位の6位のヒドロキシ基を保護するトリチル基(保護基)を脱離することにより、グルコース単位の6位のヒドロキシ基よりも2位及び3位のヒドロキシ基の平均置換度を高めることができる。このようなエステル化の手法として、特開2005-281645号記載の方法で製造されたセルロースエステルを用いることが好ましい。
【0148】
セルロースエステルとしてアセチルセルロースを用いる場合、アセチルセルロースの酢化率を上げるためには、酢化反応の時間を延長する必要がある。但し、酢化反応の反応時間を長くすると、セルロース鎖の切断及びアセチル基の分解等が起こるため好ましくない。よって、アセチルセルロースの酢化度を上げつつアセチルセルロースの分解を抑えるために、酢化反応の反応時間を特定の範囲に設定することが好ましい。しかしながら、反応時間の好適数値範囲は、反応装置、反応設備、その他の反応条件等によって最適な反応時間が大きく変わるので一律に定めることが困難である。
【0149】
そこで、上記反応時間に代えて反応度合いの一つの指標である重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)の値を用いることが好ましい。セルロースエステルは、通常のポリマーの分解と同様に分解が進むにつれて分子量分布が広くなってゆくので、重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)の値によってセルロースエステルの分解度合いを把握することができる。例えば、重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)によって反応度合いを特定することにより、セルローストリアセテートを酢化する過程で、酢化の反応時間が余り長くなり過ぎてセルローストリアセテートの分解が進み過ぎることを防止することができ、かつ酢化に十分な反応時間を確保することができる。セルロースエステルのMw/Mn比は1.4~5.0が好ましい。
【0150】
セルロースエステルの製造方法の一例を以下に示すと、セルロース原料として綿花リンター100質量部を解砕して、40質量部の酢酸を添加し、36℃で20分間前処理活性化をする。その後、硫酸8質量部、無水酢酸260質量部、酢酸350質量部を添加し、36℃で120分間エステル化を行う。24%酢酸マグネシウム水溶液11質量部で中和した後、63℃で35分間ケン化熟成することによりアセチルセルロースを得る。このアセチルセルロースを10倍の酢酸水溶液(酢酸:水=1:1(質量比))を用いて、室温で160分間撹拌した後、濾過、乾燥させてアセチル置換度2.75の精製アセチルセルロースを得る。このアセチルセルロースは、Mnが92000、Mwが156000、Mw/Mnは1.7である。同様にセルロースエステルのエステル化条件(温度、時間、撹拌)、加水分解条件を調整することによって置換度、Mw/Mn比の異なるセルロースエステルを合成することができる。
【0151】
上記方法で合成されたセルロースエステルは、精製して低分子量成分を除去することが好ましく、未酢化又は低酢化度の成分を濾過で取り除くことが好ましい。また、上記セルロースエステルが混酸セルロースエステルの場合には、特開平10-45804号公報に記載の方法で得ることができる。
【0152】
また、セルロースエステルは、鉄(Fe)、カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)等の金属を含まないことが好ましい。これらの金属イオンは、有機の酸性基を含むポリマー分解物等と塩を形成することにより不溶性の核を形成するからである。これらの微量金属成分は、製造工程で使用される水に由来してセルロースエステル中に含まれると考えられる。
【0153】
上記セルロースエステルに含まれる鉄は、1ppm以下であることが好ましい。セルロースエステルに含まれるカルシウムは、60ppm以下が好ましく、より好ましくは0~30ppmである。カルシウムは、カルボン酸又はスルホン酸等の酸性成分と錯体を形成することもあるし、また多くの配位子と錯体を形成することもある。これらの錯体により不溶なカルシウムに由来するスカム(不溶性の澱、濁り)が形成されることがある。セルロースエステルに含まれるマグネシウムは、0~70ppmであることが好ましく、0~20ppmであることがより好ましい。マグネシウムを70ppm以下とすることにより不溶分の生成を抑制することができる。
【0154】
上記金属の含有量は、絶乾したセルロースエステルをマイクロダイジェスト湿式分解装置にて硫硝酸分解した後にアルカリ溶融で前処理を行い、その前処理後のセルロースエステルをICP-AES(誘導結合プラズマ発光分光分析装置)を用いて分析することによって特定される。
【0155】
また、セルロースエステル樹脂を用いた基材フィルムとして、市販品を好ましく用いることができる。市販品は、例えば、コニカミノルタタックKC8UX、KC4UX、KC8UY、KC4UY、KC6UA、KC4UA、KC2UA、KC4UEおよびKC4UZ、KC4CT1、KC2CT1(以上、コニカミノルタ社製)が挙げられる。セルロースエステルフィルムの屈折率は1.45~1.55であることが好ましい。屈折率は、JISK7142-2008に準じて測定することができる。
【0156】
(アクリル樹脂)
アクリル樹脂は、(メタ)アクリル酸及びその誘導体から選ばれるモノマーを(共)重合して得られる(共)重合体からなる樹脂である。(共)重合体におけるモノマー由来の単位を「構造単位」という。
【0157】
なお、本実施形態において、「(メタ)アクリル」とは、「アクリル」と「メタクリル」の両方を示し、「(メタ)アクリレート」とは「アクリレート」と「メタクリレート」の両方を示し、「(メタ)アクリロイル」とは、「アクリロイル」と「メタクリロイル」の両方を示している。例えば、「ウレタン(メタ)アクリレート」は「ウレタンアクリレート」と「ウレタンメタクリレート」の両方を示している。
【0158】
基材フィルムに用いるアクリル樹脂は、求められる物性に応じてモノマーの種類や組み合わせ、モノマー組成が選択される。以下に基材フィルムの平衡含水率を所定の範囲内に調整するとともに、脆さを改善する観点などから、分子設計されたアクリル樹脂を例にしてアクリル樹脂を説明するが、本発明に用いるアクリル樹脂はこれに限定されるものではない。アクリル樹脂は、例えば、メタクリル酸メチルに由来する構造単位(U1)と、フェニルマレイミドに由来する構造単位(U2)と、アクリル酸アルキルエステルに由来する構造単位(U3)とを含むことが好ましい。
