(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022153014
(43)【公開日】2022-10-12
(54)【発明の名称】測定装置
(51)【国際特許分類】
G01N 33/18 20060101AFI20221004BHJP
【FI】
G01N33/18 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021056011
(22)【出願日】2021-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000193508
【氏名又は名称】水道機工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101982
【弁理士】
【氏名又は名称】久米川 正光
(72)【発明者】
【氏名】橋本 暢之
(72)【発明者】
【氏名】雨宮 潤治
(72)【発明者】
【氏名】吉田 裕亮
(57)【要約】
【課題】吸引ろ過時間を測定するための蒸留水を別途用意しなくても、吸引ろ過時間比を算出できる新規な測定装置を提供する。
【解決手段】第1の測定系2は、貯留された試料水を吸引しながらろ過する。第2の測定系3は、第1の測定系2によってろ過された貯留水を吸引しながら再度ろ過する。時間計測部7は、吸引ろ過時間比の算出に必要な情報である「試料水の吸引ろ過時間Ta」を特定するために、第1の測定系2におけるろ過時間を計測すると共に、吸引ろ過時間比の算出に必要な情報である「蒸留水の吸引ろ過時間Tb」を特定するために、第2の測定系におけるろ過時間を計測する。時間計測部7は、吸引ろ過時間Ta,Tbに基づいてSTR値を算出する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸引ろ過時間比を算出するための測定装置において、
貯留された試料水を吸引しながらろ過する第1の測定系と、
前記第1の測定系によってろ過された貯留水を吸引しながら再度ろ過する第2の測定系と、
前記吸引ろ過時間比の算出に必要な情報である試料水の吸引ろ過時間を特定するために、前記第1の測定系におけるろ過時間を計測すると共に、前記吸引ろ過時間比の算出に必要な情報である蒸留水の吸引ろ過時間を特定するために、前記第2の測定系におけるろ過時間を計測する時間計測部と
を有することを特徴とする測定装置。
【請求項2】
前記第1の測定系は、
前記試料水を貯留する第1の容器と、前記第1の容器より送出されたろ過済みの水を貯留する第2の容器とを含み、
前記第2の測定系は、
第3の容器と、前記第3の容器より送出されたろ過済みの水を貯留する第4の容器とを含み、
前記第2の容器に貯留された前記ろ過済みの水を前記第3の容器に移送する移送系をさらに有することを特徴とする請求項1に記載された測定装置。
【請求項3】
前記移送系による水の移送は、前記第1の測定系の測定後、前記第2の測定系の測定に先立ち行われることを特徴とする請求項2に記載された測定装置。
【請求項4】
前記第1の測定系の測定時には、水のろ過を促進するために、前記第1の容器と前記第2の容器との間に圧力差を生じさせ、前記第1の測定系の測定後、前記第2の測定系の測定に先立ち、前記第2の容器から前記第3の容器に水を移送するために、前記第2の容器と前記第3の容器との間に圧力差を生じさせ、かつ、前記第2の測定系の測定時には、水のろ過を促進するために、前記第3の容器と前記第4の容器との間に、前記第1の測定系の測定時と同一の圧力差を生じさせる圧力系をさらに有することを特徴とする請求項2または3に記載された測定装置。
【請求項5】
前記時間計測部は、前記第1の測定系における水のろ過に要したろ過時間と、前記第2の測定系における水のろ過に要したろ過時間とに基づいて、前記吸引ろ過時間比を算出することを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載された測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ろ過池の運転管理上の指標として用いられる吸引ろ過時間比を算出するための測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、浄水場では、河川や湖より取水された原水に薬剤(凝集剤など)を注入し、泥などの不純物を沈殿させた後、不純物をろ過して消毒するといった水処理が行われる。このろ過は、水中の不純物をこし取る設備を備えた槽(ろ過池)において行われる。