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特開2022-152984オーディオミキサ及び音響信号の処理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022152984
(43)【公開日】2022-10-12
(54)【発明の名称】オーディオミキサ及び音響信号の処理方法
(51)【国際特許分類】
   H04R 3/00 20060101AFI20221004BHJP
【FI】
H04R3/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021055969
(22)【出願日】2021-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000004075
【氏名又は名称】ヤマハ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000154
【氏名又は名称】弁理士法人はるか国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大橋 紀幸
(72)【発明者】
【氏名】神谷 俊一
(72)【発明者】
【氏名】今井 新
【テーマコード(参考)】
5D220
【Fターム(参考)】
5D220EE27
(57)【要約】
【課題】各チャンネルの3次元空間内での定位位置をユーザが容易に指定できるオーディオミキサ及び音響信号の処理方法を提供する。
【解決手段】オーディオミキサであって、各チャンネルについて、左右方向の位置を示す第1パラメータと、頭内定位と頭外定位の少なくとも一方を指定する第2パラメータとを供給するユーザインタフェース、各チャンネルの音響信号を第1パラメータに応じてパンニングし、複数の第1ステレオ信号を生成するパンナー、複数チャンネルのうちの第2パラメータが頭外定位を指定する1以上のチャンネルの第1ステレオ信号を混合し、第2ステレオ信号を生成する第1加算器、第2ステレオ信号に対して3次元定位処理を施し、第3ステレオ信号を生成する定位処理部、頭内定位を指定するチャンネルの第1ステレオ信号と第3ステレオ信号を混合して第4ステレオ信号を生成する第2加算器、第4ステレオ信号を出力する出力回路、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数チャンネルのうちの各チャンネルについて、オペレータによる操作に応じて、左右方向の位置を示す第1パラメータと、頭内定位と頭外定位の少なくとも一方を指定する第2パラメータとを供給するユーザインタフェースと、
前記各チャンネルの音響信号を前記第1パラメータに応じてパンニングして、前記複数チャンネルの複数の第1ステレオ信号を生成するパンナーと、
前記複数チャンネルのうちの前記第2パラメータが頭外定位を指定する1以上のチャンネルの前記第1ステレオ信号を混合して、1の第2ステレオ信号を生成する第1加算器と、
前記第2ステレオ信号に対して3次元定位処理を施して、2の第3ステレオ信号を生成する定位処理部と、
前記複数チャンネルのうちの前記第2パラメータが頭内定位を指定する1以上のチャンネルの前記第1ステレオ信号と前記2の第3ステレオ信号とを混合して第4ステレオ信号を生成する第2加算器と、
前記第4ステレオ信号を出力する出力回路と、
を備えるオーディオミキサ。
【請求項2】
前記第2加算器は、
前記複数チャンネルのうちの前記第2パラメータが頭内定位を指定する1以上のチャンネルの前記第1ステレオ信号を混合して、1の第5ステレオ信号を生成する第3加算器と、
前記2の第3ステレオ信号と前記第5ステレオ信号を混合して、前記第4ステレオ信号を生成する第4加算器と、
を備える、
請求項1に記載のオーディオミキサ。
【請求項3】
前記第2パラメータは、前記チャンネルごとに、前記第1ステレオ信号を前記第1加算器と前記第2加算器の何れに入力するかを指定する請求項1または2に記載のオーディオミキサ。
【請求項4】
前記第2パラメータは、前記チャンネルごとに、前記第1ステレオ信号を前記第1加算器と前記第2加算器へ入力する際の両者のレベルバランスを指定する請求項1または2に記載のオーディオミキサ。
【請求項5】
