(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022153021
(43)【公開日】2022-10-12
(54)【発明の名称】鉄道車両用ブレーキディスク
(51)【国際特許分類】
F16D 65/12 20060101AFI20221004BHJP
F16D 65/847 20060101ALI20221004BHJP
B61H 5/00 20060101ALI20221004BHJP
【FI】
F16D65/12 U
F16D65/847
B61H5/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021056027
(22)【出願日】2021-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】390021577
【氏名又は名称】東海旅客鉄道株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001553
【氏名又は名称】アセンド特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】野上 裕
(72)【発明者】
【氏名】加藤 孝憲
(72)【発明者】
【氏名】田村 憲司
(72)【発明者】
【氏名】宮部 成央
(72)【発明者】
【氏名】金森 成志
(72)【発明者】
【氏名】北澤 結寿華
(72)【発明者】
【氏名】神谷 真弘
【テーマコード(参考)】
3J058
【Fターム(参考)】
3J058AA47
3J058AA53
3J058BA37
3J058CB14
3J058CB23
3J058CB25
3J058DD02
3J058DE02
3J058FA21
(57)【要約】
【課題】鉄道車両用ブレーキディスクの制動時において、ディスク本体の冷却、特に熱的に不利となるディスク本体の外周部の冷却を促進する。
【解決手段】ブレーキディスク(100)は、ディスク本体(10)と、フィン(20)とを備える。ディスク本体(10)の厚みは、半径方向で内側に向かうにつれて小さくなる。フィン(20)は、ディスク本体(10)の裏面(12)上に放射状に配置される。フィン(20)の少なくとも一部は、半径方向の中央部にボルト孔(22)を有する。ディスク本体(10)は、突起(13)を含む。突起(13)は、裏面(12)のうちボルト孔(22)よりも半径方向で外側に位置する部分に形成される。フィン(20)の各々は、頂面(21)と、凸部(25)とを含む。凸部(25)は、仮想平面(S1)よりも半径方向で内側に突出する。仮想平面(S1)は、頂面(21)の端部(212)と、裏面(12)の内周縁(122)とを通る。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄道車両用のブレーキディスクであって、
表面及び裏面を有し、半径方向で内側に向かうにつれて厚みが小さくなる環状のディスク本体と、
前記裏面上に放射状に配置される複数のフィンであって、当該フィンの少なくとも一部は、前記半径方向において中央部にボルト孔を有する前記複数のフィンと、
を備え、
前記ディスク本体は、
前記裏面のうち前記ボルト孔よりも前記半径方向で外側に位置する部分に形成される複数の突起、
を含み、
前記フィンの各々は、
前記半径方向に延びる頂面と、
前記ブレーキディスクを前記半径方向に沿って切断した断面で見て、前記半径方向における前記頂面の両端部のうち内側に位置する端部と、前記裏面の内周縁とを通る仮想平面よりも、前記半径方向で内側に突出する凸部と、
を含む、ブレーキディスク。
【請求項2】
請求項1に記載のブレーキディスクであって、
前記突起は、前記裏面の全体にわたって形成される、ブレーキディスク。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のブレーキディスクであって、
前記ボルト孔を有する前記フィンの各々は、
前記半径方向において前記ボルト孔の外側に配置され、前記フィンを横断する第1溝、
を含む、ブレーキディスク。
【請求項4】
請求項3に記載のブレーキディスクであって、
前記ボルト孔を有する前記フィンの各々は、さらに、
前記半径方向において前記ボルト孔の内側に配置され、前記フィンを横断する第2溝、
を含む、ブレーキディスク。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載のブレーキディスクであって、
前記裏面は、前記ブレーキディスクの前記断面で見て、前記内周縁に向かうにつれて前記表面に近づくように前記表面に対して傾斜する、ブレーキディスク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、鉄道車両用のブレーキディスクに関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両の制動装置として、ディスクブレーキが広く使用されている。ディスクブレーキは、環状のブレーキディスクと、ブレーキライニングと、を備える。ブレーキディスクは、例えば、車輪に締結され、車輪とともに回転する。ブレーキディスクには、ブレーキライニングが押し付けられる。ブレーキライニングとブレーキディスクとの摩擦により、ブレーキディスク及び車輪が制動される。
