(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022153042
(43)【公開日】2022-10-12
(54)【発明の名称】筒状部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
B21K 1/12 20060101AFI20221004BHJP
B21J 5/06 20060101ALI20221004BHJP
【FI】
B21K1/12
B21J5/06 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021056064
(22)【出願日】2021-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】591204894
【氏名又は名称】コンドーセイコー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】酒井 敏康
【テーマコード(参考)】
4E087
【Fターム(参考)】
4E087AA08
4E087BA18
4E087CA22
4E087CA24
4E087CC05
4E087DB06
4E087DB22
4E087EC17
4E087HA37
4E087HA82
4E087HB02
(57)【要約】
【課題】筒状部材を精度よく押出し工法で製造する。
【解決手段】 円筒状材料を準備する準備工程と、準備した円筒状材料を金型の押出し口より押出して筒状部材に加工する加工工程と、を備えている。筒状部材をその軸線に直交する断面でみたときに、外周面には、外側に凸となる凸部20と、内側に凹となる凹部22とが円周方向に交互に形成されており、内周面には、軸線からの距離が極大値をとる極大部24と、軸線からの距離が極小値をとる極小部26とが円周方向に交互に形成されている。軸線から凸部までの距離が最大となるときの値をD1とし、軸線から凹部までの距離が最小となるときの値をD2とすると、極大部の周方向の位置が、軸線から外周面までの距離が(D1+D2)/2以上となる角度範囲に位置し、極小部の周方向の位置が、軸線から外周面までの距離が(D1+D2)/2未満となる角度範囲に位置する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状材料を準備する準備工程と、
準備した前記円筒状材料を金型の押出し口より押出して筒状部材に加工する加工工程と、を備えており、
前記筒状部材をその軸線に直交する断面でみたときに、
前記筒状部材の外周面には、外側に凸となる凸部と、該凸部に対して内側に凹となる凹部とが円周方向に交互に所定数だけ形成されており、
前記筒状部材の内周面には、前記軸線からの距離が極大値をとる極大部と、軸線からの距離が極小値をとる極小部とが円周方向に交互に前記所定数だけ形成されており、
前記金型の前記押し出し口の先端部は、
前記軸線から前記凸部までの距離が最大となるときの値をD1とし、前記軸線から前記凹部までの距離が最小となるときの値をD2とすると、
前記極大部の周方向の位置が、前記軸線から前記外周面までの距離が(D1+D2)/2以上となる角度範囲に位置し、かつ、
前記極小部の周方向の位置が、前記軸線から前記外周面までの距離が(D1+D2)/2未満となる角度範囲に位置するように形成されている、筒状部材の製造方法。
【請求項2】
前記準備工程では、前記円筒状材料を冷間引き抜き加工により成形し、
前記加工工程では、前記円筒状材料を冷間で前記筒状部材に加工する、請求項1に記載の筒状部材の製造方法。
【請求項3】
前記押出し口の断面積は、その基端部から先端部に向かって徐々に小さくなるようにテーパが付いており、
前記加工工程では、前記円筒状材料は前記基端部から前記先端部に向かう方向に押出される、請求項1又は2に記載の筒状部材の製造方法。
【請求項4】
前記金型は、
前記筒状部材の外周面を成形するためのダイスと、
前記ダイスの内側に配置され、前記筒状部材の内周面を成形するためのインサートパンチと、
前記ダイスと前記インサートパンチの間に配置され、前記円筒状材料を押圧するパンチと、を備えており、
前記押出し口は、前記ダイスの内周面と前記インサートパンチの外周面によって形成されており、
前記加工工程では、前記ダイスと前記インサートパンチの間に配置される前記円筒状材料の一端を前記パンチで押圧し、前記パンチ及び前記インサートパンチを前記押出し口に向かって移動させることで、前記円筒状材料を前記筒状部材に成形する、請求項1~3のいずれか一項に記載の筒状部材の製造方法。
