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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022152957
(43)【公開日】2022-10-12
(54)【発明の名称】摺動材及び流体機械
(51)【国際特許分類】
   F16J 9/26 20060101AFI20221004BHJP
   C08L 81/02 20060101ALI20221004BHJP
   C08L 71/00 20060101ALI20221004BHJP
   C08K 7/14 20060101ALI20221004BHJP
   C08K 7/06 20060101ALI20221004BHJP
   C08L 27/18 20060101ALI20221004BHJP
【FI】
F16J9/26 B
C08L81/02
C08L71/00 Z
C08K7/14
C08K7/06
C08L27/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021055927
(22)【出願日】2021-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】502129933
【氏名又は名称】株式会社日立産機システム
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 颯
(72)【発明者】
【氏名】成澤 伸之
【テーマコード(参考)】
3J044
4J002
【Fターム(参考)】
3J044AA02
3J044BA01
3J044BA06
3J044BA07
3J044BC01
3J044BC06
3J044DA07
3J044DA10
4J002BD152
4J002CH091
4J002CN011
4J002DA016
4J002DL006
4J002FA046
4J002FA082
4J002FD016
4J002FD172
4J002GM00
(57)【要約】
【課題】優れた耐摩耗性を有する摺動部材を提供する。
【解決手段】摺動面13に接触する摺動部材12であって、摺動部材12は、フッ素樹脂以外の樹脂で構成された第1母材樹脂と、前記第1母材樹脂中に分散したフッ素樹脂粒子及び棒状粒子とを含む第1材料により構成された第1部材12aと、摺動面13に沿って第1部材12aと隣り合うように配置され、フッ素樹脂により構成された第2母材樹脂と、前記第2母材樹脂中に分散した強化剤とを含む第2材料により構成された第2部材12bと、を含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
摺動面に接触する摺動部材であって、
前記摺動部材は、
フッ素樹脂以外の樹脂で構成された第1母材樹脂と、前記第1母材樹脂中に分散したフッ素樹脂粒子及び棒状粒子とを含む第1材料により構成された第1部材と、
前記摺動面に沿って前記第1部材と隣り合うように配置され、フッ素樹脂により構成された第2母材樹脂と、前記第2母材樹脂中に分散した強化剤とを含む第2材料により構成された第2部材と、を含む
ことを特徴とする摺動部材。
【請求項2】
前記第1母材樹脂は、ポリフェニレンサルファイド、又は、ポリエーテルエーテルケトンの少なくとも一方を含む
ことを特徴とする請求項1に記載の摺動部材。
【請求項3】
前記フッ素樹脂粒子は、ポリテトラフルオロエチレン、又は、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体の少なくとも一方を含む
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の摺動部材。
【請求項4】
前記棒状粒子は、炭素繊維、又は、ガラス繊維の少なくとも一方を含む
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の摺動部材。
【請求項5】
前記第2母材樹脂は、ポリテトラフルオロエチレンを含む
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の摺動部材。
【請求項6】
前記強化剤は、銅、銅合金、又は炭素繊維の少なくとも1つを含む
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の摺動部材。
【請求項7】
前記第2材料は、更に、固体潤滑剤を含む
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の摺動部材。