【0159】
メタクリル酸メチルに由来する構造単位(U1)の含有量は、アクリル樹脂を構成する全構造単位に対して50~95質量%であることが好ましく、70~90質量%であることがより好ましい。
【0160】
フェニルマレイミドに由来する構造単位(U2)は、適度な極性を有するため、水分との親和性を高めうる。また、フェニルマレイミドに由来する構造単位(U2)は、比較的嵩高い構造を有するため、樹脂マトリクス中に水分を移動させうるミクロな空隙を有しうる。それにより、基材フィルムの水分の移動性や排出性を高めることができる。
【0161】
フェニルマレイミドに由来する構造単位(U2)の含有量は、アクリル樹脂を構成する全構造単位に対して1~25質量%であることが好ましい。フェニルマレイミドに由来する構造単位(U2)の含有量が1質量%以上であると、適度な極性を有するため、水分子と親和しやすいだけでなく、水分子が移動できるようなミクロな空隙を十分に有するため、平衡含水率を高めやすい。フェニルマレイミドに由来する構造単位(U2)の含有量が25質量%以下であると、基材フィルムの脆性が損なわれにくい。フェニルマレイミドに由来する構造単位(U2)の含有量は、上記観点から、7~15質量%であることがより好ましい。
【0162】
アクリル酸アルキルエステルに由来する構造単位(U3)は、例えば、後述する、シェル部を構成する重合体がアクリル酸ブチルに由来する構造単位を含むゴム粒子と良好な親和性を有するため、ゴム粒子の分散性を高めうる。
【0163】
アクリル酸アルキルエステルは、アルキル部分の炭素原子数が1~7、好ましくは1~5のアクリル酸アルキルエステルであることが好ましい。アクリル酸アルキルエステルの例には、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2-ヒドロキシエチル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸2-エチルヘキシルなどが含まれる。
【0164】
アクリル酸アルキルエステルに由来する構造単位(U3)の含有量は、アクリル樹脂を構成する全構造単位に対して1~25質量%であることが好ましい。アクリル酸アルキルエステルに由来する構造単位(U3)の含有量が1質量%以上であると、アクリル樹脂に適度な柔軟性を付与しうるため、フィルムが脆くなりすぎず、破断しにくい。アクリル酸アルキルエステルに由来する構造単位(U3)の含有量が25質量%以下であると、アクリル樹脂のTgが低下しすぎないため、基材フィルムの耐熱性が損なわれにくいだけでなく、機械的強度も損なわれにくい。アクリル酸アルキルエステルに由来する構造単位の含有量は、上記観点から、5~15質量%であることがより好ましい。
【0165】
フェニルマレイミドに由来する構造単位(U2)の、フェニルマレイミドに由来する構造単位(U2)とアクリル酸アルキルエステルに由来する構造単位(U3)の合計量に対する比率は、20~70質量%であることが好ましい。当該比率が20質量%以上であると、基材フィルムの耐熱性を高めやすく、70質量%以下であると、基材フィルムが脆くなりすぎない。
【0166】
アクリル樹脂のガラス転移温度(Tg)は、110℃以上であることが好ましく、120~150℃であることがより好ましい。アクリル樹脂のTgが上記範囲内にあると、基材フィルムの耐熱性を高めやすい。アクリル樹脂のTgを調整するためには、例えばフェニルマレイミドに由来する構造単位(U2)やアクリル酸アルキルエステルに由来する構造単位(U3)の含有量を調整することが好ましい。
【0167】
アクリル樹脂の重量平均分子量(Mw)は、50万以上であることが好ましい。アクリル樹脂の重量平均分子量が50万以上であると、溶液流延に用いるドープの粘度が低くなりすぎないため、ゴム粒子の凝集を抑制できるだけでなく、基材フィルムの表面の平坦性が低下することも抑制しうる。さらに、アクリル樹脂の重量平均分子量が50万以上であると、基材フィルムに十分な機械的強度(靱性)を付与しうる。アクリル樹脂の重量平均分子量は、上記観点から、50万~300万であることがより好ましく、60万~200万であることがさらに好ましい。重量平均分子量は、前述と同様の方法で測定することができる。
【0168】
アクリル樹脂の含有量は、基材フィルムに対して60質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましい。
【0169】
基材フィルムが、アクリル樹脂を主体として構成される場合、基材フィルムに靱性(しなやかさ)を付与する機能を有するゴム粒子を含有してもよい。ゴム粒子は、ゴム状重合体を含む粒子である。ゴム状重合体は、ガラス転移温度が20℃以下の軟質な架橋重合体である。そのような架橋重合体の例には、ブタジエン系架橋重合体、(メタ)アクリル系架橋重合体、及びオルガノシロキサン系架橋重合体が含まれる。中でも、アクリル樹脂との屈折率差が小さく、基材フィルムの透明性が損なわれにくい観点では、(メタ)アクリル系架橋重合体が好ましく、アクリル系架橋重合体(アクリル系ゴム状重合体)がより好ましい。
【0170】
ゴム粒子は、アクリル系ゴム状重合体を含む粒子であることが好ましい。アクリル系ゴム状重合体は、アクリル酸エステルに由来する構造単位を主成分として含む架橋重合体である。主成分として含むとは、アクリル酸エステルに由来する構造単位の含有量が40質量%以上となることをいう。アクリル系ゴム状重合体は、アクリル酸エステルに由来する構造単位と、それと共重合可能な他の単量体に由来する構造単位と、1分子中に2以上のラジカル重合性基(非共役な反応性二重結合)を有する多官能性単量体に由来する構造単位とを含む架橋重合体であることが好ましい。
【0171】
ゴム状重合体のガラス転移温度(Tg)は、0℃以下であることが好ましく、-10℃以下であることがより好ましい。ゴム状重合体のガラス転移温度(Tg)が0℃以下であると、フィルムに適度な靱性を付与しうる。ゴム状重合体のガラス転移温度(Tg)は、前述と同様の方法で測定される。
【0172】