【0003】
例えば新幹線等、高速で走行する鉄道車両に用いられるブレーキディスクには、その耐久性を確保する観点から、制動時における十分な冷却性能(放熱性能)が求められる。特に、高速鉄道車両が下り勾配区間を走行している間は、ブレーキディスクの制動が間欠的に行われる。このとき、ブレーキディスクの冷却性能が不十分であれば、ブレーキディスクが高温になり、結果としてブレーキディスクの耐久性が損なわれる。さらに、高温によりブレーキディスクが熱膨張することで、ブレーキディスクを車輪と締結するボルトへの負荷が増大する。
【0004】
特許文献1は、制動時における冷却性能を向上させるための鉄道車両用ブレーキディスクを開示する。このブレーキディスクにおいて、ディスク本体の裏面上には複数のフィンが放射状に配置されている。各フィンは、車輪に接触し、ディスク本体と車輪との間に通気路を形成する。当該通気路は、ブレーキディスクが車輪とともに回転するとき、ブレーキディスクの内周側から外周側に向かって空気を通過させる。この空気により、ブレーキディスクが冷却される。
【0005】
特許文献1において、フィンの一部はボルト孔を有する。ボルト孔は、ブレーキディスクの半径方向においてフィンの中央部に形成されている。各フィンにおいて、ボルト孔の外周側及び内周側には、ブレーキディスクの円周方向に沿う溝が形成されている。この溝は、ディスク本体と車輪との間の通気路を流れる空気に圧力損失を生じさせ、通気量を抑制することで空力音を低減させる。
【0006】
特許文献2は、自動車用ディスクブレーキへの適用を想定したブレーキディスクを開示する。このブレーキディスクは、車軸に取り付けられる一対のディスク本体(摺動板)と、ディスク本体の間において放射状に配置される複数のフィンと、を有する。各フィンは、ブレーキディスクの半径方向に延び、隣接するフィン及び一対のディスク本体とともに通気路を画定する。一対のディスク本体のうち、車軸方向で内側に配置されるディスク本体は、テーパ部を有する。テーパ部は、ブレーキディスクの半径方向で内側に向かうにつれて、ディスク本体同士の間隔が広くなるように形成されている。特許文献2によれば、このテーパ部により、ブレーキディスクの内周側で通気路の開口面積が広くなり、通気路に対する空気の流入抵抗が小さくなるため、通気路内の風量を増大させてブレーキディスクの冷却性能を高めることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2014/038621号
【特許文献2】特許第3521266号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献2のブレーキディスクでは、ディスク本体にテーパ部を設けることにより、ディスク本体が通常の平坦なリング状である場合よりも通気路内の通気量を高め、放熱性能の向上を図っている。しかしながら、鉄道車両は、自動車よりも車両重量及び走行速度が大きく、必要な制動力が大きい。よって、鉄道車両で使用されるブレーキディスクに対する熱負荷は、特許文献2のように自動車で使用されるブレーキディスクと比較して相対的に過大となる。
【0009】
これに加えて、ブレーキディスクのディスク本体上にはフィンが放射状に配置されている。隣り合うフィン間の間隔は、内周側から外周側に向かって広がっている。そのため、ディスク本体の外周部では熱容量が不足する。さらに、ディスク本体の外周部の周速は内周部の周速よりも大きいため、ディスク本体とブレーキライニングとの摩擦による入熱量はディスク本体の外周部で大きくなる。よって、ディスク本体の外周部は、熱的に不利な状態となる。
【0010】
したがって、鉄道車両用ブレーキディスクにおいて、ディスク本体の冷却、特にディスク本体の外周部の冷却を促進するには、自動車への適用を想定した特許文献2の技術だけでは不十分である。
【0011】
本開示は、鉄道車両用ブレーキディスクの制動時において、ディスク本体の冷却、特に熱的に不利となるディスク本体の外周部の冷却を促進することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本開示に係る鉄道車両用のブレーキディスクは、環状のディスク本体と、複数のフィンと、を備える。ディスク本体は、表面及び裏面を有する。ディスク本体の厚みは、半径方向で内側に向かうにつれて小さくなる。複数のフィンは、裏面上に放射状に配置される。複数のフィンの少なくとも一部は、ディスク本体の半径方向において中央部にボルト孔を有する。ディスク本体は、複数の突起を含む。複数の突起は、裏面のうちボルト孔よりも半径方向で外側に位置する部分に形成される。フィンの各々は、頂面と、凸部と、を含む。頂面は、半径方向に延びる。凸部は、ブレーキディスクを半径方向に沿って切断した断面で見て、仮想平面よりも半径方向で内側に突出する。仮想平面は、上記断面で見て、半径方向における頂面の両端部のうち内側に位置する端部と、裏面の内周縁とを通る。
【発明の効果】
【0013】