【請求項8】
前記固体潤滑剤は、二硫化モリブデン、又は、球状炭素の少なくとも一方を含む
ことを特徴とする請求項7に記載の摺動部材。
【請求項9】
前記第1部材及び前記第2部材は、前記第2部材を少なくとも2つの前記第1部材で挟むように配置される
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の摺動部材。
【請求項10】
前記第1部材及び前記第2部材は、前記第1部材を少なくとも2つの前記第2部材で挟むように配置される
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の摺動部材。
【請求項11】
前記フッ素樹脂粒子と、前記第2母材樹脂とは、同種のフッ素樹脂により構成される
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の摺動部材。
【請求項12】
前記フッ素樹脂粒子の含有量は、前記第1材料に対して、15質量%以上30質量%以下である
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の摺動部材。
【請求項13】
前記棒状粒子は炭素繊維を含み、
前記炭素繊維の含有量は、前記第1材料に対して、5質量%以上15質量%以下である
ことを特徴とする請求項12に記載の摺動部材。
【請求項14】
シリンダと、
前記シリンダの内壁面を摺動する摺動部材を備えるピストンと、を備え、
前記摺動部材は、
フッ素樹脂以外の樹脂で構成された第1母材樹脂と、前記第1母材樹脂中に分散したフッ素樹脂粒子及び棒状粒子とを含む第1材料により構成された第1部材と、
前記内壁面に沿って前記第1部材と隣り合うように配置され、フッ素樹脂により構成された第2母材樹脂と、前記第2母材樹脂中に分散した強化剤とを含む第2材料により構成された第2部材と、を含む
ことを特徴とする流体機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、摺動材及び流体機械に関する。
【背景技術】
【0002】
気体を圧縮又は膨張可能な流体機械として、例えばレシプロ式の流体機械(気体圧縮機等)が知られている。レシプロ式の流体機械は、通常ピストン方式の流体機械と、揺動ピストン方式の流体機械とを含む。前者の流体機械は、コンロッドの圧縮膨張室側端部に軸受を備え、その軸受により首振り可能に支持されたピストンを備える。後者の流体機械は、コンロッドの圧縮膨張室側に軸受を備えず、コンロッドと一体になったピストンを有する。これらのうち、揺動ピストン方式の流体機械では、金属製のシリンダ内をピストンが揺動しながら往復動することで気体が圧縮される。ピストンは、シリンダの内周面を摺動する摺動部材を備え、摺動部材としては、例えばリップリング、ピストンリング等が挙げられる。
【0003】
摺動部材に関する技術として、特許文献1には「シリンダーと、該シリンダーの内周面とピストンリングを介して係合するピストンよりなるシリンダー装置において、ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂60~80重量%、フッ素樹脂10~30重量%、球状充填材2~10重量%、繊維状充填材2~10重量%を必須成分とする樹脂組成物を用いて、インサート成形により前記ピストンリングを前記ピストン外周部に形成させたことを特徴とするシリンダー用ピストン。」が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平3-74681号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
詳細は実施例を参照しながら後記するが、特許文献1に記載の技術には、摺動部材の耐摩耗性に向上の余地がある。
本開示が解決しようとする課題は、優れた耐摩耗性を有する摺動部材及び流体機械の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の摺動部材は、摺動面に接触する摺動部材であって、前記摺動部材は、フッ素樹脂以外の樹脂で構成された第1母材樹脂と、前記第1母材樹脂中に分散したフッ素樹脂粒子及び棒状粒子とを含む第1材料により構成された第1部材と、前記第1部材と隣り合うように配置され、フッ素樹脂により構成された第2母材樹脂と、前記第2母材樹脂中に分散した強化剤とを含む第2材料により構成された第2部材と、を含むことを特徴とする。その他の解決手段は発明を実施するための形態において後記する。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、優れた耐摩耗性を有する摺動部材及び流体機械を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】第1実施形態の摺動部材を示す断面図である。
