IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ユニチカトレーディング株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-複合仮撚加工糸 図1
  • 特開-複合仮撚加工糸 図2
  • 特開-複合仮撚加工糸 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022152966
(43)【公開日】2022-10-12
(54)【発明の名称】複合仮撚加工糸
(51)【国際特許分類】
   D02G 3/28 20060101AFI20221004BHJP
   D02G 3/04 20060101ALI20221004BHJP
   D04B 1/16 20060101ALI20221004BHJP
   D03D 15/47 20210101ALI20221004BHJP
   D03D 15/40 20210101ALI20221004BHJP
【FI】
D02G3/28
D02G3/04
D04B1/16
D03D15/00 D
D03D15/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021055937
(22)【出願日】2021-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】592197315
【氏名又は名称】ユニチカトレーディング株式会社
(72)【発明者】
【氏名】倉谷 弘子
(72)【発明者】
【氏名】大林 徹治
【テーマコード(参考)】
4L002
4L036
4L048
【Fターム(参考)】
4L002AA07
4L002AB00
4L002AB02
4L002AB04
4L002AC00
4L002AC06
4L002BA00
4L002DA04
4L002EA00
4L002EA08
4L002FA01
4L036MA05
4L036MA25
4L036MA33
4L036MA40
4L036PA05
4L036PA14
4L036PA18
4L036PA33
4L036PA42
4L036RA04
4L036UA02
4L036UA12
4L048AA20
4L048AA42
4L048AB08
4L048AB09
4L048AB18
4L048AB21
4L048AC01
4L048AC06
4L048AC07
4L048CA00
4L048CA16
4L048DA01
(57)【要約】      (修正有)
【課題】織編物とした後、染色を施した際に、織編物の表面に色の濃淡が明瞭な杢調が現れ、また、フクラミ感に富んだ梳毛調の風合いを有する織編物を得る事が可能な複合仮撚加工糸、およびその製造方法を提供する。
【解決手段】カチオン可染ポリエステル糸Aとカチオン不染ポリエステル糸Bから構成される複合糸であって、下記(1)~(3)を満足する複合仮撚加工糸。
(1)捲縮率が20~50%
(2)トルクが25~50T/M
(3)交絡数が100~155個/M
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カチオン可染ポリエステル糸Aとカチオン不染ポリエステル糸Bから構成される複合糸であって、下記(1)~(3)を満足する複合仮撚加工糸。
(1)捲縮率が20~50%
(2)トルクが25~50T/M
(3)交絡数が100~155個/M
【請求項2】
カチオン染料ブルー染色後の前記複合仮撚加工糸の色差ΔEの最大値と最小値の差が2.5~5.5である、請求項1に記載の複合仮撚加工糸。
【請求項3】
前記カチオン可染ポリエステル糸Aと前記カチオン不染ポリエステル糸Bの質量比率(A/B)が75/25~50/50である、請求項1又は2のいずれかに記載の複合仮撚加工糸。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載の複合仮撚加工糸を製造する方法であって、以下の工程(イ)~(ハ)を含むことを特徴とする製造方法。
(イ)カチオン可染ポリエステル高配向未延伸糸aを加工速度120~160m/分、延伸倍率1.4~1.7倍、仮撚温度160~180℃の条件で仮撚りし、カチオン可染ポリエステル糸A1を得る工程
(ロ)カチオン不染ポリエステル高配向未延伸糸bを加工速度120~160m/分、延伸倍率1.4~1.7倍、仮撚温度160~180℃の条件で仮撚りした後に180~210℃で熱セットし、カチオン不染ポリエステル糸B1を得る工程
(ハ)前記カチオン可染ポリエステル糸A1と、前記カチオン不染ポリエステル糸B1を引きそろえて、流体ノズルを用いて、エアー圧1.0~3.0Mpa、オーバーフィード率3~10%の条件で混繊交絡する混繊交絡工程
【請求項5】
請求項1~3のいずれかに記載の複合仮撚加工糸を製造する方法であって、以下の工程(ニ)~(ヘ)を含むことを特徴とする製造方法。
(ニ)カチオン可染ポリエステル高配向未延伸糸aを加工速度120~160m/分、延伸倍率1.4~1.7倍、仮撚温度160~180℃の条件で仮撚りした後に180~210℃で熱セットし、カチオン可染ポリエステル糸A2を得る工程
(ホ)カチオン不染ポリエステル高配向未延伸糸bを加工速度120~160m/分、延伸倍率1.4~1.7倍、仮撚温度160~180℃の条件で仮撚し、カチオン不染ポリエステル糸B2を得る工程
(ヘ)前記カチオン可染ポリエステル糸A2と、前記カチオン不染ポリエステル糸B2とを引きそろえて、流体ノズルを用いて、エアー圧1.0~3.0Mpa、オーバーフィード率3~10%の条件で混繊交絡する混繊交絡工程
【請求項6】
請求項1~3のいずれかに記載の複合仮撚加工糸を含む、織編物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製織または製編して加工した際に、色の濃淡が明瞭な杢調とフクラミ感に富んだ梳毛調の風合いを有する織編物を得る事が可能な複合仮撚加工糸とその製造方法、及び前記複合仮撚加工糸を使用した織編物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、織編物に対し杢調を付与し得るポリエステルフィラメントが様々に検討されている。例えば、特許文献1には、細繊度かつ仮撚捲縮を有するポリエステル糸条Aと単糸繊度が糸条Aの単糸繊度より大きく、かつ複屈折率が低い範囲にあるポリエステル糸条Bとを混繊して得られた杢調嵩高加工糸が記載され、この杢調嵩高加工糸を用いて織編物にすると、染色することでソフト感を有し、かつナチュラルで明瞭な杢外観を有する織編物が得られることが記載されている。
【0003】
また、特許文献2には、カチオン不染ポリエステルコンジュゲート糸とカチオン可染ポリエステル高配向未延伸糸を低張力かつ低仮撚係数である低捲縮加工条件下で仮撚加工を施して得られた複合杢加工糸が記載され、この複合杢加工糸を用いて織編物にすると、染色することで深みのある色合いとなるナチュラルな杢調を有し、また、優れたフクラミ感やドレープ性を有する織編物が得られることが記載されている。一方で、杢調としてはより高級感やデザイン性のある外観を表現するために、緻密、ナチュラルのみならず、より色の濃淡が明瞭な杢調を有することが求められているが、特許文献1及び2で開示された複合杢加工糸では未だ不十分である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005-23441号