前記第1ステレオ信号と前記1以上の第3ステレオ信号とが混合される際の混合比は、予め設定された比率である、請求項1から4のいずれかに記載のオーディオミキサ。
【請求項6】
前記定位処理部は、前記第2ステレオ信号に含まれる右チャンネル信号及び左チャンネル信号のそれぞれに対して3次元定位処理を施して、2の前記第3ステレオ信号を生成する、請求項1から5のいずれかに記載のオーディオミキサ。
【請求項7】
前記第2加算器は、
該2の第3ステレオ信号を混合して1の第3ステレオ混合信号を生成する第5加算器と、
前記複数チャンネルのうちの前記第2パラメータが頭内定位を指定する1以上のチャンネルの前記第1ステレオ信号と前記第3ステレオ混合信号とを混合して前記第4ステレオ信号を生成する第6加算器と、
を備える、
請求項6に記載のオーディオミキサ。
【請求項8】
複数チャンネルのうちの各チャンネルについて、オペレータによる操作に応じて、左右方向の位置を示す第1パラメータと、頭内定位と頭外定位の少なくとも一方を指定する第2パラメータとを供給し、
前記各チャンネルの音響信号を前記第1パラメータに応じてパンニングして、前記複数チャンネルの複数の第1ステレオ信号を生成し、
前記複数チャンネルのうちの前記第2パラメータが頭外定位を指定する1以上のチャンネルの前記第1ステレオ信号を混合して、1の第2ステレオ信号を生成し、
前記第2ステレオ信号に対して3次元定位処理を施して、2の第3ステレオ信号を生成し、
前記複数チャンネルのうちの前記第2パラメータが頭内定位を指定する1以上のチャンネルの前記第1ステレオ信号と前記2の第3ステレオ信号とを混合して第4ステレオ信号を生成し、
前記第4ステレオ信号を出力する、
音響信号の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音響信号を混合するオーディオミキサ及びそのオーディオミキサにおける音響信号の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ステージでの演奏時に、各演奏者が、複数の音響信号がミックスされた演奏音をイヤホンやヘッドホンによってモニタすることが行われている。コンテンツ制作においては、製作者が、ヘッドホンでの鑑賞者用に、各音響信号に対して頭内定位処理、頭外定位処理(以下、3次元定位処理とも呼称する)を施す場合がある(下記特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009-188450号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来、ステージでの演奏のモニタ用途では、頭外定位処理は殆ど使用されていない。頭外定位処理は、頭部の形で決定される特性を関数で表した頭部伝達関数(HRTF: Head Related Transfer Function)と一般に呼ばれる伝達関数を用いて行われる。通常の頭外定位処理は、まず複数の入力チャンネルに入力される各音響信号を複数グループに分けて混合した上で、頭部伝達関数を用いて、得られた各グループの混合信号を3次元空間内の所望の位置に定位する。これをそのままステージでのモニタに用いようとすると、当該処理には設定すべきパラメータが多く、ミキサのオペレータは、各チャンネルの音響信号が何処に定位しているかを把握しにくいという問題があった。また、頭外定位処理を行わない場合と行う場合とでオーディオミキサの操作方法の相違が大きく、オペレータには扱い辛いという問題があった。
【0005】
本開示は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、各チャンネルの3次元空間内での定位位置を、ミキサのオペレータが容易に指定できるオーディオミキサ及び音響信号の処理方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に係るオーディオミキサは、複数チャンネルのうちの各チャンネルについて、オペレータによる操作に応じて、左右方向の位置を示す第1パラメータと、頭内定位と頭外定位の少なくとも一方を指定する第2パラメータとを供給するユーザインタフェースと、前記各チャンネルの音響信号を前記第1パラメータに応じてパンニングして、前記複数チャンネルの複数の第1ステレオ信号を生成するパンナーと、前記複数チャンネルのうちの前記第2パラメータが頭外定位を指定する1以上のチャンネルの前記第1ステレオ信号を混合して、1の第2ステレオ信号を生成する第1加算器と、前記第2ステレオ信号に対して3次元定位処理を施して、2の第3ステレオ信号を生成する定位処理部と、前記複数チャンネルのうちの前記第2パラメータが頭内定位を指定する1以上のチャンネルの前記第1ステレオ信号と前記2の第3ステレオ信号とを混合して第4ステレオ信号を生成する第2加算器と、前記第4ステレオ信号を出力する出力回路と、を備える。