図2】第1部材の断面図である。
図3】第2部材の断面図である。
図4】摺動時に形成される移着膜を説明する図である。
図5】第1実施形態の摺動部材を備える流体機械の模式図である。
図6】第2実施形態の摺動部材を示す断面図である。
図7】摩擦試験の試験方法を説明する図である。
図8】摩擦試験後の試験片表面についてのエネルギ分散型X線分析像である。
図9】摩擦試験で得た摩耗量及び摩擦係数の試験結果を示す図である。
図10】摩擦試験で得た摩耗量及び摩擦係数と、フッ素樹脂粒子の含有量との相関を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しながら本開示を実施するための形態(実施形態と称する)を説明する。以下の一の実施形態の説明の中で、適宜、一の実施形態に適用可能な別の実施形態の説明も行う。本開示は以下の一の実施形態に限られず、異なる実施形態同士を組み合わせたり、本開示の効果を著しく損なわない範囲で任意に変形したりできる。また、同じ部材については同じ符号を付すものとし、重複する説明は省略する。更に、同じ機能を有するものは同じ名称を付すものとする。図示の内容は、あくまで模式的なものであり、図示の都合上、本開示の効果を著しく損なわない範囲で実際の構成から変更したり、図面間で一部の部材の図示を省略したり変形したりすることがある。
【0010】
図1は、第1実施形態の摺動部材12を示す断面図である。摺動部材12は、例えば金属部材11の内壁面である摺動面13に接触するものである。摺動部材12は、図示の例では、摺動面13を摺動しながら、実線矢印で示すように往復動(上下動)上下動する。摺動部材12は、例えばピストン40(図5)として構成される。摺動部材12は、第1部材12a及び第2部材12bを含む。
【0011】
図2は、第1部材12aの断面図である。第1部材12aは第1材料により構成され、第1材料は、フッ素樹脂以外の樹脂で構成された第1母材樹脂21と、第1母材樹脂21中に分散したフッ素樹脂粒子22及び棒状粒子23とを含む。分散は、第1母材樹脂21の全体に万遍無く分散していることが好ましいが、一部に偏在していてもよい。
【0012】
第1母材樹脂21は、第1部材12aの外郭を形成するものである。第1母材樹脂21は、フッ素樹脂以外の樹脂で構成され、摺動部材12としての機能を果たすことができる樹脂であれば特に制限されないが、中でも、耐熱性に優れ、熱膨張率が低い樹脂が好ましい。具体的には例えば、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルサルフォン(PES)、フェノール樹脂(PF)、ポリイミド(PI)等の他、これらの変性体が挙げられる。第1母材樹脂21は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を任意の比率及び組み合わせで用いてもよい。
【0013】
第1母材樹脂21は、ポリフェニレンサルファイド、又は、ポリエーテルエーテルケトンの少なくとも一方を含むことが好ましい。これらのポリマーを含むことで、第1部材12aの耐熱性を向上できる。
【0014】
フッ素樹脂粒子22は、摺動面13(図1)での摺動時、摺動面13へのフッ素樹脂の移着により、摺動面13に移着膜14(図4)を形成するものである。フッ素樹脂粒子22の構成材料は、フッ素樹脂であれば特に制限されず、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン-エチレン共重合体(ETFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等が挙げられる。フッ素樹脂粒子22の構成材料は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を任意の比率及び組み合わせで用いてもよい。
【0015】
フッ素樹脂粒子22は、ポリテトラフルオロエチレン、又は、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体の少なくとも一方を含むことが好ましい。これらのポリマーを使用することで、フッ素樹脂粒子22に起因する摺動面13(図1)への移着膜14の形成を促進できる。
【0016】