【特許文献2】特開2018-172814号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで本発明では、織編物とした後、染色を施した際に、織編物の表面に色の濃淡が明瞭な杢調が現れ、また、フクラミ感に富んだ梳毛調の風合いを有する織編物を得る事が可能な複合仮撚加工糸を得ることを技術的な課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、カチオン可染ポリエステル糸とカチオン不染ポリエステル糸から構成される複合仮撚加工糸で、特定範囲の捲縮率、トルク及び交絡数を有する複合仮撚加工糸は、織編物とした場合に、色の濃淡が明瞭な杢調を発現し、さらにフクラミ感に富んだ梳毛調の風合いを有するものとなることを見出し、本願発明に到達した。
【0007】
すなわち、本発明は、下記(i)~(vi)に掲げる態様の発明を要旨とするものである。
【0008】
(i)カチオン可染ポリエステル糸Aとカチオン不染ポリエステル糸Bから構成される複合糸であって、下記(1)~(3)を満足する複合仮撚加工糸。
(1)捲縮率が20~50%
(2)トルクが25~50T/M
(3)交絡数が100~155個/M
(ii)カチオン染料ブルー染色後の前記複合仮撚加工糸の色差ΔEの最大値と最小値の差が2.5~5.5である、(i)の複合仮撚加工糸。
(iii)前記カチオン可染ポリエステル糸Aと前記カチオン不染ポリエステル糸Bの質量比率(A/B)が75/25~50/50である、(i)又は(ii)のいずれかの複合仮撚加工糸。
(iv)(i)~(iii)のいずれかの複合仮撚加工糸を製造する方法であって、以下の工程(イ)~(ハ)を含むことを特徴とする製造方法。
(イ)カチオン可染ポリエステル高配向未延伸糸aを加工速度120~160m/分、延伸倍率1.4~1.7倍、仮撚温度160~180℃の条件で仮撚りし、カチオン可染ポリエステル糸A1を得る工程
(ロ)カチオン不染ポリエステル高配向未延伸糸bを加工速度120~160m/分、延伸倍率1.4~1.7倍、仮撚温度160~180℃の条件で仮撚りした後に180~210℃で熱セットし、カチオン不染ポリエステル糸B1を得る工程
(ハ)前記カチオン可染ポリエステル糸A1と、前記カチオン不染ポリエステル糸B1を引きそろえて、流体ノズルを用いて、エアー圧1.0~3.0Mpa、オーバーフィード率3~10%の条件で混繊交絡する混繊交絡工程
(v)(i)~(iii)のいずれかの複合仮撚加工糸を製造する方法であって、以下の工程(ニ)~(ヘ)を含むことを特徴とする製造方法。
(ニ)カチオン可染ポリエステル高配向未延伸糸aを加工速度120~160m/分、延伸倍率1.4~1.7倍、仮撚温度160~180℃の条件で仮撚りした後に180~210℃で熱セットし、カチオン可染ポリエステル糸A2を得る工程
(ホ)カチオン不染ポリエステル高配向未延伸糸bを加工速度120~160m/分、延伸倍率1.4~1.7倍、仮撚温度160~180℃の条件で仮撚し、カチオン不染ポリエステル糸B2を得る工程
(ヘ)前記カチオン可染ポリエステル糸A2と、前記カチオン不染ポリエステル糸B2とを引きそろえて、流体ノズルを用いて、エアー圧1.0~3.0Mpa、オーバーフィード率3~10%の条件で混繊交絡する混繊交絡工程
(vi)(i)~(iii)のいずれかの複合仮撚加工糸を含む、織編物。
【発明の効果】
【0009】
本発明の複合仮撚加工糸は、特定範囲の捲縮率、トルク及び交絡数を有することで、製織編後、染色を施した際に可染部と不染部との色差が明瞭でメリハリのある杢調を有し、かつフクラミ感に富んだ梳毛調の風合いを有するものとなる。また、本願発明の製造方法によれば、こうした複合仮撚加工糸を効率よく製造することができる。そのため、本発明の複合仮撚加工糸及び本発明の織編物は衣料用途として、作業服、スポーツウェア、インナーウェア、レディース衣料等の素材として好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の複合仮撚加工糸の製造方法の一実施態様を示す工程概略図である。
図2】比較例1及び3で用いた複合仮撚加工糸の製造方法の工程概略図である。
図3】比較例2及び4で用いた複合仮撚加工糸の製造方法の工程概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の複合仮撚加工糸について詳細に説明する。
本発明の複合仮撚加工糸は、カチオン可染ポリエステル糸Aとカチオン不染ポリエステル糸Bとから構成され、特定範囲の捲縮率、トルク及び交絡数を有することを特徴とする。
【0012】
カチオン可染ポリエステル糸A(以下、カチオン可染糸Aという場合がある)について以下に述べる。
カチオン可染糸Aとしては、カチオン染料を染着するものであれば特に限定されないが、例えば、エチレングリコールとテレフタル酸からなるポリエチレンテレフタレート(以下、PETと称することがある)に、5-ナトリウムスルホイソフタル酸が0.5~5モル%共重合されたものが挙げられる。5-ナトリウムスルホイソフタル酸の共重合割合を0.5~5モル%とすることで、該フィラメント糸の紡糸性を維持しながら、織編物としたときに緻密過ぎないナチュラルな杢調を表現することが可能となる。該共重合割合は、中でも1.0~3.5モル%であることが好ましい。これによりカチオン染料に対して可染性とすることができ、複合仮撚加工糸を構成するもう一方の繊維のポリエステルを、例えばホモPETからなるカチオン不染性のものとして、得られる複合仮撚加工糸を用いた織編物をカチオン染料と分散染料とを用いて染色した場合、織編物に異色効果のある杢調を表現することができる。
【0013】
カチオン可染糸Aの単繊維繊度は、1~10dtexであり、1.5~5dtexが好ましく、2~5dtexがより好ましい。単繊維繊度を上記範囲とすることで、単繊維が細すぎて交絡状態が緻密になったり、染着濃度が薄くなったり、混繊交絡度合が弱く流れ杢状態になることが抑えられ、色の濃淡が明瞭な杢調と深みある色合いとを両立しうる、高級感のある外観を表現することができる。
【0014】
カチオン可染糸Aの伸度は、配向の進行が抑制されているために、より濃く染まる観点から110~130%であることが好ましく、115~125%であることがより好ましい。
【0015】
カチオン可染糸Aのフィラメント数は、カチオン可染糸の含有率を適切な範囲とし、色の濃淡が明瞭でメリハリのある杢調を発現させるために、20~70本であることが好ましい。カチオン可染糸Aの総繊度は、同様の理由から、70~200dtexであることが好ましい。
【0016】
次に、カチオン不染ポリエステル糸B(以下、カチオン不染糸Bという場合がある)について以下に述べる。
カチオン不染糸Bを形成するポリエステルとしては、PET、ポリブチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリ乳酸等いずれでもよいが、本発明においては、PETが好ましく用いられる。