【0007】
本開示に係る音響信号の処理方法は、複数チャンネルのうちの各チャンネルについて、オペレータによる操作に応じて、左右方向の位置を示す第1パラメータと、頭内定位と頭外定位の少なくとも一方を指定する第2パラメータとを供給し、前記各チャンネルの音響信号を前記第1パラメータに応じてパンニングして、前記複数チャンネルの複数の第1ステレオ信号を生成し、前記複数チャンネルのうちの前記第2パラメータが頭外定位を指定する1以上のチャンネルの前記第1ステレオ信号を混合して、1の第2ステレオ信号を生成し、前記第2ステレオ信号に対して3次元定位処理を施して、2の第3ステレオ信号を生成し、前記複数チャンネルのうちの前記第2パラメータが頭内定位を指定する1以上のチャンネルの前記第1ステレオ信号と前記2の第3ステレオ信号とを混合して第4ステレオ信号を生成し、前記第4ステレオ信号を出力する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は第1の実施形態に係るモニタシステムのブロック図である。
図2図2は操作パネルの一例を示す模式図である。
図3図3は入力チャンネル及びミックスチャンネルの機能ブロック図である。
図4図4はチャンネルごとの音像定位の位置関係を模式的に示す図である。
図5図5は第2の実施形態に係るオーディオミキサのブロック図である。
図6図6は第5加算器及び第6加算器を備える場合におけるオーディオミキサのブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[第1の実施形態]
第1の実施形態について、図面を用いて以下に説明する。図1は第1の実施形態に係るオーディオミキサを含むモニタシステム100のブロック図である。図1に示すように、モニタシステム100は、オーディオミキサとインイヤモニタ102を含む。オーディオミキサは、ユーザインタフェース104、入力チャンネル106及びミックスチャンネル108、第1加算器110、定位処理部112、第2加算器114、出力回路116、トランスミッター118を含む。演奏者は、インイヤモニタ102の代わりに、ヘッドホンを用いてモニタしても良い。
【0010】
ユーザインタフェース104は、複数チャンネルのうちの各チャンネルについて、オペレータから、左右方向の位置を示す第1パラメータと、頭内定位と頭外定位の少なくとも一方を指定する第2パラメータとを受け取る。具体的には、例えば、図2に示すオーディオミキサのユーザインタフェース104である操作パネルの一例を示す模式図を用いて説明する。
【0011】
ユーザインタフェース104は、各入力チャンネル106及び各ミックスチャンネル108に対応する複数のチャンネルストリップ202を備える。各チャンネルストリップ202は、複数のコントロール(操作子とも呼称する)を備え、図2では各チャンネルストリップ202が第1コントロール104Aから第3コントロール104Cを備える例を示している。各コントロールは、オーディオミキサに対する操作を受け付けるための種々のキー、ボタン、ロータリーエンコーダ、スライダ等である。
【0012】
第1コントロール104Aは、各チャンネルについて、オペレータから、左右方向の位置を示す第1パラメータを受け取る。例えば、第1コントロール104Aは、ノブやロータリーエンコーダである。オペレータは、所望する左右方向の定位位置に応じて第1コントロール104Aに対して回転操作を行う。第1コントロール104Aは、当該操作を受け付けることにより、ノブやロータリーエンコーダの角度に応じた第1パラメータを供給する。
【0013】