フッ素樹脂粒子22の含有形態としては、本開示の効果を著しく損なわない範囲で特に制限されないが、例えば、粒子状(粒状)にできる。これらの粒径は、例えば5μm以上200μm以下にすることができる。粒径は、例えば、レーザー回折式粒度分布測定装置により測定可能な平均粒径として測定できる。
【0017】
フッ素樹脂粒子22の含有量は、本開示の効果を著しく損なわない限り特に制限されないが、第1材料に対して、15質量%以上30質量%以下であることが好ましい。この範囲にすることで、フッ素樹脂粒子22に起因する第1部材12aの過度の熱膨張を抑制でき、摺動面13(図1)に対する第1部材12aの摩擦係数を低減できる。更には、フッ素樹脂粒子22に起因する移着膜14(図4)の剥離を抑制できる。これらにより、摺動部材12の耐摩耗性を特に向上できる。
【0018】
棒状粒子23は、棒状という形態により、例えば引っ張り応力等の応力に対する第1部材12aの強度を向上させるものである。棒状粒子23は、本開示の効果を著しく損なわない限り任意の材料により構成できるが、炭素繊維、又は、ガラス繊維の少なくとも一方を含むことが好ましい。これらの繊維を使用することで、容易に入手可能な繊維を使用して棒状粒子23を構成できる。
【0019】
棒状粒子23の長さ及び径は、本開示の効果を著しく損なわない限り特に制限されないが、例えば、長さは例えば10μm以上300μm以下、径は例えば1μm以上30μm以下にすることができる。長さ及び径は、第1部材12aの断面顕微鏡写真における実測値を採用できる。
【0020】
棒状粒子23の含有量は、本開示の効果を著しく損なわない限り特に制限されないが、第1材料に対して、例えば5質量%以上20質量%以下にすることができる。
【0021】
ただし、棒状粒子23が炭素繊維を含む場合、炭素繊維の含有量は、第1材料に対して、5質量%以上15質量%以下であることが好ましい。このようにすることで、例えばせん断応力等の応力に対する第1部材12aの強度を向上できる。
【0022】
図3は、第2部材12bの断面図である。第2部材12bは第2材料により構成され、第2材料は、フッ素樹脂により構成された第2母材樹脂31と、第2母材樹脂31中に分散した強化剤32とを含む。強化剤32の分散は、第2母材樹脂31の全体に万遍無く分散していることが好ましいが、一部に偏在していてもよい。
【0023】
第2母材樹脂31は、第2部材12bの外郭を形成するものである。第2母材樹脂31は、フッ素樹脂であれば、本開示の効果を著しく損なわない範囲で特に制限されず、例えば、フッ素樹脂粒子22(図2)の構成材料の上記例示物を採用できる。第2母材樹脂31は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を任意の比率及び組み合わせで用いてもよい。
【0024】
第2母材樹脂31は、ポリテトラフルオロエチレンを含むことが好ましい。ポリテトラフルオロエチレンを含むことで、第1部材12a(図2)中のフッ素樹脂粒子22(図2)とともに、摺動面13(図1)への移着膜14(図4)の形成を促進できる。
【0025】
上記のフッ素樹脂粒子22(図1)と、第2母材樹脂31とは、同種のフッ素樹脂により構成されることが好ましい。このようにすることで、フッ素樹脂粒子22及び第2母材樹脂31により、同じ構成材料の移着膜14を摺動面13に形成でき、移着を促進できる。
【0026】
強化剤32は、例えばせん断応力などの応力に対する第2部材12b(特に第2母材樹脂31)の強度を向上させるものである。強化剤32の具体的な材料は、本開示の効果を著しく損なわない限り特に制限されない。強化剤32は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を任意の比率及び組み合わせで使用してもよい。
【0027】
強化剤32は、銅、銅合金(銅を主成分とする合金。例えば青銅等)、又は炭素繊維の少なくとも1つを含むことが好ましい。これらの材料を使用することで、第2部材12bから仮に脱落して摺動面13に入り込んでも、柔らかい材料であるため摺動面13での傷の発生を抑制できる。
【0028】
強化剤32の含有形態としては、本開示の効果を著しく損なわない範囲で特に制限されないが、例えば、粒子状にできる。また、強化剤32の粒径も、本開示の効果を著しく損なわない範囲で特に制限されず、任意である。
【0029】
強化剤32の含有量は、本開示の効果を著しく損なわない限り特に制限されないが、第2材料に対して、例えば5質量%以上30質量%以下にすることができる。
【0030】