【0017】
カチオン不染糸Bの単繊維繊度は、1~10dtexであり、1.5~6dtexが好ましく、1.5~3.5dtexがより好ましい。単繊維繊度を上記範囲とすることで、フクラミ感を良好に表現することができるとともに、風合いが硬くなったり、単繊維が細すぎて交絡状態が緻密になったり、混繊交絡度合が弱く流れ杢状態になることが抑えられ、色の濃淡が明瞭な杢調と深みある色合いとを両立した高級感のある外観を表現することができる。
【0018】
カチオン不染糸Bのフィラメント数は、カチオン可染糸Aの含有率を適切な範囲とし、色の濃淡が明瞭な杢調を発現させるために、20~70本であることが好ましい。カチオン不染糸Bの総繊度は、同様の理由から、50~120dtexであることが好ましい。
【0019】
次に、本発明の複合仮撚加工糸(以下、本発明複合糸という場合がある)について以下に述べる。
本発明複合糸の捲縮率は20~50%であり、中でも25~45%であることが好ましく、30~45%であることがより好ましい。つまり、本発明複合糸は、強過ぎない適度な捲縮性を有するものである。このような捲縮率を有していることにより、織編物とした場合にストレッチ性が過度に高くならず、フクラミ感とドレープ性とに優れ、また、色の濃淡が明瞭な杢調を表現しうるものとなる。捲縮率が20%未満であると、織編物にした場合、十分なストレッチ性が現れず、フクラミ感に劣る。一方、50%を超えると捲縮が強すぎるために、織編物にした場合、ストレッチ性が強くなり過ぎて剛直なものとなり、落ち感に富むドレープ性に劣る。さらに杢調が緻密になり過ぎてしまい、ナチュラルな杢調を発現することができず高級感に劣る。本発明では複合仮撚加工糸の捲縮率を上記範囲とするために、例えば、後述の熱延伸加工または仮撚加工における条件を好ましいものとすればよい。本発明では後述する製造方法を採用することにより、このような特定範囲の捲縮率を有するものを得ることができる。
【0020】
なお、本発明における捲縮率は、以下の方法により測定して得られる。
<捲縮率の測定方法>
まず、枠周1.125mの検尺機を用いて巻き数5回で試料をカセ取りした後、カセを室温下フリー状態でスタンドに一昼夜吊り下げる。次に、カセに0.000147cN/dtexの荷重を掛けたまま沸水中に投入し30分間湿熱処理する。その後、カセを取り出し、水分を濾紙で軽く取り、室温下フリー状態で30分間放置する。そして、カセに0.000147cN/dtexの荷重及び0.00177cN/dtex(軽重荷)を掛け、長さXを測定する。続いて、0.000147cN/dtexの荷重は掛けたまま、軽重荷に代えて0.044cN/dtexの荷重(重荷重)を掛け、長さYを測定する。その後、捲縮率(%)=(Y-X)/Y×100なる式に基づき、算出する。捲縮率の測定は、5本の試料について行い、それぞれの平均をその試料(糸)の捲縮率とする。
【0021】
本発明複合糸のトルクは25~50T/mであり、中でも30~50T/mであることが好ましく、30~45T/mであることがより好ましい。このようなトルクを有していることにより、本発明複合糸は緩やかな波状の捲縮を有するものとなり、織編物とした場合にフクラミ感とドレープ性とに優れ、色の濃淡が明瞭な杢調を表現しうるものとなる。トルクが25T/m未満であると、糸同士の絡みが弱くなり捲縮特性が低下し、可染部と不染部の色の境界がぼやけたものとなり、明瞭な杢調に劣るものとなる。一方、50T/mを超えると製編織工程でのビリが発生する等取扱いに問題が生じやすくなり、また織物とした場合にもシボが過度に生じることになる。
なお、本発明複合糸のトルクは、S方向とZ方向のいずれを有していても良いものである。
【0022】
本発明におけるトルクは、以下の方法により測定して得られる。
<トルクの測定方法>
試料(複合仮撚加工糸)約200cmを、地面に対して垂直に設置された試料台にV字状に吊り下げる。このとき、試料の両端は試料台の背面に渡され、V字の頂点は下端中心部の位置のピンに掛かっている状態であり、該ピンから100cm上部の位置で左右両側の糸の糸間距離が2cmとなるように試料を固定具で固定する。次に、試料両端それぞれに0.0294(cN/dtex)の荷重を吊り下げ、前記固定具を外すことで試料に荷重が掛かっている状態とした後、再度固定具で固定する。その後、V字の頂点(下端中心部)に0.00294(cN/dtex)の荷重を掛け、試料を前記固定具で固定したままピンから外してテンションフリーの状態とする。このとき、試料の残留トルクによる旋回が発生し、その旋回が静止するまで放置する。旋回が静止した後、その旋回数を検撚機にて測定し、この測定により得られた値をトルク数とする。
【0023】
本発明複合糸は糸全体として混繊交絡されている。複合糸の交絡数としては100~155個/mであり、中でも100~150個/mが好ましい。交絡数が100個/m未満である場合、交絡状態が解け易くなり、フクラミ感及び色の濃淡が明瞭な杢調が発現しにくくなる。また、交絡状態が解け易くなると、織編物の製造工程において必然的に受けるガイド摩耗によって、糸条内部にズレが発生し、織編物とした場合に欠点を誘発しやすくなる。一方、交絡数が155個/mを超えると、カチオン可染糸Aとカチオン不染糸Bとが強固に絡まり過ぎることで、硬い風合いとなりドレープ性及びナチュラルな杢調に乏しくなる。本発明複合糸の交絡数を上記範囲とするために、例えば、後述の仮撚加工条件の仮撚係数、エアー圧及び仮撚ゾーンのオーバーフィード率を適切な範囲とすることができる。なお、本発明において、交絡数は、JIS L1013 8.15フック法に基づいて測定して得られる値である。
【0024】
本発明の本発明複合糸は、カチオン可染糸Aとカチオン不染糸Bの含有率(質量比率)が75/25~50/50であることが好ましく、70/30~55/45であることがより好ましい。カチオン可染糸Aの質量比率(混率)が50質量%未満の場合、本発明複合糸におけるカチオン可染糸Aの割合が少なすぎるため、ナチュラルな杢調が発現されずデザイン性のある外観に乏しいものとなる。一方、カチオン可染糸Aの混率が85質量%を超えると、本発明複合糸におけるカチオン可染糸Aの割合が多すぎるため、ナチュラルな杢調が発現されずデザイン性のある外観に乏しいものとなる。なお、カチオン可染糸Aとカチオン不染糸Bの質量比率は、複合仮撚加工糸の総繊度に対するカチオン可染糸A及びカチオン不染糸Bのそれぞれの総繊度から算出すればよいが、複合仮撚加工糸の糸条長手方向に対して垂直な断面の断面写真からカチオン可染糸Aとカチオン不染糸Bのそれぞれの断面積を測定することにより算出してもよい。
【0025】
本発明ではカチオン可染糸A、カチオン不染糸Bの少なくとも一方に対して、適宜の添加剤(たとえば、帯電防止剤、抗菌剤、又は消臭剤など)を含有させることにより、本発明複合糸に対して副次的な機能を付与することができる。
【0026】
本発明複合糸は、織編物として用いた場合に色の濃淡が明瞭な杢調を有し、外観に優れるものとなる。そのため、本発明複合糸は特定のカチオン染料ブルーで染色した後の色差ΔEの最大値と最小値の差が2.5~5.5であることが好ましく、中でも3.0~5.0が好ましく、特に4.0~5.0が好ましい。