本開示によれば、鉄道車両用ブレーキディスクの制動時において、ディスク本体の冷却、特に熱的に不利となるディスク本体の外周部の冷却を促進することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、実施形態に係る鉄道車両用ブレーキディスクの裏面図である。
【
図2】
図2は、
図1に示すブレーキディスクの1/8円部分斜視図である。
【
図3】
図3は、
図1に示すブレーキディスクの半径方向断面図である。
【
図4】
図4は、一般的なブレーキディスクの制動時における温度分布を例示する図である。
【
図5】
図5は、実施形態に係る鉄道車両用ブレーキディスクと比較される他のブレーキディスクを示す図である。
【
図6】
図6は、実施形態に係る鉄道車両用ブレーキディスクと比較される他のブレーキディスクであって、
図5に示すブレーキディスクとは異なるブレーキディスクを示す図である。
【
図7】
図7は、熱流体解析に使用した各モデルの半径方向断面を示す模式図である。
【
図8】
図8は、各モデルについて、熱流体解析で得られた通気量と放熱指数との関係を示すグラフである。
【
図9】
図9は、各モデルについて、ディスク本体の裏面の半径方向座標と放熱指数との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
実施形態に係る鉄道車両用のブレーキディスクは、環状のディスク本体と、複数のフィンと、を備える。ディスク本体は、表面及び裏面を有する。ディスク本体の厚みは、半径方向で内側に向かうにつれて小さくなる。複数のフィンは、裏面上に放射状に配置される。複数のフィンの少なくとも一部は、ディスク本体の半径方向において中央部にボルト孔を有する。ディスク本体は、複数の突起を含む。複数の突起は、裏面のうちボルト孔よりも半径方向で外側に位置する部分に形成される。フィンの各々は、頂面と、凸部と、を含む。頂面は、半径方向に延びる。凸部は、ブレーキディスクを半径方向に沿って切断した断面で見て、仮想平面よりも半径方向で内側に突出する。仮想平面は、上記断面で見て、半径方向における頂面の両端部のうち内側に位置する端部と、裏面の内周縁とを通る(第1の構成)。
【0016】
鉄道車両用ブレーキディスクは、使用時において、車軸に固定される円板状の回転部材(例えば車輪)に締結される。ブレーキディスクは、各フィンの頂面が回転部材の側面に接触するように回転部材に取り付けられる。フィンは、ディスク本体及び回転部材とともに、ブレーキディスクの半径方向に延びる複数の通気路を画定する。第1の構成では、ディスク本体の厚みが半径方向内側に向かうにつれて小さくなっているため、各通気路がディスク本体の内周側において広く開口する。よって、制動時において、この開口から多量の空気を通気路に流入させることができ、通気路内の通気量を増大させることができる。通気路内の通気量が増大すると、ディスク本体の外周側における空気の流速も大きくなる。そのため、制動時において、ディスク本体の冷却、特に熱的に不利となるディスク本体の外周部の冷却を促進することができる。
【0017】
第1の構成によれば、ディスク本体の裏面において、フィンのボルト孔よりも半径方向外側の部分に複数の突起が形成されている。これらの突起により、ディスク本体の外周部の表面積が拡大する。また、第1の構成によれば、制動時において、通気路内の通気量が増大してディスク本体の外周側で空気の流速が大きくなるため、各突起の表面に形成される温度境界層が薄くなる。よって、ディスク本体の外周部の熱伝達率を上昇させることができる。これらの結果、制動時において、ディスク本体の冷却、特に熱的に不利となるディスク本体の外周部の冷却をさらに促進することができる。
【0018】
鉄道車両用ブレーキディスクの放熱性能が不足する場合、ブレーキディスクの昇温時における到達温度が高くなるため、ブレーキディスクの変形の程度、又はボルトへの負荷応力が大きくなる。その結果、ブレーキディスクにおいて強度的な問題(耐久性の問題)が生じる可能性がある。また、ブレーキディスクの放熱性能が低い場合、昇温後のブレーキディスクが冷却される速度が小さく、ブレーキディスクの冷却に要する時間が長くなる。そのため、間欠的に制動を繰り返して鉄道車両を抑速することが困難になるという問題も生じ得る。これに対して、第1の構成におけるブレーキディスクでは、ディスク本体の冷却、特に熱的に不利となるディスク本体の外周部の冷却が促進されるため、鉄道車両用のブレーキディスクとして要求される放熱性能を確保することができる。よって、放熱性能の不足に起因する上記問題の発生を抑制することができる。
【0019】
一般に、鉄道車両用ブレーキディスクが使用中に過度に高温化すると、ブレーキディスクの変形の程度、又はボルトへの負荷応力が大きくなるため、ブレーキディスクの耐久性に問題が生じる可能性がある。一方、ブレーキディスクの過度な高温化を回避するため、制動力を低減させると、鉄道車両の制動距離が延伸してしまう。よって、鉄道車両用のブレーキディスクでは、適切な熱容量を確保することが必要である。ここで、ディスク本体を半径方向内側に向かって単純に薄肉化した場合、ブレーキディスクの内周側の質量が減少して熱容量が低下する。その結果、制動時において、ブレーキディスクの内周側で局所的な高温化が発生する可能性がある。しかしながら、第1の構成では、半径方向内側に突出する凸部によって各フィンを増量することにより、ブレーキディスクの内周側の熱容量を補填している。このため、ブレーキディスクの内周側における局所的な高温化を回避することができる。すなわち、半径方向内側に突出する凸部をフィンに設けることにより、ブレーキディスクにおいて適切な熱容量を確保することができ、制動力を不必要に低減させることなく、ブレーキディスクの高温化を抑制することができる。よって、鉄道車両用のブレーキディスクとして要求される耐久性を確保することができる。また、半径方向内側に突出する凸部により、フィンの表面積を拡大することができるため、ブレーキディスクの冷却性能を向上させる効果も期待することができる。