ろ過池の運転管理上の指標としては、従来、沈殿水の濁度が用いられているが、ろ過後の水の濁度やろ過池のろ過抵抗の上昇速度との相関性が低いといった問題がある。そこで、近年、この管理精度を高めるべく、沈殿水の濁度に代えて、より相関性が高い吸引ろ過時間比(STR:Suction Time Ratio)を指標とする手法が注目されている。STRとは、沈澱処理水をろ紙に通し、ろ過のしやすさを直接測定する方法であって、その値は、(試料水の吸引ろ過時間)÷(蒸留水の吸引ろ過時間)で表される。STRを運転管理上の指標とすることで、ろ過抵抗や凝集剤残留量を低減することが可能となり、薬品注入量の最適化と、ろ過機運転時間の延長とが期待できると共に、安全性の向上にも寄与する。
【0003】
このSTRに関して、特許文献1には、試料水の吸引ろ過時間Taの実測と、マップ参照(相関図)によるに蒸留水の吸引ろ過時間Tbの推測とに基づいて、吸引ろ過時間比を算出する計測装置が開示されている。この計測装置は、計量タンクと、水温計と、ろ過手段と、ろ過水タンクと、制御手段とを主体に構成されている。計量タンクには、試料水が貯留されている。水温計は、試料水の水温を検知する。ろ過手段は、計量タンクとろ過タンクとの間に設けられており、所定圧力による吸引下で試料水をろ過する。ろ過水タンクには、ろ過手段によってろ過された水が貯留される。制御手段は、試料水のろ過時間をカウントし、その吸引ろ過時間Taを測定する。また、制御手段は、水温と、蒸留水の吸引ろ過時間Tbとの関係が記述された相関図を参照して、水温計によって検知された水温から、この水温に対応する蒸留水(試料水と同一量)の吸引ろ過時間Tbを取得する。これにより、蒸留水を別途用意しなくても、換言すれば、蒸留水の吸引ろ過時間Tbを実際に測定しなくても、試料水を測定するだけで吸引ろ過時間比(=Ta/Tb)を算出できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、吸引ろ過時間を測定するための蒸留水を別途用意しなくても、吸引ろ過時間比を算出できる新規な測定装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる課題を解決するために、本発明は、第1の測定系と、第2の測定系と、時間計測部とを有し、吸引ろ過時間比を算出するための測定装置を提供する。第1の測定系は、貯留された試料水を吸引しながらろ過する。第2の測定系は、第1の測定系によってろ過された貯留水を吸引しながら再度ろ過する。時間計測部は、吸引ろ過時間比の算出に必要な情報である試料水の吸引ろ過時間を特定するために、第1の測定系におけるろ過時間を計測すると共に、吸引ろ過時間比の算出に必要な情報である蒸留水の吸引ろ過時間を特定するために、第2の測定系におけるろ過時間を計測する。
【0007】
ここで、本発明において、上記第1の測定系は、試料水を貯留する第1の容器と、第1の容器より送出されたろ過済みの水を貯留する第2の容器とを含み、上記第2の測定系は、第3の容器と、第3の容器より送出されたろ過済みの水を貯留する第4の容器とを含んでいてもよい。かかる構成では、第2の容器に貯留されたろ過済みの水を第3の容器に移送する移送系をさらに有する。この場合、移送系による水の移送は、第1の測定系の測定後、第2の測定系の測定に先立ち行われることが好ましい。また、本発明において、圧力系をさらに設けてもよい。この圧力系は、第1の測定系の測定時には、水のろ過を促進するために、第1の容器と第2の容器との間に圧力差を生じさせる共に、第1の測定系の測定後、第2の測定系の測定に先立ち、第2の容器から第3の容器に水を移送するために、第2の容器と第3の容器との間に圧力差を生じさせる。そして、圧力系は、第2の測定系の測定時には、水のろ過を促進するために、第3の容器と第4の容器との間に、第1の測定系の測定時と同一の圧力差を生じさせる。
【0008】
本発明において、上記第1の測定系は、試料水を貯留する第1の容器と、第1の容器より送出されたろ過済みの水を貯留する第2の容器とを含み、上記第2の測定系は、第1の測定系と共用される第2の容器と、第2の容器より送出されたろ過済みの水を貯留する第3の容器とを含んでいてもよい。この場合、上記第1の測定系は、第1の容器と第2の容器との間を接続するろ過管に設けられた第1のろ過弁をさらに有し、上記第2の測定系は、第2の容器と第3の容器との間を接続するろ過管に設けられた第2のろ過弁をさらに有し、上記第1の測定系の測定および上記第2の測定系の測定は、第1のろ過弁および第2のろ過弁の開閉を排他的に制御することによって、択一的に行われることが望ましい。また、圧力系をさらに設けてもよい。この圧力系は、第1の測定系の測定時には、水のろ過を促進するために、第1の容器と第2の容器との間に圧力差を生じさせると共に、圧力系は、第2の測定系の測定時には、水のろ過を促進するために、第2の容器と第3の容器との間に、第1の測定系の測定時と同一の圧力差を生じさせる。