アクリル系ゴム状重合体を含む粒子は、アクリル系ゴム状重合体を含むコア部と、それを覆うシェル部とを有するコアシェル型の粒子であってもよい。シェル部は、アクリル系ゴム状重合体にグラフト結合した、メタクリル酸エステルに由来する構造単位を主成分として含むメタクリル系重合体を含むことが好ましい。
【0173】
ゴム粒子の平均粒子径は、分散液中のゴム粒子の分散粒径を、ゼータ電位・粒径測定システム(大塚電子株式会社製 ELSZ-2000ZS)で測定することで求めることができる。ゴム粒子の平均粒子径は、100~300nmの範囲内が好ましい。ゴム粒子の含有量は、特に限定されないが、基材フィルムに対して5~25質量%であることが好ましく、5~15質量%であることがより好ましい。
【0174】
<1.3.2 基材フィルムの製造方法>
本発明に係る基材フィルムは、溶融流延法、溶液流延法、カレンダー成形法等の公知の成形方法により製造できる。溶融流延法、溶液流延法を用いることが好ましく、溶液流延法が特に好ましい。
【0175】
基材フィルムを溶液流延法で製造するには、具体的には、以下の(1)~(3)の工程を含む製造方法が用いられる。さらに、該製造方法は、好ましくは(4)の工程を有する。
(1)熱可塑性樹脂を含む成膜成分と、必要に応じて上記添加剤と、溶媒とを含むドープを得る工程
(2)得られたドープを支持体上に流延した後、乾燥及び剥離して、膜状物を得る工程
(3)得られた膜状物を、必要に応じて延伸しながら乾燥させる工程
(4)得られた基材フィルムを巻き取って、ロール体を得る工程
【0176】
(1)の工程について
熱可塑性樹脂を含む成膜成分と、必要に応じて上記添加剤とを、溶媒に溶解又は分散させて、ドープを調製する。
【0177】
ドープに用いられる溶媒は、少なくとも熱可塑性樹脂を溶解させうる有機溶媒(良溶媒)を含む。また、添加剤を用いる場合は、有機溶媒は添加剤に対しても溶解性が高いことが好ましい。良溶媒の例には、ジクロロメタンなどの塩素系有機溶媒や;酢酸メチル、酢酸エチル、アセトン、テトラヒドロフランなどの非塩素系有機溶媒が含まれる。中でも、ジクロロメタンが好ましい。
【0178】
ドープに用いられる溶媒は、貧溶媒をさらに含んでいてもよい。貧溶媒の例には、炭素原子数1~4の直鎖又は分岐鎖状の脂肪族アルコールが含まれる。ドープ中のアルコールの比率が高くなると、膜状物がゲル化しやすく、金属支持体からの剥離が容易になりやすい。炭素原子数1~4の直鎖又は分岐鎖状の脂肪族アルコールとしては、メタノール、エタノール、n-プロパノール、iso-プロパノール、n-ブタノール、sec-ブタノール、tert-ブタノールを挙げることができる。これらのうちドープの安定性が高く、沸点も比較的低く、乾燥性も良いことなどからエタノールが好ましい。
【0179】
(2)の工程について
得られたドープを、支持体上に流延する。ドープの流延は、流延ダイから吐出させて行うことができる。
【0180】
次いで、支持体上に流延されたドープ中の溶媒を蒸発させ、乾燥させる。乾燥されたドープを支持体から剥離して、膜状物を得る。
【0181】
支持体から剥離する際のドープの残留溶媒量(剥離時の膜状物の残留溶媒量)は、例えば20質量%以上であることが好ましく、20~30質量%であることがより好ましい。剥離時の残留溶媒量が30質量%以下であると、剥離による膜状物が伸びすぎるのを抑制しやすい。
【0182】
剥離時のドープの残留溶媒量は、下記式(4)で定義される。以下においても同様である。
式(4) ドープの残留溶媒量(質量%)=(ドープの加熱処理前質量-ドープの加熱処理後質量)/ドープの加熱処理後質量×100
なお、残留溶媒量を測定する際の加熱処理とは、140℃30分の加熱処理をいう。
【0183】
剥離時の残留溶媒量は、支持体上でのドープの乾燥温度や乾燥時間、支持体の温度などによって調整することができる。
【0184】
(3)の工程について
得られた膜状物を乾燥させる。乾燥は、一段階で行ってもよいし、多段階で行ってもよい。また、乾燥は、必要に応じて延伸しながら行ってもよい。
【0185】
例えば、膜状物の乾燥工程は、膜状物を予備乾燥させる工程(予備乾燥工程)と、膜状物を延伸する工程(延伸工程)と、延伸後の膜状物を乾燥させる工程(本乾燥工程)とを含んでもよい。
【0186】
(予備乾燥工程)
予備乾燥温度(延伸前の乾燥温度)は、延伸温度よりも高い温度でありうる。具体的には、熱可塑性樹脂のガラス転移温度をTgとしたとき(Tg-50)~(Tg+50)℃であることが好ましい。予備乾燥温度が(Tg-50)℃以上であると、溶媒を適度に揮発させやすいため、搬送性(ハンドリング性)を高めやすく、(Tg+50)℃以下であると、溶媒が揮発しすぎないため、この後の延伸工程における延伸性が損なわれにくい。初期乾燥温度は、(a)テンター延伸機やローラーで搬送しながら非接触加熱型で乾燥させる場合は、延伸機内温度又は熱風温度などの雰囲気温度として測定されうる。
【0187】
(延伸工程)
延伸は、求められる光学特性、例えばリターデーション値に応じて行えばよく、少なくとも一方の方向に延伸することが好ましく、互いに直交する二方向に延伸(例えば、膜状物の幅方向(TD方向)と、それと直交する搬送方向(MD方向)の二軸延伸)してもよい。
【0188】
基材フィルムを製造する際の延伸倍率は、5~100%であることが好ましく、20~100%であることがより好ましい。二軸延伸する場合は、各方向にける延伸倍率が、それぞれ上記範囲内であることが好ましい。
【0189】
延伸倍率(%)は、下記式(5)で定義される。
式(5) 延伸倍率(%)=(延伸後のフィルムの延伸方向大きさ-延伸前のフィルムの延伸方向大きさ)/(延伸前のフィルムの延伸方向大きさ)×100
なお、二軸延伸を行う場合は、TD方向とMD方向のそれぞれについて、上記延伸倍率とすることが好ましい。
【0190】
延伸温度(延伸時の乾燥温度)は、前述と同様に、熱可塑性樹脂のガラス転移温度をTgとしたとき、Tg(℃)以上であることが好ましく、(Tg+10)~(Tg+50)℃であることがより好ましい。延伸温度がTg(℃)以上、好ましくは(Tg+10)℃以上であると、溶媒を適度に揮発させやすいため、延伸張力を適切な範囲に調整しやすく、(Tg+50)℃以下であると、溶媒が揮発しすぎないため、延伸性が損なわれにくい。基材フィルムの製造時における延伸温度は、例えば115℃以上としうる。延伸温度は、前述と同様に、(a)延伸機内温度などの雰囲気温度を測定することが好ましい。