【0027】
本発明における、カチオン染料ブルー染色後の色差ΔEとは、下記に示す特定のカチオン染料ブルー染色後の本発明複合糸の任意の1点の色調(L、a、b値)を基準としたときの、別の任意の1点の色調(L、a、b値)との差で算出する値である。詳細には、まず、本発明複合糸を筒編機を用いて以下の条件で編成し、以下に示す染料で染色を施して筒編サンプルを作成する。そして、筒編サンプル表面の基準とする任意の1点の色調(L、a、b値)と、別の任意の1点の色調(L、a、b値)を、分光光度計(マクベス社製、CE-3100)を用いて測定し、下式(1)で算出するものである。色差ΔEの値が大きいほど変色が大きく、色の濃淡が明瞭であることを示す。
【0028】
<筒編サンプル>
複合仮撚加工糸のみを使用し、英光産業社製の筒編機(釜径:3.5インチ、針本数:260N)を用いて筒編地(30cm程度)を作成する。次いで、以下の条件で精練、染色を行うことで得られる。
(精練条件)
・精練剤:サンモールFL(日華化学製)1g/l
・温度×時間:80℃×20分
(カチオン染料ブルー染色条件)
・染料:AiZen Cathilon Blue CD-F2RLH (日成化成社製) 1%o.m.f
・助剤:酢酸 0.2cc/l
・温度×時間:130℃×30分
・浴比:1:30
【0029】
<色差ΔEの算出式>
ΔE=〔(ΔL+(Δa+(Δb1/2 (1)
ΔL:基準とする任意の1点と別の任意の1点のL値の差
Δa:基準とする任意の1点と別の任意の1点のa値の差
Δb:基準とする任意の1点と別の任意の1点のb値の差
【0030】
次に、本発明におけるカチオン染料ブルー染色後の色差ΔEの最大値と最小値の差とは、筒編サンプルの任意の10点より算出された色差ΔE(該10点分のΔE値)のうちの最大値と最小値の差分を取った値である。詳しくは、まず、上記に従って当該筒編サンプル表面の基準とする任意の1点の色調を測定し、次いで別の任意の10点の色調を測定し、各点に対して前記の基準とする点の色調との色差ΔEを算出する。その後、得られた10点分の色差ΔEのうち、最大値(ΔE max)と最小値(ΔE min)を用いて、下式(2)で算出するものである。
ΔEの最大値と最小値の差=ΔE max-ΔE min (2)
ΔE max:任意の10点について算出されたΔEのうちの最大値
ΔE min:任意の10点について算出されたΔEのうちの最小値
【0031】
ΔEの最大値と最小値の差が2.5未満であると、濃い色の部分と薄い色の部分が混在することで形成される複合糸の杢調が明瞭なものにならず、全体としてぼやけた印象を与えるものとなりやすい。一方、上限値は特に限定されないが、本発明複合糸を衣料用途に好適なものとする観点から、5.5程度が好ましい。上記のΔEの最大値と最小値の差を特定の範囲とするために、例えば、カチオン可染糸Aの含有率を適切な範囲としたり、捲縮率を強過ぎない適切な範囲としたり、構成繊維の単繊維繊度を適切な範囲とすることができる。
【0032】
本発明の本発明複合糸の色差ΔEを10回測定した時の平均の値は特に限定されないが、織編物の表面において濃い色の部分と薄い色の部分が混在し、織編物表面全体に杢調が形成されることを考慮すると、1.4~4.0程度であることが好ましい。上記の色差ΔEを10回測定した時の平均の値を特定の範囲とするために、例えば、カチオン可染糸Aの含有率を適切な範囲としたり、捲縮率を強過ぎない適切な範囲としたり、構成繊維の単繊維繊度を適切な範囲とすることが好ましい。
【0033】
本発明複合糸は、上記したような特性値を満足するものであるが、これは、後述する態様1や態様2の製造方法を行うことで、上記した特定範囲の捲縮率、トルク及び交絡数を有する複合仮撚加工糸を得ることが可能となる。
【0034】
次に本発明複合糸の製造方法の一例について図面を用いて説明する。
図1は、本発明複合糸の製造方法の一実施態様を示す概略工程図である。図1において、供給糸Xは、第1供給ローラ1と第1引取ローラ4の間で、仮撚ヒータ2及び仮撚施撚装置3により熱延伸加工及び仮撚加工が施されてトルクを有する糸条となり、次いで第2引取ローラ5を通過した後、流体ノズル12に導かれる。
【0035】
一方、供給糸Yは、第1供給ローラ6と第1引取ローラ9の間で、仮撚ヒータ7及び仮撚施撚装置8により熱延伸加工及び仮撚加工が施され、次いで熱処理ヒータ10によって熱セット加工が施され、トルクを有さない糸条となり、第2引取ローラ11を通過して流体ノズル12に導かれる。
【0036】
次いで、前記トルクを有する糸条とトルクを有さない糸条は流体ノズル12で混繊されて(混繊交絡工程)本発明の複合仮撚加工糸となり、第3引取ローラ13を経て、巻き取りローラ14によりパッケージ15に巻き取られる。
【0037】
仮撚施撚装置3及び8としては、例えば、ピン式、ベルト式、フリクションディスク式などが挙げられ、捲縮が付与できるものであれば特に限定されるものではないが、中でもピン式が好適である。また、混繊交絡工程で使用される流体ノズル12としては、特に限定されないが、一般にタスランノズル又はインターレースノズルが好適であり、中でもインターレースノズルが好適である。
【0038】
ここで、上記したように、本発明複合糸はカチオン可染糸Aとカチオン不染糸Bから構成されるが、前記カチオン可染糸Aと前記カチオン不染糸Bのどちらか一方がトルクを有さず、かつ、他方がトルクを有するものを混繊交絡して得られるものとすることが好ましい。すなわち、本発明複合糸の製造方法には態様1と態様2の2つの態様がある。それぞれについて、以下に説明する。
〔態様1〕
1つ目の態様は、トルクを有するカチオン可染糸A1とトルクを有さないカチオン不染糸B1とを混繊交絡して複合仮撚加工糸を得る方法である。すなわち、態様1の製造方法では以下の工程(イ)~(ハ)を含み、中でも工程(イ)~(ハ)の順に行うことが好ましい。
(イ)カチオン可染ポリエステル高配向未延伸糸aを加工速度120~160m/分、延伸倍率1.4~1.7倍、仮撚温度160~180℃の条件で仮撚りし、カチオン可染ポリエステル糸A1を得る工程
(ロ)カチオン不染ポリエステル高配向未延伸糸bを加工速度120~160m/分、延伸倍率1.4~1.7倍、仮撚温度160~180℃の条件で仮撚りした後に180~210℃で熱セットし、カチオン不染ポリエステル糸B1を得る工程
(ハ)前記カチオン可染ポリエステル糸A1と、前記カチオン不染ポリエステル糸B1を引きそろえて、流体ノズルを用いて、エアー圧1.0~3.0Mpa、オーバーフィード率3~10%の条件で混繊交絡する混繊交絡工程
【0039】
(イ)の工程としては、まず、図1における供給糸Xとしてカチオン可染ポリエステル高配向未延伸糸aを用意し、上記の製造工程に従って熱延伸加工を施して延伸糸条とした後(熱延伸加工工程)、仮撚加工を施して(仮撚加工工程)、カチオン可染糸A1を得る。
熱延伸加工時の条件は、加工速度を120~160m/分とすることが好ましく、より好ましくは130~150℃である。延伸倍率は1.40~1.70倍とすることが好ましく、より好ましくは1.50~1.65倍である。延伸倍率が1.40倍未満である場合、または加工速度が120m/分未満である場合は、カチオン可染糸Aにおいて捲縮特性を発現することができず、混繊交絡後に得られた複合糸を用いて織編物とした場合に、フクラミ感を付与することができない。さらには、延伸倍率が1.70倍を超える場合、または加工速度が160m/分を超える場合は、糸加工時の糸切れや毛羽が発生することがあり好ましくない。