第2コントロール104Bは、頭内定位と頭外定位の少なくとも一方を指定する第2パラメータを受け取る。具体的には、例えば、第2コントロール104Bはスイッチである。オペレータは、各入力チャンネル106のスイッチに対して、所望する頭内定位または頭外定位のいずれか一方に応じた切り替え操作を行う。第2コントロール104Bは、当該操作を受け付けることにより、チャンネルごとに、第1ステレオ信号を第1加算器110と第2加算器114の何れに入力するかを指定する第2パラメータを供給する。例えば図1では、第1入力チャンネル106A、第2入力チャンネル106B及び第4入力チャンネル106Dに対応する第2コントロール104Bは、いずれも頭外定位を表す第2パラメータを供給している。また、第3入力チャンネル106C及び第5入力チャンネル106Eに対応する第2コントロール104Bは、いずれも頭内定位を表す第2パラメータを供給している。
【0014】
なお、第2パラメータは、入力チャンネル106ごとに、第1ステレオ信号を第1加算器110と第2加算器114へ入力する際の両者のレベルバランスを指定するものであってもよい。例えば、第2コントロール104Bはノブであって、ノブのマーカの指し示す位置がレベルバランスと対応していてもよい。具体的には、ノブのマーカの指し示す位置が中央である場合には、第1ステレオ信号は5:5の比率で第1加算器110と第2加算器114に入力されてもよい。また、ノブのマーカの指し示す位置が左側から3割の位置にある場合には、第1ステレオ信号は3:7の比率で第1加算器110と第2加算器114に入力されてもよい。
【0015】
第3コントロール104Cは、オペレータから、各チャンネルのボリュームを示す第3パラメータを受け取る。具体的には、例えば、第3コントロール104Cはスライダである。オペレータは、スライダに対して、所望するボリュームに応じたスライド操作を行う。第3コントロール104Cは、当該操作を受け付けることにより、ボリュームを表す第3パラメータを供給する。
【0016】
なお、各チャンネルストリップ202に含まれるコントロールの数は3個に限られず、少なくとも第1コントロール104Aと第2コントロール104Bを含んでいれば、2個であってもよいし4個以上であってもよい。
【0017】
各入力チャンネル106及びミックスチャンネル108は、入力されたモノラル信号またはステレオ信号に対して、種々の信号処理を行った後、処理後のステレオ信号を出力する。ステレオ信号は、右チャンネル信号と左チャンネル信号とで構成される。具体的には、図3は、入力チャンネル106及びミックスチャンネル108の機能ブロック図である。図3に示すように、入力チャンネル106及びミックスチャンネル108は、コンプレッサー302、イコライザ304、フェーダ306及びパンナー308を含む。なお、ミックスチャンネル108は省略されてもよい。
【0018】
コンプレッサー302は、オペレータに指定されたスレッショルド及びレシオに応じて、入力された信号に対して、動的なレベル調整処理を行う。イコライザ304は、コンプレッサー302が処理した信号に対して、オペレータに指定された周波数域の増幅及び減衰処理を行う。フェーダ306は、イコライザ304が出力した処理に対して、第3パラメータに応じて、ボリュームの調整処理を行う。パンナー308は、フェーダ306が処理した信号に対して、第1パラメータに応じたパンニング処理を施して、第1ステレオ信号を生成する。
【0019】
ここで、入力チャンネル106は複数である。入力チャンネル106に入力される音響信号の数に応じて、複数の第1ステレオ信号が生成される。そして、複数の第1ステレオ信号は、入力チャンネル106ごとに第2パラメータに応じて、第1加算器110または第2加算器114に出力される。
【0020】