【0191】
延伸開始時の膜状物中の残留溶媒量は、剥離時の膜状物中の残留溶媒量と同程度であることが好ましく、例えば20~30質量%であることが好ましく、25~30質量%であることがより好ましい。
【0192】
膜状物のTD方向(幅方向)の延伸は、例えば膜状物の両端をクリップやピンで固定し、クリップやピンの間隔を進行方向に広げる方法(テンター法)で行うことができる。膜状物のMD方向の延伸は、例えば複数のロールに周速差をつけ、その間でロール周速差を利用する方法(ロール法)で行うことができる。
【0193】
(本乾燥工程)
残留溶媒量をより低減させる観点から、延伸後に得られた膜状物をさらに乾燥させることが好ましい。例えば、延伸後に得られた膜状物を、ロールなどで搬送しながらさらに乾燥させることが好ましい。
【0194】
本乾燥温度(未延伸の場合は乾燥温度)は、熱可塑性樹脂のガラス転移温度をTgとしたとき、(Tg-50)~(Tg-30)℃であることが好ましく、(Tg-40)~(Tg-30)℃であることがより好ましい。後乾燥温度が(Tg-50)℃以上であると、延伸後の膜状物から溶媒を十分に揮発除去しやすく、(Tg-30)℃以下であると、膜状物の変形などを高度に抑制しうる。本乾燥温度は、前述と同様に、(a)熱風温度などの雰囲気温度を測定することが好ましい。
【0195】
(4)の工程について
得られた基材フィルムは、長尺状であることが好ましい。長尺状の基材フィルムは、ロール状に巻き取られて、ロール体となる。
【0196】
長尺状の基材フィルムの長さは、特に制限されないが、例えば100~10000m程度でありうる。また、基材フィルムの幅は、1m以上であることが好ましく、1.3~4mであることがより好ましい。
【0197】
基材フィルムの厚さは、適宜に決定しうるが、一般には強度や取扱性等の作業性、薄膜性等の点より1~500μmの範囲内にあるのが好ましい。基材フィルムの厚さは、5~50μmの範囲内にあるのがより好ましく、10~45μmの範囲内にあるのがさらに好ましい。
【0198】
≪2 製造方法≫
本発明の光学フィルムの製造方法は、前記基材フィルム上に前記易接着層を形成する工程と、前記易接着層上に前記ハードコート層を形成する工程を含むことを特徴とする。
【0199】
各層の形成方法は、特に限定されないが、塗布法であることが好ましい。例えば、基材フィルムの表面に易接着層形成用組成物を塗布し、乾燥させ、更にハードコート層形成用組成物を塗布し、活性エネルギー線を照射させることにより得ることができる。
【0200】
このように、易接着層及びハードコート層をそれぞれ塗布法により形成することにより、各層が前記表面調整剤を含有することができ、かつ、表面調整剤として十分に機能する。また、基材フィルム上に、易接着層、ハードコート層の順に形成することにより、易接着層用表面調整剤が、易接着層とハードコート層との界面に配向するため、十分な密着性が得られる。したがって、薄型で層間の密着性に優れた光学フィルム得ることができる。
【0201】
≪3 偏光板≫
本発明の偏光板は、本発明の光学フィルムを具備することを特徴とする。図2に本発明の偏光板の好ましい層構成について、その一例を示すが、これに限定されるものではない。
【0202】
図2は、本発明の偏光板の層構成の基本的な構成を示す断面図である。本発明の偏光板は、接着層11を介して、偏光子層12の片面に本発明の光学フィルム、もう一方の面に保護フィルム13を有していることが好ましい。また、表示装置に取り付けることを考慮して、粘着層14を有していてもよい。
【0203】
<3.1 偏光子層>
本発明の偏光板は、本発明の光学フィルムに、更に偏光子層を積層することにより得られる。なお、「偏光子」とは、一定方向の偏波面の光だけを通す素子のことをいう。以下に、本発明における偏光子層の好ましい構成について、その一例を示すがこれに限定されるものではない。
【0204】
偏光子層の種類は、特に限定されず、フィルム型であっても塗布型であってもよい。また、偏光子層の厚さは、特に限定されないが、薄型の偏光板が得られる観点から、0.1~80μmの範囲内であることが好ましい。
【0205】
フィルム型偏光子層としては、樹脂フィルムに、ヨウ素又は二色性色素を染色させたものがある。樹脂フィルムに用いられる樹脂は、疎水性樹脂でも親水性樹脂でもよいが、親水性樹脂であることが好ましく、例えば、ポリ酢酸ビニル樹脂、エチレン・酢酸ビニル共重合樹脂(EVA)等であり、ポリビニルアルコールフィルムであることが特に好ましい。
【0206】
詳しくは、ポリビニルアルコールフィルムを一軸延伸した後、ヨウ素又は二色性色素で染色したフィルムであってもよいし、ポリビニルアルコールフィルムをヨウ素又は二色性色素で染色した後、一軸延伸したフィルムであってもよい。なお、更にホウ素化合物で耐久性処理を施してもよい。用いられるポリビニルアルコールフィルムの厚さは、5~50μmの範囲内であることが好ましく、延伸倍率は、3~7倍であることが好ましい。このようにして得られる偏光子フィルムについて、ヨウ素で染色したものは偏光特性に優れており、二色性色素で染色したものは耐久性に優れている。
【0207】
塗布型偏光子層としては、重合性液晶化合物と、ヨウ素又は二色性色素からなる重合性液晶組成物をフィルムにしたものがある。ここで、重合性液晶化合物とは、少なくとも1つの重合性基を有する液晶化合物をいう。
【0208】
詳しくは、前記重合性液晶組成物による塗膜を形成し、前記塗膜から溶剤を除去した後、重合性液晶化合物が液体相に相転移する温度以上まで昇温した後降温して、当該重合性液晶化合物をスメクチック相に相転移させ、当該スメクチック相を保持したまま重合性液晶化合物を重合させることにより、当該塗布型偏光子層が得られる。また、当該塗布型偏光子層は、液晶配向層を介して積層されることが、液晶配向度を上げる観点から好ましい。
【0209】
塗布型偏光子層の厚さは、適用される表示装置に応じて適宜選択でき、0.1~5μmの範囲内であることが好ましく、0.3~4μmの範囲内であることがより好ましく、0.5~3μmの範囲内であることがさらに好ましい。厚さがこの範囲よりも薄くなりすぎると、必要な光吸収が得られない場合があり、かつ、厚さがこの範囲よりも厚くなりすぎると、液晶配向層による配向規制力が低下し、配向欠陥を生じやすい。また、液晶配向層を含む場合、液晶配向層の厚さは、10~5000nmの範囲内であることが好ましく、10~1000nmの範囲内であることがより好ましい。
