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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022153007
(43)【公開日】2022-10-12
(54)【発明の名称】モータ制御装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 21/22 20160101AFI20221004BHJP
   H02P 21/24 20160101ALI20221004BHJP
   H02P 27/06 20060101ALI20221004BHJP
   H02P 21/18 20160101ALI20221004BHJP
【FI】
H02P21/22
H02P21/24
H02P27/06
H02P21/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021056000
(22)【出願日】2021-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000006611
【氏名又は名称】株式会社富士通ゼネラル
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長田 侑大
【テーマコード(参考)】
5H505
【Fターム(参考)】
5H505CC01
5H505DD03
5H505EE41
5H505EE49
5H505GG02
5H505GG04
5H505HB01
5H505JJ03
5H505JJ04
5H505JJ16
5H505JJ25
5H505JJ26
5H505KK05
5H505LL14
5H505LL22
5H505LL24
5H505LL41
5H505MM17
(57)【要約】
【課題】モータ制御の精度を向上すること。
【解決手段】モータ制御装置100において、スイッチングモジュール10は、直流電源から供給される直流電圧を交流電圧に変換し、交流電圧をモータMに印加し、電流検出部21は、直流電源とスイッチングモジュールとの間に接続されたシャント抵抗Rsを用いてスイッチングモジュールの母線電流を検出し、3φ電流算出部61は、モータMにおける固定座標の3相電流を母線電流に基づいて算出し、3φ/dq変換部42は、固定座標の3相電流を回転座標の2相電流に変換し、誤差補正部80は、モータMのモータモデル式に従って2相電流の第一予測値を算出し、2相電流と第一予測値との間の差分に含まれる誤差成分を抽出し、抽出した誤差成分を用いて第一予測値を補正することにより、補正後の第二予測値を算出し、制御部は、第二予測値を用いてモータMの制御を行う。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電源から供給される直流電圧を交流電圧に変換し、前記交流電圧をモータに印加するスイッチングモジュールと、
前記直流電源と前記スイッチングモジュールとの間に接続された抵抗を用いて前記スイッチングモジュールの母線電流を検出する検出部と、
前記モータにおける固定座標の3相電流を前記母線電流に基づいて算出する第一算出部と、
前記3相電流を回転座標の2相電流に変換する変換部と、
前記モータのモータモデル式に従って前記2相電流の第一予測値を算出する予測部と、
前記2相電流と前記第一予測値との間の差分を算出する第二算出部と、
前記差分に含まれる誤差成分を抽出する抽出部と、
前記誤差成分を用いて前記第一予測値を補正することにより、補正後の第二予測値を算出する第三算出部と、
前記第二予測値を用いて前記モータの制御を行う制御部と、
を具備するモータ制御装置。
【請求項2】
前記抽出部は、前記モータの回転次数に依存する周波数成分を前記誤差成分として抽出する、
請求項1に記載のモータ制御装置。
【請求項3】
前記抽出部は、前記第一予測値の算出遅れに起因する周波数成分を前記誤差成分として抽出する、
請求項1に記載のモータ制御装置。
【請求項4】
前記抽出部は、前記モータモデル式に含まれるモータパラメータと、前記モータの実際のモータパラメータとの間のオフセット成分を前記誤差成分として抽出する、
請求項1に記載のモータ制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、モータ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
モータの駆動を制御するモータ制御装置は、モータに印加される3相の交流電圧(以下では「3相電圧」と呼ぶことがある)を生成するスイッチングモジュールを有する。スイッチングモジュールは、複数のスイッチング素子から構成される。スイッチングモジュールは、インバータと呼ばれることもある。