【0040】
仮撚加工時の条件は、仮撚温度を160~180℃とすることが好ましく、より好ましくは165~175℃である。仮撚温度が160℃未満であると、仮撚加工時に糸条が十分に熱固定されないため、高収縮特性を生じることから、織編物とした場合に寸法安定性に欠ける場合がある。一方、仮撚温度が180℃を超えると、カチオン可染ポリエステル高配向未延伸糸aに切れ毛羽が多発して、解舒性または製織時のトラブルの原因となるために好ましくない。さらに、仮撚温度が上記の範囲であると、カチオン可染糸の配向が適度に進行するために、強過ぎない適切な捲縮性を発現し得るものとなり、フクラミ感や、深い色合いと色の濃淡がより明瞭な杢調に優れるものとなる。
【0041】
次に、(ロ)の工程としては、図1における供給糸Yとしてカチオン不染ポリエステル高配向未延伸糸bを用意し、上記の製造工程に従って、熱延伸加工工程及び仮撚加工工程を施した後、得られた仮撚加工糸に熱セット加工を施し(熱セット工程)、カチオン不染糸B1を得る。
熱延伸加工時の条件は、加工速度を120~160m/分とすることが好ましく、より好ましくは130~150℃である。延伸倍率は1.40~1.70倍とすることが好ましく、より好ましくは1.50~1.65倍である。延伸倍率が1.40倍未満である場合、または加工速度が120m/分未満である場合は、カチオン可染糸Aにおいて捲縮特性を発現することができず、混繊交絡後に得られた複合糸を用いて織編物とした場合に、フクラミ感を付与することができない。さらには、延伸倍率が1.70倍を超える場合、または加工速度が160m/分を超える場合は、糸加工時の糸切れや毛羽が発生することがあり好ましくない。
【0042】
仮撚加工時の条件は、仮撚温度は160~180℃とすることが好ましく、より好ましくは165~175℃である。仮撚温度が160℃未満であると、仮撚加工時に糸条が十分に熱固定されないため、高収縮特性を生じることから、織編物とした場合に寸法安定性に欠ける場合がある。一方、仮撚温度が180℃を超えると、カチオン可染ポリエステル高配向未延伸糸aが弱糸傾向となり、切れ毛羽が多発して、解舒性または製織時のトラブルの原因となるために好ましくない。さらに、仮撚温度が上記の範囲であると、カチオン可染糸の配向が適度に進行するために、強過ぎない適切な捲縮性を発現し得るものとなり、フクラミ感や、深い色合いと色の濃淡がより明瞭な杢調に優れるものとなる。
【0043】
熱セット加工の条件は、熱処理温度を180~210℃とすることが好ましく、より好ましくは180~200℃である。熱処理温度が180℃未満である場合は、得られた複合糸の捲縮が強すぎるために、織編物にした場合、ストレッチ性が強くなり過ぎて剛直なものとなり、落ち感に富むドレープ性に劣る。さらには、熱処理温度が200℃を超える場合は、糸加工時の糸切れや毛羽が発生することがあり好ましくない。
【0044】
次に、(ハ)の工程としては、上記(イ)(ロ)で得られたカチオン可染糸A1及びカチオン不染糸B1をともに流体ノズル12へ導き、流体ノズル12を用いて混繊交絡を施すことで、本発明の複合仮撚加工糸を得ることができる。混繊交絡時の条件としては、エアー圧が1.0~3.0Mpaであることが好ましく、オーバーフィード率が3~10%であることが好ましい。
【0045】
混繊交絡加工におけるオーバーフィード率(OF率)とは、流体ノズルへ導入される直前の糸速をV1、流体ノズルを通過した直後の糸速をV2としたとき、オーバーフィード率=(V1-V2)/V2×100(%)なる式で算出される。図1の場合では、オーバーフィード率=(第2引取ローラ5の表面速度-第3引取ローラ13の表面速度)/第3引取ローラ13の表面速度×100(%)、又はオーバーフィード率=(第2引取ローラ11の表面速度-第3引取ローラ13の表面速度)/第3引取ローラ13の表面速度×100(%)なる式で算出される。
【0046】
態様1の製造方法の場合、混繊交絡を施す前つまり、流体ノズル12に導入するカチオン可染糸A1のトルク、捲縮率が以下に示すものであることが好ましい。
カチオン可染糸A1のトルクは10T/M以上であることが好ましく、30T/M以上がより好ましく、50T/M以上が特に好ましい。なお、上限値は特に限定するものではないが、混繊交絡処理後に得られる複合仮撚加工糸のトルクや捲縮率を好適な範囲にするのに応じて適宜変更すればよい。また、捲縮率は50~65%であることが好ましく、60~65%であることがより好ましい。捲縮率が50%未満であると、織編物にした場合、ストレッチ性が十分でないためフクラミ感に劣り、生地が平たく風合の硬いものとなる。一方、65%を超えると捲縮が強すぎるために、織編物にした場合、ストレッチ性が強くなり過ぎて剛直なものとなり、ドレープ性に劣る。さらに杢調が緻密になり過ぎてしまい、ナチュラルな杢調を発現することができず高級感に劣る。カチオン可染糸A1のトルク及び捲縮率をこのような範囲とするために、例えば仮撚加工時の仮撚温度を上記の特定の範囲とすることができる。
【0047】
一方、態様1の製造方法の場合、混繊交絡を施す前つまり、流体ノズル12に導入するカチオン可染糸B1のトルク、捲縮率が以下に示すものであることが好ましい。
カチオン不染糸B1のトルクは0T/Mであることが好ましい。また、捲縮率は0~3%であることが好ましい。態様1の製造方法の場合、カチオン不染糸B1は熱セット工程を経ることで、トルク及び捲縮性がほとんど現れないものとなる。
【0048】
〔態様2〕
2つ目の態様は、トルクを有さないカチオン可染糸A2とトルクを有するカチオン不染糸B2とを混繊交絡して複合仮撚加工糸を得る方法である。すなわち、態様2の製造方法では以下の工程(ニ)~(ヘ)を含み、中でも(ニ)~(ヘ)の順に行うことが好ましい。
(ニ)カチオン可染ポリエステル高配向未延伸糸aを加工速度120~160m/分、延伸倍率1.4~1.7倍、仮撚温度160~180℃の条件で仮撚りした後に180~210℃で熱セットし、カチオン可染ポリエステル糸A2を得る工程
(ホ)カチオン不染ポリエステル高配向未延伸糸bを加工速度120~160m/分、延伸倍率1.4~1.7倍、仮撚温度160~180℃の条件で仮撚し、カチオン不染ポリエステル糸B2を得る工程
(ヘ)前記カチオン可染ポリエステル糸A2と、前記カチオン不染ポリエステル糸B2とを引きそろえて、流体ノズルを用いて、エアー圧1.0~3.0Mpa、オーバーフィード率3~10%の条件で混繊交絡する混繊交絡工程
【0049】
(ニ)の工程としては、図1における供給糸Yとしてカチオン可染ポリエステル高配向未延伸糸aを用意し、上記の製造工程に従って、熱延伸加工工程及び仮撚加工工程を施した後、得られた仮撚加工糸に熱セット加工を施して(熱セット工程)、カチオン可染糸A2を得る。
熱延伸加工時の条件は、上記の態様1の場合と同様の理由により、加工速度は120~160m/分であることが好ましく、より好ましくは130~150m/分である。延伸倍率は1.40~1.70倍であることが好ましく、より好ましくは1.50~1.65倍である。