【0009】
本発明において、上記第1の測定系は、試料水を貯留する第1の容器と、第1の容器より送出されたろ過済みの水を貯留する第2の容器とを含み、上記第2の測定系は、第1の測定系と共用される第1の容器と、第1の測定系と共用され、第1の容器より送出されたろ過済みの水を貯留する第2の容器とを含んでいてもよい。かかる構成では、第2の容器に貯留されたろ過済みの水を第1の容器に移送する移送系をさらに有する。この場合、移送系による水の移送は、第1の測定系の測定後、第2の測定系の測定に先立ち行われることが好ましい。また、本発明において、圧力系をさらに設けてもよい。この圧力系は、第1の測定系の測定時には、水のろ過を促進するために、第1の容器と第2の容器との間に圧力差を生じさせると共に、第1の測定系の測定後、第2の測定系の測定に先立ち、第2の容器から第1の容器に水を移送するために、第1の容器と第2の容器との間に圧力差を生じさせる。そして、圧力系は、第2の測定系の測定時には、水のろ過を促進するために、第1の容器と第2の容器との間に、第1の測定系の測定時と同一の圧力差を生じさせる。また、本発明において、交換機構をさらに設けてもよい。この交換機構は、第1の測定系の測定時と、第2の測定系の測定時とで、水をろ過するために使用されるフィルタを交換する。
【0010】
本発明において、上記時間計測部は、第1の測定系における水のろ過に要したろ過時間と、第2の測定系における水のろ過に要したろ過時間とに基づいて、吸引ろ過時間比を算出してもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、測定対象となる試料水のろ過時間を測定すると共に、一度ろ過された水を蒸留水とみなして、そのろ過時間を再度測定する。一度ろ過された水は、フィルタを通過するような微細な粒子しか含まないので、その後のろ過に要する時間は、蒸留水のそれと有意な差異はない。このように、一度ろ過された水を蒸留水の代用とすることで、測定用の蒸留水を別途用意しなくても、吸引ろ過時間比を算出するために必要な情報を実測ベースで得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】第1の実施形態に係るSTR測定装置の構成図
【
図2】第1の実施形態に係る1回目の測定工程の説明図
【
図4】第1の実施形態に係る2回目の測定工程の説明図
【
図5】第2の実施形態に係るSTR測定装置の構成図
【
図6】第2の実施形態に係る1回目の測定工程の説明図
【
図7】第2の実施形態に係る2回目の測定工程の説明図
【
図8】第3の実施形態に係るSTR測定装置の構成図
【
図9】第3の実施形態に係る1回目の測定工程の説明図
【
図11】第3の実施形態に係る2回目の測定工程の説明図
【発明を実施するための形態】
【0013】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態に係るSTR測定装置の構成図である。このSTR測定装置1Aは、測定対象となる試料水の吸引ろ過時間比(以下、「STR値」という。)を実測ベースで算出する。STR測定装置1Aは、第1の測定系2と、第2の測定系3と、移送系4と、圧力系5と、制御部6と、時間計測部7とを主体に構成されている。本実施形態の特徴は、後述する第2および第3の実施形態とは異なり、第1の測定系2および第2の測定系3が一部を共用することなく完全に独立している点である。
【0014】
第1の測定系2は、STR値の算出に必要な情報である「試料水の吸引ろ過時間Ta」を特定するために、予め貯留された試料水を吸引しながらろ過する。具体的には、第1の測定系2は、一対の容器8a,8bを主体に構成されている。これらの容器8a,8bは、上下に配置されており、ろ過管9aを介して互いに接続されている。上段の容器8aには、測定対象となる所定量(例えば、500ml)の試料水が貯留され、その内部は大気に常時開放されている。一方、下段の容器8bには、上段の容器8aより送出されたろ過済みの水が貯留され、その内部の圧力は圧力系5によって制御される。また、ろ過管9aには、フィルタ10aと、制御部6によって開閉が制御されるろ過弁11aとが設けられている。フィルタ10aは、ろ過弁11aが開状態の場合、上段の容器8aから下段の容器8bに向かってろ過管9aを通過する水をろ過する。