【0020】
突起は、ディスク本体の裏面の全体にわたって形成されていてもよい(第2の構成)。
【0021】
第2の構成によれば、ディスク本体の裏面全体に突起が散在する。これにより、ディスク本体の裏面の表面積が全体的に拡大されるため、ディスク本体全体の熱伝達率を上昇させることができる。よって、ブレーキディスクの冷却性能をより向上させることができる。
【0022】
ボルト孔を有するフィンの各々は、自身を横断する第1溝を含んでいてもよい。第1溝は、半径方向においてボルト孔の外側に配置される(第3の構成)。
【0023】
第3の構成によれば、ディスク本体の半径方向においてボルト孔の外側に配置された第1溝により、ブレーキディスクの外周側でフィンの表面積が増大する。また、第1溝の縁部で空気の流れの剥離が生じ、温度境界層が薄くなるため、ブレーキディスクの外周側で熱伝達率が向上する。よって、制動時において、ディスク本体の外周部の冷却をより促進することができる。
【0024】
一般に、通気路内の通気量が増大すると、鉄道車両の走行時に発生する空力音が増加する。これに対して、第3の構成では、ボルト孔を有するフィンに第1溝が形成されている。第1溝の縁部や壁面は、ディスク本体の外周部の冷却を促進する一方、通気路を流れる空気に若干の圧力損失を生じさせて通気量を減少させる。よって、ブレーキディスクの冷却性能を高めつつ、走行時における空力音の発生を抑制することができる。
【0025】
ボルト孔を有するフィンの各々は、さらに、自身を横断する第2溝を含んでいてもよい。第2溝は、半径方向においてボルト孔の内側に配置される(第4の構成)。
【0026】
第4の構成によれば、ディスク本体の半径方向においてボルト孔の内側に配置された第2溝により、ブレーキディスクの内周側でもフィンの表面積が増大するとともに、温度境界層が薄くなって熱伝達率が向上する。そのため、ブレーキディスクの冷却性能を全体的に向上させることができる。また、第1溝及び第2溝の双方によって通気路を流れる空気に圧力損失を生じさせて通気量を減少させることができるため、ブレーキディスクの冷却性能をさらに高めつつ、空力音の発生をより確実に抑制することができる。
【0027】
ディスク本体の裏面は、ブレーキディスクを半径方向に沿って切断した断面で見て、内周縁に向かうにつれて表面に近づくように当該表面に対して傾斜することが好ましい(第5の構成)。
【0028】
第5の構成によれば、ディスク本体の裏面が傾斜面となっている。これにより、ディスク本体と回転部材との間に形成される通気路の断面積は、ブレーキディスクの内周側から外周側に向かい、急変することなく徐々に縮小される。よって、通気路を流れる空気に大きな圧力損失が発生するのを防止することができる。その結果、通気路内の通気量を十分に確保することができ、ブレーキディスクの冷却性能をより向上させることができる。
【0029】
第5の構成によれば、ディスク本体の裏面が内周縁に向かうにつれて表面に近づくことにより、裏面に設けられたフィンの高さがブレーキディスクの内周側に向かって大きくなる。すなわち、ブレーキディスクの内周側でフィンの表面積が拡大される。よって、ブレーキディスクの内周側での冷却を促進することができる。
【0030】
以下、本開示の実施形態に係る鉄道車両用ブレーキディスクについて、図面を参照しつつ説明する。各図において同一又は相当の構成については同一符号を付し、同じ説明を繰り返さない。各図は、実施形態に係るブレーキディスクの主要な構成を説明するための模式的な図である。このため、各図に示されるブレーキディスクの細部の形状又は寸法比率等は、実際のブレーキディスクにおけるものと異なる場合がある。
【0031】
[ブレーキディスクの構成]
図1は、実施形態に係る鉄道車両用ブレーキディスク100の裏面図である。
図2は、
図1に示すブレーキディスク100の1/8円部分斜視図である。ブレーキディスク100は、鉄道車両の回転部材(図示略)に締結される。回転部材は、環状円板であり、車軸に固定されて車軸とともに回転する。回転部材は、例えば車輪である。
【0032】
図1及び
図2を参照して、ブレーキディスク100は、ディスク本体10と、複数のフィン20と、を備える。
【0033】
ディスク本体10は、環状の円板である。ディスク本体10は、表面11及び裏面12を有する。表面11は、ブレーキライニング(図示略)が押し付けられる摺動面である。裏面12は、表面11と反対向きの面である。ブレーキディスク100が回転部材に締結されたとき、裏面12は、回転部材の側面に対向する。以下、説明の便宜上、ディスク本体10の半径方向及び円周方向を単に半径方向及び円周方向といい、半径方向と円周方向の両者に直交する方向を厚み方向という。