【0050】
仮撚加工時の条件は、上記の態様1の場合と同様の理由により、仮撚温度は160~180℃とすることが好ましく、より好ましくは165~175℃である。
【0051】
熱セット加工の条件は、上記の態様1の場合と同様の理由により、熱処理温度は180~210℃とすることが好ましく、より好ましくは180~200℃である。
【0052】
次に、(ホ)の工程としては、まず、図1における供給糸Xとしてカチオン不染ポリエステル高配向未延伸糸bを用意し、上記の製造工程に従って、熱延伸加工工程及び仮撚加工工程を施してカチオン不染糸B2を得る。
熱延伸加工時の条件は、上記の態様1の場合と同様の理由により、加工速度は120~160m/分とすることが好ましく、より好ましくは130~150m/分である。延伸倍率は1.40~1.70倍とすることが好ましく、より好ましくは1.50~1.65倍である。
【0053】
仮撚加工時の条件は、上記の態様1の場合と同様の理由により、仮撚温度は160~180℃とすることが好ましく、より好ましくは165~175℃である。
【0054】
次に、(ヘ)の工程としては、上記(ニ)(ホ)で得られたカチオン可染糸A2及びカチオン不染糸B2をともに流体ノズル12へ導き、流体ノズル12を用いて混繊交絡を施すことで、本発明の複合仮撚加工糸が得られる。混繊交絡時の条件としては、上記の態様1の場合と同様の理由により、エアー圧が1.0~3.0Mpaであることが好ましく、オーバーフィード率が3~10%であることが好ましい。
【0055】
態様2の製造方法の場合、混繊交絡を施す前つまり、流体ノズル12に導入するカチオン可染糸A2のトルク、捲縮率が以下に示すものであることが好ましい。
カチオン可染糸A2のトルクは0T/Mであることが好ましい。また、捲縮率は0~3%であることが好ましい。態様2の製造方法の場合、カチオン可染糸A2は熱セット工程を経ることで、トルク及び捲縮性がほとんど現れないものとなる。
【0056】
一方、態様2の製造方法の場合、混繊交絡を施す前つまり、流体ノズル12に導入するカチオン可染糸B2のトルク、捲縮率が以下に示すものであることが好ましい。
カチオン可染糸B2のトルクは10T/M以上であることが好ましく、100T/M以上がより好ましく、130T/M以上が特に好ましい。なお、上限値は特に限定するものではないが、混繊交絡処理後に得られる複合糸のトルクや捲縮率を好適な範囲にするのに応じて適宜変更すればよい。また、捲縮率は45~65%であることが好ましく、45~60%であることがより好ましい。捲縮率が45%未満であると、織編物にした場合、ストレッチ性が十分でないためフクラミ感に劣り、生地が平たく風合の硬いものとなる。一方、65%を超えると捲縮が強すぎるために、織編物にした場合、ストレッチ性が強くなり過ぎて剛直なものとなり、ドレープ性に劣る。さらに杢調が緻密になり過ぎてしまい、ナチュラルな杢調を発現することができず高級感に劣る。カチオン可染糸B2のトルク及び捲縮率をこのような範囲とするために、例えば仮撚加工時の仮撚温度を上記の特定の範囲とすることができる。
【0057】
次に本発明の織編物(以下、本発明織編物と称することがある)について述べる。
本発明織編物は、本発明複合糸を少なくとも一部に含有する織物、または編物である。本発明織編物中に含まれる本発明複合糸の含有量は特に限定されず、使用用途に合わせて適宜選択すればよいが、織編物の表面に色の濃淡が明瞭な杢調を発現させるという観点から、50質量%以上であることが好ましく、中でも70質量%以上であることが好ましく、更に好ましくは80質量%以上であり、100質量%であることが最も好ましい。
【0058】
また、本発明の織編物において、織編物の組織としては特に限定されず、用途に応じて組織を適宜設定すればよい。例えば、織物であれば、平織、綾織、朱子織、必要に応じて多重組織を採用すればよく、また、編物であれば、丸編の天竺、スムース、経編のトリコット、必要に応じて多重組織を採用すればよい。
【実施例0059】
以下、実施例によって本発明を詳しく説明する。但し、本発明は以下の実施例によって限定されるものではない。
【0060】
実施例に用いた供給糸(カチオン可染糸A・カチオン不染糸B)、得られた複合仮撚加工糸の特性値の測定方法、得られた織物の評価方法は以下のとおりである。
(a)繊度
流体ノズル12に導入する、混繊交絡を施す前のカチオン可染糸A及びBと、得られた複合仮撚加工糸を採取して、JIS L1013 8.3.1の規定に基づいて測定した。
(b)捲縮率
流体ノズル12に導入する、混繊交絡を施す前のカチオン可染糸A及びBと、得られた複合仮撚加工糸を採取して、以下の方法従って測定した。
枠周1.125mの検尺機を用いて巻き数5回で試料をカセ取りした後、カセを室温下フリー状態でスタンドに一昼夜吊り下げた。次に、カセに0.000147cN/dtexの荷重を掛けたまま沸水中に投入し30分間湿熱処理した。その後、カセを取り出し、水分を濾紙で軽く取り、室温下フリー状態で30分間放置した。そして、カセに0.000147cN/dtexの荷重及び0.00177cN/dex(軽重荷)を掛け、長さXを測定した。続いて、0.000147cN/dtexの荷重は掛けたまま、軽重荷に代えて0.044cN/dtexの荷重(重荷重)を掛け、長さYを測定した。その後、捲縮率(%)=(Y-X)/Y×100なる式に基づき、算出した。捲縮率の測定は、5本の試料ずつについて行い、それぞれの平均をその試料の捲縮率とした。
(c)トルク
流体ノズル12に導入する、混繊交絡を施す前のカチオン可染糸A及びBと、得られた複合仮撚加工糸を採取して、以下の方法従って測定した。
<トルクの測定方法>
試料(複合仮撚加工糸)約200cmを、地面に対して垂直に設置された試料台にV字状に吊り下げた。このとき、試料の両端は試料台の背面に渡され、V字の頂点は下端中心部の位置のピンに掛かっている状態であり、該ピンから100cm上部の位置で左右両側の糸の糸間距離が2cmとなるように試料を固定具で固定した。次に、試料両端それぞれに0.0294(cN/dtex)の荷重を吊り下げ、前記固定具を外すことで試料に荷重が掛かっている状態とした後、再度固定具で固定した。その後、V字の頂点(下端中心部)に0.00294(cN/dtex)の荷重を掛け、試料を前記固定具で固定したままピンから外してテンションフリーの状態とした。このとき、試料の残留トルクによる旋回が発生し、その旋回が静止するまで放置した。旋回が静止した後、その旋回数を検撚機にて測定し、この測定により得られた値をトルク数とした。
(d)交絡数
得られた複合仮撚加工糸を採取して、以下の方法従って測定した。
最上部にチャックを有し、その下1cmを原点として約100cmのスタンドスタンドを用意した。スケール上端のチャックに試料の一端をはさんだ後、試料を垂直に垂らし、試料下部に0.1cN/dtexの荷重を掛けて印間長50cmとして上下に印を付けた。次に、試料上部の印点に糸束を2分割する様にフックを挿入して、フックを下降させ、フックが糸の絡みによって停止した部分を交絡部とし、これを繰り返して印間長50cm間の交絡数を数えた。この方法で5回測定してその平均の交絡数を出し、下記式で得られたものを交絡数とした。