【0015】
第2の測定系3は、STR値の算出に必要な情報である「蒸留水の吸引ろ過時間Tb」を特定するために、第1の測定系2と同一の測定環境下で、第1の測定系2によってろ過された貯留水を吸引しながら再度ろ過する。第2の測定系3は、第1の測定系2と同様の構成を有する。具体的には、第2の測定系3は、一対の容器8c,8dを主体に構成されている。これらの容器8c,8dは、上下に配置されており、ろ過管9bを介して互いに接続されている。上段の容器8cには、第1の測定系2より移送されたろ過済みの水が貯留され、その内部は大気に常時開放されている。一方、下段の容器8dには、上段の容器8cより送出された再度のろ過済みの水が貯留され、その内部の圧力は圧力系5によって制御される。また、ろ過管9bには、フィルタ10aと同一仕様のフィルタ10bと、制御部6によって開閉が制御されるろ過弁11bとが設けられている。フィルタ10bは、ろ過弁11bが開状態の場合、上段の容器8cから下段の容器8dに向かってろ過管9bを通過する水をろ過する。
【0016】
移送系4は、第1の測定系2から第2の測定系3に水を移送するために設けられている。この移送系4は、移送管4aと、移送弁4bとを有する。移送管4aは、第1の測定系2における下段の容器8bと、第2の測定系3における上段の容器8cとを接続する。移送弁4bは、移送管4aの途中に設けられており、制御部6によって開閉が制御される。
【0017】
圧力系5は、第1の測定系2の容器8b内、および、第2の測定系3の容器8d内を真空/加圧する。本実施形態では、圧力系5の構成を簡素化すべく、真空および加圧の両工程が単一の真空ポンプ12にて行われる。具体的には、真空ポンプ12のイン側(吸入側)には、配管Aが接続されており、この配管Aの端部には、制御部6によって開閉が制御される真空弁13aの一端が接続されている。また、真空ポンプ12から真空弁13aに至る配管Aの途中には、大気開放された分岐路が設けられており、この分岐路には、制御部6によって開閉が制御される放圧弁13bが設けられている。さらに、配管Aには、真空ポンプ12のイン側圧力を検知する真空計14が設けられている。
【0018】
真空ポンプ12のアウト側(吐出側)には、配管Bが接続されており、この配管Bの端部には、制御部6によって開閉が制御される加圧弁13cの一端が接続されている。また、真空ポンプ12から加圧弁13cに至る配管Bの途中には、大気開放された分岐路が設けられており、この分岐路には、真空ポンプ12のアウト側圧力を手動で調整するための調整弁13eが設けられている。この調整弁13eの開度調整によって、第1の測定系2から第2の測定系3に水を移送する際の移送速度が設定される。
【0019】
真空弁13aの他端および加圧弁13cの他端は、配管Cを介して、3方弁13dに接続されている。3方弁13dは、制御部6によって制御され、配管Cの接続先として、第1の測定系2の容器8bに接続された配管D、および、第2の測定系3の容器8dに接続された配管Eのいずれかを選択する。
【0020】
制御部6は、STR測定の開始指示と、真空情報と、検知水量とに基づいて、複数の弁4b,11a~11b,13a~13dの開閉を個別に制御する。これによって、第1の測定系2の測定時に必要な吸引圧、第1の測定系2から第2の測定系3への水の移送時に必要な移送圧、および、第2の測定系3の測定時に必要な吸引圧が設定される。ここで、STR測定の開始指示は、タッチパネル等のユーザインターフェースをユーザ(測定者)が操作することによって行われる。真空情報は、真空計14によって検知される真空ポンプ12のイン側圧力である。また、検知水量は、容器8b~8dのそれぞれに貯留された水量であり、本実施形態では、容器8b~8dのそれぞれに設けられたに3つの水量センサ15a~15cによって検知される。水量センサ15a~15cは、例えば、光を発する発光部と、この光を受光する受光部とによって構成されており、貯留水の水面がセンサ位置に到達した場合、受光部の受光量が減ることで、所定の水量(例えば500ml)になったことを検知する。なお、水量の検知は、上記手法に限定されるものではなく、例えば、カメラによる水位の監視、貯留水の重量測定、電極センサによる水位検知などであってもよい。
【0021】