【0003】
また、モータ制御装置に対してベクトル制御を用いる場合、モ-タ制御装置は、モータの回転速度が速度指令値(目標速度)に一致するようにd軸電流指令値及びq軸電流指令値を生成し、d軸電流指令値及びq軸電流指令値からd軸電圧指令値及びq軸電圧指令値を生成する。さらに、モータ制御装置は、d軸電圧指令値及びq軸電圧指令値を3相の電圧指令値へ変換する。
【0004】
3相の電圧指令値に基づいてスイッチングモジュールを制御する技術としてPWM(Pulse Width Modulation)が知られている。PWMは、スイッチングモジュールを構成する複数のスイッチング素子のオン/オフ時間の長さを調節することによりスイッチングモジュールの出力電圧(つまり、3相電圧)を変化させる技術である。スイッチング素子のオン/オフを制御する信号(以下では「PWM信号」と呼ぶことがある)は、PWMの搬送波であるキャリア信号と比較値との比較結果に基づいて生成される。PWM信号に応じてスイッチング素子のオン/オフが制御されることにより、モータに3相電圧が印加されてモータの駆動が制御される。
【0005】
また、モータのロータの回転位置(以下では「ロータ位置」と呼ぶことがある)を検出するためのセンサ(以下では「位置センサ」と呼ぶことがある)を使用せずにモータの駆動を制御する技術(以下では「位置センサレス方式」と呼ぶことがある)が知られている。位置センサレス方式では、モータに流れる3相の電流(以下では「モータ電流」と呼ぶことがある)を検出することにより、位置センサを使用せずに、ロータ位置を推定する。
【0006】
また、モータ電流の検出方式として「1シャント検出方式」が知られている。1シャント検出方式では、3相電圧を生成するスイッチングモジュールと直流電源との間に流れる母線電流に基づいてモータ電流のうちの2相分の電流を検出し、残りの1相分の電流を、2相分の電流からキルヒホッフの法則を用いて算出する。
【0007】
ここで、前回検出された電流、及び、前回の制御で用いられた電圧を用いて今回検出されるであろう電流を予測し、予測した電流をモータ制御に使用する先行技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008-067556号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、予測した電流と、実際にモータに流れる電流との間には誤差が生じるため、予測した電流をそのままモータ制御に使用するとモータ制御の精度が低下する。
【0010】
そこで、本開示では、モータ制御の精度を向上できる技術を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示のモータ制御装置は、スイッチングモジュールと、検出部と、第一算出部と、変換部と、予測部と、第二算出部と、抽出部と、第三算出部と、制御部とを有する。前記スイッチングモジュールは、直流電源から供給される直流電圧を交流電圧に変換し、前記交流電圧をモータに印加する。前記検出部は、前記直流電源と前記スイッチングモジュールとの間に接続された抵抗を用いて前記スイッチングモジュールの母線電流を検出する。前記第一算出部は、前記モータにおける固定座標の3相電流を前記母線電流に基づいて算出する。前記変換部は、前記3相電流を回転座標の2相電流に変換する。前記予測部は、前記モータのモータモデル式に従って前記2相電流の第一予測値を算出する。前記第二算出部は、前記2相電流と前記第一予測値との間の差分を算出する。前記抽出部は、前記差分に含まれる誤差成分を抽出する。前記第三算出部は、前記誤差成分を用いて前記第一予測値を補正することにより、補正後の第二予測値を算出する。前記制御部は、前記第二予測値を用いて前記モータの制御を行う。
【発明の効果】
【0012】
開示の技術によれば、モータ制御の精度を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、本開示の実施例のモータ制御装置の構成例を示す図である。
図2図2は、本開示の実施例の誤差補正部の構成例を示す図である。
図3図3は、本開示の実施例の誤差成分抽出部の動作例の説明に供する図である。
図4図4は、本開示の実施例の誤差成分抽出部の動作例の説明に供する図である。
図5図5は、本開示の実施例の誤差成分抽出部の動作例の説明に供する図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本開示の実施例を図面に基づいて説明する。以下の実施例において同一の構成には同一の符号を付す。
【0015】