【0210】
<3.2 保護フィルム>
偏光板に強度を付与するためには、偏光子層の両面を、保護するフィルムで挟むことが好ましく、本発明においては、一方を本発明の光学フィルムとすることが好ましい。保護フィルムとしては、任意のフィルムを用いることができるが、上記基材フィルムとして好適に用いられるフィルムを保護フィルムにおいても好適に用いることができる。
【0211】
<3.3 接着層>
偏光子層と保護フィルムは、例えば、接着層を介して接着されていることが好ましい。接着層は、水系接着剤を乾燥させて得られる層であってもよいし、活性エネルギー線硬化性接着剤の硬化物層であってもよい。また、接着層には、金属化合物フィラーを含有させることができる。
【0212】
接着層に用いられる接着剤としては、特に限定されず、水系接着剤としては、イソシアネート系接着剤、ポリビニルアルコール系接着剤、ゼラチン系接着剤、ビニル系ラテックス系接着剤、水系ポリウレタン系接着剤、水系ポリエステル系接着剤等が挙げられる。ポリビニルアルコール系接着剤として、具体的には、完全鹸化型ポリビニルアルコール水溶液(水糊)が挙げられる。活性エネルギー線硬化性接着剤としては、紫外線硬化型接着剤、電子線硬化型接着剤等が挙げられる。
【0213】
接着層の厚さは、10~75μmの範囲内であることが好ましく、12~50μmの範囲内であることがより好ましい。
【0214】
<3.4 粘着層>
本発明の偏光板を有機EL素子の視認側に取り付けることを考慮すると、本発明の偏光板が粘着層を有することが好ましい。
【0215】
粘着層に用いられる粘着剤としては、特に限定されず、ゴム系粘着剤、アクリル系粘着剤、シリコーン系粘着剤、ウレタン系粘着剤、ビニルアルキルエーテル系粘着剤、ポリビニルアルコール系粘着剤、ポリビニルピロリドン系粘着剤、ポリアクリルアミド系粘着剤、セルロース系粘着剤等が挙げられる。これらの中でも、光学的透明性に優れ、耐候性や耐熱性等に優れる観点から、アクリル系粘着剤を用いることが好ましい。さらに、本発明においては、(メタ)アクリル系ポリマーをベースポリマーとして含有するアクリル系粘着剤であることが好ましい。
【0216】
粘着層の形成方法としては、特に制限されず、通常本分野において用いられる方法により形成することができる。具体的には、上記粘着剤又はその原料と溶媒を含有する粘着剤組成物を基材の少なくとも片面に塗布し、粘着剤組成物から形成される塗膜を乾燥して形成するか、又は、紫外線等の活性エネルギー線を照射して形成することができる。アクリル系粘着剤の場合、粘着剤組成物にはポリマーの構造単位となるモノマー、重合開始剤及び溶媒が含まれる。
【0217】
粘着剤組成物は、基材として保護フィルムに直接塗布してもよいし、離型フィルムに塗布した後、形成された粘着層を保護フィルムに転写し、離型フィルムを剥離してもよい。粘着層の厚さは、10~75μmの範囲内であることが好ましく、12~50μmの範囲内であることがより好ましい。
【0218】
≪4 表示装置≫
本発明の表示装置は、本発明の光学フィルムを具備することを特徴とする。詳しくは、本発明の表示装置は、本発明の偏光板を具備することにより得られる。表示装置とは、表示機構を有する装置であり、発光源として発光素子又は発光装置を含む。表示装置としては、液晶表示装置、有機エレクトロルミネッセンス(EL)表示装置、無機エレクトロルミネッセンス(EL)表示装置、タッチパネル表示装置、電子放出表示装置(電場放出表示装置(FED等)、表面電界放出表示装置(SED))、電子ペーパー(電子インクや電気泳動素子を用いた表示装置)、プラズマ表示装置、投射型表示装置(グレーティングライトバルブ(GLV)表示装置、デジタルマイクロミラーデバイス(DMD)を有する表示装置等)及び圧電セラミックディスプレイ等が挙げられる。
【0219】
液晶表示装置は、透過型液晶表示装置、半透過型液晶表示装置、反射型液晶表示装置、直視型液晶表示装置及び投写型液晶表示装置等の何れをも含む。これら表示装置は、2次元画像を表示する表示装置であってもよいし、3次元画像を表示する立体表示装置であってもよい。
【0220】
本発明の表示装置としては、ハードコート層を有し、耐擦傷性及び耐衝撃性を有する観点から、タッチパネル表示装置であることが好ましい。なお、本発明の表示装置は、耐擦傷性及び耐衝撃性に加え、層間の密着性及び耐光性が改善された光学フィルムを具備することにより、安全性かつ耐久性に優れている。
【実施例0221】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例において「部」あるいは「%」の表示を用いるが、特に断りがない限り「質量部」あるいは「質量%」を表す。
【0222】
<実施例1>
[光学フィルム101の作製]
〔基材フィルム(COP1)の作製〕
下記成分を密閉容器に投入し、加熱、撹拌しながら完全に溶解させ、安積濾紙No.24(安積濾紙社製)を用いて濾過し、基材フィルム(COP)用ドープを得た。
【0223】
シクロオレフィン樹脂(ARTON(登録商標)G7810:JSR社製)
95質量部
ジクロロメタン 200質量部
エタノール 10質量部
【0224】
得られたドープを30℃に保ち、30℃に保温された金属支持体であるステンレスベルト上に溶液を均一に流延した。そして、流延したドープを、残留溶媒量が30質量%になるまで乾燥させた後、ステンレスベルト上から剥離して膜状物を得た。
次いで、得られた膜状物を、残留溶媒量が10質量%となるまで40℃で乾燥させた後、幅方向に延伸倍率1.4倍(40%)で延伸した。そして、得られた膜状物を、多数のロールで搬送させながら150℃で更に乾燥させて、長さ3000m、厚さ20μmの基材フィルム(COP1)を得た。
【0225】
〔基材フィルム(COP2)の作製〕
上記基材フィルム(COP1)の作製において、シクロオレフィン樹脂を、ZEONOR(登録商標):日本ゼオン社製に変更した以外は同様にして、基材フィルム(COP2)を得た。
【0226】
〔基材フィルム(TAC)の作製〕
(ドープの調製)