交絡数(個/m)=(平均交絡数/50cm)×2
【0061】
(e)編物の色調(L値)、色差ΔEの平均の値
得られた複合仮撚加工糸を用いて、前記の通りカチオン染料ブルー染色を施した筒編サンプルを作成し、分光光度計(マクベス社製、CE-3100)を用いて測定した。
色調(L値)は筒編サンプル表面の任意の10点における値の平均値とした。
色差ΔEの平均の値は、前記に従い、基準とする任意の1点と、別の任意の1点の色調から算出した色差ΔE(10点分)の平均値とした。
(f)ΔEの最大値と最小値の差
前記の通りに算出した。
(g)杢の明瞭さ
実施例及び比較例で得られた編物の杢の明瞭さについて、以下の基準で目視による評価を行った。
◎:色の濃淡が非常に明瞭
○:やや明瞭
△:やや明瞭さに欠ける
×:不明瞭
(h)ふくらみ感
実施例及び比較例で得られた編物に対し、触感により、フクラミ感を下記の基準で評価した。
◎:フクラミ感に非常に富む
○:ややフクラミ感じられる
△:ややフクラミ感に欠ける
×:フクラミ感がない
【0062】
実施例1
供給糸Xとして、エチレンテレフタレートを主たる繰り返し単位とし、酸成分として5-ナトリウムスルホイソフタル酸を1.5モル%共重合した共重合ポリエステルを紡糸して得られた250dtex/48フィラメント、伸度127%のカチオン可染性ポリエステル高配向未延伸糸(糸条a1)を、供給糸Yとして、125dtex/36フィラメント、伸度150%のカチオン不染ポリエステル高配向未延伸糸(糸条b1)を用意した。図1の工程に従い、表1に示す条件で糸条a1には熱延伸加工及び仮撚加工(S方向)を行い、カチオン可染糸A(トルク:S―54)を得た。一方、糸条b1には熱延伸加工、仮撚加工(Z方向)及び熱セット加工を行い、カチオン不染糸B(トルク:0)を得た。その後、カチオン可染糸Aとカチオン不染糸Bを流体ノズル(ヘバーライン社製インターレースノズル:P-212、実施例2~6及び比較例1~8についても同じ流体ノズルを使用した)で混繊交絡し、総繊度288dtexのS撚りを有する複合仮撚加工糸を得た。
【0063】
次に得られた複合仮撚加工糸のみを使用し、英光産業社製の筒編機(釜径:3.5インチ、針本数:260N)を用いて筒編地(30cm程度)を作成した後、以下の条件で精練、染色を行った。得られた筒編地表面の任意の10点に対して、色彩色差計(マクベス社製分光光度計 CE-3100)を用いて色差ΔEを測定した。
(精練条件)
・精練剤:サンモールFL(日華化学製)1g/l
・温度×時間:80℃×20分
(染色条件)
・染料:AiZen Cathilon Blue CD-F2RLH(日成化成社製) 1%o.m.f
・助剤:酢酸 0.2cc/l
・温度×時間:130℃×30分
・浴比:1:30
【0064】
実施例2
図1の工程のうち、仮撚加工工程で糸条a1にZ方向の撚りを掛けてZ撚りを有するカチオン可染糸A(トルク:Z―54)を得たことと、仮撚加工工程で糸条b1にS方向の撚りを掛けた後熱セット加工を行い、トルクを有さないカチオン不染糸B(トルク:0)を得たこと以外は実施例1と同様にして、総繊度288dtexのZ撚りを有する複合仮撚加工糸を得た。
次いで、実施例1と同様にして精練、染色を行った筒編地を得た後、筒編地表面の任意の10点に対して色差ΔEを測定した。
【0065】
実施例3
供給糸Yとして糸条a1を、供給糸Xとして糸条b1を用意した。図1の工程に従い、表1に示す条件で糸条a1には熱延伸加工、仮撚加工(S方向)及び熱セット加工を行い、カチオン可染糸A(トルク:0)を得た。一方、糸条b1には熱延伸加工及び仮撚加工(Z方向)を行い、カチオン不染糸B(トルク:Z―140)を得た。その後、カチオン可染糸Aとカチオン不染糸Bを流体ノズルで混繊交絡し、総繊度288dtexのZ撚りを有する複合仮撚加工糸を得た。
次いで、実施例1と同様にして精練、染色を行った筒編地を得た後、筒編地表面の任意の10点に対して色差ΔEを測定した。
【0066】
実施例4
供給糸Xとして、エチレンテレフタレートを主たる繰り返し単位とし、酸成分として5-ナトリウムスルホイソフタル酸を1.5モル%共重合した共重合ポリエステルを紡糸して得られた125dtex/36フィラメント、伸度87%のカチオン可染性ポリエステル高配向未延伸糸(糸条a2)を、供給糸Yとして、80dtex/36フィラメント、伸度183%のカチオン不染ポリエステル高配向未延伸糸(糸条b2)を用意した。図1の工程に従い、表1に示す条件で糸条a2には熱延伸加工及び仮撚加工(S方向)を行い、カチオン可染糸A(トルク:S―80)を得た。一方、糸条b1には熱延伸加工、仮撚加工(Z方向)及び熱セット加工を行い、カチオン不染糸B(トルク:0)を得た。その後、カチオン可染糸Aとカチオン不染糸Bを流体ノズルで混繊交絡し、総繊度158dtexのS撚りを有する複合仮撚加工糸を得た。
次いで、実施例1と同様にして編地を得た後、染色を行い、色差ΔEを測定した。
【0067】
実施例5
図1の工程のうち、仮撚加工工程で糸条a2にZ方向の撚りを掛けてZ撚りを有するカチオン可染糸A(トルク:Z―80)を得たことと、仮撚加工工程で糸条b2にS方向の撚りを掛けた後熱セット加工を行い、トルクを有さないカチオン不染糸B(トルク:0)を得たこと以外は実施例4と同様にして、総繊度158dtexのZ撚りを有する複合仮撚加工糸を得た。
次いで、実施例1と同様にして精練、染色を行った筒編地を得た後、筒編地表面の任意の10点に対して色差ΔEを測定した。
【0068】
実施例6
供給糸Yとして糸条a2を、供給糸Xとして糸条b2を用意した。図1の工程に従い、表1に示す条件で糸条a2には熱延伸加工、仮撚加工(S方向)及び熱セット加工を行い、カチオン可染糸A(トルク:0)を得た。一方、糸条b2には熱延伸加工及び仮撚加工(Z方向)を行い、カチオン不染糸B(トルク:Z―151)を得た。その後、カチオン可染糸Aとカチオン不染糸Bを流体ノズルで混繊交絡し、総繊度153dtexのZ撚りを有する複合仮撚加工糸を得た。
次いで、実施例1と同様にして精練、染色を行った筒編地を得た後、筒編地表面の任意の10点に対して色差ΔEを測定した。
【0069】
比較例1
供給糸Xとして、エチレンテレフタレートを主たる繰り返し単位とし、酸成分として5-ナトリウムスルホイソフタル酸を1.5モル%共重合した共重合ポリエステルを紡糸して得られた250dtex/48フィラメント、伸度154%のカチオン可染性ポリエステル高配向未延伸糸(糸条a3)を、供給糸Yとして、125dtex/36フィラメント、伸度256%のカチオン不染ポリエステル高配向未延伸糸(糸条b3)を用意した。図2の工程に従い、表1に示す条件で糸条a3には熱延伸加工及び仮撚加工(S方向)を行い、カチオン可染糸A(トルク:S―54)を得た。一方、糸条b3には熱延伸加工及び仮撚加工(Z方向)を行い、カチオン不染糸B(トルク:Z―140)を得た。その後、カチオン可染糸Aとカチオン不染糸Bを流体ノズルで混繊交絡し、総繊度275dtexのトルクを有さない複合仮撚加工糸(トルク:0)を得た。
次いで、実施例1と同様にして精練、染色を行った筒編地を得た後、筒編地表面の任意の10点に対して色差ΔEを測定した。