[実施例]
<モータ制御装置の構成>
図1は、本開示の実施例のモータ制御装置の構成例を示す図である。図1に示すモータ制御装置100は、位置センサレス方式、1シャント検出方式、及び、PWMを用いてモータMの駆動を制御する。図1において、モータ制御装置100は、減算部46,47,52と、d軸電流設定部48と、速度制御部49と、d軸q軸電圧設定部45と、dq/3φ変換部43と、PWM部41と、スイッチングモジュール10と、直流電源EDCと、シャント抵抗Rsとを有する。また、モータ制御装置100は、DC電圧検出部31と、電流検出部21と、AD変換部71,72と、3φ電流算出部61と、DC電圧算出部32と、3φ/dq変換部42と、位置・速度推定部44と、1/Pn処理部51と、誤差補正部80とを有する。
【0016】
減算部46,47,52、d軸電流設定部48、速度制御部49、d軸q軸電圧設定部45、dq/3φ変換部43、PWM部41、DC電圧検出部31、電流検出部21、AD変換部71,72、3φ電流算出部61、DC電圧算出部32、3φ/dq変換部42、位置・速度推定部44、1/Pn処理部51、及び、誤差補正部80は、ハードウェアとして、例えばMCU(Micro Control Unit)により実現される。また、減算部46,47,52、d軸電流設定部48、速度制御部49、d軸q軸電圧設定部45、dq/3φ変換部43、PWM部41、位置・速度推定部44、及び、1/Pn処理部51により、モータMの駆動を制御する制御部が構成される。
【0017】
また、スイッチングモジュール10は、上アームのスイッチング素子SWup,SWvp,SWwpと、下アームのスイッチング素子SWun,SWvn,SWwnとを有する。
【0018】
モータ制御装置100において、d軸電流設定部48は、所定値のd軸電流指令値idを減算部46へ出力する。
【0019】
減算部46には、d軸電流設定部48からd軸電流指令値idが入力され、誤差補正部80からd軸電流idが入力される。減算部46は、d軸電流指令値idからd軸電流idを減算することによりd軸電流偏差Δidを算出し、算出したd軸電流偏差Δidをd軸q軸電圧設定部45へ出力する。
【0020】
速度制御部49は、減算部52から入力される速度偏差Δωがゼロに近づくようにq軸電流指令値iqを算出し、算出したq軸電流指令値iqを減算部47へ出力する。
【0021】
減算部47には、速度制御部49からq軸電流指令値iqが入力され、誤差補正部80からq軸電流iqが入力される。減算部47は、q軸電流指令値iqからq軸電流iqを減算することによりq軸電流偏差Δiqを算出し、算出したq軸電流偏差Δiqをd軸q軸電圧設定部45へ出力する。
【0022】
d軸q軸電圧設定部45には、減算部46からd軸電流偏差Δidが入力され、減算部47からq軸電流偏差Δiqが入力され、誤差補正部80からd軸電流id及びq軸電流iqが入力される。d軸q軸電圧設定部45は、d軸電流偏差Δid及びq軸電流偏差Δiqがゼロに近づくようにd軸電圧指令値Vd及びq軸電圧指令値Vqを算出し、算出したd軸電圧指令値Vd及びq軸電圧指令値Vqを位置・速度推定部44、dq/3φ変換部43及び誤差補正部80へ出力する。d軸電圧指令値Vd及びq軸電圧指令値Vqは、3φ電流算出部61により算出されるモータ電流であるU相電流iu、V相電流iv及びW相電流iwに応じても変化する。
【0023】
位置・速度推定部44には、誤差補正部80からd軸電流id及びq軸電流iqが入力され、d軸q軸電圧設定部45からd軸電圧指令値Vd及びq軸電圧指令値Vqが入力される。位置・速度推定部44は、d軸電流id、q軸電流iq、d軸電圧指令値Vd、及び、q軸電圧指令値Vqに基づいて、モータMの電気的な角速度ωeと、回転座標(dq座標)でのモータMの回転位相角θdqとを推定する。位置・速度推定部44は、推定した角速度ωeを1/Pn処理部51及び誤差補正部80へ出力し、推定した回転位相角θdqを3φ/dq変換部42及びdq/3φ変換部43へ出力する。
【0024】
1/Pn処理部51は、角速度ωeをモータMの極対数で除することにより、電気的な角速度ωeをモータMが有するロータの機械的な角速度ωmに変換し、変換後の角速度ωmを減算部52へ出力する。
【0025】
減算部52には、1/Pn処理部51から角速度ωmが入力され、モータ制御装置100の外部から(例えば、モータ制御装置100の上位のコントローラから)速度指令値ωmが入力される。減算部52は、速度指令値ωmから角速度ωmを減算することにより速度偏差Δωを算出し、算出した速度偏差Δωを速度制御部49へ出力する。
【0026】