下記組成のドープを調製した。すなわち、まず加圧溶解タンクにジクロロメタンとエタノールを添加した。そして、溶媒の入った加圧溶解タンクにセルロースエステルを撹拌しながら投入し、これを加熱し、撹拌しながら完全に溶解した。
【0227】
セルロースエステル;
トリアセチルセルロース 100質量部
重縮合エステル化合物N 2質量部
重縮合エステル化合物M 7質量部
溶媒;
ジクロロメタン 540質量部
エタノール 35質量部
添加剤;
微粒子;二酸化珪素分散希釈液 3質量部
紫外線吸収剤 2質量部
更に上記添加剤成分を密閉容器に投入し、撹拌しながら溶解して、これを安積濾紙No.244(安積濾紙社製)を用いて濾過し、ドープを調製した。
【0228】
なお、上記で用いたトリアセチルセルロースは、(TAC:アセチル置換度2.8のアセチルセルロース、富士フイルム和光純薬(株)製、Mw20万)である。
また、エステル化合物N、エステル化合物M、及び二酸化珪素分散希釈液は以下のようにして作製した。また、紫外線吸収剤としては、チヌビン928(商品名、BASFジャパン製ジャパン(株)製)を用いた。
【0229】
(エステル化合物N)
まず、1,2-プロピレングリコール251g、テレフタル酸354g、p-トロイル酸680g、エステル化触媒としてテトライソプロピルチタネート0.191gを、温度計、撹拌器、緩急冷却管を備えた2Lの四つ口フラスコに仕込んだ。次に、四つ口フラスコ内に窒素気流を吹き込んで、溶液の温度が230℃になるまで溶液を撹拌しながら徐々に溶液を昇温させて重合度を観察しながら脱水縮合反応させた。反応終了後に、200℃で未反応の1,2-プロピレングリコールを減圧留去することによりエステル化合物Nを得た。このエステル化合物Nは、酸価0.30、数平均分子量400であった。
【0230】
(エステル化合物M)
まず、1,2-プロピレングリコール251g、無水フタル酸244g、アジピン酸103g、安息香酸610g、エステル化触媒としてテトライソプロピルチタネート0.191gを、温度計、撹拌器、緩急冷却管を備えた2Lの四つ口フラスコに仕込んだ。次に、四つ口フラスコ内に窒素気流を吹き込んで、溶液の温度が230℃になるまで溶液を撹拌しながら徐々に溶液を昇温させることにより重合度を観察しながら脱水縮合反応させた。反応終了後に、200℃で未反応の1,2-プロピレングリコールを減圧留去することにより、重縮合エステル化合物Mを得た。このエステル化合物Mは、酸価0.10、数平均分子量450であった。
【0231】
(二酸化珪素分散液)
まず、10質量部のアエロジルR812(商品名、日本アエロジル株式会社製)と、90質量部のエタノールとをディゾルバーで30分間撹拌混合した後、マントンゴーリンでエタノール中に二酸化珪素を分散させた。この分散液に88質量部のメチレンクロライドを撹拌しながら投入し、ディゾルバーで30分間撹拌混合することにより分散液を希釈した。この希釈した分散液を微粒子分散希釈液濾過器(アドバンテック東洋株式会社:ポリプロピレンワインドカートリッジフィルターTCW-PPS-1N)で濾過することにより二酸化珪素分散液を得た。
【0232】
(フィルムの製膜)
上記調製したドープを、ベルト流延装置を用い、温度22℃、1.8m幅でステンレスバンド支持体に均一に流延した。ステンレスバンド支持体で、残留溶媒量が20%になるまで溶媒を蒸発させ、ステンレスバンド支持体上からドープ膜(ウェブ)を剥離した。
【0233】
次いで、剥離したウェブを35℃で溶媒を蒸発させ、1.6m幅にスリットし、その後、テンター延伸機を用いて、160℃の温度で幅手方向(TD方向)に元幅に対して1.1倍延伸をした。このとき、テンターによる延伸を開始したときの残留溶媒量は、4質量%であった。
【0234】
その後、120℃、140℃の乾燥ゾーンを多数のローラーで搬送させながら乾燥を終了させ、1.3m幅にスリットし、フィルム両端に幅10mm、高さ2.5μmのナーリング加工を施した後、コアに巻取り、基材フィルム(TAC)を作製した。基材フィルム(TAC)の膜厚は25μm、巻きの長さは6000mであった。
【0235】
〔基材フィルム(アクリル)の作製〕
(ドープの調製)
下記組成のドープを調製した。まず、加圧溶解タンクにジクロロメタン及びエタノールを添加した。次いで、加圧溶解タンクに、樹脂を撹拌しながら投入した。次いで、上記調製したゴム粒子分散液を投入して、これを撹拌しながら、完全に溶解させた。これを、SHP150((株)ロキテクノ製)を使用して濾過し、ドープを得た。
【0236】
樹脂((メタ)アクリル系樹脂) 100質量部
ジクロロメタン 200質量部
エタノール 40質量部
ゴム粒子分散液 200質量部
チヌビン928(商品名、BASFジャパン(株)製) 5質量部
【0237】
上記で用いた(メタ)アクリル系樹脂は、MMA/PMI/BA共重合体((80/10/10質量比)、Tg:120℃、Mw:200万)である。
【0238】
なお、アクリル樹脂のガラス転移温度(Tg)は、DSC(DifferentialScanningColorimetry:示差走査熱量法)を用いて、JISK7121-2012に準拠して測定した。
【0239】
また、アクリル樹脂の重量平均分子量(Mw)は、ゲル浸透クロマトグラフィー(東ソー社製HLC8220GPC)、カラム(東ソー社製TSK-GELG6000HXL-G5000HXL-G5000HXL-G4000HXL-G3000HXL直列)を用いて測定した。試料20mg±0.5mgをテトラヒドロフラン10mLに溶解し、0.45mmのフィルターで濾過した。この溶液をカラム(温度40℃)に100mL注入し、検出器RI温度40℃で測定し、スチレン換算した値を用いた。
【0240】
上記で用いたゴム粒子分散液は、アクリル系ゴム粒子M-210(コア部:多層構造のアクリル系ゴム状重合体、シェル部:メタアクリル酸メチルを主成分とするメタクリル酸エステル系重合体、のコアシェル型のゴム粒子、アクリル系ゴム状重合体のTg:約-10℃、平均粒子径:220nm)10質量部と、190質量部のジクロロメタンとを、ディゾルバーで50分間撹拌混合した後、マイルダー分散機(大平洋機工株式会社製)を用いて1500rpm条件下で分散して得たものである。
【0241】
なお、ゴム粒子の平均粒子径は、分散液中のゴム粒子の分散粒径を、ゼータ電位・粒径測定システム(大塚電子株式会社製 ELSZ-2000ZS)で測定して得た。
【0242】
(フィルムの製膜)