例えば、図1では、入力チャンネル106は、第1入力チャンネル106Aから第5入力チャンネル106Eまでの5個の入力チャンネル106を含む。各入力チャンネル106には、例えば、キック、スネア、ベース、ギター及びマイクから送信された音響信号が入力される。上記例では、第1入力チャンネル106A、第2入力チャンネル106B及び第4入力チャンネル106Dの第2コントロール104Bはいずれも頭外定位を表す第2パラメータを受け取っている。そのため、第1入力チャンネル106A、第2入力チャンネル106B及び第4入力チャンネル106Dに入力された音響信号は、各入力チャンネル106に対応する第1パラメータに応じた左右定位処理が施された後、第1加算器110に出力される。一方、第3入力チャンネル106C及び第5入力チャンネル106Eの第2コントロール104Bはいずれも頭内定位を表す第2パラメータを受け取っている。そのため、第3入力チャンネル106C及び第5入力チャンネル106Eに入力された音響信号は、各入力チャンネル106に対応する第1パラメータに応じた左右定位処理が施された後、第2加算器114に出力される。
【0021】
第1加算器110は、複数チャンネルのうちの第2パラメータが頭外定位を指定する1以上のチャンネルの第1ステレオ信号を混合して、1の第2ステレオ信号を生成する。具体的には、例えば、第1加算器110は、ミキシングバス、ステレオバス、マトリクスバス等の何れのバスであってもよく、複数の入力チャンネル106から入力された信号を混合する。ここで、バスとは、複数の音響信号を受け取り、それら音響信号の混合結果を出力する、オーディオミキサの1つの構成要素である。ステレオ構成のバスは、右チャンネルの音響信号の混合と左チャンネルの音響信号の混合とを独立して行い、右チャンネルの混合結果の1の音響信号と、左チャンネルの混合結果の1の音響信号とを出力する。上記例では、第1加算器110は、第1入力チャンネル106A、第2入力チャンネル106B及び第4入力チャンネル106Dが出力した第1ステレオ信号を混合して、1の第2ステレオ信号を生成する。当該第2ステレオ信号は、ミックスチャンネル108に出力される。ミックスチャンネル108は、当該第2ステレオ信号に対して、種々の信号処理を行った後、処理後の第2ステレオ信号を定位処理部112に出力する。
【0022】
定位処理部112は、第2ステレオ信号に対して3次元定位処理を施して、2の第3ステレオ信号を生成する。定位処理部112は、第2ステレオ信号に含まれる右チャンネル信号及び左チャンネル信号のそれぞれに対して3次元定位処理を施して、2の第3ステレオ信号を生成する。具体的には、定位処理部112は、右チャンネル信号用の所定の頭部伝達関数係数と第2ステレオ信号に含まれる右チャンネル信号を畳み込み演算し、右チャンネルの仮想定位位置から聴取者の両耳へ到来する音の伝達特性を付与することで、右チャンネルに関する第3ステレオ信号を生成する。定位処理部112は、左チャンネル信号に対しても同様の処理を行い、左チャンネルに関する第3ステレオ信号を生成する。生成された2の第3ステレオ信号は、第2加算器114に含まれる第4加算器122に出力される。
【0023】
ここで、予め用意された頭部伝達関数係数を用いることにより、オペレータが複雑な定位処理に係る操作を行うことなく3次元定位処理を行える。しかしながら、オペレータが定位処理に係る種々のパラメータの設定操作を行うことにより、適宜用途に応じた3次元定位処理が施されてもよい。
【0024】
図1では、右チャンネル信号から生成された右チャンネルに関する第3ステレオ信号と、左チャンネル信号から生成された左チャンネルに関する第3ステレオ信号と、の2の第3ステレオ信号(合計4の信号)が定位処理部112から第2加算器114に出力される例である。しかしながら、右チャンネルに関する第3ステレオ信号と、左チャンネルに関する第3ステレオ信号とは、後述する第2加算器で右チャンネル同士、および左チャンネル同士でそれぞれ加算される信号である。そこで、定位処理部112は、その内部において、生成された2の第3ステレオ信号の右チャンネル信号同士と左チャンネル信号同士とをそれぞれ混合して、その混合結果のステレオ信号を1の第3ステレオ混合信号として出力してもよい。この場合、定位処理部112のその混合処理は、後述する第4加算器(第2加算器の一部)の加算処理の一部(第5加算器602)と見做される。
【0025】
具体的には、定位処理部112は、生成された右チャンネルに関する第3ステレオ信号の右チャンネル信号と、生成された左チャンネルに関する第3ステレオ信号の右チャンネル信号と、を混合して単一の右チャンネル信号を生成する。同様に、定位処理部112は、生成された右チャンネルに関する第3ステレオ信号の左チャンネル信号と、生成された左チャンネルに関する第3ステレオ信号の左チャンネル信号と、を混合して単一の左チャンネル信号を生成する。定位処理部112は、当該単一ペアのステレオ信号を、第3ステレオ混合信号として第4加算器122に出力する(図6参照)。