第2材料は、更に、固体潤滑剤33を含むことが好ましい。固体潤滑剤を含むことで、摺動面13(図1)に潤滑膜(不図示)を形成することで第2部材12bと摺動面13との摩擦を低減でき、摺動部材12の耐摩耗性を更に向上できる。固体潤滑剤33は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を任意の比率及び組み合わせで使用してもよい。
【0031】
固体潤滑剤33は、二硫化モリブデン、又は、球状炭素の少なくとも一方を含むことが好ましい。これらの少なくとも一方を含むことで、第2部材12bと摺動面13との摩擦を低減でき耐摩耗性を向上できるとともに、例えばせん断応力等の応力に対する第2部材12bの強度を向上できる。例えば二硫化モリブデンであれば、S-S結合が弱いため、層間剥離を生じ、これにより、固体潤滑性を示す。
【0032】
固体潤滑剤33の含有量は、本開示の効果を著しく損なわない限り特に制限されないが、第2材料に対して、例えば1質量%以上15質量%以下にすることができる。
【0033】
図1に戻って、第2部材12bは、摺動面13に沿って第1部材12aと隣り合うように配置される。ここでいう「隣り合う」は、摺動面13の方向(摺動方向)において、第1部材12aと第2部材12bとが接触している必要は無く、第1部材12aと第2部材12bとの間に、本開示の効果を著しく損なわない範囲で任意の部材が配置されることを許容する意味である。図示の例では、第1部材12aと第2部材12bとが摺動面13の方向において接触している。第1部材12aと第2部材12bとは、摺動面13に沿って摺動部材12の周動向に連続的に配置される。
【0034】
第1部材12a及び第2部材12bは、第2部材12bを少なくとも2つの第1部材12aで挟むように配置される。このようにすることで、第2部材12b中の第2母材樹脂31(図3)が熱膨張しても、第2部材12bを第1部材12aで挟んでいるため、熱膨張による摺動部材12全体の変形を、設計の許容範囲内に留めることができる。これとともに、摺動面13に移着膜14(図4)を形成でき、摺動部材12の耐摩耗性を向上できる。なお、図示の例では、第1部材12aは2つ備えられ、第1部材12aが3つ以上備えられる場合には、何れか2つの第1部材12aの間に第2部材12bが配置されればよい。
【0035】
図4は、摺動時に形成される移着膜14を説明する図である。摺動部材12が摺動面13を摺動することで、摺動面13にはフッ素樹脂により構成される移着膜14が形成される。
【0036】
フッ素樹脂粒子22(図2)及び第2母材樹脂31(図3)を構成するフッ素樹脂の熱膨張率は比較的大きい。このため、仮に第1部材12aのみ、又は、第2部材12bのみにより摺動部材12を構成すれば、特に高温の摩擦環境で、変形、偏摩耗等の発生の可能性がある。なお、高温の摩擦環境の具体例としては、例えば揺動ピストン方式のレシプロ式気体圧縮機等の流体機械100(図5)における圧縮膨張室44(図5)の付近等が挙げられる。
【0037】
そこで、フッ素樹脂粒子22を分散した第1母材樹脂21(図2)を備える第1部材12aと、フッ素樹脂により構成された第2母材樹脂31を備える第2部材12bとにより、摺動部材12が構成される。フッ素樹脂以外の樹脂で構成された第1母材樹脂21は構成材料によっては摩擦係数が高く、第2母材樹脂31に起因して摺動面13に形成された移着膜14が剥離され得る。そこで、第1母材樹脂21にフッ素樹脂粒子22を分散させることで摺動面13での第1部材12aの摩擦係数を低減でき、移着膜14の剥離を抑制して、耐摩耗性を向上できる。
【0038】
一方で、第1部材12aのみでは、移着膜14を形成可能なフッ素樹脂がフッ素樹脂粒子22のみに由来するため、移着膜14の形成の程度に依然向上の余地がある。そこで、第1部材12aに加え、フッ素樹脂により構成された第2母材樹脂31を備える第2部材12bを併用することで、移着膜14の形成を促進でき、摩擦係数の低減及び耐摩耗性の向上を図ることができる。
【0039】
また、摺動部材12では、第1部材12a及び第2部材12bにより、金属部材11への移着膜14(図4)の形成を相互補助し、摩耗抑制が図られる。また、第1母材樹脂21及び第2母材樹脂31にそれぞれ含まれるフッ素樹脂以外の材料(棒状粒子23(図2)、強化剤32(図3)及び固体潤滑剤33(図3))により、靭性又は滑り易さが向上する。これにより、第1部材12a及び第2部材12bの耐摩耗性を向上できる。
【0040】
なお、摺動部材12において、第1材料、第2材料、フッ素樹脂粒子22(図2)、棒状粒子23、強化剤32、及び固体潤滑剤33の存在の確認は、例えば以下のようにして実行できる。即ち、例えば第1部材12a又は第2部材12bの表面又は破砕物について、光学顕微鏡、エネルギ分散型X線分析(EDX)、X線光電子分光分析、赤外分光分析等の表面観察及び化学分析を行うことにより、容易に特定できる。