上記ドープを用いて製膜を行った。具体的には、無端ベルト流延装置を用い、ドープを温度30℃、1800mm幅でステンレスベルト支持体上に均一に流延した。ステンレスベルトの温度は28℃に制御した。
【0243】
ステンレスベルト支持体上で、流延(キャスト)したドープ中の残留溶媒量が30質量%になるまで溶媒を蒸発させた。次いで、剥離張力128N/mで、ステンレスベルト支持体から剥離し、膜状物を得た。剥離時の膜状物の残留溶媒量は30質量%であった。
【0244】
次いで、剥離したフィルムを多数のローラーで搬送させながら、得られた膜状物を、テンターにて140℃(Tg+20℃)の条件下で幅方向(TD方向)に20%延伸した。その後、ロールで搬送しながら、100℃(Tg-20℃)でさらに乾燥させ、テンタークリップで挟んだ端部をスリットしてロール状に巻き取り、長さ3000m、幅1.5m、膜厚40μmの基材フィルム(アクリル)(ロール体)を得た。
【0245】
〔易接着層の形成〕
下記成分を、希釈剤(水/メタノール=50/50(質量%))で、固形分濃度が5質量%となるまで希釈した後、室温で撹拌し、易接着層形成用組成物を得た。
【0246】
マレイン酸変性オレフィン(アローベース(登録商標)SB-1200:固形分濃度25質量%:ユニチカ社製) 100質量部
オキサゾリン基含有ポリマー(エポクロス(登録商標)WS-700:日本触媒社製)
5質量部
ポリエーテル変性シリコーン(KF-351A:信越化学工業社製)
1質量部
【0247】
上記で作製した基材フィルムに、得られた組成物をバーコーターで塗布し、80℃の乾燥炉で40秒間ドライヤー乾燥し、ドライ膜厚が0.4μmになるように易接着層を形成した。
【0248】
〔ハードコート層の形成〕
下記成分を、希釈剤(プロピレングリコールモノメチルエーテル/酢酸メチル=50/50(質量%))で、希釈し、ハードコート層形成用組成物を得た。
【0249】
ウレタンアクリレート(UA-1100H:新中村化学工業社製)
100質量部
光重合開始剤(イルガキュア(登録商標)184:BASFジャパン社製)
5質量部
ポリエーテル変性シリコーン(BYK(登録商標)3450:ビックケミー・ジャパン社製) 1質量部
【0250】
上記で作製した易接着層付きの基材フィルムの易接着層面に、得られた組成物をバーコーターで塗布し、50℃の乾燥炉で40秒間ドライヤー乾燥し、溶媒を揮発させた。そして、酸素濃度が1.0体積%以下の雰囲気になるよう窒素パージしながら、照射量が0.2J/cm2となるよう、紫外線ランプ(照射部の照度:100mW/cm2)を用いて紫外線照射し、硬化させ、厚さ3μmのハードコート層を形成し、光学フィルム101を作製した。
【0251】
[光学フィルム102~122の作製]
光学フィルム101の作製において、基材フィルム、易接着層用樹脂、易接着層用表面調整剤、ハードコート層用樹脂及びハードコート層用表面調整剤を下記表Iに記載のものに変更した以外は同様にして、光学フィルム102~122を作製した。
【0252】
【表1】
【0253】
なお、使用した製品(商品名)について以下に示す。
(基材フィルム)
COP1:ARTON(登録商標)G7810:JSR社製
COP2:ZEONOR(登録商標)ZF14:日本ゼオン社製
【0254】
(易接着層用樹脂)
水系ポリオレフィン樹脂A:アローベース(登録商標)SB-1200:固形分濃度25質量%:ユニチカ社製
水系ポリオレフィン樹脂B:アローベース(登録商標)SE-1030N:固形分濃度22質量%:ユニチカ社製
水系ポリオレフィン樹脂C:アローベース(登録商標)SE-1010:固形分濃度20質量%:ユニチカ社製
水系ポリオレフィン樹脂 繊維素系樹脂:アローベース(登録商標)SA-1200:ユニチカ社製
溶剤系ポリオレフィン樹脂:サーフレン(登録商標)P-1000:三菱ケミカル社製
アクリル樹脂:ニューコートK―2:新中村化学工業社製
【0255】
(易接着層用及びハードコート層用表面調整剤)
ポリエーテル変性シリコーンA:KF-351A:信越化学工業社製
ポリエーテル変性シリコーンB:KF-6015:信越化学工業社製
ポリエーテル変性シリコーンC:XIAMETER(登録商標)OFX-0193 Fluid:ダウ・東レ社製
ポリエーテル変性シリコーンD:KF-6020:信越化学工業社製
ポリエーテル変性シリコーンE:KF-354L:信越化学工業社製
ポリエーテル変性シリコーンF:BYK(登録商標)3450:ビックケミー・ジャパン社製
ポリエーテル変性シリコーンG:KF-352A:信越化学工業社製
フッ素系化合物:RS-75:DIC社製
【0256】
(ハードコート層用樹脂)
ウレタンアクリレートA:UA-1100H:新中村化学工業社製
トリペンタエリスリトールアクリレート:ビスコート#300:大阪有機化学工業社製
シクロオレフィン骨格含有アクリレート:A-DCP:新中村化学工業社製
ポリマーA:SMP-250AP:共栄社化学社製
ウレタンアクリレートB:紫光(登録商標)UV-7630B:三菱ケミカル社製
【0257】
HLB値は、前述の式(1)により算出した。
【0258】
重量平均分子量については、前述のテトラヒドロフランを用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定し、ポリスチレンで換算した重量平均分子量である。
【0259】
≪評価≫
作製した光学フィルム101~122について、以下の評価を行った。結果を表IIに示す。また、各項目において、3以上を合格とした。
【0260】
(1)密着性
23℃・55%RHの雰囲気下、作製した光学フィルムのハードコート層に、JIS―K5600-5-6に準拠する方法で、碁盤目剥離試験治具を用い、1mm2の碁盤目を100個作製し、積水化学工業株式会社製の粘着テープNo.252をその上に貼り付け、ヘラを用いて均一に押し付けた後、90度方向に剥離した。粘着テープは1回剥離するたびに交換しながら、当該テープの剥離作業を10回実施し、剥離された碁盤目の個数から、以下の基準で評価した。
5:剥離なし
4:剥離された碁盤目が1~2個
3:剥離された碁盤目が3~5個
2:剥離された碁盤目が6~15個
1:剥離された碁盤目が16個以上
【0261】
(2)耐光性