dq/3φ変換部43は、回転位相角θdqを用いて、回転座標の2相のd軸電圧指令値Vd及びq軸電圧指令値Vqを、固定座標(UVW座標)の3相の電圧指令値Vu,Vv,Vwに変換する。dq/3φ変換部43は、変換後の電圧指令値Vu,Vv,VwをPWM部41へ出力する。
【0027】
PWM部41には、dq/3φ変換部43から電圧指令値Vu,Vv,Vwが入力され、DC電圧算出部32からDC電圧Vdcが入力される。また、PWM部41には、モータ制御装置100の外部から(例えば、モータ制御装置100の上位のコントローラから)、PWMの搬送波であるキャリア信号が入力される。PWM部41は、電圧指令値Vu,Vv,Vwと、DC電圧Vdcと、キャリア信号とに基づいて、3相のPWM信号Up,Un,Vp,Vn,Wp,Wnを生成し、生成したPWM信号Up,Un,Vp,Vn,Wp,Wnをスイッチングモジュール10及び3φ電流算出部61へ出力する。
【0028】
スイッチングモジュール10には、直流電源EDCから直流電圧が供給され、PWM部41からPWM信号Up,Un,Vp,Vn,Wp,Wnが入力される。スイッチングモジュール10は、直流電源EDCから供給される直流電圧をPWM信号Up~Wnに従って3相の交流電圧に変換し、変換後の3相の交流電圧をモータMに印加する。3相の交流電圧がモータMに印加されることによりモータMが駆動される。スイッチングモジュール10では、PWM信号Up,Un,Vp,Vn,Wp,Wnに従って各スイッチング素子SWup,SWun,SWvp,SWvn,SWwp,SWwnがオン/オフされることにより、直流電圧が3相電圧に変換される。各スイッチング素子SWup,SWun,SWvp,SWvn,SWwp,SWwnの両端には、還流ダイオードDup,Dun,Dvp,Dvn,Dwp,Dwnが接続されている。
【0029】
電流検出部21は、直流電源EDCとスイッチングモジュール10との間に接続されているシャント抵抗Rsを用いて、スイッチングモジュール10の母線電流Isを検出する。シャント抵抗Rsは、直流電源EDCにおけるN側端子とスイッチングモジュール10との間のDCラインであるNラインL上に配置されている。なお、シャント抵抗Rsは、直流電源EDCにおけるP側端子とスイッチングモジュール10との間のDCラインであるPラインL上に配置されても良い。シャント抵抗Rsには、モータ電流であるU相電流、V相電流、W相電流と、PWM信号とに応じた母線電流Isが流れ、シャント抵抗Rsに母線電流Isが流れるときに、シャント抵抗Rsの両端に電圧降下が生じる。電流検出部21は、この電圧降下の大きさとシャント抵抗Rsの抵抗値とから、シャント抵抗Rsに流れる母線電流Isを検出する。さらに、電流検出部21は、シャント抵抗Rsと母線電流Isとに基づいて、式(1)によって表されるアナログ電圧VA1を算出し、算出したアナログ電圧VA1をAD変換部72へ出力する。式(1)における“k”は所定の増幅率を示す。
VA1=k×(Rs・Is) …(1)
【0030】
AD変換部72は、アナログ電圧VA1に対してサンプリングを行うことにより、アナログ電圧VA1をデジタル電圧値VA2へ変換し、変換後のデジタル電圧値VA2を3φ電流算出部61へ出力する。
【0031】
3φ電流算出部61は、1シャント検出方式を用いてモータ電流を算出する。3φ電流算出部61は、シャント抵抗Rsの抵抗値と、増幅率kと、デジタル電圧値VA2と、PWM信号Up~Wnとに基づいて、モータ電流であるU相電流iu、V相電流iv及びW相電流iwを算出し、算出したモータ電流iu,iv,iwを3φ/dq変換部42へ出力する。
【0032】
3φ/dq変換部42は、位置・速度推定部44から入力される回転位相角θdqを用いて、固定座標の3相の電流ベクトルを示すモータ電流iu,iv,iwを、回転座標の2相の電流ベクトルを示すd軸電流及びq軸電流に変換する。以下では、3φ/dq変換部42での変換後のd軸電流を「検出d軸電流」と呼び、3φ/dq変換部42での変換後のq軸電流を「検出q軸電流」と呼ぶことがある。3φ/dq変換部42は、検出d軸電流id_det及び検出q軸電流iq_detを誤差補正部80へ出力する。
【0033】
誤差補正部80には、3φ/dq変換部42から検出d軸電流id_det及び検出q軸電流iq_detが入力され、位置・速度推定部44から角速度ωeが入力され、d軸q軸電圧設定部45からd軸電圧指令値Vd及びq軸電圧指令値Vqが入力され、位置・速度推定部44、d軸q軸電圧設定部45及び減算部46へ出力するd軸電流idと、位置・速度推定部44、d軸q軸電圧設定部45及び減算部47へ出力するq軸電流iqとを決定する。誤差補正部80の詳細については後述する。
【0034】