【0041】
図1に戻って、金属部材11は、例えば鉄、ニッケル、モリブデン、クロム、チタン、銅等の遷移金属、アルミニウム、ケイ素、マグネシウム等の軽金属を含んで構成できる。具体的には、金属部材11は、例えばアルミニウム、アルミニウム合金等のアルミニウム系材料、銅、銅合金等の銅系材料、チタン、チタン合金等のチタン系材料、鉄、鉄ーニッケル合金等の鉄系材料により構成できる。
【0042】
金属部材11は、例えば表面が未処理の金属材であるが、金属材の表面に、表面処理が形成されていてもよい。その場合、摺動部材12は、表面処理された表面に接触し、摺動する。即ち、金属部材11の表面は、金属部材11を構成する金属元素により形成されていてもよく、金属部材11の上に形成された、表面処理により形成されていてもよい。
【0043】
金属部材11の表面に形成される表面処理は、例えば、金属材に人工的に施した表面コーティング、自然酸化膜等である。自然酸化膜は、例えば金属部材11がアルミニウムの場合には酸化アルミニウム、鉄の場合には酸化鉄である。表面コーティングは、例えば、化学蒸着(CVD)法、物理蒸着(PVD)法、めっき処理、浸炭処理等により形成され、アルミニウム、クロム、鉄、リン、ニッケル、亜鉛のうち少なくとも一つを含む材料により構成される。具体的には、例えば、アルマイト処理、アルミニウムめっき、クロムめっき、鉄めっき、ニッケルめっき、亜鉛めっき等が挙げられる。
【0044】
図5は、第1実施形態の摺動部材12を備える流体機械100の模式図である。流体機械100は、図示の例では揺動ピストン方式のレシプロ式気体圧縮機である。流体機械100は、内壁面411(摺動面13(図1)の一例)に十分な潤滑油等が存在せず、オイルレスで使用したとき、又は、潤滑油が全く存在せず、オイルフリーで使用したときに、特に大きな効果を示す。ただし、内壁面411には、潤滑油、グリース等が存在してもよい。
【0045】
流体機械100は、シリンダ41(金属部材11(図1)の一例)と、シリンダ41の内部を往復動(図示の例では上下動)するピストン40とを備える。ピストン40は、シリンダ41の内壁面411を摺動する摺動部材12を備え、摺動部材12は、ピストン本体42(第1部材12a(図1)の一例)及びピストンリング43(第2部材12b(図1)の一例)により構成される。ピストンリング43は、例えば円環状であり、円盤状のピストン本体42の外周側面に形成された円環状の溝(不図示)に嵌められる。
【0046】
シリンダ41内の、ピストン40の上部の空間には、気体を圧縮又は膨張させる作動空間の圧縮膨張室44が備えられる。シリンダ41の上端は、仕切り板45により閉鎖されており、仕切り板45には、吸入口45aと吐出口45bとが設けられている。吸入口45a及び吐出口45bには、吸入弁45c及び吐出弁45dが設けられており、それぞれ配管(不図示)に接続されている。
【0047】
気体圧縮の作動原理について説明する。ピストン40はコンロッド46と一体で構成されている。クランクシャフト47の回転に伴い、ピストン40が上下動することで、吸入口45aから圧縮膨張室44内に気体が吸入され、圧縮膨張室44内で気体が圧縮される。圧縮気体は、吐出口45bを通って外部に排出され、配管(不図示)により回収される。
【0048】
ピストン40は、ピストン40を支持するコンロッド46とは別部品である。ピストン40の上下動に伴い、図示の例では摺動部材12により構成されるピストン40がシリンダ41の内壁面411と点接触により摺動する。コンロッド46は、金属製であってもよいし、樹脂製であってもよい。
【0049】
シリンダ41の内壁面411には、金属部材11に対する表面処理により、被膜が形成されてもよい。例えば、シリンダ41の内周面は自然酸化膜が生じたままでもよいし、アルマイト処理等を形成してもよい。また、シリンダ41の内周面には、被膜を形成しなくてもよい。
【0050】
なお、摺動部材12は、図5のような流体機械100のほか、例えば分析装置、真空装置、宇宙関連機器等の、良好な摺動性が求められる機械装置に使用してもよい。
【0051】
図6は、第2実施形態の摺動部材121を示す断面図である。摺動部材121では、第1部材12aと第2部材12bとの配置順が異なること以外は、摺動部材12(図1)と同様である。
【0052】
摺動部材121では、第1部材12a及び第2部材12bは、第1部材12aを少なくとも2つの第2部材12bで挟むように配置される。このように配置することで、フッ素樹脂を母材とする複数の第2部材12bを起点として移着膜14(図4)を形成でき、移着膜14(図4)の形成を促進できる。