作製した光学フィルムを、キセノン耐候性試験装置(スガ試験機株式会社、キセノンウェザーメーターNX25)を用い、波長300~400nm、60Wの照射強度で300時間露光照射を行った後、(1)に記載の密着性試験を行い評価した。
【0262】
(3)クラック
水、及び、有機溶剤(サーフレン(登録商標)P-1000においてオレフィン樹脂の分散に使用)を、それぞれ基材フィルムの表面にスポイトで一滴滴下し、10秒後に円を描くように軽く擦って液を拭き取った。円を描いた範囲に対して白化した部分の面積比率を算出し、以下の基準で評価した。
5:1%未満
4:1~20%
3:21~40%
2:41~60%
1:60%超
その結果、水については5、有機溶剤については1であった。
【0263】
(4)外観
作製した光学フィルムの表面を目視で観察し、単位面積(m2)当たりの点状故障(ハジキ)の個数をカウントし、光学フィルム試料10枚の平均値を算出し、以下の基準で評価した。
5:0個
4:1~10個
3:11~20個
2:21~30個
1:31個以上
【0264】
作製した光学フィルム101及び111~113について、下記の評価を行った。結果を表IIに示す。また、3以上を合格とした。
【0265】
(5)耐湿熱性
作製した光学フィルムを、縦10cm×横10cmの大きさに切り出し、80℃・90%RHの条件下で、100時間放置した。その後、切り出した各試料のエッジ部の浮き上がりを測定し、以下の基準で評価した。
5:試料片のエッジ部の浮き上がりが、1cm未満
4:試料片のエッジ部の浮き上がりが、1cm以上、3cm未満
3:試料片のエッジ部の浮き上がりが、3cm以上、4cm未満
2:試料片のエッジ部の浮き上がりが、4cm以上、5cm未満
1:試料片が筒状になる(カールが大きく、不良である)
【0266】
【表2】
【0267】
表I及び表IIより、本発明の光学フィルムは、層間の密着性及び耐光性が改善されていることがわかる。
【0268】
<実施例2>
[光学フィルム201~212の作製]
上記作製した光学フィルム101の、易接着層及びハードコート層について、各層の厚さ、各表面調整剤の種類及び単位厚さ当たりの固形分比率を下記表IIIに記載のとおりに変更した以外は同様にして、光学フィルム201~206を作製した。また、ハードコート層用表面調整剤を、ポリエーテル変性シリコーンAに変更した以外は同様にして、光学フィルム207~212を作製した。作製した光学フィルム201~212について、上記の外観評価を行った。結果を表IIIに示す。
【0269】
【表3】
【0270】
表IIIより、本発明の光学フィルムは、易接着層及びハードコート層が含有する表面調整剤について、Mh/Mpの値が、0.02~40の範囲内であることにより、光学フィルムにおける外観が改善されていることがわかる。
【0271】
<実施例3>
[偏光板301~306の製造]
(フィルム型偏光子層の作製)
厚さ25μmのポリビニルアルコールフィルムを、35℃の水で膨潤させた。得られたフィルムを、ヨウ素0.075g、ヨウ化カリウム5g及び水100gからなる水溶液に60秒間浸漬し、さらにヨウ化カリウム3g、ホウ酸7.5g及び水100gからなる45℃の水溶液に浸漬した。得られたフィルムを、延伸温度55℃、延伸倍率5倍の条件で一軸延伸した。この一軸延伸フィルムを、水洗した後、乾燥させて、厚さ12μmのフィルム型偏光子層を得た。
【0272】
(偏光板の作製)
上記で得られたフィルム型偏光子層及び保護フィルム(上記で得られた光学フィルム又は基材フィルム)を表IVに示す組み合せで積層して、偏光板301~306を作製した。なお、光学フィルムと偏光子層の間は完全鹸化型ポリビニルアルコール水溶液(水糊)を用いて接着した。
【0273】
また、表IV中に記載の用語については以下の通りである。
T1:視認側の保護フィルム(上記光学フィルム)
T2:液晶セル側の保護フィルム(上記基材フィルム)
PVA:上記で得られたフィルム型偏光子層
【0274】
[液晶表示装置の製造]
上記作製した偏光板を含む液晶表示装置を作製した。具体的には、Apple社製iPad(登録商標)2(IPSモードの液晶表示装置)を用いて、あらかじめ貼合されていた両面の偏光板を剥がして、作製した偏光板をそれぞれ液晶セルのガラス面に貼合した。作製した偏光板の吸収軸が、あらかじめ貼合されていた偏光板の吸収軸と同一方向となるように貼り合わせ、液晶表示装置を作製した。
【0275】
≪評価≫
作製した偏光板301~306をそれぞれ具備した液晶表示装置について、以下の評価を行った。結果を表IVに示す。また、各項目において、3以上を合格とした。
【0276】
(6)耐光性
作製した液晶表示装置を、キセノン耐候性試験装置(スガ試験機株式会社、キセノンウェザーメーターNX25)を用い、波長300~400nm、60Wの照射強度で300時間露光照射を行った後、液晶表示装置を黒表示させた状態で点灯させ続けた。このときの、液晶表示装置の正面方向から観察した場合の、黒表示時の輝度ムラを観察し、輝度ムラの発生度合を以下の基準で評価した。
5:ムラは認められない
4:透過光の濃淡が認められない
3:わずかながら透過光の濃淡が認められる
2:画面の端部に明確な濃淡が認められる
1:上記濃淡に合わせ、画面の中央に明確な濃淡が認められる
【0277】
(7)耐湿熱性
得られた液晶表示装置を、80℃・90%RH条件下で、500時間放置した。その後、常温で液晶表示装置を黒表示させた状態で、表示画面の黒表示時の欠陥(点で白く抜ける)の有無を目視にて確認し、以下の基準で評価した。
5:欠陥が0個
4:欠陥が1~2個
3:欠陥が3~4個
2:欠陥が5~6個
1:欠陥が6個以上
【0278】
【表4】
【0279】
表IVより、本発明の表示装置は、本発明の光学フィルムを視認側の保護フィルムとして用いることにより、表示装置における耐光性及び耐湿熱性が改善されていることがわかる。
【0280】
上記結果より、易接着層に用いる樹脂、及び、易接着層及びハードコート層に用いる表面調整剤の選択によって、本発明の課題を解決できることがわかる。
すなわち、層間の密着性及び耐光性が改善された光学フィルム、及び、その製造方法、並びにそれを具備した偏光板及び表示装置を提供することができる。
【符号の説明】
【0281】
1 ハードコート層
2 易接着層
3 基材フィルム
10 光学フィルム
11 接着層
12 偏光子層
13 保護フィルム
14 粘着層
20 偏光板
図1
図2