【請求項5】
前記ダイスの内周面であって前記凸部に対応する部分は前記円筒状材料の外周面と一致しており、
前記ダイスの内周面であって前記凹部に対応する部分は前記円筒状材料の内周面より外側に位置しており、
前記インサートパンチの外周面であって前記極大部に対応する部分は前記円筒状材料の内周面と一致又は内周面より外側に位置しており、
前記インサートパンチの外周面であって前記極小部に対応する部分は前記円筒状材料の内周面より内側に位置している、請求項4に記載の筒状部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に開示する技術は、筒状部材の製造方法に関する。詳しくは、特殊な断面形状を有する筒状部材を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
材料を金型の押出し口より押出して筒状部材に加工する加工方法(いわゆる、押出し工法)が知られている。押出し工法では、金型の押出し口の形状を調整することで、特殊な断面形状を有する筒状部材を製造することができる。例えば、特許文献1には、押出し工法により筒状部材を製造する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
押出し工法により筒状部材を成形する場合であって、筒状部材の厚み(径方向の寸法)が円周方向で変化するときは、材料の押出し抵抗が円周方向で変化し、筒状部材の端部に凹凸が生じることがある。筒状部材の端部に凹凸が生じると、筒状部材を離型する際に、筒状部材の端部全体に均一に力を作用させることができず、筒状部材が変形してしまうことがあった。筒状部材が特殊な断面形状を有している場合、変形した筒状部材を切削加工等によって所望の寸法に修正することは特殊な加工方法が必要となることから、筒状部材を精度よく押出し工法で製造する技術が望まれている。
【0005】
本明細書は、筒状部材を精度よく押出し工法で製造するための技術を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書に開示する筒状部材の製造方法は、円筒状材料を準備する準備工程と、準備した円筒状材料を金型の押出し口より押出して筒状部材に加工する加工工程と、を備えている。筒状部材をその軸線に直交する断面でみたときに、筒状部材の外周面には、外側に凸となる凸部と、該凸部に対して内側に凹となる凹部とが円周方向に交互に所定数だけ形成されている一方で、筒状部材の内周面には、軸線からの距離が極大値をとる極大部と、軸線からの距離が極小値をとる極小部とが円周方向に交互に前記所定数だけ形成されている。金型の押し出し口の先端部は、軸線から凸部までの距離が最大となるときの値をD1とし、軸線から凹部までの距離が最小となるときの値をD2とすると、極大部の周方向の位置が、軸線から外周面までの距離が(D1+D2)/2以上となる角度範囲に位置し、かつ、記極小部の周方向の位置が、軸線から外周面までの距離が(D1+D2)/2未満となる角度範囲に位置するように形成されている。
【0007】
上記の筒状部材の製造方法では、円筒状部材を準備し、準備した円筒状部材を金型の押出し口より押出して筒状部材に加工する。円筒状部材から筒状部材に加工することで、全体の加工率を小さくすることができる。また、筒状部材では、外周面に凸部が形成される角度範囲((D1+D2)/2以上となる角度範囲)に内周面の極大部が形成され、外周面に凹部が形成される角度範囲((D1+D2)/2未満となる角度範囲)に内周面の極小部が形成される。このため、凸部と凹部において加工率の差を小さくすることができる。これらによって、筒状部材の全周にわたって潤滑被膜が良好に形成され、筒状部材の端部に凹凸が生じることを抑制することができる。筒状部材の端部に凹凸が生じることを抑制できるため、筒状部材を離型する際に、筒状部材が変形してしまうことを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施例1に係る製造方法で用いられる円筒状部材の縦断面図。
【
図2】実施例1に係る製造方法で製造される筒状部材の縦断面図。
【
図3】
図2に示される筒状部材の横断面図(詳細には、
図2のIII-III線の位置における横断面図)。
【
図4】実施例1に係る製造方法において、金型内に円筒状部材が設置された状態を示す図。
【
図5】