時間計測部7は、時間をカウントするタイマーを備えており、制御部6の指示、具体的には、ろ過の開始指示および終了指示に基づいて、第1の測定系2におけるろ過時間Taを計測すると共に、第2の測定系3におけるろ過時間Tbを計測する。ここで、第1の測定系2については、容器8b内の圧力(真空状態)を真空計14で計測し、これが所定の圧力(例えば、-80kPa)に達した時点でろ過が開始されると共に、水量センサ15aによって容器8bの貯留量が所定量に到達したことが検知された時点でろ過が終了する。一方、第2の測定系3については、容器8d内の圧力(真空状態)を真空計14で計測し、これが所定の圧力(例えば、-80kPa)に達した時点でろ過が開始されると共に、水量センサ15cによって容器8dの貯留量が所定量に到達したことが検知された時点でろ過が終了する。
【0022】
ろ過時間Ta、すなわち、第1の測定系2におけるろ過開始を起点としたろ過終了までのカウント値は、STR値の算出に必要な情報である「試料水の吸引ろ過時間」として取り扱われる。また、ろ過時間Tb、すなわち、第2の測定系3におけるろ過開始を起点としたろ過終了までのカウント値は、STR値の算出に必要な情報である「蒸留水の吸引ろ過時間」として取り扱われる。第2の測定系3の測定対象は、第1の測定系2によって一度ろ過された水であり、フィルタ10aを通過するような微細な粒子しか含まないので、その後のろ過に要する時間は、蒸留水のそれと有意な差異はない。よって、一度ろ過された水は、蒸留水として取り扱って差し支えない。
【0023】
時間計測部7は、1回目の吸引ろ過時間Taと、2回目の吸引ろ過時間Tbとに基づいて、STR値(=Ta/Tb)を算出する。算出されたSTR値は、STR測定装置1Aが備える表示部を介して、ユーザ(測定者)に提示される。ただし、時間計測部7は、STR値を算出することなく吸引ろ過時間Ta,Tbを出力して、外部システムにSTR値の算出やユーザへの提示を委ねてもよい。
【0024】
つぎに、STR測定装置1Aにおける各工程の詳細について説明する。STR測定装置1Aでは、第1の測定系2による吸引ろ過時間Taの測定が行われる1回目の測定工程、第1の測定系2から第2の測定系3への水の移送が行われる移送工程、そして、第2の測定系3による吸引ろ過時間Tbの測定が行われる2回目の測定工程といった3つの工程が行われる。下表は、各工程における真空ポンプ12および弁4b,11a~11b,13a~13dの設定状態を示す。同表の設定状態によれば、1回目の測定工程では、フィルタ10aのろ過を促進すべく、大気圧を基準とした容器8bの減圧によって、流出側の容器8aと、流入側の容器8bとの間に圧力差を生じさせる。また、移送工程では、移送系4を介して水を移送すべく、大気圧を基準とした容器8bの加圧によって、流出側の容器8bと、流入側の容器8cとの間に圧力差を生じさせる。さらに、2回目の測定工程では、フィルタ10bのろ過を促進すべく、大気圧を基準とした容器8dの減圧によって、流出側の容器8cと、流入側の容器8dとの間に圧力差を生じさせる。
【0025】
【0026】
図2は、1回目の測定工程の説明図である。まず、ユーザは、容器8aに測定対象となる試料水を500ml入れた上で、STR測定の実行を指示する。これにより、真空ポンプ12によって、容器8b内が徐々に減圧されていく。そして、容器8b内の圧力が所定の真空圧(例えば、-80kPa)に到達したことが真空計14によって検知された場合、閉じていたろ過弁11aが開かれる。これによって、1回目のろ過が開始され、時間計測部7によって、ろ過時間のカウントが開始される。そして、ろ過済みの水を貯留する容器8bの貯留量(水位レベル)が500ml相当に到達したことが水量センサ15aによって検知された場合、時間計測部7によるろ過時間のカウントが終了し、そのカウント値が「試料水のろ過時間Ta」として特定される。
【0027】
容器8aに貯留された試料水に対するフィルタ10aによるろ過は、流出側の容器8aから流入側の容器8bに向かう力、すなわち、吸引力を付与しつつ行われる。この吸引力は、大気開放された容器8aと、真空状態に設定された容器8bとの間の圧力差によって生起される。なお、吸引力は、流出側の容器8aよりも流入側の容器8bが低圧であれば生起されるので、容器8aを大気開放、容器8bを真空状態とする場合のみならず、容器8aを加圧状態、容器8bを大気開放とすることによって生起させてもよい。ろ過を吸引しながら行う理由は、ろ過を促進してろ過時間を短縮するため、および、試料水に混入している不純物(濁り成分)に由来したフィルタ10aの目詰まりを防止するためである。
【0028】