【実施例0053】
<実施例1>
第1母材樹脂21(図2)としてPPS、フッ素樹脂粒子22(図2)としてPTFE、及び棒状粒子23(図2)として炭素繊維を含む第1材料により第1部材12a(図2)を作製した。フッ素樹脂粒子22及び棒状粒子23は、第1母材樹脂21の全体に分散させた。フッ素樹脂粒子22の含有量は、第1材料に対して15質量%にした。また、棒状粒子23の含有量は、第1材料に対して10質量%にした。棒状粒子23の長さ及び径は、上記の方法により測定した平均長さ及び径として、長さ100μm、径8μmとした。
【0054】
第2母材樹脂31(図3)としてPTFE、強化剤32(図3)として青銅、固体潤滑剤33(図3)として二硫化モリブデン及び球状炭素を含む第2材料により第2部材12b(図3)を作製した。強化剤32及び固体潤滑剤33は、第2母材樹脂31の全体に分散させた。強化剤32の含有量は、第2材料に対して10質量%にした。また、二硫化モリブデンの含有量は、第2材料に対して5質量%にした。球状炭素の含有量は、第2材料に対して10質量%にした。従って、実施例1では二硫化モリブデン及び球状炭素により構成される固体潤滑剤33の使用総量は、第2材料に対して15質量%にした。
【0055】
図7は、摩擦試験の試験方法を説明する図である。作製した第1部材12a及び第2部材12bが摺動面13に配置されるように実施例1の摺動部材12を作製した。摺動部材12は、第1部材12aによって第2部材12bを囲うようにして作製した。第1部材12aの紙面上下方向である高さH1は10mm、紙面横方向である幅W1は10mmとした。第2部材12bの紙面上下方向である高さH2は5mm、紙面横方向である幅W2は4mmとした。第1部材12a及び第2部材12bの紙面正面奥行方向の長さ(不図示)は、いずれも、後記の試験片15の縦の長さよりも短くした。第1部材12aと第2部材12bとの摺動面13における面積割合は、6:4とした。
【0056】
摺動部材12を、摺動面13としての表面をアルマイト処理したアルミニウム合金製プレート(縦(紙面正面奥行方向。不図示)20mm、横W3が43mm、厚さH3が3mm)により構成された試験片15に接触させ、紙面左右方向に往復動させた。摩擦試験の条件として、摺動部材12と試験片15との接触面圧3MPa、摩擦速度0.4m/s、1往復動の距離20mm、試験片15の表面温度(摺動面13の温度)110℃とした。そして、摩擦試験において所定時間摺動させた場合の摩耗量の合計と、所定時間の摺動中の摩擦係数とを測定した。摩擦試験の結果は、図8図10を参照しながら後記する。
【0057】
<比較例1>
フッ素樹脂粒子22(図2)及び棒状粒子23(図2)を含まないこと以外は実施例1と同様にして、比較例1の摺動部材を作製し、摩擦試験を行った。摩擦試験の結果は、図8図10を参照しながら後記する。
【0058】
<比較例2>
第2部材12bを備えないこと以外は実施例1と同様にして、比較例2の摺動部材を作製し、摩擦試験を行った。摩擦試験の結果は、図8図10を参照しながら後記する。なお、比較例2の摺動部材は、上記の特許文献1に記載の技術に相当する。
【0059】
下記表1に、実施例1、比較例1及び比較例2の摺動部材の構成材料を示す。「〇」は使用、「-」は不使用を示す
【0060】
【表1】
【0061】
図8は、摩擦試験後の試験片表面についてのエネルギ分散型X線分析像(EDX)である。EDX-Al像は、試験片表面でのアルミニウムの存在を示し、EDF-F像は、試験片表面でのフッ素の存在を示す。実施例1のEDX-Al像には白色部分はほとんど存在せず、表面にアルミニウムが存在しないことがわかる。一方で、実施例1のEDX-F像には白色部分が存在し、表面にフッ素が存在することがわかる。従って、試験片の表面には、フッ素を含む移着膜14(図4)が形成されており、これにより、試験片の構成材料であるアルミニウムが殆ど検出されなかったと考えられる。
【0062】
一方で、比較例1及び比較例2のEDX-Al像には、白色部分が存在し、試験片の表面にアルミニウムが存在することがわかる、一方で、比較例1及び2のEDX-F像には白色部分が存在せず、表面にはフッ素が存在しないことがわかる。従って、試験片の表面には、フッ素を含む移着膜14(図4)が殆ど形成されず、試験片の構成材料であるアルミニウムの多くがそのまま露出していたと考えられる。
【0063】