図4に示す状態において円筒状部材とインサートパンチの関係を示す図。
【
図6】
図5の二点鎖線で囲まれた部分(VI)を拡大した図。
【
図7】実施例1に係る製造方法において、金型内に設置された円筒状部材を押出成形後であって離型前の状態を示す図。
【
図8】変形例に係る製造方法で用いられるインサートパンチを示す図。
【
図9】変形例に係る製造方法で製造される筒状部材の横断面図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(特徴1)本明細書が開示する筒状部材の製造方法では、準備工程では、円筒状材料を冷間引き抜き加工により成形してもよい。加工工程では、円筒状材料を冷間で筒状部材に加工してもよい。このような構成によると、円筒状材料の寸法精度を向上でき、それによって、筒状部材の寸法精度も向上することができる。
【0010】
(特徴2)本明細書が開示する筒状部材の製造方法では、押出し口の断面積は、その基端部から先端部に向かって徐々に小さくなるようにテーパが付いていてもよい。そして、加工工程では、円筒状材料は基端部から先端部に向かう方向に押出されてもよい。このような構成によると、成形後の筒状部材の寸法精度を向上することができる。
【0011】
(特徴3)本明細書が開示する筒状部材の製造方法では、金型は、筒状部材の外周面を成形するためのダイスと、ダイスの内側に配置され、筒状部材の内周面を成形するためのインサートパンチと、ダイスとインサートパンチの間に配置され、円筒状材料を押圧するパンチと、を備えていてもよい。押出し口は、ダイスの内周面とインサートパンチの外周面によって形成されていてもよい。加工工程では、ダイスとインサートパンチの間に配置される円筒状材料の一端をパンチで押圧し、パンチ及びインサートパンチを押出し口に向かって移動させることで、円筒状材料を筒状部材に成形してもよい。このような構成によると、円筒状部材から筒状部材を効率的に製造することができる。
【0012】
(特徴4)本明細書が開示する筒状部材の製造方法では、ダイスの内周面であって凸部に対応する部分は円筒状材料の外周面と一致しており、ダイスの内周面であって凹部に対応する部分は円筒状材料の内周面より外側に位置しており、インサートパンチの外周面であって極大部に対応する部分は円筒状材料の内周面と一致又は内周面より外側に位置しており、インサートパンチの外周面であって極小部に対応する部分は円筒状材料の内周面より内側に位置していてもよい。このような構成によると、円筒状部材から筒状部材に成形する際の凸部における加工率と凹部における加工率の差が小さくなり、成形後の筒状部材の寸法精度を向上することができる。
【実施例0013】
(実施例1) 以下、実施例1に係る筒状部材の製造方法について説明する。まず、実施例1の製造方法により製造される筒状部材について説明する。実施例1の筒状部材は、自動車用ステアリング装置に用いられるキーリングである。すなわち、自動車用ステアリング装置では、キーリングはコラム軸の外周面に嵌め込まれ、通常時はキーリングとコラム軸とが一体として回転する。キーリングの外周面にはキー溝が形成されている。イグニッションキーをオフ操作すると、キーリングのキー溝にロックキーが係合し、コラム軸の回転が規制される。この状態でステアリングホイールに大きな回転力が加えられたときは、キーリングに対してコラム軸が相対的に回転することを許容し、これによって、キーリングの損傷が防止されるようになっている。
【0014】
具体的には、
図2,3に示すように、本実施例のキーリング10は、外周面にキー溝が形成されたキー溝部12と、円形状の横断面を有する外周テーパ部14、内周テーパ部16及び円筒部18と、を備えている。円筒部18は、キーリング10の一端に設けられている。円筒部18の外径はD1であり、円筒部18の内径はD4となっている。円筒部18の内径D4は、コラム軸の外径よりも大きくなっている。このため、キーリング10がコラム軸に取付けられたときに、円筒部18はコラム軸とは接触しない。
【0015】
内周テーパ部16は、円筒部18に隣接して設けられている。内周テーパ部16は、その内径が円筒部18側からキー溝部12側に向かって徐々に減少している。具体的には、内周テーパ部16の内径は、円筒部18側の端部でD4となり、キー溝部12側の端部でD3(<D4)となっている。D3は、コラム軸の外径よりもわずかに大きい。このため、キーリング10がコラム軸に取付けられたときに、内周テーパ部16はコラム軸とは接触しない。なお、内周テーパ部16の外径は、円筒部18の外径と同一でD1となっている。