図3は、移送工程の説明図である。1回目の測定工程に続く移送工程では、閉じていた移送弁4bが開かれると共に、真空ポンプ12によって、容器8b内が徐々に加圧されていく。これによって、加圧状態に設定された容器8bと、大気開放された容器8cとの間の圧力差が生じて、流出側の容器8bから流入側の容器8cに向かって水が移送される。そして、流入側の容器8cの貯留量(水位レベル)が500ml相当に到達したことが水量センサ15bによって検知された場合、移送工程が終了する。
【0029】
図4は、2回目の測定工程の説明図である。移送工程に続く2回目の測定工程では、真空ポンプ12によって、容器8d内が徐々に減圧されていく。そして、容器8d内の圧力が第1の測定系2の測定時と同一の真空圧(例えば、-80kPa)に到達したことが真空計14によって検知された場合、閉じていたろ過弁11bが開かれる。これによって、2回目のろ過が開始され、時間計測部7によって、ろ過時間のカウントが開始される。容器8cに貯留された水に対するフィルタ10bによるろ過は、流出側の容器8cから流入側の容器8dに向かう吸引力を付与しつつ行われる。この吸引力は、大気開放された容器8cと、真空状態に設定された容器8dとの間の圧力差(第1の測定系2の測定時と同一の圧力差)によって生起される。そして、ろ過済みの水を貯留する容器8dの貯留量(水位レベル)が500ml相当に到達したことが水量センサ15cによって検知された場合、時間計測部7によるろ過時間のカウントが終了し、そのカウント値が「蒸留水のろ過時間Tb」として特定される。
【0030】
このように、本実施形態によれば、測定対象となる試料水のろ過時間Taを測定すると共に、一度ろ過された水を蒸留水とみなして、そのろ過時間Tbを再度測定する。一度ろ過された水は、フィルタを通過するような微細な粒子しか含まないので、その後のろ過に要する時間は、蒸留水のそれと有意な差異はない。このように、一度ろ過された水を蒸留水の代用とすることで、測定用の蒸留水を別途用意しなくても、STR値を算出するために必要な情報を実測ベースで得ることができる。
【0031】
また、本実施形態によれば、第1の測定系2および第2の測定系3の仕様を同一とし、かつ、2回の測定を連続的に行うことで、2つのろ過時間Ta,Tbに作用する外乱(温度、大気圧、湿度差などの変化)の影響が共通化されるので、STR値の測定誤差を有効に低減できる。
【0032】
さらに、本実施形態によれば、各工程で所定の圧力差を生じさせる圧力系5を単一の真空ポンプ12で構成することで、圧力系5の構成を簡略化することができる。
【0033】
(第2の実施形態)
図5は、第2の実施形態に係るSTR測定装置の構成図である。このSTR測定装置1Bは、第1の測定系2と、第2の測定系3と、圧力系5と、制御部6と、時間計測部7とを主体に構成されており、第1の実施形態のような移送系4は存在しない。また、STR測定装置1Bは、3つの容器8a~8cを有し、第1の測定系2および第2の測定系3が部分的に共通化されている。なお、第1の実施形態と同一の構成要素については、同一の符号を付して、ここでの説明を省略する。
【0034】
具体的には、第1の測定系2は、試料水を貯留する上段の容器8aと、この容器8aより送出されたろ過済みの水を貯留する中段の容器8bとを主体に構成されている。また、第2の測定系3は、第1の測定系2と共用される中段の容器8bと、この容器8bより送出されたろ過済みの水を貯留する下段の容器8cとによって構成されている。さらに、圧力系5は、第1の実施形態と基本的な構成は同一であるが、配管Fと、大気開放弁13fとが追加されている。中段の容器8bに接続された配管Fは大気開放されており、この配管Fの途中には、制御部6によって開閉が制御される大気開放弁13fが設けられている。
【0035】
つぎに、STR測定装置1Bにおける各工程の詳細について説明する。STR測定装置1Bでは、第1の測定系2による吸引ろ過時間Taの測定が行われる1回目の測定工程、そして、第2の測定系3による吸引ろ過時間Tbの測定が行われる2回目の測定工程といった2つの工程が行われ、第1の実施形態のような移送工程は存在しない。下表は、各工程における真空ポンプ12および弁11a~11b,13a~13d,13fの設定状態を示す。STR測定装置1Bでは、2つの測定系2,3が部分的に共通化されている関係上、これらの測定系2,3による測定は、ろ過弁11a,11bの開閉を排他的に制御することによって、択一的に行われる。同表の設定状態によれば、1回目の測定工程では、フィルタ10aのろ過を促進すべく、大気圧を基準とした容器8bの減圧によって、流出側の容器8aと、流入側の容器8bとの間に圧力差を生じさせる。また、2回目の測定工程では、フィルタ10bのろ過を促進すべく、容器8bの大気圧への開放と、大気圧を基準とした容器8cの減圧とによって、流出側の容器8bと、流入側の容器8cとの間に圧力差を生じさせる。