DC電圧検出部31は、PラインLとNラインLとの間の母線電圧を検出し、検出したアナログの母線電圧VB1をAD変換部71へ出力する。
【0035】
AD変換部71は、アナログの母線電圧VB1に対してサンプリングを行うことにより、アナログの母線電圧VB1をデジタルの母線電圧値VB2へ変換し、変換後のデジタルの母線電圧値VB2をDC電圧算出部32へ出力する。
【0036】
DC電圧算出部32は、デジタルの母線電圧値VB2からDC電圧Vdcを算出し、算出したDC電圧VdcをPWM部41へ出力する。
【0037】
<誤差補正部の構成>
図2は、本開示の実施例の誤差補正部の構成例を示す図である。図2において、誤差補正部80は、電流予測部81と、差分算出部82と、誤差成分抽出部83と、補正部84と、電流決定部85とを有する。電流予測部81には、d軸q軸電圧設定部45からd軸電圧指令値Vd及びq軸電圧指令値Vqが入力され、位置・速度推定部44から角速度ωeが入力される。差分算出部82及び電流決定部85には、3φ/dq変換部42から検出d軸電流id_det及び検出q軸電流iq_detが入力される。
【0038】
ここで、d軸電圧指令値Vd及びq軸電圧指令値Vqは、式(2.1)及び式(2.2)に示すモータモデル式によって表される。式(2.1)及び式(2.2)において、“R”はモータMの巻線抵抗、“id”は前回の制御タイミングで電流決定部85から出力されたd軸電流(以下では「前回d軸電流」と呼ぶことがある)、“p”は(d/dt)の微分演算子、“Ld”はモータMのd軸インダクタンス、“ωe”は位置・速度推定部44から入力される角速度、“Lq”はモータMのq軸インダクタンス、“iq”は前回の制御タイミングで電流決定部85から出力されたq軸電流(以下では「前回q軸電流」と呼ぶことがある)、“Ψ”はモータMの鎖交磁束である。巻線抵抗R、d軸インダクタンスLd、q軸インダクタンスLq及び鎖交磁束Ψは、モータMの特性を決定するパラメータ(以下では「モータパラメータ」と呼ぶことがある)である。
Vd=R・id+p・Ld・id-ωe・Lq・iq …(2.1)
Vq=R・iq+p・Lq・iq+ωe・Ld・id+ωe・Ψ …(2.2)
【0039】
また、モータ制御装置100におけるキャリア周波数fcを用いると、式(2.1)及び式(2.2)は、式(3.1)及び式(3.2)に変形できる。式(3.1)及び式(3.2)において、“ΔId”は、今回の制御タイミングで電流決定部85から出力されると予測されるd軸電流(以下では「予測d軸電流」と呼ぶことがある)の前回d軸電流に対する変化量(以下では「d軸電流変化量」と呼ぶことがある)、“ΔIq”は、今回の制御タイミングで電流決定部85から出力されると予測されるq軸電流(以下では「予測q軸電流」と呼ぶことがある)の前回q軸電流に対する変化量(以下では「q軸電流変化量」と呼ぶことがある)である。
Vd=R・id+Ld・ΔId・fc-ωe・Lq・iq …(3.1)
Vq=R・iq+Lq・ΔIq・fc+ωe・Ld・id+ωe・Ψ …(3.2)
【0040】
式(3.1)及び式(3.2)をd軸電流変化量及びq軸電流変化量について解くと、式(4.1)及び式(4.2)が得られる。
ΔId=(Vd-R・id+ωe・Lq・iq)/(Ld・fc) …(4.1)
ΔIq=(Vq-R・iq-ωe・Ld・id-ωe・Ψ)/(Lq・fc)
…(4.2)
【0041】
そこで、電流予測部81は、前回の制御タイミングで電流決定部85によって決定され電流決定部85から入力された過去のd軸電流idと、前回の制御タイミングで電流決定部85によって決定され電流決定部85から入力された過去のq軸電流iqとを用いて、式(5.1)及び式(5.2)に従って、予測d軸電流id_pre及び予測q軸電流iq_preを算出する。
id_pre=id+ΔId …(5.1)
iq_pre=iq+ΔIq …(5.2)
【0042】
このようにして、電流予測部81は、モータMのモータモデル式に従って予測d軸電流id_pre及び予測q軸電流iq_preを算出し、算出した予測d軸電流id_pre及び予測q軸電流iq_preを差分算出部82及び補正部84へ出力する。
【0043】
差分算出部82は、式(6.1)及び式(6.2)に従って、検出d軸電流id_detと予測d軸電流id_preとの差分(以下では「d軸差分」と呼ぶことがある)id_dif、及び、検出q軸電流iq_detと予測q軸電流iq_preとの差分(以下では「q軸差分」と呼ぶことがある)iq_difを算出する。差分算出部82は、算出したd軸差分id_dif及びq軸差分iq_difを誤差成分抽出部83へ出力する。
id_dif=id_det-id_pre …(6.1)
iq_dif=iq_det-iq_pre …(6.2)