【0034】
ディスク本体10は、複数の突起13を含む。これらの突起13は、裏面12上に形成されている。各突起13は、例えば、半球状、又は半回転楕円体状をなす。各突起13は、他の突起13と同一の形状を有していてもよいが、他の突起13と異なる形状を有していてもよい。
【0035】
複数のフィン20は、ディスク本体10の裏面12上に放射状に配置されている。フィン20は、ディスク本体10の内周側から外周側に延びている。フィン20の各々は、半径方向に延びる頂面21を含む。ブレーキディスク100が回転部材に締結されたとき、頂面21は、回転部材の側面に接触する。これにより、回転部材と、円周方向において隣り合うフィン20と、ディスク本体10との間に空間が形成される。当該空間は、ブレーキディスク100が回転部材とともに回転する際に空気が通過する通気路となる。
【0036】
フィン20の少なくとも一部は、半径方向の中央部にボルト孔22を有する。本実施形態の例では、ディスク本体10の裏面12上に配置された複数のフィン20のうち、一部のフィン20にのみボルト孔22が設けられている。ボルト孔22は、フィン20及びディスク本体10を厚み方向に貫通する。ボルト孔22には、ブレーキディスク100を回転部材に締結する際にボルト(図示略)が挿入される。
【0037】
ボルト孔22を有するフィン20の各々は、溝23,24を有する。溝23,24は、頂面21からディスク本体10側に凹の形状をなす。溝23,24は、概ね円周方向に延び、フィン20を横断する。
【0038】
溝23,24は、半径方向においてボルト孔22の両隣に配置される。溝23は、半径方向においてボルト孔22の外側に設けられている。溝24は、半径方向においてボルト孔22の内側に設けられている。溝23,24の形状は、特に限定されるものではない。溝23,24の壁面及び底面は、平面、凸曲面、もしくは凹曲面、又はこれらの組み合わせによって構成することができる。本実施形態では、ボルト孔22を有しないフィン20も、溝23,24を有している。
【0039】
図3を参照して、ディスク本体10及びフィン20の構成をさらに詳しく説明する。
図3は、
図1に示すブレーキディスク100のIII-III線断面図、つまり、ブレーキディスク100を半径方向に沿って切断した断面図である。以下、半径方向に沿うブレーキディスク100の断面を半径方向断面という。
【0040】
ブレーキディスク100の半径方向断面視で、ディスク本体10の裏面12は、表面11に対して傾斜する。裏面12は、その外周縁121から内周縁122に向かうにつれて表面11に近づくように傾斜する。ブレーキディスク100の半径方向断面視で、裏面12が表面11となす角度αは、好ましくは8°以下であり、より好ましくは6°以下である。角度αは、2°以上であることが好ましい。
【0041】
裏面12が表面11に対して傾斜していることにより、ディスク本体10の厚みは、半径方向内側に向かうにつれて小さくなる。すなわち、ディスク本体10は、全体として、半径方向の外側から内側に向かい徐々に薄肉化されている。ディスク本体10は、裏面12の外周縁121の位置において最大厚みt1を有する。ディスク本体10は、裏面12の内周縁122の位置において最小厚みt2を有する。
【0042】
最大厚みt1は、裏面12の外周縁121から表面11までの厚み方向の長さである。最大厚みt1は、例えば、17mm~25mmとすることができる。
【0043】
最小厚みt2は、裏面12の内周縁122から表面11までの厚み方向の長さである。本実施形態では、表面11の内周縁に切欠き部111が設けられているが、最小厚みt2は、この切欠き部111を考慮しない厚みである。最小厚みt2は、例えば、3mm~12mmに設定することができる。
【0044】
ディスク本体10の裏面12において、円周方向に隣り合うフィン20の間には、前述の突起13が複数個ずつ設けられている。例えば、裏面12において互いに隣り合うフィン20の間には、少なくとも5個の突起13が配置される。
【0045】
複数の突起13は、裏面12のうち、少なくともボルト孔22よりも半径方向外側に位置する部分に形成される。本実施形態では、裏面12の全体にわたって突起13が形成されている。すなわち、ボルト孔22の中心Xを境に裏面12を外周側、内周側に区分したとき、外周側の領域から内周側の領域にわたって複数の突起13が設けられている。
【0046】
本実施形態では、全ての突起13が半球状をなす。ただし、成形性を考慮すると、ボルト孔22よりも半径方向外側に位置する突起13は、半回転楕円体状であることが好ましい。
【0047】
フィン20の高さは、半径方向外側から内側に向かって徐々に大きくなる。ここでいうフィン20の高さとは、ディスク本体10の裏面12からフィン20の頂面21までの厚み方向の距離である。本実施形態では、頂面21がディスク本体10の表面11に実質的に平行である一方、裏面12は半径方向内側に向かうにつれて表面11に近づくように表面11に対して傾斜する。そのため、ブレーキディスク100の内周側に向かうほど、フィン20の頂面21がディスク本体10の裏面12から離れ、フィン20の高さが大きくなる。
【0048】