これらの結果は、第1部材12a及び第2部材12bの双方にフッ素樹脂を含むことで奏された結果と考えられる。即ち、本開示に係る摺動部材12のように、第1部材12a及び第2部材12bを備えることで、移着膜14を形成できたと考えられる。しかし、比較例1のように、例えばフッ素樹脂粒子22を使用しない場合、上記のように、第2部材12bにより形成された移着膜14が第1部材12aによって剥離される結果、移着膜14が残存し難いと考えられる。また、比較例2のように、フッ素樹脂である第2母材樹脂31を使用しないため、移着膜14の形成が行われ難く、移着膜14の形成の程度に向上の余地があることがわかる。
【0064】
図9は、摩擦試験で得た摩耗量(棒グラフ)及び摩擦係数(プロット)の試験結果を示す図である。図9は、図7に示す摩擦試験において所定時間摺動させた場合の摩耗量の合計と、所定時間の摺動中の摩擦係数の平均値とを示している。なお、結果を理解しやすくするため、摩耗量は比較例2を100とした時の相対値で表した。
【0065】
実施例1は、比較例1及び比較例2に比べて、摩擦係数が低下した。これは、図8を参照して説明したように、移着膜14(図4)が形成されたことに起因すると考えらえる。そして、摩擦係数の低下により摺動部材12が摺動し易くなり、摩耗量が低減したと考えられる。このため、本開示の摺動部材12では、優れた耐摩耗性を示す。
【0066】
一方で、実施例1と比較例1及び2とを比較すると、比較例1及び2の摩耗量及び摩擦係数は、いずれも実施例1の摩耗量及び摩擦係数よりも高くなった、これは、フッ素樹脂粒子22を含まない比較例1では、移着膜14が形成されても第1部材12aによって剥離されてしまい、摩耗量及び摩擦係数が大きくなったためと考えられる。また、第2部材12bを備えない比較例2では、そもそも移着膜14が形成され難いため、摩耗量及び摩擦係数が大きくなったためと考えられる。
【0067】
また、比較例1及び2に関して、摩擦係数が小さくなれば、滑り性が向上する。しかし、例えば、材料のせん断応力等に対する強度低下、過剰な熱膨張等が例えば同時に生じてしまうと、結果として摩耗量は増大する。従って、摩耗係数は摩耗量低減のための一要素であり、単に摩擦係数を小さくしても、必ずしも摩耗量は低減しない。このため、摩擦係数は比較例2の方が小さかったものの、摩耗量は比較例2の方が多くなったと考えられる。従って、実施例1では、摩擦係数を小さくして滑り易くできたとともに、更には第1部材12a及び第2部材12b(いずれも図7)の例えば強度低下及び過剰な熱膨張等を抑制できたため、摩耗量を低減できたと考えられる。
【0068】
図10は、摩擦試験で得た摩耗量(丸プロット)及び摩擦係数(菱形プロット)と、フッ素樹脂粒子22(図2)の含有量との相関を示す図である。図10に示す結果は、図7の摩擦試験をシミュレーションにより行って得たものであり、第1材料に対するフッ素樹脂粒子22(PTFE)の含有量を変えたこと以外は実施例1の条件で行ったものである。なお、摩耗量は、フッ素樹脂粒子22の配合量が70質量%の値を100とした時の相対値で表した。
【0069】
摩耗量は、含有量が15質量%以上30質量%以下の範囲で、特に低い値を示した。従って、含有量がこの範囲で、特に高い耐摩耗性が示される。一方で、含有量が15質量%未満及び30質量%を超えると、摩耗量が増加する傾向であった。
【0070】
摩擦係数は、含有量が15質量%以上では、ほぼ一定値を示した。これにより、含有量が15質量%以上であれば、試験片に滑り易さが良好な移着膜14(図4)が形成されるといえる。従って、図10の結果から、フッ素樹脂粒子22の含有量は、第1材料に対して、15質量%以上30質量%以下であることが好ましいことがわかった。
【0071】
以上のように、本開示に係る摺動部材12を、例えばレシプロ式気体圧縮機における、揺動ピストン方式の摺動部であるピストン40に適用することで、ピストン40の耐摩耗性を向上できる。これにより、ピストン40を長寿命化でき、例えばレシプロ式気体圧縮機のメンテナンスサイクルを延長できる。
【符号の説明】
【0072】
100 流体機械
11 金属部材
12 摺動部材
12a 第1部材
12b 第2部材
13 摺動面
14 移着膜
15 試験片
21 第1母材樹脂
22 フッ素樹脂粒子
23 棒状粒子
31 第2母材樹脂
32 強化剤
33 固体潤滑剤
40 ピストン
41 シリンダ
411 内壁面
42 ピストン本体
43 ピストンリング
44 圧縮膨張室
45 仕切り板
45a 吸入口
45b 吐出口
45c 吸入弁
45d 吐出弁
46 コンロッド
47 クランクシャフト
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10