【0044】
誤差成分抽出部83は、d軸差分id_difに含まれる誤差成分(以下では「d軸誤差成分」と呼ぶことがある)id_errをd軸差分id_difから抽出するとともに、q軸差分iq_difに含まれる誤差成分(以下では「q軸誤差成分」と呼ぶことがある)iq_errをq軸差分iq_difから抽出し、抽出したd軸誤差成分id_err及びq軸誤差成分iq_errを補正部84へ出力する。誤差成分抽出部83の詳細については後述する。
【0045】
補正部84は、d軸誤差成分id_errを用いて予測d軸電流id_preを補正することにより、補正後の予測d軸電流(以下では「補正d軸電流」と呼ぶことがある)id_pre_crを算出し、算出した補正d軸電流id_pre_crを電流決定部85へ出力する。また、補正部84は、q軸誤差成分iq_errを用いて予測q軸電流iq_preを補正することにより、補正後の予測q軸電流(以下では「補正q軸電流」と呼ぶことがある)iq_pre_crを算出し、算出した補正q軸電流iq_pre_crを電流決定部85へ出力する。例えば、補正部84は、予測d軸電流id_preからd軸誤差成分id_errを減算することにより補正d軸電流id_pre_crを算出し、予測q軸電流iq_preからq軸誤差成分iq_errを減算することにより補正q軸電流iq_pre_crを算出する。
【0046】
電流決定部85は、今回の制御タイミングでのモータMの制御に用いるd軸電流id及びq軸電流iqを決定する。
【0047】
ここで、3φ電流算出部61が3相のモータ電流iu,iv,iwを算出できる期間(以下では「算出可能期間」と呼ぶことがある)と、3φ電流算出部61が3相のモータ電流iu,iv,iwを算出できない期間(以下では「算出不能期間」と呼ぶことがある)とが存在する。
【0048】
電流決定部85は、算出可能期間では、検出d軸電流id_detを今回の制御タイミングでのモータMの制御に用いるd軸電流idとして決定し、検出d軸電流id_det及び補正d軸電流id_pre_crのうち検出d軸電流id_detを位置・速度推定部44、d軸q軸電圧設定部45、減算部46及び電流予測部81へ出力する。一方で、電流決定部85は、算出不能期間では、補正d軸電流id_pre_crを今回の制御タイミングでのモータMの制御に用いるd軸電流idとして決定し、検出d軸電流id_det及び補正d軸電流id_pre_crのうち補正d軸電流id_pre_crを位置・速度推定部44、d軸q軸電圧設定部45、減算部46及び電流予測部81へ出力する。
【0049】
また、電流決定部85は、算出可能期間では、検出q軸電流iq_detを今回の制御タイミングでのモータMの制御に用いるq軸電流iqとして決定し、検出q軸電流iq_det及び補正q軸電流iq_pre_crのうち検出q軸電流iq_detを位置・速度推定部44、d軸q軸電圧設定部45、減算部46及び電流予測部81へ出力する。一方で、電流決定部85は、算出不能期間では、補正q軸電流iq_pre_crを今回の制御タイミングでのモータMの制御に用いるq軸電流iqとして決定し、検出q軸電流iq_det及び補正q軸電流iq_pre_crのうち補正q軸電流iq_pre_crを位置・速度推定部44、d軸q軸電圧設定部45、減算部46及び電流予測部81へ出力する。
【0050】
例えば、電流決定部85は、3相の電圧指令値Vu,Vv,Vwにおいて2番目に大きい電圧指令値を有する相である中間相に対するPWM信号のパルス幅と、3相の電圧指令値Vu,Vv,Vwにおいて最小の電圧指令値を有する相である最小相に対するPWM信号のパルス幅との差(以下では「第一パルス幅差」と呼ぶことがある)、及び、3相の電圧指令値Vu,Vv,Vwにおいて最大の電圧指令値を有する相である最大相に対するPWM信号のパルス幅と、中間相に対するPWM信号のパルス幅との差(以下では「第二パルス幅差」と呼ぶことがある)のそれぞれが、式(7.1)及び式(7.2)に示すように、所定の閾値TH1未満であるか否かを判定する。そして、電流決定部85は、式(7.1)及び式(7.2)の2つの不等式の少なくとも一方が成立する期間を算出不能期間であると判定し、式(7.1)及び式(7.2)の2つの不等式が共に不成立である期間を算出可能期間であると判定する。
第一パルス幅差<TH1 …(7.1)
第二パルス幅差<TH1 …(7.2)
【0051】
また例えば、電流決定部85は、検出d軸電流id_detに重畳されているノイズ(以下では「d軸ノイズ」と呼ぶことがある)の大きさが所定の閾値TH2以上であるとき、または、検出q軸電流iq_detに重畳されているノイズ(以下では「q軸ノイズ」と呼ぶことがある)の大きさが閾値TH2以上であるときの期間を算出不能期間であると判定する。一方で、電流決定部85は、d軸ノイズの大きさ及びq軸ノイズの大きさの双方が閾値TH2未満であるときの期間を算出可能期間であると判定する。