【0036】
【0037】
図6は、1回目の測定工程の説明図である。まず、ユーザは、容器8aに測定対象となる試料水を500ml入れた上で、STR測定の実行を指示する。1回目の測定工程では、配管F上の大気開放弁13fが閉じているため、流入側の容器8bは、大気開放されることなく、密閉された状態になっている。その結果、真空ポンプ12によって、流入側の容器8b内が徐々に減圧されていく。そして、この容器8b内の圧力が所定の真空圧(例えば、-80kPa)に到達したことが真空計14によって検知された場合、閉じていたろ過弁11aが開かれる。これによって、1回目のろ過が開始され、時間計測部7によって、ろ過時間のカウントが開始される。容器8aに貯留された水に対するフィルタ10aによるろ過は、流出側の容器8aから流入側の容器8bに向かう吸引力を付与しつつ行われ、この吸引力は、大気開放された容器8aと、真空状態に設定された容器8bとの間の圧力差によって生起される。そして、ろ過済みの水を貯留する容器8bの貯留量(水位レベル)が500ml相当に到達したことが水量センサ15aによって検知された場合、時間計測部7によるろ過時間のカウントが終了し、そのカウント値が「試料水のろ過時間Ta」として特定される。
【0038】
図7は、2回目の測定工程の説明図である。1回目の測定工程に続く2回目の測定工程では、閉じていた大気開放弁13fが開いて、流出側の容器8bが大気開放された状態になる。そして、真空ポンプ12によって、流入側の容器8c内が徐々に減圧されていく。そして、容器8c内の圧力が第1の測定系2と同一の真空圧(例えば、-80kPa)に到達したことが真空計14によって検知された場合、閉じていたろ過弁11bが開かれる。これによって、2回目のろ過が開始され、時間計測部7によって、ろ過時間のカウントが開始される。容器8bに貯留された水に対するフィルタ10aによるろ過は、流出側の容器8bから流入側の容器8cに向かう吸引力を付与しつつ行われる。この吸引力は、大気開放された容器8bと、真空状態に設定された容器8cとの間の圧力差(第1の測定系2の測定時と同一の圧力差)によって生起される。そして、ろ過済みの水を貯留する容器8cの貯留量(水位レベル)が500ml相当に到達したことが水量センサ15bによって検知された場合、時間計測部7によるろ過時間のカウントが終了し、そのカウント値が「蒸留水のろ過時間Tb」として特定される。
【0039】
このように、本実施形態によれば、上述した第1の実施形態と同様の作用効果が得られると共に、2つの測定系2,3で容器8bを共用し、かつ、移送系4を不要とすることで、STR測定装置1Bの構成部品数を減らすことができる。それとともに、第1の実施形態のような移送工程が不要なので、STR測定の高速化を図ることができる。
【0040】
(第3の実施形態)
図8は、第3の実施形態に係るSTR測定装置の構成図である。このSTR測定装置1Cは、第1の測定系2と、第2の測定系3と、移送系4と、圧力系5と、制御部6と、時間計測部7とを主体に構成されている。また、STR測定装置1Cは、2つの容器8a,8bを有し、第1の測定系2および第2の測定系3が完全に共通化されている。なお、第1の実施形態と同一の構成要素については、同一の符号を付して、ここでの説明を省略する。
【0041】
具体的には、共通化された測定系2,3は、試料水(または一度ろ過された水)を貯留する上段の容器8aと、この容器8aより送出されたろ過済みの水を貯留する下段の容器8bとによって構成されている。また、圧力系5は、第1の実施形態と基本的な構成は同一であるが、圧力の制御対象が容器8bのみなので、制御対象を切り替えるための3方弁13は不要である。また、移送系4は、下段の容器8bから上段の容器8aに水を移送する。この移送系4は、移送管4aと、移送弁4bとを有する。移送管4aは、これらの容器8a,8bを接続する。移送弁4bは、移送管4aの途中に設けられており、制御部6によって開閉が制御される。さらに、交換機構16は、制御部6の指示に基づいて、第1の測定系2の測定時と、第2の測定系3の測定時とで、水をろ過するために使用されるフィルタ10aを交換する。交換機構16としては、例えば、ロール状に巻回されたフィルタ10aをモータによって引き出し、引き出された未使用のフィルタ部分をろ過管9aに介在させるようにしてもよい。なお、第1の測定系2の測定後、第2の測定系3の測定に先立ち、上段の容器8a内を洗浄する洗浄機構を設けてもよい。