【0016】
外周テーパ部14は、内周テーパ部16に隣接して設けられている。外周テーパ部14は、その外径が円筒部18側からキー溝部12側に向かって徐々に減少している。具体的には、外周テーパ部14の外径は、円筒部18側の端部でD1となり、キー溝部12側の端部でD2(<D1かつ>D4)となっている。外周テーパ部14の内径は、内周テーパ部16のキー溝部12側の端部の内径と同一でD3となっている。このため、外周テーパ部14も、内周テーパ部16と同様、コラム軸とは接触しない。
【0017】
キー溝部12は、外周テーパ部14に隣接して設けられている。
図3に示すように、キー溝部12の外周面には、外側に凸となる凸部20と、凸部20に対して内側に凹となるキー溝22(請求項の凹部の一例)とが円周方向に交互に所定数(本実施例では12個)ずつ形成されている。複数の凸部20のそれぞれは、同一形状に形成されており、周方向に等間隔を空けて配置されている。
図3に示す断面(キーリング10の軸線に直交する断面)において、凸部20の頂部は、キーリング10の軸線を中心とする円弧状に形成されている。また、キーリング10の軸線から凸部20の頂部までの径はD1となっている。
【0018】
複数のキー溝22のそれぞれは、同一形状に形成されている。複数の凸部20が同一形状で周方向に等間隔に配置されていることから、複数のキー溝22も周方向に等間隔を空けて配置されている。
図3に示す断面において、キー溝22の底部は、キーリング10の軸線を中心とする円弧状に形成されている。キーリング10の軸線からキー溝22の底部までの径はD2となっている。なお、凸部20の頂部とキー溝22の底部とを接続する面は、キーリング10の軸線から半径方向に伸びている。
【0019】
一方、キー溝部12の内周面は、所定数(本実施例では12個)の平面部25によって正多角柱状に形成されている。すなわち、
図3に示す断面(キーリング10の軸線に直交する断面)で見ると、キー溝部12の内周面は、正十二角形の輪郭線を有しており、正十二角形の各辺に位置する平面部25と、正十二角形の各頂点に位置する直線部24と、を備えている。すなわち、隣接する平面部25が交差する位置に直線部24が位置している。
図3から明らかなように、キーリング10の軸線からキー溝部12の内周面までの距離は、正十二角形の各頂点(すなわち、直線部24)で最大値となり、正十二角形の各辺の中点(すなわち、平面部25の中央線26)で最小値となる。別言すると、軸線からキー溝部12の内周面までの距離は、周方向に変化する関数となり、正十二角形の各頂点(すなわち、直線部24)で極大値r2(極大部)をとり、正十二角形の各辺の中点(すなわち、平面部25の中央線26)で極小値r1(極小部)をとる。図から明らかなように、正十二角形の各頂点(極大部)と各辺の中点(極小部)は、周方向に等間隔を空けて交互に配置されている。
【0020】
また、
図3から明らかなように、正十二角形の各頂点(すなわち、直線部24)の周方向の位置は、凸部20の周方向の中央に位置している。したがって、正十二角形の各頂点の周方向の位置は、軸線から外周面までの距離がD1(>(D1+D2)/2)となる角度範囲に位置していることになる。一方、正十二角形の各辺の中点(すなわち、平面部25の中央線26)の周方向の位置は、キー溝22の周方向の中央に位置している。したがって、正十二角形の各辺の中点の周方向の位置は、軸線から外周面までの距離がD2(<(D1+D2)/2)となる角度範囲に位置している。
【0021】
ここで、キーリング10の軸線から極大部(直線部24)までの長さr2はコラム軸の半径よりわずかに大きくなっており(具体的には、外周テーパ部14の内径D3の1/2)、キーリング10の軸線から極小部(平面部25の中央線26)までの長さr1はコラム軸の半径よりわずかに小さくなっている。このため、キーリング10がコラム軸に取付けられると(すなわち、圧入されると)、キーリング10は圧入により弾性変形し、キーリング10の極大部においてはコラム軸との間にクリアランスが形成される一方、キーリング10の極小部とその近傍においてはコラム軸と接触する。そして、キーリング10とコラム軸の間に発生する摩擦力によって、通常時はキーリング10とコラム軸とが一体として回転する。一方、キーリング10のキー溝22にロックキーが係合している状態で、ステアリングホイールに大きな回転力が加えられたときは、キーリング10がさらに弾性変形してコラム軸の回転(摺動)を許容する。これによって、キーリング10の損傷が防止されるようになっている。上記の説明から明らかなように、キーリング10の内周面とコラム軸との接触面積を調整することで、キーリング10に対してコラム軸が回転(摺動)するときのトルク(コラム軸に作用するトルク)を制御することができる。