【0026】
第2加算器114は、複数チャンネルのうちの第2パラメータが頭内定位を指定する1以上のチャンネルの第1ステレオ信号と2の第3ステレオ信号とを混合して第4ステレオ信号を生成する。具体的には、例えば、図1に示すように第2加算器114は、第3加算器120と第4加算器122とを含む。第3加算器120及び第4加算器122は、ミキシングバス、ステレオバス、マトリクスバス等の何れかのバスであってもよく、バスではない加算器であってよい。第3加算器120は、複数チャンネルのうちの第2パラメータが頭内定位を指定する1以上のチャンネルの第1ステレオ信号を混合して、1の第5ステレオ信号を生成する。上記例では、第3加算器120は、第3入力チャンネル106C及び第5入力チャンネル106Eが出力した第1ステレオ信号を混合して、第5ステレオ信号を生成する。第4加算器122は、定位処理部112から取得した2の第3ステレオ信号と、第3加算器120から取得した1の第5ステレオ信号を混合して、1の第4ステレオ信号を生成する。第2加算器114は、生成した第4ステレオ信号を出力回路116に出力する。
【0027】
なお、第1ステレオ信号と2の第3ステレオ信号とが混合される際の混合比は、予め設定された比率であることが望ましい。例えば、第4加算器122は、第3ステレオ信号と第5ステレオ信号を1:1の混合比で混合する。所定の混合比を使うことで、オペレータの操作が削減される。なお、混合比は1:1に限られず他の比率でもよいし、用途に応じて適宜設定可能でもよい。
【0028】
また、定位処理部112が第5加算器602を含む構成の場合は、定位処理部112から第6加算器604に対して前記第3ステレオ混合信号が供給される。この場合、第2加算器114は、複数チャンネルのうちの第2パラメータが頭内定位を指定する1以上のチャンネルの第1ステレオ信号と前記第3ステレオ混合信号とを混合して第4ステレオ信号を生成する第6加算器604として動作する。そして、第2加算器114は、第6加算器604と定位処理部112の第5加算器602とを含む。
【0029】
出力回路116は、第4ステレオ信号を出力する。具体的には、出力回路116は、第4加算器122から出力された第4ステレオ信号に対して、必要に応じてレベル調整や周波数特性調整等の種々の信号処理を施し、トランスミッター118に出力する。トランスミッター118は、出力回路116が出力した第4ステレオ信号をインイヤモニタ102に無線で送信する。インイヤモニタ102に備えられたレシーバはトランスミッター118が送信した第4ステレオ信号を受信する。インイヤモニタ102は、受信した第4ステレオ信号に基づいて音を発する。これによりインイヤモニタ102を装着した演奏者(ボーカル等)は、一部の入力チャンネル106に入力された音響信号が頭外定位し、残りの入力チャンネル106に入力された音響信号が頭内定位する音を聞くことが出来る。
【0030】
なお、図1では、トランスミッター118及びインイヤモニタ102がそれぞれ1個だけ記載されているが、トランスミッター118及びインイヤモニタ102は、演奏者の人数に応じて複数設けられる。また、ライブ会場で客席向けに配置されたスピーカに対しては、客席向けに混合された複数の信号が、出力回路116から直接出力されてもよい。
【0031】
また、多数のインイヤモニタがある場合、第1加算器110及び第2加算器114は、出力先ごと(インイヤモニタ102ごと、または幾つかのインイヤモニタを含むグループごと)に設けられ、出力先に応じて異なる第4ステレオ信号を生成する処理が行われてもよい。具体的には、ユーザインタフェース104は、オペレータの選択した出力先を示すモードに応じて、チャンネルストリップ202の各コントロールで制御される各種パラメータを一括で切り替えてもよい。選択できるモードは、例えばギター奏者用モード、ボーカル用モード、ドラム奏者用モード等である。
【0032】