各フィン20は、凸部25を含む。凸部25は、フィン20のうち、半径方向で仮想平面S1よりも内側に突出する部分である。ブレーキディスク100の半径方向断面視で、凸部25は、仮想平面S1から仮想平面S2までの間に設けられる。仮想平面S1は、半径方向における頂面21の両端部211,212のうち内側に位置する端部212と、ディスク本体10の裏面12の内周縁122とを通る仮想的な平面である。仮想平面S2は、裏面12の内周縁122を通って厚み方向に延びる仮想的な平面である。
【0049】
凸部25は、半径方向で内向きの表面251を有する。本実施形態において、表面251は、滑らかな曲面で構成されている。ただし、表面251は、平面で構成されていてもよい。ブレーキディスク100の半径方向断面視で、表面251は、複数種類の曲線及び/又は直線を組み合わせて構成することができる。
【0050】
[実施形態の効果]
本実施形態に係るブレーキディスク100では、ディスク本体10の厚みが半径方向内側に向かうにつれて小さくなっている。これにより、ブレーキディスク100の内周側で、鉄道車両の回転部材と、円周方向において隣り合うフィン20と、ディスク本体10とによって形成される通気路の断面積が拡大される。このため、回転部材の制動時において、ブレーキディスク100の内周側から通気路内に流入する空気の量(通気量)を増大させることができる。
【0051】
図4は、一般的なブレーキディスクの制動時における温度分布を例示する図である。
図4を参照して、回転部材の制動中、ディスク本体10では、ボルト孔22よりも半径方向外側の部分(外周部)が特に高温化する傾向にある。これは、裏面12に放射状に配置されるフィン20により、ディスク本体10の外周側に向かうにつれて通気路の断面積が円周方向に拡大し、ディスク本体10の外周部で空気の流速が低下して熱伝達率が低下するためである。また、ディスク本体10の外周部では、内周部と比較して周速が大きいため、ブレーキライニングとの摩擦による入熱量も大きくなり、温度の上昇が生じやすい。
【0052】
これに対して、本実施形態に係るブレーキディスク100では、ディスク本体10の裏面12において、少なくとも、ボルト孔22よりも半径方向外側の部分(外周部)に複数の突起13が形成されている。これらの突起13により、裏面12の外周部の表面積を拡大することができる。さらに、本実施形態では、ディスク本体10を半径方向内側に向かうにつれて薄肉化し、通気路内の通気量を増大させている。そのため、裏面12の外周部で空気の流速が増大し、各突起13の表面に形成される温度境界層が薄くなる。よって、裏面12の外周部の熱伝達率を上昇させることができる。したがって、ディスク本体10の冷却、特に熱的に不利となるディスク本体10の外周部の冷却を促進することができる。
【0053】
本実施形態によれば、特に高温化しやすいディスク本体10の外周部の冷却が促進されるため、ブレーキディスク100の冷却性能及び耐久性を向上させることができる。このようなブレーキディスク100は、高速鉄道車両に用いることが可能である。
【0054】
本実施形態に係るブレーキディスク100では、ディスク本体10の厚みが半径方向内側に向かうにつれて徐々に低減されている。これにより、ブレーキディスク100を軽量化することができ、鉄道車両の走行時の省エネルギー化を図ることができる。
【0055】
本実施形態では、凸部25により、ブレーキディスク100の内周側でフィン20が増量されている。このため、ディスク本体10の全体を半径方向内側に向かうにつれて薄肉化しているにもかかわらず、ブレーキディスク100の内周側において熱容量を確保することができる。よって、制動時において、ブレーキディスク100の内周側が局所的に高温化するのを回避することができる。その結果、ブレーキディスク100において、鉄道車両用のブレーキディスクとして要求される耐久性を確保することができる。
【0056】
ブレーキディスク100の内周側の熱容量を増加させる場合、ブレーキディスク100の内周側で、フィン20の一部を円周方向に突出させることも考えられる。例えば
図5に示すように、ブレーキディスク100の内周側の熱容量を単に増加させるだけであれば、ブレーキディスク100の内周側において、フィン20の両側面に凸部26を設けることも考えられる。しかしながら、この場合、ブレーキディスク100の内周側において通気路の断面積が特に円周方向に減少することになるため、通気路内の通気量が減少する。すなわち、
図5の上図においてハッチングを付して示すように、通気路における空気の流入面が凸部26によって縮小され、ブレーキディスク100と回転部材との間の通気性が低下する。よって、ブレーキディスク100の冷却性能が低下する。さらに、フィン20を部分的に円周方向に突出させる場合、半径方向に延びる通気路において断面積が急拡大する部分が形成される。その結果、通気路では、その内部を流れる空気の圧力損失が増大して通気量が減少し、空気の流速及び熱伝達率が低下する。
【0057】
あるいは、ブレーキディスク100の内周側の熱容量を単に増加させるだけであれば、例えば
図6に示すように、ブレーキディスク100の内周側において、ディスク本体10の裏面12上に凸部14を設けることも考えられる。しかしながら、この場合、ブレーキディスク100の内周側において通気路の断面積が特に厚み方向に減少することになるため、通気路内の通気量が減少する。すなわち、