【0022】
次に、上述したキーリング10を製造する方法について説明する。キーリング10を製造するために、まず、円筒状材料30を準備する。準備する円筒状材料30の寸法は、
図1に示すように、外径D1及び内径D4で、軸長がL2となっている。したがって、円筒状材料30の外径D1は、キーリング10の凸部20の頂部までの径と同一であり、また、円筒状材料30の内径D4は、円筒部18の内径と同一となっている。また、円筒状材料30の軸長L2は、キーリング10の軸長L1より小さく、円筒状材料30の体積とキーリング10の体積が同一となるように設定されている。このような寸法の円筒状材料30を準備することで、円筒状材料30からキーリング10に塑性変形させるときの加工率を小さくすることができ、キーリング10を精度よく成形することができる。なお、円筒状材料30は、種々の方法により準備することができ、例えば、冷間引き抜き加工により成形することができる。冷間引き抜き加工により円筒状材料30を成形すると、円筒状材料30の寸法精度を上げることができ、その結果、円筒状材料30から成形されるキーリング10の寸法精度を上げることができる。
【0023】
次に、準備した円筒状材料30を金型の押出し口より押出してキーリング10に加工する。まず、キーリング10を加工するための金型について説明する。
図4に示すように、キーリング10を加工するための金型は、ダイス32と、インサートパンチ40と、を備えている。ダイス32は、円筒状材料30及びインサートパンチ40が挿入される貫通孔を備えており、その貫通孔の内周面にダイス側成形部34が形成されている。ダイス側成形部34は、ダイス32の下部に設けられており、キーリング10の外周面を形成するための形状を有している。すなわち、ダイス側成形部34は、キーリング10の凸部20及びキー溝22等に対応した形状を有している。また、ダイス側成形部34の上端には、外周テーパ部14の形状に対応したテーパ部(
図4においてL14で示す部分)が形成されている。
【0024】
インサートパンチ40は、円筒状材料30の貫通孔内に挿入可能となっており、その外周面にパンチ側成形部42が形成されている。パンチ側成形部42は、インサートパンチ40の下部に設けられており、キーリング10の内周面を形成するための形状を有している。すなわち、パンチ側成形部42は、キーリング10の平面部25及び直線部24に対応した形状((すなわち、パンチ側平面部45及びパンチ側直線部44)を有している。また、パンチ側成形部42の上端には、内周テーパ部16の形状に対応したテーパ部(
図4においてL16で示す部分)が形成されている。上記の説明から明らかなように、ダイス32のダイス側成形部34とインサートパンチ40のパンチ側成形部42によって、円筒状材料30を押し出すための押出し口が形成されている。
【0025】
上記の金型を用いてキーリング10を成形するためには、まず、ダイス32に対してインサートパンチ40を所定の初期位置にセットすると共に、ダイス32とインサートパンチ40の間の空間に円筒状部材30を設置する(
図4に示す状態)。そして、円筒状部材30の上方に、円筒状部材30を下方に押圧するためのパンチ38が配置される。
図4に示す状態(加工開始前の状態)では、ダイス側成形部34の上方に円筒状部材30が位置している。また、
図5、6に示すように、円筒状部材30の内周面にインサートパンチ40が部分的に接触している。具体的には、パンチ側直線部44(断面でみたときに正十二角形の頂点に相当する部分)において円筒状部材30の内周面に接触する一方、パンチ側平面部45(断面でみたときに正十二角形の辺に相当する部分)では円筒状部材30の内周面との間にクリアランスSが形成されている。
【0026】
次に、パンチ38で円筒状材料30を下方に押圧して、金型の押出し口(ダイス側成形部34とパンチ側成形部42の間の隙間)より円筒状材料30を冷間で押出す。この際、円筒状材料30が金型の押出し口より押出されるのに伴ってパンチ38が下方に移動すると共に、インサートパンチ40も下方に移動する。そして、パンチ38及びインサートパンチ40が最下点まで下降することで、円筒状材料30がキーリング10に成形される(