【0070】
比較例2
供給糸Xとして糸条a3を、供給糸Yとして糸条b3を用意した。図3の工程に従い、表1に示す条件で糸条a3には熱延伸加工、仮撚加工(S方向)及び熱セット加工を行い、カチオン可染糸A(トルク:S―0)を得た。一方、糸条b3には熱延伸加工、仮撚加工(Z方向)及び熱セット加工を行い、カチオン不染糸B(トルク:Z―0)を得た。その後、カチオン可染糸Aとカチオン不染糸Bを流体ノズルで混繊交絡し、総繊度285dtexのトルクを有さない複合仮撚加工糸(トルク:0)を得た。
次いで、実施例1と同様にして精練、染色を行った筒編地を得た後、筒編地表面の任意の10点に対して色差ΔEを測定した。
【0071】
比較例3
供給糸Xとして、エチレンテレフタレートを主たる繰り返し単位とし、酸成分として5-ナトリウムスルホイソフタル酸を1.5モル%共重合した共重合ポリエステルを紡糸して得られた2125dtex/36フィラメント、伸度87%のカチオン可染性ポリエステル高配向未延伸糸(糸条a4)を、供給糸Yとして、80dtex/36フィラメント、伸度183%のカチオン不染ポリエステル高配向未延伸糸(糸条b4)を用意した。図1の工程に従い、表1に示す条件で糸条a4には熱延伸加工及び仮撚加工(S方向)を行い、カチオン可染糸A(トルク:S―80)を得た。一方、糸条b4には熱延伸加工及び仮撚加工(Z方向)を行い、カチオン不染糸B(トルク:Z―151)を得た。その後、カチオン可染糸Aとカチオン不染糸Bを流体ノズルで混繊交絡し、総繊度151dtexのトルクを有さない複合仮撚加工糸(トルク:0)を得た。
次いで、実施例1と同様にして精練、染色を行った筒編地を得た後、筒編地表面の任意の10点に対して色差ΔEを測定した。
【0072】
比較例4
供給糸Xとして糸条a4を、供給糸Yとして糸条b4を用意した。図3の工程に従い、表1に示す条件で糸条a4には熱延伸加工、仮撚加工(S方向)及び熱セット加工を行い、カチオン可染糸A(トルク:S―0)を得た。一方、糸条b4には熱延伸加工、仮撚加工(Z方向)及び熱セット加工を行い、カチオン不染糸B(トルク:Z―0)を得た。その後、カチオン可染糸Aとカチオン不染糸Bを流体ノズルで混繊交絡し、総繊度155dtexのトルクを有さない複合仮撚加工糸(トルク:0)を得た。
次いで、実施例1と同様にして精練、染色を行った筒編地を得た後、筒編地表面の任意の10点に対して色差ΔEを測定した。
【0073】
比較例5
供給糸Xとして糸条a3を、供給糸Yとして糸条b3を用意し、エアー圧を変更(4Mpa)した以外は、実施例1と同様にして総繊度285dtexのS撚りを有する複合仮撚加工糸を得た。
次いで、実施例1と同様にして編地を得た後、染色を行い、色差ΔEを測定した。
【0074】
比較例6
供給糸Xとして糸条a3を、供給糸Yとして糸条b3を用意し、エアー圧(0.5Mpa)を変更した以外は、実施例1と同様にして、総繊度280dtexのS撚りを有する複合仮撚加工糸を得た。
次いで、実施例1と同様にして編地を得た後、染色を行い、色差ΔEを測定した。
【0075】
比較例7
供給糸Xとして糸条a3を、供給糸Yとして糸条b3を用意し、仮撚ヒータ温度(200℃)及び熱処理ヒータ温度(180℃)を変更した以外は、実施例1と同様にして、総繊度288dtexのS撚りを有する複合仮撚加工糸を得た。
次いで、実施例1と同様にして編地を得た後、染色を行い、色差ΔEを測定した。
【0076】
比較例8
供給糸Xとして糸条a3を、供給糸Yとして糸条b3を用意し、仮撚ヒータ温度(150℃)及び熱処理ヒータ温度(180℃)を変更した以外は、実施例1と同様にして、総繊度288dtexのS撚りを有する複合仮撚加工糸を得た。
次いで、実施例1と同様にして編地を得た後、染色を行い、色差ΔEを測定した。
【0077】
実施例及び比較例の複合仮撚加工糸及び編物の評価結果を表1に表す。
【表1】
【0078】
表1から明らかなように、実施例1~6の複合仮撚加工糸は、上記の態様1又は態様2の製造方法により得られ、上記した特定範囲の捲縮率、トルク及び交絡数を有するものであった。そのため、該複合仮撚加工糸を用いて得られた編物はフクラミ感に富み、梳毛調の風合いを有するものであった。また、染色を施した編物は、ΔEの最大値と最小値の差が大きく、可染部と不染部との色差が明瞭でメリハリのある杢調を有していた。
【0079】
一方、比較例1及び3では、製造過程において供給糸X及びYのどちらにも熱セット加工を施さず、カチオン可染糸Aとカチオン不染糸Bのどちらもがトルクを有する状態で混繊交絡したため、混繊交絡により得られた複合仮撚加工糸は捲縮率が上記した特定範囲よりも高く、トルクを有さないものであった。そのため、該複合仮撚加工糸を用いて得られた編物は、フクラミ感に欠け、梳毛調の風合いにも劣るものであった。また、杢調も色の濃淡が明瞭でなく、ぼやけた印象を有するものであった。
【0080】
比較例2及び4では、製造過程において供給糸X及びYのどちらにも熱セット加工を施し、カチオン可染糸Aとカチオン不染糸Bのどちらもがトルクを有さない状態で混繊交絡したため、混繊交絡して得られた複合仮撚加工糸は捲縮率が上記した特定範囲よりも低く、またトルクを有さないものであった。そのため、該複合仮撚加工糸を用いて得られた編物は、フクラミ感に欠け、梳毛調の風合いにも劣るものであった。また、杢調も色の濃淡が明瞭でなく、ぼやけた印象を有するものであった。
【0081】
比較例5では、得られた複合仮撚加工糸の交絡数が上記した特定範囲よりも多く、カチオン可染糸Aとカチオン不染糸Bが強固に絡まりすぎるものであった。そのため、該複合仮撚加工糸を用いて得られた編物は、フクラミ感に欠け、硬い風合いでドレープ性にも劣るものであった。また、杢調も緻密なものとなり、色の濃淡が明瞭でなくナチュラルでない印象を有するものであった。
【0082】
比較例6では、得られた複合仮撚加工糸の交絡数が上記した特定範囲よりも少なく、カチオン可染糸Aとカチオン不染糸Bとの絡まりが弱いものであった。そのため、該複合仮撚加工糸を用いて得られた編物は、フクラミ感に欠けていた。また、杢調も色の濃淡が明瞭でなく、ぼやけた印象を有するものであった。
【0083】
比較例7では、得られた複合仮撚加工糸のトルク及び捲縮率が上記した特定範囲よりも多いものであった。そのため、該複合仮撚加工糸を用いて得られた編物は、ストレッチ性が強くなりすぎてフクラミ感にやや劣り、硬い風合いでドレープ性にも欠けていた。また、杢調も緻密なものとなり、色の濃淡が明瞭でなくナチュラルでない印象を有するものであった。
【0084】
比較例8では、得られた複合仮撚加工糸のトルク及び捲縮率が上記した特定範囲よりも少ないものであった。そのため、該複合仮撚加工糸を用いて得られた編物は、フクラミ感にやや劣った平たいものであり、梳毛調の風合いに劣るものであった。また、杢調も色の濃淡が明瞭でなく、ぼやけた印象を有するものであった。
【符号の説明】
【0085】
X 供給糸
Y 供給糸
1、6 第1供給ローラ
2、7 仮撚ヒータ
3、8 仮撚付与装置
4、9 第1引取ローラ
5、11 第2引取ローラ
10 熱処理ヒータ
12 交絡付与装置
13 第3引取ローラ
14 巻取ローラ
15 仮撚糸のパッケージ
図1
図2
図3