【0042】
つぎに、STR測定装置1Cにおける各工程の詳細について説明する。STR測定装置1Cでは、上述した第1の実施形態と同様、第1の測定系2による吸引ろ過時間Taの測定が行われる1回目の測定工程、第1の測定系2から第2の測定系3への水の移送が行われる移送工程、そして、第2の測定系3による吸引ろ過時間Tbの測定が行われる2回目の測定工程といった3つの工程が行われる。下表は、各工程における真空ポンプ12および弁4b,11a,13a~13cの設定状態を示す。同表の設定状態によれば、1回目の測定工程では、フィルタ10aのろ過を促進すべく、大気圧を基準とした容器8bの減圧によって、流出側の容器8aと、流入側の容器8bとの間に圧力差を生じさせる。また、移送工程では、移送系4を介して水を移送すべく、大気圧を基準とした容器8bの加圧によって、流出側の容器8bと、流入側の容器8aとの間に圧力差を生じさせる。さらに、2回目の測定工程では、フィルタ10aのろ過を促進すべく、大気圧を基準とした容器8bの減圧によって、流出側の容器8aと、流入側の容器8bとの間に圧力差を生じさせる。
【0043】
【0044】
図9は、1回目の測定工程の説明図である。まず、ユーザは、容器8aに測定対象となる試料水を500ml入れた上で、STR測定の実行を指示する。これにより、真空ポンプ12によって、流入側の容器8b内が徐々に減圧されていく。そして、この容器8b内の圧力が所定の真空圧(例えば、-80kPa)に到達したことが真空計14によって検知された場合、閉じていたろ過弁11aが開かれる。これによって、1回目のろ過が開始され、時間計測部7によって、ろ過時間のカウントが開始される。容器8aに貯留された水に対するフィルタ10aによるろ過は、流出側の容器8acから流入側の容器8bに向かう吸引力を付与しつつ行われ、この吸引力は、大気開放された容器8aと、真空状態に設定された容器8bとの間の圧力差によって生起される。そして、ろ過済みの水を貯留する容器8bの貯留量(水位レベル)が500ml相当に到達したことが水量センサ15aによって検知された場合、時間計測部7によるろ過時間のカウントが終了し、そのカウント値が「試料水のろ過時間Ta」として特定される。
【0045】
図10は、移送工程の説明図である。1回目の測定工程に続く移送工程では、閉じていた移送弁4bが開かれると共に、真空ポンプ12によって、容器8b内が徐々に加圧されていく。これによって、加圧状態に設定された容器8bと、大気開放された容器8aとの間の圧力差が生じて、流出側の容器8bから流入側の容器8aに向かって水が移送される。そして、流入側の容器8aの貯留量(水位レベル)が500ml相当に到達したことが水量センサ15bによって検知された場合、移送工程が終了する。
【0046】
図11は、2回目の測定工程の説明図である。移送工程に続く2回目の測定工程では、真空ポンプ12によって、容器8b内が徐々に減圧されていく。そして、容器8b内の圧力が第1の測定系2の測定時と同一の真空圧(例えば、-80kPa)に到達したことが真空計14によって検知された場合、閉じていたろ過弁11aが開かれる。これによって、2回目のろ過が開始され、時間計測部7によって、ろ過時間のカウントが開始される。容器8aに貯留された水に対するフィルタ10aによるろ過は、流出側の容器8aから流入側の容器8bに向かう吸引力を付与しつつ行われる。この吸引力は、大気開放された容器8aと、真空状態に設定された容器8bとの間の圧力差(第1の測定系2の測定時と同一の圧力差)によって生起される。そして、ろ過済みの水を貯留する容器8bの貯留量(水位レベル)が500ml相当に到達したことが水量センサ15aによって検知された場合、時間計測部7によるろ過時間のカウントが終了し、そのカウント値が「蒸留水のろ過時間Tb」として特定される。
【0047】
このように、本実施形態によれば、上述した第1の実施形態と同様の作用効果が得られると共に、2つの測定系2,3で容器8a,8bを完全に共用することで、STR測定装置1Cの構成部品数を減らすことができる。
【符号の説明】
【0048】
1A~1C STR測定装置
2 第1の測定系
3 第2の測定系
4 移送系
4a 移送管
4b 移送弁
5 圧力系
6 制御部
7 時間計測部
8a~8d 容器
9a,9b ろ過管
10a,10b フィルタ
11a,11b ろ過弁
12 真空ポンプ
13a~13e 弁
14 真空計
15a~15c 水量センサ
16 交換機構