例えば、ギター奏者用モードが選択された場合、ギター奏者用モードと対応付けられた第1加算器110及び第2加算器114を経て生成された第4ステレオ信号が、ギター奏者のインイヤモニタ102に出力される。また、ボーカル用モードが選択された場合、ボーカル用モードと対応付けられた第1加算器110及び第2加算器114を経て生成された第4ステレオ信号が、ボーカルのインイヤモニタ102に出力される。
【0033】
以上説明したオーディオミキサは、ハードウェアで実現されてもよいし、ソフトウェアによって、パーソナルコンピュータ上で実現されてもよい。上記のようなオーディオミキサにより、各チャンネルの3次元空間内での定位位置を、オペレータが容易に指定できるモニタシステム100を構築できる。
【0034】
続いて、本開示に係る音響信号の処理方法について説明する。なお、第1入力チャンネル106Aから第5入力チャンネル106Eに入力された音響信号が、図4に示すような位置に定位させる場合について説明する。
【0035】
まず、ユーザインタフェース104は、第1パラメータ及び第2パラメータを受け取る。具体的には、オペレータは、第1入力チャンネル106Aの第1コントロール104Aを、第1入力チャンネル106Aの音響信号の音が中央に定位するよう操作する。同様に、オペレータは、第2入力チャンネル106B及び第3入力チャンネル106Cの第1コントロール104Aを、第2入力チャンネル106B及び第3入力チャンネル106Cの音響信号が左側に定位するよう操作する。オペレータは、第4入力チャンネル106D及び第5入力チャンネル106Eの第1コントロール104Aを、第4入力チャンネル106D及び第5入力チャンネル106Eの音響信号が右側に定位するよう操作する。
【0036】
また、オペレータは、第1入力チャンネル106A、第2入力チャンネル106B及び第4入力チャンネル106Dの第2コントロール104Bに対して、頭外定位を指定する操作を行う。同様に、オペレータは、第3入力チャンネル106C及び第5入力チャンネル106Eの第2コントロール104Bに対して、頭内定位を指定する操作を行う。以上の操作により、ユーザインタフェース104は、入力チャンネル106ごとに第1パラメータ及び第2パラメータを供給する。
【0037】
これにより、各入力チャンネル106は、入力された各音響信号に対し、対応する第1パラメータに応じてパンニングして、第1ステレオ信号をそれぞれ生成する。そして、第1入力チャンネル106A、第2入力チャンネル106B及び第4入力チャンネル106Dが生成した第1ステレオ信号は、第1加算器110に出力される。第3入力チャンネル106C及び第5入力チャンネル106Eが生成した第1ステレオ信号は、第2加算器114に出力される。
【0038】
第1加算器110は、第1入力チャンネル106A、第2入力チャンネル106B及び第4入力チャンネル106Dが出力した第1ステレオ信号を混合して、1の第2ステレオ信号を生成する。生成された第2ステレオ信号はミックスチャンネル108に出力される。
【0039】
第3加算器120は、第3入力チャンネル106C及び第5入力チャンネル106Eが出力した第1ステレオ信号を混合して、第5ステレオ信号を生成する。
【0040】
ミックスチャンネル108において必要に応じて種々の信号処理が行われた第2ステレオ信号は、定位処理部112に入力される。定位処理部112は、第2ステレオ信号に対して上記のような頭外定位処理を行い、2の第3ステレオ信号を生成する。
【0041】
ここで、第2ステレオ信号は、第1入力チャンネル106A、第2入力チャンネル106B及び第4入力チャンネル106Dが生成した第1ステレオ信号が混合された信号である。第1入力チャンネル106A、第2入力チャンネル106B及び第4入力チャンネル106Dに対してそれぞれ個別に定位位置を指定する必要がなく、オペレータの操作が削減される。
【0042】
第4加算器122は、定位処理部112から取得した第3ステレオ信号と、第3加算器120から取得した第5ステレオ信号を混合して、第4ステレオ信号を生成する。
【0043】
出力回路116は、第4加算器122から出力された第4ステレオ信号に対して必要に応じて種々の信号処理を行った上で、トランスミッター118に出力する。トランスミッター118が第4ステレオ信号をインイヤモニタ102に無線送信することにより、インイヤモニタ102を装着した演奏者(ボーカル)は、一部の入力チャンネル106の音響信号が頭外定位し、残りの入力チャンネル106の音響信号が頭内定位する音を聞くことが出来る。