図6の上図においてハッチングを付して示すように、通気路における空気の流入面が凸部14によって縮小され、ブレーキディスク100と回転部材との間の通気性が低下する。よって、ブレーキディスク100の冷却性能が低下する。
【0058】
これに対して、本実施形態では、ブレーキディスク100の内周側において、フィン20を半径方向内側に突出させて凸部25を形成している。凸部25は、通気路内には突出しないため、ブレーキディスク100の内周側において、通気路の断面積を実質的に減少させない。すなわち、通気路における空気の流入面が凸部25によって縮小されることがなく、ブレーキディスク100と回転部材との間の良好な通気性を確保することができる。よって、ブレーキディスク100において優れた冷却性能を維持しつつ、熱容量を増加させることができる。また、凸部25によってフィン20の表面積を拡大させることができるため、ブレーキディスク100の内周側の冷却性能をより向上させることもできる。
【0059】
本実施形態では、ディスク本体10の裏面12の全体にわたり、突起13が形成されている。そのため、裏面12の表面積を全体的に拡大することができ、裏面12全体の熱伝達率を上昇させることができる。よって、ブレーキディスク100の冷却性能をより向上させることができる。
【0060】
本実施形態において、各フィン20には、自身を横断する溝23,24が形成されている。溝23,24の縁部や壁面は、通気路を流れる空気に圧力損失を生じさせて、通気路における通気量をわずかに低減させる。このため、制動時における空力音の発生を抑制することができる。一方、溝23,24は、フィン20の表面積を拡大できるとともに、その縁部において空気の流れの剥離を生じさせ、温度境界層を薄くすることができる。これにより、制動時におけるブレーキディスク100の冷却が促進される。すなわち、溝23,24は、ブレーキディスク100の冷却性能の向上に寄与することもできる。
【0061】
本実施形態では、全てのフィン20が溝23,24を有する。ただし、溝23,24は各フィン20に必須の構成ではなく、フィン20の一部又は全部が溝23,24を有しなくてもよい。例えば、ボルト孔22が設けられたフィン20にのみ、ボルト孔22の両側に溝23,24を形成することができる。ボルト孔22が設けられたフィン20は、半径方向外側の溝23を有する一方、半径方向内側の溝24を有しなくてもよい。
【0062】
本実施形態において、ディスク本体10の裏面12は、ブレーキディスク100の半径方向断面視で、表面11に対して傾斜する。裏面12は、内周縁122に向かうにつれて表面11に徐々に近づくように構成されている。これにより、ディスク本体10と回転部材との間に形成される通気路の断面積は、半径方向内側から外側に向かい、急変することなく徐々に縮小されることになる。そのため、通気路内の空気に大きな圧力損失を生じさせることなく、通気路内の通気量を十分に確保することができる。よって、ブレーキディスク100の冷却性能をより向上させることができる。
【0063】
ディスク本体10の裏面12が内周縁122に向かうにつれて表面11に近づくように傾斜することにより、フィン20の高さがブレーキディスク100の内周側で大きくなる。すなわち、ブレーキディスク100の内周側でフィン20の表面積が拡大する。よって、ブレーキディスク100の内周側での冷却を促進することができる。
【0064】
ただし、ディスク本体10の裏面12は、その全体が単一の傾斜面でなくてもよい。裏面12は、例えば、傾斜面及び凸曲面によって構成されていてもよいし、凹曲面及び凸曲面によって構成されていてもよい。ディスク本体10は、全体として、半径方向内側に向かうにつれて実質的に薄肉化されていればよく、裏面12の形状は特に限定されるものではない。
【0065】
以上、本開示に係る実施形態について説明したが、本開示は上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【実施例0066】
以下、実施例によって本開示をさらに詳しく説明する。ただし、本開示は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0067】
本開示に係る鉄道車両用ブレーキディスクによる効果を検証するため、汎用熱流体解析ソフトウェア(製品名:ANSYS Fluent、ANSYS社製)を用い、鉄道車両が360km/hで定常走行している場合を想定して三次元熱流体解析を行った。熱流体解析に使用したブレーキディスクの基本仕様は、以下の通りである。
<基本仕様>
・新幹線用の鍛鋼ブレーキディスク
・ディスク本体の内径:466mm
・ディスク本体の外径:722mm
・フィンの半径方向の長さ:128mm
・ボルト孔:直径585mmの円上に中心が位置するように配置
【0068】
ブレーキディスクの冷却性能を示す評価指標として、放熱指数を使用した。放熱指数は、ディスク表面の平均熱伝達率と、ディスク表面積との積算値(ブレーキディスク1枚当たり・360km/h定常走行時)である。この放熱指数が高いほど、ブレーキディスクの冷却性能が高いことを意味する。