【0052】
<誤差成分抽出部の動作>
図3図4及び図5は、本開示の実施例の誤差成分抽出部の動作例の説明に供する図である。以下では、検出d軸電流id_det及び検出q軸電流iq_detを「検出電流」と総称することがある。また以下では、予測d軸電流id_pre及び予測q軸電流iq_preを「予測電流」と総称することがある。また以下では、d軸差分id_dif及びq軸差分iq_difを「電流差分」と総称することがある。また以下では、d軸誤差成分id_err及びq軸誤差成分iq_errを「電流誤差成分」と総称することがある。
【0053】
図3に示すように、検出電流の周波数成分には、電流基本波成分の他に、モータMの回転周波数の次数(以下では「回転次数」と呼ぶことがある)に依存する周波数成分(以下では「回転次数成分」と呼ぶことがある)、及び、モータパラメータの誤差に起因して発生する成分(以下では「パラメータ誤差成分」と呼ぶことがある)の誤差成分が含まれる。回転次数成分の一例として、コギングトルクによる脈動等が挙げられる。また、図4に示すように、予測電流の周波数成分には、電流基本波成分の他に、パラメータ誤差成分が含まれる。また、検出電流と予測電流との差分である電流差分の周波数成分には、図5に示すように、回転次数成分、パラメータ誤差成分、及び、予測電流の算出遅れに起因して発生する周波数成分(以下では「算出遅れ成分」と呼ぶことがある)の電流誤差成分が含まれる。以下、電流差分からの電流誤差成分の抽出について、抽出例1,2,3の3つの抽出例を挙げて説明する。
【0054】
<抽出例1>
抽出例1では、誤差成分抽出部83は、d軸差分id_dif及びq軸差分iq_difから回転次数成分を電流誤差成分として抽出する。
【0055】
回転次数成分には高調波成分が含まれ、回転次数成分が出現する周波数の次数はモータMの極数、モータMのスロット数及びモータMの回転数によって定まる。例えば、モータMの回転数を基本波周波数として、モータMがX極Yスロットモータである場合には、XとYの最小公倍数の周波数に回転次数成分が出現する。さらに、XとYの最小公倍数の2分の1倍、2倍、3倍、…、n倍の次数の周波数にも回転次数成分が出現する。例えば、モータMが6極9スロットのモータである場合、6と9との最小公倍数である18次の周波数の他、6と9との最小公倍数の2分の1倍の9次の周波数、及び、36次、54次、…という18×n次の周波数に回転次数成分が出現する。よって例えば、モータMの回転数が30[rps]である場合、270[Hz]、540[Hz]、1080[Hz]、1620[Hz]、…、540×n[Hz]の周波数に回転次数成分が出現する。このように、回転次数成分は、特定の周波数に出現する。
【0056】
そこで、抽出例1では、誤差成分抽出部83は、d軸差分id_difにフーリエ級数展開を施すことにより、複数の次数の周波数成分のうちd軸での回転次数成分に相当する複数の周波数成分をd軸差分id_difから抽出する。同様に、誤差成分抽出部83は、q軸差分iq_difにフーリエ級数展開を施すことにより、複数の次数の周波数成分のうちq軸での回転次数成分に相当する複数の周波数成分をq軸差分iq_difから抽出する。このように、誤差成分抽出部83は、電流差分にフーリエ級数展開を施すことにより、複数の次数の周波数成分のうち回転次数成分に相当する複数の周波数成分を電流差分から抽出する。
【0057】
このようにして抽出例1では、誤差成分抽出部83は、電流差分から回転次数成分を電流誤差成分として抽出する。
【0058】
<抽出例2>
抽出例2では、誤差成分抽出部83は、d軸差分id_dif及びq軸差分iq_difから算出遅れ成分を電流誤差成分として抽出する。
【0059】
算出遅れ成分は予測d軸電流id_pre及び予測q軸電流iq_preの算出に起因して発生する周波数成分であるため、図5に示すように、モータMの回転数と同じ特定の周波数に算出遅れ成分が出現する。例えば、モータMの回転数が30[rps]である場合、30[Hz]の周波数に算出遅れ成分が出現する。
【0060】
そこで、抽出例2では、誤差成分抽出部83は、d軸差分id_difにフーリエ級数展開を施すことにより、複数の次数の周波数成分のうちd軸での算出遅れ成分に相当する特定の周波数成分をd軸差分id_difから抽出する。同様に、誤差成分抽出部83は、q軸差分iq_difにフーリエ級数展開を施すことにより、複数の次数の周波数成分のうちq軸での算出遅れ成分に相当する特定の周波数成分をq軸差分iq_difから抽出する。このように、誤差成分抽出部83は、電流差分にフーリエ級数展開を施すことにより、複数の次数の周波数成分のうち算出遅れ成分に相当する特定の周波数成分を電流差分から抽出する。