【0044】
本音響信号の処理方法は、ステージでの演奏者のモニタ用途以外に、カラオケでの歌唱者のモニタや、遠隔会議システムでの各参加者のモニタ等の、種々のモニタ用途に適用されてもよい。オーディオミキサは、ミキシング専用のハードウェアに限らず、コンピュータ上で動作するオーディオワークステーション(DAW)アプリや、クラウド上にデプロイされたミキシングインスタンスでもよい。
【0045】
本開示によれば、オペレータは、頭外か頭内かを示すパラメータと左右方向の位置を示すパラメータと、の2つのみのパラメータを用いて、3次元空間内での定位位置を制御することができる。従って、オペレータは、各チャンネルの2つのパラメータを見て、定位位置を容易に把握できる。また、複数の音響信号の各々について、頭外定位位置を設定する必要がなく、左右定位での定位制御操作に慣れている通常のオペレータにとって操作が容易である。
【0046】
[第2の実施形態]
図5は、第2の実施形態に係るオーディオミキサを含むモニタシステムのブロック図である。第1の実施形態と同様の構成については、説明を省略する。第1の実施形態では第2加算器114が第3加算器120と第4加算器122を含むが、第2の実施形態では第2加算器114が単一の加算器(バス)である点が相違する。
【0047】
第2加算器114は、第2パラメータが頭内定位を指定する1以上のチャンネルの第1ステレオ信号と、定位処理部112から取得した2の第3ステレオ信号とを混合して、第4ステレオ信号を生成する。第2加算器114は、生成した第4ステレオ信号を第2ミックスチャンネル108に送信する。第1ミックスチャンネル108A及び第2ミックスチャンネル108Bは、第1の実施形態におけるミックスチャンネル108と同様、入力されたステレオ信号に対して種々の信号処理を行う。第2の実施形態においても、第1の実施形態と同様に、一部の入力チャンネル106の音響信号に対して頭外定位処理を施し、残りの入力チャンネル106の音響信号に対して当該定位処理を施さずに、両者を混合することができる。なお、第1の実施形態と同様、第1ミックスチャンネル108A及び第2ミックスチャンネル108Bは省略されてもよい。
【0048】
第1の実施形態と同様、第2加算器114は、ミキシングバス、ステレオバス、マトリクスバス等の何れのバスであってもよい。第1の実施形態では第2加算器114として2本のバスが必要であるが、第2の実施形態では第2加算器114として用いられるバスの本数が1本である。従って、オーディオミキサにおいて、使用するバスの本数を削減できる。
【0049】
なお、図5の定位処理部112が第5加算器602を含む構成の場合は、定位処理部112から第6加算器604に対して前記第3ステレオ混合信号が供給される。この場合、第2加算器114は、複数チャンネルのうちの第2パラメータが頭内定位を指定する1以上のチャンネルの第1ステレオ信号と前記第3ステレオ混合信号とを混合して第4ステレオ信号を生成する第6加算器604として動作する。そして、第2加算器114は、第6加算器604と定位処理部112の第5加算器602とを含む。
【0050】
本発明は、上記の実施例に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。上記オーディオミキサの構成及び音響信号の処理方法は一例であって、これに限定されるものではない。上記の実施例で示した構成と実質的に同一の構成、同一の作用効果を奏する構成または同一の目的を達成する構成で置き換えてもよい。
【符号の説明】
【0051】
100 モニタシステム、102 インイヤモニタ、104 ユーザインタフェース、104A 第1コントロール、104B 第2コントロール、104C 第3コントロール、106 入力チャンネル、108 ミックスチャンネル、110 第1加算器、112 定位処理部、114 第2加算器、116 出力回路、118 トランスミッター、120 第3加算器、122 第4加算器、202 チャンネルストリップ、302 コンプレッサー、304 イコライザ、306 フェーダ、308 パンナー、602 第5加算器、604 第6加算器。
図1
図2
図3
図4
図5
図6