【0069】
また、空力音のレベルを示す評価指標として、通気量を使用した。通気量は、360km/h定常走行時におけるブレーキディスクと車輪(回転部材)との間の通気量である。国際公開第2010/071169号に記載されている通り、ブレーキディスクと車輪との間の通気量と、空力音のレベルとの間には、強い相関がある。このため、熱流体解析で得られた通気量(単位時間当たり)を空力音のレベルを評価するための指標とした。通気量が大きければ、空力音のレベルも大きいといえる。
【0070】
図7は、熱流体解析に使用した各モデルの半径方向断面を示す模式図である。実施例1~4のモデルでは、上記実施形態に係るブレーキディスク100と同様、ディスク本体10の全体が半径方向内側に向かうにつれて薄肉化され、且つ、フィン20に凸部25が設けられている。実施例1のモデルでは、ディスク本体10の裏面12の全体にわたり、突起13が設けられている。実施例2のモデルでは、裏面12のうちボルト孔22よりも半径方向外側の領域のみに、突起13が設けられている。実施例3のモデルでは、裏面12の全体にわたって突起13が設けられるとともに、フィン20においてボルト孔22の両隣に溝23,24が設けられている。実施例4のモデルでは、裏面12の全体にわたって突起13が設けられるとともに、半径方向外側の溝23のみがフィン20に設けられている。
【0071】
各比較例のモデルでは、各実施例と同様、フィン20に凸部25が設けられている。ただし、比較例1、3及び4のモデルでは、ディスク本体10が全体にわたって実質的に一定の厚みを有する。比較例3のモデルでは、ディスク本体10の裏面12に突起13が設けられているが、フィン20に溝23,24が設けられていない。比較例4のモデルでは、フィン20に溝23,24が設けられているが、裏面12に突起13が設けられていない。比較例2のモデルでは、ディスク本体10の全体が半径方向内側に向かうにつれて薄肉化されているものの、裏面12に突起13が形成されていない。
【0072】
実施例1~4及び比較例2において、ディスク本体10の裏面12の角度α(
図3)を5°に設定した。各実施例及び各比較例において、外周縁121におけるディスク本体10の厚みt1(
図3)は同一である。
【0073】
図8は、各モデルについて、熱流体解析で得られた通気量と放熱指数との関係を示すグラフである。
図8に示すように、実施例1~4のモデルの放熱指数は、比較例1~4のモデルの放熱指数よりも有意に高くなった。この結果より、ディスク本体10の全体を半径方向内側に向かうにつれて薄肉化し、且つ、裏面12のうち、少なくともボルト孔22よりも半径方向外側の領域に突起13を設けることで、ブレーキディスクの冷却性能を向上させることができるといえる。
【0074】
実施例1のモデルの放熱指数は、実施例2のモデルの放熱指数よりも高くなっている。すなわち、突起13をディスク本体10の裏面12の全体にわたって設けることで、ブレーキディスクの冷却性能をより向上させることができる。
【0075】
実施例3及び4のモデルの放熱指数は、実施例1のモデルの放熱指数よりもさらに高い。また、実施例3及び4のモデルの通気量は、実施例1及び2のモデルの通気量よりも小さくなっている。よって、フィン20に溝23又は溝23,24を設けることにより、ブレーキディスクの冷却性能をさらに向上させることができ、且つ空力音を低減させることができる。
【0076】
ボルト孔22の両隣に溝23,24を設けた実施例3では、通気量が最も小さくなった。よって、空力音の低減には、フィン20においてボルト孔22の外周側及び内周側の双方に溝23,24を設けることが特に有効であるといえる。
【0077】
図9は、実施例1及び比較例1~3の各モデルについて、ディスク本体10の裏面12の無次元半径方向座標と放熱指数との関係を示すグラフである。
図9のグラフでは、モデルごとに、複数の無次元半径方向座標における裏面12の放熱指数をプロットした。無次元半径方向座標とは、裏面12の内周縁122からの半径方向の距離を裏面12の半径方向の長さで除して無次元化したものである。
【0078】
図9に示すように、裏面12の外周側の放熱指数は、比較例1と比較例2とでほとんど相違しない。よって、ディスク本体10を半径方向内側に向かうにつれて薄肉化するだけでは、ディスク本体10の外周側で放熱指数が向上せず、ディスク本体10の外周部の冷却が促進されないことがわかる。
【0079】
比較例3では、裏面12に突起13が存在することにより、比較例1及び2よりも裏面12の外周側の放熱指数が若干高くなった。しかしながら、実施例1では、この比較例3よりも、裏面12の外周側の放熱指数がさらに高い。よって、ディスク本体10の全体を半径方向内側に向かうにつれて薄肉化することと、裏面12に突起13を設けることとの相乗効果により、裏面12の外周部の冷却が顕著に促進されるといえる。
【0080】
裏面12の内周側の放熱指数は、実施例1の方が比較例1及び3よりも低い。しかしながら、実施例1では、裏面12の傾斜により、フィン20の高さ及び表面積が内周側で増大している。そのため、ブレーキディスクの内周側での冷却性能を確保することができる。よって、実施例1において、裏面12の内周側の放熱指数が上昇しないことは特に問題ではない。