【0061】
このようにして抽出例2では、誤差成分抽出部83は、電流差分から算出遅れ成分を電流誤差成分として抽出する。
【0062】
<抽出例3>
抽出例3では、誤差成分抽出部83は、d軸差分id_dif及びq軸差分iq_difからパラメータ誤差成分を電流誤差成分として抽出する。
【0063】
実際のモータパラメータは固定値ではなく、モータMの状態によって変化する値であるため、式(2.1)及び式(2.2)に設定された固定値のモータパラメータと、実際のモータパラメータとの間には誤差が生じる。上記のように、予測d軸電流id_pre及び予測q軸電流iq_preは固定値のモータパラメータを設定された式(2.1)及び式(2.2)に基づいて算出されるため、モータパラメータ間の誤差に起因して、検出d軸電流id_detと予測d軸電流id_preとの間、及び、検出q軸電流iq_detと予測q軸電流iq_preとの間に定常的な誤差が生じる。つまり、パラメータ誤差成分は、図5に示すように、周波数成分を持たない所謂オフセット成分である。
【0064】
そこで、抽出例3では、誤差成分抽出部83は、ローパスフィルタを用いてd軸差分id_difをフィルタリングすることによりd軸差分id_difからd軸でのパラメータ誤差成分を抽出する。同様に、誤差成分抽出部83は、ローパスフィルタを用いてq軸差分iq_difをフィルタリングすることによりq軸差分iq_difからq軸でのパラメータ誤差成分を抽出する。
【0065】
このようにして抽出例3では、誤差成分抽出部83は、電流差分からパラメータ誤差成分を電流誤差成分として抽出する。
【0066】
以上、抽出例1,2,3について説明した。
【0067】
なお、誤差成分抽出部83は、回転次数成分、算出遅れ成分及びパラメータ誤差成分のうち一つまたは複数をd軸差分id_dif及びq軸差分iq_difから抽出しても良い。
【0068】
以上、実施例について説明した。
【0069】
以上のように、本開示のモータ制御装置(実施例のモータ制御装置100)は、スイッチングモジュール(実施例のスイッチングモジュール10)、検出部(実施例の電流検出部21)と、第一算出部(実施例の3φ電流算出部61)と、変換部(実施例の3φ/dq変換部42)と、予測部(実施例の電流予測部81)と、第二算出部(実施例の差分算出部82)と、抽出部(実施例の誤差成分抽出部83)と、第三算出部(実施例の補正部84)と、制御部(実施例の制御部)とを有する。スイッチングモジュールは、直流電源から供給される直流電圧を交流電圧に変換し、交流電圧をモータ(実施例のモータM)に印加する。検出部は、直流電源とスイッチングモジュールとの間に接続された抵抗(実施例のシャント抵抗Rs)を用いてスイッチングモジュールの母線電流を検出する。第一算出部は、モータにおける固定座標の3相電流を母線電流に基づいて算出する。変換部は、固定座標の3相電流を回転座標の2相電流(実施例の検出d軸電流id_det,検出q軸電流iq_det)に変換する。予測部は、モータのモータモデル式に従って2相電流の第一予測値(実施例の予測d軸電流id_pre,予測q軸電流iq_pre)を算出する。第二算出部は、2相電流と第一予測値との間の差分(実施例のd軸差分id_dif,q軸差分iq_dif)を算出する。抽出部は、差分に含まれる誤差成分(実施例のd軸誤差成分id_err,q軸誤差成分iq_err)を抽出する。第三算出部は、誤差成分を用いて第一予測値を補正することにより、補正後の第二予測値(実施例の補正d軸電流id_pre_cr,補正q軸電流iq_pre_cr)を算出する。制御部は、第二予測値を用いてモータの制御を行う。
【0070】
例えば、抽出部は、モータの回転次数に依存する周波数成分を誤差成分として抽出する。
【0071】
また例えば、抽出部は、第一予測値の算出遅れに起因する周波数成分を誤差成分として抽出する。
【0072】
また例えば、抽出部は、モータモデル式に含まれるモータパラメータと、モータの実際のモータパラメータとの間のオフセット成分を誤差成分として抽出する。
【0073】
こうすることで、第一予測値と、実際にモータに流れる電流との間の誤差が低減するため、モータ制御の精度を向上できる。
【符号の説明】
【0074】
100 モータ制御装置
10 スイッチングモジュール
21 電流検出部
42 3φ/dq変換部
61 3φ電流算出部
80 誤差補正部
81 電流予測部
82 差分算出部
83 誤差成分抽出部
84 補正部
85 電流決定部
図1
図2
図3
図4
図5