図7に示す状態)。円筒状材料30の成形が終わると、図示しないノックアウトパンチによって金型から円筒状材料30(すなわち、キーリング10)が取り出される。
【0027】
本実施例に係るキーリング10の製造方法では、キーリング10の形状に基づいて円筒状材料30を準備し、その円筒状材料30を押出し加工によりキーリング10に成形する。このため、円筒状材料30の加工率を全体として小さくでき、キーリング10を精度よく成形することができる。また、キーリング10の外周面の凸部20に対応して内周面の直線部24(すなわち、正十二角形の各頂点)を配置し、また、キーリング10の外周面のキー溝22に対応して内周面の中央線26(すなわち、正十二角形の各辺の中点)を配置している。これによって、円筒状材料30の加工率を周方向に均一化(凸部20とキー溝22とで均一化)し、円筒状材料30の表面に潤滑被膜が良好に形成され、押出し加工後の円筒状材料30の端面を平坦な面とすることができる。その結果、成形後の円筒状材料30を金型から離型する際に変形することを抑制でき、キーリング10を精度よく成形することができる。
【0028】
なお、上記の実施例では、インサートパンチ40のパンチ側成形部42の上端に、内周テーパ部16に対応するテーパ部(
図4においてL16で示す部分)を形成したが、本明細書に開示の技術は、このような例に限られない。例えば、
図8に示すインサートパンチ54のように、パンチ側成形部の基端部(
図8では右側の端部)に多段階のテーパ部48,49を設けてもよい。具体的に
図8に示す例では、第1の角度でテーパされた第1テーパ部48と、第1の角度より大きな第2の角度でテーパされた第2テーパ部49とが形成されている。このように多段階のテーパ部を設けることで、インサートパンチ54の移動に応じて円筒状材料が徐々に変形することになる。このため、成形後の円筒状材料の真円度が向上し、キーリングを精度よく成形することができる。
【0029】
また、上記の実施例では、キーリング10の内周面の正十二角形の各頂点(すなわち、直線部24)の周方向の位置が凸部20の周方向の中央に位置し、正十二角形の各辺の中点(すなわち、平面部25の中央線26)の周方向の位置が、キー溝22の周方向の中央に位置していたが、本明細書に開示の技術は、このような例に限られない。例えば、キーリング10の内周面の正十二角形の各頂点の周方向の位置は、凸部20が形成された角度範囲内に任意に設定してもよいし、キーリング10の正十二角形の各辺の中点の周方向の位置は、キー溝22が形成された角度範囲内に任意に設定してもよい。このような形態によっても、凸部20とキー溝22とで加工率の差を小さくすることができ、キーリングを精度よく成形することができる。
【0030】
また、上記の実施例では、インサートパンチ40の外周面であって極大部に対応する部分44の外径は円筒状材料30の内周面の径と一致していたが、本明細書に開示の技術は、このような例に限られない。例えば、インサートパンチの極大部に対応する部分の外径は、円筒状材料の内周面よりも外側に位置していてもよい。
【0031】
また、上記の実施例では、円筒状材料30を前方に押し出してキーリング10を成形したが、円筒状材料を後方に押し出してキーリングを成形してもよい。
【0032】
また、上記実施例は、外周面に凸部20及びキー溝22が形成され、内周面の横断面形状が正多角形となる筒状部材(キーリング10)の製造方法であったが、本明細書に開示の技術は、このような例に限られない。例えば、
図9に示すように、その内周面に、軸線に向かって凸となる凸部62と、軸線に向かって凹となる凹部64とが形成される一方で、外周面の横断面形状が正多角形状となる筒状部材60の製造方法に本明細書に開示の技術を適用することができる。この場合も、内周面の凸部62に応じて外周面の極小部68(正多角形状の辺の中点)が位置し、内周面の凹部64に応じて外周面の極大部66(正多角形状の頂点)が位置するように調整することで、円筒状材料から筒状部材60を成形するときの加工率を周方向に均一化することができ、筒状部材60を精度よく成形することができる。
【0033】
以上、本明細書に開示の技術の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。また、本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。